(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158560
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】変圧器の積層鉄心の弾性マトリックス決定方法及び振動解析方法並びに弾性マトリックス決定プログラム及び振動解析プログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 30/23 20200101AFI20241031BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20241031BHJP
H01F 41/00 20060101ALI20241031BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
G06F30/23
G01H17/00 D
H01F41/00 D
H01F41/02 B
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073860
(22)【出願日】2023-04-27
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-10-08
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100195534
【弁理士】
【氏名又は名称】内海 一成
(72)【発明者】
【氏名】浪川 操
【テーマコード(参考)】
2G064
5B146
5E062
【Fターム(参考)】
2G064AA11
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB15
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC41
2G064CC42
2G064DD02
5B146AA21
5B146DC03
5B146DJ02
5B146DJ07
5E062AC19
(57)【要約】
【課題】変圧器の騒音を低減させる設計に寄与する、変圧器の積層鉄心の弾性マトリックス決定方法及び振動解析方法並びに変圧器の積層鉄心の弾性マトリックス決定プログラム及び振動解析プログラムを提供する。
【解決手段】変圧器の積層鉄心の弾性マトリックス決定方法は、横弾性係数の第1仮定値及び第2仮定値の各組み合わせについて騒音の周波数スペクトルと励磁振動の周波数スペクトルとの一致度を算出するステップと、一致度が極大値となる場合の第1仮定値及び第2仮定値を横弾性係数として採用するステップとを含む。一致度を算出するステップは、所定範囲の中で分散させた試行点の一致度を算出するステップと、限定小領域を設定するステップと、限定小領域の内部で試行点の間に位置する探索点の一致度を算出するステップとを含む
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変圧器の積層鉄心の弾性マトリックス決定方法であって、
前記積層鉄心は、複数の電磁鋼板を積層して構成され、かつ、少なくとも第1部分と第2部分とを備え、
前記第1部分及び前記第2部分それぞれにおける応力と歪みとの関係を表す構成式は、互いに異なる弾性マトリックスを含み、
前記弾性マトリックスは、前記弾性マトリックスの要素として、前記積層鉄心の積層方向を含む二面における横弾性係数を含み、
前記変圧器の積層鉄心の励磁騒音の周波数スペクトルを取得する第1ステップと、
前記電磁鋼板の励磁磁歪の周波数スペクトルを取得する第2ステップと、
前記変圧器の積層鉄心について、前記第1部分における積層方向を含む二面における横弾性係数の値を仮定した第1仮定値を決定し、前記第2部分における積層方向を含む二面における横弾性係数の値を仮定した第2仮定値を決定し、前記第1仮定値及び前記第2仮定値を前記弾性マトリックスに適用した場合における前記変圧器の積層鉄心の振動応答関数の周波数スペクトルを算出する第3ステップと、
前記第2ステップで取得した電磁鋼板の励磁磁歪の周波数スペクトルデータと、前記第3ステップで算出した前記変圧器の積層鉄心の振動応答関数の周波数スペクトルとに基づいて、前記変圧器の積層鉄心の励磁振動の周波数スペクトルを算出する第4ステップと、
前記第1ステップで取得した前記変圧器の積層鉄心の騒音の周波数スペクトルと、前記第4ステップで算出した前記変圧器の積層鉄心の励磁振動の周波数スペクトルとの一致度を算出する第5ステップと、
前記第1仮定値及び前記第2仮定値それぞれを変更して前記第3ステップから前記第5ステップまでを繰り返し実行することによって前記第1仮定値及び前記第2仮定値の各組み合わせについて前記一致度を算出する第6ステップと、
前記第6ステップで前記第1仮定値及び前記第2仮定値の各組み合わせについて算出した前記一致度の極大値を検出し、前記一致度が極大値となる場合の前記第1仮定値を前記第1部分における前記積層鉄心の積層方向を含む二面における横弾性係数として採用するとともに、前記一致度が極大値となる場合の前記第2仮定値を前記第2部分における前記積層鉄心の積層方向を含む二面における横弾性係数として採用する第7ステップと
を含み、
前記第6ステップは、
前記一致度に対応する前記第1仮定値及び前記第2仮定値の各組み合わせを、前記第1仮定値を第1軸、前記第2仮定値を第2軸とする2次元空間に設定する試行点として表す場合に、前記2次元空間の所定範囲の中で分散させた点を前記試行点として順次選択して前記試行点に対応する前記第1仮定値及び前記第2仮定値の組み合わせについて前記一致度を算出する第6-Aステップと、
前記試行点に対応する前記第1仮定値及び前記第2仮定値の組み合わせについて算出した前記一致度に基づいて、前記2次元空間の中に限定小領域を設定する第6-Bステップと、
前記限定小領域の中で前記試行点の間に位置する探索点を設定して前記探索点に対応する前記第1仮定値及び前記第2仮定値の組み合わせについて前記一致度を算出する第6-Cステップと
を含む、変圧器の積層鉄心の弾性マトリックス決定方法。
【請求項2】
前記第5ステップにおいて、前記一致度として、前記変圧器の積層鉄心の騒音の周波数スペクトルの各周波数成分を要素とする第1ベクトルと、前記変圧器の積層鉄心の励磁振動の周波数スペクトルの各周波数成分を要素とする第2ベクトルとがなす角度のコサイン値を算出する、請求項1に記載の変圧器の積層鉄心の弾性マトリックス決定方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の変圧器の積層鉄心の弾性マトリックス決定方法によって決定した横弾性係数を組み込んだ、前記第1部分及び前記第2部分それぞれにおける応力と歪みとの関係を表す構成式に基づいて、前記変圧器の積層鉄心の振動解析を行うステップを含む、振動解析方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の弾性マトリックス決定方法をコンピュータに実行させる、弾性マトリックス決定プログラム。
【請求項5】
請求項3に記載の振動解析方法をコンピュータに実行させる、振動解析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、変圧器の積層鉄心の弾性マトリックス決定方法及び振動解析方法並びに弾性マトリックス決定プログラム及び振動解析プログラムに関する。また、本開示は、電磁鋼板を積層して製造した変圧器鉄心の機械振動特性を、計算機を用いて計算する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁歪が生ずる磁性体を含む電磁部品を有限要素法解析における複数の有限要素の組み合わせで表現した数値解析モデルに基づいて、磁束密度に応じた該有限要素の各節点又は各有限要素の歪みと等価な節点力を算出する解析装置が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電磁鋼板を積層した積層鉄心にコイルを巻装して構成されている変圧器において、磁歪に起因する鉄心の振動が騒音を生じさせる。変圧器の騒音を低減させる設計に寄与する構造解析が求められる。
【0005】
そこで、本開示は、変圧器の騒音を低減させる設計に寄与する、変圧器の積層鉄心の弾性マトリックス決定方法及び振動解析方法並びに弾性マトリックス決定プログラム及び振動解析プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本開示の一実施形態に係る変圧器の積層鉄心の弾性マトリックス決定方法は、変圧器の積層鉄心の弾性マトリックスを決定する。前記積層鉄心は、複数の電磁鋼板を積層して構成され、かつ、少なくとも第1部分と第2部分とを備える。前記第1部分及び前記第2部分それぞれにおける応力と歪みとの関係を表す構成式は、互いに異なる弾性マトリックスを含む。前記弾性マトリックスは、前記弾性マトリックスの要素として、前記積層鉄心の積層方向を含む二面における横弾性係数を含む。
前記変圧器の積層鉄心の弾性マトリックス決定方法は、
前記変圧器の積層鉄心の励磁騒音の周波数スペクトルを取得する第1ステップと、
前記電磁鋼板の励磁磁歪の周波数スペクトルを取得する第2ステップと、
前記変圧器の積層鉄心について、前記第1部分における積層方向を含む二面における横弾性係数の値を仮定した第1仮定値を決定し、前記第2部分における積層方向を含む二面における横弾性係数の値を仮定した第2仮定値を決定し、前記第1仮定値及び前記第2仮定値を前記弾性マトリックスに適用した場合における前記変圧器の積層鉄心の振動応答関数の周波数スペクトルを算出する第3ステップと、
前記第2ステップで取得した電磁鋼板の励磁磁歪の周波数スペクトルデータと、前記第3ステップで算出した前記変圧器の積層鉄心の振動応答関数の周波数スペクトルとに基づいて、前記変圧器の積層鉄心の励磁振動の周波数スペクトルを算出する第4ステップと、
前記第1ステップで取得した前記変圧器の積層鉄心の騒音の周波数スペクトルと、前記第4ステップで算出した前記変圧器の積層鉄心の励磁振動の周波数スペクトルとの一致度を算出する第5ステップと、
前記第1仮定値及び前記第2仮定値それぞれを変更して前記第3ステップから前記第5ステップまでを繰り返し実行することによって前記第1仮定値及び前記第2仮定値の各組み合わせについて前記一致度を算出する第6ステップと、
前記第6ステップで前記第1仮定値及び前記第2仮定値の各組み合わせについて算出した前記一致度の極大値を検出し、前記一致度が極大値となる場合の前記第1仮定値を前記第1部分における前記積層鉄心の積層方向を含む二面における横弾性係数として採用するとともに、前記一致度が極大値となる場合の前記第2仮定値を前記第2部分における前記積層鉄心の積層方向を含む二面における横弾性係数として採用する第7ステップと
を含む。
前記第6ステップは、
前記一致度に対応する前記第1仮定値及び前記第2仮定値の各組み合わせを、前記第1仮定値を第1軸、前記第2仮定値を第2軸とする2次元空間に設定する試行点として表す場合に、前記2次元空間の所定範囲の中で分散させた点を前記試行点として順次選択して前記試行点に対応する前記第1仮定値及び前記第2仮定値の組み合わせについて前記一致度を算出する第6-Aステップと、
前記試行点に対応する前記第1仮定値及び前記第2仮定値の組み合わせについて算出した前記一致度に基づいて、前記2次元空間の中に限定小領域を設定する第6-Bステップと、
前記限定小領域の中で前記試行点の間隔より狭い間隔の探索点を設定して前記探索点に対応する前記第1仮定値及び前記第2仮定値の組み合わせについて前記一致度を算出する第6-Cステップと
を含む。
【0007】
(2)上記(1)に記載の変圧器の積層鉄心の弾性マトリックス決定方法の前記第5ステップにおいて、前記一致度として、前記変圧器の積層鉄心の騒音の周波数スペクトルの各周波数成分を要素とする第1ベクトルと、前記変圧器の積層鉄心の励磁振動の周波数スペクトルの各周波数成分を要素とする第2ベクトルとがなす角度のコサイン値を算出してよい。
【0008】
(3)本開示の一実施形態に係る振動解析方法は、上記(1)又は(2)に記載の変圧器の積層鉄心の弾性マトリックス決定方法によって決定した横弾性係数を組み込んだ、前記第1部分及び前記第2部分それぞれにおける応力と歪みとの関係を表す構成式に基づいて、前記変圧器の積層鉄心の振動解析を行うステップを含む。
【0009】
(4)本開示の一実施形態に係る弾性マトリックス決定プログラムは、上記(1)又は(2)に記載の弾性マトリックス決定方法をコンピュータに実行させる。
【0010】
(5)本開示の一実施形態に係る振動解析プログラムは、上記(3)に記載の振動解析方法をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0011】
本開示に係る変圧器の積層鉄心の弾性マトリックス決定方法及び弾性マトリックス決定プログラムによれば、振動特性の実測値と計算値との乖離が低減され得る。また、本開示に係る変圧器の積層鉄心の振動解析方法及び振動解析プログラムによれば、振動解析精度が向上され得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一実施形態に係る振動解析方法の解析対象となる変圧器の積層鉄心の構成例を示す図である。
【
図2】積層鉄心に作用する応力を説明する図である。(A)積層方向(Z軸方向)の垂直応力(B)及び(C)積層方向に直交する方向(X軸方向及びY軸方向)の垂直応力(D)ZX平面のせん断応力(E)XY平面のせん断応力(F)YZ平面のせん断応力
【
図3】一実施形態に係る弾性マトリックス決定方法の手順例を示すフローチャートである。
【
図4】一実施形態に係る振動解析装置の構成例を示すブロック図である。
【
図5】変圧器の騒音の周波数スペクトルの一例を示すグラフである。
【
図6】変圧器の積層鉄心を構成する電磁鋼板の励磁磁歪の周波数スペクトルデータの一例を示すグラフである。
【
図7】変圧器の積層鉄心の振動応答関数の周波数スペクトルの一例を示すグラフである。
【
図8】変圧器の積層鉄心の励磁振動の周波数スペクトルの一例を示すグラフである。
【
図9】変圧器の積層鉄心の励磁振動の周波数スペクトルと励磁騒音の周波数スペクトルの一致度の2次元マップの一例を示すグラフである。
図9図9
【
図10】
図9の2次元マップを得るために行った探索の軌跡の一例を示す図である。
【
図11】実施例に係る変圧器の騒音の周波数スペクトルの一例を示すグラフである。
【
図12】実施例に係る変圧器の積層鉄心を構成する電磁鋼板の励磁磁歪の周波数スペクトルデータの一例を示すグラフである。
【
図13】実施例に係る変圧器の積層鉄心の振動応答関数の周波数スペクトルの一例を示すグラフである。
【
図14】実施例に係る変圧器の積層鉄心の励磁振動の周波数スペクトルの一例を示すグラフである。
【
図15】実施例に係る変圧器の積層鉄心の励磁振動の周波数スペクトルと励磁騒音の周波数スペクトルの一致度の2次元マップの一例を示すグラフである。
【
図16】実施例に係る変圧器の積層鉄心の励磁振動の周波数スペクトルの計算値と、変圧器の積層鉄心の励磁騒音を測定して求められた騒音の周波数スペクトルの実測値とを比較するグラフである。
【
図17】GA(遺伝的アルゴリズム)を用いた探索の軌跡を示す図である。
【
図18A】2次元マップ上で0.1GPa間隔に分散する試行点の一例を示すグラフである。
【
図19A】2次元マップ上で0.075GPa間隔に分散する試行点の一例を示すグラフである。
【
図20A】2次元マップ上で0.05GPa間隔に分散する試行点の一例を示すグラフである。
【
図21A】2次元マップ上で0.025GPa間隔に分散する試行点の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
配電用変圧器等の変圧器は、電磁鋼板を積層した積層鉄心にコイルを巻装することによって構成されている。変圧器として重要とされる性能として、例えば鉄損(無負荷損)特性、励磁電流特性又は騒音特性等が挙げられる。
【0014】
配電用変圧器は、様々な場所に設置されている。特に、市街地に設置される変圧器について、騒音が小さいことが強く求められる。このように昨今では、変圧器が設置される周辺環境への影響等を考慮して、変圧器に求められる性能として、特に騒音を低減する低騒音化がますます重要となっている。
【0015】
変圧器の鉄心材料として多くの場合で採用される方向性電磁鋼板は、励磁に伴う材料伸縮によって振動する。励磁に伴う材料伸縮は、磁歪とも称される。磁歪による振動は、磁歪振動とも称される。磁歪振動は、変圧器で騒音が生じる主な原因の一つになっている。したがって、変圧器の騒音性能は、鉄心材料として採用する電磁鋼板の磁歪特性に強く依存し得る。変圧器の騒音を低減するために、変圧器の鉄心材料として、低磁歪特性を有する電磁鋼板が採用され得る。
【0016】
しかし、磁歪性能の優れた電磁鋼板を鉄心材料として採用した場合であっても、変圧器の騒音が十分に低減されないことがしばしば起こる。騒音が十分に低減されない原因として、変圧器の鉄心の固有振動数と電磁鋼板の磁歪振動の振動数とが近いことによる共鳴現象の発生が考えられる。このため、変圧器を設計し製造する上で、変圧器の鉄心の固有振動数等の機械振動特性をあらかじめ計算することが極めて重要である。
【0017】
ここで、変圧器の鉄心のように、磁歪が生ずる磁性体を含む電磁部品の機械振動特性を有限要素法によって解析することが考えられる。例えば、電磁部品を有限要素解析における複数の有限要素の組み合わせで表現した数値解析モデルに基づいて、電磁部品に与えられる磁束密度に応じた有限要素の各節点又は各有限要素の歪みと等価な節点力が算出され得る。この場合において、釣合いの式、応力と歪みとの関係を示した構成式、及び、変位と歪みとの関係式によって構成される構造解析の支配方程式を用いて、準静的構造解析が実行される。
【0018】
上述の準静的構造解析において、応力テンソル{σ}と歪みテンソル{ε}との関係は、{σ}={D}{ε}という式で表される。ここで、{・}はテンソルを表す。{D}は、歪みと応力の関係を表したテンソルである。
【0019】
ここで、上述の式の成分表示は、式(1)のように表される。
【数1】
【0020】
式(1)において、{D}は81個の成分で表される。{σ}及び{ε}はそれぞれ、9個の成分で表される。ここで、物理量としてのテンソルは、対称テンソルとなる。対称成分を考慮することによって、{σ}及び{ε}の独立成分の数は、それぞれ6個となる。その結果、行列を表す記号[・]を用いて、テンソルの関係式を[σ]=[D][ε]のように行列で表し、さらに成分表示すると、式(2)のように表される。ここで[D]は弾性マトリックスとも称される。
【数2】
【0021】
また、垂直応力σiと垂直歪みεiとの関係、及び、剪断歪みτijとせん断歪みγijとの関係が弾性マトリックス[D]を使用して表される。
【0022】
ここで、弾性マトリックス[D]として、構造解析の対象となる電磁部品を構成する電磁鋼板等の部材自体の弾性係数がそのまま適用され得る。しかし、弾性マトリックス[D]として部材自体の弾性係数が適用される場合において、構造解析の対象となる電磁部品の機械振動の計算結果と、実際に機械振動を測定した結果との間の差が大きくなることが知られている。計算結果と測定結果との差が大きいことによって、構造解析プログラムによる構造解析の結果を、鋼板を積層して構成される積層構造体である電磁部品の設計に反映することは、困難とされてきた。
【0023】
また、配電用変圧器等の変圧器に用いられる鉄心も、鋼板を積層して構成される積層構造体である。したがって、構造解析プログラムによる構造解析の結果に基づいて騒音を予測しても、予測精度が低かった。騒音の予測精度が低いことによって、実際に製造した変圧器の騒音が大きくなることがあった。変圧器の騒音が大きい場合、防音壁のような防音対策に余分なコストがかかる等の問題が生じる。変圧器の騒音を小さくして余分なコストの発生を抑制するために、変圧器の鉄心の設計を変更することが考えられる。しかし、機械振動の計算結果と測定結果との差が大きい場合、どのように設計変更を行えば騒音を低減することができるのか明確でない。変圧器の設計変更の方針を定めるために、構造解析プログラムによる構造解析を用いた騒音の予測精度を向上することが求められる。
【0024】
構造解析の対象となる変圧器の鉄心の機械振動計算結果と実際に機械振動を測定した結果とを比較した場合に、計算値と実測値との間に大きな乖離を生じる原因として以下のことが考えられる。変圧器の鉄心が鋼板を積層して構成される積層構造体である場合、積層構造体の弾性マトリックス[D]は変圧器の積層鉄心を構成する電磁鋼板等の部品自体の弾性マトリックス[D]とは本来異なる値である。それにもかかわらず、電磁鋼板等の部品自体の弾性マトリックス[D]の値をそのまま代用して構造解析を実施していることによって、計算値と実測値との間に大きな乖離が生じていると考えられる。
【0025】
したがって、計算結果と測定結果との差を低減できるように、積層構造体の弾性マトリックス[D]を高精度で決定することが求められる。特に、応力と歪みとの関係を行列表示で表した構成式を使用して鋼板を積層した積層鉄心の振動解析を行う場合、構成式中の弾性マトリックス[D]に含まれる変圧器の積層鉄心の積層方向を含む二面における横弾性係数を高精度で決定することが求められる。
【0026】
本開示は、応力と歪みとの関係を行列表示で表した構成式中の弾性マトリックスに含まれる変圧器の積層鉄心の積層方向を含む二面における横弾性係数を高精度で決定できる変圧器の積層鉄心の弾性マトリックス決定方法を提供することを目的としている。また、本開示は、決定した弾性マトリックスを含む構成式を使用して鋼板を積層した積層鉄心の振動を解析することによって振動の解析結果の精度を向上できる振動解析方法を提供することを目的としている。
【0027】
以下、本開示に係る積層鉄心の弾性マトリックス決定方法及び積層鉄心の振動解析方法の実施形態が図面に基づいて説明される。各図面は模式的なものであって、現実のものとは異なる場合がある。また、以下の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置又は方法を例示するものであり、構成を下記のものに特定するものでない。すなわち、本開示の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0028】
(実施形態)
本実施形態で解析対象とする積層鉄心21は、例えば配電用変圧器として使用する三相三脚変圧器用の積層鉄心であるとする。
図1に示すように、積層鉄心21は、上ヨーク22aと下ヨーク22bとの間に3本の脚部22cを連結した方向性電磁鋼板22であって所定の厚みを有する複数の方向性電磁鋼板22を積層して構成されてよい。一例として、方向性電磁鋼板22の板厚は0.23mmである。一例として、方向性電磁鋼板22の積層枚数は333枚である。積層した方向性電磁鋼板22は、ガラステープを巻き付けることによって固定されている。一例として、上ヨーク22a及び下ヨーク22bの寸法は、幅100mm×長さ500mmに設定されている。一例として、3本の脚部22cの寸法は、幅100mm×長さ300mmに設定されている。3本の脚部22cは、上ヨーク22a及び下ヨーク22bの間に100mm間隔で連結されている。本実施形態で解析対象とする積層鉄心21は、
図1に例示した三相三脚変圧器用の積層鉄心に限られない。方向性電磁鋼板22の板厚、方向性電磁鋼板22の積層枚数、上ヨーク22a及び下ヨーク22bの寸法、又は、3本の脚部22cの寸法等は上述した例に限られない。
【0029】
このような三相三脚変圧器の積層鉄心21の振動の数値解析を行うために、弾性構造解析の支配方程式として、応力と歪みとの関係を示した構成式が使用される。構成式は、積層物を等価均質体に置き換え、かつ、積層の影響をマトリックス物性で表現することによって、下記の式(3)のように表される。
[σ]=[C][ε] ・・・(3)
[σ]は、応力マトリックスである。[C]は、応答関数としての弾性マトリックス(ステフィネスマトリックス)である。[C]は、上述した[D]と同一のものであるとする。[ε]は、歪みマトリックスである。
【0030】
図1に示されるように、積層鉄心21の各方向は、XYZ直交座標系のX軸、Y軸及びZ軸で表されるとする。方向性電磁鋼板22は、XY平面に沿って広がっており、Z軸方向に沿って積層しているとする。
【0031】
積層鉄心21に作用する応力は、積層鉄心21に対して垂直方向(圧縮方向又は引っ張り方向)に作用する垂直成分と、積層鉄心21のせん断方向に作用するせん断成分とを含む。
図2(A)、(B)及び(C)それぞれに、Z軸方向、X軸方向及びY軸方向に作用する垂直応力が例示されている。Z軸方向、X軸方向及びY軸方向に作用する垂直応力はそれぞれ、σz、σx及びσyで表される。
図2(D)、(E)及び(F)それぞれに、ZX平面、XY平面及びYZ平面で作用するせん断応力が例示されている。ZX平面、XY平面及びYZ平面で作用するせん断応力はそれぞれ、τzx、τxy及びτyzで表される。応力マトリックス[σ]は、垂直応力及びせん断応力を成分として有する。
【0032】
積層鉄心21の歪みは、積層鉄心21を垂直方向(圧縮方向又は引っ張り方向)に歪ませる成分と、積層鉄心21をせん断方向に歪ませる成分とを含む。Z軸方向、X軸方向及びY軸方向それぞれの垂直歪みは、εz、εx及びεyで表される。ZX平面、XY平面及びYZ平面のせん断歪みはそれぞれ、γzx、γxy及びγyzで表される。
【0033】
また、弾性マトリックス[C]は、応力の6成分と歪みの6成分との関係を特定する6×6=36個の要素を有する。36個の要素は、弾性係数Cij(i=1~6,j=1~6)で表される。応力と歪みとの関係は、弾性マトリックスによって以下の式(4)のように表される。
【数3】
【0034】
積層鉄心21は、方向性電磁鋼板22を積層して構成されるので、積層鉄心21の機械的対称性を有するとともに、積層する方向性電磁鋼板22の長手方向とその直交方向にも180度対称性を有する。したがって、積層鉄心21は、異方性分類として直交異方性を有するといえる。直交異方性を有する物体の弾性マトリックスは、基本的に、下記の式(5)のようにC11、C12、C13、C22、C23、C33、C44、C55及びC66の計9個の弾性係数で表される。
【数4】
【0035】
これら9個の弾性係数のうち、弾性係数C11、C12、C13、C22、C23及びC33は、縦弾性係数Ex、Ey及びEzと、ポアソン比νxy、νyx、νyz、νzy、νzx及びνxzとに基づいて、以下の式(6)から式(12)までの各式で算出される。
【数5】
【0036】
また、以下の式(13)、式(14)及び式(15)として示されるように、弾性係数C44は、YZ平面の横弾性係数Gyzに対応する。弾性係数C55は、ZX平面の横弾性係数Gzxに対応する。弾性係数C66は、XY平面の横弾性係数Gxyに対応する。
【数6】
【0037】
ここで、Ex、Ey及びEzはそれぞれ、X方向縦弾性係数(ヤング率)、Y方向縦弾性係数(ヤング率)及びZ方向縦弾性係数(ヤング率)を表す。νxy、νyx、νyz、νzy、νzx及びνxzはそれぞれ、XY平面のポアソン比(X方向縦歪とY方向横歪の比)、YX平面のポアソン比、YZ平面のポアソン比、ZY平面のポアソン比、ZX平面のポアソン比及びXZ平面のポアソン比を表す。縦弾性係数とポアソン比との間に、相反定理と称される下記の式(16)で表される関係が成り立つ。
【数7】
【0038】
相反定理によって、YX平面のポアソン比νyxは、ExとEyとνxyとを使って表される。ZY平面のポアソン比νzyは、EzとEyとνyzとを使って表される。XZ平面のポアソン比νxzは、EzとExとνzxとを使って表される。
【0039】
このように、直交異方性を有する物体の弾性マトリックスを表す計9個の弾性係数C11、C12、C13、C22、C23、C33、C44、C55及びC66の値は、縦弾性係数Ex、Ey及びEz、横弾性係数Gyz、Gzx及びGxy、並びに、ポアソン比νxy、νyz及びνzxの計9個の機械的物性値を使って表される。したがって、これら9個の機械的物性値を決定することは、弾性マトリックスを表す9個の弾性係数を決定することと等価になる。以下、縦弾性係数、横弾性係数及びポアソン比の決定方法が説明される。
【0040】
まず、直交異方性を有する積層鉄心の縦弾性係数について、縦弾性係数Ex及びEyは、1枚の鋼板の縦弾性係数Ex0及びEy0と等しい値に設定できる。一方で、縦弾性係数Ezは、1枚の鋼板の縦弾性係数Ez0と等しい値に設定できない。なぜならば、積層した鋼板の間にわずかながら隙間があるからである。そこで、本実施形態において、積層鋼板の積層方向への荷重と変位との関係を求める実験を行い、実験結果に基づいて縦弾性係数Ezが設定されるとする。本実施形態において、実験結果に基づいてEz=10GPaに設定されるとする。なお、積層方向の縦弾性係数の値の大小が振動計算結果に及ぼす影響は小さい。したがって、Ezが1枚の鋼板の縦弾性係数Ez0と等しい値に設定されたとしても、振動計算結果に生じる誤差は大きくならない。
【0041】
また、直交異方性を有する積層鉄心のポアソン比について、XY平面のポアソン比νxyは、1枚の鋼板のポアソン比νxy0と等しい値に設定できる。一方で、YZ平面のポアソン比νyz及びZX平面のポアソン比νzxは、1枚の鋼板のポアソン比νyz0及びνzx0をそのまま設定できない。なぜならば、積層鉄心において、積層方向の歪と積層方向と垂直方向の歪との力学的な結合が極めて弱いと考えられるためである。ここで、νyz及びνzxを実測することは極めて困難である。しかし、上記の考えからすると、νyz及びνzxは、極めて小さな値となることが予想される。したがって、本実施形態において、νyz及びνzxは両方ともゼロであるとする。
【0042】
さらに、積層鉄心の横弾性係数について、XY平面の横弾性係数Gxyは、1枚の鋼板の横弾性係数Gxy0と等しい値に設定できる。一方で、積層方向を含む二面の横弾性係数、即ちZX平面の横弾性係数Gzx及びYZ平面の横弾性係数Gyzは、1枚の鋼板の横弾性係数Gxz0及びGyz0をそのまま設定できない。なぜならば、積層鋼板において積層された各鋼板の境界面で積層方向と直交するX方向及びY方向に生じる鋼板間の滑りの影響を横弾性係数Gzx及びGyzに反映させる必要があるからである。したがって、積層鉄心の応力と歪みとの関係を行列表示で表した構成式を使用する振動解析の解析精度を向上するために、構成式中の弾性マトリックスに含まれる変圧器の積層鉄心の積層方向を含む二面における横弾性係数、即ちZX平面の横弾性係数Gzx及びYZ平面の横弾性係数Gyzを高精度に決定することが重要事項として求められる。
【0043】
ここで、ZX平面の横弾性係数Gzx及びYZ平面の横弾性係数Gyzを鋼板間の滑りの影響を反映した値として決定する方法として、実際に三相三脚変圧器用の積層鉄心を製作して、正確な横弾性係数Gzx及びGyzを測定することが考えられる。しかし、積層鉄心の横弾性係数を測定する方法は確立されていない。なぜならば、金属材料の場合において超音波を使った測定によって横弾性係数を含む機械定数を測定できるのに対して、積層鉄心の場合において鋼板間の滑りが振動を大きく減衰させることによって、正確な測定が難しくなると思われるからである。
【0044】
他に、積層鉄心の積層方向を含む二面における横弾性係数を求めるための方法の1つとして、積層鉄心の固有振動数を測定してその値から当該横弾性係数を推定する方法が考えられる。しかし、変圧器の積層鉄心の固有振動数を測定することは、振動減衰が大きいことによってやはり難しい場合がある。特に鉄心が大型である場合において、とりわけ固有振動数を測定することが困難である。
【0045】
そこで、本実施形態に係る弾性マトリックス決定方法において、
図3に示す手順を実行することによって、積層方向を含む二面における横弾性係数Gzx及びGyzが決定される。本実施形態において、
図1に一例として示した三相三脚変圧器用の積層鉄心21が解析対象とされる。本実施形態において、積層鉄心21を構成する上ヨーク22aの横弾性係数と下ヨーク22bの横弾性係数とは、同一の値である。そして、積層鉄心21を構成する上ヨーク22a及び下ヨーク22bの横弾性係数と、脚部22cの横弾性係数とが異なる。つまり、構成式中の弾性マトリックスに含まれる変圧器の積層鉄心21の積層方向を含む二面における横弾性係数Gyz及びGzxは、積層鉄心21を構成する上ヨーク22a及び下ヨーク22bと、脚部22cとで異なる。そこで、本実施形態に係る弾性マトリックス決定方法において、複数の異なる積層方向を含む二面における横弾性係数Gyz及びGzxが決定される。本実施形態に係る弾性マトリックス決定方法を実行することによって、上ヨーク22a及び下ヨーク22bの横弾性係数Gyz及びGzxと、脚部22cの横弾性係数Gyz及びGzxとがそれぞれ決定される。
【0046】
上ヨーク22a及び下ヨーク22bは、第1部分とも総称される。脚部22cは、第2部分とも称される。つまり、積層鉄心21は、第1部分と第2部分とを備える。第1部分の横弾性係数Gyz及びGzxと、第2部分の横弾性係数Gyz及びGzxとは、互いに異なる。本実施形態に係る弾性マトリックス決定方法を実行することによって、互いに異なる、第1部分の横弾性係数Gyz及びGzxと、第2部分の横弾性係数Gyz及びGzxとが決定される。
【0047】
本実施形態に係る弾性マトリックス決定方法の各手順は、
図4に例示される振動解析装置40によって実行されてよい。振動解析装置40は、制御部42と、記憶部44と、インタフェース46とを備える。
【0048】
制御部42は、振動解析装置40を構成する各機能部及び振動解析装置40の全体を制御及び管理する。制御部42は、種々の機能を制御及び管理するために、例えばCPU(Central Processing Unit)等の少なくとも1つのプロセッサを含んで構成されてよい。制御部42は、1つのプロセッサで構成されてよいし、複数のプロセッサで構成されてよい。制御部42を構成するプロセッサは、記憶部44に格納されたプログラムを読み込んで実行することによって、振動解析装置40の機能を実現してよい。
【0049】
記憶部44は、各種の情報を記憶するメモリとしての機能を有してよい。記憶部44は、例えば制御部42において実行されるプログラム、又は、制御部42において実行される処理で用いられるデータ若しくは処理の結果等を記憶してよい。また、記憶部44は、制御部42のワークメモリとして機能してよい。記憶部44は、例えば半導体メモリ等により構成することができるが、これに限定されず、任意の記憶装置を含んで構成されてよい。例えば、記憶部44は、制御部42として用いられるプロセッサの内部メモリとして構成されてもよいし、制御部42からアクセス可能なハードディスクドライブ(HDD)として構成されてもよい。
【0050】
インタフェース46は、有線又は無線によって他の装置と通信するための通信インタフェースを含んで構成されてよい。インタフェース46は、他の装置との間でデータを入出力する入出力ポートを含んで構成されてよい。インタフェース46は、プロセスコンピュータ又は上位システムに対して、必要なデータ及び信号を送受信する。インタフェース46は、有線通信規格に基づいて通信してよいし、無線通信規格に基づいて通信してもよい。例えば無線通信規格は3G、4G及び5G等のセルラーフォンの通信規格を含んでよい。また、例えば無線通信規格は、IEEE802.11及びBluetooth(登録商標)等を含んでよい。インタフェース46は、これらの通信規格の1つ又は複数をサポートしてよい。インタフェース46は、これらの例に限られず、種々の規格に基づいて他の装置と通信したりデータを入出力したりしてよい。
【0051】
以下、本実施形態に係る弾性マトリックス決定方法の各手順が振動解析装置40の制御部42によって実行されるとして説明する。弾性マトリックス決定方法の各手順は、他の装置で実行されてもよいし、人間によって実行されてもよい。
【0052】
まず、
図3のステップS1(第1ステップ)において、制御部42は、
図1に示す振動解析の対象となる変圧器の積層鉄心21の励磁騒音を測定して求められた騒音の周波数スペクトルの測定結果を取得する。具体的には、積層鉄心21に励磁周波数を50Hzに設定して励磁騒音が測定される。変圧器の励磁騒音の周波数スペクトルは、励磁周波数の2倍の整数倍(励磁周波数の偶数倍)の周波数成分で構成されるので、騒音の周波数スペクトルとして100Hzから1000Hzまでの範囲内の100Hzピッチの各周波数での励磁騒音のスペクトルが取得される。変圧器の製造の現場において、変圧器の励磁騒音特性は出荷製品の品質管理項目として広く実測されている。したがって、その測定に特段の困難はない。励磁周波数は、60Hzに設定されてよい。励磁周波数が60Hzに設定される場合、周波数120Hzから1200Hzまで120Hzピッチでの励磁騒音のスペクトルが取得される。
【0053】
以下、励磁周波数が50Hzに設定された場合について説明される。励磁周波数が50Hzに設定された場合に取得された騒音の周波数スペクトルの一例が
図5にグラフとして示される。
図5のグラフにおいて、横軸は、周波数を表す。縦軸は、励磁騒音の大きさを表す。
【0054】
次いで、
図3のステップS2(第2ステップ)において、制御部42は、
図1に示す振動解析の対象となる変圧器の積層鉄心21を構成する方向性電磁鋼板22と同じ電磁鋼板の励磁磁歪の周波数スペクトルデータを取得する。励磁磁歪の周波数スペクトルデータは、100Hzから1000Hzまでの範囲内の100Hzピッチの各周波数での励磁磁歪振幅のスペクトルデータを取得する。励磁磁歪の周波数スペクトルデータは、電磁鋼板の励磁磁歪を測定すること、又は、電磁鋼板の製造メーカから入手すること等によって取得され得る。取得された励磁磁歪の周波数スペクトルデータの一例が
図6にグラフとして示される。
図6のグラフにおいて、横軸は、周波数を表す。縦軸は、磁歪振幅の大きさを表す。各周波数における磁歪振幅の大きさは、周波数が100Hzである場合における磁歪振幅の値で除算することによって規格化された値をdB表示で表されるとする。dB表示は、表示する値の常用対数を取って10倍した値に対応する。
【0055】
次に、ステップS3(第3ステップ)において、制御部42は、横弾性係数Gyz及びGzxを仮定し、仮定した横弾性係数に対する振動応答関数の周波数スペクトルを算出する。具体的に、制御部42は、構造解析ソフトを用いて振動解析の対象となる変圧器の積層鉄心21について振動応答解析を実施する。積層鉄心21の縦弾性係数Ex、Ey及びEz、横弾性係数Gyz、Gzx及びGxy、並びに、ポアソン比νxy、νyz及びνzxの計9個の機械的物性値のうち、横弾性係数Gyz及びGzxを除く7個は、上述したように以下のように設定される。
Ex=Ex0、Ey=Ey0、Ez=10GPa
Gxy=Gxy0
νxy=νxy0、νyz=νzx=0
【0056】
2つの積層方向を含む二面における横弾性係数Gyz及びGzxは、積層鉄心21を構成する複数(2個)の部位ごとに異なっている。具体的に、上ヨーク22a及び下ヨーク22bにおける横弾性係数Gyz及びGzxと、脚部22cにおける横弾性係数Gyz及びGzxとが異なっている。ここで、上ヨーク22a及び下ヨーク22bにおける横弾性係数について、仮にGyz=Gzx=G1に設定されるとする。脚部22cにおける横弾性係数について、仮にGyz=Gzx=G2に設定されるとする。G1及びG2のそれぞれは、横弾性係数として所定範囲から仮に選択して設定された値であり、横弾性係数の仮定値とも称される。G1は、第1部分における横弾性係数Gyz及びGzxに対応し、第1仮定値とも称される。G2は、第2部分における横弾性係数Gyz及びGzxに対応し、第2仮定値とも称される。制御部42は、仮定値(G1,G2)の組み合わせを変更し、各組み合わせに対する変圧器の積層鉄心21の振動応答関数の周波数スペクトルを算出する。
【0057】
特定の値(G1,G2)の組み合わせに対した算出した、変圧器の積層鉄心21の振動応答関数の周波数スペクトルの一例が
図7にグラフとして示される。
図7のグラフにおいて、横軸は、周波数を表す。縦軸は、応答関数の大きさを表す。応答関数の大きさは、周波数が100Hzである場合の振動応答値が0dBになるように規格化して表示されている。ここで、仮定値(G1,G2)のそれぞれは、実際に、変圧器の積層鉄心21の構造から予想される横弾性係数の範囲から選定される。本実施形態において、G1及びG2のそれぞれは、0.05GPaから0.5GPaまでの範囲から選定されるとする。
【0058】
次に、ステップS4(第4ステップ)において、制御部42は、ステップS2(第2ステップ)で取得した電磁鋼板の励磁磁歪の周波数スペクトルデータと、ステップS3(第3ステップ)で算出した変圧器の積層鉄心21の振動応答関数の周波数スペクトルとに基づいて、変圧器の積層鉄心21の励磁振動の周波数スペクトルを算出する。具体的に、制御部42は、変圧器の積層鉄心21の励磁振動の周波数スペクトルを、電磁鋼板の励磁磁歪の周波数スペクトルデータと、変圧器の積層鉄心21の振動応答関数の周波数スペクトルとの積として算出する。制御部42は、周波数スペクトルをdB表示している場合、変圧器の積層鉄心21の励磁振動の周波数スペクトルを、和として算出する。
【0059】
このように算出された変圧器の積層鉄心21の励磁振動の周波数スペクトルの一例が
図8にグラフとして示される。
図8のグラフにおいて、横軸は、周波数を表す。縦軸は、励磁振動の大きさの計算値を表す。励磁振動の大きさの表示は、dB表示である。
【0060】
次に、ステップS5(第5ステップ)において、制御部42は、ステップS1(第1ステップ)で取得した変圧器の積層鉄心21の騒音の周波数スペクトルの測定結果と、ステップS4(第4ステップ)で算出した変圧器の積層鉄心21の励磁振動の周波数スペクトルの算出結果との一致度を算出する。
【0061】
騒音の周波数スペクトルデータは、周波数100Hzから1000Hzまで100Hzピッチの各周波数について測定される。したがって、騒音の周波数スペクトルデータの数は、10個である。そこで、騒音の周波数スペクトルデータの各周波数成分が(S100,S200,S300,・・・,S1000)と表記されるとする。また、励磁振動の周波数スペクトルデータは、周波数100Hzから1000Hzまで100Hzピッチの各周波数について算出される。したがって、励磁振動の周波数スペクトルデータの数は、10個である。そこで、励磁振動の周波数スペクトルデータの各周波数成分が(V100,V200,V300,・・・,V1000)と表記されるとする。以下、これらの表記に基づいて、一致度の算出方法が説明される。
【0062】
騒音の周波数スペクトルデータの各周波数成分を表す(S100,S200,S300,・・・,S1000)と励磁振動の周波数スペクトルデータの各周波数成分を表す(V100,V200,V300,・・・,V1000)とはそれぞれ、多次元空間におけるデータ点とみなされる。この場合、これらのデータ点は、10次元空間におけるデータ点とみなされる。
【0063】
ここで、制御部42は、一般的に、騒音の周波数スペクトルデータと励磁振動の周波数スペクトルデータとの一致度を、多次元空間におけるデータ点のユークリッド距離として算出できる。しかし、一致度がユークリッド距離として算出される場合、データにオフセットがあることによって、一致度の算出精度が低下することが知られている。励磁騒音及び励磁振動の周波数スペクトルデータがdB値で表される場合、基準値をどこにとるかの自由度がデータにオフセットを生じさせ、一致度の算出精度を悪化させる懸念がある。
【0064】
そこで、データのオフセットによって算出精度が悪化する懸念を回避できるように、本実施形態において、制御部42は、一致度としてコサイン一致度を算出する。コサイン一致度は、(S100,S200,S300,・・・,S1000)及び(V100,V200,V300,・・・,V1000)をそれぞれ要素として有する多次元ベクトルS及びV(この場合10次元空間ベクトル)とみなした場合に、両ベクトルのなす角度のコサイン値として算出される。多次元ベクトルSは、第1ベクトルとも称される。多次元ベクトルVは、第2ベクトルとも称される。コサイン一致度は、下記の式(17)によって算出される。式(17)において、COSθは、コサイン一致度を表す。記号「S」及び「V」の上に「→」を付した記号は、多次元ベクトルS及びVを表す。
【数8】
【0065】
コサイン一致度は、多次元ベクトルS及びVの内積を、多次元ベクトルSの長さと多次元ベクトルVの長さとの積で割った値として算出される。仮に多次元ベクトルSと多次元ベクトルVとが一致する場合、コサイン一致度は1として算出される。仮に多次元ベクトルSと多次元ベクトルVとが直交する場合、コサイン一致度は0として算出される。仮に多次元ベクトルSと多次元ベクトルVとが逆方向を向いている場合、コサイン一致度は-1として算出される。
【0066】
次に、ステップS6(第6ステップ)において、制御部42は、ステップS3からS5までの手順で仮定値を変更して所定範囲における一致度のマッピングが終了したか判定する。具体的に、制御部42は、ステップS3からS5までの手順を、仮定値(G1,G2)の組み合わせを変更しながら繰り返し実行し、仮定値(G1,G2)の各組み合わせにおける一致度を算出する。制御部42は、仮定値の各組み合わせについて算出した一致度を2次元マップにマッピングする。具体的に、変圧器の積層鉄心21の励磁振動の周波数スペクトルと励磁騒音の周波数スペクトルの一致度の算出結果の一例が
図9に2次元マップとして示される。
図9の2次元マップにおいて、縦軸及び横軸はそれぞれG1及びG2を表す。
図9において、一致度が等しいことを表す等値線が記載されている。
図9において、閉曲線となっている等値線のうち径が小さい閉曲線は、一致度が高い等値線に対応する。一致度が極大値になるG1及びG2の組み合わせは、閉曲線の中央付近に対応する。制御部42は、仮定値の各組み合わせにおける一致度を2次元マップにマッピングし、所定範囲が埋まった場合にマッピングが終了したと判定してよい。また、制御部42は、一致度をマッピングした2次元マップにおいて極大値の存在を検出できた場合にマッピングが終了したと判定してもよい。
【0067】
制御部42は、マッピングが終了したと判定しない場合(ステップS6:NO)、ステップS3の手順に戻り、マッピングが終了したと判定できるまでステップS3からS6までの手順を繰り返す。制御部42は、マッピングが終了したと判定した場合(ステップS6:YES)、ステップS7の手順に進む。
【0068】
ステップS7(第7ステップ)において、制御部42は、2次元マップから一致度が極大値となる点を検出する。そして、制御部42は、一致度が極大値となる場合の仮定値(G1,G2)の組み合わせを、積層鉄心21を構成する複数(2個)の部位のそれぞれの積層方向を含む二面における横弾性係数Gzx及びGyzとして採用する。具体的に、制御部42は、G1を上ヨーク22a及び下ヨーク22bの横弾性係数Gzx及びGyzとして採用する。つまり、制御部42は、上ヨーク22a及び下ヨーク22bについて、Gzx=Gyz=G1とする。また、制御部42は、G2を脚部22cの横弾性係数Gzx及びGyzとして採用する。つまり、制御部42は、脚部22cについて、Gzx=Gyz=G2とする。制御部42は、ステップS7の手順の実行後、
図3のフローチャートの手順の実行を終了する。
【0069】
本実施形態において、制御部42は、ステップS3からS6までの手順を繰り返し実行する間、一致度のマッピングを終了させ、一致度の極大値を検出できるように、G1及びG2の2個のパラメータを変更する。つまり、制御部42は、数値的探索を2次元的に行う必要がある。2次元的な探索によって、探索点数が非常に多くなる。また、2次元的な探索は、多大な計算負荷を要する。そこで、本実施形態において、人工知能(AI)技術を活用して、遺伝的アルゴリズム(GA)を用いた最適化探索法が用いられる。具体的に、最適化探索法における評価関数として、ステップS1で取得した変圧器の積層鉄心21の騒音の周波数スペクトルと、ステップS4で算出した変圧器の積層鉄心21の励磁振動の周波数スペクトルとの一致度が採用される。使用するGA最適化探索ツールとして市販の探索ソフトが用いられてよい。また、発明者らが行ったように自分で作成したGA最適化探索ツールが用いられてもよい。
【0070】
なお、本実施形態において、積層鉄心の横弾性係数GyzとGzxとが等しいとみなして横弾性係数を算出する場合が例示されている。Gyzの値とGzxの値とが互いに異なることもあり得る。しかし、発明者らは、方向性電磁鋼板の積層鉄心においてGyzの値とGzxの値とを等しいとみなしてよいことを、
図1に例示した積層鉄心だけでなく種々の寸法を有する積層鉄心について確認した。したがって、本実施形態において横弾性係数Gyzの値とGzxの値とが互いに等しいとみなした。
【0071】
以上述べてきた変圧器の積層鉄心21の弾性マトリックスの決定方法の第6ステップにおいて算出された、変圧器の積層鉄心21の励磁振動の周波数スペクトルと励磁騒音の周波数スペクトルの一致度の一例を示す
図9の2次元マップにおいて、極大値を示すときの(G1,G2)の値が変圧器の積層方向を含む二面における横弾性係数Gyz及びGzxとして採用されてよい。
図9の2次元マップに基づいて採用されたGyz及びGzxを構成式に組み込んで第7ステップの振動解析を実行することによって、振動解析精度が向上することが確認されている。したがって、上述してきた第1ステップから第7ステップまでの手順を実行して変圧器の積層鉄心21の弾性マトリックスを決定することによって、変圧器の振動解析精度が向上する。
【0072】
ここで、励磁振動の周波数スペクトルと励磁騒音の周波数スペクトルの一致度を表す
図9の2次元マップを得るために実行される、GA最適化探索ツールを用いた探索は、
図10のグラフに示される軌跡で実行される。
図10の縦軸及び横軸はG1及びG2に対応する。
図10のグラフにプロットされている1つの丸印が1つの探索点に対応する。
図10にプロットされている探索点の数は約800点である。
【0073】
第6ステップにおいて、各探索点における一致度の算出が繰り返される。各探索点における一致度は、第3ステップから第5ステップまでの手順を実行することによって算出される。一致度を算出する手順のうち第3ステップとして実行される振動応答解析は、例えば構造解析ソフトを用いて実行される。構造解析ソフトを用いた振動応答解析を実施する所要時間は、使用するコンピュータの性能に依存するが、一般的に数値計算に使用される高性能のコンピュータを用いた場合でも、1探索点あたり概ね2時間程度必要である。
図9の2次元マップとして示されるように、励磁振動の周波数スペクトルと励磁騒音の周波数スペクトルの一致度の極大点が確定できる程度のデータ密度の2次元マップを得るために、少なくとも800点程度の探索点が必要とされる。したがって、
図9の結果を得るために必要な振動応答解析の時間は、2時間×800(点)=1600時間=約67日である。すなわち、単にGA最適化探索ツールを用いた探索を実行する場合、
図9の結果を得るために、2カ月以上の時間が必要になる。
【0074】
そこで、発明者は、上述した第6ステップにおいて一致度の2次元マップを算出するために必要な時間を短縮する方策を検討した。その結果、本開示に係る弾性マトリックス決定方法の第6ステップが下記の手順を含むことによって、一致度の2次元マップを算出するために必要な時間が短縮されることがわかった。
【0075】
具体的に、振動解析装置40の制御部42は、第6ステップとして、一致度を算出する対象とする第1仮定値G1及び第2仮定値G2の各組み合わせを、探索を試行する試行点として表したときに、第1仮定値G1を第1軸とし、第2仮定値G2を第2軸とする2次元空間上に分散させた点を試行点として順次選択し、選択した試行点に対して第3ステップから第5ステップまでの処理を行って一致度の算出を繰り返す第6-Aステップを実行する。
【0076】
制御部42は、第6-Aステップで算出した一致度に基づいて、2次元空間上に分散させた試行点が存在する領域内部にさらに緻密に探索を行う対象とする限定小領域を設定する第6-Bステップを実行する。
【0077】
制御部42は、第6-Bステップで設定された限定小領域の中で試行点の間に探索点を設定して探索を実行し、各探索点において第3ステップから第5ステップまでの処理を行って一致度の算出を繰り返し、限定小領域の中で一致度が極大値となる(G1,G2)の組み合わせを算出する第6-Cステップを実行する。
【0078】
第6-Cステップにおいて限定小領域の中に探索点を設定して探索を実行する方法として、AI(人工知能)技術を活用して、GA(遺伝的アルゴリズム)を用いた最適化探索法を用いて、第1ステップで取得した変圧器の積層鉄心21の騒音の周波数スペクトルと、第4ステップで算出した変圧器の積層鉄心21の励磁振動の周波数スペクトルとの一致度を評価関数とした探索法が用いられてよい。
【0079】
以上述べてきたように、限定小領域の中に探索点が設定されることによって、一致度が極大値となる(G1,G2)の組み合わせを算出するために必要な試行点及び探索点の総数が大幅に減少する。その結果、一致度の2次元マップを算出して一致度が極大値となるときの(G1,G2)の組み合わせを算出するために必要な時間を大幅に短縮する高速化が達成される。
【0080】
最終的に、一致度が極大値になるときの(G1,G2)の値が変圧器の積層方向を含む二面における横弾性係数Gyz及びGzxとして構成式に組み込まれて第7ステップの振動解析が実行されることによって、振動解析精度の向上に加えて、所要時間を大幅に短縮する高速化が実現される。
【0081】
以上述べてきたように、本実施形態に係る変圧器の積層鉄心21の弾性マトリックス決定方法によれば、応力と歪みとの関係を行列表示で表した構成式を使用して鋼板を積層した積層鉄心21の振動解析を行うに際し、構成式中の弾性マトリックスに含まれる変圧器の積層鉄心21の複数(2個)の異なる積層方向を含む二面における横弾性係数Gyz及びGzxが最適に決定される。その結果、振動特性の実測値と計算値との乖離が抑制される。
【0082】
(実施例)
以下、本実施形態に係る変圧器の積層鉄心の弾性マトリックス決定方法及び振動解析方法を実施することによる効果の検証が実施例として説明される。
【0083】
まず、板厚0.23mmの方向性電磁鋼板が準備された。次いで、用意した方向性電磁鋼板を積層することによって、
図1に例示するように、振動解析の対象となる三相三脚変圧器用の積層鉄心21が作成された。積層鉄心21の鋼板積層厚は100mmにされた。また、上ヨーク22a及び下ヨーク22bの寸法は、幅100mm×長さ500mmにされた。また、3本の脚部22cの寸法は、幅を100mmかつ鉄心窓長を300mmにされた。脚部22cは、上ヨーク22aと下ヨーク22bとの間に100mmの間隔を空けて連結された。そして、作成した積層鉄心21の3本の脚部22cにそれぞれIV電線を巻いて励磁用コイルが形成された。
【0084】
そのコイルに50Hzの3相電流を通電して鉄心磁束密度がちょうど1.7Tとなるように電源電圧が調整された。この状態で、
図3のステップS1の手順と同様に、騒音計を用いて励磁騒音を測定することによって、騒音の周波数スペクトルが取得された。
図11に騒音の周波数スペクトルの測定結果の一例が示される。
図11のグラフの縦軸及び横軸の説明は、
図5のグラフと同様である。
【0085】
次に、磁歪測定装置を用いて用意した方向性電磁鋼板の、励磁周波数が50Hzかつ磁束密度が1.5T、1.6T及び1.7Tのそれぞれで励磁した場合における励磁磁歪を測定することによって、磁歪の周波数スペクトルが取得された。
図12に磁歪の周波数スペクトルの測定結果の一例が示される。
図12のグラフにおいて横軸は周波数を表す。縦軸は磁歪の大きさを表す。
【0086】
次に、構造解析ソフトを用いて振動解析の対象となる変圧器の積層鉄心21について振動応答解析が実施された。ここで、積層鉄心21の縦弾性係数Ex、Ey及びEz、横弾性係数Gyz、Gzx及びGxy、並びに、ポアソン比νxy、νyz及びνzxの計9個の機械的物性値のうちの7個は以下のように設定された。
Ex=132GPa、Ey=220GPa、Ez=10GPa
Gxy=116GPa
νxy=0.37、νyz=νzx=0
ここで、xは、鋼板圧延方向に対応する。yは、xに直交する方向に対応する。zは、鋼板積層方向に対応する。
【0087】
そして、残る2つの積層方向を含む二面における横弾性係数Gyz及びGzxについて、積層鉄心21を構成する上ヨーク22a及び下ヨーク22bにおける横弾性係数Gyz及びGzxと、脚部22cにおける横弾性係数Gyz及びGzxとが互いに異なる。このため、積層鉄心21を構成する上ヨーク22a及び下ヨーク22bの横弾性係数Gyz=Gzx=G1と設定し、脚部22cの横弾性係数Gyz=Gzx=G2と設定し(G1及びG2のそれぞれは所定範囲から選定された仮定値)、この仮定値(G1,G2)の組み合わせに対する変圧器の積層鉄心21の振動応答関数の周波数スペクトルが算出された。ここで仮定値(G1,G2)のそれぞれが選定される所定範囲は、実際に、変圧器の積層鉄心21の構造から予想される横弾性係数の範囲であり、本実施形態において0.05GPaから0.4GPaまでの範囲である。
【0088】
例えば、積層鉄心21を構成する上ヨーク22a及び下ヨーク22bの横弾性係数Gyz=Gzx=G1=0.2GPa、かつ、脚部22cの横弾性係数Gyz=Gzx=G2=0.2GPaである場合の、積層鉄心21の振動応答関数の周波数スペクトルの算出結果が
図13に示される。
図13のグラフの縦軸及び横軸の説明は、
図7のグラフと同様である。
【0089】
次に、
図3のステップS4の手順と同様に、
図3のステップS2で取得した電磁鋼板の励磁磁歪の周波数スペクトルデータと、
図3のステップS3で算出した変圧器の積層鉄心21の振動応答関数の周波数スペクトルとに基づいて、変圧器の積層鉄心21の励磁振動の周波数スペクトルが算出された。例えば積層鉄心21を構成する上ヨーク22a及び下ヨーク22bの横弾性係数Gyz=Gzx=G1=0.2GPa、かつ、脚部22cの横弾性係数Gyz=Gzx=G2=0.2GPaである場合の、積層鉄心21の励磁振動の周波数スペクトルの算出結果が
図14に示される。
図14のグラフの縦軸及び横軸の説明は、
図8のグラフと同様である。
【0090】
次に、
図3のステップS5の手順と同様に、
図3のステップS1で取得した変圧器の積層鉄心21の騒音の周波数スペクトルと、
図3のステップS4で算出した変圧器の積層鉄心21の励磁振動の周波数スペクトルとの一致度が算出された。ここで、変圧器の積層鉄心21の騒音の周波数スペクトルと、変圧器の積層鉄心21の励磁振動の周波数スペクトルとの一致度として、コサイン一致度(Cos類似度)が算出された。
【0091】
次に、
図3のステップS6の手順と同様に、上ヨーク22a及び下ヨーク22bの横弾性係数Gyz=Gzx=G1の値、及び脚部22cの横弾性係数Gyz=Gzx=G2の値をそれぞれ前述の所定範囲内で変更して仮定値(G1,G2)の組み合わせを変更し、
図3のステップS3からS5までの手順を繰り返すことによって、励磁振動の周波数スペクトルと励磁騒音の周波数スペクトルの一致度を示す2次元マップが作成された。
図15に、本実施例で作成した2次元マップの例が示される。
図15のグラフの縦軸及び横軸はG1及びG2に対応する。
【0092】
なお、
図3のステップS6において、パラメータ(G1,G2)が2個あるので、数値的探索を2次元的に行う必要が生じる。したがって、探索点数が非常に多くなるとともに多大な労力が必要とされる。そこで、本実施例において、人工知能(AI)技術を活用して、遺伝的アルゴリズム(GA)を用いた最適化探索法を用いて、
図3のステップS1で取得した変圧器の積層鉄心21の騒音の周波数スペクトルと、
図3のステップS4で算出した変圧器の積層鉄心21の励磁振動の周波数スペクトルとの一致度を評価関数とした探索法が採用された。
【0093】
図15の2次元マップにおいて一致度が極大値を示す点は、積層鉄心21を構成する上ヨーク22a及び下ヨーク22bの横弾性係数Gyz=Gzx=G1が0.25GPa、脚部22cの横弾性係数Gyz=Gzx=G2が0.15GPaとなった。このように、一致度が極大値となるときの(G1,G2)の組み合わせが決定される。決定された特定の値の組み合わせである(G1,G2)が、それぞれ上ヨーク22a及び下ヨーク22bの横弾性係数Gzx及びGyz、並びに、脚部22cの横弾性係数Gzx及びGyzとして採用される。
【0094】
積層鉄心21を構成する上ヨーク22a及び下ヨーク22bの横弾性係数Gyz=Gzx=G1=0.25GPa、かつ、脚部22cの横弾性係数Gyz=Gzx=G2=0.15GPaである場合の(G1,G2)の組み合わせに対して計算した積層鉄心21の励磁振動の周波数スペクトルが、変圧器の積層鉄心21の励磁振動の周波数スペクトルの最終的な計算値とされた。
【0095】
実施例における、変圧器の積層鉄心の励磁振動の周波数スペクトルの計算値と、変圧器の積層鉄心の励磁騒音を測定して求められた騒音の周波数スペクトルの実測値とを比較するグラフが
図16に示される。周波数スペクトルの計算値の傾向と実測値の傾向とは非常によく一致している。したがって、実施例によって、構成式中の弾性マトリックスに含まれる変圧器の積層鉄心21の上ヨーク22a及び下ヨーク22bの積層方向を含む二面における横弾性係数Gzx及びGyzと、変圧器の積層鉄心21の脚部22cの積層方向を含む二面における横弾性係数Gzx及びGyzとが高精度で算出されていることが確認できた。
【0096】
図15に示される一致度の2次元マップを得るためにGA(遺伝的アルゴリズム)を用いた最適化探索法で探索を行った探索点の軌跡が
図17に示される。
図17に示される探索点の総数は832点である。この場合、探索完了までに期間2カ月(8週間)が必要とされた。
【0097】
そこで、探索点の総数を少なくして高速化することを検討した。はじめに、
図18Aに示されるように、2次元マップ上にG1及びG2それぞれについて0.1GPa間隔で等間隔に分散させた点が試行点として設定され、順次選択される。第6-Aステップとして、選択された試行点に対して第3ステップから第5ステップまでの処理を行って一致度の算出が繰り返された。
図18Aに示される試行点に対して第6-Aステップを実行することによって得られた一致度の2次元マップが
図18Bに示される。
図18Bの2次元マップにおいて、一致度が0.9以上となる領域に、G1が0.25GPa、G2が0.15GPaとなる正解点が含まれていない。したがって、0.1GPaを試行点の間隔に設定しても、間隔が粗すぎることが分かる。
【0098】
次に、
図19Aに示されるように、2次元マップ上にG1及びG2それぞれについて0.075GPa間隔で等間隔に分散させた点が試行点として設定され、順次選択される。第6-Aステップとして、選択された試行点に対して第3ステップから第5ステップまでの処理を行って一致度の算出が繰り返された。
図19Aに示される試行点に対して第6-Aステップを実行することによって得られた一致度の2次元マップが
図19Bに示される。
図19Bの2次元マップにおいて、一致度が0.9以上となる領域に、G1が0.25GPa、G2が0.15GPaとなる正解点が含まれていない。したがって、0.075GPaを試行点の間隔に設定しても、間隔が粗すぎることが分かる。
【0099】
次に、
図20Aに示されるように、2次元マップ上にG1及びG2それぞれについて0.05GPa間隔で等間隔に分散させた点が試行点として設定され、順次選択される。第6-Aステップとして、選択された試行点に対して第3ステップから第5ステップまでの処理を行って一致度の算出が繰り返された。
図20Aに示される試行点に対して第6-Aステップを実行することによって得られた一致度の2次元マップが
図20Bに示される。
図20Bの2次元マップにおいて、一致度が0.9以上となる領域に、G1が0.25GPa、G2が0.15GPaとなる正解点が含まれる。
【0100】
一致度が0.9以上となる領域に正解点が含まれる場合、第6-Bステップとして、
図20Bで一致度が0.9以上となっている領域が、GA(遺伝的アルゴリズム)を用いた最適化探索法で探索を行う限定小領域に指定される。第6-Cステップとして、限定小領域の中で、GA(遺伝的アルゴリズム)を用いた最適化探索法を用いて、第1ステップで取得した変圧器の積層鉄心の騒音の周波数スペクトルと、第4ステップで算出した変圧器の積層鉄心の励磁振動の周波数スペクトルとの一致度を評価関数とした探索を実施して一致度の極大点が算出される。第6-Cステップまで実行した結果、一致度が極大値となるときの(G1,G2)の値が(0.25GPa,0.15GPa)になることが確認された。
【0101】
0.05GPa間隔に等間隔に分散させて第6-Aステップで一致度を算出した試行点の数は、8×8=64点である。また、第6-Cステップにおいて限定小領域に対するGA(遺伝的アルゴリズム)を用いた最適化探索を実行したときの探索点の数は、100点であった。したがって、試行点及び探索点の総数は、合計164点であった。その結果、探索を実行するために必要な時間は、
図17に示される832点の探索点の場合に比べて約1/4の約2週間に短縮された。
【0102】
さらに、
図21Aに示されるように、2次元マップ上にG1及びG2それぞれについて0.025GPa間隔で等間隔に分散させた点が試行点として設定され、順次選択される。第6-Aステップとして、選択された試行点に対して第3ステップから第5ステップまでの処理を行って一致度の算出が繰り返された。
図21Aに示される試行点に対して第6-Aステップを実行することによって得られた一致度の2次元マップが
図21Bに示される。
図21Bの2次元マップにおいて、一致度が0.9以上となる領域に、G1が0.25GPa、G2が0.15GPaとなる正解点が含まれる。
【0103】
一致度が0.9以上となる領域に正解点が含まれる場合、第6-Bステップとして、
図21Bで一致度が0.9以上となっている領域が、GA(遺伝的アルゴリズム)を用いた最適化探索法で探索を行う限定小領域に指定される。第6-Cステップとして、限定小領域の中で、GA(遺伝的アルゴリズム)を用いた最適化探索法を用いて、第1ステップで取得した変圧器の積層鉄心の騒音の周波数スペクトルと、第4ステップで算出した変圧器の積層鉄心の励磁振動の周波数スペクトルとの一致度を評価関数とした探索を実施して一致度の極大点が算出される。第6-Cステップまで実行した結果、一致度が極大値となるときの(G1,G2)の値が(0.25GPa,0.15GPa)になることが確認された。
【0104】
0.025GPa間隔に等間隔に分散させて第6-Aステップで一致度を算出した試行点の数は、15×15=225点である。また、第6-Cステップにおいて限定小領域に対するGA(遺伝的アルゴリズム)を用いた最適化探索を実行したときの探索点の数は、50点であった。したがって、試行点及び探索点の総数は、合計275点であった。その結果、探索を実行するために必要な時間は、
図17に示される832点の探索点の場合に比べて約1/3の約3週間に短縮された。
【0105】
以上の結果から、第6ステップで各探索点の一致度を算出して一致度の2次元マップを算出するために必要な時間を大幅に短縮するために、第6ステップの工程が第6-Aステップと第6-Bステップと第6-Cステップとを含む工程に変更することが極めて有効であることが分かった。
【0106】
ただし、第6-Aステップにおいて、試行点に対応するG1及びG2の値が、実際に変圧器の積層鉄心21の構造から予想される横弾性係数の範囲である所定範囲の中で等間隔に分散させた点として設定される場合に、例えば0.075GPa以上のように粗い間隔で試行点が設定されることによって、
図18B及び
図19Bに示されるように、一致度が0.9以上となる領域に、G1が0.25GPa、G2が0.15GPaとなる正解点が含まれず、正しい結果が得られない。したがって、例えば0.05GPa以下のように細かい間隔で試行点が設定される必要がある。
【0107】
一方で、0.025GPaのように更に細かい間隔で試行点が設定されたとしても、一致度が極大値になるときの(G1,G2)の値の算出精度は高まらない。かえって第6-Aステップの所要時間が長くなることによって、第6ステップ全体の所要時間の短縮につながらない。細かすぎても算出精度が高まらない原因は、G1及びG2のそれぞれが選定される所定範囲の中でG1及びG2の正解から離れた範囲に対しても多数の試行点が設定されて無駄になるためであると考えられる。したがって、本実施例において、分割間隔を0.05GPaに設定した場合に、G1及びG2の算出精度の向上と第6ステップ全体の所要時間を短縮する高速化とを両方とも実現するために最適であった。
【0108】
本開示の実施形態について、諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は改変を行うことが可能であることに注意されたい。従って、これらの変形又は改変は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部又は各ステップなどに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部又はステップなどを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。本開示に係る実施形態は装置が備えるプロセッサにより実行されるプログラム又はプログラムを記録した記憶媒体としても実現し得るものである。本開示の範囲にはこれらも包含されるものと理解されたい。
【0109】
例えば、変圧器の積層鉄心21の騒音の周波数スペクトルと、変圧器の積層鉄心21の励磁振動の周波数スペクトルとの一致度の評価方法は、コサイン一致度の算出に限られない。オフセットを含まないようにdB表示の基準をとる等の手法によって、一致度の評価方法としてユークリッド距離が採用されることも可能である。また、その他の一致度の評価方法も本質的に励磁騒音と励磁振動の周波数スペクトルデータの一致度を定量的に示すものであれば採用されることは可能である。
【0110】
また、上記実施形態では、三相三脚変圧器についての振動解析について説明したが、これに限定されるものではなく三相五脚変圧器又は他の変圧器における積層鉄心の振動解析にも本発明を適用することができる。
【0111】
また、本実施形態に係る弾性マトリックス決定方法では、積層鉄心21を構成する複数(2個)の部位の横弾性係数が異なり、具体例として、積層鉄心21を構成する上ヨーク22a及び下ヨーク22b(第1部分)と脚部22c(第2部分)の横弾性係数が異なる場合について説明したが、積層鉄心21を構成する上ヨーク22a及び下ヨーク22bの横弾性係数と脚部22cの横弾性係数とが同一となる場合を包含していることは言うまでもない。
【0112】
また、本実施形態において、第1部分と第2部分とを備える積層鉄心21を解析対象とする構成が説明されてきた。積層鉄心21は、3つ以上の部分を備えてもよい。つまり、積層鉄心21は、少なくとも第1部分と第2部分とを備えるといえる。積層鉄心21が3つ以上の部分を備える場合、横弾性係数の仮定値は、第1仮定値及び第2仮定値だけでなく、第3仮定値のように3つ以上仮定される。そして、一致度の極大値は、3次元以上のマップで検出される。
【0113】
上述した実施例において、試行点は、所定範囲の中で等間隔に分散されたが、不定間隔で分散されてもよい。また、上述した実施例において、試行点は、第1仮定値G1の間隔と第2仮定値G2の間隔とが一致するように分散されたが、第1仮定値G1の間隔と、第2仮定値G2の間隔とが異なるように分散されてもよい。
【0114】
試行点を設定する位置は、本実施形態に係る弾性マトリックス決定方法又は振動解析方法を用いて他の変圧器を解析した結果に基づいて定められてよい。例えば、他の変圧器の解析結果をあらかじめ統計的に処理することによって把握される一致度の分布の傾向に基づいて、試行点を設定する位置が定められてよい。このようにすることで、一致度が極大値となる正解点が少ない試行点で見つかるように試行点が設定され得る。なお、他の変圧器の解析結果があらかじめ処理されていることによって、他の変圧器の解析結果に基づいて試行点を設定するために必要な時間は長くならない。
【0115】
探索点は、試行点の間に設定される。探索点は、試行点の間隔よりも狭い間隔で設定されてもよい。探索点は、試行点が並ぶ格子から外れた位置に設定されてよい。探索点は、試行点が並ぶ格子と無関係な位置に設定されてよい。
【0116】
変圧器の積層鉄心21の弾性マトリックス決定方法は、振動解析装置40の制御部42を構成するコンピュータ又はプロセッサに実行させる弾性マトリックス決定プログラムとして実現されてもよい。変圧器の積層鉄心21の振動解析方法は、振動解析装置40の制御部42を構成するコンピュータ又はプロセッサに実行させる振動解析プログラムとして実現されてもよい。弾性マトリックス決定プログラム又は振動解析プログラムは、非一時的なコンピュータ読み取り可能媒体に格納されてよい。
【符号の説明】
【0117】
21 積層鉄心
22 方向性電磁鋼板(22a:上ヨーク、22b:下ヨーク、22c:脚部)
40 振動解析装置(42:制御部、44:記憶部、46:インタフェース)
【手続補正書】
【提出日】2024-07-31
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動解析装置の制御部によって実行される、変圧器の積層鉄心の弾性マトリックス決定方法であって、
前記積層鉄心は、複数の電磁鋼板を積層して構成され、かつ、少なくとも第1部分と第2部分とを備え、
前記第1部分及び前記第2部分それぞれにおける応力と歪みとの関係を表す構成式は、互いに異なる弾性マトリックスを含み、
前記弾性マトリックスは、前記弾性マトリックスの要素として、前記積層鉄心の積層方向を含む二面における横弾性係数を含み、
前記制御部が、前記変圧器の積層鉄心の励磁騒音の周波数スペクトルを取得する第1ステップと、
前記制御部が、前記電磁鋼板の励磁磁歪の周波数スペクトルを取得する第2ステップと、
前記制御部が、前記変圧器の積層鉄心について、前記第1部分における積層方向を含む二面における横弾性係数の値を仮定した第1仮定値を決定し、前記第2部分における積層方向を含む二面における横弾性係数の値を仮定した第2仮定値を決定し、前記第1仮定値及び前記第2仮定値を前記弾性マトリックスに適用した場合における前記変圧器の積層鉄心の振動応答関数の周波数スペクトルを算出する第3ステップと、
前記制御部が、前記第2ステップで取得した電磁鋼板の励磁磁歪の周波数スペクトルデータと、前記第3ステップで算出した前記変圧器の積層鉄心の振動応答関数の周波数スペクトルとに基づいて、前記変圧器の積層鉄心の励磁振動の周波数スペクトルを算出する第4ステップと、
前記制御部が、前記第1ステップで取得した前記変圧器の積層鉄心の騒音の周波数スペクトルと、前記第4ステップで算出した前記変圧器の積層鉄心の励磁振動の周波数スペクトルとの一致度を算出する第5ステップと、
前記制御部が、前記第1仮定値及び前記第2仮定値それぞれを変更して前記第3ステップから前記第5ステップまでを繰り返し実行することによって前記第1仮定値及び前記第2仮定値の各組み合わせについて前記一致度を算出する第6ステップと、
前記制御部が、前記第6ステップで前記第1仮定値及び前記第2仮定値の各組み合わせについて算出した前記一致度の極大値を検出し、前記一致度が極大値となる場合の前記第1仮定値を、前記変圧器の積層鉄心の振動解析で用いる、前記第1部分における前記積層鉄心の積層方向を含む二面における横弾性係数として採用するとともに、前記一致度が極大値となる場合の前記第2仮定値を、前記変圧器の積層鉄心の振動解析で用いる、前記第2部分における前記積層鉄心の積層方向を含む二面における横弾性係数として採用する第7ステップと
を含み、
前記第6ステップは、
前記制御部が、前記一致度に対応する前記第1仮定値及び前記第2仮定値の各組み合わせを、前記第1仮定値を第1軸、前記第2仮定値を第2軸とする2次元空間に設定する試行点として表す場合に、前記2次元空間の所定範囲の中で分散させた点を前記試行点として順次選択して前記試行点に対応する前記第1仮定値及び前記第2仮定値の組み合わせについて前記一致度を算出する第6-Aステップと、
前記制御部が、前記試行点に対応する前記第1仮定値及び前記第2仮定値の組み合わせについて算出した前記一致度に基づいて、前記2次元空間の中に限定小領域を設定する第6-Bステップと、
前記制御部が、前記限定小領域の中で前記試行点の間に位置する探索点を設定して前記探索点に対応する前記第1仮定値及び前記第2仮定値の組み合わせについて前記一致度を算出する第6-Cステップと
を含む、変圧器の積層鉄心の弾性マトリックス決定方法。
【請求項2】
前記制御部が、前記第5ステップにおいて、前記一致度として、前記変圧器の積層鉄心の騒音の周波数スペクトルの各周波数成分を要素とする第1ベクトルと、前記変圧器の積層鉄心の励磁振動の周波数スペクトルの各周波数成分を要素とする第2ベクトルとがなす角度のコサイン値を算出する、請求項1に記載の変圧器の積層鉄心の弾性マトリックス決定方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の変圧器の積層鉄心の弾性マトリックス決定方法によって決定した横弾性係数を組み込んだ、前記第1部分及び前記第2部分それぞれにおける応力と歪みとの関係を表す構成式に基づいて、前記制御部が、前記変圧器の積層鉄心の振動解析を行うステップを含む、振動解析方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の弾性マトリックス決定方法を前記制御部に実行させる、弾性マトリックス決定プログラム。
【請求項5】
請求項3に記載の振動解析方法を前記制御部に実行させる、振動解析プログラム。