(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158583
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】蓄電デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 50/536 20210101AFI20241031BHJP
H01M 50/533 20210101ALI20241031BHJP
H01G 11/72 20130101ALI20241031BHJP
H01G 11/86 20130101ALI20241031BHJP
H01G 11/76 20130101ALI20241031BHJP
【FI】
H01M50/536
H01M50/533
H01G11/72
H01G11/86
H01G11/76
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073900
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 靖幸
【テーマコード(参考)】
5E078
5H043
【Fターム(参考)】
5E078AB02
5E078BA18
5E078BA27
5E078BA44
5E078BA53
5E078CA02
5E078CA06
5E078DA03
5E078DA06
5E078FA02
5E078FA13
5E078FA21
5E078FA23
5E078FA24
5E078KA02
5E078KA07
5E078KA08
5H043AA19
5H043BA01
5H043BA11
5H043BA17
5H043CA04
5H043CA12
5H043EA07
5H043EA39
5H043HA17E
5H043HA40E
5H043JA09E
5H043KA11E
5H043KA15E
(57)【要約】
【課題】集電箔の溶断を抑制し得る蓄電デバイスの製造方法を提供する。
【解決手段】ここで開示される製造方法は、正極40と、負極60とを備える蓄電デバイスの製造方法であって、正極40および負極60のうちの少なくとも一方の電極において、複数の積層された集電箔と集電体とを重ね合わせることを含む。また、当該製造方法は、レーザ光透過部材200を上記重ね合わせた集電箔上に配置することを含み、ここで、レーザ光透過部材200の一部を当該重ね合わせた集電箔の端部からはみ出す位置に配置する。さらに、当該製造方法は、レーザ光Lをレーザ光透過部材200を通過させて上記重ね合わせた複数の集電箔の上記端部を含む領域に照射し、上記重ね合わせた複数の集電箔と上記集電体とを溶接することを含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の積層された正極集電箔と、該積層された正極集電箔に接続された正極集電体とを備える正極と、
複数の積層された負極集電箔と、該積層された負極集電箔に接続された負極集電体とを備える負極と
を備える蓄電デバイスの製造方法であって:
前記正極および前記負極のうちの少なくとも一方の電極において、前記複数の積層された集電箔と前記集電体とを重ね合わせること;
レーザ光透過部材を前記重ね合わせた集電箔上に配置すること、ここで、該レーザ光透過部材の一部を該重ね合わせた集電箔の端部からはみ出す位置に配置する;および
レーザ光を前記レーザ光透過部材を通過させて前記重ね合わせた複数の集電箔の前記端部を含む領域に照射し、前記重ね合わせた複数の集電箔と前記集電体とを溶接すること;
を含む、蓄電デバイスの製造方法。
【請求項2】
前記レーザ光透過部材を前記集電体側に向かって押圧しながら、前記溶接を行う、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記重ね合わせた集電箔の前記端部が、前記レーザ光透過部材と接している前記集電箔よりも、前記集電体に接している前記集電箔の方が延出するように構成された傾斜部を有する、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記傾斜部の前記集電体側に接している前記集電箔の延出した部分から、前記傾斜部の前記レーザ光透過部材と接する部分に至るまで前記レーザ光を走査して前記溶接を行うことを含む、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記レーザ光透過部材の厚み2mmの試験片の該厚み方向における前記レーザ光波長の透過率が80%以上である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記レーザ光透過部材の前記レーザ光が通過する部分の厚みが5mm以下である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項7】
複数の積層された正極集電箔と、該積層された正極集電箔に接続された正極集電体とを備える正極と、
複数の積層された負極集電箔と、該積層された負極集電箔に接続された負極集電体とを備える負極と
を備える蓄電デバイスであって、
前記正極および前記負極のうちの少なくとも一方の電極が、前記集電箔が複数積層された状態で前記集電体と接合しているレーザ溶接部を有しており、
ここで、前記レーザ溶接部は、前記集電箔の端部に設けられている、
蓄電デバイス。
【請求項8】
前記集電体と、前記複数積層された集電箔とが当該積層方向に重ね合わされており、
前記複数積層された集電箔の前記レーザ溶接部が設けられた側の前記端部が、前記積層方向において、前記集電体に近づくほど前記集電箔が延出した傾斜部を含む、請求項7に記載の蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電極体が備える各電極の複数の集電箔と集電体とを接合には、抵抗溶接若しくは超音波溶接が広く用いられている。一方でコスト削減の観点から、レーザ溶接による複数の集電箔と集電体との接合の技術開発が行われている。例えば、特許文献1には、金属箔の密着性を高めるためを仮止め接合することを含むレーザ溶接技術が開示されている。また、特許文献2~4には、金属箔のレーザ溶接予定領域の周囲を治具により押圧してレーザ溶接する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-140890号公報
【特許文献2】特開2014-136242号公報
【特許文献3】特開2016-030280号公報
【特許文献4】特開2019-067570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、複数の積層された集電箔と集電体とをレーザ溶接をした場合に、主にレーザ光が照射された部分において凹みが生じることがある。当該凹みは、集電箔と集電体との境界面にまで達する場合があり、この場合に集電体と集電箔とが溶接される接合幅が減ってしまう。
【0005】
そこで、本開示の主な目的は、集電箔と集電体との接合性を向上し得る技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示により、複数の積層された正極集電箔と、該積層された正極集電箔に接続された正極集電体とを備える正極と、複数の積層された負極集電箔と、該積層された負極集電箔に接続された負極集電体とを備える負極とを備える蓄電デバイスの製造方法が提供される。ここで開示される製造方法の一態様は、上記正極および上記負極のうちの少なくとも一方の電極において、上記複数の積層された集電箔と上記集電体とを重ね合わせることを含む。また、当該製造方法は、レーザ光透過部材を上記重ね合わせた集電箔上に配置することを含み、ここで、該レーザ光透過部材の一部を該重ね合わせた集電箔の端部からはみ出す位置に配置することを含む。さらに、当該製造方法は、レーザ光を上記レーザ光透過部材を通過させて上記重ね合わせた複数の集電箔の上記端部を含む領域に照射し、上記重ね合わせた複数の集電箔と上記集電体とを溶接することを含む。
【0007】
本発明者の検討により、複数の積層された集電箔と集電体とをレーザ溶接をした場合に、レーザ光が照射された部分において凹みが生じる一因は、レーザ光が照射された部分に生じる金属蒸気がその場に留まることであることが見出された。上記製造方法によれば、重ね合わせた複数の集電箔の端部を含む領域にレーザ光を照射するため、レーザ溶接により発生する金属蒸気が、レーザ光Lが照射された部分に留まらず、隣接する空間に拡散させる(逃がす)ことができる。これにより、集電箔と集電体とにわたって形成されるレーザ溶接部の溶接幅(接合区間)の損失を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る非水電解質二次電池の構成を大まかに示す模式的な断面図である。
【
図2】
図2は、一実施形態に係る非水電解質二次電池の電極体の構成を模式的に示す分解図である。
【
図3】
図3は、一実施形態に係るレーザ溶接方法を示す模式図である。
【
図4】
図4は、一実施形態に係るレーザ溶接部の近傍の断面を示す模式図である。
【
図5】
図5は、変形例に係るレーザ溶接方法を示す模式図である。
【
図6】
図6は、実施例1におけるレーザ溶接部近傍の断面SEM画像である。
【
図7】
図7は、実施例2におけるレーザ溶接部近傍の断面SEM画像である。
【
図8】
図8は、比較例におけるレーザ溶接部近傍の断面SEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本技術について詳細に説明する。本明細書において特に言及している事項(例えば、集電箔と集電体とのレーザ溶接方法など)以外の事柄であっても本技術の実施に必要な事柄(例えば、蓄電デバイスの組み立て方等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本技術の内容は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0010】
各図面は模式的に描かれており、寸法関係(長さ、幅、厚み等)は実際の寸法関係を必ずしも反映するものではない。また、以下に説明する図面において、同じ作用を奏する部材、部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略または簡略化することがある。
また、本明細書において、数値範囲を「A~B(ここでA、Bは任意の数値)」と記載している場合は、「A以上B以下」を意味すると共に、「Aを超えてB未満」、「Aを超えてB以下」、および「A以上B未満」の意味を包含する。
【0011】
本明細書において「蓄電デバイス」とは、充電と放電とを行うことができるデバイスをいう。蓄電デバイスには、一次電池、二次電池(例えば、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素電池)等の電池と、電気二重層キャパシタ等のキャパシタ(物理電池)とが包含される。以下では、ここで開示される製造方法によって製造される蓄電デバイスの一実施形態である非水電解質二次電池について説明する。なお、本技術により製造される蓄電デバイスは非水電解質二次電池に限定されるものではない。
【0012】
図1は、一実施形態に係る非水電解質二次電池100の構成を大まかに示す模式的な断面図である。非水電解質二次電池100は、電極体20と、ケース30と、正極40と、負極60と、非水電解質(図示せず)とを備える。正極40は、正極端子42と、正極集電体44と、正極板50とを備える。負極60は、負極端子62と、負極集電体64と負極板70とを備える。特に限定されないが、本実施形態では、非水電解質二次電池100はリチウムイオン二次電池である。
【0013】
図1に示すように、非水電解質二次電池100は、ケース30の内部に、扁平形状の電極体(捲回電極体)20と、非水電解質(図示せず)とが収容されて構築される角形の密閉型電池である。ケース30は、開口を有するケース本体32と、該開口を封止する封口部材34とを備える。封口部材34は、ここでは板状である。封口部材34には、外部接続用の正極端子42および負極端子62が備えられている。また、封口部材34には、ケース30の内圧が所定レベル以上に上昇した場合に該内圧を開放するように設定された薄肉の安全弁36が設けられている。さらに、ケース30には、非水電解質を注入するための注入口(図示せず)が設けられている。ケース30の材質は、高強度であり軽量で熱伝導性が良い金属材料であることが好ましい。このような金属材料として、例えば、アルミニウムやスチール等が挙げられる。
【0014】
図2は、一実施形態に係る非水電解質二次電池100の電極体20の構成を模式的に示す分解図である。
図2においては、電極体20は、長尺シート状の正極板50と、長尺シート状の負極板70とが、2枚の長尺シート状のセパレータ80を介してそれぞれの長手方向が揃うようにして積層され、捲回軸WLを中心として長手方向に捲回された捲回電極体である。正極板50は、正極集電箔52と、該正極集電箔52の片面または両面(ここでは両面)において長手方向に配置された正極活物質層54とを備えている。正極集電箔52の捲回軸WL方向(即ち、長手方向に直交するシート幅方向)の一方の縁部には、該縁部に沿って帯状に正極活物質層54が形成されずに正極集電箔52が露出した部分(即ち、正極集電箔露出部52a)が設けられている。負極板70は、負極集電箔72と、該負極集電箔72の片面または両面(ここでは両面)において長手方向に配置された負極活物質層74とを備えている。負極集電箔72の捲回軸WL方向の他方の縁部(即ち、正極集電箔露出部52aとは反対側の縁部)には、該縁部に沿って帯状に負極活物質層74が形成されずに負極集電箔72が露出した部分(即ち、負極集電箔露出部72a)が設けられている。
【0015】
電極体20は、電極体20の厚み方向において、正極集電箔露出部52aが複数積層された積層部52sを有している。積層部52sは、例えば、正極集電箔52が捲回されることで形成される。積層部52sの一部は、正極集電体44とレーザ溶接により接合されている。即ち、積層部52sと正極集電体44とは、レーザ溶接部を介して接続(接合)されている。レーザ溶接部は、例えば、積層部52sの端部52e(
図1の電極体20の左側の端部)に設けられている。該レーザ溶接部については後述する(後述の
図4のレーザ溶接部90参照)。積層部52sにおける正極集電箔52(正極集電箔露出部52a)の積層数は、例えば10~120、又は20~100程度であり得る。負極集電箔72は、電極体20の厚み方向において、負極集電箔露出部72aが複数積層された積層部72sを有している。積層部72sの一部は、例えば、負極集電体64とレーザ溶接により接合されている。即ち、積層部72sと負極集電体64とは、レーザ溶接部を介して接続(接合)されていてもよい。積層部72sにおける負極集電箔72(負極集電箔露出部72a)の積層数は、例えば10~120、又は20~100程度であり得る。負極60における集電箔と集電体との接合は、正極40と同様であってよく、異なっていてもよい。例えば、負極60における集電箔と集電体との接合部は、超音波接合部、抵抗溶接部等であってよい。
【0016】
なお、正極集電箔52は、正極集電箔52の短手方向の端部から延出して設けられたタブを有していてもよい。タブの形状は特に限定されず、例えば、平面視において、台形状、矩形状等であり得る。当該タブには、例えば正極集電箔露出部52aが設けられる。この場合、電極体20は、当該タブが複数積層された積層部52sを設けることができる。負極集電箔72にもタブが設けられてもよい。当該タブの構成は上述した正極集電箔52のタブと同様であってよい。
【0017】
正極集電体44は、正極集電箔露出部52aと接合されるレーザ溶接部が設けられる部分が板状であることが好ましい。また、正極集電体44全体が板状であってもよい。正極集電体44の正極集電箔露出部52aと接合される部分の厚みは、例えば0.5mm~3mmであり得る。
負極集電体64は、負極集電箔露出部72aと接合されるレーザ溶接部が設けられる部分が板状であることが好ましい。また、負極集電体64全体が板状であってもよい。例えば板状であり得る。負極集電体64の負極集電箔露出部72aと接合される部分の厚みは、例えば0.5~3mmであり得る。
【0018】
正極端子42と封口部材34との間には、正極端子42と封口部材34との絶縁をするための絶縁部材(図示せず)が配置され得る。絶縁部材は、例えば電気絶縁性を有する樹脂部材によって構成される。かかる樹脂としては、例えば、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン樹脂、パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素化樹脂や、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等が挙げられる。また、負極端子62と封口部材34との間、正極集電体44と封口部材34との間、負極集電体64と封口部材34との間にも上記絶縁部材が配置されてもよい。
【0019】
正極集電箔52としては、例えば、アルミニウム箔等が挙げられる。正極集電箔52の厚みは、例えば5~20μmであり得る。正極活物質層54は正極活物質を含む。正極活物質としては、リチウムイオン二次電池に用いられる公知の正極活物質を用いてよく、例えば層状構造、スピネル構造、オリビン構造等を有するリチウム複合金属酸化物(例えば、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiNiO2、LiCoO2、LiFeO2、LiMn2O4、LiNi0.5Mn1.5O4,LiCrMnO4、LiFePO4等)が挙げられる。また、正極活物質層54は、導電材、バインダ等を含んでいてもよい。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやその他(グラファイト等)の炭素材料を好適に使用し得る。バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を使用し得る。
正極活物質層54は、正極活物質と、必要に応じて用いられる材料(導電材、バインダ等)とを適当な溶媒(例えばN-メチル-2-ピロリドン:NMP)に分散させ、ペースト状(またはスラリー状)の組成物(正極合剤ペースト)を調製し、該組成物の適当量を正極集電箔52の表面に塗工し、乾燥することによって形成することができる。
【0020】
負極集電箔72としては、例えば、銅箔等が挙げられる。負極集電箔72の厚みは、例えば5~20μmであり得る。負極活物質層74は、負極活物質を含む。負極活物質としては、例えば黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料を使用し得る。また、負極活物質層74は、バインダ、増粘剤等をさらに含んでいてもよい。バインダとしては、例えばスチレンブタジエンゴム(SBR)等を使用し得る。増粘剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)等を使用し得る。
負極活物質層74は、例えば、負極活物質と必要に応じて用いられる材料(バインダ等)とを適当な溶媒(例えばイオン交換水)に分散させ、ペースト状(またはスラリー状)の組成物を調製し、該組成物の適当量を負極集電箔72の表面に塗工し、乾燥することによって形成することができる。
【0021】
セパレータ80としては、従来と同様の各種微多孔質シートを用いることができ、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等の樹脂から成る微多孔質樹脂シートが挙げられる。かかる微多孔質樹脂シートは、単層構造であってもよく、二層以上の複層構造(例えば、PE層の両面にPP層が積層された三層構造)であってもよい。また、セパレータ80は、耐熱層(HRL)を備えていてもよい。
【0022】
非水電解質は従来と同様のものを使用可能であり、例えば、有機溶媒(非水溶媒)中に、支持塩を含有させた非水電解液を用いることができる。非水溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類等の非プロトン性溶媒を用いることができる。なかでも、カーボネート類、例えば、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等を好適に採用し得る。あるいは、モノフルオロエチレンカーボネート(MFEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、モノフルオロメチルジフルオロメチルカーボネート(F-DMC)、トリフルオロジメチルカーボネート(TFDMC)のようなフッ素化カーボネート等のフッ素系溶媒を好ましく用いることができる。このような非水溶媒は、1種を単独で、あるいは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。支持塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiClO4等のリチウム塩を好適に用いることができる。支持塩の濃度は、特に限定されるものではないが、0.7mol/L以上1.3mol/L以下程度が好ましい。
なお、上記非水電解質は、本技術の効果を著しく損なわない限りにおいて、上述した非水溶媒、支持塩以外の成分を含んでいてもよく、例えば、ガス発生剤、被膜形成剤、分散剤、増粘剤等の各種添加剤を含み得る。
【0023】
非水電解質二次電池100等の蓄電デバイスは、各種用途に利用可能であるが、例えば、乗用車、トラック等の車両に搭載されるモータ用の動力源(駆動用電源)として好適に用いることができる。車両の種類は特に限定されないが、例えば、プラグインハイブリッド自動車(Plug-in Hybrid Electric Vehicle (PHEV))、ハイブリッド自動車(Hybrid Electric Vehicle (HEV))、電気自動車(Battery Electric Vehicle (BEV))等が挙げられる。
【0024】
また、ここで開示される蓄電デバイスの形状は角形に限定されず、コイン型、ボタン型、円筒型等であってよい。また、ラミネートケースを備える蓄電デバイスとして構成することもできる。また、ここで開示される蓄電デバイスは、非水電解液の代わりにポリマー電解質を用いたポリマー電池や、固体電解質を用いた全固体電池等であり得る。
【0025】
以下、ここで開示される蓄電デバイスの製造方法について説明する。ここで開示される製造方法は、例えば、正極または負極において、集電箔と集電体とレーザ光透過部材とを重ね合わせることを含む重ね合わせ工程と、レーザ光を上記レーザ光透過部材を通過させて集電箔に照射し、集電箔と集電体とをレーザ溶接する溶接工程とを含む。また、ここで開示される製造方法は、溶接工程の他に、例えば、準備工程、組立工程、収容工程、封口工程、注液工程等を必要に応じ、任意の順番で含んでいてもよい。以下、ここで開示される製造方法の一実施形態について説明する。
【0026】
準備工程では、例えば、電極体を準備する。電極体は、上述した電極体20のような捲回電極体であっても、複数の正極板と、複数の負極板とがセパレータを介して交互に積層された電極体である積層電極体であってもよい。ここでは、上述した電極体20を例に説明する。電極体20は、従来公知の手順で作製することができる。
【0027】
重ね合わせ工程は、正極40および負極60のうちの少なくとも一方の電極において、複数の積層された集電箔(集電箔露出部)と集電体とを重ね合わせること、および、レーザ光透過部材を上記重ね合わせた複数の集電箔上に配置すること、を含む。以下の説明では、正極40を例に説明する。
【0028】
図3は、一実施形態に係るレーザ溶接方法を示す模式図である。
図4は、一実施形態に係るレーザ溶接部の近傍の断面を示す模式図である。
図4は、例えば、
図3に示すレーザ溶接方法により形成されるレーザ溶接部の模式図であり得る。
図4は、上述した非水電解質二次電池100の正極集電箔52の積層部52sと正極集電体44とのレーザ溶接部90近傍の構成を模式的に示す図である。
【0029】
図3に示すように、本実施形態では、下板310と上板320とを備える治具が用いられる。図示は省略しているが、下板310と上板320とは、下板310と上板320との間の距離を任意に調整(固定)できるように構成されている。
【0030】
重ね合わせ工程では、例えば、まず下板310の上に正極集電体44を配置する。次に、正極集電体44の表面44aに、電極体20の正極集電箔52の積層部52sを重ね合わせる。このとき、電極体20の捲回軸WL方向における積層部52sの端部52eが正極集電体44の上に配置されるようにする。ここでは、積層部52sの端部52eにおいて、積層部52sの重ねられている正極集電箔52のそれぞれの端部は積層部52sの積層方向に沿って揃えられている。
【0031】
積層部52sは、溶接予定領域400を有している。溶接予定領域400は、後述する溶接工程において、レーザ光Lが照射される領域である。本実施形態においては、溶接予定領域400は、積層部52sの端部52eを含んだ領域である。溶接予定領域400は、レーザ光Lの照射によって溶融する。これにより、積層部52sと正極集電体44とを接合するレーザ溶接部が形成される。
【0032】
次に、レーザ光透過部材200を積層部52sの上(最上面)に配置する。このとき、レーザ光透過部材200の一部を、積層部52sの端部52eからはみ出す位置に配置する。換言すれば、レーザ光透過部材200の一部と正極集電体44とにより、積層部52sが挟み込まれるようにレーザ光透過部材200を配置する。また、レーザ光透過部材200は、溶接予定領域400を覆うように配置する。これにより、レーザ光透過部材200が溶接予定領域400を積層部52sの積層方向から直接押さえることができる。これにより、溶接予定領域400における積層された正極集電箔52の箔間の隙間を低減させることができる。なお、レーザ光透過部材200を配置する際には、正極集電箔52の溶接予定領域400のシワを伸ばしてから、レーザ光透過部材200を配置することが好ましい。これにより、積層部52sの積層された箔間の空隙が減少し、レーザ溶接時の溶断が抑制される。
【0033】
図3に示すように、積層部52sの端部52eからはみ出して配置されるレーザ光透過部材200の一部と、当該一部と対向する正極集電体44との間には、レーザ光Lが照射された部分から生じる金属蒸気Aが通り抜け可能な空間500が設けられている。金属蒸気Aは、例えば、レーザ光Lが照射若しくはレーザ光Lの熱が伝達されて溶融した正極集電箔52または正極集電体44から生じる。なお、図中の金属蒸気Aの矢印の向きは、金属蒸気Aの拡散する方向の一例を示す。空間500は、積層部52sの端部52eからレーザ光透過部材200の端部まで連通した空間であることが好ましい。
【0034】
本技術では、当該空間500を設けることにより、金属蒸気Aがレーザ光Lが照射された部分に留まらず、金属蒸気Aを当該空間500に拡散させる(逃がす)ことができる。本技術では、積層部52sの端部52eを含む領域にレーザ光Lを照射するため、金属蒸気Aが積層部52sの端部52eにおいて発生するため、金属蒸気Aが当該空間500へと拡散し易い。本発明者の検討によれば、レーザ光Lが照射される部分から金属蒸気Aを拡散させる(逃がす)ことにより、集電箔と集電体とにわたって形成されるレーザ溶接部の溶接幅(接合区間)の損失を抑制できる(後述の試験例(例えば後述の
図6~8)を参照)。
【0035】
レーザ光透過部材200の形状は特に限定されないが、本実施形態においてはプレート状である。レーザ光透過部材200は、平面視において、円形状、楕円状、矩形状、多角形状でありうる。レーザ光透過部材200がプレート状であることで、レーザ光透過部材200を正極集電体44に向かって押さえた際に、レーザ光透過部材200と正極集電体44との間に挟まれた正極集電箔52をより均一な力で押さることができるため、箔間の隙間をより均一に低減することができる。なお、レーザ光透過部材200の大きさは、積層部52s(正極集電箔52)の溶接予定領域400を覆うことができれば特に限定されない。
【0036】
次に、上板320をレーザ光透過部材200の上に配置する。これにより、下板310と上板320とにより、正極集電体44、積層部52s、およびレーザ光透過部材200を挟み込む。これにより、正極集電体44、積層部52s、およびレーザ光透過部材200を固定することができる。また、限定されるものではないが、積層部52sの積層方向が鉛直方向に沿っていることが好ましい。これにより、重力により積層部52sの積層された箔間の隙間が低減され易くなる。
【0037】
なお、重ね合わせ工程において、正極集電体44、積層部52s、レーザ光透過部材200、および治具(ここでは下板310、上板320)の重ね合わせを行う順番は特に限定されない。本実施形態では、下板310から順にこれらを一つずつ上に重ね合わせているが、例えば、これらを同時に重ねてもよく、治具以外を重ね合わせてから治具に固定してもよい。
【0038】
レーザ光透過部材200のレーザ光Lが通過する部分の厚みは、例えば、5mm以下であるとよく、好ましくは4mm以下、より好ましくは3mm以下、さらに好ましくは2mm以下である。レーザ光Lがレーザ光透過部材200を通過する距離が短いほど、レーザ光Lの拡散が抑えられ、レーザ溶接の精度が向上し得る。また、レーザ光透過部材200のレーザ光Lが通過する部分の厚みは、例えば、0.2mm以上であるとよく、好ましくは0.5mm以上、より好ましくは0.8mm以上、さらに好ましくは1mm以上である。レーザ光透過部材200の厚みが小さすぎると強度が不十分になり得る。なお、レーザ光透過部材200のレーザ光Lが通過する部分の厚みは、例えば、複数の積層部52sの積層方向における厚みであり得る。
【0039】
レーザ光透過部材200は、レーザ溶接に用いられるレーザ光Lを透過できる材料によって構成され得る。レーザ光透過部材200は、例えば透明であり得る。レーザ光透過部材200のレーザ波長の透過率は、例えば、70%以上であって、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上である。レーザ光透過部材200のレーザ波長の透過率が高いほど、レーザ光Lが正極集電箔52の溶接予定領域400に精度よく到達するため、レーザ溶接精度が向上する。レーザ波長は、使用するレーザ光の波長に合わせて測定すればよく、例えば、900nm~1200nm(例えば、1070nm)のレーザ波長に対する透過率であり得る。なお、上記透過率は、レーザ光透過部材200のうち、レーザ光Lを通過させる部分における透過率のことをいう。
本明細書において、レーザ波長の透過率は、レーザ光を所定の時間パワーメータに照射したときにパワーメータで測定されるエネルギーを100%としたとき、レーザ光をレーザ光透過部材を通過させてパワーメータに照射したときにパワーメータで測定されるエネルギーの比率として算出される。
【0040】
レーザ光透過部材200は、集電箔と集電体とのレーザ溶接時に発生する熱に耐え得る材料によって構成されることが好ましい。換言すれば、レーザ光透過部材200は、集電箔の融点よりも高い融点を有した材料で構成されることが好ましい。レーザ光透過部材200の融点は、例えば、800℃以上であって、1200℃以上、1600℃以上、1700℃以上、1800℃以上、1900℃以上、2000℃以上、2100℃以上、2200℃以上、2300℃以上、または2400℃以上であり得る。
【0041】
レーザ光透過部材200を構成する材料としては、例えば、YAG(融点:約1970℃)、Y2O3(融点:約2425℃)、サファイア(融点:約2040℃)、石英ガラス(融点:約1723℃)等が挙げられる。YAG、Y2O3は上記例示の中で比較的理論密度が高い。例えば、レーザ光透過部材200がYAGまたはY2O3で構成されている場合、密度が4g/cm3以上、好ましくは4.5g/cm3以上、より好ましくは5g/cm3以上であり得る。これにより、例えば、鉛直方向に沿ってレーザ光透過部材200を、積層部52sの上に配置した場合に、レーザ光透過部材200の自重により、積層部52sの箔間の隙間を低減し易くなる。
なお、上述したレーザ光透過部材200を構成し得る材料は、レーザ光透過部材200を主要に構成する成分であればよく、例えば、他の元素がドープされたものを含み得る。ドープされる元素の割合は、例えば、全体の5mol%以下、3mol%以下、または1mol%以下であり得る。
【0042】
溶接工程では、例えば、積層部52sの溶接予定領域400にレーザ光Lを照射する。このとき、レーザ光Lが溶接予定領域400を覆うレーザ光透過部材200を通過するようにレーザ光Lを照射する。例えば、レーザ光Lをレーザ光透過部材200の厚み方向からこれにより、溶接予定領域400における正極集電箔52の間の隙間を低減させた状態で、レーザ光Lを溶接予定領域400に照射することができる。
【0043】
レーザ光Lを照射するときに、レーザ光透過部材200を正極集電体44側に向かって押圧することが好ましい。例えば、下板310と上板320とにより正極集電体44、積層部52s、およびレーザ光透過部材200を挟み込むことで、押圧することができる。これにより、レーザ光透過部材200と正極集電体44との間に配置される積層部52sにおける箔間の隙間が低減され、接合性が向上する。
【0044】
レーザ光透過部材200を正極集電体44側に向かって押圧することで、積層部52sの溶接予定領域400の積層方向において正極集電箔52間の隙間が実質的になくなることが好ましい。例えば、積層部52sの複数の積層された正極集電箔52の厚みの合計(正極集電箔52の1枚あたりの厚み×積層されている枚数)を100%としたとき、レーザ光透過部材200により押圧されている溶接予定領域400における積層部52sの積層方向の厚みは110%以下であるとよく、105%以下が好ましく、100%以下であることがより好ましい。これにより、レーザ溶接時の集電箔の溶断が抑制され、接合性が向上する。なお、レーザ光透過部材200により押圧されている溶接予定領域400における積層部52sの積層方向の厚みの下限は特に限定されず、レーザ光透過部材200の押圧により集電箔が破断しなければよい。正極集電箔52は金属製であるため、元の厚さよりも薄くなる場合がある得る。そのため、レーザ光透過部材200により押圧されている溶接予定領域400における積層部52sの積層方向の厚みの下限は、例えば、90%以上、または95%以上であり得る。
【0045】
レーザ光透過部材200を正極集電体44に向かって押圧する圧力は、特に限定されないが、例えば、10N~200Nであって、好ましくは100N~200Nである。
【0046】
レーザ光Lは、積層部52s(正極集電箔52)の1の領域に対して照射してもよいが、離間した2以上の複数箇所に照射してもよい。即ち、積層部52sの溶接予定領域400は1または2以上であり得る。
【0047】
また、溶接予定領域400は、レーザ光Lの照射径程度の点であってもよく、線であってもよい。溶接予定領域400が線である場合は、レーザ光Lまたは正極集電箔52を所定の方向に移動(走査)させながらレーザ照射を行ってもよい。この場合、レーザ溶接部の面積が広くなり、より強固に正極集電箔52と正極集電体44とを溶接することができる。
【0048】
溶接予定領域400にレーザ光Lを照射するとき、溶接予定領域400の中でも、積層部52sの端部52eからレーザ光Lを照射することが好ましい。換言すれば、積層部52sの端部52eを始点として、レーザ光Lを走査することが好ましい。これにより、金属蒸気Aが積層部52sの端部52eに隣接する空間500へと流れ易くなり、接合性が向上する。
【0049】
レーザ光Lの走査方向は特に限定されないが、例えば、積層部52sの端部52eに沿ってレーザ光Lを走査することが好ましい。これにより、発生する金属蒸気Aがいずれも積層部52sの端部52eに隣接する空間500へと流れ易くなるため接合性が向上する。
【0050】
レーザ光Lの種類は、特に限定されず、集電箔と集電体との構成材料に応じて適宜選択されうる。レーザ光Lの種類としては、YAGレーザ、CO2レーザ、半導体レーザ、ディスクレーザ、ファイバーレーザ等が挙げられる。レーザ光Lの照射径は、例えば、0.5mm~1.0mmに設定され得る。
レーザ光Lの照射径、出力、照射時間等の諸条件は、例えば、レーザ溶接に供する集電箔及び集電体の材質、集電箔の積層数等によって適宜設定されうる。
【0051】
図4に示すように、レーザ光Lを正極集電箔52の溶接予定領域400に照射することで、溶接予定領域400に対応した位置(その周囲も含む)にレーザ溶接部90が形成される。レーザ溶接部90は、例えば、正極集電箔52と正極集電体44とが溶融し凝固して相互に接合された部位である。レーザ溶接部90は、複数の積層された正極集電箔52の最上層から最下層まで接合している(即ち、溶断していない)。
【0052】
レーザ溶接部90は、
図4に示すように、積層部52sの端部52e(正極集電箔52の端部)に設けられている。レーザ溶接部90は、積層部52sの最上面(正極集電体44から遠い側の外面)から正極集電体44に向かって外側に傾斜した傾斜部92を有している。傾斜部92は、積層部52sの端部52eの正極集電箔52が溶融し、正極集電体44に向かって流れて凝固したことで生じる構造であり得る。
【0053】
上述したレーザ溶接方法は、負極60においても同様に適用することができる。本実施形態では、負極集電箔72と負極集電体64とを正極40と同様にレーザ溶接している。
【0054】
組立工程では、例えば、封口部材34に取り付けられた正極端子42に電極体20に取り付けられた正極集電体44を接合し、封口部材34に取り付けられた負極端子62に電極体20に取り付けられた負極集電体64を接合することで、封口部材34、電極体20、正極端子42、正極集電体44、負極端子62、および負極集電体64を備える組立体を構築する。各部材の取り付け方法は公知方法に従えばよく、例えば、カシメ加工、レーザ溶接、超音波溶接、抵抗溶接等で接合することができる。なお、各電極の集電体と端子とは、溶接工程後に接合しなくてもよく、溶接工程前に予め接合されていてもよい。
【0055】
収容工程では、例えば、電極体20をケース本体32の内部へ収容する。ここでは、上記構築した組立体の電極体20をケース本体32へと収容し、封口部材34をケース本体32の開口と重ね合わせる。このとき、予め袋状または箱状に成形した絶縁フィルムを電極体20とケース本体32との間に配置してもよい。
【0056】
封口工程では、例えば、封口部材34とケース本体32とが重ね合わされた部分を溶接し、ケース本体32を封止する。溶接方法は従来公知の方法に従えばよく、例えばレーザ溶接により溶接される。
【0057】
注液工程では、ケース30に設けられた注入口から、従来公知の方法に従って非水電解質を注入する。なお、蓄電デバイスの種類によっては、注液工程は省略される。
【0058】
その後、例えば、所定の条件の下、初期充電、エージング処理等を行うことで、使用可能状態の非水電解質二次電池100(蓄電デバイス)が作製される。
【0059】
以上、ここで開示される技術について説明したが、上述した実施形態は一例に過ぎない。本技術は、他にも種々の形態にて実施することができる。請求の範囲に記載の技術には、上記に例示した実施形態を様々に変形、変更したものが含まれる。例えば、上記した実施形態の一部を他の変形態様に置き換えることも可能であり、上記した実施形態に他の変形態様を追加することも可能である。また、その技術的特徴が必須なものとして説明されていなければ、適宜削除することも可能である。
【0060】
以下、本技術の変形例について説明する。
図5は、変形例に係るレーザ溶接方法の模式図である。上述した実施形態では、
図3に示すように、積層部52sの端部52eにおいて、積層部52sで重ねられている正極集電箔52の端部が揃えられていた。しかしながら、積層部52sの端部52eに傾斜部52bが設けられていてもよい。傾斜部52bは、積層部52sの最上層の正極集電箔52(レーザ光透過部材200と接している正極集電箔52)よりも、積層部52sの最下層の正極集電箔52(正極集電体44に接している正極集電箔52)の方が延出するように設けられている。傾斜部52bは、積層部52sの積層方向において、正極集電体44に近づくほど積層部52sの正極集電箔52が延出するように構成されることが好ましく、例えば、傾斜部52bは階段状に設けられる。傾斜部52bにおいては、延出した正極集電箔52とレーザ光透過部材200との間に隙間(空間500と連続した空間)が生じるため、レーザ光Lを照射したときに発生する金属蒸気Aが拡散し易くなる。これにより、集電箔と集電体との接合幅の損失が抑制され、接合性が向上する。
【0061】
変形例においては、積層部52sの端部52eの傾斜部52bを含む領域にレーザ光Lを照射する。レーザ光Lを走査する方向は特に限定されない。例えば、
図5に示すように、レーザ光Lを、傾斜部52bにおいて、正極集電体44に接している正極集電箔52の延出した部分(端部)から、レーザ光透過部材200に接している正極集電箔52の端部に至るまで走査すること(レーザ光Lを
図5の矢印方向に走査し、破線部で示すレーザ光L’の位置まで走査すること)が好ましい。これにより、金属蒸気Aがより拡散し易くなり、接合性が向上する。なお、傾斜部52bのうち、レーザ光Lが照射されない部分は製造される非水電解質二次電池の内部においても、その構造が保持され得る。
【0062】
正極集電体44の積層部52sが配置された表面44aに対する傾斜部52bの角度は、特に限定されないが、例えば、30°以上であって、45°以上が好ましく、60°以上がより好ましい。傾斜部52bの上記角度が小さくなりすぎると、傾斜部52bの全体的な厚みが小さくなり、正極集電箔52が溶断し易くなるおそれがある。傾斜部52bの上記角度の上限は特に限定されないが、例えば、80°以下、75°以下、または70°以下であり得る。
なお、傾斜部52bの角度は、正極集電箔52の延出した方向に沿った断面において、最上層の正極集電箔52の端部と最下層の正極集電箔52の端部とを繋いだ直線と、正極集電体44の表面44aとがなす角度のことをいう。
【0063】
また、上述した実施形態では、積層部52sに接しているレーザ光透過部材200の領域上に配置されており、積層部52sの端部52eからはみ出して配置されるレーザ光透過部材200の一部の上に配置されていなかった。しかしながら、これに限定されず、上板320が、積層部52sに接しているレーザ光透過部材200の領域上に配置するのに加え、積層部52sの端部52eからはみ出して配置されるレーザ光透過部材200の一部の上にも配置されていてよい。例えば、上板320を2枚以上準備してもよく、レーザ光Lが通過可能な領域(例えば貫通孔)を備えた上板を準備してもよい。これにより、積層部52sの端部52eにおいて、積層部52sの箔間の隙間が好適に低減され得る。
【0064】
以下、ここで開示される技術の試験例について説明する。ただし、ここで開示される技術は試験例に示すものに限定されるものではない。
【0065】
<実施例1>
アルミニウム製の板状の正極集電体と、アルミニウム製の複数の正極集電箔とを準備した。レーザ光透過部材として、厚みが1mmのプレート状の石英ガラス(融点1723℃、レーザ波長の透過率82%)を準備した。
図3に示す構成の治具を準備した。
図3と同様に正極集電体、複数の正極集電箔、およびレーザ光透過部材を重ね合わせて治具にセットし、レーザ光透過部材を正極集電体側に向かって押圧した。この状態を維持したまま、レーザ光透過部材の厚み方向からYAGレーザ(出力:2000W、照射時間:0.005秒、レーザ投入熱量:10J)をレーザ光透過部材を通過させて正極集電箔の端部に照射し、正極集電箔の端部に沿ってYAGレーザを走査した。これにより、正極集電箔と正極集電体とのレーザ溶接を行った。レーザ溶接部近傍の断面SEM画像を
図6に示す。なお、
図6において、太い破線で囲まれた部分はレーザ溶接部を示す(
図7、8において同じ)。
【0066】
<実施例2>
実施例1と同じ正極集電体、複数の正極集電箔、およびレーザ光透過部材を準備した。複数の正極集電箔は端部が階段状の傾斜部になるように積層し、
図5と同様に、正極集電体、複数の正極集電箔、およびレーザ光透過部材を重ね合わせて治具にセットした。実施例1と同様の条件のYAGレーザを複数の正極集電箔の傾斜部の下端(正極集電体に接する正極集電箔の端部)から上端(レーザ光透過部材に接する正極集電箔の端部)まで走査し、レーザ溶接を行った。レーザ溶接部近傍の複数の正極集電箔52の傾斜部が延出した方向に対し垂直方向の断面SEM画像を
図7に示す。
【0067】
<比較例>
実施例1のうち、YAGレーザを照射する部分を正極集電箔の端部ではなく、正極集電箔の中央側(端部を含まない領域)に変更した以外は同様にしてレーザ溶接を行った。レーザ溶接部近傍の断面SEM画像を
図8に示す。
【0068】
図8に示すように、比較例では、正極集電箔は溶断されていないものの、レーザ溶接部に正極集電箔側から正極集電体側に向かって凹んだ凹部が形成された。当該凹部は、正極集電体の正極集電箔が配置された表面を超えて形成されており、正極集電箔と正極集電体との接合区間の一部が損失した区間が生じた。一方で、
図6および
図7に示すように、実施例1、2では、レーザ溶接部に比較例のような凹部が形成されておらず、正極集電箔と正極集電体との接合区間が損失しなかった。
【0069】
以上のとおり、ここで開示される技術の具体的な態様として、以下の各項に記載のものが挙げられる。
項1:
複数の積層された正極集電箔と、該積層された正極集電箔に接続された正極集電体とを備える正極と、
複数の積層された負極集電箔と、該積層された負極集電箔に接続された負極集電体とを備える負極と
を備える蓄電デバイスの製造方法であって:
上記正極および上記負極のうちの少なくとも一方の電極において、上記複数の積層された集電箔と上記集電体とを重ね合わせること;
レーザ光透過部材を上記重ね合わせた集電箔上に配置すること、ここで、該レーザ光透過部材の一部を該重ね合わせた集電箔の端部からはみ出す位置に配置する;および
レーザ光を上記レーザ光透過部材を通過させて上記重ね合わせた複数の集電箔の上記端部を含む領域に照射し、上記重ね合わせた複数の集電箔と上記集電体とを溶接すること;
を含む、蓄電デバイスの製造方法。
項2:上記レーザ光透過部材を上記集電体側に向かって押圧しながら、上記溶接を行う、項1に記載の製造方法。
項3:上記重ね合わせた集電箔の上記端部が、上記レーザ光透過部材と接している上記集電箔よりも、上記集電体に接している上記集電箔の方が延出するように構成された傾斜部を有する、項1または2に記載の製造方法。
項4:上記傾斜部の上記集電体側に接している上記集電箔の延出した部分から、上記傾斜部の上記レーザ光透過部材と接する部分に至るまで上記レーザ光を走査して上記溶接を行うことを含む、項3に記載の製造方法。
項5:上記レーザ光透過部材の厚み2mmの試験片の該厚み方向における上記レーザ光波長の透過率が80%以上である、項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
項6:上記レーザ光透過部材の上記レーザ光が通過する部分の厚みが5mm以下である、項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
項7:
複数の積層された正極集電箔と、該積層された正極集電箔に接続された正極集電体とを備える正極と、
複数の積層された負極集電箔と、該積層された負極集電箔に接続された負極集電体とを備える負極と
を備える蓄電デバイスであって、
上記正極および上記負極のうちの少なくとも一方の電極が、上記集電箔が複数積層された状態で上記集電体と接合しているレーザ溶接部を有しており、
ここで、上記レーザ溶接部は、上記集電箔の端部に設けられている、
蓄電デバイス。
項8:
上記集電体と、上記複数積層された集電箔とが当該積層方向に重ね合わされており、
上記複数積層された集電箔の上記レーザ溶接部が設けられた側の上記端部が、上記積層方向において、上記集電体に近づくほど上記集電箔が延出した傾斜部を含む、項7に記載の蓄電デバイス。
【符号の説明】
【0070】
20 電極体
30 ケース
40 正極
42 正極端子
44 正極集電体
50 正極板
52 正極集電箔
52a 正極集電箔露出部
52b 傾斜部
52e 端部
52s 積層部
60 負極
62 負極端子
64 負極集電体
70 負極板
72 負極集電箔
72a 負極集電箔露出部
80 セパレータ
90 レーザ溶接部
92 傾斜部
100 非水電解質二次電池
200 レーザ光透過部材
400 溶接予定領域