(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024015866
(43)【公開日】2024-02-06
(54)【発明の名称】ひび割れ誘発構造を持つ構造物及びその施工方法
(51)【国際特許分類】
E04B 2/84 20060101AFI20240130BHJP
E04B 1/62 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
E04B2/84 F
E04B1/62 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022118224
(22)【出願日】2022-07-25
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】萩尾 浩也
【テーマコード(参考)】
2E001
【Fターム(参考)】
2E001DH34
2E001EA02
2E001GA65
2E001HD11
2E001KA05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高品質なひび割れ誘発構造をもった構造物を提供する。
【解決手段】コンクリート、モルタル、及びグラウトのいずれかで形成された本体部を備え、前記本体部の内部には、柱状の中空部が形成される、ひび割れ誘発構造を持つ構造物。一態様として、柱状または筒状の部材21を設置する工程と、前記部材21の外方に型枠を設置する工程と、前記型枠の内部にコンクリートを打設して本体部を形成する工程と、前記部材を除去し中空部20を形成する工程と、を有する、構造物の施工方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート、モルタル、及びグラウトのいずれかで形成された本体部を備え、
前記本体部の内部には、柱状の中空部が形成される、
ひび割れ誘発構造を持つ構造物。
【請求項2】
前記中空部は、円柱状に形成される、
請求項1に記載の構造物。
【請求項3】
前記本体部の表面には、前記中空部の近傍において、前記中空部と同方向に延びる目地がさらに形成される、
請求項1または2に記載の構造物。
【請求項4】
前記中空部は、前記本体部において間隔を空けて複数個所で形成される、
請求項1または2に記載の構造物。
【請求項5】
前記本体部の内部に設けられた筒状部材をさらに備え、
前記筒状部材の内周部は、前記中空部を画定する、
請求項1または2に記載の構造物。
【請求項6】
前記中空部に充填された、前記コンクリートよりも剛性の低い充填部材をさらに備える、
請求項1または2に記載の構造物。
【請求項7】
柱状または筒状の部材を設置する工程と、
前記部材の外方に型枠を設置する工程と、
前記型枠の内部にコンクリートを打設して本体部を形成する打設工程と、
前記部材を前記本体部から除去し、前記本体部の中に中空部を形成する除去工程と、
を含む、構造物の施工方法。
【請求項8】
前記部材は、可撓性を持つチューブで形成され、
前記打設工程の前に、前記部材に流体を充填する工程をさらに含み、
前記除去工程では、前記部材から流体を取り除いたうえで前記本体部から前記部材を除去する、
請求項7に記載の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ひび割れ誘発構造を持つ構造物及びその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本体部内部に鉄筋を埋設することによりひび割れ誘発構造を形成した構造物が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-231573号公報
【特許文献2】特開2011-174258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鉄筋を用いてひび割れを誘発させると、ひび割れを介して空気と水分に鉄筋が接触し、構造物の外面に錆汁による汚れを発生させたり、鉄筋の腐食を発生させたりする場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、一態様として、コンクリート、モルタル、及びグラウトのいずれかで形成された本体部を備え、前記本体部の内部には、柱状の中空部が形成される、ひび割れ誘発構造を持つ構造物を提供する。
【0006】
また本発明は、一態様として、柱状または筒状の部材を設置する工程と、前記部材の外方に型枠を設置する工程と、前記型枠の内部にコンクリートを打設して本体部を形成する工程と、前記部材を除去し中空部を形成する工程と、を有する、構造物の施工方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高品質なひび割れ誘発構造をもった構造物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】(a)第1実施形態による耐震壁の断面図と、(b)第2実施形態による耐震壁の断面図と、(c)耐震壁の斜視図である。
【
図3】耐震壁の施工手順を示す図であり、(a)配筋工程と、(b)筒状部材設置工程を示す。
【
図4】耐震壁の施工手順を示す図であり、(a)型枠建て込み工程と、(b)筒状部材の引き抜き工程を示す。
【
図5】既存構造物に対して耐震壁を設置する場合の状況を示す図であり(a)既存構造物における柱と梁によるフレームと、(b)既存構造物に耐震壁を後施工した状況を示す。
【
図6】変形例(2)による中空部の形成に関する説明図であり、(a)中空部の形成に用いられるチューブを示す図と、(b)チューブを耐震壁から引き抜く状況を示す図である。
【
図7】実験に用いた試験体を示す図であり、(a)試験体Aと、(b)試験体Bを示す。
【
図10】試験体の材料物性を示す表であり、(a)耐震壁のコンクリート物性、(b)梁のコンクリート物性、及び(c)鉄筋の機械的特性を示す。
【
図11】(a)試験体Aに発生したひび割れと、(b)試験体Bに発生したひび割れを示す図である。
【
図12】各試験体に対する加力履歴を示すグラフである。
【
図13】実験によって得られた(a)試験体A及び(b)試験体Bにおける、部材角と荷重との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<第1実施形態>
本発明の構造物の第1実施形態である耐震壁10を、以下に説明する。
図1(a)に示す耐震壁10は、鉄筋コンクリート造の壁である。以下では、
図1などに示すように、耐震壁10の形状に基づき、幅方向、高さ方向(または上下方向)、厚さ方向を定義し、説明に用いるものとする。
【0010】
耐震壁10は、コンクリート部40と、縦筋30a及び横筋30bから構成される配筋30とを備える。縦筋30a及び横筋30bは、所定のピッチで格子状に組まれており、コンクリート部40に埋設されている。本実施形態では、縦筋30a及び横筋30bの格子は壁厚方向に間隔を空けて2列平行に形成されており、いわゆるダブル配筋を形成する。
【0011】
耐震壁10の側面には高さ方向(上下方向)に延びる化粧目地14が設けられている。この化粧目地14は、壁厚の1/10程度の深さを有し、耐震壁10の両側面またはいずれかの側面において形成される。また化粧目地14は、壁の幅方向に適宜間隔を隔てて設けられている。
【0012】
コンクリート部40は、化粧目地14を形成する増し打ち41を形成する。増し打ち41の厚さは、化粧目地14の深さ(壁厚方向の寸法)と等しい。換言すれば、増し打ち41の切り欠きが化粧目地14を形成する。
【0013】
化粧目地14の近傍であって、厚み方向においてダブルの配筋30の間には、中空部20が形成される。中空部20は、コンクリート部40の欠損によって形成された部分であり、コンクリート部40の内部に柱状の空間を形成する。中空部20は、高さ方向に延び、耐震壁10の上下長さと同じ長さを有する。縦筋30aの位置と中空部20の位置は一致しないように配置される。中空部20の径は、条件に応じて任意に設定されるが、壁厚の1/4以上1/3以下とすることが望ましい。例えば、耐震壁10の壁厚(増し打ち41を除く)が200mmの場合、化粧目地14の深さは各々20mm、中空部20の直径は50mmとできる。
【0014】
なお、中空部20は、円柱形状に限らず、楕円形状や多角形状の横断面を有する形状とされてもよい。
【0015】
乾燥や温度を起因としてコンクリート部40の収縮が発生すると、
図1各図に示すように中空部20に沿って高さ方向に延びるひび割れ12が発生する。耐震壁10は、このようにコンクリート部40のひずみを中空部20近傍に集中させ、ひび割れを誘発する構造を構成する。
【0016】
中空部20の近傍に配筋される横筋30bには、化粧目地14の幅より十分に広い範囲において防錆剤を塗布したり、ステンレス材を巻き付けたりなどの防錆処理が施されてもよい。
【0017】
この場合、ひび割れ12を誘発する化粧目地14部分に配筋されている横筋30bが防錆されているため、ひび割れ12を介して外気及び水分に接触しても、横筋30bの腐食及び発錆が防止される。また、水分がひび割れ12からしみ出しても、鉄分を含まないので錆汁とならず、壁面が変色して美観を損ねることが防止される。
【0018】
さらに、上記化粧目地14には、樹脂製のシール部材16が充填されている。シール部材16の具体的な材料の例としては、非加硫ブチルゴム製が挙げられる。シール部材16により、ひび割れ12が外部に露出することを防止できるとともに、この耐震壁10を外壁として用いた場合には、このひび割れ12から耐震壁10内に空気や雨水等が入り込むことが防止され、内壁として用いた場合には、湿気や結露等による水分がひび割れを伝ってしみ出すことが防止される。このようにしてコンクリート部40の中性化や、配筋30の発錆が防止されるとともに、壁面の美観を保つことができる。
【0019】
さらに、上記シール部材16を非加硫ブチルゴムとした場合、その特性上、生コンクリートと化学的に反応接着して確実に接合され、コンクリート部40が温度変化や乾燥よって収縮しても、その弾性によってコンクリート部40の変形に伴って変形し剥がれることなく、ひび割れ12を確実に塞ぎ止水することができる。
【0020】
化粧目地14も同様に、ひび割れを誘発する構造を形成する。化粧目地14に発生したひび割れ12は、シール部材16によって覆われるため、ひび割れ12に外気や水分が侵入することが防止される。外気や水分のひび割れ12内部への侵入が防止されることにより、コンクリート部40の中性化や配筋30の腐食が防止される。また、シール部材16がひび割れ12を覆うため、耐震壁10の美観が維持される。
【0021】
<第2実施形態>
第2実施形態による耐震壁11を説明する。第2実施形態に係る耐震壁11は、
図1(b)に示すように、コンクリートとは異なる材料で形成された筒状部材21をさらに備え、中空部20は、筒状部材21によって形成される。なお、以下では、第1実施形態と同様の部材に対して同じ参照番号を付し、説明を省略する。
【0022】
筒状部材21は、コンクリート部40に埋設されており、中空部20を包囲するように上下に延びる。換言すれば、中空部20は、筒状部材21の内部に形成されるとともに、筒状部材21の内周面によって画定される。
【0023】
図1(b)において、筒状部材21は中空の円筒形状に形成されるが、楕円筒状や角筒形状など、円筒以外の形状に形成されてもよい。
【0024】
筒状部材21の材料としては、様々なものが用いられる。一例として、塩化ビニル製のパイプを筒状部材21として使用可能である。塩化ビニルが筒状部材21の材料として用いられた場合、コンクリートとの付着が防止される。
【0025】
なお、筒状部材21の外周面に剥離剤が塗布されてもよい。この場合、コンクリート材料からの剥離が促進される。コンクリート部40が容易に筒状部材21から剥離するため、ひび割れ12が発生しやすい。
【0026】
なお、塩化ビニル製パイプを筒状部材21として用いた場合、塩化ビニルとコンクリート部40との接合強度が低いため、剥離剤を使用せずとも、コンクリート部40から筒状部材21の剥離を期待できる。
【0027】
<施工>
耐震壁10、11の施工手順を
図2の施工フローを用いて説明する。
【0028】
(工程S1)作業者は、縦筋30aと、横筋30bとを格子状に組むことによって、配筋を行う(
図3(a))。
【0029】
(工程S2)配筋後、あるいは配筋作業に並行して、作業者は筒状部材21の設置を行う(
図3(b))。筒状部材21は、中空部20を形成するために使用される。筒状部材21の表面は、剥離剤が塗布された状態とされてもよい。
【0030】
(工程S3)配筋後、
図4(a)に示すように、耐震壁10、11の両側面に相当する位置に、型枠50の建て込みが実施される。型枠50の表面には、高さ方向に延びる目地棒51が固定される。目地棒51の外形は、化粧目地14の形状に対応する。なお、型枠50の建て込みは、工程S1、S2と並行し得るし、工程S1~S3の一部以上が重複したり、順番が前後したりしてもよい。
【0031】
(工程S4)型枠建て込みの完了後、作業者は、フレッシュコンクリートを型枠の内部に打設し、その後コンクリートが硬化するまで養生を行う。
【0032】
(工程S5)打設したコンクリートの硬化が進み、流動性がある程度喪失した後、作業者は、筒状部材21をコンクリート内部から引き抜いて取り外す(
図4(b))。また、型枠50及び目地棒51の脱型を行い、作業者は、耐震壁10の施工を完了する。
【0033】
耐震壁10の表面には、目地棒51の外形に従って、化粧目地14が形成される。化粧目地14には、必要に応じてシール部材16が充填される。また、筒状部材21が設置されていた部分には、中空部20が形成される。
【0034】
なお、コンクリート打設後に筒状部材21を取り外さず、そのままコンクリートを硬化させることも可能である。この場合、ひび割れ誘発構造を持つ耐震壁11が形成される。上述の通り、
図1(b)のように耐震壁11の内部には筒状部材21が埋設され、その内部に中空部20が形成される。
【0035】
<変形例>
(1)グラウト造での耐震壁
耐震壁10、11は、コンクリートではなく、モルタルやグラウトなどのコンクリート類で形成されてもよい。特に、グラウトは一般的なコンクリートよりも収縮が大きい。そのため、耐震壁10、11をグラウト造とした場合、中空部20によるひび割れ誘発の効果が高いといえる。なお、本明細書においてコンクリート類とは、コンクリートに限らず、グラウトやモルタルなど、セメントを含有する材料を指す。
【0036】
グラウト造の耐震壁10、11は、既存の構造物の補強に用いられ得る。一例として
図5(a)に示すように、既存の柱CN、梁BMで形成されたフレームの中に、耐震壁10、11を形成することが考えられる。この場合、耐震壁10、11の外周部は、不図示のアンカーや定着筋を介して柱CN及び梁BMに固定される。
【0037】
図5(b)のように既存の構造物の補強として、耐震壁10、11を新たに設ける場合、コンクリート造とすることも可能であるが、グラウト造とすることが好ましい。グラウトが骨材を含有しておらず、フレッシュグラウトの製造がコンクリートよりも容易であるからである。また、施工時にコンクリートポンプ車や圧送管、バケットの導線を考慮する必要が無いためである。
(2)中空部の形成
耐震壁10の施工時において、作業者は、中空部20を形成するために筒状部材21の代わりに、略円柱形または略円筒形に形成された別の部材を用いることができる。例えば、特許文献2に記載の孔形成部材を筒状部材21の代わりに用いて中空部20を形成することが考えられる。このような部材を用いると、引き抜き作業(工程S5)が容易である。
【0038】
別の例として、
図6(a)に示すように、可撓性のチューブ61を用いることが考えられる。チューブ61は、例えば、ビニルなどの軟質プラスチック材料で管状に形成され、その内部は中空である。
【0039】
施工時では、チューブ61を上述の「工程S2」において筒状部材21の代わりに設置することができる。この場合、コンクリートの打設(工程S4)前に、チューブ61の内部に空気や水などの流体を充填して円柱状に形成する。「工程S5」では、チューブ61の内部から流体を除去して萎ませ、
図6(b)に示すように、チューブ61をコンクリート部40から引き抜くことができる。
【0040】
チューブ61の使用は、特に既存構造物の補強として耐震壁10を設置する場合(上述の(1))に好適である。チューブ61が可撓性を有し、小さな隙間から取り出し可能であるためである。具体的には、既存構造物と新設の耐震壁10との間からチューブ61を引き抜くことで、耐震壁10を施工可能である(
図6(b))。なお、チューブ61の引き抜きの経路として形成された隙間は、グラウトやモルタルで塞ぐことができる。
(3)中空部の充填物
耐震壁11においては、筒状部材21の内部に充填部材が充填されてもよい。この場合、充填部材としては、グラウトが考えられる。また、ウレタンや発泡スチロールなどの高分子材料や、グラスウールなどの不燃性材料、ゴムなどの樹脂材料等、コンクリートよりも剛性の低い充填部材が充填されてもよい。また、耐震壁10における中空部20に上記のような充填部材が充填されてもよい。
(4)壁の種別
上記実施形態では、耐震壁10、11にひび割れ12を形成させる例を用いた。本発明はこの限りではなく、間仕切り壁、袖壁など別種の壁について、中空部20を形成し、ひび割れ12を誘発する構成としてもよい。なお、壁に限らず、床やひさしなどの水平部材に中空部20が用いられてもよい。
(5)化粧目地
化粧目地14は、耐震壁10、11に形成されなくてもよい。中空部20だけによっても、ひび割れ12を誘発する効果は充分に得られる。化粧目地14は、耐震壁10、11の両側面ではなく、一方の側面だけに設けられてもよい。また、化粧目地14には必ずしもシール部材16が充填されなくてもよい。
【0041】
<実験>
上記構成による耐震壁10に関して、せん断耐力などの性能を測定する実験を行った。実験で用いた試験体は、
図7に示すように、鉄筋コンクリート造の試験体Aと試験体Bの2体である。試験体Aは、中空部を有していない一般的な耐震壁A1を持つ。試験体Bは、内部に高さ方向に延びる中空部20Bを有する耐震壁B1を持つ。試験体A、Bはそれぞれ、柱A2、B2及び梁A3、B3を有し、耐震壁A1、B1を囲むように矩形のフレームを形成する。
【0042】
耐震壁A1、B1の寸法は、
図8、
図9に示すように幅方向1800mm(ミリメートル)とし、高さ800mmとした。耐震壁A1、B1の厚みは、いずれも60mmである。耐震壁A1、B1の配筋は、いずれもD4鉄筋を110mmピッチで格子状に組んで、ダブル配筋とした。壁筋比は、0.4%である。
【0043】
中空部20Bの外径は18mmであり、耐震壁B1の2か所に設けられた(
図7(b))。使用した材料の物性は、
図10に示すとおりである。
【0044】
試験体A、Bに発生したひび割れ状況を
図11に示す。耐震壁A1では、壁板を約3等分する根元に2箇所、部分的に乾燥収縮によるひび割れが発生した(
図11(a))。一方、中空部20Bを有する試験体Bでは、中央部分にある2本の中空部20Bに沿って、乾燥収縮によるひび割れが発生している(
図11(b))。中空部20Bによって、壁板に発生するひび割れが意図通りに誘発されていることが分かる。
【0045】
これらの試験体A、Bに対し、
図7(a)、(b)に矢印で示すように、上部の梁A3、B3に対し水平方向に加力することによって、正負交番載荷を実行した。試験体A、Bに加えられた荷重の履歴を
図12に示す。
【0046】
図13(a)、(b)に示すように、試験体A、Bにおける荷重と部材角の関係について、グラフの形状及び最大耐力に有意な差は見られない。なお、試験体A、Bの最大耐力は、それぞれ、833kN(キロニュートン)、813kNであった。中空部20Bが耐震壁B1の性能に与える影響は、殆ど無いか、僅かであると考えられる。
【0047】
<効果>
上記各実施形態及び変形例においては、以下の態様が開示される。
【0048】
(態様1)構造物の一例である耐震壁10、11は、コンクリート類で形成されたコンクリート部40(本体部に相当)を備え、コンクリート部40の内部には、柱状の中空部20が形成される。
【0049】
上記構成は、中空部20の近傍においてひずみが集中し、ひび割れが誘発される構造を形成する。中空部20の近傍にひびわれを集中的に発生させることにより、中空部20近傍以外の部分にはひびわれを生じさせないようにし、耐震壁10、11の美観及び耐震性が維持される。
【0050】
(態様2)態様1において中空部20は、円柱状に形成される。
【0051】
上記構成では、例えば円管形状や、円筒形状の部材を用いて中空部20を形成することができるため、施工が容易である。中空部20を円柱形状とすることにより、ひずみが中空部20周囲で特定の箇所に集中せず、中空部20の近傍にまんべんなく分布することになる。中空部20に誘発されたひび割れ12の方向が偏ったり、特定のひび割れ12の幅だけが拡大したりするような事態が防止される。
【0052】
(態様3)態様1または2において、コンクリート部40の表面には、中空部20の近傍において、中空部20と同方向に延びる化粧目地14がさらに形成される。
【0053】
中空部20の近傍に化粧目地14を形成することによって、ひび割れを化粧目地14の近傍に誘発しやすくできる。化粧目地14をシーリングで覆うことにより、ひび割れの被覆などの処理が容易となる。また、耐震壁10、11の耐震性及び美観を維持することができる。
【0054】
(態様4)態様1から3のいずれかにおいて、中空部20は、耐震壁10、11において等間隔に複数個所で形成される、
【0055】
中空部20を等間隔に設けることにより、ひび割れを中空部20の近傍に誘発させることができる。
【0056】
(態様5)態様1から4のいずれかにおいて、耐震壁11は、コンクリート部40の内部に設けられた筒状部材21をさらに備え、筒状部材21の内周部は、中空部20を画定する。
【0057】
筒状部材21を用いることにより、中空部20を容易に形成することができる。また、施工時に耐震壁11から筒状部材21を引き抜く作業が不要であるため、施工が容易である。
【0058】
(態様6)態様1から5のいずれかにおいて、中空部20には、コンクリートよりも剛性の低い充填部材が充填される。
【0059】
充填部材を用いることにより、中空部20の施工が容易となる。
【0060】
(態様7)上記構成及び変形例では、柱状または筒状の部材(筒状部材21、チューブ61)を設置する工程S2と、部材の外方に型枠50を設置する工程S3と、型枠の内部にコンクリートを打設してコンクリート部40を形成する打設工程S4と、チューブ61または筒状部材21などの部材をコンクリート部40から除去することにより、中空部20を形成する工程S5(除去工程)と、を有する、耐震壁10の施工方法が開示される。
【0061】
(態様8)態様7において、柱状または筒状の部材は、可撓性を持つチューブ61で形成される。打設工程S4の前に、チューブ61に流体を充填する工程が実施される。また、工程S5の除去工程では、チューブ61から流体を取り除いたうえでチューブ61をコンクリート部40から除去し、コンクリート部40の中に中空部20を形成する。
【0062】
上記構成とすることにより、中空部20を有する耐震壁10を容易に施工することが可能である。また、上記構成とすることによって、部材を埋設させずに中空部20を形成し、ひび割れ誘発構造をもった構造物を施工することができる。特にチューブ61を用いて中空部を形成する場合、既存構造物に耐震壁10等を施工する際、施工が容易となる。
【符号の説明】
【0063】
10、11 耐震壁
20 中空部
21 筒状部材
61 チューブ
12 ひび割れ
14 化粧目地
16 シール部材