(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158824
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】ガスセンサ及びガスセンサシステム
(51)【国際特許分類】
G01N 27/12 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
G01N27/12 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074379
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒田 燎
(72)【発明者】
【氏名】高倉 雅博
(72)【発明者】
【氏名】塙 裕一郎
【テーマコード(参考)】
2G046
【Fターム(参考)】
2G046AA05
2G046AA10
2G046AA11
2G046AA13
2G046AA19
2G046AA24
2G046AA25
2G046AA26
2G046BA03
2G046BA06
2G046BA08
2G046BA09
2G046BB02
2G046BB04
2G046BE03
2G046BE07
2G046DB05
2G046FB02
2G046FE46
(57)【要約】
【課題】脱離したガスの酸化物半導体への拡散性を改善し、感度や応答性が向上したガスセンサを提供する。
【解決手段】ガスセンサ10は、ヒータ電極24を有した基体20と、ヒータ電極24による温度変化によって測定対象ガスを吸着および脱離することで測定対象ガスを濃縮するガス吸着層30と、基体20に積層され、測定対象ガスの濃度に応じて電気的特性が変化する酸化物半導体を主相とするガス検知層50と、ガス検知層50に接続された一対の検知電極40と、を備え、ガス吸着層30によって濃縮した測定対象ガスの濃度を測定するガスセンサ10であって、基体20側からガス吸着層30、ガス検知層50の順に積層されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒータ電極を有した基体と、
前記基体に積層され、前記ヒータ電極による温度変化によって測定対象ガスを吸着および脱離することで前記測定対象ガスを濃縮するガス吸着層と、
前記基体に積層され、前記測定対象ガスの濃度に応じて電気的特性が変化する酸化物半導体を主相とするガス検知層と、
前記ガス検知層に接続された一対の検知電極と、を備え、
前記ガス吸着層によって濃縮した前記測定対象ガスの濃度を測定するガスセンサであって、
前記基体側から前記ガス吸着層、前記ガス検知層の順に積層されている、ガスセンサ。
【請求項2】
前記ガス検知層の少なくとも一部は、前記ガス吸着層に直接接触している、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記一対の検知電極は、前記ガス検知層と重なる部位において、前記ガス検知層に対して前記基体側に積層されている、請求項1又は請求項2に記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記一対の検知電極は、前記ガス検知層と重なる部位において、前記ガス検知層に対して前記基体とは反対側に積層されている、請求項1又は請求項2に記載のガスセンサ。
【請求項5】
前記ガス吸着層は、活性炭、活性炭素繊維、共役微孔性ポリマー、メソポーラス酸化物、セピオライト、ゼオライト、金属有機構造体、共有結合性有機構造体、及び芳香族有機構造体からなる群より選ばれる少なくとも一つから構成される、請求項1又は請求項2に記載のガスセンサ。
【請求項6】
前記ガス検知層は、多孔質体であり、前記測定対象ガスを前記ガス吸着層まで通す開気孔を有している、請求項1又は請求項2に記載のガスセンサ。
【請求項7】
前記ガス吸着層の一部の領域は、前記積層方向において、前記ガス検知層と重ならない、請求項1又は請求項2に記載のガスセンサ。
【請求項8】
前記ガス検知層は、開口部を有し、
前記ガス吸着層の一部の領域が、前記開口部を介して前記基体とは反対側に露出している、請求項6に記載のガスセンサ。
【請求項9】
前記ガス検知層と前記一対の検知電極とによって包囲された空隙が存在し、
前記ガス吸着層の一部の領域が、前記空隙を介して前記基体とは反対側に露出している、請求項6に記載のガスセンサ。
【請求項10】
前記ガス検知層は、前記一対の検知電極の間において、少なくとも一カ所の折り返し形状を有している、請求項6に記載のガスセンサ。
【請求項11】
請求項1又は請求項2に記載のガスセンサと、
前記ヒータ電極を用いた加熱時間と、前記ガスセンサによって検出された濃縮された前記測定対象ガスの濃度と、に基づいて、濃縮前の前記測定対象ガスの濃度を導出する制御を行う制御部と、
を備えるガスセンサシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサ及びガスセンサシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、多孔質材料と加熱部を含む皮膚ガス捕集部と、皮膚ガス測定部、とを備える皮膚ガス測定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1において、多孔質材料、加熱部、皮膚ガス測定部の具体的な構成及び配置は不明である。極低濃度(例えばppb-pptレベル)のガスを測る技術は、GC/MS(ガスクロマトグラフ質量分析装置)等の大型機器が一般的である。例えば、人体から出る微量の皮膚ガスは健康状態を示す指標になり得るが、微量のガスを高い選択性で検出する技術は限られる。さらに、小型かつ簡便であり、例えばウェアラブル化に適応できる、高感度かつ高応答性のガスセンサは現状知られていない。
【0005】
特許文献1の皮膚ガス測定部が、基体と、基体に積層された酸化物半導体とで構成されるとともに、基体側から酸化物半導体、多孔質材料の順に配置される構成の場合には、検知対象のガスは多孔質材料における基体とは反対側の面に優先して吸着されると考えられる。このため、多孔質材料の加熱によってガスが脱離した際に、脱離したガスの多くが酸化物半導体とは反対側に逃げてしまい、見かけのセンサの感度を下げる懸念がある。また、多孔質材料自体が酸化物半導体側へのガスの移動の障害となる懸念もあり、ガスセンサの感度や応答性を下げる要因にもなり得る。
【0006】
本開示は、脱離したガスの酸化物半導体への拡散性を改善し、感度や応答性が向上したガスセンサ及びガスセンサシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のガスセンサは、ヒータ電極を有した基体と、
前記基体に積層され、前記ヒータ電極による温度変化によって測定対象ガスを吸着および脱離することで前記測定対象ガスを濃縮するガス吸着層と、
前記基体に積層され、前記測定対象ガスの濃度に応じて電気的特性が変化する酸化物半導体を主相とするガス検知層と、
前記ガス検知層に接続された一対の検知電極と、を備え、
前記ガス吸着層によって濃縮した前記測定対象ガスの濃度を測定するガスセンサであって、
前記基体側から前記ガス吸着層、前記ガス検知層の順に積層されている。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係る技術は、脱離したガスの酸化物半導体への拡散性を改善し、感度や応答性が向上したガスセンサ及びガスセンサシステムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、第1実施形態のガスセンサを概略的に示す斜視図である。
【
図2】
図2は、ガスセンサの一部を示す側断面図である。
【
図3】
図3は、ガスセンサの一部を示す平面図である。
【
図4】
図4は、ガスセンサの製造工程を説明する工程図である。
【
図5】
図5は、
図4に続くガスセンサの製造工程を説明する工程図である。
【
図6】
図6は、
図5に続くガスセンサの製造工程を説明する工程図である。
【
図7】
図7は、第1実施形態のガスセンサシステムの電気的構成を示すブロック図である。
【
図8】
図8は、ガスセンサシステムで実行される制御のフローチャートである。
【
図9】
図9は、濃縮前の測定対象ガスの濃度の導出に用いられるテーブルを例示する図である。
【
図10】
図10は、第2実施形態のガスセンサの一部を示す平面図である。
【
図11】
図11は、第3実施形態のガスセンサの一部を示す平面図である。
【
図12】
図12は、第4実施形態のガスセンサの一部を示す平面図である。
【
図13】
図13は、第4実施形態の変形例のガスセンサの一部を示す平面図である。
【
図14】
図14は、第5実施形態のガスセンサの一部を示す平面図である。
【
図15】
図15は、第5実施形態の変形例のガスセンサの一部を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下では、本開示の実施形態が列記されて例示される。なお、以下で例示される〔1〕~〔8〕の特徴は、矛盾しない範囲でどのように組み合わされてもよい。
【0011】
〔1〕ヒータ電極を有した基体と、
前記基体に積層され、前記ヒータ電極による温度変化によって測定対象ガスを吸着および脱離することで前記測定対象ガスを濃縮するガス吸着層と、
前記基体に積層され、前記測定対象ガスの濃度に応じて電気的特性が変化する酸化物半導体を主相とするガス検知層と、
前記ガス検知層に接続された一対の検知電極と、を備え、
前記ガス吸着層によって濃縮した前記測定対象ガスの濃度を測定するガスセンサであって、
前記基体側から前記ガス吸着層、前記ガス検知層の順に積層されている、ガスセンサ。
【0012】
このガスセンサは、ガス検知層がガス吸着層に対して基体とは反対側に位置している。このため、ガス吸着層における基体とは反対側の面にガスが優先的に吸着した場合であっても、加熱によって脱離したガスがガス検知層側に拡散しやすい。また、ガス吸着層自体が、加熱によって脱離したガスのガス検知層側への移動の障害となりにくい。したがって、脱離したガスのガス検知層への拡散性を改善し、ガスセンサの感度や応答性を向上できる。
【0013】
〔2〕前記ガス検知層の少なくとも一部は、前記ガス吸着層に直接接触している、〔1〕に記載のガスセンサ。
【0014】
この構成によれば、加熱によって脱離したガスがガス検知層に接触し易く、ガスセンサの感度や応答性をより一層向上できる。
【0015】
〔3〕前記一対の検知電極は、前記ガス検知層と重なる部位において、前記ガス検知層に対して前記基体側に積層されている、〔1〕又は〔2〕に記載のガスセンサ。
【0016】
この構成によれば、ガス検知層の形態によらず検知電極を成膜する際にガス検知層の段差等の影響を受けにくい。
【0017】
〔4〕前記一対の検知電極は、前記ガス検知層と重なる部位において、前記ガス検知層に対して前記基体とは反対側に積層されている、〔1〕から〔3〕のいずれかに記載のガスセンサ。
【0018】
この構成によれば、一対の検知電極がガス検知層に対して基体とは反対側に積層されるため、検知電極がガス検知層側へのガスの拡散の障害となりにくい。このため、ガスセンサの感度や応答性をより一層向上できる。
【0019】
〔5〕前記ガス吸着層は、活性炭、活性炭素繊維、共役微孔性ポリマー、メソポーラス酸化物、セピオライト、ゼオライト、金属有機構造体、共有結合性有機構造体、及び芳香族有機構造体からなる群より選ばれる少なくとも一つから構成される、〔1〕から〔4〕のいずれかに記載のガスセンサ。
【0020】
この構成によれば、ガス吸着層によって、ガスの吸着と加熱によるガス脱離を好適になし得る。
【0021】
〔6〕前記ガス検知層は、多孔質体であり、前記測定対象ガスを前記ガス吸着層まで通す開気孔を有している、〔1〕から〔5〕のいずれかに記載のガスセンサ。
【0022】
この構成によれば、ガス吸着層が開気孔を介して測定対象ガスを吸着でき、ガス吸着層における測定対象ガスの吸着量を十分に確保できる。また、加熱によって脱離したガスを開気孔内に補足して、ガス検知層に効率よく接触させることができる。このため、ガスセンサの感度や応答性をより一層向上できる。
【0023】
〔7〕前記ガス吸着層の一部の領域は、前記積層方向において、前記ガス検知層と重ならない、〔1〕から〔6〕のいずれかに記載のガスセンサ。
【0024】
この構成によれば、ガス吸着層の一部の領域がガス検知層と積層方向で重ならないので、前記領域で測定対象ガスを効率よく吸着できる。
【0025】
〔8〕前記ガス検知層は、開口部を有し、前記ガス吸着層の一部の領域が、前記開口部を介して前記基体とは反対側に露出している、〔7〕に記載のガスセンサ。
【0026】
この構成によれば、ガス吸着層が開口部を介して測定対象ガスを吸着でき、ガス吸着層における測定対象ガスの吸着量を十分に確保できる。また、加熱によって脱離したガスを開口部内に高濃度に滞留させ、ガス検知層に効率よく接触させることができる。このため、ガスセンサの感度や応答性をより一層向上できる。
【0027】
〔9〕前記ガス検知層と前記一対の検知電極とによって包囲された空隙が存在し、前記ガス吸着層の一部の領域が、前記空隙を介して前記基体とは反対側に露出している、〔7〕に記載のガスセンサ。
【0028】
この構成によれば、ガス吸着層が開口部を介して測定対象ガスを吸着でき、ガス吸着層における測定対象ガスの吸着量を十分に確保できる。また、加熱によって脱離したガスを開口部内に高濃度に滞留させ、ガス検知層に効率よく接触させることができる。このため、ガスセンサの感度や応答性をより一層向上できる。
【0029】
〔10〕前記ガス検知層は、前記一対の検知電極の間において、少なくとも一カ所の折り返し形状を有している、〔7〕に記載のガスセンサ。
【0030】
この構成によれば、折り返し形状を有しないガス検知層に比して、ガス検知層を広範囲に存在させつつ、ガス吸着層における基体とは反対側に露出する領域を十分に確保できる。このため、ガスセンサの感度や応答性をより一層向上できる。
【0031】
〔11〕〔1〕から〔10〕のいずれかに記載のガスセンサと、
前記ヒータ電極を用いた加熱時間と、前記ガスセンサによって検出された濃縮された前記測定対象ガスの濃度と、に基づいて、濃縮前の前記測定対象ガスの濃度を導出する制御を行う制御部と、
を備えるガスセンサシステム。
【0032】
上記の〔11〕のガスセンサシステムでは、濃縮前の測定対象ガスの濃度(吸着層によって測定対象ガスを吸着する前の測定対象ガスの濃度)を、ヒータ電極による加熱時間と、ガスセンサの検出結果と、に基づいて導出できる。
【0033】
1.第1実施形態
1-1.ガスセンサの構成
以下、本発明を具体化した第1実施形態を
図1~
図6を参照して説明する。
図1に示す第1実施形態のガスセンサ10は、本開示のガスセンサの一例である。以下の説明では、説明の便宜上、
図2にあらわれる上下方向をそのまま上下方向として定義するが、ガスセンサ10の実際の配置状態における上下方向と一致しなくてもよい。
図2にあらわれる上下方向は、後述する基体20の厚さ方向であり、基板21の厚さ方向でもある。ガスセンサ10は、例えば、後述するガスセンサシステム100に適用される。
【0034】
図1、
図2に示すように、ガスセンサ10は、基体20と、ガス吸着層30と、一対の検知電極40と、ガス検知層50と、を備えている。ガスセンサ10は、ガス吸着層30によって濃縮した測定対象ガスの濃度を測定するガスセンサである。
【0035】
基体20は、基板21と、絶縁層22A~22D,23A,23Bと、ヒータ電極24を有している。基板21は、例えばシリコンウエハである。基板21には、上下両面に開口するように貫通する基板開口部25が設けられている。基板開口部25の形状は、特に限定されないが、通常、矩形、円形等の単純な形状である。基板開口部25は、例えば、上下方向に直交する断面積が下方に向かうにつれて大きくなる形状である。基板開口部25内には、絶縁層22Aの一部が露出している。
【0036】
絶縁層22A~22D,23A,23Bは、十分な絶縁性を有すればよく、材質は特に限定されない。絶縁層22A~22Dは、基板21の上面側に積層されている。基板21の上面側から、絶縁層22A、絶縁層22B、絶縁層22C、絶縁層22Dの順で積層されている。絶縁層22A,22Cの材質は、例えばSiO2である。絶縁層22B,22Dの材質は、例えばSi3N4である。絶縁層22A~22Dは、基板開口部25を覆うように形成されている。基板開口部25と、基板開口部25を覆う絶縁層22B~22Dの各部分と、ヒータ電極24の一部とによって、ダイアフラム26が構成される。
【0037】
絶縁層23A,23Bは、基板21の下面側に積層されている。基板21の下面側から、絶縁層23A、絶縁層23Bの順で積層されている。絶縁層23Aの材質は、例えばSiO2である。絶縁層23Bの材質は、例えばSi3N4である。
【0038】
ヒータ電極24は、絶縁層22Cに埋設されている。ヒータ電極24は、抵抗体によって構成されている。ヒータ電極24は、基板21における基板開口部25(より具体的には基板開口部25の上側の開口)の上方に配されている。ヒータ電極24は、例えば平面視で四角渦巻き状である。絶縁層22Cには、ヒータ電極24に接続され、ヒータ電極24に通電するための一対のリード部24Aが埋設されている。一対のリード部24Aは、後述する一対のコンタクト部27Aに接続されている。ヒータ電極24及びリード部24Aは、例えば、Pt(白金)によって構成されている。なお、ヒータ電極24及びリード部24Aは、例えば、密着層(例えば、酸化タンタル)と、その上に形成された発熱体(例えば、Pt(白金))の2層構造であってもよい。
【0039】
基体20の上面側には、一対のコンタクト部27A及び一対のコンタクト部27Bが設けられている。コンタクト部27A,27Bは、外部回路から電力を供給するための配線(図示略)が接続されている。一対のコンタクト部27Bは、後述する一対の検知電極40にそれぞれ接続される。
【0040】
ガス吸着層30は、基体20の上面側に積層されている。ガス吸着層30の形状は、特に限定されない。ガス吸着層30の形状は、例えば、基板開口部25と略同形で、基板開口部25よりも一回り大きい形状である。ガス吸着層30は、基板開口部25を覆うようにして設けられている。ガス吸着層30は、上下方向で、ヒータ電極24、基板開口部25、一対の検知電極40、及びガス検知層50に重なっている。
【0041】
ガス吸着層30は、ヒータ電極24による温度変化によって測定対象ガスを吸着および脱離することで測定対象ガスを濃縮する。吸着された測定対象ガスは、ヒータ電極24による加熱によって脱離し、ガス検知層50へと拡散する。測定対象ガスは特に限定されない。測定対象ガスとしては、アセトン、エタノール、アセトアルデヒド、水素、一酸化炭素、メタン、硫化水素、イソプレン、トリメチルアミン、アンモニア、メタノール、一酸化窒素、ホルムアルデヒド、ノニナール等が挙げられる。
【0042】
ガス吸着層30を構成する材料は、測定対象ガスの種類等に応じて適宜選択でき、特に限定されない。ガス吸着層30は、活性炭、活性炭素繊維、共役微孔性ポリマー、メソポーラス酸化物、セピオライト、ゼオライト、金属有機構造体(Metal Organic Frameworks:MOF)、共有結合性有機構造体、及び芳香族有機構造体からなる群より選ばれる少なくとも一つから構成されることが好ましい。ゼオライトとしては、アルミノシリケート型(例えばY型、X型、A型、モルデナイト、ベータ、フェリエライト、チャバサイト、ZSM-5)、アルミノフォスフェート型(例えばAlPO-5)、シリコアルミノフォスフェート型(例えばSAPO-5、SAPO-34)、メタロシリケート型(例えばTS-1)、純シリカ型(例えばUTD-1、ITQ-4、ITQ-7)、層状型(例えばMCM-22、PLS-1)等が挙げられる。これらの中でも、細孔径が9Å程度であり、アセトン等の疎水性のガスが離脱し易いY型ゼオライトが好ましい。金属有機構造体は、金属イオンが互いに有機配位子で架橋された構造を有する多孔性材料である。金属有機構造体は、ヒドロキシル基を有することが好ましい。この場合、ガス吸着層30は、親水基を有する測定対象ガスの分子とヒドロキシル基とを水素結合させることで、測定対象ガスの分子を選択的に吸着する。金属有機構造体は、Zr(ジルコニウム)を有することが好ましい。金属有機構造体は、例えば、UiO-66、UiO-67、UiO-68であることが好ましい。
【0043】
一対の検知電極40は、ガス吸着層30の上面側に設けられている。本実施形態の一対の検知電極40は、ガス検知層50と上下方向に重なる部位において、ガス検知層50に対して基体20側に積層されている。検知電極40の形状は特に限定されない。検知電極40は、例えば、矩形状、櫛歯形状等である。一対の検知電極40における他方の検知電極40と対向する部分(対向部分)は、基板開口部25の上方に設けられている。
【0044】
一対の検知電極40は、ガス検知層50に接続されている。検知電極40は、ガス検知層50における電気的特性の変化を検出する。一対の検知電極40の間には、ガス検知層50の一部が配される空間ギャップが形成されている。検知電極40において、ガス検知層50に対向する面の全体が、ガス検知層50に接触する。検知電極40は、例えば、密着層(例えばTi(チタン))と、密着層の上方側に設けられる検知層(例えばPt(白金))とが積層された構成である。
【0045】
ガス検知層50は、ガス吸着層30と一対の検知電極40の上面側に積層されている。ガス検知層50は、測定対象ガスの濃度に応じて電気的特性(例えば、抵抗値)が変化する酸化物半導体を主相とする。ガス検知層50の材質は、例えばWO3(三酸化タングステン)である。例えば、ガス検知層50として、WO3上にPd(パラジウム)を形成した構成を用いてもよい。ガス検知層50は、基板開口部25の上方に配置されている。ガス検知層50は、一対の検知電極40の空間ギャップにおいて、一対の検知電極40に跨って形成されている。上方から見た場合に、ガス検知層50全体の面積は、ガス吸着層30全体の面積よりも小さい。
【0046】
1-1-1.ガス吸着層30とガス検知層50の配置
ガスセンサ10は、基体20側からガス吸着層30、ガス検知層50の順に積層されている。本実施形態のガスセンサ10は、基体20側からガス吸着層30、一対の検知電極40、ガス検知層50の順に積層されている。
【0047】
ガス検知層50の少なくとも一部は、ガス吸着層30に直接接触している。ガス検知層50は、ガス吸着層30において基体20とは反対側の面に直接接触している。本実施形態のガス検知層50は、一対の検知電極40と重なる部位以外の部位において、ガス吸着層30に直接接触している。
【0048】
1-1-2.ガス吸着層30が露出する態様
ガス検知層50は、
図2及び
図3に示すように、ガス吸着層30の上面の少なくとも一部が上方に露出するように配置されている。ガス吸着層30において上方(基体20とは反対側)に露出する領域は、測定対象ガスに接触し易い領域であり、測定対象ガスを優先的に吸着する吸着面である。
【0049】
ガスセンサ10は、
図3に示すように、ガス検知層50と一対の検知電極40とによって、空隙61~63が構成されている。本実施形態のガス検知層50は、複数の部位51~54に分割された縞状のパターンを有している。分割された複数の部位51~54の各々は、一対の検知電極40に跨って形成されている。空隙61は、部位51及び部位52と、一対の検知電極40とによって、例えば略長方形状に構成されている。ガス吸着層30の一部の領域31は、空隙61を介して基体20とは反対側に露出している。空隙62,63についても、空隙61と同様に構成されている。ガス吸着層30の一部の領域32,33は、空隙62,63を介して基体20とは反対側に露出している。ガス吸着層30の一部の領域31~33は、ガス吸着面の一部を構成し、優先的に測定対象ガスを吸着する。
【0050】
ガス吸着層30の一部の領域31~33は、ガス吸着層30上に設けられた検知電極40と、ガス検知層50に囲まれている。換言すれば、ガス吸着層30の一部の領域31~33の上方に、検知電極40と、ガス検知層50に囲まれた空間が形成されている。ガス吸着層30の加熱によって領域31~33から脱離したガスの一部は、検知電極40と、ガス検知層50に囲まれた空間内に放出される。このため、放出されたガスが外部(例えば、大気側)に拡散しにくく、空隙61~63内に高濃度に滞留し得る。
【0051】
1-2.ガスセンサの製造方法
本発明を具体化したガスセンサ10の製造方法について主に
図4~
図6を参照して説明する。ガスセンサ10の製造方法は、以下に示す各工程を行う。
【0052】
1-2-1.絶縁層22A,22B,22Caの形成
図4(A)に示すように、洗浄液で洗浄した基板21(シリコンウエハ)を用意する。
図4(B)に示すように、基板21の上面側に絶縁層22A,22B,22Caを形成し、基板21の下面側に絶縁層23A,23Bを形成する。基板21の厚さは、例えば400μmである。基板21のサイズは、例えば4インチである。絶縁層22A,23Aは、熱酸化処理で形成されるSiO
2で構成される。絶縁層22B,23Bは、減圧CVDで形成されるSi
3N
4で構成される。絶縁層22Caは、減圧CVDで形成されるSiO
2で構成される。絶縁層22A,23Aの厚さは、例えば100nmである。絶縁層22B,23Bの厚さは、例えば200nmである。絶縁層22Caの厚さは、例えば100nmである。
【0053】
1-2-2.ヒータ電極24の形成
続いて、
図4(C)に示すように、絶縁層22Ca上に、RFスパッタリングを用いてヒータ電極24及びリード部24Aを形成する。なお、
図4(C)(D)、
図5、
図6では、
図1のX-X断面に相当する断面を示している。ヒータ電極24及びリード部24Aとして、例えば、密着層(例えば酸化タンタル)と、その上に形成された発熱体(例えば、Pt(白金))の2層構造を形成する。密着層の厚さは、例えば20nmである。発熱体の厚さは、例えば110nmである。ヒータ電極24及びリード部24Aは、RFスパッタリングを用いて上記金属を成膜した後、フォトリソグラフィによって所望の形状にパターニングして形成する。具体的には、上記金属を成膜した後、フォトレジスト組成のインクをスピンコートにて成膜乾燥し、レジストを形成後、ヒータパターンが形成されたガラスマスク越しに露光及び現像を行い、ウェットエッチングにより余剰部分を除去する。
【0054】
1-2-3.絶縁層22C,22Dの形成
続いて、絶縁層22Ca、ヒータ電極24及びリード部24A上に、例えばプラズマCVDを用いて絶縁層(例えば、酸化ケイ素(SiO
2))を成膜することで、
図4(D)に示すように、絶縁層22Ca(
図4(C)参照)を含む絶縁層22Cを形成する。絶縁層22Ca、ヒータ電極24及びリード部24A上に形成する絶縁層の厚さは、例えば100nmである。その後、
図4(D)に示すように、絶縁層22C上に絶縁層22Dを形成する。絶縁層22Dは、例えば、減圧CVDを用いて形成される。絶縁層22Dの厚さは、例えば、200nmである。これにより、基板21と、絶縁層22A~22D,23A,23Bと、ヒータ電極24と、を有する基体20が構成される。
【0055】
1-2-4.コンタクト部27A,27Bの形成
続いて、絶縁層22C,22Dによって埋設されたヒータ電極24の両端を、フォトリソグラフィ及び反応性イオンエッチングによって露出させる。
図6(A)では、ヒータ電極24の一端24Bが、露出された状態として示されている。その後、DCスパッタリングを用いて、コンタクト材料(例えばAu(金))を成膜し、フォトリソグラフィとウェットエッチングにより、露出したヒータ電極24の両端2か所にそれぞれ接続されるコンタクト部27A(
図6(B)参照)と、後の工程で形成される一対の検知電極40にそれぞれ接続されるコンタクト部27B(
図1参照)と、を形成する。
【0056】
1-2-5.ダイアフラム26の形成
続いて、
図6(C)に示すように、基体20の下面側にダイアフラム26を形成する。具体的には、絶縁層23A,23Bの一部を除去するとともに、基板21を上下に貫通するように基板開口部25を形成し、絶縁層22Aの一部を除去する。残った絶縁層22B~22Dと、ヒータ電極24と、基板開口部25とによって、ダイアフラム26が構成される。より具体的には、フォトリソグラフィと反応性イオンエッチングによって絶縁層23A,23Bの一部を除去した後、露出した基板21の基板開口部25に対応する部分と、基板開口部25に対応する絶縁層22Aの一部をウェットエッチングにより除去する。これにより、基板開口部25と、基板開口部25を覆う絶縁層22B~22Dの各部分と、ヒータ電極24の一部とによって、ダイアフラム26が構成される。
【0057】
1-2-6.ガス吸着層30の形成
続いて、
図6(A)(B)に示すように、基体20上に、ガス吸着層30を形成する。例えば、基体20のダイアフラム26上にゼオライトを含むペーストをメタルマスクにて印刷する。ペーストは、例えば、Y型ゼオライト粉末、エチルセルロース樹脂、ブチルカルビトール(体積比 10:13.5:76.5)で構成される。Y型ゼオライト粉末は、酸化ケイ素と酸化アルミニウムのモル比(SiO
2/Al
2O
3)が200以上のY型ゼオライト粉末を用いる。ペーストは、3本ロールにて十分に混錬して用いる。メタルマスクは、マスク厚20μm、開口部1.2mm角のものを使用する。ペーストを印刷後、500℃、3時間の条件にて大気雰囲気焼成することによって、ペーストの脱脂及び基体20の表面へのゼオライトの焼き付けを行う。
【0058】
1-2-7.検知電極40の形成
続いて、
図6(C)に示すように、ガス吸着層30上に、一対の検知電極40(
図1参照)を形成する。検知電極40は、例えば、RFスパッタリングを用いて、密着層(例えばTi(チタン))と、密着層の上方側に設けられる検知層(例えばPt(白金))とを積層して形成される。具体的には、RFスパッタリングにより密着層と検知層に相当する金属を成膜した後、フォトリソグラフィとウェットエッチングによりパターニングして、一対の検知電極40を形成する。一対の検知電極40の間には、後述するガス検知層50の一部が配される空間ギャップが形成される。空間ギャップは、例えば20umである。一対の検知電極40は、それぞれ一対のコンタクト部27Bに接続される。
【0059】
1-2-8.ガス検知層50の形成
続いて、
図6(D)に示すように、ガス吸着層30及び一対の検知電極40上に、ガス検知層50を形成する。例えば、検知電極40の空間ギャップに酸化物半導体と貴金属を含んだペーストを印刷する。ペーストは、例えば、三酸化タングステン粉末、パラジウム粉末、エチルセルロース樹脂、ブチルカルビトール(体積比 18:2:12:68)で構成される。ペーストは、3本ロールにて十分に混錬して用いる。メタルマスクは、マスク厚20μm、1mm×0.1mmのパターンがL/S=0.1mm/0.1mmに配置された縞状の開口部を有する。ペーストは、メタルマスクを用いて、一対の検知電極40のギャップ長に対して平行に縞状パターンが印刷される。ペーストを印刷後、500℃、3時間の条件にて大気雰囲気焼成することによって、ペーストの脱脂及び基体20の表面へのゼオライトの焼き付けを行う。
以上の工程によって、
図6(D)、
図1、
図2に示すガスセンサ10が製造される。
【0060】
1-3.ガスセンサシステム100
1-3-1.ガスセンサシステム100の構成
ガスセンサシステム100は、濃縮された測定対象ガスの濃度(ガスセンサ10によって検出された対象ガスの濃度)から、濃縮前の測定対象ガスの濃度を導出するシステムである。濃縮前の測定対象ガスとは、ガス吸着層30によって吸着される前の測定対象ガスの濃度(ガスセンサ10が曝されるガスに含まれる測定対象ガスの濃度)である。ガスセンサシステム100は、
図7に示すように、ガスセンサ10と、制御部101と、記憶部102と、操作部103と、出力部104と、を備えている。
【0061】
制御部101は、ガスセンサシステム100全体の動作を制御する。制御部101は、制御部101は、例えばMCU(Micro Controller Unit)を含んで構成される。制御部101は、更に図示しないタイマ、通信インタフェース等を有している。制御部101は、例えば、記憶部102に記憶されたプログラム等に基づいてガスセンサ10等を制御し、濃縮前の測定対象ガスの濃度を導出する制御等を実行する。ガスセンサ10によって検出された濃縮した測定対象ガスの濃度は、制御部101に入力される。
【0062】
記憶部102は、例えば公知の半導体メモリ等によって構成される。記憶部102には、制御部101の実行するプログラム等が記憶されている。操作部103は、例えば公知の入力装置を用いて構成される。操作部103は、例えば操作ボタン、タッチパネル等を有している。操作部103によって入力された情報は、制御部101に入力される。出力部104は、例えば公知の出力装置を用いて構成される。出力部104は、例えば表示部(例えば液晶表示部)、音声出力部(例えば、スピーカ)などである。
【0063】
1-3-2.ガスセンサシステム100の制御
ガスセンサシステム100(より具体的には制御部101)の制御について、
図8を用いて説明する。ガスセンサシステム100の制御部101は、開始条件が成立した場合に、
図8に示す制御を行う。開始条件は、例えば、ガスセンサシステム100の動作開始操作(操作部103のオン操作)等が行われたことである。
【0064】
まず、制御部101は、ステップS1にて、ヒータ電極24に対する非加熱制御を行う。具体的には、制御部101は、所定時間(例えば1分間)が経過する間、ヒータ電極24に通電させず加熱を行わせない。これにより、所定時間の間、ガス吸着層30に測定対象ガスが吸着される。
【0065】
ここで、例えば、制御部101は、1回目のステップS1の制御の開始までに、ガス吸着層30を測定対象ガスが吸着する前の状態としておく。例えば、制御部101は、開始条件の成立からステップS1の開始までに、ヒータ電極24による加熱を所定時間(例えば1分間)行わせる。また、例えば、制御部101は、ステップS1の開始までに、ガスセンサ10(より具体的には、ガス吸着層30)がガスに曝されない状態となるように制御する。この場合、例えばガスセンサ10がガスに曝されない状態を実現し得る構造(カバー等)を用いる。
【0066】
続いて、制御部101は、ステップS2にて、ヒータ電極24に対する加熱制御を行う。具体的には、制御部101は、所定時間(例えば1分間)が経過する間、ヒータ電極24に通電して加熱を行わせる。これにより、所定時間の間、ガス吸着層30から測定対象ガスが脱離する。
【0067】
続いて、制御部101は、ステップS3にて、濃縮された測定対象ガスの濃度(ガス吸着層30から脱離した測定対象ガスの濃度)をガスセンサ10に検出させる。
【0068】
続いて、制御部101は、ステップS4にて、濃縮前の測定対象ガスの濃度を導出する。具体的には、制御部101は、ヒータ電極24を用いた加熱時間(ステップS2で加熱制御した時間)と、ガスセンサ10によって検出された濃縮された測定対象ガスの濃度(ステップS3で検出した濃度)と、に基づいて、濃縮前の測定対象ガスの濃度を導出する制御を行う。
【0069】
濃縮前の測定対象ガスの濃度を導出する方法として、例えば、濃縮時間(測定ガスがガス吸着層50によって吸着されることで濃縮される時間)時間と、ガスセンサ10による検出濃度と、をパラメータとした計算式を用いることができる。計算式は、例えば、加熱時間が長いほど算出される濃縮前の測定対象ガスの濃度が大きくなる式である。また、計算式は、例えば、ガスセンサ10による検出濃度が大きいほど算出される濃縮前の測定対象ガスの濃度が大きくなる式である。ガスセンサ10による検出濃度の加熱時間積分で得られるガス吸着量は、ガス吸着層50に流れ込む測定ガスの流量と濃縮時間の積におおよそ等しい。また、測定ガスの流量は、フィックの第1法則から、外気とガス吸着層50の濃度勾配で決まる。ここで、フィックの第1法則は、濃度勾配が時間に無制限に一定のときに、拡散の起こる方向に垂直な単位面積を単位時間に通過する量が、その場所の濃度の勾配に比例するという法則である。そのため、ガス吸着層50による濃縮前のガス濃度を一定または0としたとき、測定ガスの濃度によって測定ガスの流量が決定される。したがって、ガスセンサ10による検出濃度から計算される測定ガスの吸着量(加熱時間と検出濃度から導出される値)と濃縮時間から、実験的に測定ガスの濃度が求まる。
【0070】
また、濃縮前の測定対象ガスの濃度を導出する方法として、例えば、加熱時間及びガスセンサ10による検出濃度と、濃縮前の測定対象ガスの濃度と、が対応したデータ(テーブル)を用いることができる。このようなテーブルは、予め記憶部102に記憶させておくことができる。例えば、
図9に示すテーブルにおいて、加熱時間が「A1」であり、ガスセンサ10による検出濃度が「B1」である場合、濃縮前の測定対象ガスの濃度は「C1」として導出される。
【0071】
続いて、制御部101は、ステップS5にて、導出した濃縮前の測定対象ガスの濃度の数値を、出力部104によって出力する。制御部101は、ステップS5の後、再びステップS1を行う。
【0072】
制御部101は、所定の終了条件が成立した場合に、
図8に示す制御を終了する。終了条件は、例えば、ガスセンサシステム100の動作停止操作(操作部103のオフ操作)等が行われたことである。
【0073】
1-4.第1実施形態の効果
次の説明は、本構成の効果の一例に関する。
第1実施形態のガスセンサ10は、ガス検知層50がガス吸着層30に対して基体20とは反対側に位置している。このため、ガス吸着層30における基体20とは反対側の面にガスが優先的に吸着した場合であっても、加熱によって脱離したガスがガス検知層50側に拡散しやすい。また、ガス吸着層30自体が、加熱によって脱離したガスのガス検知層50側への移動の障害となりにくい。したがって、脱離したガスのガス検知層50への拡散性を改善し、ガスセンサの感度や応答性を向上できる。
【0074】
第1実施形態のガスセンサ10において、ガス検知層50の少なくとも一部は、ガス吸着層30に直接接触する。この構成によれば、加熱によって脱離したガスがガス検知層50に接触し易く、ガスセンサ10の感度や応答性をより一層向上できる。
【0075】
第1実施形態のガスセンサ10において、一対の検知電極40は、ガス検知層50と重なる部位において、ガス検知層50に対して基体20側に積層されている。この構成によれば、ガス検知層50の形態によらず検知電極40を成膜する際にガス検知層50の段差等の影響を受けにくい。
【0076】
第1実施形態のガスセンサ10において、ガス吸着層30は、活性炭、活性炭素繊維、共役微孔性ポリマー、メソポーラス酸化物、セピオライト、ゼオライト、金属有機構造体、共有結合性有機構造体、及び芳香族有機構造体からなる群より選ばれる少なくとも一つから構成される。この構成によれば、ガス吸着層30によって、ガスの吸着と加熱によるガス脱離を好適になし得る。
【0077】
第1実施形態示のガスセンサ10において、ガス吸着層30の一部の領域は、積層方向において、ガス検知層50と重ならない。すなわち、ガス吸着層30は、積層方向において、ガス検知層50と重ならない非重畳領域として空隙61~63を有している。この構成によれば、ガス吸着層30の一部の領域がガス検知層50と積層方向で重ならないので、前記領域で測定対象ガスを効率よく吸着できる。
【0078】
第1実施形態示のガスセンサ10において、ガス検知層50と一対の検知電極40とによって、空隙61~63が構成され、ガス吸着層30の一部の領域31~33が、空隙61~63を介して基体20とは反対側に露出する。この構成によれば、ガス吸着層30が空隙61~63を介して測定対象ガスを吸着でき、ガス吸着層30における測定対象ガスの吸着量を十分に確保できる。また、加熱によって脱離したガスを空隙61~63内に高濃度に滞留させ、ガス検知層50に効率よく接触させることができる。このため、ガスセンサ10の感度や応答性をより一層向上できる。
【0079】
2.第2実施形態
第1実施形態のガスセンサは、一対の検知電極が、ガス検知層と重なる部位において、ガス検知層に対して基体側に積層される構成であったが、この構成に限定されない。第2実施形態では、一対の検知電極が、ガス検知層と重なる部位において、ガス検知層に対して基体とは反対側に積層される例について、
図10を参照しつつ説明する。なお、第2実施形態の説明では、第1実施形態と同一の構成については同一の符号を付し、詳しい説明を省略する。
【0080】
ガス検知層50は、ガス吸着層30の上面側に積層されている。ガス検知層50の材質、配置、及びパターンは、第1実施形態と同様であり、その説明を省略する。一対の検知電極140は、ガス吸着層30及びガス検知層50の上面側に設けられている。一対の検知電極140は、ガス検知層50と上下方向に重なる部位において、ガス検知層50に対して基体20とは反対側に積層されている。検知電極140の形状及び配置は第1実施形態と同様であり、その説明を省略する。
検知電極140において、ガス検知層50に対向する面の全体が、ガス検知層50に接触する。検知電極140は、例えば、検知層(例えばPt(白金))と、密着層の上方側に設けられる密着層(例えばTi(チタン))とが積層された構成である。
【0081】
第2実施形態のガスセンサ110において、一対の検知電極140は、ガス検知層50と重なる部位において、ガス検知層50に対して基体20とは反対側に積層される。この構成によれば、一対の検知電極140がガス検知層50に対して基体20とは反対側に積層されるため、検知電極140がガス検知層50側へのガスの拡散の障害となりにくい。このため、ガスセンサ110の感度や応答性をより一層向上できる。
【0082】
3.第3実施形態
第3実施形態では、ガス検知層が多孔質体である例について、
図11を参照しつつ説明する。なお、第3実施形態の説明では、第1実施形態と同一の構成については同一の符号を付し、詳しい説明を省略する。
【0083】
ガス検知層250は、ガス吸着層30と一対の検知電極40の上面側に積層されている。ガス検知層250は、測定対象ガスの濃度に応じて電気的特性(具体的には抵抗値)が変化する酸化物半導体を主相とする。ガス検知層250の材質は、例えばWO3(酸化タングステン)である。ガス検知層250の膜厚は、例えば1μm以上500μm以下である。ガス検知層250は、一対の検知電極40の空間ギャップにおいて、一対の検知電極40に跨って形成されている。本実施形態のガス検知層250は、一対の検知電極40の空間ギャップの略全域に亘って設けられ、平面視矩形状のパターンを有している。
【0084】
ガス検知層250は、測定対象ガスをガス吸着層30まで通す開気孔を有する。ガス検知層250は、例えば、酸化タングステン粉末、バインダー、粘度調整剤等を含むペーストを印刷し、焼成することにより得られる。この際、ペーストに含まれる粒子成分の種類、粒径、配合割合、焼成温度、焼成時間、ガス検知層250の膜厚等を適宜調整することによって、測定対象ガスをガス吸着層30まで通す開気孔を有する多孔体のガス検知層250を得ることができる。
【0085】
第3実施形態のガスセンサ210において、ガス検知層250が多孔質体であり、測定対象ガスをガス吸着層30まで通す開気孔を有する。この構成によれば、ガス吸着層30が開気孔を介して測定対象ガスを吸着でき、ガス吸着層30における測定対象ガスの吸着量を十分に確保できる。また、加熱によって脱離したガスを開気孔内に補足して、ガス検知層250に効率よく接触させることができる。このため、ガスセンサ10の感度や応答性をより一層向上できる。
【0086】
4.第4実施形態
第1実施形態のガスセンサは、ガス検知層と一対の検知電極とによって、空隙が構成され、ガス吸着層の一部の領域が、空隙を介して基体とは反対側に露出する構成であったが、この構成に限定されない。第4実施形態では、ガス検知層が、開口部を有し、ガス吸着層の一部の領域が、開口部を介して基体とは反対側に露出する例について、
図12を参照しつつ説明する。なお、第4実施形態の説明では、第1実施形態と同一の構成については同一の符号を付し、詳しい説明を省略する。
【0087】
本実施形態のガス検知層350は、一対の検知電極40に跨って形成されている。開口部351は、ガス検知層350の上下両面に開口するようにガス検知層350を貫通する。開口部351の形状、数、及び配置は特に限定されない。開口部351は、例えば、円形状をなし、複数点在して設けられている。開口部351は、一対の検知電極40のギャップ空間と重なっている。ガス吸着層30の一部の領域331は、開口部351を介して基体20とは反対側に露出している。ガス吸着層30の一部の領域331は、ガス吸着面の一部を構成し、優先的に測定対象ガスを吸着する。
【0088】
ガス吸着層30の一部の領域331は、ガス吸着層30上に設けられたガス検知層350に囲まれている。換言すれば、ガス吸着層30の一部の領域331の上方に、ガス検知層350に囲まれた空間が形成されている。ガス吸着層30の加熱によって領域331から脱離したガスの一部は、ガス検知層350に囲まれた空間内に放出される。このため、放出されたガスが外部(例えば、大気側)に拡散しにくく、ガス検知層350に効率よく接触し得る。
【0089】
第4実施形態示のガスセンサ310において、ガス吸着層30の一部の領域は、積層方向において、ガス検知層350と重ならない。すなわち、ガス吸着層30は、積層方向において、ガス検知層350と重ならない非重畳領域として開口部351を有している。この構成によれば、ガス吸着層30の一部の領域がガス検知層350と積層方向で重ならないので、前記領域で測定対象ガスを効率よく吸着できる。
【0090】
第4実施形態のガスセンサ310において、ガス検知層350は、開口部351を有し、ガス吸着層30の一部の領域331が、開口部351を介して基体20とは反対側に露出する。この構成によれば、ガス吸着層30が開口部351を介して測定対象ガスを吸着でき、ガス吸着層30における測定対象ガスの吸着量を十分に確保できる。また、加熱によって脱離したガスを開口部351内に補足して、ガス検知層350に効率よく接触させることができる。このため、ガスセンサ10の感度や応答性をより一層向上できる。
【0091】
図13は、第4実施形態の開口部の形状、数、及び配置を変更した変形例である。本変形例の開口部351Aは、例えば、長方形状をなし、互いに並行して設けられている。その他の点は、第4実施形態と同様であり、その説明を省略する。
【0092】
5.第5実施形態
第5実施形態では、ガス検知層が、一対の検知電極の間において、少なくとも一カ所の折り返し形状を有している例について、
図14を参照しつつ説明する。なお、第5実施形態の説明では、第1実施形態と同一の構成については同一の符号を付し、詳しい説明を省略する。
【0093】
本実施形態のガス検知層450は、一対の検知電極40に跨って形成されている。ガス検知層450は、少なくとも一カ所の折り返し形状を有している。ガス検知層450における折り返しの数、形状、及び配置は特に限定されない。例えば、折り返し形状としては、略U字状の部分と、略U字状の部分の両側を一方向に延長した部分と、を有する形状が挙げられる。ガス検知層450は、例えば、所定の幅の線部が、一対の検知電極40のギャップ空間内で、蛇行して連なるパターンを有している。本実施形態のガス検知層450は、一対の検知電極40のギャップ長の方向に延びた線部が、つづら折り状態で蛇行して連なるパターンを有している。
【0094】
第5実施形態示のガスセンサ410において、ガス吸着層30の一部の領域は、積層方向において、ガス検知層450と重ならない。すなわち、ガス吸着層30は、積層方向において、ガス検知層450と重ならない非重畳領域として折り返し形状によって構成される隙間を有している。この構成によれば、ガス吸着層30の一部の領域がガス検知層450と積層方向で重ならないので、前記領域で測定対象ガスを効率よく吸着できる。
【0095】
第5実施形態のガスセンサ410において、ガス検知層450は、一対の検知電極40の間において、少なくとも一カ所の折り返し形状を有している。この構成によれば、折り返し形状を有しないガス検知層450に比して、ガス検知層450を広範囲に存在させつつ、ガス吸着層30における基体20とは反対側に露出する領域を十分に確保できる。この結果、ガスセンサ410の感度や応答性をより一層向上できる。
【0096】
図15は、第5実施形態のガス検知層における折り返しの形状及び配置を変更した変形例である。本変形例のガス検知層450Aは、一対の検知電極40のギャップ長の直交方向に延びた線部が、つづら折り状態で蛇行して連なるパターンを有している。その他の点は、第5実施形態と同様であり、その説明を省略する。
【0097】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。また、上述した実施形態や後述する実施形態の様々な特徴は、矛盾しない組み合わせであればどのように組み合わされてもよい。
【0098】
上記第1実施形態では、検知電極が矩形状をなす構成を例示したが、検知電極の形状は特に限定されない。また、上記第1実施形態では、検知電極が複数の部位に分割されていたが、ガス検知層は、複数の部位に分割されていなくてもよい。第1実施形態以外にも、ガス検知層と一対の検知電極とによって、適宜開口部を構成し得る。
【0099】
上記実施形態では、積層方向に見て、検知層の面積が吸着層の面積よりも大きい例を開示したが、吸着層の面積と検知層の面積の関係はこれに限定されない。例えば、検知層の面積は吸着層の面積よりも大きくてもよい。また、積層方向に見て、吸着層全体が含まれる矩形状の領域であり、面積が最小となるような領域を規定した場合に、検知層全体が当該領域内に収まるように構成されてもよい。
【0100】
上記実施形態以外にも、基体側からガス吸着層、ガス検知層の順に積層されていれば、ガスセンサの各層の積層順は適宜変更可能である。また、ガスセンサは、各層の間に、本開示の作用を阻害しない範囲で、密着層等の他の層を有していてもよい。例えば、ガス検知層は、ガス吸着層に直接接触しなくてもよい。
【0101】
なお、今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、今回開示された実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示された範囲内又は特許請求の範囲と均等の範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0102】
10: ガスセンサ
20: 基体
21: 基板
22A~22D,22Ca,23A,23B: 絶縁層
24: ヒータ電極
24A: リード部
24B: 一端
25: 基板開口部
26: ダイアフラム
27A,27B: コンタクト部
30: ガス吸着層
31,32,33: ガス吸着層の一部の領域
40: 検知電極
50: ガス検知層
51,52,53,54: 部位
61,62,63: 空隙
100: ガスセンサシステム
101: 制御部
102: 記憶部
103: 操作部
104: 出力部
110: ガスセンサ
140: 検知電極
210: ガスセンサ
250: ガス検知層
310: ガスセンサ
331: ガス吸着層の一部の領域
350: ガス検知層
351,351A: 開口部
410: ガスセンサ
450,450A: ガス検知層