(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158565
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】プレキャストコンクリート柱の製造方法
(51)【国際特許分類】
E04C 3/36 20060101AFI20241031BHJP
E04B 1/30 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
E04C3/36
E04B1/30 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073867
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100154003
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】三谷 淳
(72)【発明者】
【氏名】簑田 康一
(72)【発明者】
【氏名】中村 吉秀
【テーマコード(参考)】
2E163
【Fターム(参考)】
2E163FA02
2E163FD03
2E163FD12
2E163FD33
2E163FD36
2E163FD44
2E163FD46
2E163FF13
(57)【要約】
【課題】型枠を用いた柱本体の成形の際に仕口部材の周囲の全体に生コンクリートを充填することが可能なプレキャストコンクリート柱の製造方法を提供することである。
【解決手段】コンクリートで形成された柱本体10と、一端側が柱本体10に埋設されるとともに他端側が柱本体10の側面11から突出する鉄骨製の仕口部材20と、を有するプレキャストコンクリート柱1を製造する、プレキャストコンクリート柱の製造方法であって、横倒し姿勢の柱本体10に対応した形状の型枠30に仕口部材20を配置する仕口部材配置工程と、仕口部材配置工程の後、型枠30の内部に生コンクリート40を充填して柱本体10を成形する成形工程と、を有し、成形工程において、生コンクリート40として硬化時の設計基準強度Fcが36N/mm
2よりも大きい高流動コンクリートを用いることを特徴とするプレキャストコンクリート柱の製造方法。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートで形成された柱本体と、一端側が前記柱本体に埋設されるとともに他端側が前記柱本体の側面から突出する鉄骨製の仕口部材と、を有するプレキャストコンクリート柱を製造する、プレキャストコンクリート柱の製造方法であって、
横倒し姿勢の前記柱本体に対応した形状の型枠に前記仕口部材を配置する仕口部材配置工程と、
前記仕口部材配置工程の後、前記型枠の内部に生コンクリートを充填して前記柱本体を成形する成形工程と、を有し、
前記成形工程において、前記生コンクリートとして硬化時の設計基準強度Fcが36N/mm2よりも大きい高流動コンクリートを用いることを特徴とするプレキャストコンクリート柱の製造方法。
【請求項2】
前記成形工程において、硬化時の設計基準強度Fcが54N/mm2以上の前記高流動コンクリートを用いる、請求項1に記載のプレキャストコンクリート柱の製造方法。
【請求項3】
前記柱本体が、4つの側面を有する角柱であり、
それぞれH形鋼で形成され、対応する前記側面から突出する4つの前記仕口部材を有する、請求項1または2に記載のプレキャストコンクリート柱の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレキャストコンクリート柱の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば倉庫、オフィスビル、商業ビルなどの建築物の躯体を構成する柱として、予め工場等において、型枠を用いて生コンクリートを成形して製造されたプレキャストコンクリート柱が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プレキャストコンクリート柱には、梁が接合される仕口部材が設けられる。建築現場において仕口部材を設けるためにかかる工期を短縮するために、工場等においてプレキャストコンクリート柱を製造する際に、鉄骨製の仕口部材を型枠に設置した状態で型枠に生コンクリートを充填することで、予め仕口部材をプレキャストコンクリート製の柱本体に打ち込んだ構成としておくことが検討されている。
【0005】
しかし、長尺の形状プレキャストコンクリート柱を工場等において製造するためには、型枠を横倒しの姿勢の柱本体に対応する形状として、すなわち柱本体を横倒しの形状として成形する必要があるため、型枠に生コンクリートを充填した際に、横向きとなった仕口部材の周囲の全体に生コンクリートを充填することが困難である、という問題点があった。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、型枠を用いた柱本体の成形の際に仕口部材の周囲の全体に生コンクリートを充填することが可能なプレキャストコンクリート柱の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のプレキャストコンクリート柱の製造方法は、コンクリートで形成された柱本体と、一端側が前記柱本体に埋設されるとともに他端側が前記柱本体の側面から突出する鉄骨製の仕口部材と、を有するプレキャストコンクリート柱を製造する、プレキャストコンクリート柱の製造方法であって、横倒し姿勢の前記柱本体に対応した形状の型枠に前記仕口部材を配置する仕口部材配置工程と、前記仕口部材配置工程の後、前記型枠の内部に生コンクリートを充填して前記柱本体を成形する成形工程と、を有し、前記成形工程において、前記生コンクリートとして、硬化時の設計基準強度Fcが36N/mm2よりも大きい高流動コンクリートを用いることを特徴とする。
【0008】
本発明のプレキャストコンクリート柱の製造方法は、上記構成において、前記成形工程において、硬化時の設計基準強度Fcが54N/mm2以上の前記高流動コンクリートを用いるのが好ましい。
【0009】
本発明のプレキャストコンクリート柱の製造方法は、上記構成において、前記柱本体が、4つの側面を有する角柱であり、それぞれH形鋼で形成され、対応する前記側面から突出する4つの前記仕口部材を有するのが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、型枠を用いた柱本体の成形の際に仕口部材の周囲の全体に生コンクリートを充填することが可能なプレキャストコンクリート柱の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係るプレキャストコンクリート柱の製造方法により製造されたプレキャストコンクリート柱の正面図である。
【
図2】
図1に示すプレキャストコンクリート柱の平面図である。
【
図3】4つの仕口部材が配置された状態の型枠の平面図である。
【
図4】
図3におけるA-A線に沿う縦断面図である。
【
図5】
図3におけるB-B線に沿う横断面図である。
【
図6】
図3に示す型枠の、内部に生コンクリートを充填した状態の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ本発明の一実施形態に係るプレキャストコンクリート柱の製造方法について詳細に例示説明する。
【0013】
図1、
図2に示すプレキャストコンクリート柱1は、本発明の一実施形態に係るプレキャストコンクリート柱の製造方法により製造されたものである。プレキャストコンクリート柱1は、プレキャストコンクリート柱1が用いられる建築物の建築現場において型枠にコンクリートを打設して形成されるものではなく、工場において予め製造され、建築現場にまで輸送されて使用されるものである。
【0014】
プレキャストコンクリート柱1は、柱本体10と、仕口部材20とを有している。
【0015】
柱本体10は、コンクリートで形成されている。本実施形態では、柱本体10は、4つの側面11を有するコンクリート製の角柱である。より具体的には、柱本体10は、それぞれ水平方向の幅が等しい4つの側面11を有する断面が正方形状の角柱である。
【0016】
柱本体10は、内部に鉄筋が配筋された鉄筋コンクリート製であるのが好ましい。鉄筋は、柱本体10の上下方向に沿って配置された複数本の主筋と、主筋を取り囲むように水平方向に巻かれて配置されたフープ筋(不図示)とを有する構成であってよい。
【0017】
柱本体10は、その上端から主筋12が上方に突出した構成とすることもできる。本実施形態では、柱本体10の上端の四隅から、それぞれ3本の主筋12が突出している。これらの主筋12は、柱本体10の上に他のプレキャストコンクリート柱を接続する際に用いることができる。なお、柱本体10の上端から突出する主筋の数及び配置は、種々変更可能である。
【0018】
柱本体10は、その下端に、柱本体10を、他のプレキャストコンクリート柱ないしスラブなどの下側部材の上に接続する際に、下側部材から突出する主筋が挿通される挿通孔13を備えた構成とすることもできる。挿通孔13の数及び配置は、種々変更可能である。
【0019】
柱本体10は、これを形成するコンクリートの設計基準強度Fcが36N/mm2よりも大きいものとなっている。柱本体10は、これを形成するコンクリートの設計基準強度Fcが54N/mm2以上であるのがより好ましい。
【0020】
仕口部材20は、プレキャストコンクリート柱1に梁を接合するための部材である。仕口部材20は鉄骨製であり、一端側が柱本体10に埋設されるとともに他端側が柱本体10の側面11から突出している。すなわち、仕口部材20は、その一端側が柱本体10に埋設されることで柱本体10に支持ないし固定され、柱本体10の側面11から突出する他端側に梁が接合される構成となっている。仕口部材20に接合される梁は、鉄骨梁であるのが好ましいが、他の構成の梁であってもよい。
【0021】
本実施形態では、プレキャストコンクリート柱1は、それぞれH形鋼で形成され、対応する柱本体10の側面11から突出する4つの仕口部材20を有している。それぞれの仕口部材20は、一対のフランジ21と、ウェブ22とを備えた断面H形状の鉄骨となっている。フランジ21は鋼板により矩形の板状に形成されており、互いに上下方向に間隔を空けて水平姿勢(柱本体10の軸線方向に垂直な姿勢)で配置されている。ウェブ22は鋼板により矩形の板状に形成されており、フランジ21に垂直な姿勢(柱本体10の軸線方向に平行な姿勢)で一対のフランジ21の間に配置されてそれぞれのフランジ21に溶接等によって接合されている。ウェブ22には、梁(不図示)を接合するためのボルトが挿通される複数の貫通孔23が設けられている。なお、
図1においては、便宜上、それぞれのウェブ22について一つの貫通孔23にのみ符号を付している。なお、仕口部材20は、圧延加工により一対のフランジ21とウェブ22とが一体に形成された構成のものであってもよい。
【0022】
4つの仕口部材20は、
図2に示す平面視で十字形となるように配置されている。より具体的には、互いに反対側を向く一対の側面11から一端側が突出する一対の仕口部材20が、互いに同軸に配置され、その他端側の端部が互いに接合されている。なお、これら一対の仕口部材20は、一体に形成されてもよい。他の2つの仕口部材20は、上記の互いに接合された一対の仕口部材20に対して垂直な方向に向けて配置され、それぞれ一端側が対応する側面11から突出するとともに他端側の端部が、上記の互いに接合された一対の仕口部材20の側部に接合されている。
【0023】
なお、4つの仕口部材20は、それぞれ一端側が柱本体10に埋設されるとともに他端側が対応する側面11から突出した配置であれば、上記の配置に限られない。また、本実施形態では、それぞれの仕口部材20は、柱本体10の上端側の部分に配置されているが、仕口部材20の上下方向の位置は種々変更可能である。
【0024】
次に、本実施形態に係るプレキャストコンクリート柱の製造方法により、上記構成のプレキャストコンクリート柱1を製造する手順について説明する。
【0025】
本実施形態に係るプレキャストコンクリート柱の製造方法は、仕口部材配置工程と、成形工程とを有している。
【0026】
仕口部材配置工程においては、
図3、
図4及び
図5に示すように、横倒し姿勢の柱本体10に対応した形状の型枠30に仕口部材20を配置する。
【0027】
ここで、型枠30は、生コンクリートを柱本体10の形状に成形するための成形型である。型枠30は、横倒し姿勢の柱本体10に対応した形状を有することで、柱本体10を横倒しの姿勢で成形する。すなわち、柱本体10は長尺であるため、工場等において型枠を用いて建てた姿勢に柱本体10を成形することは困難であるため、横倒し姿勢の柱本体10に対応した形状を有する型枠30により、柱本体10を横倒しの姿勢に成形するようにしている。
【0028】
より具体的には、型枠30は、柱本体10の1つの側面11に対応した内面が平面である底枠31、柱本体10の一対の側面11に対応した内面が平面の一対の側枠32及び柱本体10の1つの側面11に対応した内面が平面の天枠33を備えた軸線が水平方向となる角筒状の部分と、当該角筒状の部分の長手方向の両端を閉塞する一対の端枠34とを有し、その内部は柱本体10の外形形状に対応した角柱状の成形空間Sとなっている。底枠31、側枠32、天枠33及び端枠34は、それぞれボルト等の締結部材を用いて互いに結合され、成形後においては、柱本体10を取り出すために、互いに分離可することができるように構成されている。また、底枠31、一対の側枠32及び天枠33には、それぞれ仕口部材20が配置される配置孔35が設けられている。
【0029】
仕口部材配置工程においては、4つの仕口部材20は、それぞれ対応する配置孔35に挿通され、その一端側が成形空間Sの外部に位置し、他端側が成形空間Sの内部に位置するように型枠30に配置される。配置孔35は矩形形状であり、これに対し仕口部材20の断面はH形状であるため、仕口部材20には塞ぎ板36が取り付けられ、配置孔35と仕口部材20との隙間が塞ぎ板36により塞がれている。なお、塞ぎ板36は、柱本体10を成形した後、仕口部材20から切断等によって取り外される。
【0030】
仕口部材配置工程において、成形空間Sの内部に鉄筋を配置するようにしてもよい。本実施形態では、成形空間Sの内部に、主筋12及びフープ筋14を配置する。主筋12は、その先端を、仕口部材20が配置される側の端枠34を貫通して成形空間Sの外部に突出させるように配置する。
【0031】
仕口部材配置工程が完了すると、成形工程が行われる。型枠30の上方側に配置される天枠33には、成形空間Sに連なる充填口37が設けられている。成形工程においては、
図6に示すように、充填口37から型枠30の内部すなわち成形空間Sに生コンクリート40を流し込んで成形空間Sに生コンクリート40を充填する。成形空間Sに生コンクリート40が充填されると、型枠30の成形空間Sの内部に一端側が配置された仕口部材20、主筋12及びフープ筋14が生コンクリート40の内部に埋設される。そして、所定時間が経過して成形空間Sの内部に充填された生コンクリートが硬化すると、4つの仕口部材20の一端側、主筋12及びフープ筋14が埋設された柱本体10が成形される。
【0032】
なお、型枠30に、充填口37から生コンクリートが充填されたときに、成形空間Sの内部の空気を外部に排出するための空気抜き用の孔を適宜設けるようにしてもよい。
【0033】
成形工程が完了して柱本体10が成形されると、型枠30を解体するとともに塞ぎ板36を仕口部材20から取り外すことで、プレキャストコンクリート柱1が完成する。これにより、本実施形態に係るプレキャストコンクリート柱の製造方法が完了する。
【0034】
完成したプレキャストコンクリート柱1は、例えばトラック等の車両により建築現場にまで輸送され、建築現場において建築物の建築に使用される。このとき、プレキャストコンクリート柱1は、工場等において柱本体10に既に仕口部材20が打ち込まれた構成となっているので、建築現場において仕口部材20を柱本体10に取り付ける作業を不要として、プレキャストコンクリート柱1を用いた建築物の建築の工期を低減することができる。
【0035】
ここで、本実施形態に係るプレキャストコンクリート柱の製造方法では、成形工程において、生コンクリートとして、硬化時の設計基準強度Fcが36N/mm2よりも大きい高流動コンクリートを用いるようにしている。「硬化時の設計基準強度Fcが36N/mm2よりも大きい高流動コンクリート」とは、建築物の構造設計において基準となる圧縮強度が、硬化時において36N/mm2よりも大きくなる生コンクリートである。
【0036】
一般的にプレキャストコンクリート柱の製造に用いられるコンクリート(普通コンクリート)は、硬化時の設計基準強度Fcが18~36N/mm
2のものである。このようなコンクリートは、硬化前の生コンクリートの状態において流動性が比較的低いため、上記のように、型枠30を横倒しの姿勢の柱本体10に対応する形状とし、鉄骨製の仕口部材20を型枠30に設置した状態で型枠30の内部の成形空間Sに充填したときに、横向きとなった仕口部材20の下方側に回り込み難くなる。そのため、硬化時の設計基準強度Fcが18~36N/mm
2の生コンクリートを用いて成形工程を行うと、仕口部材20の周囲の全体に生コンクリートを充填することは困難である。特に、柱本体10が4つの側面11を有する角柱であり、それぞれH形鋼で形成された4つの仕口部材20が対応する側面11から突出する構成の場合には、
図6に示すように、側枠32の配置孔35に配置される一対の仕口部材20は、ウェブ22が水平姿勢となるとともにウェブ22の両側部からフランジ21が下方に向けて延びることにために、フランジ21に流れを遮られてウェブ22の下面22aの側に生コンクリートが回り込み難く、仕口部材20の特にウェブ22の下面22aの全体が生コンクリートで覆われるように当該生コンクリートを充填することは困難である。
【0037】
これに対し、本実施形態に係るプレキャストコンクリート柱の製造方法では、硬化時の設計基準強度Fcが36N/mm2よりも大きい高流動コンクリートを生コンクリート40として用いて成形工程を行うようにしている。コンクリートは、硬化時の設計基準強度Fcが36N/mm2よりも大きくなると、硬化前の生コンクリートの流動性が急激に高くなる性質を有している。すなわち、硬化時の設計基準強度Fcが36N/mm2よりも大きい生コンクリート40は、硬化時の設計基準強度Fcが36N/mm2以下の普通コンクリートに対して、硬化前の生コンクリートの流動性が高くなっている。したがって、生コンクリート40として硬化時の設計基準強度Fcが36N/mm2よりも大きい高流動コンクリートを用いて成形工程を行うことで、生コンクリート40を型枠30に充填して柱本体10を成形する際に、型枠30に仕口部材20を配置して柱本体10に仕口部材20が予め打ち込まれた構成とするようにしても、横向きとなった仕口部材20の下方側に流動性の高い高流動コンクリートが回り込むようにして、仕口部材20の周囲の全体に生コンクリート40を充填することができる。これにより、柱本体10の内部に、生コンクリート40が充填されずに空隙が生じることを抑制して、仕口部材20が打ち込まれた柱本体10を所望の強度に成形することができるとともに柱本体10に仕口部材20を確実に支持させることができる。
【0038】
特に、本実施形態のように、柱本体10が4つの側面11を有する角柱であり、それぞれH形鋼で形成された4つの仕口部材20が対応する側面11から突出する構成の場合であっても、成形空間Sの内部において、充填口37から成形空間Sに流し込まれた流動性の高い生コンクリート40が、フランジ21の下方から回り込んでウェブ22の下面22aにまで達するようにして、仕口部材20のウェブ22の下面22aを含む周囲の全体に生コンクリート40を充填することができる。
【0039】
上記の通り、本実施形態に係るプレキャストコンクリート柱の製造方法では、成形工程において、生コンクリート40として硬化時の設計基準強度Fcが36N/mm2よりも大きい高流動コンクリートを用いるようにしているが、生コンクリート40として硬化時の設計基準強度Fcが54N/mm2以上の高流動コンクリートを用いるのがより好ましい。成形工程において、生コンクリート40として硬化時の設計基準強度Fcが54N/mm2以上の高流動コンクリートを用いることで、生コンクリート40を、その流動性がさらに高いものとして、仕口部材20の周囲の全体に生コンクリート40をより確実に充填することができる。
【0040】
本実施形態に係るプレキャストコンクリート柱の製造方法では、仕口部材20に空気抜き孔50を設けた構成とすることもできる。仕口部材20に空気抜き孔50を設けることにより、仕口部材20の下方側に生コンクリート40が充填された際に、仕口部材20の下方側の空気が空気抜き孔50を通してウェブ22から上方に抜けるようにして、仕口部材20の下方側に生コンクリート40をより充填し易くすることができる。
【0041】
特に、本実施形態のように、柱本体10が4つの側面11を有する角柱であり、それぞれH形鋼で形成された4つの仕口部材20が対応する側面11から突出する構成の場合には、
図6、
図7に示すように、側枠32の配置孔35に配置される一対の仕口部材20のウェブ22に空気抜き孔50を設けた構成とするのが好ましい。より具体的には、側枠32の配置孔35に配置される一対の仕口部材20の、成形空間Sの内部において互いに接合されるウェブ22のフランジ21の側の隅部分に空気抜き孔50を設けるのが好ましい。この構成により、仕口部材20のウェブ22の下面22aの下方側に生コンクリート40が充填された際に、フランジ21に遮られることなく下面22aの下方側の空気が空気抜き孔50を通してウェブ22から上方に抜けるようにして、仕口部材20の下方側に生コンクリート40をより充填し易くすることができる。
【0042】
本実施形態に係るプレキャストコンクリート柱の製造方法の効果を確認するために、
図3~
図5に示す型枠30の成形空間Sに、硬化時の設計基準強度Fcが36N/mm
2の生コンクリートを充填して
図1、
図2に示す形状ないし構成のプレキャストコンクリート柱を製造した場合、生コンクリートとして硬化時の設計基準強度Fcが54N/mm
2の高流動コンクリートを充填して
図1、
図2に示す形状ないし構成のプレキャストコンクリート柱を製造した場合、生コンクリートとして硬化時の設計基準強度Fcが60N/mm
2の高流動コンクリートを充填して
図1、
図2に示す形状ないし構成のプレキャストコンクリート柱を製造した場合、のそれぞれの場合について、最も生コンクリートが回り難い側枠32の配置孔35に配置される一対の仕口部材20のウェブ22の下面22aに生コンクリートが充填されているか否かを確認する試験を行った。当該試験においては、側枠32の配置孔35に配置される一対の仕口部材20のウェブ22の下面22aの複数個所に、圧電セラミックスで形成された振動デバイスを貼り付け、振動デバイスを能動的に振動させたときに得られる周波数と電圧値とに基づいて、ウェブ22の下面22aに生コンクリートが充填されているか否かを判断した。その結果、成形空間Sに、硬化時の設計基準強度Fcが36N/mm
2の生コンクリートを充填した場合にはウェブ22の下面22aに生コンクリートが充填されず、生コンクリートとして硬化時の設計基準強度Fcが54N/mm
2の高流動コンクリートを充填した場合及び生コンクリートとして硬化時の設計基準強度Fcが60N/mm
2の高流動コンクリートを充填した場合にはウェブ22の下面22aに生コンクリートが充填されていることが確認された。
【0043】
なお、上記試験結果は、
図3~
図5に示す型枠30を用いて
図1、
図2に示す形状ないし構成のプレキャストコンクリート柱を製造する場合にあたり、3種類の硬化時の設計基準強度Fcが相違する生コンクリートを用いた場合についての例示的な結果に過ぎず、本実施形態に係るプレキャストコンクリート柱の製造方法において、型枠30の構成及ぶプレキャストコンクリート柱1の形状ないし構成が、本実施形態に記載のものに限定されることを意味するものではない。すなわち、
図3~
図5に示す型枠30以外の型枠を用いて、
図1、
図2に示すものとは異なる形状ないし構成のプレキャストコンクリート柱を製造する場合にであっても、成形工程において、生コンクリートとして硬化時の設計基準強度Fcが36N/mm
2よりも大きい高流動コンクリートを用いることで、型枠を用いた柱本体の成形の際に仕口部材の周囲の全体に生コンクリートが充填されるようにすることができる、という効果を得ることができる。
【0044】
本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0045】
例えば、前記実施形態では、
図1、
図2に示す構成ないし形状のプレキャストコンクリート柱1を製造する場合について説明したが、コンクリートで形成された柱本体と、一端側が柱本体に埋設されるとともに他端側が柱本体の側面から突出する鉄骨製の仕口部材と、を有するプレキャストコンクリート柱であれば、他の構成ないし形状のプレキャストコンクリート柱を製造するようにしてもよい。
【0046】
より具体的には、例えば柱本体10は、角柱に限らず、例えば円柱などの角柱以外の形状であってもよい。
【0047】
また、仕口部材20は、4つに限らず、少なくとも1つ設けられていれば、その数は種々変更可能である。
【0048】
さらに、仕口部材20は、H型鋼に限らず、他の形状の鉄骨で形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 プレキャストコンクリート柱
10 柱本体
11 側面
12 主筋
13 挿通孔
14 フープ筋
20 仕口部材
21 フランジ
22 ウェブ
22a 下面
23 貫通孔
30 型枠
31 底枠
32 側枠
33 天枠
34 端枠
35 配置孔
36 塞ぎ板
37 充填口
40 生コンクリート(高流動コンクリート)
S 成形空間