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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158592
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】トラップ管
(51)【国際特許分類】
   E03C 1/28 20060101AFI20241031BHJP
   F16L 43/00 20060101ALI20241031BHJP
   F16L 9/133 20060101ALI20241031BHJP
   E03C 1/12 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
E03C1/28 A
F16L43/00
F16L9/133
E03C1/12 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073915
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000128980
【氏名又は名称】株式会社カクダイ
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100199369
【弁理士】
【氏名又は名称】玉井 尚之
(74)【代理人】
【識別番号】100228175
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 充紀
(72)【発明者】
【氏名】古川 喬
【テーマコード(参考)】
2D061
3H019
3H111
【Fターム(参考)】
2D061AA01
2D061AB00
2D061AC02
2D061AC05
2D061DD01
2D061DD03
3H019EA20
3H111BA15
3H111CB03
3H111DB05
(57)【要約】
【課題】簡易な構成で、かつ、製造も容易であり、優れた耐薬品性能を有しつつも、発色がよく、さらに、塗装、メッキ加工を施すことが容易で、外観も良く、外観のバリエーションも豊富なトラップ管を提供する。
【解決手段】トラップ管3は、トラップ部における排水に接触する内面を構成する、ポリプロピレン樹脂またはポリエチレン樹脂からなる内層300と、内層300の外側に積層され、ABS樹脂からなる外層310と、外層310の外側に積層され、トラップ部の外面を構成する被膜層330とを備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水管路に設けられるトラップ部を構成するトラップ管であって、
前記トラップ部における排水に接触する内面を構成する、ポリプロピレン樹脂またはポリエチレン樹脂からなる内層と、
前記内層の外側に積層され、ABS樹脂からなる外層と、
前記外層の外側に積層され、前記トラップ部の外面を構成する被膜層とを備えるトラップ管。
【請求項2】
前記外層の厚さが前記内層の厚さの2/3~15/4倍である、請求項1に記載のトラップ管。
【請求項3】
前記内層の厚さが0.8~1.5mmであり、前記外層の厚さが1.0mm~3.0mmである、請求項2に記載のトラップ管。
【請求項4】
前記内層および前記外層におけるトラップ管の少なくともいずれかの開口端部を構成している部分に、トラップ管の軸線方向から互いに係合させられる係合部が形成されている、請求項1~3のいずれか1つに記載のトラップ管。
【請求項5】
前記係合部が、前記内層の外面側に開口と反対方向に向かって形成された内層側環状段差と、前記内層側環状段差と係合させられるように前記外層の内面側に開口に向かって形成された外層側環状段差とからなる、請求項4に記載のトラップ管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば洗面器等の排水管路に設置される排水トラップにおいて、トラップ部を構成するトラップ管に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば洗面器用排水トラップのトラップ部を構成するトラップ管として、SトラップおよびPトラップに用いられる略U形をしたトラップU管や、ボトルトラップに用いられる略横T形をしたボトルトラップ管などが一般に知られている。
【0003】
上記のトラップ管としては、近年、製造コストの観点から樹脂製のトラップ管が広く流通しているが、排水トラップ用のトラップ管の機能(下水管からの臭気の逆流や害虫の侵入の防止のための封水)として排水の滞留が必要となるため、洗剤等を含む排水に長時間晒された場合であっても損傷しない優れた耐薬品性能を有する樹脂から構成されている必要がある。このようなトラップ管として、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン等の合成樹脂材で成型されたトラップU管が知られている(例えば、下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-227270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載のトラップ管の場合、樹脂の特性上、発色が悪いうえに塗装・メッキ加工を施すことが難しいため、外観のバリエーションに乏しく、また、トラップ管が接続されるニッケルクロームメッキ等を施した他の排水管との外観上の統一感を持たせたい場合には、別途カバーを取り付ける必要があり、部品点数や設置のための工数が増加するとともに、カバーをトラップ管に一体的に取り付けるのは困難であり、がたつき等が生じるという問題があった。
【0006】
この発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、排水管路に設置される排水トラップにおけるトラップ部を構成するトラップ管として、簡易な構成で、かつ、製造も容易であり、優れた耐薬品性能を有しつつも、発色がよく、さらに、塗装、メッキ加工を施すことが容易で、外観も良く、外観のバリエーションも豊富なものを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、上記の目的を達成するために、以下の態様からなる。
【0008】
1)排水管路に設けられるトラップ部を構成するトラップ管であって、
トラップ部における排水に接触する内面を構成する、ポリプロピレン樹脂またはポリエチレン樹脂からなる内層と、
内層の外側に積層され、ABS樹脂からなる外層と、
外層の外側に積層され、トラップ部の外面を構成する被膜層とを備えるトラップ管
【0009】
2)外層の厚さが内層の厚さの2/3~15/4倍である、上記1)に記載のトラップ管。
【0010】
3)内層の厚さが0.8~1.5mmであり、外層の厚さが1.0mm~3.0mmである、上記2)に記載のトラップ管。
【0011】
4)内層および外層におけるトラップ管の少なくともいずれかの開口端部を構成している部分に、トラップ管の軸線方向から互いに係合させられる係合部が形成されている、上記1)~3)のいずれか1つに記載のトラップ管。
【0012】
5)係合部が、内層の外面側に開口と反対方向に向かって形成された内層側環状段差と、内層側環状段差と係合させられるように外層の内面側に開口に向かって形成された外層側環状段差とからなる、上記4)に記載のトラップ管。
【発明の効果】
【0013】
上記1)のトラップ管によれば、簡易な構成で、中間層がABS樹脂からなることで、発色がよく、塗装、メッキ加工を施すことが容易となり、外観も良く、外観のバリエーションも豊富であり、さらに、内層がポリプロピレン樹脂またはポリエチレン樹脂からなることで、優れた耐薬品性能を有している。
【0014】
上記2)のトラップ管によれば、ABS樹脂からなる外層がポリプロピレン樹脂またはポリエチレン樹脂からなる内層の2/3~15/4倍の厚さを有していることで製造が容易になる。
【0015】
上記3)のトラップ管によれば、内層の厚さが0.8~1.5mmであり、外層の厚さが1.0mm~3.0mmであることでより製造が容易になる。
【0016】
上記4)のトラップ管によれば、トラップ管の軸線方向から互いに係合させられる係合部によって内層および外層の剥離が確実に防止される。
【0017】
上記5)のトラップ管によれば、内層および外層の剥離がより確実に防止されるとともに、製造が容易になり、さらに、トラップ管の耐久性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】この発明の第1の実施形態に係るトラップ管によってトラップ部を構成したPトラップの全体構造を示す縦断面図である。
図2】同トラップ管の拡大縦断面図であり、a)は製造工程における一次成型品を示すものであり、b)は製造工程における二次成型品を示すものである。
図3】同トラップ管の製造工程の一例を示す概要図である。
図4】この発明の第2の実施形態に係るトラップ管によってトラップ部を構成したボトルトラップの全体構造を示す縦断面図である。
図5】同トラップ管の拡大縦断面図であり、a)は製造工程における一次成型品を示すものであり、b)は製造工程における二次成型品を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、図1図5を参照して、この発明の実施形態を説明する。なお、以下の説明において、図1図2図4および図5の各上下を「上下」、同各左右を「前後」というものとする。ただし、これらの図面上での方向による構成部品等の方向の指称は便宜的なものであり、本発明の範囲を限定するものではない。また、以下の説明において、「垂直」との用語には垂直から若干傾いた角度も含まれるものとし、「平行」との用語には平行から若干傾いた角度も含まれるものとする。なお、この実施例に記載されている構成部品の形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0020】
[第1の実施形態]
図1および図2は、この発明の第1の実施形態のトラップ管(トラップU管)が示されている。図示のトラップU管(3X)は、一次側(排水流入側)および二次側(排水流出側)にそれぞれ排水テール管(一次側排水管)(2)およびキセル管(二次側排水管)(4X)が接続され、トラップU管(3X)、排水テール管(2)およびキセル管(4X)によってPトラップ(1X)全体が構成されており、トラップU管(3X)はPトラップ(1X)におけるトラップ部を構成している。
【0021】
詳細な構造については後述するが、トラップU管(3X)は、流入側垂直管部(31X)と、流入側垂直管部(31X)の下端部に前端部が連なって設けられた側面より見て略U形の曲管部(32X)と、曲管部(32X)の後端部に連なって設けられた流出側垂直管部(33X)よりなる。流入側垂直管部(31X)の上部は、同下部よりも内径が大きくなるように拡管され、流出側垂直管部(33X)は曲管部(32X)の後端部よりも内径が大きくなるように拡管されているのが好ましい。また、流入側垂直管部(31X)および流出側垂直管部(33X)は、流入側垂直管部(31X)の上端の高さ位置が流出側垂直管部(33X)のそれよりも高くなるように構成されている。
【0022】
排水テール管(2)は、例えば、黄銅やステンレス鋼等の金属や、ABS樹脂等の合成樹脂から形成された直管状のものであって、その上端部が洗面器等の排水口(図示略)に接続されているとともに、排水テール管(2)の下部がトラップU管(3X)の流入側垂直管部(31X)の上部に所要長さだけ挿入されている。そして、例えば、ゴム等よりなる環状のシール部材(52)が排水テール管(2)の下部の外側に嵌められて、流入側垂直管部(31X)の上端の内面側に形成されたテーパ部で受けられるように配置され、この状態で、管接続用袋ナット(51)が流入側垂直管部(31X)の上端の外面に形成された雄ネジ(図示略)にねじ嵌められることにより、シール部材(52)が排水テール管(2)の外周面および流入側垂直管部(31X)の上端のテーパ部に圧接されて、排水テール管(2)がトラップU管(3X)の流入側端部に水密状に接続されている。
【0023】
キセル管(4X)は、例えば、黄銅やステンレス鋼等の金属や、ABS樹脂等の合成樹脂から形成され、4分の1円弧状の曲管部(41X)と、その一端部から後方に連なる水平管部(42X)とを有するものである。曲管部(41X)の他端部よりなるキセル管(4X)の流入側端部がトラップU管(3X)の流出側垂直管部(33X)に所要長さだけ挿入されている。そして、例えば、ゴム等よりなる環状のシール部材(52)が曲管部(41X)の他端部の外側に嵌められて、流出側垂直管部(33X)の上端の内面側に形成されたテーパ部で受けられるように配置され、この状態で、管接続用袋ナット(51)が流出側垂直管部(33X)の上端の外周面に形成された雄ネジ(図示略)にねじ嵌められることにより、シール部材(52)が曲管部(41X)の外周面および流出側垂直管部(33X)の上端のテーパ面に圧接されて、キセル管(4X)がトラップU管(3X)の流出側端部に水密状に接続されている。
【0024】
トラップU管(3X)と、排水テール管(2)およびキセル管(4X)との接続方法は上記のものに限定されず、排水管路全体の構造や寸法等に応じて適宜変更可能である。例えば、トラップU管(3X)の流入側垂直管部(31X)および流出側垂直管部(33X)の上端部よりなるトラップU管(3X)の流入側開口端部および流出側開口端部の外面側にそれぞれフランジが形成され、管接続用袋ナット(51)がそれぞれのフランジの外周面に形成された雄ネジにねじ嵌められる構成とされていてもよい。
【0025】
次にトラップU管(3X)の詳細について説明する。トラップU管(3X)は、トラップ部における排水に接触する内面を構成する、優れた耐薬品性能を有する合成樹脂、好ましくはポリプロピレン樹脂またはポリエチレン樹脂、好ましくはポリプロピレン樹脂からなる内層(300X)と、内層(300X)の外側に積層され、発色がよく、塗装、メッキ加工を施すことが容易な合成樹脂、好ましくはABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂)からなる外層(310X)と、外層(310X)の外側に塗装あるいはメッキ加工が施されることによって積層された被膜層(330X)とを備えている。内層(300X)の厚さは0.8~1.5mmであり、好ましくは1.0mm~1.2mmである。外層(310X)の厚さは、内層(300X)の厚さの2/3~15/4倍であり、好ましくは5/4~2倍である。すなわち、外層(310X)の厚さは1.0mm~3.0mmであり、好ましくは1.5mm~2.0mmである。
【0026】
流入側垂直管部(31X)の上端部よりなるトラップU管(3X)の流入側開口端部(34X)、および、流出側垂直管部(33X)の上端部よりなるトラップU管(3X)の流出側開口端部(35X)にはそれぞれ、内層(300X)および外層(310X)の剥離を防止するための係合部(320X)が設けられている。係合部(320X)の詳細な構造について以下に説明するが、流出側開口端部(35X)における係合部(320X)は流入側開口端部(34X)における係合部(320X)と同様の構成であるため、ここでは説明を省略し、流入側開口端部(34X)における係合部(320X)を例に説明する。
【0027】
流入側開口端部(34X)における係合部(320X)は、内層(300X)の外面側に、流入側開口と反対方向に向かって形成された内層側環状段差(301X)と、外層(310X)の内面側に、流入側開口に向かって形成された外層側環状段差(311X)とから構成されている。詳細には、流入側開口端部(34X)において、内層(300X)の外面側が、略水平な下面および略垂直な側面を有しうるように張り出した肉厚部が形成されており、この肉厚部によって内層側環状段差(301X)が形成されている。また、外層(310X)の内面側が、略水平な上面および略垂直な側面を有しうるように切り欠かれた肉薄部が形成されており、この肉薄部によって外層側環状段差(311X)が形成されている。内層側環状段差(301X)の下面および側面、ならびに、外層側環状段差(311X)の上面および側面が互いに係合させられることで、特に、内層側環状段差(301X)の下面および外層側環状段差(311X)の上面がトラップU管(3X)の軸線方向から互いに係合させられることで、内層(300X)および外層(310X)の剥離が防止される。なお、係合部(320X)の構成は上記のものに限定されず、その機能を果たしうる範囲で適宜変更可能である。例えば、内層(300X)および外層(310X)に形成される肉厚部および肉薄部を逆にして、内層(300X)の外面側に肉薄部を形成し、外層(310X)の内面側に肉厚部を形成してもよい。しかしながら、排水テール管(2)の下部の挿入時にガイドとして排水テール管(2)の下部の挿入を容易にするとともに、シール部材(52)との当接箇所となるテーパ部を流入側垂直管部(31X)の上端の内面側、すなわち、内層(300X)の上端の内面側に形成する場合を考慮すると、内層(300X)に肉厚部が形成されている方が、製造も容易になるとともに、トラップU管(3X)の耐久性も損なわれないため、内層(300X)に肉厚部が形成され、外層(310X)に肉薄部が形成されているのが好ましい。さらに、内層(300X)および外層(310X)に形成される段差を環状とせず、例えば、周方向の一部分に設けるようにしてもよいし、係合部(320X)の形状を段差とするのではなく、互いに係合しうる凸部と凹部とすることもできる。また、係合部(320X)は流入側開口端部(34X)および流出側開口端部(35X)のいずれか一方に設けられていればよいが、流入側開口端部(34X)および流出側開口端部(35X)の両方に係合部(320X)が設けられているのが好ましい。
【0028】
次にトラップU管(3X)の製造工程について、図3を参照して説明する。まず、一次成型金型にABS樹脂が流し込まれ、外層(310X)が成型される。その後、トラップU管(3X)の外面にメッキ加工が施される場合、一次成型金型から取り出された一次成型品(外層)に外面にメッキ加工が施され、被膜層(330X)が積層される。メッキ加工の種類は蒸着メッキ、または、置換メッキとされるが、これに限定されず、適宜変更してもよい。塗装またはメッキ加工を施された外層(310X)は、二次成型金型にセットされる。そして、外層(310X)の内側にポリプロピレン樹脂が流し込まれ、内層(300X)が成型される。そして二次成型金型から取り出され、内層(300X)、外層(310X)および被膜層(330X)の順に積層されたトラップU管(3X)が完成される。トラップU管(3X)の外面にメッキ加工ではなく塗装が施される場合は、二次成型金型から取り出された二次成型品の外面に塗装が施され、被膜層(330X)が積層される。なお、一次成型における外層(310X)の成型時に、流入側垂直管部(31X)の外面における後部、曲管部(32X)の外面における上部、および流出側垂直管部(33X)の外面における前部に連なるように形成された補強部(313)を一体に成型してもよい。補強部(313)によってトラップU管(3X)の剛性が向上し、成型直後の熱変形等が防止される。
【0029】
一次成型で成型されるABS樹脂からなる外層(310X)が二次成型で成型されるポリプロピレン樹脂からなる内層(300X)の2/3~15/4倍の厚さであり、かつ、内層(300X)の厚さが0.8~1.5mmであることにより、さらに、内層(300X)が優れた流動性を有するポリプロピレン樹脂からなることにより、二次成型の加工時間を短くすることができ、二次成型時の熱による一次成型品(外層)の損傷を防止することができる。これにより、トラップU管(3X)のメッキの外観レベルを保ったまま、製造を容易にすることができる。
【0030】
第1の実施形態にかかるトラップU管(3X)によれば、ポリプロピレン樹脂からなる内層(300X)、ABS樹脂からなる外層(310X)および被膜層(330X)が順に積層された簡易な構成で、かつ、製造も容易であり、優れた耐薬品性能を有しつつも、発色がよく、さらに、塗装、メッキ加工を施すことが容易で、外観も良く、外観のバリエーションも豊富であるという効果が達成される。さらに、係合部(320X)によって内層(300X)および外層(310X)の剥離が確実に防止され、優れた耐久性を有するという効果も得られる。
【0031】
[第2の実施形態]
図4および図5は、この発明の第2の実施形態のトラップ管(ボトルトラップ管)(3Y)が示されている。図示のボトルトラップ管(3Y)は、一次側(排水流入側)および二次側(排水流出側)にそれぞれ排水テール管(一次側排水管)(2)および水平排水管(二次側排水管)(4Y)が接続され、トラップU管(3Y)、排水テール管(2)および水平排水管(4Y)によってボトルトラップ(1Y)が構成されており、ボトルトラップ管(3Y)はボトルトラップ(1Y)におけるトラップ部を構成している。
【0032】
詳細な構造については後述するが、ボトルトラップ本体(3Y)は、流入側垂直管部(31Y)と、流入側垂直管部(31Y)の高さ中間から後方に向かって短くのびた水平管部(33Y)と、流入側垂直管部(31Y)内に垂下状に設けられた内側垂下管部(32Y)とよりなる略横T形のものである。流入側垂直管部(31Y)の上部は、同下部よりも内径が小さくなるように縮管されている。内側垂下管部(32Y)は、その上端が流入側垂直管部(31Y)の上部の下端に接続されて、その内周面が流入側垂直管部(31Y)の上部の内周面から連なるように設けられているとともに、その外周面と流入側垂直管部(31Y)の内周面との間に環状通水空隙が形成されるような外径を有するものであって、流入側垂直管部(31Y)と同心状に配置されている。また、内側垂下管部(32Y)は、その下端が水平管部(33Y)よりも下方に位置し、かつ、流入側垂直管部(31Y)の下端よりも上方に位置するような長さを有している。流入側垂直管部(31Y)は、その下端部に形成された底部開口が底蓋(37)によって閉鎖されており、詳しい図示は省略するが、底蓋(37)は、例えば、その外周面の上部の環状溝に嵌め込まれたゴム等よりなる環状のシール部材が流入側垂直管部(31Y)の下端部の内周面に当接させられるように配置されているとともに、底蓋(37)の外周面の下部に形成された雄ネジと、流入側垂直管部(31Y)の下端部の内周面におけるシール部材の当接位置の下方に形成された雌ネジとがネジ接続されることにより、ボトルトラップ本体(3Y)の流入側垂直管部(31Y)の底部開口を開閉自在に水密状に閉鎖している。底蓋(37)は、例えば、ポリプロピレン樹脂またはポリエチレン樹脂から形成されている。また、流入側垂直管部(31Y)は、下端部に開口が形成されず、下端部が一体的に閉塞された有底形状とされていてもよい。
【0033】
排水テール管(2)の構造は、図1に示すPトラップ(1X)のそれと同一であるので、詳しい説明を省略する。排水テール管(2)の下部はボトルトラップ本体(3Y)の流入側垂直管部(31Y)の上部に所要長さだけ挿入されている。排水テール管(2)のボトルトラップ本体(3Y)への接続方法は、図1に示すPトラップ(1X)における排水テール管(2)のトラップU管(3)への接続方法と同様であるので詳しい説明を省略する。
【0034】
水平排水管管(4Y)は、洗面器等の後方の壁に排水管を配設する壁排水の場合に用いられるものである。なお、床排水の場合、図示の水平排水管(4Y)に代えて、例えばL形管継手および垂直排水管が使用される。水平排水管管(4Y)は、例えば、黄銅やステンレス鋼等の金属や、ABS樹脂等の合成樹脂から形成されている。水平配管(4Y)の流入側端部がボトルトラップ本体(3Y)の水平管部(33Y)に所要長さだけ挿入されている。そして、例えば、ゴム等よりなる環状のシール部材(52)が水平配管(4Y)の流入側端部の外側に嵌められて、水平管部(33Y)の開口端部の内面側に形成されたテーパ部で受けられるように配置され、この状態で、管接続用袋ナット(51)が水平管部(33Y)の後端部の外周面に形成された雄ネジ(図示略)にねじ嵌められることにより、シール部材(52)が水平配管(4Y)の外周面および水平管部(33Y)の開口端部のテーパ面に圧接されて、水平配管(4Y)がボトルトラップ本体(3Y)の流出側端部に水密状に接続されている。ボトルトラップ本体(3Y)および水平配管(4Y)のの接続方法は上記のものに限定されず、排水管路全体の構造や寸法等に応じて適宜変更可能である。
【0035】
次にボトルトラップ本体(3Y)の詳細について説明する。ボトルトラップ本体(3Y)は、トラップ部における排水に接触する内面を構成する、優れた耐薬品性能を有する合成樹脂、好ましくはポリプロピレン樹脂またはポリエチレン樹脂、好ましくはポリプロピレン樹脂からなる内層(300Y)と、内層(300Y)の外側に積層され、発色がよく、塗装、メッキ加工を施すことが容易な合成樹脂、好ましくはABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂)からなる外層(310Y)と、外層(310Y)の外側に塗装またはメッキ加工が施されることによって積層された被膜層(330Y)とを備えている。すなわち、ボトルトラップ本体(3Y)において、排水に接触する流入側垂直管部(31Y)および水平管部(33Y)の内面、ならびに、内側垂下管部(32Y)はポリプロピレン樹脂またはポリエチレン樹脂からなる内層(300Y)から構成されており、内側垂下管部(32Y)は流入側垂直管部(31Y)の縮管された上部の下端から連続して垂下状に形成されている。これは、流入側垂直管部(31Y)および水平管部(33Y)は、ボトルトラップ本体(3Y)の使用時に外部から視認できるため、耐薬性能に加えて、発色がよさや、塗装、メッキ加工のしやすさが必要となる一方、内側垂下管部(32Y)は外部から視認できないため、発色がよさや、塗装、メッキ加工のしやすさは必要とされず、耐薬性能が必要とされるためである。内層(300Y)の厚さは0.8~1.5mmであり、好ましくは1.0mm~1.2mmである。外層(310Y)の厚さは、内層(300Y)の厚さの2/3~15/4倍であり、好ましくは5/4~2倍である。すなわち、外層(310Y)の厚さは1.0mm~3.0mmであり、好ましくは1.5mm~2.0mmである。
【0036】
流入側垂直管部(31Y)の上端部よりなるボトルトラップ本体(3Y)の流入側開口端部(34Y)、水平管部(33Y)の後端部よりなるボトルトラップ本体(3Y)の流出側開口端部(35Y)、および、流入側垂直管部(31Y)の下端部よりなる底部開口端部(36)にはそれぞれ、内層(300Y)および外層(310Y)の剥離を防止するための係合部(320Y)が設けられている。係合部(320Y)の詳細な構造について以下に説明するが、流出側開口端部(35X)および底部開口端部(36)における係合部(320Y)は流入側開口端部(34Y)における係合部(320Y)と同様の構成であるため、ここでは説明を省略し、流入側開口端部(34Y)における係合部(320Y)を例に説明する。
【0037】
流入側開口端部(34Y)における係合部(320Y)は、内層(300Y)の外面側に、流入側開口と反対方向に向かって形成された内層側環状段差(301Y)と、外層(310YX)の内面側に、流入側開口に向かって形成された外層側環状段差(311Y)とから構成されている。詳細には、流入側開口端部(34Y)において、内層(300Y)の外面側が、略水平な下面および略垂直な側面を有しうるように張り出した肉厚部が形成されており、この肉厚部によって内層側環状段差(301Y)が形成されている。また、外層(310Y)の内面側が、略水平な上面および略垂直な側面を有しうるように切り欠かれた肉薄部が形成されており、この肉薄部によって外層側環状段差(311Y)が形成されている。内層側環状段差(301Y)の下面および側面、ならびに、外層側環状段差(311Y)の上面および側面が互いに係合させられることで、特に、内層側環状段差(301Y)の下面および外層側環状段差(311Y)の上面がボトルトラップ本体(3Y)の軸線方向から互いに係合させられることで、内層(300Y)および外層(310Y)の剥離が防止される。なお、係合部(320Y)の構成は上記のものに限定されず、その機能を果たしうる範囲で適宜変更可能である。例えば、内層(300Y)および外層(310Y)に形成される肉厚部および肉薄部を逆にして、内層(300Y)の外面側に肉薄部を形成し、外層(310Y)の内面側に肉厚部を形成してもよい。しかしながら、排水テール管(2)の下部の挿入時にガイドとして排水テール管(2)の下部の挿入を容易にするとともに、シール部材(52)との当接箇所となるテーパ部を流入側垂直管部(31Y)の上端の内面側、すなわち、内層(300Y)の上端の内面側に形成する場合を考慮すると、内層(300Y)に肉厚部が形成されている方が、製造も容易になるとともに、ボトルトラップ本体(3Y)の耐久性も損なわれないため、内層(300Y)に肉厚部が形成され、外層(310Y)に肉薄部が形成されているのが好ましい。さらに、内層(300Y)および外層(310Y)に形成される段差を環状とせず、例えば、周方向の一部分に設けるようにしてもよいし、係合部(320Y)の形状を段差とするのではなく、互いに係合しうる凸部と凹部とすることもできる。また、流入側開口端部(34Y)、流出側開口端部(35Y)および底部開口端部(36)の開口端部のうち、いずれか1つの開口端部に係合部(320Y)が設けられていればよいが、それらのうちいずれか2つの開口端部に係合部(320Y)が設けられているのが好ましく、それらのうち全ての開口端部に係合部(320Y)が設けられているのがより好ましい。
【0038】
ボトルトラップ本体(3Y)の製造工程は、第1の実施形態にかかるトラップU管(3X)と同様である。すなわち、一次成型金型にABS樹脂が流し込まれ、外層(310Y)が成型される。その後、ボトルトラップ本体(3Y)の外面にメッキ加工が施される場合、一次成型金型から取り出された一次成型品(外層)の外面にメッキ加工が施され、被膜層(330Y)が積層される。メッキ加工の種類は蒸着メッキ、または、置換メッキとされるが、これに限定されず、適宜変更してもよい。塗装またはメッキ加工を施された外層(310Y)は、二次成型金型にセットされる。そして、外層(310Y)の内側にポリプロピレン樹脂が流し込まれ、内層(300Y)が成型される。そして二次成型金型から取り出され、内層(300Y)、外層(310Y)および被膜層(330Y)の順に積層されたボトルトラップ本体(3Y)が完成される。ボトルトラップ本体(3Y)の外面にメッキ加工ではなく塗装が施される場合、二次成型金型から取り出された二次成型品の外面に塗装が施され、被膜層(330Y)が積層される。
【0039】
一次成型で成型されるABS樹脂からなる外層(310Y)が二次成型で成型されるポリプロピレン樹脂からなる内層(300Y)の2/3~15/4倍の厚さであり、かつ、内層(300Y)の厚さが0.8~1.5mmであることにより、さらに、内層(300Y)が優れた流動性を有するポリプロピレン樹脂からなることにより、二次成型の加工時間を短くすることができ、二次成型時の熱による一次成型品(外層)の損傷を防止することができる。これにより、ボトルトラップ本体(3Y)のメッキの外観レベルを保ったまま、製造工程を簡易化することができる。
【0040】
第2の実施形態にかかるボトルトラップ本体(3Y)によれば、ポリプロピレン樹脂からなる内層(300Y)、ABS樹脂からなる外層(310Y)および被膜層(330Y)が順に積層された簡易な構成で、かつ、製造も容易であり、優れた耐薬品性能を有しつつも、発色がよく、さらに、塗装、メッキ加工を施すことが容易で、外観も良く、外観のバリエーションも豊富であるという効果が達成される。さらに、係合部(320Y)によって内層(300Y)および外層(310Y)の剥離が確実に防止され、優れた耐久性を有するという効果も得られる。
【0041】
なお、上述した各実施形態は例示にすぎず、特許請求の範囲に記載されたこの発明の要
旨を逸脱しない範囲内において適宜変更を加えた上で、この発明を実施することも勿論可
能である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
この発明は、例えば洗面器等の排水管路に設置される排水トラップにおいて、トラップ
部を構成するトラップ管として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0043】
(1X):Pトラップ
(1Y):ボトルトラップ
(2):排水テール管
(3X)(3Y):トラップ管
(31X)(31Y):流入側垂直管部
(32X):曲管部
(32Y):内側垂下管部
(33X):流出側垂直管部
(33Y):水平管部
(34X)(34Y):流入側開口端部
(35X)(35Y):流出側開口端部
(36):底部開口端部
(37):底蓋
(300X)(300Y):内層
(301X)(301Y):内層側環状段差
(310X)(310Y):外層
(311X)(311Y):外層側環状段差
(313):補強部
(320X)(320Y):係合部
(330X)(330Y):被膜層
(4X):キセル管
(4Y):水平排水管
(41X):曲管部
(42X):水平管部
(51):管接続用袋ナット
(52):シール部材
図1
図2a
図2b
図3
図4
図5a
図5b