(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158697
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】転造加工用鋼製平ダイス
(51)【国際特許分類】
B21H 5/00 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
B21H5/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074100
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100192614
【弁理士】
【氏名又は名称】梅本 幸作
(74)【代理人】
【識別番号】100158355
【弁理士】
【氏名又は名称】岡島 明子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 嗣紀
(57)【要約】
【課題】従来の転造加工用の鋼製平ダイスは、加工歯の歯丈方向が鋼板の加工方向と垂直な関係になるので、転造加工時に加工歯の歯面に発生する過大な応力により鋼材の加工方向と歯面が受ける応力の方向が一致することで、加工歯形状の最適化や表面に被覆される硬質皮膜のみでは食い付き歯の損傷や破断を防止できないという問題がある。
【解決手段】
本発明の転造加工用鋼製平ダイス1は、複数の加工歯10,11,12,13が長手方向に配列されている転造加工用鋼製平ダイス1において、これらの加工歯10,11,12,13を転造加工用鋼製平ダイス1の後方側へ向けて歯丈が大きくなる第1加工歯およびこの第1加工歯に連続して形成されて歯丈が一定である第2加工歯から形成した上で、この第1加工歯の歯丈方向を母材である鋼の加工方向と同一方向とする。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の加工歯が長手方向に配列されている転造加工用鋼製平ダイスであって、前記加工歯は、前記転造加工用鋼製平ダイスの後方側へ向けて歯丈が大きくなる第1加工歯と、前記第1加工歯に連続して形成されて歯丈が一定である第2加工歯と、を有しており、前記第1加工歯の歯丈方向が、前記鋼の加工方向と同一方向であることを特徴とする転造加工用鋼製平ダイス。
【請求項2】
前記鋼の加工方向は、圧延方向,鍛造方向,引抜方向の内のいずれかの加工方向であることを特徴とする請求項1に記載の転造加工用鋼製平ダイス。
【請求項3】
前記鋼は、高速度工具鋼または熱間金型用工具鋼のいずれかであることを特徴とする請求項1または2に記載の転造加工用鋼製平ダイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車を転造加工する転造加工用鋼製平ダイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歯車などの転造加工時に使用する工具、いわゆる転造加工用平ダイスは、多数の加工歯が長手方向に並んでおり、歯丈の低い順に「食い付き歯(食い付き部)」、「調整歯(調整部)」、「仕上げ歯(仕上げ部)」の3種類の加工歯に分かれている。特に、「食い付き歯(食い付き部)」はサンド歯とも呼ばれており、転造加工初期における被加工材との摩擦によって他の加工歯に比べて著しく損耗が大きい箇所である。
【0003】
そのため、当該食い付き歯や加工歯全域の耐久性、耐摩耗性を高めることが転造加工用平ダイスの寿命向上につながる。例えば、加工歯全体の形状を最適化する、もしくは表面に硬質皮膜を被覆することで工具の長寿命化につなげる技術が開示されている(特許文献1ないし3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-786号公報
【特許文献2】特開2019-42742号公報
【特許文献3】特開2014-221478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、加工歯、とりわけ食い付き歯の損傷状態を確認した結果、転造加工時における食い付き歯の歯面と被加工物の接触時に当該歯面上に過大な引張応力が繰り返し発生することで歯面に微小クラックが発生して、食い付き歯の損傷、破断に至ることを発明者は突き止めた。
【0006】
ここで、従来の転造加工用平ダイスを製作する鋼板W1,W2の模式形状を
図5および
図6に、鋼板W2から製作される転造加工用平ダイスの母材W3の模式形状を
図7に、母材W3から製作される転造加工用平ダイス100の一部拡大模式図を
図8にそれぞれ示す。
【0007】
転造加工用平ダイスを製作する鋼板W1が
図5に示す様に圧延や鍛造などの加工方向DR100が鋼板W1の厚み方向ではなく、長手方向である場合、その鋼板W1から切り出された
図6に示す鋼板W1の一部である鋼板W2も同様にその加工方向は(鋼板W2の)長手方向である。
【0008】
その鋼板W2から製作される転造加工用平ダイスの母材W3には
図7に示す様に表面に加工歯や溝などが形成されて、最終的には、
図8に示す様に転造加工用平ダイス100に形成されている多数の加工歯101,102,103,104の歯丈方向が鋼板の加工方向と垂直な関係になる。そのため、転造加工時に加工歯の歯面に発生する過大な応力(引張応力や圧縮応力)によって鋼材の加工方向と歯面が受ける応力の方向が一致することで、加工歯形状の最適化や表面に被覆される硬質皮膜のみでは食い付き歯の損傷や破断を防止できないという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、転造加工時に発生する転造加工用平ダイスの加工歯の破損を抑制して、工具寿命を向上させる鋼製の転造加工用平ダイス(転造加工用鋼製平ダイス)を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の転造加工用鋼製平ダイスは、長手方向(転造加工方向)に複数の加工歯を配列して、当該加工歯を転造加工用鋼製平ダイスの後方側へ向けて歯丈が大きくなる第1加工歯と歯丈が一定の第2加工歯から形成する。さらに、第1加工歯の歯丈方向を素材である鋼の加工方向と同一方向にする。
【0011】
鋼の加工方向については、圧延方向,鍛造方向,引抜方向の内のいずれかの加工方向にすることができる。また、鋼種は高速度工具鋼または熱間金型用工具鋼のいずれかの鋼種を選択できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の転造加工用鋼製平ダイスは、その加工歯の歯丈方向が鋼材の加工方向と同一方向であるので、歯丈の疲労強度は歯丈方向が鋼材の加工方向と垂直になる場合に比べて著しく向上する。仮に、転造加工による過大な応力が発生したことで加工歯に微小クラックが発生した場合でも、歯丈方向が鋼材の加工方向と同一方向であるので、更なるクラックの進展が阻害されることで転造加工用鋼製平ダイスの耐久性も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の平ダイス1を製作する鋼板S1形状の模式図である。
【
図2】本発明の平ダイス1を製作する鋼板S2形状の模式図である。
【
図3】本発明の平ダイス1の母材S3の模式図である。
【
図5】従来の平ダイスを製作する鋼板W1形状の模式図である。
【
図6】従来の平ダイスを製作する鋼板W2形状の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の転造加工用鋼製平ダイス(以下、平ダイスという)について図面を用いて説明する。本発明の一実施形態である平ダイス1を製作するための鋼板S1形状の模式図を
図1、
図1に示す鋼板S1から切り出される鋼板S2(鋼板S1の一部)形状の模式図を
図2、
図2に示す鋼板S2から平ダイスの母材S3形状の模式図を
図3、
図3に示す母材S3から製作された本発明の平ダイス1の部分拡大図を
図4にそれぞれ示す。
【0015】
なお、本願において「鋼板」とは本発明の平ダイスを製作するための素材全体または、素材全体から切り出された一部を指し、「母材」とはこの「鋼板」から本発明の平ダイスに設けられる加工歯や溝などが形成される途中過程の状態を指す。
【0016】
本発明の転造加工用鋼製平ダイスの素材である鋼板S1は、
図1に示す様に加工方向DR1(図面上下方向)に沿って形成されている。その鋼材S1の一部である鋼材S2は、鋼材S1から切り出された素材であり、最終的に加工される転造加工用鋼製平ダイスとほぼ同じ大きさに形成されている。
図2に示す様に転造加工用鋼製平ダイスと同じ大きさの鋼材S2は、その加工方向が転造加工用鋼製平ダイスの長手方向(図面左右方向)ではなく、厚み方向(図面上下方向)になっている。
【0017】
鋼材S2の表面に転造加工用鋼製平ダイスの加工歯を形成する過程で製作される転造加工用鋼製平ダイスの母材S3において、
図3に示す様に加工歯の厚み方向(図面上下方向)と鋼材S2の加工方向は同一となる。
図1および
図2に示す鋼材S1,S2から製作される転造加工用鋼製平ダイス1は、最終的に
図4に示す様に加工歯10,11,12,13の歯丈方向が、鋼材(S1,S2)の加工方向と一致する。
【0018】
なお、転造加工用鋼製平ダイスの加工歯に対して、その鋼材の加工方向を確認する手順としては、例えば、対象となる平ダイスからワイヤ放電加工等で小片を切り出した後、加工歯の歯丈方向を縦にして樹脂等に埋め込み、観察用試料を作製する。当該試料を研削および研磨等で鏡面に仕上げた後に、ナイタール腐食液を用いた観察表面を腐食した状態で当該表面を金属顕微鏡で観察することで、鋼材の加工方向を特定できる。ただし、前述した手順は一般的な手法の一例であり、例えば試料の調整方法などはJIS(日本産業規格)G0553(鋼のマクロ組織試験方法)に準じた他の一般的な組織観察の手法を採用しても構わない。
【0019】
また、前述した手法で転造加工用鋼製平ダイスの加工歯から切り出された面を基準として、組織の流れ方向(結晶粒の長軸方向)が歯丈方向であれば、当該転造加工用鋼製平ダイスは本発明の範囲である。ただし、転造加工用鋼製平ダイス製造時の角度誤差が1°の範囲(±1°)であり、試料の切り出しおよび試料の調整作業の際の角度誤差が5°の範囲(±5°)とすれば、製造時および試料調整時に生じうる常識の範囲内での角度誤差が6°の範囲(±6°)になることを考慮して、組織の流れ方向がダイスの歯たけ方向の6°の範囲(±6°)内であっても同様に当該転造加工用鋼製平ダイスは本発明の範囲とする。
【0020】
以上より、本発明の転造加工用鋼製平ダイスは、
図4に示す様に加工歯の歯丈方向が素材である鋼材の加工方向と同一方向であるので、歯丈の疲労強度は歯丈方向が鋼材の加工方向と垂直になる場合に比べて著しく向上するという効果を奏する。
【符号の説明】
【0021】
1 転造加工用鋼製平ダイス
10,11,12,13 加工歯
S1,S2 転造加工用鋼製平ダイスの鋼板
S3 転造加工用鋼製平ダイスの母材
DR1 鋼板の加工方向