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特開2024-158902鋳鉄管内面用補修剤および内面を補修した鋳鉄管
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158902
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】鋳鉄管内面用補修剤および内面を補修した鋳鉄管
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20241031BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20241031BHJP
   B22F 1/103 20220101ALI20241031BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20241031BHJP
   C08K 3/26 20060101ALI20241031BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C08L63/00 C
B22F1/00 M
B22F1/00 V
B22F1/103
C08K3/08
C08K3/26
C08K5/17
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074525
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳谷 仁志
(72)【発明者】
【氏名】冨田 直岐
(72)【発明者】
【氏名】明渡 健吾
(72)【発明者】
【氏名】安東 尚紀
(72)【発明者】
【氏名】東 祐樹
【テーマコード(参考)】
4J002
4K018
【Fターム(参考)】
4J002CD051
4J002DA088
4J002DA089
4J002DE236
4J002EN046
4J002EU076
4J002FD097
4J002FD098
4J002FD099
4J002FD146
4J002GH00
4J002GJ02
4K018BA04
4K018BA14
4K018BB04
4K018BD04
4K018KA01
(57)【要約】
【課題】簡便に短時間で補修可能であり、かつ耐熱性に優れた補修剤を提供すること、さらには管内面の凹部の補修箇所が耐熱性に優れたものである鋳鉄管を提供すること。
【解決手段】エポキシ樹脂を含有する第1剤と、硬化剤を含有する第2剤とからなる鋳鉄管内面用補修剤であって、硬化剤には少なくともトリエチレンテトラミンを含み、鉄粉、炭酸カルシウム粉およびニッケル粉を含む顔料を、補修剤中60~78質量%含有し、かつ炭酸カルシウム粉の含有量が、補修剤中45~65質量%である鋳鉄管内面用補修剤、ならびにこの鋳鉄管内面用補修剤の混合物を管内面の凹部に充填し硬化した鋳鉄管。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂を含有する第1剤と、硬化剤を含有する第2剤とからなる鋳鉄管内面用補修剤であって、
硬化剤には少なくともトリエチレンテトラミンを含み、
鉄粉、炭酸カルシウム粉およびニッケル粉を含む顔料を、補修剤中60~78質量%含有し、かつ
炭酸カルシウム粉の含有量が、補修剤中45~65質量%である
鋳鉄管内面用補修剤。
【請求項2】
管内面の凹部に請求項1記載の鋳鉄管内面用補修剤の混合物を充填し硬化した鋳鉄管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳鉄管の内面用補修剤および当該補修剤で内面凹部を補修した鋳鉄管に関する。
【背景技術】
【0002】
主に水道管として用いられているダクタイル鉄管の直管は、通常、遠心鋳造法により製造されている。鋳鉄管を遠心鋳造法により製造する場合、製造した鋳鉄管の内面には、鋳造欠陥(凹み)が生じる場合がある。このような場合、一般的に鉄系材料の溶接や、樹脂製補修剤の塗布により、鋳造欠陥が補修されている。
【0003】
特許文献1では、鋳造欠陥部をアークやプラズマで加熱・溶融させることで、欠陥部を浮上させ、その後その溶融部に溶加材を添加して肉盛溶接を行い、欠陥部を補修したことが開示されている。
【0004】
また、特許文献2では、高温下での硬度を維持しながら変形を低下できるアルミニウム鋳物の欠陥補修剤として、耐熱性エポキシ樹脂に、アルミニウムよりも硬度が高く熱膨張係数が小さい無機材料粉末が体積比で10~60%混合されたものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61-165292号公報
【特許文献2】特開2003-183477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のように、鋳造欠陥部自体を加熱・溶融させる作業は、手間や時間がかかり、結果としてコスト高になるという問題がある。
【0007】
また、ダクタイル鉄管においては、その内面にエポキシ樹脂粉体塗装を施す前に管を240℃以上に加熱するが、特許文献2に記載された樹脂製補充剤では200℃程度の耐熱性しか有しておらず、ダクタイル鉄管の補修には適用し難いという問題がある。
【0008】
このため、本発明では、簡便に短時間で補修可能であり、かつ耐熱性に優れた補修剤を提供すること、さらには管内面の凹部の補修箇所が耐熱性に優れたものである鋳鉄管を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題に鑑み、本件出願人は、二剤型のエポキシ系樹脂補修剤において、硬化剤として少なくともトリエチレンテトラミンを含み、鉄粉、炭酸カルシウム粉およびニッケル粉を含む顔料を所定量含有させ、さらに炭酸カルシウム粉の含有量を所定量とすることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、
[1]エポキシ樹脂を含有する第1剤と、硬化剤を含有する第2剤とからなる鋳鉄管内面用補修剤であって、
硬化剤には少なくともトリエチレンテトラミンを含み、
鉄粉、炭酸カルシウム粉およびニッケル粉を含む顔料を、補修剤中60~78質量%含有し、かつ
炭酸カルシウム粉の含有量が、補修剤中45~65質量%である
鋳鉄管内面用補修剤、および
[2]管内面の凹部に上記[1]記載の鋳鉄管内面用補修剤の混合物を充填し硬化した鋳鉄管
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、エポキシ樹脂を含有する第1剤と、硬化剤を含有する第2剤とからなる鋳鉄管内面用補修剤において、硬化剤には少なくともトリエチレンテトラミンを含み、鉄粉、炭酸カルシウム粉およびニッケル粉を含む顔料を、補修剤中60~78質量%含有し、かつ炭酸カルシウム粉の含有量が、補修剤中45~65質量%とすることにより、簡便に短時間で補修可能であり、かつ耐熱性に優れた鋳鉄管内面用補修剤を提供することができる。また、この鋳鉄管内面用補修剤の混合物を管内面の凹部に充填し硬化させることにより、耐熱性に優れた補修がなされた鋳鉄管を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<鋳鉄管内面用補修剤>
本発明の一態様としては、エポキシ系樹脂を含有する第1剤と、硬化剤を含有する第2剤とからなる鋳鉄管内面用補修剤に関し、硬化剤には少なくともトリエチレンテトラミンを含み、鉄粉、炭酸カルシウム粉およびニッケル粉を含む顔料を、補修剤中60~78質量%含有し、かつ炭酸カルシウム粉の含有量が、補修剤中45~65質量%であることを特徴とする。
【0013】
本明細書においては、本発明に係る補修剤は全て鋳鉄管内面用補修剤であり、「鋳鉄管内面用補修剤」を単に「補修剤」とも称する。
【0014】
(第1剤)
本発明の鋳鉄管内面用補修剤を構成する第1剤としては、エポキシ樹脂を含むものであれば、特に限定されるものではないが、後述する顔料を同時に含むことが好ましい。第1剤は、二液型のエポキシ樹脂組成物でいうところのいわゆる主剤に相当するものであり、当然硬化剤は含まないものである。
【0015】
(エポキシ樹脂)
第1剤に含まれるエポキシ樹脂としては、特に限定されるものではないが、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、環式脂肪族エポキシ樹脂、グリシジルアミン型樹脂、複素環式エポキシ樹脂、多官能型エポキシ樹脂、エポキシエステル樹脂などが挙げられる。その中でも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂のビスフェノール型エポキシ樹脂など耐熱性のエポキシ樹脂が好ましく、また、素地との付着性の観点からも、ビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましく用いられる。
【0016】
本発明に用いられる補修剤中のエポキシ樹脂の含有量は、15質量%以上であることが好ましく、18質量%以上であることがより好ましい。エポキシ樹脂の含有量を15質量%以上とすることにより、硬化時の成膜性が向上する傾向がある。また、エポキシ樹脂の含有量は、補修剤中25質量%以下であることが好ましく、24質量%以下であることがより好ましい。エポキシ樹脂の含有量を25質量%以下とすることにより、耐熱性が向上する傾向がある。
【0017】
(第2剤)
本発明の鋳鉄管内面用補修剤を構成する第2剤としては、硬化剤を含むものであれば、特に限定されるものではなく、後述する顔料を同時に含むことが好ましい。第2剤は、二液型のエポキシ樹脂組成物でいうところのいわゆる硬化剤に相当するものであり、当然にエポキシ樹脂は含まないものである。
【0018】
(硬化剤)
本発明の鋳鉄管内面用補修剤は、硬化剤として少なくともトリエチレンテトラミンを含有する。トリエチレンテトラミンは、その他の硬化剤と組み合わせて使用することが好ましく、その他の硬化剤は、エポキシ樹脂のエポキシ基間の架橋反応に寄与してエポキシ樹脂を硬化させる性質を有していれば、特に限定されることはない。その他の硬化剤の具体的な化合物としては、トリエチレンテトラミン以外のアミン系化合物、アミド系化合物、イミダゾール系化合物、イミダゾリン系化合物、ヒドラジド系化合物、酸無水物、フェノール系化合物などが挙げられ、1つまたは複数組み合わせて使用することができる。その中でも、適切な硬化速度の調整や耐熱性向上観点からトリエチレンテトラミン以外のアミン系化合物を1つまたは複数組み合わせて使用することが好ましい。
【0019】
アミン系化合物としては、脂肪族アミン類、ポリエーテルアミン類、脂環式アミン類、芳香族アミン類などがある。具体的には、脂肪族アミン類としては、トリエチレンテトラミン以外には、エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノプロパン、ヘキサメチレンジアミン、2,5-ジメチルヘキサメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、イミノビスプロピルアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、N-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、テトラ(ヒドロキシエチル)エチレンジアミン等が例示される。ポリエーテルアミン類としては、トリエチレングリコールジアミン、テトラエチレングリコールジアミン、ジエチレングリコールビス(プロピルアミン)、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシプロピレントリアミン類等が例示される。脂環式アミン類としては、イソホロンジアミン、メタセンジアミン、N-アミノエチルピペラジン、ビス(4-アミノ-3-メチルジシクロヘキシル)メタン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、3,9-ビス(3-アミノプロピル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン、ノルボルネンジアミン等が例示される。芳香族アミン類としては、テトラクロロ-p-キシレンジアミン、m-キシレンジアミン、p-キシレンジアミン、m-フェニレンジアミン、o-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノアニソール、2,4-トルエンジアミン、2,4-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-1,2-ジフェニルエタン、2,4-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、m-アミノフェノール、m-アミノベンジルアミン、ベンジルジメチルアミン、2-ジメチルアミノメチル)フェノール、トリエタノールアミン、メチルベンジルアミン、α-(m-アミノフェニル)エチルアミン、α-(p-アミノフェニル)エチルアミン、ジアミノジエチルジメチルジフェニルメタン、α,α’-ビス(4-アミノフェニル)-p-ジイソプロピルベンゼン等が例示される。なかでも、トリエチレンテトラミンに、さらにそれ以外の脂肪族アミン類と脂環式アミン類を組み合わせて使用することが特に好ましい。
【0020】
トリエチレンテトラミンを他の硬化剤と組み合わせて使用する場合、本発明の補修剤中のトリエチレンテトラミンの含有量は、硬化剤の全質量に対して12質量%以上が好ましく、13質量%以上がより好ましい。補修剤中のトリエチレンテトラミンの含有量を硬化剤の全質量に対して12質量%以上とすることにより、適切な硬化速度とすることができる傾向がある。また、補修剤中のトリエチレンテトラミンの含有量は、硬化剤の全質量に対して20質量%以下が好ましく、18質量%以下がより好ましい。補修剤中のトリエチレンテトラミンの含有量を硬化剤の質量に対して20質量%以下とすることにより、硬化速度の増加に伴う作業性の低下を抑制しやすくなる傾向がある。
【0021】
また、本発明の補修剤中の硬化剤の合計含有量は、エポキシ樹脂の質量に対して40質量%以上が好ましい。補修剤中の硬化剤の合計含有量をエポキシ樹脂の質量に対して40質量%以上とすることにより、硬化速度が増加する傾向がある。また、補修剤中の硬化剤の合計含有量は、エポキシ樹脂の質量に対して47質量%以下が好ましい。補修剤中の硬化剤の合計含有量をエポキシ樹脂の質量に対して47質量%以下とすることにより、硬化速度の増加に伴う作業性の低下を抑制する傾向がある。
【0022】
(顔料)
本発明の鋳鉄管内面用補修剤は、鉄粉、炭酸カルシウム粉およびニッケル粉を含む顔料を、補修剤中60~75質量%含む。これらの顔料は第1剤に配合されていても、第2剤に配合されていてもよく、通常、第1剤および第2剤が調製しやすいように各剤にそれぞれ分けて配合される。顔料には、鉄粉、炭酸カルシウム粉およびニッケル粉以外の顔料を含有させることもできるが、炭酸カルシウム粉を、補修剤中45~65質量%含有させる必要がある。
【0023】
本発明の補修剤中の顔料の含有量は、60質量%以上であるが、63質量%以上が好ましい。補修剤中の顔料の含有量が60質量%未満であると、耐熱性が低下する傾向となる。また、補修剤中の顔料の含有量は、78質量%以下であるが、75質量%以下が好ましい。補修剤中の顔料の含有量が78質量%を超えると、補修剤の粘度が上昇し、混錬時や補修時の作業性が低下する傾向となる。
【0024】
本発明の補修剤中の鉄粉の含有量は、10質量%以上が好ましい。補修剤中の鉄粉の含有量を10質量%以上とすることにより、硬化後の補修剤強度が上昇する傾向がある。また、補修剤中の鉄粉の含有量は、20質量%以下が好ましい。補修剤中の鉄粉の含有量を20質量%以下とすることにより、炭酸カルシウム粉を耐熱性向上のために適量添加しやすくなる。
【0025】
本発明の補修剤中の炭酸カルシウム粉の含有量は、45質量%以上であるが、48質量%以上が好ましい。補修剤中の炭酸カルシウム粉の含有量が45質量%未満であると、耐熱性が低下する傾向となる。また、補修剤中の炭酸カルシウム粉の含有量は、65質量%以下であるが、63質量%以下が好ましい。補修剤中の炭酸カルシウム粉の含有量が65質量%を超えると、鉄粉を硬化後の硬化剤強度向上のために適宜添加することが困難となる。
【0026】
本発明の補修剤中のニッケル粉の含有量は、3質量%以上が好ましい。補修剤中のニッケル粉の含有量を3質量%以上とすることにより、耐熱性および硬化後の硬化剤強度が増加する傾向がある。
【0027】
鉄粉、炭酸カルシウム粉およびニッケル粉以外の顔料としては、具体的には、ステンレス粉、アルミナ粉、シリカなどの金属あるいはセラミック材料;酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック(例えば、商品名 MA100、三菱化学(株)製など)、シアニンブルー、シアニングリーンなどの着色顔料;炭酸カルシウム、タルク、硫酸バリウム、クレーなどの体質顔料;燐酸亜鉛、燐酸カルシウム、リンモリブデン酸アルミニウムなどの防錆顔料などが挙げられる。これらは単独で使用しても良く、必要により2種以上を混合して使用しても良い。
【0028】
(補修剤)
本発明の鋳鉄管内面用補修剤は、上述の第1剤および第2剤からなり、各剤を収容した別々の容器から構成されるキットとしてもよく、各剤を使用に際し連通する隔壁を有する複室容器の各室に収容した形態としてもよい。
【0029】
本発明の補修剤は二剤型であるため、使用に際して第1剤と第2剤を混合、例えば混練りして使用するものであり、その際、得られる混合物、例えば混練物は、ペースト状、またはパテ状であることが好ましい。また、第1剤と第2剤を混ぜることにより、エポキシ樹脂の硬化が開始されるため、本発明の補修剤は、混合あるいは混練り後、使用に適した柔らかさを維持している間に使用する必要がある。このため、本発明の補修剤は、使用の直前から10分前までに、第1剤と第2剤を混合、あるいは混練りすることが好ましく、さらに第1剤と第2剤の混合、あるいは混練りから連続して充填作業を行うことが最も好ましい。
【0030】
本発明の補修剤における第1剤および第2剤の混合方法、あるいは混練方法は、特に限定されるものではないが、手作業などにより行うことができる。
【0031】
本発明の鋳鉄管内面用補修剤は、鋳鉄管内面の凹部に充填されるものであるが、この凹部は本発明の鋳鉄管内面用補修剤により充填、硬化できる程度の大きさや深さであれば特に限定されるものではない。通常、本発明の鋳鉄管内面用補修剤は、遠心鋳造した鋳鉄管の内面の鋳造欠陥による凹部の補修に適用することが特に好ましい。本発明の鋳鉄管内面用補修剤であれば、第1剤と第2剤とを混合した混合物を凹部にヘラ、コテ等により充填する作業のみで補修を行うことができ、さらに硬化までに時間がかからず、得られる補修箇所についても平滑な表面を得ることができる。また、さらに表面の平滑性を向上させるために、硬化後にグラインダー等による表面処理を行うことができる。
【0032】
(鋳鉄管)
本発明の鋳鉄管内面用補修剤を適用する鋳鉄管は、例えば、上下水道用、貯水用など特に限定されるものではないが、本発明の効果をより発揮することができるという観点から、遠心鋳造された上下水道用の鋳鉄管であって、内面にエポキシ樹脂粉体塗装が施されるものなど、補修後に非常に高い温度に加熱される可能性のある鋳鉄管が好ましい。
【0033】
<補修された鋳鉄管>
本発明の別の態様としては、上述の鋳鉄管内面用補修剤で管内面の凹部を補修した鋳鉄管が提供される。その補修方法は上述したとおりであり、耐熱性に優れた補修がなされた鋳鉄管を提供することができ、さらに補修箇所の表面平滑性の向上された鋳鉄管とすることもできる。
【0034】
このように、本発明の鋳鉄管内面用補修剤により内面の凹部を補修した鋳鉄管は、当該補修剤が耐熱性に優れているため、補修後にエポキシ樹脂粉体塗装を行うために加熱直後の管温度が240℃以上となるような高温に加熱しても、補修剤に問題となるような影響はない。したがって、その後のエポキシ樹脂粉体塗装を首尾よく実施することができる。
【0035】
その他、特段の矛盾がない限り、本発明の補修剤において上述した内容はすべて本発明の鋳鉄管に適用され、本発明の鋳鉄管において上述した内容はすべて本発明の補修剤に適用される。
【実施例0036】
以下、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0037】
まず、実施例等で使用した成分を下記に示す。
(エポキシ樹脂)
・エポキシ樹脂:BPA型エポキシ樹脂(EPICLON 850、DIC(株)製)
(硬化剤)
・テトラエチレンペンタミン:T0098(東京化成工業(株)製)
・トリエチレンテトラミン:T0429(東京化成工業(株)製)
・N-(2-アミノエチル)ピペラジン:A2517(東京化成工業(株)製)
(顔料)
・鉄粉:MT032500(三津和化学薬品(株)製)
・炭酸カルシウム粉:03000625(協和純薬工業(株)製)
・ニッケル粉:Ni-HWQ 5μm-W(福田金属箔粉工業(株)製)
【0038】
実施例1および2ならびに比較例1および2
表1の組成にしたがい、各成分を混合し、第1剤および第2剤を製造した。その後、第1剤と第2剤を質量比1:1でヘラを用いて混練りし、混練物を得た。得られた混練物を次の試験例1~3において評価した。なお、各試験例における混練物の調製は、鋳鉄片への塗布前、10分以内に行った。
【0039】
【表1】
【0040】
試験例1:硬化性
ダクタイル鉄管(φ300×150mm)を切断加工して、内面を研磨により清浄として得られた鋳鉄片(150×90mm)の内面に、さらにハンドドリルを用いて直径10mm、深さ1mmの平面視略円形の凹みを設けた。実施例1および2ならびに比較例1および2で得られた混練物(補修剤)をこの凹みにヘラを用いて充填し、その後ヘラにより平滑にした。その後室温25℃、湿度50%の環境で4時間放置し、その後、指で触ることにより硬化状況を以下の基準により評価した。結果を表1に示す。なお、比較例2については、表面がざらざらしており、べたつきについて判断がつかなかった。
○:べたつきなし(十分に硬化)
×:べたつきあり(硬化不良)
【0041】
試験例2:耐熱性
試験例1と同様に補修剤を充填・硬化させた鋳鉄片を、270℃の加熱炉で7時間放置した後、補修部分の外観を目視にて確認し、補修剤の耐熱性を以下の基準により評価した。なお、比較例2については、上述のとおり試験例1で硬化性について判断がつかず、本試験例2は実施しなかった。
○:外観に異常なし
×:補修剤に膨れや表面に割れなどの異常あり
【0042】
試験例3:成膜性
放置時間を24時間とした以外は試験例1と同様にしたダクタイル鋳鉄片を得た。得られた鋳鉄片を目視および指で触ることにより製膜状況を以下の基準により評価した。
○:表面が平滑である
×:表面にざらつき(骨材が浮いている)がある
【0043】
表1から、硬化剤には少なくともトリエチレンテトラミンを含み、さらに鉄粉、炭酸カルシウム粉およびニッケル粉を含む顔料を補修剤中60~75質量%含有し、かつ炭酸カルシウム粉の含有量が補修剤中45~65質量%である実施例1および2の補修剤は、比較例1および2に対して、簡便かつ耐熱性の高い補修が可能であることが分かる。