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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158605
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】生分解性樹脂およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 69/44 20060101AFI20241031BHJP
   C08L 101/16 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C08G69/44 ZBP
C08L101/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073948
(22)【出願日】2023-04-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、ムーンショット型研究開発事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】杉本 雅行
(72)【発明者】
【氏名】阿部 英喜
(72)【発明者】
【氏名】林 千里
【テーマコード(参考)】
4J001
4J200
【Fターム(参考)】
4J001DA03
4J001DB04
4J001DC03
4J001DC11
4J001EA15
4J001EA34
4J001EE29A
4J001FA03
4J001FB01
4J001FC01
4J001GA12
4J001GB12
4J001JB01
4J001JB06
4J001JB07
4J200AA02
4J200BA12
4J200BA29
4J200EA01
4J200EA11
(57)【要約】
【課題】海洋分解性などの生分解性に優れ、かつ耐熱性および成形性も高い生分解性樹脂を提供する。
【解決手段】生分解性樹脂を3-ヒドロキシ酪酸単位を含むヒドロキシカルボン酸単位とアミノ酸単位との交互共重合体で形成する。前記3-ヒドロキシ酪酸単位は、R-3-ヒドロキシ酪酸由来の単位であってもよい。前記交互共重合体は、下記式(1)で表される繰り返し単位を有していてもよい。
(式中、Rは水素原子またはアルキル基を示し、nは0以上の整数を示す)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシカルボン酸単位とアミノ酸単位との交互共重合体からなり、かつ前記ヒドロキシカルボン酸単位が3-ヒドロキシ酪酸単位を含む生分解性樹脂。
【請求項2】
前記3-ヒドロキシ酪酸単位が、R-3-ヒドロキシ酪酸由来の単位である請求項1記載の生分解性樹脂。
【請求項3】
前記交互共重合体が、下記式(1)で表される繰り返し単位を有する請求項1または2記載の生分解性樹脂。
【化1】
(式中、Rは水素原子またはアルキル基を示し、nは0以上の整数を示す)
【請求項4】
前記式(1)において、Rが水素原子またはC1-3アルキル基であり、かつnが0~6の整数である請求項3記載の生分解性樹脂。
【請求項5】
前記式(1)において、Rが水素原子またはメチル基であり、かつnが0である請求項3記載の生分解性樹脂。
【請求項6】
前記アミノ酸単位が、L-アミノ酸由来のアミノ酸単位である請求項1または2記載の生分解性樹脂。
【請求項7】
前記アミノ酸単位が、α-アミノ酸由来のアミノ酸単位である請求項1または2記載の生分解性樹脂。
【請求項8】
前記交互共重合体の数平均分子量が5000以上である請求項1または2記載の生分解性樹脂。
【請求項9】
前記交互共重合体のガラス転移温度が50℃以上である請求項1または2記載の生分解性樹脂。
【請求項10】
海洋生分解性を有する請求項1または2記載の生分解性樹脂。
【請求項11】
ヒドロキシカルボン酸成分とアミノ酸成分とを反応させてアミド系モノマーを得るモノマー合成工程と、
前記アミド系モノマーを重合してヒドロキシカルボン酸単位とアミノ酸単位との交互共重合体を得る重合工程とを含む、
請求項1または2記載の生分解性樹脂の製造方法。
【請求項12】
前記モノマー合成工程において、
前記ヒドロキシカルボン酸成分および前記アミノ酸成分の少なくとも一方が誘導体であり、
前記ヒドロキシカルボン酸成分における誘導体が、ヒドロキシカルボン酸のヒドロキシル基が保護基で保護されたヒドロキシカルボン酸の誘導体であり、
前記アミノ酸成分における誘導体が、アミノ酸のカルボキシル基が保護基で保護されたアミノ酸の誘導体である請求項11記載の製造方法。
【請求項13】
前記重合工程において、前記アミド系モノマーが、アルキル基でエステル化されたカルボキシル基を有する請求項11記載の製造方法。
【請求項14】
前記重合工程において、錫系触媒の存在下で前記アミド系モノマーを重合する請求項11記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3-ヒドロキシ酪酸(3-ヒドロキシブタン酸または3HB)単位を含む生分解性樹脂およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境保全や持続可能な社会の実現などの観点からプラスチック原料の一部または全部のバイオマス化が進められ、バイオベースプラスチック(または生分解性プラスチック)の利用が進んでいる。プラスチックは、人類の生活において必要不可欠な素材であるが、環境中に放出されたプラスチックは、海洋上を漂い、紫外線などにより崩壊、細分化され、直径5mm以下のマイクロプラスチックを生成する。また、このマイクロプラスチックが鳥類、魚類などの生体内に取り込まれると、内分泌かく乱を引き起こすことが懸念されている。
【0003】
近年、上述のマイクロプラスチック問題の解決に向け、例えば、ごみ袋への生分解性の付与が進められている。生分解性プラスチックとしては、ポリ乳酸(PLA)、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリカプロラクトン(PCL)などが挙げられる。しかし、これらの生分解性プラスチックの多くは、コンポスト条件下では高い生分解性を有するが、嫌気条件や海洋中での生分解性が低い。また、前記生分解性プラスチックは密度が高く海洋中に沈むため、マイクロプラスチック問題の解決には、海洋中において高い生分解性を有するプラスチックの開発が必要である。
【0004】
Global Challenge 2017,1,1700048(非特許文献1)には、各種生分解性ポリエステルの海中における生分解性が評価されており、PLA、PCL等に比べて、ポリ-3-ヒドロキシ酪酸(PHB)が海洋中で高い生分解性を示すことが開示されている。
【0005】
また、特開2017-25138号公報(特許文献1)には、3-ヒドロキシ酪酸(3HB)単位がランダムに導入された生分解性コポリマーが、好気条件下及び嫌気条件下において高い生分解性を有することが開示されている。また、特許文献1には、コポリマー中の3HB単位の割合を変化させることにより、生分解速度を制御できることも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-25138号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Global Challenge 2017,1,1700048
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1に記載されているPHBは、微生物によって産生され、生分解性に優れているものの、成形性が低い。すなわち、ガラス転移温度が低く、結晶化速度も遅いため、成形中に物性が安定せずに、成形性が低い。さらに、汎用のプラスチック成形体に必要な機械的特性や耐熱性が不足している上に、経済性も低いため、普及が進んでいなかった。
【0009】
一方、特許文献1には、生分解性コポリマーの海洋分解性や耐熱性について記載されていない。一般に、PBSやPLAのような結晶性ポリマーに異なる構造のモノマーを共重合させると結晶性は低下し、結晶に由来する耐熱性も下がることが知られている。特許文献1のコポリマーでも、分子量を上げるのは困難である。
【0010】
従って、本発明の目的は、海洋分解性などの生分解性に優れ、かつ耐熱性および成形性も高い生分解性樹脂およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、3-ヒドロキシ酪酸単位を含むヒドロキシカルボン酸単位とアミノ酸単位とが交互に共重合することにより、海洋分解性などの生分解性に優れ、かつ耐熱性および成形性も高い生分解性樹脂が得られることを見出し、発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の態様[1]の生分解性樹脂は、ヒドロキシカルボン酸単位とアミノ酸単位との交互共重合体からなり、かつ前記ヒドロキシカルボン酸単位が3-ヒドロキシ酪酸単位を含む。
【0013】
本発明の態様[2]は、前記態様[1]において、前記3-ヒドロキシ酪酸単位が、R-3-ヒドロキシ酪酸由来の単位である態様である。
【0014】
本発明の態様[3]は、前記態様[1]または[2]の交互共重合体が、下記式(1)で表される繰り返し単位を有する態様である。
【0015】
【化1】
【0016】
(式中、Rは水素原子またはアルキル基を示し、nは0以上の整数を示す)。
【0017】
本発明の態様[4]は、前記態様[3]の式(1)において、Rが水素原子またはC1-3アルキル基であり、かつnが0~6の整数である態様である。
【0018】
本発明の態様[5]は、前記態様[3]または[4]の式(1)において、Rが水素原子またはメチル基であり、かつnが0である態様である。
【0019】
本発明の態様[6]は、前記態様[1]~[5]のいずれかの態様において、前記アミノ酸単位が、L-アミノ酸由来のアミノ酸単位である態様である。
【0020】
本発明の態様[7]は、前記態様[1]~[6]のいずれかの態様において、前記アミノ酸単位が、α-アミノ酸由来のアミノ酸単位である態様である。
【0021】
本発明の態様[8]は、前記態様[1]~[7]のいずれかの態様において、前記交互共重合体の数平均分子量が5000以上である態様である。
【0022】
本発明の態様[9]は、前記態様[1]~[8]のいずれかの態様において、前記交互共重合体のガラス転移温度が50℃以上である態様である。
【0023】
本発明の態様[10]は、前記態様[1]~[9]のいずれかの態様の生分解性樹脂が海洋生分解性を有する態様である。
【0024】
本発明には、態様[11]として、
ヒドロキシカルボン酸成分とアミノ酸成分とを反応させてアミド系モノマーを得るモノマー合成工程と、
前記アミド系モノマーを重合してヒドロキシカルボン酸単位とアミノ酸単位との交互共重合体を得る重合工程とを含む、
前記態様[1]~[10]のいずれかの態様の生分解性樹脂の製造方法も含まれる。
【0025】
本発明の態様[12]は、前記態様[11]のモノマー合成工程において、
前記ヒドロキシカルボン酸成分および前記アミノ酸成分の少なくとも一方が誘導体であり、
前記ヒドロキシカルボン酸成分における誘導体が、ヒドロキシカルボン酸のヒドロキシル基が保護基で保護されたヒドロキシカルボン酸の誘導体であり、
前記アミノ酸成分における誘導体が、アミノ酸のカルボキシル基が保護基で保護されたアミノ酸の誘導体である態様である。
【0026】
本発明の態様[13]は、前記態様[11]または[12]の重合工程において、前記アミド系モノマーが、アルキル基でエステル化されたカルボキシル基を有する態様である。
【0027】
本発明の態様[14]は、前記態様[11]~[13]のいずれかの態様の重合工程において、錫系触媒の存在下で前記アミド系モノマーを重合する態様である。
【0028】
なお、本明細書および特許請求の範囲において「3-ヒドロキシカルボン酸成分」とは、3-ヒドロキシカルボン酸に加えて、ヒドロキシル基および/またはカルボキシル基が保護基で保護されている誘導体を含む意味に用いる。また「アミノ酸成分」は、アミノ酸に加えて、カルボキシル基が保護基で保護されている誘導体を含む意味に用いる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の生分解性樹脂は、3-ヒドロキシ酪酸単位を含むヒドロキシカルボン酸単位とアミノ酸単位とが交互に共重合しているため、海洋分解性などの生分解性を向上でき、かつ耐熱性および成形性も向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、実施例1~5で得られたアミド系モノマーの海水中での生分解性を評価したグラフである。
図2図2は、実施例1および2で得られたポリマーの土壌懸濁液中での生分解性を評価したグラフである。
図3図3は、実施例1および2で得られたポリマーの海水中での生分解性を評価したグラフである。
図4図4は、実施例1で得られたポリマーのH-NMRスペクトルである。
図5図5は、実施例1で得られたポリマーの13C-NMRスペクトルである。
図6図6は、実施例2で得られたポリマーのH-NMRスペクトルである。
図7図7は、実施例2で得られたポリマーの13C-NMRスペクトルである。
図8図8は、実施例3で得られたポリマーのH-NMRスペクトルである。
図9図9は、実施例3で得られたポリマーの13C-NMRスペクトルである。
図10図10は、実施例4で得られたポリマーのH-NMRスペクトルである。
図11図11は、実施例4で得られたポリマーの13C-NMRスペクトルである。
図12図12は、実施例5で得られたポリマーのH-NMRスペクトルである。
図13図13は、実施例5で得られたポリマーの13C-NMRスペクトルである。
図14図14は、実施例6で得られたポリマーのH-NMRスペクトルである。
図15図15は、実施例6で得られたポリマーの13C-NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
[交互共重合体]
本発明の生分解性樹脂は、ヒドロキシカルボン酸単位とアミノ酸単位との交互共重合体で形成されている。本発明では、ヒドロキシカルボン酸が3-ヒドロキシ酪酸単位を必須単位として含み、かつこのようなヒドロキシカルボン酸単位とアミノ酸単位とが交互に規則的に配列されることにより、海洋分解性などの生分解性を示すとともに、耐熱性および成形性も向上できる。なお、以下の説明において、ヒドロキシカルボン酸単位はヒドロキシカルボン酸成分に由来し、アミノ酸単位はアミノ酸成分に由来するため、ヒドロキシカルボン酸単位をヒドロキシカルボン酸成分と同義に用い、アミノ酸単位をアミノ酸成分と同義に用いる場合がある。
【0032】
(3-ヒドロキシ酪酸単位)
ヒドロキシカルボン酸単位は、3-ヒドロキシ酪酸単位を必須単位として含む。3-ヒドロキシ酪酸単位に対応する3-ヒドロキシ酪酸成分は、3-ヒドロキシ酪酸(3HB)であってもよく、ヒドロキシル基が保護基で保護された3HBの誘導体であってもよい。
【0033】
3HB(またはBHB)は、光学異性体(R体またはS体)であってもよく、ラセミ体であってもよいが、生分解性などの観点から、R体(R-3-ヒドロキシ酪酸)を少なくとも含むのが好ましい。
【0034】
3HB中のR体の割合、特に、光学純度(鏡像体または光学異性体過剰率)は、例えば50%e.e.以上(例えば80%e.e.以上)、好ましくは90%e.e.以上(例えば95~100%e.e.)、さらに好ましくは98~100%e.e.(例えば99~100%e.e.、特に実質的に100%e.e.)である。光学純度が低すぎると、生分解性が低下する虞がある。
【0035】
また、R体[(R)3HB]と、S体[(S)3HB]および/またはラセミ体とを組みあわせて使用してもよいが、3HB中のR体の質量割合は10質量%以上が好ましく、さらに好ましくは50質量%以上、より好ましくは90質量%以上、最も好ましくは100質量%である。
【0036】
前記誘導体における保護基としては、ヒドロキシル基を保護する慣用の保護基を利用できる。慣用の保護基としては、例えば、メチル基、エチル基、t-ブチル基などのアルキル基;シクロヘキシル基などのシクロアルキル基;2,4-ジニトロフェニル基などのアリール基;ベンジル基、2,6-ジクロロベンジル基、3-ブロモベンジル基、p-メトキシベンジル基、2-ニトロベンジル基、4-ジメチルカルバモイルベンジル基、トリフェニルメチル基などのアラルキル基;アセチル基、プロピオニル基、イソプロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、ピバロイル基などの脂肪族アシル基;シクロヘキシルカルボニル基などの脂環式アシル基;ベンゾイル基、p-フェニルベンゾイル基、フタロイル基、ナフトイル基などの芳香族アシル基;トリメチルシリル(TMS)基、トリエチルシリル(TES)基、t-ブチルジメチルシリル(TBS)基、トリイソプロピルシリル(TIPS)基、t-ブチルジフェニルシリル(TBDPS)基などのシリルエーテル基(シリル系保護基)などが挙げられる。これらの保護基は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0037】
これらの保護基のうち、シリルエーテル基が好ましく、TBS基などのトリアルキルシリル基がさらに好ましく、トリC1-4アルキルシリル基がより好ましい。
【0038】
3-ヒドロキシ酪酸(3HB)単位は、ヒドロキシカルボン酸単位中の主単位であるのが好ましく、具体的には、ヒドロキシカルボン酸単位中50モル%以上であってもよく、80モル%以上が好ましく、90モル%以上がさらに好ましく、99モル%以上がより好ましく、100モル%が最も好ましい。3HB単位の割合が少なすぎると、生分解性樹脂の生分解性と耐熱性および成形性とを両立するのが困難となる虞がある。
【0039】
(他のヒドロキシカルボン酸単位)
ヒドロキシカルボン酸単位は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、他のヒドロキシカルボン酸単位(第2のヒドロキシカルボン酸単位)をさらに含んでいてもよい。他のヒドロキシカルボン酸単位に対応する他のヒドロキシカルボン酸成分は、他のヒドロキシカルボン酸であってもよく、ヒドロキシル基が保護基で保護された他のヒドロキシカルボン酸の誘導体であってもよい。
【0040】
他のヒドロキシカルボン酸成分には、3HB成分以外のヒドロキシアルカン酸成分(他のヒドロキシアルカン酸成分)、ヒドロキシシクロアルカンカルボン酸成分、ヒドロキシアレーンカルボン酸成分などが含まれる。
【0041】
他のヒドロキシアルカン酸成分としては、例えば、グリコール酸、2-ヒドロキシプロパン酸(乳酸)、3-ヒドロキシプロパン酸、2-ヒドロキシブタン酸(2-ヒドロキシ酪酸)、4-ヒドロキシブタン酸、3-ヒドロキシ-3-メチル-ブタン酸、2-ヒドロキシペンタン酸(2-ヒドロキシ吉草酸)、3-ヒドロキシペンタン酸、5-ヒドロキシペンタン酸、2-ヒドロキシ-2-メチル-ペンタン酸、3-ヒドロキシヘキサン酸、6-ヒドロキシヘプタン酸、3-ヒドロキシヘプタン酸、7-ヒドロキシヘプタン酸、3-ヒドロキシオクタン酸、8-ヒドロキシオクタン酸、3-ヒドロキシナノン酸、9-ヒドロキシナノン酸、3-ヒドロキシデカン酸、10-ヒドロキシデカン酸などのC1-6アルキル基を有していてもよいヒドロキシC2-15アルカン酸などが挙げられる。
【0042】
他のヒドロキシアルカン酸成分は、対応するラクトンであってもよい。ラクトンとしては、例えば、β-プロピオラクトン、β-ジメチルプロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、γ-ジメチルブチロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトンなどのジC1-12アルキル基を有していてもよいC3-15ラクトンなどが挙げられる。
【0043】
ヒドロキシシクロアルカン酸としては、例えば、ヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸などが挙げられる。
【0044】
ヒドロキシアレーンカルボン酸としては、例えば、ヒドロキシ安息香酸などが挙げられる。
【0045】
これら他のヒドロキシカルボン酸成分は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、他のヒドロキシアルカン酸成分が好ましく、3-ヒドロキシプロパン酸や4-ヒドロキシブタン酸などのヒドロキシC3-10アルカン酸がさらに好ましい。
【0046】
前記誘導体における保護基としては、好ましい態様も含めて、前記3HB成分の誘導体における保護基と同様である。
【0047】
他のヒドロキシカルボン酸単位の割合は、3HB単位1モルに対して0.5モル以下、好ましくは0.3モル以下、さらに好ましくは0.1モル以下、より好ましくは0.01モル以下である。他のヒドロキシカルボン酸単位の割合が多すぎると、生分解性樹脂の生分解性と耐熱性および成形性とを両立するのが困難となる虞がある。
【0048】
(アミノ酸単位)
アミノ酸単位に対応するアミノ酸成分は、アミノ酸であってもよく、カルボキシル基が保護基で保護された誘導体であってもよい。
【0049】
アミノ酸は、酸性アミノ酸や塩基性アミノ酸であってもよいが、中性アミノ酸が好ましい。中性アミノ酸としては、例えば、グリシン、α-アラニン、α-バリン、α-ロイシン、α-イソロイシンなどの脂肪族α-アミノ酸;α-フェニルアラニンなどの芳香族α-アミノ酸;β-アラニン、β-ロイシンなどの脂肪族β-アミノ酸;β-フェニルアラニンなどの芳香族β-アミノ酸;6-アミノヘキサン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸などのアミノC4-20アルキル-カルボン酸などが挙げられる。
【0050】
これらのアミノ酸は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのアミノ酸のうち、ポリマーのガラス転移温度を向上できる点から、α-アミノ酸が好ましく、α-脂肪族アミノ酸がさらに好ましく、グリシン、アラニンなどのC2-4α-アミノ酸がより好ましく、C2-3α-アミノ酸が最も好ましい。
【0051】
グリシン以外のα-アミノ酸は、光学異性体(L体またはD体)であってもよく、ラセミ体であってもよいが、生分解性を向上できる点に加えて、ポリマーの分子量を向上できる点から、L体(L-アラニンなどのL-アミノ酸)を少なくとも含むのが好ましい。
【0052】
α-アミノ酸中のL体の割合、特に、光学純度(鏡像体または光学異性体過剰率)は、例えば50%e.e.以上(例えば80%e.e.以上)、好ましくは90%e.e.以上(例えば95~100%e.e.)、さらに好ましくは98~100%e.e.(例えば99~100%e.e.、特に実質的に100%e.e.)である。光学純度が低すぎると、生分解性およびポリマーの分子量が低下する虞がある。
【0053】
また、α-アミノ酸は、L体と、D体および/またはラセミ体とを組みあわせて使用してもよいが、α-アミノ酸中のL体の質量割合は10質量%以上が好ましく、さらに好ましくは50質量%以上、より好ましくは90質量%以上、最も好ましくは100質量%である。
【0054】
前記誘導体における保護基としては、カルボキシル基を保護する慣用の保護基を利用できる。慣用の保護基としては、例えば、メチル基、エチル基、t-ブチル基、トリクロロエチル基などのアルキル基;シクロヘキシル基などのシクロアルキル基;ベンジル基、p-ニトロベンジル基、ジフェニルメチル基などのアラルキル基;フェナシル基などが挙げられる。これらの保護基は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0055】
これらの保護基のうち、アルキル基が好ましく、メチル基やエチル基などのC1-3アルキル基がさらに好ましく、C1-2アルキル基がより好ましい。
【0056】
アミノ酸単位としては、C2-3α-アミノ酸(特に、グリシンまたはL体を含むα-アラニン)単位が好ましく、C2-3α-アミノ酸単位の割合は、アミノ酸単位中の主単位であるのが好ましく、具体的には、アミノ酸単位中50モル%以上であってもよく、80モル%以上が好ましく、90モル%以上がさらに好ましく、99モル%以上がより好ましく、100モル%が最も好ましい。C2-3α-アミノ酸単位の割合が少なすぎると、生分解性樹脂の生分解性と耐熱性および成形性とを両立するのが困難となる虞がある。
【0057】
(好ましい繰り返し単位)
本発明の生分解性樹脂は、前記3-ヒドロキシ酪酸成分を含むヒドロキシカルボン酸成分由来の単位と、前記アミノ酸成分由来の単位とが交互に共重合した重合体であればよいが、前記式(1)で表される繰り返し単位を有する交互共重合体であるのが好ましい。
【0058】
前記式(1)において、Rで表されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基などのC1-12アルキル基などが挙げられる。これらのアルキル基は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。Rとしては、水素原子またはC1-3アルキル基が好ましく、水素原子またはC1-2アルキル基がさらに好ましく、水素原子またはメチル基がより好ましい。
【0059】
メチレン単位の繰り返し数nは、0以上の整数であればよいが、例えば0~6の整数、好ましくは0~3の整数、さらに好ましくは0~2の整数、より好ましくは0または1、最も好ましくは0である。
【0060】
式(1)で表される繰り返し単位としては、Rが水素原子またはC1-3アルキル基であり、かつnが0~6の整数である繰り返し単位が好ましく、Rが水素原子またはメチル基であり、かつnが0である繰り返し単位がさらに好ましい。
【0061】
本発明の生分解性樹脂は、光学活性を維持していてもよく、下記式(2)で表される繰り返し単位を有する交互共重合体からなるのが最も好ましい。
【0062】
【化2】
【0063】
(式中、Rは水素原子またはメチル基を示す)。
【0064】
前記式(1)で表される繰り返し単位に対応する成分(生分解性樹脂のモノマー)は、生分解性に優れており、特に、海洋生分解性を有している。このモノマーの海水中での好気的生分解度は、30℃で60日後において、30%以上であってもよく、好ましくは40%以上、さらに好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上である。
【0065】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、海水中での好気的生分解度は、ASTM D6691-17における測定条件を参考にした酸素要求量生分解度試験により測定できる。
【0066】
(生分解性樹脂の特性)
本発明の生分解性樹脂は、生分解性に優れており、特に、海洋生分解性を有している。本発明の生分解性樹脂の海水中での好気的生分解度は、30℃で60日後において、30%以上であってもよく、好ましくは40%以上、さらに好ましくは45%以上、より好ましくは50%以上である。
【0067】
また、本発明の生分解性樹脂は、土壌懸濁液中でも生分解性を有している。本発明の生分解性樹脂の土壌懸濁液中での好気的生分解度は、25℃で60日後において、10%以上であってもよく、好ましくは20%以上、さらに好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上である。
【0068】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、土壌懸濁液中での好気的生分解度は、ISO14851:2019に準拠して測定できる。
【0069】
本発明の生分解性樹脂は、前述のような生分解性を有しているにも拘わらず、分子量も大きい。本発明の生分解性樹脂の数平均分子量は5,000以上であってもよく、例えば5,000~300,000、好ましくは7,000~100,000、さらに好ましくは8,000~80,000、より好ましくは10,000~70,000、最も好ましくは12,000~50,000である。分子量が小さすぎると、機械的特性が低下する虞がある。
【0070】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、生分解性樹脂の数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(溶出液:5mMトリフルオロ酢酸ナトリウム/ヘキサフルオロイソプロパノール、基準樹脂:ポリメチルメタクリレート)によって測定でき、詳細には、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0071】
本発明の生分解性樹脂は、ガラス転移温度が高く、30℃以上(特に50℃以上)であってもよく、例えば30~150℃、好ましくは40~120℃、さらに好ましくは50~110℃、より好ましくは60~100℃、最も好ましくは70~90℃である。ガラス転移温度が低すぎると、耐熱性が低下するとともに、成形性も低下する虞があり、逆に高すぎても、成形性が低下する虞がある。
【0072】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、生分解性樹脂のガラス転移温度は、動的粘弾性測定装置を用いて測定でき、詳細には、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0073】
本発明の生分解性樹脂は、耐熱性も高く、例えば、5%重量減少温度(Td5%)は、200℃以上(例えば200~400℃)であってもよく、好ましくは210~350℃、さらに好ましくは220~300℃、より好ましくは230~250℃である。
【0074】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、生分解性樹脂の5%重量減少温度は、窒素雰囲気下、熱重量測定計を用いて測定でき、詳細には、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0075】
本発明の生分解性樹脂は、結晶性であってもよい。本発明の生分解性樹脂の結晶化度は、例えば10~80%、好ましくは20~70%、さらに好ましくは30~50%、より好ましくは35~45%である。
【0076】
[生分解性樹脂の製造方法]
本発明の生分解性樹脂の製造方法は、ヒドロキシカルボン酸成分とアミノ酸成分とを反応させてアミド系モノマーを得るモノマー合成工程と、前記アミド系モノマーを重合してヒドロキシカルボン酸単位とアミノ酸単位との交互共重合体を得る重合工程とを含む。
【0077】
(A)モノマー合成工程
モノマー合成工程では、ヒドロキシカルボン酸成分とアミノ酸成分とを反応させて、ポリマーの繰り返し単位のモノマーとなるアミド系モノマーを得る。
【0078】
原料となるヒドロキシカルボン酸成分およびアミノ酸成分は、ヒドロキシカルボン酸およびアミノ酸であってもよいが、生産性などの点から、少なくとも一方が、保護基で保護された誘導体であるのが好ましい。詳しくは、アミド結合を形成するために関与しない官能基であるヒドロキシカルボン酸のヒドロキシル基および/またはアミノ酸のカルボキシル基を保護基で保護するのが好ましい。なかでも、アミド系モノマーを効率良く製造できるとともに、次工程の重合工程においても交互共重合体の分子量を向上できる点から、少なくともアミノ酸のカルボキシル基を保護基で保護するのが好ましく、ヒドロキシカルボン酸のヒドロキシル基およびアミノ酸のカルボキシル基の両方を保護基で保護するのが好ましい。
【0079】
(ヒドロキシカルボン酸のヒドロキシル基の保護方法)
ヒドロキシカルボン酸(特に、3HB)のヒドロキシル基を保護基で保護する方法としては、前述の保護基の種類に応じて慣用の方法で保護基を導入する方法を利用できる。保護基がシリルエーテル基の場合、保護基の導入方法としては、塩基触媒の存在下、溶媒中で、シリルエーテル基を導入するためのシリル化剤を用いて、ヒドロキシカルボン酸成分のヒドロキシル基にシリルエーテル基を導入する方法が好ましい。
【0080】
シリル化剤の割合は、ヒドロキシカルボン酸成分1モルに対して1モル以上であってもよく、例えば1~1.5モル、好ましくは1.1~1.3モルである。
【0081】
塩基触媒は、無機塩基であってもよく、有機塩基であってもよい。無機塩基としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸マグネシウムなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属炭酸塩などが挙げられる。有機塩基としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンなどのトリアルキルアミン;トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノールなどのアルカノールアミン;ピリジン、イミダゾール、モルホリン、N-メチルモルホリン、ヘキサメチレンテトラミン;ジアザビシクロウンデセン(DBU);ジアザビシクロノネン(DBN)、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)などの複素環式アミンが挙げられる。これらの塩基触媒も単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、トリアルキルアミンや複素環式アミンなどの有機塩基が好ましく、イミダゾールなどの複素環式アミンが特に好ましい。
【0082】
塩基触媒の割合は、ヒドロキシカルボン酸成分1モルに対して、例えば0.1~10モル、好ましくは0.5~8モル、さらに好ましくは1~5モル、より好ましくは2~3モルである。
【0083】
溶媒としては、例えば、エーテル類(例えば、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンなどの環状エーテル類など)、エステル類(酢酸エチルなど)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトンなどの鎖状ケトン類;シクロヘキサノンなどの環状ケトン類など)、ハロゲン含有溶媒(例えば、ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素類)、アミド類(例えば、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドンなど)、ニトリル類(例えば、アセトニトリル、プロピオニトリルなど)、スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシド)などが挙げられる。これらの溶媒は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、アミド類、ハロゲン含有溶媒、ニトリル類が好ましく、ジメチルホルムアミドなどのアミド類が特に好ましい。
【0084】
溶媒の体積は、ヒドロキシカルボン酸成分の体積に対して1倍以上であってもよく、例えば1~100倍、好ましくは5~50倍、さらに好ましくは10~30倍、より好ましくは15~20倍である。
【0085】
シリル化剤と反応させるヒドロキシカルボン酸成分は、ヒドロキシカルボン酸であってもよいが、生産性を向上できる点から、ヒドロキシカルボン酸のカルボキシル基が保護基で保護された誘導体であってもよい。
【0086】
ヒドロキシカルボン酸のカルボキシル基が保護基で保護された誘導体は、保護基としてのアルキル基で保護された誘導体が好ましい。このような誘導体としては、例えば、ヒドロキシカルボン酸のメチルエステル、ヒドロキシカルボン酸のエチルエステルなどのヒドロキシカルボン酸のC1-3アルキルエステルなどが挙げられる。これらのうち、ヒドロキシカルボン酸のメチルエステルなどのヒドロキシカルボン酸のC1-2アルキルエステルが好ましい。これらの誘導体は、慣用の方法で製造でき、市販品であってもよい。
【0087】
ヒドロキシカルボン酸成分のヒドロキシル基に保護基を導入するための反応温度は、0℃以上であってもよく、例えば0~50℃、好ましくは10~40℃、さらに好ましくは20~30℃であり、常温であってもよい。
【0088】
ヒドロキシル基に保護基が導入されたヒドロキシカルボン酸成分は、飽和塩化アンモニウムなどの慣用の反応停止剤を添加した後、慣用の方法で分離精製してもよい。
【0089】
ヒドロキシカルボン酸成分として、カルボキシル基が保護された誘導体を用いた場合、ヒドロキシル基を保護基で保護した後、カルボキシル基の保護基は脱離(脱保護)するのが好ましい。カルボキシル基の保護基を脱保護する方法としては、保護基の種類に応じて慣用の方法で保護基を脱離できる。保護基がアルキル基の場合、保護基の脱保護方法としては、塩基の存在下で加水分解する方法などが挙げられる。
【0090】
塩基としては、例えば、前述のシリルエーテル基を保護基として導入する方法で塩基触媒として例示された塩基などが挙げられる。前記塩基は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。前記塩基のうち、水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物が好ましい。
【0091】
塩基の割合は、ヒドロキシカルボン酸の誘導体1モルに対して、例えば0.1~10モル、好ましくは0.3~5モル、さらに好ましくは0.5~3モル、より好ましくは1~2モルである。
【0092】
脱保護は、水の存在下で加水分解すればよいが、水と有機溶媒との混合溶媒中で加水分解してもよい。有機溶媒としては、前述のシリルエーテル基を保護基として導入する方法で溶媒として例示された溶媒などが挙げられる。前記溶媒のうち、テトラヒドロフランなどのエーテル類が好ましい。水と有機溶媒との体積比は、水/有機溶媒=10/1~1/10、好ましくは3/1~1/5、さらに好ましくは1/1~1/3、より好ましくは1/1.5~1/2.5である。
【0093】
水および有機溶媒の合計体積は、ヒドロキシカルボン酸の誘導体の体積に対して1倍以上であってもよく、例えば1~100倍、好ましくは5~80倍、さらに好ましくは10~50倍、より好ましくは30~40倍である。
【0094】
アルキル基を脱保護するための反応温度は、0℃以上であってもよく、例えば0~50℃、好ましくは10~40℃、さらに好ましくは20~30℃であり、常温であってもよい。
【0095】
カルボキシル基の保護基が脱保護されたヒドロキシカルボン酸の誘導体は、慣用の方法で中和して分離または精製してもよい。慣用の分離または精製方法としては、例えば、ろ過、転溶、塩析、蒸留、溶媒除去、析出、晶析、再結晶、デカンテーション、抽出、乾燥、洗浄、クロマトグラフィーなどが挙げられる。
【0096】
(アミノ酸のカルボキシル基が保護基で保護された誘導体)
アミノ酸のカルボキシル基が保護基で保護された誘導体は、保護基としてのアルキル基で保護された誘導体が好ましい。このような誘導体としては、例えば、グリシンメチルエステル塩酸塩、アラニンメチルエステル塩酸塩などのα-アミノ酸C1-3アルキルエステル無機酸塩などが挙げられる。これらのうち、グリシンメチルエステル塩酸塩、L-アラニンメチルエステル塩酸塩などのα-アミノ酸C1-2アルキルエステル無機酸塩が好ましい。これらの誘導体は、慣用の方法で製造でき、市販品であってもよい。
【0097】
(アミド系モノマーの合成方法)
アミド系モノマーは、ヒドロキシカルボン酸成分(特に、3HB成分)とアミノ酸成分とを縮合反応させ、アミド結合を形成することにより得られる。縮合反応は、縮合剤の存在下、溶媒中で反応してもよく、縮合剤に加えて、縮合助剤および塩基の存在下で反応するのが特に好ましい。
【0098】
アミノ酸成分の割合は、ヒドロキシカルボン酸成分1モルに対して0.5~1.5モル程度の範囲から選択でき、例えば0.6~1.4モル、好ましくは0.8~1.3モル、さらに好ましくは0.9~1.2モル、より好ましくは1~1.2モルである。
【0099】
縮合剤としては、アミド結合を形成するために利用される慣用の縮合剤を利用できる。慣用の縮合剤としては、例えば、ジイソプロピルカルボジイミド(DIPC)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド(EDCI=WSCI)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩(EDCI・HCl=WSCI・HCl)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)などのカルボジイミド系縮合剤;O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート、O-ベンゾトリアゾール-1-イル-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート、ベンゾトリアゾール-1-イル-オキシ-トリス-ピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスフェート、ベンゾトリアゾール-1-イル-トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロリン化物塩(BOP)などのフルオロホスフェート系縮合剤;ジフェニルホスホリルアジド(DPPA)などが挙げられる。これらの縮合剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0100】
これらの縮合剤のうち、EDCI、EDCI・HClなどのカルボジイミド系縮合剤が好ましい。
【0101】
縮合剤の割合は、ヒドロキシカルボン酸成分1モルに対して0.5~1.5モル程度の範囲から選択でき、例えば0.6~1.4モル、好ましくは0.8~1.3モル、さらに好ましくは0.9~1.2モル、より好ましくは1~1.2モルである。
【0102】
縮合助剤としては、例えば、N-ヒドロキシコハク酸イミド(HONSu)、N-ヒドロキシ-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸イミド(HONB)などのN-ヒドロキシジカルボン酸イミド類;1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HOAt)などのN-ヒドロキシベンゾトリアゾール類;3-ヒドロキシ-4-オキソ-3,4-ジヒドロ-1,2,3-ベンゾトリアジン(HOOBt)などのトリアジン類;2-ヒドロキシイミノ-2-シアノ酢酸エチルエステルなどが挙げられる。これらの縮合助剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0103】
これらの縮合助剤のうち、HONSuなどのN-ヒドロキシジカルボン酸イミド類、HOBtなどのN-ヒドロキシベンゾトリアゾール類が好ましく、N-ヒドロキシベンゾトリアゾール類が特に好ましい。
【0104】
縮合助剤の割合は、ヒドロキシカルボン酸成分1モルに対して0.5~1.5モル程度の範囲から選択でき、例えば0.6~1.4モル、好ましくは0.8~1.3モル、さらに好ましくは0.9~1.2モル、より好ましくは1~1.2モルである。
【0105】
塩基は、反応系のpHを、例えば中性付近に調整するために使用してもよい。塩基としては、例えば、前述のシリルエーテル基を保護基として導入する方法で塩基触媒として例示された塩基などが挙げられる。前記塩基は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。前記塩基のうち、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンなどのトリアルキルアミン;N-メチルモルホリン、ピリジンなどの複素環式第三級アミンが好ましい。
【0106】
塩基の割合は、ヒドロキシカルボン酸成分1モルに対して0.1~10モル程度の範囲から選択でき、例えば1~5モル、好ましくは1.5~3モル、さらに好ましくは2~2.5モル、より好ましくは2.1~2.3モルである。
【0107】
溶媒としては、前述のシリルエーテル基を保護基として導入する方法で溶媒として例示された溶媒などが挙げられる。前記溶媒のうち、ジクロロメタンなどのハロゲン含有溶媒が好ましい。溶媒の体積は、ヒドロキシカルボン酸の誘導体の体積に対して1倍以上であってもよく、例えば1~300倍、好ましくは10~200倍、さらに好ましくは30~150倍、より好ましくは50~120倍である。
【0108】
アミド結合を形成するための反応温度は、0℃以上であってもよく、例えば0~50℃、好ましくは10~40℃、さらに好ましくは20~30℃であり、常温であってもよい。得られたアミド系モノマーは、慣用の方法で分離または精製してもよい。
【0109】
(アミド系モノマーの脱保護方法)
アミド系モノマーが、ヒドロキシル基が保護されたヒドロキシカルボン酸誘導体と、カルボキシル基が保護されたアミノ酸誘導体との縮合反応で得られたアミド系モノマーである場合、次工程の重合工程においても交互共重合体の分子量を向上できる点から、ヒドロキシル基の保護基のみ脱保護するのが好ましい。
【0110】
アミド系モノマーのヒドロキシル基の保護基を脱保護する方法としては、保護基の種類に応じて慣用の方法で保護基を脱離する方法を利用できる。保護基がシリルエーテル基の場合、保護基の脱保護方法としては、脱保護剤を作用させて脱保護する方法などが挙げられる。脱保護剤としては、例えば、塩酸、硫酸などの無機酸;塩化アセチル;無水フッ化水素、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸などのフッ素化合物などが挙げられる。これらのうち、塩化アセチルが好ましい。
【0111】
脱保護剤の割合は、アミド系モノマー1モルに対して0.01~1モル程度の範囲から選択でき、例えば0.02~0.7モル、好ましくは0.03~0.5モル、さらに好ましくは0.05~0.3モル、より好ましくは0.1~0.2モルである。
【0112】
脱保護方法は、溶媒中で脱保護してもよい。溶媒としては、前述のシリルエーテル基を保護基として導入する方法で溶媒として例示された溶媒の他、メタノール、エタノールなどのアルコール類などが挙げられる。これらのうち、メタノールなどのアルコール類が好ましい。
【0113】
溶媒の体積は、アミド系モノマーの体積に対して1倍以上であってもよく、例えば1~100倍、好ましくは5~50倍、さらに好ましくは10~40倍、より好ましくは20~30倍である。
【0114】
ヒドロキシル基の保護基が脱保護されたアミド系モノマーは、慣用の方法で中和して分離または精製してもよい。
【0115】
(好ましい態様)
モノマー合成工程は、前述のように、4段階の工程を含むモノマー合成工程、すなわち、カルボキシル基が保護されたヒドロキシカルボン酸の誘導体のヒドロキシル基に保護基を導入して、第1の中間体を得る第1の保護工程、第1の中間体のカルボキシル基を脱保護して第2の中間体を得る脱保護工程、第2の中間体と、カルボキシル基が保護されたアミノ酸の誘導体とを縮合反応させて第1のアミド系モノマーを得るアミド化工程、前記アミド系モノマーのヒドロキシル基を脱保護して第2のアミド系モノマーを得る第2の保護工程を含むモノマー合成工程が好ましい。
【0116】
(B)重合工程
重合工程では、モノマー合成工程で得られたアミド系モノマーを重合(重縮合)してヒドロキシカルボン酸単位とアミノ酸単位との交互共重合体を得る。アミド系モノマーの重合反応は、エステル化触媒の存在下、溶媒中で反応してもよい。
【0117】
アミド系モノマーは、アミド結合を有する主骨格が、エステル結合を形成するためのヒドロキシル基と、カルボキシル基またはそのエステル形成性誘導基とを有していればよいが、交互共重合体の分子量を向上できる点から、ヒドロキシル基と、アルキル基でエステル化されたカルボキシル基とを有するのが好ましい。カルボキシル基をエステル化するためのアルキル基としては、例えば、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などのC1-4アルキルエステルが好ましく、C1-3アルキル基がさらに好ましく、C1-2アルキル基がより好ましい。
【0118】
エステル化触媒としては、例えば、金属触媒などが利用できる。金属触媒としては、例えば、ナトリウムなどのアルカリ金属;マグネシウム、カルシウム、バリウムなどのアルカリ土類金属;チタン、マンガン、コバルトなどの遷移金属;亜鉛、カドミウムなどの周期表第12族金属;アルミニウムなどの周期表第13族金属;ゲルマニウム、錫、鉛などの周期表第14族金属;アンチモンなどの周期表第15族金属などを含む金属化合物が用いられる。金属化合物としては、例えば、アルコキシド;酢酸塩、プロピオン酸塩、ラウリン酸塩などの有機酸塩;ホウ酸塩、炭酸塩などの無機酸塩;酸化物などであってもよく、これらの水和物であってもよい。汎用されるエステル化触媒としては、例えば、テトラプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、テトラステアリルチタネートなどのチタン系触媒;ジブチルチンジラウレート、ジブチルチンジクロライド、ブチルチントリクロライド、ジブチルチンオキサイドなどの錫系触媒;パラトルエンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルベンゼンスルホン酸金属塩類;メタンスルホン酸などのアルキルスルホン酸類;水酸化コバルト、酢酸マンガン、酸化亜鉛、オクチル酸コバルトなどが挙げられる。
【0119】
これらのエステル化触媒は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの触媒のうち、交互共重合体の分子量を向上できる点から、錫系触媒が好ましく、ジブチルチンジアセテート、ジブチルチンジプロピオネート、ジブチルチンジオクテート、ジブチルチンジラウレートなどのジアルキル錫ジ脂肪酸エステルがさらにこのましく、ジブチルチンジラウレートなどのジC1-6アルキル錫ジC8-16アルカン酸エステルがより好ましい。
【0120】
エステル化触媒の割合は、アミド系モノマー1モルに対して0.001モル以上であってもよく、例えば0.001~0.1モル、好ましくは0.003~0.05モル、さらに好ましくは0.005~0.03モルである。エステル化触媒の割合が少なすぎると、交互共重合体の分子量を向上できない虞がある。
【0121】
重合反応は、必要に応じて、熱安定剤や酸化防止剤などの安定剤の存在下で行ってもよい。通常、熱安定剤がよく利用され、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、ジブチルホスフェート(リン酸ジブチルまたはジブチルリン酸)、亜リン酸、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイトなどのリン化合物などが挙げられる。これらのうち、リン酸ジブチルがよく利用される。熱安定剤の使用量は、例えば、アミド系モノマー1モルに対して、0.001×10-3~10×10-3モル、好ましくは0.01×10-3~5×10-3モルである。
【0122】
重合反応は、通常、不活性ガス、例えば、窒素ガス;ヘリウム、アルゴンなどの希ガスなどの雰囲気中で反応してもよく、エステル交換反応は、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で反応してもよい。
【0123】
重合反応は、常圧下または減圧下のいずれであってもよい。反応温度は、重合方法に応じて選択でき、例えば、溶融重合法における反応温度は150~300℃、好ましくは160~250℃、さらに好ましくは170~200℃である。
【0124】
得られた交互共重合体は、慣用の方法で分離または精製してもよい。
【実施例0125】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、使用した原料は以下の通りであり、得られた中間体およびポリマーの特性および評価は以下のようにして測定した。
【0126】
[使用した原料]
(R)3HB-OMe:(R)3HBメチルエステル、東京化成工業(株)製
Gly-OMe-HCl:グリシンメチルエステル塩酸塩、東京化成工業(株)製
L-Ala-OMe-HCl:L-アラニンメチルエステル塩酸塩、東京化成工業(株)製
D-Ala-OMe-HCl:D-アラニンメチルエステル塩酸塩、東京化成工業(株)製
rac-Ala-OMe-HCl:rac-アラニンメチルエステル塩酸塩、東京化成工業(株)製
β-Ala-OMe-HCl:β-アラニンメチルエステル塩酸塩、東京化成工業(株)製
6AH:6-アミノヘキサン酸、ナカライテスク(株)製
TBSCl:t-ブチルジメチルクロロシラン、関東化学(株)製
EDCI・HCl:1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、東京化成工業(株)製
HOBt・HO:1-ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物、東京化成工業(株)製。
【0127】
[モノマーおよびポリマーの生分解性]
得られたモノマーおよびポリマーについて、ISO14851:2019に準拠し、25℃で土壌懸濁液中での好気的生分解度(BOD;biodegradability)を測定し、ASTM D6691-17における測定条件を参考にし、30℃で海水中での好気的生分解度を測定した。土壌懸濁液は理化学研究所内(北緯35°46’46.38”、東経139°36’52.308”)で採取した土壌を純水で懸濁後(0.1g/mL)、ろ過したろ液を使用した。海水は千葉県館山市北条海岸(北緯35°59’49.794”、東経139°51’23.724”)で採取した海水をろ過により不純物を取り除いて使用した。好気的生分解度はBOD測定器(WTW社製「OxiTop IDS」)を用いて、測定した酸素消費量から求めた。
【0128】
[ポリマーの分子量]
得られたポリマーの数平均分子量(Mn)は、クロマトグラフィーシステム(日本ウォーターズ(株)製「ACQUITY アドバンスドポリマークロマトグラフィーシステム」)と分離カラム3種(日本ウォーターズ(株)製「ACQUITY APC XT BEHカラム900Å、2.5μm、4.6×75mm、300K-2M」「ACQUITY APC XT BEHカラム200Å、2.5μm、4.6×75mm、3K-70K」「ACQUITY APC XT BEHカラム45Å、1.7μm、4.6×150mm、200K-5K」)を用いて、ゲル浸透クロマトグラフィー(流速0.2mL/分、溶出液:5mMトリフルオロ酢酸ナトリウム/ヘキサフルオロイソプロパノール、基準樹脂:ポリメチルメタクリレート)によって測定した。
【0129】
[ポリマーのガラス転移温度]
得られたポリマーのガラス転移温度(Tg)は、動的粘弾性測定装置(パーキンエルマージャパン(株)製「DMA-8000」)を用いて測定した。ステンレス製マテリアルポケットを使用したシングルカンチモードを用いて、周波数1Hz、歪み0.05mm、2℃/分の昇温速度で-50~200℃に昇温して測定した。
【0130】
[ポリマーの融点]
得られたポリマーの融点(Tm)は、示差走査熱量計(パーキンエルマージャパン(株)製「DSC-8500」)を用いて、ヘリウム雰囲気下、測定温度-50~200℃、昇温速度10℃/分の条件で試料を昇温して測定した。得られたDSCチャート(DSC曲線)から、融解による吸熱ピークのピークトップの温度を融点として求めた。
【0131】
[ポリマーの5%重量減少温度]
ポリマーの5%重量減少温度(Td5%)は、示差熱-熱重量同時測定計(日立ハイテクサイエンス(株)製「TG/DTA7200」)を用いて、窒素雰囲気中、30℃から500℃まで昇温速度10℃/分で昇温して測定した。
【0132】
[ポリマーの結晶化度]
得られたポリマーの結晶化度(Xc)は、X線回折装置(リガク(株)製「RINT-2500」)を用いて、Vonk法によって回折強度から求めた。電圧40kV、電流100mAに設定し、放射源は波長0.154nmのCu-Kα放射線を使用した。シリコン製無反射試料板を使用し、2θが4.0°から60.0°まで走査速度2.0°/分で測定した。
【0133】
[ポリマーのNMR]
得られたポリマーを、テトラメチルシラン(TMS)を内部標準物質として、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)または2,2,2-トリフルオロエタノール(TFE)を含む重クロロホルムに溶解し[CDCl/HFIP=1/1(体積比)またはCDCl/TFE=1/1(体積比)]、核磁気共鳴装置(アジレント・テクノロジー(株)製「Varian NMR System 500」)を用いて、H-NMRスペクトルおよび13C-NMRスペクトルを測定した。
【0134】
なお、本実施例において、体積比は、温度20℃での容積比を意味する。
【0135】
実施例1
(1)ヒドロキシカルボン酸誘導体の調製工程
(ヒドロキシル基の保護工程:TBS-(R)3HB-OMeの合成)
【0136】
【化3】
【0137】
上記式に示すように、第1の中間体であるTBS-(R)3HB-OMeを合成した。すなわち、窒素雰囲気下、(R)3HB-OMe(25mL,224mmol)をジメチルホルムアミドDMF(450mL)に加えた後、溶液を0℃に冷却した。TBSCl(40.6g,269mmol)、イミダゾール(36.7g,538mmol)を加え、室温まで昇温して24時間攪拌した。飽和塩化アンモニウム水溶液を加え、ジエチルエーテルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。減圧下で溶媒を留去した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=19:1(体積比))で精製することで無色液体としてTBS-(R)3HB-OMe(50.1g,96%)を得た。
【0138】
(カルボキシル基の脱保護工程:TBS-(R)3HB-OHの合成)
【0139】
【化4】
【0140】
上記式に示すように、第1の中間体であるTBS-(R)3HB-OHを合成した。TBS-(R)3HB-OMe(50.0g,215mmol)をTHF(645mL)に溶解して水(323mL)を加えた。溶液を0℃に冷却し、水酸化リチウム一水和物(13.5g,323mmol)を加え、室温まで昇温して17時間攪拌した。反応混合液を減圧下で濃縮後、1M塩酸で中和し、ジエチルエーテルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。減圧下で溶媒を留去することで無色液体としてTBS-(R)3HB-OH(44.3g,94%)を得た。
【0141】
(2)アミド化工程
(TBS-(R)3HB-Gly-OMeの合成)
【0142】
【化5】
【0143】
上記式に示すように、第2の中間体であるTBS-(R)3HB-Gly-OMeを合成した。すなわち、窒素雰囲気下、TBS-(R)3HB-OH(10.9g,50mmol)、グリシンメチルエステル塩酸塩(6.9g,55mmol)、HOBt・HO(8.4g,55mmol)をジクロロメタン(500mL)に溶解し、溶液を0℃に冷却した。EDCI・HCl(10.5g,55mmol)、トリエチルアミンEtN(15.4mL,110mmol)を加え、室温まで昇温して20時間攪拌した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えてジクロロメタン層を繰り返し洗浄した。有機層を飽和塩化アンモニウム水溶液、飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。減圧下で溶媒を留去した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1(体積比))で精製することで、無色液体としてTBS-(R)3HB-Gly-OMe(13.0g,90%)を得た。
【0144】
(3)脱保護工程
((R)3HB-Gly-OMeの合成)
【0145】
【化6】
【0146】
上記式に示すように、アミド系モノマーであるR-3-ヒドロキシブタノイルグリシンメチルエステル((R)3HB-Gly-OMe)を合成した。すなわち、窒素雰囲気下、TBS-(R)3HB-Gly-OMe(11.6g,40mmol)を脱水メタノール(120mL)に溶解した後、溶液を0℃に冷却した。塩化アセチルAcCl(0.43mL,6.0mmol)を滴下し、0℃で3時間攪拌した。トリエチルアミン(0.85mL,6mmol)を加えた反応混合液を減圧下で濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:メタノール=19:1(体積比))で精製することで、白色固体として、(R)3HB-Gly-OMe(6.6g,95%)を得た。
【0147】
(4)重合工程
(P[(R)3HB-alt-Gly]の合成)
【0148】
【化7】
【0149】
上記式に示すように、(R)3HBとグリシンとの交互共重合体(ポリマー)であるP[(R)3HB-alt-Gly]を合成した。すなわち、窒素気流下、(R)3HB-Gly-OMe(175mg,1.0mmol)に、0.1Mジブチルチンジラウレート(DBTDL)トルエン溶液[0.2mL,2mol%((R)3HB-Gly-OMe1モルに対して0.02モルの比率)]を加えて180℃で1時間攪拌した。トリフルオロエタノールに溶解し、溶液をアセトンに注いだ。生じた沈殿物をろ過により回収し、40℃で減圧乾燥することで、白色固体として、ポリマーであるP[(R)3HB-alt-Gly](85mg,60%)を得た。得られたポリマーのH-NMRスペクトルおよび13C-NMRスペクトルを、それぞれ図4および図5に示す。図中、アルファベット小文字のダッシュ表記は末端構造を示す。
【0150】
なお、前記ポリマーの略号における「alt」は交互共重合体であることを示す。
【0151】
実施例2
(1)アミド化工程
(TBS-(R)3HB-L-Ala-OMeの合成)
窒素雰囲気下、TBS-(R)3HB-OH(10.9g,50mmol)、L-アラニンメチルエステル塩酸塩(7.7g,55mmol)、HOBt・HO(8.4g,55mmol)をジクロロメタン(500mL)に溶解し、溶液を0℃に冷却した。EDCI・HCl(10.5g,55mmol)、トリエチルアミン(15.4mL,110mmol)を加え、室温まで昇温して20時間攪拌した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えてジクロロメタン層を繰り返し洗浄した。有機層を飽和塩化アンモニウム水溶液、飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。減圧下で溶媒を留去した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=7:3(体積比))で精製することで、無色液体として、第2の中間体であるTBS-(R)3HB-L-Ala-OMe(14.1g,93%)を得た。
【0152】
(2)脱保護工程
((R)3HB-L-Ala-OMeの合成)
窒素雰囲気下、TBS-(R)3HB-L-Ala-OMe(12.1g,40mmol)を脱水メタノール(120mL)に溶解した後、溶液を0℃に冷却した。塩化アセチル(0.43mL,6.0mmol)を滴下し、0℃で3時間攪拌した。トリエチルアミン(0.85mL,6mmol)を加えた反応混合液を減圧下で濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:メタノール=19:1(体積比))で精製することで、白色固体として、第3の中間体(モノマー)であるR-3-ヒドロキシブタノイルL-アラニンメチルエステル((R)3HB-L-Ala-OMe)(7.4g,98%)を得た。
【0153】
(3)重合工程
(P[(R)3HB-alt-L-Ala]の合成)
窒素気流下、(R)3HB-L-Ala-OMe(189mg,1.0mmol)に、0.1Mジブチルチンジラウレート(DBTDL)トルエン溶液(0.2mL,2mol%)を加えて180℃で1時間攪拌した。トリフルオロエタノールに溶解し、溶液をジエチルエーテルに注いだ。生じた沈殿物をろ過により回収し、40℃で減圧乾燥することで、白色固体として、(R)3HBとL-アラニンとの交互共重合体(ポリマー)であるP[(R)3HB-alt-L-Ala](66mg,42%)を得た。得られたポリマーのH-NMRスペクトルおよび13C-NMRスペクトルを、それぞれ図6および図7に示す。
【0154】
実施例3
(1)アミド化工程
(TBS-(R)3HB-D-Ala-OMeの合成)
窒素雰囲気下、TBS-(R)3HB-OH(10.9g,50mmol)、D-アラニンメチルエステル塩酸塩(7.7g,55mmol)、HOBt・HO(8.4g,55mmol)をジクロロメタン(500mL)に溶解し、溶液を0℃に冷却した。EDCI・HCl(10.5g,55mmol)、トリエチルアミン(15.4mL,110mmol)を加え、室温まで昇温して20時間攪拌した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えてジクロロメタン層を繰り返し洗浄した。有機層を飽和塩化アンモニウム水溶液、飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。減圧下で溶媒を留去した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=7:3(体積比))で精製することで、白色固体として、第2の中間体であるTBS-(R)3HB-D-Ala-OMe(14.0g,92%)を得た。
【0155】
(2)脱保護工程
((R)3HB-D-Ala-OMeの合成)
窒素雰囲気下、TBS-(R)3HB-D-Ala-OMe(12.1g,40mmol)を脱水メタノール(120mL)に溶解した後、溶液を0℃に冷却した。塩化アセチル(0.43mL,6.0mmol)を滴下し、0℃で3時間攪拌した。トリエチルアミン(0.85mL,6mmol)を加えた反応混合液を減圧下で濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:メタノール=19:1(体積比))で精製することで、白色固体として、第3の中間体(モノマー)であるR-3-ヒドロキシブタノイルD-アラニンメチルエステル((R)3HB-D-Ala-OMe)(7.5g,98%)を得た。
【0156】
(3)重合工程
(P[(R)3HB-alt-D-Ala]の合成)
窒素気流下、(R)3HB-D-Ala-OMe(189mg,1.0mmol)に0.1Mジブチルチンジラウレート(DBTDL)トルエン溶液(0.2mL,2mol%)を加えて180℃で1時間攪拌した。トリフルオロエタノールに溶解し、溶液をアセトンに注いだ。生じた沈殿物をろ過により回収し、40℃で減圧乾燥することで、白色固体として、(R)3HBとD-アラニンとの交互共重合体(ポリマー)であるP[(R)3HB-alt-D-Ala](82mg,52%)を得た。得られたポリマーのH-NMRスペクトルおよび13C-NMRスペクトルを、それぞれ図8および図9に示す。
【0157】
実施例4
(1)アミド化工程
(TBS-(R)3HB-rac-Ala-OMeの合成)
窒素雰囲気下、TBS-(R)3HB-OH(10.9g,50mmol)、rac-アラニンメチルエステル塩酸塩(7.7g,55mmol)、HOBt・HO(8.4g,55mmol)をジクロロメタン(500mL)に溶解し、溶液を0℃に冷却した。EDCI・HCl(10.5g,55mmol)、トリエチルアミン(15.4mL,110mmol)を加え、室温まで昇温して20時間攪拌した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えてジクロロメタン層を繰り返し洗浄した。有機層を飽和塩化アンモニウム水溶液、飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。減圧下で溶媒を留去した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=7:3(体積比))で精製することで、無色液体として、第2の中間体であるTBS-(R)3HB-rac-Ala-OMe(14.1g,93%)を得た。
【0158】
なお、第2の中間体の略号における「rac」はラセミ体であることを示す。
【0159】
(2)脱保護工程
((R)3HB-rac-Ala-OMeの合成)
窒素雰囲気下、TBS-(R)3HB-rac-Ala-OMe(12.1g,40mmol)を脱水メタノール(120mL)に溶解した後、溶液を0℃に冷却した。塩化アセチル(0.43mL,6.0mmol)を滴下し、0℃で3時間攪拌した。トリエチルアミン(0.85mL,6mmol)を加えた反応混合液を減圧下で濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:メタノール=19:1(体積比))で精製することで、無色液体として、第3の中間体(モノマー)であるR-3-ヒドロキシブタノイル-rac-アラニンメチルエステル((R)3HB-rac-Ala-OMe)(7.1g,94%)を得た。
【0160】
(3)重合工程
(P[(R)3HB-alt-rac-Ala]の合成)
窒素気流下、(R)3HB-rac-Ala-OMe(189mg,1.0mmol)に、0.1Mジブチルチンジラウレート(DBTDL)トルエン溶液(0.2mL,2mol%)を加えて180℃で1時間攪拌した。トリフルオロエタノールに溶解し、溶液をジエチルエーテルに注いだ。生じた沈殿物をろ過により回収し、40℃で減圧乾燥することで、白色固体として、(R)3HBとrac-アラニンとの交互共重合体(ポリマー)であるP[(R)3HB-alt-rac-Ala](71mg,45%)を得た。得られたポリマーのH-NMRスペクトルおよび13C-NMRスペクトルを、それぞれ図10および図11に示す。
【0161】
実施例5
(1)アミド化工程
(TBS-(R)3HB-β-Ala-OMeの合成)
窒素雰囲気下、TBS-(R)3HB-OH(10.9g,50mmol)、β-アラニンメチルエステル塩酸塩(7.7g,55mmol)、HOBt・HO(8.4g,55mmol)をジクロロメタン(500mL)に溶解し、溶液を0℃に冷却した。EDCI・HCl(10.5g,55mmol)、トリエチルアミン(15.4mL,110mmol)を加え、室温まで昇温して20時間攪拌した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えてジクロロメタン層を繰り返し洗浄した。有機層を飽和塩化アンモニウム水溶液、飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。減圧下で溶媒を留去した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1(体積比))で精製することで、無色液体として、第2の中間体であるTBS-(R)3HB-β-Ala-OMe(13.7g,90%)を得た。
【0162】
(2)脱保護工程
((R)3HB-β-Ala-OMeの合成)
窒素雰囲気下、TBS-(R)3HB-β-Ala-OMe(12.1g,40mmol)を脱水メタノール(120mL)に溶解した後、溶液を0℃に冷却した。塩化アセチル(0.43mL,6.0mmol)を滴下し、0℃で3時間攪拌した。トリエチルアミン(0.85mL,6mmol)を加えた反応混合液を減圧下で濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:メタノール=19:1(体積比))で精製することで、白色固体として、第3の中間体(モノマー)であるR-3-ヒドロキシブタノイルβ-アラニンメチルエステル((R)3HB-β-Ala-OMe)(7.4g,98%)を得た。
【0163】
(3)重合工程
(P[(R)3HB-alt-β-Ala]の合成)
窒素気流下、(R)3HB-β-Ala-OMe(189mg,1.0mmol)に、0.1Mジブチルチンジラウレート(DBTDL)トルエン溶液(0.2mL,2mol%)を加えて180℃で1時間攪拌した。トリフルオロエタノールに溶解し、溶液をアセトンに注いだ。生じた沈殿物をろ過により回収し、40℃で減圧乾燥することで、白色固体として、(R)3HBとβ-アラニンとの交互共重合体(ポリマー)であるP[(R)3HB-alt-β-Ala](65mg,41%)を得た。得られたポリマーのH-NMRスペクトルおよび13C-NMRスペクトルを、それぞれ図12および図13に示す。
【0164】
実施例6
(1)アミノ酸誘導体の調製工程
(6AH-OMe・HClの合成)
窒素雰囲気下、脱水メタノール(300mL)を0℃に冷却した。塩化アセチル(12.8mL,180mmol)を滴下し、0℃で15分間攪拌した。6-アミノヘキサン酸(7.9g,60mmol)を加え、室温まで昇温して1時間攪拌した後、15時間還流した。室温まで冷却した溶液を減圧下で濃縮後、残渣をメタノールに溶解し、冷ジエチルエーテルに滴下した。生じた沈殿物をろ過し、ジエチルエーテルで洗浄後に回収することで、白色固体として、6-アミノヘキサン酸メチルエステル塩酸塩(6AH-OMe・HCl)(10.3g,94%)を得た。
【0165】
(2)アミド化工程
(TBS-(R)3HB-6AH-OMeの合成)
窒素雰囲気下、TBS-(R)3HB-OH(10.9g,50mmol)、6AH-OMe・HCl(10.0g,55mmol)、HOBt・HO(8.4g,55mmol)をジクロロメタン(500mL)に溶解し、溶液を0℃に冷却した。EDCI・HCl(10.5g,55mmol)、トリエチルアミン(15.4mL,110mmol)を加え、室温まで昇温して20時間攪拌した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えてジクロロメタン層を繰り返し洗浄した。有機層を飽和塩化アンモニウム水溶液、飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。減圧下で溶媒を留去した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=7:3(体積比))で精製することで、無色液体として、第2の中間体であるTBS-(R)3HB-6AH-OMe(16.6g,96%)を得た。
【0166】
(3)脱保護工程
((R)3HB-6AH-OMeの合成)
窒素雰囲気下、TBS-(R)3HB-6AH-OMe(13.8g,40mmol)を脱水メタノール(120mL)に溶解した後、溶液を0℃に冷却した。塩化アセチル(0.43mL,6.0mmol)を滴下し、0℃で3時間攪拌した。トリエチルアミン(0.85mL,6mmol)を加えた反応混合液を減圧下で濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:メタノール=19:1体積比)で精製することで、白色固体として、第3の中間体であるR-3-ヒドロキシブタノイル6-アミノヘキサン酸メチルエステル((R)3HB-6AH-OMe)(9.0g,98%)を得た。
【0167】
(4)重合工程
(P[(R)3HB-alt-6AH]の合成)
窒素気流下、(R)3HB-6AH-OMe(231mg,1.0mmol)に、0.1Mジブチルチンジラウレート(DBTDL)トルエン溶液(0.2mL,2mol%)を加えて180℃で1時間攪拌した。トリフルオロエタノールに溶解し、溶液をアセトンに注いだ。生じた沈殿物をろ過により回収し、40℃で減圧乾燥することで、白色固体として、(R)3HBと6-アミノヘキサン酸との交互共重合体(ポリマー)であるP[(R)3HB-alt-6AH](93mg,46%)を得た。得られたポリマーのH-NMRスペクトルおよび13C-NMRスペクトルを、それぞれ図14および図15に示す。
【0168】
実施例1~5で得られたモノマー(第3の中間体)の海水中での生分解性を評価した結果をグラフとして図1に示す。図1の結果から明らかなように、いずれのモノマーも高い生分解性を示した。なかでも、実施例1および2のモノマーは、特に高い生分解性を示した。
【0169】
実施例1~6で得られたポリマーの諸物性を評価した結果を表1に示す。なお、比較のために、(R)3HBの単独重合体(P[(R)3HB])、ポリL-乳酸(PLLA)の結果も参考例1および2として示す。表1中「n.d.」は、検出されなかったことを示す。
【0170】
【表1】
【0171】
表1の結果から明らかなように、実施例1~6のポリマーは、数平均分子量が大きく、ガラス転移温度も高いため、耐熱性および成形性にも優れていた。なかでも、実施例1~2および4のポリマーはバランスに優れていた。
【0172】
なお、実施例2~4のポリマーでは、融点Tmは検出されなかった。また、実施例4で得られたポリマーでは、結晶質の回折ピークは検出されなかった。
【0173】
実施例1および2で得られたポリマーの土壌懸濁液中での生分解性を評価した結果をグラフとして図2に示す。図2の結果から明らかなように、いずれのポリマーも高い生分解性を示した。
【0174】
実施例1および2で得られたポリマーの海水中での生分解性を評価した結果をグラフとして図3に示す。図3の結果から明らかなように、いずれのポリマーも高い生分解性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0175】
本発明の生分解性樹脂は、高い生分解性を有するため、各種の分野、例えば、塗料、帯電防止剤、インキ、接着剤、粘着剤、電気・電子材料(例えば、キャリア輸送剤、発光体、有機感光体など)、電気・電子部品又は機器(例えば、光学レンズ、光学フィルム、光ディスク、インクジェットプリンタ、デジタルペーパ、有機半導体レーザ、色素増感型太陽電池など)、機械部品または機器(例えば、自動車、航空・宇宙材料、センサなど)などに利用できる。特に、機械的特性が高いため、押出成形、射出成形などによって容易に成形でき、各種分野の成形部材(例えば、ケーシング、ハウジングなどの成形体)、容器(食品、日用品、電気、電子機器および部品などの容器)、フィルムやシートなどの包装材料やゴミ袋などに好適に利用できる。また、近年新たな問題となっているマイクロプラスチック(特に、海洋中のマイクロプラスチック)の問題も、高い生分解性を活かして解決できる。なお、本発明の生分解性樹脂は、3HB由来の骨格を含み、生体適合性も有するため、医療分野(例えば、医療機器など)にも利用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15