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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158941
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】空調システム
(51)【国際特許分類】
   F24F 11/875 20180101AFI20241031BHJP
   F24F 5/00 20060101ALI20241031BHJP
   F28D 20/02 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
F24F11/875
F24F5/00 102C
F28D20/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074593
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川村 聡宏
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 弥
(72)【発明者】
【氏名】菊川 和雅
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 清
(72)【発明者】
【氏名】川上 梨沙
(72)【発明者】
【氏名】近藤 恒佑
(72)【発明者】
【氏名】山本 ミゲイル
(72)【発明者】
【氏名】中村 卓司
【テーマコード(参考)】
3L260
【Fターム(参考)】
3L260AA08
3L260AA09
3L260AB06
3L260BA38
3L260BA45
3L260CB81
3L260FA20
3L260FB57
3L260HA01
(57)【要約】
【課題】効率的に潜熱蓄熱材を蓄熱・蓄冷できる空調システムを提供する。
【解決手段】本発明に係る空調システム1は、相変化が可能な潜熱蓄熱材の潜熱を利用する空調システム1であって、相変化により蓄熱または蓄冷を行う潜熱蓄熱材を含む熱交換部20と、潜熱蓄熱材の透過率または潜熱蓄熱材からの散乱光を検出する光センサ30と、少なくとも一部が熱交換部20に接して配置され、熱媒が流れる配管40と、熱媒を循環させる循環装置50と、循環装置50の制御を行う制御装置60と、を備え、制御装置60は、光センサ30より検出された潜熱蓄熱材の透過率または潜熱蓄熱材からの散乱光の強さに基づいて熱媒を循環させることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相変化により蓄熱または蓄冷を行う潜熱蓄熱材を含む熱交換部と、
前記潜熱蓄熱材の透過率または前記潜熱蓄熱材からの散乱光を検出する光センサと、
少なくとも一部が前記熱交換部に接して配置され、熱媒が流れる配管と、
前記熱媒を循環させる循環装置と、
前記循環装置の制御を行う制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記光センサより検出された前記潜熱蓄熱材の透過率または前記潜熱蓄熱材からの散乱光の強さに基づいて前記熱媒を循環させる、空調システム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記光センサより検出された前記潜熱蓄熱材の透過率または前記潜熱蓄熱材からの散乱光の強さが、固相状態の前記潜熱蓄熱材の透過率または前記潜熱蓄熱材からの散乱光の強さと略同一である場合に、前記熱媒の流量を低下させる、または前記熱媒の循環を停止する、請求項1に記載の空調システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記光センサより検出された前記潜熱蓄熱材の透過率または前記潜熱蓄熱材からの散乱光の強さに基づき前記潜熱蓄熱材中の固相または液相の割合を算出し、前記割合に基づいて前記熱媒を循環させる、請求項1に記載の空調システム。
【請求項4】
前記潜熱蓄熱材は、硫酸ナトリウム十水和物である、請求項1~3のいずれか1項に記載の空調システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相変化が可能な潜熱蓄熱材の潜熱を利用する空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギー化等の観点から、放射式空調と、蓄熱技術とを組み合わせた空調システムが注目されている。蓄熱技術の中でも潜熱蓄熱材を用いたシステムは、小さな体積で大きな熱量を蓄熱・蓄冷することが可能である。また、放射式空調と潜熱蓄熱材とを組み合わせることで、放射空調システムの表面温度を潜熱蓄熱材が相変化する温度帯に維持することが容易となり、安定した室内環境を構築できる。潜熱蓄熱材を蓄熱・蓄冷する方法として、例えば、ヒートポンプ等の機械的な熱源や自然エネルギーを活用し、潜熱蓄熱材を加温または冷却する方法が挙げられる。主に電力需要が小さい時間帯、熱需要が少ない時間帯に、潜熱蓄熱材の蓄熱・蓄冷を行うことで、電力消費量や熱負荷のピークシフトに活用できる。
【0003】
一方、蓄熱・蓄冷により相変化が完了し、完全に液相または固相の状態の潜熱蓄熱材は、潜熱を活用できず、蓄熱効率が低下する傾向にある。そのため、空調機やファン等のエネルギーを消費しながら潜熱蓄熱材を蓄熱・蓄冷する場合、完全に液相または固相の状態の潜熱蓄熱材をさらに蓄熱・蓄冷し続けると、エネルギーの無駄が生じてしまい好ましくない。
【0004】
よって、さらなる省エネルギー化の観点から、相変化が可能な潜熱蓄熱材を利用する空調システムにおいては、潜熱蓄熱材の相状態を考慮しながら、潜熱蓄熱材の蓄熱・蓄冷を行うことが重要である。そのためには、潜熱蓄熱材の相状態を正確に検知する技術が求められる。特許文献1には、容器に収容された潜熱蓄熱材の融解状態を、容器の外部に設けられた温度センサによって推定する方法が開示されている。具体的には、単位時間当たりの潜熱蓄熱材の温度変化から融解状態か否かを判定している。特許文献2には、潜熱蓄熱材を収容する容器の内部に複数の温度センサを配置し、潜熱蓄熱材の温度分布から潜熱蓄熱材の相状態や蓄熱量を推定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第7059062号公報
【特許文献2】特許第6525370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の通り、相変化が可能な潜熱蓄熱材の潜熱を利用する空調システムにおいて、潜熱蓄熱材の相状態を正確に検知することは重要な課題である。潜熱蓄熱材の相変化時の温度変化は、通常、一様ではない。そのため、特許文献1および特許文献2に開示されている温度センサにより測定した潜熱蓄熱材の温度に基づき、相状態を判定する方法では、潜熱蓄熱材の相状態を正確に検知することは困難である。
【0007】
本発明の目的は、潜熱蓄熱材の相状態を正確に検知することにより、効率的に潜熱蓄熱材を蓄熱・蓄冷できる空調システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る空調システムは、相変化が可能な潜熱蓄熱材の潜熱を利用する空調システムであって、相変化により蓄熱または蓄冷を行う潜熱蓄熱材を含む熱交換部と、潜熱蓄熱材の透過率または潜熱蓄熱材からの散乱光の強さを検出する光センサと、少なくとも一部が熱交換部に接して配置され、熱媒が流れる配管と、熱媒を循環させる循環装置と、循環装置の制御を行う制御装置と、を備え、制御装置は、光センサより検出された潜熱蓄熱材の透過率または潜熱蓄熱材からの散乱光の強さに基づいて潜熱蓄熱材の相状態を判定し、潜熱蓄熱材の相状態に基づき熱媒を循環させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る空調システムによれば、潜熱蓄熱材の相状態を正確に検知することにより、効率的に潜熱蓄熱材を蓄熱・蓄冷できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態の一例である空調システムの構成を示す概略図である。
図2】実施形態の一例である空調システムを構成する熱交換部の平面図である。
図3】実施形態の一例である空調システムを構成する制御装置の機能構成を示すブロック図である。
図4】潜熱蓄熱材の降温過程および昇温過程における比熱を示した図である。
図5】潜熱蓄熱材の温度と透過率の経時変化を測定した結果を示した図である。
図6】潜熱蓄熱材の温度と透過率の関係を測定した結果を示した図である。
図7】実施形態の一例である空調システムの動作を示すフローチャートである。
図8】実施形態の他の一例である空調システムを構成する熱交換部の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る空調システムの実施形態の一例について詳細に説明する。以下で説明する実施形態はあくまでも一例であって、本発明は以下の実施形態に限定されない。また、以下で説明する複数の実施形態、変形例を選択的に組み合わせてなる形態は本発明に含まれている。
【0012】
図1は、本実施形態の空調システム1の構成を示す概略図であり、空調システム1が設けられた建築物Mの1つの階層を側方から見た断面図である。なお、建築物Mは、例えば、大型店舗やマンション等であり、1層以上の階層を有する。また、建築物Mの階層数は特に限定されない。
【0013】
図1に示すように、空調システム1は、居室内の空気と熱の授受が可能な熱交換パネル10を有する放射式(輻射式)空調である。空調システム1は、熱交換パネル10の他、潜熱蓄熱材21(図2参照)を含む熱交換部20と、潜熱蓄熱材21の透過率を検出する光センサ30と、熱媒が流れる配管40と、熱媒を循環させる循環装置50と、循環装置50の制御を含めた空調システム1の全体の制御を行う制御装置60とを備える。熱交換パネル10は、居室13の天井に配置され、熱交換部20は、天井側の上部躯体11と熱交換パネル10との間に配置されている。また、配管40は、少なくとも一部が熱交換部20に接して配置されている。
【0014】
空調システム1は、冷暖房機能を有し、ユーザの操作に基づき、または居室13の温度に基づいて自動で、冷房運転モードまたは暖房運転モードを実行する。冷房運転モードでは、熱交換パネル10と熱交換部20との間で熱交換が行われ、熱交換パネル10が冷却される。その結果、熱交換パネル10は、空気の熱を奪い、空気を冷却する。また、熱交換パネル10の表面温度が下がることで電磁波による熱交換が行われる。熱交換パネル10は、下方の居室13にいる滞在者Wや不図示の機器をはじめ、居室13の壁、および床等の熱を吸収する。
【0015】
空調システム1では、例えば、電気需要が小さい夜間の時間帯に、循環装置50により熱媒(冷水)を循環させ、潜熱蓄熱材21を冷却し、凝固させる。このとき、光センサ30が潜熱蓄熱材21の透過率を順次検出する。そして、制御装置60は、光センサ30が検出した透過率に基づき、潜熱蓄熱材21の相状態を判定し、その判定結果に基づき循環装置50による熱媒の循環を制御する。具体的には、制御装置60は、潜熱蓄熱材21の冷却時において、潜熱蓄熱材21の透過率が、予め測定した潜熱蓄熱材21が完全に固相状態の際の透過率と略同一である場合、潜熱蓄熱材21が固相状態であると判定する。そして、制御装置60は、循環装置50により循環されている熱媒の流量の調整、または熱媒の循環の停止を行う。完全に固相状態の潜熱蓄熱材21は、固相および液相が混合する状態の潜熱蓄熱材21に比べ蓄熱効率が低下する。そのため、潜熱蓄熱材21が完全に固相状態である際に、熱媒の流量を低下させる、または熱媒の循環を停止させることで、効率よく潜熱蓄熱材21を冷却でき、熱媒の循環に費やすエネルギーを抑制することができる。なお、上記例では、潜熱蓄熱材21を冷却し、蓄冷する場合を例示したが、潜熱蓄熱材21を加温し、蓄熱させる場合も同様である。
【0016】
熱交換パネル10は、建築物Mの所定の階層の天井側の上部躯体11よりも下方に配置され、上部躯体11と床側の下部躯体12との間に配置されている。具体的には、熱交換パネル10は、天井材の一部または全部として、上部躯体11と下部躯体12の間に形成された居室13の天井に配置されている。なお、上部躯体11と熱交換パネル10との間の空間には不図示の装置や機器等が設けられていてもよい。
【0017】
ここで、熱交換パネル10は、少なくとも上部躯体11の底面11bに接触せず、さらに建築物Mの外壁や側壁の壁面に接触しないように配置されることが好ましい。これにより、熱交換パネル10から熱伝導によって底面11bや前述の各壁面から逃げる熱を少なくしつつ、居室13空間内の空気の温度を調節することができる。
【0018】
熱交換パネル10は、高い熱伝導性を有する金属で構成されることが好ましく、例えば、鉄を主成分とする金属で構成される。また、本実施形態では、熱交換パネル10の板面10a,10bは、上部躯体11の居室13側の底面11b、および下部躯体12の居室13側の表面12aと略平行に配置されている。
【0019】
熱交換部20は、上部躯体11と熱交換パネル10との間に複数配置される。本実施形態では、熱交換部20は、熱交換パネル10の上部躯体11側の板面10aに接するように配置されている。熱交換部20を熱交換パネル10に接するように配置することで、熱交換パネル10と熱交換部20との間での熱の授受を効率よく行うことができる。また、熱交換パネル10と熱交換部20との間には、高い熱伝導性を有する金属で構成された金属板等が配置されていてもよい。熱交換部20の個数は、特に限定されず、居室13の大きさ等に合わせて適宜変更可能である。図1では、3つの熱交換部20が配置された場合を例示している。
【0020】
以下、図2をさらに参照しながら、空調システム1の構成について詳説する。図2は、熱交換部20の平面図であり、光センサ30により潜熱蓄熱材21の透過率を検出する様子を模式的に示す図である。
【0021】
図1および図2に示すように、熱交換部20には、熱媒が流れる配管40が設置されている。本実施形態では、熱交換部20を貫通するように配管40が設けられている。熱交換部20は、潜熱蓄熱材21と、潜熱蓄熱材21を収容する容器22とで構成される。潜熱蓄熱材21は、固相と液相との間で相変化可能で、配管40を流通する熱媒との間で熱交換を行う。また、潜熱蓄熱材21は、融点よりも低い温度になっても固相に相変化せずに、液体のまま温度が低下する過冷却状態となることが可能な蓄熱材である。潜熱蓄熱材21は、固相から液相へ相変化することで熱を潜熱として蓄え、液相から固相へ相変化することで、蓄えている潜熱を放出する。
【0022】
空調システム1を冷房に用いる場合、潜熱蓄熱材21として、16℃~22℃程度で相変化が生じる潜熱蓄熱材が用いられる。また、潜熱蓄熱材21は不燃性であることが好ましい。潜熱蓄熱材21としては、例えば、硫酸ナトリウム十水和物(NaSO・10HO)、酢酸ナトリウム三水和物(CHCOONa・3HO)、リン酸水素二ナトリウム十二水和物(NaHPO・12HO)、炭酸ナトリウム十水和物(NaCO・10HO)、チオ硫酸ナトリウム五水和物(Na・5HO)等が挙げられ、中でも硫酸ナトリウム十水和物であることが好ましい。
【0023】
容器22は、透光性を有する材料で構成され、潜熱蓄熱材21を収容する。容器22を構成する材料として用いられる樹脂としては、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリプロピレン(PP)等が挙げられる。また、本実施形態では、容器22全体が、透光性を有する樹脂で構成されているが、これに限定されない。例えば、後述する発光部31(図2参照)から照射される光が通過する領域のみが透過性を有する樹脂やガラスで構成し、他の領域は透光性を有さない材料で構成してもよい。
【0024】
容器22は、略直方体形状を有し、容器22の長手方向の一端から他端にかけて配管40が通過する貫通孔22aが形成されている。貫通孔22aの直径は、通過する配管40の直径と略同一である。これにより、容器22に設けられた貫通孔22aの内壁と配管40とが接する。その結果、容器22に収容されている潜熱蓄熱材21と、配管40を流通する熱媒との間で効率よく熱交換を行うことができる。なお、容器22の形状は、略直方体形状に限定されず、居室13の熱需要に応じた形状とすることができる。
【0025】
光センサ30は、潜熱蓄熱材21の透過率を検出する。光センサ30は、図1および図2に示すように、熱交換部20を介して互いに対向して配置された発光部31と受光部32とを含む。本実施形態では、図1に示すように、複数の熱交換部20のうち、1つの熱交換部20にのみ光センサ30を配置している。なお、光センサ30の個数は、熱交換部20の個数や居室13の大きさに合わせて適宜変更可能である。
【0026】
なお、容器22は、収容する潜熱蓄熱材21の体積変化により膨張する場合がある。そのため、発光部31および受光部32が容器22に接していると、容器22の膨張により、発光部31および受光部32の位置ずれが生じる。その結果、発光部31から発せられた照射光が、受光部32に到達せず、潜熱蓄熱材21の透過率を正確に検出できない場合がある。そこで本実施形態では、発光部31および受光部32が、容器22と接しないように、発光部31および受光部32と容器22との間に隙間が設けられている。つまり、容器22の変形が発光部31と受光部32の相対的な位置関係に影響を与えない構成としている。
【0027】
また、発光部31および受光部32は、容器22に固定されていてもよい。例えば、容器22の一部に凹部を設け、当該凹部に発光部31および受光部32を固定してもよい。
【0028】
上記の通り、容器22の内部には配管40が埋設されている。そのため、発光部31および受光部32は、光路が配管40と重ならないように配置されている。本実施形態では、配管40は、容器22の下面側を貫通している。そのため、発光部31および受光部32は、光路が容器22の上面側を通るように、熱交換パネル10の板面10a上に設けられた所定の高さを有する治具(図示せず)上に配置され、固定されている。
【0029】
また、本実施形態では、発光部31および受光部32は、光路が容器22の短手方向と平行になるように配置されているが、光路が容器22の長手方向と平行になるように配置されていてもよい。また、1つの熱交換部20に対して、複数の光センサ30が配置されていてもよい。
【0030】
光センサ30は、潜熱蓄熱材21の透過率を検出する。潜熱蓄熱材21の透過率とは、特定波長(本実施形態では、波長660nm)の入射光が潜熱蓄熱材21を通過する割合であって、より正確には潜熱蓄熱材21が充填された容器22を通過する割合である。特定波長における容器22の透過率は、例えば、実質的に100%である。光センサ30は、発光部31から一定光量の光を出射し、受光部32の受光量に基づき潜熱蓄熱材21の透過率を検出する。光センサ30は、常時潜熱蓄熱材21の透過率を検出していてもよいが、所定の時間(例えば、10分)おきに潜熱蓄熱材21の透過率を検出していてもよい。光センサ30は、検出した潜熱蓄熱材21の透過率に関する情報を後述する制御装置60へ送信する。
【0031】
配管40は、循環装置50により循環される熱媒が流通する。配管40は、樹脂で構成されていてもよいが、例えば、銅、アルミニウムまたはステンレスのように熱伝導性の高い金属で構成されていることが好ましい。本実施形態では、配管40を流通する熱媒は、冷温水である。
【0032】
配管40は、少なくとも一部が容器22に挿入されることにより、熱交換部20の少なくとも一部と接して配置されている。これにより、容器22に収容されている潜熱蓄熱材21と、配管40を流通する熱媒との間で効率よく熱交換を行うことができる。なお、配管40は、容器22に挿入されず、容器22の上面または側面と接するように配置されていてもよい。
【0033】
また、本実施形態では、配管40は、配管40の下面が熱交換パネル10の板面10aに接するように配置されている。これにより、熱交換パネル10と、配管40を流通する熱媒との間で効率よく熱交換を行うことができ、熱交換パネル10を効率よく冷却または加温することができる。また、配管40は、板面10aで蛇行するように配置されていてもよい。これにより、配管40と板面10aとの接触面積を大きくでき、熱交換パネル10をより効率よく冷却または加温することができる。
【0034】
循環装置50は、配管40と接続され、配管40を流通する熱媒を循環させる。循環装置50の構成は、冷温水を配管40に循環させることができ、冷温水と熱交換できれば、特に限定されない。循環装置50は、例えば、チラー、クーリングタワーで構成される。循環装置50の配置場所は特に限定されないが、本実施形態では、循環装置50は建築物Mの屋上に配置されている。なお、循環装置50を構成する装置の少なくとも一部が屋内または地中に設けられていてもよい。
【0035】
制御装置60は、循環装置50の制御を含めた空調システム1の全体の制御を行う。具体的には、制御装置60は、光センサ30によって検出された潜熱蓄熱材21の透過率に基づき、潜熱蓄熱材21の相状態を判定する。そして、潜熱蓄熱材21が所定の相状態(例えば、完全に固相状態)であると判定したとき、制御装置60は、熱媒の流量の調整または熱媒の循環の停止を行う。
【0036】
本実施形態では、制御装置60は、上部躯体11と熱交換パネル10との間の空間に設けられているが、配置場所はこれに限定されない。制御装置60は、例えば、居室13内に設けられていてもよいし、循環装置50の内部に設けられていてもよい。また、制御装置60は、光センサ30と一体に構成されていてもよい。制御装置60は、有線または無線により光センサ30および循環装置50と接続している。
【0037】
以下、図3を用いて、制御装置60の構成について説明する。図3は、制御装置60の構成を示すブロック図である。
【0038】
制御装置60は、制御部61と、予め測定した潜熱蓄熱材21が完全に固相状態または液相状態の際の透過率を記憶する記憶部62と、光センサ30が検出した潜熱蓄熱材21の透過率に基づき、潜熱蓄熱材21の相状態を判定する相状態判定部63と、光センサ30が検出した潜熱蓄熱材21の透過率に基づき、潜熱蓄熱材21中の固相と液相との割合を算出する割合算出部64とを含む。
【0039】
制御部61は、システムの制御を実行する。制御部61は、相状態判定部63からの情報に基づき、熱媒の循環を停止させる機能を有する。より詳細には、制御部61は、潜熱蓄熱材21の冷却時において、相状態判定部63が、潜熱蓄熱材21が完全に固相状態であると判定した場合、循環装置50による熱媒の循環を停止させる。なお、制御部61は、潜熱蓄熱材21が完全に固相状態であると判定された時間の合計が所定時間(例えば、30分間)を超えた場合に、循環装置50による熱媒の循環を停止させてもよい。
【0040】
また、制御部61は、割合算出部64からの情報に基づき、熱媒の循環を停止させる機能を有していてもよい。より詳細には、制御部61は、潜熱蓄熱材21の冷却時において、潜熱蓄熱材21中の固相の割合が所定の数値(例えば、80%)以上であると、割合算出部64が算出した場合に、循環装置50による熱媒の循環を停止させてもよい。
【0041】
また、制御部61は、相状態判定部63および割合算出部64からの情報に基づき、循環させる熱媒の量を調整する機能を有していてもよい。例えば、制御部61は、潜熱蓄熱材21の冷却時において、潜熱蓄熱材21中の固相の割合が所定の数値(例えば、80%)以上であると算出した場合に、循環させる熱媒の量を低下させてもよい。
【0042】
相状態判定部63は、固相状態の潜熱蓄熱材21の透過率が、液相状態の潜熱蓄熱材21の透過率よりも小さくなることを利用して、潜熱蓄熱材21の相状態を判定する。具体的には、相状態判定部63は、光センサ30が検出した潜熱蓄熱材21の透過率と、記憶部62に保存されている潜熱蓄熱材21が完全に固相状態の際の透過率と、の大小関係を比較する。そして、光センサ30が検出した潜熱蓄熱材21の透過率が、記憶部62に保存されている潜熱蓄熱材21が完全に固相状態の際の透過率と略同一であれば、潜熱蓄熱材21が固相状態であると判定する。同様に、相状態判定部63は、光センサ30が検出した潜熱蓄熱材21の透過率が、記憶部62に保存されている潜熱蓄熱材21が完全に液相状態の際の透過率と略同一であれば、潜熱蓄熱材21が液相状態であると判定する。なお、透過率が略同一とは、互いの透過率の差が、透過率の測定時のばらつき程度の差であることを意味し、例えば、互いの透過率の差が10%以内の差であることを意味する。
【0043】
また、相状態判定部63は、例えば、潜熱蓄熱材21の冷却時において、光センサ30が検出した潜熱蓄熱材21の透過率の経時変化を測定し、潜熱蓄熱材21の透過率が所定時間(例えば、30分)にわたって略同一である場合に、潜熱蓄熱材21が固相状態であると判定してもよい。この場合、相状態判定部63は、記憶部62に保存されている潜熱蓄熱材21が完全に固相状態の際の透過率を用いることなく、潜熱蓄熱材21の相状態を判定できる。その結果、測定環境等の変化により、潜熱蓄熱材21が完全に固相状態にもかかわらず、光センサ30が検出する潜熱蓄熱材21の透過率と、記憶部62に保存されている潜熱蓄熱材21の透過率とが略同一とならない場合であっても、潜熱蓄熱材21の相状態を判定できる。
【0044】
割合算出部64は、光センサ30が検出した潜熱蓄熱材21の透過率に基づき、潜熱蓄熱材21中の固相または液相の割合を算出する。具体的には、光センサ30が検出する潜熱蓄熱材21の透過率(T)が、記憶部62に保存されている潜熱蓄熱材21が完全に固相状態の際の透過率(T1)と、潜熱蓄熱材21が完全に液相状態の際の透過率(T2)との間である場合に、潜熱蓄熱材21中の固相の割合(P)は、下記式によって求めることができる。
P(%)=(T2-T)/(T2-T1)×100
【0045】
ここで、図4図6を用いて、潜熱蓄熱材21の温度と透過率の関係を説明する。以下では、本実施形態の空調システム1の潜熱蓄熱材21の内部に熱電対を設け、潜熱蓄熱材21の温度と透過率の関係を導出した実験結果を説明する。本実験では、循環装置50により配管40に16℃の冷水を一定時間循環させ、その後循環を停止させた。そして、熱電対および光センサ30により、冷水循環中および循環停止後の潜熱蓄熱材21の温度および透過率を測定した。
【0046】
図4は、降温過程および昇温過程における潜熱蓄熱材21の比熱を示した図である。本実施形態では、潜熱蓄熱材21として硫酸ナトリウム十水和物を用いた。図4に示すように、本実施形態の潜熱蓄熱材21は、冷却時は18~20℃で相変化が生じ、加温時は20~24℃で相変化が生じる蓄熱材である。また、相変化時の比熱は、昇温過程よりも降温過程で大きくなっている。
【0047】
図5は、冷却を開始してからの潜熱蓄熱材21の温度と透過率の経時変化の測定結果を示した図であり、図6は、潜熱蓄熱材21の温度と透過率の関係の測定結果を示した図である。
【0048】
図5に示すように、潜熱蓄熱材21の冷却を開始すると、潜熱蓄熱材21の温度の低下に伴い、光センサ30が検出する透過率が低下している。特に送水60分経過後から送水を停止するまでの間、潜熱蓄熱材の深部温度は、低下しているものの、変化の大きさは1℃未満と小さい一方、透過率は、低下率が徐々に小さくなり、略一定の透過率に収束するようにして、大きく変化している。この透過率の変化は、液相から固相への相変化に対応したものと考えられる。なお、図6に示すように、冷却時の潜熱蓄熱材21の温度と透過率とはおおよそ比例関係である。この結果から、光センサ30が検出する潜熱蓄熱材21の透過率(透過率)は、潜熱蓄熱材21の相状態(液相・固相)を反映した指標であると言える。
【0049】
また、本手法の正確性をさらに検証するため、光センサ30が検出する透過率と、予め測定した潜熱蓄熱材21が完全に固相状態の際の透過率とが一致する時点において、潜熱蓄熱材21の相状態を目視で確認した。すると、潜熱蓄熱材21は完全に固相状態であった。よって、この結果から冷却時の潜熱蓄熱材21の透過率を検出することで、潜熱蓄熱材21の相状態を検知できると言える。
【0050】
また、図5に示すように、潜熱蓄熱材21の冷却を停止し、潜熱蓄熱材21の加温が開始されると、潜熱蓄熱材21の温度の上昇に伴い、光センサ30が検出する透過率が増加している。そして、図6に示すように、加温時の潜熱蓄熱材21の温度と透過率とはおおよそ比例関係である。この結果から、潜熱蓄熱材21の加温時においても、光センサ30が検出する潜熱蓄熱材21の透過率(透過率)は、潜熱蓄熱材21の相状態(液相・固相)を反映した指標であると言える。
【0051】
次に、図7を参照しながら、本実施形態の空調システム1の動作について説明する。図7は、潜熱蓄熱材21の冷却時の空調システム1の動作を示すフローチャートであり、制御装置60の処理動作が示されている。
【0052】
図7に示すように、ステップS1において、光センサ30から潜熱蓄熱材21の透過率に関する情報を受信する。
【0053】
ステップS2において、光センサ30で検出された潜熱蓄熱材21の透過率に基づき、潜熱蓄熱材21中の固相の割合を算出する。本実施形態では、潜熱蓄熱材21中の固相の割合が80%以上か否かを判定する。潜熱蓄熱材21中の固相の割合が80%以上である場合(ステップS2:Yes)、ステップS3に進み、配管40を流通する熱媒の流量を低下させるように循環装置50の制御を行う。一方、ステップS2において、潜熱蓄熱材21中の固相の割合が80%以下である場合(ステップS2:No)、ステップS1に戻る。
【0054】
ステップS4において、再度、光センサ30から潜熱蓄熱材21の透過率に関する情報を受信する。そして、ステップS5において、光センサ30で検出された潜熱蓄熱材21の透過率に基づき、潜熱蓄熱材21が完全に固相状態か否かを判定する。具体的には、光センサ30で検出された潜熱蓄熱材21の透過率が、記憶部62に保存されている潜熱蓄熱材21が完全に固相状態の際の透過率(閾値)と略同一か否かを判定する。光センサ30で検出された潜熱蓄熱材21が閾値と略同一である場合(ステップS5:Yes)、ステップS6に進み、配管40を流通する熱媒の循環を停止させるように循環装置50の制御を行う。一方、光センサ30で検出された潜熱蓄熱材21が閾値と略同一でない、すなわち、潜熱蓄熱材21が完全に固相状態でない場合(ステップS5:No)、ステップS4に戻る。
【0055】
上記の通り、本実施形態の空調システム1は、光センサ30が検出した潜熱蓄熱材21の透過率に基づき、潜熱蓄熱材21の相状態を判定し、その判定結果に基づき熱媒の循環を制御する。これにより、潜熱蓄熱材21の蓄熱・蓄冷に消費されるエネルギーが抑制され、効率よく潜熱蓄熱材21の蓄熱・蓄冷が可能となる。また、透過率の検出に用いる照射光は、潜熱蓄熱材21の内部を通過するため、容器22の表面側に存在する潜熱蓄熱材21だけでなく、容器22の内部に存在する潜熱蓄熱材21の相状態も正確に検知することができる。さらに、本実施形態の空調システム1は、潜熱蓄熱材21の温度変化に基づき、潜熱蓄熱材21の相状態を判定していない。これにより、潜熱蓄熱材21が不純物を含有し、相変化時の温度変化が一様でない場合であっても、潜熱蓄熱材21の相状態を正確に検知することができる。
【0056】
なお、本発明は上記の実施形態およびその変形例に限定されるものではなく、本願の特許請求の範囲に記載された事項の範囲内において種々の変更や改良が可能であることは勿論である。
【0057】
例えば、上記の実施形態においては、光センサ30により潜熱蓄熱材21の透過率を検出する構成としているが、散乱光(例えば、波長変化を伴わない弾性散乱)を検出する構成としてもよい。固相状態の潜熱蓄熱材21による散乱光は、液相状態の潜熱蓄熱材21による散乱光よりも強くなる。そのため、透過率を検出した場合と同様に、光センサ30が検出した潜熱蓄熱材21からの散乱光の強さと、完全に固相状態または液相状態の際の潜熱蓄熱材21からの散乱光の強さと、の大小関係を比較することで、潜熱蓄熱材21の相状態を判定できる。なお、潜熱蓄熱材21からの散乱光を検出する場合は、図8に示すように、発光部31および受光部32は、熱交換部20の片側一方に配置される。発光部31は、発光部31から照射される光が、潜熱蓄熱材21の側面に対して所定の角度で入射されるように配置され、受光部32は潜熱蓄熱材21で散乱された光を受光可能な位置に配置される。
【符号の説明】
【0058】
1 空調システム、10 熱交換パネル、10a,10b 板面、11 上部躯体、11b 底面、12 下部躯体、12a 表面、13 居室、20 熱交換部、21 潜熱蓄熱材、22 容器、22a 貫通孔、30 光センサ、31 発光部、32 受光部、40 配管、50 循環装置、60 制御装置、61 制御部、62 記憶部、63 相状態判定部、64 割合算出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8