(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158801
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】回路基板及びこれを備えたインバータ装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20241031BHJP
【FI】
H02M7/48 Z
H02M7/48 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074334
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】阿部 能聖
(72)【発明者】
【氏名】小西 基樹
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA21
5H770BA01
5H770LA02W
5H770QA01
5H770QA06
5H770QA08
5H770QA22
5H770QA28
(57)【要約】
【課題】過大な電流が流れたときの回路基板の破損を防止する。
【解決手段】回路基板10は、通常電流経路S1と、通常電流経路S1と並列に設けられた副電流経路S2とを有する。通常電流経路S1の電流値が所定値未満である場合は、通常電流経路S1の抵抗値よりも副電流経路S2の抵抗値が高い。通常電流経路S1の電流値が前記所定値以上である場合、通常電流経路S1の抵抗値が副電流経路S2の抵抗値以上となる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
通常電流経路と、前記通常電流経路と並列に設けられた副電流経路とを有し、
前記通常電流経路の電流値が所定値未満である場合、前記通常電流経路の抵抗値よりも前記副電流経路の抵抗値が高く、
前記通常電流経路の電流値が前記所定値以上である場合、前記通常電流経路の抵抗値が前記副電流経路の抵抗値以上となる回路基板。
【請求項2】
前記通常電流経路の電流値が前記所定値以上である場合、前記通常電流経路を形成する導体の抵抗発熱により、前記通電電流経路の抵抗値が前記副電流経路の抵抗値以上となる請求項1に記載の回路基板。
【請求項3】
前記副電流経路を形成する導体の厚さが、前記通常電流経路を形成する導体の厚さよりも薄い請求項1に記載の回路基板。
【請求項4】
請求項1に記載の回路基板と、前記通常電流経路に接続されたコンデンサとを有するインバータ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路基板及びこれを備えたインバータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば下記の特許文献1には、複数の半導体チップを有する半導体装置(インバータ装置)において、回路基板に設けられた導電性パターンにスリットを設けることで、電流経路のインダクタンスを調整して、各半導体チップに流れる電流のアンバランスを解消する技術が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、導電性パターンにスリットを設けると電流経路が狭くなるため、大電流が流れた場合に電流経路が過剰に発熱して回路基板が破損する恐れがある。
【0005】
そこで、本発明は、過大な電流が流れたときの回路基板の破損を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明は、通常電流経路と、前記通常電流経路と並列に設けられた副電流経路とを有し、
前記通常電流経路の電流値が所定値未満である場合、前記通常電流経路の抵抗値よりも前記副電流経路の抵抗値が高く、
前記通常電流経路の電流値が前記所定値以上である場合、前記通常電流経路の抵抗値が前記副電流経路の抵抗値以上となる回路基板を提供する。
【0007】
上記の回路基板の通常電流経路の電流値が所定値未満である場合、並列に設けられた通常電流経路及び副電流経路のうち、抵抗値が相対的に小さい通常電流経路に主に電流が流れ、抵抗値が相対的に大きい副電流経路には通常電流経路よりも少ない電流が流れる。通常電流経路に流れる電流値が大きくなると、通常電流経路が発熱して抵抗値が上昇し、通常電流経路に流れる電流値が所定値に達したら、通常電流経路の抵抗値が副電流経路の抵抗値と等しくなる。このとき、副電流経路にも通常電流経路と同等の電流が流れるため、通常電流経路の電流密度が低下し、通常電流経路の発熱が抑えられる。
【0008】
上記の回路基板は、例えば、前記通常電流経路の電流値が前記所定値以上である場合、前記通常電流経路を形成する導体の抵抗発熱により、前記通電電流経路の抵抗値が前記副電流経路の抵抗値以上となるようにすることができる。具体的には、例えば、副電流経路を形成する導体の厚さを、通常電流経路を形成する導体の厚さよりも薄くすることができる。
【0009】
上記の回路基板と、通常電流経路に接続されたコンデンサとを有するインバータ装置は、大電流が流れたときの破損を防止できる。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によれば、通常電流経路に大電流が流れたときに、副電流経路に電流を流すことで、通常電流経路の発熱を抑えることができるため、通常電流経路の過熱による回路基板の破損を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】インバータ装置が組み込まれた駆動機構のブロック図である。
【
図2】上記インバータ装置に設けられた、本発明の第1実施形態に係る回路基板の分解斜視図である。
【
図7】本発明の第2実施形態に係る回路基板の平面図である。
【
図9】本発明の第3実施形態に係る回路基板の平面図である。
【
図10】
図9のD-D線における矢視断面図である。
【
図11】本発明の第4実施形態に係る回路基板の平面図である。
【
図12】本発明の第5実施形態に係る回路基板の平面図である。
【
図14】本発明の第6実施形態に係る回路基板の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の第1実施形態を、
図1~6に基づいて説明する。
【0013】
図1に示す駆動機構1は、モータMを駆動するものであり、直流電源2とインバータ装置3とを有する。インバータ装置3は、平滑コンデンサ4と、インバータモジュール5とを有する。直流電源2から供給された電流が、平滑コンデンサ4で平滑化され、インバータモジュール5で交流に変換された上でモータMに供給されることで、モータMが駆動される。
【0014】
インバータ装置3は、本発明の一実施形態に係る回路基板10(
図2参照)を有する。尚、以下の説明では、平面視で略長方形を成した回路基板10の長辺方向(
図2、3、6のX方向)を「基板長手方向」と言い、回路基板10の短辺方向(
図2、3、6のY方向)を「基板幅方向」という。
【0015】
回路基板10は、
図2に示すように、基板本体11と、基板本体11の表面に設けられた導体とを有する。図示例の回路基板10は、基板本体11の両面に導体12、13が設けられた2層基板である。基板本体11は、樹脂等の絶縁材料で形成された平板である。導体12、13は、導電材料(例えば金属)からなる薄板、例えば銅箔で形成され、基板本体11の表面に印刷や貼り付けにより設けられる。一方の導体12(
図2の上側の導体。以下、「第1導体12」と言う。)は直流電源2の正極に接続され、他方の導体13(
図2の下側の導体。以下、「第2導体13」と言う。)は直流電源2の負極に接続される。
【0016】
回路基板10は、平滑コンデンサ4に接続される平滑コンデンサ用P端子14a及びN端子14bを有する。平滑コンデンサ用P端子14aは、基板本体11に設けられた貫通孔11aと、第1導体12に設けられた貫通孔12aとで形成される。平滑コンデンサ4のP端子4aが、基板本体11の貫通孔11a及び第1導体12の貫通孔12aに挿入され、第1導体12に半田付け等により電気的に接続される。平滑コンデンサ用N端子14bは、基板本体11に設けられた貫通孔11bと、第2導体13に設けられた貫通孔13aとで形成される。平滑コンデンサ4のN端子4bが、基板本体11の貫通孔11b及び第2導体13の貫通孔13aに挿入され、第2導体13に半田付け等により電気的に接続される。第1導体12には、平滑コンデンサ4のN端子4bとの接触を回避するための切り欠き部12b(図示例では貫通孔)が設けられる。第2導体13には、平滑コンデンサ4のP端子4aとの接触を回避するための切り欠き13b(図示例では貫通孔)が設けられる。
【0017】
図3に示すように、回路基板10は、さらに、直流電源2に接続される電源用プラス端子15a及びマイナス端子15bと、半導体素子用P端子16a及びN端子16bと、スナバコンデンサ用P端子17a及びN端子17bとを有する。インバータモジュール5に設けられた半導体素子(例えばIGBT)が、回路基板10の半導体素子用P端子16a及びN端子16bに接続される。インバータモジュール5に設けられたスナバコンデンサが、回路基板10のスナバコンデンサ用P端子17a及びN端子17bに接続される。尚、
図2では、電源用プラス端子15a及びマイナス端子15b、半導体素子用P端子16a及びN端子16b、及びスナバコンデンサ用P端子17a及びN端子17b等の図示は省略している。
【0018】
図3に示すように、第1導体12は、平滑コンデンサ用P端子14aよりも基板長手方向上流側(
図3の右側)の領域に設けられた第1領域12cと、平滑コンデンサ用P端子14aを含む基板長手方向領域に設けられた第2領域12dと、平滑コンデンサ用P端子14aよりも基板長手方向下流側(
図3の左側)の領域に設けられた第3領域12eとを有する。第1領域12cには電源用プラス端子15aが設けられ、第2領域12dには平滑コンデンサ用P端子14aが設けられ、第3領域12eには半導体素子用P端子16a及びスナバコンデンサ用P端子17aが設けられる。
【0019】
第1導体12の第2領域12dには、低抵抗部12fと、常温での抵抗値が低抵抗部12fよりも高い高抵抗部12gとが設けられる。低抵抗部12fと高抵抗部12gは異なる基板幅方向(Y方向)領域に設けられる。具体的には、第2領域12dのうち、平滑コンデンサP端子14a(貫通孔12a)を含む基板幅方向領域に低抵抗部12fが設けられ、これ以外の基板幅方向領域に高抵抗部12gが設けられる。尚、
図3では、第1導体12のうち、高抵抗部12gに散点を付し、それ以外の領域にハッチングを付している。
【0020】
図示例では、低抵抗部12fの基板幅方向両側に高抵抗部12gが設けられる。基板幅方向一方側(
図3の上側)の高抵抗部12gは、低抵抗部12fの基板幅方向一方側に隣接して設けられ、第1導体12の基板幅方向一方側の端部(
図3の上端)まで延びている。基板幅方向他方側(
図3の下側)の高抵抗部12gは、切り欠き部12bの基板幅方向他方側に隣接して設けられ、第1導体12の基板幅方向他方側の端部(
図3の下端)まで延びている。尚、高抵抗部12gを設ける場所は上記に限らず、例えば、基板幅方向一方側あるいは他方側の高抵抗部12gを省略したり、高抵抗部12gの基板幅方向寸法や基板長手寸法を図示例よりも短くしたりしてもよい。
【0021】
本実施形態では、高抵抗部12gと低抵抗部12fを厚さの異なる導体(銅箔)で形成することで、これらの抵抗値を異ならせている。具体的には、
図4に示すように、高抵抗部12gの肉厚が低抵抗部12fの肉厚よりも薄くなっている。図示例では、高抵抗部12gと低抵抗部12fとが一枚の銅箔で連続的に形成され、これらの境界に段差が設けられる。また、
図5に示すように、第2領域12dの高抵抗部12gと第1領域12c及び第3領域12eとが一枚の銅箔で連続的に形成され、これらの境界に段差が設けられる。第2領域12dの低抵抗部12fの厚さは、第1領域12c及び第3領域12eの厚さと等しい。第2領域12dの低抵抗部12fと第1領域12c及び第3領域12eとは、段差を介することなく同一平面上に連続して設けられる。
【0022】
上記のように、第1導体12の第2領域12dに低抵抗部12f及び高抵抗部12gを設けることで、第2領域12dに、低抵抗部12fを通る通常電流経路S1(
図3の実線矢印参照)と、高抵抗部12gを通る副電流経路S2(
図3の点線矢印参照)とが並列に設けられる。
【0023】
電源用プラス端子15aから第1導体12の第1領域12cに入力された電流は、第2領域12dに流入し、平滑コンデンサ4で平滑化された上で、第3領域12eに流れる(
図1の矢印参照)。このとき、第2領域12dを通過する電流は、抵抗値が相対的に低い低抵抗部12f(通常電流経路S1)を主に流れ、抵抗値が相対的に高い高抵抗部12g(副電流経路S2)には通常電流経路S1よりも少ない電流が流れる。このように、第2領域12dに高抵抗部12gを設けることで、第2領域12dを流れる電流を、平滑コンデンサ用P端子14aを含む低抵抗部12fに集中させることができる。
【0024】
通常電流経路S1に電流が流れると、抵抗発熱により低抵抗部12fの温度が上昇し、通常電流経路S1の抵抗値が上昇する。本実施形態では、低抵抗部12fの過熱による回路基板10の破損を防止するために、低抵抗部12fの上限温度(例えば、100℃)を設定し、低抵抗部12fが上限温度に達するような通常電流経路S1の電流値を最大電流値(例えば、200A)として設定する。そして、通常電流経路S1の電流値が上記の最大電流値以上となった場合、通常電流経路S1の抵抗値が副電流経路S2の抵抗値以上となるように、通常電流経路S1及び副電流経路S2の常温での抵抗値、具体的には低抵抗部12f及び高抵抗部12gの厚さが設定される。
【0025】
このとき、通常電流経路S1(低抵抗部12f)の常温での抵抗値と副電流経路S2(高抵抗部12g)の常温での抵抗値との差あるいは比を適切な範囲内に設定することが重要となる。本実施形態では、高抵抗部12gの厚さによりインピーダンスを調整することで、副電流経路S2の常温での抵抗値が、通常電流経路S1の常温での抵抗値に対して所定の範囲内となるように設定する。例えば、通常電流経路S1と副電流経路S2の常温での抵抗値の差が0.0001~0.1mΩ、好ましくは0.001~0.01mΩの範囲内となるように、高抵抗部12gの厚さが設定される。尚、各電流経路を形成する導体(低抵抗部12fあるいは高抵抗部12g)の基板長手方向寸法をL、基板幅方向寸法をW、厚さをtとし、銅の常温(20℃)における抵抗率をρとした場合、各電流経路の常温での抵抗値Rは以下の式で表される。
R=(ρ・L)/(t・W) [mΩ]
【0026】
上記の回路基板10では、通常電流経路S1の電流値が最大電流値未満である場合は、相対的に抵抗値が低い通常電流経路S1に主に電流が流れるため、平滑コンデンサ用P端子14a付近に電流を集中させることができる。一方、誤って電源用プラス端子15aに過大な電流が入力され、通常電流経路S1の電流値が最大電流値に達した場合、低抵抗部12fの抵抗発熱により、通常電流経路S1の抵抗値が副電流経路S2の抵抗値と等しくなるため、並列に設けられた通常電流経路S1及び副電流経路S2に同等の電流が流れる。さらに通常電流経路S1の電流値が大きくなると、通常電流経路S1の抵抗値が副電流経路S2の抵抗値よりも大きくなるため、副電流経路S2に主に電流が流れ、通常電流経路S1の電流値が副電流経路S2の電流値よりも小さくなる。このように、通常電流経路S1の電流値が大きくなるにつれて、通常電流経路S1の電流値(電流密度)が低下することにより、低抵抗部12fの発熱が抑えられるため、低抵抗部12fの過剰な発熱による回路基板10の破損を防止できる。その後、低抵抗部12fの温度が低下して、通常電流経路S1の抵抗値が副電流経路S2の抵抗値よりも小さくなったら、再び通常電流経路S1に主に電流が流れる状態となる。
【0027】
回路基板10の第2導体13は、第1導体12と略同様の構成を有する。具体的には、
図6に示すように、第2導体13は、平滑コンデンサ用N端子14bよりも基板長手方向上流側(
図6の右側)の領域に設けられた第1領域13cと、平滑コンデンサ用N端子14bを含む基板長手方向領域に設けられた第2領域13dと、平滑コンデンサ用N端子14bよりも基板長手方向下流側(
図6の左側)の領域に設けられた第3領域13eとを有する。第1領域13cには電源用マイナス端子15bが設けられ、第2領域13dには平滑コンデンサ用N端子14bが設けられ、第3領域13eには半導体素子用N端子16b及びスナバコンデンサ用N端子17bが設けられる。第2領域13dには、低抵抗部13f及び高抵抗部13gが設けられる。これにより、第2領域13dのうち、低抵抗部13fを通る通常電流経路S3(
図6の実線矢印参照)と、高抵抗部13gを通る副電流経路S4(
図6の点線矢印参照)とが並列に設けられる。第2導体13のその他の構成や電流の流れ方は第1導体12と同様であるため、詳しい説明は省略する。尚、
図6では、第2導体13のうち、高抵抗部13gに散点を付し、それ以外の領域にハッチングを付している。
【0028】
本発明は、上記の実施形態に限られない。以下、本発明の他の実施形態を説明するが、上記の実施形態と同様の点については重複説明を省略する。
【0029】
図7及び8に示す第2実施形態では、第1導体12の第2領域12dに、低抵抗部12fと高抵抗部12gとを絶縁する絶縁部が設けられる。図示例では、絶縁部として、低抵抗部12fと高抵抗部12gとの境界にスリット12hが形成される。これにより、低抵抗部12fから高抵抗部12gに直接的に電流が流れることがないため、電流経路S1、S2の電流値を算出しやすくなり、高抵抗部12gの抵抗値(厚さ)の設定等が容易になる。
【0030】
ところで、通常電流経路S1に通電することで低抵抗部12fが発熱した場合、高抵抗部12gのうち、低抵抗部12fに近い領域は低抵抗部12fの熱が伝わりやすい一方で、低抵抗部12fから遠い領域は低抵抗部12fの熱が伝わりにくい。従って、上記の実施形態のように高抵抗部12gの厚さが均一であると、高抵抗部12gのうち、低抵抗部12f付近の領域は温度が上昇して抵抗値が高くなり、低抵抗部12fから遠い領域は温度が高くなりにくいため抵抗値が低くなる。そのため、通常電流経路S1(低抵抗部12f)の電流値が所定値(最大電流値)に達した場合でも、高抵抗部12gのうち、抵抗値が高い領域(低抵抗部12fに近い領域)に電流がほとんど流れず、高抵抗部12g全体を副電流経路S2として機能させることができない恐れがある。
【0031】
そこで、
図9及び10に示す第3実施形態では、高抵抗部12gに、常温での抵抗値が異なる複数の領域を設けている。具体的には、高抵抗部12gの常温での抵抗値を、抵抗値12fから離れるにつれて大きくしている。図示例では、高抵抗部12gに、厚さの異なる複数(図示例では9つ)の領域12g1~12g9を幅方向に隣接して設け、低抵抗部12fから離れるにつれて段階的に肉厚を薄くしている。高抵抗部12gのうち、低抵抗部12fに近い領域(例えば、領域12g1)は、低抵抗部12fからの熱が伝わりやすいが、抵抗値が小さい(厚さが厚い)ため抵抗発熱が生じにくい。一方、高抵抗部12gのうち、低抵抗部12fから遠い領域(例えば、領域12g9)は、低抵抗部12fからの熱が伝わりにくいが、抵抗値が大きい(厚さが薄い)ため抵抗発熱が生じやすい。このように低抵抗部12fから伝わる熱量の差と、抵抗値(厚さ)の違いによる抵抗発熱量の差とが相殺されることで、通常電流経路S1(低抵抗部12f)に大電流が流れたときの高抵抗部12g全体の抵抗値が略均一になる。これにより、通常電流経路S1の電流値が所定値(最大電流値)に達したときに、高抵抗部12g全体に電流を流すことができるため、低抵抗部12fの発熱を効果的に抑えて回路基板10の破損を確実に防止することができる。
【0032】
図11に示す第4実施形態では、第1導体12の高抵抗部12gが、第1領域12cと第3領域13eとを繋ぐ曲線部12jで形成されている。具体的には、第1領域12cと第3領域13eとの間に形成されたスリット12iに、基板長手方向(
図11の左右方向)に対して湾曲した曲線部12jが設けられる。図示例では、スリット12iに複数の曲線部12jが、基板幅方向(
図11の上下方向)に並べて配されている。曲線部12jは、例えば、低抵抗部12fと同じ厚さの銅箔で形成される。図示例では、平板状の銅箔の不要部分を打ち抜くことで、曲線部12jが、第1領域12c、第3領域12e、及び低抵抗部12fと一体に形成される。副電流経路S2は曲線部12jに沿って蛇行するため、副電流経路S2の経路長Lは、直線状の通常電流経路S1の経路長(=スリット12iの幅W)よりも長い。そのため、通常電流経路S1の電流値が所定値未満の場合は、副電流経路S2の抵抗値が通常電流経路S1の抵抗値よりも大きくなり、通常電流経路S1に主に電流が流れる。通常電流経路S1の電流値が所定値(最大電流値)以上になると、抵抗発熱により通常電流経路S1の抵抗値が副電流経路S2の抵抗値以上となり、副電流経路S2に通常電流経路S1以上の電流が流れるため、通常電流経路S1の電流密度が低下して低抵抗部12fの発熱が抑えられる。
【0033】
図12及び13に示す第5実施形態では、高抵抗部12gとして、第1領域12c及び第3領域12eと別体の抵抗部材20が設けられている。具体的には、第1領域12cと第3領域12eとの間に形成されたスリット12iに、抵抗部材20が架け渡される。抵抗部材20の一端は第1導体12の第1領域12cに接続され、抵抗部材20の他端は第1導体12の第3領域12eに接続される。抵抗部材20は、第1導体12の第2領域12dの低抵抗部12fよりも抵抗値が大きい材料で形成される。例えば、電流検出用として用いられるシャント抵抗を、抵抗部材20として使用することができる。図示例では、複数の抵抗部材20が幅方向に並べて設けられているが、これらを一体化してもよい。
【0034】
図14に示す第6実施形態では、副電流経路S2を開閉するスイッチ30が設けられる。具体的には、第1領域12cと第3領域12eとの間に形成されたスリット12iを跨ぐ副電流経路S2が、スイッチ30により開閉される。本実施形態では、低抵抗部12fにセンサ31(温度センサあるいは電流センサ)が設けられ、このセンサ31で検出した温度あるいは電流値が所定値未満であれば、制御部の指令によりスイッチ30は開いた状態(通電が遮断された状態)とされ、副電流経路S2に電流は流れない。すなわち、この状態では、副電流経路S2の抵抗値が無限大となる。そして、センサ31で検出した温度あるいは電流値が所定値に達したら、制御部の指令によりスイッチ30が閉じられて、通常電流経路S1だけでなく副電流経路S2にも電流が流れる。
【0035】
以上の実施形態において、高抵抗部12gや抵抗部材20に、絶縁を施した放熱部品を接触させてもよい。放熱部品としては、例えばヒートシンク、グラファイトシート、ヒートパイプ等を使用することができる。高抵抗部12gに放熱部品を接触させることにより、高抵抗部12gが冷却されるため、高抵抗部12gとの間で伝熱可能な低抵抗部12fが冷却され、通常電流経路S1の発熱をより一層抑えることができる。特に、
図3や
図9のように、低抵抗部12fと高抵抗部12gとの境界が連続している場合、高抵抗部12gが冷却されることで、低抵抗部12fが冷却されやすい。
【0036】
また、以上の実施形態では第1導体12の変形例を示したが、これらの変形例を第2導体13に適用してもよい。また、第1導体12と第2導体13とで、異なる実施形態の構成を適用してもよい。
【0037】
また、以上の実施形態では、回路基板10の第1導体12及び第2導体13のうち、平滑コンデンサ4が接続される第2領域12d、13dに通常電流経路S1及び副電流経路S2を設けた場合を示したが、これに限らず、他の部品、例えば、スナバコンデンサが接続される第3領域12e、13eに、上記のような通常電流経路及び副電流経路を設けてもよい。
【0038】
また、以上の実施形態では、第1導体12及び第2導体13の双方に本発明を適用した場合を示したが、何れか一方の導体のみに本発明を適用してもよい。また、本発明は、2層の導体を有する回路基板に限らず、単層の導体を有する回路基板や、3層以上の導体を有する回路基板に適用してもよい。また、本発明は、インバータ装置を構成する回路基板に限らず、他の電子機器の回路基板に適用することができ、特に、100A以上の大電流が流れる回路基板に好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 駆動機構
2 直流電源
3 インバータ装置
4 平滑コンデンサ
5 インバータモジュール
10 回路基板
11 基板本体
12 第1導体
12f 低抵抗部
12g 高抵抗部
13 第2導体
13f 低抵抗部
13g 高抵抗部
14a 平滑コンデンサ用P端子
14b 平滑コンデンサ用N端子
15a 電源用プラス端子
15b 電源用マイナス端子
16a 半導体素子用P端子
16b 半導体素子用N端子
17a スナバコンデンサ用P端子
17b スナバコンデンサ用N端子
M モータ
S1 通常電流経路
S2 副電流経路