IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エドワーズ株式会社の特許一覧

特開2024-158558真空ポンプ及び真空ポンプの制御装置
<>
  • 特開-真空ポンプ及び真空ポンプの制御装置 図1
  • 特開-真空ポンプ及び真空ポンプの制御装置 図2
  • 特開-真空ポンプ及び真空ポンプの制御装置 図3
  • 特開-真空ポンプ及び真空ポンプの制御装置 図4
  • 特開-真空ポンプ及び真空ポンプの制御装置 図5
  • 特開-真空ポンプ及び真空ポンプの制御装置 図6
  • 特開-真空ポンプ及び真空ポンプの制御装置 図7
  • 特開-真空ポンプ及び真空ポンプの制御装置 図8
  • 特開-真空ポンプ及び真空ポンプの制御装置 図9
  • 特開-真空ポンプ及び真空ポンプの制御装置 図10
  • 特開-真空ポンプ及び真空ポンプの制御装置 図11
  • 特開-真空ポンプ及び真空ポンプの制御装置 図12
  • 特開-真空ポンプ及び真空ポンプの制御装置 図13
  • 特開-真空ポンプ及び真空ポンプの制御装置 図14
  • 特開-真空ポンプ及び真空ポンプの制御装置 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158558
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】真空ポンプ及び真空ポンプの制御装置
(51)【国際特許分類】
   F04D 19/04 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
F04D19/04 H
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073855
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105201
【弁理士】
【氏名又は名称】椎名 正利
(72)【発明者】
【氏名】深美 英夫
【テーマコード(参考)】
3H131
【Fターム(参考)】
3H131AA02
3H131BA03
3H131BA09
3H131BA11
3H131BA15
3H131CA01
3H131CA13
(57)【要約】
【課題】回転翼の疲労具合をポンプの運転状況に応じて定量的かつ容易に判断できる指標を作成することで、回転翼交換の時期を的確に判断できる真空ポンプ及び真空ポンプの制御装置を提供する。
【解決手段】回転翼交換の時期を判断可能な真空ポンプであって、この真空ポンプは、真空ポンプ本体に内蔵された回転翼と、真空ポンプ本体に配設され、回転翼に関連した物理量を計測するセンサとを有する。真空ポンプの稼働中にこのセンサで計測された物理量を所定の時間毎にサンプリング抽出し、この抽出が任意のサンプリング回数を経過したときに、その時点までの各サンプリング時の前記物理量の値の密集度合いの最も高い物理量範囲を見つける。このため、物理量範囲の上限値である物理量上限値及び物理量範囲の下限値である物理量下限値とを定義し、物理量の大きさに応じてこれらの物理量上限値と物理量下限値の間隔をそれぞれ一定量ずつ変化させる。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空ポンプ本体に内蔵された回転翼と、
前記真空ポンプ本体に配設され、前記回転翼に関連した物理量を計測するセンサとを有する真空ポンプにおいて、
前記真空ポンプは、
前記真空ポンプの稼働中に前記センサで計測された前記物理量を所定の時間毎にサンプリング抽出する物理量抽出手段と、
該物理量抽出手段での抽出が任意のサンプリング回数を経過したときに、その時点までの各サンプリング時の前記物理量の計測値の密集度合いの最も高い物理量範囲を見つける物理量範囲検出手段とを備えたことを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
前記物理量範囲の上限値として定義された物理量上限値と、
前記物理量範囲の下限値として定義された物理量下限値と、
前記物理量の前記計測値に応じて前記物理量上限値と前記物理量下限値間の間隔を変化させる調整手段とを備えたことを特徴とする請求項1記載の真空ポンプ。
【請求項3】
サンプリング時の前記物理量の前記計測値が前記物理量範囲内の上限値よりにあるときに前記物理量下限値が一定量高く更新され、
前記サンプリング時の前記物理量の前記計測値が前記物理量範囲内の下限値よりにあるときに前記物理量上限値が前記一定量低く更新されることを特徴とする請求項2記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記一定量が、前記物理量の前記計測値から想定される最大の期待値と最小の期待値の差に基づき設定されることを特徴とする請求項3記載の真空ポンプ。
【請求項5】
前記物理量範囲は最終的に予め定義された所定の固定値に漸近されることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の真空ポンプ。
【請求項6】
前記真空ポンプの稼働中に前記物理量範囲に前記物理量が属していたときの合計時間である物理量範囲合計時間と前記真空ポンプの稼働の合計時間である稼働合計時間を取得する時間取得手段と、
前記物理量範囲合計時間、又は、前記稼働合計時間に対する前記物理量範囲合計時間の比率を表示する表示手段とを備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の真空ポンプ。
【請求項7】
前記物理量範囲の外に設定された少なくとも一つのしきい値と、
該しきい値を超えた時間を累積する累積手段とを備え、
該累積手段で累積された時間が予め設定された時間を超えたときに警告を発する警告発生手段とを備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の真空ポンプ。
【請求項8】
前記センサが、前記真空ポンプ本体に内蔵された前記回転翼の温度を計測する温度計測手段、又は前記回転翼を駆動するモータに流れる電流量を計測する電流量計測手段であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の真空ポンプ。
【請求項9】
真空ポンプ本体に内蔵された回転翼と、
前記真空ポンプ本体に配設され、前記回転翼に関連した物理量を計測するセンサとを有する真空ポンプの制御装置であって、
前記真空ポンプの稼働中に前記センサで計測された前記物理量を所定の時間毎にサンプリング抽出する物理量抽出手段と、
該物理量抽出手段での抽出が任意のサンプリング回数を経過したときに、その時点までの各サンプリング時の前記物理量の計測値の密集度合いの最も高い物理量範囲を見つける物理量範囲検出手段とを備えたことを特徴とする制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真空ポンプ及び真空ポンプの制御装置に係わり、特に回転翼の疲労具合をポンプの運転状況に応じて定量的かつ容易に判断できる指標を作成することで、回転翼交換の時期を的確に判断できる真空ポンプ及び真空ポンプの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のエレクトロニクスの発展に伴い、メモリや集積回路といった半導体の需要が急激に増大している。
これらの半導体は、きわめて純度の高い半導体基板に不純物をドープして電気的性質を与えたり、エッチングにより半導体基板上に微細な回路を形成したりなどして製造される。
【0003】
そして、これらの作業は空気中の塵等による影響を避けるため高真空状態のチャンバ内で行われる必要がある。このチャンバの排気には、一般に真空ポンプが用いられているが、特に残留ガスが少なく、保守が容易等の点から真空ポンプの中の一つであるターボ分子ポンプが多用されている。
また、半導体の製造工程では、さまざまなプロセスガスを半導体の基板に作用させる工程が数多くあり、ターボ分子ポンプはチャンバ内を真空にするのみならず、これらのプロセスガスをチャンバ内から排気するのにも使用される。
【0004】
ところで、プロセスガスは、反応性を高めるため高温の状態でチャンバに導入される場合がある。
そして、これらのプロセスガスは、排気される際に冷却されてある温度になると固体となり排気系に生成物を析出する場合がある。そして、この種のプロセスガスがターボ分子ポンプ内で低温となって固体状となり、ターボ分子ポンプ内部に付着して堆積する場合がある。
【0005】
ターボ分子ポンプ内部にプロセスガスの析出物が堆積すると、この堆積物がポンプ流路を狭め、ターボ分子ポンプの性能を低下させる原因となる。
この問題を解決するために、従来はターボ分子ポンプのベース部等の外周にヒータや環状の水冷管を巻着させ、かつ例えばベース部等に温度センサを埋め込み、この温度センサの信号に基づきベース部の温度を一定の範囲の高温に保つようにヒータの加熱や水冷管による冷却の制御が行われている(特許文献1、特許文献2、特許文献3を参照)。
【0006】
この制御温度は高い方が生成物が堆積し難いため、この温度は可能な限り高くすることが望ましい。
一方、このようにベース部を高温にした際には、回転翼は、排気負荷の変動や周囲温度が高温に変化した場合等には限界温度を超えるおそれがある。
このような弊害を防止するためベース部内には例えば放射性の温度計が設置され常時回転翼の温度を測定し、その温度が一定時間予め定められたしきい値を超えた状態で運転している場合には警告が行われたり、その温度を更に超えた状態で例えば30秒間継続して運転がされたような状況のときにはポンプの停止がされる。
【0007】
そして、これらの作業下ではポンプは一旦運転されると例えば1-5年間運転が継続される等、ポンプのオーバーホールメンテナンス時以外は停止される機会は少ない。
このため、通常はターボ分子ポンプのオーバーホールメンテナンスの機会に、回転翼交換の必要性を判断している。その際、目視で判断できる損傷や変色以外に、制御回路に記録されたポンプの累積稼働時間を判断項目として利用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002-257079号公報
【特許文献2】特許第5782378号公報
【特許文献3】WO2010/021307A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、同じ累積稼動時間の回転翼でも、実際には、稼働中のガス負荷により、回転翼に作用する応力が異なるため、回転翼の疲労度合いが大きく異なる場合がある。また、稼働中の温度も無視できず、高温で稼動しているほど、回転翼の疲労度合いは大きい。
【0010】
制御回路に記録されたポンプの累積稼動時間の情報だけでは、これらガス負荷や温度の情報は含まれていないため、それなりの精度でしか、回転翼交換の必要性を判断できない。
その結果、メーカとしては、安全側に判断して早期交換を推奨するが、顧客に納得してもらうことは容易ではない。
【0011】
また、上述した判断項目だけでは回転翼の疲労具合を適正に判断するのには不十分な可能性がある。例えば、しきい値の温度を超えたり、下がったりを30秒以内に繰り返し行っているような状況が仮にあったとすると、温度センサによるサンプリング周期が前述の温度変動に比べて長い期間である場合にはポンプ異常としては検出できないまでも回転翼には相当の疲労度が蓄積されているという状況が推定される。
【0012】
更に、温度センサからのサンプリングが例えば0.5秒に1回行われたとすると、1-5年間運転中にこの温度データをずっと蓄積し続けることは膨大なデータ量となる。このデータ量について解析を行うことは解析に要する負荷も大変である。このため、制御回路に搭載のCPUに対し余り負荷のかからない状態で回転翼の疲労具合の解析を行うことが望まれる。
更に、ポンプの使用状況は顧客により様々であったり、通常稼働される回転翼の温度や回転翼を駆動するモータに流れる電流量が装置毎にばらついていたり、ポンプの使用状況の掴めない場合があるが、これらの場合に使用状況に応じた回転翼の疲労具合の解析を行うことが望まれる。特に、何も障害なく、長期間稼働していたポンプでは、ポンプが異なると、あるいは、ポンプの搭載された装置の使われ方により、回転翼疲労度合いは異なるにも関わらず、回転翼の疲労具合の解析結果には差異が現れ難いおそれがある。
【0013】
本発明はこのような従来の課題に鑑みてなされたもので、回転翼の疲労具合をポンプの運転状況に応じて定量的かつ容易に判断できる指標を作成することで、回転翼交換の時期を的確に判断できる真空ポンプ及び真空ポンプの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このため本発明(請求項1)は、真空ポンプ本体に内蔵された回転翼と、前記真空ポンプ本体に配設され、前記回転翼に関連した物理量を計測するセンサとを有する真空ポンプにおいて、前記真空ポンプは、前記真空ポンプの稼働中に前記センサで計測された前記物理量を所定の時間毎にサンプリング抽出する物理量抽出手段と、該物理量抽出手段での抽出が任意のサンプリング回数を経過したときに、その時点までの各サンプリング時の前記物理量の計測値の密集度合いの最も高い物理量範囲を見つける物理量範囲検出手段とを備えて構成した。
【0015】
物理量範囲検出手段は、任意のサンプリング回数までに収集した物理量の計測値の密集度合いの最も高い物理量範囲を見つける。これにより、通常稼働範囲が分からない場合でも、高精度に通常稼働のされていた物理量の範囲を特定することができる。そして、同じ通常稼働のされていた範囲内にあるポンプであってもガス負荷や温度による影響をきめ細かく判断できるため、それぞれのポンプの運転状況を的確に把握できる。従って、正常運転されていたポンプであっても的確にオーバーホールの判断ができるようになる。
【0016】
また、本発明(請求項2)は、前記物理量範囲の上限値として定義された物理量上限値と、前記物理量範囲の下限値として定義された物理量下限値と、前記物理量の前記計測値に応じて前記物理量上限値と前記物理量下限値間の間隔を変化させる調整手段とを備えて構成した。
【0017】
物理量の計測値に応じて物理量上限値と物理量下限値間の間隔を変化させることで、使用状況にある物理量の範囲を絞り込むことができる。即ち、物理量範囲のしきい値を固定値ではなく可変としたことで、通常稼働範囲の絞り込みが容易に行なえる。
【0018】
更に、本発明(請求項3)は、サンプリング時の前記物理量の前記計測値が前記物理量範囲内の上限値よりにあるときに前記物理量下限値が一定量高く更新され、前記サンプリング時の前記物理量の前記計測値が前記物理量範囲内の下限値よりにあるときに前記物理量上限値が前記一定量低く更新されることを特徴とする。
【0019】
これにより、多くの物理量が物理量範囲内に入るように調整できる。
【0020】
更に、本発明(請求項4)は、前記一定量が、前記物理量の前記計測値から想定される最大の期待値と最小の期待値の差に基づき設定されることを特徴とする。
【0021】
これにより、一定量を漸近の程度に応じて的確に設定できる。
【0022】
更に、本発明(請求項5)は、前記物理量範囲は最終的に予め定義された所定の固定値に漸近されることを特徴とする。
【0023】
各物理量に対して期待されるバラツキとして定義した所定の固定値に漸近させることで、物理量範囲を的確な範囲に絞り込むことができる。
【0024】
更に、本発明(請求項6)は、前記真空ポンプの稼働中に前記物理量範囲に前記物理量が属していたときの合計時間である物理量範囲合計時間と前記真空ポンプの稼働の合計時間である稼働合計時間を取得する時間取得手段と、前記物理量範囲合計時間、又は、前記稼働合計時間に対する前記物理量範囲合計時間の比率を表示する表示手段とを備えて構成した。
【0025】
物理量範囲に物理量が属していたときの合計時間を表示したり、この合計時間と真空ポンプの稼働の合計時間との比率を表示することで、回転翼の疲労度合いを分かりやすく判断できる。
【0026】
更に、本発明(請求項7)は、前記物理量範囲の外に設定された少なくとも一つのしきい値と、該しきい値を超えた時間を累積する累積手段とを備え、該累積手段で累積された時間が予め設定された時間を超えたときに警告を発する警告発生手段とを備えて構成した。
【0027】
カウントされた時間の累積値からオーバーホールが必要か否かを判断し、回転翼のオーバーホールを促す旨を通知することができる。このようにオーバーホールを促す警告を通知することで、回転体破損事故の予防が期待できる。
【0028】
更に、本発明(請求項8)は、前記センサが、前記真空ポンプ本体に内蔵された前記回転翼の温度を計測する温度計測手段、又は前記回転翼を駆動するモータに流れる電流量を計測する電流量計測手段であることを特徴とする。
【0029】
温度計測手段と電流量計測手段とはポンプの保護機能処理に使用される。この保護機能としての利用と併用して回転翼のオーバーホール時期の判断にも使える。
【0030】
更に、本発明(請求項9)は、真空ポンプ本体に内蔵された回転翼と、前記真空ポンプ本体に配設され、前記回転翼に関連した物理量を計測するセンサとを有する真空ポンプの制御装置であって、前記真空ポンプの稼働中に前記センサで計測された前記物理量を所定の時間毎にサンプリング抽出する物理量抽出手段と、該物理量抽出手段での抽出が任意のサンプリング回数を経過したときに、その時点までの各サンプリング時の前記物理量の計測値の密集度合いの最も高い物理量範囲を見つける物理量範囲検出手段とを備えて構成した。
【発明の効果】
【0031】
以上説明したように本発明(請求項1)によれば、物理量抽出手段での抽出が任意のサンプリング回数を経過したときに、その時点までの各サンプリング時の物理量の計測値の密集度合いの最も高い物理量範囲を見つける物理量範囲検出手段を備えるように構成したので、通常稼働範囲が分からない場合でも、高精度に通常稼働のされていた物理量の範囲を特定することができる。そして、同じ通常稼働のされていた範囲内にあるポンプであってもガス負荷や温度による影響をきめ細かく判断できるため、それぞれのポンプの運転状況を的確に把握できる。従って、正常運転されていたポンプであっても的確にオーバーホールの判断ができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】回転翼交換の必要度判定に関するシステム構成図
図2】本発明の実施形態であるターボ分子ポンプの構成図
図3】アンプ回路の回路図
図4】電流指令値が検出値より大きい場合の制御を示すタイムチャート
図5】電流指令値が検出値より小さい場合の制御を示すタイムチャート
図6】段階毎の制御方法を示すグラフ
図7】本制御方法を適用したときのモータの電流値のタイムチャートの例
図8】本制御方法を適用したときの回転翼の温度値のタイムチャートの例
図9】回転翼の温度に基づき疲労度合いを判断する処理
図10】通常稼働域中央値C調整サブルーチン
図11】「翼温度LV3カウントアップ、通常稼働域上限H調整」サブルーチン
図12】「翼温度LV4カウントアップ、通常稼働域H/L調整」サブルーチン
図13】「翼温度LV4,5カウントアップ、下限L上方調整」サブルーチン
図14】「翼温度LV3,4カウントアップ、上限H下方調整」サブルーチン
図15】「翼温度LV5カウントアップ、通常稼働域下限L調整」サブルーチン
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の実施形態である回転翼交換の必要度判定に関するシステム構成図を図1に、また、図2に、ターボ分子ポンプの構成図を示す。
図1において、制御装置200はターボ分子ポンプ100と別体で記載されているが、ターボ分子ポンプ100と制御装置200とが一体化されていても本実施形態の適用は可能である。
【0034】
制御装置200には、ターボ分子ポンプ100に備えられた磁気軸受(104、105、106)の浮上制御を行う磁気軸受制御部3とモータ121の回転制御を行うモータ駆動制御部5が配設されている。回転翼温度計測部7は回転翼温度センサ9で回転体103の温度を非接触に測定した信号を受信するようになっている。磁気軸受制御部3からは回転体103の浮上位置等が出力され、保護機能処理部11に入力されるようになっている。そして、この保護機能処理部11では回転体103の浮上位置等に異常があったときに警告やポンプ停止が行われるようになっている。
【0035】
モータ駆動制御部5からは回転体103の回転速度値やモータ電流値が出力され、保護機能処理部11に入力されるようになっている。モータ駆動制御部5からの回転体103のモータ電流値の抽出は、物理量抽出手段に相当する。そして、保護機能処理部11では回転体103の回転速度値やモータ電流値に異常があったときに警告やポンプ停止が行われるようになっている。また、モータ駆動制御部5から出力されたモータ電流値は時間カウント可変条件調整処理部13に入力され、この時間カウント可変条件調整処理部13において電流値の領域毎に回転体103の電流値がその領域の範囲内に留まっていた時間が積算されるようになっている。
【0036】
回転翼温度計測部7からは回転翼温度値が出力され、保護機能処理部11に入力されるようになっている。回転翼温度計測部7からの回転翼温度値の抽出は、物理量抽出手段に相当する。そして、この保護機能処理部11では回転翼温度値に異常があったときに警告やポンプ停止が行われるようになっている。また、回転翼温度計測部7から出力された回転翼温度値は時間カウント可変条件調整処理部13に入力される。そして、サンプリング取得された回転翼温度値は1分間の平均値が取られる。その後、その平均値が回転翼温度値の領域毎に、その領域内に留まっていた時間が積算されるようになっている。
そして、メモリ15では時間カウント可変条件調整処理部13で積算された各時間値が保存されるようになっている。記録処理部17では例えば、ポンプの減速停止時、若しくは2時間毎にメモリ15からデータが読まれ、不揮発メモリ19に保存されるようになっている。LCD等外部出力21では、LCD表示部や外付けの機器等によって、後述する各領域ごとの演算結果を表示するようになっている。
【0037】
図2において、ターボ分子ポンプ100は、円筒状の外筒127の上端に吸気口101が形成されている。そして、外筒127の内方には、ガスを吸引排気するためのタービンブレードである複数の回転翼102(102a、102b、102c・・・)を周部に放射状かつ多段に形成した回転体103が備えられている。この回転体103の中心にはロータ軸113が取り付けられており、このロータ軸113は、例えば5軸制御の磁気軸受により空中に浮上支持かつ位置制御されている。回転体103は、一般的に、アルミニウム又はアルミニウム合金などの金属によって構成されている。
【0038】
上側径方向電磁石104は、4個の電磁石がX軸とY軸とに対をなして配置されている。この上側径方向電磁石104に近接して、かつ上側径方向電磁石104のそれぞれに対応して4個の上側径方向センサ107が備えられている。上側径方向センサ107は、例えば伝導巻線を有するインダクタンスセンサや渦電流センサなどが用いられ、ロータ軸113の位置に応じて変化するこの伝導巻線のインダクタンスの変化に基づいてロータ軸113の位置を検出する。この上側径方向センサ107はロータ軸113、すなわちそれに固定された回転体103の径方向変位を検出し、制御装置200に送るように構成されている。
【0039】
この制御装置200においては、例えばPID調節機能を有する補償回路が、上側径方向センサ107によって検出された位置信号に基づいて、上側径方向電磁石104の励磁制御指令信号を生成し、図3に示すアンプ回路150(後述する)が、この励磁制御指令信号に基づいて、上側径方向電磁石104を励磁制御することで、ロータ軸113の上側の径方向位置が調整される。
【0040】
そして、このロータ軸113は、高透磁率材(鉄、ステンレスなど)などにより形成され、上側径方向電磁石104の磁力により吸引されるようになっている。かかる調整は、X軸方向とY軸方向とにそれぞれ独立して行われる。また、下側径方向電磁石105及び下側径方向センサ108が、上側径方向電磁石104及び上側径方向センサ107と同様に配置され、ロータ軸113の下側の径方向位置を上側の径方向位置と同様に調整している。
【0041】
さらに、軸方向電磁石106A、106Bが、ロータ軸113の下部に備えた円板状の金属ディスク111を上下に挟んで配置されている。金属ディスク111は、鉄などの高透磁率材で構成されている。ロータ軸113の軸方向変位を検出するために軸方向センサ109が備えられ、その軸方向位置信号が制御装置200に送られるように構成されている。
【0042】
そして、制御装置200において、例えばPID調節機能を有する補償回路が、軸方向センサ109によって検出された軸方向位置信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bのそれぞれの励磁制御指令信号を生成し、アンプ回路150が、これらの励磁制御指令信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bをそれぞれ励磁制御することで、軸方向電磁石106Aが磁力により金属ディスク111を上方に吸引し、軸方向電磁石106Bが金属ディスク111を下方に吸引し、ロータ軸113の軸方向位置が調整される。
【0043】
このように、制御装置200は、この軸方向電磁石106A、106Bが金属ディスク111に及ぼす磁力を適当に調節し、ロータ軸113を軸方向に磁気浮上させ、空間に非接触で保持するようになっている。なお、これら上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150については、後述する。
【0044】
一方、モータ121は、ロータ軸113を取り囲むように周状に配置された複数の磁極を備えている。各磁極は、ロータ軸113との間に作用する電磁力を介してロータ軸113を回転駆動するように、制御装置200によって制御されている。また、モータ121には図示しない例えばホール素子、レゾルバ、エンコーダなどの回転速度センサが組み込まれており、この回転速度センサの検出信号によりロータ軸113の回転速度が検出されるようになっている。
【0045】
さらに、例えば下側径方向センサ108近傍に、図示しない位相センサが取り付けてあり、ロータ軸113の回転の位相を検出するようになっている。制御装置200では、この位相センサと回転速度センサの検出信号を共に用いて磁極の位置を検出するようになっている。
【0046】
回転翼102(102a、102b、102c・・・)とわずかの空隙を隔てて複数枚の固定翼123(123a、123b、123c・・・)が配設されている。回転翼102(102a、102b、102c・・・)は、それぞれ排気ガスの分子を衝突により下方向に移送するため、ロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成されている。固定翼123(123a、123b、123c・・・)は、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。
【0047】
また、固定翼123も、同様にロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成され、かつ外筒127の内方に向けて回転翼102の段と互い違いに配設されている。そして、固定翼123の外周端は、複数の段積みされた固定翼スペーサ125(125a、125b、125c・・・)の間に嵌挿された状態で支持されている。
【0048】
固定翼スペーサ125はリング状の部材であり、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。固定翼スペーサ125の外周には、わずかの空隙を隔てて外筒127が固定されている。外筒127の底部にはベース部129が配設されている。ベース部129には排気口133が形成され、外部に連通されている。チャンバ(真空チャンバ)側から吸気口101に入ってベース部129に移送されてきた排気ガスは、排気口133へと送られる。
【0049】
さらに、ターボ分子ポンプ100の用途によって、固定翼スペーサ125の下部とベース部129の間には、ネジ付スペーサ131が配設される。ネジ付スペーサ131は、アルミニウム、銅、ステンレス、鉄、又はこれらの金属を成分とする合金などの金属によって構成された円筒状の部材であり、その内周面に螺旋状のネジ溝131aが複数条刻設されている。ネジ溝131aの螺旋の方向は、回転体103の回転方向に排気ガスの分子が移動したときに、この分子が排気口133の方へ移送される方向である。回転体103の回転翼102(102a、102b、102c・・・)に続く最下部には円筒部102dが垂下されている。この円筒部102dの外周面は、円筒状で、かつネジ付スペーサ131の内周面に向かって張り出されており、このネジ付スペーサ131の内周面と所定の隙間を隔てて近接されている。回転翼102および固定翼123によってネジ溝131aに移送されてきた排気ガスは、ネジ溝131aに案内されつつベース部129へと送られる。
【0050】
ベース部129は、ターボ分子ポンプ100の基底部を構成する円盤状の部材であり、一般には鉄、アルミニウム、ステンレスなどの金属によって構成されている。ベース部129はターボ分子ポンプ100を物理的に保持すると共に、熱の伝導路の機能も兼ね備えているので、鉄、アルミニウムや銅などの剛性があり、熱伝導率も高い金属が使用されるのが望ましい。
【0051】
かかる構成において、回転翼102がロータ軸113と共にモータ121により回転駆動されると、回転翼102と固定翼123の作用により、吸気口101を通じてチャンバから排気ガスが吸気される。回転翼102の回転速度は通常20000rpm~90000rpmであり、回転翼102の先端での周速度は200m/s~400m/sに達する。吸気口101から吸気された排気ガスは、回転翼102と固定翼123の間を通り、ベース部129へ移送される。このとき、排気ガスが回転翼102に接触する際に生ずる摩擦熱や、モータ121で発生した熱の伝導などにより、回転翼102の温度は上昇するが、この熱は、輻射又は排気ガスの気体分子などによる伝導により固定翼123側に伝達される。
【0052】
固定翼スペーサ125は、外周部で互いに接合しており、固定翼123が回転翼102から受け取った熱や排気ガスが固定翼123に接触する際に生ずる摩擦熱などを外部へと伝達する。
【0053】
なお、上記では、ネジ付スペーサ131は回転体103の円筒部102dの外周に配設し、ネジ付スペーサ131の内周面にネジ溝131aが刻設されているとして説明した。しかしながら、これとは逆に円筒部102dの外周面にネジ溝が刻設され、その周囲に円筒状の内周面を有するスペーサが配置される場合もある。
【0054】
また、ターボ分子ポンプ100の用途によっては、吸気口101から吸引されたガスが上側径方向電磁石104、上側径方向センサ107、モータ121、下側径方向電磁石105、下側径方向センサ108、軸方向電磁石106A、106B、軸方向センサ109などで構成される電装部に侵入することのないよう、電装部は周囲をステータコラム122で覆われ、このステータコラム122内はパージガスにて所定圧に保たれる場合もある。
【0055】
この場合には、ベース部129には図示しない配管が配設され、この配管を通じてパージガスが導入される。導入されたパージガスは、保護ベアリング120とロータ軸113間、モータ121のロータとステータ間、ステータコラム122と回転翼102の内周側円筒部の間の隙間を通じて排気口133へ送出される。
【0056】
ここに、ターボ分子ポンプ100は、機種の特定と、個々に調整された固有のパラメータ(例えば、機種に対応する諸特性)に基づいた制御を要する。この制御パラメータを格納するために、上記ターボ分子ポンプ100は、その本体内に電子回路部141を備えている。電子回路部141は、EEP-ROM等の半導体メモリ及びそのアクセスのための半導体素子等の電子部品、それらの実装用の基板143等から構成される。この電子回路部141は、ターボ分子ポンプ100の下部を構成するベース部129の例えば中央付近の図示しない回転速度センサの下部に収容され、気密性の底蓋145によって閉じられている。
【0057】
ところで、半導体の製造工程では、チャンバに導入されるプロセスガスの中には、その圧力が所定値よりも高くなり、或いは、その温度が所定値よりも低くなると、固体となる性質を有するものがある。ターボ分子ポンプ100内部では、排気ガスの圧力は、吸気口101で最も低く排気口133で最も高い。プロセスガスが吸気口101から排気口133へ移送される途中で、その圧力が所定値よりも高くなったり、その温度が所定値よりも低くなったりすると、プロセスガスは、固体状となり、ターボ分子ポンプ100内部に付着して堆積する。
【0058】
例えば、Alエッチング装置にプロセスガスとしてSiCl4が使用された場合、低真空(760[torr]~10-2[torr])かつ、低温(約20[℃])のとき、固体生成物(例えばAlCl3)が析出し、ターボ分子ポンプ100内部に付着堆積することが蒸気圧曲線からわかる。これにより、ターボ分子ポンプ100内部にプロセスガスの析出物が堆積すると、この堆積物がポンプ流路を狭め、ターボ分子ポンプ100の性能を低下させる原因となる。そして、前述した生成物は、排気口133付近やネジ付スペーサ131付近の圧力が高い部分で凝固、付着し易い状況にあった。
【0059】
そのため、この問題を解決するために、ベース部129等の外周にヒータ1や環状の水冷管149を巻着させ、かつ例えばヒータ1の近くに温度センサ3(例えばサーミスタ)を埋め込み、この温度センサ3の信号に基づいてベース部129の温度を一定の高い温度(設定温度)に保つように、ヒータ1の加熱や水冷管149による冷却(以下TMSという。TMS;Temperature Management System)が行われるようになっている。水冷管149には冷却を制御するために図示しない水冷バルブが配設されている。
但し、TMSの効率を上げるために、更に排気口133に図示しないヒータを配設し、かつ、このヒータの近くに、図示しない温度センサが配設されてもよい。なお、ベース部129の水冷管149の近くには、冷却を制御するために物理量抽出手段に相当する温度センサ5が配設されている。
なお、ターボ分子ポンプ100には、回転翼102の温度を計測するための図示しない物理量抽出手段に相当する回転翼温度センサが配設されている。そして、この回転翼温度センサで計測された温度信号は、制御装置200に入力されるようになっている。また、モータ121に流れる電流値が計測され、制御装置200に入力されるようになっている。
【0060】
次に、このように構成されるターボ分子ポンプ100に関して、その上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150について説明する。このアンプ回路150の回路図を図3に示す。
【0061】
図3において、上側径方向電磁石104等を構成する電磁石巻線151は、その一端がトランジスタ161を介して電源171の正極171aに接続されており、また、その他端が電流検出回路181及びトランジスタ162を介して電源171の負極171bに接続されている。そして、トランジスタ161、162は、いわゆるパワーMOSFETとなっており、そのソース-ドレイン間にダイオードが接続された構造を有している。
【0062】
このとき、トランジスタ161は、そのダイオードのカソード端子161aが正極171aに接続されるとともに、アノード端子161bが電磁石巻線151の一端と接続されるようになっている。また、トランジスタ162は、そのダイオードのカソード端子162aが電流検出回路181に接続されるとともに、アノード端子162bが負極171bと接続されるようになっている。
【0063】
一方、電流回生用のダイオード165は、そのカソード端子165aが電磁石巻線151の一端に接続されるとともに、そのアノード端子165bが負極171bに接続されるようになっている。また、これと同様に、電流回生用のダイオード166は、そのカソード端子166aが正極171aに接続されるとともに、そのアノード端子166bが電流検出回路181を介して電磁石巻線151の他端に接続されるようになっている。そして、電流検出回路181は、例えばホールセンサ式電流センサや電気抵抗素子で構成されている。
【0064】
以上のように構成されるアンプ回路150は、一つの電磁石に対応されるものである。そのため、磁気軸受が5軸制御で、電磁石104、105、106A、106Bが合計10個ある場合には、電磁石のそれぞれについて同様のアンプ回路150が構成され、電源171に対して10個のアンプ回路150が並列に接続されるようになっている。
【0065】
さらに、アンプ制御回路191は、例えば、制御装置200の図示しないディジタル・シグナル・プロセッサ部(以下、DSP部という)によって構成され、このアンプ制御回路191は、トランジスタ161、162のon/offを切り替えるようになっている。
【0066】
アンプ制御回路191は、電流検出回路181が検出した電流値(この電流値を反映した信号を電流検出信号191cという)と所定の電流指令値とを比較するようになっている。そして、この比較結果に基づき、PWM制御による1周期である制御サイクルTs内に発生させるパルス幅の大きさ(パルス幅時間Tp1、Tp2)を決めるようになっている。その結果、このパルス幅を有するゲート駆動信号191a、191bを、アンプ制御回路191からトランジスタ161、162のゲート端子に出力するようになっている。
【0067】
なお、回転体103の回転速度の加速運転中に共振点を通過する際や定速運転中に外乱が発生した際等に、高速かつ強い力での回転体103の位置制御をする必要がある。そのため、電磁石巻線151に流れる電流の急激な増加(あるいは減少)ができるように、電源171としては、例えば50V程度の高電圧が使用されるようになっている。また、電源171の正極171aと負極171bとの間には、電源171の安定化のために、通常コンデンサが接続されている(図示略)。
【0068】
かかる構成において、トランジスタ161、162の両方をonにすると、電磁石巻線151に流れる電流(以下、電磁石電流iLという)が増加し、両方をoffにすると、電磁石電流iLが減少する。
【0069】
また、トランジスタ161、162の一方をonにし他方をoffにすると、いわゆるフライホイール電流が保持される。そして、このようにアンプ回路150にフライホイール電流を流すことで、アンプ回路150におけるヒステリシス損を減少させ、回路全体としての消費電力を低く抑えることができる。また、このようにトランジスタ161、162を制御することにより、ターボ分子ポンプ100に生じる高調波等の高周波ノイズを低減することができる。さらに、このフライホイール電流を電流検出回路181で測定することで電磁石巻線151を流れる電磁石電流iLが検出可能となる。
【0070】
すなわち、検出した電流値が電流指令値より小さい場合には、図4に示すように制御サイクルTs(例えば100μs)中で1回だけ、パルス幅時間Tp1に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をonにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、正極171aから負極171bへ、トランジスタ161、162を介して流し得る電流値iLmax(図示せず)に向かって増加する。
【0071】
一方、検出した電流値が電流指令値より大きい場合には、図5に示すように制御サイクルTs中で1回だけパルス幅時間Tp2に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をoffにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、負極171bから正極171aへ、ダイオード165、166を介して回生し得る電流値iLmin(図示せず)に向かって減少する。
【0072】
そして、いずれの場合にも、パルス幅時間Tp1、Tp2の経過後は、トランジスタ161、162のどちらか1個をonにする。そのため、この期間中は、アンプ回路150にフライホイール電流が保持される。
【0073】
次に、本実施形態の作用について説明する。
本実施形態では、回転翼102の疲労具合を、ターボ分子ポンプ100の運転状況に応じて定量的かつ容易に判断できる指標を作成する。この指標は、モータ121の電流値と回転翼102の温度について作成する。モータ121の電流値と回転翼102の温度は、物理量に相当する。図6にはモータ121の電流値と回転翼102の温度値を5段階に分け、その段階毎の制御方法を示す。
【0074】
図7には、本制御方法を適用したときのモータの電流値のタイムチャートの例を示す。グラフ11はモータ121の電流計測値である。グラフ13は条件可変値Hを示し、グラフ15は条件可変値Lを示す。条件可変値Hは物理量上限値に相当し、条件可変値Lは物理量下限値に相当する。また、図8には、本制御方法を適用したときの回転翼の温度値のタイムチャートの例を示す。グラフ21は回転翼102の温度値である。図7と同様に、グラフ13は条件可変値Hを示し、グラフ15は条件可変値Lを示す。
【0075】
図6図7及び図8において、領域1は異常閾値以上のレベル1(図中LV1で示す)の異常通知域の段階を示す。また、領域2は警告閾値以上のレベル2(図中LV2で示す)の警告通知域の段階を示し、領域3は通常稼働域超えであるレベル3(図中LV3で示す)の段階を示し、領域4は通常稼働域のレベル4(図中LV4で示す)の段階を示し、領域5は通常稼働域以下のレベル5(図中LV5で示す)の段階を示す。領域5の初期値は電流値の場合に0アンペアの場合もある。
【0076】
次に、制御装置200が、回転翼102の温度に基づき疲労度合いを判断する方法について説明する。但し、モータ121の電流値についても同様に処理が可能である。
図9において、ステップ1(図中S1で示す。以下、同旨)では、制御装置200が回転翼102の温度についての処理を開始する。ステップ3では計測された温度値が異常通知域に属するか否かが判断される。そして、異常通知域に属すると判断された場合にはステップ5に進み、回転翼温度レベル1のカウンターのカウント値が一つインクリメントされる。このときの1カウントは例えば1分に設定される(以下、同旨)。この異常通知域に属すると判断された場合とは、図6図7及び図8の領域1に相当する。この異常通知域に属すると判断された後のカウント処理は、時間カウント可変条件調整処理部に属する累積手段で行なわれる。
【0077】
その後、ステップ7に進み、通常稼働域中央値C調整サブルーチンの処理が行なわれる。図10の通常稼働域中央値C調整サブルーチンにおいて、通常稼働域中央値Cは、条件可変値Hと条件可変値Lの中央値である。そして、ステップ9では、この通常稼働域中央値Cの値が現在の条件可変値Hと条件可変値Lを使って改めて計算され、結果が更新される。そして、この新しく計算された通常稼働域中央値Cの値が次回のサンプリング時の通常稼働域中央値Cとして使われる。その後は、ステップ11でリターンされて図9のステップ13に進む。
【0078】
ステップ13では、ステップ1に戻り、次のサンプリング時における処理に備えて待機する。サンプリング間隔は例えば1分である。
一方、ステップ3で計測された温度値が異常通知域に属さないと判断された場合には、ステップ15に進み、警告通知域か否かが判断される。そして、ステップ15で警告通知域に属すると判断された場合にはステップ17に進み、回転翼温度レベル2のカウンターが一つインクリメントされる。この警告通知域に属すると判断された場合とは、図6図7及び図8の領域2に相当する。その後、ステップ7に進み、通常稼働域中央値C調整サブルーチンの処理が行なわれる。
【0079】
一方、ステップ15で、警告通知域に属さないと判断された場合にはステップ19に進み、通常稼働域を超えているか否かが判断される。そして、ステップ19で通常稼働域を超えていると判断された場合にはステップ21に進み、「翼温度LV3カウントアップ、通常稼働域上限H調整」サブルーチンが動作する。この通常稼働域を超えている場合とは、図6図7及び図8の領域3に相当する。
【0080】
図11に示す「翼温度LV3カウントアップ、通常稼働域上限H調整」サブルーチンにおいては、ステップ23で回転翼温度レベル3のカウンターのカウント値が一つインクリメントされる。そして、ステップ25で条件可変値Hが調整刻みδ分加算されて更新される。即ち、この場合には、図6において、条件可変値Hを示すグラフ13が調整刻みδ分だけ上方に引き上げられることになる。即ち、通常稼働域を広げる調整である。
調整刻みδは、回転翼102の温度値とモータ121の電流値のそれぞれについて、例えば、数1のように定義される。
【0081】
[数1]
δ=(計測値最大期待値-最小期待値)/10000
【0082】
ここに、計測値最大期待値は、対象としたターボ分子ポンプ100について、計測値として想定される温度値若しくは電流値の最大値であり、最小期待値は計測値として想定される最小値である。通常稼働域中央値Cの場合には最小期待値は0アンペアのこともある。また、数1の設定では、1万分で通常稼働域中央値Cが回転翼102の温度値とモータ121の電流値のそれぞれの平均値に漸近するように想定されている。
その後、図11のステップ27でリターンされる。その後、図9のステップ7に進み、通常稼働域中央値C調整サブルーチンの処理が行なわれる。
【0083】
一方、図9のステップ19で通常稼働域を超えていないと判断された場合にはステップ29に進み、通常稼働域内か否かが判断される。そして、通常稼働域内と判断された場合にはステップ31に進み、「翼温度LV4カウントアップ、通常稼働域H/L調整」サブルーチンが動作する。この通常稼働域内とは、図6図7及び図8の領域4に相当する。領域4は、図7図8に示すように時間の経過と共にその幅と通常稼働域中央値Cの位置が変動する。
【0084】
図12の「翼温度LV4カウントアップ、通常稼働域H/L調整」サブルーチンにおいて、ステップ33では、条件可変値Hと条件可変値Lの差が2dを超えているか否かが判断される。ここに、dは各計測値に対して期待されるバラツキであり、時間の経過と共に最終的に計測値のほとんどが、通常稼働域中央値Cに対して+dと-dの範囲内に収束されることを期待して設定される。物理量範囲検出手段では、このような時間の経過と共に最終的に計測値のほとんどが、通常稼働域中央値Cに対して+dと-dの範囲内に収束される状態を検出するようになっている。
【0085】
条件可変値Hと条件可変値Lの差が2dを超えていると判断されたときにはステップ35に進み、計測値がC+d以上か否かが判断される。この場合は、通常稼働域中央値Cよりも計測値が上側に出現したと判断できるので、調整を行なうためにステップ37の「翼温度LV4,5カウントアップ、下限L上方調整」サブルーチンに進む。図13の「翼温度LV4,5カウントアップ、下限L上方調整」サブルーチンにおいて、ステップ39では、回転翼温度レベル4のカウンターのカウント値が0.5だけ加算される。そして、ステップ41では、回転翼温度レベル5のカウンターのカウント値についても0.5だけ加算される。そして、ステップ43では、条件可変値Lが調整刻みδ分だけ加算された形で更新される。
【0086】
即ち、図7において、条件可変値Lを示すグラフ15が調整刻みδ分だけ上方に引き上げられることになる。通常稼働域を狭める調整である。このように、条件可変値Lを調整刻みδ分だけ上方に引き上げるのは、このときの計測値が通常稼働域中央値Cよりも上側にあることが分かったことで、収束させる範囲を狭めるに際し、下側のグラフ15を引き上げることで領域4の範囲を狭めてもよいと判断できるためである。その後、図13のステップ45でリターンされる。
【0087】
また、回転翼温度レベル4と回転翼温度レベル5のカウンター値をそれぞれ0.5ずつ加算することにしたのは、計測値が条件可変値Lから見て調整刻みδの範囲に入るときは回転翼温度レベル5のカウンターのカウント値をカウントするのが妥当である一方、計測値が条件可変値Lから見て調整刻みδの範囲に入らないときには回転翼温度レベル4のカウンターのカウント値をカウントするのが妥当なためである。
図13のステップ45でリターンされた処理は、図12のステップ47でリターンされる。その後、図9のステップ7に進み、通常稼働域中央値C調整サブルーチンの処理が行なわれる。
【0088】
一方、ステップ33で条件可変値Hと条件可変値Lの差が2dを超えていないと判断されたときにはステップ61に進む。ステップ61では、回転翼温度レベル4のカウンターのカウンター値が一つインクリメントされる。そして、ステップ47でリターンされる。その後、図9のステップ7に進み、通常稼働域中央値C調整サブルーチンの処理が行なわれる。
一方、図12のステップ35で、計測値がC+d未満と判断された場合は、ステップ49に進む。ステップ49では、計測値がC-d未満か否か判断される。そして、計測値がC-d未満の場合にはステップ51の「翼温度LV3,4カウントアップ、上限H下方調整」サブルーチンに進む。
【0089】
図14の「翼温度LV3,4カウントアップ、上限H下方調整」サブルーチンにおいて、ステップ53では、回転翼温度レベル3のカウンターのカウンター値が0.5だけ加算される。そして、ステップ55では、回転翼温度レベル4のカウンターのカウンター値についても0.5だけ加算される。そして、ステップ57では、条件可変値Hが調整刻みδ分だけ減算された形で更新される。即ち、図7において、条件可変値Hを示すグラフ13が調整刻みδ分だけ下方に引き下げられることになる。通常稼働域を狭める調整である。
【0090】
このように、条件可変値Hを調整刻みδ分だけ下方に引き下げるのは、このときの計測値が通常稼働域中央値Cよりも下側にあることが分かったことで、収束させる範囲を狭めるに際し、上側のグラフ13を引き下げることで領域4の範囲を狭めてもよいと判断できるためである。その後、図14のステップ59でリターンされる。また、回転翼温度レベル3と回転翼温度レベル4のカウンター値をそれぞれ0.5ずつ加算することにしたのは、計測値が条件可変値Hから見て調整刻み-δの範囲に入るときは回転翼温度レベル3のカウンターのカウント値をカウントするのが妥当である一方、計測値が条件可変値Hから見て調整刻み-δの範囲に入らないときには回転翼温度レベル4のカウンターのカウント値をカウントするのが妥当なためである。
【0091】
図14のステップ59でリターンされた処理は図12のステップ47でリターンされる。その後、図7のステップ7に進み、通常稼働域中央値C調整サブルーチンの処理が行なわれる。
一方、図10のステップ49で計測値がC-d以上と判断されたときにはステップ61に進み、回転翼温度レベル2のカウンターのカウンター値が一つインクリメントされる。そして、ステップ47でリターンされる。その後、図9のステップ7に進み、通常稼働域中央値C調整サブルーチンの処理が行なわれる。
即ち、通常稼働域中央値Cが回転翼102の温度やモータ121の電流の平均値に収束するように変化させる。具体的には平均値-d~平均値+dに漸近するように変化させる。これに伴い時間情報も各領域毎に累積していく。この各領域毎の時間情報の累積処理は、時間カウント可変条件調整処理部に属する時間取得手段で行なわれる。
【0092】
一方、図9のステップ29で、通常稼働域内ではないと判断されたときには、ステップ63に進み、「翼温度LV5カウントアップ、通常稼働域下限L調整」サブルーチンが動作する。この通常稼働域ではない場合とは、図6図7及び図8の領域5に相当する。
図15に示す「翼温度LV5カウントアップ、通常稼働域下限L調整」サブルーチンにおいては、ステップ65で回転翼温度レベル5のカウンターのカウンター値が一つインクリメントされる。そして、ステップ67で条件可変値Lが調整刻みδ分減算されて更新される。即ち、この場合には、図7において、条件可変値Lを示すグラフ15が調整刻みδ分だけ下方に引き下げられることになる。通常稼働域を広げる調整である。
このようにグラフ15が下方に引き下げられるのは、計測値がグラフ15の下側にあるためである。その後、図15のステップ69でリターンされる。その後、図9のステップ7に進み、通常稼働域中央値C調整サブルーチンの処理が行なわれる。
【0093】
図8には、回転翼の温度計測値について実際に処理を行った結果のタイムチャートを示す。本実施形態では、条件可変値Hと条件可変値Lを変動させているが、比較のため、これらを固定とした場合についても、同じポンプを対象として同時に検証した。
滞留時間の分布を演算するため、領域1~5の各カウンターの値を合計し、その合計値に対するそれぞれの領域のカウンターの値の比率を算出した。これにより、長時間稼働していたポンプのそれぞれの領域毎の稼働の割合を演算した。その結果、例えば、条件可変値Hと条件可変値Lを固定値とした場合には、(領域1、領域2、領域3、領域4、領域5)=(0%、0%、97.4%、2.3%、0.3%)のように表示がされる。即ち、10,000サイクル経過時に、グラフ21で示す計測した温度値は、レベル3である90度以上147度の範囲内に97.4%が属していると判断できる。
【0094】
一方、条件可変値H(グラフ13)と条件可変値L(グラフ15)を変動させた場合には、(領域1、領域2、領域3、領域4、領域5)=(0%、0%、6.0%、84.2%、9.7%)のように表示可能である。即ち138度以上146度の領域4内に84.2%が属しており、この範囲が通常稼働域と判断できる。このように、条件可変値Hと条件可変値Lを変動させた場合には、固定値とした場合に比べて、運転状況がより高精度に判断できることが分かる。なお、この領域ごとの可動割合の結果については、表示手段に相当するLCD等外部出力21で、LCD表示部や外付けの機器等によって表示する。
【0095】
以上の処理により、時間の経過と共に、次第に通常稼働域が通常稼働域中央値C-d~C+dの範囲に収束されて行くので、ポンプが実際に何度位、あるいは、どの位の負荷で何時間稼働していたのか、ポンプの稼働状況がそれぞれのポンプ毎に高精度に分かる。
従って、ポンプが正常範囲内で使われていたとしても、どの程度の温度やモータ電流で頻度高く使われていたのかが判断できるようになる。このため、運転期間中に正常範囲内で使用されていたとしても、この正常範囲の内の高域側に偏って回転翼102の温度やモータ121の電流が集中している状況においては、ポンプの交換時期にあることも推定できる。即ち、ポンプが正常稼働していた場合でも、領域4が収束された形で判断できるので、正常稼働していたポンプの回転翼102の交換必要性を正確に判断できる。
【0096】
領域は段階を細かくせずに5段階程度であって処理できるため、データ保存に必要なメモリは少なくて済む。
また、領域1、2では、オーバーホールを促す警告も通知することができるので、回転体損傷事故の予防が期待できる。
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変や各実施形態の組合せをなすことができ、そして、本発明が当該改変や当該組合せされたものにも及ぶことは当然である。
【符号の説明】
【0097】
3 磁気軸受制御部
5 モータ駆動制御部
7 回転翼温度計測部
9 回転翼温度センサ
11 保護機能処理部
13 時間カウント可変条件調整処理部
15 メモリ
17 記録処理部
19 不揮発メモリ
21 LCD等外部出力
100 ポンプ本体
102 回転翼
103 回転体
104 上側径方向電磁石
105 下側径方向電磁石
106A、106B 軸方向電磁石
121 モータ
200 制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15