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特開2024-158918レーダ物標追尾装置及びレーダ物標追尾プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158918
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】レーダ物標追尾装置及びレーダ物標追尾プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/66 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
G01S13/66
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074549
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】藤城 佑太
(72)【発明者】
【氏名】嶋村 重治
(72)【発明者】
【氏名】諸星 博之
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AC01
5J070AH04
5J070BB06
(57)【要約】
【課題】本開示は、クラッタの強度が高いときでも、スキャン間相関を用いて、SC比を向上させたうえで、物標を追尾することを目的とする。
【解決手段】本開示は、レーダを用いて物標Tを追尾するレーダ物標追尾装置2であって、過去のN枚のスキャン間相関画像から、前回のスキャン間相関画像における物標Tの位置を中心とし所定サイズを有する物標画像を抽出する物標画像抽出部23と、過去のN枚の物標画像の時系列について、時間周波数・空間周波数領域における振幅スペクトルの二乗に基づいて、又は、時間・空間領域における物標画像同士の畳み込み積分に基づいて、スキャン間ラグnの自己相関画像を算出する自己相関処理部24と、スキャン間ラグnの自己相関画像に基づいて、前回のスキャンからnスキャン後における物標Tの予測位置の確率分布を生成する予測分布生成部26と、を備えるレーダ物標追尾装置2である。
【選択図】図3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダを用いて物標を追尾するレーダ物標追尾装置であって、
過去のN枚のスキャン間相関画像から、前回のスキャン間相関画像における前記物標の位置を中心とし所定サイズを有する物標画像を抽出する物標画像抽出部と、
過去のN枚の物標画像の時系列について、時間周波数・空間周波数領域における振幅スペクトルの二乗に基づいて、又は、時間・空間領域における物標画像同士の畳み込み積分に基づいて、スキャン間ラグnの自己相関画像を算出する自己相関処理部と、
前記スキャン間ラグnの自己相関画像に基づいて、前回のスキャンからnスキャン後における前記物標の予測位置の確率分布を生成する予測分布生成部と、
を備えることを特徴とするレーダ物標追尾装置。
【請求項2】
前記自己相関処理部は、スキャン間ラグ1の自己相関画像を算出し、
前記予測分布生成部は、前記スキャン間ラグ1の自己相関画像に基づいて、前記前回のスキャンの次の最新のスキャンにおける前記物標の予測位置の確率分布を生成する
ことを特徴とする、請求項1に記載のレーダ物標追尾装置。
【請求項3】
前記スキャン間ラグnの自己相関画像における最大相関値が、前記物標以外のクラッタの強度が低い(高い)ほど高く(低く)設定される所定閾値以上であるときに、前記前回のスキャンからnスキャン後における前記物標の存在を判断し、前記スキャン間ラグnの自己相関画像を前記予測分布生成部へと入力する自己相関検出部、
をさらに備えることを特徴とする、請求項1又は2に記載のレーダ物標追尾装置。
【請求項4】
前記前回のスキャンからnスキャン後におけるスキャン画像の各セル値と、前記前回のスキャンからnスキャン後における前記物標の予測位置の確率分布の各セル値と、を重み付け加算したうえで、前記前回のスキャンからnスキャン後におけるスキャン間相関画像の各セル値を算出するにあたり、当該スキャン画像の各セル値が所定閾値未満であるときに、当該スキャン画像の各セル値が前記所定閾値以上であるときと比べて、当該確率分布の各セル値の重み付け係数を0又はより小さい値に設定する重み付け加算部、
をさらに備えることを特徴とする、請求項1又は2に記載のレーダ物標追尾装置。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のレーダ物標追尾装置が備える各処理部が実行する各処理ステップを、コンピュータに実行させるためのレーダ物標追尾プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーダを用いて物標を追尾する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダを用いて物標を追尾する技術が、特許文献1等に開示されている。特許文献1では、スキャン間相関を用いて、SC比を向上させたうえで、物標を追尾している。
【0003】
従来技術のレーダ物標追尾処理の概要を図1に示す。図1では、クラッタ(シークラッタ等)の強度が低いときを想定している。前回のスキャン間相関画像CPにおいて、3次元フーリエ変換により、物標T(船舶等)の速度vを算出する。最新の予測分布画像PLにおいて、前回のスキャン間相関画像CPに対する、物標Tの速度v×スキャンの間隔tだけの各セルのシフトにより、物標Tの予測分布を生成する。最新のスキャン画像SLにおいて、最新の予測分布画像PLと比べて、ほぼ同一の位置に物標Tを検出する。最新のスキャン間相関画像CLにおいて、最新の予測分布画像PLと最新のスキャン画像SLとを重み付け加算する。よって、クラッタの強度が低いときには、物標Tの速度vを高精度に算出することができ、最新の予測分布画像PLと最新のスキャン画像SLとの重み付け加算により、SC比を向上させることができ、物標Tを追尾することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-103197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術のレーダ物標追尾処理の課題を図2に示す。図2では、クラッタCの強度が高いときを想定している。前回のスキャン間相関画像CPにおいて、3次元フーリエ変換により、物標Tの速度vを算出する。最新の予測分布画像PLにおいて、前回のスキャン間相関画像CPに対する、物標Tの速度v×スキャンの間隔tだけの各セルのシフトにより、物標Tの予測分布を生成する。最新のスキャン画像SLにおいて、最新の予測分布画像PLと比べて、多少ずれた位置に物標Tを検出する。最新のスキャン間相関画像CLにおいて、最新の予測分布画像PLと最新のスキャン画像SLとを重み付け加算する。しかし、クラッタCの強度が高いときには、物標Tの速度vを高精度に算出することができず、最新の予測分布画像PLと最新のスキャン画像SLとの重み付け加算によっても、SC比を向上させることができず、物標Tを追尾することができない。
【0006】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、クラッタの強度が高いときでも、スキャン間相関を用いて、SC比を向上させたうえで、物標を追尾することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、過去の物標画像の時系列について、自己相関画像を算出する。ここで、自己相関画像は、物標の予測位置の確率分布に対応する。そして、物標の予測位置の確率分布は、クラッタの強度が高いときには、高い冗長性を有する。よって、物標の予測位置の確率分布とスキャン画像上との物標とは、クラッタの強度が高いときでも、十分な重なりを有する。そして、物標の予測位置の確率分布とスキャン画像上の物標との重み付け加算により、SC比を向上させることができ、物標を追尾することができる。
【0008】
具体的には、本開示は、レーダを用いて物標を追尾するレーダ物標追尾装置であって、過去のN枚のスキャン間相関画像から、前回のスキャン間相関画像における前記物標の位置を中心とし所定サイズを有する物標画像を抽出する物標画像抽出部と、過去のN枚の物標画像の時系列について、時間周波数・空間周波数領域における振幅スペクトルの二乗に基づいて、又は、時間・空間領域における物標画像同士の畳み込み積分に基づいて、スキャン間ラグnの自己相関画像を算出する自己相関処理部と、前記スキャン間ラグnの自己相関画像に基づいて、前回のスキャンからnスキャン後における前記物標の予測位置の確率分布を生成する予測分布生成部と、を備えることを特徴とするレーダ物標追尾装置である。
【0009】
この構成によれば、クラッタの強度が高いときでも、自己相関処理に基づくスキャン間相関を用いて、SC比を向上させたうえで、物標を追尾することができる。
【0010】
また、本開示は、前記自己相関処理部は、スキャン間ラグ1の自己相関画像を算出し、前記予測分布生成部は、前記スキャン間ラグ1の自己相関画像に基づいて、前記前回のスキャンの次の最新のスキャンにおける前記物標の予測位置の確率分布を生成することを特徴とするレーダ物標追尾装置である。
【0011】
この構成によれば、最新のスキャンにおける物標の予測位置の確率分布を、前回のスキャンからnスキャン後(n≧2)における物標の予測位置の確率分布と比べて、高精度に生成することができる。そして、加速度を有する物標及び高速で移動する物標についても、最新のスキャンにおける物標の予測位置の確率分布を高精度に生成することができる。
【0012】
また、本開示は、前記スキャン間ラグnの自己相関画像における最大相関値が、前記物標以外のクラッタの強度が低い(高い)ほど高く(低く)設定される所定閾値以上であるときに、前記前回のスキャンからnスキャン後における前記物標の存在を判断し、前記スキャン間ラグnの自己相関画像を前記予測分布生成部へと入力する自己相関検出部、をさらに備えることを特徴とするレーダ物標追尾装置である。
【0013】
この構成によれば、クラッタの強度が高いときには、物標をロストしないようにでき、クラッタの強度が低いときには、クラッタを排除することができる。
【0014】
また、本開示は、前記前回のスキャンからnスキャン後におけるスキャン画像の各セル値と、前記前回のスキャンからnスキャン後における前記物標の予測位置の確率分布の各セル値と、を重み付け加算したうえで、前記前回のスキャンからnスキャン後におけるスキャン間相関画像の各セル値を算出するにあたり、当該スキャン画像の各セル値が所定閾値未満であるときに、当該スキャン画像の各セル値が前記所定閾値以上であるときと比べて、当該確率分布の各セル値の重み付け係数を0又はより小さい値に設定する重み付け加算部、をさらに備えることを特徴とするレーダ物標追尾装置である。
【0015】
この構成によれば、物標の予測位置の確率分布とスキャン画像上の物標との重なり部分について、物標の予測位置の確率分布の冗長性成分を維持することができる。そして、互いに離れた複数の物標のうち、着目物標については、SC比を向上させることができ、物標を追尾することができるが、他の物標については、SC比を低減させることができる。
【0016】
また、本開示は、以上に記載のレーダ物標追尾装置が備える各処理部が実行する各処理ステップを、コンピュータに実行させるためのレーダ物標追尾プログラムである。
【0017】
この構成によれば、以上に記載の効果を有するプログラムを提供することができる。
【0018】
なお、上記各開示の発明は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0019】
このように、本開示は、クラッタの強度が高いときでも、スキャン間相関を用いて、SC比を向上させたうえで、物標を追尾することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】従来技術のレーダ物標追尾処理の概要を示す図である。
図2】従来技術のレーダ物標追尾処理の課題を示す図である。
図3】本開示のレーダ物標追尾システムの構成を示す図である。
図4】本開示のレーダ物標追尾処理の手順を示す図である。
図5】本開示のレーダ物標追尾処理の手順を示す図である。
図6】本開示のレーダ物標追尾処理の概要を示す図である。
図7】本開示のレーダ物標追尾処理の概要を示す図である。
図8】本開示の自己相関画像算出処理の具体例を示す図である。
図9】本開示の自己相関画像算出処理の具体例を示す図である。
図10】本開示の自己相関画像算出処理の具体例を示す図である。
図11】本開示の自己相関画像算出処理の具体例を示す図である。
図12】本開示の物標存在判断処理の具体例を示す図である。
図13】本開示の重み付け加算処理の具体例を示す図である。
図14】本開示の重み付け加算処理の具体例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0022】
(本開示のレーダ物標追尾システムの構成)
本開示のレーダ物標追尾システムの構成を図3に示す。レーダ物標追尾システムRは、レーダ送受信装置1、レーダ物標追尾装置2及びレーダ表示装置3を備える。レーダ送受信装置1は、レーダ送信信号を物標Tへと照射し、レーダ反射信号を物標Tから受信する。レーダ物標追尾装置2は、スキャン間相関を用いて、SC比を向上させたうえで、物標Tを追尾する。レーダ表示装置3は、物標Tの追尾結果を表示する。
【0023】
レーダ物標追尾装置2は、スキャン画像取得部21、スキャン間相関画像記憶部22、物標画像抽出部23、自己相関処理部24、自己相関検出部25、予測分布生成部26、重み付け加算部27及びクラスタリング処理部28を備え、図4、5に示すレーダ物標追尾プログラムをコンピュータにインストールし実現することができる。
【0024】
つまり、過去の物標画像の時系列について、自己相関画像を算出する。ここで、自己相関画像は、物標T(船舶等)の予測位置の確率分布に対応する。そして、物標Tの予測位置の確率分布は、クラッタ(シークラッタ等)の強度が高いときには、高い冗長性を有する。よって、物標Tの予測位置の確率分布とスキャン画像上の物標Tとは、クラッタの強度が高いときでも、十分な重なりを有する。そして、物標Tの予測位置の確率分布とスキャン画像上の物標Tとの重み付け加算により、SC比を向上させることができ、物標Tを追尾することができる。以下に、本開示のレーダ物標追尾処理の詳細を説明する。
【0025】
(本開示のレーダ物標追尾処理の手順)
本開示のレーダ物標追尾処理の手順を図4、5に示す。本開示のレーダ物標追尾処理の概要を図6、7に示す。図4~7では、各スキャン画像が取得されるたびに、かつ、各物標Tが追尾されるごとに、レーダ物標追尾処理が実行されている。
【0026】
スキャン画像取得部21は、各スキャン画像を取得するたびに、物標Tの予測位置の確率分布とスキャン画像上の物標Tとの重み付け加算を考慮して、各スキャン画像の各セル値のスケーリング(例えば、0以上1以下)を実行する。スキャン間相関画像記憶部22は、過去のスキャン間相関画像及び物標Tの位置(例えば、重心位置)を記憶する。
【0027】
物標画像抽出部23は、過去のN枚のスキャン間相関画像から、前回のスキャン間相関画像における物標Tの位置を中心とし所定サイズを有する物標画像を抽出する(ステップS1)。図6の左上欄及び右上欄では、物標画像抽出部23は、過去の8枚のスキャン間相関画像から、前回のスキャン間相関画像CPにおける物標Tの位置(x、y)を中心とし、所定サイズ(船舶等の速度を考慮)を有する物標画像T1~T8を抽出する。
【0028】
自己相関処理部24は、過去のN枚の物標画像の時系列について、スキャン間ラグn(-N/2~N/2-1)の自己相関画像を算出する(ステップS2)。図6の右上欄及び左下欄では、自己相関処理部24は、過去の8枚の物標画像T1~T8の時系列について、スキャン間ラグ-4~+3の自己相関画像A(-4)~A(+3)を算出する。自己相関処理部24の処理の具体例については、図8~11を用いて後述する。
【0029】
自己相関検出部25は、スキャン間ラグnの自己相関画像における最大相関値が、所定閾値以上(未満)であるときに(ステップS3、YES(NO))、前回のスキャンからnスキャン後における物標Tの存在(不存在)を判断する(ステップS4(S5))。自己相関検出部25の処理の具体例については、図12を用いて後述する。
【0030】
予測分布生成部26は、スキャン間ラグnの自己相関画像に基づいて、前回のスキャンからnスキャン後における物標Tの予測位置の確率分布を生成する(ステップS6)。図6の左下欄及び右下欄では、予測分布生成部26は、スキャン間ラグ1の自己相関画像に基づいて、前回のスキャンの次の最新のスキャンにおける物標Tの予測位置の確率分布(最新の予測分布画像PLのうち、(x、y)を中心とし所定サイズを有する)を生成する。予測分布生成部26の処理の具体例については、図8~11を用いて後述する。
【0031】
重み付け加算部27は、前回のスキャンからnスキャン後におけるスキャン画像の各セル値と、前回のスキャンからnスキャン後における物標Tの予測位置の確率分布の各セル値と、を重み付け加算したうえで、前回のスキャンからnスキャン後におけるスキャン間相関画像の各セル値を算出する(ステップS7)。図7では、重み付け加算部27は、前回のスキャンの次の最新のスキャンにおける最新のスキャン画像SLの各セル値と、前回のスキャンの次の最新のスキャンにおける物標Tの予測位置の確率分布(最新の予測分布画像PL)の各セル値と、を重み付け加算したうえで、前回のスキャンの次の最新のスキャンにおける最新のスキャン間相関画像CLの各セル値を算出する。重み付け加算部27の処理の具体例については、図13、14を用いて後述する。
【0032】
クラスタリング処理部28は、前回のスキャンからnスキャン後におけるスキャン間相関画像について、クラスタリングを実行し、物標Tの位置(例えば、重心位置)を検出する(ステップS11)。そして、ステップS11からステップS1へと戻る。
【0033】
このように、クラッタの強度が高いときでも、自己相関処理に基づくスキャン間相関を用いて、SC比を向上させたうえで、物標Tを追尾することができる。
【0034】
(本開示の自己相関画像算出処理の具体例)
本開示の自己相関画像算出処理の具体例を図8~11に示す。図8では、自己相関処理部24は、過去の8枚の物標画像T1~T8の時系列について、3次元フーリエ変換、時間周波数・空間周波数領域における振幅スペクトルの二乗及び3次元逆フーリエ変換に基づいて、スキャン間ラグ-4~+3の自己相関画像A(-4)~A(+3)を算出する(ステップS2)。ここで、自己相関処理部24は、自己相関画像A(-4)~A(+3)の各セル値を、自己相関画像A(0)のピーク値でスケーリングする。
【0035】
スキャン間ラグ+1~+3の自己相関画像A(+1)~A(+3)は、前回のスキャンから+1~+3スキャン後における物標Tの予測位置の確率分布に対応する。スキャン間ラグ0の自己相関画像A(0)は、物標Tの自己相関画像のみならず、クラッタの自己相関画像も重畳する。スキャン間ラグ+1~+3の自己相関画像A(+1)~A(+3)は、過去の8枚の物標画像T1~T8のサイズがうねり等の周期と比べて小さいため、砕波等の自己相関画像はもちろん、うねり等の自己相関画像も重畳しない。
【0036】
図9では、自己相関処理部24は、過去の8枚の物標画像T1~T8の時系列について、時間・空間領域における物標画像同士の畳み込み積分及びそれらの平均に基づいて、スキャン間ラグ0の自己相関画像A(0)を算出する(ステップS2)。ここで、自己相関処理部24は、物標画像Tm、Tm(m=1~8)同士の畳み込み積分を実行する。
【0037】
図10では、自己相関処理部24は、過去の8枚の物標画像T1~T8の時系列について、時間・空間領域における物標画像同士の畳み込み積分及びそれらの平均に基づいて、スキャン間ラグ1の自己相関画像A(+1)を算出する(ステップS2)。ここで、自己相関処理部24は、物標画像Tm、Tm+1(m=1~8)同士の畳み込み積分を実行するが、物標画像T8について物標画像T1との間で畳み込み積分を実行する。ただし、自己相関処理部24は、自己相関画像A(+1)を高精度に算出するために、畳み込み積分のサンプル数は低減するが、物標画像T8について物標画像T1との間で畳み込み積分を実行しなくてもよい。そして、自己相関処理部24は、自己相関画像A(+1)の各セル値を、自己相関画像A(0)のピーク値でスケーリングする。
【0038】
図11では、自己相関処理部24は、過去の8枚の物標画像T1~T8の時系列について、時間・空間領域における物標画像同士の畳み込み積分及びそれらの平均に基づいて、スキャン間ラグ2の自己相関画像A(+2)を算出する(ステップS2)。ここで、自己相関処理部24は、物標画像Tm、Tm+2(m=1~8)同士の畳み込み積分を実行するが、物標画像T7、T8について物標画像T1、T2との間で畳み込み積分を実行する。ただし、自己相関処理部24は、自己相関画像A(+2)を高精度に算出するために、畳み込み積分のサンプル数は低減するが、物標画像T7、T8について物標画像T1、T2との間で畳み込み積分を実行しなくてもよい。そして、自己相関処理部24は、自己相関画像A(+2)の各セル値を、自己相関画像A(0)のピーク値でスケーリングする。
【0039】
このように、最新のスキャンにおける物標Tの予測位置の確率分布を、前回のスキャンからnスキャン後(n≧2)における物標Tの予測位置の確率分布と比べて、高精度に生成することができる。そして、加速度を有する物標T及び高速で移動する物標Tについても、前回のスキャンから1スキャン後のみを考慮しているため、最新のスキャンにおける物標Tの予測位置の確率分布を高精度に生成することができる。
【0040】
なお、従来技術では、前回のスキャン間相関画像CPにおいて、3次元フーリエ変換により、物標Tの速度vを算出する。すると、加速度を有する物標Tについては、時間周波数・空間周波数領域における平面がばらつき、物標Tの速度vを高精度に算出することができない。そして、高速で移動する物標Tについては、時間周波数・空間周波数領域における折り返しが生じ、物標Tの速度vを高精度に算出することができない。
【0041】
(本開示の物標存在判断処理の具体例)
本開示の物標存在判断処理の具体例を図12に示す。自己相関検出部25は、スキャン間ラグ+1~+3の自己相関画像A(+1)~A(+3)における最大相関値に対する所定閾値を、物標T以外のクラッタの強度が低い(高い)ほど高く(低く)設定する。そして、自己相関検出部25は、自己相関画像A(+1)~A(+3)における最大相関値が、所定閾値以上(未満)であるときに(ステップS3、YES(NO))、前回のスキャンから+1~+3スキャン後における物標Tの存在(不存在)を判断し(ステップS4(S5))、自己相関画像A(+1)~A(+3)を予測分布生成部26へと入力する。
【0042】
図12の左上欄及び右上欄では、自己相関検出部25は、自己相関画像A(+1)~A(+3)における最大相関値に対する所定閾値を、物標T以外のクラッタの強度が低いため高く設定する(ステップS3)。図12の左下欄及び右下欄では、自己相関検出部25は、自己相関画像A(+1)~A(+3)における最大相関値に対する所定閾値を、物標T以外のクラッタの強度が高いため低く設定する(ステップS3)。
【0043】
そして、図12の左上欄及び左下欄では、自己相関検出部25は、自己相関画像A(+1)~A(+3)における最大相関値が、所定閾値以上であるため(ステップS3、YES)、前回のスキャンから+1~+3スキャン後における物標Tの存在を判断し(ステップS4)、自己相関画像A(+1)~A(+3)の各セル値を、前回のスキャン間相関画像CPのピーク値でスケーリングする(物標Tの強度を時間変化に従って安定させるため)。
【0044】
一方で、図12の右上欄及び右下欄では、自己相関検出部25は、自己相関画像A(+1)~A(+3)における最大相関値が、所定閾値未満であるため(ステップS3、NO)、前回のスキャンから+1~+3スキャン後における物標Tの不存在を判断し(ステップS5)、自己相関画像A(+1)~A(+3)の各セル値に、0を乗算する。
【0045】
このように、クラッタの強度が高いときには、物標Tをロストしないようにでき、クラッタの強度が低いときには、クラッタを排除することができる。
【0046】
(本開示の重み付け加算処理の具体例)
本開示の重み付け加算処理の具体例を図13、14に示す。重み付け加算部27は、前回のスキャンから+1~+3スキャン後におけるスキャン画像の各セル値Axyと、前回のスキャンから+1~+3スキャン後における物標Tの予測位置の確率分布の各セル値Axy (チルダ)と、を重み付け加算したうえで、前回のスキャンから+1~+3スキャン後におけるスキャン間相関画像の各セル値Axy (バー)を算出する(ステップS7)。
【0047】
ここで、重み付け加算部27は、当該スキャン画像の各セル値Axyが所定閾値Ath未満であるときに(ステップS8、YES)、当該スキャン画像の各セル値Axyが所定閾値Ath以上であるときと比べて(ステップS8、NO)、当該確率分布の各セル値Axy の重み付け係数を0又はより小さい値に設定する(ステップS9 vs. S10)。
【0048】
つまり、重み付け加算部27は、当該スキャン画像の各セル値Axyが所定閾値Ath未満であるときに(ステップS8、YES)、当該スキャン間相関画像の各セル値Axy =α・Axy+(1-α)・β・Axy (ただし、β=γ(0≦γ<1))を算出する(ステップS9)。一方で、重み付け加算部27は、当該スキャン画像の各セル値Axyが所定閾値Ath以上であるときに(ステップS8、NO)、当該スキャン間相関画像の各セル値Axy =α・Axy+(1-α)・β・Axy (ただし、β=1)を算出する(ステップS10)。
【0049】
ここで、αが0に近いほど、当該確率分布の各セル値Axy の重み付け係数が大きくなり、クラッタが抑圧される。一方で、αが1に近いほど、当該スキャン画像の各セル値Axyの重み付け係数が大きくなり、予測分布が抑圧される。そして、βが0に近いほど、当該確率分布の各セル値Axy の重み付け係数が小さくなり、当該確率分布の各セル値Axy の冗長性が抑圧される。一方で、βが1に近いほど、当該確率分布の各セル値Axy の重み付け係数が大きくなり、当該確率分布の各セル値Axy の冗長性が維持される。基本的には、γを0に近づけるが、物標Tのロストの防止のために、γを1に近づけてもよい。
【0050】
図13の左上欄では、当該スキャン画像の各セル値Axyの2次元分布と、当該確率分布の各セル値Axy の2次元分布とが、大部分において一致している。そして、重み付け加算部27は、当該スキャン画像の各セル値Axyが所定閾値Ath以上である2次元範囲において(ステップS8、NO)、当該確率分布の各セル値Axy の冗長性を維持する(ステップS10)。一方で、重み付け加算部27は、当該スキャン画像の各セル値Axyが所定閾値Ath未満である2次元範囲において(ステップS8、YES)、当該確率分布の各セル値Axy の冗長性を抑圧する(ステップS9)。よって、図13の左下欄において、当該スキャン間相関画像の各セル値Axy の2次元分布のうちの、当該スキャン画像の各セル値Axyの2次元分布と、当該確率分布の各セル値Axy の2次元分布とが、一致している大部分において、当該確率分布の各セル値Axy の冗長性を維持することができる。
【0051】
図13の右上欄では、当該スキャン画像の各セル値Axyの2次元分布と、当該確率分布の各セル値Axy の2次元分布とが、一部分のみで一致している。そして、重み付け加算部27は、当該スキャン画像の各セル値Axyが所定閾値Ath以上である2次元範囲において(ステップS8、NO)、当該確率分布の各セル値Axy の冗長性を維持する(ステップS10)。一方で、重み付け加算部27は、当該スキャン画像の各セル値Axyが所定閾値Ath未満である2次元範囲において(ステップS8、YES)、当該確率分布の各セル値Axy の冗長性を抑圧する(ステップS9)。よって、図13の右下欄において、当該スキャン間相関画像の各セル値Axy の2次元分布のうちの、当該スキャン画像の各セル値Axyの2次元分布と、当該確率分布の各セル値Axy の2次元分布とが、一致している一部分のみで、当該確率分布の各セル値Axy の冗長性を維持することができる。
【0052】
図14の左上欄では、過去の8枚の物標画像T1~T8において、互いに離れた複数の物標T、T’のうち、物標Tに着目しており、物標T’に着目していない。図14の右上欄では、スキャン間ラグ1の自己相関画像A(+1)において、前回のスキャンの次の最新のスキャンにおける物標Tの予測位置の確率分布を生成するが、前回のスキャンの次の最新のスキャンにおける物標T’の予測位置の確率分布と分離できない。
【0053】
図14の左下欄では、最新のスキャン画像SLにおいて、スキャン間ラグ1の自己相関画像A(+1)と比べて、ほぼ同一の位置に物標Tを検出するが、多少ずれた位置に物標T’も検出する。図14の右下欄では、最新のスキャン間相関画像CLにおいて、スキャン間ラグ1の自己相関画像A(+1)と最新のスキャン画像SLとを重み付け加算する。着目している物標Tについては、SC比を向上させることができ、物標Tを追尾することができるが、着目していない物標T’については、SC比を低減させることができる。
【0054】
このように、物標Tの予測位置の確率分布とスキャン画像上の物標Tとの重なり部分について、物標Tの予測位置の確率分布の冗長性成分を維持することができる。そして、互いに離れた複数の物標T、T’のうち、着目物標T(T’としてもよい)については、SC比を向上させることができ、物標T(T’としてもよい)を追尾することができるが、他の物標T’(Tとしてもよい)については、SC比を低減させることができる。
【0055】
なお、従来技術では、前回のスキャン間相関画像CPにおいて、3次元フーリエ変換により、互いに離れた複数の物標T、T’の速度v、v’を算出する。すると、複数の物標T、T’について、時間周波数・空間周波数領域における平面がねじれの関係にあり、複数の物標T、T’の速度v、v’を高精度に算出することができない。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本開示のレーダ物標追尾装置及びレーダ物標追尾プログラムは、クラッタ(シークラッタ等)の強度が高いときでも、自己相関処理に基づくスキャン間相関を用いて、SC比を向上させたうえで、物標(船舶等)を追尾することができる。
【符号の説明】
【0057】
R:レーダ物標追尾システム
T、T’:物標
1:レーダ送受信装置
2:レーダ物標追尾装置
3:レーダ表示装置
21:スキャン画像取得部
22:スキャン間相関画像記憶部
23:物標画像抽出部
24:自己相関処理部
25:自己相関検出部
26:予測分布生成部
27:重み付け加算部
28:クラスタリング処理部
CP:前回のスキャン間相関画像
PL:最新の予測分布画像
SL:最新のスキャン画像
CL:最新のスキャン間相関画像
C:クラッタ
T1~T8:過去の物標画像
A(-4)~A(+3):自己相関画像
図1
図2
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図14