(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158669
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】モータ
(51)【国際特許分類】
H02K 9/197 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
H02K9/197
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074035
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(74)【代理人】
【識別番号】100137316
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】森本 達也
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 健介
(72)【発明者】
【氏名】松浦 透
【テーマコード(参考)】
5H609
【Fターム(参考)】
5H609BB19
5H609PP02
5H609PP09
5H609QQ04
5H609QQ05
5H609QQ13
5H609QQ18
5H609RR42
(57)【要約】
【課題】キャンを排して、高出力で冷却性能の高いモータを提供する。
【解決手段】本発明のモータは、モータケース内にロータとステータとを収容したモータであり、さらに、ステータコアの軸方向端面と、その面に対向する上記モータケースの壁との間に、筒形の分離壁が設けられる。
そして、上記分離壁が、ステータコアの軸方向両側に設けられて、上記ロータを収容した空間と上記ステータを収容した空間とを分離して液密のステータ収容空間を形成し、
上記ステータコアが、そのスロット内を軸方向に貫通する冷却媒体流路を有することとしたため、キャンを用いずに冷却媒体を流すことができる液密のステータ収容空間を形成でき、高出力で冷却性能の高いモータを提供することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータケース内にロータとステータとを収容したモータであって、
さらに、ステータコアの軸方向端面と、その面に対向する上記モータケースの壁との間に、筒形の分離壁が設けられ、
上記分離壁が、ステータコアの軸方向両側に設けられて、上記ロータを収容した空間と上記ステータを収容した空間とを分離して液密のステータ収容空間を形成し、
上記ステータコアが、そのスロット内を軸方向に貫通する冷却媒体流路を有することを特徴とするモータ。
【請求項2】
上記ステータは、そのスロットが、ステータコアを軸方向に貫通する孔で形成されていることを特徴とする請求項1に記載のモータ。
【請求項3】
上記ステータが、そのスロット内にステータ磁石を有し、
上記ステータ磁石が、径方向内側に設けられてスロットの開口部を塞いでいることを特徴とする請求項1に記載のモータ。
【請求項4】
上記冷却媒体流路が、上記スロット内の上記ステータ磁石とコイル線との間に形成されていることを特徴とする請求項3に記載のモータ。
【請求項5】
上記分離壁が、上記ステータのコイルエンドよりも径方向内側に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のモータ。
【請求項6】
上記分離壁が、上記モータケース及び上記ステータコアとは別の独立した筒状部材であることを特徴とする請求項1に記載のモータ。
【請求項7】
上記分離壁が、非金属材料で形成されていることを特徴とする請求項6に記載のモータ。
【請求項8】
上記筒状部材は、上記モータケースとの当接部の当接面積が、上記ステータとの当接部の当接面積よりも広く、
モータケースとの当接部に設けられた弾性シール部材が、ステータとの当接部に設けられた弾性シール部材よりも大きいことを特徴とする請求項6に記載のモータ。
【請求項9】
上記筒状部材と上記ステータとの当接部に弾性シール部材を有し、
上記筒状部材が、上記ステータとの当接部の内径側に上記弾性シール部材よりも小さい突起を有することを特徴とする請求項6に記載のモータ。
【請求項10】
上記モータケースが、上記ステータコアの軸方向端面に対向する壁から軸方向に突出した筒状の庇を有し、
上記庇は、その少なくとも1部が上記筒状部材の径方向内側に重なる位置に設けられ、
上記庇と上記筒状部材とが重なった部分の間に弾性シール部材を有することを特徴とする請求項6に記載のモータ。
【請求項11】
上記ステータコアの軸方向端面に対向するモータケースの壁と上記筒状部材の軸方向端面との間にバネを有することを特徴とする請求項10に記載のモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータに係り、更に詳細には、狭いエアギャップを形成可能な冷却構造を備えるモータに関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車(EV)のモータは、車両の限られたスペース有効に活用するため、小型かつ高性能であることが要望されており、上記モータは導電材料と磁性材料とを用いているので、発熱が不可避的であり、出力トルクを向上させるには効率よく冷却することが不可欠である。
【0003】
特許文献1には、キャンで覆われたステータの外径側に形成した溝に冷却冷媒を流してモータを冷却するキャンドモータが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のものにあっては、ステータがキャンで覆われているので、ステータとロータとの間のエアギャップを大きくしなければならず、また、上記キャンを備えることで渦電流損などの損失が生じることがあるため、モータ性能を向上させることが困難である。
【0006】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、キャンを排した高出力で冷却性能の高いモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、ステータコアの軸方向端面に、ステータ収容空間を形成する壁を当接させ、冷却媒体を流すステータ収容空間を形成する壁の一部を上記ステータコアに担わせることで、ステータを覆うキャンを不要とし、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明のモータは、モータケース内にロータとステータとを収容したモータであり、さらに、ステータコアの軸方向端面と、その面に対向する上記モータケースの壁との間に、筒形の分離壁が設けられる。
そして、上記分離壁が、ステータコアの軸方向両側に設けられて、上記ロータを収容した空間と上記ステータを収容した空間とを分離して液密のステータ収容空間を形成し、
上記ステータコアが、そのスロット内を軸方向に貫通する冷却媒体流路を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ステータコアが、ステータ収容空間を形成する壁の一部を担うこととしたため、キャンを用いずに冷却媒体を流すことができる液密のステータ収容空間を形成でき、高出力で冷却性能の高いモータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明のモータを軸方向に切ったときの一例を示す断面図である。
【
図2】スロットが開口部を有さないステータコアを軸と直交する方向に切ったときの一例を示す要部断面図である。
【
図3】スロットが開口部を有するステータコアを軸と直交する方向に切ったときの一例を示す要部断面図である。
【
図4】分離壁が筒状部材であるモータを軸方向に切ったときの一例を示す断面図である。
【
図5】
図4中、丸で囲った箇所の筒状部材とステータとの当接部の拡大図である。
【
図6】筒状部材モータケースの壁から突出する庇で支持されたモータを軸方向に切ったときの一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のモータについて詳細に説明する。
本発明のモータ1は、
図1に示すように、モータケース2内にステータ3とロータ4とを収容して成り、さらに、ステータコアの軸方向端面とその面に対向する上記モータケースの壁との間に筒形の分離壁5を有し、該筒形の分離壁が上記ステータコアの軸方向両側に設けられる。
【0012】
上記ステータは、ステータコア31とコイル線32とを有し、ステータコアの外周面が上記モータケースの内周面に当接して支持され、上記ロータが軸受けを介してモータケースに回転可能に固定される。
【0013】
上記ステータのステータコアは、
図2に示すように、周方向に並んだ複数のスロットを有する。このスロット内には、上記コイル線が挿入されて樹脂などの接着剤で上記スロット内に固定されており、このスロット内には、さらにステータコアを軸方向に貫通する冷却媒体流路34が形成されている。
【0014】
上記筒形の分離壁5は、
図1に示すように、その内側を上記ロータの軸が通るように、上記ステータコアの冷却媒体流路よりも内径側の上記軸を囲む位置に配置される。この分離壁は、その軸方向端面が、全周に亘りシリコンゴムやウレタンゴムなどの弾性シール部材51aを介してステータコアの軸方向端面に当接し、上記モータケースの内部をロータ収容空間とステータ収容空間とに分離している。
【0015】
このように、本発明のモータは、上記ステータコアが上記分離壁の一部を担っているので、キャンを設けることなく、簡易な構造でステータ収容空間を液密にすることができ、エアギャップを小さくしてモータ出力を向上させることが可能である。
【0016】
そして、油などの絶縁性の冷却媒体で上記ステータ収容空間全体を満たし、
図1中、矢印で示すように上記冷却媒体を流すことで、スロット内の冷却媒体流路にも上記冷却媒体が流れる。
【0017】
したがって、ステータ端面のコイルエンド33だけでなく、スロット内のコイル線をも冷却することが可能であり、冷却媒体とコイル線との接触面積が増大して冷却性能を向上させることができる。
【0018】
上記スロットは、
図2に示すような、上記ステータコアを軸方向に貫通する孔で形成された、上記開口部を有さないスロットであっても、軸を中心とする円環状のバックヨークから内径側に突き出た複数のティース間に形成された、ステータコアの内径側に開口部を有するスロットであってもよい。
【0019】
上記スロットが、ステータコアの内径側に開口部を有する場合は、
図3に示すように、永久磁石で形成されたステータ磁石35を、ステータコア内の径方向内側に設け、該ステータ磁石でスロットの開口部を塞ぐことが好ましい。
【0020】
これにより、上記開口部を有さないスロットや上記開口部を塞ぐ永久磁石により、スロット内を流れる冷却媒体がエアギャップ側に漏れ出し難くなり、冷却媒体とロータとの摩擦による機械損を低減することができ、モータ効率を向上させることができる。
【0021】
上記ステータコア内に配置されたステータ磁石は、冷却媒体の漏れを防止するだけでなく、モータの力率を向上できる一方で、コイル全体を貫く磁束が鎖交し易く、ステータ磁石に誘導電流が流れて渦電流損失が生じると、その温度が上昇して減磁してしまう。
【0022】
図3に示すように、上記スロット内の上記永久磁石と上記コイル線との間に冷却媒体流路34を形成することで、スロット内のステータ磁石とコイル線との両方を同時に冷却でき、ステータ磁石の減磁を防止してモータ出力の低下を防止できる。
【0023】
また、上記分離壁5は、上記のように、ステータコアの冷却媒体流路よりも径方向内側に設けられていれば、上記冷却媒体流路に冷却冷媒が流れるが、コイルエンド33よりも径方向内側、さらには、ステータコアの最も内径側に当接して設けられていると、ステータコア内のコイル線だけでなくコイルエンド33も含めたコイル全体を冷却することができ、冷却性能が向上する。
【0024】
上記分離壁5は、
図1に示すように、モータケースと一体成形されたモータケースの一部であってもよいが、
図4に示すように、上記モータケースや上記ステータコアとは別の独立した筒状部材5’であることが好ましく、この筒状部材は、ステータコアの端面と冷却冷媒との接触面積増大の観点から、円筒形であることが好ましい。
【0025】
上記分離壁が、モータケースから独立した筒状部材で形成されていることにより、その構造の自由度が高くなり、組み立ても容易になるので、コストを削減できる。
【0026】
また、上記筒状部材を、樹脂などの非金属材料で形成することで、コイルエンドに生じる漏れ磁束によって、上記筒状部材に誘導電流が流れず渦電流損の発生を防止することができるため、モータ損失を抑制することが可能である。
【0027】
さらに、上記分離壁を筒状部材で形成する場合は、筒状部材とステータコアとの当接部位だけでなく、筒状部材とモータケースとの当接部位にも、弾性シール部材51bを設けて封止することが好ましい。
【0028】
上記筒状部材5’とステータコア31との間に設ける弾性シール部材51aは、ステータコアの端面と冷却冷媒との接触面積増大の観点から、径方向の厚さが薄いことが好ましく、変形などの経年劣化が生じると、ステータコアと筒状部材の間の密閉性が低下してしまう。
【0029】
このため、上記筒状部材は、
図4に示すように、上記モータケースとの当接部の当接面積が、上記ステータとの当接部の当接面積よりも広く、かつ、モータケースとの当接部に設けられた弾性シール部材51bが、ステータとの当接部に設けられた弾性シール部51a材よりも大きいことが好ましい。
【0030】
これにより、ステータ側の弾性シール部材51aが劣化しても、モータケース側の弾性シール部材51bが上記筒状部材をステータコア側に押し付け、ステータ側の弾性シール部材51aをさらに潰し、密閉性を確保することができる。
【0031】
また、上記筒状部材5’は、ステータとの当接部の内径側に、該ステータ側に向けて突出した、上記弾性シール部材51aよりも小さな突起52を有することが好ましい。
図5に、筒状部材とステータとの当接部の拡大図を示す。
【0032】
上記突起52は、弾性シール部材51aよりも小さいことで、弾性シール部材の潰代に影響することなく、ステータ側の弾性シール部材の位置ずれを防止するので、該弾性シール部材が劣化してもその脱落を防止して密閉性を維持すると共に、該弾性シール部材とロータやコイル線との接触を防止して安全性を向上させることができる。
【0033】
上記筒状部材は、
図6に示すように、モータケースの壁から突出する庇21によって支持されることができる。
上記庇は、上記筒状部材の内側に重なるように、上記筒状部材の径よりも小さな径の筒形をしており、上記ステータコアの軸方向端面に対向するモータケースの壁から軸方向に突出して設けられる。
【0034】
この庇21と上記筒状部材5’とが重なった部分の間に弾性シール部材51bを設けることで、筒状部材とモータケースとの間を密閉することができる。
【0035】
さらに、上記庇よりも外径側のモータケースの壁と上記筒状部材の軸方向端面との間にバネ53を設け、上記筒状部材をステータコアに押圧することで、上記筒状部材を支持することができる。
【0036】
このような構造によれば、筒状部材の端面をモータケースの壁に直接当接させる場合に比して、筒状部材の長さに高い精度が要求されず、筒状部材の作製コストを低減できると共に、組み立て性が向上するので低コスト化が可能である。
【符号の説明】
【0037】
1 モータ
2 モータケース
21 軸受け
22 庇
23 ステータ収容空間
24 ロータ収容空間
3 ステータ
31 ステータコア
32 コイル線
33 コイルエンド
34 冷却媒体流路
35 ステータ磁石
4 ロータ
41 軸
42 ロータコア
5 分離壁
5’ 筒状部材
51a ステータ側弾性シール部材
51b モータケース側弾性シール部材
52 突起
53 バネ