(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158727
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】インペラ、送風機、及び掃除機
(51)【国際特許分類】
F04D 29/30 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
F04D29/30 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074202
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】390019839
【氏名又は名称】三星電子株式会社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】129,Samsung-ro,Yeongtong-gu,Suwon-si,Gyeonggi-do,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 昌亨
(72)【発明者】
【氏名】吉田 実
【テーマコード(参考)】
3H130
【Fターム(参考)】
3H130AA13
3H130AB06
3H130AB26
3H130AB42
3H130AB47
3H130AC21
3H130BA63C
3H130BA66C
3H130BA97A
3H130BA97C
3H130CB01
3H130DD05X
3H130EA07C
3H130EA08C
(57)【要約】
【課題】高速回転に対応して吸引力を向上できる小型のインペラを提供する。
【解決手段】モータ13の駆動によって一定方向に回転するインペラ20である。ボス部21と、複数のブレード23を有するベース部22とを備える。ブレード23は、ボス部21の側から径方向外側に向かって次第に回転方向の後側にシフトするように延びた状態で傾斜面22aの上に放射状に配置されている。回転時に風路50の中の空気がブレード23の各々の間を径方向外側ないし回転軸Aに対して傾斜した方向に通り抜けることにより、風路50の上流側に吸引力が発生するように構成されている。回転方向の前側に向いているブレード23の圧力面25が、回転方向に向かって凹む湾曲形状をしている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
風路に配置されていてモータの駆動によって一定方向に回転するインペラであって、
突端側を前記風路の上流側に向けるとともに、前記モータのシャフトに回転軸を一致させた状態で固定されるボス部と、
前記ボス部の突端側から基端側に向かって次第に外径が大きくなるように当該ボス部の周囲に傾斜して拡がる傾斜面を有するととともに、前記ボス部の側から径方向外側に向かって次第に回転方向の後側にシフトするように延びた状態で当該傾斜面の上に放射状に配置された複数のブレードを有するベース部と、
を備え、
回転時に前記風路の中の空気が前記ブレードの各々の間を径方向外側ないし前記回転軸に対して傾斜した方向に通り抜けることにより、前記風路の上流側に吸引力が発生するように構成されており、
前記ブレードの回転方向の前側に向いている側面である圧力面が、回転方向に向かって凹む湾曲形状をしていることを特徴とするインペラ。
【請求項2】
請求項1に記載のインペラにおいて、
前記ブレードの翼長を百分率で表して前記ボス部の側の端を0%とし前記径方向外側の端を100%とした場合に、前記圧力面の横断面形状の最小曲率半径が、前記翼長の60%~95%の間で最小になっているインペラ。
【請求項3】
送風機であって、
前記風路の外側を覆っているカバーと、
請求項1又は請求項2に記載されている前記インペラと、
を備え、
前記カバーが、
上流側から下流側に向かって次第に内径が大きくなるように形成されていて前記ブレードの各々と微小隙間を介して内面が対向した状態で前記インペラを収容している動翼部と、
前記動翼部の上流側に連なる吸込部と、
前記動翼部の下流側に連なる静翼部と、
を有し、
前記吸込部の中央部分に前記モータが配置されている送風機。
【請求項4】
請求項3に記載の送風機において、
前記吸込部の下流側部分が、上流側から下流側に向かって次第に内径が小さくなるように形成されていて、当該吸込部の中の空気が、前記吸込部の内面に沿って径方向外側から径方向内側に向かって流れるように構成されている送風機。
【請求項5】
掃除機であって、
請求項1又は請求項2に記載されている前記インペラ、又は、請求項3又は請求項4に記載されている前記送風機を備える掃除機。
【請求項6】
請求項5に記載の掃除機において、
バッテリを更に備え、
前記バッテリからの給電によって前記モータが駆動する掃除機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示する技術は、インペラ等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、小型軽量なスティック型の掃除機が多く上市されている。この種の掃除機は、コードレスであるため、扱い易く、人気がある。
【0003】
スティック型の掃除機には、直径が3~5cm程度の小型のインペラが搭載されている。そのような小型のインペラで高い吸引力を発生させるために、インペラを回転駆動するモータもまた、小型軽量で、ある程度のトルクを確保しながら50000r/min以上で高速回転できるものが採用されている。
【0004】
スティック型においても、従来のキャニスター型の掃除機と同等以上の高い吸引力が求められることから、モータの高速回転化が進み、最近では、100000r/minを超える超高速回転のモータも実現されてきている。それに伴い、インペラも高性能化が求められる。
【0005】
開示する技術に関して、羽根(ブレードに相当)の回転方向の前側に向いている側面である圧力面の横断面形状を開示した特許文献1がある。そこでは、ターボ機械の性能を向上させるために、圧力面の横断面形状を、回転方向に向かって膨らむ湾曲形状にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、モータの超高速回転化に伴い、インペラも、そのような超高速回転に対応して、高性能化する必要がある。
【0008】
開示する技術の主たる目的は、スティック型の掃除機などに好適で、吸引力を向上できる小型のインペラを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
開示する技術の1つは、風路に配置されていてモータの駆動によって一定方向に回転するインペラに関する。
【0010】
前記インペラは、突端側を前記風路の上流側に向けるとともに、前記モータのシャフトに回転軸を一致させた状態で固定されるボス部と、前記ボス部の突端側から基端側に向かって次第に外径が大きくなるように当該ボス部の周囲に傾斜して拡がる傾斜面を有するととともに、前記ボス部の側から径方向外側に向かって次第に回転方向の後側にシフトするように延びた状態で当該傾斜面の上に放射状に配置された複数のブレードを有するベース部と、を備える。
【0011】
そして、回転時に前記風路の中の空気が前記ブレードの各々の間を径方向外側ないし前記回転軸に対して傾斜した方向に通り抜けることにより、前記風路の上流側に吸引力が発生するように構成されており、前記ブレードの回転方向の前側に向いている側面である圧力面が、回転方向に向かって凹む湾曲形状をしていることを特徴とする。
【0012】
すなわち、このインペラは、風路に配置されていてモータの駆動によって一定方向に回転する。そうすることによってその上流側に吸引力を発生させる。そして、そのブレードの回転方向の前側に向いている圧力面が、回転方向に向かって凹む湾曲形状をしている。
【0013】
ブレードの圧力面は平板状が一般的であるが、本発明者らが流体解析を行った結果、ブレードの圧力面をそのような湾曲形状にすることにより、高速回転時及び超高速回転時に、ブレードの間を通り抜ける空気のスパン方向の流速差が減少し、漏れ渦の発生を抑制できることが判明した。その結果、摩擦損失および混合損失を低減することが可能になり、エネルギー効率を向上できる(エネルギー効率は吸込仕事率を給電電力で除したもの)。
【0014】
前記ブレードの翼長を百分率で表して前記ボス部の側の端を0%とし前記径方向外側の端を100%とした場合に、前記圧力面の横断面形状の最小曲率半径が、前記翼長の60%~95%の間で最小になっている、としてもよい。
【0015】
そうすれば、圧力面の湾曲形状を最適化できる。その結果、漏れ渦をより抑制でき、摩擦損失および混合損失を更に低減することが可能になるので、エネルギー効率をよりいっそう向上できる。
【0016】
開示する技術のもう一つは、送風機に関する。
【0017】
前記送風機は、前記風路の外側を覆っているカバーと、前記インペラとを備える。前記カバーが、上流側から下流側に向かって次第に内径が大きくなるように形成されていて前記ブレードの各々と微小隙間を介して内面が対向した状態で前記インペラを収容している動翼部と、前記動翼部の上流側に連なる吸込部と、前記動翼部の下流側に連なる静翼部と、を有している。そして、前記吸込部の中央部分に前記モータが配置されている。
【0018】
モータは、高速化に伴って発熱量が増加するので、これらの冷却が重要になる。それに対し、この送風機によれば、モータが動翼部の上流側に配置されているので、外気と同様の、比較的温度の低い空気と熱交換できる。従って、モータの冷却性に優れる。
【0019】
前記吸込部の下流側部分が、上流側から下流側に向かって次第に内径が小さくなるように形成されていて、当該吸込部の中の空気が、前記吸込部の内面に沿って径方向外側から径方向内側に向かって流れるように構成されている、としてもよい。
【0020】
そうすれば、空気はモータに効率よく接触して流れるので、熱交換し易い。従って、より冷却性に優れる。
【0021】
開示する技術はまた、前記インペラ又は前記送風機を備える掃除機、としてもよい。
【0022】
上述したインペラや送風機は、小型で高出力を得ることができるので、コンパクトな掃除機に好適である。
【0023】
バッテリを更に備え、前記バッテリからの給電によって前記モータが駆動する、としてもよい。そうすれば、スティック型、ロボット型、アップライト型などの掃除機に適用できる。
【発明の効果】
【0024】
開示する技術によれば、従来のインペラや送風機よりも吸引力を向上できる。スティック型の掃除機などにそのインペラ等を用いることで、高性能な掃除機を実現できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】開示する技術を適用した掃除機を説明するための概略図である。
【
図2】開示する技術を適用した送風機を説明するための概略断面図である。
【
図3】開示する技術を適用したインペラの上面図及び側面図である。
【
図4】開示する技術を適用したインペラの斜視図である。
【
図6】圧力面の湾曲形状による効果の解析結果を説明するための図である。
【
図7】圧力面の湾曲形状による効果の解析結果を説明するための図である。
【
図8A】圧力面の横断面形状の最小曲率半径を説明するための図である。
【
図8B】ブレードの翼長における位置と最小曲率半径との関係を表したグラフである。
【
図9】比較例のインペラの上面図及び側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、開示する技術の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限するものではない。
【0027】
<掃除機>
図1に、開示する技術の好適な適用例として、スティック型の掃除機1(以下単に掃除機1ともいう)を示す。この掃除機1はコードレスタイプである。
【0028】
この掃除機1に、開示する技術を適用したインペラ20が搭載されている。掃除機1は、管部2、本体部3、ダストケース4、把手部5などで構成されている。把手部5は、ユーザが把持する部分である。掃除機1は、ユーザが把手部5を片手で持った状態で扱えるように構成されている。
【0029】
管部2は、細長い筒状の部材からなり、その先端部分に、ダストを吸い込む掃除機1のヘッド2aが取り付けられている。本体部3および把手部5は、管部2の基端部分と一体に設けられている。本体部3に送風機10が収容されている。把手部5にバッテリ6が収容されている。
【0030】
バッテリ6は、充電可能な二次電池であり、送風機10に給電する。それにより、送風機10に設置されている後述するモータ13が駆動し、インペラ20が回転する。
【0031】
本体部3の下側にダストケース4が設置されている。ダストケース4は、本体部3から脱着可能に構成されている。送風機10が駆動すると、ヘッド2aに強力な吸引力が発生する。それにより、ヘッド2aから吸い込まれるダストが、管部2を通ってダストケース4に集積される。
【0032】
(本体部の内部)
図1に、本体部3の内部構造を拡大して示す。
【0033】
本体部3の内部には、排気室30、濾過室31などが設けられている。排気室30は、一端が封止された円筒状のスペースからなり、その外周面には、複数の内側排気孔30aが形成されている。濾過室31は、排気室30の周囲を囲むように設けられている。濾過室31には、ダストを捕捉する円筒状のフィルタ32がその全周にわたって装着されている。
【0034】
濾過室31の外周側を区画している本体部3のケースには、複数の外側排気孔33が形成されている。送風機10は、その一部が排気室30に一部が入り込んだ状態で、本体部3の内部に収容されている。
【0035】
(送風機)
図2に、送風機10の内部の構造を拡大して示す。送風機10は、シュラウド11(カバー)、モータ13、インペラ20、ディフューザ15などで構成されている。ディフューザ15については、
図2において、その断面形状と外形状の双方を左右に図示している。
【0036】
(シュラウド)
シュラウド11は、その中間部分が窄まった円筒状の部材からなり、内径が大きい上流側大径部11aと、内径が最も小さい縮径部11cと、内径が大きい下流側大径部11bとを有している。上流側大径部11aと下流側大径部11bとの間に縮径部11cが存在し、上流側大径部11aの下流側部分及び下流側大径部11bの上流側部分の各々には、中継領域11dが設けられている。各中継領域11dは、上流側大径部11a及び下流側大径部11bの各々から縮径部11cに向かって次第に内径が小さくなるように形成されている。
【0037】
図1に示すように、下流側大径部11bは、排気室30の内部に配置されている。上流側大径部11aは、空気中のダストを除去可能なフィルタケース4aでその周囲を覆った状態で、ダストケース4の内部に臨むように配置されている。
【0038】
シュラウド11の内部には、空気が流れる流路(風路50)が形成されている。シュラウド11は、その風路50の外側を覆っている。インペラ20の回転時には、風路50の中の空気は、
図2に矢印Y1で示すように流れる。説明では、この空気の流れに対して「上流側」や「下流側」などともいう。
【0039】
シュラウド11はまた、その風路50の機能的な観点から見て、動翼部11P、その上流側に連なる吸込部11V、その下流側に連なる静翼部11Eなどを有している。動翼部11Pは、縮径部11cから下流側大径部11bの中継領域11dに至る部分によって構成されており、そこにはインペラ20が収容されている。
【0040】
吸込部11Vは、上流側大径部11aによって構成されており、そこにはモータ13が収容されている。静翼部11Eは、下流側大径部11bによって構成されており、そこにはディフューザ15が収容されている。
【0041】
上流側大径部11aにモータケース12が嵌入されている。モータケース12の中央に、シャフト13aがベアリング12aを介して回転自在に軸支されている。シャフト13aの中間部分にはロータ13bが固定されている。ロータ13bとギャップを隔ててその周囲にステータ13cが位置するように、モータケース12にステータ13cが組み付けられている。
【0042】
それにより、吸込部11Vの中央部分に、シャフト13a、ロータ13b、及びステータ13cを含むモータ13が構成されている。モータ13はモータケース12と一体化されている。モータ13の回転軸Aは、モータケース12及びシュラウド11の中心と一致している。
【0043】
モータケース12は、シャフト13aが突出している側の端部を下流側に向けた状態で、シュラウド11に嵌入されている。それにより、このモータ13とシュラウド11の吸込部11Vの内面との間には、上述した風路50が形成されている。
【0044】
モータケース12の上流側には、電子部品やプリント基板などからなる送風機10の制御部14が設置されている。詳細には、制御部14は、モータ13と回転軸Aの方向に重なってその板面を風路50に正対させた状態で、モータ13の上流側に配置されている。制御部14は、掃除機1の操作に応じてモータ13の駆動を制御する。
【0045】
モータ13は、非常に小さい。例えば、本実施形態の場合、ステータ13cの外径は略40mm、全高は略70mm程度の大きさ(いわゆる手のひらサイズ)である。従って、その重量も極めて軽量である。
【0046】
しかし、モータ13は、バッテリ6の電力を用いて、掃除機1として十分な性能が得られるように、高効率で高出力が得られるように構成されている。例えば、このモータ13の場合、600Wの消費電力で、50000r/min以上の高速回転、さらには100000r/min以上の超高速回転、またさらには130000r/min以上の超高速回転で駆動でき、250W以上の吸込仕事率が得られるように構成するのが好ましい。
【0047】
(ディフューザ、インペラ)
上述したように、ディフューザ15は、静翼部11Eに収容されている。図例のディフューザ15は、上段ディフューザ15Uおよび下段ディフューザ15Dの2つで構成されている。送風機10の仕様によっては、ディフューザ15は1つであってもよいし、3つであってもよい。
【0048】
上段ディフューザ15Uおよび下段ディフューザ15Dの各々は、円筒状の部材からなり、その外周面には、軸方向に対して傾斜して延びる複数のベーン15aが形成されている。上段ディフューザ15Uよりも下段ディフューザ15Dの方が、ベーン15aの傾斜角が小さい。上段ディフューザ15Uおよび下段ディフューザ15Dの各々は、下流側大径部11bの内周面に固定されている。
【0049】
上述したように、インペラ20は、風路50を構成しているシュラウド11の動翼部11Pに配置されている。インペラ20は、モータ13のシャフト13aに回転軸Aを一致させた状態で固定されるボス部21と、ボス部21から周囲に拡がる環状のベース部22とを備えている。ベース部22は複数のブレード23を有している(インペラ20の詳細は別途後述)。
【0050】
(掃除機、送風機の動作)
掃除機1の運転中、インペラ20は、モータ13によって回転駆動されることにより、一定方向(本実施形態の場合、上流側から見て反時計回り、
図3参照)に高速で回転する。それにより、
図2に矢印Y1で示すように、空気がダストケース4からモータケース12を経てシュラウド11に流入し、動翼部11Pの上流側、つまり吸込部11Vなどに吸引力が発生する。
【0051】
シュラウド11に向かって流れる空気は、制御部14やモータ13を空冷しながら動翼部11Pに吸い込まれる。制御部14やモータ13は、高速化や高吸引力化に伴って発熱量が増加するので、これらの冷却が重要になる。それに対し、この送風機10では、モータ13が動翼部11Pの上流側に配置されているので、外気と同様の、比較的温度の低い空気と熱交換できる。従って、これらの冷却性に優れる。
【0052】
そして、吸込部11Vの中の空気は、外周側から湾曲して中心側に集中した後、動翼部11Pに流れるように構成されている。具体的には、上流側大径部11aの内面及びモータ13の側部に沿って軸方向に流れた後、上流側大径部11aの中継領域11dの内面及びモータ13の端部に沿って外周側(径方向外側)から中心側(径方向内側)に向かって流れ、動翼部11Pに向かうように構成されている。
【0053】
それにより、空気は制御部14やモータ13に効率よく接触して流れるので、これらと熱交換し易い。従って、より冷却性に優れる。
【0054】
動翼部11Pに流入した空気は、動翼部11Pの内面とインペラ20のベース部22との間の空間(詳細には各ブレード23の間)を通り抜け、静翼部11Eに流入する。静翼部11Eに流入した空気は、その内面とディフューザ15の外周面との間の空間(詳細には各ベーン15aの間)を通って、排気室30に流入する。
【0055】
ディフューザ15を通過することにより、排気室30には軸方向に整流された状態で、空気が流入する。排気室30に流入した空気は、内側排気孔30aを通じて濾過室31に流出し、外側排気孔33を通じて本体部3の外に排気される。
【0056】
<インペラ>
図3、
図4に、インペラ20を示す。インペラ20は樹脂成形品である。ボス部21、ベース部22、及びブレード23は、一体に形成されている。便宜上、説明では、
図3に示すように、ボス部21の突端側(風路50の上流側)を上側とする。
【0057】
インペラ20も、モータ13と同様に非常小さい。外径は略40mm程度の大きさ(いわゆる手のひらサイズ)である(例えば外径が10mm以上50mm以下)。このインペラ20は、
図3、
図4に矢印Yrで示すように、上方から見た場合、モータ13の駆動により、反時計回りに回転する(インペラ20の形状及び回転方向は逆であってもよい)。
【0058】
インペラ20は、その突端側を風路50の上流側に向けた状態でシャフト13aに固定されるボス部21と、このボス部21の突端側から基端側に向かって次第に外径が大きくなる環状のベース部22とを備える。それにより、ベース部22の上面には、ボス部21の突端側から下り傾斜して拡がる傾斜面22aが形成されている。傾斜面22aは、外周側に向かうに従って、緩やかに上向きに凹む方向に湾曲している。その傾斜度は、約30°であり、約°20~40°の範囲で傾斜している。
【0059】
各ブレード23は、薄板状の部分からなり、その傾斜面22aの上に突出している。そして、各ブレード23は、ボス部21の側から径方向外側に向かって次第に回転方向の後側にシフトするように延びている。すなわち、このインペラ20は、各ブレード23の外周側が中心側よりも回転方向に対して後側に位置するように傾斜しており、回転時にブレード23の間を空気が回転軸Aに対して傾斜した方向に通り抜けるように構成されている。
【0060】
インペラ20は、9枚のブレード23を有し、これらブレード23が周方向に等間隔で放射状に配置されている。各ブレード23は、一方の端縁が長く他方の端縁が短い帯板状の外観を有している。長い方の端縁(風切り縁部23a)がベース部22の中心側に位置し、短い方の端縁(風送り縁部23b)がベース部22の外周側に位置している。
【0061】
各ブレード23は、風切り縁部23aから風送り縁部23bに向かって捻れた形状をしている。風切り縁部23aの突端23atの側は、回転の進行方向に捻られて傾斜しており、風送り縁部23bの突端側は、回転逆方向に捻られて傾斜している。風切り縁部23aは、
図3に示すように、軸方向から見た場合、径方向に延びるように形成されている。それにより、各ブレード23の突出した側縁24(ベース部22から離れて位置する側縁)は、動翼部11Pの内面と微小隙間を介して対向するように構成されている。
【0062】
そして、このインペラ20の場合、各ブレード23は、風切り縁部23aの突端23atの側が風切り縁部23aの基端23akの側よりも回転方向の後側に位置するように構成されている(ここでは便宜上、この形状を後退翼形状と呼ぶ)。後退翼形状にすることで、ブレード23の空気抵抗が低減し、高回転に対して有利になる。
【0063】
図3に示すように、その後退翼形状の後退角θ(回転軸Aから半径方向に延びる基準線L1に対して風切り縁部23aが後退している角度)は、30°以上50°以下に設定するのが好ましい。
【0064】
更にこのインペラ20の場合、風切り縁部23aの突端23atの側が風切り縁部23aの基端23akの側よりも上方(風路50の上流側)に位置するように形成されている。具体的には、
図3に示すように、各ブレード23の風切り縁部23aは、その基端23akの側から突端23atの側に上り傾斜している。各ブレード23の風切り縁部23aをこのような形状にすることで、各ブレード23の空気流入側に位置する端部の翼負荷を低減できるとともに、漏れ流れが低減できる。
【0065】
図3に示すように、その風切り縁部23aの傾斜角φ(回転軸Aに直交する基準線L2に対して風切り縁部23aが傾斜している角度)は10°以上30°以下に設定するのが好ましい。
【0066】
(超高速化への対応)
このインペラ20では、超高速化に対応するために、ブレード23の形状が工夫されている。すなわち、
図4に破線で概略的に示すように、ブレード23の回転方向の前側に向いている側面(圧力面25)が、回転方向に向かって凹む湾曲形状に形成されている。
【0067】
図5に、ブレード23の異なる部位d1~d6での横断面を示す。
図5の各断面は、第1ブレード23-1と、これに隣接する第2及び第3の各ブレード23-2,23-3を、白抜き矢印で示す回転軸方向から見た断面(軸方向断面)を示している。
【0068】
d1は、第1ブレード23-1の風切り縁部23aの基端23akを通る断面である。d3は、第1ブレード23-1の風切り縁部23aの突端23atを通る断面である。d6は、第2ブレード23-2の風送り縁部23bの基端を通る断面である。d6での第1ブレード23-1の断面の位置は、概ね、d3での第2ブレード23-2の断面の位置に相当する。
【0069】
d1~d6における第1ブレード23-1の断面は、概ね、ブレード23の翼長の中間から中心側の断面を示し、d3~d6における第2ブレード23-2の断面は、概ね、ブレード23の翼長の中間から外周側の断面を示している。断面方向が異なるので断面形状は異なるが、圧力面25の曲がり具合は多少異なる程度の差であるので、これらからブレード23の翼長全域の圧力面25の軸方向断面の湾曲形状を理解できる。
【0070】
これら軸方向断面はまた、
図4に破線で示したようなスパン方向(ブレード23の幅方向)の断面(スパン方向断面)とも異なる。しかし、各部位における圧力面25のスパン方向断面も曲がり具合が多少異なる程度の差であり、これらからブレード23の翼長全域の圧力面25のスパン方向断面の湾曲形状も理解できる。
【0071】
ただし、スパン方向断面の場合、ブレード23の中心側に位置する風切り縁部23aは、d1に示すように、略直線状に延びている。従って、スパン方向断面の場合、この風切り縁部23aを含むその近傍部分(吸込側端部26)だけは湾曲していない。それにより、スパン方向断面の場合、圧力面25の湾曲した横断面は、吸込側端部26を除く範囲に形成されている。
【0072】
(圧力面の湾曲形状による効果)
通常、ブレード23は平板状であり、その圧力面25の断面は直線状であるのが一般的である。それに対し、本発明者らが超高速化に対応するために、ブレード23の形状について流体解析を行ったところ、改良の余地があることが判明した。
【0073】
図9に、上述したインペラ20(実施品20)の比較例としたインペラ(比較品20C)を示す。比較品20Cは、インペラ20の改良前のタイプである。比較品20Cは、ボス部21の形状等、細部において若干異なるが、ベース部22、ブレード23などの基本的構成は、実施品20とほぼ同じである(便宜上、同じ構成には同じ符号を用いている)。ただし、比較品20Cのブレード23の各々の圧力面25は、平板状であり、その断面は直線状である。
【0074】
比較品20Cと実施品20とで流体解析を行った結果、各ブレード23の圧力面25を、平板状から上述した湾曲形状にすることにより、超高速回転時に、動翼部11Pでの空気の流速差が減少して、摩擦損失および混合損失を低減でき、エネルギー効率を向上できることが確認された。
【0075】
図6に、その解析結果を示す。破線は比較品20Cであり、実線が実施品20である。縦軸はインペラ20の出口側、つまり動翼部11Pの最下流部分における空気の流速(子午線速度)を示している。横軸は、
図6の下図に示すように、ブレード23の付け根(基端)からその突端までの部位を示している。なお、インペラの回転数は、130000rpmである。
【0076】
図6に示すように、比較品20Cでは、付け根側の流速は相対的に高く、突端側の流速は相対的に低くなっており、ブレード23のスパン方向における流速差が大きい。比較品20Cの場合、ブレード23の突端とシュラウド11の内面との間の微小隙間を流れる空気に漏れ渦が発生することが確認されている。この漏れ渦の発生によって突端側の流速が低くなり、摩擦損失および混合損失が生じている。
【0077】
それに対し、実施品20では、比較品20Cに比べて、付け根側の流速が低く、突端側の流速が高くなっており、ブレード23のスパン方向における流速差が低減されることが判明した。すなわち、付け根側の局所的な高速域及び突端側の低速域の双方を低減でき、スパン方向の流速が均一化されている。それにより、動翼部11Pから吐出される空気の流速が安定する。その結果、摩擦損失および混合損失を低減でき、エネルギー効率を向上できる。
【0078】
更に、実施品20では、後流れ現象も抑制できる。
図7に、比較品20C(比較例)と実施品20(実施例)とで後流れ現象を比較した解析結果を示す。
【0079】
図7は、比較品20C及び実施品20の各々における動翼部11Pから静翼部11Eに至る空気の流れを立体的に表している。インペラ20及びディフューザ15に沿った流れであり、濃淡の淡い部分が、空気の流れている部分に相当する。破線矢印で示すように、動翼部11Pの空気は、ブレード23の間を中心側から外周側に向かいながら回転方向の後側に傾斜して流れている。
【0080】
比較例では、動翼部11Pの出口部分において、インペラ20の下流側に連なる空気の流れ(後流れ、Wake)が認められる。この後流れは空気抵抗となるため、エネルギー効率を向上するためには、この後流れの抑制は重要である。
【0081】
それに対し、実施例では、比較例のような後流れはほとんど認められず、比較例に比べて後流れを抑制できている。その結果、実施例は、比較例に比べて、吸引力が増加し、エネルギー効率も向上できることが確認された。
【0082】
(圧力面の湾曲形状の最適化)
このインペラ20では、更に、圧力面25を上述した湾曲形状にするだけでなく、漏れ渦をよりいっそう抑制できるように、その湾曲形状が最適化されている。
【0083】
具体的には、ブレード23の翼長(ブレード23の長さ)を百分率で表し、インペラ20の中心に有るボス部21の側(吸込側)に位置するブレード23の端を0%とし、インペラ20の径方向外側(吹出側)に位置するブレード23の端を100%とした場合を想定する。例えば、
図5において、第1ブレード23-1のd1における位置が0%に相当し、第2ブレード23-2のd6における位置が100%に相当する。そうした場合、圧力面25の横断面形状の最小曲率半径が、翼長の60%~95%の間で最小となるように設計されている。より好ましくは、翼長の70%~90%の間で最小となるように設計してもよい。
【0084】
圧力面25の横断面形状の最小曲率半径は、その圧力面25の横断面形状において最も曲率半径が小さい値である。圧力面25は、そのスパン方向に曲がり具合が異なるため、例えば、
図8Aに示すように、圧力面25の所定位置P1における湾曲面の曲率半径r1と、圧力面25の所定位置P2における湾曲面の曲率半径r2を比べた場合、曲がり具合が大きいP1の曲率半径r1の方が曲率半径は小さい。
【0085】
従って、圧力面25の横断面形状の全域において最も曲がり具合の大きい部位での曲率半径が最小曲率半径に相当する。このような最小曲率半径をブレード23の翼長の全域にわたって比較した場合、その所定の範囲でその最小曲率半径が最小となる、つまり極小値が得られるように設計されている。
【0086】
図8Bに、ブレード23の翼長における位置と最小曲率半径との関係を表したグラフを示す。ブレード23の吹出側の端部(翼長の95%~100%)を除く、ブレード23の吹出側寄りの部分(翼長の60%~95%)において最小曲率半径が最も小さくなるように設計されている。要するに、圧力面25の吹出側寄りの部分で曲がり具合が最も大きくなっている。
【0087】
圧力面25の曲がり具合をこのように設計することで、流体解析により、
図6に示したブレード23の突端側の流速がよりいっそう低減され、漏れ渦が抑制されることが確認された。従って、圧力面25の湾曲形状をこのように最適化することで、よりいっそう摩擦損失および混合損失を低減でき、エネルギー効率を向上できる。
【0088】
なお、開示する技術は、上述した実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。例えば、掃除機1や送風機10の構成は一例である。仕様に応じて適宜変更できる。ロボット型やアップライト型の掃除機に適用してもよい。ベース部22の傾斜面22aの形態は一例である。例えば、上向きに膨らむように湾曲していてもよいし、湾曲せずに一定の角度で傾斜していてもよい。
【符号の説明】
【0089】
1 掃除機
2 管部
2a ヘッド
3 本体部
4 ダストケース
5 把手部
6 バッテリ
10 送風機
11 シュラウド
11a 上流側大径部
11b 下流側大径部
11c 縮径部
11d 中継領域
11P 動翼部
11V 吸込部
11E 静翼部
12 モータケース
13 モータ
14 制御部
15 ディフューザ
20 インペラ
21 ボス部
22 ベース部
22a傾斜面
23 ブレード
23a 風切り縁部
23b 風送り縁部
24 側縁
25 圧力面
50 風路
A 回転軸