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特開2024-158865ガラス組成物、及びX線造影性組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158865
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】ガラス組成物、及びX線造影性組成物
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/076 20060101AFI20241031BHJP
   C03C 3/062 20060101ALI20241031BHJP
   A61K 6/836 20200101ALI20241031BHJP
   A61K 6/15 20200101ALI20241031BHJP
【FI】
C03C3/076
C03C3/062
A61K6/836
A61K6/15
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074448
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】515279946
【氏名又は名称】株式会社ジーシー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】舩山 直矢
(72)【発明者】
【氏名】三宅 貴大
【テーマコード(参考)】
4C089
4G062
【Fターム(参考)】
4C089AA06
4C089AA10
4C089BA01
4C089BA02
4C089BA04
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4G062KK07
4G062KK10
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4G062MM20
4G062NN01
4G062NN14
(57)【要約】
【課題】高いX線造影性と低い屈折率とを両立するガラスが得られるガラス組成物を提供すること。
【解決手段】ルビジウム(Rb)を含む、ガラス組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルビジウム(Rb)を含む、
ガラス組成物。
【請求項2】
ケイ素(Si)を含む、
請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項3】
セシウム(Cs)を含む、
請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項4】
カリウム(K)及びナトリウム(Na)の少なくとも一方を含まない、
請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のガラス組成物を含む、
X線造影性組成物。
【請求項6】
請求項5に記載のX線造影性組成物を含む、
歯科用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス組成物、及びX線造影性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科等の分野において、CsO、BaOおよび/又はSnO、任意のフッ素を含む、X線造影性ガラスが知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-131457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のガラスでは、X線造影性が高くなると屈折率も高くなる傾向があるため、高いX線造影性と低い屈折率とを両立することは難しい。
【0005】
本発明の課題は、高いX線造影性と低い屈折率とを両立するガラスが得られるガラス組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るガラス組成物は、ルビジウム(Rb)を含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、高いX線造影性と低い屈折率とを両立するガラスが得られるガラス組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0009】
本実施形態に係るガラス組成物は、ルビジウム(Rb)を含む。
【0010】
ルビジウム(Rb)は、原子番号(電子数)が37であり、ガラスにおいて高いX線造影性を示す原子番号(電子数)が38のストロンチウム(Sr)と原子番号(電子数)が略同じである。そのため、ルビジウム(Rb)は、ガラスにおいてストロンチウム(Sr)と同等に高いX線造影性を示す。
【0011】
ここで、X線造影性とは、生体組織や材料等、対象物のX線吸収量に依存して、X線画像の濃淡が変化し、その対象物を可視化や区別することができる特性である。特に、歯科治療においては、歯科用充填材をはじめとする歯科用材料を用いた術後の治療箇所を明確化する必要があり、歯科用材料にはX線造影性が求められる。歯科用材料では、樹脂マトリックスは有機物であるためX線造影性を持たず、ガラス等の無機物からなるフィラーがX線造影性を担う。そのため、X線造影性は、歯科用ガラスにおいて重要な特性である。
【0012】
ところで、ルビジウム(Rb)は、有効イオン半径が152pmで、有効イオン半径が118pmのストロンチウム(Sr)より有効イオン半径が大きい。有効イオン半径が大きいほど、原子内の電子密度が相対的に低くなる又は疎になるため、ルビジウム(Rb)は、ストロンチウム(Sr)に比べてガラスの屈折率の増加を抑制することができる。
【0013】
更に、有効イオン半径が152pmのルビジウム(Rb)は、ルビジウム(Rb)と同じアルカリ金属である有効イオン半径が167pmのセシウム(Cs)より有効イオン半径が小さい。同族元素では有効イオン半径が小さいほど、アルカリ金属と酸素との単結合強度が増加し、化学的に安定性が高くなる傾向がある。そのため、ルビジウム(Rb)は、セシウム(Cs)に比べてガラスの化学的耐久性(例えば、耐水性)が低くなりにくい。
【0014】
ルビジウム(Rb)は、ガラス組成物中で、ルビジウム(Rb)の酸化物(酸化ルビジウム(RbO))として存在し得る。
【0015】
ルビジウム(Rb)の含有量は、特に限定されず、例えば、酸化物換算で3質量%以上であり、好ましくは5質量%以上、より好ましくは7質量%以上である。なお、ルビジウム(Rb)の酸化物換算の含有量は、ルビジウム(Rb)の酸化物である酸化ルビジウム(RbO)のガラス組成物中の質量含有率を示す。
【0016】
なお、ルビジウム(Rb)の酸化物換算の含有量の上限は、特に制限されないが、ガラス組成物の化学的耐久性の低下を抑制する観点から、ルビジウム(Rb)の含有量は、60質量%以下であることが好ましく、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である。
【0017】
本実施形態では、ガラス組成物がルビジウム(Rb)を含有することで、得られるガラスのX線造影性を高めることができる。また、高いX線造影性を維持しながら、得られるガラスの屈折率の増加が少ないため、屈折率の制御が容易になる。更に、ガラス組成物がルビジウム(Rb)を含有することで、得られるガラスの化学的耐久性(例えば、耐水性)が低くなりにくい。
【0018】
本実施形態のガラス組成物は、ルビジウム(Rb)を含有する限り、その種類は、特に限定されない。ガラス組成物の種類としては、例えば、ケイ酸ガラス、ホウ酸ガラス、リン酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、ケイリン酸ガラス、フツリン酸ガラス、硫リン酸ガラス、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス、アルミノボロシリケートガラス等が挙げられる。
【0019】
ガラス組成物の種類は、これらの中でも、ケイ酸ガラス、ホウ酸ガラス、ホウケイ酸ガラスが好ましい。なお、ケイ酸ガラスの主成分は、ケイ素(Si)である。
【0020】
即ち、本実施形態のガラス組成物は、ケイ素(Si)を含むことが好ましい。ケイ素(Si)は、ガラス組成物中で、ケイ素(Si)の酸化物(酸化ケイ素(SiO)として存在し得る。
【0021】
ケイ素(Si)の含有量は、特に限定されず、例えば、酸化物換算で10質量%以上であることが好ましく、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上である。ケイ素(Si)の酸化物換算の含有量は、ケイ素(Si)の酸化物である酸化ケイ素(SiO)のガラス組成物中の質量含有率を示す。
【0022】
ケイ素(Si)の酸化物換算の含有量が20質量%以上であることで、ガラス組成物の粘性の調整が可能になり、また、ガラス組成物の機械的強度を高めることができる。
【0023】
なお、ケイ素(Si)の酸化物換算の含有量の上限は、特に制限されないが、ガラス組成中のケイ素(Si)が増加するとガラス融液が硬くなるため、製造コスト低減の観点から、90質量%以下であることが好ましく、より好ましくは85質量%以下、更に好ましくは80質量%以下である。
【0024】
本実施形態のガラス組成物は、更にセシウム(Cs)を含んでいてもよい。
【0025】
セシウム(Cs)は、原子番号(電子数)が55で、高いX線造影性を示す原子番号(電子数)が56のバリウム(Ba)と原子番号(電子数)が略同じであるため、バリウム(Ba)と同等に高いX線造影性を示す。そのため、セシウム(Cs)をルビジウム(Rb)と混合しても、得られるガラスのX線造影性を高めることができる。
【0026】
また、セシウム(Cs)は、有効イオン半径が167pmで、有効イオン半径が135pmのバリウム(Ba)より大きい(原子内の電子密度が低い又は疎になる)ため、バリウム(Ba)に比べて屈折率の増加を抑制することができる。そのため、セシウム(Cs)をルビジウム(Rb)と混合しても、高いX線造影性を維持しながら、得られるガラスの屈折率の増加を抑制できる。
【0027】
更に、セシウム(Cs)は、ルビジウム(Rb)に比べて化学的耐久性(例えば、耐水性)に劣るが、セシウム(Cs)をルビジウム(Rb)と混合しても、ルビジウム(Rb)を含むことによる化学的耐久性の低下を引き起こさない。そのため、相対的に原料コストが高価なルビジウム(Rb)の一部を、相対的に原料コストが安価なセシウム(Cs)で置き換えることで、ガラス組成物の製造コストの増加を防ぐことができる。
【0028】
セシウム(Cs)は、ガラス組成物中で、セシウム(Cs)の酸化物(酸化セシウム(CsO)として存在し得る。
【0029】
セシウム(Cs)を含む場合、セシウム(Cs)の含有量は、特に限定されず、例えば、酸化物換算で3質量%以上であり、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上である。セシウム(Cs)の酸化物換算の含有量は、セシウム(Cs)の酸化物である酸化セシウム(CsO)のガラス組成物中の質量含有率を示す。
【0030】
セシウム(Cs)の酸化物換算の含有量が3質量%以上であることで、ルビジウム(Rb)と相俟って、得られるガラスのX線造影性を高めることができ、屈折率の増加を抑制できる。なお、セシウム(Cs)の酸化物換算の含有量の上限は、特に制限されないが、ルビジウム(Rb)の含有量を低下させない観点から、40質量%以下であることが好ましく、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
【0031】
本実施形態のガラス組成物は、更にカリウム(K)を含んでいてもよい。カリウム(K)は、ガラス組成物中で、カリウム(K)の酸化物(酸化カリウム(KO)として存在し得る。
【0032】
カリウム(K)を含む場合、カリウム(K)の含有量は、酸化物換算で1質量%以上15質量%以下であり、好ましくは3質量%以上12質量%以下、より好ましくは5質量%以上10質量%以下である。カリウム(K)の酸化物換算の含有量は、カリウム(K)の酸化物である酸化カリウム(KO)のガラス組成物中の質量含有率を示す。
【0033】
カリウム(K)を含む場合のカリウム(K)の酸化物換算の含有量が1質量%であることで、ガラス組成物の熔融温度を低下させることができるため、ガラス組成物の製造や加工が容易になり、各種分野の材料として適用することができる。また、カリウム(K)の酸化物換算の含有量が15質量%以下であることで、ガラス組成物の化学的耐久性の低下を抑制することができる。
【0034】
本実施形態のガラス組成物は、更にナトリウム(Na)を含んでいてもよい。ナトリウム(Na)は、ガラス組成物中で、ナトリウム(Na)の酸化物(酸化ナトリウム(NaO)として存在し得る。
【0035】
ナトリウム(Na)を含む場合、ナトリウム(Na)の含有量は、酸化物換算で1質量%以上15質量%以下であり、好ましくは1.5質量%以上12質量%以下、より好ましくは2質量%以上10質量%以下である。ナトリウム(Na)の酸化物換算の含有量は、ナトリウム(Na)の酸化物である酸化ナトリウム(NaO)のガラス組成物中の質量含有率を示す。
【0036】
ナトリウム(Na)を含む場合のナトリウム(Na)の酸化物換算の含有量が1質量%であることで、ガラス組成物の熔融温度を低下させることができるため、ガラス組成物の製造や加工が容易になり、各種分野の材料として適用することができる。また、ナトリウム(Na)の酸化物換算の含有量が15質量%以下であることで、ガラス組成物の化学的耐久性の低下を抑制することができる。
【0037】
なお、ガラス組成物の化学的耐久性の低下を確実に抑制する観点から、本実施形態のガラス組成物は、アルカリ金属の総量を減らす観点から、カリウム(K)及びナトリウム(Na)の少なくとも一方を含まないことが好ましい。本明細書において、「カリウム(K)及びナトリウム(Na)の少なくとも一方を含まない」とは、不可避不純物を除き、カリウム(K)及び/又はナトリウム(Na)を実質的に含まないことを意味する。
【0038】
カリウム(K)が不可避不純物としてガラス組成物に含まれる場合、カリウム(K)の含有量は、酸化物換算で0.5質量%以下であり、好ましくは0.3質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下である。
【0039】
ナトリウム(Na)が不可避不純物としてガラス組成物に含まれる場合、ナトリウム(Na)の含有量は、酸化物換算で0.5質量%以下であり、好ましくは0.3質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下である。
【0040】
本実施形態のガラス組成物は、本発明の目的を損なわない限り、その他の元素を含んでいてもよい。その他の元素としては、X線造影性や化学的耐久性を向上させる観点から、例えば、ホウ素(B)、フッ素(F)、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、ストロンチウム(Sr)、ジルコニウム(Zr)、スズ(Sn)、バリウム(Ba)、ランタン(La)、ガドリニウム(Gd)等が挙げられる。その他の元素は、フッ素(F)を除き、ガラス組成物中で、酸化物として存在し得る。その他の元素の含有量は、特に制限されず、ガラス組成物中に任意の質量で含まれる。
【0041】
ホウ素(B)は、ガラス組成物中で、ホウ素(B)の酸化物(酸化ホウ素(B)として存在し得る。
【0042】
ホウ素(B)を含む場合、ホウ素(B)の含有量は、特に制限されないが、酸化物換算で40質量%以下であることが好ましく、より好ましくは35質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。ホウ素(B)の酸化物換算の含有量は、ホウ素(B)の酸化物である酸化ホウ素(B)のガラス組成物中の質量含有率を示す。
【0043】
ホウ素(B)の酸化物換算の含有量が40質量%以下であることで、ガラス組成物のガラスの融点を低下させ、製造を容易にすることができる。なお、ホウ素(B)を含む場合のホウ素(B)の酸化物換算の含有量の下限は、特に制限されないが、ガラス組成物の化学的耐久性と製造の容易さの観点から、1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上である。
【0044】
フッ素(F)は、ガラス組成物中で、フッ化物又はフッ化物塩として存在し得る。
【0045】
フッ素(F)を含む場合、フッ素(F)の含有量は、特に制限されないが、6質量%以下であることが好ましく、より好ましくは5.5質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。フッ素(F)の含有量は、フッ素(F)の単体としてのガラス組成物中の質量含有率を示す。
【0046】
フッ素(F)の含有量が6質量%以下であることで、得られるガラスの屈折率を調整することができる。なお、フッ素(F)を含む場合のフッ素(F)の含有量の下限は、特に制限されないが、ガラス組成物の粘性が低くなり、ガラス組成物の操作性を向上させる観点から、0.1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは2質量%以上である。
【0047】
アルミニウム(Al)は、ガラス組成物中で、アルミニウム(Al)の酸化物(酸化アルミニウム(Al)として存在し得る。
【0048】
アルミニウム(Al)を含む場合、アルミニウム(Al)の含有量は、特に制限されないが、酸化物換算で35質量%以下であることが好ましく、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは25質量%以下である。アルミニウム(Al)の酸化物換算の含有量は、アルミニウム(Al)の酸化物である酸化アルミニウム(Al)のガラス組成物中の質量含有率を示す。
【0049】
アルミニウム(Al)の酸化物換算の含有量が35質量%以下であることで、ガラス組成物の化学的耐久性を向上させ、ガラスの失透を抑制することができる。なお、アルミニウム(Al)を含む場合のアルミニウム(Al)の酸化物換算の含有量の下限は、特に制限されないが、ガラス組成物の化学的耐久性とガラスの失透を抑制する観点から、0.1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上である。
【0050】
亜鉛(Zn)は、ガラス組成物中で、亜鉛(Zn)の酸化物(酸化亜鉛(ZnO)として存在し得る。
【0051】
亜鉛(Zn)を含む場合、亜鉛(Zn)の含有量は、特に制限されないが、酸化物換算で20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。亜鉛(Zn)の酸化物換算の含有量は、亜鉛(Zn)の酸化物である酸化亜鉛(ZnO)のガラス組成物中の質量含有率を示す。
【0052】
亜鉛(Zn)の酸化物換算の含有量が35質量%以下であることで、得られるガラスの化学的耐久性を低下させずに、失透を防ぎ、製造を容易にすることができる。なお、亜鉛(Zn)を含む場合の亜鉛(Zn)の酸化物換算の含有量の下限は、特に制限されないが、ガラス組成物の化学的耐久性とガラスの失透を抑制する観点から、0.1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上である。
【0053】
ストロンチウム(Sr)は、ガラス組成物中で、ストロンチウム(Sr)の酸化物(酸化ストロンチウム(SrO)として存在し得る。
【0054】
ストロンチウム(Sr)を含む場合、ストロンチウム(Sr)の含有量は、特に制限されないが、酸化物換算で20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。ストロンチウム(Sr)の酸化物換算の含有量は、ストロンチウム(Sr)の酸化物である酸化ストロンチウム(SrO)のガラス組成物中の質量含有率を示す。
【0055】
ストロンチウム(Sr)の酸化物換算の含有量が20質量%以下であることで、得られるガラスの低い屈折率を維持しながらX線造影性を高くすることができる。なお、ストロンチウム(Sr)を含む場合のストロンチウム(Sr)の酸化物換算の含有量の下限は、特に制限されないが、低い屈折率を維持しながらX線造影性を高くする観点から、0.1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上である。
【0056】
ジルコニウム(Zr)は、ガラス組成物中で、ジルコニウム(Zr)の酸化物(酸化ジルコニウム(ZrO)として存在し得る。
【0057】
ジルコニウム(Zr)を含む場合、ジルコニウム(Zr)の含有量は、特に制限されないが、酸化物換算で20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。ジルコニウム(Zr)の酸化物換算の含有量は、ジルコニウム(Zr)の酸化物である酸化ジルコニウム(ZrO)のガラス組成物中の質量含有率を示す。
【0058】
ジルコニウム(Zr)の酸化物換算の含有量が20質量%以下であることで、ガラスの熔融性を維持しつつ、得られるガラスのX線造影性を向上させ、耐水性を高くすることができる。なお、ジルコニウム(Zr)を含む場合のジルコニウム(Zr)の酸化物換算の含有量の下限は、特に制限されないが、X線造影性を維持しながら耐水性を高める観点から、0.5質量%以上であることが好ましく、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは3質量%以上である。
【0059】
スズ(Sn)は、ガラス組成物中で、スズ(Sn)の酸化物(酸化第二スズ(SnO))として存在し得る。
【0060】
スズ(Sn)を含む場合、スズ(Sn)の含有量は、特に制限されないが、酸化物換算で25質量%以下であることが好ましく、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは15質量%以下である。スズ(Sn)の酸化物換算の含有量は、スズ(Sn)の酸化物である酸化スズ(SnO)のガラス組成物中の質量含有率を示す。
【0061】
スズ(Sn)の酸化物換算の含有量が25質量%以下であることで、ガラスの熔融性を維持しつつ、得られるガラスのX線造影性を向上させながら、耐水性を高くすることができる。なお、スズ(Sn)を含む場合のスズ(Sn)の酸化物換算の含有量の下限は、特に制限されないが、X線造影性を維持しながら耐水性を高める観点から、1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは5質量%以上である。
【0062】
バリウム(Ba)は、ガラス組成物中で、バリウム(Ba)の酸化物(酸化バリウム(BaO)として存在し得る。
【0063】
バリウム(Ba)を含む場合、バリウム(Ba)の含有量は、特に制限されないが、酸化物換算で30質量%以下であることが好ましく、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。バリウム(Ba)の酸化物換算の含有量は、バリウム(Ba)の酸化物である酸化バリウム(BaO)のガラス組成物中の質量含有率を示す。
【0064】
バリウム(Ba)の酸化物換算の含有量が30質量%以下であることで、耐水性低下を抑制しつつ、得られるガラスのX線造影性を向上させることができる。なお、バリウム(Ba)を含む場合のバリウム(Ba)の酸化物換算の含有量の下限は、特に制限されないが、高いX線造影性を付与する観点から、1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは10質量%以上である。
【0065】
ランタン(La)は、ガラス組成物中で、ランタン(La)の酸化物(酸化ランタン(La))として存在し得る。
【0066】
ランタン(La)を含む場合、ランタン(La)の含有量は、特に制限されないが、酸化物換算で40質量%以下であることが好ましく、より好ましくは45質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。ランタン(La)の酸化物換算の含有量は、ランタン(La)の酸化物である酸化ランタン(La)のガラス組成物中の質量含有率を示す。
【0067】
ランタン(La)の酸化物換算の含有量が40質量%以下であることで、ガラスの熔融性を維持しつつ、得られるガラスのX線造影性を向上させ、耐水性を高くすることができる。なお、ランタン(La)を含む場合のランタン(La)の酸化物換算の含有量の下限は、特に制限されないが、X線造影性を維持しながら耐水性を高める観点から、1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは10質量%以上である。
【0068】
ガドリニウム(Gd)は、ガドリニウム(Gd)の酸化物(酸化ガドリニウム(Gd)として存在し得る。
【0069】
ガドリニウム(Gd)を含む場合、ガドリニウム(Gd)の含有量は、特に制限されないが、酸化物換算で30質量%以下であることが好ましく、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。ガドリニウム(Gd)の酸化物換算の含有量は、ガドリニウム(Gd)の酸化物である酸化ガドリニウム(Gdのガラス組成物中の質量含有率を示す。
【0070】
ガドリニウム(Gd)の酸化物換算の含有量が30質量%以下であることで、ガラスの熔融性を維持しながら、得られるガラスのX線造影性を向上させることができる。なお、ガドリニウム(Gd)を含む場合のガドリニウム(Gd)の酸化物換算の含有量の下限は、特に制限されないが、高いX線造影性を付与する観点から、1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは5質量%以上である。
【0071】
なお、本実施形態のガラス組成物は、その他の不可避不純物が含まれていてもよい。不可避不純物としては、例えば、ニッケル(Ni)等が挙げられる。
【0072】
ガラス組成物の形態は、特に限定されないが、例えば、粉末状(又は粉体)、板状、柱状、糸状、繊維状であってもよい。ガラス組成物の形態が、粉末状であると、ガラス組成物の各成分の配合や混合が容易になる。また、ガラス組成物の形態が、板状、又は柱状であると、ガラス組成物を光学素子(例えば、レンズ、プリズム、フィルタ等)に使用することができる。
【0073】
粉末状のガラス組成物の粒度は、特に限定されないが、メジアン径で0.01μm以上20μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.02μm以上10μm以下、さらに好ましくは0.1μm以上1μm以下である。ここで、粒度は、メジアン径で定義される平均粒径を意味する。
【0074】
ガラス組成物の粒度が0.01μm以上であると、ガラス組成物を粉末として使用した際に、ガラス組成物の操作性が改善される。また、ガラス組成物の粒度が20μm以下であると、歯科材料に適用した際に得られる歯科用組成物の機械的強度が向上する。
【0075】
本実施形態のガラス組成物は、これを含むガラスの屈折率(nd)を1.564以下にすることができる。本明細書において、屈折率(nd)は、D線(波長589nmの光線)における屈折率を意味する。
【0076】
本実施形態のガラス組成物の屈折率(nd)が1.564以下であると、該ガラス組成物を歯科用組成物として用いた場合に、歯科用樹脂との屈折率差が小さくなり、得られる歯科用組成物の透明性が高くなる。なお、屈折率(nd)の下限は、特に制限されないが、実施可能な範囲として1.40以上であることが好ましく、より好ましくは1.45以上、更に好ましくは1.47以上である。
【0077】
本実施形態のガラス組成物は、これを含むガラスのX線造影性を対アルミニウム比で200%以上にすることができる。本明細書において、X線造影性とは、ISO 4049:2019に準拠した歯科材料のX線造影性試験方法により測定したX線造影性を示す。
【0078】
本実施形態では、ガラス組成物を含むガラスのX線造影性が対アルミニウム比で200%以上となることで、良好なX線造影性を示すガラス組成物を提供することができる。なお、X線造影性の上限は、特に制限されないが、実施可能な範囲として対アルミニウム比で1000%以下であることが好ましく、より好ましくは900%以下、更に好ましくは800%以下である。
【0079】
本実施形態のガラス組成物は、その用途は特に限定されないが、ガラス組成物が高いX線造影性を示す点で、ガラス組成物を含むX線造影性組成物として用いることができる。
【0080】
また、本実施形態のガラス組成物は、その高いX線造影性を利用することで、歯科材料(歯科用組成物)として用いることができる。このような歯科材料としては、例えば、歯科用コンポジットレジン、歯科用セメント、歯科用接着剤、歯科用仮封材、歯科用プライマー、歯科用コート材、歯科用硬質レジン、歯科切削加工用レジン材料、歯科用暫間修復材、歯科用充填材、歯磨剤などが挙げられる。
【0081】
なお、本実施形態の歯科用組成物は、これを含むガラスのX線造影性、透明性の何れも高いものとなるため、良好なX線造影性と優れた審美性とを両立する歯科用組成物を得ることができる。また、本実施形態の歯科用組成物は、良好なX線造影性を示すため、治療後のX線画像による診断や診察において、修復箇所を明確にすることができる。
【0082】
また、本実施形態の歯科用組成物に含まれるガラス組成物は、十分に好適な屈折率の範囲に調整されているため、歯科用樹脂との屈折率差が小さく、審美性が求められる歯科材料(例えば、歯科用コンポジットレジン、歯科用コート剤、歯科用硬質レジン、歯科切削加工用レジン材料等)に好適に用いることができる。
【0083】
更に、本実施形態の歯科用組成物に含まれるガラス組成物は、化学的耐久性(特に、耐水性)が良好であるため、口腔内で適用される歯科材料全般に好適に用いることができる。
【0084】
また、本実施形態のガラス組成物は、歯科材料以外の分野でも適用可能である。このような分野の用途としては、例えば、光学レンズ、プリズム、光学フィルタ等の光学素子、紫外線・赤外線カットガラス、放射線遮蔽ガラス等が挙げられる。
【実施例0085】
以下、本発明について、さらに実施例を用いて説明する。なお、以下において、単位のない数値又は「%」は、特に断りのない限り、質量基準(質量%)である。
【0086】
<ガラスの調製>
ガラス(実施例1-1~1-3、実施例2-1~2-4、実施例3-1~3-2、実施例4-1~4-6、比較例1-1~1-3、比較例3-1)を、表1~表4に示す組成で調製した。各種原料を混合して得た原料バッチを白金るつぼに入れた後、1400~1500℃に予熱した電気炉にて30~60分係留し、カーボン型に流し出すことで、バルク体として得た。もしくは、同様に熔融した後、水槽にガラス融液を落とすことによって、水砕ガラスを得た。ガラスは、アルミナ製マグネット乳鉢にて粉砕してメジアン径(平均粒径)20~300μmのガラス粉末として得た。
【0087】
得られたガラス粉末(ガラス)について、屈折率を測定した。また、得られたガラスのバルク体は、電気炉にて、室温から20℃/分の昇温速度で600℃まで昇温し、600℃にて30分係留したのち、室温まで徐冷する熱処理を行った。熱処理後のガラスのバルク体をスライスし、スライス片を得た。
【0088】
<屈折率>
特定の屈折率を有する液体と、作製したガラス粉末を1:1(質量比)で混合して透明チューブに詰めた。次に、透明チューブを白色LEDにかざし、透明チューブの透過光の色を目視で観察した。そして、透明チューブの透過光が緑色になる液体の屈折率を、ガラス粉末の屈折率として採用した。なお、液体の屈折率がガラス粉末の屈折率よりも低い場合、透明チューブの透過光の色は青色になる。また、液体の屈折率がガラス粉末の屈折率よりも高い場合、透明チューブの透過光の色は赤色又は黄色になる。ガラスの屈折率の評価は、屈折率が1.564以下の場合は良好、屈折率が1.564を超える場合は不良と判定した。ガラスの屈折率の結果は、表1~表4に示す。
【0089】
<X線造影性>
得られたガラスのスライス片について、X線造影性(対Al%)を測定した。X線造影性は、ISO 4049:2019に準拠した歯科材料のX線造影性試験方法により測定する。具体的には、厚さTs(単位:mm)の試験片(板状のガラス組成物)の光学濃度又はグレイ値を測定する。次に、厚さTsの試験片と同じ光学濃度又はグレイ値を示すアルミニウム板の厚さTa(単位:mm)を求める。そして、Tsに対するTaの割合(単位:対Al%)を、X線造影性の値として用いる。X線造影性の評価は、対アルミニウム比で200%以上の場合は良好、対アルミニウム比で200%未満の場合は不良と判定した。ガラスの屈折率の結果は、表1~表4に示す。
【0090】
<耐水性>
ガラス粉末(メジアン径20~300μm)を2.0g秤量した。ガラス粉末をDuranガラス瓶(SCHOTT社製、「Duran」は登録商標)に加えた後、蒸留水を50mL加えて振とうした。98℃に予熱しておいた恒温槽にガラス瓶ごと入れ、1時間静置した。恒温槽より取り出した後、室温まで放冷し、電気伝導度計(堀場製作所製)で、浸漬液の電気伝導率を測定した。耐水性の試験では、ガラス粉末から浸漬液中に溶出したイオン量を測定し、評価した。そのため、イオン溶出量が少ない、すなわち耐水性の評価値(単位:μS)が小さいほど、優れた耐水性を示すガラス組成物であると評価した。具体的には、耐水性の評価は、800μS以下の場合は良好、800μSを超える場合は不良と判定した。耐水性の結果は、表1、表3、表4に示す。
【0091】
【表1】
【0092】
【表2】
【0093】
【表3】
【0094】
【表4】
【0095】
表1~4より、ルビジウム(Rb)を含むガラス組成物は、得られるガラスの屈折率、X線造影性、及び耐水性が良好であった(実施例1-1~1-3、実施例3-1~3-2、実施例4-1~4-6)。
【0096】
これに対して、ルビジウム(Rb)を含まないガラス組成物は、得られるガラスの屈折率、X線造影性、耐水性のいずれか1つが不良であった(比較例1-1~1-3、比較例3-1)。
【0097】
また、表1より、Na、Csを含む場合でも、Rbを含むことによる優れた物性(屈折率が低く、X線造影性が高く、且つ耐水性が高いこと)を示した(実施例1-2、1-3)。
【0098】
また、表2より、Rb配合量の増加に伴い、わずかな屈折率の増加で、X線造影性が増加した。つまり、Rbの配合量を増やすことで、屈折率の増加を抑制しながら、X線造影性を高めることができる。すなわち、Rbの配合量によって、X線造影性を任意に調整することができることが判った(実施例2-1~2-4)。
【0099】
また、表3より、NaとKを含まないことによって、良好な耐水性を示した(実施例3-1~3-2)。これに対して、Naを含む場合、耐水性が悪くなった(比較例3-1)。すなわち、Na及び/又はKを含まない組成にすることによって、Rbを含むガラス組成物において、さらに耐水性を高めることができることが判った。
【0100】
更に、表3、表4より、Rbを含むガラス組成物は、F、Zn、Sn、Sr、Zr、Ba、La、Gd等の元素と組み合わせた場合においても、Rbを含むことによる優れた物性(屈折率が低く、X線造影性が高く、且つ耐水性が高くなる効果)が得られた。特に、Sn、Sr、Zr、Ba、La、Gdを含むことで、更にX線造影性の向上が見られた(実施例3-1~3-2、実施例4-1~4-6)。加えて、Sn、Zr、Laを含むことでX線造影性を向上する上に、耐水性も向上した。また、F、Znを含むことで、良好なX線造影性と十分な耐水性の両者を示しつつ、屈折率が低いガラス組成物が得られた(実施例4-1、4-6)。
【0101】
以上に開示された実施形態は、例えば、以下の態様を含む。
【0102】
(付記1)
ルビジウム(Rb)を含む、ガラス組成物。
【0103】
(付記2)
ケイ素(Si)を含む、付記1に記載のガラス組成物。
【0104】
(付記3)
セシウム(Cs)を含む、付記1又は2に記載のガラス組成物。
【0105】
(付記4)
カリウム(K)及びナトリウム(Na)の少なくとも一方を含まない、付記1乃至3の何れか一つに記載のガラス組成物。
【0106】
(付記5)
付記1乃至4のいずれか一つに記載のガラス組成物を含む、X線造影性組成物。
【0107】
(付記6)
付記5に記載のX線造影性組成物を含む、歯科用組成物。
【0108】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。