(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158886
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】三次元造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/40 20170101AFI20241031BHJP
B29C 64/106 20170101ALI20241031BHJP
B29C 64/393 20170101ALI20241031BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20241031BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20241031BHJP
【FI】
B29C64/40
B29C64/106
B29C64/393
B33Y50/02
B33Y10/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074499
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 航
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AR07
4F213AR12
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL15
4F213WL56
4F213WL62
4F213WL67
4F213WL85
4F213WL96
(57)【要約】
【課題】ラフト層が使用される状況に応じて、適切なラフト層を造形できる技術を提供する。
【解決手段】三次元造形物の製造方法は、第1造形材料を吐出して、ステージの造形面の上に、ラフト層を造形する第1造形工程と、第2造形材料を吐出して、ラフト層の上に造形層を積層して造形物を造形する第2造形工程とを備える。ラフト層は、第2造形工程の完了後に造形物から分離される層である。第1造形工程は、造形面に接するベース層と、ベース層の上方に配置され造形物に接する接触層とを、それぞれで、第1造形材料の種別と、積層ピッチと、積層方向における分離距離と、造形パターンと、横方向における層の配置に関する条件と、の少なくともいずれかが異なるように造形することで、ラフト層を造形する工程と、横方向に並ぶ第1層と第2層とをそれぞれ異なる造形条件で造形することで、ラフト層を造形する工程と、の少なくともいずれかを備える。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1造形材料を吐出して、ステージの造形面の上に、ラフト層を造形する第1造形工程と、
第2造形材料を吐出して、前記ラフト層の上に造形層を積層して造形物を造形する第2造形工程と、を備え、
前記ラフト層は、前記第2造形工程の完了後に前記造形物から分離される層であり、
前記第1造形工程は、
前記造形面に接するベース層と、前記ベース層の上方に配置され前記造形物に接する接触層とを、それぞれで、前記第1造形材料の種別と、積層ピッチと、積層方向における分離距離と、造形パターンと、横方向における層の配置に関する条件と、の少なくともいずれかが異なるように造形することで、前記ラフト層を造形する工程と、
前記横方向に並ぶ第1層と第2層とをそれぞれ異なる造形条件で造形することで、前記ラフト層を造形する工程と、の少なくともいずれかを備える、三次元造形物の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の三次元造形物の製造方法であって、
前記第1造形工程は、前記横方向に並ぶ第1のベース層および第2のベース層と、前記横方向に並ぶ第1の接触層および第2の接触層と、を造形する工程を有する、三次元造形物の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の三次元造形物の製造方法であって、
前記第1造形工程は、前記横方向に並ぶ第1のベース層および第2のベース層と、前記第1のベース層と前記第2のベース層とに跨がる前記接触層と、を造形する工程を有する、三次元造形物の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の三次元造形物の製造方法であって、
前記接触層の造形に用いられる材料は、前記ベース層の造形に用いられる材料とは異なる材料であり、かつ、前記造形物の最下層の造形に用いられる材料と同一の材料である、三次元造形物の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の三次元造形物の製造方法であって、
前記第1造形工程は、前記横方向に並ぶ第1の接触層と第2の接触層とを、それぞれ異なる造形条件で造形する工程を有する、三次元造形物の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の三次元造形物の製造方法であって、
前記造形物は、第1部分と、前記第1部分よりも高さの高い第2部分と、を有し、
前記ラフト層のうち前記第2部分に接触する層の造形に用いられる材料は、前記ラフト層のうち前記第1部分に接触し前記第2部分に接触しない層の造形に用いられる材料とは異なる材料であり、かつ、前記造形物の最下層の造形に用いられる材料と同一の材料である、三次元造形物の製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の三次元造形物の製造方法であって、
前記第1造形工程に先立って、前記第1造形工程で前記ラフト層を造形するのに用いられるラフトデータを生成するデータ生成工程を備え、
前記第1造形工程は、前記ラフトデータに基づいて前記第1造形材料を吐出する吐出部を制御して、前記ラフト層を造形する工程を有し、
前記データ生成工程では、
積層方向に沿って見たときに、前記造形物の最下層が造形される領域と、前記接触層が造形される領域と、の少なくとも一方の領域を包括する矩形領域を特定し、
特定された前記矩形領域を、複数の分割領域に、各前記分割領域の少なくとも一部が前記矩形領域に重なるように分割し、
前記第1造形工程において前記少なくとも一方の領域と前記分割領域とが重なる領域に層が造形されるように前記ラフトデータを生成する、三次元造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、三次元造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
三次元造形物の製造方法に関し、特許文献1には、ステージ上にラフト層を造形した後に、当該ラフト層の上に3Dソリッドモデルを印刷することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ラフト層は、造形物のステージからの剥離を抑制できるように、かつ、ラフト層上に造形される造形物の品質低下を抑制できるように造形されると好ましい。こうしたラフト層の最適な構成は、例えば、ステージおよび造形物の形状や材質等によって異なる。そのため、ラフト層が使用される状況に応じて、適切なラフト層を造形できる技術が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一形態によれば、三次元造形物の製造方法が提供される。この三次元造形物の製造方法は、第1造形材料を吐出して、ステージの造形面の上に、ラフト層を造形する第1造形工程と、第2造形材料を吐出して、前記ラフト層の上に造形層を積層して造形物を造形する第2造形工程と、を備える。前記ラフト層は、前記第2造形工程の完了後に前記造形物から分離される層である。前記第1造形工程は、前記造形面に接するベース層と、前記ベース層の上方に配置され前記造形物に接する接触層とを、それぞれで、前記第1造形材料の種別と、積層ピッチと、積層方向における分離距離と、造形パターンと、横方向における層の配置に関する条件と、の少なくともいずれかが異なるように造形することで、前記ラフト層を造形する工程と、前記横方向に並ぶ第1層と第2層とをそれぞれ異なる造形条件で造形することで、前記ラフト層を造形する工程と、の少なくともいずれかを備える。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】三次元造形システムの概略構成を示す説明図である。
【
図2】材料供給部およびヘッドの概略構成を示す図である。
【
図3】フラットスクリューの下面側の概略構成を示す斜視図である。
【
図5】造形物が造形される様子を模式的に示す説明図である。
【
図6】情報処理装置の概略構成を示す説明図である。
【
図8】第1実施形態におけるラフト層の第1の例を説明する模式図である。
【
図10】ラフト造形条件の設定画面を示す説明図である。
【
図12】第1実施形態におけるラフト層の第2の例を説明する模式図である。
【
図13】包括領域が特定される様子を示す説明図である。
【
図14】包括領域が複数の分割領域に分割される様子を示す説明図である。
【
図16】各分割領域が回転される様子を示す説明図である。
【
図17】重複領域が特定される様子を示す説明図である。
【
図18】ラフトデータが生成される様子の例を示す説明図である。
【
図19】第2実施形態におけるラフト層の第1の例を説明する模式図である。
【
図20】第2実施形態におけるラフト層の第2の例を説明する模式図である。
【
図21】第3実施形態におけるラフト層の例を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
A.第1実施形態:
図1は、第1実施形態における三次元造形システム10の概略構成を示す説明図である。
図1には、互いに直交するX,Y,Z方向を示す矢印が示されている。X方向及びY方向は、水平面に平行な方向であり、Z方向は、鉛直上向きに沿った方向である。X,Y,Z方向を示す矢印は、他の図においても、図示の方向が
図1と対応するように適宜、図示してある。以下の説明において、方向の向きを特定する場合には、各図において矢印が指し示す方向を「+」、その反対の方向を「-」として、方向表記に正負の符合を併用する。以下では、+Z方向のことを「上」、-Z方向のことを「下」ともいう。また、X方向およびY方向に沿った平面のことを「XY平面」とも呼ぶ。XY平面に沿った方向のことをXY方向とも呼ぶ。
【0008】
三次元造形システム10は、三次元造形装置100と情報処理装置400とを備えている。本実施形態における三次元造形装置100は、材料押出方式によって三次元造形物を造形する装置である。三次元造形装置100は、三次元造形装置100の各部を制御するための制御部300を備えている。制御部300と情報処理装置400とは、相互に通信可能に接続されている。
【0009】
三次元造形装置100は、制御部300に加え、第1ヘッド200aと、第2ヘッド200bと、第1材料供給部20aと、第2材料供給部20bと、ステージ210と、移動機構230とを備える。以下では、第1ヘッド200aと第2ヘッド200bとを特に区別することなく説明する場合、単に、ヘッド200と呼ぶこともある。同様に、第1材料供給部20aと第2材料供給部20bとを特に区別することなく説明する場合、単に、材料供給部20と呼ぶこともある。
【0010】
制御部300は、1以上のプロセッサーと、主記憶装置と、外部との信号の入出力を行う入出力インターフェイスとを備えるコンピューターによって構成されている。本実施形態では、制御部300は、主記憶装置上に読み込んだプログラムや命令をプロセッサーが実行することによって、三次元造形物を造形するための三次元造形処理を実行する機能等、種々の機能を発揮する。制御部300は、第1ヘッド200aと第2ヘッド200bとを選択的に使い分けることにより、2種類の異なる材料を切り替えて三次元造形物を造形することができる。なお、制御部300は、コンピューターではなく、複数の回路の組み合わせによって構成されてもよい。
【0011】
図2は、材料供給部20およびヘッド200の概略構成を示す図である。ヘッド200は、可塑化部30と、ノズル61を有する吐出部60とを備えている。ヘッド200には、材料供給部20に収容されている材料が供給される。ヘッド200は、制御部300の制御下で、材料供給部20から供給された材料の少なくとも一部を可塑化部30によって可塑化して可塑化材料を生成し、生成した可塑化材料をノズル61からステージ210上に吐出して積層させる。本実施形態において「可塑化」とは、溶融を含む概念であり、固体から流動性を有する状態に変化させることである。具体的には、ガラス転移が起こる材料の場合、可塑化とは、材料の温度をガラス転移点以上にすることである。ガラス転移が起こらない材料の場合、可塑化とは、材料の温度を融点以上にすることである。
【0012】
材料供給部20は、例えば、材料を収容するホッパーによって構成される。材料供給部20は、連通路22を介して、可塑化部30に接続されている。材料は、ペレットや粉末等の形態で材料供給部20に投入される。本実施形態では、ペレット状のABS樹脂の材料が用いられる。本実施形態では、第1材料供給部20aには第1材料が収容されており、第2材料供給部20bには第2材料が収容されている。そのため、第1ヘッド200aには、第1材料供給部20aに収容されている第1材料が供給され、第2ヘッド200bには第2材料供給部20bに収容されている第2材料が供給される。以下では、第1材料と第2材料とを区別せずに原材料MRとも呼ぶ。
【0013】
可塑化部30は、スクリューケース31と、駆動モーター32と、フラットスクリュー40と、バレル50と、を有する。フラットスクリュー40は、ローターあるいはスクロールとも呼ばれる。バレル50は、スクリュー対面部とも呼ばれる。
【0014】
フラットスクリュー40は、スクリューケース31内に収納されている。フラットスクリュー40の上面47は駆動モーター32に連結されており、フラットスクリュー40は、駆動モーター32が発生させる回転駆動力によって、スクリューケース31内で回転する。駆動モーター32は、制御部300の制御下において駆動する。なお、フラットスクリュー40は、減速機を介して駆動モーター32によって駆動されてもよい。
【0015】
図3は、フラットスクリュー40の下面48側の概略構成を示す斜視図である。
図3に示したフラットスクリュー40は、技術の理解を容易にするため、
図2に示した上面47と下面48との位置関係を、鉛直方向において逆向きとした状態で示されている。フラットスクリュー40は、その中心軸に沿った方向である軸線方向における長さが、軸線方向に垂直な方向における長さよりも小さい略円柱状を有する。フラットスクリュー40は、その回転中心となる回転軸RXがZ方向に平行になるように配置される。
【0016】
フラットスクリュー40の、回転軸RXと交差する面である下面48には、渦状の溝部42が形成されている。上述した材料供給部20の連通路22は、フラットスクリュー40の側面から、当該溝部42に連通する。本実施形態では、溝部42は、凸条部43によって隔てられて3本分形成されている。なお、溝部42の数は、3本に限られず、1本でもよいし、2本以上であってもよい。溝部42は、渦状に限らず、螺旋状あるいはインボリュート曲線状であってもよいし、中央部から外周に向かって弧を描くように延びる形状であってもよい。
【0017】
図1に示すように、フラットスクリュー40の下面48は、バレル50の上面52に対面しており、フラットスクリュー40の下面48の溝部42と、バレル50の上面52との間には空間が形成される。フラットスクリュー40とバレル50との間のこの空間には、材料供給部20から
図3に示した材料流入口44を通じて原材料MRが供給される。
【0018】
バレル50には、回転しているフラットスクリュー40の溝部42内に供給された原材料MRを加熱するためのバレルヒーター58が埋め込まれている。バレル50の中心には連通孔56が設けられている。
【0019】
図4は、バレル50の上面52側を示す概略平面図である。バレル50の上面52には、連通孔56に接続され、連通孔56から外周に向かって渦状に延びている複数の案内溝54が形成されている。なお、案内溝54の一端は、連通孔56に接続されていなくてもよい。また、案内溝54が省略されてもよい。
【0020】
フラットスクリュー40の溝部42内に供給された原材料MRは、溝部42内において可塑化されながら、フラットスクリュー40の回転によって溝部42に沿って流動し、造形材料としてフラットスクリュー40の中央部46へと導かれる。中央部46に流入した流動性を発現しているペースト状の造形材料は、バレル50の中心に設けられた連通孔56を介して吐出部60に供給される。なお、造形材料では、造形材料を構成する全ての種類の物質が可塑化していなくてもよい。造形材料は、造形材料を構成する物質のうちの少なくとも一部の種類の物質が可塑化することによって、全体として流動性を有する状態に転化されていればよい。
【0021】
吐出部60は、造形材料を吐出するノズル61と、フラットスクリュー40とノズル開口62との間に設けられた造形材料の流路65と、造形材料の吐出を制御する吐出制御部77とを備える。
【0022】
ノズル61は、流路65を通じて、バレル50の連通孔56に接続されている。ノズル61は、可塑化部30において生成された造形材料を、先端のノズル開口62からステージ210に向かって吐出する。
【0023】
吐出制御部77は、流路65を開閉する吐出調整部70と、造形材料を吸引して一時的に貯留する吸引部75とを備える。
【0024】
吐出調整部70は、流路65内に設けられており、流路65内で回転することにより流路65の開度を変化させる。本実施形態において、吐出調整部70は、バタフライバルブによって構成されている。吐出調整部70は、制御部300による制御下において、第1駆動部74によって駆動される。第1駆動部74は、例えば、ステッピングモーターによって構成される。制御部300は、第1駆動部74を用いて、バタフライバルブの回転角度を制御することによって、可塑化部30からノズル61に流れる造形材料の流量、つまり、ノズル61から吐出される造形材料の吐出量を調整することができる。吐出調整部70は、造形材料の吐出量を調整可能であると共に、造形材料の流出のオン/オフを制御可能である。
【0025】
吸引部75は、流路65において吐出調整部70とノズル開口62との間に接続されている。吸引部75は、ノズル61からの造形材料の吐出停止時に、流路65中の造形材料を一時的に吸引することによって、造形材料がノズル開口62から糸を引くように垂れる尾引き現象を抑制する。本実施形態において、吸引部75は、プランジャーにより構成されている。吸引部75は、制御部300による制御下において、第2駆動部76によって駆動される。第2駆動部76は、例えば、ステッピングモーターや、ステッピングモーターの回転力をプランジャーの並進運動に変換するラックアンドピニオン機構等によって構成される。
【0026】
図1に示すように、ステージ210は、ノズル61のノズル開口62に対向する位置に配置されている。第1実施形態では、ノズル61のノズル開口62に対向するステージ210の造形面211は、X,Y方向、すなわち水平方向に平行となるように配置される。ステージ210には、ステージ210上に吐出された造形材料が急激に冷却することを抑制するためのステージヒーターが備えられていてもよい。
【0027】
移動機構230は、制御部300の制御下において、ステージ210とノズル61との相対位置を変化させる。本実施形態では、ノズル61の位置が固定されており、移動機構230は、ステージ210を移動させる。移動機構230は、3つのモーターの駆動力によって、ステージ210をX,Y,Z方向の3軸方向に移動させる3軸ポジショナーによって構成される。本明細書において、特に断らない限り、ノズル61の移動とは、ノズル61や吐出部60をステージ210に対して相対的に移動させることを意味する。
【0028】
なお、他の実施形態では、移動機構230によってステージ210を移動させる構成の代わりに、ステージ210の位置が固定された状態で、移動機構230がステージ210に対してノズル61を移動させる構成が採用されてもよい。また、移動機構230によってステージ210をZ方向に移動させ、ノズル61をX,Y方向に移動させる構成や、移動機構230によってステージ210をX,Y方向に移動させ、ノズル61をZ方向に移動させる構成が採用されてもよい。これらの構成であっても、ノズル61とステージ210との相対的な位置関係が変更可能である。
【0029】
制御部300は、三次元造形装置100全体の動作を制御する制御装置である。制御部300は、1つ、又は、複数のプロセッサー310と、主記憶装置や補助記憶装置からなる記憶装置320と、外部との信号の入出力を行う入出力インターフェイスとを備えるコンピューターによって構成される。プロセッサー310は、記憶装置320に記憶されたプログラムを実行することによって、情報処理装置400から取得された造形データに従い、ヘッド200及び移動機構230を制御して、ステージ210上に造形物の造形を行う。なお、制御部300は、コンピューターによって構成される代わりに、回路を組み合わせた構成により実現されてもよい。
【0030】
図5は、三次元造形装置100が造形物を造形する様子を模式的に示す説明図である。三次元造形装置100では、上述したように、固体状態の原材料MRが可塑化されて造形材料MMが生成される。制御部300は、ステージ210の造形面211とノズル61との距離を保持したまま、ステージ210の造形面211に沿った方向に、ステージ210に対するノズル61の位置を変えながら、ノズル61から造形材料MMを吐出させる。ノズル61から吐出された造形材料MMは、ノズル61の移動方向に連続して堆積されていく。
【0031】
制御部300は、ノズル61の移動を繰り返して造形材料の層Lyを形成する。制御部300は、1つの層Lyを形成した後、ステージ210に対するノズル61の位置を、Z方向に相対移動させる。そして、これまでに形成された層Lyの上に、さらに層Lyを積み重ねる。制御部300は、このように層Lyを積層することで、ラフト層RLおよび造形層MLを積層する。
図5では、造形層MLには点模様のハッチングが付され、ラフト層RLには斜線のハッチングが付されている。ラフト層RLは、造形中に造形層MLがステージ210から剥離することを抑制するための層であり、ステージ210の造形面211の上に造形される。造形層MLは、所望の造形物OBを形成するための層Lyであり、ラフト層RLの上に積層される。造形層MLは、ラフト層RLを介して造形面211の上に積層されるとも言える。ラフト層RLは、造形物OBの造形完了後には造形物OBから分離される。
【0032】
制御部300は、例えば、一層分の層Lyを完了した場合のノズル61のZ方向への移動や、各層で独立する複数の造形領域がある場合には、ノズル61からの造形材料の吐出を一時的に中断させることがある。この場合、吐出調整部70によって流路65を閉塞させて、ノズル開口62からの造形材料MMの吐出を停止させ、吸引部75によって、ノズル61内の造形材料を一時的に吸引する。制御部300は、ノズル61の位置を変更した後、吸引部75内の造形材料を排出しつつ吐出調整部70によって流路65を開くことによって、変更後のノズル61の位置から造形材料MMの堆積を再開させる。
【0033】
図6は、情報処理装置400の概略構成を示す説明図である。情報処理装置400は、CPU410とメモリー420と記憶装置430と通信インターフェイス440と入出力インターフェイス450とがバス460によって相互に接続されたコンピューターとして構成されている。入出力インターフェイス450には、キーボードやマウスなどの入力装置470と、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等によって構成される表示部480とが接続されている。情報処理装置400は、通信インターフェイス440を介して、三次元造形装置100の制御部300に接続される。
【0034】
CPU410は、記憶装置430に記憶されたプログラム431を実行することによって、データ生成部411として機能する。データ生成部411は、後述するデータ生成処理を実行することによって、ラフト層を造形するためのデータであるラフトデータを生成する。より詳細には、本実施形態におけるデータ生成部411は、データ生成処理を実行することによって、ラフトデータと、造形層MLを造形するためのデータである本体データとを含む造形データを生成する。
【0035】
造形データは、経路データと、経路データに関連付けられる吐出量情報とを含む。経路データは、ノズル61が可塑化材料を吐出しつつ移動する経路である移動経路を複数の部分経路によって表したデータである。部分経路は、線状の経路であり、例えば、その部分経路の開始点と終了点とを用いて表される。吐出量情報は、各部分経路における可塑化材料の吐出量を表す情報である。造形データは、例えば、Gコードによって表される。以下では、ラフト層RLを造形するための経路データ、つまり、ラフトデータに含まれる経路データのことを、ラフト経路データとも呼ぶ。また、造形層MLを造形するための経路データ、つまり、本体データに含まれる経路データのことを、本体経路データとも呼ぶ。
【0036】
情報処理装置400は、データ生成部411によって生成される造形データを、三次元造形装置100の制御部300に送信する。制御部300は、受信した造形データに従って、吐出部60及び移動機構230を制御して、造形材料を吐出して層を積層方向に積層することで、ラフト層RLおよび造形層MLをステージ210上に造形する。
【0037】
図7は、三次元造形システム10において実行される造形処理のフローチャートである。この造形処理は、三次元造形物の製造方法を実現するための処理である。造形処理は、例えば、制御部300に対してユーザーによる所定の開始操作が行われた場合に実行される。
図7に示すステップS100の処理は、情報処理装置400において実行され、ステップS200からS230の処理は、三次元造形装置100において実行される。
【0038】
ステップS100にて、情報処理装置400のデータ生成部411は、データ生成処理を実行することによって、ラフトデータを含む造形データを生成する。データ生成処理の詳細については後述する。
【0039】
ステップS200にて、三次元造形装置100の制御部300は、ステップS100で生成された造形データを情報処理装置400から取得する。ステップS210にて、制御部300は、ステップS200で取得した造形データに含まれるラフトデータに基づいて吐出部60及び移動機構230を制御することによって、造形材料を吐出して、ステージ210の造形面211上にラフト層RLを造形する。ステップS220にて、制御部300は、造形データに含まれる本体データに基づいて吐出部60及び移動機構230を制御することによって、造形材料を吐出して、ラフト層RLの上に造形層MLを造形する。以下では、ラフト層RLを形成するための造形材料のことを第1造形材料とも呼び、造形層MLを形成するための造形材料のことを第2造形材料とも呼ぶ。また、ステップS210のように、第1造形材料を吐出して、造形面211の上にラフト層RLを造形する工程を、第1造形工程とも呼ぶ。ステップS220のように、第2造形材料を吐出して、ラフト層RLの上に造形層MLを積層して造形物OBを造形する工程を、第2造形工程とも呼ぶ。
【0040】
ステップS230にて、造形物OBとラフト層RLとが分離される。つまり、ラフト層RLは、第2造形工程の完了後に造形物OBから分離される。ステップS230では、例えば、三次元造形装置100に設けられたロボットや切削装置等を用いて、ラフト層RLと造形物OBとが分離されてもよい。
【0041】
図8は、本実施形態におけるラフト層RLの第1の例を説明する模式図である。
図8には、ラフト層RLの例として、ラフト層RL1が示されている。
図8では、ラフト層RL1上に造形される造形物OBの形状が破線によって模式的に示されている。
【0042】
本実施形態における第1造形工程では、ラフト層RLは、縦方向および横方向に分割されて造形される。縦方向は、積層方向に沿った方向であり、本実施形態では、Z方向である。横方向は、積層方向に垂直な方法であり、本実施形態では、XY方向である。以下では、ラフト層RLの縦方向における分割のことを縦分割とも呼び、ラフト層RLの横方向における分割のことを横分割とも呼ぶ。
【0043】
縦分割されたラフト層RLは、少なくともベース層Bsと接触層Ctとを有する。ベース層Bsは、造形面211に接し、造形物OBには接しない層である。接触層Ctは、ベース層Bsの上方に配置され、造形物OBに接する層である。つまり、接触層Ctは、造形面211とは接しない。また、本実施形態におけるラフト層RLは、更に、中間層Mdを有する。中間層Mdは、ベース層Bsと接触層Ctとの間に配置され、ベース層Bsと接触層Ctとを積層方向に繋ぐように形成される層である。ベース層Bsや接触層Ctや中間層Mdは、それぞれ、積層方向において1つの層のみによって構成されてもよいし、積層方向に積層される2以上の層によって構成されてもよい。本実施形態では、ベース層Bsと接触層Ctとは、それぞれ異なる造形条件で造形される。以下では、ベース層Bsと接触層Ctとを異なる造形条件で造形する工程のことを、第1工程とも呼ぶ。より詳細には、第1工程では、ベース層Bsと接触層Ctとは、それぞれで、造形材料の種別と、積層ピッチと、積層方向における分離距離と、造形パターンと、横方向における層の配置に関する条件との少なくともいずれかが異なるように造形される。横方向における層の配置に関する条件は、横方向における層の数に関する個数条件と、横方向における層の大きさに関するサイズ条件と、横方向における層同士の間隔に関する間隔条件とを含む。本実施形態では、「横方向における層の配置に関する条件が異なる」と言う場合、個数条件とサイズ条件と間隔条件との少なくともいずれかが異なることを意味する。
【0044】
横分割されたラフト層RLは、横方向に並ぶ2以上の層を有する。ラフト層RLに含まれる、互いに横方向に並ぶ2つの層を、それぞれ、第1層および第2層とも呼ぶ。第1層および第2層は、積層方向において1つの層のみによって構成されてもよいし、積層方向に積層された2以上の層によって構成されてもよい。後述するように、第1層と第2層とは、第1層を造形するための経路と、第2層を造形するための経路とが繋がらないように造形される。このように第1層を造形するための経路と第2層を造形するための経路とが繋がっていなければ、第1層と第2層とは、互いに接触していてもよい。本実施形態では、第1層と第2層とは、同じ造形条件で造形される。これに対して、他の実施形態では、第1層と第2層とをそれぞれ異なる造形条件で造形してもよい。このように、第1層と第2層とをそれぞれ異なる造形条件で造形する工程のことを、第2工程とも呼ぶ。第1造形工程は、第1工程と第2工程との少なくともいずれかを備えていればよい。
【0045】
図8の例では、ラフト層RLは、互いに横方向に並ぶ複数の分割ラフトRpによって構成されており、例えば、一の分割ラフトRpである第1分割ラフトRp1を第1層とした場合、別の分割ラフトRpである第2分割ラフトRp2は、第2層に相当する。
【0046】
第1分割ラフトRp1および第2分割ラフトRp2は、それぞれ、上述したベース層Bsと接触層Ctと中間層Mdとを有している。第1分割ラフトRp1が備えるベース層Bs、接触層Ct、中間層Mdのことを、それぞれ、第1ベース層Bs1、第1接触層Ct1、第1中間層Md1とも呼ぶ。第2分割ラフトRp2が備えるベース層Bs、接触層Ct、中間層Mdのことを、それぞれ、第2ベース層Bs2、第2接触層Ct2、第2中間層Md2とも呼ぶ。第1ベース層Bs1と第2ベース層Bs2とは、互いに横方向に並ぶベース層Bsである。第1接触層Ct1と第2接触層Ct2とは、互いに横方向に並ぶ接触層Ctである。第1中間層Md1と第2中間層Md2とは、互いに横方向に並ぶ中間層Mdである。第1接触層Ct1および第1中間層Md1は、第1ベース層Bs1に対応して、第1ベース層Bs1の上方に配置される。第2接触層Ct2および第2中間層Md2は、第2ベース層Bs2に対応して、第2ベース層Bs2の上方に配置される。第1造形工程では、このようなベース層Bs、接触層Ctおよび中間層Mdの配置が実現されるように、ラフト層RLが造形されるとも言える。また、データ生成工程では、このようなベース層Bs、接触層Ctおよび中間層Mdの配置が実現されるようにラフトデータが生成されるとも言える。なお、例えば、第1接触層Ct1を第1層とした場合、第2接触層Ct2は、第2層に相当する。ベース層Bsや中間層Mdについても同様である。
【0047】
上述したように、本実施形態では、ベース層Bsと接触層Ctとは、第1造形工程において、それぞれ異なる造形条件で造形される。本実施形態では、ベース層Bsと接触層Ctとは、それぞれで分離距離が異なるように造形される。これらの造形条件の詳細については後述する。
【0048】
図9は、
図7のステップS100で実行されるデータ生成処理のフローチャートである。ステップS105にて、データ生成部411は、他のコンピューター、記録媒体、あるいは、記憶装置430から、造形を所望する造形物OBの形状を表す形状データを取得する。データ生成部411は、ステップS105では、形状データとして、三次元CADソフトや三次元CGソフト等を用いて作成された三次元形状データを取得する。この場合、形状データとして、例えば、STL形式やAMF形式等のデータを用いることができる。また、本実施形態には、形状データには、造形物OBの造形に使用される材料の種別に関する情報が関連付けられている。本実施形態では、造形物OBの全体が第1材料によって造形される。なお、形状データは、造形物OBの形状を表すデータであればよく、例えば、他の三次元造形装置や他の情報処理装置によって生成された本体データや造形データであってもよい。この場合、データ生成部411は、本体データや造形データを解析することによって、造形物OBの形状を得てもよい。
【0049】
ステップS110にて、データ生成部411は、スライスデータを生成する。スライスデータとは、複数の層にスライスされた造形物OBの形状を表すデータのことを指す。より詳細には、データ生成部411は、形状データに表された造形物OBの形状をXY平面に沿って複数の層にスライスすることによって、スライスデータを生成する。
【0050】
ステップS115からステップS140にて、データ生成部411は、ラフトデータを生成する。
【0051】
ステップS115にて、データ生成部411は、ラフト造形条件の設定画面を表示部480の表示部に表示するとともに、ラフト層RLの造形条件を表すラフト造形条件の設定をユーザーから受け付ける。ユーザーは、
図6に示した入力装置470を用いて、表示部480に表示された設定画面を操作し、ラフト造形条件の設定を行う。本実施形態におけるステップS115では、ラフト造形条件に関する各設定項目のうち一部がユーザーによって設定される。
【0052】
図10は、ラフト造形条件GCの設定画面SCを示す説明図である。
図10には、ラフト造形条件GCを設定するための設定項目として、全般に関する設定項目と、接触層Ctに関する設定項目と、中間層Mdに関する設定項目と、ベース層Bsに関する設定項目とが示されている。ユーザーは、ステップS115において、例えば、上記の項目ごとに数値を入力することや、チェックボックスを用いた選択を実行することによって、造形条件を設定する。
図10に示した設定項目のうち、上記の項目のうち一部や全部は、ユーザーによって設定可能でなくてもよく、例えば、データ生成部411や制御部300によってユーザーによらずに定められてもよい。
【0053】
図10には、全般に関する設定項目として、拡張幅、縦分割の有無、横分割の有無、分割ラフト形状、分割ラフトサイズ、分割ラフト間隔、および、分割ラフト角度が示されている。「拡張幅」は、積層方向に沿って見たときに、ラフト層RLを造形物OBの外側に拡張させる幅を表す。例えば、拡張幅がゼロに設定された場合、積層方向に沿って見たときに、ラフト層RLは、造形物OBの外側に突出しないように造形される。「縦分割の有無」は、ラフト層RLを縦方向に分割するか否かを決定する設定項目である。「横分割の有無」は、ラフト層RLを横方向に分割するか否かを決定する設定項目である。本実施形態では、「縦分割の有無」および「横分割の有無」は、それぞれ「有り」に設定される。「分割ラフト形状」とは、各分割ラフトの形状を表す。本実施形態では、分割ラフト形状として、矩形状と正六角形状とを択一的に選択可能である。「分割ラフトサイズ」は、各分割ラフトの大きさを表す。本実施形態では、上述したサイズ条件は、「分割ラフト形状」と「分割ラフトサイズ」とに基づいて決定される。「分割ラフト間隔」は、分割ラフト同士の間隔の広さを表す。本実施形態では、上述した間隔条件は、この「分割ラフト間隔」に基づいて決定される。「ラフト角度」は、XY平面において各分割ラフトを予め定められた基準姿勢から回転させる角度を表す。
【0054】
図10には、接触層Ctに関する設定項目として、線幅、積層ピッチ、積層数、分離距離、フィルパターン、フィル角度、輪郭の周数、充填率および使用材料が示されている。「線幅」は、ノズル61から吐出する造形材料の幅を表す。「積層ピッチ」は、1層ごとの高さを表す。「積層数」は、積層方向における層の数を表す。「分離距離」は、積層方向における分離距離を表す。より詳細には、分離距離は、造形時においてノズル61を造形済みの最上層から離す距離を表す。そのため、分離距離を大きくしても、実際の造形物には隙間は形成されず、造形材料が指定された距離だけ上方から吐出されることになる。なお、分離距離は、実寸法に限らず、層数によって指定可能であってもよい。本実施形態では、接触層Ctに関する分離距離は、分離距離Ds1に設定される。「フィルパターン」は、各接触層Ctの内部領域を埋めるためのノズル61の移動経路を示すパターンを表す。「フィル角度」は、指定されたフィルパターンの角度を表す項目である。「周数」は、各接触層Ctの輪郭を形成するための周数を表す項目である。「周数」として0周が指定された場合、輪郭は形成されない。フィルパターンとフィル角度と周数とをまとめて、「造形パターン」とも呼ぶ。本明細書では、「造形パターンが異なる」と言う場合、フィルパターンとフィル角度と周数との少なくともいずれかが異なることを意味する。「充填率」は、指定されたフィルパターンによって各接触層Ctの内部領域を埋める面積割合を表す。「使用材料」は、接触層Ctの造形に使用される材料の種別を表す。本実施形態では、接触層Ctに関する使用材料は、第2材料に設定される。
【0055】
上記の接触層Ctに関する設定項目と同様に、
図10には、中間層Mdに関する設定項目と、ベース層Bsに関する設定項目とが示されている。本実施形態では、中間層Mdおよびベース層Bsに関する分離距離は、分離距離Ds1よりも小さい分離距離Ds2に設定される。また、中間層Mdおよびベース層Bsに関する使用材料は、接触層Ctと同様に第2材料に設定される。
【0056】
図11は、フィルパターンの例を示す図である。本実施形態では、接触層Ct、中間層Mdおよびベース層Bsのフィルパターンとして、
図11に示すパターンAからパターンEまでの異なるフィルパターンが指定可能になっている。
図11に示したフィルパターンは、いずれも、1周分の輪郭の内側にフィルパターンが配置された例を示している。
図11に示した各フィルパターンが選択された場合、第1造形工程では、選択されたフィルパターンに従った3以上の部分経路が形成される。
【0057】
上述したステップS115で設定されるラフト造形条件は、後述するステップS140で生成されるラフトデータに反映される。その結果、ラフト造形条件は、後述するラフト層RLの仮想形状や、
図7のステップS210で造形されるラフト層RLの形状に反映される。例えば、上記の
図8に示したラフト層RL1は、拡張幅が0より大きい値に設定され、分割ラフト形状が正六角形状に設定され、分割ラフト間隔が0より大きい値に設定されることで生成される。分割ラフト形状が正六角形状である場合、分割ラフト形状が矩形状である場合と比較して、分割ラフトRpの角部の角度が大きくなるため、ラフト層RLの剥離をより抑制できる。また、例えば、分割ラフト形状が五角形状である場合や、角の個数が七個以上の多角形状である場合と比較して、各分割ラフトRpを規則的に並べやすい。
【0058】
図12は、本実施形態におけるラフト層RLの第2の例を説明する模式図である。
図12は、ラフト層RLの例として、ラフト層RL2を
図8と略同様に示している。
図12に示したラフト層RL2は、ラフト層RL1とは違って、分割ラフト形状が四角形状に設定されることで生成される。
【0059】
第1造形工程では、接触層Ctは、造形時に造形層MLが接触層Ctから剥離することを抑制するとともに、造形物OBの品質をより高くできるように造形されると好ましい。また、第1造形工程では、ベース層Bsは、造形時にラフト層RLが造形面211から剥離することを抑制できるように造形されると好ましい。そのため、接触層Ctやベース層Bsに関する造形条件は、上記のような接触層Ctやベース層Bsを造形できるように設定されると好ましい。例えば、本実施形態では、上述したように、接触層Ctに関する分離距離Ds1は、ベース層Bsに関する分離距離Ds2よりも大きい。このように分離距離Ds1がより大きいことで、ノズル61から吐出される接触層Ctを造形するための材料の上面が、ノズル61の下端面によって押されにくくなる。そのため、接触層Ctと造形物OBとの密着強度が過度に高くなることを抑制でき、
図7のステップS230で接触層Ctを造形物OBから分離させやすくできる。従って、造形物OBからのラフト層RLの分離に起因して、造形物OBの品質が低下することを抑制できる。また、本実施形態では、分離距離Ds2がより小さいことで、ノズル61から吐出されるベース層Bsを造形するための材料の上面が、ノズル61の下端面によって押されやすくなる。そのため、ベース層Bsと造形面211との密着強度を低くでき、造形時におけるラフト層RLの剥離を抑制できる。
【0060】
他の実施形態では、接触層Ctとベース層Bsとで、分離距離に代えて、あるいは、これに加えて、使用材料や、積層ピッチや、造形パターン等の設定を異ならせてもよい。例えば、ベース層Bsと造形面211との密着強度をより高めるようにベース層Bsの使用材料を選択し、造形層MLと接触層Ctとの密着強度が過度に高くならないように接触層Ctの使用材料を選択してもよい。また、例えば、造形層MLと接触層Ctとの密着強度が過度に高くならないように、例えば、積層ピッチをより大きくすることや、造形層MLとの密着面積がより小さいフィルパターンやフィル角度を用いることや、充填率を低くすることや、横方向に並ぶ層同士の間隔を広げることで横方向に並ぶ層の数がより少なくなることが実現されるように、接触層Ctに関する造形条件を設定してもよい。また、ベース層Bsと造形面211との密着強度をより高めるために、例えば、積層ピッチをより小さくすることや、造形層MLとの接触面積がより大きいフィルパターンやフィル角度を用いることや、充填率を高くすることや、横方向に並ぶ層同士の間隔を狭くすることで横方向に並ぶ層の数がより多くなることが実現されるように、造形条件を設定してもよい。
【0061】
なお、本実施形態のように中間層Mdを造形することで、例えば、接触層Ctとベース層Bsとを積層方向に良好に繋ぐことができる。また中間層Mdによって、ラフト層RL全体の層数を増加させることでラフト層RL全体の強度をより高めることができる。このような中間層Mdを、接触層Ctやベース層Bsよりも速く造形すれば、例えば、接触層Ctやベース層Bsの層数を増加させてラフト層RL全体の強度を高める場合と比較して、ラフト層RLをより効率良く造形できる。そのため、中間層Mdに関する造形条件は、中間層Mdをより効率良く造形できるように設定されると好ましい。この場合、例えば、中間層Mdに関する充填率を接触層Ctやベース層Bsに関する充填率よりも低くしてもよいし、中間層Mdに関する線幅を接触層Ctやベース層Bsに関する線幅よりも大きくしてもよいし、中間層Mdに関するフィルパターンを、より直線的なフィルパターンや、ノズル61の移動距離がより短いフィルパターンに設定してもよい。
【0062】
図9のステップS120にて、データ生成部411は、包括領域を特定する。包括領域は、積層方向に沿って見たときに造形物OBの最下層が造形される領域を表す最下層領域と、接触層Ctが造形される領域を表す接触層領域との少なくとも一方の領域を包括する矩形領域のことを指す。本実施形態では、包括領域は、最下層領域を包括する矩形領域として特定される。データ生成部411は、ステップS120において、例えば、形状データやスライスデータに基づいて、包括領域を特定する。
【0063】
図13は、
図9のステップS120で包括領域IAが特定される様子を示す説明図である。
図13では、造形物OBの最下層ULの形状にハッチングが付されている。
図13に示した最下層ULは、その外形の内側に孔部HLを有している。本実施形態におけるステップS120では、包括領域IAは、領域RA1よりもX方向およびY方向に予め定められた拡張寸法分大きく、かつ、最下層ULを包括するXY矩形領域として特定される。XY矩形領域とは、X方向に沿う2辺とY方向に沿う2辺とを有する矩形領域のことを指す。領域RA1は、積層方向に沿って見たときに、回転された最下層ULrを包括する最小のXY矩形領域である。回転された最下層ULrは、XY平面において点PXを中心として方向d1に角度θ分回転された最下層ULを表す。点PXは、例えば、最下層ULrの外形の重心として定められる。角度θは、ステップS120で設定されるラフト角度に対応する角度である。より詳細には、角度θは、ラフト角度に対して、同じ絶対値を有し、正負が逆の角度である。包括領域IAと領域RA1とのX方向およびY方向における寸法差、つまり、上述した拡張寸法は、例えば、ラフト造形条件GCに含まれる拡張幅に基づいて決定される。
【0064】
図9のステップS125にて、データ生成部411は、ステップS120で特定された包括領域IAを複数の分割領域に分割する。
【0065】
図14は、
図9のステップS125で包括領域IAが複数の分割領域PAに分割される様子を示す説明図である。
図15は、分割領域PA同士の間隔sd1を説明する図である。ステップS125では、包括領域IAは、各分割領域PAが予め定められた形状および大きさを有するように、かつ、分割領域PA同士が予め定められた間隔を空けて配置されるように、複数の分割領域PAに分割される。また、各分割領域PAは、その一部が包括領域IAに重なるように生成される。例えば、
図14では、包括領域IAの外縁近傍に生成される分割領域PAでは、その領域の一部のみが包括領域IAと重なり、これらの分割領域PAの内側に生成される分割領域PAでは、その領域の全部が包括領域IAと重なっている。分割領域PAの形状は、
図9のステップS115で設定された分割ラフト形状に基づいて定められる。
図14の例では、各分割領域PAの形状は、正六角形状である。また、分割領域PAの形状は、同様にステップS115で設定された分割ラフトサイズに基づいて定められる。また、間隔sd1は、同様にステップS115で設定された分割ラフト間隔に基づいて定められる。本実施形態におけるステップS125では、間隔sd1は、分割ラフト間隔に基づいて、
図15に示した分割領域PA同士の境界BRの幅が調整されることで調整される。
【0066】
図9のステップS130にて、データ生成部411は、ステップS125で生成された各分割領域PAを、点PXを回転中心として、方向d1の逆方向d2に角度θの大きさと同じ角度、回転させる。ステップS130では、例えば、包括領域IAを各分割領域PAとともに回転させることで、各分割領域PAが回転される。
【0067】
図16は、
図9のステップS130で各分割領域PAが回転される様子を示す説明図である。
図16には、ステップS130で回転された包括領域IAを表す包括領域IArと、同様に回転された分割領域PAを表す分割領域PArが示されている。分割領域PArは、積層方向に沿って見たときに、分割領域PAに対して、設定された分割ラフト角度に対応する角度、傾いている。
【0068】
図9のステップS135にて、データ生成部411は、重複領域を特定する。重複領域は、積層方向に沿って見たときに、上述した、最下層領域と接触層領域との少なくとも一方の領域と、分割領域PAとが重なる領域である。より詳細には、本実施形態で特定される重複領域は、最下層領域と分割領域PArとの少なくとも一部が重なる領域である。
【0069】
図17は、
図9のステップS135で重複領域DAが特定される様子を示す説明図である。
図17では、重複領域DAに点模様のハッチングが付されている。
図17に示すように、最下層ULの外形よりも外側の領域や、空白領域BLは、重複領域DAとして特定されない。空白領域BLは、積層方向に沿って見たときに、分割領域PArと最下層ULの孔部HLとが重なる領域であり、かつ、重複領域DAとは異なる領域である。
【0070】
なお、例えば、分割ラフト角度としてゼロ度が設定された場合、
図9のステップS130が省略されてもよい。この場合、ステップS120では、包括領域IAとして、例えば、
図13に示した最下層ULを包括するXY矩形領域が特定されてもよい。
【0071】
図9のステップS140にて、データ生成部411は、ラフトデータを生成する。データ生成部411は、ステップS140では、後の第1造形工程でラフトデータに従ってラフト層RLを形成する場合に重複領域DAに層が形成されるように、ラフトデータを生成する。より詳細には、データ生成部411は、ステップS140では、重複領域DAにラフト層RLを造形するためのパスが形成されるようにラフトデータを生成する。
【0072】
図18は、ステップS140でラフトデータが生成される様子の例を示す説明図である。
図18には、第1重複領域DA1と、第2重複領域DA2と、第3重複領域DA3と、第1重複領域DA1と第2重複領域DA2との間に位置する空白領域BLとが示されている。第1重複領域DA1から第3重複領域DA3は、それぞれ、一の分割領域PArと最下層ULとが重複する領域を表している。第1重複領域DA1から第3重複領域DA3には、それぞれ、分割ラフトRpが1つずつ形成される。
図18は、第1重複領域DA1から第3重複領域DA3に、それぞれ、各分割ラフトRpにおけるベース層Bsの輪郭を形成するための経路データRD1と、当該輪郭の内部領域を形成するための経路データRD2とが生成された様子を模式的に示している。また、
図18は、空白領域BLに、いずれの経路データも生成されないことを示している。
【0073】
図9のステップS140では、ラフト経路データは、
図9のステップS115で設定されたラフト造形条件を満たすように生成される。また、ラフト経路データは、各分割ラフトRpを形成するための経路同士が繋がらないように生成される。例えば、分割ラフト間隔がゼロに設定された場合、隣り合う分割ラフトRp同士は接触するが、これらの分割ラフトRpを形成するための経路同士は繋がらない。
【0074】
図9のステップS145にて、データ生成部411は、本体データを生成する。本実施形態では、ステップS145が完了することで、ラフトデータと本体データとを含む造形データが生成される。
【0075】
ステップS150にて、データ生成部411は、生成された造形データに基づいて、ラフト層RLおよび造形層MLの仮想形状を表示部480に表示させる。ラフト層RLの仮想形状は、ラフトデータに基づいて生成され、造形層MLの仮想形状は、本体データに基づいて生成される。ユーザーは、このように表示部480に表示されたラフト層RLや造形層MLの仮想形状に基づいて、生成されたラフトデータや本体データが適切であるか否かを視覚的に判断できる。ラフト層RLや造形層MLの仮想形状は、例えば、ラフト層RLや造形層MLに含まれる各層を形成するための経路が視認可能なように表示部480に表示されてもよい。なお、他の実施形態では、ステップS150では、例えば、ラフトデータの仮想形状のみが表示部480に表示されてもよい。また、ステップS150は、省略されてもよい。
【0076】
以上で説明した本実施形態における三次元造形物の製造方法によれば、第1造形工程において、ステージ210の造形面211に接するベース層Bsと、造形物OBに接する接触層Ctとを、それぞれで、第1造形材料の種別と、積層ピッチと、積層方向における分離距離と、造形パターンと、横方向における層の配置に関する条件との少なくともいずれかが異なるように造形することで、ラフト層RLを造形する。そのため、ステージ210や造形物OBの形状や材質等に応じて、例えば、接触層Ctを、接触層Ctと造形物OBとの密着強度が過度に高くならないような造形条件で造形しつつ、ベース層Bsを、ベース層Bsと造形面211との密着強度がより高くなるような造形条件で造形できる。このように、ラフト層RLが使用される状況に応じて、適切なラフト層RLを造形できる可能性が高まる。
【0077】
また、本実施形態では、第1造形工程は、横方向に並ぶ第1ベース層Bs1および第2ベース層Bs2と、横方向に並ぶ第1接触層Ct1および第2接触層Ct2とを造形する工程を有する。このようにすれば、第1ベース層Bs1と第2ベース層Bs2とが、それぞれ別個の層として造形されるため、例えば、ラフト層RLが一のベース層Bsのみを有する場合と比較して、造形中にベース層Bsの剥離に伴ってラフト層RLがステージ210から剥離することを抑制できる。また、第1接触層Ct1と第2接触層Ct2とが、それぞれ別個の層として造形されるため、例えば、ラフト層RLが一の接触層Ctのみを有する場合と比較して、造形中に接触層Ctの剥離に伴ってラフト層RLがステージ210から剥離することを抑制できる。そのため、ラフト層RLによって、造形中に造形物OBがステージ210から剥離することをより抑制できる。
【0078】
また、本実施形態では、ラフト造形条件の設定画面を表示部480に表示し、ラフト造形条件の設定を受付ける工程を有する。そのため、ユーザーにラフト造形条件を提示するとともに、ラフト造形条件の設定を受け付けることができる。より詳細には、本実施形態では、接触層Ctに関する造形条件の設定項目とベース層Bsに関する造形条件の設定項目とがそれぞれ個別に表示部480に表示され、各項目の設定が個別に受け付けられる。そのため、ユーザーが、接触層Ctやベース層Bsの造形条件をそれぞれ簡易に設定できる。
【0079】
また、本実施形態では、第1造形工程に先立って実行されるラフトデータ生成工程では、包括領域IAを特定し、特定された包括領域IAを、各分割領域PAの少なくとも一部が包括領域IAに重なるように複数の分割領域PAに分割し、第1造形工程において造形物OBの最下層ULと分割領域PAとが重なる領域にラフト層RLが造形されるようにラフトデータを生成する。そのため、ラフト層RLが不足することや、余分なラフト層RLが生成されることを抑制できる。また、余分なラフト層RLの生成が抑制されることで、ラフトデータのデータサイズや、第1造形工程でラフト層RLの造形に使用される材料の量を削減できる。
【0080】
B.第2実施形態:
図19は、第2実施形態におけるラフト層RLの第1の例を説明する模式図である。
図19は、ラフト層RLの例として、ラフト層RL3を
図8と略同様に示している。また、
図19は、ラフト層RL3を造形するために設定されるラフト造形条件GC2の一部を抜粋して示している。本実施形態では、接触層Ctbは、第1実施形態と違って、横方向に分割されない。また、本実施形態では、接触層Ctbは、第2材料ではなく第1材料によって造形される。本実施形態における三次元造形装置100や情報処理装置400のうち、特に説明しない部分については、第1実施形態と同様である。
【0081】
図19に示すように、本実施形態では、ラフト造形条件GC2において、接触層の横分割は、「無し」に設定されている。一方で、中間層およびベース層の横分割は、第1実施形態と同様に「有り」に設定されている。また、本実施形態では、接触層Ctに関する使用材料としては、第1材料が設定されている。一方で、中間層Mdおよびベース層Bsに関する使用材料としては、第1実施形態と同様に第2材料が設定されている。本実施形態では、こうして設定されるラフト造形条件GC2に基づいて、
図9のステップS140でラフトデータが生成され、このラフトデータに基づいて、
図7のステップS10でラフト層RL3が造形される。
【0082】
図19に示す例では、ラフト造形条件GC2により、第1造形工程において、互いに横方向に並ぶ複数の分割ラフトRpbと、1つの接触層Ctbとを有するラフト層RL3が造形される。各分割ラフトRpbは、接触層を有しておらず、ベース層Bsと中間層Mdとを有している。第1実施形態と略同様に、一の分割ラフトRpbである第1分割ラフトRp1bを第1層とした場合、他の分割ラフトRpbである第2分割ラフトRp2bは、第2層に相当する。接触層Ctbは、複数の分割ラフトRpbの上方に積層される。つまり、ラフト層RL3では、接触層Ctbが、第1ベース層Bs1と第2ベース層Bs2とを含む複数のベース層Bsに跨がるとも言える。また、ラフト層RL3では、ベース層Bsと接触層Ctbとで、横方向における層の配置に関する条件のうち、個数条件が異なるように造形されるとも言える。また、
図19に示す例では、接触層Ctbの造形には、造形物OBの最下層ULの造形に用いられる材料と同じであり、かつ、中間層Mdおよびベース層Bsの造形に用いられる材料とは異なる材料が用いられる。つまり、接触層Ctbは、造形物OBの最下層と同様に、第1材料によって造形される。
【0083】
ラフト層RL2を造形するためのラフトデータを生成するには、
図9のステップS120にて、例えば、まず、形状データに基づいて、接触層Ctbが造形される領域として、領域RA1を拡張幅に基づいて拡張した領域を特定する。その後、包括領域を、この接触層Ctbが造形される接触層領域を包括する矩形領域として特定する。そして、ステップS135では、重複領域として、接触層領域と分割領域とが重なる領域が特定される。より詳細には、ステップS135では、重複領域として、例えば、接触層領域と分割領域との少なくとも一部が重なる領域が特定される。こうして特定される重複領域には、ベース層Bsおよび中間層Mdを造形するためのラフト経路データが生成される。また、接触層領域には、接触層Ctbを造形するためのラフト経路データが生成される。
【0084】
図20は、第2実施形態におけるラフト層RLの第2の例を説明する模式図である。
図20は、ラフト層RLの例として、ラフト層RL4を
図19と略同様に示している。また、
図20は、ラフト層RL4を造形するために設定されるラフト造形条件GC3の一部を抜粋して示している。
図20に示すように、ラフト層RL4は、ラフト層RL3とは違って、分割ラフト形状が四角形状に設定されることで生成される。
【0085】
以上で説明した本実施形態における三次元造形物の製造方法によれば、第1造形工程は、横方向に並ぶ第1ベース層Bs1および第2ベース層Bs2と、第1ベース層Bs1と第2ベース層Bs2とに跨がる接触層Ctbとを造形する工程を有する。このようにすれば、造形中にベース層Bsの剥離に伴ってラフト層RLがステージ210から剥離することを抑制できる。また、接触層Ctが第1ベース層Bs1と第2ベース層Bs2に跨がって造形されるので、各ベース層Bsに対して1対1で接触層が造形される場合と比較して、接触層同士の境界部分を減らすことやなくすことができる。そのため、第2造形工程において、この境界部分に造形層が食い込むように密着することを抑制できる。また、このような密着が抑制されることで、造形物OBからのラフト層RLの分離時に造形物OBの品質が低下することを抑制できる。このように、本実施形態では、ラフト層RLによって造形物OBのステージ210からの剥離を抑制しつつ、造形物OBの品質をより向上できる可能性が高まる。
【0086】
また、本実施形態では、接触層Ctbの造形に用いられる材料は、ベース層Bsの造形に用いられる材料とは異なる材料であり、かつ、造形物OBの最下層の造形に用いられる材料と同一の材料である。このように接触層Ctbの造形に用いられる材料と、造形物OBの最下層の造形に用いられる材料とが同じ材料である場合、接触層Ctbと造形物OBの最下層とを、同様の色や質感に造形できる。そのため、造形物OBのうちラフト層RLと接触する部分が、ラフト層RLの造形に用いられる材料によって汚損することを抑制できる。本実施形態では、例えば、造形物OBからラフト層RLを分離した後に、造形物OBにラフト層RLの一部が付着したまま残存した場合であっても、そのような残存物を研磨や切削によって除去することで、造形物OBの品質を容易に高めることができる。
【0087】
なお、本実施形態のように、接触層Ctbの造形に、造形物OBの最下層の造形に用いられる材料と同じ材料を用いる場合、接触層Ctbと造形物OBとの密着強度がより高まりやすい。そのため、接触層Ctbに関する造形条件は、接触層Ctbと造形物OBとの密着強度が過度に高まらないように設定されると好ましい。この場合、例えば、上記のように横方向に並ぶ層同士の間隔を広げることで横方向に並ぶ層の数がより少なくなることに加え、あるいは、これに代えて、積層ピッチをより大きくすることや、造形物OBとの接触面積がより小さいフィルパターンやフィル角度を用いることや、充填率を低くすることが実現されるように、接触層Ctbに関する造形条件を設定してもよい。また、他の実施形態では、例えば、接触層を第1実施形態と同様に横分割するとともに、第2実施形態と同様に、各接触層の造形に、ベース層の造形に用いられる材料とは異なり、かつ、造形物OBの最下層の造形に用いられる材料と同一の材料を用いてもよい。
【0088】
C.第3実施形態:
図21は、第3実施形態におけるラフト層RLの例を説明する模式図である。
図21は、ラフト層RLの例として、ラフト層RL5を
図19と略同様に示している。また、
図21は、ラフト層RL5を造形するために設定されるラフト造形条件GC4の一部を抜粋して示している。本実施形態における第1造形工程は、第1実施形態とは違って、横方向に並ぶ第1の接触層Ctと第2の接触層Ctとをそれぞれ異なる造形条件で造形する工程を有する。本実施形態における三次元造形装置100や情報処理装置400のうち、特に説明しない部分については、第1実施形態と同様である。
【0089】
造形物OB2は、造形物OBと同様に、第1材料を用いて造形される。造形物OB2は、第1部分Pt1と、第1部分Pt1よりも高さの高い第2部分Pt2とを有する。本実施形態では、第2分割ラフトRp2cの第2接触層Ct2bは、第2部分Pt2に接触している。第1分割ラフトRp1cの第1接触層Ct1bは、第1部分Pt1に接触し、かつ、第2部分Pt2に接触しない。
【0090】
図21に示すように、本実施形態におけるラフト造形条件GC4では、接触層に関する使用材料として、基本の材料と、特定層に関する材料とが個別に設定可能に構成されている。特定層とは、複数の接触層Ctのうち、第2部分Pt2に接触する接触層Ctのことを指す。「特定層に関する材料」は、この特定層の造形に用いられる材料を表す。「基本の材料」は、複数の接触層Ctのうち、特定層以外の層の造形に用いられる材料を表す。つまり、「基本の材料」として設定された材料は、複数の接触層Ctのうち、第1部分Pt1に接触し、かつ、第2部分Pt2に接触しない層の造形に用いられる。
【0091】
本実施形態では、「基本の材料」として第2材料が設定され、「特定部位に関する材料」として第1材料が設定されている。そのため、特定層に相当する第2接触層Ct2bの造形には第2材料が用いられ、特定層に相当しない第1接触層Ct1bの造形には第1材料が用いられる。つまり、本実施形態では、第1接触層Ct1bと第2接触層Ct2bとが、それぞれ異なる造形条件で、より詳細には、それぞれの使用材料が異なるように造形される。本実施形態では、第1分割ラフトRp1cと第2分割ラフトRp2cとがそれぞれ異なる造形条件で造形されるとも言える。また、本実施形態では、第2部分Pt2に接触する層の造形に用いられる材料は、第1部分Pt1に接触し第2部分Pt2に接触しない層の造形に用いられる材料とは異なる材料であり、かつ、造形物OB2の最下層の造形に用いられる材料と同一の材料である。
【0092】
以上で説明した本実施形態における三次元造形物の製造方法によれば、第1造形工程は、横方向に並ぶ第1接触層Ct1と第2接触層Ct2とをそれぞれ異なる造形条件で造形する工程を有する。このようにすれば、例えば、造形を所望する造形物の形状に対応して、それぞれ異なる造形条件で第1接触層Ct1と第2接触層Ct2とを造形できる。そのため、造形物の品質をより高めることができる。
【0093】
また、本実施形態では、ラフト層RLのうち、第1部分Pt1よりも高さの高い第2部分Pt2に接触する層の造形に用いられる材料は、第1部分Pt1に接触し第2部分Pt2に接触しない層の造形に用いられる材料とは異なる材料であり、かつ、造形物OBの最下層の造形に用いられる材料と同一の材料である。このようにすれば、造形物OB2のうち、高さがより高い第2部分Pt2とラフト層RLとの密着強度をより高めることができるので、造形中に造形物OB2の姿勢をより安定させることができる。また、第1部分Pt1に接触し第2部分Pt2に接触しない層の造形には、第2部分に接触する層の造形に用いられる材料とは異なる材料を用いるので、ラフト層RLの造形層MLからの分離性を向上できる。また、例えば、第1部分に接触し第2部分に接触しない層の造形に、より安価な材料を用いることができる。
【0094】
D.他の実施形態:
(D-1)上記実施形態における第1造形工程では、第1工程が実行されている。これに対して、第1造形工程において、第1工程を実行しなくてもよく、例えば、第2工程のみを実行してもよい。第2工程のみを実行することによっても、横方向に並ぶ第1層と第2層とがそれぞれ別個の層として造形されるため、ラフト層RLがステージ210から剥離することを抑制できる。そして、第1層と第2層とをそれぞれ異なる造形条件で造形できるため、例えば、第1層と第2層とのうち、積層方向に沿って見たときに、造形物OBのより外側の部分の近傍に造形される層と造形面211との密着強度がより高まるように第1層や第2層を造形することで、ラフト層RLの剥離に起因して造形物OBがステージ210から剥離することを抑制できる。また、第1層と第2層とのうち、造形物OBのより内側の部分の近傍に造形される層と造形物OBとの密着強度が過度に高くならないように第1層や第2層を造形することで、造形物OBからのラフト層RLの分離時に造形物OBの品質が低下することを抑制できる。
【0095】
また、第2工程のみを実行する場合に、例えば、第3実施形態で説明したように、ラフト層RLのうち、造形物OB2の第2部分Pt2に接触する層の造形に、第1部分Pt1に接触し第2部分Pt2に接触しない層の造形に用いられる材料とは異なり、かつ、造形物OBの最下層の造形に用いられる材料と同一の材料を用いることも可能である。このようにすれば、第3実施形態と同様に、造形中に造形物OB2の姿勢をより安定させることや、ラフト層RLの造形層MLからの分離性を向上させることができる。また、例えば、第1部分に接触し第2部分に接触しない層の造形に、より安価な材料を用いることができる。また、第1部分Pt1に接触し第2部分Pt2に接触しない層の造形に、造形面211との密着強度がより高い材料を用いることで、ラフト層RLの全体がステージ210から剥離することを抑制できる。
【0096】
(D-2)上記実施形態における第1造形工程では、横分割が実行されなくてもよい。つまり、第1造形工程では、ラフト層RLとして、ベース層Bsと接触層Ctとを有する一のラフト層のみが造形されてもよい。この場合、このラフト層におけるベース層Bsと接触層Ctとは、それぞれで、造形材料の種別と、積層ピッチと、離距離と、造形パターンとの少なくともいずれかが異なるように造形される。
【0097】
(D-3)上記実施形態におけるデータ生成工程では、矩形領域である包括領域IAの特定と、包括領域IAの分割と、重複領域DAの特定とを実行し、第1造形工程において最下層ULと分割領域PAとが重なる領域にラフト層RLが形成されるようにラフトデータを生成している。これに対して、ラフトデータは、このように生成されなくてもよい。例えば、造形物OBの最下層を包括する領域として矩形以外の領域を特定するとともに、その領域を分割し、その分割結果に基づいてラフトデータを生成してもよい。また、例えば、包括領域IAを複数の分割領域PAに分割した後に重複領域DAを特定せずに、全ての分割領域PAに対してラフト経路データが生成されるようにラフトデータを生成してもよい。また、横分割を実行しない場合、造形物OBの最下層を包括する領域を分割せずにラフトデータを生成してもよい。また、例えば、三次元造形システム10においてラフトデータを生成しなくてもよく、第1造形工程において、他のコンピューター、記録媒体、あるいは、記憶装置430から取得されたラフトデータを用いてラフト層RLを造形してもよい。
【0098】
(D-4)上記実施形態において、三次元造形装置100は、3つ以上のヘッド200を備えてもよい。このようにすれば、第1材料や第2材料とは異なる材料を造形層MLやラフト層RLの造形に用いることができる。
【0099】
(D-5)上記実施形態において、ヘッド200は、フラットスクリュー40によって材料を可塑化している。これに対してヘッド200は、例えば、インラインスクリューを回転させることによって材料を可塑化するものであってもよい。また、ヘッド200は、フィラメント状の材料をヒーターで可塑化するものであってもよい。
【0100】
(D-6)上記実施形態では、可塑化した材料を積層する材料押出方式を例として説明したが、本開示は、インクジェット方式や、DMD方式(Direct Metal Deposition)、バインダージェット方式等、種々の方式に適用できる。
【0101】
E.他の形態:
本開示は、上述した実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実現することができる。例えば、本開示は、以下の形態によっても実現可能である。以下に記載した各形態中の技術的特徴に対応する上記実施形態中の技術的特徴は、本開示の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、本開示の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0102】
(1)本開示の一形態によれば、三次元造形物の製造方法が提供される。この三次元造形物の製造方法は、第1造形材料を吐出して、ステージの造形面の上に、ラフト層を造形する第1造形工程と、第2造形材料を吐出して、前記ラフト層の上に造形層を積層して造形物を造形する第2造形工程と、を備える。前記ラフト層は、前記第2造形工程の完了後に前記造形物から分離される層である。前記第1造形工程は、前記造形面に接するベース層と、前記ベース層の上方に配置され前記造形物に接する接触層とを、それぞれで、前記第1造形材料の種別と、積層ピッチと、積層方向における分離距離と、造形パターンと、横方向における層の配置に関する条件と、の少なくともいずれかが異なるように造形することで、前記ラフト層を造形する工程と、前記横方向に並ぶ第1層と第2層とをそれぞれ異なる造形条件で造形することで、前記ラフト層を造形する工程と、の少なくともいずれかを備える。
このような形態によれば、ベース層と接触層とをそれぞれ異なる造形条件で造形することや、第1層と第2層とをそれぞれ異なる造形条件で造形することができる。そのため、ラフト層が使用される状況に応じて、造形物のステージからの剥離や、ラフト層上に造形される造形物の品質低下を抑制できるように、適切なラフト層を造形できる可能性が高まる。
【0103】
(2)上記形態では、前記第1造形工程は、前記横方向に並ぶ第1のベース層および第2のベース層と、前記横方向に並ぶ第1の接触層および第2の接触層と、を造形する工程を有していてもよい。このような形態によれば、第1のベース層と第2のベース層とが、それぞれ別個の層として造形されるため、造形中にベース層の剥離に伴ってラフト層がステージから剥離することを抑制できる。また、第1接触層と第2接触層とが、それぞれ別個の層として造形されるため、造形中に接触層の剥離に伴ってラフト層がステージから剥離することを抑制できる。そのため、ラフト層によって、造形物のステージからの剥離をより抑制できる。
【0104】
(3)上記形態では、前記第1造形工程は、前記横方向に並ぶ第1のベース層および第2のベース層と、前記第1のベース層と前記第2のベース層とに跨がる前記接触層と、を造形する工程を有していてもよい。このような形態によれば、第1のベース層と第2のベース層とが、それぞれ別個の層として造形されるため、造形中にベース層の剥離に伴ってラフト層がステージから剥離することを抑制できる。また、接触層が第1ベース層と第2ベース層に跨がって造形されるので、接触層同士の境界部分を減らすことやなくすことができる。そのため、ラフト層によって造形物のステージからの剥離を抑制しつつ、造形物の品質をより向上できる可能性が高まる。
【0105】
(4)上記形態では、前記接触層の造形に用いられる材料は、前記ベース層の造形に用いられる材料とは異なる材料であり、かつ、前記造形物の最下層の造形に用いられる材料と同一の材料であってもよい。このような形態によれば、造形物のうちラフト層と接触する部分が、ラフト層の造形に用いられる材料によって汚損することを抑制できる。
【0106】
(5)上記形態では、前記第1造形工程は、前記横方向に並ぶ第1の接触層と第2の接触層とを、それぞれ異なる造形条件で造形する工程を有していてもよい。このような形態によれば、例えば、造形物の形状に対応して、それぞれ異なる造形条件で第1接触層と第2接触層とを造形できる。そのため、造形物の品質をより高めることができる。
【0107】
(6)上記形態では、前記造形物は、第1部分と、前記第1部分よりも高さの高い第2部分と、を有し、前記ラフト層のうち前記第2部分に接触する層の造形に用いられる材料は、前記ラフト層のうち前記第1部分に接触し前記第2部分に接触しない層の造形に用いられる材料とは異なる材料であり、かつ、前記造形物の最下層の造形に用いられる材料と同一の材料であってもよい。このような形態によれば、造形物のうち、高さがより高い第2部分とラフト層との密着強度をより高めることができるので、造形中に造形物の姿勢をより安定させることができる。また、第1部分に接触し第2部分に接触しない層の造形に、ラフト層の造形層からの分離性を向上させるような材料や、ラフト層と造形面との密着強度を高めるような材料を用いることができる。
【0108】
(7)上記形態では、前記第1造形工程に先立って、前記第1造形工程で前記ラフト層を造形するのに用いられるラフトデータを生成するデータ生成工程を備え、前記第1造形工程は、前記ラフトデータに基づいて前記第1造形材料を吐出する吐出部を制御して、前記ラフト層を造形する工程を有し、前記データ生成工程では、積層方向に沿って見たときに、前記造形物の最下層が造形される領域と、前記接触層が造形される領域と、の少なくとも一方の領域を包括する矩形領域を特定し、特定された前記矩形領域を、複数の分割領域に、各前記分割領域の少なくとも一部が前記矩形領域に重なるように分割し、前記第1造形工程において前記少なくとも一方の領域と前記分割領域とが重なる領域に層が造形されるように前記ラフトデータを生成してもよい。このような形態によれば、ラフト層が不足することや、余分なラフト層が生成されることを抑制できる。
【符号の説明】
【0109】
10…三次元造形システム、20…材料供給部、20a…第1材料供給部、20b…第2材料供給部、22…連通路、30…可塑化部、31…スクリューケース、32…駆動モーター、40…フラットスクリュー、42…溝部、43…凸条部、44…材料流入口、46…中央部、47…上面、48…下面、50…バレル、52…上面、54…案内溝、56…連通孔、58…バレルヒーター、60…吐出部、61…ノズル、62…ノズル開口、65…流路、70…吐出調整部、74…第1駆動部、75…吸引部、76…第2駆動部、77…吐出制御部、100…三次元造形装置、200…ヘッド、200a…第1ヘッド、200b…第2ヘッド、210…ステージ、211…造形面、230…移動機構、300…制御部、310…プロセッサー、320…記憶装置、400…情報処理装置、410…CPU、411…データ生成部、420…メモリー、430…記憶装置、431…プログラム、440…通信インターフェイス、450…入出力インターフェイス、460…バス、470…入力装置、480…表示部