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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158778
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】窒化物半導体素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/32 20100101AFI20241031BHJP
【FI】
H01L33/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074298
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】奥秋 裕介
(72)【発明者】
【氏名】小林 敬嗣
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 恒輔
(72)【発明者】
【氏名】李 太起
【テーマコード(参考)】
5F241
【Fターム(参考)】
5F241AA03
5F241AA40
5F241AA44
5F241CA05
5F241CA40
5F241CA57
5F241CA60
5F241CA65
(57)【要約】
【課題】腐食の進行を抑制することが可能な窒化物半導体素子を提供する。
【解決手段】窒化物半導体素子は、AlN基板上に配置されたAlGa1-xN(0.8≦x≦1)で形成された第1導電型半導体層を有する。第1導電型半導体層の膜厚β[μm]は、少なくとも一部の領域において、0.5<β<15である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
AlN基板上に配置されたAlGa1-xN(0.8≦x≦1)で形成された第1導電型半導体層を有し、
前記第1導電型半導体層の膜厚β[μm]は、少なくとも一部の領域において、
0.5<β<15である窒化物半導体素子。
【請求項2】
前記膜厚β[μm]は、少なくとも一部の領域において、
0.5<β<10である請求項1に記載の窒化物半導体素子。
【請求項3】
前記AlN基板の厚さα[μm]と前記膜厚β[μm]は、少なくとも一部の領域において、
96<α<600、
0.5<β<10、
β<0.026α+0.848、
を全て満たす請求項1に記載の窒化物半導体素子。
【請求項4】
前記AlN基板の厚さα[μm]と、前記膜厚β[μm]は、少なくとも一部の領域において、
96<α<200、
0.5<β<0.026α+0.848、
を全て満たす請求項1に記載の窒化物半導体素子。
【請求項5】
前記AlN基板の厚さα[μm]と、前記膜厚β[μm]は、少なくとも一部の領域において、
96<α<200、
4≦β<0.026α+0.848、
を全て満たす請求項1に記載の窒化物半導体素子。
【請求項6】
当該窒化物半導体素子は発光素子である請求項1から5のいずれか1項に記載の窒化物半導体素子。
【請求項7】
前記第1導電型半導体層上に発光層を有する請求項6に記載の窒化物半導体素子。
【請求項8】
前記発光層の発光波長が215nm以上240nm以下である請求項7に記載の窒化物半導体素子。
【請求項9】
前記発光層の一部に、膜組成がAlGa1-xN(0.7≦x≦1)である量子井戸層を有する請求項7に記載の窒化物半導体素子。
【請求項10】
前記第1導電型半導体層の導電型はn型である請求項1から5のいずれか1項に記載の窒化物半導体素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は窒化物半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体素子としてサファイア基板上にIII族窒化物であるAlGaNを成長させる方法が、非特許文献1で開示されている。また、発光素子に関する従来技術として、例えば特許文献1から3に開示されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6621990号
【特許文献2】特開2022-117299号公報
【特許文献3】特開2020-1550252号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Applied Physics Express, 12, 012008, 2019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、窒化物半導体素子の長期的な信頼性保持の観点から、腐食の進行を抑制することが可能な窒化物半導体素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様においては、AlN基板上に配置されたAlGa1-xN(0.8≦x≦1)で形成された第1導電型半導体層を有し、前記第1導電型半導体層の膜厚β[μm]は、少なくとも一部の領域において、0.5<β<15である窒化物半導体素子を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、腐食の進行を抑制することが可能な窒化物半導体素子を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の実施形態の具体例1に係る窒化物半導体素子を示す断面図である。
図2図2は、本発明の実施形態の具体例2に係る窒化物半導体素子を示す断面図である。
図3図3は、割れ、反りに関しての実験結果を示すグラフである。
図4図4は、ウエハの厚さ[μm]と、光出力との関係をシミュレーションした結果を示すグラフである。
図5図5は、n-AlGa1-xN(0.8≦x≦1)の膜厚[μm]と、駆動電圧Vf[V]との関係をシミュレーションした結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0010】
以下の説明における上下等の方向の定義は、単に説明の便宜上の定義であって、本発明の技術的思想を限定するものではない。例えば、対象を90°回転して観察すれば上下は左右に変換して読まれ、180°回転して観察すれば上下は反転して読まれることは勿論である。
【0011】
以下の説明では、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の文言を用いて、方向を説明する場合がある。例えば、X軸方向及びY軸方向は、後述のAlN基板1の表面(すなわち、AlN_HOMO層3の被形成面)に平行な方向である。Z軸方向は、AlN基板1の厚さ方向であり、AlN基板1の表面の法線方向である。X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向は、互いに直交する。
【0012】
<第1実施形態>
第1実施形態に係る窒化物半導体素子は、AlN基板上に配置されたAlGa1-xN(0.8≦x≦1)で形成された第1導電型半導体層を有する。以降の説明では、第1導電型半導体層をAlGa1-xN(0.8≦x≦1)と呼称する。第1導電型半導体層、すなわち、AlGa1-xN(0.8≦x≦1)の膜厚β[μm]は、少なくとも一部の領域において、0.5<β<15である。
【0013】
本発明者らは、高温・高湿条件下で、AlN基板上に配置されたAlGa1-xNの腐食性に関して鋭意検討した。その結果、AlGa1-xNにおけるAl組成が高くなると腐食が発生し易くなる傾向があることを発見した。例えば、n型の(以下、n-)Al0.7Ga0.3Nを用いた窒化物半導体素子では腐食が発生しない高温・高湿条件下であっても、Al組成が高いn-AlGa1-xN(0.8≦x≦1)を用いた窒化物半導体素子では腐食が発生することを発見した。
【0014】
また、本発明者らは、AlN基板上に配置されたn-AlGa1-xN(0.8≦x≦1)の腐食性と、AlN基板上に配置されたn-AlGa1-xN(0.8≦x≦1)の膜厚β[μm]との間には相関があることを見出した。本発明者らは、上記の膜厚βが0.5[μm]未満であるとn-AlGa1-xN(0.8≦x≦1)が腐食し易く、膜厚βが0.5[μm]以上であるとAlGa1-xN(0.8≦x≦1)が腐食し難いことを発見した。
【0015】
また、n-AlGa1-xN(0.8≦x≦1)は、例えばMOCVD装置で成膜することができる。MOCVD装置は、AlN基板を保持するサセプタと、サセプタで保持されたAlN基板に原料ガスを供給するシャワーヘッドとを備える。本発明者は、AlN基板上に成膜されるn-AlGa1-xN(0.8≦x≦1)の膜厚β[μm]を適切な値に設定することで、シャワーヘッドの詰まりや、サセプタ上のパーティクル堆積を抑制できることを発見した。例えば、膜厚βが15[μm]未満であると、シャワーヘッドの詰まりや、サセプタ上のパーティクル堆積を抑制できることを発見した。
【0016】
以上の発見から、第1実施形態に係る窒化物半導体素子は、AlGa1-xN(0.8≦x≦1)の膜厚β[μm]を、少なくとも一部の領域において、0.5<β<15の範囲の値にすることにより、AlGa1-xN(0.8≦x≦1)の腐食の進行を抑制することができる。これにより、窒化物半導体素子の長期的な信頼性向上を図ることができる。また、AlGa1-xN(0.8≦x≦1)を成膜する装置のシャワーヘッドの詰まりや、サセプタ上のパーティクル堆積を抑制できる。これにより、成膜装置のメンテナンス頻度を低減することができるので、窒化物半導体素子の製造コストの低減を図ることができる。
【0017】
<実施形態2>
第2実施形態に係る窒化物半導体素子は、AlN基板上に配置されたAlGa1-xN(0.8≦x≦1)を有する。AlGa1-xN(0.8≦x≦1)の膜厚β[μm]は、少なくとも一部の領域において、0.5<β<10である。
【0018】
本発明者らは、AlN基板上のAlGa1-xN上に配置された、多重量子井戸(MQW:Multiple Quantum Well)構造、すなわち発光層の格子緩和に関して鋭意検討した。その結果、AlGa1-xNの膜厚を適切な範囲に設定することで、MQW構造の格子緩和を抑制することができることを発見した。
【0019】
例えば、n-Al0.87Ga0.13Nを用いた窒化物半導体素子では、n-Al0.87Ga0.13Nの膜厚が10[μm]以上になると、n-Al0.87Ga0.13Nは格子緩和しないが、その上に配置されるMQW構造(発光層)ではAlNの格子定数から30%緩和されることを発見した。MQW構造において格子緩和が生じると、例えば貫通転位密度が増え、発光効率が低下する可能性がある。
【0020】
また、本発明者らは、n-Al0.87Ga0.13Nの膜厚が0.5[μm]、3[μm]の場合はいずれも、n-Al0.87Ga0.13Nは格子緩和せず、その上に配置されるMQW構造も格子緩和しないことを発見した。n-AlGaNの膜厚を適切な範囲に設定することで、MQWの格子緩和を抑制することができることを発見した。
【0021】
以上の発見から、第2実施形態に係る窒化物半導体素子は、AlGa1-xN(0.8≦x≦1)の膜厚β[μm]を、少なくとも一部の領域において、0.5<β<10の範囲の値にすることにより、AlGa1-xN(0.8≦x≦1)上に配置されるMQW構造の格子緩和を抑制することができる。これにより、例えば、MQW構造(発光層)の貫通転位密度を1e7/cmより小さい値にすることができ、発光効率の低下を抑制することができる。
【0022】
また、第2実施形態に係る窒化物半導体素子の少なくとも一部の領域において、AlGa1-xN(0.8≦x≦1)の膜厚β[μm]の範囲は、第1実施形態に記載された範囲を満たす。このため、第2実施形態に係る窒化物半導体素子は、第1実施形態の効果(腐食の進行抑制、パーティクルの堆積抑制)も奏する。
【0023】
<実施形態3>
第3実施形態に係る窒化物半導体素子は、AlN基板上に配置されたAlGa1-xN(0.8≦x≦1)を有する。AlN基板の厚さα[μm]と、AlGa1-xN(0.8≦x≦1)の膜厚β[μm]は、少なくとも一部の領域において、96<α<600、0.5<β<10、β<0.026α+0.848、を全て満たす。
【0024】
本発明者らは、AlN基板上に配置されたAlGa1-xNを有する窒化物半導体素子の製造工程のうち、特にダイシングなどの後工程で、真空チャック等でウエハを固定したときに、ウエハに割れが生じ易いことを発見した。AlN基板を用いた格子歪系の窒化物半導体素子では、例えば光取り出し効率を向上させるため、AlN基板を薄くする必要がある。しかし、光取り出し効率を向上させ、出力を向上させるためにウエハ(AlN基板)の裏面を研削・研磨して薄くすると、ウエハ反りが顕著になる傾向がある。反りが生じたウエハを真空チャック等で固定するとウエハ割れが生じ易い。
【0025】
そこで、本発明者らは、AlN基板を用いた窒化物半導体素子のウエハ反りとウエハ割れとが生じる条件に関して、鋭意検討した。その結果、ウエハ(AlN基板)の厚さが100[μm]以下で、AlGa1-xN(0.8≦x≦1)の膜厚が2[μm]以下の場合に、ウエハに激しい反りが生じることを発見した。ウエハ(AlN基板)の厚さとAlGa1-xN(0.8≦x≦1)の膜厚をそれぞれ適切な値に設定することで、ダイシングなどの後工程でのウエハ割れを防ぐことができることを発見した。
【0026】
以上の発見から、第3実施形態に係る窒化物半導体素子は、AlN基板の厚さα[μm]と、AlGa1-xN(0.8≦x≦1)の膜厚β[μm]を、少なくとも一部の領域において、96<α<600、0.5<β<10、β<0.026α+0.848、を全て満たす範囲の値に設定することで、ダイシングなどの後工程でウエハ(AlN基板)割れを防ぐことができる。
【0027】
また、第3実施形態に係る窒化物半導体素子の少なくとも一部の領域において、AlGa1-xN(0.8≦x≦1)の膜厚β[μm]の範囲は、第2実施形態に記載された範囲を満たす。このため、第3実施形態に係る窒化物半導体素子は、第1、第2実施形態の各効果(腐食の進行抑制、パーティクルの堆積抑制、MQWの格子緩和抑制)も奏する。
【0028】
なお、サファイア基板を用いた格子緩和系では、サファイアが光を透過するのでウエハを研削・研磨して薄くする必要はない。ウエハを研削・研磨して薄くする工程は、AlN基板を用いた格子歪系に特有の工程である。
【0029】
<第4実施形態>
第4実施形態に係る窒化物半導体素子は、AlN基板上に配置されたAlGa1-xN(0.8≦x≦1)を有する。AlN基板の厚さα[μm]と、AlGa1-xN(0.8≦x≦1)の膜厚β[μm]は、少なくとも一部の領域において、96<α<200、0.5<β<0.026α+0.848、を全て満たす。
【0030】
光を透過するサファイア基板と異なり、AlN基板は光を吸収する。そのため、光出力(光強度)を向上させるためには、AlN基板を研削・研磨して、薄膜化することが必要になる。本発明者らは、AlN基板上に配置されたAlGa1-xNを有する窒化物半導体素子において、AlN基板の厚さと光出力との関係を調査した。その結果、AlN基板の厚さが厚くなるほど光出力は低下し、例えば、AlN基板の厚さが200[μm]以上になると、AlN基板の厚さが0に近い場合と比べて、光出力が半減するという知見を得た(後述の図4参照)。
【0031】
以上から、第4実施形態に係る窒化物半導体素子は、AlN基板の厚さα[μm]と、AlGa1-xN(0.8≦x≦1)の膜厚β[μm]を、少なくとも一部の領域において、96<α<200、0.5<β<0.026α+0.848、を全て満たす範囲の値にすることにより、光出力の低下を抑制することができる。
【0032】
また、第4実施形態に係る窒化物半導体素子の少なくとも一部の領域において、AlN基板の厚さα[μm]、AlGa1-xN(0.8≦x≦1)の膜厚β[μm]の各範囲は、第3実施形態に記載された範囲を満たす。このため、第4実施形態に係る窒化物半導体素子は、第1から第3実施形態の各効果(腐食の進行抑制、パーティクルの堆積抑制、MQWの格子緩和抑制、ウエハの割れ防止)も奏する。
【0033】
<第5実施形態>
第5実施形態に係る窒化物半導体素子は、AlN基板上に配置されたAlGa1-xN(0.8≦x≦1)を有する。AlN基板の厚さα[μm]と、AlGa1-xN(0.8≦x≦1)の膜厚β[μm]は、少なくとも一部の領域において、96<α<200、4≦β<0.026α+0.848、を全て満たす。
【0034】
AlN基板上にAl組成の高いAlGa1-xNを成膜する場合、AlGa1-xNのシート抵抗は非常に高くなる。窒化物半導体素子を横型の発光素子として用いる場合、シート抵抗が高くなると、窒化物半導体素子全体の抵抗成分が増えるため、窒化物半導体素子を駆動するための駆動電圧が高くなる。またシート抵抗が高くなると、メサ端部に電流が集中しやすくなり、信頼性を低下させるという新たな問題も生じる。シート抵抗は厚膜になるほど小さくなる。シート抵抗を低減するために、AlGa1-xN(0.8≦x≦1)を厚膜化する必要がある。
【0035】
そこで、本発明者らは、AlN基板上に配置されたAlGa1-xNの膜厚と、窒化物半導体素子の駆動電圧Vfとの関係を調査した。その結果、例えば、n-AlGa1-xN(0.8≦x≦1)の膜厚が0.5[μm]から4[μm]の範囲では、n-AlGa1-xN(0.8≦x≦1)の膜厚が増えるにしたがって、窒化物半導体素子の駆動電圧Vfが指数関数的に減衰することを発見した。また、n-AlGa1-xN(0.8≦x≦1)の膜厚が4[μm]以上になると、膜厚に対する駆動電圧Vfの減衰が極めて小さくなることを発見した(後述の図5参照)。
【0036】
駆動電圧Vfの低減を考慮すると、n-AlGa1-xN(0.8≦x≦1)の膜厚は4[μm]以上であることが好ましい。
【0037】
以上から、第5実施形態に係る窒化物半導体素子は、AlN基板の厚さα[μm]と、AlGa1-xN(0.8≦x≦1)の膜厚β[μm]を、少なくとも一部の領域において、96<α<200、4≦β<0.026α+0.848、を全て満たす範囲の値にすることにより、窒化物半導体素子の駆動電圧Vfを低減することができる。
【0038】
また、第5実施形態に係る窒化物半導体素子の少なくとも一部の領域において、AlN基板の厚さα[μm]の範囲は、第4実施形態に記載された範囲を満たす。このため、第5実施形態に係る窒化物半導体素子は、第1から第4実施形態の各効果(腐食の進行抑制、パーティクルの堆積抑制、MQWの格子緩和抑制、ウエハの割れ防止、光出力の低下抑制)も奏する。
【0039】
次に、上記第1から第5実施形態の窒化物半導体素子に共通した事項を説明する。
<基板>
本実施形態の窒化物半導体素子の基板は、AlN基板である。AlN基板を用いることにより、その上にAlGa1-xN(0.8≦x≦1)を結晶性高く配置することが可能である。AlN基板の厚さα[μm]は特に制限されないが、ウエハ割れ防止等の観点から96[μm]以上600[μm]以下であることが好ましい場合があり、さらに出力向上等の観点から96[μm]以上200[μm]以下であることが好ましい場合がある。
【0040】
なお、本実施形態の窒化物半導体素子の説明において、「Aの上にBを配置する」とは、Aの表面上に直接Bを配置する形態と、Aの表面から別の物質を介して間接的にBを配置する形態の両方を意味する。
【0041】
<HOMO層>
本実施形態の窒化物半導体素子は、基板と第1半導体層との間に、基板と同一組成を有するHOMO層を備えてもよい。上述したように、本実施形態の窒化物半導体素子において、基板はAlNであるため、HOMO層もAlNで構成される。AlNで構成されるHOMO層(以下、AlN_HOMO層)は、例えばエピタキシャル成長法により単結晶に形成される。AlN_HOMO層の厚さは特に制限されないが、例えば100nm以上3000nm以下であり、高い結晶性を実現するという観点から300nm以上1000nm以下が好ましい。
【0042】
<第1導電型半導体層>
本実施形態の窒化物半導体素子の第1導電型半導体層は、AlGa1-xN(0.8≦x≦1)である。AlGa1-xN(0.8≦x≦1)は、その上に多重量子井戸(MQW)構造を配置することが可能である。第1導電型とは、n型又はp型のことである。第1導電型がn型の場合、第2導電型はp型となる。第1導電型がp型の場合、第2導電型はn型となる。
【0043】
n型導電性を示す半導体層を得る方法は特に制限されないが、例えばSiをn型ドーパントとして用いる方法が挙げられる。同様に、p型導電性を示す半導体層を得る方法も特に制限されないが、例えばMgをp型ドーパントとして用いる方法が挙げられる。特に制限されないが、結晶性や表面平坦性の観点から、AlGa1-xN(0.8≦x≦1)の導電型はn型であることが好ましい場合がある。
【0044】
AlGa1-xN(0.8≦x≦1)の膜厚β[μm]は、腐食防止等の観点から0.5[μm]以上15[μm]以下が好ましい場合があり、さらに多重量子井戸(MQW)構造の格子緩和防止等の観点から0.5[μm]以上10[μm]以下が好ましい場合があり、さらに駆動電圧向上の観点から4[μm]以上が好ましい場合がある。
【0045】
<多重量子井戸構造>
本実施形態の窒化物半導体素子は、AlGa1-xN(0.8≦x≦1)上に配置された多重量子井戸(MQW)構造を備えてもよい。多重量子井戸構造は、例えば、AlGa1-xN層(0.7≦x≦1)とAlGa1-yN層(y>x)が5周期以上200周期以下繰り返し積層した構造を有する。
【0046】
多重量子井戸構造として、AlGa1-xN層(0.7≦x≦1)とAlGa1-yN層(y>x)が5周期以上200周期以下繰り返した構造を採用することにより、外部量子効率が格段に向上する。
【0047】
一般に、繰り返し構造のうちバンドギャップが小さい方の層は量子井戸層(Quantum Well層)と称され、バンドギャップが大きい方はバリア層と称される。
【0048】
膜組成がAlGa1-xN層(0.7≦x≦1)とAlGa1-yN層(y>x)の繰り返し構造とすることにより、駆動電圧の上昇や格子緩和による結晶性の悪化を抑制しつつ、外部量子効率が向上する。なお、外部量子効率とは、例えば、紫外線発光素子において、紫外線発光素子の外部に放出される単位時間あたりの光量子数と、紫外線発光素子に流れる電流(すなわち、紫外線発光素子を流れる単位時間あたりの電子数)との比で定義される。この比は、例えば百分率(%)で示される。
【0049】
また、AlGa1-xN層(0.7≦x≦1)とAlGa1-yN層(y>x)の繰り返し構造であることによって中心発光波長は200~240nmとなり、波長の短い紫外線を高い外部量子効率で発光することが可能となる。
【0050】
多重量子井戸構造を構成するAlGa1-xN層(0.7≦x≦1)とAlGa1-yN層(y>x)のそれぞれの厚みは特に制限されないが、内部量子効率の観点からAlGa1-xN層(0.7≦x≦1)の厚みは0.25nm以上2.0nm以下であることが好ましく、0.25nm以上1.5nm以下であることがより好ましい場合がある。なお、内部量子効率とは、例えば、紫外線発光素子の結晶内部で発生する単位時間あたりの光量子数と、紫外線発光素子に流れる電流(すなわち、紫外線発光素子を流れる単位時間あたりの電子数)との比で定義される。この比は、例えば百分率(%)で示される。
【0051】
AlGa1-yN層(y>x)の膜厚は特に制限されないが、内部量子効率の観点から2nm以上20nm以下であることが好ましい場合がある。
【0052】
<電子ブロック層>
本実施形態の窒化物半導体素子は、電子をブロックして多重量子井戸構造に電子をより注入させるという観点から、多重量子井戸構造と第2導電型半導体層との間に、AlGa1-bN層(b>x)を備えてもよい。AlGa1-bN層(b>x)は、b=1、すなわち、AlN層であってもよい。AlGa1-bN層(b>x)は電子ブロック層とも呼ばれる。
【0053】
<グレーデッド層>
本実施形態の窒化物半導体素子は、第2導電型半導体層から多重量子井戸構造への電子あるいは正孔の注入効率を向上させるという観点から、多重量子井戸構造と第2導電型半導体層との間に、AlGa1-cN層(cは、0.15以上0.95以下であり、多重量子井戸構造側から第2導電型半導体層側にかけて連続的または段階的に減少する)層を備えていてもよい。このとき、AlGa1-cN層のcは0.15未満や0.95を超過する範囲を含むことを妨げるものではない。例えば、AlGa1-cN層のcは、0以上1以下であり、多重量子井戸構造側から第2導電型半導体層側にかけて連続的又は段階的に減少するものであってもよい。このような場合も、AlGa1-cN層のcは0.15以上0.95以下において連続的または段階的に減少する構成を含むため、本実施形態のAlGa1-cN層に含まれる。
【0054】
<第2導電型半導体層>
本実施形態の紫外線発光素子は、多重量子井戸構造上に配置された第2導電型半導体層を備えてもよい。第2導電型半導体層は、多重量子井戸構造上に配置されるものであれば特に制限されない。第2導電型半導体層の具体的な膜組成の一例としては、AlN、GaN、InNおよびこれらの混晶が挙げられる。電気伝導や接触抵抗の観点から、第2導電型半導体層はp-AlGaNであることが好ましい場合がある。
【0055】
第2導電型半導体層の厚みは特に制限されないが、高い光出力を実現するという観点から、5nm以上110nm以下であることが好ましく、さらに15nm以上90nm以下がより好ましい。
【0056】
<電極>
本実施形態の窒化物半導体素子は、多重量子井戸構造に電子および正孔を効率的に注入するために電極を備えていてもよい。電極は特に制限されないが、AlGa1-xN(0.8≦x≦1)と電気的に接続される第1電極と、第2導電型半導体層と電気的に接続される第2電極であってもよい。電極は物理的に接触する層とオーミック接続となることが好ましい。第1電極、あるいは第2電極にはAl、Au、Ti、Ni、Va、Cr、Rh、Mo、Pt、Taなどの金属あるいはこれらの混晶が挙げられる。
【0057】
<発光波長>
本実施形態の窒化物半導体素子は、発光素子に用いてよい。本実施形態の窒化物半導体素子を発光素子として用いる場合は、波長が215nm以上240nm以下の光を放出するものであることが好ましく、中心発光波長が220nm以上230nm以下の光を放出するものであることがより好ましい。波長が215nm以上240nm以下の光を放出するものにするための方法は特に制限されないが、例えば多重量子井戸構造における量子井戸層のAl組成を0.70以上1.0以下にする方法や多重量子井戸構造における量子井戸層の膜厚を2nm以下にする方法などが挙げられる。
【0058】
<絶縁層>
本実施形態に係る窒化物半導体素子は、信頼性の観点から表面の少なくとも一部が絶縁層で覆われていてもよい。絶縁層の材料としては特に制限されないが、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウムなどが挙げられる。
【0059】
<測定方法>
(膜厚測定)
本実施形態の窒化物半導体素子の各層の膜厚は、基板の主面に垂直な所定断面を切り出して、この断面を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察し、TEM測長機能を使用することで測定できる。測定方法としては、先ず、TEMを用いて、窒化物半導体素子の基板の主面に対して垂直な断面を観察する。具体的には、例えば、窒化物半導体素子の基板の主面に対して垂直な断面を示すTEM画像内の、基板の主面に対して平行な方向において2[μm]以上の範囲を観察幅とする。この観察幅の範囲において、組成の異なる二層の界面にはコントラストが観察されるので、この界面までの厚さを、幅200nmの連続する観察領域で観察する。この200nm幅の観察領域内に含まれる各層の厚さの平均値を、上記2[μm]以上の観察幅から任意に抽出した5箇所から算出することで、各層の膜厚を得る。
【0060】
(組成測定)
本実施形態の窒化物半導体素子の各層の組成の測定法として、X線回折(XRD:X-Ray Diffaction)法による逆格子マッピング測定(RSM:ReciprocAl Space Mapping)が挙げられる。具体的には、非対称面を回折面として得られる回折ピーク近傍の逆格子マッピングデータを解析することにより、Al組成が得られる。上記回折面としては、例えば(10-15)面や(20-24)面が挙げられる。
【0061】
また、量子井戸層やグレーデッド層などのXRDで十分な反射強度が得られない層については、X線光電分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)、エネルギー分散型X線分光法(EDX:Energy Dispersive X-ray spectroscopy)、および電子エネルギー損失分光法(EELS:Electron Energy-Loss Spectroscopy)によって測定することができる。
【0062】
EELSでは、電子線が試料を透過する際に失うエネルギーを測定することで、試料の組成を分析する。具体的には、例えば、TEM観察等で使用する薄片化試料において、透過電子線の強度のエネルギー損失スペクトルを測定・解析する。そして、エネルギー損失量20eV付近に現れるピークのピーク位置が、各層の組成に応じて変化することを利用し、ピーク位置から組成を求めることができる。
【0063】
上述のTEM観察による層厚算出方法と同様にして、観察幅200nmにおけるAl組成の平均値を、2[μm]以上の観察領域から任意に抽出した5箇所から算出することで、各層のAl組成を得る。
【0064】
EDXでは、上述のTEM観察等で使用する薄片化試料において電子線によって発生する特性X線を測定・解析する。上述のTEM観察による層厚算出方法と同様にして、観察幅200nmにおけるAl組成の平均値を、2[μm]以上の観察領域から任意に抽出した5箇所から算出することで、各層のAl組成を得る。
【0065】
XPSでは、イオンビームを用いたスパッタエッチングを行いながらXPS測定を行うことで、深さ方向の評価が可能である。イオンビームには一般的にAr+が用いられるが、XPS装置に搭載されたエッチング用イオン銃で照射できるイオンであれば、例えばArクラスターイオンなどの他のイオン種でもよい。Al、Ga、NのXPSピーク強度を測定・解析して各層のAl組成の深さ方向分布を得る。スパッタエッチングの代わりに、基板の主面に対して垂直な断面が拡大されて露出されるようにレーザダイオードを斜め研磨して、露出断面をXPSで測ってもよい。
【0066】
XPSだけでなくオージェ電子分光法(AES:Auger Electron Spectroscopy)を用いても各層の組成を測定できる。この場合、スパッタエッチングあるいは斜め研磨により露出させた断面においてオージェ電子分光法による測定を行うことで、組成を測定できる。また、斜め研磨により露出させた断面に対するSEM-EDX測定によっても、各層の組成を測定できる。本実施形態の窒化物半導体素子の多重量子井戸構造の繰り返し周期の数は、量子井戸層の数で定義され、上記と同様にTEM観察により測定することが可能である。
【0067】
(発光波長測定)
本実施形態の窒化物半導体素子の発光波長は、フォトルミネッセンス(PL)測定により測定することが可能である。以下、PL測定の詳細について説明する。
【0068】
PL測定では、量子井戸層のバンドギャップエネルギーよりも大きなエネルギーを持つレーザ光を、試料表面から45度程度傾いた角度で照射する。その際に、レンズを用いて試料へ照射するスポット径を小さくしてもよいし、フィルタを用いてレーザ光の強度を変えてもよい。照射されたレーザ光によって、試料の量子井戸層では電子が伝導体に励起され、電子正孔対を生成する。その後、励起された電子は基底状態に戻り、正孔との再結合の過程でバンドギャップに応じた波長の光を発生させる。発生させた光はサンプル直上から取得する。取得した光は回折格子を通すことで光を波長ごとに分解して、試料の発光波長を測定できる。
【0069】
<具体例1>
(構造)
図1は、本発明の実施形態の具体例1に係る窒化物半導体素子100を示す断面図である。図1に示すように、窒化物半導体素子100は、例えば、AlN基板1と、AlN基板1上に配置されたホモエピタキシャル層であるAlN_HOMO層3と、AlN_HOMO層3上に配置されたAlGa1-xN(0.8≦x≦1)5とを備える。AlGa1-xN(0.8≦x≦1)5の膜厚β[μm]は、少なくとも一部の領域において、0.5<β<15である。
【0070】
AlGa1-xN(0.8≦x≦1)5の一例として、n型のAl0.87Ga0.13Nが挙げられる。窒化物半導体素子100は、例えば発光素子の下地膜に使用される。また、窒化物半導体素子100は、
発光素子の下地膜に限定されるものではなく、パワー半導体などの下地膜に使用されてもよい。
【0071】
AlGa1-xN(0.8≦x≦1)5はSiをドープしたn型であることが好ましい。AlGa1-xN(0.8≦x≦1)5は有機金属気相成長(MOCVD)装置を用いて成膜される。本発明者らは、AlN上のAlGa1-xN(0.8≦x≦1)について、厚さを15[μm]以上にすると、原料ガスを大量に使用することにより、MOCVD装置のシャワーヘッドの目詰まりや、サセプタ上にパーティクルが生じ堆積するといった不具合が発生するという知見を得た。そこで、本発明者らは、AlN上のAlGa1-xN(0.8≦x≦1)について、厚さ15[μm]が安定に生産できる厚さの上限であると結論付けた。
【0072】
(製造方法)
AlN基板1として、厚さが550[μm]の(0001)面AlN単結晶基板を用意した。この(0001)面AlN単結晶基板に、有機金属気相成長(MOCVD)装置を用いてアニール処理を行った。アニール処理は、1300℃の環境下において、NH雰囲気中での5分間のアニールおよびH2雰囲気中での5分間のアニールを1セットとして、2セットの処理を行った。
【0073】
次に、AlN単結晶基板上に、ホモエピタキシャル層であるAlN層を形成した。このAlN層が、AlN_HOMO層3である。AlN層は、1200℃の環境下において500nmの厚さで形成した。また、Al原料としてトリメチルアルミニウム(TMAl)を用いた。また、N(窒素)原料としてアンモニア(NH)を用いた。
【0074】
n型のAlGa1-xN(0.8≦x≦1)5は、1080℃の温度で、真空度を50mbarに設定し、350nmの厚さで形成した。また、Al原料としてトリメチルアルミニウム(TMAl)を用いた。また、Ga原料としてトリエチルガリウム(TEGa)を用いた。また、N原料としてアンモニア(NH)を用いた。また、Si原料としてモノシラン(SiH)を用いた。以上の工程を経て、図1に示した窒化物半導体素子100が完成する。
【0075】
<具体例2>
(構造)
図2は、本発明の実施形態の具体例2に係る窒化物半導体素子100Aを示す断面図である。図2に示すように、窒化物半導体素子100Aは、単位素子として、AlN基板1上に配置されたホモエピタキシャル層であるAlN_HOMO層3と、AlN_HOMO層3上に配置されたn型のAlGa1-xN(0.8≦x≦1)と、AlGa1-xN(0.8≦x≦1)の第1領域上に配置されたn電極7(第1電極の一例)と、AlGa1-xN(0.8≦x≦1)の第2領域上に配置された多重量子井戸構造9と、多重量子井戸構造9上に配置された電子ブロック層11と、電子ブロック層11上に配置されたグレーデッド層13と、p型のグレーデッド層13上に配置されたp型のGaN層15と、p型のGaN層15上に配置されたp電極17(第2電極の一例)とを備える。
【0076】
窒化物半導体素子100Aは、AlN基板1上に上記の単位素子を複数備える。例えば、複数の単位素子UDは、互いに同一形状を有する。複数の単位素子UDは、AlN基板1の表面1aに平行な一方向(図2では、紙面の左右方向)に繰り返し配置されている。
【0077】
窒化物半導体素子100Aが放出する光の波長は、例えば、200nm以上240nm以下であり、AlN基板1の裏面1bから光を取り出す。光取り出し効率を向上させるために、窒化物半導体素子100Aの製造工程では、ウエハレベルでAlN基板1の裏面1bを研削・研磨して、その厚さを例えば100[μm]としている。
【0078】
(製造方法)
n型のAlGa1-xN(0.8≦x≦1)上に20回の繰り返し周期をもつ多重量子井戸構造9を形成した。多重量子井戸構造9は、量子井戸層(AlGa1-xN)とバリア層(AlyGa1-yN)とを含む。多重量子井戸構造9は、量子井戸層とバリア層が5周期以上200周期以下繰り返し積層した構造を有する。この例では、多重量子井戸構造9における量子井戸層とバリア層の繰り返しの周期を20周期とし、多重量子井戸構造9の膜厚を134nmとした。
【0079】
量子井戸層は、AlGa1-xNである。量子井戸層の厚さは、1nm、Al組成は82%とした。バリア層は、AlyGa1-yNである。バリア層の厚さは6nm、Al組成は92%とした。AlGa1-xN(0.8≦x≦1)5と同様に、多重量子井戸構造9における量子井戸層とバリア層の形成条件は、1080℃の温度で、真空度を50mbarに設定した。また、Al原料としてトリメチルアルミニウム(TMAl)を用いた。また、Ga原料としてトリエチルガリウム(TEGa)を用いた。また、N原料としてアンモニア(NH)を用いた。なお、繰り返し周期の始めと終わりは量子井戸層である。
【0080】
続いて、繰り返し周期をもつ多重量子井戸構造9上に電子ブロック層11を形成した。電子ブロック層11は、ドーパントを含まないAlN層とした。電子ブロック層11は、1080℃の温度で、真空度を50mbarに設定し、10nmの厚さで形成した。また、Al原料としてトリメチルアルミニウム(TMAl)を用いた。
【0081】
続いて、電子ブロック層11上にp型のグレーデッド層13を形成した。p型のグレーデッド層13は、AlN基板1から遠ざかる方向にAl組成が減少する分布をもち、Al=0.85から0.25まで変化する40nmの厚みを有するAlGaN層である。
【0082】
p型のグレーデッド層13の形成条件は、1080℃の温度で、真空度を50mbarに設定した。また、Al原料としてトリメチルアルミニウム(TMAl)を用いた。また、Ga原料としてトリエチルガリウム(TEGa)を用いた。
【0083】
続いて、p型のグレーデッド層13上にp型のGaN層15を形成した。p型のGaN層15は、第2導電型半導体層(コンタクト層)である。p型のGaN層15の形成条件は、950℃の温度で、真空度を50mbarに設定し、8nmの厚さに形成した。また、Ga原料としてトリメチルガリウム(TMGa)を用いた。
【0084】
次に、p型のGaN層15と、p型のグレーデッド層13と、電子ブロック層11と、多重量子井戸構造9とをメサ形状にパターニングする。これにより、AlGa1-xN(0.8≦x≦1)5の第1領域を露出させる。また、AlGa1-xN(0.8≦x≦1)5の第2領域上に、メサ形状の積層体を形成する。メサ形状の積層体は、AlGa1-xN(0.8≦x≦1)5の第2領域上に、多重量子井戸構造9と、電子ブロック層11と、p型のグレーデッド層13と、p型のGaN層15とをこの順で有する。
【0085】
次に、AlGa1-xN(0.8≦x≦1)5の第1領域上にn電極7を形成するとともに、p型のGaN層15上にp電極17を形成する。以上の工程を経て、図2に示した窒化物半導体素子100Aが完成する。
【0086】
(実施例)
次に、本発明の実施例として、本発明者らが行った実験とその結果を示す。
(1)実験1:腐食性に関して
本発明者らは、AlN基板上に配置された、Al組成が高いn型の(n-)AlGa1-xN(0.8≦x≦1)を有する素子について、長時間の信頼性試験(室温、100mA印加)を行った。その結果、n電極近傍から腐食が進み、オープン(open)不良が発生することが分かった。n-AlGa1-xNのAl組成が低い場合、例えばx=0.7ではこのような腐食は起こらない。そのため、Al組成が高いn-AlGa1-xN(0.8≦x≦1)は腐食をしやすい性質があることが分かった。
【0087】
n-AlGa1-xN(0.8≦x≦1)の膜厚を0.5[μm]から1[μm]にしたところ、腐食を抑えることに成功した。この結果から、腐食を防止するためには、n-AlGa1-xN(0.8≦x≦1)の膜厚を0.5[μm]より厚くすることが好ましく、1[μm]以上にすることがより好ましい。
【0088】
なお、腐食有無の判定は、SEM-EDX(Scanning Electron Microscope - Energy Dispersive X-ray microanalyzer)による分析結果に基づいて行った。SEM-EDXによる分析で、AlGaNのN(窒素)が検出されずO(酸素)が検出される場合は、腐食有りと判定した。SEM-EDXによる分析で、AlGaNのN(窒素)が検出され、O(酸素)が検出されない場合(または、Oの検出強度が十分小さい場合)は、腐食無しと判定した。
【0089】
(2)実験2:格子緩和に関して
本発明者らは、AlN基板上のn-AlGa1-xN(0.8≦x≦1)を10[μm]以上厚くすると応力がたまり、その上に成膜する多重量子井戸構造で格子緩和が発生することを実験で見出した。本発明者らが見出した、n-AlGa1-xN(0.8≦x≦1)の膜厚と多重量子井戸構造における格子緩和との関係を表1に示す。
【表1】
【0090】
以上の結果から、AlN基板上のn-AlGa1-xN(0.8≦x≦1)上に形成される多重量子井戸構造の膜厚は、多重量子井戸構造の格子緩和を抑制する観点から、10[μm]よりも薄くすることが好ましい。
【0091】
格子緩和の測定方法は、次の通りである。窒化物半導体素子の各層の組成の測定法として、X線回折(XRD:X-Ray Diffaction)法による逆格子マッピング測定(RSM:ReciprocAl Space Mapping)を用いた。具体的には、非対称面を回折面として得られる回折ピーク近傍の逆格子マッピングデータを解析することにより、Al組成が得られる。上記回折面としては、例えば(10-15)面や(20-24)面が挙げられる。
【0092】
(3)実験3:割れ、反りに関して
n-AlGa1-xN(0.8≦x≦1)は応力が強く、AlN基板1に反りを生じさせる。n-AlGa1-xN(0.8≦x≦1)の膜厚を厚くしすぎると、ウエハの反りが界点を越え、ウエハが割れる。本発明者らは、研削実験を行い、ウエハが割れるときのウエハ膜厚とn-AlGa1-xN(0.8≦x≦1)膜厚との関係を見出した。なお、ウエハは、ダイシング前のAlN基板である。
【0093】
図3は、本発明の実施例に係る実験3(割れ、反りに関して)の結果を示すグラフである。図3の横軸はウエハの厚さα[μm]を示し、縦軸はn-AlGa1-xN(0.8≦x≦1)の膜厚β[μm]の膜厚を示す。図3に示すように、グラフ中の網掛けで示す領域ではウエハ割れは生じなかった。この網掛けで示す領域は、β<0.026α+0.848、を満たす領域である。
【0094】
ウエハ割れの測定方法は、次の通りである。ウエハ割れの測定方法として、セラミックデッキにワックスでウエハを接着させ、研削後、ワックスを昇温させ、剥がした際に割れがないことで判定した。ウエハ反りで実用上問題になるのはダイシングなどの後工程で、真空チャックなどでウエハを固定したときに割れることである。そこで、ワックスで固定したウエハ(真空チャック等でウエハを固定したときと同様の状況)を研削後に剥がしたとき、ウエハが割れていなければ、後工程において真空チャック等でウエハを固定したときも割れないと判断した。
【0095】
(4)実験4:光出力(光強度)について
本発明者らは、AlN基板上に配置されたn-AlGa1-xN(0.8≦x≦1)を有する発光素子の光出力(光強度)について、シミュレーションを行った。
【0096】
図4は、ウエハの厚さ[μm]と、光出力との関係をシミュレーションした結果を示すグラフである。ウエハは、ダイシング前のAlN基板である。図4の横軸はウエハの厚さα[μm]を示し、縦軸は光強度を示す。なお、光強度1は、ウエハの厚さを仮想上0(ゼロ)とし、ウエハによる光の減衰がない場合の光強度を意味する。
【0097】
図4に示すように、ウエハの厚さ[μm]が大きくなると光出力が低下し、ウエハの厚さが200[μm]以上になると光強度が半減することがわかった。
【0098】
以上の結果から、ウエハの厚さαは、200[μm]未満であることが好ましく、より好ましくは110[μm]未満である。
【0099】
(5)実験5:駆動電圧について
本発明者らは、AlN基板上に配置されたn-AlGa1-xN(0.8≦x≦1)を有する発光素子の駆動電圧について、シミュレーションを行った。
【0100】
図5は、n-AlGa1-xN(0.8≦x≦1)の膜厚[μm]と、駆動電圧Vf[V]との関係をシミュレーションした結果を示すグラフである。図5の横軸はn-AlGa1-xN(0.8≦x≦1)の膜厚β[μm]を示し、縦軸は駆動電圧Vf[V]を示す。ここでは、n-AlGa1-xN(0.8≦x≦1)の形状について3つのパターンを用意した。各パターンにそれぞれ100mAを通電したときの上記関係をシミュレーションした。
【0101】
図5に示すように、いずれのパターンにおいても、AlN基板上に配置されたn-AlGa1-xN(0.8≦x≦1)の膜厚が厚くなると、駆動電圧Vfが低下することが分かった。n-AlGa1-xN(0.8≦x≦1)の膜厚が0.5[μm]から4[μm]の範囲では、n-AlGa1-xN(0.8≦x≦1)の膜厚が増えるにしたがって、窒化物半導体素子の駆動電圧Vfが指数関数的に減衰することがわかった。また、n-AlGa1-xN(0.8≦x≦1)の膜厚が4[μm]以上になると、膜厚に対する駆動電圧Vfの減衰が極めて小さくなることがわかった。
【0102】
第5実施形態で説明したように、駆動電圧Vfの低減を考慮すると、n-AlGa1-xN(0.8≦x≦1)の膜厚は4[μm]以上であることが好ましい。
【0103】
<その他の実施形態>
上記のように、本開示は実施形態及び具体例、実施例によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本開示を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。本技術はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。上述した実施形態及び変形例の要旨を逸脱しない範囲で、構成要素の種々の省略、置換及び変更のうち少なくとも1つを行うことができる。また、本明細書に記載された効果はあくまでも例示であって限定されるものでは無く、また他の効果があってもよい。
【0104】
なお、本開示は以下のような構成も取ることができる。
(1)
AlN基板上に配置されたAlGa1-xN(0.8≦x≦1)で形成された第1導電型半導体層を有し、
前記第1導電型半導体層の膜厚β[μm]は、少なくとも一部の領域において、
0.5<β<15である窒化物半導体素子。
(2)
前記膜厚β[μm]は、少なくとも一部の領域において、
0.5<β<10である前記(1)に記載の窒化物半導体素子。
(3)
前記AlN基板の厚さα[μm]と前記膜厚β[μm]は、少なくとも一部の領域において、
96<α<600、
0.5<β<10、
β<0.026α+0.848、
を全て満たす前記(1)又は(2)に記載の窒化物半導体素子。
(4)
前記AlN基板の厚さα[μm]と前記膜厚β[μm]は、少なくとも一部の領域において、
96<α<200、
0.5<β<0.026α+0.848、
を全て満たす前記(1)から(3)のいずれか1項に記載の窒化物半導体素子。
(5)
前記AlN基板の厚さα[μm]と前記膜厚β[μm]は、少なくとも一部の領域において、
96<α<200、
4≦β<0.026α+0.848、
を全て満たす前記(1)から(4)のいずれか1項に記載の窒化物半導体素子。
(6)
当該窒化物半導体素子は発光素子である上記(1)から(5)のいずれか1項に記載の窒化物半導体素子。
(7)
前記第1導電型半導体層上に発光層を有する上記(6)に記載の窒化物半導体素子。
(8)
前記発光層の発光波長が215nm以上240nm以下である上記(7)に記載の窒化物半導体素子。
(9)
前記発光層の一部に、膜組成がAlGa1-xN(0.7≦x≦1)である量子井戸層を有する上記(7)又は(8)に記載の窒化物半導体素子。
(10)
前記第1導電型半導体層の導電型はn型である上記(1)から(9)のいずれか1項に記載の窒化物半導体素子。
【符号の説明】
【0105】
1 AlN基板
1a 表面
1b 裏面
3 HOMO層
5 AlGa1-xN(0.8≦x≦1)
7 n電極
9 多重量子井戸構造
11 電子ブロック層
13 グレーデッド層
15 GaN層
17 p電極
71、171 延伸部
72、172 繋ぎ部
100、100A、100B 窒化物半導体素子
図1
図2
図3
図4
図5