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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158870
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】排気システム
(51)【国際特許分類】
   F02B 37/24 20060101AFI20241031BHJP
   F02B 37/12 20060101ALI20241031BHJP
   F02D 13/04 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
F02B37/24
F02B37/12 302C
F02D13/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074465
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高井 祐
【テーマコード(参考)】
3G005
3G092
【Fターム(参考)】
3G005DA02
3G005EA04
3G005EA16
3G005GA04
3G005HA18
3G005JA39
3G005JB04
3G005JB05
3G005JB09
3G005JB21
3G092AA02
3G092AA17
3G092AA18
3G092AB03
3G092DB03
3G092GA13
3G092GB08
3G092HA15
3G092HF25
(57)【要約】
【課題】過給機を適切に保護しつつ適切な大きさの排気ブレーキ力を達成する。
【解決手段】車両1の排気システムは、過給機30と、排気ガス処理装置55と、制御装置200とを備える。過給機30は、可変ノズル機構40を有するタービン36を含む。制御装置200は、可変ノズル機構40の開度の基準である基準開度に対する補正量を算出する算出処理と、車両1の排気ブレーキを作動させるために基準開度および補正量に従って開度を制御するノズル制御とを実行する。排気マニホールド50内の排気ガスの温度またはタービン36の温度を温度T4とし、排気ガス処理装置55の温度TEとする。算出処理は、排気マニホールド50内の圧力P4の、排気管54内の圧力P6に対する比率が制約値以下になるように予め定められた、温度T4および温度TEと補正量との関係を用いて、温度T4および温度TEに従って実行される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンが搭載される車両の排気ブレーキのための排気システムであって、
可変ノズル機構を有するタービンを含む過給機と、
前記エンジンの排気ガスが流れる方向において前記タービンの下流側に設けられ、前記排気ガスを処理する排気ガス処理装置と、
前記エンジンと前記タービンとの間に接続された第1排気管と、
前記タービンと前記排気ガス処理装置との間に接続された第2排気管と、
前記可変ノズル機構の開度の基準である基準開度に対する補正量を算出する算出処理と、前記排気ブレーキを作動させるために前記基準開度および前記補正量に従って前記開度を制御するノズル制御とを実行する制御装置とを備え、
前記第1排気管内の前記排気ガスの温度または前記タービンの温度を第1温度とし、前記排気ガス処理装置の温度を第2温度とすると、
前記算出処理は、前記第1排気管内の圧力である第1圧力の、前記第2排気管内の圧力である第2圧力に対する比率が制約値以下になるように予め定められた、前記第1温度および前記第2温度と前記補正量との関係を用いて、前記第1温度および前記第2温度に従って実行される、排気システム。
【請求項2】
前記車両の減速度がその目標値となるときの前記第1圧力を目標減速度圧力とし、前記第1圧力が前記目標減速度圧力であるときの前記比率を目標減速度比率値とすると、前記目標減速度比率値は、前記制約値よりも低く、
前記関係は、前記比率が前記制約値以下、かつ前記目標減速度比率値以上になるように予め定められる、請求項1に記載の排気システム。
【請求項3】
前記補正量は、前記第2温度が高い場合に、前記第2温度が低い場合よりも小さい、請求項1に記載の排気システム。
【請求項4】
前記排気ガス処理装置は、前記排気ガスを改質する触媒部材を含み、
前記第2温度は、前記触媒部材の温度である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の排気システム。
【請求項5】
前記排気ガス処理装置は、各々が前記排気ガスを改質する複数の触媒部材を含み、
前記第2温度は、前記排気ガスが流れる経路において前記複数の触媒部材のうち最も上流側の触媒部材の温度である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の排気システム。
【請求項6】
前記基準開度は、前記エンジンの回転数と、前記車両の周囲の気温と、前記車両の周囲の大気圧とに従って設定される、請求項1に記載の排気システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、排気システムに関し、特に、車両の排気ブレーキのための排気システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特開2022-062878号公報(特許文献1)は、車両に搭載されるエンジンシステムを開示する。このエンジンシステムは、エンジンと、排気マニホールドおよび排気管と、過給機と、制御装置とを備える。排気管は、排気マニホールドを介してエンジンに接続されている。過給機は、タービンおよび可変ノズル機構を含む。タービンは、排気管を介して排気マニホールドに接続される。可変ノズル機構は、過給効果を上げるために設けられ、車両のエンジンブレーキ(排気ブレーキ)の手段としても利用され得る。制御装置は、エンジンブレーキを作動させるために、ノズル機構の基準開度と、その補正量とに従ってノズル機構を制御する。制御装置は、排気マニホールド内のエンジンの排気ガス温度に従ってこの補正量を算出する。補正量は、排気マニホールド内の圧力が信頼性限界を超えないように排気マニホールド内の排気ガス温度に対して予め定められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-062878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タービンには、排気ガスが流れる方向における上流側の第1排気管(排気マニホールドに接続される)と、下流側の第2排気管とが接続される。第1排気管内の圧力(第1圧力)と第2排気管内の圧力(第2圧力)との比率(たとえば、第1圧力/第2圧力)は、タービンを保護するための指標値として用いられる。
【0005】
この比率は、タービンの保護の観点から制約値以下であることが好ましい。特許文献1の技術によれば、第2圧力によっては上記比率が制約値を超過する可能性がある。その結果、過給機を保護することができない可能性がある。比率をモニタリングするために第1圧力および第2圧力を検出するセンサを別途設けることは、コスト増大を招く。
【0006】
上記の比率は、第2圧力が低いほど高くなり、過給機の保護が問題となる。過給機を確実に保護するために、第2圧力が常に低いという仮定条件の下でタービンの可変ノズル機構の開度を制御することも考えられる。しかしながら、そのような制御によれば、過給機は保護されるが、可変ノズル機構の開度が過剰に大きく制御されて(可変ノズル機構が過剰に開かれて)第1圧力が低くなり、十分な排気ブレーキ力が達成されない可能性がある。言い換えれば、実際には可変ノズル機構をより閉じることができるにも拘わらず可変ノズル機構が過度に開かれて排気ブレーキ力が不十分となる可能性がある。
【0007】
本開示は、上記のような問題を解決するためになされたものであって、その目的は、エンジンを搭載する車両の排気ブレーキのための排気システムにおいて、過給機を適切に保護しつつ適切な大きさの排気ブレーキ力を達成することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の排気システムは、エンジンが搭載される車両の排気ブレーキのための排気システムである。排気システムは、過給機と、排気ガス処理装置と、第1排気管と、第2排気管と、制御装置とを備える。過給機は、可変ノズル機構を有するタービンを含む。排気ガス処理装置は、エンジンの排気ガスが流れる方向においてタービンの下流側に設けられ、排気ガスを処理する。第1排気管は、エンジンとタービンとの間に接続されている。第2排気管は、タービンと排気ガス処理装置との間に接続されている。制御装置は、可変ノズル機構の開度の基準である基準開度に対する補正量を算出する算出処理と、排気ブレーキを作動させるために基準開度および補正量に従って開度を制御するノズル制御とを実行する。第1排気管内の排気ガスの温度またはタービンの温度を第1温度とし、排気ガス処理装置の温度を第2温度とする。算出処理は、第1排気管内の圧力である第1圧力の、第2排気管内の圧力である第2圧力に対する比率が制約値以下になるように予め定められた、第1温度および第2温度と補正量との関係を用いて、第1温度および第2温度に従って実行される。
【0009】
過給機のタービンに設けられた可変ノズル機構の開度が小さいほど、第1排気管からタービンを通じて第2排気管に流入する排気ガスの量が少なくなり、第1圧力が上昇する。その結果、エンジンのポンピングロスが増大して排気ブレーキ力が増大する一方で、上記比率は上昇する。この比率は、過給機の耐圧保護の観点から制約比率値以下であることが好ましい。第1圧力および第2圧力は、それぞれ、第1排気管および第2排気管の温度に依存する。上記比率は、第2圧力に関係しているため、第2排気管の温度に依存して変化する。第2排気管が排気ガス処理装置に接続されているため、第2排気管の温度は、排気ガス処理装置の温度(第2温度)に関係している。よって、比率は、第2温度に関係している。第2圧力が低いほど、第2排気管の温度が低いため第2温度が低い。比率は、第2圧力が低いほど高いため、第2温度が低いほど高いと考えられる。上記の構成とすることにより、比率が制約値以下になるように第1温度および第2温度に従って開度が制御される。これにより、過給機を適切に保護することができる。さらに、上記の構成によれば、第2温度が補正量に反映される。第2温度は、第2圧力が低いほど低く、第2圧力を反映するため、上記の算出処理によれば、第2圧力が補正量に反映される。これにより、排気ブレーキ力が不十分となる事態を回避することができる。
【0010】
ある局面において、車両の減速度がその目標値となるときの第1圧力を目標減速度圧力とし、第1圧力が目標減速度圧力であるときの比率を目標減速度比率値とすると、目標減速度比率値は、制約値よりも低い。関係は、比率が制約値以下、かつ目標減速度比率値以上になるように予め定められる。
【0011】
上記の構成とすることにより、比率が制約値以下かつ目標減速度比率値以上になるように開度が制御される。これにより、比率が制約値を超過する事態を回避しつつ目標減速度を達成できる程度に第1圧力を高くすることができる。その結果、過給機を高圧から適切に保護しつつ、適切な大きさの排気ブレーキ力を達成することができる。
【0012】
ある局面において、補正量は、第2温度が高い場合に、第2温度が低い場合よりも小さい。
【0013】
仮に、第1温度および第2温度のうち第1温度のみに従って補正量が定められるならば、過給機を確実に高圧から保護するために、第2温度が低い(第2排気管の圧力が低い)という仮定条件に基づいて補正量が定められる。この場合、実際には第2温度が高く(第2排気管の圧力が高く)て比率が低いために開度が小さいことが適切であるにも拘らず、補正量が不必要に大きく定められて、可変ノズル機構が過剰に開かれる可能性がある。その結果、適切な大きさの排気ブレーキ力を達成することができない。上記の構成によれば、第2温度が実際に高い場合には補正量が相対的に小さくなるように定められる。これにより、可変ノズル機構が適切に閉じられるため、可変ノズル機構が過剰に開かれる事態が回避される。その結果、適切な大きさの排気ブレーキ力を達成することができる。
【0014】
ある局面において、排気ガス処理装置は、排気ガスを改質する触媒部材を含む。第2温度は、触媒部材の温度である。
【0015】
触媒部材は、排気ガスを改質するために排気システムにおいて一般的に設けられる。上記の構成とすることにより、触媒部材の温度が第2温度として用いられる。これにより、排気システムにおける追加の温度センサ無しで、触媒部材の温度を検出するセンサの検出値、または、この温度の推定値を可変ノズル機構の開度の制御に活用することができる。
【0016】
ある局面において、排気ガス処理装置は、各々が排気ガスを改質する複数の触媒部材を含む。第2温度は、排気ガスが流れる経路において複数の触媒部材のうち最も上流側の触媒部材の温度である。
【0017】
このような構成とすることにより、第2温度の応答性を高めることができる。
【0018】
ある局面において、基準開度は、エンジンの回転数と、車両の周囲の気温と、車両の周囲の大気圧とに従って設定される。
【発明の効果】
【0019】
本開示によれば、過給機を高圧から適切に保護しつつ適切な大きさの排気ブレーキ力を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施の形態におけるエンジンシステムの概略構成を示す図である。
図2】可変ノズル機構の構成の一例を示す図である。
図3】基準開度を設定する手法を具体的に説明するための図である。
図4】温度TCと圧力P6との関係を説明するための図である。
図5】温度TCと、圧力P4の、圧力P6に対する比率との関係を説明するための図である。
図6】ノズル制御の実行中の圧力P4の上限および下限を説明するための図である。
図7】実施の形態における、温度T4,TCと、VN開度の補正量との関係を説明するための図である。
図8】実施の形態における、温度T4,TCと、VN開度の補正量との関係を説明するための図である。
図9】実施の形態の、比較例に対する利点を説明するための図である。
図10】アクセル開度、および温度T4,TCに依存してVN開度、膨張比、および排気ブレーキ力が時間とともにどのように推移するかを比較例および実施の形態の各々について説明するための図である。
図11】制御装置により実行される制御および処理を例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明を繰り返さない。実施の形態およびその変形例の各々は、適宜互いに組み合わせられてもよい。
【0022】
図1は、本実施の形態におけるエンジンシステムの概略構成を示す図である。図1を参照して、エンジンシステム1は、車両5(ディーゼル車)に搭載されており、エンジン10と、エアクリーナ20と、吸気管22,24,25と、インタークーラ26と、ディーゼルスロットル27とを備える。エンジンシステム1は、吸気マニホールド28と、過給機30と、排気マニホールド50と、排気管52,54と、排気ガス処理装置55と、排気再循環(EGR:Exhaust Gas Recirculation)装置60とをさらに備える。エンジンシステム1は、排気ブレーキスイッチ80と、アクセルペダル81と、ブレーキペダル82と、エンジン回転数センサ102と、温度センサ103,104,105と、気温センサ108と、大気圧センサ110と、制御装置200とをさらに備える。
【0023】
エンジン10は、ディーゼルエンジンであって、気筒12と、インジェクタ16とを含む。インジェクタ16は、気筒12の頂部に設けられた燃料噴射装置である。インジェクタ16は、所定のタイミングで気筒12内に燃料噴射量を供給する。インジェクタ16は、アクセルペダル81(後述)の操作が解除されると停止する。
【0024】
エアクリーナ20は、エンジン10の外部から吸入される空気から異物を除去する。エアクリーナ20は、吸気管22の一方端に接続される。
【0025】
吸気管22の他方端は、過給機30のコンプレッサ32の吸気流入口に接続される。コンプレッサ32の吸気流出口は、吸気管24の一方端に接続される。吸気管24の他方端は、インタークーラ26の一方端に接続される。インタークーラ26は、吸気管24を流通する空気を冷却する空冷式または水冷式の熱交換器である。インタークーラ26の他方端は、吸気管25の一方端に接続される。ディーゼルスロットル27は、吸気管25に設けられており、吸気の流量を調整する。
【0026】
吸気管25の他方端は、吸気マニホールド28に接続される。吸気マニホールド28は、エンジン10の気筒12の吸気ポートに連結される。
【0027】
排気マニホールド50は、エンジン10の気筒12の排気ポートに連結される。排気マニホールド50には、排気管52の一方端が接続される。排気管52の他方端は、過給機30のタービン36の排気流入口に接続される。各気筒の排気ポートから排出される排気は、排気マニホールド50に流入し、排気マニホールド50および排気管52を経由してタービン36に供給される。排気マニホールド50および排気管52は、エンジン10とタービン36との間に接続されている。
【0028】
この例では、排気マニホールド50内の排気ガスの圧力は、排気管52内の排気ガスの圧力に等しいものとする。排気マニホールド50内の空気の圧力および温度を、それぞれ、圧力P4および温度T4とも表す。圧力P4は、温度T4に依存する。排気マニホールド50および排気管52は、本開示の「第1排気管」の一例に相当する。温度T4は、本開示の「第1温度」の一例に相当する。
【0029】
タービン36の排気流出口は、排気管54の一方端に接続される。排気管54は、タービン36と排気ガス処理装置55との間に接続されており、排気管52およびタービン36を通過した排気ガスを案内する。排気管54の他方端は、排気ガス処理装置55に接続される。排気管54は、本開示の「第2排気管」の一例に相当する。
【0030】
排気ガス処理装置55は、エンジン10の排気ガスが流れる方向においてタービン36の下流側に設けられており、排気ガスを処理する。詳細には、排気ガス処理装置55は、酸化触媒56と、PM(Particulate Matter)除去フィルタ57と、SCR(Selective Catalytic Reduction)触媒58とを含む。酸化触媒56は、エンジン10から排気マニホールド50、排気管52、タービン36、および排気管54を通じて供給される排気ガスを改質する触媒部材である。PM除去フィルタ57は、排気ガスに含まれるPMを捕集して排気ガスから除去するために設けられる。SCR触媒58は、排気ガスに含まれるNOxを還元して浄化することによって排気ガスを改質する触媒部材である。
【0031】
タービン36の排気流出口から排出された排気は、排気管54、排気ガス処理装置55を経由して車外に排出される。排気管54内の空気の圧力および温度を、それぞれ、圧力P6および温度T6とも表す。圧力P6は、温度T6に依存する。
【0032】
吸気管25(または吸気マニホールド28)と排気管52(または排気マニホールド50)とは、エンジン10の気筒12を経由せずにEGR装置60を通じて接続される。
【0033】
EGR装置60は、EGRバルブ62と、EGRクーラ63と、配管66とを含む。EGRクーラ63は、配管66を介して吸気側に流れるEGRガスを冷却する空冷式または水冷式の熱交換器である。配管66は、排気管52(または排気マニホールド50)を吸気管25に接続する。
【0034】
EGRバルブ62は、配管66を流通するEGRガスの流量を調整する調整弁である。排気マニホールド50内の排気をEGR装置60を経由してEGRガスとして吸気管25に戻すことで気筒12内の燃焼温度を低下させる。これにより、NOxの生成量が低減される。
【0035】
過給機30は、コンプレッサ32と、タービン36と、連結軸42と、アクチュエータ44とを含む。コンプレッサ32は、エンジン10の吸気を過給してインタークーラ26に供給する。コンプレッサ32のハウジング内にはコンプレッサホイール34が収納されており、タービン36のハウジング内にはタービンホイール38が収納されている。コンプレッサホイール34とタービンホイール38とは、連結軸42によって連結され、一体的に回転する。コンプレッサホイール34は、タービンホイール38に供給される排気のエネルギーによって回転駆動される。
【0036】
タービン36は、可変ノズル機構40を有する。可変ノズル機構40は、タービンホイール38の回転軸を中心とした周囲の排気流入部に配置されており、複数のベーンと、リンク機構とを含む。複数のベーンは、排気管52から供給される排気をタービンホイール38に案内する。リンク機構は、複数のベーンの各々を回転させることによって、隣接するベーン間の隙間を変化させる。以下において、この隙間の大きさを「VN(ベーンノズル)開度」とも表す。可変ノズル機構40の構造については、後ほど詳しく説明する。アクチュエータ44は、リンク機構を動作させることによって、可変ノズル機構40のVN開度を変化させる。
【0037】
可変ノズル機構40のVN開度を変化させることによって、タービンホイール38への排気流入部における排気の流路が絞られたり、拡げられたりする。これにより、排気マニホールド50および排気管52内の圧力が調整され、排気ブレーキ力が調整される。例えば、VN開度が小さいほど、排気管52からタービン36を通じて排気管54に流入する排気ガスの量が少なくなり、圧力P4が上昇する。その結果、エンジン10のポンピングロスが増大して排気ブレーキ力を増大させることができる。他方、VN開度が大きいほど上記の排気ガスの量が多くなり、圧力P4が低下する。その結果、ポンピングロスが低減されて排気ブレーキ力が低減される。
【0038】
図2は、可変ノズル機構40の構成の一例を示す図である。図2(A)は、図1において左方向から可変ノズル機構40を見た図である。図2(B)は、図1において右方向から可変ノズル機構40を見た図である。
【0039】
図2(A)および図2(B)を参照して、可変ノズル機構40は、複数のノズルベーン67と、ノズルプレート69と、ユニゾンリング71とを含む。複数のノズルベーン67は、タービンホイール38の外周の排気流入部に配置されている。ノズルプレート69は、複数の軸68を回転中心として複数のノズルベーン67をそれぞれ揺動可能に保持する。ユニゾンリング71は、各軸68の端部に固定されたアーム70を用いて軸68を回転させる。ユニゾンリング71は、リンク機構72を介してアクチュエータ44の動作によって回転される。リンク機構72の回転軸72aの端部に固定されたアーム72bを、アクチュエータ44を用いて揺動させることで、アーム72bと係合するユニゾンリング71を回転させることができる。
【0040】
たとえば、図2(A)に示されるように、アーム72bをリンク機構72によって矢印に示す方向に揺動させると、ユニゾンリング71は、矢印に示す方向、すなわち、図2(A)では反時計回り、図2(B)では時計回りに回転する。さらに、このユニゾンリング71の回転によって、各軸68は、矢印に示す方向、すなわち、図2(A)では反時計回り、図2(B)では時計回りに回転される。これにより、ノズルベーン67の開度は小さくなる(隣接する2つのノズルベーンの間の隙間が狭くなる)ように制御される。アーム72bを矢印とは逆の方向に搖動させると、ノズルベーン67の開度は、大きくなる(隣接する2つのノズルベーンの間の隙間が拡がる)ように制御される。
【0041】
図1を再び参照して、排気ブレーキスイッチ80は、車両5の排気ブレーキの機能を行うためにユーザにより操作(オン)される。アクセルペダル81は、車両5を加速するために操作される。ブレーキペダル82は、車両5のフットブレーキを作動させる(主ブレーキ力を生成する)ために操作される。ブレーキペダル82が操作されると車両5の減速要求が生成され、ブレーキペダル82の開度に従って車両5の減速度の目標値が設定される。この減速度は、主ブレーキ力と、排気ブレーキ力とに従って定められる。
【0042】
排気ブレーキは、主ブレーキ力を補助するために用いられる。排気ブレーキは、排気ブレーキスイッチ80がオンされている間にブレーキペダル82の操作に応答して作動し、アクセルペダル81の操作に応答して解除される。排気ブレーキスイッチ80への操作の結果、アクセルペダル81の開度(アクセル開度)、およびブレーキペダル82の開度は、制御装置200に与えられる。
【0043】
エンジン回転数センサ102は、エンジン10の出力軸であるクランクシャフトの回転数をエンジンの回転数NEとして検出する。温度センサ103は、温度T4を検出する。温度センサ104は、タービン36の温度TTを検出する。温度センサ105は、排気ガス処理装置55の温度TEを検出する。温度TEは、本開示の「第2温度」の一例に相当する。この例では、温度TEとして酸化触媒56の温度TCが用いられる。気温センサ108は、車両5の周囲の気温AT(例えば、車両5の外気温)を検出する。大気圧センサ110は、車両5の周囲の大気圧APを検出する。これらのセンサの検出値は、制御装置200に与えられる。
【0044】
制御装置200は、CPU(Central Processing Unit)202と、メモリ204とを含む。CPU202は、各種の演算処理を実行する。メモリ204は、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)を含む(いずれも図示せず)。ROMは、CPUにより実行されるプログラムおよび各種データ(例えば、種々のマップ)を記憶する。
【0045】
制御装置200は、各センサの検出値、各機器からの信号、ならびにメモリ204に格納されたマップおよびプログラムに基づいて、エンジンシステム1の各機器に対する制御値を設定することによってこれらの機器を制御する。制御装置200は、例えば、可変ノズル機構40のVN開度の基準である基準開度を設定する。基準開度は、回転数NEと、気温ATと、大気圧APとに従って設定される。
【0046】
図3は、基準開度を設定する手法を具体的に説明するための図である。この例では、図中上方向において基準開度が小さく(可変ノズル機構40が閉じられて)、図中下方向において基準開度が大きい(可変ノズル機構40が開かれる)。
【0047】
図3を参照して、線250は、大気圧APがAP1であり、かつ、気温ATがAT1である場合(低気圧かつ高気温)における、回転数NEと基準開度との関係を表す。線260は、大気圧APがAP2(>AP1)であり、かつ、気温ATがAT1である場合(高気圧かつ高気温)における、回転数NEと基準開度との関係を表す。線270は、大気圧APがAP2であり、かつ、気温ATがAT2(<AT1)である場合(高気圧かつ低気温)における、回転数NEと基準開度との関係を表す。線250,260,270の各々は、基準開度設定マップとしてメモリ204に記憶されている。
【0048】
制御装置200は、基準開度設定マップを用いて、気温ATおよび大気圧APに従って基準開度を設定する。制御装置200は、気温ATおよび大気圧APに従って、例えば、線250,260,270のうちいずれかのマップを選択する。制御装置200は、選択されたマップを用いて、回転数NEに従って、基準開度を設定する。
【0049】
回転数NEが高いほど、排気マニホールド50および排気管52内の排気ガスの流量が多く、圧力P4が上昇しやすい。よって、タービン36を高圧から保護するために基準開度が大きく設定される(可変ノズル機構40が基本的には大きく開かれる)。同様に、大気圧APが高いほど基準開度が大きく設定される。気温ATが低いほど基準開度が大きく設定される。
【0050】
制御装置200は、算出処理およびノズル制御を実行するように構成されている。算出処理は、基準開度に対する補正量を各センサの検出値に従って算出する処理に相当する。補正量が大きいほどVN開度が基本的には大きく、補正量が小さいほどVN開度が基本的には小さい。ノズル制御は、車両5の排気ブレーキを作動させるために基準開度および補正量に従ってVN開度を制御する制御に相当する。この制御は、基準開度と補正量との合計をVN開度の指令値としてアクチュエータ44に送信する処理に相当する。アクチュエータ44は、この指令値に基づいてVN開度を変化させる。制御装置200は、上記のように可変ノズル機構40のVN開度を制御することによって圧力P4,P6を調整することができる。
【0051】
過給機30、排気マニホールド50、排気管52、排気管54、排気ガス処理装置55、エンジン回転数センサ102、温度センサ103,104,105、気温センサ108、大気圧センサ110、および制御装置200は、本開示の「排気システム」の一例に相当する。この排気システムは、車両5の排気ブレーキのために用いられる。
【0052】
図4は、酸化触媒56の温度TCと圧力P6との関係を説明するための図である。図4を参照して、温度TCが高いほど基本的には温度T6が高い(高温の排気ガスが排気管54内で流通している)ため、圧力P6も高くなる。
【0053】
図5は、温度TCと、圧力P4の、圧力P6に対する比率(P4/P6)との関係を説明するための図である。この比率を膨張比とも表す。膨張比は、タービン36を保護するための指標値として用いられる。膨張比は、タービン36の耐圧保護の観点から、制約値UCV以下であることが好ましい。制約値UCVは、タービン36の耐圧性能に基づいて実験等により予め定められる。
【0054】
図5を参照して、温度TCが高いほど圧力P6が高いため(図4参照)、膨張比が低下する。この例では、温度TCがTC1よりも低い場合、膨張比が制約値UCVよりも高い。そのような高い膨張比は、タービン36の保護の観点から好ましくない。膨張比をモニタリングするために、圧力P4,P6を検出する圧力センサを別途設けることは、コスト増大を招く。
【0055】
膨張比は、圧力P6が低いほど高くなる。圧力P6が低いほど温度T6が低いため、膨張比は、温度T6が低いほど高くなる。その結果、過給機30(タービン36)の保護が問題となる。タービン36を確実に保護するために(膨張比を確実に制約値UCV以下にするために)、圧力P6(温度T6)が常に非常に低いという仮定条件の下でVN開度を制御することが好ましいようにも思われる。しかしながら、そのような制御によれば、タービン36は確実に保護されるが、VN開度が過剰に大きく制御されて(可変ノズル機構40が過剰に開かれて)圧力P4が低くなり、十分な排気ブレーキ力が達成されない可能性がある。言い換えれば、実際には可変ノズル機構40をより閉じることができるにも拘わらず可変ノズル機構40が過度に開かれて排気ブレーキ力が不十分となる可能性がある。
【0056】
実施の形態では、制御装置200は、上記の問題に対処するように前述の算出処理を実行する。この算出処理は、膨張比が制約値UCV以下になるように予め定められた、温度T4(第1温度)および排気ガス処理装置55の温度TE(第2温度)と補正量との関係を表すマップを用いて、温度T4および温度TEに従って実行される。このマップを「補正量算出マップ」とも表す。上記の算出処理によれば、膨張比が制約値UCV以下になるように、VN開度の基準(基準開度)に対する補正量が温度T4および温度TEの双方に従って算出される。補正量は、温度T4および温度TEに関連付けて補正量算出マップにより定められる。補正量算出マップは、メモリ204に記憶されている。
【0057】
前述のように、VN開度が小さいほど排気ブレーキ力が増大する一方で、膨張比は上昇する。膨張比は、圧力P6に関係しているため、温度T6に依存して変化する。排気管54が排気ガス処理装置55に接続されているため排気ガス処理装置55に熱的に接触しており、温度T6は、温度TEに関係している。よって、膨張比は、温度TEに関係している。圧力P6が低いほど、温度T6が低いため温度TEが低い。膨張比は、圧力P6が低いほど高いため、温度TEが低いほど高いと考えられる。上記のように算出処理を実行することで、膨張比が、制約値UCV以下になるようにVN開度が制御される。これにより、過給機30(タービン36)を適切に保護することができる。
【0058】
さらに、上記の算出処理によれば、温度T6に加えて温度TEが補正量に反映される。温度TEは、圧力P6が低いほど低く、圧力P6を反映するため、上記の算出処理によれば、圧力P6が補正量に反映される。これにより、VN開度が圧力P6に従って適切に制御される。その結果、排気ブレーキ力が不十分となる事態を回避することができる。
【0059】
実施の形態では、温度TEとして、酸化触媒56の温度TCが用いられる。酸化触媒56(および温度センサ105)は、車両5の排気システムにおいて一般的に設けられる。上記のように温度TEとして温度TCの値を用いることで、エンジンシステム1(排気システム)における追加の温度センサ無しで、温度センサ105の検出値、または、温度TCの推定値をVN開度の制御に活用することができる。
【0060】
温度TCの推定値は、例えば、車両5の走行システム起動時(イグニッションスイッチの押下時)の気温ATと、走行システム起動時から現在時刻までに排気管54内で排気ガスから酸化触媒56に伝達されてきた熱エネルギーと、酸化触媒56の比熱と、酸化触媒56の温度変化に関するなまし係数と、酸化触媒56の表面からの放熱量とに従って算出される。上記の熱エネルギーおよび放熱量は、温度T6,TCに関連付けて実験により予め定められる。
【0061】
なお、温度TCに代えてSCR触媒58の温度が温度TEとして用いられ得るようにも思われるが、SCR触媒58の温度よりも温度TCが温度TEとして用いられることが好ましい。これは、排気ガスが流れる経路(排気経路)において酸化触媒56がSCR触媒58よりもエンジン10に近く、温度TCの応答性がSCR触媒58の温度の応答性よりも優れているためである。実施の形態では、排気ガス処理装置55が複数の触媒部材(酸化触媒56および酸化触媒56)を含むが、当該複数の触媒部材のうち排気経路において最も上流側の(最もエンジン10に近い)触媒部材の温度(この例では、温度TC)が温度TEとして用いられる。
【0062】
排気管54内の排気ガスの温度が温度TEに代えて算出処理のために用いられることができるようにも思われる。しかしながら、この排気ガスの温度は、排気経路の構成部材全体の温度を代表的に反映するほど高い感度を有していない。したがって、この排気ガスの温度ではなく温度TCが算出処理のために用いられることがやはり好ましい。
【0063】
上記において、膨張比が制約値UCV以下になるようにVN開度を制御すること、言い換えれば、前述のノズル制御の実行中の膨張比の上限が制約値UCVであることを説明した。以下、ノズル制御の実行中の膨張比の下限を説明するが、その前に、ノズル制御の実行中の圧力P4の上限および下限を説明する。
【0064】
図6は、ノズル制御の実行中の圧力P4の上限および下限を説明するための図である。図6を参照して、制約圧力UCP4は、ノズル制御の実行中の圧力P4の上限である。言い換えれば、実施の形態では、圧力P4が制約圧力UCP4以下になるようにVN開度が制御される。圧力P4が制約圧力UCP4よりも高い場合(領域R1内にある場合)、膨張比が制約値UCVを超過する可能性があるため、そのような状況は好ましくない。
【0065】
制約圧力LCP4は、ノズル制御の実行中の圧力P4の下限である。言い換えれば、実施の形態では、圧力P4が制約圧力LCP4以上になるようにVN開度が制御される。制約圧力LCP4は、車両5の減速度がその目標値となるときの圧力P4である目標減速度圧力であり、制約圧力UCP4よりも低い。圧力P4が制約圧力LCP4よりも低い場合(領域R3内にある場合)、車両5の減速度がその目標値未満であり、十分な大きさの排気ブレーキ力が達成されない可能性がある。
【0066】
実施の形態では、前述の補正量算出マップは、圧力P4が制約圧力UCP4以下、かつ制約圧力LCP4以上になる(領域R2内にある)ように、言い換えれば、膨張比が制約値UCV以下かつ制約値LCV以上になるように、温度TEおよび温度TCに関連付けて予め定められている。
【0067】
このように補正量算出マップが定められるため、膨張比が制約値UCV以下かつ制約値LCV以上になるようにVN開度が制御される。制約値LCVは、圧力P4が目標減速度圧力であるときの膨張比であり、制約値UCVよりも低い。制約値LCVは、本開示の「目標減速度比率値」の一例である。上記のようにVN開度を制御することで、膨張比が制約値UCVを超過する事態を回避しつつ目標減速度を達成できる程度に圧力P4を高くすることができる。その結果、タービン36を高圧から適切に保護しつつ、適切な大きさの排気ブレーキ力を達成することができる。
【0068】
以下、VN開度の補正量が温度T4および温度TCに依存してどのように変化するかを具体的に説明する。
【0069】
図7および図8は、実施の形態における、温度T4,TCと、VN開度の補正量CAとの関係を説明するための図である。
【0070】
図7を参照して、横軸は、温度T4を表し、縦軸は、補正量CAを表す。線300は、温度TCが相対的に高いTCaである場合の、温度T4と、補正量CAとの関係を表す。温度TCがTCaであり、かつ温度T4がT4a未満である場合、補正量CAが零であり、VN開度が基準開度に制御される。温度T4がT4a以上である場合、温度T4が高いほど補正量CAが大きい(可変ノズル機構40がより開かれる)。線350は、温度TCが相対的に低いTCb(<TCa)である場合の、温度T4と、補正量CAとの関係を表す。この場合においても、温度T4が高いほど補正量CAが大きい。線300,350の各々は、前述の補正量算出マップの一例である。
【0071】
図8を参照して、横軸は、温度TCを表し、縦軸は、補正量CAを表す。図8は、横軸が温度T4に代えて温度TCである点において図7とは異なるが、補正量CAと温度T4,TCとの関係を示す点において図7と同様である。線400は、温度T4がT4aである場合の、温度TCと、補正量CAとの関係を表す。線450は、温度T4がT4b(>T4a)である場合の、温度TCと、補正量CAとの関係を表す。線400,450の各々も、補正量算出マップの一例である。
【0072】
線400,450により示されるように、温度TCが高い場合に、温度TCが低い場合よりもVN開度の補正量CAが小さい(可変ノズル機構40がより閉じられる)。このように、温度T4が同じでも、温度TCに依存して補正量CAが変化する。
【0073】
仮に、温度T4および温度TCのうち温度T4のみに従って補正量CAが定められるならば、タービン36を確実に保護するために、温度TCが低い(圧力P6が低い)という仮定条件に基づいて補正量CAが定められる。この場合、実際には温度TCが高く(圧力P6が高く)て膨張比が低いためにVN開度が小さく設定されることが適切であるにも拘らず、補正量CAが不必要に大きく定められて、可変ノズル機構40が過剰に開かれる可能性がある。その結果、適切な大きさの排気ブレーキ力を達成することができない可能性がある。上述のように、実施の形態では、補正量CAは、温度TCが高い場合に、温度TCが低い場合よりも小さい。これにより、VN開度が相対的に小さくなるように制御されて、可変ノズルが適切に閉じられるため、可変ノズルが過剰に開かれる事態が回避される。その結果、適切な大きさの排気ブレーキ力を達成することができる。
【0074】
図9は、実施の形態の、比較例に対する利点を説明するための図である。この例では、回転数NEおよびVN開度が一定である。VN開度は、基準開度に設定されているものとする。
【0075】
図9を参照して、線500は、温度TCが相対的に高いTCaである場合の、温度T4と膨張比との実際の関係を表す。線520は、温度TCが相対的に低いTCbである場合の、温度T4と膨張比との実際の関係を表す。線540は、温度T4が高いほど温度TCが高いという仮定の下での、温度T4と膨張比との仮の関係を表す。線500,520は、実施の形態に対応し、線540は、比較例に対応する。実施の形態では、温度T4が高いことは必ずしも温度TCが高いことを意味しないが、比較例は、温度T4が高いほど温度TCが高いという仮定に基づいている。T4_1,T4_2は、それぞれ、低い温度T4および高い温度T4の一例である。
【0076】
前述のように、タービン36の保護の観点から、膨張比が制約値UCVを超過することは好ましくないため、線500,520,540のいずれのケースにおいても、膨張比が制約値UCV以下(この例では、制約値UCV)になるようにVN開度の補正量CAが算出される。
【0077】
例えば、実施の形態において、温度TCがTCaでありかつ温度T4がT4_1である場合、膨張比がΔ1aだけ上昇するようにVN開度の補正量CAが算出される(線500)。この場合、Δ1aに対応する開度変化量だけVN開度が基準開度よりも小さくなるように可変ノズル機構40が閉じられる。他方、比較例では、膨張比がΔ1cだけ引き下げられるように補正量CAが算出される(線540)。この場合、Δ1cに対応する開度変化量だけVN開度が基準開度よりも大きくなるように可変ノズル機構40が開かれる。
【0078】
温度TCが低い場合(例えば、TCbである場合)、比較例では、温度T4も低いものとされる。しかしながら、実際には、温度TCが相対的に低い場合に温度T4が常に低いとは限らない。例えば、温度TCが高い状態でエンジン10が停止した直後では、排気マニホールド50内で排気ガスが流通しなくなり温度T4は直ちに低下して低くなるが、温度TCが下がるまでには時間がかかる。その結果、温度T4が低い一方で温度TCが未だ高いままであるという状況が引き起こされる可能性がある。このように、温度TCが低い場合に温度T4が低いという仮定が現実に整合しないことがあるため、比較例のノズル制御は、不適切な結果を招き得る。具体的には、比較例では、実際には、温度T4の低下に起因して圧力P4が低下し膨張比が低いために可変ノズル機構40を閉じて排気ブレーキ力を増加させることができるにも拘らず、可変ノズル機構40が不必要に開かれて十分な排気ブレーキ力を達成することができない可能性がある。
【0079】
これに対して、実施の形態では、補正量CAに温度T4,TCの双方が反映される。これにより、温度T4が低い一方で温度TCが高いという状況においても、可変ノズル機構40を適切に閉じて膨張比を上昇させて排気ブレーキ力を増加させることができる。
【0080】
実施の形態において、温度TCがTCbでありかつ温度T4がT4_2である場合、膨張比がΔ2bだけ引き下げられるようにVN開度の補正量CAが算出される(線520)。この場合、Δ2bに対応する開度変化量だけVN開度が基準開度よりも大きくなるように可変ノズル機構40が開かれる。他方、比較例では、膨張比がΔ2c(<Δ2b)だけ引き下げられるように補正量CAが算出される(線540)。この場合、Δ2cに対応する開度変化量だけVN開度が基準開度よりも大きくなるように可変ノズル機構40が開かれる。この開度変化量は、Δ2bに対応する開度変化量よりも小さい。
【0081】
例えば、温度TCが低い状態でエンジン10が作動し始めた直後では、排気ガスの熱に起因して温度T4は直ちに上昇して高くなるが、温度TCが上がるまでには時間がかかる。その結果、温度T4が高い一方で温度TCが未だ低いままであるという状況が引き起こされる可能性がある。比較例では、実際には、温度T4の上昇に起因して圧力P4が高くなり膨張比が高いために、Δ2bに対応する開度変化量だけ可変ノズル機構40を閉じて膨張比を引き下げることが好ましいにも拘らず、Δ2cに対応する開度変化量しか可変ノズル機構40が開かれずタービン36を十分に保護することができない可能性がある。実施の形態では、比較例とは異なり、温度T4が高い一方で温度TCが低いという状況においても、可変ノズル機構40を適切に開いて膨張比を低下させてタービン36を保護することができる。
【0082】
図10は、アクセル開度、および温度T4,TCに依存してVN開度、膨張比、および排気ブレーキ力(減速力)が時間とともにどのように推移するかを比較例および実施の形態の各々について説明するための図である。
【0083】
図10を参照して、線605,610は、それぞれ、アクセル開度および温度T4の推移を表す。線620は、比較例において仮定された温度TCの推移を表す。線625は、実施の形態において実際に検出される温度TC(温度センサ105の検出値)の推移を表す。
【0084】
線630,635は、それぞれ、比較例および実施の形態でのVN開度の推移を表す。線640,645は、それぞれ、比較例および実施の形態での膨張比の推移を表す。線650,655は、それぞれ、比較例および実施の形態での排気ブレーキ力の推移を表す。
【0085】
時刻t0~時刻t1までの期間中、アクセルペダル81が操作されており、VN開度は、アクセル開度に依存して定められる。
【0086】
時刻t1において、アクセル操作が解除されてアクセル開度が0になる(線605)。これにより、気筒12に燃料が噴射されなくなり、排気ガスが排気マニホールド50および排気管52を流通しなくなる。その結果、時刻t1~時刻t2までの間、温度T4が低下し(線610)、温度T6が低下し、それにより温度TCが低下する(線625)。比較例では、温度TCは、その実際の温度よりも低いと仮定されている(線620)。
【0087】
時刻t1以降、比較例では、補正量が温度T4,TCのうち温度T4のみに基づいて算出されて、VN開度は、この補正量と、基準開度とに従って定められる(線630)。これに対して、実施の形態では、補正量CAが補正量算出マップを用いて温度T4,TCの双方に従って算出されて、VN開度は、補正量CAと、基準開度とに従って定められる(線635)。
【0088】
これにより、膨張比が制約値UCV以下、かつ、制約値LCV以上の範囲内に短時間で入る(線645)。この例では、膨張比は、制約値UCV,LCVの平均値である目標値TVまで上昇する。目標値TVは、上記平均値よりも高くかつ制約値UCV以下であってもよい。実施の形態では、膨張比は、比較例(線640)とは異なり、時刻t1~時刻t2の間に、可能な限り制約値UCVに近くなるように制御される。上記のように膨張比を制御することで、タービン36を保護するとともに、比較例(線650)よりも適切な大きさの排気ブレーキ力を達成することができる(線655)
図11は、制御装置200により実行される制御および処理を例示するフローチャートである。このフローチャートは、排気ブレーキスイッチ80がオンされている場合に所定時間ごとに実行される。以下、ステップを「S」と略す。
【0089】
図11を参照して、制御装置200は、線250,260,270(図3参照)などの基準開度設定マップを用いて、回転数NE、気温AT、および大気圧APに従って基準開度を設定する(S105)。
【0090】
制御装置200は、アクセルペダル81の操作が解除されたか否かを判定する(S110)。この操作が解除されていない場合(S110においてNO)、処理は、S135に進む。この操作が解除された場合(S110においてYES)、制御装置200は、排気ブレーキを作動させるために、以下のS115~S130を実行する。
【0091】
制御装置200は、温度センサ103の検出値に従って温度T4を判定する(S115)。制御装置200は、温度センサ105の検出値に従って温度TCを判定する(S120)。制御装置200は、酸化触媒56の比熱、なまし係数などに従って温度TCを推定してもよい。
【0092】
制御装置200は、前述の補正量算出マップを用いて、温度T4および温度TCに従って補正量CAを算出する(S125)。制御装置200は、基準開度および補正量CAに従って、補正後のVN開度(詳細には、その指令値)を算出する(S130)。制御装置200は、この指令値に基づいてVN開度を制御するノズル制御を実行する(S135)。アクセル操作が解除されていない場合(S110においてNO)、S135において、VN開度が例えば基準開度になるように可変ノズル機構40が制御される。
【0093】
以上のように、実施の形態によれば、膨張比が、制約値UCV以下かつ制約値LCV以上になるように予め定められた補正量算出マップを用いて、温度T4,TCに従って補正量CAが算出される。これにより、タービン36を高圧から適切に保護しつつ適切な大きさの排気ブレーキ力を達成することができる。さらに、圧力P4,P6を検出するためのセンサ、および、排気経路における排気ブレーキ用バルブを必ずしも要しない。したがって、コストを低減することができる。
【0094】
[実施の形態の変形例]
実施の形態では、制御装置200は、温度T4と、温度TEとに従って補正量CAを算出するものとしたが、温度TT(図1参照)と、温度TEとに従って補正量CAを算出してもよい。この場合、温度TTは、本開示の「第1温度」の一例に相当する。このように、算出処理は、温度T4または温度TC(第1温度)と、温度TE(第2温度)とに従って実行されてもよい。
【0095】
エンジン10は、ディーゼルエンジンであるものとしたが、その他の種類のエンジン(たとえば、ガソリンエンジン)であってもよい。
【0096】
制御装置200は、温度TCに代えてPM除去フィルタ57の温度(フィルタ温度)を温度TEとして補正量CAを算出してもよい。この場合、エンジンシステム1の排気システムが、フィルタ温度を検出するフィルタ温度センサをさらに含む。制御装置200は、フィルタ温度センサにより検出されるフィルタ温度と、温度T4とに従って、補正量CAを算出する。
【0097】
制御装置200は、線300,350,400,450などの補正量算出マップに代えて、以下の仮補正量マップおよび乗算係数マップを用いて補正量CAを算出してもよい。仮補正量マップは、温度T4および回転数NEと仮補正量との関係を表す。乗算係数マップは、温度TCおよび回転数NEと乗算係数との関係を表す。この乗算係数は、仮補正量に乗算されるために用いられる。制御装置200は、仮補正量マップを用いて温度T4および回転数NEに従って仮補正量を算出し、乗算係数マップを用いて温度TCおよび回転数NEに従って乗算係数を算出する。制御装置200は、仮補正量に乗算係数を乗算することによって補正量CAを算出する(補正量CA=仮補正量×乗算係数)。仮補正量マップおよび乗算係数マップは、メモリ204に記憶されている。仮補正量および乗算係数は、対応する補正量CAと、基準開度とに基づいて設定される開度にVN開度が制御される時の膨張比が制約値UCV以下かつ制約値LCV以上になるように定められる。
【0098】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0099】
1 エンジンシステム、5 車両、10 エンジン、30 過給機、36 タービン、40 可変ノズル機構、50 排気マニホールド、52,54 排気管、55 排気ガス処理装置、56 酸化触媒、103,104,105 温度センサ、108 気温センサ、110 大気圧センサ、200 制御装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11