(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158905
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】残存膨張量測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/38 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
G01N33/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074529
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
(71)【出願人】
【識別番号】505398952
【氏名又は名称】中日本高速道路株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000103769
【氏名又は名称】オリエンタル白石株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】七澤 章
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 崇
(72)【発明者】
【氏名】上田 隆雄
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健太
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宗平
(72)【発明者】
【氏名】庄野 昂太
(72)【発明者】
【氏名】高橋 謙一
(72)【発明者】
【氏名】俵 道和
(57)【要約】
【課題】従来の促進膨張試験の代替法として、遅延反応性骨材が含有されているコンクリートに対しても有効な促進膨張試験方法を提供すること。
【解決手段】コンクリート構造物からコア供試体を採取し、前記コア供試体に孔を形成し、該孔に鋼材を挿入し、前記コア供試体の一部を電解液に浸漬させ、陰極である鋼材と電解液中の陽極との間に一定期間通電し、次いで該コア供試体に対してアルカリシリカ反応を促進させるための養生をし、その後膨張率を測定する、模擬通電試験による残存膨張量測定方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物からコア供試体を採取し、前記コア供試体に孔を形成し、該孔に鋼材を挿入し、前記コア供試体の一部を電解液に浸漬させ、陰極である鋼材と電解液中の陽極との間に一定期間通電し、次いで該コア供試体に対してアルカリシリカ反応を促進させるための養生をし、その後膨張率を測定する、模擬通電試験による残存膨張量測定方法。
【請求項2】
前記電解液がアルカリ金属水溶液である請求項1に記載の模擬通電試験による残存膨張量測定方法。
【請求項3】
通電量が、コンクリートの表面積当たりの電流密度として0超~5A/m2である請求項1又は2に記載の模擬通電試験による残存膨張量測定方法。
【請求項4】
前記鋼材と前記孔との間隙がセメントペースト又は飽和水酸化カルシウム水溶液で充填される請求項1又は2に記載の模擬通電試験による残存膨張量測定方法。
【請求項5】
前記アルカリ金属がリチウム、ナトリウム及びカリウムから選ばれる少なくとも一種である請求項2に記載の模擬通電試験による残存膨張量測定方法。
【請求項6】
前記アルカリ金属がリチウム又はカリウムである請求項5に記載の模擬通電試験による残存膨張量測定方法。
【請求項7】
前記電解液が炭酸塩である請求項1又は2に記載の模擬通電試験による残存膨張量測定方法。
【請求項8】
前記通電期間が7日~80日である請求項1又は2に記載の模擬通電試験による残存膨張量測定方法。
【請求項9】
前記養生が、下記条件(1)~(3)のいずれかで行われる請求項1又は2に記載の模擬通電試験による残存膨張量測定方法。
(1)20~40℃で相対湿度95%以上の雰囲気下に静置する。
(2)80℃の1mol/LのNaOH溶液に浸漬させる。
(3)50℃の飽和NaCl水溶液中に浸漬させる。
【請求項10】
前記養生の期間が7日~365日間である請求項9に記載の模擬通電試験による残存膨張量測定方法。
【請求項11】
前記コア供試体が円柱形状であり、直径が40~120mmであり、高さが120~320mmである請求項1又は2に記載の模擬通電試験による残存膨張量測定方法。
【請求項12】
前記鋼材が陰極であり、陽極としてチタンを基材とした合金が被覆したメッシュ電極を用いる請求項1又は2に記載の模擬通電試験による残存膨張量測定方法。
【請求項13】
前記通電中に電解液中のpH、塩素イオン濃度、及び電極間電位差の少なくともいずれかを測定する請求項1又は2に記載の模擬通電試験による残存膨張量測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の残存膨張量測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物が劣化する原因として、アルカリシリカ反応、コンクリートの中性化、及び塩害があり、コンクリートの中性化や塩害の除去方法として電気化学的手法を応用した補修工法が用いられている。
具体的には、コンクリート内部にある鉄筋(鋼材)とコンクリート表面にある陽極との間に、アルカリ性の電解質溶液を介して直流電流を流すことによって、コンクリート中の塩化物イオンをコンクリート表面外に抽出する脱塩工法、またアルカリ性物質、例えばアルカリ金属の水溶液をコンクリート内に電気浸透させることによって、中性化したコンクリートの再アルカリ化を行う方法である。
【0003】
しかしながら、アルカリ金属の水溶液は、アルカリシリカ反応を助長する可能性がある。アルカリシリカ反応(以下「ASR」と記載することがある。)は、コンクリート中でアルカリ反応性を有する骨材が、セメントに起因するアルカリと反応し、膨張性のASRゲルを骨材内部に生じ、コンクリートに膨張ひび割れをもたらす現象である。
したがって、コンクリート構造物のASRの進行を予測することは、コンクリート構造物の維持管理において重要であり、ASRが生じたコンクリート構造物について、今後のさらなる膨張の有無を予測することは極めて重要である。
【0004】
今後の膨張の有無を予測する方法としては、コンクリート構造物から採取したコンクリートコア供試体(以下、「コア供試体」又は、単に「供試体」ということがある。)について促進膨張試験を行うことで、残存膨張量(今後の膨張量)を測定する方法が一般に行われている。
ここで、促進膨張試験法としては、カナダ法、デンマーク法、JCI-DD2法などがある。いずれの方法も一定条件下で貯蔵し、それぞれの判定基準で膨張の度合いを測定するものである。
例えば、カナダ法を例にとると、温度80±2℃の1mol/LのNaOH溶液中に供試体を浸漬させ、試験開始後14日間での膨張量を以下の基準で判定している(ASTM C1260-94)。
0.10%以下の場合:無害
0.10~0.20%:有害と無害の骨材が含まれる。
0.20%以上の場合:潜在的に有害な膨張量
上記評価結果を踏まえ、膨張量が0.10%以下であれば、電気化学的手法を応用した補修工法を用い、一方、0.20%以上であれば、電気化学的手法以外の手法、例えば、コンクリートのひび割れや欠落部分について、その部分のコンクリートをはつり取った後に、新しいコンクリートやモルタルを充填する断面修復を採用した例がある。
【0005】
上述の膨張量(膨張率)を予測する方法としては、例えば、以下の特許文献1及び2が挙げられる。
特許文献1では、コンクリート構造物の健全部から第一のコンクリート試験体、劣化部から第二のコンクリート試験体を採取し、各コンクリート試験体についてそれぞれ促進膨張試験を実施し、促進膨張率の経時変化を取得する、今後の膨張率の予測を行う方法が開示されている。
また、特許文献2では、コンクリート構造物から採取したコンクリートの促進膨張試験におけるコンクリートの膨張率と、コンクリート構造物から採取したコンクリートの水酸化アルカリ濃度との相関関係に従って、アルカリシリカ反応により劣化したコンクリート構造物の劣化進行を予測する、コンクリート構造物のアルカリシリカ反応による劣化進行の予測方法が開示されている。
【0006】
特許文献1及び2に開示される予測方法は、いずれも促進膨張試験を行い、促進膨張試験による膨張率の変化から、ASRによる膨張率の予測を行う方法である。
特許文献1では、促進膨張試験としてカナダ法、デンマーク法、JIS A 1804に規定される方法の試験期間を延長して採用する等、適宜公知の試験方法から選択して行えばよいとされている(特許文献1、段落0025参照)。
また、特許文献2では、促進膨張試験としては、例えば、50℃、飽和塩化ナトリウム溶液浸漬法(デンマーク法に相当)や、80℃、1規定水酸化ナトリウム溶液における促進試験(NBRI試験、カナダ法に相当)が挙げられ、好ましくはNBRI試験である、とされている(特許文献2、段落0010)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010-243397号公報
【特許文献2】特開2001-99833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、特許文献1及び2では、カナダ法、デンマーク法などの従来から知られている促進膨張試験が用いられている。しかしながら、これらの促進膨張試験は、通常の反応性骨材に対しては有効であるが、遅延反応性骨材を含むコンクリート試験体に対しては、カナダ法等の条件では膨張しない場合があることがわかった。したがって、遅延反応性骨材が含有されているコンクリートにおいては、カナダ法等の促進膨張試験結果が、実際に起こるASRを反映していない場合が存在する。
そこで、本発明の課題は、電気化学的防食工法の事前調査として、従来の促進膨張試験の代替法として、遅延反応性骨材が含有されているコンクリートに対しても有効な促進膨張試験方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために鋭意検討したところ、コンクリート構造物からコア供試体を採取し、これに脱塩工法、再アルカリ化工法などの電気化学的手法を用いて模擬通電試験を行うことで、残存膨張量を効果的に予測することが可能であり、当該課題を解決できることを見出した。すなわち本発明は下記のとおりである。
[1]コンクリート構造物からコア供試体を採取し、前記コア供試体に孔を形成し、該孔に鋼材を挿入し、前記コア供試体の一部を電解液に浸漬させ、陰極である鋼材と電解液中の陽極との間に一定期間通電し、次いで該コア供試体に対してアルカリシリカ反応を促進させるための養生をし、その後膨張率を測定する、模擬通電試験による残存膨張量測定方法。
[2]前記電解液がアルカリ金属水溶液である上記[1]に記載の模擬通電試験による残存膨張量測定方法。
[3]通電量が、コンクリートの表面積当たりの電流密度として0超~5A/m2である上記[1]又は[2]に記載の模擬通電試験による残存膨張量測定方法。
[4]前記鋼材と前記孔との間隙がセメントペースト又は飽和水酸化カルシウム水溶液で充填される上記[1]~[3]のいずれかに記載の模擬通電試験による残存膨張量測定方法。
[5]前記アルカリ金属がリチウム、ナトリウム及びカリウムから選ばれる少なくとも一種である上記[2]~[4]のいずれかに記載の模擬通電試験による残存膨張量測定方法。
[6]前記アルカリ金属がリチウム又はカリウムである上記[5]に記載の模擬通電試験による残存膨張量測定方法。
[7]前記電解液が炭酸塩である上記[1]~[6]のいずれかに記載の模擬通電試験による残存膨張量測定方法。
[8]前記通電期間が7日~80日である上記[1]~[7]のいずれかに記載の模擬通電試験による残存膨張量測定方法。
[9]前記養生が、下記条件(1)~(3)のいずれかで行われる上記[1]~[8]のいずれかに記載の模擬通電試験による残存膨張量測定方法。
(1)20~40℃で相対湿度95%以上の雰囲気下に静置する。
(2)80℃の1mol/LのNaOH溶液に浸漬させる。
(3)50℃の飽和NaCl水溶液中に浸漬させる。
[10]前記養生の期間が7日~365日間である上記[9]に記載の模擬通電試験による残存膨張量測定方法。
[11]前記コア供試体が円柱形状であり、直径が40~120mmであり、高さが120~320mmである上記[1]~[10]のいずれかに記載の模擬通電試験による残存膨張量測定方法。
[12]前記鋼材が陰極であり、陽極としてチタンを用いる上記[1]~[11]のいずれかに記載の模擬通電試験による残存膨張量測定方法。
[13]前記通電中に電解液中のpH、塩素イオン濃度、及び電極間電位差の少なくともいずれかを測定する上記[1]~[12]のいずれかに記載の模擬通電試験による残存膨張量測定方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、遅延反応性骨材が含有されているコンクリートに対しても有効な促進膨張試験方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の方法で使用するコア供試体を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[模擬通電試験による残存膨張量測定方法]
本発明の残存膨張量測定方法(以下、「本発明の方法」ということがある。)は、コンクリート構造物からコア供試体を採取し、このコア供試体に孔を形成し、その孔に鋼材を挿入し、前記コア供試体の一部を電解液に浸漬させ、鋼材と電解液中の陽極との間に一定期間通電し、次いで該コア供試体に対してアルカリシリカ反応を促進させるための養生をし、その後膨張率を測定することを特徴とする。
本発明の方法の対象となるコンクリート構造物は、特に限定されないが、従来の促進膨張試験では差が検知できない、遅延反応性骨材を含有するコンクリート構造物が好適に挙げられる。遅延反応性骨材としてはチャート等が挙げられ、粒径や強度等の骨材としての物理的性質が良好である。
以下、本発明の方法について詳述する。
【0013】
<コア供試体>
本発明の方法では、まずコンクリート構造物から、コア供試体を採取する。コア供試体の形状及び大きさとしては、本発明の効果を奏する範囲であれば、特に限定されないが、取り扱いが容易であること、現場からの採取しやすさの点などから、例えば、
図1に示すような円柱形状であることが好ましい。
コア供試体の直径としては、取り扱いの容易性、後に詳述する孔(以下、「削孔」と記載することがある。)を容易に作成し得るとの観点から、直径が40~120mmの範囲であることが好ましく、50~110mmの範囲であることがより好ましく、60~100mmの範囲であることがさらに好ましい。
また、コア供試体の高さとしては、削孔の深さを十分にとることができるとの観点から、120~320mmの範囲であることが好ましく、150~300mmの範囲であることがより好ましく、180~250mmの範囲であることがさらに好ましい。
【0014】
<削孔及び鋼材>
本発明では、上記コア供試体に、電極としての鋼材を挿入するための削孔を形成する。削孔の形状も円柱形状であることが好ましく、内径としては、鋼材が挿入できるものであれば特に制限はない。具体的には、鋼材の直径に応じて決定すればよく、例えば、削孔の内径は5~25mmの範囲であることが好ましく、10~20mmの範囲であることがさらに好ましい。
削孔の深さとしては、削孔の作業性の点から、コア供試体の高さの80/100~95/100の範囲であることが好ましく、85/100~90/100の範囲であることがさらに好ましい。例えば、コア高さが200mmの場合には、削孔の深さは175mm程度とすることが好ましい。なお、削孔はコア供試体を貫通していてもよいが、後に詳述する電解液と接触しないように絶縁される必要がある。
【0015】
鋼材の形状については、本発明の効果を奏する範囲であれば、特に制限はなく、例えば、丸鋼であってもよい。丸鋼の直径としては、上記削孔に挿入できる径であればよいが、コアと固定しやすく、電流が流れやすいとの観点から、削孔の内径よりも1~3mm程度小さいことが好ましい。
【0016】
鋼材と孔の間隙にはセメントペースト又は飽和水酸化カルシウム水溶液を充填することが好ましい(以下「充填材」ということがある。)。これらの充填材によって、鋼材を孔内に定着させることができる。鋼材の定着の点からは、セメントペーストを用いることがより好ましい。
セメントペーストとしては、鋼材を孔内に定着させることができるものであれば特に限定されず、例えば、水とセメントの比率(水/セメント)が30~60質量%程度、好ましくは40~50質量%のセメントペーストを用いればよい。
【0017】
<電解液>
本発明では、前述のように、コンクリート構造物から採取したコア供試体に削孔を形成し、該削孔に鋼材を挿入し、削孔の内壁と鋼材の間隙に充填材を充填する。このようにして作製した試料(以下「コアサンプル」と記載することがある。)の一部を電解液に浸漬させる。具体的には、
図2に写真を示すように、コアサンプルの少なくとも一部を電解液に浸漬させ、鋼材と電解液との間に一定期間通電する。
電解液を構成する電解質は、コアサンプル中に浸透することによりコアサンプルの電気抵抗を低減し、電気を流れやすくするもので、溶液中にプラスイオンとマイナスイオンが存在するものであればよい。具体的には、溶媒である水に、溶質として各種のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩を溶解した水溶液が好適に使用される。アルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩としては、リチウム、ナトリウム及びカリウム、並びにマグネシウムやカルシウムなどの炭酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、硫酸塩、ホウ酸塩、さらに水酸化物や塩化物等が挙げられる。
【0018】
本発明に用いる電解液としては、アルカリ金属水溶液が好ましい。電気化学的防食工法で用いられる電解液と同様のものを用いることで、事前の模擬通電試験としての、本発明の方法の精度が向上する。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、及びカリウムから選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましく、特に、リチウム、カリウムが好ましい。アルカリ金属としては、1種を単独で用いてもよく、また2種以上のアルカリ金属を混合して用いてもよい。
また、電解液としては炭酸塩が好ましい。上記と同様に、電気化学的防食工法で用いられる電解液と同様のものを用い、事前の模擬通電試験としての精度を向上させるものである。
以上の点から、本発明に係る電解液としては、アルカリ金属の炭酸塩が好ましく、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムの水溶液が好ましく、特に炭酸リチウム、炭酸カリウムの水溶液が好ましい。
電解液の濃度としては、特に限定はないが、溶解度、コアサンプルへの浸透性の点から、通常0.01~1mol/Lの範囲であり、好ましくは0.05~0.8mol/Lの範囲であり、さらに好ましくは0.1~0.5mol/Lの範囲である。
【0019】
本発明の方法において、電解液は、後述する通電中にpH、塩素イオン濃度、及び電極間電位差の少なくともいずれかを測定することが好ましい。時間の経過とともに電解質の液性が変質することがあり、所定時間ごとに、pH、塩素イオン濃度、及び電極間電位差をモニタリングすることにより、電解液の液性等の管理をすることができる。
【0020】
<電極>
本発明の方法では、コア供試体に挿入される鋼材が陰極であり、陽極は電解液中に一部又は全部が浸漬されて使用される。陽極材としては、耐腐食性に優れた材料を選択することが好ましく、例えば、チタン、チタン合金、白金、又はこれらの金属でメッキされた金属が挙げられる。また、炭素繊維、炭素棒などの炭素材料、導電性高分子等が挙げられる。本発明の方法においては、塩素ガスの発生抑制、電圧の安定性の理由から、チタンを基材とした合金が被覆した電極を用いることが好ましい。
また、陽極材としては、ネット状、メッシュ状、シート状の上記導電性材料であることが好ましく、例えば、チタンを基材とした合金が被覆したメッシュ、炭素繊維シートなどが挙げられ、特にチタンを基材とした合金が被覆したメッシュ電極が好ましい。
【0021】
<通電量>
本発明の方法において、鋼材と電解液との間の通電量は、コンクリート(コアサンプル)の表面積当たりの電流密度として0超~5A/m2であることが好ましい。ここでの電流密度は、実際に電気化学的防食工法を行う際の条件に合わせることが好ましく、上記範囲であることが好ましい。
電流密度が0A/m2を超えて電流を流すことにより、電解質材料をコンクリート中に浸透させることができる。一方、電流密度が5A/m2以下であると、アルカリ集積とOH-イオンの生成が過度にならない。
上記電流の電圧についても、実際に電気化学的防食工法を行う際の条件に合わせることが好ましく、5~40Vの範囲であることが好ましい。
【0022】
<通電期間>
電流を流す期間(通電期間)としては、本発明の効果を奏する範囲であれば、特に限定されないが、上記通電量の範囲であれば、7日~80日の範囲とすることが好ましい。7日以上であると、コアサンプルに対する通電が十分であり、続いて行われる養生によって、有効な促進膨張試験とすることができる。一方、上限である80日は実際の電気化学的防食工法における通電期間と同程度である。以上の観点から、通電期間は10日~60日であることがさらに好ましい。
【0023】
<模擬通電試験装置>
本発明の方法では、
図2に示すような、模擬通電試験装置を用いる。模擬通電試験装置は、電解槽を有し、該電解槽には電解液が充填される。電解槽の材質としては、絶縁性を有していることが好ましく、プラスチック、セラミックス等が好適に挙げられる。電解槽の形状としては、電解液を貯留することができればよく、特に制限はない。
図2に示すようなバケツ形状であってもよいし、箱状であってもよい。大きさとしては、コアサンプルを挿入でき、その周囲にメッシュ状の陽極を配置することができれば、特に制限はなく、径が20~30cm程度(バケツ状の場合は直径、箱状の場合は対角線の長さ)、深さは30~50cm程度であればよい。
【0024】
<養生>
本発明のコアサンプルは、通電した後にアルカリシリカ反応(ASR)を促進させるための養生を行う。この養生によって、コアサンプルの膨張度合いを把握することができる。なお、養生は通電を停止した後に行い、養生中は通電しない。
養生としては、以下の条件(1)~(3)のいずれかで行われることが好ましい。これらの条件であると、ASRが生じる系であれば、膨張の度合いを十分に把握することができる。
(1)20~40℃で相対湿度95%以上の雰囲気下に静置する。
(2)80℃の1mol/LのNaOH溶液に浸漬させる。
(3)50℃の飽和NaCl水溶液中に浸漬させる。
【0025】
養生の期間としては、7日~365日の範囲であることが好ましい。この範囲であるとASRが促進され、適切な残存膨張量が測定でき、かつコスト面からも好ましい。
【0026】
<膨張率の測定>
膨張率の測定方法としては、コアサンプルの促進試験の前後での高さを測定し、その伸び率から計算することができる。例えば、
図1に示すように、削孔11を有するコア供試体10にステンレスバンド12を装着し、真鍮製のチップ13を150mmの間隔で取り付ける。促進試験後の真鍮チップ間距離を測定し、初期のチップ間距離(150mm)で除することで、膨張率を算出することができる。
なお、真鍮製のチップ間距離は、膨張量を測定することができる範囲であれば、特に限定されない。精度の点からは、長いことが好ましいが、測定サンプル、測定装置等の点から、100~180mm程度が好ましい。
【0027】
[本発明の意義]
本発明によれば、従来から行われているカナダ法等の促進膨張試験では検知できない、遅延反応性骨材を含有するコンクリートであっても、残存膨張量を測定することができ、今後の膨張量が推定できる。
また、電気化学的手法を応用した補修工法を適用することができるか否かの判定をすることができる。具体的には、本発明の方法により、促進膨張試験を行った際に、いずれの電解液を用いても膨張が生じる場合には、電気化学的手法を用いることができないことを意味する。したがって、この場合には、電気化学的手法以外、例えば、断面修復等の方法により補修すべきことが示唆されることになる。
一方、電解液の種類によって、膨張を起こす電解液と膨張を起こさない電解液がある場合には、膨張を生じさせない電解液を使用することで、電気化学的手法による補修をすることができることを意味し、最適な電解液を選択する方法として、本発明の方法を用いることができる。
【実施例0028】
以下、実験例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、下記の実験例に限定されるものではない。
【0029】
実験例1
(コアサンプルの調製)
コンクリート構造物からコア供試体を採取した。コア供試体は
図1に示すように円柱状とし、底面の直径を75mm、高さを200mmとした。このコア供試体の底面の中央部に内径15mm、深さ175mmの削孔を設けた。コア供試体の上部及び下部の底面から25mmの部分にそれぞれステンレスバンドを取り付け、膨張率を測定するための真鍮チップを貼付した。真鍮チップ間の距離は150mmとした。
次いで、コンクリート構造物で用いている鉄筋と同じ種類の丸鋼(直径13mm)を削孔に挿入し、削孔と丸鋼の間隙部をセメントペーストで埋めて、コアサンプルとした。なお、ここで用いたセメントペーストは、水/セメント比が45質量%のものを用いた。
なお、本コア供試体には、遅延反応性骨材として、安山岩中にクリストバライトが5質量%含まれていた。
【0030】
(模擬通電試験)
コアサンプルを、
図2に示すように模擬通電試験装置にセットし、コアサンプルの上部から10mmのところまで、電解液に浸漬させた。電解液としては、炭酸リチウム水溶液を用い、0.2mol/Lの濃度とした。陽極としては、チタンメッシュを用い、
図2に示すようにコアサンプルの周囲に張り巡らせる形でセットした。
雰囲気の温度は20℃とし、コンクリート表面積当たり1.0A/m
2、定電流制御として、通電を8週間、連続で行った。
なお、ここで用いた模擬通電試験装置における電解槽の材質はポリエチレン、大きさは直径20cm、深さ40cmである。
【0031】
(養生)
8週間の通電の後、通電を止めて、コアサンプルを取り出した。次いで、温度40℃、相対湿度95%の恒温恒湿槽に125日間静置した。その後、明細書本文中に記載の方法で、膨張率を測定した。なお、膨張率の測定は、養生の開始後25日、60日、85日、および125日経過時に測定した。結果を表1に示す。
【0032】
実験例2
実験例1において、電解液として、炭酸カリウム水溶液を用い、0.3mol/Lの濃度としたこと以外は、実験例1と同様にして試験を行った。結果を表1に示す。
【0033】
参考例1
実験例1において、通電をせず、20℃、相対湿度95%で8週間、保管したこと以外は、実験例1と同様にして試験を行った。結果を表1に示す。
【0034】
参考例2
実験例1で調製したコアサンプルを用い、カナダ法により促進膨張試験を行った。具体的には、温度80±2℃の1mol/LのNaOH溶液中に14日間浸漬した。その後、明細書本文中に記載の方法で膨張率を測定した結果、カナダ法では膨張は見られなかった。
【0035】
【0036】
表1の結果から、実験例2に示すように、炭酸カリウム水溶液を用いた場合には、コアサンプルが膨張した。膨張率の絶対値としては、大きくないが、125日の経過後に6倍程度の膨張率の増加がみられた。一方、従来の方法であるカナダ法では、本発明の方法に比較して、膨張率の絶対値としては大きいが、経過日数に対する膨張率の増加率は小さく、125日経過後でも膨張率は2倍程度であった(参考例2)。以上のように、従来の方法では予測できなかった残存膨張量が、本発明によって予測できることが確認できた。
また、実験例1に示すように、炭酸リチウム水溶液を用いた場合には、養生によって、コアサンプルは膨張しなかったのに対し、炭酸カリウムを用いた実験例2では、コアサンプルが膨張した。すなわち、本実験例に用いたコンクリート構造物では、炭酸リチウム水溶液を用いた電気化学的防食工法を用いることが有効であり、一方、炭酸カリウム水溶液を用いた電気化学的防食工法は不適切であることがわかった。
本発明によれば、反応性骨材、特に、遅延反応性骨材を有するコンクリート構造物に対して、電気化学的手法を応用した補修工法が可能か否かの判断をすることができる。また、電気化学的手法による補修工法において、用いる電解質として適切な電解質を選択することができ、効率的な電気防食工法とすることができる。