(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158821
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】ガスセンサ及びガスセンサシステム
(51)【国際特許分類】
G01N 27/12 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
G01N27/12 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074373
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒田 燎
(72)【発明者】
【氏名】高倉 雅博
(72)【発明者】
【氏名】塙 裕一郎
【テーマコード(参考)】
2G046
【Fターム(参考)】
2G046AA26
2G046BA03
2G046BB02
2G046BD02
2G046BD06
2G046BE03
2G046DB05
2G046FB02
2G046FE15
2G046FE16
2G046FE29
2G046FE31
2G046FE39
2G046FE46
2G046FE48
2G046FE49
(57)【要約】
【課題】ガス選択性を向上させ得るとともに、濃度レンジを大きくし得るガスセンサを提供する。
【解決手段】ガスセンサ10は、測定ガスを吸着および脱離することで測定ガスの濃度を濃縮する吸着部50と、吸着部50から脱離し、濃縮された測定ガスの濃度を検知する検知部30と、吸着部50および検知部30を加熱するヒータ24と、を備える。吸着部50が金属有機構造体で構成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定ガスを吸着および脱離することで前記測定ガスの濃度を濃縮する吸着部と、
前記吸着部から脱離し、濃縮された前記測定ガスの濃度を検知する検知部と、
前記吸着部および前記検知部を加熱するヒータと、
を備えるガスセンサであって、
前記吸着部が金属有機構造体で構成される、
ガスセンサ。
【請求項2】
前記検知部は、基体に積層され、前記測定ガスの濃度に応じて電気的特性が変化する酸化物半導体を主相とするガス検知層であり、
前記ガス検知層に接続された一対の検知電極を有し、
前記吸着部は、前記基体に積層され、前記ヒータを用いた温度変化によって前記測定ガスを吸着および脱離するガス吸着層であり、
前記ヒータは、前記ガス吸着層および前記ガス検知層を温め、
前記ガス吸着層を構成する多孔質材料は、前記金属有機構造体である、
請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記金属有機構造体は、ヒドロキシ基を有する、
請求項1又は請求項2に記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記金属有機構造体は、ジルコニウムを有する、
請求項1又は請求項2に記載のガスセンサ。
【請求項5】
前記ガス吸着層は、前記ガス検知層に積層される、
請求項2に記載のガスセンサ。
【請求項6】
前記基体は、ダイアフラムを有し、
前記ヒータは、前記ダイアフラムに設けられる、
請求項2に記載のガスセンサ。
【請求項7】
請求項1又は請求項2に記載のガスセンサと、
前記ヒータを用いた加熱時間と、前記ガスセンサによって検出された濃縮された前記測定ガスの濃度と、に基づいて、濃縮前の前記測定ガスの濃度を導出する制御を行う制御部と、
を備えるガスセンサシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサ及びガスセンサシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ppbレベルまたはpptレベルの極低濃度のガスを測る技術は、ガスクロマトグラフィー質量分析等の大型機器を用いるものが主流であり、小型かつ簡便に測る手法は限られている。
【0003】
例えば、特許文献1のセンサは、電極を有する基板上に、酸化物からなるナノシートの集合体と、集合体に接する細孔構造体と、を備えている。細孔構造体は、ゼオライトを含み、ふるい目的で用いられている。
【0004】
また、特許文献2の皮膚ガス測定装置は、皮膚ガス捕集部と、皮膚ガス測定部と、を備えている。皮膚ガス捕集部は、皮膚ガス成分を吸着して濃縮する多孔質材料と、多孔質材料を加熱する加熱部と、を有している。多孔質材料は、ゼオライトから構成されるものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-15069号公報
【特許文献2】特開2014-232051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のセンサは、細孔構造体を分子ふるいとして用いて干渉ガスをカットしているが、対象ガスの分子径よりも小さいサイズの分子は、そのままふるいを通過してしまう。そのため、特許文献1のようなセンサでは、高い選択性を持つには至っていない。
【0007】
特許文献2の皮膚ガス測定装置は、ゼオライトより低濃度な特定ガスを濃縮し、内蔵ヒータにより濃縮ガスを放出させた状態でガス濃度を測る構成であるが、ゼオライトでは吸着できるガス量に限界があり、一定程度の濃度レンジでガスを測定しようとする場合、多量のゼオライトが必要となってしまう。そのため、耐久性の乏しいセンサ基板の破損などにつながるおそれがある。
【0008】
本開示は、ガス選択性を向上させ得るとともに、濃度レンジを大きくし得るガスセンサを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示のガスセンサは、
測定ガスを吸着および脱離することで前記測定ガスの濃度を濃縮する吸着部と、
前記吸着部から脱離し、濃縮された前記測定ガスの濃度を検知する検知部と、
前記吸着部および前記検知部を加熱するヒータと、
を備えるガスセンサであって、
前記吸着部が金属有機構造体で構成される。
【発明の効果】
【0010】
本開示に係る技術は、ガス選択性を向上させ得るとともに、濃度レンジを大きくし得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、第1実施形態のガスセンサを概略的に示す斜視図である。
【
図3】
図3は、ガスセンサの製造工程を説明する工程図である。
【
図4】
図4は、
図3に続くガスセンサの製造工程を説明する工程図である。
【
図5】
図5は、
図4に続くガスセンサの製造工程を説明する工程図である。
【
図6】
図6は、第1実施形態のガスセンサシステムの電気的構成を示すブロック図である。
【
図7】
図7は、ガスセンサシステムで実行される制御のフローチャートである。
【
図8】
図8は、濃縮前の測定ガスの濃度の導出に用いられるテーブルを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下では、本開示の実施形態が列記されて例示される。
【0013】
〔1〕測定ガスを吸着および脱離することで前記測定ガスの濃度を濃縮する吸着部と、
前記吸着部から脱離し、濃縮された前記測定ガスの濃度を検知する検知部と、
前記吸着部および前記検知部を加熱するヒータと、
を備えるガスセンサであって、
前記吸着部が金属有機構造体で構成される、
ガスセンサ。
【0014】
この構成によれば、ガスセンサは、吸着部で吸着した測定ガスを、ヒータによる加熱によって脱離させて検知部へと供給することができる。これにより、検知部によって濃縮された測定ガスの濃度を検知することができる。その上で、吸着部が金属有機構造体で構成されるため、測定ガスを高い選択性で吸着することができる。そして、金属有機構造体が比較的表面積の大きい構成であるため、測定ガスの濃度レンジを大きくすることができる。
【0015】
〔2〕前記検知部は、基体に積層され、前記測定ガスの濃度に応じて電気的特性が変化する酸化物半導体を主相とするガス検知層であり、
前記ガス検知層に接続された一対の検知電極を有し、
前記吸着部は、前記基体に積層され、前記ヒータを用いた温度変化によって前記測定ガスを吸着および脱離するガス吸着層であり、
前記ヒータは、前記ガス吸着層および前記ガス検知層を温め、
前記ガス吸着層を構成する多孔質材料は、前記金属有機構造体である、
〔1〕に記載のガスセンサ。
【0016】
この構成によれば、ガスセンサは、ガス吸着層で吸着した測定ガスを、ヒータで温めることによって脱離させてガス検知層へと供給することができる。その上で、ガス吸着層を構成する多孔質材料が金属有機構造体であるため、測定ガスを高い選択性で吸着することができる。そして、金属有機構造体が比較的表面積の大きい多孔質材料であるため、測定ガスの濃度レンジを大きくすることができる。
【0017】
〔3〕前記金属有機構造体は、ヒドロキシ基を有する、
〔1〕又は〔2〕に記載のガスセンサ。
【0018】
この構成によれば、吸着部によって、水素結合を利用して親水基を有する測定ガスの分子を選択的に吸着することができる。そのため、このガスセンサでは、測定ガスの選択性を向上させることができる。
【0019】
〔4〕前記金属有機構造体は、ジルコニウムを有する、
〔1〕から〔3〕のいずれかに記載のガスセンサ。
【0020】
この構成によれば、金属有機構造体がジルコニウムを有することで、吸着部の熱的安定性および化学的安定性を向上させることができる。
【0021】
〔5〕前記ガス吸着層は、前記ガス検知層に積層される、
〔2〕、〔2〕を引用する〔3〕〔4〕のいずれかに記載のガスセンサ。
【0022】
この構成によれば、ガス吸着層がガス検知層に接するように近い位置に配されることになるため、ガス吸着層からガス検知層へと測定ガスを供給させ易くなる。
【0023】
〔6〕前記基体は、ダイアフラムを有し、
前記ヒータは、前記ダイアフラムに設けられる、
〔2〕、〔2〕を引用する〔3〕から〔5〕のいずれかに記載のガスセンサ。
【0024】
この構成によれば、ヒータが、ダイアフラムを有する基体に設けられるため、ヒータによる熱引きを向上させることができる。
【0025】
〔7〕〔1〕から〔6〕のいずれかに記載のガスセンサと、
前記ヒータを用いた加熱時間と、前記ガスセンサによって検出された濃縮された前記測定ガスの濃度と、に基づいて、濃縮前の前記測定ガスの濃度を導出する制御を行う制御部と、
を備えるガスセンサシステム。
【0026】
上記の〔7〕のガスセンサシステムでは、濃縮前の測定ガスの濃度(吸着層によって測定ガスを吸着する前の測定ガスの濃度)を、ヒータによる加熱時間と、ガスセンサの検出結果と、に基づいて導出できる。
【0027】
<第1実施形態>
1-1.ガスセンサの構成
以下、本発明を具体化した第1実施形態を
図1~
図8を参照して説明する。
図1に示す第1実施形態のガスセンサ10は、本開示のガスセンサの一例である。以下の説明では、説明の便宜上、
図2にあらわれる上下方向をそのまま上下方向として定義するが、ガスセンサ10の実際の配置状態における上下方向と一致しなくてもよい。
図2にあらわれる上下方向は、後述する基体20の厚さ方向であり、基板21の厚さ方向でもある。
【0028】
図1、
図2に示すように、ガスセンサ10は、基体20と、検知部30と、一対の検知電極40と、吸着部50と、を備えている。
【0029】
基体20は、基板21と、絶縁層22A~22D,23A,23Bと、ヒータ24を有している。基体20には、後述するダイアフラム26が設けられている。基板21は、例えばシリコンウエハである。基板21には、上下両面に開口するように貫通する開口部25が設けられている。開口部25は、平面視四角形である。開口部25の形状は、その他の形状として円形等の形状であってもよい。開口部25は、例えば、上下方向に直交する断面積が下方に向かうにつれて大きくなる形状である。開口部25内には、絶縁層22Aの一部が露出している。
【0030】
絶縁層22A~22D,23A,23Bは、十分な絶縁性を有すればよく、材質は特に限定されない。絶縁層22A~22Dは、基板21の上面側に積層されている。基板21の上面側から、絶縁層22A、絶縁層22B、絶縁層22C、絶縁層22Dの順で積層されている。絶縁層22A,22Cの材質は、例えばSiO2である。絶縁層22B,22Dの材質は、例えばSi3N4である。絶縁層22A~22Dは、開口部25を覆うように形成されている。開口部25と、開口部25を覆う絶縁層22B~22Dの各部分と、ヒータ24の一部とによって、ダイアフラム26が構成される。
【0031】
絶縁層23A,23Bは、基板21の下面側に積層されている。基板21の下面側から、絶縁層23A、絶縁層23Bの順で積層されている。絶縁層23Aの材質は、例えばSiO2である。絶縁層23Bの材質は、例えばSi3N4である。
【0032】
ヒータ24は、後述するダイアフラム26に設けられている。ヒータ24は、吸着部50および検知部30を加熱する。すなわち、ヒータ24は、後述するガス吸着層およびガス検知層を温める。ヒータ24は、絶縁層22Cに埋設されている。ヒータ24は、抵抗体によって構成されている。ヒータ24は、基板21における開口部25(より具体的には開口部25の上側の開口)の上方に配されている。ヒータ24は、例えば平面視で四角渦巻き状の部分(渦巻き部24A)を有する。絶縁層22Cには、ヒータ24に接続され、ヒータ24に通電するための一対のリード部24Bが埋設されている。一対のリード部24Bは、後述する一対のコンタクト部27Aに接続されている。ヒータ24及びリード部24Bは、例えば、Pt(白金)によって構成されている。なお、ヒータ24及びリード部24Bは、例えば、密着層(例えば、酸化タンタル)と、その上に形成された発熱体(例えば、Pt(白金))の2層構造であってもよい。
【0033】
基体20の上面側には、一対のコンタクト部27A及び一対のコンタクト部27Bが設けられている。コンタクト部27A,27Bは、外部回路から電力を供給するための配線(図示略)が接続されている。一対のコンタクト部27Bは、後述する一対の検知電極40にそれぞれ接続される。
【0034】
検知部30は、吸着部50から脱離した測定ガスを検知する。検知部30は、基体20の上面側に積層されている。検知部30は、例えば平面視四角形である。検知部30の厚さは、後述する検知電極40の厚さよりも大きい。検知部30は、基体20に積層され、測定ガスの濃度変化に応じて電気的特性(具体的には抵抗値)が変化する酸化物半導体を主相とするガス検知層であることが好ましい。検知部30は、ヒータ24による加熱によって感度を高め易くなる。測定ガスとは、例えば、アセトン等である。検知部30の材質は、例えばWO3(三酸化タングステン)が挙げられるが、これに限られずSnO2(二酸化スズ)、ZnO(酸化亜鉛)、In2O3(酸化インジウム)等の他の酸化物半導体でもよい。例えば、検知部30として、WO3上にPd(パラジウム)、Pt(白金)、Au(金)、Ir(イリジウム)等のような酸化物半導体のガスに対する感度を上げる添加材料を用いた構成部分を設けた構成としてもよい。検知部30は、開口部25の上方に配置されている。検知部30は、基体20の上面において、一対の検知電極40が形成される領域を含むより広い範囲を覆うように形成されている。検知部30の4つの端(辺)は、それぞれダイアフラム26(開口部25)の4つの端(辺)と上下方向で重なっている。
【0035】
一対の検知電極40は、基体20の上面側に設けられている。検知電極40は、櫛歯形状の部分(櫛歯部40A)を有している。一対の検知電極40の櫛歯部40A(他方の検知電極40と噛み合う部分)は、開口部25の上方に設けられている。検知電極40の櫛歯部40Aの一部は、ヒータ24の渦巻き部24Aの一部と略平行になるように、ヒータ24の上方に設けられている。
【0036】
一対の検知電極40は、検知部30に接続されている。検知電極40は、検知部30における電気的特性の変化を検出する。一対の検知電極40の間には、検知部30の一部が配される空間ギャップが形成されている。検知電極40において、検知部30に対向する面の全体が、検知部30に接触している。検知電極40は、例えば、密着層(例えばTi(チタン))と、密着層の上方側に設けられる検知部(例えばPt(白金))とが積層された構成である。検知電極40は、基体20の凸部28(渦巻き部24Aの上方に設けられる凸部、
図2参照)の上方に設けられている。
【0037】
吸着部50は、測定ガスを吸着する。吸着部50は、ヒータ24を用いた温度変化によって測定ガスを吸着および脱離することで測定ガスを濃縮する。すなわち、濃縮された測定ガスとは、吸着部50によって吸着された後に脱離した測定ガスの濃度である。濃縮前の測定ガスとは、吸着部50によって吸着される前の測定ガスの濃度(ガスセンサ10が曝されるガスに含まれる測定ガスの濃度)である。吸着部50は、基体20の上面側に積層されている。吸着部50は、例えば平面視四角形である。吸着部50は、基体20に積層され、測定ガスを吸着するガス吸着層であることが好ましい。ガス吸着層は、ガス検知層に積層されることが好ましい。吸着部50は、金属有機構造体(Metal Organic Frameworks:MOF)で構成される。ガス吸着層を構成する多孔質材料は、金属有機構造体である。金属有機構造体には、金属イオンが互いに有機配位子で架橋された構造を有する多孔性材料が用いられる。金属有機構造体は、ヒドロキシ基を有することが好ましい。この場合、吸着部50は、親水基を有する測定ガス(例えばアセトン)の分子とヒドロキシ基とを水素結合させることで、測定ガスの分子を選択的に吸着する。吸着された測定ガスの分子は、ヒータ24による加熱によって脱離し、検知部30へと拡散する。金属有機構造体は、Zr(ジルコニウム)を有することが好ましい。金属有機構造体は、例えば、UiO-66、UiO-67、UiO-68であることが好ましく、UiO-66であることが特に好ましい。金属有機構造体の細孔サイズは、0.6nm~2.0nmであることが好ましい。
【0038】
吸着部50の厚さ(上下方向の厚さ、以下同じ)は、検知部30の厚さ、ヒータ24の厚さ、および絶縁層22Dの厚さよりも大きい構成が例示される。吸着部50の厚さは、例えば1000nmである。
【0039】
吸着部50は、上下方向で、ヒータ24、開口部25、検知部30、及び一対の検知電極40(より具体的には、櫛歯部40A)に重なっている。吸着部50は、基体20(より具体的には基板21)の厚さ方向においてダイアフラム26に重なっている。
【0040】
吸着部50は、基体20の上面において、検知部30が形成される領域を含むより広い範囲を覆うように形成されている。吸着部50の4つの端(辺)は、全て検知部30と重ならないように、検知部30よりも外側の位置(検知部30と離れる側の位置)に配されている。吸着部50の一部(端部側の部分)は、検知部30に水平方向で重なっている。検知部30において、後述する吸着部50に対向する面の全体が、吸着部50に接触している。
【0041】
吸着部50は、基体20の厚さ方向に直交する方向(水平方向)で、ダイアフラム26(開口部25)よりも外側に張り出している。具体的には、吸着部50の4つの端(辺)は、全てダイアフラム26(開口部25)と重ならないように、ダイアフラム26(開口部25)よりも外側の位置(ダイアフラム26(開口部25)と離れる側の位置)に配されている。
【0042】
ガスセンサ10は、例えば、吸着部50による測定ガスを吸着する際にはヒータ24による加熱を行わず、検知部30によって測定ガスを検知する際に、吸着部50をヒータ24で加熱して測定ガスを脱離させる。
【0043】
ガスセンサ10は、例えば、ウェアラブルなデバイスに適用可能であり、人体から出る微量の皮膚ガス(アセトン等)の濃度を測定し得る。このような皮膚ガスの測定値(濃度)は、健康状態を示す指標となり得る。ガスセンサ10は、微量のガスを高い選択性を有する構成で検出することができる。
【0044】
1-2.ガスセンサの製造方法
本発明を具体化したガスセンサ10の製造方法について主に
図3~
図5を参照して説明する。ガスセンサ10の製造方法は、以下に示す各工程を行う。
【0045】
1-2-1.絶縁層22A,22B,22Caの形成
図3(A)に示すように、洗浄液で洗浄した基板21(シリコンウエハ)を用意する。
図3(B)に示すように、基板21の上面側に絶縁層22A,22B,22Caを形成し、基板21の下面側に絶縁層23A,23Bを形成する。基板21の厚さは、例えば400μmである。基板21のサイズは、例えば4インチである。絶縁層22A,23Aは、熱酸化処理で形成されるSiO
2で構成される。絶縁層22B,23Bは、減圧CVDで形成されるSi
3N
4で構成される。絶縁層22Caは、減圧CVDで形成されるSiO
2で構成される。絶縁層22A,23Aの厚さは、例えば100nmである。絶縁層22B,23Bの厚さは、例えば200nmである。絶縁層22Caの厚さは、例えば100nmである。
【0046】
1-2-2.ヒータ24の形成
続いて、
図3(C)に示すように、絶縁層22Ca上に、RFスパッタリングを用いてヒータ24及びリード部24Bを形成する。なお、
図3(C)(D)、
図4、
図5では、
図1のX-X断面に相当する断面を示している。ヒータ24及びリード部24Bとして、例えば、密着層(例えば酸化タンタル)と、その上に形成された発熱体(例えば、Pt(白金))の2層構造を形成する。密着層の厚さは、例えば20nmである。発熱体の厚さは、例えば110nmである。ヒータ24及びリード部24Bは、RFスパッタリングを用いて上記金属を成膜した後、フォトリソグラフィによって所望の形状にパターニングして形成する。具体的には、上記金属を成膜した後、フォトレジスト組成のインクをスピンコートにて成膜乾燥し、レジストを形成後、ヒータパターンが形成されたガラスマスク越しに露光及び現像を行い、ウェットエッチングにより余剰部分を除去する。ヒータパターンは、例えば、四角渦巻き状の部分(渦巻き部24A、
図1参照)を有し、外周が0.5mm角、L/S=20μm/20μmとなるようにパターニングする。
【0047】
1-2-3.絶縁層22C,22Dの形成
続いて、絶縁層22Ca、ヒータ24及びリード部24B上に、例えばプラズマCVDを用いて絶縁層(例えば、酸化ケイ素(SiO
2))を成膜することで、
図3(D)に示すように、絶縁層22Ca(
図3(C)参照)を含む絶縁層22Cを形成する。絶縁層22Ca、ヒータ24及びリード部24B上に形成する絶縁層の厚さは、例えば100nmである。その後、
図3(D)に示すように、絶縁層22C上に絶縁層22Dを形成する。絶縁層22Dは、例えば、減圧CVDを用いて形成される。絶縁層22Dの厚さは、例えば、200nmである。これにより、基板21と、絶縁層22A~22D,23A,23Bと、ヒータ24と、を有する基体20が構成される。
【0048】
1-2-4.コンタクト部27A,27Bの形成
続いて、絶縁層22C,22Dによって埋設されたヒータ24の両端を、フォトリソグラフィ及び反応性イオンエッチングによって露出させる。
図4(A)では、ヒータ24の一端24Cが、露出された状態として示されている。その後、DCスパッタリングを用いて、コンタクト材料(例えばAu(金))を成膜し、フォトリソグラフィとウェットエッチングにより、露出したヒータ24の両端2か所にそれぞれ接続されるコンタクト部27A(
図4(B)参照)と、後の工程で形成される一対の検知電極40にそれぞれ接続されるコンタクト部27B(
図1参照)と、を形成する。
【0049】
1-2-5.ダイアフラム26の形成
続いて、
図4(C)に示すように、基体20の下面側にダイアフラム26を形成する。具体的には、絶縁層23A,23Bの一部を除去するとともに、基板21を上下に貫通するように開口部25を形成し、絶縁層22Aの一部を除去する。ヒータ24の渦巻き部24Aが、上下方向において開口部25の中心と重なるようにする。残った絶縁層22B~22Dと、ヒータ24と、開口部25とによって、ダイアフラム26が構成される。より具体的には、フォトリソグラフィと反応性イオンエッチングによって絶縁層23A,23Bの一部を除去した後、露出した基板21の開口部25に対応する部分と、開口部25に対応する絶縁層22Aの一部をウェットエッチングにより除去する。これにより、開口部25と、開口部25を覆う絶縁層22B~22Dの各部分と、ヒータ24の一部とによって、ダイアフラム26が構成される。
【0050】
1-2-6.検知電極40の形成
続いて、
図5(A)に示すように、絶縁層22D上に、一対の検知電極40(
図1参照)を形成する。検知電極40は、例えば、RFスパッタリングを用いて、密着層(例えばTi(チタン))と、密着層の上方側に設けられる検知部(例えばPt(白金))とを積層して形成される。具体的には、RFスパッタリングにより密着層と検知部に相当する金属を成膜した後、フォトリソグラフィとウェットエッチングによりパターニングして、一対の検知電極40を形成する。一対の検知電極40の間には、後述する検知部30の一部が配される空間ギャップが形成される。空間ギャップは、例えば20umである。一対の検知電極40は、それぞれ一対のコンタクト部27Bに接続される。
【0051】
1-2-7.検知部30の形成
続いて、
図5(B)に示すように、絶縁層22D及び一対の検知電極40上に、検知部30を形成する。例えば、基板21を450℃に加熱した状態で、RFスパッタリングを用いて三酸化タングステン(WO
3)を200nmの厚さになるように成膜した後、Pd(パラジウム)を1nmの厚さで同様に成膜する。具体的には、検知部30を、0.5mm角の開口を有するメタルマスクを用いて、上下方向でダイアフラム26に重なるように成膜する。検知部30を、上下方向で、ヒータ24の渦巻き部24A、及び一対の検知電極40(より具体的には、櫛歯部40A)に重なるように成膜する。
【0052】
1-2-8.吸着部50の形成
続いて、
図5(C)に示すように、絶縁層22D及び検知部30上に、吸着部50Aを形成する。吸着部50Aの厚さは、例えば1000nmである。例えば、吸着部50Aは、水熱合成によって形成される。具体的には、吸着膜材のUiO-66を成膜するため、検知電極40等が形成された基体20をテフロン(登録商標)容器に入れ、45度傾けた状態でUiO-66の前駆体溶液を浸漬させた。前駆体溶液は、塩化ジルコニウム、テレフタル酸、水、酢酸、N,N-ジメチルホルムアミドのモル比が1:1:1:500:1500で構成される。テフロン(登録商標)容器は オートクレーブ容器で密閉された後、120℃で24時間熱処理を行う。この工程において、
図5(D)に示すように全面に成膜されたUiO-66を選択的に除去して吸着部50を形成するために、フォトリソグラフィとウェットエッチングにより、0.5mm角形状にパターニングを行う。
以上の工程によって、
図5(D)、
図1、
図2に示すガスセンサ10が製造される。
【0053】
1-3.ガスセンサシステム100
1-3-1.ガスセンサシステム100の構成
ガスセンサシステム100は、濃縮された測定ガスの濃度(ガスセンサ10によって検出された対象ガスの濃度)から、濃縮前の測定ガスの濃度を導出するシステムである。濃縮前の測定ガスとは、吸着部50によって吸着される前の測定ガスの濃度(ガスセンサ10が曝されるガスに含まれる測定ガスの濃度)である。ガスセンサシステム100は、
図6に示すように、ガスセンサ10と、制御部101と、記憶部102と、操作部103と、出力部104と、を備えている。
【0054】
制御部101は、ガスセンサシステム100全体の動作を制御する。制御部101は、制御部101は、例えばMCU(Micro Controller Unit)を含んで構成される。制御部101は、更に図示しないタイマ、通信インタフェース等を有している。制御部101は、例えば、記憶部102に記憶されたプログラム等に基づいてガスセンサ10等を制御し、濃縮前の測定ガスの濃度を導出する制御等を実行する。ガスセンサ10によって検出された濃縮した測定ガスの濃度は、制御部101に入力される。
【0055】
記憶部102は、例えば公知の半導体メモリ等によって構成される。記憶部102には、制御部101の実行するプログラム等が記憶されている。操作部103は、例えば公知の入力装置を用いて構成される。操作部103は、例えば操作ボタン、タッチパネル等を有している。操作部103によって入力された情報は、制御部101に入力される。出力部104は、例えば公知の出力装置を用いて構成される。出力部104は、例えば表示部(例えば液晶表示部)、音声出力部(例えば、スピーカ)などである。
【0056】
1-3-2.ガスセンサシステム100の制御
ガスセンサシステム100(より具体的には制御部101)の制御について、
図7を用いて説明する。ガスセンサシステム100の制御部101は、開始条件が成立した場合に、
図7に示す制御を行う。開始条件は、例えば、ガスセンサシステム100の動作開始操作(操作部103のオン操作)等が行われたことである。
【0057】
まず、制御部101は、ステップS1にて、ヒータ24に対する非加熱制御を行う。具体的には、制御部101は、所定時間(例えば1分間)が経過する間、ヒータ24に通電させず加熱を行わせない。これにより、所定時間の間、吸着部50に測定ガスが吸着される。
【0058】
ここで、例えば、制御部101は、1回目のステップS1の制御の開始までに、吸着部50を測定ガスが吸着する前の状態としておく。例えば、制御部101は、開始条件の成立からステップS1の開始までに、ヒータ24による加熱を所定時間(例えば1分間)行わせる。また、例えば、制御部101は、ステップS1の開始までに、ガスセンサ10(より具体的には、吸着部50)がガスに曝されない状態となるように制御する。この場合、例えばガスセンサ10がガスに曝されない状態を実現し得る構造(カバー等)を用いる。
【0059】
続いて、制御部101は、ステップS2にて、ヒータ24に対する加熱制御を行う。具体的には、制御部101は、所定時間(例えば1分間)が経過する間、ヒータ24に通電して加熱を行わせる。これにより、所定時間の間、吸着部50から測定ガスが脱離する。
【0060】
続いて、制御部101は、ステップS3にて、濃縮された測定ガスの濃度(吸着部50から脱離した測定ガスの濃度)をガスセンサ10に検出させる。
【0061】
続いて、制御部101は、ステップS4にて、濃縮前の測定ガスの濃度を導出する。具体的には、制御部101は、ヒータ24を用いた加熱時間(ステップS2で加熱制御した時間)と、ガスセンサ10によって検出された濃縮された測定ガスの濃度(ステップS3で検出した濃度)と、に基づいて、濃縮前の測定ガスの濃度を導出する制御を行う。
【0062】
濃縮前の測定ガスの濃度の導出方法として、例えば、濃縮時間(測定ガスが吸着部50によって吸着されることで濃縮される時間)と、ガスセンサ10による検出濃度と、をパラメータとした計算式を用いることができる。計算式は、例えば、濃縮時間が長いほど算出される濃縮前の測定ガスの濃度が大きくなる式である。また、計算式は、例えば、ガスセンサ10による検出濃度が大きいほど算出される濃縮前の測定ガスの濃度が大きくなる式である。ガスセンサ10による検出濃度の加熱時間積分で得られるガス吸着量は、吸着部50に流れ込む測定ガスの流量と濃縮時間の積におおよそ等しい。また、測定ガスの流量は、フィックの第1法則から、外気と吸着部50の濃度勾配で決まる。ここで、フィックの第1法則は、濃度勾配が時間に無制限に一定のときに、拡散の起こる方向に垂直な単位面積を単位時間に通過する量が、その場所の濃度の勾配に比例するという法則である。そのため、吸着部50による濃縮前のガス濃度を一定または0としたとき、測定ガスの濃度によって測定ガスの流量が決定される。したがって、ガスセンサ10による検出濃度から計算される測定ガスの吸着量(加熱時間と検出濃度から導出される値)と濃縮時間から、実験的に測定ガスの濃度が求まる。
【0063】
また、濃縮前の測定ガスの濃度を導出する方法として、例えば、加熱時間及びガスセンサ10による検出濃度と、濃縮前の測定ガスの濃度と、が対応したデータ(テーブル)を用いることができる。このようなテーブルは、予め記憶部102に記憶させておくことができる。例えば、
図8に示すテーブルにおいて、加熱時間が「A1」であり、ガスセンサ10による検出濃度が「B1」である場合、濃縮前の測定ガスの濃度は「C1」として導出される。
【0064】
続いて、制御部101は、ステップS5にて、導出した濃縮前の測定ガスの濃度の数値を、出力部104によって出力する。制御部101は、ステップS5の後、再びステップS1を行う。
【0065】
制御部101は、所定の終了条件が成立した場合に、
図7に示す制御を終了する。終了条件は、例えば、ガスセンサシステム100の動作停止操作(操作部103のオフ操作)等が行われたことである。
【0066】
1-4.第1実施形態の効果
第1実施形態のガスセンサ10では、吸着部50で吸着した測定ガスを、ヒータ24による加熱によって脱離させて検知部30へと供給することができる。これにより、検知部30によって濃縮された測定ガスの濃度を検知することができる。その上で、吸着部50が金属有機構造体で構成されるため、測定ガスを高い選択性で吸着することができる。そして、金属有機構造体が比較的表面積の大きい構成であるため、測定ガスの濃度レンジを大きくすることができる。
【0067】
第1実施形態のガスセンサ10において、検知部30は、基体20に積層され、測定ガスの濃度に応じて電気的特性が変化する酸化物半導体を主相とするガス検知層である。ガス検知層に接続された一対の検知電極40を有する。吸着部50は、基体20に積層され、ヒータ24を用いた温度変化によって測定ガスを吸着および脱離するガス吸着層である。ヒータ24は、ガス吸着層およびガス検知層を温める。ガス吸着層を構成する多孔質材料は、金属有機構造体である。これにより、ガスセンサ10は、ガス吸着層で吸着した測定ガスを、ヒータ24で温めることによって脱離させてガス検知層へと供給することができる。その上で、ガス吸着層を構成する多孔質材料が金属有機構造体であるため、測定ガスを高い選択性で吸着することができる。そして、金属有機構造体が比較的表面積の大きい多孔質材料であるため、測定ガスの濃度レンジを大きくすることができる。
【0068】
第1実施形態のガスセンサ10において、金属有機構造体は、ヒドロキシ基を有する。吸着部50は、親水基を有する測定ガスの分子とヒドロキシ基とを水素結合させることで、測定ガスを選択的に吸着する。これにより、ガスセンサ10では、吸着部50によって、水素結合を利用して親水基を有する測定ガスの分子を選択的に吸着することができる。そのため、このガスセンサ10では、測定ガスの選択性を向上させることができる。
【0069】
第1実施形態のガスセンサ10において、金属有機構造体は、ジルコニウムを有する。これにより、ガスセンサ10では、金属有機構造体がZrを有することで、吸着部50の熱的安定性および化学的安定性を向上させることができる。
【0070】
第1実施形態のガスセンサ10において、ガス吸着層は、ガス検知層に積層されている。これにより、ガス吸着層がガス検知層に接するように近い位置に配されることになるため、ガス吸着層からガス検知層へと測定ガスを供給させ易くなる。
【0071】
第1実施形態のガスセンサ10において、基体20は、ダイアフラム26を有している。ヒータ24は、ダイアフラム26に設けられている。これにより、ヒータ24が、ダイアフラム26を有する基体20に設けられるため、ヒータ24による熱引きを向上させることができる。
【0072】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。また、上述した実施形態や後述する実施形態の様々な特徴は、矛盾しない組み合わせであればどのように組み合わされてもよい。
【0073】
上記第1実施形態では、基体20の上面内(水平面内)において、吸着部50のサイズが、検知部30のサイズよりも大きい構成を例示したが、検知部30のサイズと同程度、又は検知部30のサイズよりも小さくてもよい。
【0074】
上記第1実施形態では、基体20の上面内(水平面内)において、吸着部50のサイズが、ダイアフラム26のサイズよりも大きい構成を例示したがダイアフラム26のサイズと同程度、又はダイアフラム26のサイズよりも小さくてもよい。
【0075】
上記第1実施形態では、検知電極40が、櫛歯部40Aを有していたが、これに限定されない。例えば、検知電極40は、櫛歯部40Aの代わりに単純な直線状部分を有する構成等であってもよい。
【0076】
上記第1実施形態では、ヒータ24が、渦巻き部24Aを有していたが、これに限定されない。例えば、ヒータ24は、渦巻き部24Aの代わりに波形状等であってもよい。
【0077】
なお、今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、今回開示された実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示された範囲内又は特許請求の範囲と均等の範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0078】
10: ガスセンサ
20: 基体
21: 基板
22A~22D,22Ca,23A,23B: 絶縁層
24: ヒータ
24A: 渦巻き部
24B: リード部
24C: 一端
25: 開口部
26: ダイアフラム
27A,27B: コンタクト部
30: 検知部(ガス検知層)
40: 検知電極
40A: 櫛歯部
50: 吸着部(ガス吸着層)
50A: 吸着部(ガス吸着層)
100: ガスセンサシステム
101: 制御部
102: 記憶部
103: 操作部
104: 出力部