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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158780
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】湿式クラッチ構造
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/02 20120101AFI20241031BHJP
   F16D 25/08 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
F16H57/02
F16D25/08 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074300
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】更科 俊平
【テーマコード(参考)】
3J057
3J063
【Fターム(参考)】
3J057AA06
3J057BB04
3J057HH02
3J057JJ01
3J063AA02
3J063AB01
3J063AB42
3J063AB53
3J063AC03
3J063BB11
3J063CD13
3J063CD41
(57)【要約】
【課題】湿式クラッチの構成部品の中でも最も大径なアウタードラムの支持剛性を高くして、湿式クラッチを安定して回転させることができ、湿式クラッチの回転時に音や振動が発生することを抑制できるとともに、湿式クラッチの耐久性を向上できる湿式クラッチ構造を提供すること。
【解決手段】湿式クラッチ構造は、オイルポンプ18を有し、タービン軸11を取り囲むフロントポンプハウジング15およびリヤポンプハウジング16を備えており、リヤポンプハウジング16は、タービン軸11の軸方向に沿って延び、アウタードラム22の内径側に入り込む円筒支持部16Cを有する。円筒支持部16Cとアウタードラム22の間にはアウター用軸受20Dが設けられており、アウタードラム22がアウター用軸受20Dによって円筒支持部16Cに回転自在に支持されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の第1の摩擦板を有し、流体継手のタービン軸に連結されるアウタードラムと、
前記第1の摩擦板の間に交互に設けられた複数の第2の摩擦板を有し、変速機構の入力軸に連結されるインナーハブと、
前記第1の摩擦板と前記第2の摩擦板とを接触または離隔させることにより、前記タービン軸と前記入力軸とを断接する湿式クラッチ構造であって、
オイルポンプを有し、前記タービン軸を取り囲むポンプハウジングを備え、
前記ポンプハウジングは、前記タービン軸の軸方向に沿って延び、前記アウタードラムの内径側に入り込む円筒支持部を有し、
前記円筒支持部と前記アウタードラムの間に第1の軸受が設けられており、前記アウタードラムは、前記第1の軸受によって前記円筒支持部に回転自在に支持されていることを特徴とする湿式クラッチ構造。
【請求項2】
前記ポンプハウジングに摺動自在に取付けられたピストンと、
前記ピストンに押圧されることにより、前記第1の摩擦板と前記第2の摩擦板とを接触させる押圧ドラムと、
前記押圧ドラムと前記ピストンの間に設けられ、前記押圧ドラムを前記ピストンに回転自在に支持する第2の軸受とを有することを特徴とする請求項1に記載の湿式クラッチ構造。
【請求項3】
前記ピストンが前記ポンプハウジングから押し出されたときの推力によって前記押圧ドラムを押圧し、
前記押圧ドラムから前記第1の摩擦板および前記第2の摩擦板を介して前記アウタードラムが受ける力を、前記第1の軸受を介して前記ポンプハウジングに伝達することを特徴とする請求項2に記載の湿式クラッチ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式クラッチ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、流体継手と変速機の間に設けられた湿式クラッチとして特許文献1に記載される湿式摩擦クラッチが知られている。
【0003】
この湿式摩擦クラッチは、流体継手の出力軸にスプライン嵌合されるクラッチアウタと、変速機の入力軸にスプライン嵌合され、クラッチアウタよりも小径に形成されたクラッチセンタと、クラッチアウタの内周部とクラッチセンタの外周部に設けられ、クラッチアウタとクラッチセンタとを断接する複数の摩擦板とを有する。
【0004】
湿式摩擦クラッチは、ポンプハウジングに弾性シール部材(特許文献1の図2参照)を介して回転自在に連結された押圧ピストンを有し、油圧によって押圧ピストンを摩擦板側に移動させることにより、複数の摩擦板を摩擦接触させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-241533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載される湿式摩擦クラッチにあっては、クラッチハブが出力軸にスプライン嵌合され、クラッチセンタが入力軸にスプライン嵌合され、押圧ピストンと液圧室を構成するクラッチアウタがポンプハウジングに弾性シール部材を介して支持されているので、クラッチハブ、クラッチアウタ、クラッチセンタおよび押圧ピストンの支持剛性が低い。
【0007】
クラッチアウタは、クラッチセンタよりも大径で押圧ピストンや液圧室を有することから大きい遠心力を発生するので、クラッチアウタの支持剛性が低いと、湿式摩擦クラッチの回転時に音や振動が発生するおそれがある上に、湿式摩擦クラッチの耐久性が悪化するおそれがある。
【0008】
本発明は、上記のような事情に着目してなされたものであり、湿式クラッチの構成部品の中でも最も大径なアウタードラムの支持剛性を高くして、湿式クラッチを安定して回転させることができ、湿式クラッチの回転時に音や振動が発生することを抑制できるとともに、湿式クラッチの耐久性を向上できる湿式クラッチ構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、複数の第1の摩擦板を有し、流体継手のタービン軸に連結されるアウタードラムと、前記第1の摩擦板の間に交互に設けられた複数の第2の摩擦板を有し、変速機構の入力軸に連結されるインナーハブと、前記第1の摩擦板と前記第2の摩擦板とを接触または離隔させることにより、前記タービン軸と前記入力軸とを断接する湿式クラッチ構造であって、オイルポンプを有し、前記タービン軸を取り囲むポンプハウジングを備え、前記ポンプハウジングは、前記タービン軸の軸方向に沿って延び、前記アウタードラムの内径側に入り込む円筒支持部を有し、前記円筒支持部と前記アウタードラムの間に第1の軸受が設けられており、前記アウタードラムは、前記第1の軸受によって前記円筒支持部に回転自在に支持されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
このように上記の本発明によれば、湿式クラッチの構成部品の中でも最も大径なアウタードラムの支持剛性を高くして、湿式クラッチを安定して回転させることができ、湿式クラッチの回転時に音や振動が発生することを抑制できるとともに湿式クラッチの耐久性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一実施例に係る湿式クラッチ構造を備えた自動変速機の縦断面図である。
図2図2は、本発明の一実施例に係る湿式クラッチ構造の周辺の断面図である。
図3図3は、本発明の一実施例に係る湿式クラッチ構造の拡大断面図である。
図4図4は、図1のIV-IV方向矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施の形態に係る湿式クラッチ構造は、複数の第1の摩擦板を有し、流体継手のタービン軸に連結されるアウタードラムと、第1の摩擦板の間に交互に設けられた複数の第2の摩擦板を有し、変速機構の入力軸に連結されるインナーハブと、第1の摩擦板と第2の摩擦板とを接触または離隔させることにより、タービン軸と入力軸とを断接する湿式クラッチ構造であって、オイルポンプを有し、タービン軸を取り囲むポンプハウジングを備え、ポンプハウジングは、タービン軸の軸方向に沿って延び、アウタードラムの内径側に入り込む円筒支持部を有し、円筒支持部とアウタードラムの間に第1の軸受が設けられており、アウタードラムは、第1の軸受によって円筒支持部に回転自在に支持されている。
【0013】
これにより、本発明の一実施の形態に係る湿式クラッチ構造は、湿式クラッチの構成部品の中でも最も大径なアウタードラムの支持剛性を高くして、湿式クラッチを安定して回転させることができ、回転時に音や振動が発生することを抑制できるとともに耐久性を向上できる。
【実施例0014】
以下、本発明の一実施例に係る湿式クラッチ構造について、図面を用いて説明する。
図1から図4は、本発明の一実施例に係る湿式クラッチ構造を示す図である。
【0015】
図1から図4において、上下前後左右方向は、車両に配置された状態の自動変速機を基準とし、車両の前後方向を前後方向、車両の左右方向(車幅方向)を左右方向、車両の上下方向(車両の高さ方向)を上下方向とする。
【0016】
また、湿式クラッチに関して車両の前方側をタービン軸側、湿式クラッチに関して車両の後方側を入力軸側と説明する時もある。さらに、同軸に配置されたタービン軸と入力軸のそれぞれの回動軸が延びる方向を軸方向とする。
【0017】
まず、構成を説明する。
図1において、車両にはエンジン1と車両用変速機としての自動変速機2が搭載されており、自動変速機2は、エンジン1に接続された状態で車両の図示しないフロアパネルの下方に縦置きに設置されている。本実施例の車両は、FR(フロントエンジン・リヤドライブ)車両である。
【0018】
自動変速機2は変速機ケース4を備えており、変速機ケース4は、前方のエンジン1側から順に、輪切り状に分割されたフロントケース5、センターケース6、リヤケース7およびエクステンションケース8を備えている。本実施例のフロントケース5は、第2のケース部を構成し、センターケース6は、第1のケース部を構成する。
【0019】
フロントケース5は、周壁5Aを備えている。周壁5Aは、エンジン1側の前端部に開口端を有し、後端部が隔壁5Bによって閉じられている。
【0020】
周壁5Aの開口端にはエンジン1の図示しないシリンダブロックが取付けられており、フロントケース5には周壁5Aと隔壁5Bとシリンダブロックとによって囲まれるトルコン室5Cが形成されている。
【0021】
トルコン室5Cにはトルクコンバータ10が収容されている。トルクコンバータ10は、図示しないドライブプレートを介してエンジン1の図示しないクランク軸に連結されるフロントカバー10Aと、フロントカバー10Aに連結されたシェル10Bとを備えており、エンジン1と自動変速機2との間でオイルを介して動力を伝達する流体継手を構成している。
【0022】
シェル10Bの内面には、図示しないポンプインペラが固定されている。シェル10Bの内部には、図示しないタービンランナがポンプインペラに対向して設置されており、タービンランナは、タービン軸11に連結されている。ポンプインペラとタービンランナとの間にはステータ14が設置されている。
【0023】
トルクコンバータ10において、クランク軸が回転すると、ドライブプレートを介してフロントカバー10A、シェル10Bおよびポンプインペラが一体で回転する。このとき、ポンプインペラの回転による遠心力によって、トルクコンバータ10の内部の流体、すなわち、オイルに、ポンプインペラからタービンランナに向かう流れが生じる。
【0024】
この流体の流れによりタービンランナが回転され、タービンランナに接続されたタービン軸11が回転する。ステータ14は、タービンランナからの流体の流れをポンプインペラの回転方向に沿うように変換することにより、エンジン1の動力を増幅させる。
【0025】
トルクコンバータ10には図示しないロックアップクラッチが設けられており、ロックアップクラッチは、ロックアップクラッチ締結用のオイルが供給されると、タービンランナをフロントカバー10Aに締結する。これにより、エンジン1の動力が、フロントカバー10Aから流体を介さずにタービンランナを回転させることにより、タービン軸11に伝達される。
【0026】
ロックアップクラッチは、ロックアップクラッチ解除用のオイルが供給されると、タービンランナをフロントカバー10Aから引き離す。これにより、エンジン1の動力が、フロントカバー10Aから流体を介してタービンランナを回転させることにより、タービン軸11に伝達される。
【0027】
タービン軸11の周囲には中空のステータ軸12が配置され、ステータ軸12は後述するリヤポンプハウジング16に取付けられており、ステータ軸12の前端部にはワンウェイクラッチ14Aを介してステータ14が回転自在に支持されている。
【0028】
センターケース6は、周壁6Aを備えている。周壁6Aは、トルクコンバータ10側の前端部に開口端を有し、後端部が隔壁6Bによって閉じられている。
【0029】
フロントケース5の周壁5Aの後端外周部には隔壁5Bを取り囲むようにフランジ部5Fが形成されている。センターケース6の周壁6Aの開口端にはフランジ部6Fが形成されており、フランジ部5Fは、ボルト30Aによってフランジ部6Fに締結されている。これにより、フランジ部5F、6Fの剛性を高くできる。
【0030】
センターケース6には周壁6Aと隔壁6Bとフロントケース5の隔壁5Bとによって囲まれる湿式クラッチ室6Cが形成されており、湿式クラッチ室6Cには後述する湿式クラッチ21が収容されている。
【0031】
トルコン室5Cと湿式クラッチ室6Cは、フロントケース5の隔壁5Bによって前後方向に隣接するように仕切られている。本実施例の隔壁6Bは、第1の隔壁を構成し、隔壁5Bは、第2の隔壁を構成する。
【0032】
センターケース6のフランジ部6Fの内径側にはポンプハウジング取付け部6Dが設けられており、ポンプハウジング取付け部6Dにはステータ軸12とタービン軸11が貫通するフロントポンプハウジング15がボルト30Bによって締結されている。
【0033】
つまり、フロントポンプハウジング15は、フランジ部6Fの内径側に取付けられており、センターケース6の前方側の開口を閉じるようにポンプハウジング取付け部6Dに締結されている。フロントポンプハウジング15はポンプハウジング取付け部6Dとの間を密封するように取り付けられており、フロントポンプハウジング15は、フロントケース5の隔壁5Bによってトルクコンバータ10側から覆われている。
【0034】
このように、本実施例の自動変速機2は、センターケース6の開口端をフロントポンプハウジング15によって塞ぐことにより、フロントポンプハウジング15と隔壁6Bと周壁6Aとによって湿式クラッチ21を取り囲む湿式クラッチ室6Cを形成している。
【0035】
これに加えて、隔壁5Bのフランジ部5Fをセンターケース6のフランジ部6Fに締結することにより、フロントポンプハウジング15よりも前側に配置された隔壁5Bによってフロントポンプハウジング15を覆い、湿式クラッチ21の前方をフロントポンプハウジング15と隔壁5Bによる二重壁構造としている。
【0036】
フロントポンプハウジング15と隔壁5Bは前後方向に離隔しており、フロントポンプハウジング15と隔壁5Bの間には空間5Dが形成されている。
【0037】
これにより、フロントポンプハウジング15と隔壁5Bによる二重壁構造によって、トルコン室5Cと湿式クラッチ室6Cの間に隔壁5B、空間5D、フロントポンプハウジング15が配置されて、湿式クラッチ21から発生する音が前方に放射されることを抑制できる。
【0038】
つまり、湿式クラッチ21の前側に、剛性のあるフロントポンプハウジング15とこのフロントポンプハウジング15に弾性部材(Oリング)で当接している隔壁5Bによる二重壁構造と、フロントポンプハウジング15と隔壁5Bの間の空間5Dとが形成されているので、湿式クラッチ21から発生する音が湿式クラッチ室6Cから前方に放射されることを抑制できる。
【0039】
さらに、隔壁5Bの前方にはトルコン室5Cが配置されており、トルコン室5Cからなる空間にて湿式クラッチ21から発生する音がトルコン室5Cから前方に放射されることをより効果的に抑制でき、車室内の静粛性を向上できる。
【0040】
フロントポンプハウジング15は、外周部がポンプハウジング取付け部6Dにボルト30Bによって締結される円板部15Aと、タービン軸11の軸心Cと同軸に形成され、円板部15Aからトルクコンバータ10側に突出する円筒部15Bとを有する。
【0041】
フロントケース5の隔壁5Bには貫通孔5aが形成されており、タービン軸11とステータ軸12は、貫通孔5aに配置されており、貫通孔5aを通してトルコン室5Cから湿式クラッチ室6Cにまで延びている。
【0042】
円筒部15Bの前端部の外周にはOリング溝が形成されており、Oリング溝にはOリングが嵌合されている。Oリングは、円筒部15Bの前端部と隔壁5Bの貫通孔5aの間に配置されており、トルコン室5Cと空間5DとはOリングによって液密的に遮断されている。
【0043】
これにより、湿式クラッチ21を潤滑および冷却するために湿式クラッチ室6Cに存在するオイルが湿式クラッチ室6Cから空間5Dに漏れ出したとしてもトルコン室5Cに漏れ出すことを抑制できる。また、トルコン室5Cからの異物の侵入を抑制することができる。
【0044】
フロントポンプハウジング15の後側には、その内部にステータ軸12とタービン軸11が配置されるリヤポンプハウジング16が設けられており、リヤポンプハウジング16はボルト30Cによってフロントポンプハウジング15の後面に締結されている。本実施例のフロントポンプハウジング15とリヤポンプハウジング16は、ポンプハウジングを構成する。
【0045】
フロントポンプハウジング15とリヤポンプハウジング16とに挟まれた内部空間にはポンプ室17が形成されており、ポンプ室17にはトロコイド式のオイルポンプ18が設けられている。
【0046】
図2に示すように、オイルポンプ18は、インナーロータ18aとアウターロータ18bを備えており、インナーロータ18aは、シェル10Bと一体で回転するようにシェル10Bのポンプ軸10bに取付けられている。
【0047】
つまり、シェル10Bの内端部にはポンプ軸10bが設けられている。ポンプ軸10bは、その内部にステータ軸12とタービン軸11が貫通配置されており、シェル10Bの内端部からタービン軸11の軸方向に沿って延び、インナーロータ18aに連結されている。
【0048】
アウターロータ18bは、インナーロータ18aの径方向外方に設けられており、インナーロータ18aの回転に伴って回転する。オイルポンプ18は、アウターロータ18bに形成された複数の内歯とインナーロータ18aに形成された複数の外歯とが接触することにより、外歯と内歯との間にオイルを収容する図示しない複数の作動室が形成されている。
【0049】
オイルポンプ18において、エンジン1の動力がシェル10Bからポンプ軸10bを介してインナーロータ18aに伝達されると、インナーロータ18aとアウターロータ18bとが一方向に回転する。
【0050】
このとき、作動室の容積増加および容積減少が連続して発生することにより、オイルをフロントポンプハウジング15に形成された図示しない吸入ポートから作動室に吸入し、作動室によって加圧されたオイルをフロントポンプハウジング15に形成された図示しない吐出ポートから吐出する。
【0051】
図1に示すように、円筒部15Bの前端部の内周部とポンプ軸10bの外周部の間にはオイルシール19が設けられており、オイルシール19によってオイルポンプ18のオイルがトルコン室5Cに漏れ出すことを抑制できる。
【0052】
つまり、円筒部15Bの前端部の外径側(外周側)は貫通孔5aの間にOリングが配置され、Oリングに対して径方向の内側で円筒部15Bの前端部の内径側(内周側)はポンプ軸10bの間にオイルシール19が設けられており、トルコン室5CはOリングとオイルシール19によって液密的に後方の空間と遮断されている。
【0053】
リヤケース7は、周壁7Aを備えている。周壁7Aは、前方側に開口し後部が閉じられている。つまり、周壁7Aは、湿式クラッチ21側の前端部に開口端を有し、後端部には隔壁7Bが形成されて閉じられている。
【0054】
周壁7Aの開口端にはフランジ部7Fが形成されており、フランジ部7Fは、センターケース6の隔壁6Bの外周部に形成されたフランジ部6Gに図示しないボルトによって締結されている。
【0055】
リヤケース7には周壁7Aと隔壁7Bと隔壁6Bとによって囲まれる変速室7Cが形成されている。湿式クラッチ室6Cと変速室7Cは、センターケース6の隔壁6Bによって前後方向に隣接するように仕切られている。
【0056】
変速室7Cには変速機構31が収容されている。変速機構31は、入力軸32と、図示しないカウンタ軸とを有する。入力軸32には複数の変速段を構成する複数の入力ギヤ32Aが設けられている。
【0057】
カウンタ軸は、入力軸32の下方に入力軸32と平行に設けられており、カウンタ軸には同一の変速段を構成する入力ギヤ32Aに噛み合う複数のカウンタギヤが設けられている。
【0058】
入力軸32の前端部は湿式クラッチ21に連結されている。センターケース6の隔壁6Bには貫通孔6aが形成されており、入力軸32の前端部は、変速室7C側から貫通孔6aを通して湿式クラッチ室6C側に挿入され、湿式クラッチ21に連結されている。
【0059】
隔壁6Bには貫通孔6aを取り囲む軸受支持部6bが形成されており、入力軸32の前端部は玉軸受20Aを介して軸受支持部6bに回転自在に支持されている。カウンタ軸の前後端部は、隔壁6Bに形成された図示しない軸受支持部と、隔壁7Bに形成された図示しない軸受支持部に図示しない軸受を介して回転自在に支持されている。
【0060】
エクステンションケース8は、周壁8Aを備えており、周壁8Aは、リヤケース7側の前端部に開口端を有し、後端部に後壁8Bが設けられている。後壁8Bには円筒部8Cが設けられており、円筒部8Cは後壁8Bから後方に延びている。
【0061】
エクステンションケース8の周壁8Aの開口端にはフランジ部8Fが形成されている。リヤケース7の隔壁7Bの外周部にはフランジ部7Dが形成されており、フランジ部7Dは、図示しないボルトによってフランジ部8Fに締結されている。
【0062】
エクステンションケース8には図示しない出力軸が収容されている。出力軸の前端部は入力軸32に相対回転自在に支持されており、出力軸の後側は円筒部8Cに挿通され、図示しない軸受を介して円筒部8Cに回転自在に支持されている。
【0063】
具体的にはリヤケース7の隔壁7Bには貫通孔7aが形成されており、出力軸の前端部は貫通孔7aを通して入力軸32の後端部に図示しない軸受を介して回転自在に支持されている。
【0064】
カウンタ軸の後端部と出力軸の前端部には図示しない減速ギヤ対が設けられており、エンジン1の動力は、入力ギヤ32Aからカウンタギヤを介してカウンタ軸に入力された後、カウンタ軸から減速ギヤ対を介して出力軸に伝達される。
【0065】
出力軸の後端部には図示しないプロペラシャフトが連結されており、出力軸に伝達されるエンジン1の動力は、プロペラシャフトからいずれも図示しない後輪側の差動装置によって後輪側の左右のドライブ軸に分配された後に、駆動後輪に伝達される。この結果、車両が走行する。
【0066】
本実施例の自動変速機2において、センターケース6の隔壁6Bの後方には変速室7Cが配置されている。センターケース6の隔壁6Bの後方に変速室7Cからなる空間が形成されているので、これにより、湿式クラッチ21から発生する音が変速室7Cから後方に放射されることを抑制でき、車室内の静粛性を向上できる。
【0067】
図2に示すように、湿式クラッチ21は、タービン軸11と入力軸32の間に位置するように湿式クラッチ室6Cに収容されており、タービン軸11と入力軸32とを機械的に接続することや切り離すことにより、エンジン1の動力をタービン軸11から入力軸32に伝達または遮断する。
【0068】
湿式クラッチ21は、オイルによって潤滑および冷却される多板クラッチであり、乾式単板クラッチに比べて径方向の寸法を短くできるので、変速機ケース4の高さや幅を小さくでき、車両の室内空間を犠牲にすることなく、車両のフロアトンネル内に配置できる。
【0069】
図2に示すように、湿式クラッチ21は、アウタードラム22とインナーハブ23とを有する。
【0070】
アウタードラム22の内周部は、タービン軸11の後端部にスプライン嵌合されており、アウタードラム22はタービン軸11と一体で回転する。
【0071】
具体的には、アウタードラム22は、タービン軸11から径方向外方に向かって順にスプライン嵌合部22Aと、コの字部22B(C字部ともいう)、円筒部22Cと、プレート支持部22Dとを有する。
【0072】
スプライン嵌合部22Aは、アウタードラム22の径方向の内端部に設けられており、タービン軸11が挿入配置されるスプライン孔を有し、タービン軸11の軸端部に形成されたスプライン軸部にスプライン嵌合されている。
【0073】
図3に示すように、タービン軸11は、スプライン軸部の隣がスプライン軸部よりも太く形成されてスプライン軸部との間に段部11sが形成されている。
【0074】
スプライン嵌合部22Aは、タービン軸11の軸方向でタービン軸11の外周部に形成された段部11sとタービン軸11に取付けられたサークリップ29に挟まれており、タービン軸11の軸方向に移動不能に取り付けられている。そして、タービン軸11とスプライン嵌合しているので、スプライン嵌合部22Aはタービン軸11と一体で回転する。
【0075】
コの字部22Bは、スプライン嵌合部22Aから径方向の外方に延びる部位と、この部位からタービン軸11の軸方向に沿って変速室7C側に延びる部位と、この部位から径方向の外方に延びる部位と、この部位からタービン軸11の軸方向に沿ってトルコン室5C側に延びる部位とから構成されており、図2図3に示す左方視の断面(軸と鉛直線を含む断面)で前方に開口するコの字形状に形成されている。
【0076】
なお、コの字形状は断面の形状であり、立体的にはこのコの字形状の断面を軸にて回転させた時に生じる回転体となる。コの字部22Bの外径部となるタービン軸11の軸方向に沿ってトルコン室5C側に延びる部位には、その外周面にスプラインが形成されている。
【0077】
円筒部22Cの内周面は、スプライン孔を有し、コの字部22Bの外周面にスプライン嵌合されており、コの字部22Bと一体で回転する。
【0078】
プレート支持部22Dは、円筒部22Cの外周部に連結部22aにて連結されており、連結部22aの径方向の外端部から径方向の外側に延びる環状部22bと、環状部22bの径方向の外端部から変速室7Cに向かって延びる円筒部22cとを有する。プレート支持部22Dは、連結部22a、環状部22b、円筒部22cとで断面が後方に開口するコの字形状に形成されている。
【0079】
円筒部22cの内周面にはそれぞれ環状の前側プレッシャプレート24A、複数のアウタープレート24Bおよび後側プレッシャプレート24Cがスプライン嵌合されている。
【0080】
スプライン嵌合によって、前側プレッシャプレート24A、複数のアウタープレート24Bおよび後側プレッシャプレート24Cは、アウタードラム22と一体回転するようになっており、前側プレッシャプレート24A、複数のアウタープレート24Bおよび後側プレッシャプレート24Cは、アウタードラム22に対してタービン軸11の軸方向に移動自在となっている。
【0081】
インナーハブ23は、入力軸32の前端部にスプライン嵌合されており、インナーハブ23は入力軸32と一体で回転する。
【0082】
具体的には、インナーハブ23は、スプライン嵌合部23Aと、円板部23B、円筒部23Cとを有する。スプライン嵌合部23Aは、インナーハブ23の径方向の内端部に設けられており、入力軸32にスプライン嵌合されている。
【0083】
円板部23Bは、スプライン嵌合部23Aから径方向の外側に延びており、円筒部23Cは、円板部23Bの径方向の外端部からタービン軸11の軸方向に沿って前方のトルコン室5C側に延びている。
【0084】
円筒部23Cは、アウタードラム22の円筒部22cの径方向の内方(内側)に入り込んでおり、アウタードラム22とインナーハブ23は、タービン軸11の軸方向の位置で同じ位置に配置されている。つまり、アウタードラム22とインナーハブ23は、タービン軸11の径方向に重なるように同心状に配置されている。
【0085】
タービン軸11と入力軸32の間には環状のスペーサ41が設けられている。スペーサ41の前端部とタービン軸11の後端部の間にはスラスト軸受20Bが設けられており、スペーサ41とタービン軸11はスラスト軸受20Bによって軸方向の力を受け止めつつ相対回転自在となっている。
【0086】
スプライン嵌合部23Aの前端部はスペーサ41に当接しており、スプライン嵌合部23Aと円板部23Bとの接続部近傍の後面と隔壁6Bの間にはスラスト軸受20Cが設けられている。
【0087】
インナーハブ23は、タービン軸11の軸方向で隔壁6Bとスペーサ41に挟まれることにより、タービン軸11の軸方向に移動不能となっており、インナーハブ23と隔壁6Bはスラスト軸受20Cによって軸方向の力を受け止めつつ隔壁6Bに対して回転自在となっている。
【0088】
インナーハブ23の円筒部23Cの外周面にはそれぞれ環状のインナーディスク25がスプライン嵌合されている。
【0089】
インナーディスク25は、タービン軸11の軸方向でアウタープレート24Bの間に交互に配置されており、インナーハブ23と一体で回転可能で、かつ、タービン軸11の軸方向に移動自在となっている。
【0090】
つまり、アウタープレート24Bとインナーディスク25は、前側プレッシャプレート24Aと後側プレッシャプレート24Cの間において、タービン軸11の軸方向に交互に重ねて配置されている。
【0091】
アウタープレート24Bとインナーディスク25は摩擦板から構成されており、後述する押圧ドラム27に押圧されることにより摩擦接触可能となっている。
【0092】
押圧ドラム27により前側プレッシャプレート24Aが湿式クラッチ21の締結側となる後方に押圧されると、前側プレッシャプレート24Aが後方に移動し、アウタープレート24Bとインナーディスク25とが摩擦接触する。
【0093】
これにより、アウタードラム22とインナーハブ23がアウタープレート24Bとインナーディスク25を介して連結されて一体で回転し、エンジン1の動力がタービン軸11からアウタードラム22およびインナーハブ23を介して入力軸32に伝達される。本実施例のアウタープレート24Bは、第1の摩擦板を構成し、インナーディスク25は、第2の摩擦板を構成する。
【0094】
第1の摩擦板、第2の摩擦板が配置されていない後側プレッシャプレート24Cの後側にはサークリップ42が円筒部22cに取付けられている。
【0095】
後側プレッシャプレート24Cは、サークリップ42に当接することによって後方に移動することが規制される。
【0096】
押圧ドラム27によって前側プレッシャプレート24Aが後方に押された場合には、前側プレッシャプレート24Aと後側プレッシャプレート24Cの前後方向の隙間を小さくして前側プレッシャプレート24Aと後側プレッシャプレート24Cによってアウタープレート24Bとインナーディスク25とを挟み込み、アウタープレート24Bとインナーディスク25とを高い摩擦力で接触させることができる。
【0097】
リヤポンプハウジング16は、円板部16Aと、円板部16Aから変速室7C側に突出する円筒部16Bとを有し、円板部16Aと円筒部16Bの内部にはステータ軸12とタービン軸11が挿通される貫通孔16aが形成されている。
【0098】
円筒部16Bの後端部には円筒支持部16Cが設けられている。円筒支持部16Cは、円筒部16Bの先端部分であって、アウタードラム22の円筒部22Cの内側に入り込んでいる。つまり、円筒支持部16Cは、アウタードラム22の円筒部22Cよりも小径に形成されてアウタードラム22の内径側であって、円筒部22Cとスプライン嵌合部22Aの間に入り込んでいる。
【0099】
換言すれば、アウタードラム22のスプライン嵌合部22Aは、タービン軸11の軸方向で円筒支持部16Cの内径側に入り込んでおり、スプライン嵌合部22Aと円筒支持部16Cとがタービン軸11の軸方向の位置で同じ位置に配置され、タービン軸11の径方向に重なるように同心状に配置されている。
【0100】
円筒支持部16Cと円筒部22Cの間には玉軸受からなるアウター用軸受20Dが設けられている。アウタードラム22は、アウター用軸受20Dによって円筒支持部16Cに回転自在に支持されている。本実施例のアウター用軸受20Dは、第1の軸受を構成する。
【0101】
本実施例の円筒支持部16Cとアウター用軸受20Dと円筒部22Cとはタービン軸11の軸方向の位置で同じ位置に配置されており、径方向に重なるように同心状に並んで配置されている。
【0102】
つまり、アウタードラム22とインナーハブ23とアウター用軸受20Dと円筒支持部16Cは、タービン軸11の軸方向の位置で同じ位置に配置されており、タービン軸11の径方向に重なるように同心状に配置されている。
【0103】
これにより、タービン軸11の軸方向におけるリヤポンプハウジング16と湿式クラッチ21の合計寸法を短くでき、変速機ケース4の前後方向(タービン軸11の軸方向)の長さを短くできる。この結果、自動変速機2の小型化を図ることができる。
【0104】
図3に示すように、タービン軸11の軸方向でアウター用軸受20Dの内輪は、円筒支持部16Cの段部16pとスペーサ43Bに挟まれており、スペーサ43Bは、円筒支持部16Cの環状溝に取付けられたサークリップ43Aに当接している。
【0105】
つまり、タービン軸11の軸方向でアウター用軸受20Dの内輪は、円筒支持部16Cの段部16pとサークリップ43Aとスペーサ43Bとによってタービン軸11の軸方向に位置決めされて固定されている。
【0106】
タービン軸11の軸方向でアウター用軸受20Dの外輪は、円筒部22Cの前端部に形成された段部22sとコの字部22Bの外周部の前端部22tとに挟まれている。
【0107】
これにより、アウター用軸受20Dは、アウタードラム22が円筒支持部16Cに対して後方向に移動することを阻止するようになっており、コの字部22Bにスプライン嵌合される円筒部22Cは、アウター用軸受20Dによってリヤポンプハウジング16に対して後方向に移動することを阻止されるように連結されている。
【0108】
つまり、アウタードラム22とリヤポンプハウジング16は、アウター用軸受20Dによって前後方向に移動不能に位置決めされている。
【0109】
図2図3に示すように、湿式クラッチ21には円環状の押圧ドラム27が設けられている。押圧ドラム27は、内側円筒部27Aと外側円筒部27Bとを有する。
【0110】
内側円筒部27Aは、押圧ドラム27の径方向の内端部であって、タービン軸11の軸方向に沿って延びている円筒状の部分である。内側円筒部27Aの後端部には折り曲げ部27aが設けられており、折り曲げ部27aは、内側円筒部27Aの後端部から径方向内方側に折り曲げられている。
【0111】
外側円筒部27Bは、内側円筒部27Aの前端から外後方に折り返された後、後端部がアウタードラム22の環状部22bに形成された環状孔22dを通過して前側プレッシャプレート24Aに当接している。
【0112】
湿式クラッチ21には、押圧ドラム27を軸方向に進退させる円筒状のピストン26が設けられており、ピストン26は、リヤポンプハウジング16のシリンダ溝16Dに取付けられている。
【0113】
シリンダ溝16Dは、タービン軸11の軸心Cを取り囲むようにタービン軸11と同心状に設けられており、湿式クラッチ21側に開口している。
【0114】
ポンプ軸10bが挿入配置されるフロントポンプハウジング15の貫通孔とリヤポンプハウジング16の貫通孔16aの軸心Cは、タービン軸11とステータ軸12の軸心Cと同一であり、タービン軸11の軸心Cの方向とステータ軸12の軸心Cの方向がタービン軸11の軸方向およびステータ軸12の軸方向である。
【0115】
また、湿式クラッチ21の回転中心軸Cは、タービン軸11の軸心Cと同一であり、タービン軸11の軸心Cは、タービン軸11の回転中心軸でもある。つまり、フロントポンプハウジング15とリヤポンプハウジング16の軸心Cと、タービン軸11の軸心Cと、ステータ軸12の軸心Cと、湿式クラッチ21の回転中心軸Cは、同一であり、符号Cを付して説明する。
【0116】
シリンダ溝16Dは、湿式クラッチ21側に設けられた大径溝部16bと、大径溝部16bよりもフロントポンプハウジング15側に設けられ、大径溝部16bよりも小径に形成された中径溝部16cと、中径溝部16cよりもフロントポンプハウジング15側に設けられ、中径溝部16cよりも小径に形成された小径溝部16dとを有する。
【0117】
つまり、シリンダ溝16Dは、湿式クラッチ21側に開口する溝であって、外径側壁面と内径側壁面16fを有している。内径側壁面16fは、オイルシール47を収容する後述する環状溝16gを除き、軸心Cを軸とする円筒状の壁に形成されている。
【0118】
これに対して、外径側壁面は、ピストン26のみが配置される小径溝部16d、ピストン26とオイルシール44が配置される中径溝部16c、サークリップ46用の環状溝が形成された大径溝部16bに対応して、順次拡径されているので、シリンダ溝16Dは、湿式クラッチ21側の開口に向かうにしたがって拡径され、湿式クラッチ21からフロントポンプハウジング15に向かって奥となるに従って段階的に縮径されている。
【0119】
これにより、シリンダ溝16Dの加工を容易に行うことができる。特に、スペーサ45の使用もあってオイルシール44が配置される空間の加工が容易となっている。
【0120】
ピストン26には、軸方向で中央やや湿式クラッチ21側の位置に鍔状に外方に突出する拡径されたフランジ部26Aが形成されている。ピストン26は、フランジ部26Aよりも前側に前側ピストン部26Bが設けられており、前側ピストン部26Bは、大径溝部16b、中径溝部16cおよび小径溝部16dに挿入配置されている。
【0121】
環状溝16gを挟んでシリンダ溝16Dの内径側壁面16fに連続するようにリヤポンプハウジング16には支持壁面16eが設けられている。図3に示すように、支持壁面16eは、シリンダ溝16Dの内径側壁面16fとほぼ同径寸法でタービン軸11の軸方向に延在している。
【0122】
シリンダ溝16Dの内径側壁面16fと支持壁面16eは、タービン軸11の軸方向に連続した壁面であり、両方ともピストン26の内側に位置するが、内径側壁面16fはシリンダ溝16D内に位置し、支持壁面16eは環状溝16gとともにシリンダ溝16Dの外側(後ろ側)に露出した状態で形成されており、リヤポンプハウジング16の外形形状の壁面を構成している。シリンダ溝16Dの外に形成しているので、環状溝16gの加工が容易となっている。
【0123】
ピストン26は、シリンダ溝16Dの内径側壁面16fに摺動自在に支持されている。
【0124】
フランジ部26Aよりも後側には後側ピストン部26Cが設けられており、後側ピストン部26Cは、押圧ドラム27の内側円筒部27Aの内径側に入り込んでいる。
【0125】
押圧ドラム27の内側円筒部27Aとピストン26の後側ピストン部26Cの間には玉軸受からなる押圧ドラム用軸受20Eが圧入されており、押圧ドラム27は、押圧ドラム用軸受20Eによってピストン26に回転自在に支持されている。
【0126】
押圧ドラム用軸受20Eの内径は、アウター用軸受20Dの内径よりも大径に形成されており、押圧ドラム用軸受20Eは、タービン軸11の軸方向でアウター用軸受20Dと並んで配置されている。
【0127】
押圧ドラム用軸受20Eの内輪の前端は、フランジ部26Aに当接しており、押圧ドラム用軸受20Eの外輪の後端は内側円筒部27Aの折り曲げ部27aに当接している。
【0128】
これにより、押圧ドラム27は、ピストン26に対して回転しながらピストン26と一緒にタービン軸11の軸方向に移動自在となっている。
【0129】
押圧ドラム27の外側円筒部27Bは、内側円筒部27Aの前端から外後方に折り返されており、内側円筒部27Aと外側円筒部27Bが屈曲して内外に配置されているので、内側円筒部27Aと外側円筒部27Bの2重構造で剛性が高められている。
【0130】
これにより、押圧ドラム用軸受20Eにて押圧ドラム27を精度よく支持することができる。本実施例の押圧ドラム用軸受20Eは、第2の軸受を構成する。
【0131】
リヤポンプハウジング16には図示しないオイル制御装置から小径溝部16dにオイルを供給するオイル通路が形成されており、ピストン26は、小径溝部16dに供給される油圧によってシリンダ溝16Dから出たり戻ったりし、油圧が高められると湿式クラッチ21側(後ろ側)に移動する。
【0132】
ピストン26が油圧によって湿式クラッチ21側に移動すると、押圧ドラム用軸受20Eを介して押圧ドラム27が押され、押圧ドラム27がピストン26と一緒に湿式クラッチ21側に移動し、外側円筒部27Bの後端部が前側プレッシャプレート24Aを後側プレッシャプレート24C側に押圧する。
【0133】
これにより、アウタープレート24Bとインナーディスク25が前側プレッシャプレート24Aと後側プレッシャプレート24Cとに挟まれて摩擦接触する。
【0134】
すなわち、湿式クラッチ21は、ピストン26が油圧によってリヤポンプハウジング16のシリンダ溝16Dから押し出されたときの推力によって押圧ドラム27を押圧し、湿式クラッチ21を締結する。
【0135】
このとき、押圧ドラム27からアウタープレート24Bおよびインナーディスク25を介してアウタードラム22が受ける力は、アウター用軸受20Dを介してリヤポンプハウジング16に伝達されて、リヤポンプハウジング16にて受け止める。
【0136】
具体的には、リヤポンプハウジング16のシリンダ溝16Dに油圧が作用すると、油圧によってピストン26が押し出され、ピストン26の押し付け力(推力)が発生する。
【0137】
ピストン26の押し付け力は、ピストン26から押圧ドラム用軸受20E、押圧ドラム27、前側プレッシャプレート24Aに伝達された後、前側プレッシャプレート24Aからインナーディスク25およびアウタープレート24Bの順に交互に伝達され、最も後方のインナーディスク25から後側プレッシャプレート24Cに伝達される。
【0138】
後側プレッシャプレート24Cに伝達されたピストン26の押し付け力は、後側プレッシャプレート24Cからサークリップ42、アウタードラム22、アウター用軸受20D、サークリップ43Aを介してリヤポンプハウジング16に伝達される。
【0139】
つまり、本実施例の湿式クラッチ21は、ピストン26による押し付け力が湿式クラッチ21の機構内で受け止められており、変速機ケース4に作用しない。これにより、ピストン26による押し付け力が湿式クラッチ21から変速機ケース4に伝達されることを抑制できる。
【0140】
このため、変速機ケース4の剛性を高くすることを不要にでき、変速機ケース4の軽量化と小型化を図ることができ、結果的に自動変速機2の軽量化と小型化を図ることができる。
【0141】
シリンダ溝16Dには環状のオイルシール44と環状のスペーサ45が設けられている。オイルシール44は、スペーサ45に対してシリンダ溝16Dの奥側に設けられており、ピストン26の前側ピストン部26Bと中径溝部16cの間で中径溝部16cの一番奥側に設けられている。
【0142】
オイルシール44の前端部は、小径溝部16dと中径溝部16cの間に形成された段部16u(図3参照)に当接している。
【0143】
スペーサ45は、オイルシール44に対して押圧ドラム用軸受20E側に設けられており、ピストン26の前側ピストン部26Bと中径溝部16cおよび大径溝部16bとの間に設けられている。
【0144】
スペーサ45の後端部はサークリップ46に当接しており、サークリップ46は、大径溝部16bの外径側壁面に形成された環状溝に取付けられている。これにより、スペーサ45がシリンダ溝16Dから抜け出ることを防止できる。
【0145】
オイルシール44とスペーサ45は、サークリップ46と段部16uによってタービン軸11の軸方向に位置決めされてリヤポンプハウジング16に取付けられている。
【0146】
つまり、オイルシール44は、タービン軸11の軸方向でスペーサ45と段部16uに挟まれることによってシリンダ溝16Dに位置決めされている。オイルシール44は、ピストン26とシリンダ溝16Dに当接している。
【0147】
これにより、ピストン26の前側ピストン部26Bの外径面と中径溝部16cの外径側壁面との間をオイルシール44によって密閉することができる。
【0148】
円筒部16Bには環状溝16gが形成されている。環状溝16gは、支持壁面16eから軸心側に掘り込まれており、環状溝16gには環状のオイルシール47が取付けられている。
【0149】
ピストン26の後側ピストン部26Cの内周面は、オイルシール47が当接して摺接自在となっており、オイルシール47は、ピストン26と当接して弾性変形した状態で環状溝16gに収容されている。これにより、後側ピストン部26Cの内周面とシリンダ溝16Dの内径側壁面16fは、オイルシール47によって密閉されている。
【0150】
このように、前側ピストン部26Bの外径面と中径溝部16cの外径側壁面との間がオイルシール44によって密閉され、後側ピストン部26Cとシリンダ溝16Dの内径側壁面16fがオイルシール47によって密閉されることにより、小径溝部16dに導入されたオイルがシリンダ溝16Dから漏出することを防止できる。このため、小径溝部16dに導入される油圧を高圧にでき、ピストン26の押し出し力を確保できる。
【0151】
本実施例のオイルシール44は、第1のシール部材を構成し、オイルシール47は、第2のシール部材を構成する。ここで、内周面とは、タービン軸11の径方向の内側に向いた面であり、外周面とはタービン軸11の径方向の外側に向いた面である。
【0152】
タービン軸11の軸方向で押圧ドラム27とアウタードラム22の間にはリターンスプリング48が設けられており、リターンスプリング48は、ダイヤフラムスプリングから構成されている。
【0153】
図3に示すように、リターンスプリング48の内端部は、円筒部22Cの前端部に縮径可能に当接している。押圧ドラム27の外側円筒部27Bの前後方向の中間部には外径寸法を変更することで形成された段部27cが形成されており、リターンスプリング48の外径縁部が段部27cに当接嵌合することにより、外側円筒部27Bの内径によって位置決めされている。
【0154】
リターンスプリング48は、円筒部22Cに対して押圧ドラム27をトルコン室5C側に付勢することにより、外側円筒部27Bが前側プレッシャプレート24Aを押す力を解消してアウタープレート24Bとインナーディスク25を離隔させ、アウタープレート24Bとインナーディスク25の間に発生している摩擦力を低下させる。
【0155】
これにより、アウタードラム22とインナーハブ23が切り離されてタービン軸11と入力軸32とが切り離され、タービン軸11から入力軸32に伝達されるエンジン1の動力が遮断される。
【0156】
図1に示すように、タービン軸11の内部にはタービン軸11の軸心に軸方向に沿って延びる前側軸心孔11aと後側軸心孔11bが形成されている。前側軸心孔11aと後側軸心孔11bは連通しておらず、前側軸心孔11aに導入されるオイルは、トルクコンバータ10に供給されることにより、ロックアップクラッチを作動させる。
【0157】
後側軸心孔11bに供給されるオイルは、湿式クラッチ21に供給され、湿式クラッチ21は、このオイルによって潤滑および冷却が行われる。なお、後側軸心孔11bに供給されたオイルは、スペーサ41を通過して入力軸32の軸心孔32aにも導入される。
【0158】
具体的には、図2に示すように、タービン軸11には後側軸心孔11bに連通する複数の放射孔11cが形成されていて、放射孔11cを通過して円筒支持部16Cの内径側にオイルが放出される。
【0159】
円筒支持部16Cの内径側に放出されたオイルは、ブッシュ54やスラスト軸受を潤滑する。リヤポンプハウジング16の円筒支持部16Cには油路16hが形成されており、油路16hは、放射孔11cの外側に位置し、円筒支持部16Cの内周面から外周面へ貫通している。
【0160】
油路16hの内側の開口端は、放射孔11cに対向しており、油路16hの外側の開口端は、タービン軸11の軸方向でアウター用軸受20Dと押圧ドラム用軸受20Eの間に位置し、アウター用軸受20Dと押圧ドラム用軸受20Eにオイルを供給して潤滑している。
【0161】
また、油路16hの外側の開口端は、タービン軸11の軸方向でリターンスプリング48と同じ位置に位置してリターンスプリング48に対向している。
【0162】
タービン軸11の回転時の遠心力によって放射孔11cから外方に吐出されたオイルは、一部がブッシュ54やスラスト軸受を潤滑し、スラスト軸受を通過したオイルは円筒部22Cの内部に達する。残りのオイルは、油路16hを通してアウター用軸受20Dと押圧ドラム用軸受20Eの間に導入された後、アウター用軸受20Dと押圧ドラム用軸受20Eを潤滑する。
【0163】
円筒部22Cには内径側と外径側を連通するように放射孔22fが形成されている(図3参照)。放射孔22fは、径方向で連結部22aに対向している。
【0164】
アウター用軸受20Dを潤滑したオイルは、放射孔22fから連結部22aの傾斜に沿ってアウタードラム22のプレート支持部22Dとリターンスプリング48に囲まれる空間に吐出された後、外側円筒部27Bにガイドされてプレート支持部22Dの環状部22bの環状孔22dを通してプレート支持部22Dの円筒部22cとインナーハブ23の円筒部23Cの間に導入される。
【0165】
また、放射孔11cはタービン軸11のスプライン嵌合部にも形成されており、放射孔11cから吐出されるオイルは、スプライン嵌合部22Aとタービン軸11のスプライン嵌合部を潤滑した後、アウタードラム22のコの字部22Bとインナーハブ23の円板部23Bの間の空間を通過してインナーハブ23の円筒部23Cに到達する。なお、円筒部23Cには、タービン軸11の軸端から放出されてスラスト軸受20Bを通過したオイルも流れ込む。
【0166】
この後、円筒部23Cのオイルは、インナーハブ23の円筒部23Cに形成されたオイル孔23a(図2参照)を通してプレート支持部22Dの円筒部22cとインナーハブ23の円筒部23Cの間に導入される。
【0167】
このようにプレート支持部22Dの円筒部22cとインナーハブ23の円筒部23Cの間に導入されるオイルによってアウタープレート24Bとインナーディスク25が潤滑および冷却される。
【0168】
後側軸心孔11bは、スペーサ41の軸心孔41aを通して入力軸32の軸方向に沿って延びる軸心孔32aに連通されている。
【0169】
後側軸心孔11bからスペーサ41の軸心孔41aを通して軸心孔32aに導入されたオイルは、入力軸32に形成された図示しない放射孔から入力ギヤ32Aとカウンタギヤの噛み合い部や入力ギヤ32Aの軸受けなどに供給され、入力ギヤ32Aとカウンタギヤの噛み合い部や軸受がオイルによって潤滑される。
【0170】
図1に示すように、センターケース6の下部にはバルブボディ室50が形成されている。バルブボディ室50は、天井壁となるセンターケース6の底壁6Eと、底壁6Eから下方に突出し、バルブボディ室50の前後左右の壁部を構成する周囲壁50Aと、周囲壁50Aの下端部に取付けられ、オイルが貯留されるオイルパン51とから構成されている。
【0171】
つまり、バルブボディ室50は、センターケース6の底壁6Eと周囲壁50Aとオイルパン51とによって囲まれる空間から構成されている。
【0172】
図1図4に示すように、バルブボディ室50は、底壁6Eを挟んで湿式クラッチ室6Cの下方に設けられている。底壁6Eは、湿式クラッチ21の回転中心軸C回り(タービン軸11の軸心C回り)で湿式クラッチ21の外周形状であるアウタードラム22の外周形状に沿って湾曲している。
【0173】
図4に示すように、センターケース6の隔壁6Bは、センターケース6の周壁6Aの外径形状と同じ円形に形成されており、底壁6Eは、隔壁6Bの外周形状に沿って湾曲している。つまり、周壁6Aは、湿式クラッチ21の外周形状に沿って湾曲しており、湿式クラッチ21と周壁6Aの間に径方向に同一の距離を有することで、湿式クラッチ21の周りには環状の空間が形成されている。
【0174】
図1に示すように、バルブボディ室50にはバルブボディ52が設けられており、バルブボディ52は、オイルポンプ18から吐出されるオイルを制御することにより、トルクコンバータ10や湿式クラッチ21にオイルを供給する。
【0175】
本実施例のバルブボディ室50は、湿式クラッチ21の下側に設けられており、湿式クラッチ室6Cとバルブボディ室50は底壁6Eによって仕切られている。つまり、湿式クラッチ室6Cの下方にはバルブボディ室50からなる空間が形成されている。
【0176】
このため、バルブボディ室50からなる空間と底壁6Eとオイルパン51とによって湿式クラッチ21から下方に放射される音が下方に漏れることを抑制でき、車室内の静粛性を向上できる。
【0177】
すなわち、湿式クラッチ21から下方に放射される音は、路面で反射して車室に届き易いので、湿式クラッチ21から下方に放射される音を、底壁6Eとバルブボディ室50によって下方に通過することを抑制することにより、車室内の静粛性を向上できる。
【0178】
本実施例の自動変速機2は、いずれも図示しない車室のフロアパネルの下側に配置されており、フロアパネルにはフロアトンネルが設けられている。フロアトンネルは、フロアパネルから上方に膨出してトンネル状に前後方向に延びており、自動変速機2は、フロアトンネルの内部に入り込むように配置されている。
【0179】
これにより、車両の前後を除くセンターケース6の左右と上方にはフロアトンネルを構成するパネルが配置されている。
【0180】
フロアトンネルは、板金パネルから構成されており、板金パネルの形状の効果によって面剛性が高くなっている。これにより、湿式クラッチ21から下方に放射される音は、バルブボディ室50によって抑制でき、湿式クラッチ21から上下左右方向に放射される音は、板金パネルによって抑制できる。
【0181】
一方、タービン軸11の後側軸心孔11bから湿式クラッチ21に供給されて湿式クラッチ21を潤滑および冷却したオイルは、湿式クラッチ21の回転に伴って湿式クラッチ21の周囲に飛散し、湿式クラッチ室6Cの周壁6Aを伝って下方に流下して湿式クラッチ室6Cの底部に貯留される。
【0182】
ここで、湿式クラッチ21が適度にオイルに漬かることは、湿式クラッチ21の潤滑および冷却に有利となるが、湿式クラッチ室6Cの底部にオイルが過度に貯留されてオイルの油面が高くなると、湿式クラッチ21の回転を阻害する攪拌抵抗が大きくなる。
【0183】
湿式クラッチ21の攪拌抵抗が大きくなると、エンジン1の燃費が悪化するとともに、オイルの温度が上昇して湿式クラッチの冷却効率が悪化するおそれがある。このため、湿式クラッチ室6Cに貯留されるオイル量を適切に管理することが必要となる。
【0184】
本実施例の自動変速機2は、図1に示すように、車両の前後方向に延びるタービン軸11の前側に対して入力軸32の後側が下方となるように軸方向が後ろ下がり5°程度に傾いた状態で車載されている。
【0185】
変速室7Cは湿式クラッチ室6Cよりも下方に広がっており、その下部はバルブボディ室50の上部の後方に広がっている。
【0186】
バルブボディ室50は、湿式クラッチ室6Cの下方で、かつ、変速室7Cの前方に配置されており、湿式クラッチ室6Cの底壁6Eの底面6pは、変速室7Cの底面7pよりも高い位置に配置されている。
【0187】
湿式クラッチ室6Cの底面6pは、センターケース6の底壁6Eの上面であり、変速室7Cの底面7pは、リヤケース7の周壁7Aの底壁の上面である。
【0188】
図1図4に示すように、湿式クラッチ室6Cと変速室7Cとを仕切る隔壁6Bには貫通孔6cが形成されており、貫通孔6cは、アウタードラム22の下端よりも高い位置に形成されている。アウタードラム22の下端は、湿式クラッチ21の下端に相当する。
【0189】
これにより、湿式クラッチ室6Cでオイルの油面が貫通孔6cの高さ以上に達したときに、湿式クラッチ室6Cの内部のオイルを貫通孔6cから後側の変速室7Cに排出できる。
【0190】
バルブボディ室50を形成する周囲壁50Aの後部には貫通孔50aが形成されている。貫通孔50aは、貫通孔6cよりも下方で、かつ、リヤケース7の周壁7Aの底面7pよりも上方に位置しており、貫通孔6cよりも大きな断面積の貫通孔に形成されて変速室7Cとバルブボディ室50とを連通している。
【0191】
これにより、湿式クラッチ室6Cから流れ込んで変速室7Cに貯留されるオイルの油面が高くなったときに、変速室7Cのオイルが貫通孔50aを通してバルブボディ室50に排出される。このため、変速室7Cのオイルの油面が過度に高くなることを防止し、カウンタギヤの攪拌抵抗を低減してエンジン1の燃費が悪化することを防止できる。
【0192】
隔壁6Bの最下部には連通孔6dが形成されており、連通孔6dは、貫通孔6cよりも下方に位置している。連通孔6dの開口面積は、貫通孔6cの開口面積よりも小さく形成されており、連通孔6dは、湿式クラッチ室6Cと変速室7Cとを連通している。
【0193】
湿式クラッチ室6Cに貯留されるオイルは、連通孔6dを通して変速室7Cに排出される。連通孔6dの開口面積は貫通孔6cの開口面積よりも小さく形成されているので、湿式クラッチ室6Cに貯留されるオイルの油面が過度に低くなることを防止できる。
【0194】
つまり、貫通孔6cと連通孔6dの開口面積を調整することにより、湿式クラッチ室6Cに貯留されるオイルが連通孔6dから過剰に排出されることを防止して、湿式クラッチ室6Cに貯留されるオイルの油面の高さを、湿式クラッチ21を適切に潤滑および冷却できる油面に管理できる。
【0195】
図4に示すように、隔壁6Bの上部には通気孔6eが形成されており、通気孔6eは、貫通孔6cよりも上方に位置している。通気孔6eは、湿式クラッチ室6Cと変速室7Cとを連通しており、通気孔6eを通して湿式クラッチ室6Cと変速室7Cとに空気を流通させることにより、湿式クラッチ室6Cから貫通孔6cおよび連通孔6dを通して変速室7Cにオイルを円滑に排出できる。
【0196】
センターケース6の底壁6Eには中央排出孔6f、左排出孔6gおよび右排出孔6hが形成されており、中央排出孔6f、左排出孔6gおよび右排出孔6hは、湿式クラッチ室6Cとバルブボディ室50とを連通している。
【0197】
センターケース6の底壁6Eは、周壁6Aの下部に位置し、円周方向で左排出孔6gから右排出孔6hまで湾曲する部位であり、底壁6Eの上面がセンターケース6の底面6pとなる。
【0198】
中央排出孔6fは、湿式クラッチ21の下方に位置しており、左排出孔6gと右排出孔6hは、中央排出孔6fの左右両側に位置している。左排出孔6gと右排出孔6hは、中央排出孔6fよりも高い位置に位置しており、アウタードラム22の下端と同じ高さ位置から貫通孔6cの高さ位置の間に位置して湿式クラッチ室6Cの底面6pに開口している。
【0199】
図2に示すように、湿式クラッチ室6Cの底面6pは、前端部に対して後端部が下側に位置するように傾斜しており、中央排出孔6fは、連通孔6dと同じ高さ位置に形成されている。
【0200】
中央排出孔6f、左排出孔6gおよび右排出孔6hは、湿式クラッチ21の回転中心軸Cの方向(タービン軸11の軸方向)で湿式クラッチ21の押圧ドラム27と同じ位置に設けられている。換言すれば、中央排出孔6f、左排出孔6gおよび右排出孔6hは、押圧ドラム27と上下方向で対向している。
【0201】
左排出孔6gおよび右排出孔6hの開口面積は、中央排出孔6fの開口面積よりも大きく形成されており、貫通孔6cよりもやや下方に位置している。
【0202】
本実施例の湿式クラッチ室6Cの底面6pは、前端部に対して後端部が下側に位置するように傾斜しているので、湿式クラッチ室6Cに貯留されるオイルは、湿式クラッチ室6Cの後側に集まる。
【0203】
また、湿式クラッチ室6Cのアウタープレート24Bとインナーディスク25は、湿式クラッチ室6Cの後側に位置しているので、後側に集められたオイルにアウタープレート24Bとインナーディスク25を容易に浸からせることができ、湿式クラッチ室6Cにオイルでアウタープレート24Bとインナーディスク25を効率よく冷却することができる。
【0204】
湿式クラッチ室6Cに貯留されるオイルは、中央排出孔6fを通してバルブボディ室50に常時排出されるとともに、連通孔6dを通して変速室7Cに常時排出されるが、湿式クラッチ室6Cに供給されるオイルは、中央排出孔6fや連通孔6dから排出されるオイル量よりも多い。
【0205】
このため、湿式クラッチ室6C内は常に適正なオイル量になると共に、湿式クラッチ室6Cの底部に貯留されるオイルの油面が左排出孔6gおよび右排出孔6hの高さ以上に達したときには、湿式クラッチ室6Cに貯留される余剰のオイルが左排出孔6gおよび右排出孔6hからバルブボディ室50に排出される。
【0206】
つまり、オイルの油面が左排出孔6gおよび右排出孔6hの高さ以上に達したときに、湿式クラッチ室6Cに貯留されるオイルを左排出孔6gおよび右排出孔6hからバルブボディ室50に排出することにより、湿式クラッチ室6Cのオイルの油面の高さをアウタープレート24Bとインナーディスク25が浸かる程度の高さに維持できる。
【0207】
これにより、アウタープレート24Bとインナーディスク25が摩擦接触したときに、アウタープレート24Bとインナーディスク25をオイルによって適切に潤滑および冷却できる。
【0208】
また、オイルの油面が貫通孔6cの高さ以上に達したときに、湿式クラッチ室6Cに貯留されるオイルを貫通孔6cから変速室7Cに排出することにより、湿式クラッチ室6Cに貯留されるオイルの油面が過度に高くなることを防止して、湿式クラッチ室6Cのオイルの油面の高さをアウタードラム22の下部が浸かる程度の高さに維持でき、湿式クラッチ21を適切に潤滑および冷却できる。
【0209】
これに加えて、湿式クラッチ21の攪拌抵抗を低減して、エンジン1の燃費が悪化することを防止できるとともに、湿式クラッチ室6Cの内部に貯留されるオイルの温度が上昇して冷却効率が悪化することを防止できる。本実施例の左排出孔6gおよび右排出孔6hは、排出孔を構成する。
【0210】
図4に示すように、センターケース6の底壁6Eにはリブ53A、53Bが設けられている。リブ53A、53Bは、底壁6Eと隔壁6Bの接続角部から湿式クラッチ室6Cに向かって突出している。
【0211】
具体的には、リブ53A、53Bは、底壁6Eと隔壁6Bに接続されており、底壁6Eから湿式クラッチ室6Cに向かって前方に延び、かつ、底壁6Eから湿式クラッチ室6Cに向かって上方に延びている。
【0212】
リブ53Aは、貫通孔6cと左排出孔6gの近くに位置しており、リブ53Bは、連通孔6dと中央排出孔6fの近くに位置している。アウタードラム22の回転に連れまわり湿式クラッチ室6Cの内面を流れるオイルを、リブ53A、53Bによって堰き止めて滞留させて孔からの排出を容易にしている。
【0213】
図2図3に示すように、ステータ軸12には貫通孔12aが形成されており、貫通孔12aは、ステータ軸12の軸方向に沿って延び、前後端が開口している(図1参照)。
【0214】
図1に示すように、貫通孔12aにはタービン軸11が挿通されており、タービン軸11の前後端部は、貫通孔12aの前後の開口端から前側と後側に突出している。
【0215】
図2図3に示すように、ステータ軸12の後部には圧入固定部12Aとブッシュ支持部12Bが設けられている。圧入固定部12Aは、リヤポンプハウジング16の貫通孔16aに圧入固定されており、リヤポンプハウジング16に回転不能に取付けられている。
【0216】
ブッシュ支持部12Bは、圧入固定部12Aの後方のステータ軸12の後端部(端部)に設けられている。
【0217】
ブッシュ支持部12Bとタービン軸11の間には軸受としてのブッシュ(すべり軸受)54が設けられており、ブッシュ支持部12Bは、ブッシュ54を介してタービン軸11を回転自在に支持している。
【0218】
これにより、リヤポンプハウジング16に圧入固定されたステータ軸12を利用してタービン軸11や湿式クラッチ21の軸心Cを位置決めできる。本実施例のブッシュ支持部12Bは、軸受支持部を構成する。
【0219】
圧入固定部12Aとブッシュ支持部12Bは、ステータ軸12の軸方向で異なる位置に配置されている。すなわち、ブッシュ支持部12Bは、圧入固定部12Aよりも変速室7C側のステータ軸12の後端部に設けられている。
【0220】
圧入固定部12Aの径方向の内方には一対のシールリング55が設けられており(図3参照)、シールリング55は、圧入固定部12Aの内周面とタービン軸11の外周面の間に配置されている。
【0221】
これにより、ステータ軸12とタービン軸11の間でオイルの受け渡しができ、後側軸心孔11bにオイルを供給することができる。そして、圧入固定部12Aの内周面とタービン軸11の外周面の間にオイルが漏出することを防止できる。
【0222】
ブッシュ支持部12Bの外径寸法は、圧入固定部12Aの外径寸法よりも小さく形成されており、圧入固定部12Aがリヤポンプハウジング16に圧入固定された状態において、ブッシュ支持部12Bの外周面とリヤポンプハウジング16の内周面の間には僅かな隙間が形成されている。
【0223】
ステータ軸12の外周部には小径部12bが形成されており、小径部12bは、ステータ軸12の軸方向で圧入固定部12Aとブッシュ支持部12Bの間に設けられている。
【0224】
小径部12bは、圧入固定部12Aとブッシュ支持部12Bの外径よりも小径に形成されており、小径部12bとリヤポンプハウジング16の貫通孔16aの間には環状の空間が形成されている。
【0225】
次に、本実施例の湿式クラッチ構造の効果を説明する。
本実施例の湿式クラッチ構造は、アウタープレート24Bを有し、トルクコンバータ10のタービン軸11に連結されるアウタードラム22と、アウタープレート24Bの間に交互に設けられたインナーディスク25を有し、変速機構31の入力軸32に連結されるインナーハブ23とを備えており、アウタープレート24Bとインナーディスク25とを接触または離隔させることにより、タービン軸11と入力軸32とを断接する。
【0226】
また、湿式クラッチ構造は、オイルポンプ18を有し、タービン軸11を取り囲むフロントポンプハウジング15およびリヤポンプハウジング16を備えており、リヤポンプハウジング16は、タービン軸11の軸方向に沿って延び、アウタードラム22の内径側に入り込む円筒支持部16Cを有する。
【0227】
これに加えて、円筒支持部16Cとアウタードラム22の間にはアウター用軸受20Dが設けられており、アウタードラム22がアウター用軸受20Dによって円筒支持部16Cに回転自在に支持されている。
【0228】
これにより、湿式クラッチ21の構成部品の中でも最も大径なアウタードラム22の支持剛性を高くして、湿式クラッチ21を安定して回転させることができ、湿式クラッチ21の回転時に音や振動が発生することを抑制できるとともに、湿式クラッチ21の耐久性を向上できる。
【0229】
また、アウタードラム22がアウター用軸受20Dによって円筒支持部16Cに回転自在に支持されているので、タービン軸11と同心位置となるようにアウタードラム22をリヤポンプハウジング16に支持でき、アウタードラム22の位置精度(同心度)を容易に高めることができる。
【0230】
このため、湿式クラッチ21をより一層安定して回転させることができ、湿式クラッチ21の回転時に音や振動が発生することをより効果的に抑制できるとともに、湿式クラッチ21の耐久性をより効果的に向上できる。
【0231】
また、本実施例の湿式クラッチ構造によれば、リヤポンプハウジング16に摺動自在に取付けられたピストン26と、ピストン26に押圧されることにより、アウタープレート24Bとインナーディスク25とを接触させる押圧ドラム27と、押圧ドラム27とピストン26の間に設けられ、押圧ドラム27をピストン26に回転自在に支持する押圧ドラム用軸受20Eとを有する。
【0232】
これにより、押圧ドラム27の支持剛性を高くして、湿式クラッチ21をより一層安定して回転させることができ、湿式クラッチ21の回転時に音や振動が発生することをより効果的に抑制できるとともに、湿式クラッチ21の耐久性をより効果的に向上できる。
【0233】
また、押圧ドラム27が押圧ドラム用軸受20Eによってピストン26に回転自在に支持されているので、タービン軸11と同心位置となるように押圧ドラム27をピストン26に支持でき、押圧ドラム27の位置精度(同心度)を容易に高めることができる。
【0234】
このため、湿式クラッチ21をより一層安定して回転させることができ、湿式クラッチ21の回転時に音や振動が発生することをより効果的に抑制できるとともに、湿式クラッチ21の耐久性をより効果的に向上できる。
【0235】
また、本実施例の湿式クラッチ構造によれば、ピストン26がリヤポンプハウジング16から押し出されたときの推力によってピストン26が押圧ドラム27を押圧し、押圧ドラム27からアウタープレート24Bおよびインナーディスク25を介してアウタードラム22が受ける力を、アウター用軸受20Dを介してリヤポンプハウジング16に伝達する。
【0236】
これにより、湿式クラッチ21の締結時(アウタープレート24Bおよびインナーディスク25の接触時)にピストン26の推力が(クラッチ締結力)が湿式クラッチ21のタービン軸11に作用することを抑制でき、タービン軸11を変速機ケース4に容易に支持でき、湿式クラッチ21を安定して回転させることができる。
【0237】
つまり、タービン軸11は入力軸32に比べて短く形成されており、後端部に片持ち状態で比較的重量のある湿式クラッチ21のアウタードラム22が取付けられているので、湿式クラッチ21は、タービン軸11の振れの影響を受け易い。
【0238】
本実施例の湿式クラッチ21は、ピストン26の推力が湿式クラッチ21のタービン軸11に作用することを抑制できるので、タービン軸11の振れの影響を受けることを抑制できる。
【0239】
これに加えて、ピストン26による押し付け力が湿式クラッチ21で成立し、変速機ケース4に作用しないので、変速機ケース4の剛性を高くすることを不要にして、変速機ケース4の軽量化と小型化を図ることができ、結果的に自動変速機2の軽量化と小型化を図ることができる。
【0240】
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正および等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0241】
10...トルクコンバータ(流体継手)、11...タービン軸、15...フロントポンプハウジング(ポンプハウジング)、16...リヤポンプハウジング(ポンプハウジング)、16C...円筒支持部、18...オイルポンプ、20D...アウター用軸受(第1の軸受)、20E...押圧ドラム用軸受、22...アウタードラム、23...インナーハブ、24B...アウタープレート(第1の摩擦板)、25...インナーディスク(第2の摩擦板)、26...ピストン、27...押圧ドラム、31...変速機構、32...入力軸
図1
図2
図3
図4