(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158874
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】X線タルボ撮影装置及びX線タルボ撮影方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/041 20180101AFI20241031BHJP
【FI】
G01N23/041
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074474
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松坂 美香
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA11
2G001CA01
2G001DA09
2G001HA07
2G001HA09
(57)【要約】
【課題】X線タルボ撮影装置、X線タルボ撮影方法及びX線タルボ撮影システムを提供できる。
【解決手段】
非破壊検査用のX線タルボ撮影装置であって、放射線源11と、被写体台13と、複数の格子と、放射線検出器16と、が順に放射線照射軸方向に並んで設けられ、複数の格子は、被写体台13に近い格子から順に、少なくとも第1格子、第2格子を含み、可視光を吸収する物体が、第1格子と被写体との間に設置されるX線タルボ撮影装置100。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非破壊検査用のX線タルボ撮影装置であって、
放射線源と、被写体台と、複数の格子と、放射線検出器と、が順に放射線照射軸方向に並んで設けられ、
前記複数の格子は、前記被写体台に近い格子から順に、少なくとも第1格子、第2格子を含み、
可視光を吸収する物体が、前記第1格子と被写体との間に設置される、
X線タルボ撮影装置。
【請求項2】
前記可視光を吸収する物体は、染料にて染色された物体である請求項1に記載のX線タルボ撮影装置。
【請求項3】
前記染料にて染色された物体は、黒色である請求項2に記載のX線タルボ撮影装置。
【請求項4】
前記可視光を吸収する物体は、染料にて染色された被写体台である請求項1に記載のX線タルボ撮影装置。
【請求項5】
前記被写体台は、黒色である請求項4に記載のX線タルボ撮影装置。
【請求項6】
前記第1格子は、金属光沢を有する請求項1に記載のX線タルボ撮影装置。
【請求項7】
前記被写体台と前記第1格子との間の距離は、0.5cm以上20cm以下である請求項1に記載のX線タルボ撮影装置。
【請求項8】
可視光又は赤外線による撮影手段を有する請求項1に記載のX線タルボ撮影装置。
【請求項9】
前記放射線照射軸方向は装置の載置面に対して垂直方向である請求項1に記載のX線タルボ撮影装置。
【請求項10】
前記被写体台は、可動式である請求項1に記載のX線タルボ撮影装置。
【請求項11】
前記被写体台は、被写体を任意の位置に載置可能である請求項1に記載のX線タルボ撮影装置。
【請求項12】
前記被写体を前記被写体台に固定する固定手段を有する請求項1に記載のX線タルボ撮影装置。
【請求項13】
放射線源と、被写体台と、複数の格子と、放射線検出器と、が順に放射線照射軸方向に並んで設けられ、前記複数の格子は、前記被写体台に近い格子から順に、少なくとも第1格子、第2格子を含み、可視光を吸収する物体が、前記第1格子と被写体との間に設置される、非破壊検査のX線タルボ撮影装置を用いた撮影方法であって、
前記放射線照射軸方向に配置された被写体に前記放射線源により放射線を照射させ、照射させ得られるモアレ縞画像に基づいて、少なくとも前記被写体の小角散乱画像及び/又は微分位相画像を生成するタルボ撮影制御ステップ、
を含む撮影方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線タルボ撮影装置及びX線タルボ撮影方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1や特許文献2に記載のように、複数の格子を有するタルボ干渉計又はタルボ・ロー干渉計を用いたX線タルボ撮影装置が知られている。X線タルボ撮影装置を用いた非破壊検査では、X線タルボ撮影装置で撮影されたタルボ撮影画像上で関心領域を見つけた後、被写体での位置を特定する。その後、特定された被写体の位置を含む箇所をサンプリングして耐久評価試験を行ったり、シミュレーションデータとの比較等を行ったりする。
【0003】
被写体での位置の特定は、例えば、X線タルボ撮影装置と併せて、可視光画像などを取得できるカメラを用いて被写体を撮影することで行う。具体的には、ユーザーは、タルボ撮影画像上の関心領域を、可視光画像上で確認できる。これにより、被写体での位置を特定できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-255536号公報
【特許文献2】特開2020-024170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した可視光画像などを取得できるカメラを用いた被写体の撮影において、被写体の背景に構造物が映り込み、カメラ画像での検出性が低下するという課題があった。具体的には、構造物であるX線タルボ撮影装置に用いられる格子の表面の反射により、カメラ画像への光量増(光量飽和によるダイナミックレンジの圧縮)や、カメラ画像において上記構造物の境界が被写体と重なって映ることにより、被写体での位置の特定の精度が低下する。
【0006】
したがって、本発明の課題は、被写体での位置の特定の精度を向上できるX線タルボ撮影装置及びX線タルボ撮影方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明のX線タルボ撮影装置は、
非破壊検査用のX線タルボ撮影装置であって、
放射線源と、被写体台と、複数の格子と、放射線検出器と、が順に放射線照射軸方向に並んで設けられ、
前記複数の格子は、前記被写体台に近い格子から順に、少なくとも第1格子、第2格子を含み、
可視光を吸収する物体が、前記第1格子と前記被写体との間に設置される。
【0008】
また、本発明の撮影方法は、
放射線源と、被写体台と、複数の格子と、放射線検出器と、が順に放射線照射軸方向に並んで設けられ、前記複数の格子は、前記被写体台に近い格子から順に、少なくとも第1格子、第2格子を含み、可視光を吸収する物体が、前記第1格子と前記被写体との間に設置される、非破壊検査のX線タルボ撮影装置を用いた撮影方法であって、
前記放射線照射軸方向に配置された被写体に前記放射線源により放射線を照射させ、照射させ得られるモアレ縞画像に基づいて、少なくとも前記被写体の小角散乱画像及び/又は微分位相画像を生成するタルボ撮影制御ステップ、
を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、被写体での位置の特定の精度を向上できるX線タルボ撮影装置及びX線タルボ撮影方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】X線タルボ撮影装置の構成例を示す図である。
【
図3】コントローラーの機能的構成を示すブロック図である。
【
図6】X線タルボ撮影装置の構成例を示す図である。
【
図7】X線タルボ撮影装置の構成例を示す図である。
【
図8】X線タルボ撮影システムの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の技術的範囲を以下の実施形態および図示例に限定するものではない。
【0012】
(放射線撮影システムの構成)
図1は、本発明の第1の実施形態に係るX線タルボ撮影装置100を模式的に示した図である。
【0013】
図1に示すように、X線タルボ撮影装置100は、本体部1とコントローラー5を備える。
本体部1は、
図1に示すように、放射線源11と、マルチスリット12及び付加フィルター・コリメーター112を含む第1のカバーユニット120と、被写体台13、第1格子14、第2格子15、及び放射線検出器16を含む第2のカバーユニット130と、支柱17と、基台部19と、を有するタルボ・ロー干渉計を備える。本体部1のタルボ・ロー干渉計は縦型であり、放射線源11、マルチスリット12、被写体台13、第1格子14、第2格子15、放射線検出器16は、この順序に重力(鉛直)方向であるz方向に配置されている。また、X線照射範囲から外れた場所に、撮影装置21が設けられている。
【0014】
マルチスリット12、被写体台13、第1格子14、第2格子15、放射線検出器16は、同一の基台部19に保持されて支柱17に取り付けられている。基台部19は、支柱17に対してz方向に移動可能に構成されていてもよい。
また、支柱17には、基台部19のほか、放射線源11が取り付けられている。放射線源11は、緩衝部材17aを介して支柱17に保持されている。緩衝部材17aは、衝撃や振動を吸収できる材料であれば何れの材料を用いてもよいが、例えばエラストマー等が挙げられる。放射線源11は放射線の照射によって発熱するため、放射線源11側の緩衝部材17aは加えて断熱素材であることが好ましい。
【0015】
放射線源11は、X線管を備え、当該X線管によりX線を発生させてz方向(重力方向)にX線を照射する。X線管としては、例えばクーリッジX線管や回転陽極X線管を用いることができる。陽極としては、タングステンやモリブデンを用いることができる。
放射線源11の焦点径は、0.03~3(mm)が好ましく、さらに好ましくは0.1~1(mm)である。
図1のような縦型のタルボ・ロー干渉計の場合、放射線照射軸方向はX線タルボ撮影装置100の載置面に対して垂直方向となる。
なお、本実施形態では、X線を用いて撮影を行う場合を例にとり説明するが、他の放射線、例えば、中性子線、ガンマ線等を用いてもよい。
【0016】
第1のカバーユニット120は、放射線源11の直下に設けられたユニットである。第1のカバーユニット120は、
図1に示すように、マルチスリット12、取付用アーム12b、付加フィルター・コリメーター112等を備えて構成されている。第1のカバーユニット120の各構成要素は、カバー部材に覆われて保護されている。
【0017】
マルチスリット12(G0格子)は回折格子であり、
図2に示すように、放射線照射軸方向(ここではz方向)と直交するx方向に複数のスリットが所定間隔で配列されて設けられている。マルチスリット12はシリコンやガラスといった放射線の吸収率が低い材質の基板上に、タングステン、鉛、金といった放射線の遮蔽力が大きい、つまり放射線の吸収率が高い材質により形成される。そのため、マルチスリット12は、金属光沢を有することがある。
例えば、フォトリソグラフィーによりレジスト層がスリット状にマスクされ、UVが照射されてスリットのパターンがレジスト層に転写される。露光によって当該パターンと同じ形状のスリット構造が得られ、電鋳法によりスリット構造間に金属が埋め込まれて、マルチスリット12が形成される。
【0018】
マルチスリット12のスリット周期(格子周期)は1~60(μm)である。スリット周期は、
図2に示すように隣接するスリット間の距離を1周期とする。スリットの幅(各スリットのスリット周期方向(x方向)の長さ)はスリット周期の1~60(%)の長さであり、さらに好ましくは10~40(%)である。スリットの高さ(z方向の高さ)は1~1500(μm)であり、好ましくは30~1000(μm)である。マルチスリット12は、取付用アーム12bに支持されて基台部19に取り付けられている。なお、マルチスリット12(G0格子)は、例えば、マイクロフォーカス線源などのように、放射線源11のX線管の焦点が小さければ、無くてもよい。
【0019】
付加フィルター・コリメーター112は、放射線源11から照射されるX線の照射領域を制限するとともに、放射線源11から照射されるX線の中から撮影に寄与しない低エネルギー成分を除去するものである。
【0020】
第2のカバーユニット130は、
図1に示すように、被写体台13、第1格子14及び第2格子15、移動機構15a、放射線検出器16等を備えて構成されている。第2のカバーユニット130は、上面が被写体台13となっており、被写体台13の周囲をカバー部材で覆うことにより、被写体Hや技師の接触によるダメージや塵埃の侵入から内部の構成要素を保護している。また、ユニット内の温度が外気の影響を受けにくくなるため、第1格子14及び第2格子15の熱膨張等による格子位置の変動を低減することができる。
【0021】
被写体台13は、被写体Hを任意の位置に載置するための台である。被写体台13は、放射線源11から照射されるX線に対して被写体Hの位置を固定する固定ユニット(固定手段)131が設けられている。固定ユニット131は、被写体Hを所定の位置で固定可能とする固定部131aと、当該固定部をX軸方向及びY軸方向に移動可能、Z軸を回転軸として回転可能とする移動機構(図示略)と、を有する。このような固定ユニット131を用いることで、X線タルボ撮影装置100によって、被写体Hの同一部位を、撮影角度や格子対向角度(格子対向角)を変えた状態で正確に複数回撮影することができる。この場合、被写体台13は、可動式である。
ここで、撮影角度とは、X線タルボ撮影装置100に対する被写体Hの位置を示す角度である。また、格子対向角とは、撮影された画像(もしくは、撮影後表示された画像)の方向と格子(マルチスリット12、第1格子14、第2格子15)の方向との関係(角度)である。
【0022】
第1格子14(G1格子)は、マルチスリット12と同様に、放射線照射軸方向であるz方向と直交するx方向に複数のスリットが配列されて設けられた回折格子である。第1格子14は、マルチスリット12と同様にUVを用いたフォトリソグラフィーによって形成することもできるし、いわゆるICP法によりシリコン基板に微細細線で深掘加工を行い、シリコンのみで格子構造を形成することとしてもよい。第1格子14のスリット周期は1~20(μm)である。スリットの幅はスリット周期の20~70(%)であり、好ましくは35~60(%)である。スリットの高さは1~100(μm)である。
第1格子14と被写体Hとの間には、可視光を吸収する物体が設置される。可視光を吸収する物体については、後述する。
【0023】
第2格子15(G2格子)は、マルチスリット12と同様に、放射線照射軸方向であるz方向と直交するx方向に複数のスリットが配列されて設けられた回折格子である。第2格子15もフォトリソグラフィーにより形成することができる。第2格子15のスリット周期は1~20(μm)である。スリットの幅はスリット周期の30~70(%)であり、好ましくは35~60(%)である。スリットの高さは1~100(μm)である。第2格子15に隣接して、第2格子15をx方向に移動させる移動機構15aが設けられている。移動機構15aは、モーター等の駆動により第2格子15をx方向に直線送り可能であればどのような構成のものを用いてもよい。
【0024】
放射線検出器16は、照射された放射線に応じて電気信号を生成する変換素子が2次元状に配置され、当該変換素子により生成された電気信号を画像信号として読み取る。放射線検出器16の画素サイズは10~300(μm)であり、さらに好ましくは50~200(μm)である。放射線検出器16は第2格子15に当接するように基台部19に位置を固定することが好ましい。第2格子15と放射線検出器16間の距離が大きくなるほど、放射線検出器16により得られるモアレ縞画像がボケるからである。
【0025】
放射線検出器16としては、FPD(Flat Panel Detector)を用いることができる。FPDには、放射線を、シンチレーターを介して光電変換素子により電気信号に変換する間接変換型、放射線を直接的に電気信号に変換する直接変換型があるが、何れを用いてもよい。
また、放射線検出器16としては、第2格子15の強度変調効果を与えた放射線検出器を使用しても良い。例えば、シンチレーターに第2格子15のスリットと同等の周期および幅で不感領域を与えるために、シンチレーターに溝を掘り、格子状のシンチレーターとしたスリットシンチレーター検出器を放射線検出器16として用いても良い。その場合、放射線検出器16は、第2格子15と放射線検出器16とを兼ね備えたものであるため、第2格子15を別途設ける必要はない。即ち、スリットシンチレーター検出器を備えることは、第2格子15と放射線検出器16を備えていることと同じである。
【0026】
なお、本体部1のタルボ・ロー干渉計は、上側に設けられた放射線源11から下方の被写体Hに向けてX線を照射するように構成されている場合(いわゆる縦型の場合)として説明したが、これに限らず、下側に設けられた放射線源11から上方の被写体Hに向けてX線を照射するように構成してもよい。また、X線を水平方向(いわゆる横型の場合)に照射するなど任意の方向に照射するように構成することも可能である。
【0027】
撮影装置21は、可視光又は赤外線による撮影を行う装置である。例えば、可視光カメラや赤外線カメラなどである。
また、撮影装置21は、X線タルボ撮影装置100(マルチスリット12、第1格子14、第2格子15)の絶対位置に合わせて調整されている。具体的には、撮影装置21によって撮影された可視光画像や赤外線画像などと、放射線検出器16によって撮影され生成された再構成画像との座標を合わせる。例えば、被写体台13にX線高吸収性マーカーを撮影範囲の四隅及び中心の5か所に配置し、撮影した可視光画像や赤外線画像などと吸収画像で座標を合わせる。したがって、撮影装置21は、格子に対する被写体の相対位置情報を取得可能である。
【0028】
コントローラー5は、
図3に示すように、制御部51、操作部52、表示部53、通信部54、記憶部55を備えて構成されている。
制御部51は、CPU(Central Processing Unit)やRAM(Random Access Memory)等から構成されている。制御部51は、本体部1の各部(例えば、放射線源11、放射線検出器16、移動機構15a、撮影装置21等)に接続されており、各部の動作を制御する。また、制御部51は、記憶部55に記憶されているプログラムとの協働により、後述する撮影処理を始めとする各種処理を実行する。
また、制御部51は、被写体台13に載置された被写体に放射線源11により放射線を照射させて得られるモアレ縞画像に基づいて、少なくとも被写体の小角散乱画像及び/又は微分位相画像を生成するタルボ撮影制御手段として機能する。
【0029】
操作部52は、曝射スイッチや撮影条件等の入力操作に用いるキー群の他、表示部53のディスプレイと一体に構成されたタッチパネルを備え、これらの操作に応じた操作信号を生成して制御部51に出力する。
表示部53は、制御部51の表示制御に従って、ディスプレイに操作画面、本体部1の動作状況等を表示する。
【0030】
通信部54は、通信インターフェイスを備え、ネットワーク上の外部機器と通信を行う。
【0031】
記憶部55は、不揮発性の半導体メモリーやハードディスク等により構成され、制御部51により実行されるプログラムやプログラムの実行に必要なデータ等の各種情報を記憶している。
また、記憶部55は、コントローラー5とは別に、DB(Data Base)を設けてもよく、各種情報を、DB管理してもよい。
【0032】
(タルボ干渉計、タルボ・ロー干渉計による撮影)
ここで、タルボ干渉計、タルボ・ロー干渉計による撮影方法を説明する。タルボ干渉計やタルボ・ロー干渉計による撮影を、タルボ撮影とする。
図4に示すように、放射線源11から照射されたX線が第1格子14を透過すると、透過したX線がz方向に一定の間隔で像を結ぶ。この像を自己像といい、自己像が形成される現象をタルボ効果という。自己像を結ぶ位置に第2格子15が自己像と概ね平行に配置され、第2格子15を透過したX線によりモアレ縞画像(
図4においてMoで示す)が得られる。即ち、第1格子14は、周期パターンを形成し、第2格子15は周期パターンをモアレ縞に変換する。放射線源11と第1格子14間に被写体Hが存在すると、被写体HによってX線の位相がずれるため、
図4に示すようにモアレ縞画像上のモアレ縞は被写体Hの辺縁を境界に乱れる。このモアレ縞の乱れを、モアレ縞画像を処理することによって検出し、被写体像を画像化することができる。これがタルボ干渉計の原理である。
【0033】
本体部1では、放射線源11と第1格子14との間の放射線源11に近い位置に、マルチスリット12が配置され、タルボ・ロー干渉計によるX線撮影が行われる。タルボ干渉計は放射線源11が理想的な点線源であることを前提としているが、実際の撮影にはある程度焦点径が大きい焦点が用いられるため、マルチスリット12によってあたかも点線源が複数連なってX線が照射されているかのような効果が得られる。これがタルボ・ロー干渉計によるX線撮影法であり、焦点径がある程度大きい場合にも、タルボ干渉計と同様のタルボ効果を得ることができる。
【0034】
なお、X線タルボ撮影装置100は、タルボ干渉計を用いるX線タルボ撮影装置、タルボ・ロー干渉計を用いるX線タルボ・ロー撮影装置を含む。
【0035】
本実施形態の本体部1においては、被写体Hの再構成画像を生成するために必要なモアレ縞画像を、縞走査法により撮影する。縞走査とは、一般的には、格子(マルチスリット12、第1格子14、第2格子15)のうちの何れか1枚(本実施形態では、第2格子15とする)または2枚をスリット周期方向(x方向)に相対的に動かしてM回(Mは正の整数、吸収画像はM>2、微分位相画像と小角散乱画像はM>3)の撮影(Mステップの撮影)を行い、再構成画像を生成するのに必要なM枚のモアレ縞画像を取得することをいう。具体的には、移動させる格子のスリット周期をd(μm)とすると、d/M(μm)ずつ格子をスリット周期方向に動かして撮影を行うことを繰り返し、M枚のモアレ縞画像を取得する。
【0036】
モアレ縞画像に基づいて生成される再構成画像には、小角散乱画像、微分位相画像、吸収画像がある。
小角散乱画像は、微小構造でのX線の散乱を画像化したもので、X線の散乱が大きいほど信号値が大きくなる。小角散乱画像では、画素サイズよりも小さい数um~数十umの微小構造集合体を捉えることができる。
微分位相画像は、被写体によるX線の屈折を画像化したもので、X線の屈折が大きいほど信号値が大きくなる。吸収画像では軽元素ほど感度が低くなるが、微分位相画像では軽元素でも感度を高く保てるため、吸収画像で捉えにくい物質の変化も捉えることができる。
吸収画像は、被写体によるX線の吸収を画像化したもので、従来からの単純X線画像と同等の画像である。
【0037】
再構成画像の生成は、例えば、まず、被写体モアレ縞画像(被写体有りのモアレ縞画像)に、オフセット補正処理、ゲイン補正処理、欠陥画素補正処理、X線強度変動補正等を施す。次いで、補正後の被写体モアレ縞画像及び構成画像生成用のBG(Back Ground)モアレ縞画像に基づいて、再構成画像を生成する。BGモアレ縞画像とは、被写体Hを被写体台13から除いた状態で、被写体モアレ縞画像と同じX線照射条件(管電圧、mAs値、フィルタ)で、第2格子15を移動させて取得したモアレ縞画像である。
吸収画像は、M枚の被写体モアレ縞画像の加算画像をM枚のBGモアレ縞画像の加算画像で割り算することにより生成される透過率画像を対数変換することにより生成される。
微分位相画像は、被写体モアレ縞画像とBGモアレ縞画像のそれぞれについて縞走査法の原理を用いてモアレ縞の位相を計算することにより被写体有りの微分位相画像と被写体無しの微分位相画像をそれぞれ生成し、生成した被写体有りの微分位相画像から被写体無しの微分位相画像を減算することにより生成される。
小角散乱画像は、被写体モアレ縞画像とBGモアレ縞画像のそれぞれについて縞走査法の原理を用いてモアレ縞のVisibilityを計算することにより(Visibility=振幅÷平均値)、被写体有りの小角散乱画像と被写体無しの小角散乱画像をそれぞれ生成し、生成した被写体有りの小角散乱画像を被写体無しの小角散乱画像で割り算することにより生成される。Visibilityの計算方法については、後述する。
【0038】
なお、上記の3種類の再構成画像を再合成する等してさらに多くの種類の画像を生成することもできる。例えば、複数(3以上の)の格子対向角で撮影された小角散乱画像を用い、各画像の位置合わせを行ったうえで、画素ごとに、正弦波でフィッティングを行い、フィッティングパラメータを抽出する。正弦波のグラフは、横軸をサンプルと格子の相対角度とし、縦軸をある画素の小角散乱信号値とするグラフである。フィッティングパラメータとして、正弦波の振幅、平均、位相が得られる。画素ごとの振幅値を表す画像を配向度画像、画素ごとの平均値を示す画像を散乱強度画像、画素ごとの位相を示す画像を配向角度画像と呼ぶ。なお、フィッティングの方法は正弦波に限定されない。
以降では、再構成画像を再合成することで生成された画像(配向度画像、散乱強度画像、配向角度画像)を合わせて配向解析画像とする。つまり、配向解析画像は、X線タルボ撮影装置の格子のスリットに対する被写体の相対角度を変えて撮影された複数の小角散乱画像に基づいて生成される。
【0039】
(可視光を吸収する物体)
上述したように、第1格子14と被写体Hとの間には、可視光を吸収する物体が設置される。
図1に示す例は、被写体台13が可視光を吸収する物体である例である。
可視光を吸収するとは、可視光を反射させず透過させないことを意図する。例えば、可視光を吸収するとは、可視光領域(400~800nm)での反射率が98%以下、また、透過率が5%以下であることである。可視光を吸収するとは、上述の例に限定されない。例えば、可視光領域での反射率は、90%以下が好ましい。
これにより、撮影装置21で被写体Hを撮影する際、被写体Hより放射線検出器16側の構造物(第1格子14、格子枠、格子支持部など)が映りこむことを防止できる。
【0040】
具体的には、例えば、被写体台13は、染料にて着色されている。これにより、可視光が吸収される。また、放射線が被写体台13を透過するときに、放射線が過度に散乱することを防ぐ。放射線の散乱が過度とは、放射線検出器16によるモアレ縞画像の撮影に支障がでる程度を指す。被写体台13は染料にて着色されていることが望ましいが、被写体台13は顔料にて着色されていてもよい。
【0041】
色は、例えば、黒色であることが望ましい。これにより、被写体台13により、可視光がより吸収されやすくなる。
【0042】
被写体台13と第1格子14との間の距離は、0.5cm以上20cm以下である。第1格子14の機械的な強度は低いため、被写体台13と第1格子14との間の距離を0.5cm未満とすることは、第1格子14と被写体台13が接触し、第1格子14が不良となるリスクが高い。被写体台13と第1格子14との間の距離を20cmより大きくすることは、被写体Hを透過した放射線が第1格子14に達するまでの間に、放射線の強度が弱くなる。より望ましい被写体台13と第1格子14との間の距離は、2cm以上3cm以下である。
【0043】
被写体台13の曲げ弾性率は、例えば、1GPa以上(ASTEM D790)である。被写体台13の引張強度は、例えば、20MPa以上(ASTEM D638)である。
【0044】
被写体台13の厚みは、例えば、0.5mm以上である。
【0045】
被写体台13の線膨張率は、例えば、10×10-5/℃以上である。
【0046】
被写体台13は、低散乱であることが望ましい。被写体Hを透過した放射線が被写体台13で散乱すると、放射線検出器16まで到達する放射線が減り、タルボ画像上の被写体Hの可視性(visibility)が低下する。具体的には、被写体台13による性能(visibility)の低下が10%以下である。
ここで、モアレ縞画像の特性値について説明する。モアレ縞画像の特性値には、モアレ縞画像の特徴を表す平均強度(X線の平均強度)a0、振幅a1、位相Φ、鮮明度vis(visibility)、及びこれらの特性値から算出されるノイズ指標が含まれる。
モアレ縞画像の任意の1画素に注目すると、X線強度を表す画素信号値はほぼsin関数的に変化する。このsin関数は、平均強度(X線の平均強度)a0、振幅a1、位相Φのパラメーターにより特徴づけられる。
モアレ縞画像の各画素の平均強度a0(x,y)、振幅a1(x,y)、位相Φ(x,y)は、それぞれ(式1)~(式3)により与えられる。ここで、IはX線強度信号値、x,yはモアレ縞画像の2次元座標を表す。Mは縞走査回数である。
また、モアレ縞画像の各画素の鮮明度vis(x,y)は、(式4)により定義される。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
各画素の鮮明度visを関心領域内、例えば1000画素の領域内で平均値を算出し、各撮影でのvisとし、1-(被写体板がある時のvis/被写体板がない場合のvis)より低下率を求める。
【0047】
被写体台13のX線透過率は、例えば、90%以上である。
【0048】
被写体台13が樹脂の場合、その樹脂表面の静摩擦係数は、例えば、0.1以上である(JISK7125)。
【0049】
(X線タルボ撮影装置100の動作)
次に、X線タルボ撮影装置100の動作について説明する。
図5は、X線タルボ撮影装置100の制御部51と記憶部55に記憶されているプログラムとの協働により実行される撮影処理を示すフローチャートである。撮影装置21は、可視光画像を撮影するカメラであるとする。
【0050】
まず、制御部51は、X線タルボ撮影装置100の各種構成を制御することで、上述したタルボ撮影を行い、再構成画像や配向解析画像を取得する(ステップS1)。このとき、制御部51は、タルボ撮影制御手段として機能する。
次に、制御部51は、撮影装置21により被写体Hを撮影させ、可視光画像を取得する(ステップS2)。撮影処理は、終了する。
【0051】
ユーザーは、再構成画像や配向解析画像の関心領域に対応した可視光画像に基づいて、被写体での位置を特定できる。第1格子14と被写体Hとの間には、可視光を吸収する物体が設置されることで、その可視光画像は鮮明となる。
【0052】
(その他)
上記では、可視光を吸収する物体を、被写体台13を例として主に説明したが、可視光を吸収する物体は、
図1に示すような被写体台13に限定されない。可視光を吸収する物体は、例えば、
図6に示すように、被写体台13と第1格子14の間に配置された放射線(X線)を吸収しない布140でもよい。また、可視光を吸収する物体は、布140の代わりに、放射線(X線)を吸収しないフィルムでもよい。被写体台13の上に、放射線(X線)を吸収せず、可視光を吸収するマット等を載せてもよい。上記同様、可視光を吸収する物体は、具体的には、例えば、染料にて着色されていてもよい。
【0053】
図7のように、第1格子14を、可視光を吸収する物体として機能させてもよい。具体的には、第1格子14を、可視光を吸収する染料や顔料といった物質でコーティングすることが挙げられる。
【0054】
可視光を吸収する物体は、上述した構成に限定されない。つまり、撮影装置21で被写体Hを撮影する際、被写体Hより放射線検出器16側の構造物(第1格子14、格子枠、格子支持部など)が映りこむことを防止できればよく、構成は適宜変更可能である。
【0055】
上述の可視光を吸収する物体は、赤外線を吸収する物体と読み替えてもよい。撮影装置21が赤外線画像を取得する赤外線カメラの場合、可視光を吸収する物体ではなく、赤外線を吸収する物体を使用する。
【0056】
図8に示すように、本体部1とコントローラー5を、通信ネットワークNを介して接続した構成(X線タルボ撮影システム200)とすることも可能である。本体部1とコントローラー5は、通信ネットワークNを介して、各種信号や各種データを送受信することが可能である。通信ネットワークNは、例えば、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)、インターネット等である。
【0057】
(効果など)
以上説明したように、X線タルボ撮影装置100は、非破壊検査用のX線タルボ撮影装置であって、放射線源11と、被写体台13と、複数の格子と、放射線検出器16と、が順に放射線照射軸方向に並んで設けられ、複数の格子は、被写体台13に近い格子から順に、少なくとも第1格子、第2格子を含み、可視光を吸収する物体が、第1格子と被写体との間に設置される。
これにより、可視光画像などを取得できるカメラなどの撮影装置21を用いた被写体Hの撮影において、被写体Hの背景に構造物が映り込むことを防止できる。よって、ユーザーによる被写体の実物での位置の特定の精度を向上させることができる。
なお、X線タルボ撮影装置100は、非破壊検査に用いられるX線タルボ撮影装置としたが、これは、非破壊検査においては、再構成画像や配向解析画像の関心領域と、その関心領域に対応する被写体Hの実物での位置を正確に合わせる必要があるからである。そのような位置を正確に合わせる必要がある状況であれば、非破壊検査に限定されず、上記効果を得ることができる。
【0058】
撮影方法は、放射線源11と、被写体台13と、複数の格子と、放射線検出器16と、が順に放射線照射軸方向に並んで設けられ、複数の格子は、被写体台13に近い格子から順に、少なくとも第1格子、第2格子を含み、可視光を吸収する物体が、第1格子と被写体Hとの間に設置される、非破壊検査のX線タルボ撮影装置(X線タルボ撮影装置100)を用いた撮影方法であって、放射線照射軸方向に配置された被写体Hに放射線源11により放射線を照射させ、照射させ得られるモアレ縞画像に基づいて、少なくとも被写体Hの小角散乱画像及び/又は微分位相画像を生成するタルボ撮影制御ステップ(ステップS1)、を含む。
これにより、可視光画像などを取得できるカメラなどの撮影装置21を用いた被写体Hの撮影において、被写体Hの背景に構造物が映り込むことを防止できる。よって、ユーザーによる被写体の実物での位置の特定の精度を向上させることができる。
【0059】
以上、本発明の実施形態及びその変形例について説明したが、上述した本実施形態における記述は、本発明に係る好適な一例であり、これに限定されるものではない。
【0060】
例えば、上記実施形態では、縞走査法による撮影時に第2格子15をマルチスリット12及び第1格子14に対して移動させる方式のタルボ・ロー干渉計を用いた検査装置を例にとり説明したが、本発明は、縞走査法による撮影時にマルチスリット12又は第1格子14又は第2格子15の何れか又はそのうちの二つの格子を移動させる方式のタルボ・ロー干渉計を用いた検査装置に適用してもよい。また、本発明は、第1格子14又は第2格子15の何れかを他の格子に対して移動させる方式のタルボ干渉計を用いた検査装置に適用してもよい。また、本発明は、マルチスリット12又は第1格子14の何れかを他の格子に対して移動させる方式のロー干渉計を用いた検査装置に適用してもよい。また、本発明は、縞走査を必要としないフーリエ変換法を用いたタルボ・ロー干渉計、タルボ干渉計、ロー干渉計に適用してもよい。
【0061】
また、例えば、上記の説明では、本発明に係るプログラムのコンピューター読み取り可能な媒体としてハードディスクや半導体の不揮発性メモリー等を使用した例を開示したが、この例に限定されない。その他のコンピューター読み取り可能な媒体として、CD-R
OM等の可搬型記録媒体を適用することが可能である。また、本発明に係るプログラムのデータを、通信回線を介して提供する媒体として、キャリアウエーブ(搬送波)も適用される。
【0062】
その他、X線タルボ撮影装置を構成する各装置の細部構成及び細部動作に関しても、発明の趣旨を逸脱することのない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0063】
100 X線タルボ撮影装置
200 X線タルボ撮影システム
1 本体部
11 放射線源
12 マルチスリット(G0格子)
13 被写体台
14 第1格子(G1格子)
15 第2格子(G2格子)
15a 移動機構
16 放射線検出器
17 支柱
17a 緩衝部材
111 焦点
112 付加フィルター・コリメーター
120 第1のカバーユニット
130 第2のカバーユニット
19 基台部
21 撮影装置
5 コントローラー
51 制御部(タルボ撮影制御手段)
52 操作部
53 表示部
54 通信部
55 記憶部