(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158888
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】気泡状態特定装置、気泡状態特定方法、及び、プログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 21/59 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
G01N21/59 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074505
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】田島 良一
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 優子
(72)【発明者】
【氏名】立石 幸一
(72)【発明者】
【氏名】柏野 亮太
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059AA05
2G059BB04
2G059EE01
2G059FF04
2G059MM01
2G059MM02
2G059MM05
2G059PP02
(57)【要約】
【課題】気泡状態を精度良く特定する。
【解決手段】気泡状態特定装置10は、それぞれが液体を透過した光の強度をそれぞれ示す複数の光強度データからなる光強度データ群を取得するデータ取得部14Bと、取得された測定データ群に基づいて、光強度を階級とした複数の光強度データの度数分布を生成し、生成した度数分布に基づいて液体の気泡状態を特定する気泡状態特定部14Dと、を備える。気泡状態特定装置10は、測定データ群に基づいて液体の濃度を導出する濃度導出部14Cと、濃度を、気泡状態と気泡状態を原因とする濃度の信頼性との少なくとも一方とともに出力する出力制御部14Eと、をさらに備えてもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが液体の気泡状態に応じて異なる値の物理量を示す複数の測定データからなる測定データ群を取得するデータ取得部と、
取得された前記測定データ群に基づいて、前記物理量を階級とした前記複数の測定データの度数分布を生成し、生成した前記度数分布に基づいて前記液体の気泡状態を特定する気泡状態特定部と、
を備える気泡状態特定装置。
【請求項2】
前記気泡状態特定部は、前記度数分布の全階級を分割した複数の領域のうち、累積度数の変化度が閾値よりも大きくなった領域の位置に応じて前記気泡状態を特定する、
請求項1に記載の気泡状態特定装置。
【請求項3】
前記複数の測定データは、前記液体を透過した光の強度をそれぞれ示す複数の光強度データであり、
前記気泡状態特定部は、
前記複数の領域のうち、前記液体に気泡が発生していないとしたときに前記複数の光強度データが最も集まる第1領域よりも階級が下の第2領域での前記変化度が前記第2領域に設定された前記閾値を超えたときに前記気泡状態として気泡の多い状態を特定し、
前記複数の領域のうち、前記第1領域と前記第2領域との間の第3領域での前記変化度が前記第3領域に設定された前記閾値を超えていないときに前記気泡状態として気泡の少ない状態を特定し、
前記第3領域での前記変化度が前記第3領域に設定された前記閾値を超えたときに前記気泡状態として気泡の多い状態を特定する、
請求項2に記載の気泡状態特定装置。
【請求項4】
前記気泡状態特定部は、前記複数の領域のうち、前記第1領域よりも階級が上の第4領域での前記変化度が前記第4領域に設定された前記閾値を超えたときに前記気泡状態として気泡の大きい状態を特定する、
請求項3に記載の気泡状態特定装置。
【請求項5】
取得された前記測定データ群に基づいて前記液体の濃度を導出する濃度導出部と、
前記濃度を、前記気泡状態と前記気泡状態を原因とする前記濃度の信頼性との少なくとも一方とともに出力する出力制御部と、をさらに備える、
請求項1に記載の気泡状態特定装置。
【請求項6】
前記出力制御部は、前記気泡状態に基づいて、前記濃度が信頼性の高い正常値である旨と、前記濃度が信頼性の低い異常値である旨と、前記濃度が信頼性に注意を要する要注意値である旨と、のいずれかを前記信頼性として出力する、
請求項5に記載の気泡状態特定装置。
【請求項7】
それぞれが液体の気泡状態に応じて異なる値の物理量を示す複数の測定データからなる測定データ群を取得するデータ取得ステップと、
取得された前記測定データ群に基づいて、前記物理量を階級とした前記複数の測定データの度数分布を生成し、生成した前記度数分布に基づいて前記液体の気泡状態を特定する気泡状態特定ステップと、
を備える気泡状態特定方法。
【請求項8】
コンピュータに、
それぞれが液体の気泡状態に応じて異なる値の物理量を示す複数の測定データに基づいて、前記物理量を階級とした前記複数の測定データの度数分布を生成し、生成した前記度数分布に基づいて前記液体の気泡状態を特定する気泡状態特定ステップを実行させる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体に生じた気泡の状態を特定する気泡状態特定装置、気泡状態特定方法、及び、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体のエッチング液や洗浄液といった水溶液の濃度を測定する液体濃度計が知られている。特許文献1には、光源が出射する特定波長の光と、分光部により分光された特定波長の光の強度とに基づく吸光度を導出し、導出した吸光度に基づいて液体の濃度を測定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液体の濃度測定には、液体内に生じた気泡が悪影響を及ぼすことがある。このようなことを考えると、液体内の気泡状態の把握は重要である。
【0005】
本発明は、気泡状態を精度良く特定することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る気泡状態特定装置は、それぞれが液体の気泡状態に応じて異なる値の物理量を示す複数の測定データからなる測定データ群を取得するデータ取得部と、取得された前記測定データ群に基づいて、前記物理量を階級とした前記複数の測定データの度数分布を生成し、生成した前記度数分布に基づいて前記液体の気泡状態を特定する気泡状態特定部と、を備える。
【0007】
一例として、前記気泡状態特定部は、前記度数分布の全階級を分割した複数の領域のうち、累積度数の変化度が閾値よりも大きくなった領域の位置に応じて前記気泡状態を特定する、ようにしてもよい。
【0008】
一例として、前記複数の測定データは、前記液体を透過した光の強度をそれぞれ示す複数の光強度データであり、前記気泡状態特定部は、前記複数の領域のうち、前記液体に気泡が発生していないとしたときに前記複数の光強度データが最も集まる第1領域よりも階級が下の第2領域での前記変化度が前記第2領域に設定された前記閾値を超えたときに前記気泡状態として気泡の多い状態を特定し、前記複数の領域のうち、前記第1領域と前記第2領域との間の第3領域での前記変化度が前記第3領域に設定された前記閾値を超えていないときに前記気泡状態として気泡の少ない状態を特定し、前記第3領域での前記変化度が前記第3領域に設定された前記閾値を超えたときに前記気泡状態として気泡の多い状態を特定する、ようにしてもよい。
【0009】
一例として、前記気泡状態特定部は、前記複数の領域のうち、前記第1領域よりも階級が上の第4領域での前記変化度が前記第4領域に設定された前記閾値を超えたときに前記気泡状態として気泡の大きい状態を特定する、ようにしてもよい。
【0010】
一例として、上記の気泡状態特定装置は、取得された前記測定データ群に基づいて前記液体の濃度を導出する濃度導出部と、前記濃度を、前記気泡状態と前記気泡状態を原因とする前記濃度の信頼性との少なくとも一方とともに出力する出力制御部と、をさらに備える、ようにしてもよい。
【0011】
一例として、前記出力制御部は、前記気泡状態に基づいて、前記濃度が信頼性の高い正常値である旨と、前記濃度が信頼性の低い異常値である旨と、前記濃度が信頼性に注意を要する要注意値である旨と、のいずれかを前記信頼性として出力する、ようにしてもよい。
【0012】
本発明に係る気泡状態特定方法は、それぞれが液体の気泡状態に応じて異なる値の物理量を示す複数の測定データからなる測定データ群を取得するデータ取得ステップと、取得された前記測定データ群に基づいて、前記物理量を階級とした前記複数の測定データの度数分布を生成し、生成した前記度数分布に基づいて前記液体の気泡状態を特定する気泡状態特定ステップと、を備える。
【0013】
本発明に係るプログラムは、コンピュータに、それぞれが液体の気泡状態に応じて異なる値の物理量を示す複数の測定データに基づいて、前記物理量を階級とした前記複数の測定データの度数分布を生成し、生成した前記度数分布に基づいて前記液体の気泡状態を特定する気泡状態特定ステップを実行させる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、気泡状態を精度良く特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る気泡状態特定装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、
図1の制御部の一例のハードウェア構成図である。
【
図3】
図3は、気泡状態を特定する気泡状態特定処理のフローチャートである。
【
図4】
図4は、光強度データ群と、光強度データ群の度数分布、相対度数分布、及び、累積相対度数分布と、の関係を示す図である。
【
図5】
図5は、
図3のステップS16の詳細な処理例のフローチャートである。
【
図6】
図6は、気泡の無いときの度数分布及び累積相対度数分布のグラフである。
【
図7】
図7は、気泡が多いときの度数分布及び累積相対度数分布のグラフである。
【
図8】
図8は、気泡が少ないときの度数分布及び累積相対度数分布のグラフである。
【
図9】
図9は、気泡が多いが
図7のときより少ないときの度数分布及び累積相対度数分布のグラフである。
【
図10】
図10は、気泡が大きいときの度数分布及び累積相対度数分布のグラフである。
【
図16】
図16は、
図5のステップS16Dの詳細な処理例のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態及びその変形例について、図面を参照して説明する。
【0017】
図1に示す本実施形態に係る気泡状態特定装置10は、液体濃度計として構成されている。気泡状態特定装置10は、投光部11、受光部12、記憶部13、制御部14、出力部15、及び、入力部16を備える。
【0018】
投光部11は、濃度測定に使用する特定波長を含む特定波長帯域の光を濃度の測定対象としての液体に出射する。特定波長としては、濃度を測定したい溶質による吸光度が高い波長が選択される。特定波長帯域は、特定波長のみからなってもよいし、特定波長とそれ以外の波長とからなってもよい。特定波長は、1の波長であっても、複数波長であってもよい。測定対象は、特定波長帯域の光を透過する透過部(例えば、透明体)を備える測定管などを流れているものとする。投光部11は、例えば、発光素子と、発光素子を駆動する駆動回路と、を備える。発光素子からの光は、測定管の透過部を介して測定対象を透過する。透過部は、測定管の一部であっても全部であってもよい。透過部は、特定波長帯域の光のみを透過するように構成されてもよい。例えば、特定波長帯域の光が赤外線である場合、透過部は赤外線を透過するが可視光は透過しない不透明の材料から構成されてもよい。
【0019】
受光部12は、測定対象を透過した投光部11からの光のうちの上記特定波長帯域(上述のように、特定波長のみからなってもよい)の光を受光しその光強度を測定する。受光部12は、例えば、投光部11から出射され測定対象を透過した光の特定波長帯域の光を分光する分光器と、当該分光器により分光された特定波長帯域の光を受光する受光素子とを備える。さらに、受光部12は、受光素子で受光した前記光の光子の数をカウントすることで当該光の光強度を測定する処理回路も含む。特定波長帯域の光を受光するうえで、分光器の代わりにフィルタ等の波長選択性のある素子を使用してもよい。処理回路は、光子のカウント値を光強度とし、当該光強度を示す測定データを光強度データとして生成する。受光部12は、光強度データを、FIFO(First In First Out)のバッファメモリなどの記憶部13に記録する。受光部12は、光強度データを記憶部13に記録するたびにその旨の通知を記録通知として制御部14に送信する。光強度は、電圧値などにより表されてもよい。この場合、受光素子は、特定波長帯域の光の光強度を電圧値に変換することで光強度を測定し、処理回路は、光強度を表す電圧値を示す測定データを光強度データとして生成する。
【0020】
制御部14は、装置の動作を制御するように構成されている。制御部14は、マイクロコンピュータ等のコンピュータ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)などの制御回路からなる。制御部14は、タイミング制御部14Aと、データ取得部14Bと、濃度導出部14Cと、気泡状態特定部14Dと、出力制御部14Eと、を備える。制御部14がコンピュータの場合、制御部14は、
図2に示すように、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサ14Xと、プロセッサ14Xのメインメモリ、及び、各種データ及びプログラムを記憶する不揮発性の記憶装置を含むメモリ14Yと、プロセッサ14Xが受光部12、出力部15、及び、入力部16などの制御部14外部の要素と通信するためのインターフェイス14Zと、を備える。プロセッサ14Xは、メモリ14Yに記憶されたプログラムを実行することで、上記各部14A~14Eとして動作する。各部14A~14Eは、協働して
図3の処理を実行する。
【0021】
図3の処理では、まず、タイミング制御部14Aが、光の出射と、光強度データの取得及び記録とを、投光部11及び受光部12にそれぞれ行わせる(ステップS11)。次に、データ取得部14Bは、記憶部13に記録される光強度データの個数のカウント値をインクリメントする(ステップS12)。例えば、データ取得部14Bは、受光部12からの記録通知を受信したときに前記カウント値を1つ増やす。その後、データ取得部14Bは、カウント値が所定数N(例えば、N=4000)に達したかを判別する(ステップS13)。カウント値が所定数Nに達するまででは、ステップS11~S13が繰り返し実行される。これにより、N個の光強度データが、記憶部13に記録されることになる。
【0022】
カウント値が所定数Nに達した場合(ステップS13;Yes)、データ取得部14Bは、このN個(複数)の光強度データ(
図4)を光強度データ群として記憶部13から取得する(ステップS14)。なお、取得された光強度データ群は、記憶部13から削除される。
【0023】
その後、濃度導出部14Cが、データ取得部14Bが取得した光強度データ群に基づいて、測定対象の濃度を導出する(ステップS15)。濃度導出部14Cは、光強度データ群に含まれる少なくとも一部の光強度データが示す光強度に基づいて、特定波長帯域(上述のように、特定波長のみであってもよい)の光の測定対象の液体による吸光度を導出し、導出した吸光度から濃度値を導出する。吸光度は、例えば測定対象の液体を透過する前の特定波長帯域の光の光強度(基準となる光強度)で、光強度データが示す光強度を割った数値に対して対数を取ることで算出される。基準となる光強度は、固定値として設定されてもよく、また、測定対象の液体を透過する前の特定波長帯域の光を受光し、その光強度を測定する不図示の受光部により検出されてもよい。また、測定対象の液体を透過する前の特定波長帯域の光の光強度以外にも、基準となるような光強度があれば、その基準となる光強度と、光強度データが示す光強度と、を用いて吸光度を算出してもよい。濃度の導出方法(特に、濃度の算出式)は任意であり、他の方法により導出されてもよい。濃度の導出により、測定対象の液体中の特定の媒質(つまり特定波長の光を吸光する媒質)の濃度が測定されたことになる。
【0024】
ステップS15の前後又はステップS15と並行して、気泡状態特定部14Dが、データ取得部14Bが取得した光強度データ群に基づいて、測定対象に生じた気泡の状態つまり測定対象の気泡状態を特定する(ステップS16)。気泡状態特定部14Dは、
図5に示す処理により、気泡状態を特定する。
【0025】
気泡状態特定部14Dは、まず、光強度データ群(
図4)に基づいて、当該光強度データ群に含まれる複数つまりN個の光強度データの度数分布を導出する(ステップS16A)。度数分布の階級は、光強度データが示し得る光強度を所定範囲ごとにグループ分けした光強度であり、度数は、その階級に属する光強度データの数である。気泡状態特定部14Dは、階級ごとに、その階級に入る光強度を示す光強度データの数を度数としてカウントすることで度数分布を生成する。その後、気泡状態特定部14Dは、度数分布の各度数を光強度データ群のデータ数であるNで除して相対度数分布(
図4)を導出する(ステップS16B)。その後、気泡状態特定部14Dは、階級ごとに、その階級以下の各階級の度数を累積して累積相対度数分布(
図4)を導出する(ステップS16C)。
【0026】
その後、気泡状態特定部14Dは、累積相対度数分布を解析して、測定対象の気泡状態を特定する(ステップS16D)。気泡状態は、測定対象である液体に生じた気泡の多さ及び又は大きさと、当該気泡によって、濃度導出部14Cによって導出された濃度の信頼性の情報(異常、正常、及び、要注意など)と、を含む。気泡状態は、前者と後者との一方のみを含んでもよい。液体に生じた気泡は、測定管の内壁などに付着した気泡を含む。気泡状態に応じて、濃度を測定したい特定の媒質の吸光度(透過度でもよい。以下、同じ)が変化するため、濃度の測定精度が変化する。ここで、気泡状態と度数分布との関係を説明する。
【0027】
図6は、測定対象内に気泡が無く、濃度導出部14Cに導出された濃度である導出濃度が信頼性の高い正常値といえる場合(より具体的に、導出濃度が真の濃度に近い場合)の度数分布の棒グラフ及び累積相対度数分布の折れ線グラフである。
図6に示すように、気泡が無い場合、特定階級(15000付近の階級)の光強度データが集まる。このため、この特定階級の領域に傾きAが生じる。光強度データの集中により、ここでの傾きAの傾き角は大きくなっている。なお、
図6のような気泡が全く無いケースは、理想的ではあるがレアケースである。実際は測定対象内に気泡が少なからず生じる(後述の
図8及び
図9の各状態が多くの状態となる)。
【0028】
図7は、測定対象内の気泡が多く、導出濃度が信頼性の低い異常値といえる場合(より具体的に、導出濃度が真の濃度から遠い場合)の度数分布の棒グラフ及び累積相対度数分布の折れ線グラフである。この場合、気泡の影響により光強度データが0付近の階級に集中してしまうことで生ずる傾きBが現れる。光強度データの集中により、ここでの傾きBの傾き角は大きくなっている。
【0029】
図8は、測定対象に気泡が混入しているが、気泡の量が少なく、導出濃度が信頼性の高い正常値といえる場合(より具体的に、導出濃度が真の濃度に近い場合)の度数分布の棒グラフ及び累積相対度数分布の折れ線グラフである。
図8に示すように、特定階級及び0付近の階級に光強度データが集中するため、傾きA及び傾きBに加え、0付近の階級から特定階級までの間に広く分布した光強度データによる傾きCが発生する。なお、光強度データは、特定階級及び0付近の階級といった二つの階級に分散するため、ここでの傾きA及びBの傾き角は、
図6及び
図7の場合よりも、それぞれ小さくなる。
【0030】
図9は、
図8の場合よりも測定対象に多くの気泡が混入し、導出濃度が比較的信頼性の低い当該信頼性に注意を要する要注意の値といえる場合(より具体的に、導出濃度が真の濃度からある程度遠くなる可能性もある場合)の度数分布の棒グラフ及び累積相対度数分布の折れ線グラフである。この場合、折れ線グラフの形状は、
図8のグラフと類似するものの、気泡の影響により光強度データのバラツキが強くなり、傾きCの傾き角が
図8より大きくなる(ここでは、45度程度となっている)。
図8と
図9から、傾きCの傾き度合いにより、気泡の多少が判別されることが分かる。
【0031】
図10は、測定対象に含まれる気泡が
図7~
図9の一般的なサイズの気泡よりも大きく、導出濃度が信頼性の低い異常値といえる場合の度数分布及び累積相対度数分布の各グラフである。
図10の例では気泡が大きすぎて、光強度データの分布が広くなっている。このとき、傾きB及びCは捉えられるが、傾きAは捉えられない。また、傾きAが発生する領域よりも上の階級の領域に傾きDが生じる。
【0032】
以上のようなことを前提として、気泡状態特定部14Dは、累積相対度数分布を解析して気泡状態を特定する。具体的に、気泡状態特定部14Dは、下記式(1)を用いて、累積相対度数分布における階級ごとに、累積相対度数の、1つ下の階級(光強度「0」側に隣接する階級)からの変化度つまり傾きを求める。なお、1番目の階級(ここでは、
図4の「0≦T<X」の階級)での傾きの算出ではY-1=0となる。0番目の階級値及び累積相対度数は、0とする。
(Y番目の階級の累積相対度数-「Y-1」番目の階級の累積相対度数)/(Y番目の階級値-「Y-1」番目の階級値)・・・(1)
【0033】
なお、階級が細かい場合には、上記式(1)の代わりに下記式(2)により、累積相対度数の変化のグラフにおける各階級値の位置での微分値を変化度ないし傾きとして求めてもよい。
d(累積相対度数)/d(階級値)・・・(2)
【0034】
上記式(1)が採用される場合、各階級での傾きは、階級ごとの度数そのものにより表されてもよい。また、上記式(1)及び(2)のいずれでも、光強度データ群の光強度データのデータ数が固定であるので、相対度数を度数そのものとしてもよい。度数と相対度数とには、一定の相関関係があるため、相対度数を度数の一種として捉えてもよい。なお、光強度データ群の光強度データのうち、明らかな異常値のデータについては度数分布の生成で使用されない場合など、データ数が固定でない場合には、相対度数が使用される。
【0035】
図6及び
図7の累積相対度数の傾きのグラフは、
図11のようになる(傾きは、上記式(1)によって求めた傾き。
図12~
図15について同じ)。
図11の実線のグラフが
図6の累積相対度数の傾きを示し、破線のグラフが
図7の累積相対度数の傾きを示している。
図8及び
図9の累積相対度数の傾きのグラフは、
図12及び
図13のようになる。
図12及び
図13の実線のグラフが
図8の累積相対度数の傾きを示し、破線のグラフが
図9の累積相対度数の傾きを示している。
図10の累積相対度数の傾きのグラフは、
図14及び
図15のようになる。
【0036】
気泡状態特定部14Dは、光強度の階級を領域A~領域Dに分ける。光強度のうち、光強度0以上5000未満の領域を領域B、光強度が5000以上10000未満の領域を領域C、光強度が10000以上20000未満の領域を領域A、光強度が20000以上の領域を領域Dという。領域A~Dは、傾きA~Dがそれぞれ生じ得る領域として予め定められる。領域A~Dには、気泡状態を特定するための適切な閾値A~Dがそれぞれ設定されている。
【0037】
図11に示すように、閾値A及びBは、0.0005に設定される。気泡状態特定部14Dは、上記で求めた階級ごとの傾きのうち、領域A内の傾きの各値のうちのいずれかが閾値Aを超えた場合(
図11の実線参照)、傾斜角の大きな傾きAが生じており、現在の気泡状態を、気泡が無く、上記で導出された導出濃度が信頼性の高い正常値といえる状態(
図6の状態)と特定する。気泡状態特定部14Dは、領域B内の傾きの各値のうちのいずれかが閾値Bを超えた場合(
図11の破線参照)、傾斜角の大きな傾きBが生じており、現在の気泡状態を、気泡が多く、そのため導出濃度が信頼性の低い異常値といえる状態(
図7の状態)と特定する。
【0038】
なお、気泡の影響は、光強度データ群が示す各光強度にバラツキを生じさせる。このため、度数分布は一定の広がりを持つ。つまり、傾きBの傾き角は、90度よりも小さくなる。他方、測定管の汚れなど、測定される光強度に常にかつ一定に作用する現象によっては、光強度のバラツキは見られない。このため、傾きBの傾き角は90度近くになる。従って、気泡状態特定部14Dは、領域B内の傾きの各値のうちのいずれかが閾値Bを超えかつ閾値X未満の場合に、導出濃度が異常値といえる原因が気泡にあると特定し、傾きBが閾値X以上の場合には、前記原因が気泡以外の汚れなどにあると特定してもよい。
【0039】
領域A及びBで傾きの値が閾値A及びBを超えなかった場合(
図12の場合)、測定対象内に気泡は存在するが、導出濃度の信頼性への影響は軽微である可能性がある。このことの判別は、
図8等の傾きCに基づいて行われる。傾きCが生じる領域Cには、閾値Cとして0.00002が設定される(
図13)。気泡状態特定部14Dは、領域C内の傾きの各値のうちのいずれもが閾値C以下の場合(
図13の実線参照)、傾きCの傾斜角が小さく、現在の気泡状態を、気泡が少なく、導出濃度が信頼性の高い正常値といえる状態(
図8の状態)と特定する。他方、気泡状態特定部14Dは、領域C内の傾きの各値のうちのいずれかが閾値Cを超えた場合(
図13の破線参照)、傾きCの傾斜角が大きく、気泡の状態を、気泡が多く、導出濃度が、比較的信頼性の低い当該信頼性に注意を要する要注意値といえる状態(
図9の状態)と特定する。
【0040】
気泡のサイズが大きすぎるか否かは、領域Dの閾値Dにより判別される。気泡状態特定部14Dは、領域D内の傾きの各値のうちのいずれが閾値D(ここでは、0.00002)を超えている場合、傾きDが生じているとして、現在の気泡状態を、気泡が大きく、導出濃度が信頼性の低い異常値といえる状態(
図10参照)と特定する。
図6~
図10に示すように、傾きDは気泡が大きい場合にのみ生じ、その他の場合、領域Dの傾きは0となる。閾値Dにより、気泡が大きい状態が検出される。
【0041】
気泡状態特定部14Dは、上記ステップS16Dの気泡状態の特定の際に、例えば、
図16の処理を行う。つまり、気泡状態特定部14Dは、まず、上記のように、累積相対度数分布における各階級について、累積相対度数の、1つ下の階級(光強度「0」側に隣接する階級)からの変化度つまり傾きを求める(ステップS21)。
【0042】
その後、気泡状態特定部14Dは、ステップS21で求めた階級ごとの累積相対度数の傾きのうち、領域A内の傾きの各値のうちのいずれかが閾値Aを超えているかを判別する(ステップS22)。気泡状態特定部14Dは、ステップS22の判別結果が「Yes」の場合、現在の気泡状態として、気泡が無く、導出濃度が正常値といえる状態を特定する(ステップS23)。
【0043】
ステップS22の判別結果が「No」の場合、気泡状態特定部14Dは、領域B内の傾きの各値のうちのいずれかが閾値Bを超えているかを判別する(ステップS24)。気泡状態特定部14Dは、ステップS24の判別結果が「Yes」の場合、現在の気泡状態として、気泡が多く、導出濃度が異常値といえる状態を特定する(ステップS25)。
【0044】
ステップS24の判別結果が「No」の場合、気泡状態特定部14Dは、領域D内の傾きの各値のうちのいずれかが閾値Dを超えているかを判別する(ステップS26)。気泡状態特定部14Dは、ステップS26の判別結果が「Yes」の場合、現在の気泡状態として、気泡が大きく、導出濃度が異常値といえる状態を特定する(ステップS27)。
【0045】
ステップS26の判別結果が「No」の場合、気泡状態特定部14Dは、領域C内の傾きの各値のうちのいずれかが閾値Cを超えているかを判別する(ステップS28)。気泡状態特定部14Dは、ステップS28の判別結果が「Yes」の場合、現在の気泡状態として、気泡が多く、導出濃度が、その信頼性に注意を要する要注意値といえる状態(
図9の状態)と特定する(ステップS29)。気泡状態特定部14Dは、ステップS28の判別結果が「No」の場合、現在の気泡状態として、気泡が少なく、導出濃度が正常値といえる状態(
図9の状態)と特定する(ステップS30)。
【0046】
ステップS23、S25、S27、S29、及びS30のあとは、
図3のステップS17が実行される。ステップS17では、出力制御部14Eが、濃度導出部14Cが導出した濃度及び気泡状態特定部14Dが特定した気泡状態を、出力部15を介して装置10の外部に外部出力する出力制御を行う。出力制御部14Eは、気泡状態の代わり又は気泡状態に加えて、気泡状態に基づく濃度値の信頼性、例えば、気泡状態に基づいて、濃度が正常値である旨、濃度が異常値である旨、又は、濃度が要注意値である旨のいずれかを選択して出力してもよい。例えば、ステップS30が実行された場合、濃度が正常値である旨が出力される。例えば、ステップS29が実行された場合、濃度が要注意値である旨が出力される。
【0047】
出力部15は、装置10の外部にある外部装置90、例えば、ユーザが監視する上位装置又はユーザの端末と通信する通信インターフェイスを含む。出力部15は、出力制御部14Eによる出力制御により、上記濃度などを外部装置90に外部出力する。これにより、測定対象の濃度と気泡状態及び又は濃度の信頼性とをユーザに報知することができる。出力部15は、濃度等を表示することで装置10の外部に外部出力する表示装置を含んでもよい。これによっても、濃度等がユーザに報知される。
【0048】
入力部16は、所定の操作装置からなる。ユーザは、入力部16を介して、光強度データの取得及び記録の周期、ステップS13の「N」の値などを設定できる。入力部16は、上記通信インターフェイスを含んでもよく、光強度データの取得及び記録の周期、ステップS13の「N」の値などは、外部装置90から入力されてもよい。
【0049】
本実施形態では、上述のように、気泡状態特定部14Dが、データ取得部14Bにより取得された、複数の光強度データからなる光強度データ群に基づいて、光強度を階級とした度数分布を生成する。生成される度数分布には、相対度数分布が含まれる。つまり、度数は、相対度数を適宜含む概念である。そして、気泡状態特定部14Dは、生成した前記度数分布に基づいて液体の気泡状態を特定する。このため、度数分布により、気泡状態(ここでは、気泡の多少及び又は大小、濃度の信頼性への影響度)が特定される。さらに、度数分布が用いられることで、複数の光強度データに基づいて統計的に気泡状態が特定されるので、気泡状態が精度良く特定される。
【0050】
本実施形態では、度数分布を用いることで気泡状態として3つ以上の状態を特定されるので、気泡が多いか少ないかなどの2つの状態のみの特定に比べ、気泡状態が細かくつまり精度良く特定される。
【0051】
気泡状態特定部14Dが、度数分布に基づいて気泡状態を特定する態様としては、上記のように、累積相対度数分布における累積相対度数の階級ごとの変化度を介して気泡状態を特定する態様の他、上述のように上記式(1)で変化度を導出する場合のように、度数分布の階級ごとの度数そのものを介して気泡状態を特定する態様が採用されてもよい。また、上述のように累積相対度数ではなく、度数そのものの累積値である累積度数が用いられて気泡状態が特定される態様も含まれる。
【0052】
また、本実施形態では、気泡状態特定部14Dが、度数分布の全階級を分割した複数の領域(領域A~D)のうち、累積度数(累積相対度数を含む)の変化度(上記のような各階級の度数そのものを含む)が閾値(領域A~Dにそれぞれ設定された閾値A~D)よりも大きくなった領域の位置に応じて気泡状態を特定する。これにより、気泡状態が精度良く特定される。
【0053】
また、本実施形態では、気泡状態特定部14Dが、前記の複数の領域のうち、測定対象の液体に気泡がないとしたときに複数の光強度データが最も集まる第1領域(領域A)よりも階級が下の第2領域(領域B)での前記の変化度が第2領域に設定された閾値(閾値B)を超えたときに、現在の気泡状態として気泡の多い状態を特定する。さらに、気泡状態特定部14Dは、前記の複数の領域のうち、第1領域と第2領域との間の第3領域(領域C)での前記の変化度が第3領域に設定された閾値(閾値C)を超えていないときに、現在の気泡状態として気泡の少ない状態を特定し、前記の変化度が前記の閾値(閾値C)を超えたときに、現在の気泡状態として気泡の多い状態(特に、変化度が第2領域の閾値を超えたときよりは少ない状態)を特定する。これにより、気泡状態が精度良く特定される。なお、第3領域の変化度が閾値を超えるような状態の場合、濃度値が複数回の導出にわたってふらつくことになる。このふらつきの原因は種々あるが、第3領域の変化度が閾値を超えたことが特定されることで、ふらつきの原因が気泡によるものと特定される。
【0054】
また、本実施形態では、気泡状態特定部14Dが、前記の複数の領域のうち、第1領域よりも階級が上の第4領域(領域D)での前記変化度が第4領域に設定された閾値(閾値D)を超えたときに気泡状態として気泡が大きい状態を特定する。これにより、気泡状態が精度良く特定される。
【0055】
また、本実施形態では、装置10は、光強度データ群に基づいて測定対象である液体の濃度(特定の溶質の濃度)を導出する濃度導出部14Cと、濃度を、気泡状態とこの気泡状態による濃度の信頼性との少なくとも一方とともに出力する出力制御部14Eとをさらに備える。これにより、濃度測定の際に、気泡状態と、濃度の信頼性との少なくとも一方もユーザ又は他の装置に報知できる。
【0056】
また、本実施形態では、出力制御部14Eは、前記気泡状態に基づいて、前記濃度が信頼性の高い正常値である旨と、前記濃度が信頼性の低い異常値である旨と、前記濃度が信頼性に注意を要する要注意値である旨と、のいずれかを前記信頼性として出力する。これにより、濃度の信頼性をユーザ又は他の装置に報知できる。
【0057】
本実施形態については、種々の変更が可能である。
【0058】
装置10は、濃度計ではなく、気泡状態を特定するのみの装置であってもよい。特定された気泡状態は、ユーザに報知されるか、他の装置で使用されてもよい。
【0059】
気泡状態を特定するために使用されるデータは、例えば、液体の気泡状態に応じて異なる値の物理量を示す測定データであればよい。このような測定データとしては、上記のような測定対象を透過した測定光の光強度(光量ともいえる)を測定した光強度データの他、測定対象を透過した超音波の強度を測定したデータが挙げられる。測定データとより詳細には光強度データとして、測定光の測定対象に対する透過前後の光強度の差を示すデータが採用されてもよい。
【0060】
装置10のハードウェア構成は任意である。上記プログラムは、例えば、不揮発性の記憶装置などのコンピュータが読み取り可能な非一時的な記憶媒体に記憶されればよい。
【0061】
図16のステップS22、S24、S26、S28の処理順序は、任意である。例えば、ステップS22及びS23とステップS26及びS27との順序を入れ替えてもよい。なお、気泡が大きくて導出濃度が異常値となる場合、領域Cの傾きが閾値Cを超える場合もある。従って、例えば、ステップS28~S30よりもステップS26及びS27の方が先に実行されることが望ましい。これにより、導出濃度が気泡が大きいことによる異常値であるにも関わらず、つまり、ステップS26;YesでステップS27が実行される必要があるにも関わらず、先にステップS28;Yesの判別結果によって、ステップS29が実行されて、導出濃度が要注意値と誤判定されてしまうことが抑制される。
【0062】
以上、実施形態及び変形例を参照して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態及び変形例に限定されるものではない。例えば、本発明には、本発明の技術思想の範囲内で当業者が理解し得る、上記実施形態及び変形例に対する様々な変更が含まれる。上記実施形態及び変形例に挙げた各構成は、矛盾の無い範囲で適宜組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0063】
10…気泡状態特定装置、11…投光部、12…受光部、13…記憶部、14…制御部、14A…タイミング制御部、14B…データ取得部、14C…濃度導出部、14D…気泡状態特定部、14E…出力制御部、14X…プロセッサ、14Y…メモリ、14Z…インターフェイス、15…出力部、16…入力部、90…外部装置。