(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158763
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】超音波デバイス
(51)【国際特許分類】
H04R 17/00 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
H04R17/00 330J
H04R17/00 332A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074270
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】小島 力
(72)【発明者】
【氏名】久保 景太
(72)【発明者】
【氏名】新井 義雄
(72)【発明者】
【氏名】岩井 光
【テーマコード(参考)】
5D019
【Fターム(参考)】
5D019AA07
5D019BB19
5D019GG06
(57)【要約】
【課題】周波数特性を向上可能な超音波デバイスを提供する。
【解決手段】超音波デバイス20は、基板21と、基板21の一方側の面に設けられ、基板21を振動させる超音波素子としての圧電素子22と、圧電素子22を覆うように基板21の一方側の面に接合された保護部材23と、保護部材23の基板21側とは反対側に配置されたベース部材24と、保護部材23とベース部材24との間に設けられ、保護部材23とベース部材24とを接合する接合部26と、を備え、接合部26の音響インピーダンスは、保護部材23の音響インピーダンスより小さく、かつ、ベース部材24の音響インピーダンスより小さい。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の一方側の面に設けられ、前記基板を振動させる超音波素子と、
前記超音波素子を覆うように前記基板の前記一方側の面に接合された保護部材と、
前記保護部材の前記基板側とは反対側に配置されたベース部材と、
前記保護部材と前記ベース部材との間に設けられ、前記保護部材と前記ベース部材とを接合する接合部と、を備え、
前記接合部の音響インピーダンスは、前記保護部材の音響インピーダンスより小さく、かつ、前記ベース部材の音響インピーダンスより小さい、超音波デバイス。
【請求項2】
前記接合部は、エラストマーによって構成されている、請求項1に記載の超音波デバイス。
【請求項3】
前記接合部の厚さは、前記接合部における音速を、前記超音波素子により前記基板から送信される超音波の中心周波数で除した値以上である、請求項1または請求項2に記載の超音波デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超音波の送受信を行う超音波デバイスが知られている(特許文献1参照)。特許文献1に記載の超音波デバイスは、複数の振動部を備えた基板と、複数の振動部のそれぞれに設けられる超音波素子と、超音波素子を覆うように基板に接合される保護部材と、保護部材の基板側とは反対側に接合されるベース部材と、を備える。駆動信号を入力された超音波素子が振動部を振動させることで、振動部から超音波が送信される。また、対象物で反射された超音波が振動部を振動させることで、超音波素子が振動部の振幅に応じた受信信号を発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の特許文献1などの超音波デバイスにおいて、超音波素子が基板を振動させると、基板の正面から超音波が送信されるだけでなく、基板の背面から保護部材に振動が伝搬される。保護部材に伝搬した振動の一部は、保護部材またはベース部材による界面で反射した後、超音波素子に戻ってくる。このような振動が対象物で反射された超音波による基板の振動に重畳されると、いわゆる尾引きなどの残響異常が生じ、その結果、超音波デバイスの周波数特性が低下する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係る超音波デバイスは、基板と、前記基板の一方側の面に設けられ、前記基板を振動させる超音波素子と、前記超音波素子を覆うように前記基板の前記一方側の面に接合された保護部材と、前記保護部材の前記基板側とは反対側に配置されたベース部材と、前記保護部材と前記ベース部材との間に設けられ、前記保護部材と前記ベース部材とを接合する接合部と、を備え、前記接合部の音響インピーダンスは、前記保護部材の音響インピーダンスより小さく、かつ、前記ベース部材の音響インピーダンスより小さい。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本開示の一実施形態に係る超音波デバイスを用いた超音波計測装置の概略構成を示す模式図。
【
図2】本実施形態の超音波デバイスの基板の概略構成を示す平面図。
【
図3】
図2のA-A切断線に対応する超音波デバイスの断面図。
【
図4】実施例および比較例1,2の各構成を説明するための模式図。
【
図5】実施例に係る超音波デバイスの周波数特性を示すグラフ。
【
図6】比較例1に係る超音波デバイスの周波数特性を示すグラフ。
【
図7】比較例2に係る超音波デバイスの周波数特性を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本開示の一実施形態に係る超音波デバイスについて説明する。
図1は、本実施形態の超音波デバイス20を含んだ超音波計測装置100を示す模式図である。超音波計測装置100は、制御部10と、制御部10により制御されて超音波の送受信を行う超音波デバイス20とを備える。この超音波計測装置100において、超音波デバイス20は、対象物Wに向かって超音波を送信し、対象物Wで反射された超音波を受信する。制御部10は、超音波デバイス20による超音波の送信タイミングから受信タイミングまでの時間に基づいて、超音波デバイス20から対象物Wまでの距離を算出する。
【0008】
[制御部10の構成]
まず、制御部10について簡単に説明する。この制御部10は、
図1に示すように、スイッチング回路11、シグナルグラウンド12、送信回路部13、受信回路部14、およびマイコン15(マイクロコントローラー)を備える。
【0009】
スイッチング回路11は、超音波デバイス20の後述する下部電極に電気的に接続されている。このスイッチング回路11は、マイコン15の制御に基づいて、送信回路部13に接続される送信接続状態と、受信回路部14に接続される受信接続状態とを切り替え可能である。
シグナルグラウンド12は、超音波デバイス20の後述する上部電極に電気的に接続されるグラウンドであり、上部電極を所定の基準電位に維持する。
【0010】
送信回路部13は、マイコン15の制御により、駆動信号を生成し、超音波デバイス20に出力する。これにより、超音波デバイス20から対象物Wに向かって超音波が出力される。このとき、超音波デバイス20は、対象物Wで反射された超音波を受信し、受信信号を出力する。
【0011】
受信回路部14は、超音波デバイス20から出力された受信信号を処理してマイコン15に出力する。具体的には、受信回路部14は、アンプ、コンパレーター等の回路を備え、受信信号を所定のゲインで増幅し、コンパレーターで信号電圧が閾値を超える信号のゼロクロス点を検出してゼロクロス検出パルスをマイコン15に出力する。
【0012】
マイコン15は、各種プログラムや各種データが記憶されるメモリー、および、メモリーに記憶されたプログラムの命令セットを実行するプロセッサーを含む。そして、マイコン15は、メモリーに記憶されたプログラムをプロセッサーにより実行することで、超音波デバイス20による超音波の送受信処理を制御したり、受信回路部14から入力されるゼロクロス検出パルスに基づいて、超音波デバイス20から対象物Wまでの距離を算出したりする。
【0013】
[超音波デバイス20の構成]
図2は、超音波デバイス20の基板21の概略構成を示す平面図である。
図3は、
図2のA-A切断線に対応する超音波デバイス20の断面図である。
図3に示すように、超音波デバイス20は、正面21Aおよび背面21Bを有する基板21と、基板21の背面21B上に配置される圧電素子22と、圧電素子22を覆うように基板21の背面21Bに接合された保護部材23と、保護部材23の基板21側とは反対側に固定されたベース部材24とを備える。なお、
図2では、保護部材23およびベース部材24等の図示が省略されている。また、基板21と保護部材23との間は、基板用接合部25により接合され、保護部材23とベース部材24との間は、接合部26(本発明の接合部に相当)により接合されている。
【0014】
以下、基板21および保護部材23の積層方向をZ方向とし、基板21の正面21Aが対向する方向を+Z側とし、基板21の背面21Bが対向する方向を-Z側とする。また、Z方向に直交する方向をX方向とし、X方向およびZ方向に直交するY方向とする。
【0015】
図2に示すように、基板21をZ方向から見た平面視において、基板21は、素子領域Ar1および外周領域Ar2を有する。素子領域Ar1は、基板21の中央部に位置しており、外周領域Ar2は、素子領域Ar1を囲うように位置している。素子領域Ar1には、後述する超音波トランスデューサーTrがX方向およびY方向に沿って2次元アレイ状に配置されている。
【0016】
図3に示すように、基板21は、基板本体部211と、基板本体部211に対して-Z側に設けられた振動板212とを備える。基板本体部211は、振動板212を支持する部材であり、Si等の半導体基板で構成される。この基板本体部211の素子領域Ar1には、基板本体部211をZ方向に貫通する複数の開口部211Aが設けられている。複数の開口部211Aは、X方向およびY方向に沿ってアレイ状に配置されている。
【0017】
振動板212は、例えばSiO2およびZrO2の積層体等より構成されている。振動板212は、開口部211Aの-Z側を閉塞するように、基板本体部211に積層されている。振動板212のうち開口部211AとZ方向に重なる部分は、超音波の送受信を行う振動部212Aを構成する。
【0018】
圧電素子22は、基板21の背面21Bすなわち振動板212の-Z側の面において、振動部212Aに対応する領域にそれぞれ設けられている。この圧電素子22は、振動部212Aを振動させる超音波素子である。圧電素子22の詳細な構成の図示は省略するが、例えば、圧電素子22は、振動板212に順に積層される下部電極、圧電膜および上部電極により構成される。
【0019】
基板21の各振動部212Aと当該振動部212A上に配置された圧電素子22とは、それぞれ超音波トランスデューサーTrを構成する。超音波トランスデューサーTrでは、下部電極と上部電極との間に電圧が印加されると、圧電膜が伸縮することで、振動部212Aが開口部211Aの開口幅等に応じた発振周波数で振動する。これにより、発振周波数を中心とした周波数の超音波が振動部212Aから送信される。
また、対象物Wで反射された超音波が振動部212Aに入力されると、振動部212Aが入力された超音波の音圧に応じた振幅で振動し、圧電膜の下部電極側と上部電極側との間で電位差が発生する。これにより、各圧電素子22から当該電位差に応じた受信信号が出力される。
【0020】
保護部材23は、基板21の外周領域Ar2において、基板21の背面21Bに対して接合部26を介して接合されている。この保護部材23は、例えばシリコン基板等により構成され、基板21と略同一サイズの矩形状を有する。また、保護部材23には、複数の凹部232が設けられている。各凹部232は、対応する1以上の振動部212Aを収容する。保護部材23の凹部232により、保護部材23と圧電素子22との間にはZ方向の隙間空間が存在する。
また、保護部材23において隣り合う凹部232同士の間の部位である壁部233は、基板用接合部25を介して、基板21において隣り合う振動部212A同士の間の部位に接合されていてもよい。
【0021】
ベース部材24は、接合部26を介して、保護部材23の-Z側の面の全体に接合されている。このベース部材24は、例えば回路基板であってもよいし、超音波デバイス20の筐体に設けられる補強板などであってもよい。例えば、ベース部材24が回路基板である場合には、ベース部材24として、ガラスエポキシ基板などを利用できる。その他、ベース部材24として、ステンレス、ポリイミド、PET(ポリエチレンテレフタレート)を利用できる。
また、ベース部材24が回路基板である場合には、超音波トランスデューサーTrを制御するための制御部10がベース部材24に設けられてもよい。この場合、ベース部材24は、保護部材23に設けられた貫通電極やFPCなど、任意の配線構造により基板21上の端子に電気的に接続される。
【0022】
基板用接合部25は、特に限定されないが、永久レジストやエポキシ樹脂等の接着剤を利用できる。
接合部26は、エラストマーにより構成されることが好ましい。また、接合部26の形態は、接着剤であってもよいし、粘着フィルムであってもよい。
ここで、接合部26を構成するエラストマーとは、弾性を有する高分子材料である。接合部26は、熱可塑性エラストマーであってもよいし、熱硬化性エラストマーであってもよい。特に、接合部26は、粘弾性を有するゴム、例えばシリコーンなどであることが好ましい。
【0023】
本実施形態の超音波デバイス20は、接合部26の音響インピーダンスZが保護部材23の音響インピーダンスZよりも小さく、かつ、ベース部材24の音響インピーダンスZよりも小さくなるように構成されている。なお、音響インピーダンスZとは、音の伝搬のしやすさを数値で表すものであり、媒質の密度ρ(kg/m3)および媒質中の音速c(m/s)に基づいて、Z=p・cにより求められる。
例えば、保護部材23がシリコンである場合、保護部材23の音響インピーダンスZは、22.4(106kg/(m2・s))である。また、第2接合部がシリコーンである場合、第2接合部の音響インピーダンスZは1.5(106kg/(m2・s))である。また、ベース部がガラスエポキシ基板である場合、ベース部材の音響インピーダンスZは5.1(106kg/(m2・s))である。
【0024】
また、接合部26の厚さTは、以下の式(1)を満たすことが好ましい。ここで、Cは、接合部26における音速であり、Fは、振動部212Aから送信される超音波の中心周波数である。
T≧C/F ・・・式(1)
例えば、接合部26がシリコーンから構成される場合、接合部26における音速は1485m/秒である。振動部212Aから送信される超音波の中心周波数が7MHzである場合、式(1)により、接合部26の厚さTは、212μm以上であることが好ましい。
なお、接合部26の厚さTの上限は特に限定されないが、製造上、保護部材23とベース部材との間を接合する機能を実現しつつ、均一な厚みを実現できる厚さであればよい。
【0025】
[本実施形態の効果]
本実施形態の超音波デバイス20では、超音波トランスデューサーTrが超音波を送信する際、基板21の正面21A側から超音波が送信されるだけでなく、
図3の矢印Cに示すように、基板21の背面21B側から保護部材23に振動が伝搬される。保護部材23に伝搬した振動の一部は、保護部材23と接合部26との界面、接合部26とベース部材24との界面、および、ベース部材24と空気との界面のいずれかで反射した後、超音波トランスデューサーTrに戻ってくる。このような振動が対象物Wで反射された超音波による超音波トランスデューサーTrの振動に遅れて重畳されると、尾引きなどの残響異常が生じ、超音波デバイスの周波数特性が低下する。そこで、本実施形態は、超音波トランスデューサーTrに戻ってくる振動の割合を抑制することで、超音波デバイス20の周波数特性を向上させるものである。
【0026】
具体的には、本実施形態の超音波デバイス20では、上述したように、接合部26の音響インピーダンスが保護部材23の音響インピーダンスより小さく、かつ、ベース部材24の音響インピーダンスより小さい。このような構成では、保護部材23と接合部26との間、および、接合部26とベース部材24との間のそれぞれにおいて、音響インピーダンスのギャップが存在する。すなわち、接合部26は、音響インピーダンスのギャップを成す部材によって挟まれている。これにより、保護部材23から接合部26に伝搬した振動が接合部26内で多重反射し、この振動のエネルギーが接合部26内に閉じ込められる間に散逸される。よって、超音波トランスデューサーTrに戻ってくる振動の割合を抑制でき、超音波デバイス20の周波数特性を向上できる。その結果、超音波デバイス20を利用した超音波計測装置100による測定精度を向上できる。
【0027】
また、本実施形態の接合部26は、エラストマーにより構成されている。エラストマーは、接合部26内に閉じ込められた振動のエネルギーを好適に散逸させることができるため、超音波デバイス20の周波数特性を好適に向上できる。
【0028】
また、本実施形態の接合部26の厚さTは、接合部26における音速を、振動部212Aから送信される超音波の中心周波数で除した値以上である。このような構成によれば、接合部26内で振動を好適に多重反射させることができる。
【0029】
以下、本実施形態の超音波デバイス20の効果について、実施例および比較例1,2を用いて説明する。なお、実施例に係る超音波デバイスは、上述した超音波デバイス20に対応する構成を有する。
【0030】
図4は、実施例および比較例1,2に係る各超音波デバイスを模式的に示す図である。
実施例は、超音波を送受信するチップ30(本実施形態の基板21および圧電素子22に対応)と、チップ30の背面上に積層されかつエラストマー以外の樹脂から構成された第1樹脂層31(保護部材23に対応)と、第1樹脂層31上に積層されたエラストマー層32(接合部26に対応)と、エラストマー層32上に積層されかつエラストマー以外の樹脂から構成された第2樹脂層33(ベース部材24に対応)とを有する。第2樹脂層33のチップ30側とは反対側には空気層が存在する。
ここで、チップ30の音響インピーダンスをZ
Aとし、第1樹脂層31の音響インピーダンスをZ
Bとし、エラストマー層32の音響インピーダンスをZ
Cとし、第2樹脂層33の音響インピーダンスをZ
Dとし、空気の音響インピーダンスをZ
Eとする。
実施例において、各層の音響インピーダンスの関係は、Z
A>Z
B>Z
C<Z
D>Z
Eとなる。すなわち、エラストマー層32は、第1樹脂層31の音響インピーダンスより小さく、かつ、第2樹脂層33の音響インピーダンスより小さい。
【0031】
比較例1は、チップ30と、チップ30の背面上に積層された第1樹脂層31とを有する。第1樹脂層31のチップ30側とは反対側には空気層が存在する。
比較例1において、各層の音響インピーダンスの関係は、ZA>ZB>ZEとなる。比較例1では、第1樹脂層31は、音響インピーダンスのギャップによって挟まれているが、第1樹脂層31の音響インピーダンスは隣接する空気層の音響インピーダンスよりも大きい。
【0032】
比較例2は、チップ30と、チップ30の背面上に積層された第1樹脂層31と、第1樹脂層31上に積層された第2樹脂層33とを有する。第2樹脂層33のチップ30側とは反対側には空気層が存在する。
比較例2において、各層の音響インピーダンスの関係は、ZA>ZB=ZD>ZEとなる。比較例2では、第1樹脂層31および第2樹脂層33は、音響インピーダンスのギャップによって挟まれているが、第2樹脂層33の音響インピーダンスは隣接する空気層の音響インピーダンスよりも大きい。
【0033】
図5は、実施例にかかる超音波デバイスの周波数特性を示す図である。
図5に示すように、実施例にかかる超音波デバイスは、2.3MHz付近を中心周波数とした超音波を送受信するものであり、その周波数特性として、中心周波数から離れる程、振幅が緩やかに小さくなる様子が現れる。この実施例では、後述する比較例のようなディップDの発生が抑制されている。
【0034】
一方、
図6,
図7は、それぞれ比較例1,2にかかる各超音波デバイスの周波数特性を示す図である。なお、比較例1,2にかかる超音波デバイスでは、実施例にかかる超音波デバイスと同様、2.3MHz付近を中心周波数とした超音波を送受信するものとする。
図6,
図7に示すように、比較例1,2にかかる超音波デバイスでは、局所的に振幅が落ち込む周波数帯(いわゆるディップD)が現れる。このようなディップDは、チップ30の背面から伝搬した振動が空気層に到達するまでのいずれかの界面で反射し、チップ30の正面で受信される超音波による振動に重畳し、ある周波数帯において互いに打ち消し合うためと考えられる。すなわち、このようなディップDが存在する場合には、チップ30の背面から伝搬した振動による尾引きが生じると考えられる。
【0035】
以上の実施例および比較例1,2を検討すると、実施例は、隣接する第1樹脂層31および第2樹脂層33よりも音響インピーダンスの小さいエラストマー層32を有することにより、ディップDの発生を抑制できると考えられる。本実施形態の超音波デバイス20は、実施例のエラストマー層32に対応する接合部26を有するため、実施例と同様、ディップDの発生を抑制できる。すなわち、本実施形態の超音波デバイス20によれば、広い周波数範囲における周波数特性を向上できる。
【0036】
[変形例]
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形および改良によって得られる構成は本発明に含まれるものである。
【0037】
上記実施形態では、送受一体型の超音波トランスデューサーTrを備える超音波デバイス20について説明しているが、超音波送信部として機能する送信用超音波トランスデューサーと、超音波受信部として機能する受信用超音波トランスデューサーとがそれぞれ別体として設けられる構成としてもよい。
【0038】
上記実施形態では、超音波デバイス20を利用した電子機器として、超音波計測装置100を例示しているが、超音波デバイス20は、生体診断装置など、任意の電子機器に組み込むことができる。
【0039】
上記実施形態では、超音波素子として、振動部212Aに積層された下部電極、圧電体、および上部電極を備える圧電素子22を例示したが、これに限定されない。超音波素子は、所定周期で振動部212Aを振動させる構成であればよく、各種振動素子を適用することができる。
【0040】
上記実施形態では、接合部26が保護部材23の-Z側の全面に配置されているが、接合部26が保護部材23の-Z側の面の少なくとも一部に配置されていればよい。
【0041】
上記実施形態において、接合部26は、エラストマーにより構成されることが好ましいと説明されているが、音響インピーダンスの条件を満たすことができれば、エラストマー以外の材料により構成されてもよい。また、上記実施形態において、接合部26の厚さTの好ましい下限について説明されているが、当該下限よりも小さくてもよい。このような構成においても、接合部26を音響インピーダンスのギャップで挟むことによる効果を得ることができる。
【0042】
[本開示のまとめ]
本開示の第一態様に係る超音波デバイスは、基板と、前記基板の一方側の面に設けられ、前記基板を振動させる超音波素子と、前記超音波素子を覆うように前記基板の前記一方側の面に接合された保護部材と、前記保護部材の前記基板側とは反対側に配置されたベース部材と、前記保護部材と前記ベース部材との間に設けられ、前記保護部材と前記ベース部材とを接合する接合部と、を備え、前記接合部の音響インピーダンスは、前記保護部材の音響インピーダンスより小さく、かつ、前記ベース部材の音響インピーダンスより小さい。
このような構成によれば、接合部は、音響インピーダンスのギャップを成す部材によって挟まれている。これにより、保護部材から接合部に伝搬した振動が接合部内で多重反射し、この振動のエネルギーが接合部内に閉じ込められる間に散逸される。よって、保護部材から基板に戻ってくる振動の割合を抑制でき、超音波デバイスの周波数特性を向上できる。
【0043】
本態様に係る超音波デバイスにおいて、前記接合部は、エラストマーによって構成されていることが好ましい。これにより、接合部内に閉じ込められた振動のエネルギーを好適に散逸させることができる。
【0044】
本態様に係る超音波デバイスにおいて、前記接合部は、エラストマーによって構成され前記第2接合部の厚さは、前記接合部における音速を、前記超音波素子により前記基板から送信される超音波の中心周波数で除した値以上であることが好ましい。このような構成によれば、接合部内で振動を好適に多重反射させることができる。
【符号の説明】
【0045】
10…制御部、11…スイッチング回路、12…シグナルグラウンド、13…送信回路部、14…受信回路部、15…マイコン、20…超音波デバイス、21…基板、211…基板本体部、211A…開口部、212…振動板、212A…振動部、21A…正面、21B…背面、22…圧電素子、23…保護部材、232…凹部、233…壁部、24…ベース部材、25…基板用接合部、26…接合部、30…チップ、31…第1樹脂層、32…エラストマー層、33…第2樹脂層、100…超音波計測装置、Ar1…素子領域、Ar2…外周領域、D…ディップ、Tr…超音波トランスデューサー、W…対象物。