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特開2024-158650筆記具用水性インキ組成物及びそれを内蔵した筆記具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158650
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】筆記具用水性インキ組成物及びそれを内蔵した筆記具
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/30 20140101AFI20241031BHJP
   B43K 8/02 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C09D11/30
B43K8/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074013
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】中村 尚嗣
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 将太
【テーマコード(参考)】
2C350
4J039
【Fターム(参考)】
2C350GA04
2C350HA15
4J039AD03
4J039AD11
4J039BC09
4J039BC12
4J039BC19
4J039BC54
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE18
4J039BE19
4J039BE33
4J039CA06
4J039EA36
4J039EA48
4J039GA26
4J039GA27
(57)【要約】
【課題】 筆記時のインキ吐出量が多い場合や、筆跡に対してより高い乾燥性を付与した場合であっても、未乾燥のインキが付着して手指や周囲を汚すことがなく、鮮明な筆跡が不具合なく形成できる利便性の高い水性インキ組成物と、それを内蔵した筆記具を提供する。
【解決手段】 スルホコハク酸系浸透剤、アセチレン系浸透剤、エーテル系浸透剤から選ばれる一種以上の浸透剤と、アクリル-スチレン系共重合体とアクリロニトリル-スチレン系共重合体から選ばれる一種以上の共重合体と、顔料と、水とを少なくとも含む筆記具用水性インキ組成物と、それを内蔵した筆記具。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホコハク酸系浸透剤、アセチレン系浸透剤、エーテル系浸透剤から選ばれる一種以上の浸透剤と、アクリル-スチレン系共重合体とアクリロニトリル-スチレン系共重合体から選ばれる一種以上の共重合体と、顔料と、水とを少なくとも含む筆記具用水性インキ組成物。
【請求項2】
前記共重合体が、アクリル酸-スチレン共重合体及び/又はアクリロニトリル-スチレン-アクリル酸エステル共重合体である請求項1記載の筆記具用水性インキ組成物。
【請求項3】
前記共重合体の粒子径が、0.5μm未満である請求項1又は2に記載の筆記具用水性インキ組成物。
【請求項4】
前記顔料の粒子径が、0.3μm未満である請求項1記載の筆記具用水性インキ組成物。
【請求項5】
前記顔料が、蛍光顔料である請求項1又は4に記載の筆記具用水性インキ組成物。
【請求項6】
前記蛍光顔料が、高分子化合物を蛍光染料で染着してなる請求項5記載の筆記具用水性インキ組成物。
【請求項7】
前記蛍光染料が、水溶性染料である請求項6記載の筆記具用水性インキ組成物。
【請求項8】
前記浸透剤が、ポリアルキレンオキサイドと脂肪族アルコールとのエーテルである請求項1記載の筆記具用水性インキ組成物。
【請求項9】
前記ポリアルキレンオキサイドと脂肪族アルコールとのエーテルが、10~16のHLB値を有する請求項8に記載の筆記具用水性インキ組成物。
【請求項10】
請求項1乃至9の何れかに記載の筆記具用水性インキ組成物を内蔵した筆記具。
【請求項11】
筆記用紙Aに速度4m/分で筆記した際の単位面積当たりのインキ消費量が0.003mg/mm以上である請求項10に記載の筆記具。
【請求項12】
ペン先にナイロン製マーキングペンチップを配設してなるマーキングペンである請求項10又は11に記載の筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は筆記具用水性インキ組成物に関する。更には、筆跡の乾燥性に優れた筆記具用水性インキ組成物とそれを用いた筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、教科書やノート等への筆記に適用される筆記具においては、鮮やかな色相の筆跡が得られる水性インキが広く用いられているが、一般的な水性インキによる筆跡は乾燥性が低く、筆記直後の筆跡に触れた際に手指や筆跡周辺を汚してしまうため、筆跡の乾燥性を向上させる技術が広く検討されている。
前記筆跡乾燥性は、各種浸透剤をインキ中に添加することで付与され、例えば、モノアルキルスルホコハク酸塩やジアルキルスルホコハク酸塩等のスルホコハク酸系浸透剤、アセチレングリコール系界面活性剤やアセチレンアルコール系界面活性剤等のアセチレン系浸透剤、ポリアルキレンオキサイドと脂肪族アルコールとのエーテルからなるエーテル系浸透剤等が用いられている(例えば、特許文献1乃至3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-128524号公報
【特許文献2】特開2020-172624号公報
【特許文献3】特開2020-2214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献に記載の各浸透剤は、インキの紙面への浸透速度を向上させるために用いられ、筆跡の乾燥性を各段に早めることができる添加剤であるが、インキの浸透性が著しく向上するために、筆跡が裏抜け(紙の裏面から視覚される状態)するという不具合が生じ易くなるため、添加量を制限することで裏抜けと浸透性のバランスを取る必要があった。特に、筆跡を濃く太くする等の目的で筆記時のインキ吐出量が多くなった場合、紙面に浸透するインキ量が増加するため、裏抜けが生じ易くなる傾向が高くなり、より高い筆跡乾燥性である速乾効果を発揮させることが困難であった。
【0005】
本発明は従来の有用な浸透剤を用いた際に生じる、筆跡の裏抜けを効果的に抑制することで、筆記時のインキ吐出量が多い場合や、筆跡に対してより高い乾燥性(速乾性能)を付与した場合であっても、未乾燥のインキが付着して手指や周囲を汚すことがなく、鮮明な筆跡が不具合なく形成できる利便性の高い水性インキ組成物と、それを内蔵した筆記具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、スルホコハク酸系浸透剤、アセチレン系浸透剤、エーテル系浸透剤から選ばれる一種以上の浸透剤と、アクリル-スチレン系共重合体とアクリロニトリル-スチレン系共重合体から選ばれる一種以上の共重合体と、顔料と、水とを少なくとも含む筆記具用水性インキ組成物を要件とする。
更に、前記共重合体が、アクリル酸-スチレン共重合体及び/又はアクリロニトリル-スチレン-アクリル酸エステル共重合体であること、前記共重合体の粒子径が、0.5μm未満であることを要件とする。
更に、前記顔料の粒子径が、0.3μm未満であること、前記顔料が、蛍光顔料であること、前記蛍光顔料が、高分子化合物を蛍光染料で染着してなること、前記蛍光染料が、水溶性染料であることを要件とする。
更に、前記浸透剤が、ポリアルキレンオキサイドと脂肪族アルコールとのエーテルであること、前記ポリアルキレンオキサイドと脂肪族アルコールとのエーテルが、10~16のHLB値を有することを要件とする。
更には、前記何れかに記載の筆記具用水性インキ組成物を内蔵した筆記具を要件とし、筆記用紙Aに速度4m/分で筆記した際の単位面積当たりのインキ消費量が0.003mg/mm以上であること、ペン先にナイロン製マーキングペンチップを配設してなるマーキングペンであることを要件とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、従来の特に有用な浸透剤を用いた際に生じることがあった筆跡の裏抜けを効果的に抑制することができるため、筆記時のインキ吐出量が多い場合や、筆跡により高い乾燥性(速乾性)を付与した場合であっても、インキ付着による手指の汚染や筆跡周囲の紙面を汚すことがなく、鮮明な筆跡を不具合なく形成できる利便性の高い水性インキ組成物と、それを内蔵した筆記具となる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
尚、本明細書において、配合を示す「部」、「%」、「比」等は特に断らない限り質量基準である。
【0009】
本発明による筆記具用水性インキ組成物(以下、場合により、「水性インキ組成物」、「インキ」と表すことがある。)は、水と、顔料と、特定の浸透剤と、特定のスチレン系共重合体とを少なくとも含んでなる。以下、本発明による水性インキ組成物を構成する各成分について説明する。
【0010】
(顔料)
本発明の水性インキ組成物は、着色剤に顔料を用いる。前記顔料としては、カーボンブラック、群青などの無機顔料や銅フタロシアニンブルー、ベンジジンイエロー等の有機顔料の他、予め界面活性剤等を用いて微細に安定的に水媒体中に分散された水分散顔料製品等が用いられ、例えば、C.I.Pigment Blue 15:3B〔品名:S.S.Blue GLL、顔料分22%、山陽色素株式会社製〕、C.I.Pigment Red 146〔品名:S.S.Pink FBL、顔料分21.5%、山陽色素株式会社製〕、C.I.Pigment Yellow 81〔品名:TC Yellow FG、顔料分約30%、大日精化工業株式会社製〕、C.I.Pigment Red220/166〔品名:TC Red FG、顔料分約35%、大日精化工業株式会社製〕等を挙げることができる。
また、蛍光顔料、パール顔料、金色、銀色のメタリック顔料、蓄光性顔料、二酸化チタン等の白色顔料、アルミニウム等の金属粉、更には熱変色性組成物、光変色性組成物、香料等を直接又はマイクロカプセル化したカプセル顔料等を用いることができる。
前記熱変色性組成物としては、(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体からなる可逆熱変色性組成物が好適であり、マイクロカプセルに内包させて可逆熱変色性マイクロカプセル顔料として適用され、発色温度を冷凍庫等でしか得られない温度(-50~0℃)、消色温度を摩擦体による摩擦熱やヘアドライヤー等の加熱体から得られる温度(50~95℃)とすることが好ましい。
【0011】
(蛍光顔料)
前記顔料のうち、蛍光顔料については染料を色素として使用しているので色が鮮やかであり、特に、高分子化合物粒子の表面に染料を吸着させた蛍光顔料はより鮮明な色調を呈し易いため、本発明のインキ組成物に好ましく用いられる。尚、前記蛍光顔料は、水性インキ中に添加した際、経時により蛍光染料が染み出し、筆記した際に筆跡滲みを生じることがある顔料であるが、本発明の組成においては、この筆跡滲みも抑制できるため有用である。
前記蛍光顔料としては、基材である高分子化合物(合成樹脂)を染料で染着(染色)したものが好適であり、高分子化合物粒子の表面に染料を吸着させたものや、高分子化合物と染料との混合物を細粒化したもの等、従来公知のものが適宜使用できる。
【0012】
蛍光顔料に用いられる高分子化合物としては、従来公知のものが利用可能であり、具体的には、アミノ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル系共重合樹脂、アクリロニトリル系共重合樹脂等を挙げることができる。特に、顔料基材として適用されるアクリル系共重合樹脂やアクリロニトリル系共重合樹脂の組成を、インキ中に添加するアクリル-スチレン系共重合体やアクリロニトリル-スチレン系共重合体と合わせることで、それぞれの分散安定性が向上するとともに、下記染料による筆跡滲みが効果的に抑制されるため特に好適である。
また、蛍光顔料に用いられる染料としては、上記高分子化合物に応じて従来公知の蛍光染料を適宜選択可能であり、塩基性染料、酸性染料、分散染料、およびソルベント染料などを用いることが可能である。特に、発色性の高い水溶性染料を用いた際には、経時により前述の水性インキ中への染み出しに伴う筆跡滲みが生じるものとなるが、本発明の構成とすることで抑制できるため、水溶性染料を用いた系であっても有効に使用でき、鮮明な筆跡を得ることができる。
【0013】
本発明においては、前記蛍光顔料を溶媒に分散させ、顔料分散体としたものを用いることも可能である。具体的には、シンロイヒカラーSWシリーズ、同SFシリーズ(以上シンロイヒ株式会社製)、ルミコールシリーズ(日本蛍光化学株式会社製)等が挙げられる。
【0014】
顔料の平均粒子径は、0.05~5μmであることが好ましく、0.05~0.5μmであることがより好ましく、更には0.3μm未満であることが好ましい。顔料の平均粒子径が上記数値範囲内であれば、鮮明な発色性が得られ易く、また、顔料の分散安定性を良好とし易いためである。特に0.5μm、0.3μmと小さくなるにつれて分散性が高くなるとともに筆跡が裏抜けし易くなる傾向にあるが、本発明の構成であれば顔料の粒子径が小さくなっても筆跡の裏抜けが生じ難いため、分散安定性の高い蛍光顔料を容易に選択することが可能となる。
顔料の平均粒子径は、例えば、動的光散乱式測定装置(商品名「Microtrac NANOTRAC FLEX」、日機装株式会社)を用いて、標準試料や他の測定方法を用いてキャリブレーションした数値を基に、動的光散乱法で測定される粒度分布の体積累積50%時の粒子径(D50)により測定することができる。
本明細書では、顔料や共重合体の「平均粒子径」とは、特に断りのない限り、体積基準の平均粒子径のことを指すものとする。
【0015】
また、前記顔料とともに、水性媒体に溶解可能な染料を併用することも可能である。
前記染料としては、酸性染料、塩基性染料、直接染料等が適用でき、汎用のものを選択して使用することができる。
前記顔料を含む着色剤は一種又は二種以上を適宜混合して使用することができ、インキ組成中1~25質量%、好ましくは2~15質量%の範囲で用いられる。
【0016】
(浸透剤)
筆記直後における筆跡の乾燥性(いわゆる速乾性)を得る目的で添加される浸透剤としては、例えば、モノアルキルスルホコハク酸塩やジアルキルスルホコハク酸塩等のスルホコハク酸系浸透剤、アセチレングリコール系界面活性剤やアセチレンアルコール系界面活性剤等のアセチレン系浸透剤、ポリアルキレンオキサイドと脂肪族アルコールとのエーテルからなるエーテル系浸透剤が用いられる。
【0017】
(スルホコハク酸系浸透剤)
スルホコハク酸系浸透剤としては、モノアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩、モノアルケニルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩、ジアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩及びジアルケニルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩からなる群から選択される1つ以上が適用できる。
所望の効果が高いことから、モノアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩においては、炭素数6~12のアルキル基を構造に有することが好ましく、アルキル基は、分岐構造を有することが好ましい。具体的には、アルキル基として2-エチルヘキシル基を構造に有することが最も好ましい。例えば化合物としては、スルホコハク酸ラウリル2ナトリウムが挙げられる。
また、モノアルケニルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩においては、炭素数6~12のアルキレン基を構造に有することが好ましく、アルキレン基は、分岐構造を有することが好ましい。具体的には、アルキル基として2-エチルヘキシル基を構造に有することが最も好ましい。
また、ジアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩においては、炭素数6~12のアルキル基を構造に有することが好ましく、アルキル基は、分岐構造を有することが好ましい。具体的には、アルキル基として2-エチルヘキシル基を構造に有することが最も好ましい。例えば化合物としては、ジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム、ジラウリルスルホコハク酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸塩、ジノニルスルホコハク酸塩、ジデシルスルホコハク酸塩、ジウンデシルスルホコハク酸塩、ジミリスチルスルホコハク酸塩、ジパルミチルスルホコハク酸塩、ジステアリルスルホコハク酸塩、ジアラキジルスルホコハク酸塩が挙げられる。
また、ジアルケニルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩においては、炭素数6~12のアルキレン基を構造に有することが好ましく、アルキレン基は、分岐構造を有することが好ましい。例えば化合物としては、ジオクテニルスルホコハク酸塩、ジノネニルスルホコハク酸塩、ジデセニルスルホコハク酸塩、ジウンデセニルスルホコハク酸塩、ジドデセニルスルホコハク酸塩、ジオレイルスルホコハク酸塩が挙げられる。
スルホコハク酸系浸透剤の含有量としては、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上であり、好ましくは5質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。当該合計の含有量が0.01質量%以上5質量%以下であると、インキ吐出性とインキの紙面浸透性とを両立することがより容易となる。
【0018】
(アセチレン系浸透剤)
アセチレン系浸透剤は、アセチレングリコール系界面活性剤またはアセチレンアルコール系界面活性剤からなり、アセチレングリコール系界面活性剤は、下記一般式(1)の構造を有する。
【化1】
ここで、R~Rは炭化水素基を示し、Rはエチレン基を示し、m、pは0以上の整数である。
具体的には、オルフィンD-10A、オルフィンD-10PG、オルフィンE1004、オルフィンE1010、オルフィンE1020、オルフィンE1030W、オルフィンPD-001、オルフィンPD-002W、オルフィンPD-003、オルフィンPD-004、オルフィンPD-201、オルフィンPD-301、オルフィンEXP.4001、オルフィンEXP.4200、オルフィンEXP.4123、オルフィンEXP.4300、サーフィノール82、サーフィノール104E、サーフィノール104H、サーフィノール104A、サーフィノール104PA、サーフィノール104PG-50、サーフィノール104S、サーフィノール420、サーフィノール440、サーフィノール465、サーフィノール485、サーフィノール2502、ダイノール604、ダイノール607、以上日信化学工業株式会社製、アセチレノールE13T、アセチレノールEH、アセチレノールEL、アセチレノールE40、アセチレノールE60、アセチレノールE81、アセチレノールE100、アセチレノール85、以上川研ファインケミカル株式会社製、を挙げることができ、一種又は二種以上を用いることができる。
アセチレンアルコール系界面活性剤は、下記一般式(2)の構造を有する。
【化2】
ここで、R、Rは炭化水素基を示す。
具体的には、サーフィノール61、オルフィンB(以上日信化学工業株式会社製)が挙げられ、一種又は二種以上を用いることができる。
アセチレン酸系浸透剤の含有量としては、インキ組成物全量に対して0.005~1.5質量%とすることが好ましく、0.01~1.0質量%とすることがより好ましく、0.05~0.75質量%とすることが特に好ましい。
【0019】
(エーテル系浸透剤)
エーテル系浸透剤は、ポリアルキレンオキサイドと脂肪族アルコールとのエーテルであり、ポリアルキレンオキサイドとしては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、またはブチレンオキサイド等から形成される物質が挙げられ、単一種のアルキレンオキサイド基から形成されていても良く、また複数種のアルキレンオキサイド基から形成されていても良く、重合度に限りはない。更に、ポリアルキレンオキサイドが複数種のアルキレンオキサイド基から形成されている場合には、ポリアルキレンオキサイドはランダム重合体、交互重合体、またはブロック重合体であって良い。
脂肪族アルコールとしては、例えば、直鎖構造または分岐構造を有するアルコールや、飽和アルコールまたは不飽和アルコールなどでも良く、単価アルコール、多価アルコールでも良い。特に、8~15の炭素数を有する脂肪族アルコールが好ましい。
また、前記エーテルとして、より好ましくは10~16のHLB値を有する、ポリアルキレンオキサイドと脂肪族アルコールとのエーテルである。
具体的に、下記式(3)で示される構造を有する物質がより有用である。
【化3】
ここで、Rはアルキレン基を示し、Rは炭化水素基を示す。nは2以上の整数である。Rの炭化水素基が有する炭素数は8~15である。
式(3)に示される、ポリアルキレンオキサイドと脂肪族アルコールとのエーテルの具体例としては、ポリエチレンオキサイドと炭素数9~11の脂肪族単価アルコールとのエーテルとして、商品名:サンノニックDE-70(HLB値:13.2)、同ID-60(HLB値:12.5)、同ID-70(HLB値13.2)、以上、三洋化成株式会社製を挙げることができる。
エーテル系浸透剤の含有量としては、インキ組成物の総質量を基準として、インキ組成物全量中0.1質量%~10質量%とすることが好ましく、0.2質量%~5質量%とすることがより好ましい。特に好ましくは、0.25質量%~2質量%である。
【0020】
(ポリオキシエチレン2級アルコールエーテル)
浸透剤のうち、炭素数が9~15の範囲内である脂肪族2級アルコールと、ポリオキシエチレンとのエーテルであるポリオキシエチレン2級アルコールエーテルが蛍光顔料を用いた場合には最適である。
一般的に蛍光顔料を用いたインキは、蛍光顔料の染料分子が高分子化合物表面に吸着状態にあるか、または高分子化合物と混合細粒物を形成している場合において安定した発色性を奏する。そのため染料が高分子化合物から脱離すると変色が生じるものであるが、ポリオキシエチレン2級アルコールエーテルは、インキ組成物中で染料分子を高分子化合物から引き離すことのない物質であるため、インキ組成物の変色が抑制されて、長期に渡って安定した発色性を奏することが可能となる。
ポリオキシエチレン2級アルコールエーテルの具体例としては、商品名:サンノニックDE-70(HLB値:13.2)、同SS-90(HLB値:13.2)、同SS-120(HLB値14.5)、以上三洋化成株式会社製、商品名:エマルゲン707(HLB値:12.1)、同709(HLB値:13.3)、以上花王株式会社製、商品名:ブラウノンEH-4(HLB値:11.5)、同EH-6(HLB値:13.2)以上青木油脂工業株式会社製、ノイゲンXL-40(HLB値:10.5)、同XL-41(HLB値:10.5)、同XL-50(HLB値:11.6)、同XL-60(HLB値:12.5)、同XL-6100(HLB値:12.0)、同XL-70(HLB値:13.5)、同XL-80(HLB値:13.8)、同XL-100(HLB値:14.5)、同SD-30(HLB値:10.1)、同SD-60(HLB値:12.3)、同SD-70(HLB値:13.2)、同SD-80(HLB値:14.3)、同SD-110(HLB値:15.5)以上第一工業製薬株式会社製が挙げられる。
【0021】
(アクリロニトリル-スチレン系共重合体)
アクリロニトリル-スチレン系共重合体としては、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS)、アクリロニトリル-スチレン-アクリル酸エステル共重合体(ASA)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル-エチレン-プロピレン-ジエン-スチレン共重合体(AES)、アクリロニトリル-塩素化ポリエチレン-スチレン共重合体(ACS)等が例示できる。
【0022】
(アクリル-スチレン系共重合体)
アクリル-スチレン系共重合体としては、アクリル酸-スチレン共重合体、アクリル酸-スチレン-マレイン酸共重合体、アクリル酸エステル-スチレン共重合体、アクリル酸エステル-アクリル酸-スチレン共重合体等が例示できる。
本発明では、筆記によって紙面にインキが吐出された際、これらの共重合体が紙の表面に留まることで、顔料が紙の内部に浸透することを抑制できるため、筆跡の裏抜けを抑制することができる。
特に、アクリル酸-スチレン共重合体とアクリロニトリル-スチレン-アクリル酸エステル共重合体は負電荷を有するため、紙に含まれるカルシウムとの相互作用によって紙の表面で強固に保持されることで、通常は浸透してしまう0.3μm未満の極めて粒子径の小さい顔料であっても保持することが可能となるため、筆跡が裏抜けすることなく速乾性が付与できる。従って、粒子径が小さく分散性に富んだ顔料によるインキ安定性と合わせて、筆記性能に優れたインキ組成物となる。
【0023】
前記共重合体の粒子の大きさは特に限定されないが、インキ中での分散性を維持し、また筆跡として紙面に吐出した際には紙表面で目止め効果を発現することが効率的にできることから、平均粒子径は0.05~3μmであることが好ましく、0.1~1μmであることがより好ましく、特に、0.5μm未満であることが好ましい。
ここで、共重合体粒子の平均粒子径は、例えば、動的光散乱式測定装置(商品名「Microtrac NANOTRAC FLEX」、日機装株式会社)を用いて、標準試料や他の測定方法を用いてキャリブレーションした数値を基に、動的光散乱法で測定される粒度分布の体積累積50%時の粒子径(D50)により測定することができる。
【0024】
前記共重合体の含有量としては、組成物の総質量を基準として、0.5~15質量%であることが好ましく、1~10質量%であることがより好ましい。上記数値範囲内であれば、経時安定性と裏抜け抑制に対してより有用な効果をもたらすことができる。
【0025】
(その他)
水性インキ組成物は、必要に応じて以下の添加剤を用いることができる。具体的には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン等のアルコール又はグリコール、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ナイロン樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂等からなる樹脂粒子、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、アルキッド樹脂、スルフォアミド樹脂、マレイン酸樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、エチレン酢ビ樹脂、塩ビ-酢ビ樹脂、シアネート変性ポリアルキレングリコール、エステルガム、キシレン樹脂、尿素樹脂、尿素アルデヒド樹脂、フェノール樹脂、アルキルフェノール樹脂、テルペンフェノール樹脂、ロジン系樹脂やその水添化合物、ロジンフェノール樹脂、ポリビニルアルキルエーテル、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂、シクロヘキサノン系樹脂等の定着剤、pH調整剤、剪断減粘性付与剤、粘度調整剤、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、サポニン等の防錆剤、尿素、アニオン系、カチオン系、ノニオン系、両性等の各種界面活性剤、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等の水溶性樹脂からなる顔料分散剤、還元又は非還元デンプン加水分解物、トレハロース等の二糖類、オリゴ糖、ショ糖、サイクロデキストリン、ぶどう糖、デキストリン、ソルビット、マンニット、及びピロリン酸ナトリウム等の湿潤剤、防腐剤、気泡抑制剤、気泡吸収剤等を用いることができる。
【0026】
本発明による水性インキ組成物は、従来知られている任意の方法により製造することができる。具体的には、前記各成分を必要量配合し、プロペラ攪拌、ホモディスパー、またはホモミキサーなどの各種攪拌機やビーズミルなどの各種分散機などにて混合し、製造することができる。
【0027】
(筆記具)
本発明の水性インキ組成物は、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップ、万年筆型金属チップ、ボールペンチップを筆記先端部に装着したマーキングペンやボールペン、更には万年筆等の筆記具に充填される。尚、前記筆記具は、ペン先を覆うキャップを備えたキャップ式の他、ノック式、回転式、スライド式等の出没機構を有し、軸筒内にペン先を収容可能な出没式であってもよい。
【0028】
(マーキングペン)
ペン先としては、繊維チップ、フェルトチップ、多孔質チップ、プラスチックチップが適用でき、特に、繊維束を樹脂で結着させてなる繊維チップまたはポリプロピレン等の樹脂粒子を融着させてなる多孔質チップが好適である。
特に、繊維束としてナイロンを用いた場合、筆記時のタッチ感が柔らかくなり、なぞり書き時においては紙面の印字等を強くこすることなく筆記できるため、蛍光インキを用いる際にはより有効なものとなる。
ペン先の形状は、砲弾型、チゼル型、筆ペン型等、いずれであってもよい。
【0029】
前記ペン先は細孔からなる空隙を含んでいるが、その細孔径は、着色剤が通過できる程度の気孔径であれば任意に設定することが可能で有り、空隙率は、繊維チップの場合は50~75%とすることが好ましく、多孔質チップの場合は30~50%とすることが好ましい。インキ組成物の吐出性をより考慮すれば、ペン先の空隙率は、繊維チップの場合は55~70%とすることがより好ましく、多孔質チップの場合は40~50%とすることがより好ましい。前記空隙率が上記数値範囲内であれば、顔料や共重合体の目詰まりがなく、適切なインキ吐出量を維持することができる。
【0030】
マーキングペンのインキ充填機構は、インキ組成物を直に充填する構成のものであってもよく、インキ組成物を充填することのできるインキ収容体またはインキ吸蔵体を備えるものであってもよい。
マーキングペンがインキ組成物を直に充填する構成のものであり、顔料を再分散させるためにインキ収容体にインキを攪拌する攪拌ボール等の攪拌体を内蔵することが好ましい。前記攪拌体の形状としては、球状体、棒状体等が挙げられる。攪拌体の材質は特に限定されるものではないが、具体例として、金属、セラミック、樹脂、ガラス等を挙げることができる。
また、インキ組成物を充填することのできるインキ吸蔵体を備えるものである場合には、インキ吸蔵体は、撚り合わせた繊維を用いた繊維集束体が好ましい。
【0031】
前記繊維集束体は、前記ペン先と同様に細孔からなる空隙を含んでおり、その細孔径は、顔料や共重合体が通過できる程度の細孔径であれば任意に設定することが可能である。
一方、繊維集束体の空隙率はペン先へのインキ供給性を考慮すると、80~95%であることが好ましく、85~92%であることがより好ましい。
【0032】
また、インキ供給機構についても特に限定されるものではなく、例えば、(1)繊維束などからなるインキ誘導芯をインキ流量調節部材として備え、インキをペン先に供給する機構、(2)櫛溝状のインキ流量調節部材を備え、これを介在させ、インキをペン先に供給する機構、(3)弁機構によるインキ流量調節部材を備え、インキをペン先に供給する機構、(4)ペン先を具備したインキ収容体または軸筒より、インキを直接、ペン先に供給する機構等を挙げることができる。
更に、マーキングペンはペン先出没機構を具備していても良い。ペン先出没機構は、特に限定されず、ノック式、回転式、スライド式等が挙げられる。
また、ペン先を1本備えるものの他、太さや形状の異なるペン先を軸筒の両端に備えた両頭式形態であってもよい。尚、前記両頭式形態においては、一端をボールペンとしたものであってもよい。
【0033】
本発明のインキ組成物を収容するマーキングペンは、前述したペン先、インキ充填機構、及びインキ供給機構の中から各部材を適宜選択して構成することが可能であるが、安定したインキ吐出量を維持できることを考慮すると、前記繊維チップ又は多孔質チップを用いたペン先と前記繊維集束体をインキ吸蔵体に用いたインキ充填機構とを備え、ペン先とインキ吸蔵体とが、該インキ吸蔵体に吸蔵されたインキをペン先に供給可能に接続された中詰式マーキングペンであることが好ましい。
【0034】
(ボールペン)
ボールペンチップとしては、例えば、金属を切削加工して内部にボール受け座とインキ導出部を形成したもの、金属製パイプの先端近傍の内面に複数の内方突出部を外面からの押圧変形により設け、内方突出部の相互間に、中心部から径方向外方に放射状に延びるインキ流出間隙を形成したもの等を適用でき、特に押圧変形によるチップは、ボール後端との接触面積が比較的小であり、低筆記圧でのスムーズな筆記感を与えることができる。
ボールペンチップに抱持されるボールは、超硬合金、ステンレス鋼、ルビー、セラミック等の外径0.1~2.0mm、好ましくは0.2~1.5mm、より好ましくは0.3~1.2mmのボールが有効である。特に、ボール径が大きいもの(例えば0.7~1.2mm)は筆記時のインキ吐出量が多くなる傾向にあるため、本発明のインキがより有効に作用する。
尚、ボールペンチップには、チップ内にボールの後端を前方に弾発する弾発部材を配して、非筆記時にはチップ先端の内縁にボールを押圧させて密接状態とし、筆記時には筆圧によりボールを後退させてインキを流出可能に構成することもでき、不使用時のインキ漏れを抑制できる。
弾発部材は、金属細線のスプリング、スプリングの一端にストレート部(ロッド部)を備えたもの、線状プラスチック加工体等を例示でき、5~40gの弾発力により、押圧可能に構成して適用される。
【0035】
水性インキ組成物を収容する軸筒は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等の熱可塑性樹脂からなる成形体が、インキの低蒸発性、生産性の面で好適に用いられる。
軸筒にはチップを直接連結する他、接続部材を介して軸筒とチップを連結してもよい。更にカートリッジ型として交換可能な構成とすることもできる。
軸筒内に収容されるインキ組成物は、インキ組成物が低粘度である場合は軸筒前部にインキ保留部材を装着し、軸筒内に直接インキ組成物を収容する方法と、多孔質体或いは繊維加工体にインキ組成物を含浸させて収容する方法が挙げられる。
更に、軸筒として透明、着色透明、或いは半透明の成形体を用いることにより、インキ色やインキ残量等を確認できる。
尚、軸筒は、ボールペン用レフィルの形態として、レフィルを外軸内に収容するものでもよいし、先端部にチップを装着した軸筒自体をインキ収容体として、軸筒内に直接インキを充填してもよい。
【0036】
軸筒を用いたボールペンは、キャップ式、出没式のいずれの形態であっても適用できる。出没式ボールペンとしては、ボールペンレフィルに設けられた筆記先端部が外気に晒された状態で外軸内に収納されており、出没機構の作動によって外軸開口部から筆記先端部が突出する構造であれば全て用いることができる。
出没機構の操作方法としては、例えば、ノック式、回転式、スライド式等が挙げられる。
ノック式は、外軸後端部や外軸側面にノック部を有し、該ノック部の押圧により、ボールペンレフィルの筆記先端部を外軸前端開口部から出没させる構成、或いは、外軸に設けたクリップ部を押圧することにより、ボールペンレフィルの筆記先端部を外軸前端開口部から出没させる構成を例示できる。
回転式は、外軸に回転部(後軸等)を有し、該回転部を回すことによりボールペンレフィルの筆記先端部を外軸前端開口部から出没させる構成を例示できる。
スライド式は、軸筒側面にスライド部を有し、該スライドを操作することによりボールペンレフィルの筆記先端部を外軸前端開口部から出没させる構成、或いは、外軸に設けたクリップ部をスライドさせることにより、ボールペンレフィルの筆記先端部を外軸前端開口部から出没させる構成を例示できる。
尚、出没式ボールペンは、外軸内に一本のボールペンレフィルを収容したもの以外に、複数のボールペンレフィルを収容してなる複合タイプの出没式ボールペンであってもよい。また、ボールペンレフィルを構成するインキ収容管は樹脂製であってもよいし、金属製であってもよい。
【0037】
ボールペンレフィルに収容したインキの後端には、インキ逆流防止体を充填することもできる。前記インキ逆流防止体としては、液状または固体のいずれを用いることもでき、前記液状のインキ逆流防止体としては、ポリブテン、シリコーン油等の不揮発性媒体が挙げられ、所望により前記媒体中にシリカ、珪酸アルミニウム等を添加することもできる。
また、固体のインキ逆流防止体としては樹脂成形物が挙げられる。尚、前記液状及び固体のインキ逆流防止体は併用することもできる。
【0038】
前述の筆記具による筆跡は、インキ吐出量が増えた場合であっても優れた速乾性と効果的な裏抜け抑制が発現できるため、筆記用紙Aに速度4m/分で筆記した際の単位面積当たりのインキ消費量が0.003mg/mm以上となるように設定することができる。
ここで、「単位面積当たりのインキ消費量値」とは、「単位長さ当たりのインキ消費量値」を、「描線幅」で除することによって求められる値をいう。また、「単位長さ当たりのインキ消費量値」とは、ISO規格(JIS規格)による単位長さ当たりのインキ消費量値をいう。
この単位長さ当たりのインキ消費量値は、ISO規格14145-1やJIS S6054(S6061)に準拠した筆記試験機を用い、所定の条件(例えば、筆記速度4m/分、筆記角度60~75°、筆記負荷100gの条件)で測定することができる。
前記「描線幅」とは、紙面上などに描かれる描線の幅をいう。
前記インキ消費量は、インキ吐出量が多い筆記具の条件となるため、カスレ等を生じることなく高濃度の鮮明な筆跡が形成できるものとなるが、従来の技術では筆跡乾燥性に劣るとともに裏抜けしたインキが紙の裏側からはっきりと視覚される状態となってしまう。これに対して本発明では、前述の構成によって、インキ吐出量が多い鮮明な筆跡においても裏抜けを生じることなく速乾性が得られるという、相反する効果が得られるものとなる。
【実施例0039】
以下に実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下の表に実施例及び比較例の水性インキの組成を示す。尚、表中の組成の数値は重量部を示す。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
表中の注番号に沿って原料の内容を以下に示す。
(1)シンロイヒ(株)製、商品名:シンロイヒカラーSF-5015(30質量%水分散体、平均粒子径:0.1μm、高分子化合物を水溶性蛍光染料で染着した顔料)
(2)日本蛍光(株)製、商品名:ルミコール NKW-3207E(37質量%水分散体、平均粒子径:0.1μm、高分子化合物を水溶性蛍光染料で染着した顔料)
(3)冨士色素(株)製、商品名:FUJI JET BLACK D-12(12.5質量%水分散体、平均粒子径:0.12μm)
(4)ポリエチレンオキサイドポリプロピレンオキサイド共重合体とイソデシルアルコールとのエーテル、第一工業製薬(株)製、商品名:ノイゲンLF-80X(HLB値:13.9)
(5)ポリオキシエチレン2-エチルヘキシルエーテル、青木油脂工業(株)、商品名:ブラウノンEH-6(HLB値:13.2)
(6)日油(株)製、商品名:ラピゾールA-30、ジ2-エチルヘキシル-スルホコハク酸ナトリウム
(7)川研ファインケミカル(株)製、商品名:アセチレノールE100、HLB値13~14、アセチレングリコールPOE付加物
(8)平均粒子径0.11μmのアクリル酸-スチレン共重合体
(9)平均粒子径0.1μmのアクリロニトリル-スチレン-アクリル酸エステル共重合体
(10)平均粒子径0.4μmのアクリル酸-スチレン共重合体、ダウ社製、商品名:Ropaque Ultra E
(11)平均粒子径0.12μmのアクリル重合体、ダイセル・オルネクス(株)社製、商品名:VIACRYL VSC 6286w/45WA
(12)平均粒子径0.15μmのポリプロピレン、BYK社製、商品名:AQUACER 593
(13)4-クロロ-3-メチルフェノール、北興産業(株)製、商品名:ホクサイドPCMC
【0043】
インキの調製
各原材料を各配合量にて、室温で1時間攪拌混合することにより、筆記具用水性インキ組成物を得た。
【0044】
マーキングペンの作製
前記実施例及び比較例のインキ組成物を、ペン先にチゼル型ナイロン繊維チップ[(外寸:長さ32mm、直径4mm)、空隙率60%]のペン芯を用い、撚糸からなる繊維集束体[(外寸:長さ77mm、直径7.3mm)、空隙率88%]をインキ吸蔵体に用い、インキ吸蔵体に吸蔵されたインキ組成物がペン先に供給可能になるよう接続したマーキングペンに充填することで水性マーキングペンを得た。
【0045】
ボールペンの作製
直径1.0mmの超硬合金製ボールを抱持するステンレススチール製チップを備えたペン芯(櫛歯状インキ貯溜体)が軸筒前方(開口側)に嵌合されることで、後方(封鎖側)をインキ貯蔵部とするペン芯式筆記具外装に前記実施例及び比較例のインキ組成物を充填し、キャップを嵌合することでボールペンを作製した。
得られたマーキングペン及びボールペンを用いて以下の試験を行なった。
尚、単位長さ当たりのインキ消費量値は、ボールペンにおいてはISO規格14145-1(筆記速度4m/分、筆記角度70°、筆記負荷100g)に、マーキングペンにおいてはJIS S6037(筆記速度4m/分、幅広面が紙面に密着する角度、筆記負荷100g)に準拠した方法で測定した。
【0046】
(筆跡擦過時の評価)
筆記可能であることを確認した各筆記具を、室温にてレポート用紙(JIS P3201筆記用紙A)に手書きで、マーキングペンでは3cmの直線を、ボールペンでは「永」の文字を筆記し、1秒後にその筆跡を親指で一方向に擦った。その際の筆跡の状態を目視により確認した。
○:周囲を汚すことなく良好な筆跡を示した。
△:筆跡の一部周辺に汚れが発生した。
×:乾きが悪く筆跡周辺全体に汚れが発生した。
【0047】
(筆跡裏抜けの評価)
前記筆跡擦過時の評価で筆記した筆跡を、用紙裏面からそれぞれ目視で確認した。
〇:裏抜けが発生せず、筆跡は視認できない。
△:裏抜けによるわずかな着色が見られる。
×:筆跡全体に裏抜けによる着色が見られる。
マーキングペンによる試験結果を以下の表3に、ボールペンによる試験結果を以下の表4に示す。
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】