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特開2024-15874コンクリート構造物の内部不良箇所の探査法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024015874
(43)【公開日】2024-02-06
(54)【発明の名称】コンクリート構造物の内部不良箇所の探査法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/07 20060101AFI20240130BHJP
【FI】
G01N29/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022118236
(22)【出願日】2022-07-25
(71)【出願人】
【識別番号】511238929
【氏名又は名称】金川 典代
(74)【代理人】
【識別番号】100101432
【弁理士】
【氏名又は名称】花村 太
(72)【発明者】
【氏名】原 徹
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA10
2G047BA03
2G047BC02
2G047BC03
2G047BC07
2G047CA01
2G047GG29
(57)【要約】
【課題】コンクリート構造物のジャンカと呼ばれる内部不良箇所の探査法の提供。
【解決手段】音波発信器を被検体表面に当接固定させて可聴域から超音波域に亘る周波数を含む広帯域音波を発信し、反射波受信器で被検体内部から前記音波発信器の反射波を受信し、解析手段によって、前記反射波の時系列波の時間によって反射波が発生した被検体内部地点の距離と、前記反射波の時系列波の波形によって被検体内部地点の構造とを検証する探査法であり、前記反射波が類似の波形であった一つの領域とその途中に前記一つの領域の波形と相違する波形の領域の有無を確認する相違波形確認工程と、前記一つの領域の途中に前記相違する波形の領域が確認された後に、当該相違する波形までの距離を推定する距離推定工程とを備えた。
【選択図】 図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
音波を発信する音波発信器を被検体表面に当接固定させ、
反射波受信器を前記音波発信器の近傍の被検体表面に当接固定させて、前記被検体内部から前記音波発信器の反射波を受信し、
前記反射波受信器で受信された被検体内部の構造物からの反射波から、解析手段によって前記被検体の表面から入射方向の内部構造の状態を解析する探査法であって、
前記音波が、可聴域から超音波域に亘る周波数を含む広帯域音波であり、
前記解析手段が、
前記反射波の時系列波の時間によって反射波が発生した被検体内部地点の距離と、前記反射波の時系列波の波形によって被検体内部地点の構造とを検証するものであり、
前記反射波が類似の波形であった一つの領域と、前記一つの領域の波形と相違する反射波の波形と類似であった別の領域との境界面の距離を推定するものであり、
前記解析手段の解析工程として、
前記反射波が類似の波形であった一つの領域の途中に前記類似の波形に対して相違する波形の領域の有無を確認する相違波形確認工程と、
前記一つの領域の途中に前記類似の波形に対して相違する波形の領域が確認された後に、当該相違する波形までの距離を推定する距離推定工程とを備えたことを特徴とするコンクリート構造物の内部不良箇所の探査法。
【請求項2】
前記相違波形確認工程での相違する波形が、発信音波に対する位相反転した反射波と、発信音波に対する同位相の反射波との合成された反射波であることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート構造物の内部不良箇所の探査法。
【請求項3】
前記相違波形確認工程での相違する波形として、プラス領域とマイナス領域とで差がある波形であることを特徴とする請求項1又は2に記載のコンクリート構造物の内部不良箇所の探査法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の内部不良箇所を探査する探査法に関し、コンクリート構造物内部の空洞等の不良箇所のうち、特にジャンカと呼ばれる不良箇所を探査する探査法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近代における建築物としては、圧倒的にコンクリート構造物が多い。コンクリートは「セメント・砂・砂利・水を調合し、こねまぜて固まらせた一種の人造石」であり、圧縮に対して抵抗力が強く、耐火・耐水性が大きい。このため、現代社会では、鋼材と併用し、土木建築用構造材料として使用されている。
【0003】
コンクリートの劣化については、次の2点に留意することが大切であるとされている。
(1) コンクリート中では長期にわたってセメントの水和反応に代表される化学反応が進行しており、その反応のプロセスと反応生成物は、コンクリート中に含まれる化学物質の種類・量、外部から侵入する化学物質の種類・量、および環境条件などの影響を受ける。
(2) コンクリートは連続した微細な空隙を有する多孔質物質であり、この空隙を通って気体(酸素、二酸化炭素など)、イオン(塩化物イオン、アルカリ金属イオン、硫酸イオンなど)、水分などの浸透や移動が生じる。
【0004】
また、コンクリート構造物については、アルカリ骨材反応や塩害によるコンクリートの早期劣化や、酸性雨によるコンクリートの損傷などが問題となっているが、この背景としては、コンクリート構造物が置かれる環境条件が以前より平均的に厳しくなったことに加えて、コンクリートの使用材料、製造方法、施工方法などが変化していることが挙げられる。
【0005】
本発明者においては、例えば、コンクリートを始めとして、アスファルト、発泡コンクリート、木材、シリコン、ゴム、コルク等の内部構造について破壊することなく内部組織の密度分布や空隙の有無とその大きさを探査可能な探査装置及び探査方法を提案した(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-32594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、底面からのエコーと、底面までの中間部からのエコーを受信することで厚さの測定が可能となり、更に、設置場所での内部の状態としては、空洞部分の位置も探査可能となるものである。一方、前述の通り、特許文献1の装置を用いて内部構造を探査することは、圧倒的にコンクリート構造物の内部構造が多い。
【0008】
本発明者が数多くのコンクリート構造物を探査した際に、その時点までで計測されたことない特殊な波形が観測された。本発明者は、その特殊な波形について種々の検討を行った結果、特定のコンクリート構造物の不良箇所を示す波形であることを突き止め、本発明に至った。
【0009】
本発明は、コンクリート構造物の内部不良箇所を探査することが可能となる探査法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載された発明に係るコンクリート構造物の内部不良箇所の探査法は、音波を発信する音波発信器を被検体表面に当接固定させ、
反射波受信器を前記音波発信器の近傍の被検体表面に当接固定させて、前記被検体内部から前記音波発信器の反射波を受信し、
前記反射波受信器で受信された被検体内部の構造物からの反射波から、解析手段によって前記被検体の表面から入射方向の内部構造の状態を解析する探査法であって、
前記音波が、可聴域から超音波域に亘る周波数を含む広帯域音波であり、
前記解析手段が、
前記反射波の時系列波の時間によって反射波が発生した被検体内部地点の距離と、前記反射波の時系列波の波形によって被検体内部地点の構造とを検証するものであり、
前記反射波が類似の波形であった一つの領域と、前記一つの領域の波形と相違する反射波の波形と類似であった別の領域との境界面の距離を推定するものであり、
前記解析手段の解析工程として、
前記反射波が類似の波形であった一つの領域の途中に前記類似の波形に対して相違する波形の領域の有無を確認する相違波形確認工程と、
前記一つの領域の途中に前記類似の波形に対して相違する波形の領域が確認された後に、当該相違する波形までの距離を推定する距離推定工程とを備えたことを特徴とするものである。
【0011】
請求項2に記載された発明に係るコンクリート構造物の内部不良箇所の探査法は、請求項1に記載の相違波形確認工程での相違する波形が、発信音波に対する位相反転した反射波と、発信音波に対する同位相の反射波との合成された反射波であることを特徴とするものである。
【0012】
請求項3に記載された発明に係るコンクリート構造物の内部不良箇所の探査法は、請求項1又は2に記載の相違波形確認工程での相違する波形として、プラス領域とマイナス領域とで差がある波形であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、コンクリート構造物内部のジャンカと呼ばれる内部不良箇所を破壊することなく探査することが可能となる探査法を得ることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の探査法で用いる探査装置の一実施例の構成を示する説明図である。
図2図1の音波発信器12の動作を示す説明図であり、a図はマイナス電圧を印加した状態を示し、b図はプラス電圧を印加した状態を示す。
図3】一般的な正弦波による音波発信器の動作を示す説明図であり、a図は正弦波による印加電圧波形を示し、b図はa図の電圧波形で出力した超音波の波形を示し、c図は出力した音波の周波数分布を示す。
図4】本実施例での広帯域音波の説明図であり、a図は本実施例での印加電圧の波形を示す説明図であり、b図は出力したa図の印加電圧で発生した音波の波形であり、c図は出力した音波の周波数分布を示す説明図である。
図5】一定の周波数の音波による反射と伝搬との説明図であり、a図は反射の状態を示す説明図、b図は伝搬の状態を示す説明図である。
図6】具体的な音波の伝搬状態を示す説明図であり、a図は一定の周波数の音波が金属内を伝搬する状態、b図は一定の周波数の音波がコンクリート内を伝搬する状態、c図は広帯域の音波がコンクリート内を伝搬する状態を示す。
図7】コンクリート構造物での版厚測定と波形の概要を示す説明図であり、a図は通常のコンクリート構造物、b図は空洞のあるコンクリート構造物、c図はクラックのあるコンクリート構造物、d図はジャンカと呼ばれる内部不良箇所のあるコンクリート構造物である。
図8】ジャンカが切り出されているコンクリート断面の直上で測定した音波探査波形を含む説明図である。
図9】洗浄排水池での測定地点を示す底部の平面図である。
図10】問題のない音波探査波形と深さとの関係を示した2つの説明図である。
図11】ジャンカと呼ばれる不良箇所を含む音波探査波形と深さとの関係を示した2つの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明において用いる探査装置は、被検体表面に当接固定させ、音波を発信する音波発信器と、音波発信器の近傍の被検体表面に当接固定させ、被検体内部から音波の反射波を受信する反射波受信器と、音波発信器を作動させ、反射波受信器で受信された被検体内部の構造物からの反射波を処理し、被検体の表面から入射方向の内部構造の状態を解析する解析手段とを備えたものである。
【0016】
本発明は、この探査装置によって、音波を発信する音波発信器を被検体表面に当接固定させ、反射波受信器を音波発信器の近傍の被検体表面に当接固定させて、被検体内部から音波発信器の反射波を受信し、反射波受信器で受信された被検体内部の構造物からの反射波から、解析手段によって被検体の表面から入射方向の内部構造の状態を解析する探査方法である。
【0017】
また、この探査装置で用いる音波としては、可聴域から超音波域に亘る周波数を含む広帯域音波である。尚、好ましい広帯域音波としては、周波数が0.1~2.5MHzの可聴域の音波から超音波に亘る広帯域の音波であるものが挙げられ、より好ましくは、周波数が0.2~2.0MHzの可聴域の音波から超音波に亘る広帯域の音波であるものが挙げられる。
【0018】
より具体的には、ハンマーで物体表面を叩いたようなイメージであり、ゼロから最大のマイナス電圧までは5μsの時間であり、その後の緩やかな復帰では、50%復帰で200μs、100%で743μsの時間を掛けるものであればよい。このような音波発信器からの広帯域音波を被検体の内部へ照射させ、内部からの反射波を計測する。1回の音波エネルギーの反射波は小さいため、1つの被検体の固定部での計測を10回~1000回繰り返して合算させて平均を取ればよい。
【0019】
特に、マイナス電圧を印加した場合には、振動子が上下に膨らんで厚さが増して口径が小さくなり、プラス電圧を印加した場合には、振動子が上下に縮んで厚さが減って口径が大きくなるセラミック振動子を用いた音波発信器では、マイナスに急激に印加した後、ゆっくりとゼロに復帰する波形で発生する音波としては、周波数が0.1~2.5MHz、より好ましくは0.2~2.0MHzの可聴域の音波から超音波に亘る広帯域の音波を得ることができる。
【0020】
更に、解析手段としては、反射波の時系列波の時間によって反射波が発生した被検体内部地点の距離と、反射波の時系列波の波形によって被検体内部地点の構造とを検証するものである。加えて、解析手段としては、反射波が類似の波形であった一つの領域と、一つの領域の波形と相違する反射波の波形と類似であった別の領域との境界面の距離を推定するものである。
【0021】
解析手段の解析工程としては、反射波が類似の波形であった一つの領域の途中に類似の波形に対して相違する波形の領域の有無を確認する相違波形確認工程と、一つの領域の途中に前記類似の波形に対して相違する波形の領域が確認された後に、この相違する波形までの距離を推定する距離推定工程とを備える。これにより、内部構造について破壊することなくジャンカと呼ばれる内部不良箇所を探査することが可能となる。
【0022】
本発明において、ジャンカとは、コンクリート中のモルタル成分が非常に少なく、尚且つ、骨材が密集している箇所を言う。これは、練り混ぜが不十分であったり、打設時の偏り等で発生する。これを避けるためにバイブレーター等で撹拌するが、全域の撹拌が難しいため、発生する。
【0023】
例えば均一なコンクリート材では、可聴域から超音波域に亘る周波数を含む広帯域音波がコンクリート材内部に侵入した場合には、コンクリート材を構成するセメント成分、砂、砂利が均一に分布していると考えられるため、各々の構造中の成分によって固有の波長の反射波が発生し、音波の深さ方向でも同様の反射波が反射波受信器で受信される。
【0024】
その一方で、この均一に分布したコンクリート材自体にクラックや空隙が音波の伝搬方向を遮るように配置された構造では、音波が広帯域のものであるため、クラックや空隙の境界面までの反射波は発生するが、クラックや空隙の境界面を超えて伝搬することが無く、境界面を越えて反射波も発生しない。逆にコンクリート材中に埋め込まれた鉄筋等の金属部材については、その金属部材に固有の周波数の高い強度の反射波が発生する。
【0025】
更に、均一に分布したコンクリート材と構造の相違する別の構造体に音波が侵入した場合には、均一に分布したコンクリート材のセメント成分、砂、砂利等の構造中の成分に固有の反射波ではない別の周波数の反射波が発生するため、均一に分布したコンクリート材の反射波と相違する反射波が発生することとなる。
【0026】
本発明では、解析手段の解析工程として、反射波が類似の波形であった一つの領域の途中に類似の波形に対して相違する波形の領域の有無を確認する相違波形確認工程と、一つの領域の途中に類似の波形に対して相違する波形の領域が確認された後に、この相違する波形までの距離を推定する距離推定工程とを備える。これにより、コンクリート構造物の内部不良箇所を探査することが可能となる。
【0027】
より詳しく説明すると、ジャンカと呼ばれる不良箇所はコンクリート中のモルタル成分が非常に少なく、尚且つ、骨材が密集している箇所を言うが、その一部にモルタル成分が行き渡っていない小さな空洞も含まれている。そのため、コンクリート構造物中の固体部分(固まったモルタル、骨材、砂等)を伝搬してきた音波は、小空洞を含んで音響インピーダンスの異なる(より小さい)箇所にさしかかった場合、反射波形は位相反転して反対側の領域(プラス領域であればマイナス領域)に波形がでたものが反射波となる。
【0028】
その一方で、空洞のない連続した固体部分からは弱い通常波形が反射波となる。このため、ジャンカと呼ばれる不良箇所では、位相反転した反射波と通常波形の反射波とが合成された反射波が計測される。従って、ジャンカと呼ばれる不良箇所で計測される波形は、プラス領域とマイナス領域とで差がある、例えば一方の領域に波形が偏って集中するような特徴的な反射波となる。
【0029】
そのため、相違波形確認工程での相違する波形としては、発信音波に対する位相反転した反射波と、発信音波に対する同位相の反射波との合成された反射波である。より具体的には、相違波形確認工程での相違する波形として、プラス領域とマイナス領域とで差がある波形を確認することにより、コンクリート構造物の内部不良箇所を探査することが可能となる。
【0030】
尚、相違波形確認工程としては、得られた反射波の時系列波の波形自体からプラス領域とマイナス領域とで差がある特徴的な反射波を見つけることで可能である。これは観測者の判断でもよく、解析手段としてのPC等の演算手段自体に該当の箇所を特定することでも可能となる。
【実施例0031】
1.探査の原理
図1は本発明の探査法で用いた探査装置の一実施例の構成を示する説明図である。図1に示す通り、本実施例の探査装置10は、被検体表面に当接固定させて音波を発信する音波発信器12と、この音波発信器12に隣接して被検体表面に当接固定させて被検体内部から音波の反射波を受信する反射波受信器14と、前記音波発信器12で発信する広帯域の音波の波形を指示し、反射された反射波を繰り返す指示を与えるゲートアレイ16と、ゲートアレイ16への指示と反射波受信器14で受信された被検体内部の構造物からの反射波から被検体の表面から入射方向の内部構造の状態を解析する解析手段としてのPC18とを備える。
【0032】
図2図1の音波発信器12の動作を示す説明図であり、a図はマイナス電圧を印加した状態を示し、b図はプラス電圧を印加した状態を示す。図3は一般的な正弦波による音波発信器の動作を示す説明図であり、a図は正弦波による印加電圧波形を示し、b図はa図の電圧波形で出力した超音波の波形を示し、c図は出力した音波の周波数分布を示す。
【0033】
図2に示す通り、音波発信器12に使用するセラミック振動子は、被検体表面への当接面に配置されているため、セラミック振動子は、マイナス電圧を印加した場合には、振動子が上下に膨らんで厚さが増して口径が小さくなり、プラス電圧を印加した場合には、振動子が上下に縮んで厚さが減って口径が大きくなる。
【0034】
これにより、図3のa図に示す通り、印加する電圧の波形が、電圧がゼロからマイナス電圧に、そして、プラス電圧に変化してゼロに戻る正弦波を与える場合には、音波発信器12のセラミック振動子は瞬時に膨らみ縮むこととなる。つまり電圧変化に応じた超音波パルスが発生する。電圧がゼロからゼロに戻る時間に、対象の音速を乗じたものが波長になる。
【0035】
このため、図3のb図のように、音波発信器12によって被検体に出力される音波(超音波)は、一定の波長(例えば、波長が6mm)の正弦波となる。また、出力した超音波の周波数分布は図3のc図に示す通り、狭い範囲の一定の周波数(例えば、1MHz)のものとなる。このように、特定の狭い周波数領域の超音波では、この周波数で反射する物体が存在することにより反射波が発生するが、反射しない物体中ではそのまま伝搬し、何の反応も無い状態となる。
【0036】
これに対して、図4は本実施例での広帯域音波の説明図であり、a図は本実施例での印加電圧の波形を示す説明図であり、b図は出力したa図の印加電圧で発生した音波の波形であり、c図は出力した音波の周波数分布を示す説明図である。本実施例で用いるのは、0.2~2.5MHzの広帯域音波であり、図4のa図に示す印加電圧波形を使用する。
【0037】
即ち、マイナスに急激に印加した後、ゆっくりとゼロに復帰する波形である。電圧がプラスにならないため、振動子は厚さを増した後、自由に振動しながら元に戻ることとなり、電圧の周期的反転がないため、特定の周波数にはならず、広範囲の周波数を同時に発振することとなる。簡単に付言するならば、ハンマーで物体表面を叩いたようなイメージとなっている。
【0038】
図3の正弦波による特定の周波数の音波及び図4の広帯域の音波との相違を説明する。図5は一定の周波数の音波による反射と伝搬との説明図であり、a図は反射の状態を示す説明図、b図は伝搬の状態を示す説明図である。図5のa図及びb図に示す通り、対象に対して十分な長さの波長であれば、音波は反射せず、伝搬していく。一方、通常は波長の1/2が探査できる大きさの限界と言われている。例えば、1MHzの波長=約1.5mmとなる(鉄の内部を伝搬するとして、鉄の音速約6000m/秒とすると)ため、0.75mm以下の異物であれば、逆に対象を検知しないこととなる。
【0039】
図6は具体的な音波の伝搬状態を示す説明図であり、a図は一定の周波数の音波が金属内を伝搬する状態、b図は一定の周波数の音波がコンクリート内を伝搬する状態、c図は広帯域の音波がコンクリート内を伝搬する状態を示す。より具体的には、図6のa図に示す通り、金属61は均質な単一素材であり、基本的に原子のみで構成されるので、音波の伝搬に当たっては乱反射は起こらず、減衰だけが見られる。また、組織内にきず62等があると反射があるので、非破壊検査で利用される。
【0040】
図6のb図に示す通り、コンクリート63では、小石や砂とセメントとの複合素材であるため、一定の周波数の音波では、ほとんどが反射してしまい、長い距離は伝搬せず終端には到達しない。c図に示す通り、b図と同じコンクリート63に広帯域の音波を入射した場合には、広範囲の周波数を含むため、高い周波数は乱反射して減衰するが、低い周波数の音波は伝搬していく。このため、一定の周波数の音波では探査できないものであっても、広帯域であれば探査が可能となる。例えば、アスファルト、発泡コンクリート、木材、シリコン、ゴム、コルク等であっても広帯域の音波で内部組織の密度分布や空隙の有無とその大きさの境界を検証することができる。
【0041】
2.コンクリート構造物と波形
図7はコンクリート構造物での版厚測定と波形の概要を示す説明図であり、a図は通常のコンクリート構造物、b図は空洞のあるコンクリート構造物、c図はクラックのあるコンクリート構造物、d図はジャンカと呼ばれる内部不良箇所のあるコンクリート構造物である。
【0042】
図a~dに示す通り、発振用探触子71と受信用探触子72とを適当な間隔で近接配置し、コンクリート構造物73の底面74からのエコーと、底面までの中間部からのエコーを受信する。a図に示す通り、エコーの波形は、コンクリート構造物73の内部構造が均一であるため、受信された波形としては、プラス領域とマイナス領域(即ち、振幅の左右領域)とで差はない。また、コンクリート構造物73の底面74に向かうに従ってエコーの波形の振幅は徐々に小さくなっていく。
【0043】
また、b図に示す通り、コンクリート構造物73の内部に空洞75がある場合には、その空洞75には広帯域の音波は入射せず、空洞75との境界面での反射波だけが観測される。広帯域の音波はビーム状にある角度をもって円錐状に伝搬するが、円錐の直径よりもわずかに空洞75が小さい場合は、回り込んだ広帯域波で底面の波形が観測される。b図の底面74からの受信されたエコーがそれである。空洞75が大きい場合、空洞75より下方の波形は観測されない。
【0044】
更に、c図に示す通り、コンクリート構造物73にクラック76がある場合には、クラック76の面はある種の空洞であるため、音波は伝播せず、クラック面が繋がるクラック先端部から最初の反射波が見られる。そのため、その最初の反射波までの距離がクラック深さとなる。クラック先端部から下方は均一なコンクリート構造物73であるため、受信エコーも均一なものと同じとなり、底面74での大きな反射波も計測される。
【0045】
また、d図に示す通り、コンクリート構造物73の内部にジャンカと呼ばれる不良箇所77がある場合には、周囲のコンクリート構造物73の健全部との接触面積が小さく、音波の伝搬効率が下がるので、図dのように不良箇所77でのエコー波形は減衰が大きくなる。不良箇所77の下方に至った広帯域の音波はコンクリート構造物73の健全部での反射波を受信し、底面74での大きな反射波も計測される。
【0046】
ジャンカと呼ばれる不良箇所77について詳しく説明する。前述の通り、ジャンカとはコンクリート中のモルタル成分が非常に少なく、尚且つ、骨材が密集している箇所を言うが、その一部にモルタル成分が行き渡っていない小さな空洞も含まれている。コンクリート構造物中の固体部分(固まったモルタル、骨材、砂等)を伝搬してきた音波は、小空洞を含む不良箇所にさしかかった場合、音響インピーダンスの違い(より小さくなる)から、反射波形は位相反転して反対側の領域(プラス領域であればマイナス領域)に波形がでたものが反射波となる。
【0047】
その一方で、空洞のない連続した固体部分からは弱い通常波形が反射波となる。このため、ジャンカと呼ばれる不良箇所77では、位相反転した反射波と通常波形の反射波とが合成された反射波が計測される。従って、ジャンカと呼ばれる不良箇所77で計測される波形は、プラス領域とマイナス領域とで差がある特徴的な反射波となる。例えば、d図では、マイナス(紙面に向かって左側)領域に波形が偏って集中している。
【0048】
図8はジャンカが切り出されているコンクリート断面の直上で測定した音波探査波形を含む説明図である。通常ジャンカ箇所を直接確認することは殆どないが、実際にジャンカが切り出されているコンクリート断面を発見し、その直上表面から超音波探査を行った。図8のa図がジャンカが切り出されているコンクリート断面の拡大写真を含む写真であり、図8のb図がその直上で測定した音波探査波形である。
【0049】
図8のa図に示す通り、探触子からジャンカまでの実際の距離と、探査機上での表示距離が一致している。図8のb図の380mmと450mmとの間のジャンカに相当する部分の音波探査波形としてプラス領域とマイナス領域とで差がある、即ちマイナス領域に波形が偏って集中している特徴的な反射波が観測された。これは、コンクリートを伝搬してきた波形が、小空洞を含む不良箇所にさしかかった場合に、音響インピーダンスの違いから位相反転した波形がでることに対して、僅かに空洞のない連続した部分からは弱い通常の波形が返るため、この2つが合成された波形としてプラス領域とマイナス領域とで差がある音波探査波形が測定されたものである。
【0050】
3.コンクリート構造物の探査
既存の洗浄排水池の耐震補強工事に当たって、洗浄排水池のスラブ厚さの確認と、スラブ下部の状況を超音波探査で確認した。図9は洗浄排水池での測定地点を示す底部の平面図である。尚、洗浄排水池内で湧水が確認されている箇所や、確認を要する箇所では測点を増やしている。
【0051】
図10図11図9に示された洗浄排水池での計測された音波探査波形と深さとの関係を示した説明図である。図10は問題のない音波探査波形と深さとの関係を示した2つの説明図である。図11はジャンカと呼ばれる不良箇所を含む音波探査波形と深さとの関係を示した2つの説明図である。
【0052】
図10のa図及びb図に示す通り、計測された音波探査波形は、スラブの内部構造が均一であるため、波形は、プラス領域とマイナス領域(即ち、振幅の左右領域)とで差はなく、スラブの深さ方向に向かうに従って波形の振幅は徐々に小さくなっていくことが確認された。
【0053】
一方、図11に示される通り、プラス領域とマイナス領域(即ち、振幅の左右領域)とで差のない波形が、スラブの深さ方向に向かうに従って波形の振幅は徐々に小さくなっていくが、その一部にプラス領域とマイナス領域(即ち、振幅の左右領域)とで差のある波形、即ち、マイナス領域(振幅の左領域)に波形が比較的集中して現れている。
【0054】
これは、図8に示した場合で確認されたように、ジャンカ領域で、位相反転した反射波の波形と通常波形の反射波の波形とが合成された特徴的な波形と同種のものである。即ち、図11におけるこの特徴的な波形が発生した領域は、モルタル成分が非常に少なく、尚且つ、骨材が密集している箇所であり、その一部にモルタル成分が行き渡っていない小さな空洞が存在していると思われる。
【0055】
このため、計測された音波において、位相反転して反対側の領域(プラス領域であればマイナス領域)に波形がでた位相反転した反射波の波形と通常波形の反射波の波形とが合成された特徴的な反射波が計測されたことから、ジャンカが検出されたことがわかる。
【符号の説明】
【0056】
10…探査装置、
12…音波発信器、
14…反射波受信器、
16…ゲートアレイ、
18…PC(解析手段)、
61…金属、
62…きず、
63…コンクリート、
71…発振用探触子、
72…受信用探触子、
73…コンクリート構造物、
74…底面、
75…空洞、
76…クラック、
77…不良箇所(ジャンカ)、
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図8
図9
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図11