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特開2024-158546真空ポンプ及び真空ポンプの運転方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158546
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】真空ポンプ及び真空ポンプの運転方法
(51)【国際特許分類】
   F04D 19/04 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
F04D19/04 H
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073832
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107881
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 聡
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】三輪田 透
(72)【発明者】
【氏名】深美 英夫
【テーマコード(参考)】
3H131
【Fターム(参考)】
3H131AA02
3H131BA09
3H131BA15
3H131CA36
(57)【要約】
【課題】真空ポンプの固定翼と回転翼との間の接触の有無を検知することを可能とする。
【解決手段】真空ポンプ100の制御装置200は、ロータ軸113の軸方向の浮上位置を予め設定された基準位置とすると共に、ロータ軸113を予め設定された所定の運転状態とし、続いて、ロータ軸113の位置を、所定量だけオフセットする。制御装置200は、ロータ軸113の速度データの変化により、回転翼102と固定翼123との間の接触の有無を検知する。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングと、
前記ケーシング内に配置されたロータ軸と、
前記ロータ軸を磁気浮上させることで非接触で回転可能に支持する磁気軸受装置と、
前記ロータ軸と共に回転可能な複数の回転翼と、
前記複数の回転翼と対向する複数の固定翼と、
を備えた真空ポンプであって、
該真空ポンプの状態データを取得する状態データ取得手段と、
前記磁気軸受装置を制御して、前記ロータ軸の軸方向の浮上位置を予め設定された基準位置とすると共に前記ロータ軸を予め設定された所定の運転状態とし、前記ロータ軸を前記所定の運転状態としている間に、前記磁気軸受装置を制御して、前記ロータ軸の位置を、前記基準位置から所定量だけオフセットし、前記状態データ取得手段により取得された前記状態データの変化により、前記複数の回転翼の接触を検知する検知手段と、
を備えることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
前記状態データは、前記ロータ軸及び前記複数の回転翼の回転速度に相関する速度関連データであり、
前記検知手段は、前記速度関連データとしての複数の回転速度データの近似線の前記オフセット時の値に基づいて、前記接触を検知する、
ことを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記所定量は、前記ロータ軸の軸方向の可動範囲において、前記真空ポンプの通常動作中に許容される前記複数の回転翼と前記複数の固定翼との間の許容隙間量から、以下の式(1)で決定されることを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
前記複数の回転翼と前記複数の固定翼との間の許容隙間量≦前記所定量≦前記ロータ軸の軸方向の可動範囲 ・・・(1)
【請求項4】
前記所定の運転状態は、前記ロータ軸と回転翼の、外部からのトルクの付加のないフリーランモードでの減速状態である、
ことを特徴とする請求項1乃至3いずれか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項5】
ロータ軸と、前記ロータ軸と共に回転可能な複数の回転翼と、前記複数の回転翼と対向する複数の固定翼とを備えた真空ポンプの運転方法であって、
前記ロータ軸及び前記複数の回転翼を回転させ、回転速度が予め設定された所定回転速度に到達後、外部からのトルクの付加の無いフリーランモードで減速させるステップと、
前記ロータ軸の前記フリーランモードでの減速中に、前記ロータ軸の軸方向の浮上位置を基準位置から所定量オフセットした位置とするステップと、
前記オフセットの前後における前記フリーランモードでの前記複数の回転翼の回転速度に相関する速度関連データとしての複数の回転速度データの近似線の前記オフセット時の値の差と予め定められたその差の基準値とを比較するステップと、
その比較結果に基づいて、前記複数の回転翼の接触の有無を判定するステップと、
を備えることを特徴とする真空ポンプの運転方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプ及び真空ポンプの運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
真空ポンプの一種である例えばターボ分子ポンプは、ロータ軸に固定された回転翼とケーシングに固定された固定翼とを備え、回転翼を回転させることにより、ケーシング内のガスを排気する。回転翼と固定翼とは微小な隙間を介して上下方向に複数段に配置されている。回転翼は、駆動時には、固定翼の間で、磁気浮上状態で、回転する(特許文献1)。このため、真空ポンプを適切に運転するためには、回転翼と固定翼の隙間を適切に維持する必要がある。しかし、様々な理由、例えば、組み立て不良や部品異常、経年劣化による部品変形、生成物等の堆積等により、回転翼と固定翼との隙間が小さくなることがある。この場合、回転翼が浮上位置の基準からずれると、固定翼に接触してしまうおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-184586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、真空ポンプの組み立て後に回転翼と固定翼の隙間を確認する方法が存在しない。ロータ軸と保護軸受との過剰な接触を、ロータ軸の回転速度の減速度から検出する方法が特許文献1に開示されている。しかし、この方法には、固定翼と回転翼の間隔を確認し、固定翼と回転翼との間の接触の有無を検知する方法は開示されていない。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、真空ポンプの固定翼と回転翼との間の接触の有無を検知することを可能とする真空ポンプ及び真空ポンプの運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の真空ポンプは、
ケーシングと、
前記ケーシング内に配置されたロータ軸と、
前記ロータ軸を磁気浮上させることで非接触で回転可能に支持する磁気軸受装置と、
前記ロータ軸と共に回転可能な複数の回転翼と、
前記複数の回転翼と対向する複数の固定翼と、
を備えた真空ポンプであって、
該真空ポンプの状態データを取得する状態データ取得手段と、
前記磁気軸受装置を制御して、前記ロータ軸の軸方向の浮上位置を予め設定された基準位置とすると共に前記ロータ軸を予め設定された所定の運転状態とし、前記ロータ軸を前記所定の運転状態としている間に、前記磁気軸受装置を制御して、前記ロータ軸の位置を、前記基準位置から所定量だけオフセットし、前記状態データ取得手段により取得された前記状態データの変化により、前記複数の回転翼の接触を検知する検知手段と、
を備えることを特徴とする。
【0007】
上記の真空ポンプにおいて、
前記状態データは、前記ロータ軸及び前記複数の回転翼の回転速度に相関する速度関連データであり、
前記検知手段は、前記速度関連データとしての複数の回転速度データの近似線の前記オフセット時の値に基づいて、前記接触を検知するようにしてもよい。
【0008】
上記の真空ポンプにおいて、
前記所定量は、前記ロータ軸の軸方向の可動範囲において、前記真空ポンプの通常動作中に許容される前記複数の回転翼と前記複数の固定翼との間の許容隙間量から、以下の式(1)で決定されるようにしてもよい。
前記複数の回転翼と前記複数の固定翼との間の許容隙間量≦前記所定量≦前記ロータ軸の軸方向の可動範囲 ・・・(1)
【0009】
上記の真空ポンプにおいて、
前記所定の運転状態は、前記ロータ軸と回転翼の、外部からのトルクの付加のないフリーランモードでの減速状態であるようにしてもよい。
【0010】
また、本発明の真空ポンプの運転方法は、
ロータ軸と、前記ロータ軸と共に回転可能な複数の回転翼と、前記複数の回転翼と対向する複数の固定翼とを備えた真空ポンプの運転方法であって、
前記ロータ軸及び前記複数の回転翼を回転させ、回転速度が予め設定された所定回転速度に到達後、外部からのトルクの付加の無いフリーランモードで減速させるステップと、
前記ロータ軸の前記フリーランモードでの減速中に、前記ロータ軸の軸方向の浮上位置を基準位置から所定量オフセットした位置とするステップと、
前記オフセットの前後における前記フリーランモードでの前記複数の回転翼の回転速度に相関する速度関連データとしての複数の回転速度データの近似線の前記オフセット時の値の差と予め定められたその差の基準値とを比較するステップと、
その比較結果に基づいて、前記複数の回転翼の接触の有無を判定するステップと、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、真空ポンプの固定翼と回転翼との間の接触の有無を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の形態に係る真空ポンプの縦断面図である。
図2】本発明の実施形態に係る真空ポンプが有するアンプ回路の回路図である。
図3】本発明の実施形態に係る真空ポンプにおける電流指令値が検出値より大きい場合の制御を示すタイムチャートである。
図4】本発明の実施形態に係る真空ポンプにおける電流指令値が検出値より小さい場合の制御を示すタイムチャートである。
図5】本発明の実施の形態に係る真空ポンプの制御装置の構成を示すブロック図である。
図6】本発明の実施の形態に係る隙間検出処理の一例を表すフローチャートである。
図7図6に示す接触検出処理の一例を表すフローチャートである。
図8図6に示す隙間検出処理を実施した場合のデータの一例を示すグラフであり、(A)は接触が無い場合の測定データの一例を示すグラフであり、(B)は接触がある場合の測定データの一例を示すグラフである。
図9図8に示す隙間検出処理を実施した場合の測定データの近似線を説明するためのグラフであり、(A)は接触が無い場合の測定データの近似線を説明するためのグラフであり、(B)は接触がある場合の測定データの近似線を説明するためのグラフである。
図10図9に示す隙間検出処理を実施した場合の測定データの近似線の切片等を説明するためのグラフであり、(A)は接触が無い場合の測定データの近似線の切片等を説明するためのグラフであり、(B)は接触がある場合の測定データの近似線の切片等を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施の形態)
本発明の実施の形態にかかる真空ポンプとその運転方法を、ターボ分子ポンプとその制御方法を例に説明する。
本実施の形態に係るターボ分子ポンプ100は、図1に示すように、円筒状の外筒(ケーシング)127の上端に吸気口101が形成されている。そして、外筒127の内方には、ガスを吸引排気するためのタービンブレードである複数の回転翼102(102a、102b、102c・・・)を周部に放射状かつ多段に形成した回転体103が備えられている。この回転体103の中心にはロータ軸113が取り付けられている。このロータ軸113は、例えば5軸制御の磁気軸受により空中に浮上支持かつ位置制御されている。回転体103は、一般的に、アルミニウム又はアルミニウム合金などの金属によって構成されている。
【0014】
上側径方向電磁石104は、4個の電磁石がX軸とY軸とに対をなして配置されている。上側径方向電磁石104に近接して、かつ上側径方向電磁石104のそれぞれに対応して4個の上側径方向センサ107が備えられている。上側径方向センサ107は、例えば伝導巻線を有するインダクタンスセンサや渦電流センサなどが用いられ、ロータ軸113の位置に応じて変化するこの伝導巻線のインダクタンスの変化に基づいてロータ軸113の位置を検出する。この上側径方向センサ107はロータ軸113、すなわちそれに固定された回転体103の径方向変位を検出し、上径方向位置信号を制御装置200に送る。
【0015】
ロータ軸113は、高透磁率材(鉄、ステンレスなど)などにより形成され、上側径方向電磁石104の磁力により吸引されるようになっている。かかる調整は、X軸方向とY軸方向とにそれぞれ独立して行われる。
また、下側径方向電磁石105及び下側径方向センサ108が、上側径方向電磁石104及び上側径方向センサ107と同様に配置され、ロータ軸113の下側の径方向位置を上側の径方向位置と同様に検出し、下径方向位置信号を制御装置200に送る。
【0016】
制御装置200においては、図5を参照して後述する径方向制御回路201が、上側径方向センサ107からの上径方向位置信号に基づいて、上径方向励磁信号を生成して、上側径方向電磁石104に供給し、また、下側径方向センサ108からの下径方向位置信号に基づいて、下径方向励磁信号を生成して、下側径方向電磁石105に供給し、上側径方向電磁石104と下側径方向電磁石105を励磁制御する。これにより、ロータ軸113の上側の径方向位置と下側の径方向位置とが調整される。
【0017】
さらに、軸方向電磁石106A、106Bが、ロータ軸113の下部に備えた円板状の金属ディスク111を上下に挟んで配置されている。金属ディスク111は、鉄などの高透磁率材で構成されている。ロータ軸113の軸方向変位を検出するために軸方向センサ109が備えられ、その軸方向位置信号が制御装置200に送られる。軸方向電磁石106A、106B、金属ディスク111は、ロータ軸113を磁気浮上させて非接触で保持する磁気軸受装置として機能する。
【0018】
制御装置200において、図5を参照して後述する軸方向制御回路202が、軸方向センサ109によって検出された軸方向位置信号に基づいて、上軸方向励磁信号と下軸方向励磁信号を生成し、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bにそれぞれ供給し、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bをそれぞれ励磁制御する。これにより、軸方向電磁石106Aが磁力により金属ディスク111を上方に吸引し、軸方向電磁石106Bが金属ディスク111を下方に吸引し、ロータ軸113の軸方向位置が調整される。
【0019】
このように、制御装置200は、この軸方向電磁石106A、106Bが金属ディスク111に及ぼす磁力を適当に調節し、ロータ軸113を軸方向に磁気浮上させ、空間に非接触で保持するようになっている。
【0020】
モータ121は、例えば、パルスモータから構成され、ロータ軸113を取り囲むように周状に配置された複数の磁極を備えている。各磁極は、ロータ軸113との間に作用する電磁力を介してロータ軸113を回転駆動するように、制御装置200によって制御されている。また、モータ121のロータ軸113に対向する位置には、例えばホール素子、レゾルバ、エンコーダなどの回転速度センサ121aが配置されており、この回転速度センサ121aによりロータ軸113の回転速度が検出される。ロータ軸113の回転速度は、真空ポンプの運転状態を示す状態データ及びロータ軸113の回転速度を直接又は間接的に示す回転速度関連データの一例である。回転速度センサ121aは、状態データ取得手段の一例である。
【0021】
さらに、例えば下側径方向センサ108近傍に、図示しない位相センサが取り付けてあり、ロータ軸113の回転の位相を検出される。制御装置200において、図5を参照して後述するモータ制御回路203は、この位相信号と回転速度センサ121aからの回転速度信号を用いて、駆動信号をモータ121に出力する。
【0022】
回転翼102(102a、102b、102c・・・)とわずかの空隙を隔てて複数枚の固定翼123(123a、123b、123c・・・)が配設されている。回転翼102(102a、102b、102c・・・)は、それぞれ排気ガスの分子を衝突により下方向に移送するため、ロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成されている。固定翼123(123a、123b、123c・・・)は、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。
【0023】
固定翼123も、同様にロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成され、かつ外筒127の内方に向けて回転翼102の段と互い違いに配設されている。そして、固定翼123の外周端は、複数の段積みされた固定翼スペーサ125(125a、125b、125c・・・)の間に嵌挿された状態で支持されている。
【0024】
固定翼スペーサ125はリング状の部材であり、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。固定翼スペーサ125の外周には、わずかの空隙を隔てて外筒127が固定されている。外筒127の底部にはベース部129が配設されている。ベース部129には排気口133が形成され、外部に連通されている。チャンバ(真空チャンバ)側から吸気口101に入ってベース部129に移送されてきた排気ガスは、排気口133へと送られる。
【0025】
さらに、ターボ分子ポンプ100の用途によって、固定翼スペーサ125の下部とベース部129の間には、ネジ付スペーサ131が配設される。ネジ付スペーサ131は、アルミニウム、銅、ステンレス、鉄、又はこれらの金属を成分とする合金などの金属によって構成された円筒状の部材であり、その内周面に螺旋状のネジ溝131aが複数条刻設されている。ネジ溝131aの螺旋の方向は、回転体103の回転方向に排気ガスの分子が移動したときに、この分子が排気口133の方へ移送される方向である。回転体103の回転翼102(102a、102b、102c・・・)に続く最下部には円筒部102dが垂下されている。この円筒部102dの外周面は、円筒状で、かつネジ付スペーサ131の内周面に向かって張り出されており、このネジ付スペーサ131の内周面と所定の隙間を隔てて近接されている。回転翼102および固定翼123によってネジ溝131aに移送されてきた排気ガスは、ネジ溝131aに案内されつつベース部129へと送られる。
【0026】
ベース部129は、ターボ分子ポンプ100の基底部を構成する円盤状の部材であり、一般には鉄、アルミニウム、ステンレスなどの金属によって構成されている。ベース部129はターボ分子ポンプ100を物理的に保持すると共に、熱の伝導路の機能も兼ね備えているので、鉄、アルミニウムや銅などの剛性があり、熱伝導率も高い金属が使用されるのが望ましい。
【0027】
かかる構成において、回転翼102がロータ軸113と共にモータ121により回転駆動されると、回転翼102と固定翼123の作用により、吸気口101を通じてチャンバからガスが吸気される。回転翼102の回転速度は通常20000rpm~90000rpmであり、回転翼102の先端での周速度は200m/s~400m/sに達する。吸気口101から吸気されたガスは、回転翼102と固定翼123の間を通り、ベース部129へ移送され、排気口133から排気される。このとき、排気ガスが回転翼102に接触する際に生ずる摩擦熱や、モータ121で発生した熱の伝導などにより、回転翼102の温度は上昇するが、この熱は、輻射又は排気ガスの気体分子などによる伝導により固定翼123側に伝達される。
【0028】
固定翼スペーサ125は、外周部で互いに接合しており、固定翼123が回転翼102から受け取った熱や排気ガスが固定翼123に接触する際に生ずる摩擦熱などを外部へと伝達する。
【0029】
なお、上記では、ネジ付スペーサ131は回転体103の円筒部102dの外周に配設し、ネジ付スペーサ131の内周面にネジ溝131aが刻設されているとして説明した。しかしながら、これとは逆に円筒部102dの外周面にネジ溝が刻設され、その周囲に円筒状の内周面を有するスペーサが配置される場合もある。
【0030】
また、ターボ分子ポンプ100の用途によっては、吸気口101から吸引されたガスが上側径方向電磁石104、上側径方向センサ107、モータ121、下側径方向電磁石105、下側径方向センサ108、軸方向電磁石106A、106B、軸方向センサ109などで構成される電装部に侵入することのないよう、電装部は周囲をステータコラム122で覆われ、このステータコラム122内はパージガスにて所定圧に保たれる場合もある。
【0031】
この場合には、ベース部129には図示しない配管が配設され、この配管を通じてパージガスが導入される。導入されたパージガスは、保護ベアリング120とロータ軸113間、モータ121のロータとステータ間、ステータコラム122と回転翼102の内周側円筒部の間の隙間を通じて排気口133へ送出される。
【0032】
ここに、ターボ分子ポンプ100は、機種の特定と、個々に調整された固有のパラメータ(例えば、機種に対応する諸特性)に基づいた制御を要する。この制御パラメータを格納するために、上記ターボ分子ポンプ100は、その本体内に電子回路部141を備えている。電子回路部141は、EEP-ROM等の半導体メモリ及びそのアクセスのための半導体素子等の電子部品、それらの実装用の基板143等から構成される。この電子回路部141は、ターボ分子ポンプ100の下部を構成するベース部129の下部に収容され、気密性の底蓋145によって閉じられている。
【0033】
ところで、半導体の製造工程では、チャンバに導入されるプロセスガスの中には、その圧力が所定値よりも高くなり、或いは、その温度が所定値よりも低くなると、固体となる性質を有するものがある。ターボ分子ポンプ100内部では、排気ガスの圧力は、吸気口101で最も低く排気口133で最も高い。プロセスガスが吸気口101から排気口133へ移送される途中で、その圧力が所定値よりも高くなったり、その温度が所定値よりも低くなったりすると、プロセスガスは、固体状となり、ターボ分子ポンプ100内部に付着して堆積する。
【0034】
例えば、Alエッチング装置にプロセスガスとしてSiClが使用された場合、低真空(760[torr]~10-2[torr])かつ、低温(約20[℃])のとき、固体生成物(例えばAlCl)が析出し、ターボ分子ポンプ100内部に付着堆積することが蒸気圧曲線からわかる。これにより、ターボ分子ポンプ100内部にプロセスガスの析出物が堆積すると、この堆積物がポンプ流路を狭め、ターボ分子ポンプ100の性能を低下させる原因となる。そして、前述した生成物は、排気口133付近やネジ付スペーサ131付近の圧力が高い部分で凝固、付着し易い状況にあった。
【0035】
そのため、この問題を解決するために、従来はベース部129等の外周に図示しないヒータや環状の水冷管149を巻着させ、かつ例えばベース部129に図示しない温度センサ(例えばサーミスタ)を埋め込み、この温度センサの信号に基づいてベース部129の温度を一定の高い温度(設定温度)に保つようにヒータの加熱や水冷管149による冷却の制御(以下TMSという。TMS;Temperature Management System)が行われている。
【0036】
次に、このように構成されるターボ分子ポンプ100に関して、その上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150について説明する。このアンプ回路150の回路図を図2に示す。
【0037】
図2において、上側径方向電磁石104等を構成する電磁石巻線151は、その一端がトランジスタ161を介して電源171の正極171aに接続されており、また、その他端が電流検出回路181及びトランジスタ162を介して電源171の負極171bに接続されている。そして、トランジスタ161、162は、いわゆるパワーMOSFETとなっており、そのソース-ドレイン間にダイオードが接続された構造を有している。
【0038】
このとき、トランジスタ161は、そのダイオードのカソード端子161aが正極171aに接続されるとともに、アノード端子161bが電磁石巻線151の一端と接続されるようになっている。また、トランジスタ162は、そのダイオードのカソード端子162aが電流検出回路181に接続されるとともに、アノード端子162bが負極171bと接続されるようになっている。
【0039】
一方、電流回生用のダイオード165は、そのカソード端子165aが電磁石巻線151の一端に接続されるとともに、そのアノード端子165bが負極171bに接続されるようになっている。また、これと同様に、電流回生用のダイオード166は、そのカソード端子166aが正極171aに接続されるとともに、そのアノード端子166bが電流検出回路181を介して電磁石巻線151の他端に接続されるようになっている。そして、電流検出回路181は、例えばホールセンサ式電流センサや電気抵抗素子で構成されている。
【0040】
以上のように構成されるアンプ回路150は、一つの電磁石に対応されるものである。そのため、磁気軸受が5軸制御で、電磁石104、105、106A、106Bが合計10個ある場合には、電磁石のそれぞれについて同様のアンプ回路150が構成され、電源171に対して10個のアンプ回路150が並列に接続されるようになっている。
【0041】
さらに、アンプ制御回路191は、例えば、制御装置200の図示しないディジタル・シグナル・プロセッサ部(以下、DSP部という)によって構成され、このアンプ制御回路191は、トランジスタ161、162のon/offを切り替えるようになっている。
【0042】
アンプ制御回路191は、電流検出回路181が検出した電流値(この電流値を反映した信号を電流検出信号191cという)と所定の電流指令値とを比較するようになっている。そして、この比較結果に基づき、PWM制御による1周期である制御サイクルTs内に発生させるパルス幅の大きさ(パルス幅時間Tp1、Tp2)を決めるようになっている。その結果、このパルス幅を有するゲート駆動信号191a、191bを、アンプ制御回路191からトランジスタ161、162のゲート端子に出力するようになっている。
【0043】
なお、回転体103の回転速度の加速運転中に共振点を通過する際や定速運転中に外乱が発生した際等に、高速かつ強い力での回転体103の位置制御をする必要がある。そのため、電磁石巻線151に流れる電流の急激な増加(あるいは減少)ができるように、電源171としては、例えば50V程度の高電圧が使用されるようになっている。また、電源171の正極171aと負極171bとの間には、電源171の安定化のために、通常コンデンサが接続されている(図示略)。
【0044】
かかる構成において、トランジスタ161、162の両方をonにすると、電磁石巻線151に流れる電流(以下、電磁石電流iLという)が増加し、両方をoffにすると、電磁石電流iLが減少する。
【0045】
また、トランジスタ161、162の一方をonにし他方をoffにすると、いわゆるフライホイール電流が保持される。そして、このようにアンプ回路150にフライホイール電流を流すことで、アンプ回路150におけるヒステリシス損を減少させ、回路全体としての消費電力を低く抑えることができる。また、このようにトランジスタ161、162を制御することにより、ターボ分子ポンプ100に生じる高調波等の高周波ノイズを低減することができる。さらに、このフライホイール電流を電流検出回路181で測定することで電磁石巻線151を流れる電磁石電流iLが検出可能となる。
【0046】
すなわち、検出した電流値が電流指令値より小さい場合には、図3に示すように制御サイクルTs(例えば100μs)中で1回だけ、パルス幅時間Tp1に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をonにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、正極171aから負極171bへ、トランジスタ161、162を介して流し得る電流値iLmax(図示せず)に向かって増加する。
【0047】
一方、検出した電流値が電流指令値より大きい場合には、図4に示すように制御サイクルTs中で1回だけパルス幅時間Tp2に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をoffにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、負極171bから正極171aへ、ダイオード165、166を介して回生し得る電流値iLmin(図示せず)に向かって減少する。
【0048】
そして、いずれの場合にも、パルス幅時間Tp1、Tp2の経過後は、トランジスタ161、162のどちらか1個をonにする。そのため、この期間中は、アンプ回路150にフライホイール電流が保持される。
【0049】
次に、制御装置200の構成を説明する。
制御装置200は、図5に示すように、前述の径方向制御回路201、軸方向制御回路202、モータ制御回路203と、隙間検出制御回路204を備える。
【0050】
径方向制御回路201は、上側径方向センサ107から供給される上側径方向位置信号及び下側径方向センサ108から供給される下側径方向位置信号に基づいて、上側径方向電磁石104及び下側径方向電磁石105に上径方向励磁信号と下径方向励磁信号を出力し、回転体103の径方向の位置を制御する。
【0051】
軸方向制御回路202は、軸方向センサ109から供給される軸方向位置信号に基づいて、上側軸方向電磁石106A及び下側軸方向電磁石106Bに励磁信号を出力し、回転体103の軸方向の位置を制御する。
【0052】
モータ制御回路203は、回転速度センサ121aからの回転速度信号及び位相センサからの位相信号に基づいて、モータ121のロータの回転速度及び位相を制御する駆動用のパルス信号をモータ121に出力する。
【0053】
隙間検出制御回路204は、例えば、プロセッサとメモリを内蔵すマイクロプロセッサ等から構成される。隙間検出制御回路204は、外部からの指示信号に応答して、図6及び図7に示す隙間検出処理を実行し、固定翼123と回転翼102が接触するかしないか、接触するときの回転体103の軸方向の位置を検出する。これにより、固定翼123と回転翼102の間の隙間の大きさを求める。隙間検出制御回路204は、固定翼123と回転翼102が接触するかしないか、接触するときの回転体103の軸方向位置を検出する検出手段の一例である。なお、固定翼123と回転翼102との接触には、生成物等の堆積物を介した接触も含まれる。
【0054】
次に、上記構成を有するターボ分子ポンプ100の動作を説明する。
(通常動作)
通常動作時においては、径方向制御回路201は、上側径方向センサ107から出力される上側径方向位置信号及び下側径方向センサ108から出力される下側径方向位置信号に従って、上側径方向電磁石104及び下側径方向電磁石105に供給する励磁信号を制御し、回転体103の径方向の位置を適切な位置に維持する。
【0055】
また、軸方向制御回路202は、軸方向センサ109から出力される軸方向位置信号に従って、軸方向電磁石106A及び106Bに供給する上軸方向励磁信号と下軸方向励磁信号をそれぞれ供給することにより、回転体103を磁気浮上させた状態で、その軸方向の位置を適当な位置に維持する。これにより、回転翼102の軸方向の位置を制御して、固定翼123と回転翼102の間の隙間を適切な値に維持する。
【0056】
また、モータ制御回路203は、回転速度センサ121aから出力される速度信号及び位相センサから出力される位相信号に応答して、駆動パルス信号を与えて、モータ121を目的とする回転速度で回転させる。
【0057】
(隙間検出動作)
次に、固定翼123と回転翼102の間の隙間を検出する隙間検出処理を図6及び図7のフローチャートを参照して説明する。
なお、以下の処理は、隙間検出制御回路204が、径方向制御回路201、軸方向制御回路202、及びモータ制御回路203を制御して、実行される。ただし、理解しやすくするため、径方向制御回路201、軸方向制御回路202、及びモータ制御回路203への言及は省略する。
【0058】
まず、隙間検出制御回路204は、回転体103の軸方向をオフセットするオフセット量Δoffを予め設定された(請求項での所定量のオフセット量の一例に相当する)微小量ΔPに設定する(ステップS1)。微小量ΔPの大きさは任意であるが、例えば、0.005~0.2mm程度に設定する。以下の例では、ΔP=0.01mmとする。なお、本実施の形態では、ΔPは正の値である。本実施の形態では、上向きを正方向とする。
【0059】
次に、隙間検出制御回路204は、回転体103をオフセット量Δoffだけ上側にオフセット(移動)させたときの、回転翼102と固定翼123との接触の有無を判別する(ステップS2)。接触の有無を判別する処理については、図8を参照して後述する。
【0060】
一方、ステップS3において、『接触無し』と判別され、かつ『オフセット量Δoffが上限位置を越えていない』と判別された場合(ステップS3:No)、Δoff=Δoff+ΔPとして、オフセット量Δoffを+ΔPとし、ステップS2に戻って、同様の処理を繰り返す。
【0061】
一方、ステップS3で、『接触あり』と判別された場合、又は『オフセット量Δoffが上限位置を越えた』と判別された場合(ステップS3:Yes)、処理はステップS5に進む。なお、オフセット量Δoffの上限位置は、例えば、0.07~0.09mmである。以下では、オフセット量Δoffの上限位置を0.08mmとする。上限位置を設定する理由は、ロータ軸113が保護ベアリング120に接触するまでの測定を可能とするためである。
【0062】
ステップS5において、隙間検出制御回路204は、回転体103の軸方向をオフセットするオフセット量Δoffを予め設定された微小量ΔPの負の値-ΔPに設定する(ステップS5)。
【0063】
次に、隙間検出制御回路204は、回転体103をオフセット量Δoffだけ下側にオフセット(移動)させたときの、回転翼102と固定翼123との接触の有無を判別する(ステップS6)。接触の有無を判別する処理はステップS2と同一であり、図8を参照して後述する。
【0064】
ステップS6において、『接触無し』と判別され、かつ『オフセット量Δoffが下限位置を越えていない』と判別された場合(ステップS7:No)、Δoff=Δoff-ΔPとして、オフセット量Δoffを更新し、ステップS6に戻って、同様の処理を繰り返す。なお、下限位置を設定する理由は、上限位置を設定する理由と同様に、ロータ軸113が保護ベアリング120に接触するまでの測定を可能とするためである。
【0065】
一方、ステップS7で、『接触あり』と判別された場合、又は『オフセット量Δoffが下限位置を越えた』と判別された場合(ステップS7:Yes)、処理はステップS8に進む。
続いて、検出結果、例えば、接触の有無、接触したときのオフセット量Δoffを出力し(ステップS8)、処理を終了する。
【0066】
次に、ステップS2及びS6で実行される接触有無判別処理について詳細に説明する。
接触有無判別処理(ステップS2,S6)を開始すると、隙間検出制御回路204は、回転体103の回転速度の記録を開始する(ステップS11)。記録は、例えば、一定のサンプリング期間、例えば、1ms程度で実行される。
【0067】
次に、隙間検出制御回路204は、軸方向制御回路202を制御して、回転体103の軸方向の浮上量を制御し、基準位置P0に位置させる。また、隙間検出制御回路204は、モータ制御回路203を制御して、回転体103の回転速度を基準回転速度S0まで上昇させる(ステップS12)。基準回転速度S0は任意であるが、例えば、2000rpm(33.3Hz)から1500rpm(25Hz)とすればよい。
【0068】
隙間検出制御回路204は、浮上状態を維持したまま、回転体103のブレーキを解除し、回転体103をフリーラン状態とする(ステップS13)。フリーラン状態で、回転体103の回転速度は、徐々に低下する。
【0069】
次に、隙間検出制御回路204は、一定時間待機し、回転速度が例えば、1500rpmになると、軸方向制御回路202を制御して、回転体103の軸方向の位置をオフセット量+Δoffだけオフセットさせる(ステップS14)。即ち、+Δoffだけ移動させる。ここで、移動方向は、ステップS2では上向き、ステップS6では下向きである。
【0070】
仮にオフセット後も、固定翼123と回転翼102の接触がない場合、回転体103のフリーラン状態を維持し、その速度を徐々に低下させる。フローは、一定時間経過するまで、待機する。一方、オフセットにより、回転体103の回転翼102が固定翼123に接触した場合、摩擦のため、回転体103は、急激に速度を低下させる。これらの速度変化は、全て記録される。
【0071】
隙間検出制御回路204は、オフセット後、一定期間が経過したことを検出すると(ステップS15:Yes)、回転体103の回転、磁気浮上を停止する。
【0072】
続いて、隙間検出制御回路204は、記録された一連の離散的な回転速度のデータを処理する。データ処理の内容を、図8図10を参照しつつ説明する。
【0073】
まず、隙間検出制御回路204の内部メモリには、図8(A)と(B)に例示する時刻対速度の一連の速度データ群D1とD2が記録されている。なお、速度データ群D1は、ステップS14のオフセットタイミング(オフセット加算時刻)t0の前のデータであり、速度データ群D2は、オフセットタイミングt0の後のデータである。
【0074】
図8(A)に示す速度データ群D1,D2は、固定翼123と回転翼102の接触のないときのデータの例である。この場合、オフセットタイミングt0の前後で、回転体103がフリーラン状態を維持する。このため、回転体103の回転速度は、オフセットの前後でほぼ同様の傾向で徐々に変化する。
【0075】
一方、図8(B)に示す速度データ群D1,D2は、オフセットにより、固定翼123と回転翼102が接触した場合の例である。この場合、オフセットタイミングt0の前後で、回転体103の回転状態が大きく変化し、オフセットタイミングt0後は、固定翼123と回転翼102の接触により、回転速度が急激に減少する。ただし、視覚的には、その差は明確ではない。特に、接触の程度が小さい場合には、速度減少の程度の差は小さい。
【0076】
そこで、隙間検出制御回路204は、図9(A)と(B)に示すように、速度データ群D1,D2について、近似線C1,C2を求める。近似線C1,C2は近似直線でも、近似曲線でもよい。正確性からは、近似曲線が望ましい。具体的には、フリーラン後のオフセットタイミングt0の前後でそれぞれ、速度データの近似線を求める(ステップS16)。区別のため、オフセットタイミングt0以前の速度データ群D1から得られる近似線をC1,オフセットタイミングt0以後の速度データ群D2から得られる近似線をC2とする。近似線を求める手法は任意であるが、例えば、回帰分析により回帰直線或いは回帰曲線を求めてもよい。以下の近似線も同様である。
【0077】
次に、隙間検出制御回路204は、図10(A)と(B)に示すように、近似線C1とC2をそれぞれ解析して、オフセットタイミングt0の前後で、それぞれ、回転数(回転速度)が基準値Hr、例えば、1Hz、変化するのに要する時間を示す値Rate(sec/Hz)を求める。Rate(sec/Hz)は回転加速度(Hz)の逆数を意味する。具体的な処理としては、近似線C1によるRateを近似する近似線E1と近似線C2によるRateを近似するE2を求める(ステップS17)。
【0078】
近似線E1、E2は、接触の有無により、図10(A)と(B)に示すようになる。接触の無い場合には、近似線E1とE2はほぼ連続的な傾向を示す曲線となる。これに対し、接触がある場合には、図10(B)に示すように、オフセットタイミングt0を境界に、近似線E1とE2は、断絶した曲線となる。
【0079】
次に、隙間検出制御回路204は、オフセットタイミングt0での近似線E1とE2のそれぞれの切片V1とV2求める(ステップS18)。ここでは、区別のため、オフセットタイミングt0での近似線E1の値を切片V1,近似線E2の値を切片V2とする。図10(A)に示すように、接触無しの場合の切片V1とV2の差DAは小さい。これに対し、図10(B)に示すように、接触有りの場合の切片V1とV2の差DBは大きい。
【0080】
隙間検出制御回路204は、ステップS18で求められた切片V1とV2の差(V1-V2)を予め設定されている基準値と比較する、基準値は、予め実験などで求められた値であり、例えば、2.3である。
【0081】
2つの切片の差(V1-V2)≧基準値の場合(ステップS19:Yes)、『接触あり』を示すフラグをセットし(ステップS20)、2つの切片の差(V1-V2)<基準値の場合(ステップS19:No)、『接触なし』を示すフラグをセットする(ステップS21)。
【0082】
このように本実施の形態では、固定翼123と回転翼102との間の隙間を、両者が接触するときのオフセット量Δoffとして測定することができる。これにより、組み立て不良や部品異常の把握、所定時間経過の部品変形の有無、生成物等の堆積物によるギャップ変化等を把握することができる。
【0083】
また、本実施の形態では、オフセット量Δoffの可変範囲を制御することにより、適切な隙間の大きさの範囲で、接触が発生しないことを検知することも可能である。
【0084】
また、本実施の形態では、オフセット量Δoffをスキャンする例を示したが、
オフセット量Δoffを、例えば、0.08mmというような1つの固定値としてもよい。この場合、あるオフセット量Δoffにおいて、固定翼123と回転翼102が接触しないこと/することを検知することができる。
【0085】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は実施形態に限定されるものではなく、種々変形や組合せが可能である。例えば、上記実施の形態では、回転体103を、外部からのトルクの付加の無いフリーランモードで減速している期間を所定の運転状態として、軸方向にオフセットする例について説明したが、所定の運転状態は、フリーランモードでの減速状態に限らず、任意の等速状態等でもよい。その他、所定の運転状態は任意である。
【0086】
また、所定量であるオフセット量Δoffは、式2(式1に対応)に示すように、経年劣化による部品変形、生成物等の堆積等によって回転翼102と固定翼123との間の隙間が小さくなっていった場合に、ターボ分子ポンプ100の安全な運転や排気性能に支障が起きると予測される隙間(許容隙間量)から設定しても良い。
【0087】
複数の回転翼102と複数の固定翼123との間の許容隙間量≦所定量であるオフセット量Δoff≦ロータ軸113の軸方向の可動範囲 ・・・(2)
【0088】
なお、ロータ軸113の軸方向可動範囲は、ロータ軸113と保護ベアリング120と接触するまでの距離のように、設計上、可動可能な範囲を意味している。
【0089】
これにより、本発明は、ターボ分子ポンプ100のトラブルに対する予防保全やオーバーホール要否の判断、また、実施すべき時期の予測等に応用することができる。
【0090】
また、上記実施の形態では、接触があったか否かを判別する手法として、図8図10に示した手法を用いる例について説明したが、これに限定されず、例えば、速度データ群D1,D2の近似線C1とC1の傾きから求める等してもよい。
【符号の説明】
【0091】
100 ターボ分子ポンプ
101 吸気口
102(102a、102b、102c・・・) 回転翼
102d 円筒部
103 回転体
104 上側径方向電磁石
105 下側径方向電磁石
106A,106B 軸方向電磁石
107 軸方向センサ
108 下側径方向センサ
109 軸方向センサ
111 金属ディスク
113 ロータ軸
121 モータ
123(123a、123b、123c・・・) 固定翼
125 固定翼スペーサ
127 外筒(ケーシング)
129 ベース部
131 ネジ付スペーサ
131a ネジ溝
133 排気口
200 制御装置
201 径方向制御回路
202 軸方向制御回路
203 モータ制御回路
204 隙間検出制御回路

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10