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特開2024-158907画像計測用のスケール治具、および、画像計測用のスケール治具の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158907
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】画像計測用のスケール治具、および、画像計測用のスケール治具の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/02 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
G01B11/02 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074531
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 一将
(72)【発明者】
【氏名】町田 賢一郎
【テーマコード(参考)】
2F065
【Fターム(参考)】
2F065AA22
2F065BB28
2F065FF01
2F065FF05
2F065FF42
2F065JJ03
2F065JJ05
2F065JJ08
2F065JJ26
2F065QQ03
2F065QQ21
(57)【要約】
【課題】修理を容易に行う。
【解決手段】画像計測用のスケール治具100は、平面部112を有し、板形状の基部110と、平面部112から突出し、円形状の計測面122を先端に有する円柱形状である、少なくとも2つの突出部120と、突出部120の外周面に嵌合可能な内周面を有する本体部132を有し、突出部120に装着された際に、本体部132における計測面122側に配されるマスク面134の光の反射率が計測面122よりも低く、突出部120に着脱自在に設けられるマスク部130と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面部を有し、板形状の基部と、
前記平面部から突出し、円形状の計測面を先端に有する円柱形状である、少なくとも2つの突出部と、
前記突出部の外周面に嵌合可能な内周面を有する本体部を有し、前記突出部に装着された際に、前記本体部における前記計測面側に配されるマスク面の光の反射率が前記計測面よりも低く、前記突出部に着脱自在に設けられるマスク部と、
を備える、画像計測用のスケール治具。
【請求項2】
前記マスク部が前記突出部に装着された際、前記マスク面は、前記計測面と面一となる、請求項1に記載の画像計測用のスケール治具。
【請求項3】
前記平面部に設けられ、前記突出部の外縁に沿った環状の溝部を備え、
前記マスク部の前記本体部の一部は、前記溝部に収容される、請求項1または2に記載の画像計測用のスケール治具。
【請求項4】
前記マスク部は、前記本体部の端部から径方向外方に延在するフランジ部を有し、
前記基部の前記平面部に前記フランジ部を固定する固定部を備える、請求項1または2に記載の画像計測用のスケール治具。
【請求項5】
前記マスク部の前記本体部は、軸方向と直交する方向に分割された2つの分割部材からなり、
前記マスク部は、
前記分割部材における分割位置から前記本体部の径方向外方に突出した羽部と、
一方の前記分割部材に設けられた前記羽部と、他方の前記分割部材に設けられた前記羽部とを連結する連結部と、
を有する、請求項1または2に記載の画像計測用のスケール治具。
【請求項6】
板形状の基部の平面部から突出し、円形状の計測面を先端に有する円柱形状である、少なくとも2つの突出部から、前記突出部の外周面に嵌合した内周面を有する本体部を有するマスク部を取り外す工程と、
前記突出部に装着された際に前記本体部における前記計測面側に配されるマスク面の光の反射率よりも高い反射率を有する塗料を前記計測面に塗布する工程と、
前記マスク部を前記突出部に装着する工程と、
を含む、画像計測用のスケール治具の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、画像計測用のスケール治具、および、画像計測用のスケール治具の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カメラを用いた画像計測が広く利用されている。画像計測では、カメラの較正や、計測対象物の寸法、形状、位置、角度等の計測のために、画像計測用のスケール治具が用いられる。画像計測では、まず、スケール治具に設けられた複数の指標をカメラにより撮像して計測画像を取得する。そして、計測画像における指標の位置を画像処理によって検出し、その検出結果に基づいて、カメラの較正や計測対象物の計測を行う。指標は、計測画像において計測対象物との区別が容易となり、画像処理において検出が容易となる色や形状を有する。スケール治具において、指標は、例えば、真円形状である。また、スケール治具において、指標間の距離は予め固定されており、計測画像上の指標間の長さに基づいて、計測対象物の計測を行う。
【0003】
スケール治具として、例えば、特許文献1には、真円形状の貫通孔を複数有するプレートと、プレートの下面に設置されて複数の貫通孔を塞ぐ、黒色スポンジで構成されたシートとを有し、貫通孔によって区画される領域が指標として機能するスケール治具が開示されている。
【0004】
しかし、特許文献1のスケール治具では、貫通孔の縁を形成するプレートの角部において光が不均一に反射してしまい、計測画像において貫通孔の縁の一部の輝度が他の部分よりも極めて高くなる場合がある。この場合、画像処理において、貫通孔によって区画される領域、つまり、真円形状の指標の検出精度が極めて低くなってしまうという問題がある。また、影(オクルージョン)の影響により、画像処理において、真円形状の指標の検出精度が極めて低くなってしまうという問題もある。
【0005】
そこで、平板上に貼付された真円形状のマーカを複数有し、マーカが指標として機能するスケール治具が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-139329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
画像計測は、建設現場等の屋外で行われることが多いため、溶接、塗装、土埃等の粉塵によって、スケール治具に設けられたマーカが汚れたり、マーカの一部が破損したりしてしまうことがあった。マーカが汚損すると、画像処理において、計測画像上の指標の検出精度が低下し、計測対象物の計測精度も低下してしまう。このため、マーカが汚損した場合には、新たなマーカをスケール治具に貼付し直す必要がある。しかし、汚損したマーカと同じ位置に、新たなマーカを貼付するのは、困難であり、同じ位置であるか否かを確認する術もない。
【0008】
画像計測では、スケール治具におけるマーカ間の距離、つまり、指標間の距離に基づいて、計測対象物の計測を行うため、スケール治具におけるマーカ間の距離を正確に把握しておく必要がある。このため、新たなマーカを貼付した後、マーカ間の距離を測定顕微鏡で測定して、マーカ間の距離を新たに決定する。
【0009】
しかし、測定顕微鏡は大がかりな装置であるため、計測現場に持ち出すことは困難である。このため、計測現場から、測定顕微鏡が設置されている工場に、スケール治具を移動させ、工場において、新たなマーカを貼付し直し、マーカ間の距離を決定しなければならなかった。したがって、マーカが指標として機能する従来のスケール治具は、修理に手間がかかるという問題があった。
【0010】
そこで、本開示は、このような課題に鑑み、修理を容易に行うことが可能な画像計測用のスケール治具、および、画像計測用のスケール治具の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る画像計測用のスケール治具は、平面部を有し、板形状の基部と、平面部から突出し、円形状の計測面を先端に有する円柱形状である、少なくとも2つの突出部と、突出部の外周面に嵌合可能な内周面を有する本体部を有し、突出部に装着された際に、本体部における計測面側に配されるマスク面の光の反射率が計測面よりも低く、突出部に着脱自在に設けられるマスク部と、を備える。
【0012】
また、マスク部が突出部に装着された際、マスク面は、計測面と面一となってもよい。
【0013】
また、画像計測用のスケール治具は、平面部に設けられ、突出部の外縁に沿った環状の溝部を備え、マスク部の本体部の一部は、溝部に収容されてもよい。
【0014】
また、マスク部は、本体部の端部から径方向外方に延在するフランジ部を有し、上記画像計測用のスケール治具は、基部の平面部にフランジ部を固定する固定部を備えてもよい。
【0015】
また、マスク部の本体部は、軸方向と直交する方向に分割された2つの分割部材からなり、マスク部は、分割部材における分割位置から本体部の径方向外方に突出した羽部と、一方の分割部材に設けられた羽部と、他方の分割部材に設けられた羽部とを連結する連結部と、を有してもよい。
【0016】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る画像計測用のスケール治具の製造方法は、板形状の基部の平面部から突出し、円形状の計測面を先端に有する円柱形状である、少なくとも2つの突出部から、突出部の外周面に嵌合した内周面を有する本体部を有するマスク部を取り外す工程と、突出部に装着された際に本体部における計測面側に配されるマスク面の光の反射率よりも高い反射率を有する塗料を計測面に塗布する工程と、マスク部を突出部に装着する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、修理を容易に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本実施形態に係る画像計測用のスケール治具の第1の斜視図である。
図2図2は、本実施形態に係る画像計測用のスケール治具の第2の斜視図である。
図3図3は、本実施形態に係るスケール治具の指標間の距離の決定方法を説明する図である。
図4図4は、本実施形態に係るスケール治具の製造方法の処理の流れを示すフローチャートである。
図5図5は、本実施形態に係る取り外し工程を説明する工程図である。
図6図6は、本実施形態に係る塗布工程を説明する工程図である。
図7図7は、本実施形態に係る装着工程を説明する工程図である。
図8図8は、本実施形態に係る画像計測方法を説明する図である。
図9図9は、第1の変形例に係るスケール治具を説明する図である。
図10図10は、第2の変形例に係るスケール治具を説明する図である。
図11図11は、第3の変形例に係るスケール治具を説明する図である。
図12図12は、第4の変形例に係るスケール治具の製造方法を説明する工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0020】
[画像計測用のスケール治具100]
図1は、本実施形態に係る画像計測用のスケール治具100の第1の斜視図である。図2は、本実施形態に係る画像計測用のスケール治具100の第2の斜視図である。図1は、マスク部130を取り外した場合のスケール治具100の斜視図を示す。図2は、マスク部130を装着した場合のスケール治具100の斜視図を示す。
【0021】
図1図2に示すように、画像計測用のスケール治具100は、基部110と、複数の突出部120と、マスク部130とを含む。
【0022】
基部110は、板形状の部材である。基部110は、例えば、屋外に長時間設置されてもほとんど変形しない硬い材料で構成される。基部110は、熱膨張率が低い金属で構成されることが好ましい。基部110は、例えば、インバー(invar)で構成される。基部110は、平面部112を有する。
【0023】
突出部120は、平面部112から垂直方向に突出する。突出部120は、例えば、円形状の計測面122を先端に有する円柱形状である。突出部120の計測面122は、真円形状であることが好ましい。突出部120は、基部110と同様に、例えば、屋外に長時間設置されてもほとんど変形しない硬い材料で構成される。突出部120は、熱膨張率が低い金属で構成されることが好ましい。突出部120は、例えば、インバーで構成される。突出部120は、基部110と一体的に形成されてもよいし、基部110と別体であり溶接等によって基部110に固定されてもよい。
【0024】
本実施形態において、スケール治具100は、2つの突出部120を備える。2つの突出部120の高さhは、略等しい。2つの突出部120の直径は等しくてもよいし、異なっていてもよい。なお、スケール治具100は、少なくとも2以上の突出部120を備えていればよく、突出部120の数は限定されない。
【0025】
突出部120の計測面122には、第1の塗料が塗布される。第1の塗料は、例えば、再帰反射性または拡散反射性を有する。図1図2中、クロスハッチングは、第1の塗料を示す。本実施形態に係るスケール治具100では、突出部120の計測面122が指標として機能する。指標は、計測画像において計測対象物との区別が容易となり、画像処理において検出が容易となる色や形状を有する。
【0026】
マスク部130は、突出部120に着脱自在に設けられる。スケール治具100は、突出部120と同数のマスク部130を備える。本実施形態において、スケール治具100は、2つのマスク部130を備える。マスク部130は、金属、樹脂等で構成される。
【0027】
マスク部130は、本体部132を有する。本体部132は、例えば、筒形状である。筒形状は、例えば、円筒形状である。本体部132の内周面は、突出部120の外周面に嵌合可能である。つまり、本体部132には、一定の径を有する貫通孔が形成されている。
【0028】
本体部132が突出部120に装着された際に、本体部132における計測面122側に配される面をマスク面134とすると、マスク面134の光の反射率は、突出部120の計測面122に塗布される第1の塗料の光の反射率よりも低い。本体部132のマスク面134には、例えば、第2の塗料が塗布される。第2の塗料の光の反射率は、第1の塗料の反射率よりも低い。第2の塗料は、例えば、消光塗料、黒色塗料である。なお、本体部132は、第1の塗料よりも低い反射率を有する材料で構成されてもよい。
【0029】
本体部132の高さHは、突出部120の高さhと略等しい。このため、図2に示すように、マスク部130が突出部120に装着された際、本体部132のマスク面134は、突出部120の計測面122と面一になる。
【0030】
[スケール治具100の指標間の距離の決定方法]
続いて、本実施形態に係るスケール治具100の指標間の距離の決定方法について説明する。図3は、本実施形態に係るスケール治具100の指標間の距離の決定方法を説明する図である。
【0031】
上記のように、スケール治具100において、突出部120の計測面122が指標として機能する。このため、指標間の距離として、図3に示すように、一方の突出部120の計測面122の中心と、他方の突出部120の計測面122の中心との間の距離L0を決定(値づけ)する。計測面122の中心間の距離L0は、下記式(1)を用いて算出される。
L0 = L1 + (L2+L3)/2 …式(1)
【0032】
上記式(1)において、L1は、2つの突出部120間の最短距離である。上記(1)において、L2は、一方の突出部120(例えば、図3では、左側の突出部120)の直径である。上記式(1)において、L3は、他方の突出部120(例えば、図3では、右側の突出部120)の直径である。
【0033】
距離L1、直径L2、および、直径L3は、突出部120からマスク部130を取り外した状態で、測定機器によって測定される。上記のように、突出部120は、平面部112から突出しているため、距離L1は、例えば、内側マイクロメータ等の安価な測定機器によって測定することができる。また、直径L2および直径L3は、例えば、外側マイクロメータ等の安価な測定機器によって測定することができる。
【0034】
このように、本実施形態に係るスケール治具100では、突出部120の計測面122が指標として機能する。このため、内側マイクロメータおよび外側マイクロメータといった安価な測定機器によって、指標間の距離L0を高精度に決定することができる。
【0035】
また、指標間の距離L0を、内側マイクロメータおよび外側マイクロメータで決定できるため、指標間の距離L0を大きくすることが可能となる。例えば、1m以上の指標間の距離L0を有するスケール治具100を製造することができる。これにより、橋梁、船舶等の大きい計測対象物の、画像計測による計測精度を向上させることが可能となる。
【0036】
また、機械加工によって、2つの突出部120の直径が等しくなるように形成される場合、2つの突出部120の直径の誤差は、10μm程度と極めて小さい。このため、2つの突出部120の直径が実質的に等しいとみなせる場合、2つの突出部120間の距離L1と、一方の突出部の直径(例えば、直径L2)との加算値を指標間の距離L0としてもよい。
【0037】
[スケール治具100の製造方法]
続いて、上記スケール治具100の製造方法について説明する。スケール治具100の製造方法は、スケール治具100を新規に製造する場合、もしくは、計測面122が汚損した場合に行われる。
【0038】
図4は、本実施形態に係るスケール治具100の製造方法の処理の流れを示すフローチャートである。図4に示すように、本実施形態に係るスケール治具100の製造方法は、取り外し工程S110と、塗布工程S120と、装着工程S130とを含む。以下、各処理について説明する。
【0039】
[取り外し工程S110]
図5は、本実施形態に係る取り外し工程S110を説明する工程図である。図5に示すように、取り外し工程S110では、スケール治具100の突出部120から、マスク部130を取り外す。
【0040】
[塗布工程S120]
図6は、本実施形態に係る塗布工程S120を説明する工程図である。図6に示すように、塗布工程S120では、突出部120の計測面122に第1の塗料Pを塗布する。第1の塗料Pは、マスク部130の本体部132のマスク面134の光の反射率よりも高い反射率を有する。
【0041】
[装着工程S130]
図7は、本実施形態に係る装着工程S130を説明する工程図である。図7に示すように、装着工程S130では、マスク部130を突出部120に装着する。こうして、画像計測用のスケール治具100が製造される。
【0042】
[画像計測方法]
続いて、スケール治具100を用いた画像計測方法について説明する。図8は、本実施形態に係る画像計測方法を説明する図である。図8に示すように、計測対象物10の近傍にスケール治具100を設置する。そして、計測対象物10およびスケール治具100が1の計測画像30に収まるように、複数のカメラ20で撮像する。もしくは、1のカメラ20によって、計測対象物10およびスケール治具100を、角度を変えて複数回撮像する。
【0043】
そして、得られた計測画像30に対し、画像処理を施す。例えば、画像処理によって、計測画像30から指標、つまり、突出部120の計測面122を抽出する。そして、計測画像30において、計測面122の中心を特定する。上記のように計測面122は、真円形状である。したがって、例えば、計測画像30において、抽出された計測面122の外縁形状から計測面122の中心を特定してもよいし、抽出された計測面122の面積重心を計測面122の中心として特定してもよい。なお、計測面122の面積重心を計測面122の中心として特定する場合の方が、計測面122の外縁形状から計測面122の中心を特定する場合よりも、中心を高精度に特定できる。
【0044】
そして、特定した、一方の突出部120の計測面122の中心と、他方の突出部120の計測面122の中心との間の長さLi(例えば、画素数)を算出する。
【0045】
また、画像処理によって、計測画像30から計測対象物10を抽出し、計測対象物10の長さLt(例えば、画素数)を算出する。
【0046】
そして、計測画像30における長さLiが、予め決定されているスケール治具100における指標間の実際の距離L0に相当するとして、計測画像30における指標間の長さLiおよび計測対象物10の長さLtと、スケール治具100における指標間の実際の距離L0とに基づいて、計測対象物10の実際の長さLTを計測する。
【0047】
なお、画像計測方法において、計測対象物10の近傍に複数のスケール治具100を設置して、計測対象物10および複数のスケール治具100が1の計測画像30に収まるように撮像してもよい。この場合、1のスケール治具100を設置する場合と比較して、計測対象物10の計測精度を向上することが可能となる。
【0048】
以上説明したように、本実施形態に係る画像計測用のスケール治具100では、複数の突出部120の計測面122を指標として機能させる。上記のように、基部110および突出部120は、熱膨張率が低い金属等の屋外に長時間設置されてもほとんど変形しない硬い材料で構成され、突出部120は、基部110と一体的に形成される、または、基部110に固定されている。このため、2つの突出部120間の距離L1はほとんど変化しない。また、突出部120の直径L2、L3は、ほとんど変化しない。つまり、本実施形態に係るスケール治具100において、指標間の距離L0は固定されている。したがって、マーカを指標として機能させる従来のスケール治具とは異なり、突出部120の計測面122が汚損された場合であっても、突出部120の計測面122に第1の塗料Pを塗布するだけで、指標間の距離L0を維持したまま、スケール治具100の修理を行うことができる。このため、スケール治具100を、計測現場等で修理を容易に行うことが可能となる。
【0049】
また、本実施形態に係るスケール治具100は、指標間の距離L0が固定されているため、修理(第1の塗料Pの塗布)を行った後、指標間の距離L0を再度決定する必要がない。なお、修理を行った後、指標間の距離L0の再度の決定が所望される場合であっても、内側マイクロメータおよび外側マイクロメータといった安価な測定機器を用いて指標間の距離L0を再度決定することができる。したがって、本実施形態に係るスケール治具100は、計測現場で指標間の距離L0を容易に決定することが可能となる。
【0050】
また、本実施形態に係るスケール治具100は、第1の塗料Pを塗布する際に突出部120からマスク部130を取り外し、画像計測で用いる際に突出部120にマスク部130を装着する。これにより、第1の塗料Pの塗布の際に突出部120の外周面(側面)に第1の塗料Pが付着してしまっても、画像計測の際に、突出部120の外周面をマスク部130で被覆することができる。したがって、画像計測の際に、突出部120の外周面に付着した第1の塗料Pが計測画像30に写りこんでしまう事態を回避することが可能となる。
【0051】
突出部120の外周面に付着した第1の塗料Pが計測画像30に写りこんでしまうと、突出部120の計測面122と、突出部120の外周面における第1の塗料Pが付着した領域との区別ができなくなり、画像処理において、指標の抽出精度が低下してしまう。
【0052】
これに対し、本実施形態に係るスケール治具100は、突出部120にマスク部130が装着された状態で画像計測が行われるため、突出部120の外周面に付着した第1の塗料Pが計測画像30に写りこんでしまう事態を回避することが可能となる。つまり、計測画像30において、計測面122に余分が追加されたり、計測面122が欠落したりしてしまう事態を回避することができ、計測面122を円形状の指標として捉えることが可能となる。したがって、本実施形態に係るスケール治具100を用いて画像計測を行う場合、計測画像30において、指標(突出部120の計測面122)を高精度に抽出することができる。
【0053】
また、上記のように、本実施形態に係るマスク部130のマスク面134の光の反射率は、突出部120の計測面122よりも低い。これにより、突出部120の計測面122と、マスク部130のマスク面134との境界を際立たせることができる。したがって、計測画像30において、突出部120の計測面122とマスク部130のマスク面134とのコントラストを大きくすることができ、突出部120の計測面122の輪郭、つまり、指標の輪郭の検出精度を向上させることが可能となる。
【0054】
また、上記のように、マスク部130が突出部120に装着されると、本体部132のマスク面134は、突出部120の計測面122と面一となる。これにより、突出部120の計測面122の縁において、光が不均一に反射してしまう事態を回避することができる。したがって、計測画像30において、突出部120の計測面122の輪郭の輝度は、概ね等しくなり、突出部120の計測面122の検出精度をさらに向上させることが可能となる。
【0055】
[第1の変形例]
図9は、第1の変形例に係るスケール治具200の断面図である。図9では、1の突出部120の近傍の拡大断面図を示す。なお、上記スケール治具100と実質的に等しい構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0056】
図9に示すように、第1の変形例において、スケール治具200を構成する基部110の平面部112には、突出部120の外縁に沿った環状の溝部210が設けられる。
【0057】
溝部210の厚みCは、マスク部130の本体部132の厚みMよりもわずかに大きい。また、本体部132の高さは、溝部210の底面から突出部120の計測面122までの高さと実質的に等しい。
【0058】
また、第1の変形例に係るスケール治具200では、画像計測を行う際、マスク部130の本体部132の一部は、溝部210に収容される。
【0059】
第1の変形例に係るスケール治具200は、マスク部130の端部が溝部210に収容されるため、突出部120からのマスク部130の抜け落ちを抑制することができる。また、第1の変形例に係るスケール治具200は、予め設計された嵌め合い公差を維持して、マスク部130の端部が溝部210に嵌合されるため、マスク部130と基部110との間の隙間を小さくすることができる。また、第1の変形例に係るスケール治具200は、本体部132のマスク面134と、突出部120の計測面122とを容易に面一とすることができる。なお、基部110が、低い熱膨張率を有する金属で構成される場合、溝部210の厚みCは、ほとんど変化しない。このため、マスク部130が溝部210に嵌らなくなることは想定されない。
【0060】
[第2の変形例]
図10は、第2の変形例に係るスケール治具300を説明する図である。図10では、1の突出部120の近傍の拡大断面図を示す。なお、上記スケール治具100と実質的に等しい構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0061】
図10に示すように、第2の変形例に係るスケール治具300は、基部110と、突出部120と、マスク部330と、固定部340とを含む。
【0062】
マスク部330は、本体部132と、フランジ部332とを有する。フランジ部332は、本体部132のマスク面134と逆側の端部から、円筒形状の径方向外方に延在する。フランジ部332は、複数の貫通孔332aを有する。
【0063】
固定部340は、基部110の平面部112にフランジ部332を固定する。固定部340は、例えば、ボルト342と、基部110に形成されたネジ溝344を含む。ボルト342は、フランジ部332の貫通孔332aに挿通され、基部110に形成されたネジ溝344に螺合される。
【0064】
第2の変形例に係るスケール治具300は、固定部340によりマスク部330が基部110に固定されるため、突出部120からのマスク部130の抜け落ちを防止することができる。また、第2の変形例に係るスケール治具300は、ボルト342をネジ溝344に螺合させたり、螺合を解除させたりするだけで、突出部120に対するマスク部330の着脱を容易に行うことが可能となる。また、第2の変形例に係るスケール治具300は、本体部132のマスク面134と、突出部120の計測面122とを容易に面一とすることができる。
【0065】
[第3の変形例]
図11は、第3の変形例に係るスケール治具400を説明する図である。図11では、1の突出部120の近傍の拡大上面図を示す。また、図11では、理解を容易にするために、マスク部430の本体部432の先端面に塗布された第2の塗料を省略する。なお、上記スケール治具100と実質的に等しい構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0066】
図11に示すように、第3の変形例において、スケール治具400を構成するマスク部430の本体部432は、円筒形状の軸方向と直交する方向に分割された2つの分割部材434からなる。分割部材434は、例えば、断面形状が半円形状である。
【0067】
また、第3の変形例において、マスク部430は、さらに、羽部440と、連結部442とを有する。
【0068】
羽部440は、分割部材434における分割位置から本体部432の、円筒形状の径方向外方に突出する。
【0069】
連結部442は、一方の分割部材434に設けられた羽部440と、他方の分割部材434に設けられた羽部440とを連結する。連結部442は、例えば、ボルトおよびナットで構成される。例えば、羽部440には貫通孔が形成されており、連結部442を構成するボルトが貫通孔に挿通され、ボルトがナットに嵌合されることよって、一方の羽部440と他方の羽部440とが連結される。
【0070】
第3の変形例に係るスケール治具400は、連結部442によりマスク部430が突出部120に固定されるため、突出部120からのマスク部130の抜け落ちを抑制することができる。また、第3の変形例に係るスケール治具400は、連結部442のボルトをナットに螺合させたり、螺合を解除させたりするだけで、突出部120に対するマスク部430の着脱を容易に行うことが可能となる。また、第3の変形例に係るスケール治具400は、マスク部430を樹脂等の柔らかい部材で構成することにより、マスク部430と突出部120との密着性を向上させることができる。
【0071】
[第4の変形例]
上記実施形態において、塗布工程S120を行う前に、取り外し工程S110を行う場合を例に挙げた。しかし、塗布工程S120行う前に、装着工程S130を行ってもよい。
【0072】
図12は、第4の変形例に係るスケール治具100の製造方法を説明する工程図である。図12に示すように、第4の変形例では、突出部120の計測面122に第1の塗料Pを塗布する前に、突出部120にマスク部130を装着する。そして、マスク部130を突出部120に装着した状態で、塗布工程S120を行う。これにより、突出部120の外周面に第1の塗料Pが付着してしまう事態を回避することができる。
【0073】
そして、塗布工程S120を行った後に、取り外し工程S110を行う。また、画像計測を行う際、突出部120からマスク部130を取り外した状態のスケール治具100を用いる。
【0074】
第4の変形例に係るスケール治具100の製造方法によれば、画像計測を行う際に、マスク部130が突出部120から取り外されているので、屋外にマスク部130が晒される事態を回避することができる。このため、マスク部130の劣化、破損、盗難等を防止することが可能となる。また、マスク部130は、塗布工程S120の際に利用されるため、突出部120の数未満だけ(例えば、1つ)備えていればよい。
【0075】
以上、添付図面を参照しながら実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0076】
例えば、上記実施形態および第1~第4の変形例において、マスク部130、330、430の本体部132、432の外周が円形状である場合、つまり、本体部132、432が円筒形状である場合を例に挙げた。しかし、本体部132、432の外周の形状は限定されない。本体部132、432の外周の形状は、例えば、多角形形状(例えば、六角形)であってもよい。
【0077】
また、上記実施形態および第1~第4の変形例において、マスク部130、330、430の本体部132、432のマスク面134と、突出部120の計測面122とが面一である場合を例に挙げた。しかし、マスク部130、330、430の本体部132、432のマスク面134と、突出部120の計測面122とは、面一でなくてもよい。
【0078】
また、上記実施形態および第1~第4の変形例において、マスク部130、330は、突出部120の外周をすべて被覆する場合を例に挙げた。しかし、マスク部130、330は、突出部120の外周の少なくとも一部を被覆すればよい。例えば、マスク部130、330は、突出部120の先端面の近傍のみを被覆してもよく、基部110の平面部112と当接せずともよい。
【0079】
また、突出部120の外周面、および、マスク部130の本体部132の内周面にネジ溝が形成されていてもよい。これにより、マスク部130の本体部132の内周面を、突出部120の外周面に容易に嵌合させることができる。
【0080】
また、上記塗布工程S120において、別のマスク部130を突出部120に装着してもよい。これにより、突出部120の外周面に第1の塗料Pが付着してしまう事態を回避することができる。
【0081】
また、上記実施形態において、内側マイクロメータおよび外側マイクロメータで測定した結果に基づいて、指標間の距離L0を決定する場合を例に挙げた。しかし、スケール治具100における指標間の距離L0は、他の測定機器、例えば、三次元測定機(CMM)によって決定されてもよい。これにより、経年劣化によりスケール治具100がゆがんだ場合でも、指標間の距離L0を高精度に決定することができる。
【0082】
本開示は、例えば、持続可能な開発目標(SDGs)の目標12「持続可能な消費と生産のパターンを確保する」に貢献することができる。
【符号の説明】
【0083】
100 画像計測用のスケール治具
110 基部
112 平面部
120 突出部
122 計測面
130 マスク部
132 本体部
134 マスク面
200 スケール治具
210 溝部
300 スケール治具
330 マスク部
332 フランジ部
340 固定部
400 スケール治具
430 マスク部
432 本体部
434 分割部材
440 羽部
442 連結部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12