(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158887
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】親水膜及び光学部材
(51)【国際特許分類】
G02B 1/14 20150101AFI20241031BHJP
G02B 1/113 20150101ALN20241031BHJP
【FI】
G02B1/14
G02B1/113
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074502
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】ニデック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002233
【氏名又は名称】ニデックインスツルメンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100138689
【弁理士】
【氏名又は名称】梶原 慶
(72)【発明者】
【氏名】中川 小百合
(72)【発明者】
【氏名】加本 貴則
(72)【発明者】
【氏名】西川 昌之
(72)【発明者】
【氏名】ダマスコ ティ ジェニファー トレス
(72)【発明者】
【氏名】杉本 建
(72)【発明者】
【氏名】川上 政孝
(72)【発明者】
【氏名】山本 明典
(72)【発明者】
【氏名】佐脇 祝彦
【テーマコード(参考)】
2K009
【Fターム(参考)】
2K009AA02
2K009AA15
2K009BB02
2K009CC02
2K009CC09
2K009DD02
2K009EE00
(57)【要約】 (修正有)
【課題】傷がつくことを抑制でき、紫外光(太陽光)が照射されると親水性を回復する機能を維持できる親水膜及び光学部材を提供する。
【解決手段】親水膜70は、複数のチタンの粒子と、複数のシリカの粒子とを含有する。親水膜70の表面粗さは、2.0nm以上7.5nm以下である。第1層20と、第1層20上に配置された第2層60とを備え、第1層20は、複数のチタンの粒子を含有し、第2層60は、複数のシリカの粒子を含有することが好ましい。チタンの粒子の平均粒子径は、15nm以上100nm以下であり、シリカの粒子の平均粒子径は、5nm以上20nm以下であることが好ましい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のチタンの粒子と、
複数のシリカの粒子と
を含有する親水膜であって、
前記親水膜の表面粗さは、2.0nm以上7.5nm以下である、親水膜。
【請求項2】
第1層と、
前記第1層上に配置された第2層と
を備え、
前記第1層は、前記複数のチタンの粒子を含有し、
前記第2層は、前記複数のシリカの粒子を含有する、請求項1に記載の親水膜。
【請求項3】
前記チタンの粒子の平均粒子径は、15nm以上100nm以下であり、
前記シリカの粒子の平均粒子径は、5nm以上20nm以下である、請求項2に記載の親水膜。
【請求項4】
前記第1層は、バインダを更に含有し、
前記第1層中の前記チタンの粒子の含有量は、50質量%以上70質量%以下である、請求項2に記載の親水膜。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の親水膜と、
可視光を透過する透光性部材と
を備え、
前記親水膜は、前記透光性部材を被覆する、光学部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、親水膜及び光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
野外の風雨に曝される建築物又は自動車の窓ガラスは、水滴により視認性が妨げられる。視認性が妨げられる問題の解決策の一つとして、窓ガラスの表面を親水化する手段が挙げられる。これにより、付着した水を膜状にし、水滴の付着を防止することができ、窓ガラスの視認性を確保することができる。
【0003】
しかし、親水性の部材の表面には、自動車の排気ガス又は工場の排煙に由来する有機物の汚れが付着しやすい。有機物が付着すると、水が滴状に付着し、視認性が著しく低下する。
【0004】
そこで、ガラス基材及びガラス基材上に形成された親水層を備えた親水レンズが開示されている(例えば、特許文献1)。特許文献1の親水レンズでは、親水層は光触媒活性を有する微粒子が分散したシリケート材料を含み、親水層の膜厚は30nm以下であり、微粒子の平均粒子径が30nm以下であり、かつ、親水層表面の算術平均粗さRaが0.7~1.9nmである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の親水レンズを長期間使用したときに、汚れが付着して親水性の機能が低減した場合に、紫外光(太陽光)が照射されても、親水性を回復できないことがあった。具体的には、特許文献1の親水レンズを長期間使用したときに、親水層に傷がつくため、親水性を回復する機能が低下することがあった。
また、特許文献1の親水レンズを、たとえば曇りや雨の天気が続いた環境、または光がほとんど当たらない場所に設置された環境など、紫外光(太陽光)が十分に照射されない環境で使用した場合、親水性の機能回復がそもそも見込めないことがあった。
【0007】
本開示は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、傷がつくことを抑制でき、紫外光(太陽光)が照射されると親水性を回復する機能を維持できる親水膜及び光学部材を提供することにある。
また、その他の目的は、紫外光(太陽光)が十分に照射されない環境で使用しても親水性の機能をより長く維持できる親水膜及び光学部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の例示的な親水膜は、複数のチタンの粒子と、複数のシリカの粒子とを含有する。前記親水膜の表面粗さは、2.0nm以上7.5nm以下である。
【0009】
本開示の例示的な光学部材は、上記の親水膜と、可視光を透過する透光性部材とを備える。前記親水膜は、前記透光性部材上に配置される。
【発明の効果】
【0010】
例示的な本開示によれば、傷がつくことを抑制でき、紫外光(太陽光)が照射されると親水性を回復する機能を維持できる。また、紫外光(太陽光)が照射されない環境であっても、親水性をより長く維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る光学ユニットの一例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る光学部材の一例を示す模式図である。
【
図3】
図3は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて撮影された画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を適宜参照しながら本発明の実施形態を説明する。なお、図中、同一又は相当部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。図中の寸法、形状及び構成要素間の大小関係は、実際の寸法、形状及び構成要素間の大小関係とは必ずしも同一ではない。特に、図中の反射調整膜、親水膜及び透光性部材の厚さの比及び曲率は、実物と大きく異なる場合がある。
【0013】
本明細書において、「厚さ」は、光学部材の光軸方向における長さを示す。光学部材の「外側」とは、透光性部材から親水膜に向かう方向を示す。光学部材の「内側」とは、親水膜から透光性部材に向かう方向を示す。
【0014】
本実施形態に係る光学部材は、例えば、1又は複数の光学部材を備える光学ユニット(特に、屋外で使用される光学ユニット)に用いる光学部材として好適である。本実施形態に係る光学部材は、車両の周囲をモニタするための車載カメラのレンズユニット用レンズとして特に好適である。
図1は、本実施形態に係る光学ユニットの一例を示す模式図である。
図1に示すように、光学ユニット1000は、光学部材100を備える。光学ユニットは、「レンズユニット」の一例である。
【0015】
本実施形態に係る光学部材は、光学部材100と、光学レンズとを備える光学ユニット(特に、屋外で使用される光学ユニット)に用いられてもよい。光学レンズは、400nm以上700nm以下の波長の光を透過する。光学部材100は、光学レンズより光の進行方向の反対方向側に配置される。
【0016】
光学部材100の表面の純水に対する静的接触角としては、30.0°以下が好ましく、20.0°以下がより好ましく、10.0°以下が特に好ましい。以下、純水に対する静的接触角を、単に「接触角」と記載することがある。なお、本実施形態に係る光学部材の表面の接触角は、温度23℃±3℃、相対湿度50%±3%の環境で測定した値である。
【0017】
また、400nm以上700nm以下の波長の光における反射率が、3%以下である。光学部材100の波長400nm以上700nm以下の光に対する最大反射率としては、1.5%以下が好ましく、1.0%以下がより好ましい。本実施形態に係る光学部材100は、上述の最大反射率が低いほど、ゴースト現象と呼ばれる画像不良及びフレア現象と呼ばれる画像不良の発生を抑制できる。特に、上述の最大反射率が低いほど、ゴースト現象の発生を効果的に抑制できる。上述の最大反射率が3.0%以下であると、ゴースト現象の発生を抑制できる。上述の最大反射率が1.0%以下であると、ゴースト現象の発生をより効果的に抑制できる。なお、波長400nm以上700nm以下の光は、可視光領域の光に相当する。
【0018】
以下、
図2を参照して、本実施形態に係る光学部材100の一例を説明する。
図2は、本実施形態に係る光学部材100の一例を示す模式図である。光学部材100は、透光性
部材10と、親水膜70と、反射調整膜30とを備える。
【0019】
<透光性部材>
透光性部材10は、透光性を有する。すなわち、透光性部材10は、可視光を透過する。透光性部材10は、透明であってもよく、半透明であってもよい。透光性部材10は、例えば、主成分としてガラス又は合成樹脂を含有する。
【0020】
透光性部材10は、例えば、レンズ(具体的には、例えば、両凸レンズ、両凹レンズ、平凸レンズ、平凹レンズ、凸メニスカスレンズ、又は、凹メニスカスレンズ)としての機能を有する。なお、本明細書において、透光性部材10がレンズである場合、透光性部材10のレンズ面は、球面であっても非球面であってもよい。透光性部材10のレンズ面の曲率半径としては、10mm以上15mm以下が好ましい。
【0021】
<親水膜>
親水膜70は、透光性部材10を被覆する。具体的には、親水膜70は、反射調整膜30上に配置される。親水膜70は、親水性を有する。
【0022】
親水膜70は、複数のチタンの粒子と、複数のシリカの粒子とを含有する。
【0023】
詳細には、親水膜70は、親水層20と、被覆層60とを備える。親水層20は、「第1層」の一例である。被覆層60は、「第2層」の一例である。
【0024】
<親水層>
親水層20の厚さとしては、20nm以上200nm以下であることが好ましく、30nm以上100nm以下がより好ましい。親水層20の厚さが20nm未満の場合、親水性が復帰する機能が充分に得られない傾向がある。親水層20の厚さが200nm超の場合、可視光に対して充分な透過率が得られない傾向がある。
【0025】
なお、本願明細書において、「厚さ」は、触針式段差計を用いて求められてもよい。具体的に、先の尖った針で表面をなぞっていき、層(膜)がある部分とない部分との段差を測定する。任意の3か所の段差を測定して、3か所の段差の平均値を「厚さ」とする。
【0026】
親水層20は、複数のチタンの粒子を含有する。チタンの粒子は、光触媒機能を有する。例えば、光学部材100を長期間使用すると、汚れが付着して親水性の機能が低減する。光学部材100に紫外光(太陽光)が照射されると、汚れが分解されて親水性を回復できる。本実施形態に係る光学部材100は、接触角が30.0°を超えた状態で、紫外線を1mW/cm2で6時間、照射されることで、接触角が30.0°以下になることが好ましい。
【0027】
チタンとしては、例えば、アナターゼ型の二酸化チタン、ルチル型の二酸化チタン、及び、ブルッカイト型の二酸化チタンが挙げられる。二酸化チタンとしては、光触媒活性の観点から、アナターゼ型の二酸化チタンが好ましい。
【0028】
チタンの粒子の平均粒子径は、15nm以上100nm以下であることが好ましい。具体的には、チタンの粒子は、例えば、二酸化チタンの一次粒子又は二次粒子である。詳細には、親水層20は、複数の二酸化チタンの一次粒子が凝集した二次粒子を含有することが好ましい。
【0029】
チタンの一次粒子の平均粒子径は、5nm以上20nm以下であることが好ましく、5nm以上10nm以下であることがより好ましい。チタンの一次粒子の平均粒子径が5n
m未満である場合、充分な親水維持性が得られない。チタンの一次粒子の平均粒子径が20nm超の場合、可視光に対して充分な透過率が得られない、または均一な膜が形成できない。
【0030】
なお、本願明細書において、「一次粒子の平均粒子径」は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて親水層20、又は、親水層20の材料を観察することによって求められる。具体的に、粒子の全体を観察できる任意の50個の一次粒子について、1個の一次粒子の最大径及び最小径をそれぞれ測定して、最大径及び最小径の平均値を当該1個の一次粒子の粒子径とし、50個のそれぞれの一次粒子の粒子径の平均値を「一次粒子の平均粒子径」とする。
【0031】
チタンの粒子の二次粒子の平均粒子径は、15nm以上100nm以下であり、20nm以上60nm以下であることが好ましい。チタンの粒子の二次粒子の平均粒子径が15nm未満である場合、親水層20の親水性を充分に回復できない。チタンの粒子の二次粒子の平均粒子径が100nm超の場合、可視光に対して充分な透過率が得られない。
【0032】
なお、本願明細書において、「二次粒子の平均粒子径」は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて親水層20、又は、親水層20の材料を観察することによって求められる。具体的に、粒子の全体を観察できる任意の50個の二次粒子について、1個の二次粒子の最大径及び最小径をそれぞれ測定して、最大径及び最小径の平均値を当該1個の二次粒子の粒子径とし、50個のそれぞれの二次粒子の粒子径の平均値を「二次粒子の平均粒子径」とする。
【0033】
親水層20中のチタンの粒子の含有量は、50質量%以上70質量%以下であることが好ましい。チタンの粒子の含有量が50質量%以上70質量%以下であることにより、親水層20の親水性を、より回復できるとともに、反射率の増加を、より抑制できる。
【0034】
親水層20は、バインダを更に含有してもよい。その結果、光学部材100の耐摩耗性がより向上する。バインダは、テトラエトキシシランと、二酸化ケイ素とを更に含有することが好ましい。
【0035】
<被覆層>
被覆層60は、親水層20上に配置される。被覆層60は、複数のシリカの粒子を含有する。
【0036】
具体的には、被覆層60は、複数のシリカの一次粒子を含有する。親水層20のうち少なくとも一部がシリカの一次粒子により部分的又は完全に被覆される。その結果、光学部材100の耐摩耗性がより向上し、親水維持の耐久性が向上する。なお、被覆層60は、テトラエトキシシランを更に含有してもよい。
【0037】
シリカの一次粒子の平均粒子径は、5nm以上20nm以下であることが好ましい。シリカの一次粒子の平均粒子径が5nm未満である場合、コストが上昇する傾向がある。シリカの一次粒子の平均粒子径が20nm超の場合、可視光に対して充分な透過率が得られない傾向がある。
【0038】
被覆層60の厚さとしては、5nm以上20nm以下であることが好ましい。被覆層60の厚さが5nm未満の場合、充分な耐久性が得られない傾向がある。被覆層60の厚さが20nm超の場合、被膜に傷がつきやすくなる。
【0039】
親水膜70の表面粗さは、2.0nm以上7.5nm以下である。親水膜70の表面粗
さが2.0nm未満である場合、被膜に傷がつきやすくなる。親水膜70の表面粗さが7.5nm超の場合、充分な耐久性が得られない傾向がある。
【0040】
以上、
図1及び
図2を参照して説明したように、本実施形態では、親水膜70の表面粗さは、2.0nm以上7.5nm以下であるため、耐久性が高く、傷がつくことを抑制できる。その結果、親水性低下時も紫外光(太陽光)が照射されると親水性の回復する機能を、長期間維持できる。
【0041】
また、親水膜70は、親水層20と、被覆層60とを備えるため、耐久性がより高く、親水性が低下したときも紫外光(太陽光)が照射されると親水性を、より回復できる。また、紫外光(太陽光)が照射されない環境であっても、親水性をより長く維持することができる。
【0042】
更に、親水層20のチタンの粒子の平均粒子径は、15nm以上100nm以下であり、被覆層60のシリカの一次粒子の平均粒子径は、5nm以上20nm以下であるため、傷がつくことを、より抑制でき、紫外光(太陽光)が照射されると、親水性を、より回復できる。
【0043】
<反射調整膜>
反射調整膜30は、親水層20下に配置される。反射調整膜30は、透光性部材10を被覆する。反射調整膜30は、透光性部材10と親水層20との間に配置される。反射調整膜30は、光の反射を抑制する。具体的には、光学部材100は、反射調整膜30を備えることにより、反射調整膜30から透光性部材10に進入しようとする光が反射調整膜30側の面で反射することを抑制する。
【0044】
反射調整膜30は、多層構造を有する。詳しくは、反射調整膜30は、厚さ方向(光軸方法)に沿って交互に積層される低屈折率層及び高屈折率層を備える。低屈折率層及び高屈折率層の屈折率は、反射調整膜30が反射防止効果を発揮できる組み合わせである限り限定されない。低屈折率層の屈折率は、例えば、1.80以下である。高屈折率層の屈折率は、例えば、1.80超である。低屈折率層及び高屈折率層の中で最も外側に位置する層は、低屈折率層である。低屈折率層及び高屈折率層の中で最も内側に位置する層は、低屈折率層である。
【0045】
低屈折率層の屈折率としては、高屈折率層の屈折率未満であればよい。例えば、低屈折率層の屈折率としては、1.30以上1.80以下が好ましく、1.40以上1.60以下がより好ましい。低屈折率層の屈折率が1.30以上1.80以下であることにより、光学部材100の反射率がより低下する。低屈折率層は、例えば、SiO2、Al2O3、MgF2を含有することが好ましいが、SiO2を含有することがより好ましい。
【0046】
高屈折率層の屈折率としては、低屈折率の屈折率超であればよい。例えば、高屈折率層の屈折率としては、1.80以上3.00以下が好ましく、2.00以上2.80以下がより好ましい。高屈折率層の屈折率が1.80以上3.00以下であることにより、光学部材100の反射率がより低下する。高屈折率層は、例えば、Si3N4、ZrO2、TiO2、Ti3O5、Ta2O5、In2O3、CeO2及びNb2O5を含有することが好ましいが、Si3N4を含有することがより好ましい。
【0047】
なお、上述した低屈折率層及び高屈折率層の屈折率は、あくまで例示であり、これに限定されない。低屈折率層及び高屈折率層の屈折率は、透光性部材10の屈折率に対して最適な値を設定すればよい。
【0048】
親水層20の厚さに対する反射調整膜30の厚さは、5倍以上である。親水層20の厚さに対する反射調整膜30の厚さは、生産性の観点から100倍以下であることが好ましい。反射調整膜30の合計膜厚としては、20nm以上2000nm以下が好ましく、200nm以上750nm以下がより好ましい。反射調整膜30の合計膜厚が20nm未満の場合、充分な反射防止効果が得られない傾向がある。反射調整膜30の合計膜厚が2000nm超の場合、成膜に時間がかかり、光学部材100の生産性が低下する傾向がある。また、合計膜厚2000nm超の場合、光学部材100の生産コストの増加を招く傾向がある。
【0049】
低屈折率層の1層の膜厚としては、例えば、5.0nm以上200.0nm以下である。高屈折率層の1層の膜厚としては、例えば、5.0nm以上200.0nm以下である。
【0050】
低屈折率層及び高屈折率層の合計層数は、通常、奇数である。ただし、低屈折率層及び高屈折率層の合計層数は偶数であっても良い。
【0051】
<光学部材の製造方法>
以下、本実施形態に係る光学部材100の製造方法の一例について説明する。光学部材100の製造方法は、準備ステップと、反射調整膜形成ステップと、塗布ステップと、乾燥ステップとを含む。
【0052】
<準備ステップ>
透光性部材10を準備する。透光性部材10は、例えば、主成分としてガラス又は合成樹脂を含有する。
【0053】
<反射調整膜形成ステップ>
低屈折率材料を準備する。低屈折率材料は、例えば、SiO2、Al2O3、MgF2を含有することが好ましいが、SiO2を含有することがより好ましい。低屈折率材料中のSiO2の含有量は、95質量%以上であることが好ましい。低屈折率材料の形成方法としては、蒸着又はスパッタリングが好ましい。
【0054】
高屈折率材料を準備する。高屈折率材料は、例えば、Si3N4、ZrO2、TiO2、Ti3O5、Ta2O5、In2O3、CeO2及びNb2O5を含有することが好ましいが、Si3N4を含有することがより好ましい。高屈折率材料中のSi3N4の含有量は、95質量%以上であることが好ましい。高屈折率材料の形成方法としては、蒸着又はスパッタリングが好ましい。
【0055】
低屈折率層及び高屈折率層を交互に積層する。低屈折率層及び高屈折率層の合計層数は、通常、奇数である。ただし、低屈折率層及び高屈折率層の合計層数は偶数であっても良い。
【0056】
<塗布ステップ>
親水性材料を塗布する。親水性材料は、複数のチタンの粒子を含有する。チタンの一次粒子の平均粒子径は、5nm以上20nm以下であることが好ましい。
【0057】
親水性材料は、溶剤を更に含有することが好ましい。溶剤としては、水系溶剤が好ましい。水系溶剤は、水及び添加物を含有する。添加物としては、例えば、有機酸、アルコール化合物又はアンモニアが挙げられる。有機酸としては、硝酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、クエン酸、又は、リンゴ酸が挙げられる。アルコール化合物としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール、又は、ブタノールが挙げられる。
【0058】
親水性材料中の溶剤の含有量は、50質量%以上99.9質量%以下であることが好ましい。溶剤の含有量が50質量%以上99.9質量%以下であることにより、容易に塗布できる。
【0059】
親水性材料の塗布方法としては、ウェットプロセスが好ましい。ウェットプロセスとしては、例えば、スピンコート法、ロールコート法、バーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、又は、これらのうち2種以上を組み合わせた方法(例えば、ディップスピンコート法)が挙げられる。ウェットプロセスとしては、スピンコート法、ディップコート法、又は、ディップスピンコート法が好ましい。
【0060】
<乾燥ステップ>
親水性材料を乾燥させることにより、親水層20を作製する。親水層20は、複数の光触媒粒子の一次粒子が凝集した二次粒子を含有することが好ましい。光触媒粒子の二次粒子の平均粒子径は、15nm以上100nm以下である。
【0061】
親水性材料を塗布したものを加熱処理することが好ましい。加熱処理により、親水性材料中の溶剤の除去が促進される。加熱条件としては、例えば、処理温度60℃以上200℃以下、処理時間10分以上2時間以下とすることができる。
【0062】
<被覆材料塗布ステップ>
被覆材料を塗布する。被覆材料は、複数のシリカの一次粒子を含有する。シリカの一次粒子の平均粒子径は、5nm以上20nm以下である。
【0063】
被覆材料は、溶剤を更に含有することが好ましい。溶剤としては、水系溶剤が好ましい。水系溶剤は、水及び添加物を含有する。添加物としては、例えば、有機酸、アルコール化合物又はアンモニアが挙げられる。有機酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、クエン酸、又は、リンゴ酸が挙げられる。アルコール化合物としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール、又は、ブタノールが挙げられる。
【0064】
被覆材料中の溶剤の含有量は、50質量%以上99.9質量%以下であることが好ましい。溶剤の含有量が50質量%以上99.9質量%以下であることにより、容易に塗布できる。
【0065】
被覆材料の塗布方法としては、ウェットプロセスが好ましい。ウェットプロセスとしては、例えば、スピンコート法、ロールコート法、バーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、又は、これらのうち2種以上を組み合わせた方法(例えば、ディップスピンコート法)が挙げられる。ウェットプロセスとしては、スピンコート法、ディップコート法、又は、ディップスピンコート法が好ましい。
【0066】
以上、図面を参照しながら本開示の実施形態を説明した。但し、上記実施形態は、本開示の例示にすぎず、本開示は、上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能である。図面は、理解しやすくするために、それぞれの構成要素を主体に模式的に示しており、図示された各構成要素の厚み、長さ、個数等は、図面作成の都合上から実際とは異なる。また、上記の実施形態で示す各構成要素の材質や形状、寸法等は一例であって、特に限定されるものではなく、本開示の効果から実質的に逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。実施形態の構成は、本開示の技術的思想を超えない範囲で適宜変更されてもよい。また、実施形態は、可能な範囲で組み合わせて実施されてもよい。
【0067】
なお、本技術は、以下のような構成を採用することも可能である。
【0068】
(1)複数のチタンの粒子と、
複数のシリカの粒子と
を含有する親水膜であって、
前記親水膜の表面粗さは、2.0nm以上7.5nm以下である、親水膜。
【0069】
(2)第1層と、
前記第1層上に配置された第2層と
を備え、
前記第1層は、前記複数のチタンの粒子を含有し、
前記第2層は、前記複数のシリカの粒子を含有する、(1)に記載の親水膜。
【0070】
(3)前記チタンの粒子の平均粒子径は、15nm以上100nm以下であり、
前記シリカの粒子の平均粒子径は、5nm以上20nm以下である、(1)又は(2)に記載の親水膜。
【0071】
(4)前記第1層は、バインダを更に含有し、
前記第1層中の前記チタンの粒子の含有量は、50質量%以上70質量%以下である、(2)に記載の親水膜。
【0072】
(5)(1)から(4)のいずれか1項に記載の親水膜と、
可視光を透過する透光性部材と
を備え、
前記親水膜は、前記透光性部材を被覆する、光学部材。
【実施例0073】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。しかし、本発明は実施例の範囲に何ら限定されない。
【0074】
<光学部材の製造>
実施例1及び実施例2に係る光学部材、並びに、比較例1及び比較例2に係る光学部材を製造した。
【0075】
<実施例1>
<準備ステップ>
透光性部材として、レンズ(HOYA株式会社製、「TAFD-5G」、組成:ガラス、直径12.9mm、屈折率:1.835)を準備した。レンズは、一方の面が凸面(曲率半径12mm)、他方の面が凹面(曲率半径3.07mm)であった。
【0076】
<反射調整膜形成ステップ>
SiO2を含有する低屈折率材料と、Si3N4を含有する高屈折率材料とを交互に積層した。低屈折率層及び高屈折率層の合計層数は、11層である反射調整膜を形成した。
【0077】
<塗布ステップ>
0.5質量部の二酸化チタン粒子と、0.5質量部の二酸化ケイ素と、2質量部の水と、76質量部のイソプロピルアルコールと、20質量部のメタノールと、1質量部の硝酸とを含有する実施例1に係る親水性材料を準備した。
【0078】
親水性材料を反射調整膜上に塗布した。詳しくは、60μLの親水性材料を、透光性部材の光軸上に滴下した。次に、スピンコーター(ミカサ株式会社製「MS-B100」)を用い、透光性部材を回転速度5000rpmで回転させた。この際、回転軸は、透光性部材の光軸と一致させた。
【0079】
<乾燥ステップ>
90℃30分間の加熱処理を行って、親水層を形成した。なお、親水層の表面粗さは、7.56nmであった。
【0080】
<被覆材料塗布ステップ>
1質量部のシリカ粒子(一次粒子の平均粒子径5nm)と、99質量部の水と、0.2質量部のアンモニアを含有する被覆材料を準備した。被覆材料を親水層上に塗布した。詳しくは、60μLの被覆材料を、透光性部材の光軸上に滴下した。次に、スピンコーター(ミカサ株式会社製「MS-B100」)を用い、透光性部材を回転速度5000rpmで回転させた。この際、回転軸は、透光性部材の光軸と一致させた。120℃、30分間の加熱処理を行って、被覆層を形成し、実施例1に係る光学部材を得た。なお、親水膜の表面粗さは、2.50nmであった。また、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて撮影された画像を
図3(a)に示す。
【0081】
<実施例2>
実施例1の<被覆材料塗布ステップ>において、1質量部のシリカ粒子(一次粒子の平均粒子径5nm)と、98.8質量部の水と、0.2質量部のアンモニアを含有する被覆材料を準備したことに代えて、0.5質量部のシリカ粒子(一次粒子の平均粒子径5nm)と、93.3質量部の水と、0.2質量部のアンモニアを含有する被覆材料を準備した。なお、親水膜の表面粗さは、4.08nmであった。また、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて撮影された画像を
図3(b)に示す。
【0082】
<比較例1>
実施例1の<被覆材料塗布ステップ>を実施しなかった。なお、親水膜の表面粗さは、7.6nmであった。また、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて撮影された画像を
図3(c)に示す。
【0083】
<比較例2>
実施例1の<被覆材料塗布ステップ>において、1質量部のシリカ粒子(一次粒子の平均粒子径5nm)と、98.8質量部の水と、0.2質量部のアンモニアを含有する被覆材料を準備したことに代えて、5質量部のシリカ粒子(一次粒子の平均粒子径5nm)と、94.8質量部の水と、0.2質量部のアンモニアを含有する被覆材料を準備した。なお、親水膜の表面粗さは、0.87nmであった。また、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて撮影された画像を
図3(d)に示す。
【0084】
<評価>
以下の方法により、実施例1及び実施例2に係る光学部材、並びに、比較例1及び比較例2に係る光学部材について、反射率及び耐傷性を評価した。測定結果を下記表1に示す。なお、各測定は、いずれも温度23℃±3℃、相対湿度50%±3%の環境下で行った。
【0085】
<摩耗試験>
純水中に光学部材を設置して、表面に対して300gの荷重を負荷した亀の子たわしで往復500回摩耗した。その後、レーザ顕微鏡で466倍に拡大して観察した。光学部材
の耐久性を以下の基準で評価した。評価結果を、表1に示す。
【0086】
〇:光学影響無
×:光学影響有
【0087】
<接触角>
光学部材を使用する前に、自動接触角計(協和界面科学株式会社製「DMo-601」)を用い、純水に対する静的接触角を測定した。また、光学部材を265時間、-40℃30分および85℃30分の熱サイクル試験を行った後に自動接触角計(協和界面科学株式会社製「DMo-601」)を用い、純水に対する静的接触角を測定した。評価結果を、表1に示す。
【0088】
【0089】
比較例1に係る光学部材では、熱衝撃256時間で親水性が失われた。また、比較例2に係る光学部材では、耐摩耗性が悪く、傷によって光学特性が低下した。これに対して、実施例1及び実施例2に係る光学部材では、傷がつくことを抑制でき、紫外光(太陽光)が照射されると親水性を回復する機能を、長期間維持できた。また、紫外光(太陽光)が照射されない環境であっても、親水性をより長く維持することができた。