(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158843
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】リドカインゲル製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/167 20060101AFI20241031BHJP
A61P 23/02 20060101ALI20241031BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20241031BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20241031BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20241031BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20241031BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20241031BHJP
【FI】
A61K31/167
A61P23/02
A61K9/06
A61K47/10
A61K47/38
A61K47/12
A61K47/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074407
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000215958
【氏名又は名称】帝國製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100138900
【弁理士】
【氏名又は名称】新田 昌宏
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】津山 由美
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 裕一
(72)【発明者】
【氏名】川畑 誠一郎
【テーマコード(参考)】
4C076
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076BB31
4C076CC01
4C076DD38A
4C076DD41
4C076DD45
4C076EE32A
4C076FF34
4C206AA01
4C206AA02
4C206GA19
4C206GA31
4C206MA03
4C206MA05
4C206MA47
4C206MA83
4C206NA11
4C206ZA08
(57)【要約】
【課題】 リドカインの経皮吸収性が高く、かつ皮膚刺激性の低いリドカイン配合のゲル製剤の提供。
【解決手段】 リドカインまたはその医薬的に許容される塩、水溶性高分子、グリセリン、および製剤重量に対して40重量%以上のプロピレングリコールを含み、水およびC1-4アルコールを含まない、ゲル製剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リドカインまたはその医薬的に許容される塩、水溶性高分子、グリセリン、および製剤重量に対して40重量%以上のプロピレングリコールを含み、水およびC1-4アルコールを含まない、ゲル製剤。
【請求項2】
リドカインまたはその医薬的に許容される塩が非塩形態のリドカインである、請求項1に記載のゲル製剤。
【請求項3】
水溶性高分子がポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリアクリル酸部分中和物、カルメロースナトリウム、ゼラチン、メチルビニルエーテル-無水マレイン酸共重合体、N-ビニルアセトアミド共重合体、アルギン酸ソーダ、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメタクリレート、ポリエチレンオキサイド、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、デンプンアクリル酸グラフト共重合体、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、寒天、アカシアガム、グアーガム、キサンタンガム、アラビアガム、カラヤガム、トラガントガム、およびコラーゲンからなる群から選択される1種あるいは2種以上である、請求項1または2に記載のゲル製剤。
【請求項4】
水溶性高分子がカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、およびエチルセルロースからなる群から選択される1種あるいは2種以上である、請求項1または2に記載のゲル製剤。
【請求項5】
水溶性高分子がヒドロキシプロピルセルロースである、請求項1または2に記載のゲル製剤。
【請求項6】
製剤重量に対して、リドカインまたはその医薬的に許容される塩を1~20重量%、水溶性高分子を0.5~5重量%、グリセリンを10~40重量%、およびプロピレングリコールを40~80重量%含む、請求項1または2に記載のゲル製剤。
【請求項7】
プロピレングリコールとグリセリンの重量比が、プロピレングリコール:グリセリン=1:1~7:1の範囲内である、請求項1または2に記載のゲル製剤。
【請求項8】
1,3-ブタンジオール、オレイン酸、ミリスチン酸イソプロピル、トリイソオクタン酸グリセリン、クロタミトン、セバシン酸ジエチル、アジピン酸ジイソプロピル、およびラウリン酸ヘキシルからなる群から選択される1種あるいは2種以上の追加成分をさらに含む、請求項1または2に記載のゲル製剤。
【請求項9】
オレイン酸およびミリスチン酸イソプロピルからなる群から選択される1種あるいは2種の追加成分をさらに含む、請求項1または2に記載のゲル製剤。
【請求項10】
製剤重量に対して追加成分を0.5~15重量%含む、請求項8に記載のゲル製剤。
【請求項11】
局所麻酔の導入、または不整脈もしくは疼痛の予防または治療のための、請求項1または2に記載のゲル製剤。
【請求項12】
帯状疱疹後神経痛の予防または治療のための、請求項1または2に記載のゲル製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リドカインを含有するゲル製剤に関し、より詳細にはリドカインの優れた皮膚透過性を示し、かつ皮膚に対する安全性の高いゲル製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
リドカインは局所麻酔剤として開発され、表面・浸潤・伝達麻酔作用を有し、主に歯科領域における表面麻酔等に使用されており、また、期外収縮、急性心筋梗塞や心臓外科手術に伴う心室性不整脈治療の第一選択薬として広く用いられている薬物である。さらにリドカインは帯状疱疹後神経痛を適応とする外用剤としても用いられており、現在、世界各国で水性貼付剤として流通しているが、帯状疱疹後神経痛を適応とした軟膏製剤、或いはゲル製剤については現在のところ市販されてない。
【0003】
帯状疱疹後神経痛の患者の皮膚は損傷している場合が多いため、皮膚刺激性の高い基剤成分を含有したゲル製剤の場合、その成分が患者の皮膚を刺激し、苦痛を与える恐れがあるため、刺激性の低い基剤選択が求められる。特にゲル製剤の基剤成分としてよく用いられているエタノール、イソプロパノール等の低級アルコールは、薬物成分の吸収促進剤としての機能に優れてはいるが、皮膚刺激を誘発させる可能性が高く、ゲル製剤への配合は慎重に検討する必要がある。
【0004】
一方、リドカインを配合した外用剤に関しては、かつてより様々な検討がなされており、前述のように、貼付剤はもとより、軟膏、クリーム、ゼリー、スプレー等に関する技術が報告されている。特許文献1には20~40%の高濃度リドカインを含有した外用剤が記載されている。本発明は主薬のリドカインが6時間未満での初期バーストで放出されることを特徴としているが、保存中に主薬成分が結晶化を起こす懸念がある。また、特許文献2或いは特許文献3の皮膚外用剤には低級アルコールが配合されており、帯状疱疹後神経痛の患者に使用するには、皮膚刺激性の懸念が残る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2010-536793号公報
【特許文献2】特表2001-503035号公報
【特許文献3】特開2021-91655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明ではかかる従来の問題を解決した、リドカインの経皮吸収性が高く、かつ皮膚刺激性の低いリドカイン配合のゲル製剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するべく、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、水および低級アルコールを含まず、水溶性高分子、グリセリン、および製剤重量に対して40重量%以上のプロピレングリコールを必須成分として含む基剤にリドカインまたはその医薬的に許容される塩を配合することにより、リドカインの経皮吸収性に優れ、かつ皮膚刺激性の低いゲル製剤を得ることができることが判明した。より好ましくは、当該水溶性高分子がヒドロキシプロピルセルロースであるゲル製剤である。更に好ましくは、製剤重量に対して、水溶性高分子を0.5~5重量%、グリセリンを10~40重量%、およびプロピレングリコールを40~80重量%配合した基剤に、1~20重量%のリドカインまたはその医薬的に許容される塩を配合したゲル製剤である。
【0008】
すなわち、本発明は以下に関する。
[1]
リドカインまたはその医薬的に許容される塩、水溶性高分子、グリセリン、および製剤重量に対して40重量%以上のプロピレングリコールを含み、水およびC1-4アルコールを含まない、ゲル製剤(以下、本発明のゲル製剤とも称する)。
[2]
リドカインまたはその医薬的に許容される塩が非塩形態のリドカインである、[1]に記載のゲル製剤。
[3]
水溶性高分子がポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリアクリル酸部分中和物、カルメロースナトリウム、ゼラチン、メチルビニルエーテル-無水マレイン酸共重合体、N-ビニルアセトアミド共重合体、アルギン酸ソーダ、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメタクリレート、ポリエチレンオキサイド、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、デンプンアクリル酸グラフト共重合体、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、寒天、アカシアガム、グアーガム、キサンタンガム、アラビアガム、カラヤガム、トラガントガム、およびコラーゲンからなる群から選択される1種あるいは2種以上である、[1]または[2]に記載のゲル製剤。
[4]
水溶性高分子がカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、およびエチルセルロースからなる群から選択される1種あるいは2種以上である、[1]または[2]に記載のゲル製剤。
[5]
水溶性高分子がヒドロキシプロピルセルロースである、[1]または[2]に記載のゲル製剤。
[6]
製剤重量に対して、リドカインまたはその医薬的に許容される塩を1~20重量%、水溶性高分子を0.5~5重量%、グリセリンを10~40重量%、およびプロピレングリコールを40~80重量%含む、[1]~[5]のいずれか1つに記載のゲル製剤。
[7]
プロピレングリコールとグリセリンの重量比が、プロピレングリコール:グリセリン=1:1~7:1の範囲内である、[1]~[6]のいずれか1つに記載のゲル製剤。
[8]
1,3-ブタンジオール、オレイン酸、ミリスチン酸イソプロピル、トリイソオクタン酸グリセリン、クロタミトン、セバシン酸ジエチル、アジピン酸ジイソプロピル、およびラウリン酸ヘキシルからなる群から選択される1種あるいは2種以上の追加成分をさらに含む、[1]~[7]のいずれか1つに記載のゲル製剤。
[9]
オレイン酸およびミリスチン酸イソプロピルからなる群から選択される1種あるいは2種の追加成分をさらに含む、[1]~[7]のいずれか1つに記載のゲル製剤。
[10]
製剤重量に対して追加成分を0.5~15重量%含む、[8]または[9]に記載のゲル製剤。
[11]
局所麻酔の導入、または不整脈もしくは疼痛の予防または治療のための、[1]~[10]のいずれか1つに記載のゲル製剤。
[12]
帯状疱疹後神経痛の予防または治療のための、[1]~[10]のいずれか1つに記載のゲル製剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、リドカインの高い経皮吸収性を示し、かつ皮膚刺激性の低いリドカインゲルを提供することが可能となった。本発明によれば、その多くにおいて皮膚損傷が認められる帯状疱疹後神経痛の患者等に対しても、低い刺激性を示すため、患者のQOL向上に極めて効果的なものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、試験例3のピンプリック試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のリドカインゲル製剤に関して、さらに詳細に説明する。なお、本発明のリドカインゲル製剤は、「リドカインゲル組成物」、「リドカインゲル」、「ゲル製剤」、または「ゲル組成物」等と称してもよい。
【0012】
本明細書において、「含有する」または「含む」は、「配合する」と互換的に用いられてもよい。また、本明細書において、「含有量」と「配合量」は互換的に用いられてもよい。
【0013】
本発明のゲル製剤は、水およびC1-4アルコール(「低級アルコール」とも称する)を含まず、水溶性高分子、グリセリン、および製剤重量に対して40重量%以上のプロピレングリコールを必須成分として含むゲル基剤中にリドカインまたはその医薬的に許容される塩を含有させることで、リドカインの高い経皮吸収性と、低い皮膚刺激性を備えたゲル製剤を提供できるものである。
【0014】
本発明のゲル製剤には基剤成分に応じて非塩形態のリドカインまたはリドカインの医薬的に許容される塩を配合することができる。リドカインの医薬的に許容される塩としては、塩酸塩(塩酸リドカイン)等が挙げられる。本発明のゲル製剤には、好ましくは非塩形態のリドカインが配合される。
【0015】
薬効成分のリドカインまたはその医薬的に許容される塩の配合量は通常、製剤重量に対して1~20重量%、好ましくは3~20重量%、より好ましくは5~15重量%である。リドカインの配合量が1重量%未満であると望ましい鎮痛効果が得られない。またリドカインが20重量%を超えて配合されると、製剤中におけるリドカインの結晶化、或いは製剤物性の低下等、好ましくない影響が出る。
【0016】
プロピレングリコールはリドカインの溶解剤として作用する。本発明においてプロピレングリコールの配合量は製剤重量に対して40重量%以上であり、好ましくは40~80重量%、より好ましくは40~70重量%、さらに好ましくは40~60重量%である。プロピレングリコールの配合量が40重量%未満であると、リドカインの基剤への溶解性が低下して、リドカインの結晶が析出する。また80重量%を超えて配合すると皮膚刺激性が高くなる。
【0017】
グリセリンは本発明のゲル粘度を調整し、また皮膚刺激性を抑える機能を有する。本発明においてグリセリンの配合量は製剤重量に対して好ましくは10~40重量%、より好ましくは20~40重量%、さらに好ましくは25~40重量%である。グリセリンの配合量が10重量%未満であると製剤物性が悪化し、かつ皮膚刺激性が高くなる。一方、40重量%を超えて配合するとリドカインの基剤への溶解性が低下し、リドカインの結晶が析出するなど、好ましくない影響が出る。
【0018】
本発明のプロピレングリコールとグリセリンとの配合比(重量比)は、好ましくはプロピレングリコール:グリセリン=1:1~7:1、より好ましくは6:5~2:1の範囲内である。プロピレングリコールとグリセリンの比が1:1を超えてグリセリンが多く配合された場合、リドカインの結晶が析出する。また、その比が7:1を超えてプロピレングリコールが多く配合された場合、皮膚刺激性が高くなる。
【0019】
本発明に配合する水溶性高分子としては、例えばポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリアクリル酸部分中和物、カルメロースナトリウム、ゼラチン、メチルビニルエーテル-無水マレイン酸共重合体、N-ビニルアセトアミド共重合体、アルギン酸ソーダ、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメタクリレート、ポリエチレンオキサイド、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、デンプンアクリル酸グラフト共重合体、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、寒天、アカシアガム、グアーガム、キサンタンガム、アラビアガム、カラヤガム、トラガントガム、およびコラーゲン等を挙げることができ、これらを1種あるいは2種以上組み合わせて配合することができるが、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、およびエチルセルロースからなる群から選択される1種あるいは2種以上が好ましく、ヒドロキシプロピルセルロースがより好ましい。
【0020】
水溶性高分子の配合量は、製剤重量に対して好ましくは0.5~5重量%、より好ましくは0.5~3重量%、さらに好ましくは1~2重量%である。
【0021】
本発明のゲル製剤においては、水および低級アルコールの配合を必要とするものではないが、各基剤原料に微量に含まれている、或いは残留しているこれらの成分は本発明のゲル製剤に含まれていてもよい。また、製造工程において微量に混入する水および低級アルコールについても、本発明のゲル製剤に含まれていてもよい。すなわち、本発明のゲル製剤は水および低級アルコールを実質的に含まないが、製造工程において水および低級アルコールが微量に残留または混入する場合があり、製剤の物性に影響しない限り、そのような水および低級アルコールが微量に残留または混入したゲル製剤も本発明の範囲に包含される。
【0022】
本発明のゲル製剤に配合されないC1-4アルコール(すなわち、低級アルコール)は、炭素数1~4個の直鎖状または分岐状のアルコールを意味し、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、およびtert-ブタノール等が挙げられる。
【0023】
その他、本発明のゲル製剤には、白色ワセリン、黄色ワセリン、ラノリン、サラシミツロウ、セタノール、ステアリルアルコール、ステアリン酸、硬化油、ゲル化炭化水素、ポリエチレングリコール、流動パラフィン、スクワラン等の基剤;1,3-ブタンジオール、オレイン酸、ミリスチン酸イソプロピル、トリイソオクタン酸グリセリン、クロタミトン、セバシン酸ジエチル、アジピン酸ジイソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪族アルコール、植物油等の溶剤および溶解補助剤;トコフェロール誘導体、L-アスコルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール等の酸化防止剤;パラヒドロキシ安息香酸エステル等の防腐剤;ヒアルロン酸ナトリウム等の保湿剤;ポリオキシエチレン誘導体、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン等の界面活性剤等の追加成分をさらに配合してもよい。追加成分としては1,3-ブタンジオール、オレイン酸、ミリスチン酸イソプロピル、トリイソオクタン酸グリセリン、クロタミトン、セバシン酸ジエチル、アジピン酸ジイソプロピル、およびラウリン酸ヘキシルからなる群から選択される1種あるいは2種以上が好ましく、オレイン酸およびミリスチン酸イソプロピルからなる群から選択される1種あるいは2種がより好ましい。追加成分の配合量は、製剤重量に対して0.5~15重量%、好ましくは1~10重量%、より好ましくは2~7重量%である。
【0024】
さらに、本発明のゲル製剤には、所望により安定剤、保存剤、吸収促進剤、pH調整剤、その他の適当な添加剤を配合することができる。
【0025】
本発明のゲル製剤は薬効成分としてリドカインまたはその医薬的に許容される塩を含むため、リドカインにより予防または治療できる各種疾患または症状に有用である。より具体的には、本発明のゲル製剤は局所麻酔(例えば表面麻酔、浸潤麻酔、伝達麻酔、硬膜外麻酔、または脊椎麻酔等)の導入、ならびに不整脈(例えば、心室性不整脈)および疼痛(例えば、帯状疱疹後神経痛等)等の予防または治療に有用である。
【0026】
本発明において、「予防」とは疾患または症状を発症していない個体に対して本発明のゲル製剤を投与する行為を意味している。また、「治療」とは既に疾患または症状を発症した個体に対して本発明のゲル製剤を投与する行為を意味している。従って、既に疾患または症状を発症した個体に対し、症状等の悪化防止、発作防止、または再発防止のために投与する行為は「治療」の一態様である。
【0027】
本発明のゲル製剤は通常、前記疾患または症状を患うか、またはその恐れがある患者、例えばヒトまたは動物、好ましくはヒトに投与される。投与回数は、疾患または症状の重篤度、患者の年齢、体重、性別、およびゲル製剤中のリドカインまたはその医薬的に許容される塩の配合量等の条件によって適宜変化してよく、ヒトに投与する場合、本発明のゲル製剤は通常1日1回または複数回、例えば1日1~5回、1~3回、もしくは1回、または数日毎、例えば2~3日に1回塗布される。
【0028】
本発明のゲル製剤は常法により製造することができ、例えばグリセリンに水溶性高分子を加えて撹拌し、基剤溶液を得、別にリドカインまたはその医薬的に許容される塩をプロピレングリコールに溶解し、この液と基剤溶液を撹拌混合することにより、ゲル製剤を製造することができる。
【0029】
以下に、本発明の態様を記載する。なお、以下の各態様を任意に選択して組み合わせた態様および以下の各態様と本明細書に記載のいずれかの態様等を任意に組み合わせた態様も本発明に包含される。
【0030】
1.ゲル製剤
[態様1]
リドカインまたはその医薬的に許容される塩、水溶性高分子、グリセリン、および製剤重量に対して40重量%以上のプロピレングリコールを含み、水およびC1-4アルコールを含まない、本発明のゲル製剤。
[態様2]
リドカインまたはその医薬的に許容される塩が非塩形態のリドカインである、態様1に記載の本発明のゲル製剤。
[態様3]
水溶性高分子がポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリアクリル酸部分中和物、カルメロースナトリウム、ゼラチン、メチルビニルエーテル-無水マレイン酸共重合体、N-ビニルアセトアミド共重合体、アルギン酸ソーダ、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメタクリレート、ポリエチレンオキサイド、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、デンプンアクリル酸グラフト共重合体、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、寒天、アカシアガム、グアーガム、キサンタンガム、アラビアガム、カラヤガム、トラガントガム、およびコラーゲンからなる群から選択される1種あるいは2種以上である、態様1または2に記載の本発明のゲル製剤。
[態様4]
水溶性高分子がカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、およびエチルセルロースからなる群から選択される1種あるいは2種以上である、態様1または2に記載の本発明のゲル製剤。
[態様5]
水溶性高分子がヒドロキシプロピルセルロースである、態様1または2に記載の本発明のゲル製剤。
[態様6]
製剤重量に対して、リドカインまたはその医薬的に許容される塩を1~20重量%、水溶性高分子を0.5~5重量%、グリセリンを10~40重量%、およびプロピレングリコールを40~80重量%含む、態様1~5のいずれか1つに記載の本発明のゲル製剤。
[態様7]
製剤重量に対して、リドカインまたはその医薬的に許容される塩を3~20重量%、水溶性高分子を0.5~3重量%、グリセリンを20~40重量%、およびプロピレングリコールを40~70重量%含む、態様1~5のいずれか1つに記載の本発明のゲル製剤。
[態様8]
製剤重量に対して、リドカインまたはその医薬的に許容される塩を5~15重量%、水溶性高分子を1~2重量%、グリセリンを25~40重量%、およびプロピレングリコールを40~60重量%含む、態様1~5のいずれか1つに記載の本発明のゲル製剤。
[態様9]
プロピレングリコールとグリセリンの重量比が、プロピレングリコール:グリセリン=1:1~7:1の範囲内である、態様1~8のいずれか1つに記載の本発明のゲル製剤。
[態様10]
プロピレングリコールとグリセリンの重量比が、プロピレングリコール:グリセリン=6:5~2:1の範囲内である、態様1~8のいずれか1つに記載の本発明のゲル製剤。
[態様11]
リドカインまたはその医薬的に許容される塩、水溶性高分子、グリセリン、およびプロピレングリコールからなる、態様1~10のいずれか1つに記載の本発明のゲル製剤。
[態様12]
リドカインまたはその医薬的に許容される塩が非塩形態のリドカインであり、水溶性高分子がヒドロキシプロピルセルロースである、態様11に記載の本発明のゲル製剤。
[態様13]
1,3-ブタンジオール、オレイン酸、ミリスチン酸イソプロピル、トリイソオクタン酸グリセリン、クロタミトン、セバシン酸ジエチル、アジピン酸ジイソプロピル、およびラウリン酸ヘキシルからなる群から選択される1種あるいは2種以上の追加成分をさらに含む、態様1~10のいずれか1つに記載の本発明のゲル製剤。
[態様14]
オレイン酸およびミリスチン酸イソプロピルからなる群から選択される1種あるいは2種の追加成分をさらに含む、態様1~10のいずれか1つに記載の本発明のゲル製剤。
[態様15]
製剤重量に対して追加成分を0.5~15重量%含む、態様13または14に記載の本発明のゲル製剤。
[態様16]
製剤重量に対して追加成分を1~10重量%含む、態様13または14に記載の本発明のゲル製剤。
[態様17]
製剤重量に対して追加成分を2~7重量%含む、態様13または14に記載の本発明のゲル製剤。
[態様18]
リドカインまたはその医薬的に許容される塩、水溶性高分子、グリセリン、プロピレングリコール、および追加成分からなる、態様13~17のいずれか1つに記載の本発明のゲル製剤。
[態様19]
リドカインまたはその医薬的に許容される塩が非塩形態のリドカインであり、水溶性高分子がヒドロキシプロピルセルロースであり、追加成分がオレイン酸またはミリスチン酸イソプロピルである、態様18に記載の本発明のゲル製剤。
【0031】
2.ゲル製剤の用途
[態様20]
局所麻酔の導入、または不整脈もしくは疼痛の予防または治療のための、態様1~19のいずれか1つに記載の本発明のゲル製剤。
[態様21]
帯状疱疹後神経痛の予防または治療のための、態様1~19のいずれか1つに記載の本発明のゲル製剤。
[態様22]
局所麻酔の導入、または不整脈もしくは疼痛の予防または治療のための医薬の製造における、態様1~19のいずれか1つに記載の本発明のゲル製剤の使用。
[態様23]
帯状疱疹後神経痛の予防または治療のための医薬の製造における、態様1~19のいずれか1つに記載の本発明のゲル製剤の使用。
[態様24]
態様1~19のいずれか1つに記載の本発明のゲル製剤を患者に投与することを含む、局所麻酔を導入、または不整脈もしくは疼痛を予防または治療する方法。
[態様25]
態様1~19のいずれか1つに記載の本発明のゲル製剤を患者に投与することを含む、帯状疱疹後神経痛を予防または治療する方法。
[態様26]
局所麻酔の導入、または不整脈もしくは疼痛の予防または治療における、態様1~19のいずれか1つに記載の本発明のゲル製剤の使用。
[態様27]
帯状疱疹後神経痛の予防または治療における、態様1~19のいずれか1つに記載の本発明のゲル製剤の使用。
【実施例0032】
以下、本発明を実施例等により詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、実施例中の数値は特に断らない限り「重量%」である。
【0033】
(実施例1)
グリセリンにヒドロキシプロピルセルロースを加えて撹拌し、基剤溶液とした。別にリドカインをプロピレングリコールに溶解し、この液と基剤溶液を撹拌混合し、所望のゲル製剤を得た。なお、実施例1の組成を表1に示す。
【0034】
(実施例2~4)
表1に示す処方構成により、実施例1と同様にゲル製剤を製造し、実施例2~4のゲル製剤を得た。
【0035】
(比較例1)
表2に示す処方構成により、実施例1と同様にゲル製剤を製造し、比較例1のゲル製剤を得た。
【0036】
【0037】
【0038】
(試験例1:ゲル物性)
実施例1~4、および比較例1の製剤につき、製造直後のゲル物性を観察した。各製剤のゲル物性は以下の基準で評価した。結果を表1および表2に示す。
〇:液状成分等の染み出しが見られず、保形性が良好で、容易に皮膚に適用できる。
△:僅かに液状成分の染み出しが見られるか、或いはゲルとして保形性がやや不足している。
×:液状成分の染み出しが見られるか、或いは保形性が無く、ゲルとして皮膚に適用できない。
【0039】
(試験例2:外観)
実施例1~4、および比較例1の製剤につき、製造後、12時間静置した各製剤の外観を観察した。各製剤の外観は以下の基準で評価した。結果を表1および表2に示す。
〇:リドカインの結晶析出は見られない。
△:製剤中にわずかにリドカインの結晶析出が見られる。
×:製剤中にリドカインの結晶が析出している。
【0040】
本発明のゲル製剤においては、実施例4の製剤にゲル物性について僅かに液状成分の染み出しが見られたものの、結晶析出等は見られず、保形性も良好であった。一方、比較例1のゲル製剤に関しては、ゲル物性については僅かに液状成分の染み出しが見られ、さらに製造後にリドカインの結晶が析出した。
【0041】
(比較例2)
院内処方として処方されている「リドカイン軟膏10%」を参考として比較例2の製剤を製造した。製剤の組成を表3に示す。
【0042】
(比較例3)
院内処方として処方されている「10%リドカインゲル」を参考として比較例3の製剤を製造した。製剤の組成を表3に示す。
【0043】
(比較例4)
特開2021-91655の実施例1を参考に、エタノール配合のゲル製剤を比較例4の製剤として製造した。製剤の組成を表3に示す。
【0044】
【0045】
(試験例3:薬効試験)
実施例1および比較例2の製剤を用い、ピンプリック試験を実施した。3匹のモルモットに対して夫々の製剤を塗布した部位を、マンドリン線で刺激し、攣縮反応の有無を観察した。なお、製剤は2時間(120分)毎に繰り返し塗布し、薬剤を拭き取らず攣縮反応を確認した。そして刺激による反応が無い場合を局所麻酔効果がある「有効」と判断した。各モルモットに対して刺激を6回与え、無反応回数を試行回数(6回)で除して、有効率(攣縮抑制率)を算出した。結果を
図1に示す。
【0046】
図1に示されたように、実施例1の製剤は比較例2の製剤と比較して優れた薬効(攣縮抑制効果)を示すことが確認された。
【0047】
(試験例4:ウサギ皮膚一次刺激性試験)
実施例1、比較例2、および比較例3の製剤についてウサギ皮膚一次刺激性試験を行った。それぞれの製剤を除毛したウサギ背部に24時間塗布(開放塗布)し、製剤除去後、1および48時間後の皮膚症状から刺激指数(P.I.I.)を求めた。結果およびその評価基準を、それぞれ表4および表5に示す。
【0048】
本発明のゲル製剤は、各院内処方の外用剤と比較して皮膚刺激が少なく、安全性に優れた製剤であることが判明した。
【0049】
【0050】
【0051】
(試験例5:in vitro皮膚透過性試験)
実施例1および比較例4のゲル製剤について、in vitroヘアレスラット皮膚透過性試験を行った。雄性ヘアレスラット(HWY系、7週齢)の腹部皮膚を摘出してフランツ型拡散セルにセットし、真皮側をレセプター側とし、その内側にはリン酸緩衝生理食塩水を満たし、ウォータージャケットには37℃の温水を還流した。表皮側に各ゲル製剤を50μL塗布し、試験開始後24時間時のレセプター液をサンプリングし、高速液体クロマトグラフ法により、薬物の皮膚透過量を測定した。得られた測定値から24時間後の累積薬物透過量(μg/cm2)を算出した。各製剤の試験開始後24時間の累積薬物透過量を表6に示す。
【0052】
表6に示したように、実施例1の製剤はエタノールを配合した比較例4の製剤よりもリドカインの皮膚透過性が高いことが判明した。このことから本発明のゲル製剤は、エタノール等の低級アルコールを配合せずとも、これらのアルコールを配合した製剤よりも薬物透過性に優れていることが確認された。
【0053】
本発明により、リドカインの高い経皮吸収性を示し、かつ皮膚刺激性の低いリドカインゲルを提供することができる。本発明によれば、その多くにおいて皮膚損傷が認められる帯状疱疹後神経痛の患者等に対しても、低い刺激性を示すため、患者のQOL向上に極めて効果的なものである。