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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024015857
(43)【公開日】2024-02-06
(54)【発明の名称】後発酵茶の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23F 3/10 20060101AFI20240130BHJP
   A23F 3/16 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
A23F3/10
A23F3/16
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022118201
(22)【出願日】2022-07-25
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-06-05
(71)【出願人】
【識別番号】300006700
【氏名又は名称】丸成商事株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104307
【弁理士】
【氏名又は名称】志村 尚司
(72)【発明者】
【氏名】小西 宗助
(72)【発明者】
【氏名】服部 亜光
(72)【発明者】
【氏名】李 福
【テーマコード(参考)】
4B027
【Fターム(参考)】
4B027FB08
4B027FB10
4B027FC06
4B027FC10
4B027FK19
4B027FP70
4B027FP85
4B027FR20
(57)【要約】
【課題】没食子酸が多く含まれた後発酵茶を提供する。
【解決手段】茶葉中に含まれる酵素を失活させた茶葉に水を与えて、その含水量を25w/w%以上45w/w%以下に調整する工程と、前記水分量を調整した茶葉を好ましくはアスペルギルス(Aspergillus)属に分類される菌などの微生物で発酵させる工程を備えた後発酵茶葉の製造方法であって、発酵開始後、茶葉の酸度が極小点を下回った後、pH5.0±0.2の範囲で発酵を停止させることを特徴とする。得られた茶葉は3.0w/w%以上、好ましくは4.0w/w%以上の没食子酸を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
殺青処理した茶葉を微生物で発酵させる工程を有する後発酵茶葉の製造方法であって、
発酵開始後、茶葉の酸度が極小点を下回った後、pH5.0±0.2の範囲で茶葉の発酵を停止させることを特徴とする後発酵茶葉の製造方法。
【請求項2】
殺青処理した茶葉に水を与えて、その含水率を25w/w%以上45w/w%以下に調整した後に発酵を開始させる請求項1に記載の後発酵茶葉の製造方法。
【請求項3】
前記極小点はpH4.8未満である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
発酵停止後の茶葉における没食子酸含有量が3.0w/w%以上である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記極小点はpH4.8未満である請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
殺青処理した茶葉を微生物で発酵を開始した後、茶葉の酸度が極小点を下回った後、pH5.0±0.2の範囲で茶葉の発酵を停止させて得られた後発酵茶葉から得られた抽出物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は後発酵茶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
主として飲用に用いられる茶(茶葉)は、その製造方法の違いから、緑茶と呼ばれる不発酵茶、ウーロン茶と呼ばれる半発酵茶、紅茶と呼ばれる完全発酵茶、黒茶と呼ばれる後発酵茶に大別される。これらのうち、後発酵茶は、生茶葉を蒸熱又は煎熱して殺青処理を行った後、麹菌などの微生物を植え付けて堆積発酵させたものである。後発酵茶は、生茶葉由来の酵素による発酵が行われたものではなく、植え付けられた微生物由来の酵素、特にタンナーゼの働きにより、茶葉中のガレート基を有するカテキン類が分解されて産生された没食子酸を含むとともに、微生物由来の各種酵素により茶葉由来の成分が分解された結果、黒茶特有のうま味やコクが醸し出されたものとなっている。そのため、長期間発酵させたものが良品であるとして好まれている。
【0003】
この製造過程で生成する没食子酸は、3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸とも称され、抗酸化作用を有するだけでなく、肥満の治療や予防に対して効果を有するとされている。例えば非特許文献1には、数ヶ月間発酵させた後発酵茶であるウーロン茶がBMIの減少や体重減少を示したことが開示されている。ここで用いられたウーロン茶の茶葉1g中に約27mg含まれているとされている(非特許文献2)。
【0004】
また、特許文献1(特開2005-278519号公報)には、没食子酸を多く含み、かつカテキン類が多く含まれているにもかかわらず、苦渋味が少なく、旨味とコク味が強い後発酵茶を提供するために、麹菌による発酵の際に、殺青処理後の粉砕した原料茶葉を水に懸濁したスラリー状態で行う方法が示されている。
【0005】
しかしながら、この方法では、殺青処理した原料茶葉を粉砕してスラリー状態にする必要があり、従前の後発酵茶の製造工程よりも工程が増えることとなっていた。また、非特許文献1によれば、種々の生理活性を示す量の没食子酸を有する後発酵茶を提供するには数ヶ月間ほどの発酵期間が必要であると考えられた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-278519号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】K. Kubota et al. Nutrition Research 31, 2011, 421-428
【非特許文献2】H. Fujita et al. Phytother Res. 22, 2008, 1275-81
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従前の後発酵茶の製造工程とほぼ同様の方法で、十分に生理活性を発現できる没食子酸の含有量が高い後発酵茶を従前よりも短期間で製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、いわゆる殺青処理した茶葉を麹菌で発酵させる工程を有する後発酵茶葉の製造方法であって、発酵開始後、茶葉の酸度が極小点を下回った後、pH5.0±0.2で発酵を停止させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によると、従前の工程とほぼ同じ工程によって、十分に生理活性を発現できる没食子酸の含有量が高い茶葉を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は本発明の一態様である後発酵茶の製造工程における没食子酸含有量の経時変化を示す図である。
図2図2は別な態様である後発酵茶の製造工程における没食子酸含有量の経時変化を示す図である。
図3図3は本発明の一態様である後発酵茶の製造工程における茶葉のpHの経時変化を示す図である。
図4図4は別な態様である後発酵茶の製造工程における茶葉のpHの経時変化を示す図である。
図5図5は本発明の一態様である後発酵茶の製造工程における茶葉のpHの経時変化を示す図である。
図6図6は別な態様である後発酵茶の製造工程における茶葉のpHの経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の後発酵茶の製造方法は、殺青処理した茶葉を微生物で発酵させる工程を有する後発酵茶葉の製造方法であって、発酵開始後、茶葉の酸度が極小点を下回った後、pH5.0±0.2の範囲で茶葉の発酵を停止させることを特徴とする。
【0013】
本発明は、従来から行われている後発酵茶の製造工程において、茶葉の没食子酸含有量の経時変化を調べていたところ、発酵期間が長くなるにつれ没食子酸の含有量が減少するとともに、茶葉のpH値も一度下降した後に上昇に転じていることを見い出したことに基づいてなされたものである。つまり、本発明は、比較的短期間で発酵を停止させることで没食子酸の含有量が多い後発酵茶を提供するものである。
【0014】
本発明において用いられる茶葉は飲用に用いられ得るチャノキの葉であればその品種は問われず、好ましくは後発酵茶の原料に用いられてきた茶葉である。発酵に用いられる茶葉は殺青処理された茶葉である。殺青処理は生の茶葉が有する各種の酵素活性を失活させる処理であって、例えば従来の後発酵茶の製造に用いられてきた蒸熱(蒸すことで熱を加えること)や炒熱(炒ることで熱を加えること)することで行われる。本発明の製造方法に用いられる茶葉には茶の茎が含まれていてもよい。
【0015】
殺青処理後の茶葉に水を加えて、茶葉の含水率を25w/w%以上45w/w%以下、好ましくは30w/w%以上40w/w%以下に調整する。含水率は水分を含んだ茶葉中の水分量を意味し、105℃で質量が一定になるまで乾燥した際の質量を乾燥後の質量として茶葉の乾燥前後の質量から求められる。含水率が45w/w%を上回ると、発酵開始時に、雑菌が増えて腐敗してしまったり、茶葉中の含水率の低下が十分に見られず、さらに発酵期間の経過により茶葉の酸度が上昇するのに伴い、没食子酸の含有量が急激に低下してしまう。また、含水率が25w/w%を下回ると発酵そのものが進まず、没食子酸の生成量が増えないばかりか、後発酵茶を製造することができなくなる。
【0016】
水分量が調整された茶葉には微生物を混合し、発酵させて後発酵茶を製造する。微生物も従前の後発酵茶の製造に用いられてきた微生物と同種の菌でよい。用いられる微生物は、代表的にはアスペルギルス(Aspergillus)属に分類される菌、例えば、アスペルギルス・ルチュエンシス(Aspergillus luchuensis)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus nigar)、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス・サイトイ(Aspergillus saitoi)、リゾパス属に属する菌、例えばリゾパス・デリマー(Rhizopus delemar)、ペニシリン属に属する菌、例えば、ペニシリウム・カメンベルティ(Penicillium camemberti)、その他テンペ菌属などの食品加工に用いられ得る微生物である。
【0017】
微生物の混合量も適宜定めることができる。混合量も従前の方法と同程度の量で差し支えなく、含水量が調整された茶葉に対して0.001~1質量%でよく、好ましくは0.01~0.5質量%である。茶葉へ混合する方法も同様であって、例えば茶葉に微生物の菌体又は胞子をそのまま粉体混合する方法や、微生物の菌体又は胞子をいったん小麦粉や米粉、大麦粉等の食品賦型剤で紛体混合した後に茶葉と混合する方法や微生物の菌体又は胞子を生理食塩水等に懸濁にして茶葉に吹き付ける方法などを挙げられる。
【0018】
微生物を混合した茶葉はよく攪拌して放置することで発酵させる。発酵方法も従前の後発酵茶の製造における方法と同様の方法でよく、1~35℃の室温、好ましくは10~30℃の環境下、程度な厚みとなるように広げて放置する。発酵が進むに従って茶葉の温度が上昇するので、過度温度上昇を防ぎ、できるだけ均一に発酵させるため、2~3日おきに茶葉全体をよく攪拌する。この際、発酵中の温度が65℃を越えないようにするのが目安であり、発酵中の温度が極端に下がらないように、こもやむしろで覆うのが好ましい。また、微生物の混合前や混合直後に揉稔を行っても差し支えない。
【0019】
発酵期間中、数日間隔、好ましくは隔日、望ましくは毎日、発酵中の茶葉の酸度を測定する。酸度は実施例に記載の方法により測定されたpHで表される。酸度は、発酵が進むにつれて減少して、発酵開始後数日、概ね5~10日で極小値を示し、その後上昇に転じる。この後、次第に上昇するが、その上昇傾向は日数の経過とともに緩やかになる(図2参照)。一方、茶葉中の没食子酸含有量は、発酵開始後から次第に上昇し、発酵開始後概ね10日前後で極大値を示し、その後下降に転じる。後発酵茶は発酵期間が長いことが良品でされることが多いが、発酵期間が長くなると没食子酸の含有量が低下することから、茶葉の酸度が極小値を示した後、上昇値が緩やかになってほぼプラトーとなるpHが5.0±0.2の範囲で茶葉の発酵を停止させる。
【0020】
また、茶葉の酸度は一度極小点を迎えることが必要である。これは微生物の発酵によって茶葉中の茶カテキン類(没食子酸エステル)が分解されて没食子酸が生産されることが必要であるとともに、さらに発酵を続けることで分解された茶カテキン由来のポリフェノールやその他の茶葉中ポリフェノールの重合・分解を生じさせることで後発酵茶特有の香りや味を醸し出させる、または良品の後発酵茶の香りや味に近づけることが必要になるからである。極小点のpHは発酵終了点である4.8未満であればよいが、極小点経過後における没食子酸含有量の低下を考慮すれば、好ましくは極小点が4.7、さらに望ましくは4.5程度となることが好ましい。
【0021】
発酵の停止は茶葉を乾燥させることで行える。乾燥も従前の方法と同様でよく、90~105℃、好ましくは95℃程度で機械乾燥させてもよく、天日乾燥してもよい。この時、茶葉の含水量が15w/w%、好ましくは12w/w%以下となるように乾燥させて、発酵を止め後発酵茶とする。
【0022】
発酵を停止させた茶葉中の没食子酸には十分に生理活性を発現できる没食子酸を含むことが必要である。ここでいう十分に生理活性を発現できる没食子酸含量とは、非特許文献1から言えるように、乾燥後の茶葉に少なくとも3.0w/w%以上含んでいること、好ましくは4.0w/w%以上含まれることが望ましい。発酵開始時の含水量が多い場合、例えば40w/w%程度で開始した場合には、pHが5.2を越えて発酵を続けると没食子酸の含有量が約3w/w%程度から急激に低下するおそれがある。また、従前の製造方法においても好ましいとされる含水率が30~35w/w%で発酵を開始した場合にも、pHが5.2を越えて発酵を続けると没食子酸の含有量が約4w/w%以下、場合によっては約3w/w%以下となり、没食子酸含有量が少なくなってpHが5.0±0.2の範囲で発酵を停止させる意義が失われるからである。
【0023】
得られた茶葉はいわゆる茶飲料の原料として用いられる。茶飲料には、得られた茶葉のみならず、不発酵茶である緑茶や半発酵茶であるウーロン茶と適宜混合した後に水で抽出して茶飲料としてもよく、また、得られた茶葉のみを用いて得られた抽出液(茶飲料)と緑茶やウーロン茶の抽出液(茶飲料)と適宜混合して本発明の茶飲料とすることもできる。もっとも、発酵を停止させることなく、pHが5.0±0.2となった茶葉を抽出物の原料に用いてもよい。
【0024】
また、本発明における茶抽出物は、水で抽出した抽出物だけでなく、エタノールや水とエタノール混合液などの各種溶媒を用いて得られた抽出物でもよく、さらにこれらの抽出物を濃縮や乾燥させて得られた粘稠状の抽出物や固形状の抽出物もあり得る。これらの抽出物は茶飲料以外にも、食品製造用の原料やいわゆる健康食品などとしても用いることができる。
【0025】
このように本発明の製造方法では発酵途中のpHを測定することで、従前の工程とほぼ同様の工程で没食子酸含有量の高い後発酵茶を提供できる。
【実施例0026】
以下、本発明について実施例に基づいて説明するが、本発明は次の実施例に限られないのは言うまでもない。
【0027】
中国産の茶葉1200kgに水を加えて初期の含水率を33w/w%に調整した。含水率調整後の茶葉に対して0.01w/w%(120g)の麹菌(アスペルギルス・ルチュエンシス)を加え、十分に攪拌混合した。麹菌を混合した茶葉を高さ約1mに積み上げて平にならし(整地)、過度の乾燥を防ぐために麻袋を被せて茶葉を覆い、35℃以下の室温で発酵を開始させた。この際の茶葉の温度(整地した茶葉に温度計を差し込んで測定した際の温度)は20℃であった。その後、発酵開始2日目と、その後3日を経過するごとに、茶葉の温度が65℃を越えないように適宜攪拌を行い、発酵を続けた。
【0028】
発酵中、攪拌時に茶葉中の没食子酸量、酸度(pH値)、含水量を測定した。発酵途中の茶葉を数カ所からサンプリングして混合した後、その中から茶葉1gを量り取り、水を加えて50gとした。これを湯煎して、80℃以上で10分間抽出した。その後、茶こしで茶葉を除去して、室温まで冷却してサンプルとした。高速液体クロマトグラフィにてサンプル中の没食子酸量を測定し、発酵途中の茶葉1gあたりの含有量(w/w%)を求めた。酸度はサンプルのpHをpH計で測定することで求めた。含水量はサンプリングした茶葉の適量を105℃の恒温槽で約1時間乾燥し、質量変化がほぼ無くなった時点で乾燥後の質量とした。乾燥前後の質量から含水率を求めた。それらの結果をそれぞれ図1図3図5に示した。また、別な態様として、初期の含水率を43w/w%に調整して、前記と同様に発酵を行った。この場合の結果をそれぞれ図2図4図6に示した。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明によると従前の製造工程とほぼ同様の工程で、没食子酸を比較的多く含む後発酵茶を製造できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2023-03-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
殺青処理した茶葉を微生物で発酵させる工程を有する後発酵茶葉の製造方法であって、
殺青処理した茶葉に水を与えて、その含水率を25w/w%以上45w/w%以下に調整した後に発酵を開始させ、茶葉の酸度が極小点を下回った後、pH5.0±0.2の範囲で茶葉の発酵を停止させることを特徴とする後発酵茶葉の製造方法。
【請求項2】
前記極小点はpH4.8未満である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
発酵停止後の茶葉における没食子酸含有量が3.0w/w%以上である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
殺青処理した茶葉に水を与えて、その含水率を25w/w%以上45w/w%以下に調整した茶葉を微生物で発酵を開始した後、茶葉の酸度が極小点を下回った後、pH5.0±0.2の範囲で茶葉の発酵を停止させて得られた後発酵茶葉から得られた抽出物。