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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158671
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】樹脂中のポリマー成分の定量方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/20 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
G01N25/20 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074038
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000151243
【氏名又は名称】株式会社東レリサーチセンター
(74)【代理人】
【識別番号】100186484
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 満
(72)【発明者】
【氏名】古島 圭智
【テーマコード(参考)】
2G040
【Fターム(参考)】
2G040AA03
2G040AB01
2G040AB12
2G040BA02
2G040BA29
2G040CA02
2G040DA02
2G040DA12
2G040EA02
2G040EB02
2G040EC01
2G040EC09
2G040HA01
2G040HA05
2G040ZA08
(57)【要約】
【課題】熱分析により樹脂中のポリプロピレンとポリエチレンの含有率を調べる。
【解決手段】等温、または、非等温、または、それらを組み合わせた示差走査熱量測定法および高速カロリメトリーを用いた試料全体およびPP部およびPE部の重量を決定する測定方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
示差走査熱量測定法および高速カロリメトリーを組み合わせて用いて、等温、非等温、またはそれらの組み合わせによる温度―時間の測定プロファイルを得て、樹脂中のポリプロピレン、ポリエチレン、または、ポリエチレン共重合体の含有量を定量する、樹脂中のポリマー成分の測定方法。
【請求項2】
前記プロファイルが、試料調製するパートと重量を決定するための昇温測定パートが交互に繰り返される高速カロリメトリーによるものである、請求項1に記載の樹脂中のポリマー成分の定量方法。
【請求項3】
高速カロリメトリーの測定に供した樹脂の重量と、樹脂中のポリプロピレンの重量の差から樹脂中のポリエチレンまたはポリエチレン共重合物部の重量を決定する、請求項1または2に記載の樹脂中のポリマー成分の定量方法。
【請求項4】
前記試料調製するパートが、設定温度、設定時間、走査速度を決める、請求項2に記載の樹脂中のポリマー成分の定量方法。
【請求項5】
前記昇温測定パートが、溶融からの冷却速度が2000℃/s以上であり、その後の昇温過程の昇温速度が2000℃/s以上であり、-50~230℃の温度範囲内である、請求項2に記載の樹脂中のポリマー成分の定量方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱分析の手法である高速カロリメトリー(以下、FSCと記すことがある。)と示差走査熱量測定法(以下、DSCと記すことがある。)を併用した樹脂中のポリプロピレンとポリエチレンの含有量を定量する測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
FSCは、DSCの一種である。従来のDSCでは数~数百℃/minでの昇温、冷却が可能であるのに対して、FSCはより高速(最大数万℃/s)での温度走査が可能であり、高速走査時の熱の出入りを調べることができる手法である(非特許文献1)。高分子材料については、主に熱可塑性樹脂のガラス転移、結晶化、融解における熱量、温度、速度論を調べるのに有効な手法として活用されてきた。
【0003】
また、DSC曲線からのガラス転移シグナルの読み取りについては、ASTM E1356-03やJIS K7121などの規格がある。DSC曲線からの吸発熱量の読み取りについては、JIS K7122などの規格がある。
【0004】
高分子材料のマテリアルリサイクルにおいては、市場・廃棄物・工程などから回収した材料を洗浄・溶融混錬して、リペレット化したものをリサイクル原料として使用される。これらの回収材料には添加剤・異物・染料・無機物・炭素繊維・ガラス繊維などが副成分として含まれることがある。主成分の樹脂についても、ポリプロピレン(以下、PPと記すことがある。)のリサイクル原料において、ポリエチレン(以下、PEと記すことがある。)、共重合ポリエチレン、ポリメチルペンテン、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなど)、ポリアミド(例えばポリアミド66、ポリアミド6、ポリアミド610など)、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、熱硬化性樹脂が含まれることがある。市場・廃棄物・工程などから回収した材料ではこれらの高分子樹脂の含有率が不明な場合がある。リサイクル原料を用いた成形加工を行う際に、樹脂の含有率を調べる方法が必要とされる。特に構造が似たPPとPEのブレンド系(以下、PP/PEブレンドと記すことがある。)の含有率を簡便に定量する方法が望まれている。
【0005】
PPとPEのブレンド系の含有率を定量する方法として、炭素13核磁気共鳴(以下、13C NMRと記すことがある。)やフーリエ変換赤外分光法(以下、FT-IRと記すことがある。)を用いた方法が一般的である。(非特許文献2,3)ただし、13C NMRにおいては、試料全体を高温の有機溶媒に溶解させて分析をする必要があり、分析に要する設備や煩雑な手順や分析時間を要する。また、溶媒を使用する点において環境負荷も大きい手法である。FT-IRは簡便な方法であるが、検量線を有する点や信号の検出感度に左右される課題はある。(特許文献1)
本願の手法は熱分析の代表的な手法であるDSCおよびFSCを併用した樹脂中のポリプロピレンとポリエチレンの含有率の測定方法である。過去にPP/PEブレンドのDSC曲線から融解熱量を読み取り、PPとPEの含有率を定量した報告はある。(非特許文献2)しかし、高分子の熱特性を踏まえると、DSC単独での含有率を定量は本質的に不可能である。(非特許文献3,4)すなわち、結晶性を有するPPやPEにおいては、DSCを用いて一定速度で昇温して測定する過程において、試料中のPP部およびPE部のそれぞれが、部分融解-再結晶化と呼ばれる熱的変化をするため、PP部とPE部の両方の融解信号が観測されるDSC曲線において、各部の融解信号を分離することが出来ない。(非特許文献1,5,6)このことから非特許文献2のDSCを用いた方法では正確な樹脂中のポリプロピレンとポリエチレンの含有率を算出することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6574081号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】C. Schick, V. Mathot, Eds., Fast Scanning Calorimetry, Springer, Switzerland (2016).
【非特許文献2】A.G. Larsen, K. Olafsen, B. Alcock, Determining the PE fraction in recycled PP, Polymer Testing 96(2021)107058. https://doi.org/10.1016/j.polymertesting.2021.107058
【非特許文献3】E. Karaagac, M.P. Jones, T. Koch, V.-M. Archodoulaki, Polypropylene Contamination in Post-Consumer Polyolefin Waste: Characterization, Consequences and Compatibilization, Polymers 13(16) (2021) 2618.
【非特許文献4】M. Gall, P. J. Freudenthaler, J. Fischer, R. W. Lang, Characterization of Composition and Structure-Property Relationships of Commercial Post-Consumer Polyethylene and Polypropylene Recyclates, Polymers 13(10) (2021) 1574.
【非特許文献5】Y. Furushima, M. Nakada, M. Murakami, T. Yamane, A. Toda, C. Schick, Method for Calculation of the Lamellar Thickness Distribution of Not-Reorganized Linear Polyethylene Using Fast Scanning Calorimetry in Heating, Macromolecules 48 (2015) 8831-8837.
【非特許文献6】Y. Furushima, A. Masuda, T. Kuroda, K. Okada, N. Iwata, M. Ohkura, M. Yamaguchi, The effect of poly(4-methyl-1-pentene) on the non-isothermal crystallization kinetics of polypropylene, Polymer Crystallization 2 (2019) e10082, 1-9.
【非特許文献7】B. Wunderlich, The ATHAS database on heat capacities of polymers, Pure and Applied Chemistry 67(6) (1995) 1019-1026. DOI: http://dx.doi.org/10.1351/pac199567061019, WWW URL: https://materials.springer.com.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
高速カロリメトリーとDSCを併用して、測定を行うことにより、PP/PEブレンド中のPPの重量を定量する。さらに、調製した試料を測定することにより、PP/PEブレンド全体の重量を定量する。このようにして得られた重量から樹脂中のポリプロピレンとポリエチレンの含有率の定量を可能とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成からなる。高速カロリメトリーとDSCを併用して、等温、または、非等温、または、それらを組み合わせた温度―時間プロファイルの測定を行うことにより、PP/PEブレンドのPP部を非晶質化させてガラス転移シグナルを読み取り、PP/PEブレンド中のPPの重量を定量する。さらに、温度―時間プロファイルを変更して装置内で試料に異なる熱履歴を与えて調製した試料を測定することにより、PP/PEブレンド全体の重量を定量する。このようにして得られた重量から樹脂中のポリプロピレンとポリエチレンの含有率を定量する。
【0010】
つまり、等温、または、非等温、または、それらを組み合わせたFSCおよびDSCの測定結果から、FSC測定に用いたPP/PEブレンドの試料片内中のPP部およびPE部の重量を決定する解析方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明におけるFSCおよびDSC測定における温度―時間プロファイルをPP/PEブレンドに適用することにより、試料中のPP部およびPE部の結晶・非晶の状態を制御して調製し、その試料状態における昇温DSC測定から全熱量、昇温FSC測定から全熱量およびPP部のガラス転移における比熱差を読み取る。読み取った各値に基づき試料全体およびPP部の重量を算出することが可能となり、FSC測定に用いた試料片全体の重量(以下、M_totalと記すことがある)とPP部の重量(以下、M_PPと記すことがある)の差からPE部の重量(以下、M_PEと記すことがある)を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】溶融から10℃/minで冷却させたPP/PE=7/3ブレンドのTEM像
図2】PP/PE=7/3ブレンド、および、それを構成するPPホモポリマー、および、PEホモポリマーの溶融からの冷却速度と結晶化ピーク温度
図3】PPホモポリマーおよびPEホモポリマーを溶融から5000℃/sで急冷後の昇温FSC曲線
図4】FSCとDSCを併用した樹脂中のポリプロピレンとポリエチレンの含有率を定量するための温度‐時間プロファイルの一例
図5】PP/PE=7/3ブレンドの230℃からの冷却DSC曲線および再昇温DSC曲線。再昇温DSC曲線は図4 の(a)のDSC測定結果に相当
図6図4の(b),(c)に相当するPP/PE=7/3ブレンドの昇温FSC曲線
図7図4 の(a)に相当するType1、Type2、Type3、coPP/PE の再昇温DSC曲線
図8図4 の(b)に相当するType1、Type2、Type3、coPP/PE の昇温FSC曲線
図9図4 の(c)に相当するType1、Type2、Type3、coPP/PE の昇温FSC曲線
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明では、PP/PEブレンドを溶融から室温以下までFSCを用いて急冷した際に、PP部のみが完全非晶質化させることが可能となる。PP部を非晶質化することで、完全非晶質が示すガラス転移現象がFSC曲線上で観測され、ASTM E1356-03やJIS K7121などの規格に準じてガラス転移前後の比熱差(以下、ΔCp,aPPと記すことがある)を読み取ることが可能となり、FSC測定に用いた試料片中のPPの重量M_PPが決定される。
【0014】
M_totalについては、DSCおよびFSCの二つの測定結果を使い決定する。すなわち、各測定において、溶融から10℃/minで冷却して同じ結晶状態の試料を調製した後の昇温測定結果から全熱量を読み取る。このとき、DSC測定では全熱量がJ/gの単位で取得され、FSC測定からは全熱量がJの単位で取得される。以下、DSC曲線から読み取った全熱量をΔH_DSC、FSC曲線から読み取った全熱量をΔH_FSCと記すことがある。ΔH_FSC /ΔH_DSC=M_totalからFSC測定に用いた試料片全体の重量が計算される。
【0015】
高速カロリメトリーとして、0.1~10000℃/s間での昇温・冷却が可能なものが好ましい。例えば、PP/PEブレンドでは、設定温度とし-60~230℃間、昇温測定時の走査速度として3000℃/sが好ましく例示される。また、示差走査熱量測定装置として、0.1~100℃/min間の昇温・冷却が可能なものが好ましい。例えば、PP/PEブレンドでは、設定温度とし-60~230℃間、試料調製および昇温測定時の走査速度としていずれも10℃/minが好ましく例示される。
【0016】
本発明は、溶融から急冷してPP部のみを非晶質化し、その後の昇温測定でPP部のガラス転移シグナルから比熱差を読み取ることが好ましい。
【0017】
分析の対象としては、PP部のガラス転移温度域に信号が重複しなければPEあるいはPE共重合体以外の高分子ブレンド、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、熱硬化性樹脂、についても、適用できる。なかでも、PP/PEブレンドが望ましい。一方、PP部が共重合体の場合は、ガラス転移シグナルがPPと異なるため、測定が困難となる可能性はある。
【0018】
本発明は、PP/PEブレンドについて3つのステップの測定・解析手順を有する。いずれのステップにおいても、装置内で試料の溶融状態から室温以下まで冷却させることにより試料中の結晶・非晶状態を調製する試料調製パートと、冷却過程で調製した試料の状態を分析するために昇温させる測定パートからなることが好ましく、昇温測定の結果を解析することができる。
【0019】
初めに、DSCを用いて、PEおよびPPの両方の溶融温度よりも高温(当該樹脂では230℃を例示する。)から一定冷却速度(10℃/minが好ましく例示されるが、汎用DSCの適温可能な冷却速度0.1~100℃/minの範囲であればいずれも適用可能)で-60℃以下まで冷却させて試料を調製した後(ここまでが試料調製パート)、10℃/minで230℃まで昇温DSC測定を実施する。昇温終了温度はPPの平衡融点である188℃(非特許文献7)以上が望ましく、230℃が好ましく例示される。DSC測定に用いる試料重量は、当該樹脂では5mgが好ましく例示され、5mg~20mgの範囲が望ましい。昇温DSC曲線にはPP/PEブレンド中のPEとPPのそれぞれの融解シグナルが重複した2重吸熱ピークが30℃から180℃の間に観測される。DSC曲線からJIS K7122などの規格に準じて吸熱ピーク全体の熱量ΔH_DSCを読み取ることが好ましい。
【0020】
次にDSCとは別にFSC測定を実施する。厚み数μmから10μm、縦横10×10~200×200μm程度に切り出した試料片をFSCにセットし、230℃の溶融状態まで加熱後に、-60℃以下まで冷却する。このときの冷却速度は先のDSC測定と合わせる必要があり、10℃/minが好ましく例示される。10℃/minで-60℃付近まで冷却する試料調製パートの後、3000℃/sで昇温FSC測定を行う。得られたFSC曲線からJIS K7122などの規格に準じて吸熱ピーク全体の熱量ΔH_FSCを読み取る。先のDSC測定および本FSC測定より読み取った熱量よりΔH_FSC /ΔH_DSC×X=M_totalを用いてFSC測定に用いた試料片全体の重量が計算される。ここでXは試料全体のPP/PEブレンドの重量分率であり、添加剤・異物・染料・無機物・炭素繊維・ガラス繊維などの副成分が含まれない場合はX=1となる。
【0021】
最後に、先にFSC測定した試料片を230℃の溶融状態まで再加熱し、5000℃/sで-60℃以下まで急冷する試料調製パートの後、3000℃/sで昇温FSC測定を行う。このステップで急冷するとPP/PEブレンド中のPP部は完全非晶質化し、-30℃~20℃間にPPの完全非晶質に由来するガラス転移シグナルが観測される。FSC曲線からASTM E1356-03やJIS K7121などの規格に準じてガラス転移前後の比熱差ΔCp,aPPを読み取ることが好ましい。ΔCp,aPPの単位はJ/Kである。完全非晶質PPのガラス転移温度における比熱差は重量で規格化された文献値(以下、ΔCp,100)がΔCp,100=0.4563J/K/gとして報告されている。(非特許文献7)
最終的に、ΔCp,aPP / ΔCp,100 =M_PPからFSC測定に用いた試料片中のPPの重量が計算される。先のFSC測定から算出したM_totalとM_PPの差(M_total―M_PP)からM_PEが決定される。M_PP/ M_PEはPP/PEブレンド中の含有比を与える。
【実施例0022】
以下、本発明を実施例により説明する。
【0023】
PPホモポリマー:PEホモポリマーが70wt%:30wt%になるように溶融混錬した試料(以下、PP/PE=7/3ブレンドと記すことがある。)および市場および工程より回収した材料を溶融混錬して得られた、PPとPEのブレンドペレット(Type1~3)およびPP共重合体とPEをブレンドしたペレット(coPP/PE)を用いた。Type1、Type2、Type3のポリエチレン分には共重合ポリエチレンも含まれる。
【0024】
図1は、DSC装置を用いて230℃の溶融状態から室温まで10℃/minで冷却して調製したPP/PE=7/3ブレンドの透過電子顕微鏡(以下、TEMと記すことがある。)を示す。図1の島成分がPE、海成分がPPに相当し、画像から見積もることのできるPPとPEの面積比率はPP:PE=67%:33%であり、ブレンド比率通りのサンプルであることが確認できた。
【0025】
PEの島サイズは直径100~600nm(図1のスケールバーは500nm)程度であり、FSC測定に用いる試験片の標準的な大きさである厚み数μmから10μm、縦横10×10~200×200μm程度に対して小さく、FSC測定は試料の平均情報を取得していた。
【0026】
図2は、PP/PE=7/3ブレンド、および、それを構成するPPホモポリマー、および、PEホモポリマーの、溶融からの冷却速度と、冷却過程のFSC曲線から読み取った結晶化に起因する発熱ピーク温度(結晶化温度)の関係を示す。PP/PE=7/3ブレンドのPE部は冷却速度6000℃/sにおいても結晶化することが確認できるが、PP部は冷却速度1000℃/sよりも高速で冷却した場合に、結晶化に由来する発熱ピークは観測されなかった。さらに、冷却速度6000℃/s 以下ではPEホモポリマーとPP/PE=7/3ブレンド中のPE部の結晶化ピーク温度は一致し、PPの有無に依らず同じ状態の結晶を形成することが確認できた。
【0027】
図3は、PP/PE=7/3ブレンドを構成するPPホモポリマー、および、PEホモポリマーを、230℃の溶融状態から5000℃/sで冷却させた後のFSC曲線である。PPホモポリマーのFSC曲線には-20~10℃付近にガラス転移による階段状シグナルが認められた。また、10℃以上の発熱および吸熱の総和(以下、全熱量と記すことがある)はゼロであり、溶融状態から5000℃/sで冷却させたPPホモポリマーは完全非晶質であることが確認できた。PEホモポリマーのFSC曲線には50℃~130℃に結晶の融解による吸熱ピークが認められたものの、PPホモポリマーでガラス転移シグナルが認められた-20~10℃付近には信号は認められなかった。この結果から、PP/PE=7/3ブレンドにおいて、-20~10℃付近で検出されるガラス転移シグナルはPP部のみに帰属される。
【0028】
図4は、樹脂中のポリプロピレンとポリエチレンの含有率の定量するためのDSCおよびFSC測定の温度-時間プロファイルを示す。図4 中の、(a)のDSCと(b)、(c)のFSCでは異なる試料片を用いた測定を行った。(a)では試料を230℃から10℃/minで-60℃まで冷却した後、10℃/minでの昇温DSC測定を実施した。
【0029】
得られたDSC曲線を図5に示す。昇温過程のDSC曲線には130℃付近と160℃付近に吸熱ピークが認められ、低温側は主にPE、高温側は主にPPの融解による。DSC曲線の80~170℃間の全熱量ΔH_DSCをJIS K7122に準じて読み取ると、149J/gであった。
【0030】
次に、図4に示すFSC測定で、試料を230℃の溶融から-60℃まで冷却した後、3000℃/sでの昇温FSC測定を実施し((b))、そのまま試料を5000℃/sで-60℃まで再冷却した後、3000℃/sでの昇温FSC測定を実施した((c))。
【0031】
図4の(b)および(c)の昇温過程で得られたFSC曲線を図6に示す。図6のFSC曲線(b)の70~190℃間の全熱量ΔH_FSCをJIS K7122に準じて読み取ると、7.29μJであった。ΔH_FSC/ΔH_DSCよりFSC測定に用いた試料片全体の重量M_totalは49ngと決定した。図6のFSC曲線(c)には-20~20℃付近に完全非晶質化したPP部のガラス転移に起因する階段状シグナルが認められた。JIS K7121に準じて読み取ったガラス転移前後の比熱差ΔCp, aPPは1.54×10^-8 J/Kであり、ΔCp,aPP / ΔCp,100から決定されるFSC測定に用いた試料片中のPP部の重量M_PPは34ngであった。M_totalとM_PPの差分の15ngがM_PEとなり、最終的にPP:PE=69wt%:31wt%と決定した。なお、図2よりPEホモポリマーとPP/PE=7/3ブレンド中のPE部が5000℃/sの冷却時に同じ状態の結晶を形成することが確認される。この点を踏まえて、図3のPEホモポリマーのFSC曲線から20~140℃間の全熱量を読み取り、その値をPP/PE=7/3ブレンドの仕込み組成を考慮して0.3倍した値は、図6の(c)のFSC曲線の20~160℃間の全熱量と一致した。この結果から溶融状態から5000℃/sで冷却させたPP/PE=7/3ブレンド中のPP部の全熱量はゼロであることが確認される。すなわち、PP/PE=7/3ブレンド中のPP部が5000℃/sの冷却により完全非晶質化したことが確認され、ΔCp,aPP / ΔCp,100で決定されるPP部の重量M_PPの妥当性を示す。
【0032】
FSC測定に用いるPP/PE=7/3ブレンドの試料片を変えた7回の測定および解析の結果は、PP重量分率の平均値が69.9wt%、標準偏差が1.4wt%であった。
【0033】
Type1、Type2、Type3、coPP/PEについて、図4 中の、(a)のDSC測定結果を図7に示す。さらに、図4 中の(b)、(c)のFSC測定結果を図8図9に示す。図7、8,9から、ΔH_DSC ,ΔH_FSC、ΔCp,aPPを読み取り、解析したPP/PEブレンド中の含有比M_PP/ M_PEを表1にまとめた。表1には本発明の方法および13C NMRにより見積もられるM_PP/ M_PEを示した。なお、Type1、Type2、Type3、coPP/PEの試料全体のPP/PEブレンドの重量分率Xはそれぞれ、X=0.96、0.90、0.96、1であった。PP共重合体とPEのブレンドであるcoPP/PEを除いて本発明の方法と13C NMRにより見積もられるM_PP/ M_PEは、本発明の手法の標準偏差の範囲で概ね一致した。13C NMRは135℃に加熱したo-ジクロロベンゼン-d4に試料を溶解させて取得した。
【0034】
【表1】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9