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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158936
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】リスク評価方法
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/08 20120101AFI20241031BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
G06Q50/08
E04G23/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074579
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】度会 英顕
(72)【発明者】
【氏名】高栖 光司
(72)【発明者】
【氏名】工藤 貞好
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 宏忠
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 俊介
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 英信
(72)【発明者】
【氏名】太田 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】樋口 まい
(72)【発明者】
【氏名】山谷 博愛
(72)【発明者】
【氏名】畑中 勤士
(72)【発明者】
【氏名】井口 賢一
【テーマコード(参考)】
2E176
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
2E176DD61
5L049CC07
5L050CC07
(57)【要約】
【課題】設備及び建物を解体する際の化学物質によるリスクを適切に評価できるリスク評価方法を提供する。
【解決手段】リスク評価方法は、設備の稼働時に設備が取り扱っていた化学物質の取扱量に応じた取扱量レベル、または、解体時に取り扱う化学物質の取扱量に応じた取扱量レベルを決定する取扱量レベル決定工程と、解体時に予測される化学物質の飛散の度合いに応じた飛散レベルを決定する飛散レベル決定工程と、取扱量レベルと、飛散レベルと、に基づいて、化学物質に解体作業者が曝露される度合いに応じた曝露レベルを決定する曝露レベル決定工程と、曝露レベルと、解体作業者の健康に影響を与える化学物質の曝露限界値と、に基づいて、化学物質のリスクに応じたリスクレベルを決定するリスクレベル決定工程と、を含み、解体する設備及び建物のそれぞれについてリスクレベルを決定する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学物質を取り扱う設備及び前記設備が設けられた建物を解体する際の前記化学物質によるリスクを評価するリスク評価方法であって、
前記設備の稼働時に前記設備が取り扱っていた前記化学物質の取扱量に応じた取扱量レベル、または、解体時に取り扱う前記化学物質の取扱量に応じた取扱量レベルを決定する取扱量レベル決定工程と、
解体時に予測される前記化学物質の飛散の度合いに応じた飛散レベルを決定する飛散レベル決定工程と、
前記取扱量レベルと、前記飛散レベルと、に基づいて、前記化学物質に解体作業者が曝露される度合いに応じた曝露レベルを決定する曝露レベル決定工程と、
前記曝露レベルと、解体作業者の健康に影響を与える前記化学物質の曝露限界値と、に基づいて、前記化学物質のリスクに応じたリスクレベルを決定するリスクレベル決定工程と、を含み、
解体する前記設備及び前記建物のそれぞれについて前記リスクレベルを決定する、リスク評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載されたリスク評価方法であって、
前記設備の前記取扱量レベルを決定するときに、前記設備に残存した前記化学物質の残存量を、解体時に取り扱う前記化学物質の前記取扱量として、前記設備の前記取扱量レベルを決定する、リスク評価方法。
【請求項3】
請求項1に記載されたリスク評価方法であって、
前記建物の前記取扱量レベルを決定するときに、前記設備の稼働時に前記設備が取り扱っていた前記化学物質の前記取扱量に基づいて、前記取扱量レベルを決定するとする、リスク評価方法。
【請求項4】
請求項1に記載されたリスク評価方法であって、
解体する前記建物内を所定の区画毎に区分し、前記区画毎に前記建物の解体作業の前記リスクレベルを決定する、リスク評価方法。
【請求項5】
請求項4に記載されたリスク評価方法であって、
前記区画内に設置された前記設備が稼働していたときの前記設備の換気の度合いに応じた換気レベルを決定する換気レベル決定工程と、
解体する前記区画における前記リスクレベルと、前記換気レベルと、に基づいて、当該区画における前記建物の解体作業の前記リスクレベルを補正するリスク補正工程と、をさらに含む、リスク評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リスク評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、高薬理活性医薬品を製造する製造装置が開示されている。また、特許文献1には、高薬理活性医薬品が作業者の健康に影響を与える可能性があるため、医薬品粉体の飛散防止(医薬品粉体の封じ込め)対策として、アイソレータ等の物理的に囲われた封じ込め装置内で作業が行われることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-194382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のような人体に影響を及ぼす化学物質を取り扱う装置が設置された建物を解体する場合には、装置のみならず、装置のアイソレータに接続された配管や天井、壁などに化学物質が残存または付着している可能性を考慮する必要がある。
【0005】
このような建物を解体する際の化学物質によるリスクは、その都度、検討されているが、体系的になっておらず、当該リスクが適切に評価されているとは言い難かった。
【0006】
本発明は、化学物質を取り扱う設備が設けられた建物を解体する際の化学物質によるリスクを適切に評価できるリスク評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、化学物質を取り扱う設備及び設備が設けられた建物を解体する際の化学物質によるリスクを評価するリスク評価方法であって、設備の稼働時に設備が取り扱っていた化学物質の取扱量に応じた取扱量レベル、または、解体時に取り扱う化学物質の取扱量に応じた取扱量レベルを決定する取扱量レベル決定工程と、解体時に予測される化学物質の飛散の度合いに応じた飛散レベルを決定する飛散レベル決定工程と、取扱量レベルと、飛散レベルと、に基づいて、化学物質に解体作業者が曝露される度合いに応じた曝露レベルを決定する曝露レベル決定工程と、曝露レベルと、解体作業者の健康に影響を与える化学物質の曝露限界値と、に基づいて、化学物質のリスクに応じたリスクレベルを決定するリスクレベル決定工程と、を含み、解体する設備及び建物のそれぞれについてリスクレベルを決定する、リスク評価方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、化学物質を取り扱う設備が設けられた建物を解体する際の化学物質によるリスクを適切に評価でき、適切な作業形態を選択できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る化学物質を取り扱う設備が設けられた建物の間取り図である。
図2】本発明の実施形態に係る設備のリスクレベルを決定するためのフローを示すフローチャートである。
図3】本発明の実施形態に係る設備の飛散レベルを示す表である。
図4】本発明の実施形態に係る設備の曝露レベルを決定するための表である。
図5】本発明の実施形態に係る設備のリスクレベルを決定するための表である。
図6】本発明の実施形態に係るリスクレベルに応じた解体作業時の装備の一覧を示す表である。
図7】本発明の実施形態に係る建物のリスクレベルを決定するためのフローを示すフローチャートである。
図8】本発明の実施形態に係る建物の飛散レベルを示す表である。
図9】本発明の実施形態に係る建物の曝露レベルを決定するための表である。
図10】本発明の実施形態に係る建物のリスクレベルを決定するための表である。
図11】本発明の実施形態に係る換気レベルを決定するための表である。
図12】本発明の実施形態に係る建物の補正リスクレベルを決定するための表である。
図13】本発明の実施形態に係る設備に接続された換気ダクトの一例を示す図である。
図14】本発明の実施形態に係る建物の空調設備に接続された換気ダクトの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0011】
本発明は、化学物質を取り扱う設備90が設けられた建物1を解体する際の化学物質によるリスクを評価するリスク評価方法に関するものである。
【0012】
まず、図1を参照して、高薬理活性医薬品の研究・生産施設の一例を簡単に説明する。図1は、化学物質を取り扱う設備90が設けられた建物1の間取り図である。
【0013】
図1に示すように、建物1内には、管理室10と、更衣室20と、入口側シャワー室30Aと、出口側シャワー室30Bと、前室40と、シャワー室50と、調整室60Aと、調整室60Bと、保管室70と、機械室80と、が設けられる。
【0014】
管理室10は、作業者が事務作業などを行うスペースである。管理室10の天井には、空調装置(図示せず)が設けられている。
【0015】
更衣室20は、作業者がクリーンウェアを着脱するためのスペースである。作業者は、前室40、調整室60A、あるいは調整室60Bにおいて作業する場合に、更衣室20においてクリーンウェアを着用する。
【0016】
入口側シャワー室30Aには、着衣に付着した塵埃等の粒子や微生物を除去するためのエアシャワー装置(図示せず)が設けられている。作業者は、更衣室20から前室40に入室する際には、入口側シャワー室30Aに入室し、エアシャワー装置によって着衣に付着した塵埃等の微粒子や微生物などを除去した後、前室40に入室する。これにより、塵埃等の微粒子や微生物などが前室40及び調整室60A,60Bに持ち込まれることを防止できる。
【0017】
出口側シャワー室30Bには、前室40から更衣室20に移動する際に、着衣に付着した高薬理活性医薬品などの微粒子などを除去するためのエアシャワー装置が設けられている。作業者は、前室40から更衣室20に退室する際には、出口側シャワー室30Bに入室し、エアシャワー装置によって着衣に付着した高薬理活性医薬品などの微粒子を除去した後、更衣室20に退室する。これにより、高薬理活性医薬品の微粒子などが前室40及び調整室60A,60Bから外部へ運び出されることを防止できる。
【0018】
前室40は、管理室10と調整室60A,60Bとの間の緩衝空間として機能する。前室40が存在することで、何らかの原因により調整室60A,60Bから高薬理活性医薬品が漏出した場合に、調整室60A,60Bから高薬理活性医薬品が管理室10などの外部に漏出することを防止できる。なお、前室40は、原材料などを保管する保管室70に通じている。
【0019】
調整室60A,60Bには、高薬理活性医薬品を生産、あるいは、高薬理活性医薬品に関する研究を行うための設備90が配置される。設備90は、粉砕機、秤量小分け機などである。これらの設備90には、高薬理活性医薬品を取り扱う状況に応じて、陰圧ブース付装置やグローブボックスなどが付帯している。
【0020】
前室40と調整室60A,60Bとの間には、シャワー室50が設けられる。シャワー室50には水シャワー装置が設けられている。作業者は、緊急時(被爆時)に、水シャワー装置によって着衣に付着した高薬理活性医薬品の微粒子などを湿潤させ、最外装の着衣を脱衣して前室40に退避する。
【0021】
機械室80には、設備90や空調装置を駆動するための電源設備や、空調装置の駆動源、フィルタ装置などが配置される。
【0022】
このように構成された研究・生産施設において、例えば、抗がん剤等の少量で人体に強い薬効作用を与える高薬理活性医薬品などの化学物質を使用または生産していることがある。このような化学物質を取り扱っている研究・生産施設を解体する場合、化学物質が飛散し、解体作業者に健康被害が及ぶおそれがある。このため、研究・生産施設において使用または生産されていた化学物質によるリスクに応じて、予め解体作業時の装備や作業指針などを決定しておく必要がある。
【0023】
また、化学物質によるリスクを適切に評価しないと、解体時の装備や作業が過剰になってしまうおそれがある。そこで、本実施形態では、化学物質によるリスクを適切に評価するために、図2及び図7のフローチャートに基づいて、リスクレベルを決定する。なお、本実施形態のリスクレベルとは、解体作業者の健康に影響を与える度合い(リスク)を示す指標である。以下に、図2及び図7を参照しながら、リスクレベルの決定の手順について具体的に説明する。
【0024】
まず、解体する設備90に関するリスクレベルLrmの決定方法について、図2に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0025】
ステップS1では、対象となる化学物質を特定する。具体的には、解体する設備90内で使用された化学物質の情報を入手する。化学物質に関する情報の入手方法としては、例えば、生産設備または研究所の運営者から入手したデータシートなどを参照して、対象となる化学物質を特定する。なお、ここでいう化学物質には、高薬理活性医薬品のみならず、設備90で使用されていた人体に影響を及ぼす可能性のある化学物質の全てが含まれる。また、設備90とは、化学物質を使用または生産する生産装置、研究装置に限らず、これらに接続された換気ダクト91(図13参照)などの付帯設備も含む。
【0026】
ステップS2では、取扱量レベルLvmを決定する。具体的には、設備90を解体する際に取り扱う化学物質の取扱量を推定し、この取扱量に応じた取扱量レベルLvmを決定する。ここでいう取扱量とは、解体する設備90に残存する化学物質の残存量に相当する。例えば、設備90が、薬剤調製装置90Aに取り付けられていた空調装置の換気ダクト91(図13参照)である場合について説明する。まず、換気ダクト91の一部をサンプル領域として定め、このサンプル領域において、対象とする化学物質がどれぐらい残存しているかを測定する。そして、この測定した化学物質の残存量と、サンプル領域の大きさ(長さ、表面積、容積など)を基に、解体する換気ダクト91全体における化学物質の残存量を推定する。本実施形態では、取扱量レベルLvmは、取扱量に応じて、例えば、少(1kg未満)、中(1kg以上~1t未満)、多(1t以上)の3つのレベルに区分される。なお、このステップS2における工程が、特許請求の範囲における「取扱量レベル決定工程」に相当する。
【0027】
なお、サンプル領域は、薬剤調製装置90Aの近傍や換気ダクト91の屈曲部91Aなど、化学物質の残存量が多いと予想される箇所を含むように設定することが好ましい。このような化学物質の残存量が多いと予想される箇所をサンプル領域に含むことで、解体対象全体の化学物質の残存量、つまり、解体時に取り扱う化学物質の取扱量が過少に推定されることを防止できる。上述のような箇所をサンプル領域に含ませた場合には、推定した化学物質の残存量が実際の残存量よりも過大になってしまう可能性が高い。しかしながら、残存量が多いものとしてリスクレベルを推定した方が、解体作業者にとって安全な方向に作用することになる。したがって、サンプル領域は、なるべく化学物質の残存量が多いと予想される箇所を含むように設定する。これにより、解体作業者の安全性をより確実に確保することができる。
【0028】
ステップS3では、飛散レベルLfmを決定する。飛散レベルとは、解体時に予測される化学物質の飛散の度合いを示す指標であり、本実施形態では、図3に示すように、飛散レベルLfmは、低、中、高の3つのレベルに区分される。具体的には、解体対象となる設備90について、サンプル領域における化学物質の粒子の大きさ(形状)と、化学物質の付着の度合いと、に基づいて、低、中、高の3つの飛散レベルLfmのうちのいずれかに区分する。なお、図3に示す例では、化学物質の付着の度合いは、化学物質が壁面などに付着して飛散する可能性が少ない場合と、化学物質が壁面などに付着しておらず飛散する可能性が高い場合との、2つに区分しているが、より細かく区分してもよい。
【0029】
飛散レベルLfmのレベル分けは、作業者の目視や触診によって行う。例えば、触診により化学物質が壁面などに付着し剥がれないようであれば、化学物質が飛散する可能性は低い。このため、目視による化学物質の粒子の大きさ(形状)が「中」や「小」に相当する大きさであっても、飛散レベルLfmは「低」に区分される(図3参照)。なお、このステップS3における工程が、特許請求の範囲における「飛散レベル決定工程」に相当する。
【0030】
飛散レベルLfmのレベル分けは、作業者の目視に限らず、化学物質の平均粒子径を、例えば、JIS Z 8901(2006)「試験用粉体及び試験用粒体」の「粒子の直径の算術平均値」により定義される平均粒子径として測定し、この測定した平均粒子径の大きさに基づいて行うようにしてもよい。また、付着の程度についても、作業者の触診に限らず、公知の付着性試験に基づいて判断するようにしてもよい。
【0031】
ステップS4では、曝露レベルLemを決定する。曝露レベルとは、化学物質に解体作業者が曝露される度合いを示す指標であり、本実施形態では、図4に示すように、曝露レベルLemは、Lem1~Lem4の4つのレベルに区分される。具体的には、解体対象となる設備90について、ステップS2で推定した化学物質の取扱量(残存量)と、ステップS3で決定した飛散レベルLfmと、に基づいて、曝露レベルLem1~Lem4のうちのいずれかに区分する。なお、曝露レベルLemは、曝露される度合いが低い方から順にLem1、Lem2、Lem3、Lem4になっている。なお、このステップS4における工程が、特許請求の範囲における「曝露レベル決定工程」に相当する。
【0032】
ステップS5では、設備90の解体作業時における化学物質のリスクに応じたリスクレベルLrmを決定する。図5に示すように、本実施形態では、リスクレベルLrmは、Lrm1~Lrm4の4つのレベルに区分される。リスクレベルLrmは、ステップS4で決定した曝露レベルLemと、対象となる化学物質の曝露限界値OELと、に基づいて決定される。なお、曝露限界値OEL[μg/m3]とは、職業曝露限界(Occupational Exposure Level)であり、作業員が1日当たりの作業時間(8時間/日・40時間/週)に、対象となる化学物質が存在する環境で作業を行っても健康上の影響がみられないと想定される許容曝露濃度である。曝露限界値OEL[μg/m3]は、日本産業衛生学会が示す許容濃度や、英国の有害化学物質衛生管理規則(COSHH)、米国産業衛生専門家会議(ACGIH)などにおいて推奨された方法で、生産設備または研究所の運営者が検証して定めた値を用いる。
【0033】
このようにして決定されるリスクレベルLrmを、解体する設備90それぞれについて決定する。解体作業時には、図6に示すリスクレベルLrmに応じた装備によって解体作業を行う。また、図示はしないが、リスクレベルLrmに応じた作業指針(洗浄室の要否、解体作業時の作業手順など)もリスクレベルLrm毎に設定される。なお、このステップS5における工程が、特許請求の範囲における「リスクレベル決定工程」に相当する。
【0034】
次に、解体する建物1に関するリスクレベルLrbの決定方法について、図7に示すフローチャートを参照しながら説明する。建物1に関するリスクレベルLrbは、建物1内を所定の区画ごとに区分し、その区画毎に決定される。所定の区画は、任意の大きさであり、例えば、調整室60A、調整室60B、保管室70といった部屋ごとに設定される。
【0035】
ステップS11では、対象となる化学物質を特定する。具体的には、設備90が稼働していた際に、設備90で使用または生産されていた化学物質の情報を入手する。化学物質に関する情報の入手方法としては、例えば、生産設備または研究所の運営者から入手したデータシートなどを参照して、対象となる化学物質を特定する。なお、ここでいう化学物質も、高薬理活性医薬品のみならず、設備90で使用されていた人体に影響を及ぼす可能性のある化学物質の全てが含まれる。また、建物1とは、柱や壁などの構造体に限らず、天井などに取り付けられた空調装置の換気ダクト11(図14参照)などの付帯設備も含む。
【0036】
ステップS12では、取扱量レベルLvbを決定する。具体的には、取扱量レベルLvbは、各区画内に設置された設備90の稼働時に当該設備90が取り扱っていた化学物質の取扱量に基づいて推定される。具体的には、設備90が取り扱っていた化学物質の単位時間当たり(例えば、1日あたり)の取扱量を、設備90の仕様書、あるいは作業工程表などに基づいて推定する。設備90が稼働している時(過去)に取扱量が多ければ、その分、化学物質が建物1に多く飛散、あるいは残留している可能性がある。そこで、本実施形態では、このような方法で取扱量レベルLvbを決定している。
【0037】
本実施形態では、取扱量レベルLvbは、設備90の稼働時に当該設備90が取り扱っていた化学物質の取扱量に応じて、例えば、少(1kg未満)、中(1kg以上~1t未満)、多(1t以上)の3つのレベルに区分される。なお、このステップS12における工程が、特許請求の範囲における「取扱量レベル決定工程」に相当する。
【0038】
ステップS13では、飛散レベルLfbを決定する。本実施形態では、図8に示すように、飛散レベルLfbは、低、中、高の3つのレベルに区分される。具体的には、解体対象となる各区画内に設置された設備90の稼働時に、当該設備90が取り扱っていた化学物質の粒子の大きさ(形状)に基づいて、低、中、高の3つの飛散レベルLfbのうちのいずれかに区分する。なお、このステップS13における工程が、特許請求の範囲における「飛散レベル決定工程」に相当する。
【0039】
ステップS14では、曝露レベルLebを決定する。本実施形態では、図9に示すように、曝露レベルLebは、Leb1~Leb4の4つのレベルに区分される。具体的には、解体対象となる建物1について、ステップS12で推定した化学物質の取扱量と、ステップS13で決定した飛散レベルLfbと、に基づいて、曝露レベルLeb1~Leb4のうちのいずれかに区分する。なお、曝露レベルLebは、曝露される度合いが低い方から順にLeb1、Leb2、Leb3、Leb4になっている。なお、このステップS14における工程が、特許請求の範囲における「曝露レベル決定工程」に相当する。
【0040】
ステップS15では、建物1の解体作業にともなう化学物質のリスクに応じたリスクレベルLrbを決定する。図10に示すように、本実施形態では、リスクレベルLrbは、Lrb1~Lrb4の4つのレベルに区分される。リスクレベルLrbは、ステップS14で決定した曝露レベルLebと、対象となる化学物質の曝露限界値OELと、に基づいて決定される。なお、このステップS15における工程が、特許請求の範囲における「リスクレベル決定工程」に相当する。
【0041】
ステップS16では、換気レベルLabを決定する。換気レベルLabは、図11に示す表に基づいて決定される。具体的には、換気レベルLabは、解体する区画内に設置された設備90が稼働していたときの設備90に付帯する換気装置に基づいて決定される。なお、換気レベルLabは、換気の度合い(換気性能)の低い方から順にLab1、Lab2、Lab3、Lab4になっている。なお、このステップS16における工程が、特許請求の範囲における「換気レベル決定工程」に相当する。
【0042】
ステップS17では、リスクレベルLrbを補正する。具体的には、ステップS15において決定したリスクレベルLrbと、ステップS16において決定した換気レベルLabと、に基づいて、リスクレベルLrbを補正する。解体する区画内に設置された設備90の換気性能が高ければ、設備90から化学物質が能出する可能性が低くなるため、その区画における建物1には、化学物質が堆積または付着している可能性も低くなる。そこで、換気レベルLabが高い場合には、建物1のリスクレベルLrbが低くなるように補正する。具体的には、図12に示す表に基づいて、リスクレベルLrbを補正し、補正リスクレベルLrcを決定する。なお、このステップS17における工程が、特許請求の範囲における「リスク補正工程」に相当する。
【0043】
このようにして決定される補正リスクレベルLrcを、解体する建物1の区画毎に決定する。解体作業時には、解体作業時には、例えば、図12に示す補正リスクレベルLrcに応じた装備によって解体作業を行う。
【0044】
なお、ステップS16及びステップS17の工程は、必ずしも行う必要はない。ステップS16及びステップS17の工程を行わない場合には、リスクレベルLrbが補正リスクレベルLrcよりも解体作業者にとって安全な方向に作用することになる。
【0045】
このように、本実施形態では、リスクレベルLrm、Lrbを、化学物質の取扱量、化学物質の飛散の度合い、作業者の曝露される度合い、曝露限界値OELに基づいて決定している。これにより、解体時の化学物質によるリスクを適切に評価できる。
【0046】
さらに、図2及び図7に示すフローチャートのように体系的に化学物質によるリスクレベルLrm、Lrbを決定しているので、解体時の化学物質によるリスクをより適切に評価できる。
【0047】
また、解体する建物1と設備90のそれぞれにおいて、リスクレベルLrm、Lrbを決定することで、過剰な装備や作業となることが抑制され、コストの上昇を抑制できるとともに、作業効率を向上させることができる。
【0048】
さらに、解体する建物1内を所定の区画毎に区分し、区画毎にリスクレベルLrbを決定することで、よりリスクを適切に評価できる。なお、区画を決定する際に、必ずしも部屋ごとに区画する必要はなく、例えば、リスクレベルLrbが同じレベルと推認されるようであれば、複数の部屋を一つの区画としてもよい。具体的には、例えば、入口側シャワー室30A、出口側シャワー室30B及び前室40を一つの区画としてもよい。このようにすることで、リスクレベルLrbを決定する回数を削減しつつ、解体作業に伴うリスクを適切に評価できる。
【0049】
これとは反対に、1つの部屋を二つの区画に区分けしてもよい。具体的には、例えば、前室40を入口側シャワー室30A及び出口側シャワー室30B近傍の区画と、シャワー室50近傍の区画と、に区分けするようにしてもよい。これにより、解体作業に伴うリスクをより適切に評価できる。
【0050】
また、リスクレベルLrbを換気レベルLabに基づいて補正した補正リスクレベルLrcを用いてリスクを評価することで、建物のリスクを過剰に評価することを抑制できる。これにより、過剰な装備や作業となることが抑制され、コストの上昇を抑制できるとともに、作業効率を向上させることができる。
【0051】
上記実施形態では、設備90に残存した化学物質の残存量を解体時に取り扱う化学物質の取扱量として、設備90の取扱量レベルLvmを決定する場合を例に説明したが、これに限らず、設備90の稼働時における化学物質の取扱量に基づいて、解体時の設備90の取扱量レベルLvmを決定してもよい。
【0052】
また、上記実施形態では、設備90の稼働時に設備90が取り扱っていた化学物質の取扱量に基づいて、建物1の取扱量レベルLvbを決定する場合を例に説明したが、これに限らず、建物1に残存した化学物質の残存量に基づいて、解体時の建物1の取扱量レベルLvbを決定してもよい。なお、建物1における化学物質の残存量を推定する場合には、天井裏や調製装置の近傍の床、壁などをサンプル領域とすることが考えられる。ただし、床や壁などは解体前に洗浄することがあるため、設備90や空調装置などの配置を考慮しつつ、化学物質の残存量サンプル領域を決定することが好ましい。
【0053】
上記実施形態では、飛散レベルLfmを作業者の目視や触診によって決定していたが、飛散レベルLfmを設備90の過去の製造履歴から推定してもよい。
【0054】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0055】
1・・・建物
11・・・換気ダクト
90・・・設備
90A・・・薬剤調製装置(設備)
91・・・換気ダクト
図1
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