(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158841
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】鋳造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 19/00 20060101AFI20241031BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20241031BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20241031BHJP
【FI】
B22D19/00 Z
B33Y10/00
B33Y80/00
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074404
(22)【出願日】2023-04-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】000231855
【氏名又は名称】日本鋳造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099944
【弁理士】
【氏名又は名称】高山 宏志
(72)【発明者】
【氏名】蓮見 侑士
(72)【発明者】
【氏名】半田 卓雄
(72)【発明者】
【氏名】大山 伸幸
(57)【要約】
【課題】複雑な設備を用いることなく、製品の鋳造欠陥を抑制することができる鋳造方法およびそれに用いる部材を提供する。
【解決手段】
鋳型に溶湯を注入して鋳造品を得る鋳造方法は、鋳型を準備する工程と、鋳型に溶湯を注入して凝固させた際に鋳造欠陥が生じる位置を含む部分に適合する部材を予め積層造形により形成する工程と、その部材をその部分に配置する工程と、部材が配置された鋳型に溶湯を注入し、部材を鋳包む工程とを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳型に溶湯を注入して鋳造品を得る鋳造方法であって、
鋳型を準備する工程と、
前記鋳型に溶湯を注入して凝固させた際に鋳造欠陥が生じる位置を含む部分に適合する部材を予め積層造形により形成する工程と、
前記部材を前記部分に配置する工程と、
前記部材が配置された前記鋳型に溶湯を注入し、前記部材を鋳包む工程と、
を有することを特徴とする鋳造方法。
【請求項2】
前記鋳造欠陥が生じる位置は、実際に前記鋳型に溶湯を注入して鋳造を行って鋳造欠陥が生じることが確認された位置、または、設計上、前記鋳造欠陥が生じることが予想される位置であることを特徴とする請求項1に記載の鋳造方法。
【請求項3】
前記鋳造欠陥は、溶湯が凝固する際に生じる引け巣、割れであることを特徴とする請求項1に記載の鋳造方法。
【請求項4】
前記溶湯と前記部材とは同じ材料であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の鋳造方法。
【請求項5】
鋳型に溶湯を注入して鋳造品を得るにあたり、前記鋳型内における、溶湯を注入した際に鋳造欠陥が生じる位置を含む部分に配置される部材であって、
前記部材は積層造形部材であり、前記部材が前記鋳型の前記部分に配置された状態で、前記鋳型に溶湯が注入されることにより鋳包まれることを特徴とする部材。
【請求項6】
前記部材の材料は、前記溶湯と同じ材料であることを特徴とする請求項5に記載の部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、欠陥が生じやすい鋳物の製造に適した鋳造方法およびそれに用いる部材に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳物は、鋳型に溶湯を注入して凝固させる鋳造により製造される。鋳物として精密鋳造品、特に、複雑形状の鋳造品を鋳造する場合には、凝固制御が困難であり鋳造品の内部や表面に引け巣欠陥が発生しやすいことが知られている(例えば特許文献1)。また、大型の鋳造品を鋳造する場合にも部分的に引け巣等の欠陥が生じやすいことが知られている。
【0003】
特許文献1では、鋳型加熱炉内にセラミック製鋳型を設置し、鋳型を鋳物の融点以上に加熱した後に溶湯を注入するという精密鋳造の手法を前提とし、鋳型を下方に引き出しながら鋳物を凝固させることで、引け巣欠陥の発生を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された技術は、精密鋳造に限定された特殊な手法であり、設備が複雑であるとともに適用が限定される。
【0006】
したがって、本発明は、複雑な設備を用いることなく、製品の鋳造欠陥を抑制することができる鋳造方法およびそれに用いる部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の(1)~(6)の手段を提供する。
【0008】
(1)鋳型に溶湯を注入して鋳造品を得る鋳造方法であって、
鋳型を準備する工程と、
前記鋳型に溶湯を注入して凝固させた際に鋳造欠陥が生じる位置を含む部分に適合する部材を予め積層造形により形成する工程と、
前記部材を前記部分に配置する工程と、
前記部材が配置された前記鋳型に溶湯を注入し、前記部材を鋳包む工程と、
を有することを特徴とする鋳造方法。
【0009】
(2)前記鋳造欠陥が生じる位置は、実際に前記鋳型に溶湯を注入して鋳造を行って鋳造欠陥が生じることが確認された位置、または、設計上、前記鋳造欠陥が生じることが予想される位置であることを特徴とする(1)に記載の鋳造方法。
【0010】
(3)前記鋳造欠陥は、溶湯が凝固する際に生じる引け巣、割れであることを特徴とする請求項1に記載の鋳造方法。
【0011】
(4)前記溶湯と前記部材とは同じ材料であることを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載の鋳造方法。
【0012】
(5)鋳型に溶湯を注入して鋳造品を得るにあたり、前記鋳型内における、溶湯を注入した際に鋳造欠陥が生じる位置を含む部分に配置される部材であって、
前記部材は積層造形部材であり、前記部材が前記鋳型の前記部分に配置された状態で、前記鋳型に溶湯が注入されることにより鋳包まれることを特徴とする部材。
【0013】
(6)前記部材の材料は、前記溶湯と同じ材料であることを特徴とする(5)に記載の部材。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、鋳型に溶湯を注入して凝固させた際に鋳造欠陥が生じる位置を含む部分に適合する部材を予め積層造形により形成し、この部材を鋳型内の当該部分に配置し、鋳型に溶湯を注入して部材を鋳包むので、複雑な設備を用いることなく製品の鋳造欠陥を抑制することができる。
【0015】
すなわち、積層造形により得られた部材は、本質的に欠陥がほとんど存在せず、そのような部材を鋳型の溶湯を注入した際に引け巣等の鋳造欠陥が生じる位置を含む部分に配置して鋳包むことにより、鋳造欠陥が生じることが回避され、複雑な設備を用いることなく製品の欠陥を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る鋳造方法を示すフローチャートである。
【
図2】本発明の一実施形態に係る鋳造方法の各工程を具体的に説明するための工程断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る鋳造方法により得られた鋳造品の一例を示す断面図である。
【
図4】実施例で用いた従来の溶接構造用鋳鋼品と本発明の溶接用鋳造品を説明するための図である。
【
図5】従来の溶接構造用鋳鋼品と本発明の溶接用鋳造品とを比較してわかりやすく示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る鋳造方法を示すフローチャート、
図2は各工程を具体的に説明するための工程断面図である。
【0018】
最初に鋳型を準備する(ステップST1)。鋳型は、内部に得ようとする鋳物に対応する形状の空間を有し、その中に注入された溶湯を凝固させる機能を有するものである。具体例としては、
図2(a)に示すように、鋳型1は、上型1aと下型1bとからなり、その内部に、得ようとする鋳物に対応する形状の空間Sを有する。また、鋳型1(上型1a)には、溶湯が注入される湯口2が設けられている。上型1aの上部には、空間Sに繋がる押し湯空間3が設けられている。
【0019】
次に、鋳型に溶湯を注入して凝固させた際に鋳造欠陥が生じる位置を含む部分に適合する部材を予め積層造形により形成する(ステップST2)。そして、この部材を当該部分に配置する(ステップST3)。鋳造を行う場合には、鋳型に溶湯を注入して凝固させるが、その際に鋳造欠陥が生じることがある。このため、そのような鋳造欠陥が生じる位置を含む部分に適合する部材を予め積層造形により形成し、
図2(b)に示すように、積層造形により形成した部材4をそのような部分に配置する。なお、
図2(b)では、部材4を便宜上ブロック状に描いているが、これに限定されることなく、後述する実施例の形状等、任意の形状であってよい。
【0020】
ここで、鋳造欠陥が生じる位置とは、実際に鋳型に溶湯を注入して鋳造を行って鋳造欠陥が生じることが確認された位置、または、設計上、鋳造欠陥が生じることが予想される位置である。鋳造欠陥としては、例えば溶湯が凝固する際に生じる引け巣や、割れ等を挙げることができる。鋳造欠陥は、特に、鋳型内の複雑形状部分で生じやすい。
【0021】
積層造形は、典型的には層状に形成された粉末にレーザーまたは電子ビームを作用させて溶融・凝固させ、これを繰り返して積層し所望の形状に造形する技術である。積層造形により、溶融・凝固の際の冷却速度を、一般的な鋳型で冷却する場合には得ることができない、3000℃/sec.以上と極めて高速にすることができ、微細で極めて欠陥が少ない部材が得られる。また、積層造形は、3Dプリンター等を用いて設計した通りに部材を得ることができるので、複雑な形状にも対応することができる。
【0022】
積層造形に用いられる粉末としては、ガスアトマイズ粉末または水アトマイズ粉末を用いることができる。ガスアトマイズ粉末は、溶融した金属を滴下し、滴下した溶融金属にノズルから不活性ガス(例えばArガス)を吹き付けて噴霧することにより粉末を形成するものであり、水アトマイズ粉末は、滴下した溶融金属に水を吹き付けて噴霧することにより粉末を形成するものである。
【0023】
次に、部材が配置された鋳型に溶湯を注入し、部材を鋳包む(ステップST4)。具体的には、
図2(c)に示すように、積層造形により形成された部材4が配置された鋳型1内に湯口2を介して溶湯Lを注入し、部材4を鋳包む。なお、
図2(c)中、5は押し湯空間3に充填された押し湯である。このように部材4を鋳包むことにより、鋳型1内の溶湯Lが凝固し、部材4と一体となり、鋳型1を外すことにより、
図3に示すような鋳造品(鋳物)10が得られる。
【0024】
鋳造品10は金属材料であれば特に限定されない。例えば、溶接構造用鋳鋼品のような鋳鋼品が例示される。部材4を溶湯Lと同じ材料とすることにより、鋳型1内に溶湯Lのみを鋳込む場合と同様の均一な材質の鋳造品10を得ることができる。また、部材4を溶湯Lと異なる材料で構成して、高強度、高靭性等の付加的な機能をもたせてもよい。
【0025】
本実施形態では、鋳型に溶湯を注入して凝固させた際に鋳造欠陥が生じる位置を含む部分に適合する部材を予め積層造形により形成し、この部材を鋳型内の当該部分に配置し、鋳型に溶湯を注入して部材を鋳包む。このため、複雑な設備を用いることなく製品の欠陥を抑制することができる。
【0026】
積層造形により得られた部材、すなわち積層造形部材は、本質的に欠陥がほとんど存在せず、また、簡易に製造できるため、鋳造欠陥が生じる位置を含む部分に適合するように予め積層造形部材を形成し、その部分に配置した状態で鋳包むことにより、複雑な設備を用いることなく鋳造欠陥が抑制された製品を得ることができる。また、このような手法を採用することにより一般的な鋳造を本質的に変更せずに鋳造欠陥が抑制された製品を得ることができる。また、積層造形は形状が限定されないため、鋳造欠陥が生じる位置を含む部分の形状を問わずに対応することができ、鋳造欠陥が生じやすい複雑形状部分にも容易に対応することができる。
【0027】
さらに、積層造形部材は、鋳型に溶湯を注入した際の冷やし金としても機能し、溶湯が冷却されることにより指向性凝固がより促進され、引け巣等の鋳造欠陥を防止する効果をより高めることができる。
【実施例0028】
以下、本発明の実施例について説明する。
ここでは、鋳造品として溶接構造用鋳鋼品を用いた。まず、鋳型の空間に溶湯を注入して鋳造し、
図4(a)に示すような、直方体の隅部に凹部21を有する形状の溶接構造用鋳鋼品20を得た。
【0029】
この溶接構造用鋳鋼品20を調査した結果、
図4(b)に示す凹隅部に鋳造欠陥22が発生していることが確認された。
【0030】
次に、同じ溶接構造用鋳鋼品からなり、
図4(c)に示すような、凹隅部の鋳造欠陥が生じる位置を含む部分に適合する部材32を予め積層造形により形成した。そして、鋳型の空間の鋳造欠陥が生じる位置を含む部分に部材32を配置し、鋳型の空間に溶湯を注入し、部材32を鋳包み、
図4(d)に示すような、溶接構造用鋳鋼品20と同様な形状を有する溶接構造用鋳鋼品30を得た。
図5は、溶接構造用鋳鋼品20の状態(a)と溶接構造用鋳鋼品30の状態(b)を比較してわかりやすく示したものであり、部材32以外を破線で示している。
【0031】
この溶接構造用鋳鋼品30を調査した結果、鋳造欠陥は見られなかった。すなわち、本発明に従って、鋳造欠陥が生じる位置を含む部分に適合する部材を予め積層造形により形成し、そのような部材を鋳造欠陥が生じる位置を含む部分に配置して鋳包むことにより、鋳造欠陥を抑制できることが確認された。
前記鋳造欠陥が生じる位置は、実際に前記鋳型に溶湯を注入して鋳造を行って鋳造欠陥が生じることが確認された位置、または、設計上、前記鋳造欠陥が生じることが予想される位置であることを特徴とする請求項1に記載の鋳造方法。
前記鋳造欠陥が生じる位置は、実際に前記鋳型に溶湯を注入して鋳造を行って鋳造欠陥が生じることが確認された位置、または、設計上、前記鋳造欠陥が生じることが予想される位置であることを特徴とする請求項1に記載の鋳造方法。