IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社島津製作所の特許一覧

<>
  • 特開-X線分析装置 図1
  • 特開-X線分析装置 図2
  • 特開-X線分析装置 図3
  • 特開-X線分析装置 図4
  • 特開-X線分析装置 図5
  • 特開-X線分析装置 図6
  • 特開-X線分析装置 図7
  • 特開-X線分析装置 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158806
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】X線分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/2209 20180101AFI20241031BHJP
   G01N 23/223 20060101ALI20241031BHJP
   G01N 23/2252 20180101ALI20241031BHJP
【FI】
G01N23/2209
G01N23/223
G01N23/2252
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074341
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 桂次郎
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001AA03
2G001BA04
2G001BA05
2G001CA01
2G001DA08
2G001EA01
2G001EA20
2G001FA25
2G001GA01
2G001JA05
2G001KA01
2G001SA01
(57)【要約】
【課題】出素子を小型化しなくても、試料の分析精度を向上可能なX線分析装置を提供する。
【解決手段】X線分析装置(1)は、試料に対して励起線を照射する励起源(20)と、励起線(20)が照射された試料から放出される特性X線を波長毎に分光する分光結晶(40)と、分光結晶(40)によって分光された複数の波長の強度をそれぞれ測定するように配列される複数の検出素子(51)を有するライン検出器(50)と、試料と分光結晶(40)との間に配置されるスリット(30)と、スリット(30)を特性X線の通過方向と交差する方向に移動可能に構成されたアクチュエータ(60)と、制御装置(70)を備える。制御装置(70)は、スリット(30)が初期位置にあるときの測定結果と、スリットが初期位置から所定量移動された後の測定結果とを用いて、試料を分析する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に対して励起線を照射する励起源と、
前記励起線が照射された試料から放出される特性X線を波長毎に分光する分光結晶と、
前記分光結晶によって分光された複数の波長の強度をそれぞれ測定するように配列される複数の検出素子を有するライン検出器と、
前記試料と前記分光結晶との間に配置されるスリットと、
前記スリットを前記特性X線の通過方向と交差する方向に移動可能に構成された駆動装置と、
制御装置を備え、
前記制御装置は、前記スリットが第1位置にあるときの前記ライン検出器の測定である第1測定の結果と、前記駆動装置によって前記スリットが前記第1位置から移動されて第2位置にあるときの前記ライン検出器の測定である第2測定の結果とを用いて、前記試料を分析する、X線分析装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記第1測定の結果と前記第2測定の結果とを合成することによって、前記試料の分析に用いられる前記特性X線のスペクトルを生成する、請求項1に記載のX線分析装置。
【請求項3】
前記第1位置から前記第2位置での前記スリットの移動量は、前記第1測定時に測定される波長と、前記第2測定時に測定される波長とが互い異なる値となる量に設定される、請求項1に記載のX線分析装置。
【請求項4】
前記複数の検出素子は、互いに隣り合う第1検出素子および第2検出素子を含み、
前記第1測定時に前記第1検出素子および前記第2検出素子によって測定される波長をそれぞれ第1波長および第2波長とし、前記第1波長と前記第2波長との差を測定ピッチとし、前記第2測定時に前記第1検出素子によって測定される波長を第3波長とするとき、
前記第1波長と前記第3波長との差は、前記測定ピッチ未満である、請求項3に記載のX線分析装置。
【請求項5】
前記制御装置による試料分析モードには、前記駆動装置による前記スリットの移動を伴う移動モードと、前記スリットの位置を固定する固定モードとが含まれ、
前記制御装置は、前記試料分析モードを前記移動モードとするのか前記固定モードとするのかをユーザの要求に応じて切り替える、請求項1に記載のX線分析装置。
【請求項6】
前記移動モードには、前記スリットをステップ的に移動させるステップ移動モードと、前記スリットを連続的に移動させる連続移動モードとが含まれ、
前記制御装置は、前記試料分析モードを前記ステップ移動モードとするのか前記連続移動モードとするのかを前記固定モードとするのかをユーザの要求に応じて切り替える、請求項5に記載のX線分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、X線分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
励起線が照射された試料が発する特性X線(蛍光X線)は、その試料が含有する元素により定まる波長を有している。そのため、特性X線の波長ごとの強度を検出することにより、試料の組成を決定することができる。このように波長ごとの強度を測定して特性X線を検出する方式は「波長分散型」と称される。
【0003】
波長分散型のX線分析装置の一例として、特開2017-223638号公報(特許文献1)には、該試料の組成を分光法により高感度で測定することができるX線分析装置が開示される。このX線分析装置は、励起源が試料に対して励起線を照射し、励起線が照射された試料は特性X線を発生する。発生された特性X線はスリットを通過して分光結晶へ到達する。特性X線がこのスリットを通過することによって、試料における特性X線の発生位置に応じて、分光結晶への特性X線の入射角が異なるようになる。分光結晶で回折された特性X線は検出器に到達する。検出器は、所定の方向に配列された複数の検出素子により構成されており、複数の検出素子の各々は、異なる波長(エネルギー)の特性X線の強度(以下「特性X線強度」とも称する。)を、分光結晶への特性X線の入射角に応じて検出する。X線分析装置は、複数の検出素子の各々で検出されたエネルギーに対応するX線強度に基づいてX線スペクトルを生成する。そして、X線分析装置は、このX線スペクトルに基づいて試料を分析する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-223638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のX線分析装置においては、測定点数を増加して、より正確な特性X線スペクトルを取得することが望まれている。そのためには、検出素子ピッチを小さくする必要があり、例えば、各検出素子の幅を短くして各検出素子を小型化することによって、隣接する検出素子間のピッチを小さくすることが考えられる。しかしながら、検出素子の幅を短くするためには検出素子の製造段階において、より高い寸法精度の実現が必要となるため、検出素子の小型化は製造上の限界および製造コストの観点から困難になることが想定される。
【0006】
この発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、検出素子を小型化しなくても、試料の分析精度を向上可能なX線分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示によるX線分析装置は、試料に対して励起線を照射する励起源と、励起線が照射された試料から放出される特性X線を波長毎に分光する分光結晶と、分光結晶によって分光された複数の波長の強度をそれぞれ測定するように配列される複数の検出素子を有するライン検出器と、試料と分光結晶との間に配置されるスリットと、スリットを特性X線の通過方向と交差する方向に移動可能に構成された駆動装置と、制御装置を備える。制御装置は、スリットが第1位置にあるときのライン検出器の測定である第1測定の結果と、駆動装置によってスリットが第1位置とは異なる第2位置に移動されたときのライン検出器の測定である第2測定の結果とを用いて、試料を分析する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、検出素子を小型化しなくても、試料の分析精度を向上可能なX線分析装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】X線分析装置の構成を模式的に示す図である。
図2】1回目の測定時におけるX線分析装置の状態が示されている。
図3】2回目の測定時におけるX線分析装置の状態が示されている。
図4】1回目の測定および2回目の測定において、互いに隣り合う2つの検出素子によって測定される波長(エネルギ)の関係を示す図である。
図5】1回目の測定結果で得られる特性X線スペクトルと、2回目の測定結果で得られる特性X線スペクトルと、それらを合成したスペクトルとを模式的に示す図である。
図6】制御装置が試料の分析を行なう際に実行する処理手順の一例を示すフローチャートである。
図7】制御装置が試料分析モードを選択する際に行なう処理手順の一例を示すフローチャート(その1)である。
図8】制御装置が試料分析モードを選択する際に行なう処理手順の一例を示すフローチャート(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、以下では図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さないものとする。
【0011】
[X線分析装置の構成]
図1は、本実施の形態によるX線分析装置1の構成を模式的に示す図である。X線分析装置1は、特性X線を分光器(分光結晶)により分光し、目的の波長ごとの特性X線強度を測定して特性X線スペクトルを検出する、いわゆる波長分散型のX線分析装置である。
【0012】
X線分析装置1は、分析対象である試料Sを保持するホルダ10と、励起源20と、スリット30と、分光結晶40と、ライン検出器(Position Sensitive Detector)50と、アクチュエータ60と、制御装置70と、ディスプレイ80と、操作部90とを備える。
【0013】
励起源20は、励起光(励起線)であるX線を試料Sに照射するX線源である。X線源の代わりに、電子線源を用いてもよい。図1において、ホルダ10における試料Sが保持される面をX-Y平面とし、X-Y平面の法線方向をZ軸方向とする。試料Sは、固体、液体および気体のいずれであってもよく、試料Sの状態に対応したホルダ10が用いられる。
【0014】
励起源20から発せられた励起光は、試料Sの表面に照射される。これによって、試料Sから特性X線が放出される。図1の例では、試料Sの表面に対して垂直に励起光を照射する構成としたが、試料Sの表面に対して傾斜した角度で励起光を照射する構成としてもよい。
【0015】
スリット30は、試料Sと分光結晶40との間に配置される。スリット30は、Y軸方向に延びる線状開口31を有する。試料Sから放出される特性X線は、スリット30の線状開口31を通過して分光結晶へ到達する。特性X線がスリット30を通過することによって、試料Sにおける特性X線の発生位置に応じて、分光結晶40への特性X線の入射角が異なるようになる。
【0016】
分光結晶40は、たとえば、シリコン単結晶、フッ化リチウム単結晶、ゲルマニウム単結晶からなる。分光結晶40においては、特定の結晶面が、結晶の表面に平行になっている。特定の結晶面のみを特性X線の検出に用いることができ、他の結晶面でブラッグ反射した特性X線が誤って検出されることを防止することができる。
【0017】
ライン検出器50は、所定の配列方向に沿って配列された複数(たとえば1000個以上)の検出素子51を有する。各検出素子51は、たとえばシリコンなどにより構成され、分光結晶40により分光された特性X線の強度を検出する。ライン検出器50は、各検出素子51による検出結果を制御装置70に出力する。
【0018】
ホルダ10に試料Sを保持させた状態で、励起源20から試料Sの表面に励起線を照射すると、試料Sから特性X線が放出される。放出される特性X線は、試料Sを構成する元素によって異なる波長を有する。励起源20から発せられた励起線が位置A1から位置A2までの領域に照射されることによって放出された特性X線が、スリット30を通過して分光結晶40の表面41へ到達する。図1には、位置A1および位置A2において発生している特性X線が破線で示されている。位置A2は、位置A1からX軸の正方向に所定距離離れた位置である。また、位置A1での照射領域および位置A2での照射領域はいずれもY軸方向に延在している。
【0019】
分光結晶40に入射する特性X線と分光結晶40の表面41とのなす角をθとすると、特性X線の入射角は(90-θ)度となる。分光結晶40への特性X線の入射角は、スリット30を通過させることによって、試料Sにおける特性X線の発生位置に応じて、異なる角度となる。たとえば、位置A1において放出された特性X線は入射角(90-θ)度で分光結晶40に入射し、位置A2において放出された特性X線は入射角(90-θ)度で分光結晶40に入射する。
【0020】
試料Sから分光結晶40に入射角(90-θ)度で入射した特性X線のうち、ブラッグ条件の式であるλ=(2d/n)sinθ(λは特性X線の波長、dは分光結晶40の結晶面間隔、nは次数)を満たす波長を有する特性X線のみが、分光結晶40で回折されてライン検出器50に到達する。スリット30、分光結晶40、およびライン検出器50が図1に示す状態で固定されている場合には、θ<θ<θの範囲内でブラッグ条件の式を満たす波長を有する特性X線が、分光結晶40で回折されてライン検出器50に到達する。
【0021】
分光結晶40で回折された特性X線は入射角と同じ角度で出射されるので、ブラッグ反射した特性X線は、複数の検出素子51のうちの、出射角に対応した位置に配置される検出素子51によって検出される。たとえば図1に示す状態では、位置A1から放出される特性X線のうち、波長λ=(2d/n)sinθを満たす特性X線が検出素子51aによって検出される。また、位置A2から放出される特性X線のうち、波長λ=(2d/n)sinθを満たす特性X線が検出素子51bによって検出される。なお、図1に示すようにライン検出器50の両端部分には、特性X線を検出不能な領域が存在している。すなわち、ライン検出器50は、検出素子51a,51b間に配列される検出素子51によって測定される特性X線の強度を測定することができる。
【0022】
このように、複数の検出素子51ごとに、異なる波長の特性X線が検出される。言い換えれば、X線分析装置1は、特性X線が検出された検出素子を知ることによって、特性X線に含まれる波長を認識することができる。一方で、特性X線の波長は元素ごとに異なる。したがって、X線分析装置1は、ライン検出器50において特性X線が検出された検出素子を特定することによって、試料の分析(たとえば、試料の含有元素の特定)を行なうことができる。
【0023】
制御装置70は、CPU(Central Processing Unit)、メモリ(記憶装置)、入出力バッファ等を含み、ライン検出器50の検出結果を用いて試料Sの分析等の処理を行なう。なお、制御装置70が行なう処理については、ソフトウェアによる処理に限られず、専用のハードウェア(電子回路)で処理することも可能である。
【0024】
制御装置70は、ライン検出器50の検出結果を用いて、試料Sから放出された特性X線の波長(エネルギー)と強度との対応関係を示す特性X線スペクトルを生成することができる。そして、制御装置70は、生成された特性X線スペクトルを既知試料の特性X線スペクトルと比較することにより、試料Sの分析(たとえば、試料の含有元素の特定)を行なう。
【0025】
制御装置70は、ライン検出器50の検出結果を用いて生成したX線スペクトル、および、そのX線スペクトルを用いた試料Sの分析結果を、ディスプレイ80に表示させることができる。ディスプレイ80は、画像を表示可能な液晶パネルなどで構成される。操作部90は、X線分析装置1に対するユーザの操作入力を受け付ける。操作部90は、典型的には、タッチパネル、キーボード、マウスなどで構成される。
【0026】
[スリット30の移動による試料分析精度の向上]
X線分析装置1による試料分析精度を向上させるためには、特性X線強度のピークフィッティングの精度を向上させることが望ましい。そして、特性X線強度のピークフィッティングの精度を向上させるためには、特性X線スペクトルにおける波長(エネルギー)の測定ピッチを細かくすることが望ましい。
【0027】
波長の測定ピッチを細かくする1つの手法として、ライン検出器50における各検出素子51の幅W(配列方向の寸法)をより小さくして、検出素子51の配置密度を増加させることが考えられる。しかしながら、検出素子51の幅Wは既に非常に小さい値(たとえば50μm程度)であり、検出素子51の幅Wをさらに小さくするためには非常に高い寸法精度が必要となり技術的に難しい。したがって、検出素子51の配置密度を簡単に増加させることは難しい。
【0028】
波長の測定ピッチを細かくする他の手法として、試料Sから分光結晶40までの距離、あるいは分光結晶40からライン検出器50までの距離を大きくすることが考えられる。しかしながら、この手法では、X線分析装置1が大型化してしまうという問題がある。また、X線の強度は距離の2乗に比例して減衰するため、ライン検出器50で検出されるX線の強度が非常に小さくなってしまうという問題もある。さらに、ライン検出器50で測定可能な波長範囲が狭くなってしまうという問題もある。
【0029】
このような問題に鑑みて、本実施の形態によるX線分析装置1には、試料Sと分光結晶40との間に配置されるスリット30を、特性X線の通過方向(特性X線がスリット30を通過する方向)と交差する方向に移動させるためのアクチュエータ60が備えられる。そして、制御装置70は、試料分析を行なう際に、特性X線の通過方向と交差する方向(以下「スリット移動方向」とも称する)にスリット30を所定量(以下「スリット移動量」とも称する)ΔDだけ移動させる。これにより、複数の検出素子51の各々に対して、スリット30の移動前と移動後とで異なる波長の特性X線が入射するようになる。その結果、特性X線スペクトルにおける測定ピッチを擬似的に細かくすることができる。
【0030】
具体的には、制御装置70は、スリット30が初期位置(第1位置)にあるときにライン検出器50による1回目の測定(第1測定)を行ない、1回目の測定をメモリに記憶する。その後、制御装置70は、スリット30をスリット移動方向にスリット移動量ΔDだけ移動させ、スリット30が移動後の位置(第2位置)にあるときにライン検出器50による2回目の測定(第2測定)を行なう。そして、制御装置70は、1回目の測定結果と2回目の測定結果とを合成することによって、試料Sの分析に用いられる特性X線のスペクトルを生成する。
【0031】
図2は、1回目の測定時におけるX線分析装置1の状態が示されている。1回目の測定では、スリット30が初期位置にある。図2には、1回目の測定において、ある検出素子51mで検出される特性X線L1の通過経路が例示されている。特性X線L1は、試料の位置Am1から放出され、特性X線がスリット30を通過して、分光結晶40で回折されて検出素子51mに達している。
【0032】
図3は、2回目の測定時におけるX線分析装置1の状態が示されている。2回目の測定では、スリット30が初期位置からスリット移動方向にスリット移動量ΔDだけ移動された位置にある。図3には、2回目の測定において、検出素子51mで検出される特性X線L2の通過経路が例示されている。
【0033】
検出素子51mが2回目の測定で検出する特性X線L2は、検出素子51mが1回目の測定で検出する特性X線L1とは異なる。すなわち、特性X線L2は、試料の位置Am1ではなく位置Am1とは僅かにずれた位置Am2から放出された特性X線である。これにより、スリット30を移動する前の1回目の測定とスリット30を移動した後の2回目の測定とで、検出素子51の各々で測定される特性X線の波長(エネルギー)を異ならせることができる。
【0034】
言い換えれば、スリット移動量ΔDは、1回目の測定時に検出素子51の各々で測定される波長と、2回目の測定時に検出素子51の各々で測定される波長とが異なる値となるような量に設定される。
【0035】
図4は、1回目の測定および2回目の測定において、互いに隣り合う2つの検出素子51m,51nによって測定される波長(エネルギ)の関係を示す図である。
【0036】
1回目の測定で検出素子51m,51nによって測定される波長をそれぞれ「λm1」、「λn1」とするとき、波長λm1と波長λn1との差(=|λm1-λn1|)が1回目の測定ピッチP(分解能)となる。すなわち、1回目の測定では、波長λmと波長λnとの間の波長の強度は測定することができない。
【0037】
2回目の測定で検出素子51mによって測定される波長を「λm2」とするとき、波長λm1と波長λm2との差Δλm(=|λm1-λm2|)は、1回目の測定ピッチP未満である。ピークフィッティングの精度をより適切に向上させるためには、差Δλmは、1回目の測定ピッチPの8分の1以上、2分の1以下(P/8≦Δλm≦P/2)程度であることが望ましい。
【0038】
同様に、2回目の測定で検出素子51nによって測定される波長を「λn2」とするとき、波長λn1と波長λn2との差Δλn(=|λn1-λn2|)は、1回目の測定ピッチP未満である。ピークフィッティングの精度をより適切に向上させるためには、P/2≦Δλn<P/8であることが望ましい。
【0039】
スリット移動量ΔDは、検出素子51によって測定される波長が図4に示すような関係となるような量に設定される。
【0040】
そして、制御装置70は、1回目の測定結果と2回目の測定結果とを合成することによって、試料Sの分析に用いられる特性X線のスペクトルを生成する。
【0041】
図5は、1回目の測定結果で得られる特性X線スペクトルと、2回目の測定結果で得られる特性X線スペクトルと、それらを合成したスペクトルとを模式的に示す図である。
【0042】
1回目の測定と2回目の測定とでは、波長測定ピッチそのものはほぼ同じであるが、各検出素子51によって測定される波長がそれぞれ異なっている。そのため、1回目の測定結果で得られる特性X線スペクトルと、2回目の測定結果で得られる特性X線スペクトルとを合成することによって、1回目の測定では測定できなかった波長を、2回目の測定で補間することができるので、より精密なスペクトル波形を生成することができる。これにより、検出素子51を小型化しなくても、試料Sの分析精度を向上することができる。
【0043】
図6は、制御装置70が試料Sの分析を行なう際に実行する処理手順の一例を示すフローチャートである。このフローチャートは、試料Sがホルダ10に保持された状態において、たとえばユーザが分析開始操作を行なった場合に開始される。
【0044】
まず、制御装置70は、アクチュエータ60を制御してスリット30の位置を初期位置にし(ステップS11)、1回目の測定を行なう(ステップS12)。具体的には、制御装置70は、スリット30が初期位置にある状態で、励起源20から試料Sに向けて励起光を照射し、試料Sが発生する特性X線をライン検出器50で測定する。制御装置70は、その結果を1回目の測定結果としてメモリに記憶する。
【0045】
1回目の測定が終わると、制御装置70は、スリット移動量ΔDを設定する(ステップS13)。スリット移動量ΔDは、予め決められた固定値であってもよいし、ユーザによって調整可能な可変値であってもよい。どちらの場合であっても、スリット移動量ΔDは、上述したように、1回目の測定時に各検出素子51で測定される波長と、2回目の測定時に各検出素子51で測定される波長とが互い異なる値となるような量に設定される。
【0046】
次いで、制御装置70は、アクチュエータ60を制御してスリット30をスリット移動方向にスリット移動量ΔDだけ移動させ(ステップS14)、2回目の測定を行なう(ステップS15)。具体的には、制御装置70は、スリット30が初期位置からスリット移動方向にスリット移動量ΔDだけ移動された位置にある状態で、励起源20から試料Sに向けて励起光を照射し、試料Sが発生する特性X線をライン検出器50で測定する。制御装置70は、その結果を2回目の測定結果としてメモリに記憶する。
【0047】
次いで、制御装置70は、1回目の測定結果で得られる特性X線のスペクトルと、2回目の測定結果で得られる特性X線のスペクトルとを合成する(ステップS16)。
【0048】
次いで、制御装置70は、合成された特性X線のスペクトルを出力する(ステップS17)。たとえば、制御装置70は、合成された特性X線のスペクトルをディスプレイ80に表示させる。ユーザは、ディスプレイ80に表示された合成スペクトルを見て、試料Sの分析を行なうことができる。
【0049】
以上のように、本実施の形態によるX線分析装置1は、試料Sと分光結晶40との間に配置されるスリット30を移動させるためのアクチュエータ60を備える。そして、制御装置70は、試料分析を行なう際に、特性X線の通過方向と交差する方向にスリット30を所定量ΔDだけ移動させる。これにより、スリット30の移動前と移動後とで、各検出素子51で測定される特性X線の波長(エネルギー)を異ならせることができる。その結果、検出素子51を小型化しなくても、試料Sの分析精度を向上することができる。
【0050】
さらに、本実施の形態においては、スリット30の移動前の1回目の測定(第1測定)の結果と、スリット30の移動後の2回目の測定結果(第2測定)の結果とを合成することによって、特性X線のスペクトルを生成する。これにより、スリット30の移動前の1回目の測定よりも細かい波長ピッチで精細に特性X線を検出することができる。
【0051】
さらに、本実施の形態による分光結晶40およびライン検出器50は、機械的に動かされずに固定されている。そのため、ライン検出器50によって検出される特性X線のエネルギー位置および強度を安定させることができる。
【0052】
[変形例1]
X線分析装置1による試料分析モードに、上述の実施の形態で説明したスリット30の移動を伴うモード(以下「スリット移動モード」ともいう)に加えて、スリット30の位置を固定するモード(以下「スリット固定モード」ともいう)が含まれるようにし、ユーザの要求に応じて試料分析モードを選択するようにしてもよい。
【0053】
図7は、本変形例1による制御装置70が試料分析モードを選択する際に行なう処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0054】
まず、制御装置70は、ユーザがスリット固定モードを選択する操作を行なったか否かを判定する(ステップS20)。
【0055】
ユーザがスリット固定モードを選択する操作を行なった場合(ステップS20においてYES)、制御装置70は、試料分析モードをスリット固定モードに設定する(ステップS30)。スリット固定モードでは、スリット30が移動されずに初期位置に固定され、1回の測定の結果で特性X線のスペクトルが生成される。そのため、1回目の測定後にスリット30の移動および2回目の測定を伴う場合(スリット移動モード)に比べて、分析時間が短縮される。したがって、それほど細かい分解能を必要としない場合、ユーザは、スリット固定モードを選択することで分析時間を短縮することができる。
【0056】
一方、ユーザがスリット固定モードを選択する操作を行なっていない場合(ステップS20においてNO)、制御装置70は、試料分析モードをスリット移動モードに設定する(ステップS10)。スリット移動モードでは、上述の実施の形態で説明したように、1回目の測定後にスリット30が移動され、その後に2回目の測定が行なわれる。そのため、スリット固定モードに比べて分析時間は長くなるが、高分解能のスペクトルを得ることができ、試料Sの分析精度を向上することができる。
【0057】
以上のように、X線分析装置1による試料分析モードをスリット移動モードとするのかスリット固定モードとするのかを、ユーザの要求に応じて切り替えるようにしてもよい。これにより、ユーザの利便性を向上することができる。
【0058】
[変形例2]
上述の実施の形態においては、1回目の測定後にスリット30をステップ的に移動させ、その後に2回目の測定を行なう。しかしながら、スリット30の移動手法は必ずしもステップ的であることに限定されず、連続的であってもよい。たとえば、スリット30を所定範囲で連続的に移動させ、スリット30の移動中に互いに異なる複数のタイミングで複数回の測定をそれぞれ行ない、それら複数回の測定結果を合成したスペクトルを生成するようにしてもよい。
【0059】
図8は、本変形例2による制御装置70が試料分析モードを選択する際に行なう処理手順の一例を示すフローチャートである。図8のフローチャートは、上述の図7のフローチャートのステップS10に代えて、ステップS11~S13を追加したものである。図8のその他のステップ(図6に示したステップと同じ番号を付しているステップ)については、既に説明したため詳細な説明はここでは繰り返さない。
【0060】
ユーザがスリット固定モードを選択する操作を行なった場合(ステップS20においてYES)、制御装置70は、試料分析モードを上述のスリット固定モードに設定する(ステップS30)。
【0061】
一方、ユーザがスリット固定モードを選択する操作を行なっていない場合(ステップS20においてNO)、制御装置70は、ユーザがスリット連続移動モードを選択する操作を行なったか否かを判定する(ステップS11)。
【0062】
ユーザがスリット連続移動モードを選択する操作を行なった場合(ステップS11においてYES)、制御装置70は、試料分析モードをスリット連続移動モードに設定する(ステップS10)。スリット連続移動モードでは、制御装置70は、上述したように、たとえば、スリット30を所定範囲で連続的に移動させ、スリット30の移動中に互いに異なる複数のタイミングで複数回の測定をそれぞれ行ない、それら複数回の測定結果を合成したスペクトルを生成する。これにより、より細かい分解能を有するスペクトルを生成することができる。
【0063】
ユーザがスリット連続移動モードを選択する操作を行なっていない場合(ステップS11においてNO)、制御装置70は、試料分析モードをスリットステップ移動モードに設定する(ステップS10)。スリットステップ移動モードでは、上述の実施の形態で説明したように、1回目の測定後にスリット30をステップ的に移動させ、その後に2回目の測定を行なう。
【0064】
以上のように、X線分析装置1による試料分析モードを、スリット30をステップ的に移動させるスリットステップ移動モードとするのか、スリット30を連続的に移動させるスリット連続移動モードとするのかを、ユーザの要求に応じて切り替えるようにしてもよい。これにより、ユーザの利便性を向上することができる。
【0065】
[態様]
上述した実施の形態およびその変形例は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0066】
(第1項) 一態様に係るX線分析装置は、試料に対して励起線を照射する励起源と、励起線が照射された試料から放出される特性X線を波長毎に分光する分光結晶と、分光結晶によって分光された複数の波長の強度をそれぞれ測定するように配列される複数の検出素子を有するライン検出器と、試料と分光結晶との間に配置されるスリットと、スリットを特性X線の通過方向と交差する方向に移動可能に構成された駆動装置と、制御装置を備える。制御装置は、スリットが第1位置にあるときのライン検出器の測定である第1測定の結果と、駆動装置によってスリットが第1位置から移動されて第2位置にあるときのライン検出器の測定である第2測定の結果とを用いて、試料を分析する。
【0067】
第1項に記載のX線分析装置によれば、試料の分析を行なう際に、駆動装置によってスリットを特性X線の通過方向と交差する方向に移動させることによって、スリットが第1位置にあるときにライン検出器で測定される波長と、スリットが第1位置とは異なる第2位置に移動されたときにライン検出器で測定される波長とを異ならせることができる。そして、スリットが第1位置にあるときの第1測定の結果と、スリットが第2位置に移動されたときの第2測定の結果とを用いて、試料が分析される。これにより、第1測定では測定できなかった波長を、第2測定で補間することができる。その結果、検出素子を小型化しなくても、試料の分析精度を向上することができる。
【0068】
(第2項) 第1項に記載のX線分析装置において、制御装置は、第1測定の結果と第2測定の結果とを合成することによって、試料の分析に用いられる特性X線のスペクトルを生成する。
【0069】
第2項に記載のX線分析装置によれば、第1測定の結果と第2測定の結果とを合成することによって、第1測定では測定できなかった波長を第2測定で測定された波長で補間することができるので、より精密なスペクトル波形を生成することができる。
【0070】
(第3項) 第1項に記載のX線分析装置において、第1位置から第2位置でのスリットの移動量は、第1測定時に測定される波長と、第2測定時に測定される波長とが互い異なる値となる量に設定される。
【0071】
第3項に記載のX線分析装置によれば、スリットの移動量が、第1測定時に測定される波長と、第2測定時に測定される波長とが互い異なる値となる量に設定される。そのため、第1測定では測定できなかった波長を第2測定で測定された波長でより確実に補間することができる。
【0072】
(第4項) 第3項に記載のX線分析装置において、複数の検出素子は、互いに隣り合う第1検出素子および第2検出素子を含む。第1測定時に第1検出素子および第2検出素子によって測定される波長をそれぞれ第1波長および第2波長とし、第1波長と第2波長との差を測定ピッチとし、第2測定時に第1検出素子によって測定される波長を第3波長とするとき、第1波長と第3波長との差は、測定ピッチ未満である。
【0073】
第4項に記載のX線分析装置によれば、第1測定時に測定される波長(第1波長)と第2測定時に測定される波長(第3波長)との差を第1測定時の測定ピッチ未満にすることで、第1測定時に測定される波長と、第2測定時に測定される波長とを互い異ならせることができる。
【0074】
(第5項) 第1項に記載のX線分析装置において、制御装置による試料分析モードには、駆動装置によるスリットの移動を伴う移動モードと、スリットの位置を固定する固定モードとが含まれる。制御装置は、試料分析モードを移動モードとするのか固定モードとするのかをユーザの要求に応じて切り替える。
【0075】
第5項に記載のX線分析装置によれば、ユーザの要求に応じて、試料分析モードを移動モードと固定モードとの間で切り替えることができる。そのため、ユーザの利便性を向上させることができる。
【0076】
(第6項) 第5項に記載のX線分析装置において、移動モードには、スリットをステップ的に移動させるステップ移動モードと、スリットを連続的に移動させる連続移動モードとが含まれる。制御装置は、試料分析モードをステップ移動モードとするのか連続移動モードとするのかを固定モードとするのかをユーザの要求に応じて切り替える。
【0077】
第6項に記載のX線分析装置によれば、ユーザの要求に応じて、試料分析モードをステップ移動モードと連続移動モードと固定モードとの間で切り替えることができる。そのため、ユーザの利便性を向上させることができる。
【0078】
今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0079】
1 X線分析装置、10 ホルダ、20 励起源、30 スリット、31 線状開口、40 分光結晶、50 ライン検出器、51,51a,51b,51m,51n 検出素子、60 アクチュエータ、70 制御装置、80 ディスプレイ、90 操作部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8