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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158748
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】制振シート
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/162 20060101AFI20241031BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20241031BHJP
   B32B 3/30 20060101ALI20241031BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20241031BHJP
   B62D 29/04 20060101ALN20241031BHJP
【FI】
G10K11/162
F16F15/02 Q
B32B3/30
B32B27/00 B
B62D29/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074245
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000232542
【氏名又は名称】日本特殊塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永野 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 裕司
(72)【発明者】
【氏名】河村 洋志
【テーマコード(参考)】
3D203
3J048
4F100
5D061
【Fターム(参考)】
3D203AA02
3D203BB04
3D203BB35
3D203BC08
3D203CA01
3D203CA07
3D203CA73
3D203CA83
3D203CB24
3D203CB57
3J048BD04
3J048BD05
3J048BD06
3J048EA36
4F100AR00B
4F100BA02
4F100DD01B
4F100JD02A
4F100JD14B
4F100JG06B
4F100JH02
4F100JK17A
4F100YY00B
5D061AA04
5D061AA06
5D061AA16
(57)【要約】
【課題】対象物に非融着で使用可能で、かつ、質量を大きくすることなく高い制振性能を発揮する制振シートを提供する。
【解決手段】非通気性および可撓性を有するシート本体部30と、互いに間隔をおいてシート本体部30から突出して形成され、それぞれの先端面32aが対象物であるフロアパネル12に接してシート本体部30を支持する複数の支持部32と、を備え、それら複数の支持部32の先端面32aを含む先端側の部分が、粘弾性を有するとともに、磁力を有するものとし、当該制振シート10の単位面積当たりの磁力による吸着力を24Nf/m以上390Nf/m以下とする。この構成により、少なくとも300Hz~500Hzの振動を効果的に減衰させることができる。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の対象物の表面に配されて前記対象物から伝わる振動を減衰させる制振シートであって、
非通気性および可撓性を有するシート本体部と、
互いに間隔をおいて前記シート本体部から突出して形成され、それぞれの先端面が前記対象物に接して前記シート本体部を支持する複数の支持部と、
を備え、
複数の前記支持部は、少なくとも、前記先端面を含む先端側の部分が、粘弾性を有するとともに、磁力を有しており、
当該制振シートの単位面積当たりの前記磁力による吸着力が24Nf/m以上390Nf/m以下とされていることを特徴とする制振シート。
【請求項2】
当該制振シートの単位面積当たりの前記磁力による吸着力が52Nf/m以上とされている請求項1に記載の制振シート。
【請求項3】
当該制振シートの単位面積当たりの前記磁力による吸着力が52Nf/m未満とされている請求項1に記載の制振シート。
【請求項4】
前記シート本体部および複数の前記支持部は、非通気性および可撓性を生じさせる主剤と磁性体粉末とを混合した材料から一体的に成形されてなり、
複数の前記支持部における少なくとも前記先端面が着磁されている請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の制振シート。
【請求項5】
複数の前記支持部は、
前記シート本体部を形成する材料と同一の非通気性および可撓性を生じさせる材料から成形された基層と、
前記基層の先端側に積層され、磁性体粉末を含む材料から成形されて着磁されている表層と、からなる請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の制振シート。
【請求項6】
複数の前記支持部は、互いに4mm以上の間隔が設けられている請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の制振シート。
【請求項7】
複数の前記支持部は、4mm以上10mm以下の幅を有する形状とされている請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の制振シート。
【請求項8】
当該制振シートの単位面積当たりの質量は、40Nf/m以下とされている請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の制振シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振シートに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、乗物においては、乗物の外側や乗物の駆動部からの騒音や振動が乗物室内に伝わらないように、乗物室を区画する部分に、それらノイズを抑制する部材が設けられる。周波数の高い高周波領域のノイズの抑制には、吸音材や遮音材が用いられ、それら吸音材や遮音材で対応可能な周波数より低い領域のノイズ、具体的には、ロードノイズやエンジンノイズ(比較的周波数の低い領域部分)の抑制には、防振材や制振材が用いられる。例えば、下記特許文献1,2には、制振シートの一例が開示されている。下記特許文献1に記載の制振シートは、車両振動部のタテ面に融着して使用されるものである。この特許文献1に記載の制振シートは、タテ面への融着を容易にするために、制振シート層の片面に、磁性粉末を40~80%配合したホットメルト層が形成されており、その磁力によってタテ面に仮止めした後、タテ面に熱融着させられる構成のものとなっている。また、下記特許文献2に記載の制振シートは、可撓性の重シートと、重シートに固く結合された粘弾性の支持層からなり、その支持層が、多数の角度をつけて構成された支持構造物から形成されていることを特徴とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4-334674号公報
【特許文献2】米国特許第5186996号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の制振シートは、ホットメルトによって対象物に融着されて制振性能を発揮するものであるため、対象物から分離することが困難であり、リサイクルしにくいという問題がある。また、上記特許文献2に記載の制振シートは、上記特許文献1に記載の制振シートとは異なり、対象物に対して融着されない構成であるため、水平方向に広がる部分の適用に限定され、壁面などの角度がついている箇所に適用することができない。さらに、上記特許文献2に記載の、対象物に対して融着されない制振シートは、制振性能を高めるために、制振シートの質量を大きくする必要があるという問題もある。
【0005】
本発明は、対象物に非融着で使用可能で、かつ、質量を大きくすることなく高い制振性能を発揮する制振シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本願に開示される制振シートは、下記の構成とされている。
(1) 金属製の対象物の表面に配されて前記対象物から伝わる振動を減衰させる制振シートであって、
非通気性および可撓性を有するシート本体部と、
互いに間隔をおいて前記シート本体部から突出して形成され、それぞれの先端面が前記対象物に接して前記シート本体部を支持する複数の支持部と、
を備え、
複数の前記支持部は、少なくとも、前記先端面を含む先端側の部分が、粘弾性を有するとともに、磁力を有しており、
当該制振シートの単位面積当たりの前記磁力による吸着力が24Nf/m以上390Nf/m以下とされていることを特徴とする制振シート。
【0007】
本願に開示の制振シートは、シート本体部と対象物との間に、複数の支持部によって連通する空間が形成された構成となっている。この支持部は、粘弾性を有するため、この支持部と対象物との間の摩擦によって対象物からの振動を減衰するとともに、対象物の振動(運動)エネルギが支持部のせん断変形エネルギに変換されることによって対象物からの振動を減衰することができる。また、この支持部の存在によって、支持部やシート本体部の変形が許容されることで、対象物の振動エネルギを吸収することができる。さらに、特定の振動入力条件下では、当該制振シートが対象物から部分的に持ち上げられ、その落下の際に生じる力(反対パルス推力)で対象物からの振動を減衰させることができるのである。
【0008】
さらにまた、本願に開示の制振シートは、支持部の先端面に磁力を持たせて、この磁力による対象物への吸着力を特定の大きさとすることで、シート本体部の質量を大きくすることなく、制振性能を高めることができる。具体的には、周波数500Hz以下の振動を減衰させること、少なくとも300Hz~500Hzの周波数帯域(以下、「中周波数帯域」と呼ぶ場合がある。)の振動を効果的に減衰させることができる。より詳しく言えば、当該制振シートの単位面積当たりの吸着力が、上記範囲のうち大きい範囲である52Nf/m以上390Nf/m以下の場合には、中周波数帯域に生じる共振を支持部に磁力を付与していない場合に比較して顕著に小さくすること、あるいは、共振ピークをほぼなくすことが可能である。特に、80Nf/m以上220Nf/m以下とすることで、共振ピークをほぼなくすことができる。ちなみに、支持部に付与する磁力を高めて吸着力を大きくし過ぎると、当該制振シートが対象物と同期して動くようになり、制振性能への効果は小さい。特に、単位面積当たりの吸着力が390Nf/mを超えると、上記の範囲の吸着力である場合に比較して、急激に共振ピークが大きくなることが確認された。
【0009】
一方で、当該制振シートの単位面積当たりの吸着力が52Nf/m以上390Nf/m以下の場合には、300Hzより低い周波数帯域の振動に対して、支持部に磁力を付与していない場合に比較しても、制振性能が低下してしまう傾向があることが確認された。それに対して、上記範囲のうち小さい範囲である24Nf/m以上52Nf/m未満の場合には、52Nf/m以上390Nf/m以下の場合に比較して300Hz~500Hzの制振性能は低いものの、300Hzより低い周波数帯域も含めた広い周波数帯域において、支持部に磁力を付与していない場合に比較して、制振性能を向上させることができる。以上のように、本願に開示の制振シートは、少なくとも300Hz~500Hzの周波数帯域の制振性能を、シート本体部の質量を大きくすることなく高めることができる。なお、本願に開示の制振シートにおいて、目標となる磁力を付与した場合であっても、場所によってその磁力は異なるが、その磁力による吸着力が当該制振シート全域で上記の範囲内とされることが望ましい。
【0010】
また、本願に開示の制振シートは、支持部の磁力を利用して、水平面以外の傾斜面や鉛直な壁面等にも容易に配することが可能となる。ちなみに、支持部に付与した磁力に対する吸着力は対象物(例えば、塗装の有無等)によって変化する虞はある。しかしながら、本願に開示の制振シートにおいて、上記の吸着力を得るために支持部に付与する磁力(磁束密度)は10mT~30mT程度であり、その範囲の磁力においては、対象物に対する吸着力への影響は小さいと考えられる。
【0011】
本願に開示の制振シートにおいて「シート本体部」は、例えば、生ゴムやゴム、EPDM、EVA、リプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、オレフィン系樹脂、あるいは、それらの混合物を主体として形成されたものとすることができる。また、「支持部」は、例えば、シート本体部と同じ材料に磁性体粉末を混合して形成したものとすることができる。また、例えば、ホットメルト等に磁性体粉末を混合したものを、少なくとも支持部の先端面に塗工して形成されたものとすることもできる。なお、磁性体粉末としては、例えば、フェライト、アルニコ、鉄,クロム,コバルトなどの合金永久磁石、ネオジム,サマコバなどの希土類等を採用可能であるが、フェライトが望ましい。
【0012】
本願に開示の制振シートは、シート本体部と支持部とが一体的に形成されたものであってもよく、別々に形成してシート本体部に対して支持部を結合させた構成のものであってもよい。なお、前者の場合には、シート本体部および支持部の両者に磁性体粉末が混合された構成となるが、当該制振シート全体が着磁された構成であってもよく、支持部のみが着磁された構成であってもよい。なお、磁性体を着磁する方法としては、既存の方法であるヨーク着磁やロール着磁を採用可能である。
【0013】
また、上記構成の制振シートにおいて、以下に示す種々の態様とすることが可能である。なお、本発明は以下の態様に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【0014】
(2)当該制振シートの単位面積当たりの前記磁力による吸着力が52Nf/m以上とされている(1)項に記載の制振シート。
【0015】
この構成の制振シートは、前述したように、中周波数帯域の制振性能を特に向上させることができ、共振ピークをほぼなくすことが可能である。
【0016】
(3)当該制振シートの単位面積当たりの前記磁力による吸着力が52Nf/m未満とされている(1)項に記載の制振シート。
【0017】
この構成の制振シートは、中周波数帯域だけでなく、それより低い周波数帯域、つまり、具体的に言えば、300Hz~500Hzの周波数帯域だけでなく、300Hzより低い周波数帯域の制振性能も、支持部に磁力を付与していない場合に比較して向上させることができる。
【0018】
(4)前記シート本体部および複数の前記支持部は、非通気性および可撓性を生じさせる主剤と磁性体粉末とを混合した材料から一体的に成形されてなり、
複数の前記支持部における少なくとも前記先端面が着磁されている(1)項から(3)項のいずれか一項に記載の制振シート。
【0019】
この構成の制振シートは、支持部のみが着磁された構成であってもよく、制振シート全体が着磁された構成であってもよい。その着磁方法も、前述したように限定されないが、ヨーク着磁を採用すれば、電力によって磁力を適切な大きさとすることができる。
【0020】
(5)複数の前記支持部は、
前記シート本体部を形成する材料と同一の非通気性および可撓性を生じさせる材料から成形された基層と、
前記基層の先端側に積層され、磁性体粉末を含む材料から成形されて着磁されている表層と、からなる(1)項から(3)項のいずれか一項に記載の制振シート。
【0021】
この構成の制振シートは、支持部を形成する基層を、磁性体粉末を含む材料によってコーティング(塗工)して、表層が形成された構成となっている。このコーティングする材料としては、例えば、ポリエチレンなどのオレフィン系のホットメルトや、アクリル樹脂や酢酸ビニル樹脂などの水系エマルジョンに、磁性体粉末を混入したものを採用可能である。この構成の制振シートは、支持部のみがコーティングされた構成に限定されず、支持部と支持部との間もコーティングされた構成、つまり、制振シートの支持部が形成された面全体がコーティングされた構成であってもよい。
【0022】
(6)複数の前記支持部は、互いに4mm以上の間隔が設けられている(1)項から(5)項のいずれか一項に記載の制振シート。
【0023】
この構成の制振シートは、支持部やシート本体部の変形が十分に許容され、効果的に制振性能を発揮させることができる。
【0024】
(7)複数の前記支持部は、4mm以上10mm以下の幅を有する形状とされている(1)項から(6)項のいずれか一項に記載の制振シート。
【0025】
この構成の制振シートは、対象物に対する接着面が確保され、効果的に制振機能を発揮させることができる。なお、支持部の幅を大きくしても、制振シート全体としての質量が大きくならないように、支持部の大きさや間隔が調整されることが望ましい。
【0026】
(8)当該制振シートの単位面積当たりの質量は、40Nf/m以下とされている(1)項から(7)項のいずれか一項に記載の制振シート。
【0027】
この構成の制振シートは、制振シート自体の質量を40Nf/m(4078.86gsm)以下として比較的大きくすることなく、高い制振性能を確保することができるものとなっている。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、対象物に非融着で使用可能で、かつ、質量を大きくすることなく高い制振性能を発揮する制振シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】実施形態1の制振シートが用いられる対象物としてのフロアパネルの斜視図
図2図1に示すフロアパネルの平面図
図3】実施形態1の制振シートが用いられている箇所のフロア構造を概略的に示す断面図
図4】実施形態1の制振シートの斜視図
図5】制振シートの評価に用いた加振装置の側面図
図6】加振装置の斜視図
図7】リブ幅4mmの各実施例(1-1~1-6)において、加振装置の検出結果から算出した周波数応答関数を示すグラフ
図8図7における中周波数帯域を拡大して示すグラフ
図9】リブ幅4mmの各実施例(1-7,1-8)におおける周波数応答関数を示すグラフ
図10】共振ピークを説明するための平面図
図11】共振ピークを説明するための側面図
図12】リブ幅4mmの各実施例における支持部の磁力と吸着力との関係を示す表
図13】リブ幅10mmの各実施例(2-1~2-5)において、加振装置の検出結果から算出した周波数応答関数を示すグラフ
図14】リブ幅10mmの各実施例(2-6,2-7)におおける周波数応答関数を示すグラフ
図15】リブ幅10mmの各実施例における支持部の磁力と吸着力との関係を示す表
図16】実施形態1の変形例の制振シートの側面断面図
図17】実施形態2の制振シートが用いられている箇所のフロア構造を概略的に示す断面図
図18】実施形態2の変形例の制振シートの側面断面図
【発明を実施するための形態】
【0030】
<実施形態1>
本発明の実施形態1である制振シート10は、乗物である車両(自動車)のフロアに採用されている。その車両のフロアは、フロアパネル12を主体として構成され、そのフロアパネル12は、乗物室である車室の床面を区画する部材であり、薄板鋼板等の金属製で、平面視において概して矩形状をなしている。車両において、そのフロアパネル12から入力される振動は、広い周波数帯域におよび、その振動を抑えるべく、図1および図2に示すフロアパネル12の上側に、本実施形態の制振シート10,フロアサイレンサ14,カーペット16等が、重ねられた構成となっている。
【0031】
フロアパネル12は、図1および図2に示すように、車幅方向の中央に、車両前後方向に延びるとともに、上方に膨出された形状をなすフロアトンネル20が形成されている。また、車両には、車幅方向に延びる補強部材(本実施形態においては2本)が配されており、フロアパネル12には、それら2本の補強部材が嵌り合うように、その補強部材に沿う形状に上方に膨出した膨出部22,24も形成されている。なお、車両には、それら2本の膨出部22,24の上側には、運転席および助手席のシートが配されるようになっている。つまり、フロアパネル12においては、後方側の膨出部22の後方の領域Aは、着座した乗員の足元部分である足溜り部に相当し、後方側の膨出部22と前方側の膨出部24との間の領域Bは、シートの真下の領域に相当する。
【0032】
前述したように、車両は、外部や駆動部からの騒音(振動)を車室内への伝達を抑える構造が用いられ、フロアパネル12から車室内への振動を抑えるために、本実施形態の制振シート10,フロアサイレンサ14,カーペット16が用いられる。そして、領域ごとに、それらの重ね合わせの構成や、厚み等が、相違させられている。例えば、上述した領域A,Bは、フロアパネル12上にセンターコンソールなどの質量を伴う部品で覆われる部分と異なり、フロア構造が剥き出しになる。その領域A,Bの振動を効果的に抑えるために、他の領域がフロアサイレンサ14とカーペット16の重ね合わせであるのに対して、領域A,Bは、図3に示すように、フロアパネル12上に、本実施形態の制振シート10,フロアサイレンサ14,カーペット16がその順で重ね合わされている。
【0033】
フロアサイレンサ14は、多数の空隙を有する繊維集合体やウレタンフォームなどの多孔質合成樹脂とすることができる。このフロアサイレンサ14は、区画部材としてのフロアパネル12の室内側に配され、内部に多数の空隙を有する吸音層として機能するものであり、500Hzより高い周波数帯域の振動を抑えることが可能である。なお、このフロアサイレンサ14の厚みとしては、フロアパネル12の外側から伝達される音を吸音するために、3mm~60mmであることが望ましい。ちなみに、上述した領域A,Bの振動を効果的に抑えるために、フロアサイレンサ14における領域A,Bに対応する部分の厚みの方が、他の領域に対応する部分の厚みより大きくした構成とすることができる。
【0034】
カーペット16は、種々の構成のものを採用でき、例えば、フロアサイレンサ14側から順に、遮音を目的としてフィルム状の非通気層,吸音や遮音を目的とした圧縮繊維層,表皮層が積層された構成のものとすることができる。このカーペット16が、非通気層等の存在によって、フロアサイレンサ14では適応できない500Hz以下の周波数帯域の振動をある程度抑えることは可能である。しかしながら、前述した領域A,Bなど、500Hz以下の周波数帯域の振動を効果的に抑えたい領域が存在し、本実施形態の制振シート10は、そのような領域に対して設けられているのである。
【0035】
本実施形態の制振シート10は、図3および図4に示すように、非通気性および可撓性を有する平面状のシート本体部30の一面に、粘弾性を有する複数の支持部32が突出形成された形状のものとされている。そのシート本体部30は、例えば、生ゴムやゴム、EPDM、EVA、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、オレフィン系樹脂、あるいは、それらの混合物を主剤とし、炭酸カルシウムなどの充填剤やプロセスオイルなどの添加剤が配合され、混錬・圧延してシート状に形成されている。また、複数の支持部32は、十字形状で、先端にフロアパネル12に接する接触面(先端面)32aを有する形状とされている。この複数の支持部32は、プレス成形,真空成形,押出成形等によって、シート本体部30と同じ材料で、一体的に形成されている。なお、本実施形態の制振シート10は、単位面積当たりの質量が40Nf/m(4078.86gsm)以下とされている。
【0036】
なお、複数の支持部32は、その形状が十字形状に限定されるものではないが、互いに間隔をおいて形成されて、本制振シート10がフロアパネル12上に敷設された状態において、シート本体部30の裏面(室外側面)とフロアパネル12の表面(室内側面)との間に、閉じた空間を形成しないような形状であればよい。本実施形態においては、複数の支持部32は、十字形状の先端同士の間隔Lが、4mm以上となるように、互いに間隔を置いて、整列して形成されている。また、複数の支持部32は、その接触面32aの幅Wが4mm以上10mm以下の大きさとされている。これにより、複数の支持部32の接触面32aの表面積の合計は、シート本体部30の面積の15%以上40%以下とされている。ちなみに、複数の支持部の高さは、特に限定されないが、本制振シート10の質量が大きくなり過ぎないようにされることが望ましく、本実施形態においては、2mmとされている。
【0037】
また、本実施形態の制振シート10は、シート本体部30および複数の支持部32を形成する材料に、充填剤として、磁性体粉末であるフェライトが配合されている。そして、本実施形態の制振シート10は、複数の支持部32が着磁されて、磁力を有するものとなっている。なお、磁性体粉末としては、フェライトに限定されず、アルニコ、鉄,クロム,コバルトなどの合金永久磁石、ネオジム,サマコバなどの希土類等であってもよい。本実施形態の制振シート10は、単位面積当たりの磁力による吸着力が80Nf/m以上420Nf/m以下とされている。つまり、磁力による吸着力がその範囲となるように、複数の支持部32の幅Wや、支持部32同士の間隔Lに応じて、磁力が調整されている。
【0038】
以上のように構成された本実施形態の制振シート10は、複数の支持部32が磁力を有することで、フロアパネル12のような水平面上に広がる部分だけでなく、傾斜した面や立壁等に対しても、容易に設置することが可能なものとなる。そして、本実施形態の制振シート10は、単位面積当たりの磁力による吸着力が24Nf/m以上390Nf/m以下とされていることで、少なくとも300Hz~500Hzの振動を効果的に抑制することができるものとなる。以下に、本実施形態の制振シート10の振動抑制効果について、詳しく説明する。
【0039】
本実施形態の制振シート10の振動抑制効果は、図5,6に示す加振装置50を用いて、評価を行った。この加振装置50は、概して方形状のフレーム52と、フレーム52の上面に固定された平板状のパネル54と、フレーム52の四隅から下方に延び出したアーム56と、そのアーム56を介してパネル54に任意の振動を加えるシェーカ58とからなる。そして、本実施形態の制振シート10のテストピースPをパネル54上に載置して、シェーカ58によって振動を加え、フレーム52の長手方向中央の下面に設けられた第1加速度センサ60の検出値であるフレーム振動加速度a1と、パネル54の中央の下面に設けられた第2加速度センサ62のパネル振動加速度a2とを検出した。そして、それら検出結果に基づいて、それらの周波数応答関数FRF(Frequency Response function)であるa2/a1を図示し、共振ピークの減衰具合の確認を行った。
【0040】
テストピースPは、複数の支持部32の幅Wを4mmで、支持部32同士の間隔Lを7mmとし、複数の支持部32の接触面32aの表面積の合計が、シート本体部30の面積の18%となるものを使用している。そして、複数の支持部32の磁力を変化させて、つまり、磁力による吸着力を変化させて、上記の周波数応答関数FRF(=a2/a1)を算出している。図7から図9には、本制振シート10の実施例1―1~1-8(互いに支持部32の磁力のみ異なる。詳細は、図12参照)の結果を実線で示している。また、図7~9における破線は、制振シートを載置していない状態における検出結果である。図7~9における一点鎖線は、磁力を持たせていない構成である比較例1―1の制振シートの検出結果である。さらに、図7、8における二点鎖線は、支持部の磁力が大きくされて吸着力が前述の範囲より大きくなった構成である比較例1-2の制振シートの検出結果であり、図9における二点鎖線は、支持部の磁力が小さくされて吸着力が前述の範囲より小さくなった構成(実際には、前述の範囲より小さな箇所が存在する構成)である比較例1-3の制振シートの検出結果である。ちなみに、図7~9に示す共振ピークは、左側から順に、図10,11に示す1次,3次,5次,7次,9次のものとなっている。
【0041】
図7,8から分かるように、複数の支持部32を有する制振シート(実施例1―1~1-6,比較例1―1および比較例1-2)がパネル54上に敷設されている場合には、共振ピークは低周波数側にシフトする。そして、これら制振シートは、300Hz~500Hzの中周波数帯域に存在する7次と9次の共振ピーク、1次,3次および5次の低周波数帯域の共振ピークに比較して大きく減衰させていることが確認できる。また、支持部が磁力を有していない比較例1-1に対し、支持部32に付与する磁力を大きくして、吸着力を大きくしていくと、実施例1-1~1-6は、7次の共振ピーク、および、9次の共振ピークが、ほぼ平坦近くになるまで、減衰させることができていることが確認できる。特に、当該制振シート10の単位面積当たりの磁力による吸着力が80Nf/m以上220Nf/m以下とすること(実施例1-3,1-4)で、7次および9次の共振ピークをほぼなくすことができている。
【0042】
一方で、単位面積当たりの磁力による吸着力が、前述した範囲である390Nf/mを超えた比較例1-2においては、再び、共振ピークが生じていることが確認される。これは、制振シートがパネル54と同期して動くようになってしまったため、振動減衰効果(制振効果)が弱まったと考えられる。さらに言えば、この実施例1-1と比較例1-2とを比較すると、支持部に付与した磁力の平均および吸着力の平均は、実施例1-1の制振シートが30.6mT,335.1Nf/mで、比較例1-2の制振シートが32.8mT,403.4Nf/mである。つまり、それらの差は比較的小さいのに対して、図8に示すように、7次および9次の共振に対して、制振効果に比較的大きな差が生じていることが確認される。
【0043】
また、複数の支持部32の磁力が大きくなると(実施例1-1~1-3)、3次および5次の共振ピークで、支持部が磁力を有していない比較例1-1と比較して、制振性能が変わらない、あるいは、僅かに低下してしまうことが分かる。それに対して、図9から分かるように、実施例1-7,1-8は、実施例1-1~1-6に比較して、7次および9次の制振性能は効果が低いものの、3次および5次の共振ピークに対しても、支持部が磁力を有していない比較例1-1よりも制振性能を向上させていることが確認された。
【0044】
図12には、上記の実施例1―1~1-8の制振シートと、比較例1-2,1-3の制振シートにおいて、各支持部の磁力の最大値,平均値,最小値と、それらの磁力の最大値,平均値,最小値に基づいて算出した制振シートの単位面積当たりの吸着力の最大値,平均値,最小値とを、示している。以上から、本実施形態の制振シート10は、単位面積当たりの磁力による吸着力が24Nf/m以上390Nf/m以下とされていることで、少なくとも300Hz~500Hzの振動を効果的に抑制することができる。特に、52Nf/m以上390Nf/m以下とされることで、300Hz~500Hzの振動をより効果的に抑制でき、24Nf/m以上52Nf/m未満とされることで、150Hz~500Hzの比較的広い周波数帯域の振動を抑制できるのである。
【0045】
また、図13~15には、各支持部の幅Wが10mmで、複数の支持部の接触面の表面積の合計が、シート本体部の面積の34%となるものにおいて、支持部の磁力を互いに異ならせた構成の実施例2-1~2-7の制振シートの結果を示している。この各支持部の幅Wが10mmの制振シートは、前述した支持部32の幅Wが4mmの実施例に比較して、支持部の接触面の表面積が大きいため、各支持部の磁力は小さい。一方で、実施例2-1~2-7の制振シートは、実施例1―1~1-8の制振シートと同様に、単位面積当たりの磁力による吸着力が24Nf/m以上390Nf/m以下であり、300Hz~500Hzの中周波数帯域に存在する7次と9次の共振ピークを、効果的に減衰させていることが確認された。より具体的に言えば、52Nf/m以上390Nf/m以下とされること(実施例2-1~2-5)で、300Hz~500Hzの振動をより効果的に抑制できる。なお、実施例2-1は、比較例2-3に比較して、7次の共振ピークに変化はないものの、9次の共振ピークを効果的に減衰させていることが確認された。さらに言えば、本実施形態の制振シート10において、当該制振シート10の単位面積当たりの磁力による吸着力は、80Nf/m以上220Nf/m以下であることが望ましく、その範囲の吸着力とすること(実施例2-2~2-3)で、中周波数帯域の制振効果をより高めることができ、中周波数帯域の共振ピークをほぼなくすことができる。また、24Nf/m以上52Nf/m未満とされること(実施例2-6,2-7)で、150Hz~500Hzの比較的広い周波数帯域の振動を抑制できる。
【0046】
以上のように、本実施形態の制振シート10は、非通気性および可撓性を有するシート本体部30と、互いに間隔をおいてシート本体部30から突出して形成され、それぞれの先端面32aが対象物であるフロアパネル12に接してシート本体部30を支持する複数の支持部32と、を備え、それら複数の支持部32の先端面32aを含む先端側の部分が、粘弾性を有するとともに、磁力を有するものとし、当該制振シート10の単位面積当たりの磁力による吸着力を24Nf/m以上390Nf/m以下となる構成としたことで、少なくとも300Hz~500Hzの周波数帯域の振動を効果的に減衰させること、具体的に言えば、この中周波数帯域に生じる共振を小さくすることが可能である。
【0047】
<実施形態1の変形例>
上記実施形態1の制振シート10は、平面状のシート本体部30に対して、複数の支持部32が突出する状態で形成されていたが、それに限定されない。図12に示すように、変形例の制振シート80は、実施形態1のシート本体部30および支持部32と同じ材料を用いて成形され、平面状の部材に対して、上面側から支持部82の形状の突起を押し付けるようにして、支持部82を下面側に突出形成した形状とされている。換言すれば、変形例の制振シート80は、シート本体部84の上面に、支持部82に対応する凹所84aが形成されたような形状のものとなっている。なお、この変形例の制振シート80は、プレス成形や真空成形によって成形可能である。そして、変形例の制振シート80も、実施形態1の制振シート10と同様に、支持部82の先端が着磁され、単位面積当たりの磁力による吸着力を24Nf/m以上390Nf/m以下とされている。
【0048】
上記実施形態1の制振シート10は、支持部32の大きさや形状を変更すると、制振シート10の質量が変わってしまう構成である。つまり、制振シートの質量が定められている場合には、支持部の質量に応じて、シート本体部に質量を調整する必要がある。それに対して、この変形例の制振シート80は、支持部82の形状や大きさを変更しても、制振シート80自体の質量が変わらない。したがって、変形例の制振シート80は、定められた質量とすることが容易な構成となる。
【0049】
<実施形態2>
上記実施形態の制振シート10は、シート本体部30および支持部32を形成する材料に、磁性体粉末を混入させた構成とされていたが、それに限定されない。図13に示すように、実施形態2の制振シート100は、複数の支持部102が、基層104と表層106とが積層された積層構造となっている。具体的には、実施形態2の制振シート100は、平面状のシート本体部110と、支持部102の基層104とが、一体的に成形されている。このシート本体部110と基層104とを成形する材料は、実施形態1と同様に、生ゴムやゴム、EPDM、EVA、リプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、オレフィン系樹脂、あるいは、それらの混合物を主剤とするものであるが、磁性体粉末であるフェライトは混入されていない。
【0050】
複数の支持部102の表層106は、基層104にコーティング材が塗工されることで形成されている。このコーティング材は、例えば、ポリエチレン等のオレフィン系のホットメルトに、磁性体粉末を混入したものである。そして、実施形態2の制振シート100は、複数の支持部102の表層106が着磁され、当該制振シート100の単位面積当たりの磁力による吸着力が24Nf/m以上390Nf/m以下とされたものとなっている。なお、コーティング材としては、アクリル樹脂や酢酸ビニルなどの水系エマルジョンに、磁性体粉末を混入したものとすることもできる。
【0051】
<実施形態2の変形例>
また、図13に示した制振シート100は、複数の支持部102のみにコーティング材が塗工されていたが、図14に示す実施形態2の変形例である制振シート120のように、制振シート120の片面側全体、つまり、複数の支持部122だけでなくシート本体部124も、上記コーティング材130に塗工された構成であってもよい。この変形例の制振シート120においては、複数の支持部122のみが着磁された構成であっても、当該制振シート120の片面全体が着磁された構成であってもよい。
【0052】
<他の実施形態>
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【0053】
上記実施形態1,2の制振シート10,100は、フロアパネル12に設けられていたが、それに限定されず、トランクルーム等の車両の他の個所に設けることも可能である。さらに言えば、本発明の制振シートは、複数の支持部が磁力を有しているため、水平面上に広がる箇所のみでなく、タイヤパンの車室内側面やダッシュパネルのような、水平面から傾斜した箇所や立壁などにも、容易に設けることができる。
【0054】
また、本発明の制振シートは、自動車に限定されず、自動車以外の乗物に用いることもできる。さらに言えば、電化製品や建造物など、振動を抑えたい種々のものに用いることも可能である。
【符号の説明】
【0055】
10…制振シート(実施形態1)、12…フロアパネル〔対象物〕、30…シート本体部、32…支持部、32a…接触面〔先端面〕、80…制振シート(実施形態1の変形例)、82…支持部、84…シート本体部、100…制振シート(実施形態2)、102…支持部、104…基層、106…表層、110…シート本体部、120…制振シート(実施形態2の変形例)、122…支持部、124…シート本体部
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