(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158670
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】核酸抽出装置、核酸抽出装置を備える核酸分析装置及び核酸抽出方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20241031BHJP
C12Q 1/6806 20180101ALI20241031BHJP
【FI】
C12M1/00 A ZNA
C12Q1/6806 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074036
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】390003193
【氏名又は名称】東洋鋼鈑株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】津田 稔也
(72)【発明者】
【氏名】大場 光芳
(72)【発明者】
【氏名】山野 博文
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA09
4B029AA23
4B029BB11
4B029DG08
4B029HA05
4B063QA20
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QS15
(57)【要約】
【課題】磁性ビーズを用いて高純度の核酸溶液を回収する。
【解決手段】 先細り部を有するチャンバ内において、溶出液をチャンバ内に供給し、先細り部に磁性ビーズを集磁した状態で溶出液を回収する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入口部と出口部を有するチャンバであって、当該入口部が当該出口部と比較して重力方向に高い位置であり、且つ、出口部に向かって先細り形状を有し、核酸を吸着できる磁性ビーズが装填されるチャンバと、
上記チャンバ内に磁力を印加する磁性体と、当該磁性体を上記チャンバにおける上記入口部と上記出口部との間を運動させる駆動部とを有する磁性ビーズ制御部とを備え、
上記磁性ビーズ制御部は、上記チャンバにおける上記先細り形状の位置に上記磁性体を位置決めできることを特徴とする核酸抽出装置。
【請求項2】
上記磁性ビーズ制御部は、上記チャンバ内に溶液が充填された状態で、駆動部により上記磁性体を上記チャンバにおける上記入口部と上記出口部との間で運動させることで、上記チャンバ内に充填された溶液を上記磁性ビーズにより攪拌することを特徴とする請求項1記載の核酸抽出装置。
【請求項3】
上記入口部から上記出口部に向かって上記チャンバ内に液体を通過させる際、上記磁性ビーズ制御部が上記チャンバにおける上記先細り形状の位置に上記磁性体を位置決めすることを特徴とする請求項1記載の核酸抽出装置。
【請求項4】
上記チャンバの上記入口部及び上記出口部にそれぞれ連結された入口流路及び出口流路を更に備えることを特徴とする請求項1記載の核酸抽出装置。
【請求項5】
上記出口流路に連結された複数のタンクと、上記出口流路に配設され、上記チャンバと上記複数のタンクのうちいずれかのタンクとを切り替えて連結する切替バルブとを更に備えることを特徴とする請求項4記載の核酸抽出装置。
【請求項6】
上記入口流路及び上記出口流路の一部が形成された第1の基板と、上記第1の基板と組み合わされて上記チャンバを形成する第2の基板及び第3の基板と、上記出口流路の残部が形成され、上記第1の基板と組み合わされて上記出口流路の全体を形成する第4の基板及び第5の基板とを備えることを特徴とする請求項4記載の核酸抽出装置。
【請求項7】
上記入口流路を複数備え、複数の当該入口流路に連結された複数の試薬注入口を備えることを特徴とする請求項4記載の核酸抽出装置。
【請求項8】
試料から抽出した核酸を分析する核酸分析装置であって、
請求項1乃至7いずれか一項記載の核酸抽出装置を備える抽出部と、
上記抽出部と流路を介して連結され、上記核酸抽出装置で回収した溶液に含まれる核酸を分析する分析部とを備える、核酸分析装置。
【請求項9】
上記分析部は、上記核酸抽出装置で回収した溶液に含まれる核酸を鋳型として核酸増幅反応を行う核酸増幅部と、上記核酸増幅部で増幅した核酸と核酸プローブとのハイブリダイゼーションを行うハイブリダイゼーション部と、上記ハイブリダイゼーション部における上記核酸プローブと核酸とのハイブリダイゼーションを検出する検出部とを含むことを特徴とする請求項8記載の核酸分析装置。
【請求項10】
上記ハイブリダイゼーション部は、DNAチップを備えることを特徴とする請求項9記載の核酸分析装置。
【請求項11】
上記核酸プローブは、上記核酸増幅部で増幅した核酸のうち、遺伝子変異における検出対象塩基を含むターゲット核酸における当該検出対象塩基を含む領域に対して相補的な配列を有するターゲット核酸検出用核酸プローブと、当該検出対象塩基に対応する非検出対象塩基を含む非ターゲット核酸における当該非検出対象塩基を含む領域に対して相補的な配列を有する非ターゲット核酸検出用核酸プローブとを含むことを特徴とする請求項9記載の核酸分析装置。
【請求項12】
上記分析部は、遺伝子変異における検出対象塩基を含むターゲット核酸を定量分析することを特徴とする請求項9記載の核酸分析装置。
【請求項13】
入口部と出口部を有するチャンバであって、当該入口部が当該出口部と比較して重力方向に高い位置であり、且つ、出口部に向かって先細り形状を有するチャンバ内に核酸を吸着した磁性ビーズが滞留した状態で、磁性ビーズから核酸を溶出する溶出液を上記入口部から上記チャンバ内に供給する工程と、
上記チャンバの外部から磁力を印加することで、上記先細り形状の位置に磁性ビーズを集磁する工程と、
上記先細り形状の位置に磁性ビーズを集磁した状態で、上記出口部から核酸を含む溶出液を吐出する工程とを含む、核酸抽出方法。
【請求項14】
上記溶出液を上記チャンバに供給する工程の前に、生体試料を含む溶液を上記入口部から上記チャンバ内に供給し、その後、上記チャンバの外部に配設された磁性体を上記入口部と上記出口部との間で運動させ、上記チャンバ内の磁性ビーズで上記溶液を攪拌する工程を含み、当該工程により生体試料に由来する核酸を磁性ビーズ表面に吸着させることを特徴とする請求項13記載の核酸抽出方法。
【請求項15】
上記生体試料に由来する核酸を磁性ビーズ表面に吸着させた後、上記先細り形状の位置に磁性ビーズを集磁した状態で、上記出口部から溶液を吐出する工程を含み、当該工程で吐出する溶液と、上記核酸を含む溶出液とを異なるタンクに回収することを特徴とする請求項14記載の核酸抽出方法。
【請求項16】
上記出口部と複数のタンクとが途中に切替バルブを配設した出口流路を介して連結され、当該切替バルブによって上記チャンバと上記複数のタンクのうちいずれかのタンクとを切り替えて連結することを特徴とする請求項14記載の核酸抽出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞などの生体サンプルから核酸を抽出する核酸抽出装置、当該核酸抽出装置を備え、抽出した核酸を分析する核酸分析装置、及び細胞などの生体サンプルから核酸を抽出する核酸抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌をはじめとする様々な疾患において、原因となる遺伝子変異やマーカーとなる遺伝子変異が同定されている。また、癌の予後予測に関連する遺伝子変異や、薬の副作用に関連する遺伝子変異も同定されている。例えば、一塩基バリアント(Single Nucleotide Variant (SNV))や、一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism(SNP))は、このような遺伝子変異の典型である。
【0003】
このような遺伝子変異を検出する一つのシステムとして、DNAチップ(DNAマイクロアレイとも称す)を利用したシステムが知られている。DNAチップには、検出対象の遺伝子変異に対応した核酸プローブ(野生型に対応する野生型プローブと、変異型に対応する変異型プローブ)が基板に固定された構成を有する。被検査者から採取したゲノムDNAを鋳型とし、検出対象の遺伝子変異を含む領域を挟みこむ一対のプライマーセットを用いて核酸増幅反応を行い、標識を有する核酸断片を得る。得られた核酸断片を含む溶液を所定の反応条件下でDNAチップに接触させる。溶液中に遺伝子変異を有する核酸断片が含まれていれば、変異型プローブからのシグナルを検出することができる。
【0004】
上述したような基本原理により、被検査者のゲノムDNAにおける遺伝子変異の有無を調べることができる。なお、遺伝子変異としてSNVやSNPに限らず、マイクロサテライトやDNAメチル化、キメラ遺伝子検査においても同様に、配列に対応する核酸プローブを有するDNAチップが用いられる。
【0005】
ところで、DNAチップを利用した遺伝子変異検出するシステムに限定されないが、当該システムのような核酸分析技術においては、先ず、分析対象の細胞や組織などから核酸を抽出する工程が含まれる。細胞などから核酸を抽出する方法として、磁性ビーズ法が知られている。磁性ビーズ法では、細胞などを破砕した溶液に含まれる核酸を磁性ビーズに吸着させ、磁力によって磁性ビーズを溶液から分離し、その後、磁性ビーズに吸着した核酸を溶出する。
【0006】
また、DNAチップを利用した遺伝子変異検出するシステムに限定されないが、当該システムのような核酸分析技術は、特許文献1に開示されるように、マイクロ流路デバイスとして実現することができる。マイクロ流路デバイスは、いわゆる微細加工技術を利用して作製された、所定の化学反応や生物学的分析を可能とするマイクロ流路を有するデバイスである。特許文献1に開示されるように、マイクロ流路における溶液の入口部(インレット)と出口部(アウトレット)を、入口部が出口部より重力方向に高い位置に配設されることで、ポンプや吸引機等の外部ソースを使用せずとも溶液をマイクロ流路に流すことができる。
【0007】
また、特許文献2には、免疫アッセイ、PCR、DNAハイブリダイゼーション等の試験を行うための、複数の試験チャンバが重力方向に平行に配設された装置が開示されている。特許文献2に開示された装置では、重力によって試験チャンバ内の底部から液体が充填されるよう、試験チャンバの所定の高さ位置に唯一の開口部が形成され、当該開口部から液体が供給されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO2010/061598
【特許文献2】特表2015-516085
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、細胞などから核酸を抽出し、磁性ビーズを用いて核酸を回収する工程を、マイクロ流路デバイスを利用して実施するシステムは開示されておらず、この工程における技術的課題は、上述した特許文献1や2並びに周知技術からは何も示唆されるものではなかった。実際に細胞などから核酸を抽出し、磁性ビーズを用いて核酸を回収する工程を、マイクロ流路デバイスを利用して実施するシステムを構築したところ、純物の高い核酸溶液を得ることが困難であるという問題に直面した。
【0010】
そこで、本発明は、細胞などから抽出した核酸を磁性ビーズを用いて回収する際に、高純度の核酸溶液を得ることができる核酸抽出装置、当該核酸抽出装置を備える核酸分析装置及び核酸抽出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した目的を達成するため、本発明者らが鋭意検討した結果、磁性ビーズを入れるマイクロ流路の形状及び当該マイクロ流路に通液する際の磁性ビーズの位置を制御することで、当該磁性ビーズを用いて高純度の核酸溶液が得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。
本発明は以下を包含する。
【0012】
(1)入口部と出口部を有するチャンバであって、当該入口部が当該出口部と比較して重力方向に高い位置であり、且つ、出口部に向かって先細り形状を有し、核酸を吸着できる磁性ビーズが装填されるチャンバと、
上記チャンバ内に磁力で印加する磁性体と、当該磁性体を上記チャンバにおける上記入口部と上記出口部との間を運動させる駆動部とを有する磁性ビーズ制御部とを備え、
上記磁性ビーズ制御部は、上記チャンバにおける上記先細り形状の位置に上記磁性体を位置決めできることを特徴とする核酸抽出装置。
(2)上記磁性ビーズ制御部は、上記チャンバ内に溶液が充填された状態で、駆動部により上記磁性体を上記チャンバにおける上記入口部と上記出口部との間で運動させることで、上記チャンバ内に充填された溶液を上記磁性ビーズにより攪拌することを特徴とする(1)記載の核酸抽出装置。
(3)上記入口部から上記出口部に向かって上記チャンバ内に液体を通過させる際、上記磁性ビーズ制御部が上記チャンバにおける上記先細り形状の位置に上記磁性体を位置決めすることを特徴とする(1)記載の核酸抽出装置。
(4)上記チャンバの上記入口部及び上記出口部にそれぞれ連結された入口流路及び出口流路を更に備えることを特徴とする(1)記載の核酸抽出装置。
(5)上記出口流路に連結された複数のタンクと、上記出口流路に配設され、上記チャンバと上記複数のタンクのうちいずれかのタンクとを切り替えて連結する切替バルブとを更に備えることを特徴とする(4)記載の核酸抽出装置。
(6)上記入口流路及び上記出口流路の一部が形成された第1の基板と、上記第1の基板と組み合わされて上記チャンバを形成する第2の基板及び第3の基板と、上記出口流路の残部が形成され、上記第1の基板と組み合わされて上記出口流路の全体を形成する第4の基板及び第5の基板とを備えることを特徴とする(4)記載の核酸抽出装置。
(7)上記入口流路を複数備え、複数の当該入口流路に連結された複数の試薬注入口を備えることを特徴とする(4)記載の核酸抽出装置。
(8)試料から抽出した核酸を分析する核酸分析装置であって、
上記(1)乃至(7)いずれか記載の核酸抽出装置を備える抽出部と、
上記抽出部と流路を介して連結され、上記核酸抽出装置で回収した溶液に含まれる核酸を分析する分析部とを備える、核酸分析装置。
(9)上記分析部は、上記核酸抽出装置で回収した溶液に含まれる核酸を鋳型として核酸増幅反応を行う核酸増幅部と、上記核酸増幅部で増幅した核酸と核酸プローブとのハイブリダイゼーションを行うハイブリダイゼーション部と、上記ハイブリダイゼーション部における上記核酸プローブと核酸とのハイブリダイゼーションを検出する検出部とを含むことを特徴とする(8)記載の核酸分析装置。
(10)上記ハイブリダイゼーション部は、DNAチップを備えることを特徴とする(9)記載の核酸分析装置。
(11)上記核酸プローブは、上記核酸増幅部で増幅した核酸のうち、遺伝子変異における検出対象塩基を含むターゲット核酸における当該検出対象塩基を含む領域に対して相補的な配列を有するターゲット核酸検出用核酸プローブと、当該検出対象塩基に対応する非検出対象塩基を含む非ターゲット核酸における当該非検出対象塩基を含む領域に対して相補的な配列を有する非ターゲット核酸検出用核酸プローブとを含むことを特徴とする(9)記載の核酸分析装置。
(12)上記分析部は、遺伝子変異における検出対象塩基を含むターゲット核酸を定量分析することを特徴とする(9)記載の核酸分析装置。
(13)入口部と出口部を有するチャンバであって、当該入口部が当該出口部と比較して重力方向に高い位置であり、且つ、出口部に向かって先細り形状を有するチャンバ内に核酸を吸着した磁性ビーズが滞留した状態で、磁性ビーズから核酸を溶出する溶出液を上記入口部から上記チャンバ内に供給する工程と、
上記チャンバの外部から磁力を印加することで、上記先細り形状の位置に磁性ビーズを集磁する工程と、
上記先細り形状の位置に磁性ビーズを集磁した状態で、上記出口部から核酸を含む溶出液を吐出する工程とを含む、核酸抽出方法。
(14)上記溶出液を上記チャンバに供給する工程の前に、生体試料を含む溶液を上記入口部から上記チャンバ内に供給し、その後、上記チャンバの外部に配設された磁性体を上記入口部と上記出口部との間で運動させ、上記チャンバ内の磁性ビーズで上記溶液を攪拌する工程を含み、当該工程により生体試料に由来する核酸を磁性ビーズ表面に吸着させることを特徴とする(13)記載の核酸抽出方法。
(15)上記生体試料に由来する核酸を磁性ビーズ表面に吸着させた後、上記先細り形状の位置に磁性ビーズを集磁した状態で、上記出口部から溶液を吐出する工程を含み、当該工程で吐出する溶液と、上記核酸を含む溶出液とを異なるタンクに回収することを特徴とする(14)記載の核酸抽出方法。
(16)上記出口部と複数のタンクとが途中に切替バルブを配設した出口流路を介して連結され、当該切替バルブによって上記チャンバと上記複数のタンクのうちいずれかのタンクとを切り替えて連結することを特徴とする(14)記載の核酸抽出方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る核酸抽出装置及び核酸抽出方法によれば、磁性ビーズを用いて高純度の核酸溶液を得ることができる。したがって、本発明に係る核酸抽出装置又は核酸抽出方法を適用することで、高純度の核酸溶液を使用した核酸分析を高精度に行うことができる。
【0014】
本発明に係る核酸分析装置によれば、磁性ビーズを用いて高純度の核酸溶液を得ることができ、高純度の核酸溶液を使用した核酸分析を高精度に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明を適用した核酸抽出装置の一例を示す、要部斜視図である。
【
図2】
図1に示した核酸抽出装置の要部分解斜視図である。
【
図3】本発明を適用した核酸抽出装置の他の例を示す、要部分解斜視図である。
【
図6】
図3に示した核酸抽出装置の左側面図である。
【
図7】
図3に示した核酸抽出装置の右側面図である。
【
図8】
図3に示した核酸抽出装置において、第2の試薬注入口から溶液を充填し、廃液回収用タンクへ溶液を移送する動作を示す要部斜視図である。
【
図9】
図3に示した核酸抽出装置において、第1の試薬注入口から溶液を充填しDNA回収用タンクへ溶液を移送する動作を示す要部斜視図である。
【
図10】核酸分析装置を備える遺伝子変異の検査装置の構成を示す概略構成図である。
【
図11】遺伝子変異の検査装置において、PCRからDNAチップの蛍光観察までの工程を示すフローチャートである。
【
図12】比較例1、2及び実施例1で使用した核酸抽出装置の(A)上面図、(B)縦断面図である。
【
図13】比較例2の核酸抽出手順を示した(A)上面図、(B)側面図である。
【
図14】実施例1の核酸抽出手順を示した(A)上面図、(B)側面図である。
【
図15】比較例1及び2、実施例1及び2で回収した核酸溶液に含まれる核酸濃度を示す特性図である。
【
図16】比較例1及び2、実施例1及び2で測定したDNAチップからの蛍光強度を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る核酸抽出装置、当該核酸抽出装置を備える核酸分析装置及び核酸抽出方法を、図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
〔第1の実施形態〕
本発明に係る核酸抽出装置の一態様を
図1に示す。
図1に示すように、核酸抽出装置1は、各種溶液の入口となる入口部2及び内部の溶液を排出する出口部3を有するチャンバ4と、チャンバ4内に装填された磁性ビーズ5と、チャンバ4内に装填された磁性ビーズ5に磁力を印加する磁性ビーズ制御部6とを備えている。チャンバ4の入口部2は、出口部3と比較して重力方向に高い位置に形成されている。
図1に示した例では、チャンバ4の長手方向(入口部2と出口部3を結ぶ方向)が重力方向に対して平行となっており、上側に入口部2が形成され、下側に出口部3が形成されている。また、チャンバ4は、出口部3に向かって先細り形状を有している。言い換えると、チャンバ4は、出口部3に向かって横断面(重力方向に対して直交する断面)の面積が小となる形状(漏斗形状と称することもできる)を有している。
【0018】
図1に示した核酸抽出装置1では、チャンバ4の長手方向を重力方向に対して平行としたが、入口部2が出口部3より高い位置にあれば、チャンバ4の長手方向を重力方向に対して傾斜するようにしても良い。ただし、核酸抽出装置では、好ましくは、チャンバ4の長手方向を重力方向に対して10度以内の傾斜とし、最も好ましくはチャンバ4の長手方向を重力方向に対して平行とする。
【0019】
磁性ビーズ5は、通常、磁性ビーズ法と呼称されるDNA抽出技術又はDNA精製技術に利用されるものを適宜、使用することができる。例えば、磁性ビーズ5としては、各種、市販されているものを使用することができる。磁性ビーズ5の粒径としては、入口部2等からチャンバ4に導入できればよく、特に限定されないが、0.1μm~20μm程度が好ましく、0.5μm~10μm程度がより好ましい。
【0020】
磁性ビーズ制御部6は、チャンバ4内に装填された磁性ビーズ5に磁力を印加する磁性体7と、当該磁性体7をチャンバ4の長手方向に往復運動させる駆動部8とを備えている。駆動部8は、
図1に示した例においては、チャンバ4の長手方向に沿って配設されたベルト9と一対のプーリ10A及び10Bを備え(ベルト・プーリ機構)、一方のプーリ10Aに駆動軸11を介して動力源12が接続された構成となっている。
【0021】
ここで、核酸抽出装置1においては、磁性ビーズ制御部6によりチャンバ4の出口部3の近傍に形成された先細り部13に磁性ビーズ5を集磁することができる。磁性ビーズ制御部6における磁性体7が先細り部13に磁力を印加することで、先細り部13に磁性ビーズ5を集磁することができる。より具体的には、磁性ビーズ制御部6は、上述したベルト・プーリ機構により磁性体7を一対のプーリ10A及び10Bの間で往復運動できるが(
図1中「H」で示した範囲)、先細り部13に対向する位置にて当該磁性体7を停止させることができる。これにより、先細り部13に磁性ビーズ5を集磁することができる。
図1に示した例では、プーリ10Bを出口部3の位置又は出口部3よりも下方に配設し、図示しない制御装置により動力源12を制御することで、先細り部13に対向する位置に磁性体7を停止させ、先細り部13に磁性ビーズ5を集磁することができる。
【0022】
図1に示した核酸抽出装置1のうちチャンバ4は、
図2に示すように、複数の基板を貼り合わせることで作製することができる。
図2に示した例では、第1の基板14、第2の基板15及び第3の基板16をこの順で重ね合わせ、互いに貼り合わせることでチャンバ4を形成することができる。
【0023】
なお、第1の基板14には、入口部2及び出口部3と、入口部2及び出口部3に連通した溝17A及び17Bがそれぞれ形成され、溝17A及び17Bの間にチャンバ4を構成する凹部18が形成されている。第2の基板15には、第1の基板14に形成された溝17A及び18B並びに凹部18と同形状の開口部19が形成されている。第3の基板16は、平板状の板部材である。これら第1の基板14、第2の基板15及び第3の基板16を貼り合わせることで、第1の基板14に形成された溝17A及び17B並びに凹部18と、第2の基板15に形成された開口部19と第3の基板16とによりチャンバ4が形成される。
【0024】
第1の基板14、第2の基板15及び第3の基板16は、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、ABS樹脂、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリイミド、ポリエーテル、シリコン樹脂又はエラストマー等の高分子材料若しくはガラスを使用することができる。第1の基板14、第2の基板15及び第3の基板16は、全て同じ材料から作製することもできるし、それぞれ異なる材料から作製することもできる。なお、第2の基板15は、両主面に第1の基板14及び第3の基板16を貼り合わせるため、両面に粘着剤を塗布した材料から形成することもできる。
【0025】
第1の基板14に溝17A及び17B等を形成する方法、及び第2の基板15に開口部19等を形成する方法は、特に限定されないが、例えば切削加工法、射出成形法、ホットエンボス加工法、レーザー加工法及びエッチング加工法を挙げることができる。また、第1の基板14、第2の基板15及び第3の基板16を貼り合わせる方法としては、特に限定されないが、熱融着法、レーザー溶着法、超音波溶着法、溶剤や接着剤、粘着剤等による接着法、プラズマ処理や紫外線処理により表面を活性化して圧着する方法等を挙げることができる。
【0026】
なお、上述した例では、第1の基板14、第2の基板15及び第3の基板16を貼り合わせてチャンバ4を形成したが、第1の基板14と第3の基板16を貼り合わせてチャンバ4を形成しても良い。
【0027】
また、
図1には示さないが、核酸抽出装置1は、入口部2に接続されたマイクロ流路と、マイクロ流路及び入口部2を介してチャンバ4と接続された1又は複数の試薬注入口とを備えている。なお、試薬注入口は、細胞懸濁液、細胞溶解液、洗浄液、エタノール、磁性ビーズ5又は溶出液等を充填したシリンジポンプを接続することができる。複数の試薬注入口を有する場合、核酸抽出装置1は、試薬注入口毎にマイクロ流路を備えており、切替バルブ等によってチャンバ4と試薬注入口との接続を確立することができる。
【0028】
また、
図1には示さないが、核酸抽出装置1は、出口部3に接続されたマイクロ流路と、マイクロ流路及び出口部3を介してチャンバ4と接続された1又は複数のタンクとを備えている。なお、複数のタンクを有する場合、核酸抽出装置1は、タンク毎にマイクロ流路を備えており、切替バルブ等によってチャンバ4とタンクとの接続を確立することができる。複数のタンクとは、例えば、核酸を回収するためのタンク、廃液を回収するためのタンク等を挙げることができる。
【0029】
以上のように構成された核酸抽出装置1では、細胞等の生体試料に含まれる核酸(DNA及び/又はRNA)を抽出、精製することができる。ここで、「核酸を抽出、精製する」とは、生体試料の溶解や均質化などの操作によって核酸を抽出し、核酸以外の夾雑物(タンパク質、酵素や脂質成分等)から分離することを意味する。特に、上述した核酸抽出装置を適用する場合、「核酸を抽出、精製する」とは、磁性ビーズ5に吸着した核酸を溶出液に溶出した、核酸溶液を回収することを意味する。回収した核酸溶液は、タンパク質等の夾雑物が少なく、高純度の核酸溶液となる。
【0030】
核酸抽出装置1を用いて細胞から核酸を抽出、精製する方法について、以下に例示的に説明する。先ず、処理対象の細胞と溶解液とを含む細胞懸濁液及び磁性ビーズ5をチャンバ4に注入する。この状態で、磁性ビーズ制御部6における磁性体7を
図1中Hの範囲に往復運動させる。これにより、磁性ビーズ5がチャンバ4内に充填された溶液を攪拌することができ、溶液に含まれる細胞を破砕するとともに核酸を磁性ビーズ5に吸着することができる。なお、磁性体7は、
図1中Hの範囲の全体を往復運動する形態に限定されず、Hの範囲の一部を往復運動する形態であってもよい。また、磁性体7は、
図1中Hの範囲の全体や一部を往復運動する形態に限定されず、Hの範囲内で回転運動や左右の往復運動を行ってもよい。すなわち、磁性体7によるHの範囲内での回転運動や往復運動により、攪拌を効率的に行うことができる。
【0031】
次に、磁性ビーズ制御部6における磁性体7を出口部3近傍に位置決めして磁性ビーズ5を先細り部13に集磁する。この状態で、チャンバ4内の溶液を出口部より、図示しない廃液用のタンクに回収する。核酸抽出装置1は、入口部2が出口部3と比較して重力方向に高い位置に形成されているため、入口部2を外部と連通することでチャンバ4内を外気圧とすれば、チャンバ4内の液体は出口部3からタンクへと移送することができる。なお、マイクロ流路を介して入口部2に吐出ポンプを取り付け、或いはマイクロ流路を介して出口部3に吸引ポンプを取り付け、これら吐出ポンプ及び/又は吸引ポンプを利用してチャンバ4内の液体を出口部3からタンクへと移送しても良い。
【0032】
次に、チャンバ4内に洗浄液を注入する。この状態で、磁性ビーズ制御部6における磁性体7を
図1中Hの範囲に往復運動させる。これにより、磁性ビーズ5がチャンバ4内に充填された洗浄液を攪拌することができ、核酸を吸着した状態を維持しながら磁性ビーズ5やチャンバ4を洗浄液によって洗浄することができる。
【0033】
次に、磁性ビーズ制御部6における磁性体7を出口部3近傍に位置決めして磁性ビーズ5を先細り部13に集磁する。この状態で、上記と同様にして、チャンバ4内の洗浄液を出口部より、図示しない廃液用のタンクに回収する。これにより、磁性ビーズ5の表面やチャンバ4内壁に残存する夾雑物(タンパク質や脂質等)を除去することができる。なお、この場合も、吐出ポンプ及び/又は吸引ポンプを利用してチャンバ4内の洗浄液を出口部3からタンクへと移送しても良い。また、洗浄液を用いた洗浄工程は複数回行ってもよい。
【0034】
次に、チャンバ4内にエタノールを注入する。この状態で、磁性ビーズ制御部6における磁性体7を
図1中Hの範囲に往復運動させる。これにより、磁性ビーズ5がチャンバ4内に充填されたエタノールを攪拌することができ、核酸を吸着した状態を維持しながら磁性ビーズ5やチャンバ4をエタノールによって洗浄することができる。
【0035】
次に、磁性ビーズ制御部6における磁性体7を出口部3近傍に位置決めして磁性ビーズ5を先細り部13に集磁する。この状態で、上記と同様にして、チャンバ4内のエタノールを出口部より、図示しない廃液用のタンクに回収する。これにより、磁性ビーズ5の表面やチャンバ4内壁に残存する洗浄液を除去することができる。なお、この場合も、吐出ポンプ及び/又は吸引ポンプを利用してチャンバ4内のエタノールを出口部3からタンクへと移送しても良い。
【0036】
次に、磁性ビーズ5に吸着した核酸を溶出するため、チャンバ4内に溶出液(例えば、蒸留水や精製水)を注入する。この状態で、磁性ビーズ制御部6における磁性体7を
図1中Hの範囲に往復運動させる。これにより、磁性ビーズ5がチャンバ4内に充填された溶出液を攪拌することができ、磁性ビーズ5から核酸が溶出することとなる。
【0037】
次に、磁性ビーズ制御部6における磁性体7を出口部3近傍に位置決めして磁性ビーズ5を先細り部13に集磁する。この状態で、上記と同様にして、チャンバ4内の核酸を含む溶液(核酸溶液)を出口部より、図示しない核酸回収用のタンクに回収する。これにより、当該タンク内に、処理対処の細胞に由来する核酸を回収することができる。なお、この場合も、吐出ポンプ及び/又は吸引ポンプを利用してチャンバ4内の核酸溶液を出口部3からタンクへと移送しても良い。
【0038】
以上のように、核酸抽出装置1により処理対象の細胞から核酸を抽出・精製することができる。核酸抽出装置1においては、入口部2が出口部3と比較して重力方向に高い位置に形成され、且つ、先細り部13を有しているため、チャンバ4内の液体(細胞を破砕した後の溶液、洗浄液、エタノールなど)を重力によって出口部3から確実に排出することができる。言い換えると、チャンバ4内に液体が残存することを回避することができる。
【0039】
核酸抽出装置1によれば、核酸溶液を回収する際に、エタノールや洗浄液の混入を防止することができるため、高純度な核酸溶液を得ることができる。特に、核酸増幅反応における阻害物質となるエタノールの混入を防止できるため、核酸抽出装置1を用いて得られた核酸溶液は、エタノールを除去するような処理を経ることなく核酸増幅反応に使用することができる。
【0040】
また、核酸抽出装置1では、磁性ビーズ5を先細り部13に集磁した状態で、チャンバ4内の液体(細胞を破砕した後の溶液、洗浄液、エタノール、核酸溶液など)をチャンバ4から排出している。したがって、出口部3から溶液を排出する際に、磁性ビーズ5と溶液との接触状態を維持することができ、洗浄液やエタノールによって磁性ビーズ5を確実に洗浄でき、溶出液によって磁性ビーズ5に吸着した核酸を確実に溶出させることができる。よって、核酸抽出装置1によれば、処理対象の細胞から効率よく核酸を抽出することができる。
【0041】
これに対して、核酸抽出装置1において、仮に、磁性ビーズ5を先細り部13より重力方向に対して上方に集磁した状態でチャンバ4内の液体を排出した場合には、出口部3から液体が排出される際には磁性ビーズ5が液体に浸漬しないこととなる。よって、この場合には、洗浄液やエタノールによる洗浄効果が低下するし、溶出液に溶出した核酸量が低下することとなる。
【0042】
さらに、核酸抽出装置1は、
図1中Hの範囲を磁性体7が往復運動することで、チャンバ4内の液体(細胞を破砕した後の溶液、洗浄液、エタノール、核酸溶液など)を攪拌することができる。換言すれば、核酸抽出装置1は、チャンバ4内の液体を攪拌するための遠心装置や振動発生装置等の構成が不要となる。遠心装置や振動発生装置は、装置全体の堅牢性を低下させる原因となったり、外部制御部品との相対位置精度を低下させる原因となったりする。よって、核酸抽出装置1は、これら不都合を回避することができる。
【0043】
さらに、核酸抽出装置1では、上述したように非常に簡易な構成によって検体からの核酸抽出を行うことができる。したがって、核酸抽出装置1は検体毎に新しいものを使用した場合であっても、多くの検体を低コストに処理することができる。或いは、核酸抽出装置1は、チャンバ4内を洗浄することで、複数の検体について繰り返し使用することもできる。
【0044】
〔第2の実施形態〕
本発明に係る核酸抽出装置の他の態様を
図3に示す。
図3に示すように、核酸抽出装置20は、切削加工等によりマイクロ流路が形成された複数の基板を組み合わせて形成される装置である。なお、以下の第2の実施形態に係る核酸抽出装置20の説明において、第1の実施形態に係る核酸抽出装置1と同じ構成については同じ符号を付すことにより、その詳細な説明は省略する。なお、核酸抽出装置20をチャンバ4が形成された面からみた正面図を
図4に示し、底面図を
図5に示し、重力方向を下方とした
図4の正面図に対して左側面図を
図6に示し、同
図4の正面図に対して右側面図を
図7に示している。
【0045】
核酸抽出装置20において、一対の入口部2A及び2B、出口部3及び先細り部13を有するチャンバ4の長手方向が重力方向に対して平行となり、入口部2A及び2Bが出口部3よりも高い位置となっている。また、核酸抽出装置20では、チャンバ4の上部に吸気口21が形成されている。核酸抽出装置20においてチャンバ4は、筐体22の一主面22A(第1の実施形態における第1の基板14に相当する)に、第2の基板23及び第3の基板24を組み合わすことで形成される。
【0046】
第2の基板23は、一主面22Aに形成された凹部25と同形状の開口部26が形成されている。第3の基板24は、平板状の板部材である。これら一主面22A、第2の基板23及び第3の基板24を組み合わせることで、一主面22Aに形成された凹部25と、第2の基板23に形成された開口部26と第3の基板24とによりチャンバ4が形成される。
【0047】
なお、核酸抽出装置20は、上述のように筐体22の一主面22Aに第2の基板23と第3の基板24とを組み合わせてチャンバ4を形成するような構成に限定されず、凹部25を形成した基板(第1の実施形態における第1の基板14に相当する)と第2の基板23と第3の基板24とを組み合わせてチャンバ4を形成し、これを筐体22に取り付けるような構成であっても良い。
【0048】
筐体22は、上面に第1の試薬注入口27、第2の試薬注入口28を有し、第1の試薬注入口27と入口部2Aとを連通する第1の入口流路29、第2の試薬注入口28と入口部2Bとを連通する第2の入口流路30を有している。また、筐体22は、内部にDNA回収タンク31及び廃液回収タンク32を有し、DNA回収タンク31と出口部3とを連通する第1の出口流路33、廃液回収タンク32と出口部3とを連通する第2の出口流路34を有している。なお、第1の出口流路33及び第2の出口流路34は、途中で合流して一本の流路として出口部3と接続されている。また、筐体22の下面には、第1の出口流路33及び第2の出口流路24となる凹部が形成されている。
【0049】
また、核酸抽出装置20では、第1の出口流路33及び第2の出口流路34となる開口部35が形成された第4の基板36と、平板状の板部材である第5の基板37とを筐体22の下面に組み合わすことで、第1の出口流路33及び第2の出口流路34が形成される。すなわち、筐体22に第1の出口流路33及び第2の出口流路34の一部が形成され、筐体22の下面と第4の基板36に第1の出口流路33及び第2の出口流路34の残部が形成されている。
【0050】
なお、詳細は図示しないが、筐体22の内部で連通する第1の入口流路29、第2の入口流路30、第1の出口流路33及び第2の出口流路34は、チャンバ4と同様に、凹溝が形成された複数の基板を積層することで形成することができる。これら基板を積層することで、開口方向の異なる第1の試薬注入口27及び第2の試薬注入口28と入口部2A及び2Bとの接続、DNA回収タンク31及び廃液回収タンク32と出口部3とを接続することができる。なお、第1の入口流路29、第2の入口流路30、第1の出口流路33及び第2の出口流路34は、配管や軟質チューブで構成してもよい。
【0051】
第1の出口流路33及び第2の出口流路34には、複数のバルブ38A、38B及び38Cが配設されている。これら複数のバルブ38A、38B及び38Cを適宜、開閉動作することによって、第1の出口流路33或いは第2の出口流路34と出口部3との連通を制御することができる。なお、複数のバルブ38A、38B及び38Cは、簡略化のため図示していないが、筐体22の外側にアクチュエータを備えており、制御装置からの制御信号によりアクチュエータがバルブ38A、38B及び38Cを外部から駆動し、第1の出口流路33及び第2の出口流路34の開閉を制御する。また、上述した第1の入口流路29及び第2の入口流路30上にもそれぞれバルブ39A及び39Bが配設されている。これらバルブ39A及び39Bもまたアクチュエータを備えており、制御装置からの制御信号によりアクチュエータがバルブ39A及び39Bを外部から駆動し、第1の入口流路29及び第2の入口流路30の開閉を制御する。
【0052】
なお、
図6に示すように、外部からアクチュエータ(図示せず)で操作するために、第1の入口流路29及び第2の入口流路30はいったん筐体22の左側面に沿った経路を辿っており、バルブ39A及び39Bも左側面内に形成されている。
図6は、筐体22の左側外面となる基板(図示せず)を外して、第1の入口流路29及び第2の入口流路30となる凹部の形成された面が見える状態で描かれている。
【0053】
核酸抽出装置20において、筐体22、第2の基板23、第3の基板24、第4の基板36及び第5の基板37並びに図示しない外側の基板は、第1の実施形態と同様の材料を用いることができる。ただし、図示しないアクチュエータの操作を受ける第5の基板37や筐体22の左側外面の基板(図示せず)については可撓性を有する材料であることが好ましい。
【0054】
なお、
図3~7には、磁性体7のみを示し、磁性ビーズ制御部6の構成を示していないが、核酸抽出装置20も、チャンバ4内に装填された磁性ビーズ5に磁力を印加する磁性ビーズ制御部6を備えており、アクチュエータ等の機構により磁性体7を重力方向に往復運動させることができる。また、核酸抽出装置20においても、磁性体7を重力方向に往復運動させるとともに、磁性体7を出口部3近傍に位置決めすることができる。
【0055】
以上のように構成された核酸抽出装置20は、上述した核酸抽出装置1と同様に、細胞等の生体試料に含まれる核酸(DNA及び/又はRNA)を抽出、精製することができる。核酸抽出装置20を用いて細胞から核酸を抽出、精製する方法について、以下に例示的に説明する。
【0056】
先ず、処理対象の細胞と溶解液とを含む細胞懸濁液及び磁性ビーズ5を、
図8に示すように、第2の試薬注入口28から第2の入口流路30及び入口部2Bを介してチャンバ4に注入する。これら、細胞懸濁液及び磁性ビーズ5は、それぞれ異なるシリンジ装置40を用いて第2の試薬注入口28から注入されても良いし、予め混合溶液として準備して同じシリンジ装置40を用いて第2の試薬注入口28から注入しても良い。
【0057】
図示しないが、細胞懸濁液及び磁性ビーズ5がチャンバ4内に充填された状態で、磁性ビーズ制御部6における磁性体7を重力方向に往復運動させる。これにより、磁性ビーズ5がチャンバ4内に充填された溶液を攪拌することができ、溶液に含まれる細胞を破砕するとともに核酸を磁性ビーズ5に吸着することができる。
【0058】
次に、図示しないが、磁性体7を出口部3近傍に位置決めして磁性ビーズ5を先細り部13に集磁する。この状態で、バルブ38A及び38Cを開放し、且つ、バルブ38Bを閉塞することで、第2の出口流路34を介して廃液回収タンク32と出口部3とを連通する。核酸抽出装置20は、入口部2A、2Bが出口部3と比較して重力方向に高い位置に形成されており、吸気口21により外部と連通することでチャンバ4内を外気圧とすることができる。よって、
図8に示すように、チャンバ4内の液体は出口部3から、第2の出口流路34を介して廃液回収タンク32へと移送することができる。なお、核酸抽出装置20においても、吐出ポンプ及び/又は吸引ポンプを利用してチャンバ4内の液体を出口部3から第2の出口流路34を介して廃液回収タンク32へと移送しても良い。
【0059】
次に、上述した細胞懸濁液及び磁性ビーズ5と同様に(
図8に示すように)、洗浄液を充填したシリンジ装置40を使用し、第2の試薬注入口28から第2の入口流路30及び入口部2Bを介してチャンバ4に洗浄液を注入する。この状態で、磁性ビーズ制御部6における磁性体7を重力方向に往復運動させる。これにより、磁性ビーズ5がチャンバ4内に充填された洗浄液を攪拌することができ、核酸を吸着した状態を維持しながら磁性ビーズ5やチャンバ4を洗浄液によって洗浄することができる。
【0060】
次に、図示しないが、磁性ビーズ制御部6における磁性体7を出口部3近傍に位置決めして磁性ビーズ5を先細り部13に集磁する。この状態で、上記と同様にして、チャンバ4内の洗浄液を出口部3より、第2の出口流路34を介して廃液回収タンク32へと移送することができる。これにより、磁性ビーズ5の表面やチャンバ4内壁に残存する夾雑物(タンパク質や脂質等)を除去することができる。なお、この場合も、吐出ポンプ及び/又は吸引ポンプを利用してチャンバ4内の洗浄液を出口部3から廃液回収タンク32へと移送しても良い。また、洗浄液を用いた洗浄工程は複数回行ってもよい。
【0061】
次に、上述した細胞懸濁液及び磁性ビーズ5並びに洗浄液と同様に(
図8に示すように)、エタノールを充填したシリンジ装置40を使用し、第2の試薬注入口28から第2の入口流路30及び入口部2Bを介してチャンバ4にエタノールを注入する。この状態で、磁性ビーズ制御部6における磁性体7を重力方向に往復運動させる。これにより、磁性ビーズ5がチャンバ4内に充填されたエタノールを攪拌することができ、核酸を吸着した状態を維持しながら磁性ビーズ5やチャンバ4をエタノールによって洗浄することができる。
【0062】
次に、図示しないが、磁性ビーズ制御部6における磁性体7を出口部3近傍に位置決めして磁性ビーズ5を先細り部13に集磁する。この状態で、上記と同様にして、チャンバ4内のエタノールを出口部3より、第2の出口流路34を介して廃液回収タンク32へと移送することができる。これにより、磁性ビーズ5の表面やチャンバ4内壁に残存する洗浄液を除去することができる。なお、この場合も、吐出ポンプ及び/又は吸引ポンプを利用してチャンバ4内のエタノールを出口部3から廃液回収タンク32へと移送しても良い。
【0063】
次に、
図9に示すように、磁性ビーズ5に吸着した核酸を溶出するため、チャンバ4内に溶出液(例えば、蒸留水や精製水)を、第1の試薬注入口27から第1の入口流路29及び入口部2Aを介してチャンバ4に注入する。溶出液を注入するために使用するシリンジ装置40は、上述した細胞懸濁液及び磁性ビーズ5、洗浄液並びにエタノールを注入する際に使用したシリンジ装置40とは異なるもの、好ましくはディスポーザブルのものを使用する。図示しないが、この状態で、磁性ビーズ制御部6における磁性体7を重力方向に往復運動させる。これにより、磁性ビーズ5がチャンバ4内に充填された溶出液を攪拌することができ、磁性ビーズ5から核酸が溶出することとなる。
【0064】
次に、図示しないが、磁性ビーズ制御部6における磁性体7を出口部3近傍に位置決めして磁性ビーズ5を先細り部13に集磁する。この状態で、バルブ38A及び38Bを開放し、且つ、バルブ38Cを閉塞することで、第1の出口流路33を介してDNA回収タンク31と出口部3とを連通する。核酸抽出装置20は、入口部2A、2Bが出口部3と比較して重力方向に高い位置に形成されており、吸気口21により外部と連通することでチャンバ4内を外気圧とすることができる。よって、
図9に示すように、チャンバ4内の液体は出口部3から、第1の出口流路33を介してDNA回収タンク31へと移送することができる。なお、核酸抽出装置20においても、吐出ポンプ及び/又は吸引ポンプを利用してチャンバ4内の液体を出口部3から第1の出口流路33を介してDNA回収タンク31へと移送しても良い。
【0065】
以上のように、核酸抽出装置20により処理対象の細胞から核酸を抽出・精製することができる。核酸抽出装置20においては、入口部2A及び2Bが出口部3と比較して重力方向に高い位置に形成され、チャンバ4の上部に吸気口21が形成され、且つ、先細り部13を有しているため、チャンバ4内の液体(細胞を破砕した後の溶液、洗浄液、エタノールなど)を重力によって出口部3から確実に排出することができる。言い換えると、チャンバ4内に液体が残存することを回避することができる。
【0066】
核酸抽出装置20によれば、核酸溶液を回収する際に、エタノールや洗浄液の混入を防止することができるため、高純度な核酸溶液を得ることができる。特に、核酸増幅反応における阻害物質となるエタノールの混入を防止できるため、核酸抽出装置20を用いて得られた核酸溶液は、エタノールを除去するような処理を経ることなく核酸増幅反応に使用することができる。
【0067】
また、核酸抽出装置20では、磁性ビーズ5を先細り部13に集磁した状態で、チャンバ4内の液体(細胞を破砕した後の溶液、洗浄液、エタノール、核酸溶液など)をチャンバ4から排出している。したがって、出口部3から溶液を排出する際に、磁性ビーズ5と溶液との接触状態を維持することができ、洗浄液やエタノールによって磁性ビーズ5を確実に洗浄でき、溶出液によって磁性ビーズ5に吸着した核酸を確実に溶出させることができる。よって、核酸抽出装置20によれば、処理対象の細胞から効率よく核酸を抽出することができる。
【0068】
これに対して、核酸抽出装置20において、仮に、磁性ビーズ5を先細り部13より重力方向に対して上方に集磁した状態でチャンバ4内の液体を排出した場合には、出口部3から液体が排出される際には磁性ビーズ5が液体に浸漬しないこととなる。よって、この場合には、洗浄液やエタノールによる洗浄効果が低下するし、溶出液に溶出した核酸量が低下することとなる。
【0069】
さらに、核酸抽出装置20は、重力方向に磁性体7が往復運動することで、チャンバ4内の液体(細胞を破砕した後の溶液、洗浄液、エタノール、核酸溶液など)を攪拌することができる。換言すれば、核酸抽出装置20は、チャンバ4内の液体を攪拌するための遠心装置や振動発生装置等の構成が不要となる。遠心装置や振動発生装置は、装置全体の堅牢性を低下させる原因となったり、外部制御部品との相対位置精度を低下させる原因となったりする。よって、核酸抽出装置20は、これら不都合を回避することができる。
【0070】
さらにまた、核酸抽出装置20では、上述したような構成とすることで、第1の試薬注入口27又は第2の試薬注入口28からの検体や試薬などの注入操作、図示しないアクチュエータを用いた磁性体7の往復運動操作、図示しないアクチュエータを用いたバルブ38A、38B及び38Cの操作、廃液回収タンク32へのアクセスが、それぞれ核酸抽出装置20の異なる側面から行うことができる。このように、核酸抽出装置20は、優れた操作性を備えている。
【0071】
さらにまた、核酸抽出装置20では、上述したように非常に簡易な構成によって検体からの核酸抽出を行うことができる。したがって、核酸抽出装置20は検体毎に新しいものを使用した場合であっても、多くの検体を低コストに処理することができる。この場合、核酸抽出装置20の全体を検体毎に新しいものを使用してもよいし、チャンバ4の部分とDNA回収タンク31のみを検体毎に交換しても良い。或いは、核酸抽出装置20は、チャンバ4内及びDNA回収タンク31を洗浄することで、複数の検体について繰り返し使用することもできる。
【0072】
〔第3の実施形態〕
第3の実施の形態、第1の実施形態及び第2の実施形態で説明した核酸抽出装置1及び20(以下、単に核酸抽出装置と称する)を備える核酸分析装置について説明する。本発明に係る核酸分析装置は、核酸抽出装置で回収した核酸を分析対象とするものであれば、何ら限定されるものではない。本実施形態では、核酸抽出装置で回収した核酸を鋳型として核酸増幅反応を行い、得られた増幅断片と核酸プローブとのハイブリダイズに基づいて遺伝子変異を検査する装置を説明する。すなわち、
図10に示すように、遺伝子変異の検査装置50は、核酸抽出装置を備える抽出部51と、抽出部51と流路52を介して連結され、核酸抽出装置で回収した溶液に含まれる核酸を分析する分析部53とを備えている。
【0073】
具体的に、分析部53は、検査対象の遺伝子変異を含む領域を増幅する核酸増幅反応を実施する核酸増幅反応部54と、核酸増幅反応部54から反応液が供給されるとともに当該反応液に含まれるターゲット核酸を検出する検出部55とを備えている。核酸増幅反応部54は、核酸増幅反応に必要な試薬や物質を溜める反応槽56を、反応槽56内の反応液を所定の温度に制御する第1温度制御部57を備えている。検出部55は、ターゲット核酸検出用核酸プローブ、非ターゲット核酸検出用核酸プローブ及び共通プローブ等(これら各種プローブについては後述する)を有するDNAチップ58を搭載するDNAチップ載置部59と、DNAチップ載置部59に搭載されたDNAチップ58に供給されるハイブリダイズ反応液を所定の温度に制御する第2温度制御部60と、DNAチップ58の各種プローブが固定された表面に対向する位置に配設された撮像部61とを備えている。検査装置50において、核酸増幅反応部54と検出部55とは、溶液が通過できる流路62を介して連結されている。なお、第1温度制御部57及び第2温度制御部60は、熱伝導性の高い金属ブロック及び当該金属ブロックを加熱/冷却する温度制御装置を備える。
【0074】
また、検査装置50は、流路63を介してDNAチップ載置部59と連結されたハイブリダイズ緩衝液タンク64、流路65を介してDNAチップ載置部59と連結された洗浄液タンク66を備えている。さらに、検査装置50は、流路67を介してDNAチップ載置部59と連結された廃液槽68を備えている。さらにまた、検査装置1は、廃液槽68に流路69を介して連結されたポンプ装置70を備えている。
【0075】
なお、検査装置50において、流路62、63、65及び67の途中に送液遮断バルブ71A、71B、71C及び71Dが配設されている。また、検査装置50において、反応槽56、ハイブリダイズ緩衝液タンク64、洗浄液タンク66及び廃液槽68にはそれぞれ吸気バルブ72A、72B、72C及び72Dが取り付けられている。これら送液遮断バルブ71A、71B、71C及び71Dにより流路を開閉することができ、ポンプ装置70の圧力を送液したい流路へと誘導する。すなわち、検査装置1は、ポンプ装置70と、送液遮断バルブ71A、71B、71C及び71Dと、吸気バルブ72A、72B、72C及び72Dとを含む送液装置を備えている。この送液装置によれば、流路62、63及び65を介して検査部55へ各種溶液を送液することができ、流路67を介して廃液槽68へ廃液を送液することができる。
【0076】
検査装置50において、送液装置は、ポンプ装置70、送液遮断バルブ71A及び吸気バルブ72Aのタイミング制御によって、核酸増幅反応部54から検査部55へと送液する反応液の液量を調整することができる。しかし、検査装置50における送液装置は、核酸増幅反応部54から検査部55へ送液する反応液を計量する計量装置を流路62上に備えるものであっても良い。送液装置は、計量装置により所定量の反応液を量り取り、量り取った反応液を流路62を介して検査部55へ送液することができる。計量装置としては、特に限定されないが、例えば、ピペットや、所定の容量を有する空間部などを挙げることができる。
【0077】
また、これら送液遮断バルブ71A、71B、71C及び71Dは、温度変動に伴って反応槽56やDNAチップ載置部59内の試薬が一時的に膨張、収縮する場合、流路で繋がった別の部位に移動させることができる。送液遮断バルブとしては、特に限定されないが、疎水性或いは親水処理を施したもの、熱などによって形状変化する素材といったものを限定されることなく使用できるが、外部応力によって物理的に開閉可能な形状が好ましく、一例としてはアクチュエータによって押さえつけるダイヤフラムバルブ、或いは回転によって開閉される回転バルブを使用することが好ましい。
【0078】
以上のように構成された検査装置50では、核酸増幅反応液に含まれるターゲット核酸及び非ターゲット核酸を検出し、これに基づいてターゲット核酸を定量的に分析することができる。ターゲット核酸を定量的に分析するフローチャートを
図11に示す。ターゲット核酸を定量的に分析するには、先ず、反応槽56において、検査対象の遺伝子変異を含む領域の核酸増幅反応を行う。このとき、反応槽56には、核酸増幅反応に必要な試薬類からなる反応液が充填される。反応槽56に対する反応液の充填は操作者が行っても良いし、図示しない異なる流路から反応槽56に充填されても良い。また、核酸増幅反応におけるサーマルサイクルを予め設定しておくことで、設定したサーマルサイクルに従って第1温度制御部57が反応槽56内の反応液の温度、処理時間を制御することができる。
【0079】
検査装置50では、次に、反応液の一部を、DNAチップ58を搭載しているDNAチップ載置部59へと送液する。具体的には吸気バルブ72A及び送液遮断バルブ71A及び71Dを開放し、その他の吸気バルブ72B、72C及び72D並びに送液遮断バルブ71B及び71Cを閉塞した状態で、ポンプ装置70を作動させることで反応槽56内の反応液をDNAチップ載置部59へ送液することができる。
【0080】
このとき、検査装置50では、第1温度制御部57によるサーマルサイクルを一時中断し、サーマルサイクルの1つの温度域(例えば95℃)で送液が完了するまで待機するように設定することができる。
【0081】
また、DNAチップ載置部59には、反応液の一部に加えて、ハイブリダイズ緩衝液タンク64からハイブリダイズ緩衝液が供給される。ハイブリダイズ緩衝液をDNAチップ載置部58に供給(送液)するには、吸気バルブ72B及び送液遮断バルブ71B及び71Dを開放し、その他の吸気バルブ72A、72C及び72D並びに送液遮断バルブ71A及び71Cを閉塞した状態で、ポンプ装置70を作動させる。これにより、ハイブリダイズ緩衝液タンク64内のハイブリダイズ緩衝液をDNAチップ載置部59へ送液することができる。なお、ハイブリダイズ緩衝液は、後述するブロッキング用核酸を含む組成とするこことができる。
【0082】
これにより、DNAチップ載置部59において、反応液に含まれるターゲット核酸及び非ターゲット核酸と、DNAチップ58の各種プローブとのハイブリダイズが進行する。このとき、DNAチップ載置部59に供給された溶液の温度を第2温度制御部60が予め設定されたハイブリダイズ温度に調節する。また、第2温度制御部60は、必要な場合は反応前に予備加熱することもできる。なお、本例では、反応液とハイブリダイズ緩衝液とをそれぞれ異なる流路で別途送液しているが、反応液とハイブリダイズ緩衝液を混合してから混合液をDNAチップ載置部59に送液することもできる。
【0083】
次に、検査装置50では、検出部55にてプローブにハイブリダイズしたターゲット核酸及び非ターゲット核酸を検出する。具体的には、先ず、DNAチップ載置部59に洗浄液を送液し、DNAチップ58を洗浄する。洗浄液は、洗浄液タンク66から送液することができる。洗浄液をDNAチップ載置部59に供給(送液)するには、吸気バルブ72C及び送液遮断バルブ71C及び71Dを開放し、その他の吸気バルブ72A、72B及び72D並びに送液遮断バルブ71A及び71Bを閉塞した状態で、ポンプ装置70を作動させる。この洗浄時において、第2温度制御部60は、ハイブリダイズ反応温度よりも低い洗浄温度(例えば25℃)へ下げることもできる。
【0084】
なお、DNAチップ58を洗浄する際には、反応液とハイブリダイズ緩衝液との混合液を廃液槽68に廃液した後、上述のように洗浄液を送液しても良いし、上述のように洗浄液を送液することで反応液とハイブリダイズ緩衝液との混合液を廃液槽68に廃液しても良い。
【0085】
そして、DNAチップ58におけるターゲット核酸検出用核酸プローブ、非ターゲット核酸検出用核酸プローブ及び共通プローブを固定した表面をカメラ61で撮像し、図示しないコンピュータにおいて画像解析ソフトにより各プローブにおけるシグナル強度を測定する。また、測定したシグナル強度に基づいて、同コンピュータにてターゲット核酸を定量的に分析することができる。
【0086】
以上のように、本発明にかかる検査装置50を利用することで、DNAチップ58を用いた各プローブとのハイブリダイズ反応に基づいてターゲット核酸及び非ターゲット核酸を検出することができる。上述した例では、反応槽56とDNAチップ載置部59とを流路62を介して連結するとともに、ポンプ装置70と送液遮断バルブ71A、71B、71C及び71Dと吸気バルブ72A、72B、72C及び72Dといった構成により核酸増幅反応液を送液していた。しかし、核酸増幅反応液を送液する機構(送液装置)としては、このような構成に限定されず、駆動アームに配設したピペット装置を用いて核酸増幅反応液の一部を供給することもできる。
【0087】
また、
図10に示した検査装置50では、ポンプ装置70が吸引することで上述した送液動作を行っていた。しかし、検査装置50は、核酸増幅反応部54、ハイブリダイズ緩衝液タンク64及び洗浄液タンク66の上流に接続されて加圧ポンプを使用することで上述した送液動作を行うことも可能である。
【0088】
また、
図10に示した検査装置50では、流路63を介してDNAチップ載置部59と連結されたハイブリダイズ緩衝液タンク64から直接、DNAチップ載置部59へとハイブリダイズ緩衝液が送られていたが、直接でなく予め流路62に合流してからDNAチップ載置部59へ送られても良い。
【0089】
さらに、
図10に示した検査装置50では、DNAチップ58を搭載できるDNAチップ載置部59を備え、DNAチップ58を着脱可能な構成とした。しかし、検査装置50は、このような構成に限定されず、検出部55に各プローブを直接固定した構成であっても良い。
【0090】
ところで、
図10に示した検査装置50では、一つの反応槽56を有する核酸増幅反応部54から核酸増幅反応液を送液するものであったが、本発明を適用した検査装置はこのような構成に限定されるものではない。すなわち、本発明を適用した検査装置は、複数の反応槽56を有する核酸増幅反応部54を備える構成であっても良い。この場合、複数の反応槽56に対しては、1つの第1温度制御部57により一括して温度制御しても良いし、複数の第1温度制御部57によりそれぞれ個別に温度制御しても良い。
【0091】
また、この場合、検査装置50は、複数の反応槽56のそれぞれに接続された流路と、当該流路上に配設され、検出部55に反応液を供給する流路を複数の反応槽56間で切り換える切換装置とを有する送液装置を備える。すなわち、送液装置によって、複数の反応槽56のうち1つの反応槽56と検出部55とを連通させることができる。
【0092】
以下、上述した検査装置50における検査対象の遺伝子変異、DNAチップに搭載する各種プローブについて説明する。
【0093】
検査対象の遺伝子変異とは、一例として、一塩基バリアント(SNV)や一塩基多型(SNP)であり、ゲノムDNAの所定の位置における塩基の相違を意味する。すなわち、特定の遺伝子変異については、複数の塩基が存在することとなる。このうち1つの塩基を以下の説明においては検出対象塩基と称し、検出対象塩基以外の塩基を非検出対象塩基と称する。
【0094】
検出対象塩基とは、例えばゲノムDNAの所定の位置における所定の核酸残基を意味しており、特に限定されないが、一塩基多型(SNP)等の塩基配列における特定の塩基の種類を意味している。例えば、所定の一塩基多型がA(アデニン)又はC(シトシン)を取りうるとして、いずれか一方の塩基、すなわち当該一塩基多型におけるA(アデニン)を検出対象塩基とすることができる。ここで、検出対象塩基としては、遺伝子多型におけるメジャーアレル及びマイナーアレルのいずれでも良いし、リスクアレルであってもなくても良い。
【0095】
ここで、ターゲット核酸とは、検出対象塩基を含む核酸分子、すなわち核酸断片を意味する。ターゲット核酸は、DNAからなる核酸分子でも良いし、RNAからなる核酸分子でも良いし、DNAとRNAとを含む核酸分子(DNA-RNA複合体)でもよいし、セルフリーDNAのように断片化されたものであっても良い。また、核酸としては、アデニン、シトシン、グアニン、チミン及びウラシル、並びに、ペプチド核酸(PNA)及びロックド核酸(LNA)等の人工核酸を含む意味である。
【0096】
検出対象塩基を含むターゲット核酸は、遺伝子変異を含むゲノムDNA上の所定の領域を核酸増幅法により増幅することで調整することができる。また、ターゲット核酸としては、生物個体、組織及び細胞採取から採取した転写産物から逆転写反応により得られるcDNAとしても良い。ターゲット核酸の塩基長としては、特に限定されないが、例えば60~1000塩基とすることができ、60~500塩基とすることが好ましく、60~200塩基とすることがより好ましい。
【0097】
なお、検出対象塩基を含むターゲット核酸に対して、当該検出対象塩基に対応する非検出対象塩基を含む核酸分子(核酸断片)を非ターゲット核酸と称する。例えば、ゲノムDNAにおける所定の位置で取りうる複数の塩基のうち、1つの塩基を検出対象塩基とした場合、検出対象塩基以外の塩基を非検出対象塩基とする。より具体的に、所定の位置における一塩基多型がA(アデニン)又はC(シトシン)を取りうる場合、当該一塩基多型におけるA(アデニン)を検出対象塩基とすると、当該一塩基多型におけるC(シトシン)が非検出対象塩基ということになる。
【0098】
また、例えば、所定の多型やバリアントにおける変異型(マイナーアレルの順鎖又は逆鎖)を検出対象塩基とした場合、当該変異型を含む核酸断片をターゲット核酸とし、非検出対象塩基である野生型(メジャーアレルの順鎖又は逆鎖)を含む核酸断片を非ターゲット核酸とすることができる。
【0099】
非検出対象塩基を含む非ターゲット核酸は、所定の遺伝子変異についてゲノムDNA上に非検出対象塩基が存在する場合、上述のように検出対象塩基を含むターゲット核酸を取得する際に同時に取得される。例えば、ターゲット核酸をポリメラーゼ連鎖反応等の核酸増幅反応により取得する場合、一方のアレルが非検出対象塩基であれば、ターゲット核酸とともに非ターゲット核酸が増幅されることとなる。
【0100】
上述した遺伝子変異の検査装置では、検出対象塩基を含むターゲット核酸を検出するには、ターゲット核酸において、少なくとも検出対象塩基を含む領域に対して相補的な塩基配列を有する核酸プローブを使用する。核酸プローブは、特に限定されないが、例えば10~30塩基長とすることができ、15~25塩基長とすることが好ましい。また、検出対象塩基に相補的な塩基は、核酸プローブを構成する塩基を文字列として見たときに、当該文字列の中心となる位置とすることが好ましい。なお、文字列の中心とは、偶数個の塩基からなる核酸プローブについては5’末端又は3’末端方向に1つずれている場合を含む意味である。
【0101】
特に、上述した遺伝子変異の検査装置では、ターゲット核酸及び非ターゲット核酸に共通する共通領域に対して相補的な配列を有する共通プローブを使用することができる。共通領域とは、ターゲット核酸及び非ターゲット核酸に共通する塩基配列の領域であって、検出対象塩基及び非検出対象塩基を含まない領域である。例えば、共通領域は、ターゲット核酸を検出する核酸プローブがハイブリダイズする領域、非ターゲット核酸を検出する核酸プローブがハイブリダイズする領域と重複しない領域とすることができる。
【0102】
上述した遺伝子変異の検査装置では、ターゲット核酸と核酸プローブにおける核酸分子同士の相補的な結合を意味するハイブリダイゼーションを含むならば、如何なる系にも適用することができる。すなわち、上述した遺伝子変異の検査装置は、サザンハイブリダイゼーション、ノーザンハイブリダイゼーション、in situハイブリダイゼーションに基づくことができる。特に、上述した遺伝子変異の検査装置は、担体(基板、中空繊維、微粒子を含む)に核酸プローブを固定し、固定化した核酸プローブを用いてターゲット核酸を検出(定性、定量を含む)する系に使用することが好ましい。より具体的に、上述した遺伝子変異の検査装置は、核酸プローブを基板に固定したDNAチップ(DNAマイクロアレイ)を使用している。
【0103】
以下、DNAチップ(DNAマイクロアレイ)を用いてターゲット核酸を検出する際に使用する系を説明する。なお、上述したターゲット核酸を検出するための核酸プローブ(ターゲット核酸検出用核酸プローブ)、非ターゲット核酸を検出するための核酸プローブ(非ターゲット核酸検出用核酸プローブ)及び共通プローブは、より好ましくは一本鎖DNAであり、例えば、核酸合成装置によって化学的に合成することで取得することができる。核酸合成装置としては、DNAシンセサイザー、全自動核酸合成装置、核酸自動合成装置等と呼ばれる装置を使用することができる。
【0104】
本例において、ターゲット核酸検出用核酸プローブ、非ターゲット核酸検出用核酸プローブ及び共通プローブは、その5’末端又は3’末端を担体上に固定化することにより、マイクロアレイの形態で用いるのが好ましい。担体の材料としては、当技術分野で公知のものを使用でき、特に制限されない。例えば、白金、白金黒、金、パラジウム、ロジウム、銀、水銀、タングステンおよびそれらの化合物などの貴金属、およびグラファイト、カーボンファイバーに代表される炭素などの導電体材料;単結晶シリコン、アモルファスシリコン、炭化ケイ素、酸化ケイ素、窒化ケイ素などに代表されるシリコン材料、SOI(シリコン・オン・インシュレータ)などに代表されるこれらシリコン材料の複合素材;ガラス、石英ガラス、アルミナ、サファイア、セラミクス、フォルステライト、感光性ガラスなどの無機材料;ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリイソブチレン、ポリエチレンテレフタレート、不飽和ポリエステル、含フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、アセタール樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、フェノール樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、スチレン・アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル・ブタジエンスチレン共重合体、ポリフェニレンオキサイドおよびポリスルホンなどの有機材料等が挙げられる。担体の形状も特に制限されないが、好ましくは平板状である。
【0105】
なお担体として、好ましくは表面にダイヤモンドライクカーボン(DLC:Diamond Like Carbon)等のカーボン層と、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、ホルミル基、ヒドロキシル基及び活性エステル基等の化学修飾基とを有する担体を用いる。表面にカーボン層と化学修飾基とを有する担体には、基板の表面にカーボン層と化学修飾基とを有するもの、およびカーボン層からなる基板の表面に化学修飾基を有するものが包含される。基板の材料としては、当技術分野で公知のものを使用でき、特に制限されず、上述の担体材料として挙げたものと同様のものを使用できる。
【0106】
上述した遺伝子変異の検査装置では、このように作製したDNAチップを用いて被検者における、ターゲット核酸を定量的に分析することができる。具体的には、先ず、被検者由来の試料からDNAを抽出する工程と、抽出したDNAを鋳型とし、核酸増幅反応により検査対象の遺伝子変異を含む領域を増幅する工程であって、核酸増幅反応における指数関数的増幅期でDNAチップを用いて少なくともターゲット核酸を検出する工程とを含む。
【0107】
被検者は通常ヒトであり、遺伝子変異を検査する対象であり、所定の遺伝子変異が関連する疾患に罹患した患者を挙げることができる。被検者由来の試料は特に制限されない。例えば、血液関連試料(血液、血清、血漿など)、リンパ液、糞便、がん細胞、組織または臓器の破砕物および抽出物などが挙げられる。
【0108】
まず、被検者から採取した試料からDNAを抽出する。抽出手段としては、上述した第1の実施形態及び第2の実施形態で説明した核酸抽出装置1或いは20を使用する。次に、得られたDNAを鋳型として用いて増幅反応を行い、検査対象の遺伝子変異を含む核酸領域を、好ましくはDNAを増幅させる。増幅反応としては、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)、ICAN(Isothermal and Chimeric primer-initiated Amplification of Nucleic acids)法等を適用することができる。増幅反応においては、増幅後の領域を識別できるように標識を付加することが望ましい。このとき、増幅された核酸を標識する方法としては、特に限定されないが、例えば増幅反応に使用するプライマーをあらかじめ標識しておく方法を使用してもよいし、増幅反応に標識ヌクレオチドを基質として使用する方法を使用してもよい。標識物質としては、特に限定されないが、放射性同位元素や蛍光色素、あるいはジゴキシゲニン(DIG)やビオチンなどの有機化合物などを使用することができる。
【0109】
またこの反応系は、核酸増幅・標識に必要な緩衝剤、耐熱性DNAポリメラーゼ、増幅する領域に特異的な一対のプライマー、標識ヌクレオチド三リン酸(具体的には蛍光標識等を付加したヌクレオチド三リン酸)、ヌクレオチド三リン酸および塩化マグネシウム等を含む反応系である。
【0110】
核酸増幅反応は、熱変性(denaturation)、アニーリング(annealing)及び伸長(extension)の3つの工程から構成される。この3つの工程を1つのサイクルとして、複数のサイクルを繰り返すことによって、検査対象の遺伝子変異を含む核酸断片を合成することができる。この3つの工程を繰り返す手順をサーマルサイクルと呼び、3つの工程の繰り返し回数をサーマルサイクル数と呼ぶ。
【0111】
また、核酸増幅反応は、2 step PCRと呼称される、アニーリングと伸長を同一温度で行うことで、熱変性工程とアニーリング及び伸長工程の2つの工程から構成されてもよい。この場合、これら2つの工程を1つのサイクルとして繰り返すことによって、検査対象の遺伝子変異を含む核酸断片を合成することができる。この場合、これら2つの工程を繰り返す手順をサーマルサイクルと呼び、2つの工程の繰り返し回数をサーマルサイクル数と呼ぶ。
【0112】
熱変性(denaturation)工程は、鋳型となるDNAを含む反応液を通常90℃以上に加熱することで一本鎖DNAとする工程である。サーマルサイクルにおける初回の熱変性工程は、ゲノムDNAを鋳型とする場合には比較的長い時間(1~5分)とすることが好ましい。また、2回目以降の熱変性工程は、二本鎖として得られた増幅産物を一本鎖とすることが目的となるため比較的短い時間(1~90秒)とすることが好ましい。
【0113】
アニーリング(annealing)工程は、一本鎖となった鋳型のDNA及び一対のプライマーセットを含む反応液を通常40~75℃の範囲の温度とし、これらプライマーを鋳型DNAに特異的に結合(anneal)させる工程である。なお、アニーリング工程の温度は、プライマーの配列や長さに依存して適宜設定される。通常は、使用するプライマーのTm値の±5℃の範囲でアニーリング工程の温度を設定する。
【0114】
伸長(extension)工程は、プライマーが鋳型DNAにアニーリングした状態で反応液の温度を約72℃とし、耐熱性ポリメラーゼ(Taq DNAポリメラーゼ等)によるプライマーの端部から相補鎖を合成する工程である。なお、この反応では、標識を付したプライマーからの鋳型DNAの相補鎖を合成するか、標識を付加したフリーのヌクレオチドを取り込みながら鋳型DNAの相補鎖を合成する。よって、検査対象の遺伝子変異について、検出対象塩基を含むターゲット核酸、非検出対象塩基を含む非ターゲット核酸が標識されることとなる。伸長工程の時間は、増幅する核酸断片の長さ、使用する酵素の反応性に依存して適宜設定される。
【0115】
上述した遺伝子変異の検査装置では、核酸増幅反応液に含まれるターゲット核酸及び非ターゲット核酸を検出し、これに基づいてターゲット核酸を定量的に分析することができる。ターゲット核酸を定量的に分析するには、ターゲット核酸検出用核酸プローブとターゲット核酸のハイブリダイゼーション反応を行い、ターゲット核酸検出用核酸プローブにハイブリダイズした核酸の量を、例えば標識を検出することにより測定できる。標識からのシグナルは、例えば、蛍光標識を用いた場合は、蛍光スキャナを用いて蛍光シグナル検出し、これを画像解析ソフトによって解析することによりシグナル強度を数値化することができる。
【0116】
ハイブリダイゼーション反応は、好ましくはストリンジェントな条件下で実施する。ストリンジェントな条件とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいい、例えば、50℃で16時間ハイブリダイズ反応させた後、2×SSC/0.2% SDS、25℃、10分および2×SSC、25℃、5分の条件で洗浄する条件をさす。すなわち、本発明に係るハイブリダイゼーション用バッファー組成物には、ハイブリダイゼーション反応に必要な塩、例えばSSCや、公知のブロッキング剤、例えばSDSが含まれていても良い。
【0117】
具体的には、ターゲット核酸検出用核酸プローブ及び非ターゲット核酸検出用核酸プローブからのシグナルに基づいてターゲット核酸を定量的に分析する場合、具体的には、ターゲット核酸検出用核酸プローブ及び非ターゲット核酸検出用核酸プローブにおけるシグナル強度をそれぞれ測定し、ターゲット核酸検出用核酸プローブからのシグナル強度を評価するための判定値を算出する。判定値の算出例としては、例えば、式:[ターゲット核酸検出用核酸プローブからのシグナル強度]/([ターゲット核酸検出用核酸プローブからのシグナル強度]+[非ターゲット核酸検出用核酸プローブからのシグナル強度])を使用する方法が挙げられる。
【0118】
ところで、上述した遺伝子変異の検査装置は、上述した構成に限定されず、核酸増幅反応液中の非ターゲット核酸が、ターゲット核酸検出用核酸プローブに非特異的にハイブリダイズすることを防止するため、いわゆるブロッキング用核酸を使用することもできる。ブロッキング用核酸は、ターゲット核酸及び非ターゲット核酸を含む反応液と混合しておき、得られた混合液をDNAチップに接触させてターゲット核酸とターゲット核酸検出用核酸プローブとのハイブリダイゼーション反応を進行させることができる。また、ターゲット核酸及び非ターゲット核酸を含む反応液と、ブロッキング用核酸を含む溶液とをDNAチップ上にて混合して、ターゲット核酸と核酸プローブとの特異的なハイブリダイズを同時に進行させても良い。これらいずれの場合でも、ブロッキング用核酸が非ターゲット核酸にハイブリダイズすることで、非ターゲット核酸がターゲット核酸検出用プローブとハイブリダイズすることを防止できる。
【0119】
ブロッキング用核酸は、非ターゲット核酸における非検出対象塩基を含む領域に対して相補的な塩基配列を有する。よって、ブロッキング用核酸は、検出対象塩基を有するターゲット核酸と核酸プローブとがハイブリダイズできる条件下において、非検出対象塩基を含む非ターゲット核酸とハイブリダイズすることができる。
【0120】
ブロッキング用核酸において、非検出対象塩基に対応する塩基の位置は特に限定されない。また、ブロッキング用核酸としては、特に限定されないが、核酸プローブの塩基長に対して60%以上の長さであることが好ましい。また、ブロッキング用核酸は、核酸プローブの塩基長に対して140%以下の長さであることが好ましい。例えば核酸プローブの長さが25塩基長とすると、ブロッキング用核酸の塩基長は15~35塩基長であることが好ましい。
【0121】
さらに、ブロッキング用核酸は、非ターゲット核酸に含まれる非検出対象塩基以外の塩基に対応する位置にミスマッチな塩基(相補的でない塩基)を含んでいても良い。ブロッキング用核酸が15塩基長である場合、ミスマッチな塩基は1~3個とすることができ、1~2個であることが好ましい。また、ブロッキング用核酸が25塩基長である場合、ミスマッチな塩基は1~5個とすることができ、1~4個であることが好ましい。
【0122】
さらにまた、ブロッキング用核酸の濃度は、特に限定されないが、例えば、非ターゲット核酸の濃度及び/又はターゲット核酸の濃度に応じて、又はプライマー濃度に応じて適宜設定することができる。具体的にブロッキング用核酸の組成物中の濃度は、0.01~2μMとすることができ、0.02~1.5μMとすることが好ましく、0.05~1.5μMとすることがより好ましい。
【0123】
なお、ブロッキング用核酸を使用して非ターゲット核酸と、ターゲット核酸検出用核酸プローブとの非特異的なハイブリダイズを防止した場合、非ターゲット核酸と非ターゲット核酸検出用核酸プローブとの特異的なハイブリダイズもまた阻害されることとなる。この場合、非ターゲット核酸検出用核酸プローブからのシグナル強度が大きく低下する。この場合、上記の式:[ターゲット核酸検出用核酸プローブからのシグナル強度]/([ターゲット核酸検出用核酸プローブからのシグナル強度]+[非ターゲット核酸検出用核酸プローブからのシグナル強度])による判定値は、ターゲット核酸の定量的な分析には不十分である可能性がある。この場合、ターゲット核酸と非ターゲット核酸との総量を共通プローブで測定することが好ましい。
【0124】
共通プローブは、上述したように、ターゲット核酸及び非ターゲット核酸に共通する共通領域に対して相補的な配列を有している。よって、共通プローブは、ブロッキング用核酸が非ターゲット核酸とハイブリダイズしていたとしても、同じ非ターゲット核酸とハイブリダイズすることができる。
【0125】
共通プローブを使用する場合、上述した判定値を算出する式としては、[ターゲット核酸検出用核酸プローブからのシグナル強度]/[共通プローブからのシグナル強度]を適用することができる。この式によれば、ブロッキング用核酸の影響を排除して、ターゲット核酸と非ターゲット核酸を併せた全体に対するターゲット核酸の割合を算出することができる。
【0126】
また、予め検量線を作成しておくことでターゲット核酸について絶対定量することができる。検量線としては、様々な既知の変異割合サンプル(ターゲット核酸と非ターゲット核酸を既知の割合で含むサンプル)を用いて、核酸増幅反応液に含まれるターゲット核酸及び非ターゲット核酸を検出し、上記式で算出した判定値から作成することができる。すなわち、検量線は、上述したように算出した判定値と、核酸増幅反応液に含まれるターゲット核酸及び非ターゲット核酸の割合やターゲット核酸の量との関係を表している。
【0127】
以上のように、上述した遺伝子変異の検査装置によれば、核酸抽出装置で回収した核酸を用いて、被検者由来のゲノムDNAに遺伝子変異があるか、遺伝子変異の割合を定量的に検査することができる。
【実施例0128】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0129】
[比較例1]
比較例1で使用した核酸抽出装置(マイクロ流路デバイス)を
図12に示した。
図12における(A)は核酸抽出装置の上面図、(B)は核酸抽出装置の縦断面図である。
図12に示したマイクロ流路デバイス100の第1の基板101はABS樹脂を使用し、凹部は切削加工して作製し、外寸法は25.5×75×3mmであり、入口流路102と出口流路103は幅1.0mm、深さ0.5mmであり、反応チャンバ104は、入口流路102、出口流路103に向かって狭くなる先細り形状となっており、狭まる形状は送液方向に対してそれぞれ45°であり、深さ0.5mmである。第2の基板105はポリイミドテープ(3M社製#4390)をカッティングプロッター(グラフテック社シルエットカメオ4)を用いて作製し、外寸法は25.5×75×0.13mmであり、内寸法は第1の基板101の切削された流路形状と同寸である。第3の基板106はCOPフィルムであり、外寸法は25.5×75×0.1mmであり、第2の基板105の両面に塗布された接着剤によって貼り合せて作製した。特に本比較例1では、反応チャンバ104は重力方向に垂直になるよう設置した。
【0130】
比較例1では、表1に示すように、抽出試薬として東洋紡製MagExtractor Genomeを用い、テンプレートとしてHeLa細胞を用いた。
【0131】
【0132】
細胞溶解、洗浄、溶出は反応チャンバ104において入口流路102から出口流路103の方向に向かって磁性ビーズを往復させること(撹拌)によって行った。撹拌は外部から磁石107を操作することで実施した。外部からの磁石操作は撹拌装置(microfluidic ChipShop製ChipGenie Edition P)を用いて実施した。
【0133】
撹拌の終了後、出口流路103から試薬を吐出し、次の試薬を入口から注入し、同様の操作を繰り返した。試薬の注入、吐出は入口流路102側からポンプによる空気の加圧(吐出)、もしくは出口流路103側からポンプによる空気の減圧(吸引)によって実行した。
【0134】
攪拌装置では自動撹拌操作終了後、磁石107は反応チャンバ104の長手方向における略中央に戻るため、試薬吐出時に磁性ビーズは反応チャンバ104の中央部分に集まった状態となる。
【0135】
核酸抽出の手順は具体的には以下の通りである。まず、入口流路102からHeLa細胞10μL、磁性ビーズ5μL、溶解・吸着液105μLを送液し、反応チャンバ104に充填した。撹拌装置で10分間撹拌し、操作終了後、磁性ビーズ以外の試薬を出口流路103から吐出した。次に、入口流路102から洗浄液120μLを送液し、反応チャンバ104に充填した。攪拌装置で1分間撹拌し、操作終了後、磁性ビーズ以外の試薬を出口流路103から吐出した。洗浄液による同様の操作を計2回実施した。
【0136】
次に、入口流路102から70%エタノール12μLを送液し、反応チャンバ104に充填した。攪拌装置で1分間撹拌し、操作終了後、磁性ビーズ以外の試薬を出口流路103から吐出した。エタノールによる同様の操作を計2回実施した。
【0137】
最後に入口流路102から精製水120μLを送液し、反応チャンバ104に充填した。攪拌装置で10分間撹拌し、操作終了後、磁性ビーズを残して、出口流路103からDNA溶出液を回収した。回収したDNA溶出液については、フルオロメーター(サーモフィッシャー製Qubit)を用いて、含有される核酸濃度を定量した。
【0138】
次に、回収したDNAを用いてPCRを行い、検査対象の遺伝子変異をDNAチップを用いて検査した。PCRは、表2に示したJAK2遺伝子配列を増幅するために設計したプライマー(JAK2-F:配列番号1、JAK2-R:配列番号2)を使用し、表3に示した反応液組成で実施した。なお、テンプレートとしては、抽出したDNA40ng添加した。
【0139】
【0140】
【0141】
PCRのサーマルサイクルは、95℃で5分の後、95℃で30秒、59℃で30秒及び72℃で45秒を1サイクルとして40サイクル行い、その後、72℃で10分とし、最終的に4℃を維持した。得られたPCR産物30μLは、ブロッカー(JAK2 V617F ブロッカー:CTCCACAGACACATACTC(配列番号3))を添加したハイブリダイズ緩衝液(2.25×SSC/0.23%SDS/150nMブロッカー)15μLと室温で泡立てないように混合し、JAK2遺伝子の野生型と相補的な配列を有するプローブ(TTTTTTTTTTTTCTCCACAGACACATACTCC:配列番号4)を固定化したDNAチップ(東洋鋼鈑製)と49.5℃の環境下で30分間ハイブリダイズ反応を行った。反応後はDNAチップ表面を0.1×SSC/0.1%SDS溶液に室温で浸し、上下に30回振動させて、DNAチップ表面の余分なPCR産物を洗浄した。続いて1×SSC溶液に室温で浸し、同様に80回上下に振動させ、DNAチップ表面をリンスした。
【0142】
リンスしたDNAチップを同じく室温で1×SSC溶液が満たされたガラス容器に浸し、励起光を照射してチップ表面に反応したPCR産物の蛍光を読み取り、蛍光強度を測定した。ハイブリダイズ反応~蛍光検出までの一連の操作は遺伝子解析装置BIOSHOT HT-32(東洋鋼鈑製)で実行した。
【0143】
[比較例2]
比較例2では、比較例1と同じマイクロ流路デバイスを使用し、核酸抽出の手順としては試薬の吐出時にマイクロ流路デバイスを反応チャンバの長手方向が重力方向と平行となるように傾けた以外は、比較例1と同様である(
図13)。
【0144】
また、比較例2でも、比較例1と同様にして、回収した核酸濃度、DNAチップの蛍光強度を測定した。
【0145】
[実施例1]
実施例1では、比較例1と同じマイクロ流路デバイスを使用し、核酸抽出の手順としては試薬の吐出時にマイクロ流路デバイスを反応チャンバの長手方向が重力方向と平行となるように傾け、且つ、磁石107を出口流路103の高さ近傍に位置決めし、磁性ビーズを先細り形状の部分に集磁した以外は、比較例1と同様である(
図14)。
【0146】
また、実施例1でも、比較例1と同様にして、回収した核酸濃度、DNAチップの蛍光強度を測定した。
【0147】
[実施例2]
実施例2では、実施例1、比較例1及び2と異なり、
図3~7に示した核酸抽出装置20(縦型マイクロ流路デバイス)を作製して使用した。
【0148】
本実施例で使用した縦型マイクロ流路デバイスは、撹拌時に試薬がチャンバ4から重力によって吐出することを防ぐために出口流路33の下流に押し引きによって開閉可能なダイヤフラムバルブ38Aを設置した。またダイヤフラムバルブ38Aの下流に溶出液、洗浄液等の不要な液(廃液)が回収される廃液回収タンク30と、DNA溶出液を回収するDNA回収タンク29を配置した。
【0149】
縦型マイクロ流路デバイスは、筐体22はABS樹脂を使用し、凹部は切削加工して作製し、外寸法は正面から見て58×50×50mmであり、入口部2A及び2Bと出口部3は幅1.0mm、深さ0.5mmであり、チャンバ4は、狭まる形状が送液方向に対してそれぞれ45°である先細り部13を有し、深さ1.0mmである。第2の基板23はポリイミドテープ(3M社製#4390)をカッティングプロッター(グラフテック社シルエットカメオ4)を用いて作製し、外寸法は正面から見て30×50×0.13mmであり、内寸法は筐体22の正面から見た表面部の切削された流路形状と同寸である。第3の基板24はCOPフィルムであり、外寸法は正面から見て30×50×0.1mmであり、第2の基板23の両面に塗布された接着剤によって貼り合せて作製した。筐体22は、底面に第4の基板36と貼り合わさるための切削加工された底面流路を有し、当該底面流路は幅1.0mm、深さ0.5mmである。チャンバ4で撹拌を行う際に、試薬が流れ落ちるのを防ぐためのバルブ38Aを配設しており、バルブ38Aは幅2.0mm、深さ0.3mmである。第4の基板36は第2の基板23と同様の材質、加工方法であり、底面からみた外寸は58×50×50mmであり、内寸は筐体22の底面流路形状と同寸である。第5の基板37はシリコンラバーであり、外寸法は底面からみて58×50×0.5mmであり、第4の基板36に塗布された接着剤によって貼り合わされている。
【0150】
実施例2では、このような縦型マイクロ流路デバイスを使用した、核酸抽出の手順において試薬の吐出時に磁性体7を出口部3の高さ近傍に位置決めし、磁性ビーズを先細り部13に集磁した以外は、比較例1と同様である。
【0151】
また、実施例2でも、比較例1と同様にして、回収した核酸濃度、DNAチップの蛍光強度を測定した。
【0152】
[結果・考察]
上述した実施例1及び2、比較例1及び2で回収した核酸濃度を測定した結果を
図15に示した。また、実施例1及び2、比較例1及び2において、DNAチップの蛍光強度を測定した結果を
図16に示した。
【0153】
図15より判るように、比較例1の核酸抽出手順では、極めて低濃度の核酸溶液しか回収できなかった。これに対して、比較例2の核酸抽出手順では、反応チャンバ104の長手方向が重力方向と平行になるように傾けた結果、核酸の回収率は向上した。しかしながら、実施例1の核酸抽出手順のように、反応チャンバ104の長手方向が重力方向と平行になるように傾け、且つ、先細り形状の部分に磁性ビーズを集磁した結果、比較例2の手順よりも高濃度の核酸溶液を回収することができた。
【0154】
さらに、縦型マイクロ流路デバイスを用いた実施例2では、チャンバ4に充填された溶出液が流れ落ちるのをバルブ38Aによって防止しているため、磁性ビーズと溶出液とをより確実に接触させることができ、その結果、極めて高濃度の核酸溶液を回収できることができた。
【0155】
さらに、
図16に示したように、実施例1及び2の核酸抽出手順によれば、DNAチップの蛍光強度が、比較例1や2の核酸抽出手順の場合と比較して極めて高いことが明らかとなった。これは、比較例2の手順では、比較的高濃度の核酸溶液が回収できるものの、核酸増幅反応を阻害するような不純物(エタノール等)が混入した結果と考えられる。これに対して、実施例1及び2の核酸抽出手順によれば、高純度な核酸溶液を回収でき、その結果、優れた蛍光強度を観察できることが明らかとなった。