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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158704
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】洗濯機
(51)【国際特許分類】
   D06F 33/30 20200101AFI20241031BHJP
   H02P 21/26 20160101ALI20241031BHJP
【FI】
D06F33/30
H02P21/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074114
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100151378
【弁理士】
【氏名又は名称】宮村 憲浩
(74)【代理人】
【識別番号】100157484
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 智之
(72)【発明者】
【氏名】砂田 大樹
(72)【発明者】
【氏名】東山 義幸
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 裕智
(72)【発明者】
【氏名】大黒 祐揮
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 尚希
【テーマコード(参考)】
3B167
5H505
【Fターム(参考)】
3B167AA15
3B167AE05
3B167AE06
3B167AE12
3B167BA23
3B167BA45
3B167BA74
3B167BA82
3B167GB03
3B167HA11
3B167HA31
3B167HA32
3B167HA34
3B167HA53
3B167HA54
3B167JA01
3B167JA11
3B167JA31
3B167JB02
3B167KA02
3B167KA18
3B167KA84
3B167LA04
3B167LB12
3B167LB13
3B167LC01
3B167LC09
5H505AA09
5H505DD08
5H505EE41
5H505EE49
5H505FF02
5H505FF03
5H505FF04
5H505GG04
5H505HA10
5H505HB01
5H505JJ04
5H505LL22
5H505LL41
5H505PP01
(57)【要約】
【課題】本開示は、位置決め動作に要する時間を短くできる洗濯機を提供する。
【解決手段】本開示における洗濯機は、センサレス方式によってモータを制御する洗濯機であって、洗濯物を収容する洗濯兼脱水槽と、洗濯兼脱水槽を回転させるモータと、モータの回転を制御する制御部と、を備え、モータは、固定子と、永久磁石を有し、固定子の周りを回転する回転子と、を含み、制御部は、回転子を定常回転数まで加速させる加速動作と、回転子を定常回転数で駆動させる定常動作と、回転子を定常回転数から停止させる減速動作と、回転子を回転させ、固定子と永久磁石との磁極位置を調整する位置決め動作と、を順に実行し、制御部は、加速動作を実行する加速時間および/または定常回転数に応じて決定された、定常動作を実行する定常時間および/または減速動作を実行する減速時間において、回転子の回転を制御する。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサレス方式によってモータを制御する洗濯機であって、
洗濯物を収容する洗濯兼脱水槽と、
前記洗濯兼脱水槽を回転させるモータと、
前記モータの回転を制御する制御部と、
を備え、
前記モータは、
固定子と、
永久磁石を有し、前記固定子の周りを回転する回転子と、
を含み、
前記制御部は、
前記回転子を定常回転数まで加速させる加速動作と、
前記回転子を定常回転数で駆動させる定常動作と、
前記回転子を前記定常回転数から停止させる減速動作と、
前記回転子を回転させ、前記固定子と前記永久磁石との磁極位置を調整する位置決め動作と、
を順に実行し、
前記制御部は、前記加速動作を実行する加速時間および/または前記定常回転数に応じて決定された、前記定常動作を実行する定常時間および/または前記減速動作を実行する減速時間において、前記回転子の回転を制御する、
洗濯機。
【請求項2】
前記洗濯兼脱水槽の内方下部に設けられ、前記洗濯物を撹拌する撹拌翼と、
前記モータの回転の伝達先を、前記洗濯兼脱水槽および前記撹拌翼と、前記撹拌翼と、に切り換えるクラッチボスと、
をさらに備え、
前記クラッチボスは、前記回転子に設けられた孔部に係合可能な突起を有し、
前記制御部は、
前記突起と前記孔部との係合を解除して、前記撹拌翼を回転させる撹拌工程と、
前記突起と前記孔部とを係合させ、前記洗濯兼脱水槽および前記撹拌翼を一体回転させる槽回転工程と、
前記撹拌工程と前記槽回転工程との間において実行される噛み合わせ工程と、
を実行し、
前記制御部は、前記噛み合わせ工程において、前記加速動作、前記定常動作、前記減速動作および前記位置決め動作を順に実行する、
請求項1に記載の洗濯機。
【請求項3】
前記制御部は、
前記噛み合わせ工程において、前記加速動作、前記定常動作および前記減速動作を複数回実行し、
前記定常動作において、前回の前記定常動作よりも大きい前記定常回転数にて前記回転子を回転させる、
請求項1に記載の洗濯機。
【請求項4】
前記制御部は、
前記噛み合わせ工程において、前記加速動作、前記定常動作および前記減速動作を複数回実行し、
前記加速動作において、前回の前記加速動作よりも大きい加速度にて前記回転子を回転させる、
請求項1に記載の洗濯機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、洗濯機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、電磁ソレノイドの制御によって移動体が移動してパルセータ軸のみの駆動と、パルセータ軸及び槽軸の一体駆動とを切り替えるクラッチが構成されている洗濯機を開示する。この洗濯機は、移動体がクラッチボス及び槽軸と係合して洗濯兼脱水槽とパルセータとが一体回転できる状態と、クラッチボスと移動体の係合が解除されてパルセータのみが回転駆動される状態と、に切り替え可能である。また、この洗濯機は、ホール素子等により構成され、ロータの回転による磁界の変化によりモータの回転角を検出する回転数検知装置を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-85884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、位置決め動作に要する時間が長くなることを抑制できる洗濯機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示における洗濯機は、センサレス方式によってモータを制御する洗濯機であって、洗濯物を収容する洗濯兼脱水槽と、前記洗濯兼脱水槽を回転させるモータと、前記モータの回転を制御する制御部と、を備え、前記モータは、固定子と、永久磁石を有し、前記固定子の周りを回転する回転子と、を含み、前記制御部は、前記回転子を定常回転数まで加速させる加速動作と、前記回転子を定常回転数で駆動させる定常動作と、前記回転子を前記定常回転数から停止させる減速動作と、前記回転子を回転させ、前記固定子と前記永久磁石との磁極位置を調整する位置決め動作と、を順に実行し、前記制御部は、前記加速動作を実行する加速時間および/または前記定常回転数に応じて決定された、前記定常動作を実行する定常時間および/または前記減速動作を実行する減速時間において、前記回転子の回転を制御する。
【発明の効果】
【0006】
本開示における洗濯機は、位置決め動作に要する時間が長くなることを抑制できるできる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施の形態1における洗濯機の断面図
図2】実施の形態1における洗濯機の駆動部の斜視図
図3】実施の形態1における洗濯機のモータの模式図
図4】実施の形態1における洗濯機の制御ブロック回路図
図5】実施の形態1における洗濯機の電源回路の詳細回路図
図6】実施の形態1における洗濯機の制御部およびモータのブロック図
図7】実施の形態1における洗濯機の電流ベクトル設定器の内部構成を詳細に記載したブロック図
図8】実施の形態1における洗濯機の噛み合わせ工程におけるモータの動作説明図
図9】実施の形態1における洗濯機の固定子の磁極位置と回転子の磁極位置とがずれた状態のモータの模式図
図10】実施の形態1における洗濯機の固定子の磁極位置と回転子の磁極位置とが揃った状態のモータの模式図
【発明を実施するための形態】
【0008】
(本開示の基礎となった知見等)
発明者らが本開示に想到するに至った当時、モータに設けられた回転子の回転位置を検知する回転センサを備えず、回転子の磁極位置を推定するセンサレス位置推定方式を用いてモータの回転数を推定する洗濯機があった。この洗濯機においては、モータの回転動作時に回転子の推定磁極位置と実際の磁極位置とのずれがある場合には、動作異常が発生する虞があるため、モータの回転動作の前に回転子の磁極位置を特定の位置に合わせるための直流電流による位置決め動作が必要となる。しかしながら、この位置決め動作前の状態において、位置決めの目標となる磁極位置と実際の磁極位置とのずれが大きい場合、位置決め動作において、回転子が大きく揺動し、位置決め動作が完了するまでに時間がかかり、運転時間が長くなってしまうという課題があった。
【0009】
特に、クラッチボスに設けられた突起と回転子に設けられた孔部との係合によりモータの回転の伝達先を洗濯兼脱水槽およびパルセータと、パルセータと、の間で切り替える洗濯機において、パルセータのみを回転駆動させる撹拌工程から、洗濯兼脱水槽およびパルセータを一体回転させる槽回転工程に移行する際に、突起と孔部との係合が解除した状態から、突起と孔部とが係合した状態にする必要がある。この場合、撹拌工程と槽回転工程との間において、孔部に突起を係合させるための噛み合わせ工程を実行する必要がある。噛み合わせ工程においては、複数回モータの回転動作を実行しており、位置決め動作に要する時間が長いと、噛み合わせ工程に要する時間も長くなり、運転時間が長くなるという課題が顕著になる虞があった。
【0010】
発明者らは、これらの課題を解決するために、本開示の主題を構成するに至った。
【0011】
そこで、本開示は、位置決め動作に要する時間が長くなることを抑制できる洗濯機を提供する。
【0012】
以下、図面を参照しながら実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明、または、実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。
【0013】
なお、添付図面および以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図していない。
【0014】
(実施の形態1)
以下、図1図10を用いて、実施の形態1を説明する。
【0015】
[1-1.構成]
[1-1-1.洗濯機の構成]
図1に示すように、洗濯機1は、洗濯機外枠2と、洗濯機外枠2の内部に設けられた水受け槽3と、水受け槽3の内部において回転可能に設けられた洗濯兼脱水槽4と、を備える。水受け槽3は、貯水可能に設けられており、洗濯機外枠2に対してサスペンション3aを介して防振支持されている。洗濯兼脱水槽4は、洗濯物を収容可能に設けられている。洗濯兼脱水槽4の壁面には水受け槽3との間で通水可能とする通水孔4aが設けられている。洗濯兼脱水槽4の内底部には、洗濯物を撹拌するためのパルセータ5が左右回転
自在に設けられている。洗濯機1は、水受け槽3および洗濯兼脱水槽4の中心軸が上下方向に延伸して設けられた、いわゆる縦型洗濯機である。
【0016】
洗濯機外枠2の内方には、駆動部6が設けられている。駆動部6については、後述する。
【0017】
洗濯機外枠2の上面には操作表示部10が設けられている。操作表示部10は、使用者が所望の洗濯コース設定や運転開始、一時停止などを操作する入力設定手段10aと、LEDやLCD等による発行素子で、運転の進捗や各種情報の表示を行う表示手段10bと、を含む。
【0018】
洗濯機外枠2の上面には、洗濯兼脱水槽4内に洗濯物を出し入れ可能とする投入口2aが形成されており、投入口2aを開閉可能に覆う蓋体11が設けられている。蓋体11の前端部には磁石14が設けられており、洗濯機外枠2の上面に設けられた感磁素子15に相対するように配置されている。感磁素子15は、ホールICなどで構成され、蓋体11に設けられた磁石14の磁力線により蓋体11の開閉を検知している。磁石14と感磁素子15とで、蓋開閉検知手段16として機能している。
【0019】
蓋体11は、前端部にリング形状をしたロック部17を有しており、蓋体11が閉じた状態でリング形状のロック部17にロックピン18をはめ込むことで、蓋体11を閉じた状態にロックすることができる。ロック部17とロックピン18とで蓋ロック手段19を構成する。蓋ロック手段19はソレノイドとハートカムなどで構成されており、通電する毎に、蓋ロック状態とロック解除状態を切り替えることができ、通電を切ってもその時点の状態を維持することができる。
【0020】
洗濯機1の上部には、給水弁20が設けられている。給水弁20は、水受け槽3への給水を制御する。
【0021】
洗濯機1の下部には、排水弁21が設けられている。排水弁21が開状態となっていると、水受け槽3内の水が排水経路を通じて洗濯機1の外部に排出される。
【0022】
[1-1-2.駆動部の構成]
図2に示すように、駆動部6は、モータ600と、クラッチボス650と、を有する。図3に示すように、モータ600は、固定子610と、回転子620と、を含む。
【0023】
固定子610は、固定子610の中心軸が洗濯兼脱水槽4の回転軸およびパルセータ5の回転軸と同一になるように設けられている。回転子620には永久磁石が設けられており、固定子610に電流が流れることで、回転子620が固定子610の外周を回転駆動される。回転子620は、ギアを介してパルセータ5から下方に延伸して設けられた洗濯シャフト5aと接続されており、回転子620が回転すると、パルセータ5が回転する。なお、本実施の形態の洗濯機1においては、回転子620に設けられた永久磁石の位置固定子610(回転子位置)を検出するための回転子位置検出手段が設けられていない。
【0024】
クラッチボス650には、洗濯兼脱水槽4から下方に延伸して設けられた脱水シャフト6aが接続されており、クラッチボス650が回転すると、洗濯兼脱水槽4が回転する。クラッチボス650は、クラッチボス650から下方に延伸して設けられたクラッチボス突起651を有する。クラッチボス突起651は、回転子620に設けられた回転子孔部621に対して係合可能である。
【0025】
クラッチボス突起651と回転子孔部621とが係合した状態で回転子620が回転す
ると、洗濯兼脱水槽4およびパルセータ5が同一速度で一体回転する。一方で、クラッチボス突起651と回転子孔部621との係合が解除された状態で回転子620が回転すると、洗濯兼脱水槽4を回転駆動させず、パルセータ5のみが回転駆動される。なお、制御部22は、図示しないクラッチレバーを制御することで、クラッチボス突起651と回転子孔部621とを、係合状態と係合解除状態との間で制御できる。
【0026】
[1-1-3.制御装置およびモータの構成]
図4に示すように、制御装置9は、給水弁20、排水弁21、モータ600などの動作を制御し、洗い、すすぎ、脱水などの一連の行程を逐次制御するマイクロコンピュータからなる制御部22等で構成されている。制御部22は、入力設定手段10aにて使用者から入力された情報を基に、入力設定手段10aにて運転開始が設定されると、水位検知手段、蓋開閉検知手段16等からのデータを入力して、スイッチング制御手段23aおよびスイッチング手段23を介して、ギヤードモータ21a、蓋ロック手段19、給水弁20などの動作を制御して、運転を実行する。なお、運転とは、洗い行程、すすぎ行程、脱水行程、乾燥行程、槽洗浄行程の一部または全部を含んでもよい。それぞれの行程において、制御部22は、モータ600を駆動させて、パルセータ5のみ、または、洗濯兼脱水槽4およびパルセータ5を回転させる。
【0027】
制御部22は、電源回路24を介してモータ600に電流を供給する。モータ600は直流ブラシレスモータで、図示しないが、3相巻線を有するステータと、リング上に2極の永久磁石を配設しているロータとで構成し、ステータは3相巻線を構成する第1の巻線6a(U相)、第2の巻線6b(V相)、第3の巻線6c(W相)のスロットを設けた鉄心に巻き付けて構成している。
【0028】
次に、図5に実施の形態1における電源回路24の詳細回路図を示す。
【0029】
スイッチング素子55、56、57、58、59、60は、それぞれIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(Insuated Gate Bipolar Transistor))と、そのコレクタ・エミッタ端子間に逆並列に接続したダイオードによって構成される。そして、駆動回路61が、各スイッチング素子のゲート端子に接続されそのオンオフ制御する。
【0030】
直流電源63は、交流の商用電源を全波整流あるいは倍電圧整流する。低電位側のスイッチング素子58、59、60には、直流電源63のマイナス端子との間に、50ミリオーム程度のシャント抵抗66、67、68を接続する。増幅回路70は、シャント抵抗66、67、68に流れる電流に比例して発生する電圧を増幅する。マイクロコンピュータ(図示しない)のAD端子の範囲内に入るよう、零電流がほぼ2.5Vとなるようにレベルシフトを行い、電流検知回路71の出力として制御部22へ伝達する。
【0031】
なお、本実施の形態1において、電流検知回路71は、シャント抵抗66、67、68を有しているが、別の構成でも構わない。例えば、1本のシャント抵抗を用いて、3相UVWの各線電流をPWM(パルス幅変調(Pulse Width Modulation))のキャリア周期内の複数のタイミングで出力させ、加減演算によって3相に分離する構成でも良い。DCCT(DC Current Transformer)と呼ばれる様な、ホール素子などの磁気的な結合を介して、直流から高周波までの周波数の電流を電圧に変換する部品を、電動機の入力となる3本の線UVWのそれぞれに挿入する構成でも良い。
【0032】
次に、図6に洗濯機1の制御装置9およびモータ600のブロック図を示す。
【0033】
制御装置9は、洗濯兼脱水槽4の回転速度をセンサレスと呼ばれる速度計算で得る。以下、センサレスおよびベクトル制御について説明する。電流制御部105は、以下のように、電源回路24、第一の座標変換器100、誤差減算器102および誤差減算器103、電流誤差増幅器101、第二の座標変換器104を含む。電源回路24の電流検知回路71は、モータ600の各相の巻線97、98、99に電流を供給する。
【0034】
第一の座標変換器100は、電源回路24の出力電流であるIu、Iv、Iwをθ値とともに回転座標γδ成分(推定dおよび推定qの成分)であるIγ、Iδに分解する。誤差減算器102は、γδ座標での電流指令値IγrとIγとの誤差を求める。また、誤差減算器103は、γδ座標での電流指令値IδrとIδとの誤差を求める。電流誤差増幅器101は、これらの誤差をPI(比例+積分)の要素を作用させることによって電圧指令Vγ、Vδを出力する。第二の座標変換器104は、θを用いて、静止座標となるUVWの各相の電圧値に逆変換する。以上のように、電流制御部105はγδ電流の制御を行う。ここで、第一の座標変換器100および第二の座標変換器104は、それぞれ以下の(数式1)、(数式2)を用いた計算を行う。なお、これは一例であり、三角関数を使用した各種の数式が使用可能で、静止座標と回転座標との変換、逆変換が使用できる。
【0035】
【数1】
【0036】
【数2】
【0037】
また、位相誤差検知器107には、位相θを計算に関して、Vγ、Iγ、Iδを入力して、(数式3)のように計算する。ここで、Raは巻線97、98、99の抵抗値、Lqはモータ600のq軸インダクタンスである。
【0038】
【数3】
【0039】
上記から、速度計算器108は、(数式4)、(数式5)のように、角速度の計算値ω、ω1を出力する。
【0040】
【数4】
【0041】
【数5】
【0042】
ω1は、積分器110によって、(数式6)のように、時間積分θとして第一の座標変換器100および第二の座標変換器104に出力され、θが推定位相となる。
【0043】
【数6】
【0044】
一方、ωは、速度指令手段111の出力値であるωrとともに、減算器112に入力される。そして、指令速度に対する速度誤差として、速度誤差増幅器113によってPI(比例+積分)の誤差増幅がなされる。その結果、Iγra、Iδraが出力される。力行時において、電流ベクトル設定器115は、Iγra、IδraをそれぞれIγr、Iδrとして、電流制御部105に入力する。その結果、ベクトル制御と速度制御が成立し、モータ600の駆動が行われる。
【0045】
次に、図7に本実施の形態1における電流ベクトル設定器115の内部構成を中心に詳細に記載したブロック図を示す。
【0046】
電流ベクトル設定器115は、切替器118および切替器119を含む。切替器118および切替器119では、a側(速度制御)、b側(トルク電流制御)が切替え可能になっている。つまり、目標と現在回転数の偏差に応じたトルクを用いた速度制御を行う場合はa側に接続し、直接トルクで制御するトルク電流制御を行う場合はb側に接続される。
【0047】
[1-2.動作]
以上のように構成された洗濯機1について、以下、その動作および作用を説明する。
【0048】
制御部22は、洗濯運転の冒頭において、洗濯兼脱水槽4に投入された洗濯物の布量を取得する。
【0049】
続いて、制御部22は、洗濯運転において、洗い行程、すすぎ行程および脱水行程を実行する。各行程において、制御部22は、パルセータ5のみを回転駆動させる撹拌動作と、洗濯兼脱水槽4およびパルセータ5を一体回転させる槽回転動作と、を実行する。前述のとおり、撹拌動作においては、クラッチボス突起651と回転子孔部621との係合が解除された状態で回転子620が回転し、槽回転動作においては、クラッチボス突起651と回転子孔部621とが係合した状態で回転子620が回転する。
【0050】
撹拌動作の実行後に槽回転動作が実行される場合、撹拌動作の実行後においては、クラッチボス突起651が回転子孔部621に係合されていない状態であるため、槽回転動作に移行する前に、クラッチボス突起651と回転子孔部621とを係合させる必要がある。そこで、図8に示すように、制御部22は、クラッチボス突起651と回転子孔部621とを正しく係合させるために、回転子620の正反転を複数回実行する噛み合わせ工程を実行する。
【0051】
噛み合わせ工程において、制御部22は、停止している回転子620を、目標の定常回転数m(r/min)まで加速させる加速動作と、回転子620を定常回転数mで回転させる定常動作と、定常回転数mで回転している回転子620を減速させる減速動作と、固定子610における電磁石の磁極位置に回転子620における永久磁石の磁極位置を近づ
ける位置決め動作と、を実行する。また、噛み合わせ工程において、回転子620は低回転で回転しているため、位相推定することが困難であり、通常の速度制御を行うことはできない。そのため、切替器118および切替器119は、b側(トルク電流制御)を用いて、位相推定した推定回転数なしでのトルク電流制御を用いている。
【0052】
回転子620の回転を始動させる場合、図9に示すように、固定子610における電磁石の磁極位置と、回転子620における永久磁石の磁極位置とがずれている状態ではなく、図10に示すように、固定子610における電磁石の磁極位置と、回転子620における永久磁石の磁極位置とが、固定子610における電磁石の磁極と回転子620における永久磁石の磁極とが引き合う位置に揃っていることが望ましい。しかしながら、洗濯機1は回転子位置検出手段が設けられていないため、制御部22が回転子620の磁極位置の情報を取得することができない。そこで、制御部22は、加速動作を実行する前に、固定子610における電磁石の磁極と回転子620における永久磁石の磁極とが引き合う位置に揃うまで、一定時間、固定子610に直流電流を流す位置決め動作を実行する。これにより、図10のように、固定子610における電磁石の磁極と回転子620における永久磁石の磁極とが引き合う位置に揃った同期状態で加速することが可能で、トルク電流によりモータ側にトルクを伝えることができる。
【0053】
位置決め動作において、初期の固定子610における電磁石の磁極位置と、回転子620における永久磁石の磁極位置とのずれが大きい場合、回転子620が大きく揺動し、位置決めが完了するまでの時間が長くなるため、洗濯運転に要する時間も長くなってしまう。そこで、本実施の形態における洗濯機1では、噛み合わせ工程における、加速動作に要する加速時間Ta(s)、定常動作に要する定常時間Tb(s)、減速動作に要する減速時間Tc(s)、定常回転数m(r/min)を、(数式7)に基づいて決定している。
【0054】
【数7】
【0055】
なお、(数式7)において、nはモータ600の極対数(本実施の形態では、例えば、8)、kは任意の整数、Φは目標電気角(dec)(本実施の形態では、例えば、270度)とする定数である。なお、図3図9および図10では、簡単のため、モータ600の極対数が2の場合を図示している。
【0056】
加速時間Taおよび定常回転数mは、洗濯兼脱水槽4に投入された洗濯物の布量に応じて決定されることが望ましい。噛み合わせ工程において、クラッチボス突起651と回転子孔部621とが係合していない状態で回転子620が回転すると、洗濯兼脱水槽4内でパルセータ5が回転し、洗濯兼脱水槽4内に収容された洗濯物が回転する。この洗濯物が洗濯兼脱水槽4の内壁に接触し、洗濯物の回転が洗濯兼脱水槽4に伝わることにより、洗濯兼脱水槽4も回転し、クラッチボス650も回転する虞がある。特に布量が大きい場合には、布量が小さい場合に比べて洗濯物の回転により洗濯兼脱水槽4が回転する可能性が高いので、クラッチボス突起651と回転子孔部621とが係合しにくくなる。
【0057】
そのため、布量が大きい場合には、定常回転数mに至るまでの加速度α(定常回転数mと加速時間Taの商)や、定常回転数mの値を大きくすることにより、クラッチボス突起651と回転子孔部621とを係合しやすくする必要がある。一方で、布量が少ない場合には、加速度αや、定常回転数mの値が大きいと、クラッチボス突起651と回転子孔部
621とが係合した際に発生する衝撃音が大きくなる虞や、係合による衝撃でクラッチボス650の耐久性が低くなる虞がある。
【0058】
本実施の形態の噛み合わせ工程においては、定常回転数mとして、20r/minと、40r/minとが設定されている。制御部22は、噛み合わせ工程において、3回の加速動作・定常動作・減速動作を実行する。定常回転数mは、1回目の動作において20r/min、2回目および3回目の動作において40r/minが設定されている。なお、制御部22は、2回目の動作において、1回目の動作と回転子620の回転方向を反転させており、また、3回目の動作において、2回目の動作と回転子620の回転方向を反転させている。
【0059】
本実施の形態においては、布量が少ない場合に備えて、1回目の動作における定常回転数mを20r/minとすることで、衝撃音の発生や耐久性の低下を抑制している。一方で、2回目および3回目の定常回転数mを40r/minとすることで、布量が多い場合でもクラッチボス突起651と回転子孔部621とが係合するようにしている。
【0060】
また、本実施の形態においては、1回目の動作における加速度αを、2回目および3回目の動作における加速度αよりも小さくしている。これにより、1回目の動作における衝撃音の発生や耐久性の低下を抑制し、2回目および3回目の動作において、布量が多い場合でもクラッチボス突起651と回転子孔部621とが係合するようにしている。
【0061】
なお、噛み合わせ工程が、水受け槽3に水が貯められた状態で実行される場合、洗濯兼脱水槽4内において、洗濯物が水に浮いた状態でパルセータ5が回転するので、クラッチボス突起651と回転子孔部621との係合に布量が与える影響が小さい。そのため、噛み合わせ工程が、水受け槽3に水が貯められた状態で実行される場合には、制御部22は、1回目~3回目の動作において、同一の定常回転数mおよび/または加速度αにて回転子620を回転させてもよい。
【0062】
なお、布量が大きい場合については、設定電流を大きくして、電磁石の磁力を強めて、電磁石と永久磁石を同期させるように調整している。ただし、電流が大きくすると、電力がかかるとともに、部品の温度上昇にも繋がるので、問題のない範囲内で設定する必要がある。
【0063】
なお、布量に応じて加速時間Taおよび定常回転数mを変化させる制御としてもよい。また、1回目の動作においてクラッチボス突起651と回転子孔部621とが噛み合った場合、2回目および3回目の動作は実行されなくてもよい。
【0064】
定常時間Tbおよび減速時間Tcは、上述にて決定された加速時間Taおよび定常回転数mに基づいて、(数式7)を用いて決定される。これにより、減速動作実行後の回転子620の停止位置を、次の位置決め動作において目標とする磁極位置に近づけることができる。そのため、次の位置決め動作において、回転子620が大きく揺動し、位置決めが完了するまでに要する時間が長くなることを抑制できる。また、次の逆方向への再加速時に、図10のように、固定子610における電磁石の磁極と回転子620における永久磁石の磁極とが引き合う位置に揃った同期状態で加速することが可能で、トルク電流によりモータ600側にトルクを伝えることができる。
【0065】
なお、定常時間Tbおよび減速時間Tcは、(数式7)おいて等号が成り立たず、左辺と右辺とが近付くように決定されてもよい。
【0066】
[1-3.効果等]
以上のように、本実施の形態において、洗濯機1は、センサレス方式によってモータ600を制御する洗濯機であって、洗濯物を収容する洗濯兼脱水槽4と、洗濯兼脱水槽4を回転させるモータ600と、モータ600の回転を制御する制御部22と、を備える。モータ600は、固定子610と、永久磁石を有し、固定子610の周りを回転する回転子620と、を含む。制御部22は、回転子620を定常回転数mまで加速させる加速動作と、回転子620を定常回転数mで駆動させる定常動作と、回転子620を定常回転数mから停止させる減速動作と、回転子620を回転させ、固定子610と永久磁石との磁極位置を調整する位置決め動作と、を順に実行する。制御部22は、加速動作を実行する加速時間Taおよび定常回転数mに応じて決定された、定常動作を実行する定常時間Tbおよび減速動作を実行する減速時間Tcにおいて、回転子620の回転を制御する。
【0067】
これにより、減速動作実行後の回転子620の停止位置を、次の位置決め動作において目標とする磁極位置に近づけることができる。そのため、次の位置決め動作において、回転子620が大きく揺動し、位置決めが完了するまでに要する時間が長くなることを抑制できる。
【0068】
本実施の形態のように、洗濯機1は、洗濯兼脱水槽4の内方下部に設けられ、洗濯物を撹拌するパルセータ5(撹拌翼)と、モータの回転の伝達先を、洗濯兼脱水槽4およびパルセータ5と、パルセータ5と、に切り換えるクラッチボス650と、をさらに備え、クラッチボス650は、回転子620に設けられた回転子孔部621(孔部)に係合可能なクラッチボス突起651(突起)を有し、制御部22は、クラッチボス突起651と回転子孔部621との係合を解除して、パルセータ5を回転させる撹拌工程と、クラッチボス突起651と回転子孔部621とを係合させ、洗濯兼脱水槽4およびパルセータ5を一体回転させる槽回転工程と、撹拌工程と槽回転工程との間において実行される噛み合わせ工程と、を実行し、制御部22は、噛み合わせ工程において、加速動作、定常動作、減速動作および位置決め動作を順に実行してもよい。
【0069】
これにより、クラッチボス突起651と回転子孔部621とを正しく係合させる噛み合わせ工程に要する時間が長くなることを抑制できる。
【0070】
本実施の形態のように、制御部22は、噛み合わせ工程において、加速動作、定常動作および減速動作を複数回実行し、定常動作において、前回の定常動作よりも大きい定常回転数mにて回転子620を回転させてもよい。
【0071】
これにより、低い定常回転数mにてクラッチボス突起651と回転子孔部621との噛み合わせを試みることで、大きな音の発生や耐久性の低下を抑制できる。
【0072】
本実施の形態のように、制御部22は、噛み合わせ工程において、加速動作、定常動作および減速動作を複数回実行し、加速動作において、前回の加速動作よりも大きい加速度αにて回転子620を回転させてもよい。
【0073】
これにより、低い加速度αにてクラッチボス突起651と回転子孔部621との噛み合わせを試みることで、大きな音の発生や耐久性の低下を抑制できる。
【0074】
(他の実施の形態)
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、実施の形態1を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用できる。そこで、以下、他の実施の形態を例示する。
【0075】
実施の形態1では、洗濯機として、加速動作を実行する加速時間Taおよび定常回転数
mに応じて決定された、定常動作を実行する定常時間Tbおよび減速動作を実行する減速時間Tcにおいて、回転子620の回転を制御する洗濯機1を説明した。洗濯機は、減速動作実行後の回転子の停止位置を、次の位置決め動作において目標とする磁極位置に近づけることができればよいので、洗濯機1に限定されない。洗濯機は、定常回転数に関わらず、加速時間のみから決定された定常時間および/または減速時間で回転子を回転させてもよい。また、洗濯機は、加速時間に関わらず、定常回転数のみから決定された定常時間および/または減速時間で回転子を回転させてもよい。また、実施の形態1では、洗濯機として、加速動作を実行する加速時間Taが布量に応じて決定された洗濯機1を説明したが、加速時間は布量以外の要因から決定されてもよい。
【0076】
(付記)
以上の実施の形態の記載により、下記の技術が開示される。
【0077】
第1の態様における洗濯機は、センサレス方式によってモータを制御する洗濯機であって、洗濯物を収容する洗濯兼脱水槽と、洗濯兼脱水槽を回転させるモータと、モータの回転を制御する制御部と、を備え、モータは、固定子と、永久磁石を有し、固定子の周りを回転する回転子と、を含み、制御部は、回転子を定常回転数まで加速させる加速動作と、回転子を定常回転数で駆動させる定常動作と、回転子を定常回転数から停止させる減速動作と、回転子を回転させ、固定子と永久磁石との磁極位置を調整する位置決め動作と、を順に実行し、制御部は、加速動作を実行する加速時間および/または定常回転数に応じて決定された、定常動作を実行する定常時間および/または減速動作を実行する減速時間において、回転子の回転を制御する。
【0078】
第2の態様における洗濯機は、第1の態様における洗濯機において、洗濯兼脱水槽の内方下部に設けられ、洗濯物を撹拌する撹拌翼と、モータの回転の伝達先を、洗濯兼脱水槽および撹拌翼と、撹拌翼と、に切り換えるクラッチボスと、をさらに備え、クラッチボスは、回転子に設けられた孔部に係合可能な突起を有し、制御部は、突起と孔部との係合を解除して、撹拌翼を回転させる撹拌工程と、突起と孔部とを係合させ、洗濯兼脱水槽および撹拌翼を一体回転させる槽回転工程と、撹拌工程と槽回転工程との間において実行される噛み合わせ工程と、を実行し、制御部は、噛み合わせ工程において、加速動作、定常動作、減速動作および位置決め動作を順に実行する。
【0079】
第3の態様における洗濯機として、第1または第2のいずれかの態様における洗濯機において、制御部は、噛み合わせ工程において、加速動作、定常動作および減速動作を複数回実行し、定常動作において、前回の定常動作よりも大きい定常回転数にて回転子を回転させる。
【0080】
第4の態様における洗濯機として、第1~第3のいずれかの態様における洗濯機において、制御部は、噛み合わせ工程において、加速動作、定常動作および減速動作を複数回実行し、加速動作において、前回の加速動作よりも大きい加速度にて回転子を回転させる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本開示は、洗濯機に適用可能である。
【符号の説明】
【0082】
1 洗濯機
2 洗濯機外枠
3 水受け槽
4 洗濯兼脱水槽
5 パルセータ(撹拌翼)
6 駆動部
10 操作表示部
10a 入力設定手段
10b 表示手段
11 蓋体
14 磁石
15 感磁素子
16 蓋開閉検知手段
17 ロック部
18 ロックピン
19 蓋ロック手段
20 給水弁
21 排水弁
22 制御部
600 モータ
610 固定子
620 回転子
621 回転子孔部
650 クラッチボス
651 クラッチボス突起
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10