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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024015879
(43)【公開日】2024-02-06
(54)【発明の名称】光アイソレータとその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/28 20060101AFI20240130BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
G02B27/28 A
G02B5/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022118245
(22)【出願日】2022-07-25
(71)【出願人】
【識別番号】508377532
【氏名又は名称】株式会社SMMプレシジョン
(74)【代理人】
【識別番号】100095223
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 章三
(74)【代理人】
【識別番号】100085040
【弁理士】
【氏名又は名称】小泉 雅裕
(74)【代理人】
【識別番号】100137752
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 岳行
(72)【発明者】
【氏名】山野辺 康徳
【テーマコード(参考)】
2H149
2H199
【Fターム(参考)】
2H149AA24
2H149AB01
2H149AB23
2H149BA02
2H149DB38
2H149EA02
2H199AA02
2H199AA04
2H199AA09
2H199AA13
2H199AA24
2H199AA53
2H199AA62
2H199AA65
2H199AA72
2H199AA90
2H199AA92
2H199AA96
(57)【要約】
【課題】広い波長域を必要とする仕様環境においても小型化が可能かつ簡単な組み立て技術で広い波長域で高いアイソレーションを維持できる光アイソレータを提供する。
【解決手段】偏光方向を45度回転させるファラデー回転子と互いに45度の偏光角差を持つ二枚の偏光子が偏光子1b/ファラデー回転子/偏光子1aの順で積層された積層構造体22により構成される光アイソレータで、ファラデー回転子が片面傾斜型ファラデー回転子2により構成され、波長λ1~λn(λ1<λn)の光が入射されて偏光方向を45度回転させるファラデー回転子の波長λmの厚さをTm、隣接する波長λm+1の厚さをTm+1とし、波長間隔をΔλとした場合、ファラデー回転子の厚み差(Tm+1-Tm)mm/波長間隔Δλμmの比が0.7以上であることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光の偏光方向を予め決められた角度回転させるファラデー回転子と、互いに予め決められた角度の偏光角差を持つ二枚の偏光子が、偏光子/ファラデー回転子/偏光子の順で積層された積層構造体、若しくは、上記偏光子/ファラデー回転子/偏光子に複数段のファラデー回転子/偏光子が重ねて積層された多段積層構造体により構成された光波長多重通信に対応する広波長帯域で動作可能な光アイソレータにおいて、
上記ファラデー回転子が、光軸と交わる一方の矩形状光学面が他方の矩形状光学面に対し斜めに形成されて一方の矩形状光学面と他方の矩形状光学面との間の光軸方向の厚さが矩形状光学面の幅方向一端側から他端側に向け連続的に増加する片面傾斜型ファラデー回転子により構成され、
かつ、波長λ1~λn(λ1<λn)の光が入射されて各光の偏光方向を予め決められた角度回転させるファラデー回転子の波長λmの厚さをTm、波長λm+1(但しλ1≦λm<λm+1≦λn)の厚さをTm+1とし、波長間隔[(λn-λ1)/(n-1)]=Δλとした場合、
ファラデー回転子の厚み差(Tm+1-Tm)mm/波長間隔Δλμmの比が0.7以上であることを特徴とする光アイソレータ。
【請求項2】
上記予め決められた角度が45度でありかつ上記ファラデー回転子が着磁されたビスマス系磁性ガーネット結晶膜で構成されている自己保磁型光アイソレータであることを特徴とする請求項1に記載の光アイソレータ。
【請求項3】
上記積層構造体若しくは多段積層構造体における光軸と交わる矩形状光学面の高さ寸法が0.5mm以下であり、上記矩形状光学面の幅寸法が0.5mm以上4.0mm以下であることを特徴とする請求項2に記載の光アイソレータ。
【請求項4】
波長域が100nm以上に亘って30dB以上のアイソレーションを有することを特徴とする請求項2に記載の光アイソレータ。
【請求項5】
上記波長λ1~λn(λ1<λn)の光が入射されて各光の偏光方向を45度回転させる片面傾斜型ファラデー回転子の波長λ1~λnにおける通過位置を表示する印が、上記積層構造体若しくは多段積層構造体の光軸と交わる矩形状光学面の有効径外でかつ積層構造体若しくは多段積層構造体の幅方向一端側から他端側に亘って波長λ1~λnごと順次形成されていることを特徴とする請求項2に記載の光アイソレータ。
【請求項6】
光の偏光方向を予め決められた角度回転させる片面傾斜型ファラデー回転子と、互いに予め決められた角度の偏光角差を持つ二枚の偏光子が、偏光子/片面傾斜型ファラデー回転子/偏光子の順で積層された積層構造体により構成された請求項1に記載の光アイソレータの製造方法において、
光軸と交わる一方の光学面が他方の光学面に対し平行に形成されている大面積ファラデー回転子用板材を用意し、この大面積ファラデー回転子用板材を短冊状に切断して短冊状ファラデー回転子用板材を得る大面積ファラデー回転子用板材切断工程と、
得られた短冊状ファラデー回転子用板材をテーパ付きの治具に固定し、該テーパ付きの治具に斜め配置された短冊状ファラデー回転子用板材を片面研磨して短冊状の片面傾斜型ファラデー回転子用板材を得る研磨工程と、
大面積ファラデー回転子用板材と同一寸法でかつ互いに予め決められた角度の偏光角差を持つ2種類の大面積偏光子用板材を用意し、2種類の大面積偏光子用板材を短冊状に切断して上記短冊状ファラデー回転子用板材と同一寸法でかつ互いに予め決められた角度の偏光角差を持つ2種類の短冊状偏光子用板材を得る大面積偏光子用板材切断工程と、
上記短冊状の片面傾斜型ファラデー回転子用板材に、互いに予め決められた角度の偏光角差を持つ2種類の短冊状偏光子用板材を短冊状偏光子用板材/片面傾斜型ファラデー回転子用板材/短冊状偏光子用板材の順で積層して短冊状の積層構造基板を作製する作製工程と、
得られた積層構造基板を上記積層構造体に相当する個別積層基板となるように切断する積層構造基板切断工程、
を備えることを特徴とする光アイソレータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光子/ファラデー回転子/偏光子の順で積層された積層構造体、若しくは、偏光子/ファラデー回転子/偏光子に複数段のファラデー回転子/偏光子が重ねて積層された多段積層構造体により構成された光アイソレータに係り、特に、光波長多重通信に対応する広波長帯域で動作可能な光アイソレータの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光アイソレータは、レーザ光源から出た光が光ファイバに導かれる順方向の損失が1dB以下と小さく、かつ、光ファイバからレーザ光源に導かれる逆方向の損失が20dB以上と大きい特徴を持っている。このような特性を実現するため、光アイソレータには、少なくとも入出力側に各一枚の偏光子とファラデー回転子が不可欠である。また、高信頼性を要求される長距離伝送などの光信号の純度が高いエリアでは、レーザ光源への戻り光が更に抑えられている必要があり、40dBを超える要求がある。このような要求に対応するには、ファラデー回転子と偏光子を更に一対追加した2段構成とすることがある。
【0003】
現在標準的に使用されている偏光子はガラスである。また、一般のファラデー回転子は外部磁場による励磁が必要で、外部に磁場を印加するための磁石を伴うことが多い。例えば、特許文献1のように、円形磁石の内部にアイソレータを配置して使用する。
【0004】
他方で、光信号の中継や増幅器に使用される光アイソレータには、偏波無依存型が求められる。通常の偏波無依存型光アイソレータは、例えば複屈折結晶を楔形に加工した偏光子二枚とファラデー回転子一枚とで構成される。ところが、このような光アイソレータは、一つ一つの光学部品を個別の金属ホルダに固定して、相互の回転方向を調整して組み立てる必要があり、通信用アイソレータに比べ高価なものとなる。また、偏波無依存型光アイソレータとしては、エルビウムドープファイバンプ(EDFA)のような増幅器に使われる他に、半導体光増幅器用に求められることがある。この場合は、コスト的に一層安価なものが求められると同時に、実装密度の高い製品が必要となる。
【0005】
このような用途に有用な偏波無依存型光アイソレータとしては、例えば特許文献2に示されるように、少なくとも二枚の複屈折結晶板の間に一枚のファラデー回転子、一枚の半波長板を並列配置したものが既に知られている。
【0006】
ところで、近年、一本の光ファイバで通す信号を複数波長にすることで、伝送密度を高める技術が主流となっており、その中でもCWDM(Coarse Wavelength Division Multiplex:波長分割多重)技術を用いることが多い。CWDM用デバイスでは、例えば、波長が1310nmや1550nmを基準として、一定の帯域幅をもたせる方法がみられる。この場合、多重波長光はプリズムレンズのような波長分散素子で各波長に分離され、光アイソレータは、各波長に対して必要となるが、波長によりファラデー回転子の回転角が異なるため、一般にはそれぞれの波長ごとにアイソレータチップを配する方法が採られている。この結果、波長ごとにアイソレータチップを配する非常に精密な組み立て技術が必要となり、光アイソレータは非常に高価にならざるを得ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭63-142320号公報
【特許文献2】特開2004-029334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、CWDM等の広い波長域を必要とする仕様環境においても、小型化が可能で、かつ、簡単な組み立て技術で、広い波長域で高いアイソレーションを維持できる光アイソレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者は、波長ごとにアイソレータチップを配する従来の手法に代えて幅方向一端側から他端側に向け光軸方向の厚さが連続的に増加する片面傾斜型ファラデー回転子を適用し、かつ、ファラデー回転子の厚み差(Tm+1-Tm)mm/波長間隔Δλμmの比が0.7以上である材質のファラデー回転子を採用したところ上記課題が解決されることを見出すに至った。
【0010】
すなわち、本発明に係る第1の発明は、
光の偏光方向を予め決められた角度回転させるファラデー回転子と、互いに予め決められた角度の偏光角差を持つ二枚の偏光子が、偏光子/ファラデー回転子/偏光子の順で積層された積層構造体、若しくは、上記偏光子/ファラデー回転子/偏光子に複数段のファラデー回転子/偏光子が重ねて積層された多段積層構造体により構成された光波長多重通信に対応する広波長帯域で動作可能な光アイソレータにおいて、
上記ファラデー回転子が、光軸と交わる一方の矩形状光学面が他方の矩形状光学面に対し斜めに形成されて一方の矩形状光学面と他方の矩形状光学面との間の光軸方向の厚さが矩形状光学面の幅方向一端側から他端側に向け連続的に増加する片面傾斜型ファラデー回転子により構成され、
かつ、波長λ1~λn(λ1<λn)の光が入射されて各光の偏光方向を予め決められた角度回転させるファラデー回転子の波長λmの厚さをTm、波長λm+1(但しλ1≦λm<λm+1≦λn)の厚さをTm+1とし、波長間隔[(λn-λ1)/(n-1)]=Δλとした場合、
ファラデー回転子の厚み差(Tm+1-Tm)mm/波長間隔Δλμmの比が0.7以上であることを特徴とする。
【0011】
第2の発明は、
第1の発明に記載の光アイソレータにおいて、
上記予め決められた角度が45度でありかつ上記ファラデー回転子が着磁されたビスマス系磁性ガーネット結晶膜で構成されている自己保磁型光アイソレータであることを特徴とする。
【0012】
第3の発明は、
第2の発明に記載の光アイソレータにおいて、
上記積層構造体若しくは多段積層構造体における光軸と交わる矩形状光学面の高さ寸法が0.5mm以下であり、上記矩形状光学面の幅寸法が0.5mm以上4.0mm以下であることを特徴とする。
【0013】
第4の発明は、
第2の発明に記載の光アイソレータにおいて、
波長域が100nm以上に亘って30dB以上のアイソレーションを有することを特徴とする。
【0014】
第5の発明は、
第2の発明に記載の光アイソレータにおいて、
上記波長λ1~λn(λ1<λn)の光が入射されて各光の偏光方向を45度回転させる片面傾斜型ファラデー回転子の波長λ1~λnにおける通過位置を表示する印が、上記積層構造体若しくは多段積層構造体の光軸と交わる矩形状光学面の有効径外でかつ積層構造体若しくは多段積層構造体の幅方向一端側から他端側に亘って波長λ1~λnごと順次形成されていることを特徴とする。
【0015】
また、第6の発明は、
光の偏光方向を予め決められた角度回転させる片面傾斜型ファラデー回転子と、互いに予め決められた角度の偏光角差を持つ二枚の偏光子が、偏光子/片面傾斜型ファラデー回転子/偏光子の順で積層された積層構造体により構成された第1の発明に記載の光アイソレータの製造方法において、
光軸と交わる一方の光学面が他方の光学面に対し平行に形成されている大面積ファラデー回転子用板材を用意し、この大面積ファラデー回転子用板材を短冊状に切断して短冊状ファラデー回転子用板材を得る大面積ファラデー回転子用板材切断工程と、
得られた短冊状ファラデー回転子用板材をテーパ付きの治具に固定し、該テーパ付きの治具に斜め配置された短冊状ファラデー回転子用板材を片面研磨して短冊状の片面傾斜型ファラデー回転子用板材を得る研磨工程と、
大面積ファラデー回転子用板材と同一寸法でかつ互いに予め決められた角度の偏光角差を持つ2種類の大面積偏光子用板材を用意し、2種類の大面積偏光子用板材を短冊状に切断して上記短冊状ファラデー回転子用板材と同一寸法でかつ互いに予め決められた角度の偏光角差を持つ2種類の短冊状偏光子用板材を得る大面積偏光子用板材切断工程と、
上記短冊状の片面傾斜型ファラデー回転子用板材に、互いに予め決められた角度の偏光角差を持つ2種類の短冊状偏光子用板材を短冊状偏光子用板材/片面傾斜型ファラデー回転子用板材/短冊状偏光子用板材の順で積層して短冊状の積層構造基板を作製する作製工程と、
得られた積層構造基板を上記積層構造体に相当する個別積層基板となるように切断する積層構造基板切断工程、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
第1の発明に記載の光アイソレータによれば、
波長ごとにアイソレータチップを配する従来の手法に代えて片面傾斜型ファラデー回転子が適用されるため、複数のアイソレータチップを使用する従来構造に較べて専有面積の縮小が図れると共に、複数のアイソレータチップの精密かつ煩雑な組み立て作業をも省略することが可能となり、
かつ、波長λ1~λn(λ1<λn)の光が入射されて各光の偏光方向を予め決められた角度回転させるファラデー回転子の波長λmの厚さをTm、波長λm+1(但しλ1≦λm<λm+1≦λn)の厚さをTm+1とし、波長間隔[(λn-λ1)/(n-1)]=Δλとした場合、
ファラデー回転子の厚み差(Tm+1-Tm)mm/波長間隔Δλμmの比が0.7以上であることから、ファラデー回転子の十分な厚み差を確保することができるため、隣接波長(λmとλm+1)間における勾配加工が容易になって片面傾斜型ファラデー回転子を製造することが可能となる。
【0017】
また、第2の発明に記載の光アイソレータによれば、
片面傾斜型ファラデー回転子が着磁されたビスマス系磁性ガーネット結晶膜で構成されている自己保磁型光アイソレータであるため、特許文献1に記載された円筒磁石を不要にできることから光アイソレータの更なる小型化を図ることが可能となる。
【0018】
更に、第5の発明に記載の光アイソレータによれば、
片面傾斜型ファラデー回転子の波長λ1~λnにおける通過位置を表示する印が、光アイソレータを構成する積層構造体若しくは多段積層構造体の光軸と交わる矩形状光学面の有効径外でかつ積層構造体若しくは多段積層構造体の幅方向一端側から他端側に亘って波長λ1~λnごと順次形成されているため、ユーザーの用途により細かな波長調整がなされる場合、波長λ1~λnの通過位置を表示する上記印に合わせて位置調整することにより簡易に最大のアイソレーション(ISO)を得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1(A)は偏光子/片面傾斜型ファラデー回転子/偏光子から成る本発明に係る1段構成の自己保磁型光アイソレータの構成説明図、図1(B)は本発明に係る1段構成の自己保磁型光アイソレータの概略斜視図。
図2図2(A)は偏光子/片面傾斜型ファラデー回転子/偏光子/片面傾斜型ファラデー回転子/偏光子から成る本発明に係る2段構成の自己保磁型光アイソレータの構成説明図、図2(B)は本発明に係る2段構成の自己保磁型光アイソレータの概略斜視図。
図3図3(A)~(C)は本発明に係る1段構成の自己保磁型光アイソレータの製造工程を示す説明図。
図4図4(A)~(C)は本発明に係る1段構成の自己保磁型光アイソレータの製造工程を示す説明図、図4(D)は製造された本発明に係る1段構成の自己保磁型光アイソレータの概略斜視図。
図5】偏光子/ファラデー回転子/偏光子から成る1段構成の自己保磁型アイソレータチップを4個配した従来例に係る光アイソレータの概略斜視図。
図6】偏光子/ファラデー回転子/偏光子から成る1段構成の自己保磁型アイソレータチップを6個配した比較例に係る光アイソレータの概略斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る実施の形態について従来技術も挙げて具体的に説明する。
【0021】
1.従来技術
(1)CWDM等の広い波長域を必要とする従来の光アイソレータは、上述したように波長ごとに回転角を、例えば45度に調整されたファラデー回転子が必要となる。
【0022】
例えば、4波長(波長λ1<λ2<λ3<λ4)のCWDM方式光トランシーバの場合、図5に示すように、第一偏光子100a/厚さt1のファラデー回転子201/第二偏光子100bから成る1段構成の自己保磁型アイソレータチップ301と、第一偏光子100a/厚さt2のファラデー回転子202/第二偏光子100bから成る1段構成の自己保磁型アイソレータチップ302と、第一偏光子100a/厚さt3のファラデー回転子203/第二偏光子100bから成る1段構成の自己保磁型アイソレータチップ303、および、第一偏光子100a/厚さt4のファラデー回転子204/第二偏光子100bから成る1段構成の自己保磁型アイソレータチップ304を基板400上に配した光アイソレータが必要となる。尚、上記波長λ1<λ2<λ3<λ4に対応して、アイソレータチップ301~304におけるファラデー回転子の厚さはt1<t2<t3<t4となっている。
【0023】
また、自己保磁型アイソレータチップ301~304は、磁気光学結晶膜である磁性ガーネット結晶膜から成るファラデー回転子201~204と、第一偏光子100aおよび第二偏光子100bをエポキシ系接着材で接合している。上記ファラデー回転子201~204の両面には、第一偏光子100aと第二偏光子100bとの接合面での反射を防止するため、対接着剤用に屈折率を調整した反射防止膜が形成される。また、第一偏光子100aと第二偏光子100bの接着面にも対接着剤用の反射防止膜が形成される。更に、第一偏光子100aと第二偏光子100bのレーザ光入射面および出射面には、接合先の材料に合わせて、対空気、あるいは対接着剤の反射防止膜が形成される。
【0024】
(2)そして、4波長の上記CWDM方式光トランシーバの場合、自己保磁型アイソレータチップ301~304を4種類用意する必要があるため、非常に精密な組み立て技術が必要となり、その結果、非常に高価にならざるを得なかった。
【0025】
2.本発明
(1)本発明に係る1段構成の光アイソレータ
本発明に係る1段構成の光アイソレータは、図1(A)に示すように、光の偏光方向を予め決められた角度、例えば45度回転させる片面傾斜型ファラデー回転子2と、互いに予め決められた角度、例えば45度の偏光角差を持つ二枚の偏光子1a、1bが、偏光子1a/片面傾斜型ファラデー回転子2/偏光子1bの順で積層された積層構造体で構成され、かつ、着磁された磁性ガーネット結晶膜で片面傾斜型ファラデー回転子2が構成されて成る1段構成の自己保磁型光アイソレータに関する。
【0026】
そして、片面傾斜型ファラデー回転子2は、図1(A)に示すように、光軸と交わる一方の矩形状光学面2aが他方の矩形状光学面2bに対し斜めに形成されて一方の矩形状光学面2aと他方の矩形状光学面2bとの間の光軸方向の厚さが矩形状光学面の幅方向一端側2cから他端側2dに向け連続的に増加するように構成されている。
【0027】
更に、図1(A)に示すように波長λ1~λn(λ1<λn)の光が入射されて各光の偏光方向を予め決められた角度、例えば45度回転させるファラデー回転子の波長λmの厚さをTm、波長λm+1(但しλ1≦λm<λm+1≦λn)の厚さをTm+1とし、波長間隔[(λn-λ1)/(n-1)]=Δλとした場合、ファラデー回転子の厚み差(Tm+1-Tm)mm/波長間隔Δλμmの比が0.7以上であることを特徴とする。
【0028】
(2)ファラデー回転子の厚み差(Tm+1-Tm)mm/波長間隔Δλμmの比
CWDM等の広い波長域を必要とする仕様において、一般に波長が1.2μm~1.6μmの範囲であり、中心波長は1.31μm、1.48μm、1.55μmである。
【0029】
この中心波長を基準に±0.05μmを20nm~40nmの間隔(波長間隔)で動作するように設定れている。
【0030】
そして、本発明に係る光アイソレータにおいては、波長λ1~λn(λ1<λn)の光が入射されて各光の偏光方向を予め決められた角度、例えば45度回転させるファラデー回転子の波長λmの厚さをTm、波長λm+1(但しλ1≦λm<λm+1≦λn)の厚さをTm+1とし、波長間隔[(λn-λ1)/(n-1)]=Δλとした場合、
ファラデー回転子の厚み差(Tm+1-Tm)mm/波長間隔Δλμmの比が0.7以上であることを特徴としている。
【0031】
(2-1)ファラデー回転子の厚み差(Tm+1-Tm)mm/波長間隔Δλμmの比が0.7以上(表1では0.75)であると、例えば、使用波長が中心波長1.31μmを含む最小波長λ1=1.25μm~最大波長λ6=1.35μm(λ1=1250nm~λ6=1350nm)の6波長の場合、最大波長λ6の偏光方向を45度回転させる片面傾斜型ファラデー回転子2の厚さがT6=560μm、最小波長λ1の偏光方向を45度回転させる片面傾斜型ファラデー回転子2の厚さがT1=485μmとなる(表1参照)ため、最大波長λ6と最小波長λ1の通過位置における片面傾斜型ファラデー回転子2の厚み差は0.075mm(560μm-485μm=75μm)[実施例1参照]となる。
【0032】
このため、片面傾斜型ファラデー回転子の十分な厚み差を確保できることから、隣接波長(λmとλm+1)間における勾配加工が容易になって片面傾斜型ファラデー回転子の加工が困難になることはない。
【0033】
(2-2)他方、ファラデー回転子の厚み差(Tm+1-Tm)mm/波長間隔Δλμmの比が0.7未満である場合、最大波長λ6の偏光方向を45度回転させる片面傾斜型ファラデー回転子2の厚さT6と、最小波長λ1の偏光方向を45度回転させる片面傾斜型ファラデー回転子2の厚さT1との厚み差は小さくなるため、片面傾斜型ファラデー回転子の十分な厚み差を確保できなくなることから、隣接波長(λmとλm+1)間における勾配加工が難しくなる結果、片面傾斜型ファラデー回転子の加工が困難となる。また、隣接波長(λmとλm+1)間の勾配加工が可能となるように片面傾斜型ファラデー回転子の幅方向寸法を短くした場合、隣接波長(λmとλm+1)が近接してしまう結果、隣接波長(λmとλm+1)間の回転角度を微調整する機構等が必要になる等の別な問題を生ずる。
【0034】
(2-3)ところで、ファラデー回転子の厚み差(Tm+1-Tm)mm/波長間隔Δλμmの比に関しては、ファラデー回転子の材質やファラデー回転子周囲の磁場環境等の影響を受けて変動する。このため、本発明に係る光アイソレータのファラデー回転子としては、ファラデー回転子の厚み差(Tm+1-Tm)mm/波長間隔Δλμmの比が0.7以上になるビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜(RIG)を適用することが好ましい。
【0035】
(3)アイソレーション(ISO)等
実施例において説明するが、本発明に係る光アイソレータの製造方法においては、短冊状に切断されたファラデー回転子用部材をテーパ付きの治具に固定し、該テーパ付きの治具に斜め配置されたファラデー回転子用部材を片面研磨してその勾配加工を行うため、直線度(平面度)が高くかつ高精度でこの勾配を加工することが可能となる。
【0036】
また、本発明に係る光アイソレータにおいては、ファラデー回転子の厚み差(Tm+1-Tm)mm/波長間隔Δλμmの比が0.7以上の一定値を維持し、かつ、片面傾斜型ファラデー回転子の勾配が直線的に高精度で加工されているため、片面傾斜型ファラデー回転子の所定位置で各波長における光の回転角度を45°±0.2°以内に抑えることができることから、各波長でのアイソレーション(ISO)について30dB以上を確保することが可能となる。
【0037】
また、光アイソレータの構成を、後述する偏光子/片面傾斜型ファラデー回転子/偏光子/片面傾斜型ファラデー回転子/偏光子の2段構成とし、2枚の片面傾斜型ファラデー回転子で光の偏光方向を90度回転させることにより各波長でのアイソレーションについて40dB以上を確保することが可能となるため、高信頼性が要求される長距離伝送装置等に用いられるデバイスに利用することができる。
【0038】
(4)自己保磁型光アイソレータ
本発明に係る光アイソレータは、着磁されたビスマス系磁性ガーネット結晶膜(ビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜)により片面傾斜型ファラデー回転子を構成した自己保磁型光アイソレータであることが好ましい。自己保磁型の光アイソレータは、ファラデー回転子が自己保磁力を有することで磁石が不要となり、光アイソレータの大きさを更に小型化することが可能となる。
【0039】
尚、ファラデー回転子に自己保磁力を持たせるため、ファラデー回転子の光が通過する方向に対して平行に磁界2,000~5,000 Oeを加えて着磁する。
【0040】
(5)ファラデー回転子の光軸と交わる光学面の面積
本発明に係る自己保磁型光アイソレータにおいて、ファラデー回転子の光軸と交わる光学面の面積は2.0mm2以下が好ましい。光学面の面積が2.0mm2を超えた場合、磁化方向が反転するデラッチと呼ばれる現象が発生し易くなるからである。このため、ファラデー回転子の光軸と交わる光学面の面積は上記範囲内に設定することが好ましい。
【0041】
また、ファラデー回転子の光軸と交わる光学面に対し波長が異なるレーザ光を一列に並べて入射させ、レーザ光が入射される光学面の幅方向を長くしてもよい。例えば、レーザ光径(半値幅)は一般的にφ0.2mmであり、レーザ光の大きさはこの2倍程度必要である。このため、光学面の高さは0.4mm以上であり、幅方向のピッチは0.4mm以上となる。また、ピッチは品質等に影響がなければ自由に設定できる。尚、光学面の面積が2.0mm2以下の条件から、光学面の高さが0.5mmの場合、光学面における幅の上限は4mm以下となる。
【0042】
(6)通過位置を表示する印
本発明に係る光アイソレータにおいては、波長λ1~λn(λ1<λn)の光が入射されて各光の偏光方向を、例えば45度回転させる片面傾斜型ファラデー回転子の波長λ1~λnにおける通過位置を表示する印21(図1B参照)が、光アイソレータを構成する積層構造体22の光軸と交わる矩形状光学面の有効径外でかつ積層構造体22の幅方向一端側2cから他端側2dに亘って波長λ1~λnごとレーザマーカー等により順次刻印されていてもよい。
【0043】
消光率を計測することができないユーザーにおいて、波長に相当する座標を直読できるため、本発明に係る光アイソレータを簡単に設置することが可能となる。
【0044】
尚、図1(B)において、符号23は積層構造体22の幅方向一端側2cを「0mm」とする座標始点位置を示しており、積層構造体22の幅方向一端側2cから他端側2dに向かって座標間隔「0.4mm」の位置に波長λ1~λnの通過位置を表示する印21がそれぞれ設けられており、座標終点位置は「2.8mm」となっている(表1参照)。
【0045】
(7)本発明に係る2段構成の光アイソレータ
本発明に係る2段構成の光アイソレータは、図2(A)に示すように、光の偏光方向を予め決められた角度、例えば45度回転させる片面傾斜型ファラデー回転子2と、互いに予め決められた角度、例えば45度の偏光角差を持つ二枚の偏光子1a、1bが、偏光子1a/片面傾斜型ファラデー回転子2/偏光子1bの順で積層された積層構造体に、光の偏光方向を予め決められた角度、例えば45度回転させる片面傾斜型ファラデー回転子2’/偏光子1cが重ねて積層された多段積層構造体24で構成され、かつ、着磁された磁性ガーネット結晶膜により片面傾斜型ファラデー回転子2と片面傾斜型ファラデー回転子2’がそれぞれ構成されて成る2段構成の自己保磁型光アイソレータに関する。
【0046】
そして、片面傾斜型ファラデー回転子2は、図1(A)に示した片面傾斜型ファラデー回転子2と同様、光軸と交わる一方の矩形状光学面が他方の矩形状光学面に対し斜めに形成されて一方の矩形状光学面と他方の矩形状光学面との間の光軸方向の厚さが矩形状光学面の幅方向一端側2cから他端側2dに向け連続的に増加するように構成されており、上記片面傾斜型ファラデー回転子2’も図1(A)に示した片面傾斜型ファラデー回転子2と同一である。
【0047】
また、図2(A)に示すように波長λ1~λn(λ1<λn)の光が入射されて各光の偏光方向を予め決められた角度、例えば45度回転させるファラデー回転子の波長λmの厚さをTm、波長λm+1(但しλ1≦λm<λm+1≦λn)の厚さをTm+1とし、波長間隔[(λn-λ1)/(n-1)]=Δλとした場合、ファラデー回転子の厚み差(Tm+1-Tm)mm/波長間隔Δλμmの比がそれぞれのファラデー回転子において0.7以上であることを特徴としている。
【0048】
更に、この光アイソレータにおいても、波長λ1~λn(λ1<λn)の光が入射されて各光の偏光方向を、例えば45度回転させる片面傾斜型ファラデー回転子2と片面傾斜型ファラデー回転子2’の波長λ1~λnにおける通過位置を表示する印21(図2B参照)が、光アイソレータを構成する多段積層構造体24の光軸と交わる矩形状光学面の有効径外でかつ多段積層構造体24の幅方向一端側2cから他端側2dに亘って波長λ1~λnごとレーザマーカー等により順次刻印されていてもよい。
【0049】
そして、各ファラデー回転子の厚み差(Tm+1-Tm)mm/波長間隔Δλμmの比がそれぞれ0.7以上(表3では0.75)であるため、片面傾斜型ファラデー回転子2および片面傾斜型ファラデー回転子2’の十分な厚み差を確保できることから、隣接波長(λmとλm+1)間における勾配加工が容易になって片面傾斜型ファラデー回転子2および片面傾斜型ファラデー回転子2’の加工が困難になることもない。
【実施例0050】
以下、本発明の実施例について比較例も挙げて具体的に説明する。
【0051】
[実施例1]
1.光アイソレータ
実施例1に係る光アイソレータは、6波長のCWDM方式光トランシーバに用いる、自己保磁型光アイソレータとした。このときの使用波長は、(λ1=1250nm)~(λ6=1350nm)であり、波長間隔が20nmの6波長とした。レーザ光径(半値幅)φ0.2mm用であり、光学面のサイズは、高さ0.5mm、幅方向のピッチを0.4mmとし、幅を2.8mmとした。
【0052】
そして、実施例1に係る光アイソレータは、図1(A)に示した偏光子1a/片面傾斜型ファラデー回転子2/偏光子1bの積層構造体で構成される1段構成の自己保磁型光アイソレータと同一である。
【0053】
上記偏光子1a、1bやファラデー回転子2等の光学素子は、透光性のエポキシ接着剤や常温接合で積層構造体22とするが、偏光子1a、1bとファラデー回転子2の界面での光の反射を防止するため、反射防止膜を形成してから接合している。
【0054】
上記片面傾斜型ファラデー回転子2は、ビスマス系の磁性ガーネット結晶膜により構成され、その屈折率は2.2~2.4(波長1200~1600nm)のものを使用した。
【0055】
上記偏光子1a、1bは、ガラスを母材とする互いに45度の偏光角差を持つ吸収型偏光子(Corning社製 PolarCor)を2枚用いた。偏光子1a、1bの屈折率は、母材であるガラスや石英の屈折率と同じ1.5である。
【0056】
偏光子1a、1bやファラデー回転子2等光学素子の接合には光学用エポキシ接着材を用いた。このエポキシ接着材から合成されるエポキシ樹脂の屈折率は1.4~1.5近辺である。
【0057】
また、上記反射防止膜は、高屈折率層(Ta25)と低屈折率層(SiO2)を5層積層して構成し、それぞれの光学素子間で反射率が0.3%以下になるようにマッチングをとっている。
【0058】
2.光アイソレータの製造方法
実施例1に係る光アイソレータの製造方法について図3図4を用いて説明する。
【0059】
(1)大面積ファラデー回転子用板材の切断工程
光軸と交わる一方の光学面が他方の光学面に対し平行に形成されている図3(A)に示す大面積ファラデー回転子用板材10を用意し、この大面積ファラデー回転子用板材10を短冊状に切断して図3(B)に示す3枚の短冊状ファラデー回転子用板材11、12、13を得た。
【0060】
(2)研磨工程
そして、得られた短冊状ファラデー回転子用板材11、12、13を図3(C)に示すテーパ付きの治具20に固定し、かつ、該テーパ付きの治具20に斜め配置された短冊状ファラデー回転子用板材11、12、13を、図4(A)に示す砥石30により片面研磨して、一定の勾配を持った短冊状の片面傾斜型ファラデー回転子用板材11’、12’、13’を得た。
【0061】
尚、片面傾斜型ファラデー回転子用板材11’、12’、13’の勾配は、図1(A)に示した波長λ1~波長λn(λ1<λn、λn=λ6)の光がビスマス系磁性ガーネット結晶膜から成る片面傾斜型ファラデー回転子2に入射され、各光の偏光方向が45度回転される片面傾斜型ファラデー回転子2の厚みの関係から必要となる勾配を算定して決定している。
【0062】
(3)大面積偏光子用板材の切断工程
次いで、上記大面積ファラデー回転子用板材10と同一寸法でかつ互いに45度の偏光角差を持つ2種類の大面積偏光子用板材(図示せず)を用意し、2種類の大面積偏光子用板材を短冊状に切断して上記短冊状ファラデー回転子用板材11、12、13と同一寸法でかつ互いに45度の偏光角差を持つ2種類の短冊状偏光子用板材をそれぞれ得た。
【0063】
(4)積層構造基板の作製工程
次いで、図4(B)に示す短冊状の片面傾斜型ファラデー回転子用板材11’に、互いに45度の偏光角差を持つ2種類の短冊状偏光子用板材40a、40bを、短冊状偏光子用板材40a/片面傾斜型ファラデー回転子用板材11’/短冊状偏光子用板材40bの順で片面傾斜型ファラデー回転子用板材11’を押さえるように貼付け(積層し)て短冊状の積層構造基板50を作製した。
【0064】
(5)積層構造基板の切断工程
そして、図4(C)に示すように短冊状の積層構造基板50を、上記積層構造体に相当する個別積層基板となるように切断して実施例1に係る光アイソレータのチップ外観が完成した。
【0065】
尚、本実施例では、チップ高さが0.5mmとなるように実施しているが、これを超えると、自己保磁型光アイソレータがデラッチして設計の光回転角が得られない割合が増加していくことが分かっている。このため、0.5mmを指針として共有化した。
【0066】
(6)着磁
最終的に自己保磁型光アイソレータとするため、積層構造体に相当する個別積層基板に対して光が通過する方向に3,000 Oeの磁界を平行に加え、片面傾斜型ファラデー回転子2を構成するビスマス系磁性ガーネット結晶膜を着磁することで実施例1に係る光アイソレータを完成させた(図4D参照)。
【0067】
(7)通過位置を表示する印
波長λ1~λ6の光が入射されて各光の偏光方向を45度回転させる片面傾斜型ファラデー回転子2の波長λ1~λn(λ1<λn、λn=λ6)における通過位置を表示する印21(図1B参照)が、光アイソレータを構成する積層構造体22の光軸と交わる矩形状光学面の有効径外でかつ積層構造体22の幅方向一端側2cから他端側2dに亘って波長λ1~λ6ごとレーザマーカー等により順次刻印した。
【0068】
【表1】
【0069】
3.ファラデー回転子の厚み差(Tm+1-Tm)mm/波長間隔Δλμmの比
(1)光アイソレータの使用波長(λ1~λ6)については上記表1の「波長(nm)λ1~λ6」欄に、波長λ1~λ6の光が入射されて各光の偏光方向を45度回転させるファラデー回転子の各波長λ1~λ6における厚さについては表1の「FR厚(μm)T1~T6」欄に、ファラデー回転子の厚み差(Tm+1-Tm)mm/波長間隔Δλμmの比については表1の「(Tm+1-Tm)mm/Δλμm」欄にそれぞれ記載した。
【0070】
(2)表1の「(Tm+1-Tm)mm/Δλμm」欄から確認されるように、実施例1に係る光アイソレータにおいてはファラデー回転子の厚み差(Tm+1-Tm)mm/波長間隔Δλμmの比が「0.75」と0.7以上であるため、片面傾斜型ファラデー回転子の十分な厚み差を確保できることから、隣接波長(λmとλm+1)間における勾配加工が容易になって片面傾斜型ファラデー回転子の加工が困難でないことを確認した。
【0071】
因みに、実施例1に係る光アイソレータのチップサイズ(すなわち、図1Bに示す積層構造体22のサイズ)は、高さが0.5mm、幅が2.8mm(表1の座標欄参照)であり、CWDM(Coarse Wavelength Division Multiplex:波長分割多重)の広い波長域を必要とする仕様環境においてその小型化が達成されていることを確認した。
【0072】
4.光アイソレータの特性
表1の「IL(dB)」(挿入損失)欄、および、「ISO(dB)」(アイソレーション)欄から確認されるように、実施例1に係る光アイソレータにおいては、1250nm~1350nmの波長帯域において、挿入損失0.3dB、および、30dB以上のアイソレーションが確保されており、CWDMの広い波長域を必要とする仕様環境において高いアイソレーションを維持できることを確認した。
【0073】
[実施例2]
1.光アイソレータ
実施例2に係る光アイソレータは、使用波長(λ1=1490nm)~(λ6=1590nm)が相違する点を除き実施例1に係る光アイソレータと同一である。
【0074】
但し、実施例1とは使用波長が相違するため、波長λ1~λ6の光が入射されて各光の偏光方向を45度回転させるファラデー回転子の各波長λ1~λ6における厚さも実施例1とは相違し、かつ、ファラデー回転子の厚み差(Tm+1-Tm)mm/波長間隔Δλμmの比も相違する(下記表2参照)。
【0075】
【表2】
【0076】
2.ファラデー回転子の厚み差(Tm+1-Tm)mm/波長間隔Δλμmの比
(1)光アイソレータの使用波長(λ1~λ6)については上記表2の「波長(nm)λ1~λ6」欄に、波長λ1~λ6の光が入射されて各光の偏光方向を45度回転させるファラデー回転子の各波長λ1~λ6における厚さについては表2の「FR厚(μm)T1~T6」欄に、ファラデー回転子の厚み差(Tm+1-Tm)mm/波長間隔Δλμmの比については表2の「(Tm+1-Tm)mm/Δλμm」欄にそれぞれ記載した。
【0077】
(2)表2の「(Tm+1-Tm)mm/Δλμm」欄から確認されるように、実施例2に係る光アイソレータにおいてもファラデー回転子の厚み差(Tm+1-Tm)mm/波長間隔Δλμmの比が「1.00」と0.7以上であるため、片面傾斜型ファラデー回転子の十分な厚み差を確保できることから、隣接波長(λmとλm+1)間における勾配加工が容易になって片面傾斜型ファラデー回転子の加工が困難でないことを確認した。
【0078】
因みに、実施例2に係る光アイソレータのチップサイズ(すなわち、図1Bに示す積層構造体22のサイズ)は、高さが0.5mm、幅が2.8mm(表2の座標欄参照)であり、CWDM(Coarse Wavelength Division Multiplex:波長分割多重)の広い波長域を必要とする仕様環境においてその小型化が達成されていることを確認した。
【0079】
3.光アイソレータの特性
表2の「IL(dB)」(挿入損失)欄、および、「ISO(dB)」(アイソレーション)欄から確認されるように、実施例2に係る光アイソレータにおいても、1490nm~1590nmの波長帯域において、挿入損失0.3dB、および、30dB以上のアイソレーションが確保されており、CWDMの広い波長域を必要とする仕様環境において高いアイソレーションを維持できることを確認した。
【0080】
[比較例1]
実施例1に係る光アイソレータに代えて、第一偏光子/ファラデー回転子/第二偏光子から成る1段構成の自己保磁型アイソレータチップ(高さ0.5mm、幅0.5mm)を6波長分(λ1=1250nm、λ2=1270nm、λ3=1290nm、λ4=1310nm、λ5=1330nm、および、λ6=1350nm)用意した。
【0081】
そして、図6に示すように、第一偏光子100a/厚さT1=485μmのファラデー回転子401/第二偏光子100bから成るアイソレータチップ501と、第一偏光子100a/厚さT2=500μmのファラデー回転子402/第二偏光子100bから成るアイソレータチップ502と、第一偏光子100a/厚さT3=515μmのファラデー回転子403/第二偏光子100bから成るアイソレータチップ503と、第一偏光子100a/厚さT4=530μmのファラデー回転子404/第二偏光子100bから成るアイソレータチップ504と、第一偏光子100a/厚さT5=545μmのファラデー回転子405/第二偏光子100bから成るアイソレータチップ505、および、第一偏光子100a/厚さT6=560μmのファラデー回転子406/第二偏光子100bから成るアイソレータチップ506を基板400上に配置して比較例1に係る光アイソレータを組み立てた。
【0082】
尚、各アイソレータチップ間は、最近接距離0.5mmの間隔を空ける必要があることから、比較例1に係る光アイソレータの光軸と交わる光学面は高さ0.5mm、幅5.5mmとなり、実施例1に係る光アイソレータのチップサイズ(高さ0.5mm、幅2.8mm)より著しく大きくなった。
【0083】
そして、6枚のアイソレータチップ501~506を同時に組み立てるため、非常に精密な組み立て技術が必要となった。
【0084】
[実施例3]
1.光アイソレータ
実施例3に係る光アイソレータは、図2(A)に示した偏光子1a/片面傾斜型ファラデー回転子2/偏光子1b/片面傾斜型ファラデー回転子2’/偏光子1cの多段積層構造体で構成された2段構成の自己保磁型光アイソレータと同一である。
【0085】
そして、下記表3の「各FR厚(μm)T1~T6」欄、「各(Tm+1-Tm)mm/Δλμm」欄、および、「各回転角(deg.)」欄は、片面傾斜型ファラデー回転子2と片面傾斜型ファラデー回転子2’の各1枚における数値(同一)を示している。
【0086】
また、実施例3に係る光アイソレータの回転角度は、片面傾斜型ファラデー回転子2と片面傾斜型ファラデー回転子2’の各ファラデー回転子を作用させて90度とし、かつ、表3の「IL(dB)」と「ISO(dB)」は片面傾斜型ファラデー回転子2と片面傾斜型ファラデー回転子2’それぞれ合わせたときの特性値とした。
【0087】
【表3】
【0088】
2.ファラデー回転子の厚み差(Tm+1-Tm)mm/波長間隔Δλμmの比
(1)光アイソレータの使用波長(λ1~λ6)は表3「波長(nm)λ1~λ6」欄に、波長λ1~λ6の光が入射されて偏光方向を45度回転させる各ファラデー回転子の波長λ1~λ6における厚さは表3「各FR厚(μm)T1~T6」欄に、各ファラデー回転子の厚み差(Tm+1-Tm)mm/波長間隔Δλμmの比は表3「各(Tm+1-Tm)mm/Δλμm」欄にそれぞれ記載した。
【0089】
(2)表3の「各(Tm+1-Tm)mm/Δλμm」欄から確認されるように、実施例3に係る光アイソレータにおいては各ファラデー回転子の厚み差(Tm+1-Tm)mm/波長間隔Δλμmの比が「0.75」と0.7以上であるため、各片面傾斜型ファラデー回転子の十分な厚み差を確保できることから、隣接波長(λmとλm+1)間における勾配加工が容易になって片面傾斜型ファラデー回転子の加工が困難でないことを確認した。
【0090】
因みに、実施例3に係る光アイソレータのチップサイズ(すなわち、図2Bに示す多段積層構造体24のサイズ)は、高さが0.5mm、幅が2.8mm(表3の座標欄参照)であり、CWDMの広い波長域を必要とする仕様環境においてその小型化が達成されていることを確認した。
【0091】
3.光アイソレータの特性
表3の「IL(dB)」欄、および、「ISO(dB)欄から確認されるように、実施例3に係る光アイソレータにおいては、1250nm~1350nmの波長帯域において、挿入損失が0.6dBと若干増加したが、40dBを上回るアイソレーションが確保されており、CWDMの広い波長域を必要とする仕様環境において高いアイソレーションを維持できることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明に係る光アイソレータによれば、複数のアイソレータチップを使用する従来構造に較べて専有面積の縮小が図れ、かつ、複数のアイソレータチップの精密で煩雑な組み立て作業をも省略できるため、光波長多重通信に対応する広波長帯域で動作可能な光アイソレータとして利用される産業上の利用可能性を有している。
【符号の説明】
【0093】
1a、1b、1c 偏光子
2 片面傾斜型ファラデー回転子
2’ 片面傾斜型ファラデー回転子
2a 一方の矩形状光学面
2b 他方の矩形状光学面
2c 幅方向一端側
2d 幅方向他端側
10 大面積ファラデー回転子用板材
11、12、13 短冊状ファラデー回転子用板材
11’、12’、13’ 短冊状の片面傾斜型ファラデー回転子用板材
20 テーパ付きの治具
21 印
22 積層構造体
23 幅方向一端側2cを0とする座標始点位置
24 多段積層構造体
30 砥石
40a、40b 短冊状偏光子用板材
50 積層構造基板
100a 第一偏光子
100b 第二偏光子
201、202、203、204 ファラデー回転子
301、302、303、304 自己保磁型アイソレータチップ
400 基板
401、402、403、404、405、406 ファラデー回転子
501、502、503、504、505、506 自己保磁型アイソレータチップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6