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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158653
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】マルチトール崩壊錠の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/26 20060101AFI20241031BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20241031BHJP
   A23L 29/30 20160101ALI20241031BHJP
   A23L 29/262 20160101ALI20241031BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20241031BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
A61K47/26
A23L5/00 A
A23L29/30
A23L29/262
A61K9/20
A61K47/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074017
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】519127797
【氏名又は名称】三菱商事ライフサイエンス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大木 詩帆
(72)【発明者】
【氏名】吉村 瑤子
【テーマコード(参考)】
4B035
4B041
4C076
【Fターム(参考)】
4B035LC04
4B035LC16
4B035LE05
4B035LE20
4B035LG02
4B035LG07
4B035LG19
4B035LG26
4B035LK19
4B035LP24
4B035LP34
4B035LP36
4B035LP55
4B041LC04
4B041LE10
4B041LH11
4B041LK02
4B041LK08
4B041LK12
4B041LP07
4B041LP13
4B041LP14
4B041LP21
4B041LP25
4C076AA36
4C076BB01
4C076BB22
4C076CC40
4C076DD41B
4C076EE31
4C076EE32B
4C076FF02
4C076FF06
4C076FF33
4C076FF36
4C076GG11
4C076GG12
4C076GG14
(57)【要約】
【課題】マルチトール結晶粒子を含有する口腔内崩壊錠の新規製造方法を提供する。
【解決手段】マルチトール結晶粒子を含有する粉末を造粒し、得られた顆粒を圧縮成形することで、製造工程中の取り扱いに支障ない程度の錠剤硬度を有する錠剤を得、その後、加湿、乾燥工程を経ることで、流通工程において支障のない程度に錠剤硬度が上昇するにもかかわらず、口腔内崩壊錠として使用可能な十分に短い崩壊時間を有する錠剤が得られることを見出した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチトール結晶粒子を含有する粉粒体を圧縮成形後、加湿、乾燥を経ることによって、加湿、乾燥前よりも硬度を上昇させる口腔内崩壊錠の製造方法。
【請求項2】
マルチトール結晶粒子が顆粒であることを特徴とする、請求項1に記載の口腔内崩壊錠の製造方法。
【請求項3】
マルチトール結晶粒子を含有する粉粒体が、結晶セルロースを含有する粉粒体である、請求項2に記載の口腔内崩壊錠の製造方法。
【請求項4】
マルチトール結晶粒子を含有する粉粒体が、さらに崩壊剤を含有する粉粒体である、請求項3に記載の口腔内崩壊錠の製造方法。
【請求項5】
前記崩壊剤が、カルボキシメチルセルロースカルシウムである、請求項4に記載の口腔内崩壊錠の製造方法。
【請求項6】
圧縮成形を0.01N~5.0kNの成形荷重で行うことを特徴とする、請求項1に記載の口腔内崩壊錠の製造方法。
【請求項7】
圧縮成形後で加湿、乾燥前の硬度が10N~100Nであることを特徴とする、請求項6に記載の口腔内崩壊錠の製造方法。
【請求項8】
加湿、乾燥後の硬度が40N~100Nであり、口腔内崩壊時間が5秒~60秒であることを特徴とする、請求項7に記載の口腔内崩壊錠の製造方法。
【請求項9】
加湿、乾燥後の硬度が40N~100Nであり、口腔内崩壊時間が5秒~45秒であることを特徴とする、請求項8に記載の口腔内崩壊錠の製造方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の製造方法により製造された、口腔内崩壊錠。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマルチトール結晶粒子を含有する粉粒体を圧縮成形後、加湿、乾燥を経ることによって、圧縮成形後より硬度を上昇させた口腔内崩壊錠およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
口腔内崩壊錠は医薬品のみならず食品分野でも使用されている剤型である。食品で広く用いられているマルチトールを使用した口腔内崩壊錠の製法としては、特開2015-008639に開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-008639
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マルチトール結晶粒子を含有する口腔内崩壊錠の新規製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
マルチトール結晶粒子を含有する粉粒体を圧縮成形後加湿、乾燥することにより、十分な硬度と短い崩壊時間を有する錠剤が得られることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は第一に、マルチトール結晶粒子を含有する粉粒体を圧縮成形後、加湿、乾燥を経ることによって、加湿、乾燥前よりも硬度を上昇させる口腔内崩壊錠の製造方法である。
第二に、マルチトール結晶粒子が顆粒であることを特徴とする、第一に記載の口腔内崩壊錠の製造方法。である。
第三に、マルチトール結晶粒子を含有する粉粒体が、結晶セルロースを含有する粉粒体である、第二に記載の口腔内崩壊錠の製造方法である。
第四に、マルチトール結晶粒子を含有する粉粒体が、さらに崩壊剤を含有する粉粒体である、第三に記載の口腔内崩壊錠の製造方法である。
第五に、前記崩壊剤が、カルボキシメチルセルロースカルシウムである、第四に記載の口腔内崩壊錠の製造方法である。
第六に、圧縮成形を0.01N~5.0kNの成形荷重で行うことを特徴とする、第一に記載の口腔内崩壊錠の製造方法である。
第七に、圧縮成形後で加湿、乾燥前の硬度が10N~100Nであることを特徴とする、第六に記載の口腔内崩壊錠の製造方法である。
第八に、加湿、乾燥後の硬度が40N~100Nであり、口腔内崩壊時間が5秒~60秒であることを特徴とする、第七に記載の口腔内崩壊錠の製造方法である。
第九に、加湿、乾燥後の硬度が40N~100Nであり、口腔内崩壊時間が5秒~45秒であることを特徴とする、第八に記載の口腔内崩壊錠の製造方法である。
第十に、第一から第九のいずれかに記載の製造方法により製造された、口腔内崩壊錠である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の構成をとることにより、低い成形荷重で製造工程中、流通工程中において支障ない十分な強度と短い崩壊時間を有する錠剤が得ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
マルチトールは広く食品に用いられる糖質であり、マルトースを水素化し、ホルミル基をヒドロキシメチル基とすることで得られる。本発明ではマルチトール粉末を造粒した顆粒を錠剤の原料とするが、造粒の原料として用いるマルチトール粉末の純度は93.5%以上、好ましくは98.0%以上、より好ましくは99.0%である。また、平均粒径は10~150μmであることが好ましい。マルチトールは既知の方法で造粒し顆粒とすることができる。造粒の方法に特に制限はないが、例えば押し出し造粒、噴霧乾燥造粒、流動層造粒などが挙げられる。造粒の際、結合剤を用いることも可能であり、後述の結晶セルロースを用いない場合は結合剤を使用することが好ましい。結合剤とは、顆粒製造の際、原料粒子同士の結合をより強固にする物質であり、結合剤の例としてはヒドロキシプルピルセルロースなどが挙げられる。
【0008】
粉粒体とは固体粒子の集合体であり、比較的粒径の小さい粉体と比較的粒径の大きい粒体の集合体を意味する。粉体と粒体に明確な区分はないが、例えば、本発明におけるマルチトール粉末は粉体に、粉末を造粒して得られる顆粒は粒体に相当する。
【0009】
口腔内崩壊錠(以下「崩壊錠」ということがある)製造の際、マルチトール顆粒の他、錠剤硬度を上げるため結晶セルロースを粉粒体に加えてもよい。結晶セルロースはマルチトール顆粒100質量部に対し、1~20質量部加えることが好ましい。また崩壊時間を短くするため、崩壊剤を加えてもよい。崩壊剤は食品に使用可能な物であれば制限なく使用できるが、例えばカルボキシメチルセルロースカルシウムなどが挙げられる。崩壊剤はマルチトール顆粒100質量部に対し、0.1~2.0質量部加えることが好ましい。また錠剤の硬度、崩壊性に影響を与えない範囲でほかの成分も加えることが可能である。
【0010】
崩壊錠の製造過程で、普通錠で実施される成形圧で成形を行うことは本発明の特徴の一つである。本発明における成形の際の成形荷重は0.01kN~5.0kN、好ましくは0.03kN~4.0kNである。
【0011】
本発明における錠剤硬度とは、例えば、錠剤硬度計(TH-303MP型、富山産業株式会社製)を用いて各試料5錠の錠剤硬度を測定し、その平均値を計算したものである。
【0012】
本発明における錠剤硬度は製造工程中の取り扱いに支障ない程度の錠剤硬度が必要であるため、錠剤成形後、加湿、乾燥工程を経て錠剤が得られるまでの工程を通じて10N~100N、好ましくは20N~80Nであることが望ましい。なお、本発明において、錠剤成形後、加湿・乾燥前の錠剤硬度を「初期硬度」ということがある。また、本発明は、錠剤成形後の加湿乾燥後に錠剤硬度が上昇することを特徴としており、加湿、乾燥後の錠剤硬度(「処理後硬度」ということがある)は40N~100N、好ましくは50N~80Nである。
【0013】
本発明における加湿処理とは、圧縮成形工程における雰囲気下の空気中の水分量に比べ水分量を多くした雰囲気下に、錠剤を一定時間曝露することを意味し、水を蒸発させて気体として空気中に存在させるほか、例えば噴霧によって微細な液体として存在させても良い。また、乾燥処理とは、錠剤中の水分を除去する工程であり、乾燥方法に特に制限はないが、錠剤の構成成分が変質しない程度に加温する方法が好ましい。
【0014】
本発明における口腔内崩壊時間とは健康な成人の口腔内に水を含まず錠剤を含ませ、錠剤が唾液のみで完全に崩壊し溶解するまでの時間(秒)を測定し、2錠の平均をとったものであり、本発明の口腔内崩壊錠においては、口腔内崩壊錠に要求される崩壊時間は5秒~60秒、好ましくは5秒~45秒である。
【0015】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0016】
実施例および比較例において、錠剤の成分として以下に示すものを用いた。
結晶マルチトール:レシス微粉(三菱商事ライフサイエンス社製)
ヒドロキシプロピルセルロース:HPC-SSL(日本曹達株式会社製)
ステアリン酸カルシウム:ステアリン酸カルシウム(富士フィルム和光純薬社製)
結晶セルロース:UF702(旭化成社製)
カルボキシメチルセルロースカルシウム:EGC-FA(ダイセル化学工業社製)
【0017】
実施例および比較例において、錠剤を製造する際は以下の機器を用いた。
押し出し造粒機(顆粒製造機 KAR-75型:筒井理化学機械株式会社製)
連続打錠機:VIRGO 0512SS2AZ(株式会社菊水製作所製)
単発打錠機:NS-T100(株式会社特殊機械製)
恒温器:IS600(ヤマト科学株式会社製)
真空定温乾燥機:VOS-300SD(東京理化器械株式会社製)
デシケーター:真空ポリカデシケーター240型(アズワン株式会社製)
恒温恒湿器:HIFLEX FX210P(楠本化成工業株式会社製)
【0018】
[調製例1]
マルチトール200gを、ヒドロキシプロピルセルロース4gを水44gに溶解した結合剤とともに、押し出し造粒機で押し出し造粒し、通風乾燥機で60℃2時間乾燥させ、目開850μmの篩で篩下しマルチトール顆粒を得た。得られたマルチトール顆粒100質量部に対しステアリン酸マグネシウム1質量部となるように混合し、Φ15、隅丸、一錠あたり0.75g、成形荷重0.4kNの条件で打錠を行った。得られた錠剤を50℃、相対湿度90%で60分加湿したのち60℃で30分減圧乾燥を行い、錠剤(実施例1)を得た。
【0019】
[調製例2]
マルチトール200gを、水44gを用いて流動層造粒機で造粒し、目開850μmの篩で篩下しマルチトール顆粒を得た。得られたマルチトール顆粒と各成分を表1の比率で混合し、Φ8、平錠、一錠あたり0.18g、成形荷重4kNの条件で単発打錠を行った。得られた錠剤を50℃、相対湿度90%で60分加湿したのち60℃で60分通風乾燥を行い、錠剤(実施例2、実施例3、比較例1)を得た。
【0020】
【表1】
【0021】
調製例1、2で得られた錠剤について加湿乾燥前後の硬度、口腔内崩壊時間を測定した。結果を表2に示す。
【0022】
【表2】
【0023】
実施例については打錠後の錠剤硬度が製造工程中の取り扱いに支障ない程度の錠剤硬度であり、加湿乾燥後の錠剤硬度は流通に支障のない程度まで上昇するにもかかわらず、口腔内崩壊時間も口腔内崩壊錠として十分使用可能な時間であった。一方比較例では加湿乾燥後の硬度が著しく低下した。