(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158922
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】内燃機関用潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 171/02 20060101AFI20241031BHJP
C10M 171/00 20060101ALI20241031BHJP
C10M 145/14 20060101ALI20241031BHJP
C10M 101/02 20060101ALI20241031BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20241031BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20241031BHJP
【FI】
C10M171/02
C10M171/00
C10M145/14
C10M101/02
C10N30:00 Z
C10N40:25
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074555
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江龍 翔瑚
(72)【発明者】
【氏名】和田 浩太朗
(72)【発明者】
【氏名】奈邉 真生
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA02A
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BB08A
4H104BB33A
4H104BB34A
4H104BB41A
4H104CA04A
4H104CB08C
4H104CB14A
4H104DA02A
4H104EA01A
4H104EA02A
4H104LA20
4H104PA41
(57)【要約】
【課題】低温領域における動粘度の低粘度化と低蒸発性とを共に高水準のものとして両立することを可能とする内燃機関用潤滑油組成物を提供すること。
【解決手段】潤滑油基油および粘度指数向上剤を含有する内燃機関用の潤滑油組成物であって;前記潤滑油基油は、100℃における動粘度が2.7mm2/s以上4.0mm2/s以下であるという条件、250℃、1時間の条件のNOACK蒸発性試験により求められる潤滑油基油の蒸発損失量が34.0mass%以下であるという条件、構成成分である基油成分としてエステル基油を含まないという条件、構成成分として特定の基油成分を特定量含むという条件を満たすものであり;かつ、前記粘度指数向上剤がポリ(メタ)アクリレートである;内燃機関用潤滑油組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油基油および粘度指数向上剤を含有する内燃機関用の潤滑油組成物であって、
前記潤滑油基油は、100℃における動粘度が2.7mm2/s以上4.0mm2/s以下のものであり、
前記潤滑油基油は、250℃、1時間の条件のNOACK蒸発性試験により求められる潤滑油基油の蒸発損失量が34.0mass%以下のものであり、
前記潤滑油基油は、構成成分である基油成分としてエステル基油を含まず、
前記潤滑油基油は、構成成分として下記条件(I)~(IV):
[条件(I)]100℃における動粘度が1.8mm2/s以上3.9mm2/s以下であること、
[条件(II)]40℃における動粘度が5.5mm2/s以上20.0mm2/s以下であること、
[条件(III)]250℃、1時間の条件のNOACK蒸発性試験により求められる基油成分の蒸発損失量が50.0mass%以下であること、
[条件(IV)]下記式(1):
X=Y×4.6+Z (1)
(式中、Yは基油成分の40℃における動粘度を示し、Zは250℃、1時間の条件のNOACK蒸発性試験により求められる基油成分の蒸発損失量を示す。)
により求められる計算値Xが100以下であること、
を満たす基油成分を少なくとも1種含有しており、
前記潤滑油基油が、前記条件(I)~(IV)を満たす基油成分を前記潤滑油基油の全量基準で合計30mass%以上含有し、かつ、
前記粘度指数向上剤がポリ(メタ)アクリレートであることを特徴とする内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項2】
前記潤滑油基油が前記条件(I)~(IV)を満たす基油成分を前記潤滑油基油の全量基準で合計50mass%以上含有していることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項3】
250℃、1時間の条件のNOACK蒸発性試験により求められる前記潤滑油基油の蒸発損失量が31.0mass%以下であることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項4】
前記潤滑油基油が、前記潤滑油基油を構成する基油成分として鉱油系基油を少なくとも1種含むことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、目的とする性能を得るために様々な組成の内燃機関用潤滑油組成物が研究されている。そのような内燃機関用潤滑油組成物として、例えば、特開2022-22491号公報(特許文献1)には、(A)基油、および(B)(共)重合体を含み、250℃、1時間の条件で測定されるNOACK蒸発量が25mass%(質量%)以上40mass%未満の潤滑油組成物であって、重量平均分子量(Mw)が10万~100万である(B)成分を潤滑油組成物の全質量に対して1.0~10mass%含み、前記(A)基油の100℃の動粘度が2.5~3.5mm2/sであり、高温高せん断粘度が特定の条件を満たし、かつ、沸点が350℃~400℃の範囲にある前記(A)成分に由来する留分を、該潤滑油組成物の全質量に対し40~98mass%で含有する潤滑油組成物が開示されている。
【0003】
また、特開2022-22996号公報(特許文献2)には、(A)基油、および(B)(共)重合体を含み、250℃、1時間の条件で測定されるNOACK蒸発量が25mass%以上40mass%未満の潤滑油組成物であって、重量平均分子量(Mw)が10万~100万である(B)成分を潤滑油組成物の全質量に対して0.5~6mass%含み、100℃の動粘度が6.1mm2/s以上9.3mm2/s未満であり、高温高せん断粘度が特定の条件を満たし、かつ、沸点が350℃~400℃の範囲にある前記(A)成分に由来する留分を、該潤滑油組成物の全質量に対して20~60mass%含有する潤滑油組成物が開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1~2に記載されているような従来の内燃機関用潤滑油組成物は、常温域を含む低温領域の動粘度の指標となる40℃における動粘度の低粘度化と、低蒸発性とを高い水準で両立するといった点では必ずしも十分なものではなかった。なお、内燃機関用潤滑油組成物の分野においては、低温領域における動粘度の低粘度化と低蒸発性といった背反する2つの性能を共に高い水準のものとすることが可能となるような内燃機関用潤滑油組成物の出現が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-22491号公報
【特許文献2】特開2022-22996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、低温領域における動粘度の低粘度化と低蒸発性とを共に高水準のものとして両立することを可能とする内燃機関用潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、潤滑油基油および粘度指数向上剤を含有する内燃機関用の潤滑油組成物において、前記潤滑油基油の100℃における動粘度を2.7mm2/s以上4.0mm2/s以下とし;250℃、1時間の条件のNOACK蒸発性試験により求められる前記潤滑油基油の蒸発損失量を34.0mass%以下とし;前記潤滑油基油を構成成分である基油成分としてエステル基油を含まないものとし;前記潤滑油基油を構成成分として下記の特定の条件(I)~(IV)を満たす基油成分を少なくとも1種含有するものとし;前記潤滑油基油を下記の特定の条件(I)~(IV)を満たす基油成分を前記潤滑油基油の全量基準で合計30mass%以上含有するものとし;かつ、前記粘度指数向上剤をポリ(メタ)アクリレートとすること;により、得られる潤滑油組成物の低温領域における動粘度の低粘度化と低蒸発性とを共に高水準のものとして両立させることが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の態様を提供する。
【0009】
[1]潤滑油基油および粘度指数向上剤を含有する内燃機関用の潤滑油組成物であって、
前記潤滑油基油は、100℃における動粘度が2.7mm2/s以上4.0mm2/s以下のものであり、
前記潤滑油基油は、250℃、1時間の条件のNOACK蒸発性試験により求められる潤滑油基油の蒸発損失量が34.0mass%以下のものであり、
前記潤滑油基油は、構成成分である基油成分としてエステル基油を含まず、
前記潤滑油基油は、構成成分として下記条件(I)~(IV):
[条件(I)]100℃における動粘度が1.8mm2/s以上3.9mm2/s以下であること、
[条件(II)]40℃における動粘度が5.5mm2/s以上20.0mm2/s以下であること、
[条件(III)]250℃、1時間の条件のNOACK蒸発性試験により求められる基油成分の蒸発損失量が50.0mass%以下であること、
[条件(IV)]下記式(1):
X=Y×4.6+Z (1)
(式中、Yは基油成分の40℃における動粘度を示し、Zは250℃、1時間の条件のNOACK蒸発性試験により求められる基油成分の蒸発損失量を示す。)
により求められる計算値Xが100以下であること、
を満たす基油成分を少なくとも1種含有しており、
前記潤滑油基油が、前記条件(I)~(IV)を満たす基油成分を前記潤滑油基油の全量基準で合計30mass%以上含有し、かつ、
前記粘度指数向上剤がポリ(メタ)アクリレートである、内燃機関用潤滑油組成物。
【0010】
[2]前記潤滑油基油が前記条件(I)~(IV)を満たす基油成分を前記潤滑油基油の全量基準で合計50mass%以上含有している、[1]に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【0011】
[3]250℃、1時間の条件のNOACK蒸発性試験により求められる前記潤滑油基油の蒸発損失量が31.0mass%以下である、[1]または[2]に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【0012】
[4]前記潤滑油基油が、前記潤滑油基油を構成する基油成分として鉱油系基油を少なくとも1種含む、[1]~[3]のうちのいずれか1項に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、低温領域における動粘度の低粘度化と低蒸発性とを共に高水準のものとして両立することを可能とする内燃機関用潤滑油組成物を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】18種類の基油のサンプルの40℃における動粘度とNOACK(250℃、1時間)蒸発損失量との関係をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。なお、本明細書においては、特に断らない限り、数値XおよびYについて「X~Y」という表記は「X以上Y以下」を意味するものとする。かかる表記において数値Yのみに単位を付した場合には、当該単位が数値Xにも適用されるものとする。
【0016】
〔内燃機関用潤滑油組成物〕
本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、潤滑油基油および粘度指数向上剤を含有する内燃機関用の潤滑油組成物であって、
前記潤滑油基油は、100℃における動粘度が2.7mm2/s以上4.0mm2/s以下のものであり、
前記潤滑油基油は、250℃、1時間の条件のNOACK蒸発性試験により求められる潤滑油基油の蒸発損失量が34.0mass%以下のものであり、
前記潤滑油基油は、構成成分である基油成分としてエステル基油を含まず、
前記潤滑油基油は、構成成分として下記条件(I)~(IV):
[条件(I)]100℃における動粘度が1.8mm2/s以上3.9mm2/s以下であること、
[条件(II)]40℃における動粘度が5.5mm2/s以上20.0mm2/s以下であること、
[条件(III)]250℃、1時間の条件のNOACK蒸発性試験により求められる基油成分の蒸発損失量が50.0mass%以下であること、
[条件(IV)]下記式(1):
X=Y×4.6+Z (1)
(式中、Yは基油成分の40℃における動粘度を示し、Zは250℃、1時間の条件のNOACK蒸発性試験により求められる基油成分の蒸発損失量を示す。)
により求められる計算値Xが100以下であること、
を満たす基油成分を少なくとも1種含有しており、
前記潤滑油基油が、前記条件(I)~(IV)を満たす基油成分を前記潤滑油基油の全量基準で合計30mass%以上含有し、かつ、
前記粘度指数向上剤がポリ(メタ)アクリレートであることを特徴とするものである。
【0017】
なお、本明細書においては、潤滑油基油の構成成分として含有される基油をいずれも「基油成分」と表現し、また、構成成分として含有された全ての基油成分よりなる基油の組成物(ただし、ここにいう「組成物」は1種の基油成分のみからなる場合を含む)を「潤滑油基油」と表現する。このように、本明細書においては、潤滑油組成物に含まれる基油成分が1種のみである場合にはその1種の基油成分のみからなるもの(潤滑油組成物中の全基油)を、また、前記潤滑油組成物に複数の基油成分が含まれる場合にはその複数の基油成分よりなる基油の混合物(潤滑油組成物中の全基油)を、それぞれ「潤滑油基油」と表現し、その潤滑油基油に含まれる構成成分としての基油を「基油成分」と表現する。また、本明細書において「250℃、1時間の条件のNOACK蒸発性試験」とはASTM D5800に準拠した試験をいう。
【0018】
また、本発明にかかる潤滑油基油(全基油)は、100℃における動粘度が2.7mm2/s以上4.0mm2/s以下のものである必要がある。このような潤滑油基油の100℃における動粘度は2.9mm2/s以上3.9以下(より好ましくは3.0mm2/s以上3.9mm2/s以下、さらに好ましくは3.0mm2/s以上3.7mm2/s以下、特に好ましくは3.2mm2/s以上3.7mm2/s以下、最も好ましくは3.3mm2/s以上3.7mm2/s以下)であることがより好ましい。前記潤滑油基油の100℃における動粘度が4.0mm2/s以下であることにより、優れた省燃費性能を得ることが可能である。また、潤滑油基油の100℃における動粘度が2.7mm2/s以上であることにより、潤滑箇所での油膜形成を確保できるとともに、潤滑油組成物の蒸発損失をさらに少なくすることが可能である。
【0019】
また、本発明にかかる潤滑油基油(全基油)は、ASTM D5800に準拠した250℃、1時間の条件のNOACK蒸発性試験(以下、場合により単に「NOACK(250℃、1時間)」と表記する)により求められる潤滑油基油の蒸発損失量(NOACK(250℃、1時間)蒸発損失量)が34.0mass%以下(好ましくは31.0mass%以下)である必要がある。また、このような潤滑油基油(全基油)のNOACK(250℃、1時間)蒸発損失量は、16.0~31.0mass%(さらに好ましくは18.0~29.8mass%、特に好ましくは20.4~24.8mass%)であることがより好ましい。NOACK(250℃、1時間)蒸発損失量を前記上限以下とすることで、低蒸発性が高度な水準のものとなる。他方、NOACK(250℃、1時間)蒸発損失量が前記下限以上とすることで、潤滑油組成物の低粘度化による省燃費性能の向上の点でさらに高い効果が得られる傾向にある。
【0020】
また、本発明にかかる潤滑油基油(全基油)は、40℃における動粘度が18.0mm2/s以下(より好ましくは9.8mm2/s以上16.6mm2/s以下、更に好ましくは9.8mm2/s以上15.8mm2/s以下、特に好ましくは12.5mm2/s以上14.9mm2/s以下で最も好ましくは12.5mm2/s以上12.8mm2/s以下)であることが好ましい。このような潤滑油基油の40℃における動粘度を18.0mm2/s以下とすることで、最終的に得られる組成物の低温領域における動粘度のさらなる低粘度化を図ることが可能となる。なお、潤滑油基油の40℃における動粘度を前記下限以上とすることで低温潤滑箇所において油膜をより効率よく形成することが可能となる。
【0021】
なお、本明細書において、「40℃における動粘度」および「100℃における動粘度」はそれぞれASTM D-445に準拠して測定された値を意味する。なお、以下において、基油または組成物の「40℃における動粘度」を場合により単に「40℃動粘度」と称し、基油または組成物の「100℃における動粘度」を場合により単に「100℃動粘度」と称する。
【0022】
本発明にかかる潤滑油基油(全基油)は、沸点が330℃以下となる成分の含有量が潤滑油基油全量基準で3.2mass%以下(より好ましくは2.0mass%以下、さらに好ましくは1.7mass%以下)であることが好ましい。このような沸点が330℃以下となる成分の含有量を前記上限以下とすることで、使用時の蒸発損失をさらに低減させることが可能となり、低蒸発性の点でさらに高い効果を得ることが可能となる。なお、潤滑油基油中の前記成分の含有量は、潤滑油基油に対して、下記条件(A)を採用してガスクロマトグラフィー蒸留試験を行って得られるガスクロマトグラムから、潤滑油基油の全量に対する沸点が330℃以下となる成分の含有割合を算出することで求めることができる(なお、かかる条件(A)を採用するガスクロマトグラフィー蒸留試験を、以下、便宜上、場合により、単に「ガスクロ蒸留試験(A)」と称する)。なお、ガスクロ蒸留試験(A)はJIS K2254に記載されている試験方法を参考にして、目的とするデータを得るために条件等を適宜変更した試験である。
【0023】
〔ガスクロマトグラフィー蒸留試験の条件(A)〕
測定装置 :島津製作所製、商品名:GC-2030
カラム :ウルトラアロイ-1HT(UA-1HT;長さ5m、内径(I.D.)0.5mm、膜厚0.1μm:フロンティアラボ社製)
キャリアガス:He(流速:15mL/分)
検出器 :水素炎イオン化検出器(FID)
検出器温度 :400℃
注入口温度 :プログラマブル温度気化(PTV)注入口、40℃~380℃
カラム温度 :40℃で6分間保持した後に10℃/分の昇温速度で380℃まで昇温する。
【0024】
本発明にかかる潤滑油基油(全基油)は、構成成分として下記条件(I)~(IV):
[条件(I)]100℃における動粘度が1.8mm2/s以上3.9mm2/s以下であること、
[条件(II)]40℃における動粘度が5.5mm2/s以上20.0mm2/s以下であること、
[条件(III)]250℃、1時間の条件のNOACK蒸発性試験により求められる基油成分の蒸発損失量が50.0mass%以下であること、
[条件(IV)]下記式(1):
X=Y×4.6+Z (1)
(式中、Yは基油成分の40℃における動粘度を示し、Zは250℃、1時間の条件のNOACK蒸発性試験により求められる基油成分の蒸発損失量を示す。)
により求められる計算値Xが100以下であること、
を満たす基油成分を少なくとも1種含有してなるものである必要がある。
【0025】
このように、潤滑油基油(全基油)に必須成分(必須の構成成分)として含まれる前記基油成分は、100℃における動粘度が1.8mm2/s以上3.9mm2/s以下(より好ましくは2.7mm2/s以上3.9mm2/s以下、さらに好ましくは3.0mm2/s以上3.9mm2/s以下)であるという条件(I)を満たす必要がある。このような基油成分の100℃における動粘度を前記上限以下となることで、粘性抵抗の低減による組成物の省燃費性能を向上させることが可能となり、他方、前記下限以上とすることで高温での油膜保持性を向上することが可能となる。
【0026】
また、前記潤滑油基油(全基油)に必須成分として含まれる前記基油成分は、40℃における動粘度が5.5mm2/s以上20.0mm2/s以下(より好ましくは9.8mm2/s以上14.6mm2/s以下、さらに好ましくは12.8mm2/s以上15.9mm2/s以下)であるという条件(II)を満たす必要がある。このような基油成分の40℃における動粘度を前記上限以下とすることで、常温域に近い温度領域で稼働する際の組成物の粘性抵抗を低減させて省燃費性能を向上させる点で、さらに高い効果が得られる傾向にある。
【0027】
また、前記潤滑油基油(全基油)に必須成分として含まれる前記基油成分は、ASTM D5800に準拠した250℃、1時間の条件のNOACK蒸発性試験により求められる基油成分の蒸発損失量(NOACK(250℃、1時間)蒸発損失量)が50.0mass%以下(好ましくは33.4mass%以下、より好ましくは24.5mass%以下)であるという条件(III)を満たす必要がある。このような基油成分のNOACK(250℃、1時間)蒸発損失量を前記上限以下とすることで、低蒸発性を高度な水準のものとすることが可能となる。他方、NOACK(250℃、1時間)蒸発損失量を前記下限以上とすることで、潤滑油組成物の低粘度化による省燃費性能の向上の点でさらに高い効果が得られる傾向にある。
【0028】
さらに、前記潤滑油基油(全基油)に必須成分として含まれる前記基油成分は、下記式(1):
X=Y×4.6+Z (1)
(式中、Yは基油成分の40℃における動粘度を示し、Zは250℃、1時間の条件のNOACK蒸発性試験により求められる基油成分の蒸発損失量を示す。)
により求められる計算値Xが100以下であるという条件(IV)を満たす必要がある。このような計算値Xを100以下とすることで、一定の蒸発防止性を保ちつつ高温での粘度を同等としながら常温での動粘度を低減した潤滑油組成物の設計が可能となる。なお、このような計算値Xは、同様の観点でさらに高い効果が得られることから、86.8以下であることがより好ましく、84.0以下であることがさらに好ましい。
【0029】
ここで、計算値Xを求めるための式(1)について説明する。このような式(1)は、処方設計において一定の蒸発防止性と高温での(動)粘度の維持を規定した場合に、効果的に常温での動粘度を低減した省燃費性能に優れた潤滑油組成物を設計する際の指標となる値として計算値Xという概念を導き出して求めたものであり、以下に示すように、あらゆる種類の基油成分に適用できるように、実施例で利用している基油成分(1)~(12)も含む多数の基油サンプルを利用して立式したものである。すなわち、先ず、式(1)を求めるためのサンプルとして、18種類の基油を準備し、それぞれの基油の40℃における動粘度と、NOACK(250℃、1時間)蒸発損失量を測定した。なお、基油のNOACK(250℃、1時間)蒸発損失量に関して、NOACK(250℃、1時間)蒸発損失量が60mass%を超えるものについては、その基油のみを用いて直接NOACK(250℃、1時間)蒸発損失量を測定することができないため、その測定目的となる基油をNOACK(250℃、1時間)蒸発損失量が既知の他の基油に対して異なる比率で含有させた混合物からなる試料を3点以上準備して、各試料のNOACK(250℃、1時間)蒸発損失量を求めて、その測定値から近似直線を得ることで推定値を算出して求めた。そして、そのようにして求めた各サンプルとしての基油の40℃における動粘度と、NOACK(250℃、1時間)蒸発損失量との関係を
図1にプロットして示す。そして、このようなプロットしたデータの中で、粘度温度特性と蒸発特性のうちの一方だけではなく、これらの2つの特性を両立した潤滑油組成物を実現することが可能な基油成分に着目することにより、40℃における動粘度の4.6倍の値と、NOACK(250℃、1時間)蒸発損失量の合計値(計算値Xに相当)が、前記2つの特性の両立性の指標となり得ることを見出した。このようにして、多数のサンプルを利用して式(1)を導出した。なお、粘度温度特性と蒸発特性の両立性の指標となる計算値Xが100となる場合の式(1)の直線を
図1に示す。なお、
図1には、良好な粘度温度特性または蒸発特性を持つ潤滑油組成物を設計するために必要な条件(II)および条件(III)の上限や下限の値を点線で併せて明示する。このような計算値Xの値が上記条件を満たす場合には、良好な蒸発特性によるオイル消費の抑制および良好な粘度温度特性による省燃費性能改善の点で十分な水準の効果が得られる。
【0030】
さらに、前記潤滑油基油(全基油)に必須成分として含まれる、前記条件(I)~(IV)を満たす基油成分は、その基油成分中の沸点が330℃以下となる成分の含有量(その基油成分の全量に対する含有量)が2.2mass%以下(より好ましくは2.0mass%以下、特に好ましくは0.0mass%)であるという条件をさらに満たすものであることが好ましい。このような沸点が330℃以下となる成分の含有量が前記上限以下となることで、得られる潤滑油組成物の低温領域における動粘度の低粘度化と低蒸発性とを共に高水準のものとして両立させることが可能となる。なお、このような沸点が330℃以下となる成分の含有量は、利用する基油成分に対して、前記「ガスクロ蒸留試験(A)」を行って、得られるガスクロマトグラムから基油成分の全量に対する、沸点が330℃以下となる成分の含有割合を算出することで求めることができる。
【0031】
また、本発明にかかる潤滑油基油(全基油)は、前記条件(I)~(IV)を満たす基油成分を前記潤滑油基油全量基準で合計30mass%以上含有するものである必要がある(なお、「合計30mass%以上」という含有量に関する記載は、潤滑油基油が前記条件(I)~(IV)を満たす基油成分を1種のみ含有する場合にはその含有量を示し、2種以上含有する場合にはそれらの合計量を示す)。言い換えれば、本発明にかかる潤滑油基油(全基油)中の前記条件(I)~(IV)を満たす基油成分の含有量(総量)は30mass%以上である必要がある。ここにおいて、潤滑油基油(全基油)中の前記条件(I)~(IV)を満たす基油成分の含有量(総量)は、30mass%以上(より好ましくは60mass%以上、最も好ましくは70mass%以上)であることが好ましい。前記条件(I)~(IV)を満たす基油成分の含有量を潤滑油基油全量基準で合計30mass%以上とすることで、潤滑油組成物の良好な蒸発特性によるオイル消費の抑制および良好な粘度温度特性による省燃費性能改善の効果を有意に得ることが可能となる。
【0032】
また、本発明にかかる潤滑油基油(全基油)は、構成成分である基油成分としてエステル基油を含まないものである必要がある。潤滑油基油(全基油)にエステル基油を含有させてしまうと、前記のオイル消費の抑制と粘度温度特性(特に低温領域における動粘度の低粘度化)の改良を両立できなくなることに加えて、高温酸化安定性を同時に良好な水準として維持することが困難となり、潤滑油組成物の性能が低下する。
【0033】
また、このような潤滑油基油(全基油)は、1種の基油成分からなるものであってもよく、あるいは、複数(2種以上)の基油成分の混合物からなるものであってもよい。このような潤滑油基油の構成成分である基油成分の種類は、エステル基油以外のものであればよく、特に制限されず、鉱油系基油またはエステル基油以外の合成系基油を適宜用いることができる。
【0034】
前記基油成分として利用可能な鉱油系基油としては、特に制限されず、原油を常圧蒸留して得られる留出油を使用することができる。また、この留出油をさらに減圧蒸留して得られる留出油を、各種の精製プロセスで精製した潤滑油留分も使用することができる。精製プロセスとしては、水素化精製、溶剤抽出、溶剤脱ろう、水素化脱ろう、硫酸洗浄、白土処理などを、適宜組み合わせることができる。これらの精製プロセスを適宜の順序で組み合わせて処理することにより、本発明の潤滑油組成物で使用できる潤滑油基油を得ることができる。異なる原油または留出油を異なる精製プロセスの組合せに供することにより得られた、性状の異なる複数の精製油の混合物も使用可能である。
【0035】
また、前記基油成分として利用可能な鉱油系基油としては、API分類におけるグループIII基油に属するものを用いることが好ましい。APIグループIII基油は、硫黄分が0.03mass%以下、飽和分が90mass%以上、且つ粘度指数が120以上の鉱油系基油である。APIグループIII基油を利用する場合、複数の種類のグループIII基油を用いてもよく、あるいは、一種のみを用いてもよい。また、前記基油成分として利用可能な鉱油系基油としては、API分類におけるグループII基油に属するものを用いることもできる。APIグループII基油は、硫黄分が0.03mass%以下、飽和分が90mass%以上、且つ粘度指数が80以上120未満の鉱油系基油である。APIグループII基油を利用する場合、複数の種類のグループII基油を用いてもよく、あるいは、一種のみを用いてもよい。
【0036】
また、前記基油成分として利用可能なエステル基油以外の合成系基油としては、ポリα-オレフィンおよびその水素化物、イソブテンオリゴマーおよびその水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル、並びにこれらの混合物等が挙げられる。中でも、ポリα-オレフィンが好ましい。ポリα-オレフィンとしては、典型的には、炭素数2~32、好ましくは炭素数6~16のα-オレフィンのオリゴマーまたはコオリゴマー(1-オクテンオリゴマー、デセンオリゴマー、エチレン-プロピレンコオリゴマー等)およびそれらの水素化生成物が挙げられる。
【0037】
また、前記潤滑油基油(全基油)としては、潤滑油基油を構成する基油成分に鉱油系基油を少なくとも1種含むことが好ましい。すなわち、このような潤滑油基油(全基油)としては、合成系基油のみで構成されていないという条件を満たすものが好ましい(中でも、フィッシャートロプシュ基油のみで構成されていないという条件を満たすものが特に好ましい)。このように潤滑油基油を合成系基油のみで構成されないものとすることで(少なくとも1種の鉱油系基油を含有させることで)、組成物の粘度温度特性の改良により省燃費性能の向上を図ると同時に、潤滑油組成物の蒸発損失をさらに少なくすることが可能である。また、同様の観点で、さらに高い効果が得られることから、前記潤滑油基油としては、その潤滑油基油の構成成分である基油成分として、合成系基油(例えば、フィッシャートロプシュ基油等)を含有(利用)しないものが好ましい。また、本発明において、前記条件(I)~(IV)を満たす基油成分は、経済合理性の観点から、鉱油系基油であることが好ましい。
【0038】
また、前記潤滑油基油(全基油)が、その潤滑油基油を構成する基油成分に鉱油系基油を少なくとも1種含む場合、鉱油系基油の含有量は、潤滑油基油全量基準で87mass%以上100mass%以下であることが好ましく、95mass%以上100mass%以下であることがより好ましい。潤滑油基油中の鉱油系基油の含有量を前記下限以上とすることで、組成物の粘度温度特性の改良により省燃費性能の向上を図ると同時に、潤滑油組成物の蒸発損失をさらに少なくすることが可能となる。
【0039】
また、本発明の内燃機関用潤滑油組成物において、前記潤滑油基油(全基油)の含有量は、内燃機関用潤滑油組成物全量基準(組成物全量基準)で70.0mass%以上95.0mass%以下であることが好ましく、75.3mass%以上90.0mass%以下であることがより好ましく、85.6mass%以上89.9mass%以下であることが特に好ましい。このような潤滑油基油の含有量を前記下限以上とすると、前記下限未満の場合と比較して添加剤の溶解安定性の点でさらに高い効果を得ることができる。他方、潤滑油基油の含有量を前記上限以下とすると、添加剤の適用が許容され、粘度温度特性や清浄安定性等の特性をより容易に用途に応じたものとすることが可能となる。
【0040】
また、本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、前記潤滑油基油とともに粘度指数向上剤を含むものである。ここで「粘度指数向上剤」とは、潤滑油に添加することで、温度変化に伴う潤滑油の粘度変化を低減する機能を有する化合物を意味する。
【0041】
また、本発明においては、前記粘度指数向上剤はポリ(メタ)アクリレート(より好ましくはポリメタクリレート)である必要がある。このように、粘度指数向上剤としてポリ(メタ)アクリレートを利用することで、粘度温度特性を改良し、低温域の粘度を低く維持しながら高温域の粘度を向上することで、省燃費性能をより向上することが可能となる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよび/またはメタクリレートを意味し、「ポリ(メタ)アクリレート」とは、アクリレート単量体単位および/またはメタクリレート単量体単位を含むポリマーを意味する。
【0042】
また、このようなポリ(メタ)アクリレート(PMA)としては、分散型ポリ(メタ)アクリレート、非分散型ポリ(メタ)アクリレート、および櫛型ポリ(メタ)アクリレートのいずれを使用してもよく、特に制限されないが、粘度温度特性を改良し、低温域の粘度を低く維持しながら高温域の粘度を向上することで、省燃費性能を向上する効果が更に高くなるといった観点からは、櫛型ポリ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0043】
ここで、「分散型ポリ(メタ)アクリレート」とは窒素原子を含む官能基を有するポリ(メタ)アクリレート化合物を意味し、「非分散型ポリ(メタ)アクリレート」とは窒素原子を含む官能基を有しないポリ(メタ)アクリレート化合物を意味する。また、前記櫛型ポリ(メタ)アクリレートとしては、いわゆる櫛型構造を有する公知のポリ(メタ)アクリレート系ポリマー(例えば、特開2017-101211号公報に記載されている「櫛型ポリマー」、特開2018-177986号公報に記載されている「櫛形ポリ(メタ)アクリレート」、国際公開第2016/159006号に記載されている「櫛形ポリ(メタ)アクリレート」、特開2017-110196号に記載されている「粘度指数向上剤」、特開2017-110196号に記載されている「(共)重合体(A)」等)を適宜利用できる。なお、このような櫛型ポリ(メタ)アクリレートとしては、例えば、ブタジエンおよびイソプレンを共重合させることにより得られるポリオレフィンの水素化物から誘導されるマクロモノマーを利用できる。
【0044】
また、粘度指数向上剤の重量平均分子量(Mw)は、例えば10,000以上1,000,000以下、好ましくは50,000以上900,000以下、より好ましくは100,000以上800,000以下、さらに好ましくは150,000以上600,000以下である。さらに、前記粘度指数向上剤のMw/Mn(重量平均分子量/数平均分子量)は、例えば2.3以上6.0以下、好ましくは2.5以上5.5以下、より好ましくは3.0以上5.0以下である。Mw/Mnを前記範囲内にすることにより、粘度指数を良好に保つことができる。なお、本明細書において、粘度指数向上剤の重量平均分子量Mwおよび数平均分子量Mnは、それぞれゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で求められる値(ポリスチレン換算により得られた分子量)を意味する。
【0045】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物において、前記粘度指数向上剤の樹脂分換算の含有量が、組成物全量基準で、0.1mass%以上20mass%以下(より好ましくは1.0mass%以上10mass%以下であることがより好ましく、1.5mass%以上3.0mass%以下)であることがより好ましい。このような粘度指数向上剤の樹脂分換算の含有量を前記上限以下とすることで清浄性を維持しながら粘度温度特性を改良することが可能となり、他方、前記下限以上とすることで高温における動粘度を同等に調整する場合に常温域を含む低温における低粘度化を実現して粘度温度特性を改良することが可能となる。なお、ここにいう「粘度指数向上剤の樹脂分換算の含有量」は、粘度指数向上剤を構成する樹脂分の潤滑油組成物中の含有量を意味し、本明細書において「樹脂分」とは、分子量1,000以上のポリマー成分を意味する。
【0046】
また、本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、オレフィンコポリマーを含有しないものであることが好ましい。内燃機関用潤滑油組成物にオレフィンコポリマーを含有させてしまうと、低温領域での動粘度を低くすることができなくなり、省燃費性が低下する傾向にある。
【0047】
また、本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、前記潤滑油基油および粘度指数向上剤とともに、内燃機関用潤滑油組成物に利用可能な添加剤を適宜含有していてもよい。このような添加剤としては、内燃機関用潤滑油組成物に利用されている公知の添加剤を適宜利用でき、特に制限されるものではないが、中でも、金属系清浄剤、モリブデン系摩擦調整剤、無灰摩擦調整剤、酸化防止剤、摩耗防止剤、分散剤、流動点降下剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤が好ましく、粘度指数向上剤、金属系清浄剤、モリブデン系摩擦調整剤、無灰摩擦調整剤、酸化防止剤、摩耗防止剤、分散剤がより好ましい(なお、ここに挙げる添加剤は好適な一例であって、利用可能な添加剤は、これに制限されるものではない)。このような添加剤は1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて利用できる。
【0048】
また、本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、金属系清浄剤を含むものであることが好ましい。このような金属系清浄剤としては、例えば、カルシウム系清浄剤、マグネシウム系清浄剤、および/またはバリウム系清浄剤を用いることができる。これらの清浄剤は、ホウ酸、ホウ酸塩、炭酸、または炭酸塩により過塩基化されていてもよい。金属系清浄剤としては、サリシレート基を有する金属系清浄剤(サリシレート構造を有する金属系清浄剤)、スルホネート基を有する金属系清浄剤、またはフェネート基を有する金属系清浄剤を使用することができる。サリシレート基を有する金属系清浄剤(サリシレート構造を有する金属系清浄剤)を使用することが好ましい。
【0049】
また、このような金属系清浄剤としては、炭酸マグネシウムを有するものを含有することが好ましい。このような金属系清浄剤としては、例えば、炭酸マグネシウムおよびサリシレート基を有する金属系清浄剤や、炭酸マグネシウムおよびスルホネート基を有する金属系清浄剤を好適なものとして挙げることができる。このような金属系清浄剤は1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて利用(例えば、炭酸マグネシウムを有するものと、マグネシウム以外の金属を含有する金属系清浄剤と併用する等して利用)できる。
【0050】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物が金属系清浄剤を含む場合、金属系清浄剤に由来する金属量の具体的な範囲としては、組成物全量基準で、100massppm(質量ppm)以上2200massppm以下(より好ましくは453massppm以上1901massppm以下、さらに好ましくは1400massppm以上1901massppm以下)であることが好ましい。本明細書において、別途指定のない限り、油中のカルシウム、マグネシウム、硫黄、亜鉛、ホウ素、リンおよびモリブデンの各元素の含有量は、JIS K0116に準拠して誘導結合プラズマ発光分光分析法(強度比法(内標準法))により測定されるものとする。金属系清浄剤に由来する金属量を前記上限以下とすることにより、前記上限を超える場合と比較して硫酸灰分を低減し、さらに摩擦係数の値も低減することができる。
【0051】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物において用いられる金属系清浄剤の塩基価(過塩素酸法)の範囲としては、好ましくは10mgKOH/g以上650mgKOH/g以下、より好ましくは190mgKOH/g以上400mgKOH/g以下である。なお、本明細書において、金属系清浄剤の塩基価(過塩素酸法)は、JIS K 2501:2003の9により測定される値である。
【0052】
また、本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、モリブデン系摩擦調整剤を含むものであることが好ましい。このようなモリブデン系摩擦調整剤としては、特に制限されず、公知のものを適宜利用でき、モリブデンジチオカーバメート(以下、場合により単に「MoDTC」と称することがある。)や、モリブデン酸ジアルキルアミン塩等を好適に利用できる。また、このようなモリブデン系摩擦調整剤は、MoDTCを含むことが好ましく、MoDTCであることが特に好ましい。このようなモリブデン系摩擦調整剤を利用することにより、摩擦係数を低減させることが可能となる。このようなモリブデン系摩擦調整剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の割合で組み合わせて使用してもよい。
【0053】
また、前記MoDTCとしては、例えば、下記式(A)で表される化合物を用いることができる。
【0054】
【0055】
前記式(A)中、R1~R4は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、炭素数2~24のアルキル基または炭素数6~24の(アルキル)アリール基、好ましくは炭素数4~13のアルキル基または炭素数10~15の(アルキル)アリール基である。アルキル基は第1級アルキル基、第2級アルキル基、または第3級アルキル基のいずれでもよく、また直鎖でも分枝状でもよい。なお「(アルキル)アリール基」は「アリール基またはアルキルアリール基」を意味する。アルキルアリール基において、芳香環におけるアルキル基の置換位置は任意である。X1~X4は、それぞれ独立に硫黄原子または酸素原子であり、X1~X4のうち少なくとも1つは硫黄原子である。
【0056】
MoDTC以外のモリブデン系摩擦調整剤としては、例えば、モリブデンジチオホスフェート、酸化モリブデン、モリブデン酸、アンモニウム塩等のモリブデン酸塩、二硫化モリブデン、硫化モリブデン、硫化モリブデン酸、硫黄を含有するモリブデン系摩擦調整剤等を挙げることができる。MoDTC以外のモリブデン系摩擦調整剤としては、モリブデン酸ジアルキルアミン塩を用いることが好ましい。
【0057】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物がモリブデン系摩擦調整剤を含む場合、モリブデン系摩擦調整剤由来のモリブデンの量が、組成物全量基準で、50massppm以上2000massppm以下(より好ましくは300massppm以上1800massppm以下、さらに好ましくは500massppm以上1000massppm以下、特に好ましくは600massppm以上850massppm以下)であることが好ましい。モリブデン含有量が前記下限以上であることにより、前記下限未満の場合と比較して省燃費性能を改善することができる。また、モリブデン含有量が前記上限以下であることにより、前記上限を超えた場合と比較して潤滑油組成物の貯蔵安定性を高めることができる。油中のモリブデンの量は、JPI-5S-62に準拠して誘導結合プラズマ発光分光分析法(強度比法(内標準法))により測定されるものとする。
【0058】
また、本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、無灰摩擦調整剤を含むものであることが好ましい。本明細書において、無灰摩擦調整剤とは、金属元素を含まない摩擦調整剤を意味する。このような無灰摩擦調整剤を含有させることによって、組成物の摩擦係数を低減することができる。このような無灰摩擦調整剤としては特に制限されず、公知のものを適宜利用でき、例えば、窒素を含有する無灰摩擦調整剤や、ジチオカーバメート、亜鉛ジチオカーバメート、ジサルファイド類、ポリサルファイド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類からなる無灰摩擦調整剤を適宜利用できる。また、このような無灰摩擦調整剤は、1種を単独で使用してもよく、あるいは、2種以上を任意の割合で組み合わせて使用してもよい。また、他の種類の無灰摩擦調整剤を適宜含んでもよい。
【0059】
また、前記窒素を含有する無灰摩擦調整剤としては、炭素数12~30のアルキル基、アルケニル基、またはアシル基を有する、アミノ酸化合物、アミン化合物、ウレア化合物、脂肪酸エステル化合物、およびそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0060】
このような窒素を含有する無灰摩擦調整剤として好適なアミノ酸化合物としては、下記式(B)に示す化合物を挙げることができる。
【0061】
【0062】
ここで、式(B)中のR10は炭素数12~30のアルキル基、アルケニル基、またはアシル基であり、R11は炭素数1~4のアルキル基または水素であり、R12は水素または炭素数1~10のアルキル基である。このアルキル基は直鎖状または分岐状または環状構造を含むものでもよく、炭素原子はヘテロ原子で置換されていてもよく、水酸基、カルボキシル基、またはアミノ基などの官能基で修飾されていてもよい。R13は炭素数1~4のアルキル基または水素であり、nは0または1であり、Yは活性水素を有する官能基、当該官能基を有する炭化水素、当該官能基の金属塩もしくはエタノールアミン塩、またはメトキシ基である。式(B)中のYの活性水素を有する官能基としては、水酸基、またはアミノ基などが好適である。
【0063】
また、このような無灰摩擦調整剤としては、摩擦特性効果の持続性の向上などの点から、R10が炭素数18のアシル基(オレオイル基)、R11がメチル基、R12が水素、Yが水酸基、nが0であるオレオイルサルコシン酸が好ましい。
【0064】
また、前記窒素を含有する無灰摩擦調整剤として好適なアミン化合物としては、下記式(C)に示す化合物を挙げることができる。
【0065】
R20-(N-R21)-R22 (C)
(R20は、炭素数12~30のアルキル基、アルケニル基、またはアシル基であり、R21、R22は、それぞれ独立して、水素、アルキル基、アルケニル基、アシル基またはヒドロキシアルキル基である)
式(C)で表されるアミン化合物としては、例えば、オレイルアミン、ステアリルアミン等が挙げられ、オレイルアミンが好ましい。また、式(C)で表されるアミン化合物としては、2,2’-(オクタデカン-1-イルイミノ)ジエタノールも好適なものとして挙げることができる。
【0066】
また、前記窒素を含有する無灰摩擦調整剤として好適なウレア化合物としては、下記式(D)で表される構造を有する化合物が好ましい。
【0067】
R30-NH-CO-NH2 (D)
(R30は、炭素数12~30のアルキル基、アルケニル基、またはアシル基である)
このようなウレア化合物は、好ましくは、脂肪族ウレア化合物であり、より好ましくはオクタデセニル尿素である。
【0068】
前記窒素を含有する無灰摩擦調整剤として好適な脂肪酸エステル化合物は、脂肪酸のカルボキシル基とアルコールとがエステル結合して形成される化合物であればよく、特に制限されないが、直鎖状または分岐状の脂肪酸と、脂肪族1価アルコールまたは脂肪族多価アルコールとのエステルを好適なものとして例示できる。前記脂肪酸は、飽和脂肪酸であってもよく、あるいは、不飽和脂肪酸であってもよい。これらの脂肪酸エステル化合物の炭素数は、例えば、7~31であってもよい。前記脂肪酸エステル化合物としては、好ましくは、脂肪酸と脂肪族多価アルコールとのエステルであり、より好ましくは直鎖状の脂肪酸と脂肪族多価アルコールとのエステルであり、さらに好ましくは直鎖状の不飽和脂肪酸と脂肪族多価アルコールとのエステルである。これらの脂肪族多価アルコールのエステルは、完全エステルであっても部分エステルであってもよく、好ましくは部分エステルである。これらの脂肪族多価アルコールのエステルとしては、グリセリンモノオレエートが好ましい。
【0069】
前記窒素を含有する無灰摩擦調整剤として好適な前述の化合物が有する、炭素数12~30のアルキル基、アルケニル基、またはアシル基に関して、これらの基の炭素数は、好ましくは14~24、より好ましくは16~20、さらに好ましくは18である。このような炭素数12~30のアルキル基、アルケニル基、またはアシル基は、最も好ましくは、オクタデシル基、9-オクタデセニル基、またはオレオイル基である。アルキル基、アルケニル基、またはアシル基は、直鎖状でも分枝状でもよいが、直鎖状であることが好ましい。
【0070】
また、このような無灰摩擦調整剤としては、オレオイルサルコシン酸、オレイルプロパンジアミン、オレイン酸、オレイルアミン、グリセロールモノオレイト、オレイルジエタノールアミン、N,N-ジエタノールオレイン酸アミド、ベンゾトリアゾール誘導体、硫化オレフィンを好適なものとして挙げることができ、中でも、オレオイルサルコシン酸、オレイルプロパンジアミン、オレイン酸、オレイルアミン、グリセロールモノオレイト、オレイルジエタノールアミン、N,N-ジエタノールオレイン酸アミド、ベンゾトリアゾール誘導体、硫化オレフィンがより好ましく、オレオイルサルコシン酸、オレイルプロパンジアミン、オレイン酸、N,N-ジエタノールオレイン酸アミドがさらに好ましく、オレオイルサルコシン酸が特に好ましい。
【0071】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物が無灰摩擦調整剤を含む場合、無灰摩擦調整剤の含有量は、組成物全量基準で、好ましくは0.001mass%以上5.0mass%以下であり、より好ましくは0.01mass%以上1.0mass%以下であり、さらに好ましくは0.1mass%以上0.5mass%以下である。
【0072】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物が無灰摩擦調整剤を含む場合であってかつ無灰摩擦調整剤が窒素を含有する無灰摩擦調整剤である場合、その無灰摩擦調整剤に由来する窒素の含有量は、10massppm以上500massppm以下(より好ましくは50massppm以上400massppm以下、さらに好ましくは100massppm以上300massppm以下)であることが好ましい。無灰摩擦調整剤由来の窒素の量を10massppm以上とすることで、摩擦係数を低減することが可能となる。
【0073】
また、本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、酸化防止剤を含むものであることが好ましい。このような酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤やアミン系無灰酸化防止剤等の公知の酸化防止剤を使用可能である。なお、このような酸化防止剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の割合で組み合わせて使用してもよい。
【0074】
このようなフェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、オクチル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートなどのフェノール系酸化防止剤などを挙げることができる。
【0075】
また、アミン系無灰酸化防止剤は、内燃機関用潤滑油組成物の分野において使用されているものを用いることができる。アミン系無灰酸化防止剤としては、以下の一般式(E)の構造を有するアルキルジフェニルアミンが好ましい。
【0076】
【0077】
式(E)中、R60およびR61は同一でも異なってもよく、各々水素原子または炭素数1~16のアルキル基を示す。ただし、R60、R61が全て同時に水素にはならない。R60およびR61で表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、およびヘキサデシル基等(これらのアルキル基は直鎖状でも分岐状でも良い。)が挙げられるが、中でも炭素数9の直鎖アルキル基であるノニル基が好ましい。
【0078】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物が酸化防止剤を含む場合、酸化防止剤の含有量は、組成物全量基準で、0.1mass%以上5.0mass%以下(より好ましくは1.5mass%以上3.0mass%以下)であることが好ましい。
【0079】
また、本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、摩耗防止剤を含むものであることが好ましい。このような摩耗防止剤としては、特に限定されず、潤滑油組成物に、摩耗防止剤として用いられている公知の化合物を用いることができる。摩耗防止剤としては、例えば、リン系、硫黄-リン系の摩耗防止剤等が使用できる。前記摩耗防止剤としては、亜リン酸エステル類、チオ亜リン酸エステル類、ジチオ亜リン酸エステル類、トリチオ亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、ジチオリン酸エステル類、トリチオリン酸エステル類、これらのアミン塩、これらの金属塩、これらの誘導体、等が挙げられる。このような摩耗防止剤は1種を単独で用いてもよく、あるいは、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0080】
また、前記摩耗防止剤としては、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)またはジアルキルリン酸亜鉛が好ましい。このようなジアルキルジチオリン酸亜鉛としては、下記式(F)に示す化合物が好ましい。
【0081】
【0082】
前記一般式(F)中のR80~R83は、それぞれ独立に、炭素数1~24の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基である。このアルキル基は、第1級でも、第2級でも、第3級であってもよい。ジアルキルジチオリン酸亜鉛としては、第1級アルキル基を有するジチオリン酸亜鉛(プライマリーZnDTP)または第2級アルキル基を含有するジチオリン酸亜鉛(セカンダリーZnDTP)が好ましく、特には、第2級のアルキル基のジチオリン酸亜鉛を主成分とするものが、耐摩耗性を高めるため好ましい。また、プライマリーZnDTPと、セカンダリーZnDTPとを組み合わせて利用する場合、これらの質量比([プライマリーZnDTP]:[セカンダリーZnDTP])は80:20~10:90であることが好ましく、30:70~20:80であることがより好ましい。
【0083】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物が摩耗防止剤を含む場合、摩耗防止剤の含有量は、組成物全量基準で、0.1mass%以上1.6mass%以下(より好ましくは0.9mass%以上1.5mass%以下)であることが好ましい。また、本発明の内燃機関用潤滑油組成物が、リンを含む化合物からなる摩耗防止剤を含む場合、摩耗防止剤由来のリンの量が、組成物全量基準で、10massppm以上900massppm以下(より好ましくは600massppm以上800massppm以下、さらに好ましくは750massppm以上785massppm以下)であることが好ましい。
【0084】
また、本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、分散剤を含むものであることが好ましい。このような分散剤としては、特に制限されず、公知の無灰分散剤(例えば、特開2022-158121号公報、特開2003-155492号公報、特開2020-76004号公報、国際公開2013/147162号等参照)を適宜利用でき、例えば、コハク酸イミドおよびその誘導体、またはベンジルアミンなどを例示できる。また、このようなコハク酸イミドとしては、ホウ素を含まないコハク酸イミドまたはホウ素を含むコハク酸イミドのいずれでもよいが、ホウ素を含まないコハク酸イミドであることが好ましい。ホウ素を含まないコハク酸イミドを使用することにより、ホウ素の増量による硫酸灰分の上昇を防止することができる。なお、ホウ素を含まないコハク酸イミドとは、ホウ酸等によりアミノ基および/またはイミノ基の一部または全部が中和またはアミド化されていないコハク酸イミドをいい、例えば、ホウ素の含量が、コハク酸イミドを基準として、0.1mass%以下のものである。なお、このような無灰分散剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の割合で組み合わせて使用してもよい。
【0085】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物が分散剤を含む場合、分散剤の含有量は、組成物全量基準で、2.0mass%以上7.0mass%以下(より好ましくは2.8mass%以上3.6mass%以下)であることが好ましい。本発明の内燃機関用潤滑油組成物が分散剤を含む場合であって前記分散剤がコハク酸イミドまたはその誘導体である場合、その分散剤由来の窒素の量は、潤滑油組成物全量基準で、350massppm以上2000massppm以下(より好ましくは370massppm以上980massppm以下、さらに好ましくは400massppm以上600massppm以下)であることが好ましい。コハク酸イミドまたはその誘導体由来の窒素の量を前記範囲内にすることにより、低い硫酸灰分および清浄性を確保することができる。
【0086】
また、本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、流動点降下剤を含んでいてもよい。このような流動点降下剤としては、公知のものを適宜利用でき、特に制限されるものではないが、例えば、ポリメタクリレート(PMA)、エチレン-酢酸ビニルコポリマー(EVA)を用いることが好ましい。また、前記流動点降下剤として利用するPMAやEVA等のポリマーとしては、流動点降下作用およびせん断安定性の観点から、重量平均分子量が10,000~200,000のものが好ましい。流動点降下剤は1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて利用してもよい。また、流動点降下剤を利用する場合、その含有量は前記潤滑油組成物の全量を基準として0.01~1.0mass%(より好ましくは0.03~0.6mass%)であることが好ましい。
【0087】
また、本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、抗乳化剤を含んでいてもよい。このような抗乳化剤としては、例えばポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等の公知の抗乳化剤を用いることができる。また、抗乳化剤は1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて利用してもよい。潤滑油組成物が抗乳化剤を利用する場合、その含有量は、組成物全量基準で、0.005~5.0mass%であることが好ましい。
【0088】
また、本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、金属不活性化剤を含んでいてもよい。このような金属不活性化剤としては特に制限されないが、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾールまたはその誘導体、トリルトリアゾールまたはその誘導体、1,3,4-チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4-チアジアゾリル-2,5-ビスジアルキルジチオカーバメート、2-(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、β-(o-カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。金属不活性化剤は1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて利用してもよい。また、金属不活性化剤を利用する場合、その含有量は組成物全量基準で0.01~0.5mass%(より好ましくは0.02~0.3mass%)であることが好ましい。
【0089】
さらに、本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、消泡剤を含んでいてもよい。このような消泡剤としては、例えば、シリコーン、フルオロシリコーン、およびフルオロアルキルエーテル等の公知の消泡剤を用いることができる。また、消泡剤を利用する場合、その含有量は、0~0.5mass%(より好ましくは0~0.1mass%)であることが好ましい。なお、前記含有量の下限は特に制限されるものではないが、一の実施形態において0.0001mass%以上であり得る。
【0090】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物において、組成物全量に対するカルシウム、マグネシウム、硫黄、ホウ素および窒素の含有量はそれぞれ、以下に記載する数値範囲内にあることが好ましい。すなわち、カルシウムの含有量は、低回転高負荷域で発生する過早着火の防止性と清浄性維持の両立の観点から、組成物全量基準で、好ましくは10massppm以上1800massppm以下であり、より好ましくは1000massppm以上1540massppm以下である。また、マグネシウムの含有量は、清浄性維持および摩擦低減性能維持の観点から、組成物全量基準で、好ましくは10massppm以上1600massppm以下であり、より好ましくは200massppm以上501massppm以下である硫黄の含有量は、清浄性維持と耐摩耗性能維持の観点から、組成物全量基準で、好ましくは100massppm以上4500massppm以下であり、より好ましくは800massppm以上2600massppm以下である。ホウ素の含有量は、省燃費性能維持の観点から、組成物全量基準で、好ましくは0massppm以上900massppm以下であり、より好ましくは0massppm以上600massppm以下である。窒素の含有量は、組成物全量基準で、好ましくは800massppm以上であり、より好ましくは900massppm以上1650massppm以下である。なお、カルシウム、マグネシウム、硫黄、ホウ素の含有量は、JIS K0116に準拠して誘導結合プラズマ発光分光分析法(強度比法(内標準法))により測定された値を採用し、窒素の含有量(massppm)としては、JIS K2609に準拠して測定した値を採用している。
【0091】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、100℃における動粘度が4.5mm2/s以上9.3mm2/s以下(より好ましくは4.8mm2/s以上7.8mm2/s以下)のものが好ましい。また、本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、40℃における動粘度が26.0mm2/s以下(より好ましくは16.0mm2/s以上23.0mm2/s以下、さらに好ましくは19.0mm2/s以上22.0mm2/s以下)のものが好ましい。潤滑油組成物の動粘度を前記上限以下とすることにより、優れた省燃費性能を得ることができる。また、潤滑油組成物の動粘度を前記下限以上とすることにより、潤滑箇所での油膜形成性に優れ、潤滑油組成物の蒸発損失をさらに少なくすることができる。
【0092】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、粘度指数が120以上450以下(より好ましくは138以上380以下)のものが好ましい。潤滑油組成物の粘度指数が前記下限値以上であることにより、省燃費性能を向上させることができる。また、潤滑油組成物の粘度指数が前記上限値以下とすることで、清浄性を向上させることができる。なお、本明細書において、「粘度指数」はJIS K 2283-1993に準拠して測定された値を採用する。
【0093】
また、本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、-35℃でのCCS粘度は3500mPa・s以下(より好ましくは2800mPa・s以下、さらに好ましくは2000mPa・s以下)であるものが好ましい。このような-35℃でのCCS粘度が前記上限を超えると、常温域以下の低温環境下における内燃機関の稼働において粘性抵抗が過剰となり、省燃費性能を損なう傾向にある。さらに、本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、-40℃でのCCS粘度は7000mPa・s以下(より好ましくは6200mPa・s以下、さらに好ましくは5700mPa・s以下、最も好ましくは4000mPa・s以下)であるものが好ましい。このような-40℃でのCCS粘度が前記上限を超えると、常温域以下の低温環境下における粘性抵抗による損失が増加する傾向にあるとともに、低温域における粘度の温度に対する変化が過剰となり、内燃機関の稼働に伴い油温が上昇する過程における油膜および送液の状態の変化が過剰となることで安定した稼働を損なう傾向にある。なお、-35℃でのCCS粘度(CCS粘度)としては、ASTM D5293に準拠して試験温度-35℃にて測定した値を採用し、-40℃のCCS粘度としては試験温度のみを-40℃に変更した以外はASTM D5293に基づく測定法と同様の方法を採用して測定した値を採用する。
【0094】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、150℃におけるHTHS粘度は1.7mPa・s以上2.8mPa・s以下(より好ましくは2.3mPa・s以上2.5mPa・s以下)であることが好ましい。150℃におけるHTHS粘度を前記上限以下とすることにより、良好な省燃費性能を得ることができる。また、150℃におけるHTHS粘度を前記下限以上とすることにより、良好な潤滑性を得ることができる。
【0095】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、100℃におけるHTHS粘度は3.0mPa・s以上5.0mPa・s以下(より好ましくは3.6mPa・s以上4.7mPa・s以下)であることが好ましい。また、本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、80℃におけるHTHS粘度は4.6mPa・s以上6.7mPa・s以下(より好ましくは5.0mPa・s以上6.4mPa・s以下)であることが好ましい。なお、150℃または100℃におけるHTHS粘度はそれぞれ、ASTM D 4683に規定される各温度(150℃または100℃)での高温高せん断粘度を示し、80℃におけるHTHS粘度は試験温度のみを80℃に変更した以外はASTM D 4683に規定される測定方法と同様の方法を採用して測定された高温高せん断粘度を示す。
【0096】
また、本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、SAE(Society of Automotive Engineers:米国自動車技術者協会)が定めたJ300規格の粘度グレード(以下、単に「SAE粘度グレード」と称する。)において、0W-8、0W-12、0W-16および0W-20のうちのいずれかに分類されるものであることが好ましく、0W-16および0W-20のうちのいずれかに分類されるものであることが特に好ましい。
【0097】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、硫酸灰分が1.00mass%以下(より好ましくは0.90mass%以下)であることが好ましい。ここにおいて「硫酸灰分」とは、ASTM D874に準拠して測定される硫酸灰分を意味する。なお、内燃機関用潤滑油組成物においては金属の量が増加すると硫酸灰分が大きくなり、硫酸灰分が大きくなるとフィルタの寿命が短くなる傾向にある。かかる観点から、硫酸灰分は前記上限以下とすることが望ましい。
【0098】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、ASTM D5800に準拠して250℃、1時間の条件でNOACK蒸発性試験を行って測定した蒸発損失量(NOACK(250℃、1時間)蒸発損失量)が10.0~30.0mass%(より好ましくは12.0~30.0mass%、さらに好ましくは16.0~30.0mass%、特に好ましくは21.0~29.5mass%)であることが好ましい。NOACK(250℃、1時間)蒸発損失量を前記上限以下とすることで、低蒸発性の点でさらに高い効果が得られる傾向にあり、他方、前記下限以上とすることで、省燃費性能向上の点でさらに高い効果が得られる傾向にある。
【0099】
また、本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、ASTM D5800に規定されている試験法に基づいて150℃の温度条件でNOACK蒸発性試験を行い、4時間経過する毎に一旦試験を停止して同試験法に定められた冷却工程を施した後、質量を確認し、試験を再開する方式で、150℃、4時間の試験を3回行い、試験時間が合計で12時間となる3回目のNOACK蒸発性試験(12時間後)での蒸発損失量(mass%)と、試験時間が4時間となる1回目のNOACK蒸発性試験(4時間後)での蒸発損失量(mass%)とから、試験時間4時間から12時間までの間のNOACK蒸発損失量の単位時間当たりの変化量(傾き)を求めた場合に、その変化量が0.45mass%/h以下(より好ましくは0.35mass%/h以下)であることが好ましい。このようなNOACK蒸発損失量の単位時間当たりの変化量を前記上限以下とすることで、蒸発性の低減をさらに高い水準のものとすることが可能となる。
【0100】
本発明にかかる内燃機関用潤滑油組成物は、沸点が330℃以下となる成分の含有量が組成物全量基準で4.6mass%以下(さらに好ましくは2.9mass%以下)であることがより好ましい。このような沸点が330℃以下となる成分の含有量を前記上限以下とすることで、使用時の蒸発損失をさらに低減させることが可能となり、低蒸発性の点でさらに高い効果を得ることが可能となる。なお、このような沸点が330℃以下となる成分の含有量は、潤滑油組成物に対して、前記「ガスクロ蒸留試験(A)」を行って、得られるガスクロマトグラムから潤滑油基油の全量に対する、沸点が330℃以下となる成分の含有割合を算出することで求めることができる。
【0101】
本発明にかかる内燃機関用潤滑油組成物は、沸点が310℃以下となる成分の含有量が組成物全量基準で3.2mass%以下(さらに好ましくは2.0mass%以下)であることがより好ましい。このような沸点が310℃以下となる成分の含有量を前記上限以下とすることで、使用時の蒸発損失をさらに低減させることが可能となり、低蒸発性の点でさらに高い効果を得ることが可能となる。なお、このような沸点が310℃以下となる成分の含有量は、潤滑油組成物に対して、前記「ガスクロ蒸留試験(A)」を行って、得られるガスクロマトグラムから潤滑油基油の全量に対する、沸点が310℃以下となる成分の含有割合を算出することで求めることができる。
【0102】
また、本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、内燃機関を備える装置に利用することが可能であり、特に制限されないが、中でも、GPF(ガソリン・パティキュレート・フィルター)を備える自動車エンジン用の潤滑油組成物、内燃機関および電動機を備えるハイブリッド自動車用の潤滑油組成物として好適に利用可能である。
【0103】
また、本発明の内燃機関用潤滑油組成物を製造するための方法としては特に制限されず、前記本発明の内燃機関用潤滑油組成物を得ることが可能となるように(前記条件を満たすように)、含有させる各成分を適宜選択して混合することにより調製すればよい。
【実施例0104】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0105】
(各実施例等で利用した成分について)
先ず、各実施例等において利用した基油成分の略称、種類および特性を表1に示し、各実施例等において利用した添加剤の略称、種類および特性等を表2に示す。なお、以下に記載の実施例等おいて、各成分を場合により表1~2に記載した略称により表現する。また、表1に示す基油成分の「330℃以下成分含有量」は、前述の「ガスクロ蒸留試験(A)」と同様の試験により求められた、その基油中の沸点が330℃以下の成分の含有量を示す。また、表1に示す「40℃動粘度」および「100℃動粘度」はASTM D-445に準拠して測定された値である。さらに、表1に示す「NOACK(250℃、1時間)蒸発損失量」はASTM D5800に準拠した250℃、1時間の条件のNOACK蒸発性試験により求められる各基油の蒸発損失量を示す。ここで、NOACK(250℃、1時間)蒸発損失量が60mass%を超えるものについては、直接測定することができないため、その基油を、NOACK(250℃、1時間)蒸発損失量が既知の他の基油に対して、それぞれ異なる比率で含有させた混合物からなる試料を3点以上準備して、各試料のNOACK(250℃、1時間)蒸発損失量を求めて、その測定値から近似直線を得て算出することにより求められる推定値を採用した。なお、表1に示す基油成分(3)および基油成分(7)~(10)が、エステル基油以外の基油からなり(鉱油系基油からなり)かつ前述の条件(I)~(IV)を全て満たす基油成分となる。
【0106】
【0107】
【0108】
(実施例1~40および比較例1~11)
表3~7に示す組成となるように、前述の各成分を利用して、実施例1~40および比較例1~11の潤滑油組成物をそれぞれ調製した。なお、表3~7中の「潤滑油基油中の基油成分の含有量」および「潤滑油組成物中の添加剤の含有量」の項目に関して空欄部は、その成分を利用していないことを示す。また、表3~7中の「潤滑油基油中の基油成分の含有量」、「潤滑油基油の特性」および「潤滑油組成物中の添加剤の含有量」の項目に関して、「mass%」は潤滑油基油の全量に対する質量基準の含有量(質量%)を表し、「inmass%」は潤滑油組成物の全量に対する質量基準の含有量(質量%)を表す。なお、表3~7中の粘度指数向上剤(PMA系VI(1)~(5)およびOCP系VI)の含有量に関する数値(単位:inmass%)は、その粘度指数向上剤を構成する樹脂分(分子量1,000以上のポリマー成分)の組成物全量基準の含有量(粘度指数向上剤の樹脂分換算の含有量)を示す。さらに、表3~7には、JIS K0116に準拠して誘導結合プラズマ発光分光分析法(強度比法(内標準法))により測定した、組成物中の各元素(Ca、Mg、Mo、P、Zn、SおよびB)の含有量(質量ppm:massppm)およびJIS K2609に準拠して測定した窒素の含有量(質量ppm:massppm)を併せて示す。
【0109】
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
[各実施例で得られた潤滑油組成物の特性の評価]
<ガスクロ蒸留試験>
各実施例等で得られた潤滑油組成物に対して、前述の「ガスクロ蒸留試験(A)」と同様の試験を行って、ガスクロマトグラムを求めた。そして、かかるガスクロマトグラムから、沸点が240℃未満の成分の含有量、沸点が{(i-1)×10}℃以上かつ(i×10)℃未満の範囲(ただし、iは25~60の整数として、全ての数値についてそれぞれ測定を行った)にある成分の含有量(単位:mass%:組成物全量基準の質量比)をそれぞれ求めた。また、前記ガスクロマトグラムから、潤滑油組成物中の沸点が310℃以下の成分の含有量(合計量)および沸点が330℃以下の成分の含有量(合計量)を求めた。ガスクロ蒸留試験(A)の測定結果として、沸点が{(i-1)×10}℃以上かつ(i×10)℃未満の範囲にある成分(ただし、iは25~60の整数)の含有量(単位:mass%)を表8~11に示し、沸点が310℃以下の成分の含有量(合計量)および沸点が330℃以下の成分の含有量(合計量)を表12~15に示す。ただし、測定された含有量が0.01mass%未満となる成分はいずれも、試験精度(試験誤差)を考慮して含有量が0であるものとみなし、表8~11において0.00と表記する。なお、測定を行った潤滑油組成物はいずれも、沸点が240℃未満の成分の含有量は0.00mass%であった。
【0115】
<動粘度および粘度指数の測定>
各実施例等で得られた潤滑油組成物について、40℃における動粘度(40℃動粘度)および100℃における動粘度(100℃動粘度)をそれぞれASTM D-445に準拠して測定した。また、各実施例等で得られた潤滑油組成物について、「粘度指数」をJIS K 2283-1993に準拠した。得られた結果を表12~15に示す。なお、40℃動粘度が26.0mm2/s以下である場合には、低温領域における動粘度が十分に低いものであると評価できる。
【0116】
<高温高剪断粘度(HTHS粘度)の測定>
各実施例等で得られた潤滑油組成物について、150℃、100℃、80℃の各温度における高温高剪断粘度(HTHS粘度)を測定した。なお、150℃または100℃におけるHTHS粘度はそれぞれ、ASTM D 4683に規定される各温度(150℃または100℃)での高温高せん断粘度を示し、80℃におけるHTHS粘度は試験温度のみを80℃に変更した以外はASTM D 4683に規定される測定方法と同様の方法を採用して測定された高温高せん断粘度を示す。得られた結果を表12~15に示す。
【0117】
<低温クランキング(CCS)粘度の測定方法>
各実施例等で得られた潤滑油組成物について、ASTM D5293に準拠して-35℃におけるCCS粘度を測定するとともに、温度条件のみを-40℃に変更した以外はASTM D5293に準拠したCCS粘度の測定方法と同様の方法を採用することにより-40℃におけるCCS粘度を測定した。また、かかる測定結果を利用して、-35℃から-40℃までの温度変化量に対するCCS粘度の変化量(1℃あたりのCCS粘度の変化量(1℃低くなるごとの増加量)と、CCS粘度の比([-40℃におけるCCS粘度]/[-35℃におけるCCS粘度])を併せて求めた。得られた結果を表12~15に示す。
【0118】
<酸価、塩基価(塩酸法)および塩基価(過塩素酸法)の測定>
各実施例等で得られた潤滑油組成物について、JIS K2501:2003に準拠して、酸価、塩基価(塩酸法)および塩基価(過塩素酸法)をそれぞれ測定した。得られた結果を表12~15に示す。
【0119】
<USV粘度の測定>
各実施例等で得られた潤滑油組成物について、40℃、60℃の各温度において、PCS Instruments社製のUSV粘度計を用いて、剪断速度1×106/sの条件でUSV粘度を測定した。得られた結果を表12~15に示す。
【0120】
<硫酸灰分の測定>
各実施例等で得られた潤滑油組成物について、JIS K2272に準拠して、硫酸灰分(mass%)を測定した。得られた結果を表12~15に示す。
【0121】
<NOACK蒸発損失量の測定>
各実施例等で得られた潤滑油組成物について、NOACK蒸発損失量を以下のようにして求めた。すなわち、先ず、各組成物のサンプルに対して、温度条件を150℃に変更するとともに試験時間を4時間に変更した以外は、ASTM D5800に規定されているNOACK蒸発性試験と同様の試験をそれぞれ3回行った。このような3回の試験は、試験時間が4時間経過する毎に一旦試験を停止して同試験法(ASTM D5800に規定されているNOACK蒸発性試験)に定められた冷却工程を施した後、質量を確認し、試験を再開する方式で行った。このようにして、各サンプルに対して、それぞれ150℃、4時間の条件を採用するNOACK蒸発性試験を間欠的に(4時間ごとに一度冷却工程を施し、質量を測定して再開する方式で)3回行った。そして、試験時間が合計で12時間となる3回目のNOACK蒸発性試験(12時間後)でのNOACK(150℃、12時間)蒸発損失量(mass%)と、試験時間が4時間の1回目のNOACK蒸発性試験(4時間後)でのNOACK(150℃、4時間)蒸発損失量(mass%)とをそれぞれ求めるとともに、試験時間4時間から12時間までの間の単位時間当たりのNOACK蒸発損失量の変化量(以下、場合により「150℃におけるNOACKのスロープ」と称する。単位:mass%/h)を求めた。なお、150℃におけるNOACKのスロープが0.45mass%/h以下となる場合には、蒸発損失が急激に起こることなく、低蒸発性のものであると評価できる。得られた結果を表12~15に示す。また、各実施例等で得られた潤滑油組成物について、上記試験とは別に、250℃、1時間の条件でASTM D5800に規定されているNOACK蒸発性試験を行い、潤滑油組成物の蒸発損失量(mass%)を求めた。得られた結果を表12~15に示す。
【0122】
<ISOT試験による酸化劣化油の特性評価>
各実施例等で得られた潤滑油組成物について、先ず、未使用のサンプル(新油)を、JIS K2514-1に規定されているISOT法(Indiana Stirring Oxidation Test)により、温度165℃、試験時間168時間の条件で酸化処理して、酸化劣化油を得た。次いで、かかるISOT法による処理後の酸化劣化油を利用して、40℃動粘度、酸価、塩基価(塩酸法)および塩基価(過塩素酸法)をそれぞれ前述の方法と同様の方法で測定した。得られた結果として、新油の40℃動粘度に対するISOT後の40℃動粘度の増加率(%)、ISOT後の酸価、ISOT後の塩基価(塩酸法)、ISOT後の塩基価(過塩素酸法)およびISOT後の酸価の増加量をそれぞれ表12~15に示す。
【0123】
<ホットチューブ試験による評価(高温清浄性の評価)>
各実施例等で得られた潤滑油組成物について、JPI-5S-55-99に準拠して、サンプル量5mL、試験温度280℃、試験時間16時間の条件でホットチューブ試験(HTT)を行い、高温清浄性を評価した。なお、HTTの評点は最大10点、最低0点であり、評点が高いほど高温清浄性が高いことを示す。得られた結果を表12~15に示す。
【0124】
<摩擦係数の測定(SRV試験)>
各実施例等で得られた潤滑油組成物について、以下のようにしてSRV試験を実施して摩擦係数を測定した。先ず、オプチモール(OPTIMOL)社製SRV試験機を用いて、ASTM D5706に準拠した標準試験片[シリンダー(サイズ:15mm(直径)×22mm)とディスク(サイズ:24mm(直径)×6.9mm)からなる試験片]を準備し、各潤滑油組成物を試験片の摺動面に滴下して、120℃、40℃の各温度においてそれぞれ、荷重400N、振動数50Hz、振幅1.5mm、試験時間15分の条件で試験を行い、試験開始より10分経過した後から15分経過するまでの間(試験時間10~15分の間)の平均摩擦係数を測定した。得られた結果を表12~15に示す。
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
【0129】
【0130】
【0131】
【0132】
【0133】
表3~15に示す組成や実験結果等からも明らかなように、潤滑油基油が100℃における動粘度が2.7mm2/s以上4.0mm2/s以下のものであるという条件;潤滑油基油が、250℃、1時間の条件のNOACK蒸発性試験により求められる潤滑油基油の蒸発損失量が34.0mass%以下のものであるという条件;潤滑油基油が構成成分である基油成分としてエステル基油を含まないという条件;潤滑油基油が構成成分として前記条件(I)~(IV)を満たす基油成分を少なくとも1種含有しているという条件;潤滑油基油が前記条件(I)~(IV)を満たす基油成分を前記潤滑油基油の全量基準で合計30mass%以上含有するという条件;粘度指数向上剤がポリ(メタ)アクリレートであるという条件;を全て満たす、実施例1~40で製造した潤滑油組成物はいずれも、組成物の40℃動粘度がいずれも26.0mm2/s以下となっており、低温領域における動粘度が十分に低いものであることが確認されるとともに、試験時間4時間から12時間までの間の単位時間あたりのNOACK蒸発損失量の変化量(150℃におけるNOACKのスロープ)がいずれも0.45mass%/h以下となっていることから、使用時の蒸発損失の抑制効果が高いことが明らかとなり、低蒸発性の点で高い水準にあることが確認された。なお、実施例1~40で製造した潤滑油組成物はいずれも組成物の100℃動粘度が4.5mm2/s以上となっており、潤滑油組成物の高温領域における粘度も内燃機関において要求される水準を満たすものとなっていることから、本発明によれば、潤滑油組成物の高温領域における粘度を一定値以上に保ちながら、常温域を含む低温における低粘度化と低蒸発性とを両立することが可能であることが分かった。
【0134】
これに対して、潤滑油基油が100℃における動粘度が2.7mm2/s以上4.0mm2/s以下のものであるという条件;潤滑油基油が、250℃、1時間の条件のNOACK蒸発性試験により求められる潤滑油基油の蒸発損失量が34.0mass%以下のものであるという条件;潤滑油基油が構成成分である基油成分としてエステル基油を含まないという条件;潤滑油基油が構成成分として前記条件(I)~(IV)を満たす基油成分を少なくとも1種含有しているという条件;潤滑油基油が前記条件(I)~(IV)を満たす基油成分を前記潤滑油基油の全量基準で合計30mass%以上含有するという条件;粘度指数向上剤がポリ(メタ)アクリレートであるという条件;のうちの少なくとも1つの条件を満たさない比較例1~11で製造した潤滑油組成物は、組成物の40℃動粘度が26.0mm2/s以下であるという条件および150℃におけるNOACKのスロープが0.45mass%/h以下であるという条件のうちの一方または双方を満たさないものととなっており、低蒸発性と低粘度特性を両立できないことが確認された。
【0135】
なお、表3~15に示す組成や実験結果等から、実施例1で製造した潤滑油組成物は、SAE粘度グレードが0W-16となる組成物であることも確認できる。また、実施例1~4をそれぞれ対比すると、モリブデン系摩擦調整剤の添加量がそれぞれ異なる点で組成が異なるが、組成物の40℃動粘度がいずれも26.0mm2/s以下となり、かつ、150℃におけるNOACKのスロープがいずれも0.45mass%/h以下となっていたことから、蒸発性や省燃費性能を損なうことなく、製品設計に応じて、モリブデン系摩擦調整剤の使用量を適宜変更することが可能となることが明らかとなり、これにより清浄性、清浄維持性、金属間摩擦の低減性能を用途等に応じて好適に調整(改善)できることが可能であることが分かった。
【0136】
さらに、実施例5~6で製造した潤滑油組成物と、実施例1で製造した潤滑油組成物とは、基油成分の組み合わせ方が異なり(潤滑油基油の100℃における動粘度は近い値となっている)、これらがいずれも低蒸発性と低粘度特性を両立できていたことから、本発明の内燃機関用潤滑油組成物の条件を満たすように基油成分を組み合わせて利用することで、低蒸発性と低粘度特性をともに高水準のものとすることが可能であることが分かった。なお、実施例5~6で利用した前記条件(I)~(IV)を満たす基油成分(基油成分(7)または基油成分(8))は、実施例1で利用した基油成分(9)よりも、式(1)により求められる計算値Xの値がより小さな値となっており、これらの実施例同士の対比から、計算値Xの値がより小さな値となることに起因して150℃におけるNOACKのスロープがより小さくなることが理解でき、計算値Xの値をより小さな値とすることで低蒸発性の点でさらに高い効果が得られるものと考えられる。また、実施例1と実施例5~6とを対比すると、実施例5~6で製造した潤滑油組成物の40℃動粘度がより低い値となっていることから、実施例5~6で採用しているような組成により、省燃費性能がさらに改善されることも分かった。
【0137】
これに対して、潤滑油基油の100℃における動粘度が2.7mm2/s以上4.0mm2/s以下であるという条件を満たしていない比較例1で製造した潤滑油組成物は、組成物の40℃動粘度が26.0mm2/sを超えてしまい、低粘度特性が十分な水準のものとならず、省燃費性能の点で十分なものとはならなかった。また、実施例1で製造した潤滑油組成物で利用した潤滑油基油の組成を基準として考慮した場合に、前記条件(I)~(IV)を満たす基油成分を基油成分(1)と組み合わせて利用する代わりに、式(1)により求められる計算値Xの値が100を超えている基油成分を基油成分(1)と組み合わせて利用した潤滑油基油を含む、比較例2~3で製造した潤滑油組成物は、150℃におけるNOACKのスロープの値が0.45mass%/hを超えてしまい、低蒸発性の点においても十分なものとはならなかった。
【0138】
また、エステル基油である基油成分(4)および/または基油成分(6)を利用した比較例4~7で製造した潤滑油組成物はいずれも、40℃動粘度が26.0mm2/sを超えてしまい、低粘度特性が十分な水準のものとならず、省燃費性能の点で十分なものとはならなかった。なお、比較例4~7に示す結果から、100℃や150℃における高温高せん断粘度を実施例1等と同等とするためにエステル基油を利用した場合には、低温域における動粘度が高い数値となってしまい、省燃費性能が損なわれることが分かる。なお、比較例4および比較例6~7で製造した潤滑油組成物は前述のように低粘度特性の点で十分なものとはならないばかりか、150℃におけるNOACKのスロープも0.45mass%/hを超えてしまい、低蒸発性の点においても十分なものとはならなかった。
【0139】
また、実施例7で製造した潤滑油組成物はSAE粘度グレードが0W-8となる組成物となった。また、実施例7~9で製造した潤滑油組成物は、清浄剤や酸化防止剤の種類や使用量等を変更した点で実施例1とは組成が相違するが、組成物の40℃動粘度がいずれも26.0mm2/s以下となり、かつ、150℃におけるNOACKのスロープがいずれも0.45mass%/h以下となっていたことから、蒸発性や省燃費性能を損なうことなく、製品設計に応じて、清浄剤や酸化防止剤の種類や使用量を適宜変更して、清浄性や清浄維持性を改善することが可能であることも分かった。
【0140】
また、実施例10~11で製造した潤滑油組成物は、前記条件(I)~(IV)を満たす基油成分(9)とともに、前記条件(I)~(IV)を満たす基油成分(3)を利用しており、実施例1では潤滑油基油の組成が基油成分(1)と基油成分(9)の組み合わせである点で潤滑油基油の組成が主に異なるが、基油成分(3)の計算値Xが基油成分(9)の計算値Xよりも小さな値となっていることに起因して、実施例10~11では、組成物の40℃動粘度がより低減し、常温域での粘性抵抗がさらに低減して省燃費性能がさらに高い水準のものとなったことが分かる。また、実施例12では、実施例10~11と対比して、基油成分(3)よりもさらに計算値Xの値が小さな値となる基油成分(8)を利用し、かつ、その基油成分(8)の含有量が84mass%と高濃度となっている点で潤滑油基油の組成が相違するが、これにより、組成物の40℃動粘度がさらに低減し、低温領域の低粘度化の点でさらに高い効果が得られていることも分かる。また、実施例13で製造した潤滑油組成物は、実施例1で製造した潤滑油組成物と対比すると、前記条件(I)~(IV)を満たす基油成分の含有量がより高い例となっているものの、実施例10~12で製造した潤滑油組成物と対比すると、前記条件(I)~(IV)を満たす基油成分の含有量(総量)が低い例となっている。このような実施例13と、実施例1および実施例10~12を対比すると、実施例13で製造した潤滑油組成物は、実施例1で製造した潤滑油組成物よりも組成物の40℃動粘度が低減しているものの、実施例10~12で製造した潤滑油組成物と対比すると組成物の40℃動粘度が増加していることが分かる。一方で、実施例13で製造した潤滑油組成物は、実施例1、実施例10および実施例12よりも、150℃におけるNOACKのスロープが低減し、低蒸発性の点で高い効果が得られていた。このような結果から、潤滑油組成物を適用する製品の設計や稼働条件等に応じて、潤滑油基油に利用する基油成分の種類や組成を、前述の条件を全て満たすようにして適宜変更するなどして、用途に応じて好適な潤滑油基油を調製して利用することが可能であることが分かる。
【0141】
また、前記条件(I)~(IV)を満たす基油成分を組み合わせて得られる潤滑油基油を利用しているものの、潤滑油基油のNOACK(250℃、1時間)蒸発損失量が34.0mass%を超えた値となっている比較例8で製造した潤滑油組成物は、150℃におけるNOACKのスロープが0.56mass%/hとなり、低蒸発性の点で十分なものとはならなかった。
【0142】
また、前記条件(I)~(IV)を満たす基油成分を利用しておらず、また、潤滑油基油の100℃動粘度が4.0以上となっている比較例9で製造した潤滑油組成物は、40℃動粘度が26.0mm2/sを超えてしまい、低粘度特性が十分な水準のものとならず、省燃費性能の点で十分なものとはならなかった。さらに、前記条件(I)~(IV)を満たす基油成分を利用しているものの、また、前記条件(I)~(IV)を満たす基油成分の総量が5mass%となっている比較例10で製造した潤滑油組成物においては、40℃動粘度が26.0mm2/sを超えてしまい、低粘度特性が十分な水準のものとならなかった。このような結果から、低粘度化の観点からは、潤滑油基油中の前記条件(I)~(IV)を満たす基油成分の含有量(総量)を、実施例1等のように、30mass%以上とする必要があることも分かった。
【0143】
また、実施例15~18で製造した潤滑油組成物同士を比較すると、組成物ごとにPMA系粘度指数向上剤の種類や使用量を変更しているが、全ての組成物において、40℃動粘度がいずれも26.0mm2/s以下となり、かつ、150℃におけるNOACKのスロープがいずれも0.45mass%/h以下となっていた。このような結果から、PMA系粘度向上剤を含有させることで、蒸発性や省燃費性能を損なうことなく、製品設計に応じて、その種類等を適宜変更して利用することが可能であることが分かった。これに対して、PMA系粘度指数向上剤を利用せず、OCP系粘度指数向上剤(オレフィンコポリマー)を含有している比較例9では、150℃におけるHTHS粘度は実施例16~19と同等となってSAE J300で定められる基準を満たしているが、組成物の40℃動粘度が36.5mm2/sとなり、省燃費性の点で不十分なものとなった。
【0144】
さらに、実施例19~実施例28で製造した潤滑油組成物同士を比較すると、それぞれ無灰摩擦調整剤(有機FM剤)の種類や使用量を変更している点で組成が異なるものであるが、組成物の40℃動粘度がいずれも26.0mm2/s以下となり、かつ、150℃におけるNOACKのスロープがいずれも0.45mass%/h以下となっていたことから、蒸発性や省燃費性能を損なうことなく、所望の摩擦低減性能に応じて、無灰摩擦調整剤の種類等を適宜変更して組成物を設計することが可能であることが分かった。
【0145】
また、実施例36~38では、金属系清浄剤、酸化防止剤および分散剤の使用量等をそれぞれ変更して、硫酸灰分を変更しているが、実施例36~38で製造した潤滑油組成物は、組成物の40℃動粘度がいずれも26.0mm2/s以下となり、かつ、150℃におけるNOACKのスロープがいずれも0.45mass%/h以下となっていたことから、蒸発性や省燃費性能を損なうことなく、GPF適合性能や摩擦低減性能の観点から、金属系清浄剤、酸化防止剤および分散剤等の成分の種類や使用量を適宜変更して組成物を設計することが可能であることが分かった。さらに、実施例39~40は、実施例1と対比すると、潤滑油基油の100℃動粘度をより低減した例となっているが、これにより得られる組成物の低粘度特性をより向上させることを可能としつつ、組成物の150℃におけるNOACKのスロープをより低い値とすることも可能となっており、低蒸発性の点でもより高い性能が得られていることも確認できる。
【0146】
このような結果から、潤滑油基油と粘度指数向上剤を含有する潤滑油組成物において、潤滑油基油が100℃における動粘度が2.7mm2/s以上4.0mm2/s以下のものであるという条件;潤滑油基油が、250℃、1時間の条件のNOACK蒸発性試験により求められる潤滑油基油の蒸発損失量が34.0mass%以下のものであるという条件;潤滑油基油が構成成分である基油成分としてエステル基油を含まないという条件;潤滑油基油が構成成分として前記条件(I)~(IV)を満たす基油成分を少なくとも1種含有しているという条件;潤滑油基油が前記条件(I)~(IV)を満たす基油成分を前記潤滑油基油の全量基準で合計30mass%以上含有するという条件;粘度指数向上剤がポリ(メタ)アクリレートであるという条件;を全て満たすことにより、その組成物の低蒸発性や省燃費性能を十分に高度な水準のものとなることが分かるとともに、上記条件を全て満たす範囲において、用途に応じて添加剤の種類等を適宜変更することで、所望の特性を得ること(より低粘度化を図る等)が可能となることも分かる。
以上説明したように、本発明によれば、低温領域における動粘度の低粘度化と低蒸発性とを共に高水準のものとして両立することを可能とする内燃機関用潤滑油組成物を提供することが可能となる。このような本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、低粘度化と低蒸発性とを共に高水準のものとして両立できるため、GPF(ガソリン・パティキュレート・フィルター)を備える自動車エンジン用の潤滑油組成物や、内燃機関および電動機を備えるハイブリッド自動車用の潤滑油組成物等として特に有用である。