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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158914
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】熱マネージメント構造
(51)【国際特許分類】
   B60L 58/26 20190101AFI20241031BHJP
   B60L 50/60 20190101ALI20241031BHJP
   B60H 1/08 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
B60L58/26
B60L50/60
B60H1/08 611Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074541
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】土井 孝之
(72)【発明者】
【氏名】黒川 顕史
【テーマコード(参考)】
3L211
5H125
【Fターム(参考)】
3L211AA10
3L211AA11
3L211BA02
3L211BA33
3L211DA43
5H125AA01
5H125AB01
5H125AC12
5H125BC19
5H125CD08
5H125FF22
5H125FF24
(57)【要約】
【課題】車両の電気機器の稼働に伴って発生した熱を効率的に利用できる熱マネージメント構造を得る。
【解決手段】車両の熱マネージメント構造Aが、電動モータの駆動力を車輪2,3に伝えることにより走行駆動力を得る車両駆動装置Tと、車両駆動装置Tから生ずる熱を奪った冷却液を、車両駆動装置Tと調温対象4,8とラジエータ5とに亘る領域に循環させる流路6とを備えている。調温対象4,8が車両駆動装置Tから与えられた熱により温度上昇可能な位置に配置されており、流路6は、車両駆動装置Tから調温対象に亘る領域に、冷却液の外気放熱を抑制する断熱配管9を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジエータと調温対象との間に冷却液を流通させる熱交換システムを備えた車両の熱マネージメント構造であって、
電動モータの駆動力を車輪に伝えることにより走行駆動力を得る車両駆動装置と、
前記車両駆動装置から生ずる熱を奪った前記冷却液を、前記車両駆動装置と前記調温対象と前記ラジエータとに亘る領域に循環させる流路と、を備え、
前記調温対象は、前記車両駆動装置から奪った熱により温度上昇可能な位置に配置されており、
前記流路は、前記車両駆動装置から前記調温対象に亘る領域に、前記冷却液の外気放熱を抑制する断熱配管を有している熱マネージメント構造。
【請求項2】
前記調温対象が、車室の温度上昇を図る暖房用熱交換器と、前記電動モータに電力を供給するバッテリーとの少なくとも一方である請求項1に記載の熱マネージメント構造。
【請求項3】
前記流路は、前記調温対象から前記ラジエータに亘る領域に流れる前記冷却液の外気放熱を可能にする放熱配管を有している請求項1又は2に記載の熱マネージメント構造。
【請求項4】
前記流路のうち、前記ラジエータから前記調温対象に亘る領域に前記断熱配管を有している請求項1に記載の熱マネージメント構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱マネージメント構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両を例に挙げると、特許文献1には、ラジエータと電気機器との間で冷却液を循環させることにより電気機器を冷却し、電気機器の温度上昇を防止する冷却装置が記載されている。
【0003】
特許文献1に記載される冷却装置はハイブリッド車両に備えられ、このハイブリッド車両は、電気機器としてモータジェネレータとインバータとを備えている。この特許文献1では、冷却装置として、冷却液が循環する循環流路のうち、ラジエータとインバータとを接続する第一流路、及び、モータジェネレータとラジエータとを接続する第二流路とを有し、第一流路に断熱材を設け、第二流路に放熱部材を設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-120323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されるハイブリッド車両では、第一流路に断熱材が設けられているため、第一流路に流れる冷却液の温度が、エンジンルーム内の熱によって上昇する不都合を抑制し、インバータの効率的な冷却を可能にしている。また、このハイブリッド車両では、第二流路に放熱部材が設けられているため、第二流路に流れる冷却液の温度をラジエータに供給される以前に低下させている。
【0006】
電気自動車(EV:Electric Vehicle)では、寒冷地においてバッテリーの性能が低下するため、バッテリーの温度上昇を必要とすることがある。また、EVに限らず、寒冷地において車室内の温度上昇を図るため空調システムによる温度上昇を必要とすることも多い。
【0007】
このような課題に対し、電気自動車は、エンジンを備えていないため、エンジンの廃熱を利用することができず、電気機器の稼働に伴い発生する熱で冷却液の温度を上昇させて利用することが考えられる。しかしながら、寒冷地では、冷却液の熱が放熱しやすく、電気機器が発する熱の利用が困難になり改善の余地がある。
【0008】
このような理由から、車両の電気機器の稼働に伴って発生した熱を効率的に利用できる熱マネージメント構造が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る車両の特徴構成は、ラジエータと調温対象との間に冷却液を流通させる熱交換システムを備えた車両の熱マネージメント構造であって、電動モータの駆動力を車輪に伝えることにより走行駆動力を得る車両駆動装置と、前記車両駆動装置から生ずる熱を奪った前記冷却液を、前記車両駆動装置と前記調温対象と前記ラジエータとに亘る領域に循環させる流路と、を備え、前記調温対象は前記車両駆動装置から奪った熱により温度上昇可能な位置に配置されており、前記流路は、前記車両駆動装置から前記調温対象に亘る領域に、前記冷却液の外気放熱を抑制する断熱配管を有している点にある。
【0010】
本構成によると、熱交換システムがラジエータと調温対象との間に冷却液を循環させる。冷却液が循環する際に、電動モータの駆動に伴い車両駆動装置で発生する熱は、流路に流れる冷却液に与えられ、この熱を冷却液から調温対象に与えることが可能となる。また、流路のうち、車両駆動装置から調温対象に亘る領域に冷却液の外気放熱を抑制する断熱配管を有しているため、車両駆動装置から奪った熱を無駄に失うことなく調温対象に与えることが可能となる。従って、車両の電気機器の稼働に伴って発生した熱を効率的に利用できる熱マネージメント構造が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】電気自動車の熱マネージメント構造を示す平面図である。
図2】車両駆動装置の冷却液と冷却オイルとの流れを示すブロック図である。
図3】制御構成を示すブロック回路図である。
図4】別実施形態(a)の熱マネージメント構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明に係る車両の熱マネージメント構造の実施形態について、図面に基づいて説明する。本実施形態では、車両の一例として、電気自動車EVを挙げ、熱マネージメント構造Aを説明する。ただし、以下の実施形態に限定されることなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。
【0013】
〔基本構成〕
図1に示すように、車体1に前車輪2と後車輪3とを備え、前車輪2を駆動する前車輪駆動装置Tfと、後車輪3を駆動する後車輪駆動装置Trと、二次電池から成るバッテリー4(調温対象の一例)とを備えて4輪駆動型の電気自動車EV(車両の一例)が構成されている。
【0014】
図1に示すように、電気自動車EVは、車体1の前端に配置したラジエータ5と、前車輪駆動装置Tf、及び、後車輪駆動装置Trに冷却液を循環させる流路6と、冷却液を流動させる電動型の冷却液ポンプ7とを備えた熱交換システムRを備えている。この熱交換システムRでは、ラジエータ5に冷却風を供給する電動型のラジエータファン5aを有している。
【0015】
電気自動車EVは、熱マネージメント構造Aを備えている。この熱マネージメント構造Aは、熱交換システムRを備えると共に、電磁式に作動する第1弁V1、電磁式に作動する第2弁V2、バッテリー温センサ4Sとを備えており、図3に示す制御装置20によって制御されるように構成されている。この熱マネージメント構造Aの詳細は後述する。
【0016】
バッテリー4は、充電が可能なリチウムイオン電池等が用いられる。この電気自動車EVは、運転者のアクセルペダル(図示せず)の踏み込み操作により、踏み込み量に対応した電力をバッテリー4から前車輪駆動装置Tfと後車輪駆動装置Trとに供給するようにECUとして機能する制御装置20(図3を参照)を備えている。
【0017】
熱交換システムRは、電気自動車EVの走行に伴い車両駆動装置T(前車輪駆動装置Tf、後車輪駆動装置Trの上位概念)で発生する熱を奪うことにより車両駆動装置Tの冷却を可能にしている。
【0018】
更に、電気自動車EVは、図1に示すように流路6に流れる冷却液のうち、車両駆動装置Tの熱によって温度が上昇した冷却液をバッテリー4(調温対象)のバッテリー流路4aと、ヒートコア8(暖房用熱交換器:調温対象の一例)のコア流路8aとに供給可能に構成されている。これにより、バッテリー4の温度上昇を可能にし、ヒートコア8による車室の温度上昇を実現する。つまり、バッテリー4と、ヒートコア8とは、冷却液が車両駆動装置Tから奪った熱により温度上昇可能な位置に配置されている。
【0019】
ヒートコア8は、コア流路8aで加熱された空気を送り出す電動型のヒータファン8fを備えている。
【0020】
〔車両駆動装置〕
図2に示すように、車両駆動装置Tは、ケース11と、このケース11の内部に配置される電動モータ12と、減速ギヤ機構13と、デファレンシャルギヤ14とを有する。車両駆動装置Tは、電動モータ12に供給する電力を制御するインバータ15をケース11の外面に備えている。
【0021】
電動モータ12は、ケース11に回転自在に支持されるシャフト12aと、このシャフト12aと一体的に回転する回転子12bと、回転子12bの外周に配置され複数のコイル12cを有する固定子12dとを有している。この構成により、車両駆動装置Tは、電動モータ12の駆動によりシャフト12aの駆動力が減速ギヤ機構13で減速され、デファレンシャルギヤ14から車輪(前車輪2、後車輪3)に伝える。
【0022】
インバータ15は、トランジスタ等の電力制御素子等を有し、電動モータ12の固定子12dの複数のコイル12cに供給する電力を制御する。インバータ15は、電力を供給する際に電力制御素子等が発熱する。また、電動モータ12の固定子12dのコイル12cは通電に伴い発熱する。
【0023】
車両駆動装置Tは、インバータ15および電動モータ12の固定子12dの発熱を抑制するため、流路6からの冷却液を供給する中間流路6tを有する。つまり、冷却液は、インバータ15の内部で、例えば、電力制御素子のヒートシンクの熱が伝えられる部位等に流れた後に、固定子12dの複数のコイル12cの熱が伝えられるヨークの部位に流れる。このように冷却液が流れることにより、冷却液がコイル12cで発生する熱を奪い、温度が上昇する。
【0024】
また、車両駆動装置Tは、冷却オイルを電動モータ12のシャフト12aの内部に供給するオイルポンプ16を備えている。冷却オイルは、冷却の機能と潤滑の機能とを有している。
【0025】
つまり、オイルポンプ16は、ケース11の底部に貯留された冷却オイルを、循環流路16aから電動モータ12のシャフト12aの中心の孔状流路に供給する。シャフト12aに供給された冷却オイルの一部は、シャフト12aの外周から回転子12bに供給され、冷却オイルの残余は、シャフトの内端から排出される。これにより、冷却オイルは、回転子12b等に接触して熱を奪い、減速ギヤ機構13に接触することで熱を奪いながら潤滑し、この後にケース11の底部に貯留される。
【0026】
車両駆動装置Tは、循環流路16aに流れる冷却オイルの熱を、冷却液で奪うことにより冷却オイルの温度低下を図るオイルクーラ17(図2では「O/C」と記載)を備えている。これにより、車両駆動装置Tに供給された冷却液は、インバータ15で発生する熱と、ケース11の内部で発生した熱とによって温度が上昇する。
【0027】
この車両駆動装置Tは、中間流路6tと、オイルクーラ17から冷却液を送り出す流路6(第2流路6b又は第3流路6c)に断熱配管9を有している(図1も参照)。断熱配管9は、冷却液の放熱を抑制するように機能するものであり、詳細は後述する。
【0028】
〔熱交換システム/熱マネージメント構造〕
熱交換システムRは、冷却液として、エチレングリコールや、プロピレングリコール等を含むロングライフクーラント(LLC)等を含む冷却水が用いられる。図1に示すように、流路6は、第1流路6aと、第2流路6bと、第3流路6cと、第4流路6dとを備えている。
【0029】
熱交換システムRは、第2流路6bに冷却液を送る冷却液ポンプ7が備えられている。この冷却液ポンプ7は、第2流路6bに限らず流路6のどのような位置にも備えることが可能である。
【0030】
第1流路6aは、ラジエータ5から送り出された放熱状態の冷却液を前車輪駆動装置Tfに供給する領域に形成されている。第2流路6bは、前車輪駆動装置Tfに流れることにより温度が上昇した冷却液を後車輪駆動装置Trに供給する領域に形成されている。第3流路6cは、後車輪駆動装置Trに流れることにより温度が更に上昇した冷却液をバッテリー4と、ヒートコア8とに供給する領域に形成されている。第4流路6dは、第3流路6cに流れた冷却液をラジエータ5に供給する(戻す)領域に形成されている。尚、この熱交換システムRでは、第4流路6dが、図1に示す第2弁V2とラジエータ5との間に形成されている。
【0031】
熱マネージメント構造Aは、図1に示すように、熱交換システムRの第3流路6cに三方弁から成る電磁制御型の第1弁V1と、三方弁から成る電磁制御型の第2弁V2とを備えている。第1弁V1は、バッテリー4に対する冷却液の供給と遮断とを選択し、第2弁V2は、ヒートコア8に対する冷却液の供給と遮断とを選択する。
【0032】
流路6は、樹脂製のホースや、金属製のパイプ等が使用されている。熱マネージメント構造Aは、流路6のうち車両駆動装置Tからバッテリー4、ヒートコア8に亘る領域(第2流路6bと、第3流路6c)に、冷却液の外気放熱を抑制する断熱配管9を有する。
【0033】
このように断熱配管9を有することにより、車両駆動装置Tにおいて冷却液が奪った熱が放熱によって無駄に失うことなく、高温の冷却液の熱をバッテリー4、あるいは、ヒートコア8に与えることを可能にしている。
【0034】
断熱配管9は、流路6の外周をチューブ状の断熱材で覆う構造、あるいは、流路6の外周に長尺の断熱材を巻き付けた構造、あるいは、所定内径の配管の内部に管状の流路6を挿入し、流路6の外周と配管の内周との間に空気層や、断熱材層を形成する構成等を採用できる。
【0035】
更に、熱マネージメント構造Aは、第4流路6dには冷却液の放熱を可能にする放熱配管10を備えている。放熱配管10は、流路6の熱伝導が良好な金属材で形成して外気に接触する位置に流路6を配置する構造、あるいは、外気に接触するように流路6の外面に突出するように放熱用のフィンを備えた構成の採用が考えられる。
【0036】
〔制御形態〕
図3に示すように、制御装置20は、ソフトウエアで構成される電力制御部21と、冷却制御部22と、調温制御部23とを備えている。この制御装置20は、アクセルペダルセンサ25と、第1液温センサS1と、第2液温センサS2と、バッテリー温センサ4Sと、室温センサ26と、室温設定器27とから出力された信号が入力される。
【0037】
電力制御部21、冷却制御部22、調温制御部23の夫々は、必ずしもソフトウエアで構成する必要はなく、一部をロジック回路等のハードウエアで構成しても良い。
【0038】
また、制御装置20は、前車輪駆動装置Tfのインバータ15と、後車輪駆動装置Trのインバータ15と、第1弁V1と、第2弁V2と、冷却液ポンプ7と、ラジエータファン5aと、ヒータファン8fとに制御信号を出力する。
【0039】
電力制御部21は、アクセルペダルセンサ25で検知されるアクセルペダルの踏み込み量に対応した電力を前車輪駆動装置Tfと後車輪駆動装置Trとの夫々の電動モータ12に供給する。これにより、電力制御部21は、アクセルペダルの踏み込み量に対応した速度での車体1の走行を実現する。
【0040】
冷却制御部22は、第1液温センサS1と第2液温センサS2とで検知される冷却液の温度に基づき、ラジエータファン5aによる冷却風の風量と、冷却液ポンプ7による冷却液の流量とを制御する。つまり、冷却制御部22は、前車輪駆動装置Tfと後車輪駆動装置Trとの温度上昇を抑制するための冷却を実現する。
【0041】
調温制御部23は、調温対象としてのバッテリー4の温度と、調温対象としてのヒートコア8の温度とを制御するように第1弁V1と第2弁V2とを制御し、更に、ヒータファン8fを制御する。
【0042】
つまり、調温制御部23は、バッテリー温センサ4Sで検知される温度が、目標値より低いと判断した場合には、バッテリー4の調温流路に冷却液を供給するように第1弁V1を制御する。これによりバッテリー4の温度上昇を実現する。
【0043】
また、調温制御部23は、室温設定器27の設定値と、室温センサ26で検知される温度差に基づき、車室の温度上昇を必要と判断した場合には、コア流路8aに冷却液を供給するように第2弁V2を制御する。更に、調温制御部23は、ヒータファン8fを駆動する。これにより、車室の温度上昇を実現する。
【0044】
尚、熱交換システムRは、第2弁V2を備えずに構成することも可能であり、冷却液を常にヒートコア8に流れるように流路6を構成し、車室の温度上昇を図る必要がない場合には、ヒータファン8fを停止するように制御形態を設定することも考えられる。
【0045】
調温制御部23は、急速な温度上昇を図る場合には冷却液ポンプ7による冷却液の流量を低減し、ラジエータファン5aを停止する制御も可能に構成されている。
【0046】
〔実施形態の作用効果〕
電気自動車EVを走行させた場合には、車両駆動装置T(前車輪駆動装置Tfと後車輪駆動装置Tr)で発生する熱によって冷却液の温度が上昇する。このように温度が上昇した冷却液は、断熱配管9によって放熱が抑制され、寒冷地においてもバッテリー4の温度上昇を効率的に行い、ヒートコア8による車室の温度上昇も効率的に行える。
【0047】
また、熱交換システムRは、流路6のうちバッテリー4とヒートコア8とのうちの少なくとも一方を通過した冷却液の熱を、ラジエータ5に達する以前に放熱配管10によって放熱を可能にしている。このため、ラジエータ5に到達する以前に冷却液の温度を低下させ、ラジエータ5において効率的な放熱を実現する。
【0048】
熱マネージメント構造Aは、熱交換システムRと、第1弁V1と、第2弁V2と、制御装置20とを備えている。熱交換システムRは、冷却液が前車輪駆動装置Tfと後車輪駆動装置Trとに連続して流れるように熱交換システムRの流路6が構成されている。このため、熱マネージメント構造Aは、車体1が低速で走行する場合のように、前車輪駆動装置Tfと後車輪駆動装置Trとの発熱量が少ない状況でも、2つの車両駆動装置Tを併せた熱量によって冷却液の温度上昇を容易に行える。
【0049】
熱マネージメント構造Aは、バッテリー4のバッテリー流路4aに対する冷却液の供給と遮断とを第1弁V1で行えるため、バッテリー流路4aに冷却液を供給してバッテリー4の温度上昇を図ることを可能にしている。これに対し、バッテリー流路4aに対する冷却液の供給を遮断することによりバッテリー4の温度の上昇を抑制し、バッテリー4の温度の過剰な上昇の抑制を可能にしている。
【0050】
これと同様に、ヒートコア8のコア流路8aに対する冷却液の供給と遮断とを第2弁V2で行えるため、必要とする場合に車室の温度上昇を可能にする。
【0051】
熱マネージメント構造Aは、車両駆動装置T(前車輪駆動装置Tfと後車輪駆動装置Tr)が、インバータ15の熱だけでなく、ケース11の内部の電動モータ12の熱を冷却液に与えることが可能であるため、車両駆動装置Tの温度上昇を抑制し、冷却液の温度上昇を効率的に行える。
【0052】
〔変形例〕
上述した実施形態では、流路6(第2流路6b又は第3流路6c)は、車両駆動装置Tから調温対象(バッテリー4、ヒートコア8)に亘る領域に断熱配管9を有していた。これに加えて、第1流路6aが断熱配管9で構成され、熱マネージメント構造Aにおいて、ラジエータ5から調温対象(バッテリー4、ヒートコア8:暖房用熱交換器)に亘る領域に断熱配管9を有する構成としても良い。この場合、外気温が高い場合であっても、ラジエータ5から車両駆動装置Tまでの間で冷却液の吸熱が抑制されるので、車両駆動装置Tを効率的に冷却することが可能となる。また、外気温が低い場合であれば、ラジエータ5から車両駆動装置Tまでの間で冷却液の放熱が抑制されるので、調温対象(バッテリー4、ヒートコア8:暖房用熱交換器)の暖機を促進させることができる。
【0053】
〔別実施形態〕
本発明は、上記した実施形態以外に以下のように構成しても良い(上述した実施形態と同じ機能を有するものには、上述した実施形態と共通の番号、符号を付している)。
【0054】
(a)図4には、電気自動車EV(図4に車両は示していない)において、冷却液が循環する冷却流路を有する熱交換システムRと、車室の冷房を可能にする冷媒が循環する冷媒流路を有する冷却システムFとを一体化した熱マネージメント構造Aが示されている。
【0055】
熱マネージメント構造Aは、第1ハウジングH1に熱交換システムRの主要部を収容し、第2ハウジングH2に冷却システムFの主要部を収容している。この熱マネージメント構造Aでは、第1ハウジングH1と第2ハウジングH2との境界にチラー31と水冷コンデンサ32とを配置し、熱交換システムRの冷却流体と冷却システムFの冷媒との間で熱交換を可能に構成されている。
【0056】
熱交換システムRは、冷却液として、エチレングリコールや、プロピレングリコール等を含むロングライフクーラント(LLC)等を含む冷却水が用いられる。冷却システムFは、冷媒としてハイドロフルオロカーボン(HFC)やハイドロフルオロオレフィン(HFO)等の冷媒が用いられる。
【0057】
この別実施形態(a)は、熱交換システムRに備えられる車両駆動装置Tが、上述した実施形態と同様に電動モータ12とインバータ15とを有し、上述した実施形態と同様に機能する。
【0058】
また、この別実施形態(a)は、バッテリー4は、上述した実施形態のバッテリー流路4aと同様の流路を備え、上述した実施形態のバッテリー温センサ4Sと同様のセンサを有しているが、図面には示していない。
【0059】
第1ハウジングH1は、内部に電動型の第1ポンプP1と、第2ポンプP2と、第3ポンプP3とを備え、更に、電動式の第1ロータリバルブRV1と、第2ロータリバルブRV2とを備えている。
【0060】
〔別実施形態(a)の熱交換システム〕
図4に示す熱交換システムRは、電気自動車EV(車両)が走行する際の第1ロータリバルブRV1と、第2ロータリバルブRV2との設定状態を示している。この設定状態では、ラジエータ5で冷却された冷却液が、流路6から第1分岐流路6Xに分岐して流れ、車両駆動装置T、第1ロータリバルブRV1、第1ポンプP1、電気ヒータ33、バッテリー4、チラー31に流れ、このチラー31から還元流路6Rを介してラジエータ5に戻される。
【0061】
電気ヒータ33は、バッテリー4が低温である状況で、迅速な温度上昇を必要とする場合に駆動され(電力が供給され)、第1ポンプP1から冷却液が供給される冷却液の温度上昇を図る。チラー31は、冷却システムFの冷媒の膨張に伴う吸熱により、冷却液の放熱を図り還元流路6Rに送り出す。
【0062】
また、この設定状態では、ラジエータ5で冷却された冷却液が、流路6から第2分岐流路6Yに分岐して流れ、第2ポンプP2、水冷コンデンサ32、空調用のヒートコア8に流れ、第1ポンプP1の上流側に合流する。
【0063】
水冷コンデンサ32は、冷却システムFの冷媒を凝縮する際に、第2分岐流路6Yから供給される冷却液が熱を奪う。これにより、水冷コンデンサ32からヒートコア8に対して温度が上昇した冷却液が送られる。
【0064】
更に、この設定状態にある場合には、ラジエータ5で冷却された冷却液が、流路6から第3分岐流路6Zに分岐して流れ、充電器34、DC-DCコンバータ35、第3ポンプP3に流れ、還元流路6Rに合流することでラジエータ5に戻される。
【0065】
特に、この熱交換システムRは、車両駆動装置Tから電気ヒータ33に冷却液が流れる流路6と、電気ヒータ33からバッテリー4に冷却液が流れる流路6とが断熱配管9を有している。熱交換システムRは、水冷コンデンサ32からヒートコア8に冷却液が流れる流路6と、ヒートコア8から第1ポンプP1の上流側に合流する領域の流路6とに、断熱配管9を有している。なお、上述した実施形態と同様に、ラジエータ5から車両駆動装置Tに冷却液が流れる流路6と、ラジエータ5から水冷コンデンサ32に冷却液が流れる流路6とにも断熱配管9を配置しても良い。
【0066】
冷却システムFは、バッテリー4からチラー31に冷却液が流れる流路と、チラー31から冷却液が送られる還元流路6Rとに、放熱配管10を備えている。
【0067】
〔別実施形態(a)の冷却システム〕
図4に示す冷却システムFは、空調用の主冷媒流路40と、冷却液冷却用の副冷媒流路40aとを有している。つまり、副冷媒流路40aは、水冷コンデンサ32から送り出された冷媒の一部が、副冷媒流路40aに分岐して流れる。
【0068】
冷却システムFは、主冷媒流路40において、コンプレッサ41、水冷コンデンサ32、主膨張弁42、エバポレータ43、逆止弁44、アキュムレータ45に冷媒が流れ、コンプレッサ41に戻される。
【0069】
更に、冷却システムFは、副冷媒流路40aの副膨張弁46に流れた冷媒は、チラー31を流れた後に、主冷媒流路40に合流する。エバポレータ43は車室に冷風を供給する冷却ファン43fを備えている。
【0070】
冷却システムFは、主冷媒流路40において、コンプレッサ41で圧縮された冷媒を水冷コンデンサ32に供給し、この水冷コンデンサ32で冷却液に熱を奪われることにより凝縮し液化する。この冷媒は、主膨張弁42で膨張し、霧状でエバポレータ43に供給され、このエバポレータ43で熱を奪うことにより蒸発する。これにより、冷却ファン43fを駆動することにより車室の冷房が実現される。
【0071】
次に、冷媒は、アキュムレータ45に流れる際に、この冷媒に含まれる液体が除去され、気体状の冷媒がコンプレッサ41に供給される。
【0072】
この冷却システムFは、副冷媒流路40aにおいて水冷コンデンサ32から送り出された冷媒のうち、副膨張弁46を通過したものはチラー31で蒸発し、このチラー31から還元流路6Rに送り出される冷却液の温度低下を実現する。
【0073】
〔別実施形態(a)の作用効果〕
このように、車両駆動装置Tで加熱された冷却液が調温対象としてのバッテリー4に供給されることにより、このバッテリー4の温度上昇が図られる。また、水冷コンデンサ32で加熱された冷却液がヒートコア8を通過した後にバッテリー4に供給されるバッテリー4の温度上昇を可能にしている。
【0074】
また、冷却液のうち、温度が上昇したものは還元流路6Rを構成する断熱配管9に流れることにより温度低下が抑制された状態でバッテリー4に供給され、効率的な温度上昇を可能にしている。
【0075】
バッテリー4を通過した冷却液は、チラー31で冷却され、放熱配管10に流れることにより放熱することで、車両駆動装置Tの良好な放熱を実現している。
【0076】
特に、この別実施形態(a)の構成では、熱交換システムRと冷却システムFとを組み合わせることにより、熱交換システムRと冷却システムFと間での熱の交換を良好に行う熱マネージメント構造Aが構成されている。
【0077】
(b)流路6のうち、第1流路6a、第2流路6b、第3流路6cに亘る領域に断熱配管9を備える。つまり、この別実施形態(b)では、ラジエータ5から送り出された冷却液の放熱を抑制することにより、冷却液の温度が過剰に低下する不都合を抑制しつつ、車両駆動装置Tによって温度が上昇した冷却液の温度低下を抑制できる。
【0078】
(c)FCV車(Fuel Cell Vehicle)や、HV車(Hybrid Vehicle )のように電動モータ12の駆動力で走行する車両において冷却液によってバッテリー4の温度上昇を図るように構成することも可能である。
【0079】
(d)実施形態では、4輪駆動型の電気自動車EVを示していたが、熱マネージメント構造Aは、前車輪2だけを駆動する車両駆動装置Tを備えたFF型の車両に備えられるものでも良い。これと同様に、熱マネージメント構造Aは、後車輪3だけを駆動するために車体1の後部に車両駆動装置Tを備えたRR型の車両や、車体1の前部に備えた車両駆動装置Tで後車輪3を駆動するFR型の車両に備えても良い。
【0080】
(e)調温対象は、バッテリー4、あるいは、ヒートコア8(暖房用熱交換器)に限るものではなく、例えば、物質を、設定温度を超える温度に維持する状態で運搬する車両において、物質の温度を管理するために、熱マネージメント構造Aを構成するものでも良い。
【0081】
上述した実施形態では、下記の構成が想起される。
(1)ラジエータ5と調温対象(バッテリー4、ヒートコア8)との間に冷却液を流通させる熱交換システムRを備えた車両の熱マネージメント構造Aであって、電動モータ12の駆動力を車輪2,3に伝えることにより走行駆動力を得る車両駆動装置Tと、車両駆動装置Tから生ずる熱を奪った冷却液を、車両駆動装置Tと調温対象(バッテリー4、ヒートコア8)とラジエータ5とに亘る領域に循環させる流路6と、を備え、調温対象(バッテリー4、ヒートコア8)は車両駆動装置Tから与えられた熱により温度上昇可能な位置に配置されており、流路6は、車両駆動装置Tから調温対象(バッテリー4、ヒートコア8)に亘る領域に、冷却液の外気放熱を抑制する断熱配管9を有している。
【0082】
これによると、冷却液が循環する際に、電動モータ12の駆動に伴い車両駆動装置Tで発生する熱は、流路6に流れる冷却液に与えられ、この熱を冷却液から調温対象(バッテリー4、ヒートコア8)に与えることが可能となる。また、流路6のうち、車両駆動装置Tから調温対象(バッテリー4、ヒートコア8)に亘る領域に冷却液の外気放熱を抑制する断熱配管9を有しているため、車両駆動装置Tから奪った熱を無駄に失うことなく調温対象に与えることが可能となる。更に、熱交換システムRは、ラジエータ5で放熱した冷却液を車両駆動装置Tに供給することにより、車両駆動装置Tの温度上昇を抑制できる。
【0083】
(2)(1)の熱マネージメント構造Aにおいて、調温対象が、車室の温度上昇を図る暖房用熱交換器(ヒートコア8)と、電動モータ12に電力を供給するバッテリー4との少なくとも一方であると好適である。
【0084】
これによると、温度が上昇した冷却液を暖房用熱交換器(ヒートコア8:暖房用熱交換器)に供給することで車室の温度上昇が可能となる。また、温度が上昇した冷却液をバッテリー4に供給することによりバッテリー4の温度を上昇させバッテリー4の性能向上が可能となる。
【0085】
(3)(1)又は(2)の熱マネージメント構造Aにおいて、流路6は、調温対象からラジエータ5に亘る領域に流れる冷却液の外気放熱を可能にする放熱配管10を有すると好適である。
【0086】
これによると、調温対象(バッテリー4、ヒートコア8:暖房用熱交換器)を通過した冷却液の熱を、放熱配管10において放熱させることにより、ラジエータ5に到達する以前に冷却液の温度を低下させ、ラジエータ5において効率的な放熱を可能にする。
【0087】
(4)(1)の熱マネージメント構造Aにおいて、流路6のうち、ラジエータ5から調温対象(バッテリー4、ヒートコア8:暖房用熱交換器)に亘る領域に断熱配管9を有すると好適である。
【0088】
これによると、例えば、寒冷地においてラジエータ5から送り出された冷却液が車両駆動装置Tに達する以前に温度が低下する不都合を断熱配管9が抑制する。また、冷却液が車両駆動装置Tの熱を奪う場合には、冷却液の温度が大きく低下していないため、温度上昇を容易に行え、調温対象(バッテリー4、ヒートコア8:暖房用熱交換器)に与える熱量の低減を抑制できる。
【0089】
尚、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、熱マネージメント構造に利用することができる。
【符号の説明】
【0091】
2:前車輪(車輪)、3:後車輪(車輪)、4:バッテリー(調温対象)、5:ラジエータ、6:流路、8:ヒートコア(暖房用熱交換器、調温対象)、9:断熱配管、10:放熱配管、12:電動モータ、A:熱マネージメント構造、R:熱交換システム、T:車両駆動装置、EV:電気自動車
図1
図2
図3
図4