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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158949
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】超電導線材の製造方法及び焼成炉
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/00 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
H01B13/00 561Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074605
(22)【出願日】2023-04-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2022年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「航空機用先進システム実用化プロジェクト/次世代電動推進システム研究開発/高効率かつ高出力電動推進システム」の委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000002255
【氏名又は名称】SWCC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 迪夫
【テーマコード(参考)】
5G321
【Fターム(参考)】
5G321AA04
5G321CA24
5G321DB22
5G321DB46
(57)【要約】
【課題】安定した超電導特性を有する超電導線材を短時間で確実に製造できること。
【解決手段】超電導前駆体の膜体が形成されたテープ状線材を、炉心管内の加熱領域に走行させて超電導線材を製造する超電導線材の製造方法であって、前記炉心管は、前記加熱領域に、走行する前記テープ状線材の上方に配置され、前記膜体に反応性の雰囲気ガスを上方から前記膜体に垂直方向で吹き付けるよう案内し、且つ、前記雰囲気ガスを前記膜体上から前記膜体の幅方向における両側方に流れるよう案内する整流部を有し、前記膜体は、前記整流部により案内される前記雰囲気ガスと反応して超電導層を形成する、超電導線材の製造方法。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導前駆体の膜体が形成されたテープ状線材を、炉心管内の加熱領域に走行させて超電導線材を製造する超電導線材の製造方法であって、
前記炉心管は、前記加熱領域に、走行する前記テープ状線材の上方に配置され、前記膜体に反応性の雰囲気ガスを上方から前記膜体に垂直方向で吹き付けるよう案内し、且つ、前記雰囲気ガスを前記膜体上から前記膜体の幅方向における両側方に流れるよう案内する整流部を有し、
前記膜体は、前記整流部により案内される前記雰囲気ガスと反応して超電導層を形成する、
超電導線材の製造方法。
【請求項2】
前記雰囲気ガスは、前記整流部により、前記テープ状線材の前記膜体の上方に、当該テープ状線材の走行方向に沿って複数配設された供給孔から前記膜体に吹き付けるように案内されて供給され、
前記膜体上の反応後の前記雰囲気ガスは、前記整流部により、前記膜体の幅方向の両側方で複数配設された排気孔に案内されて前記排気孔から排出される、
請求項1記載の超電導線材の製造方法。
【請求項3】
前記整流部は、
走行する前記テープ状線材の前記膜体の上方で、前記膜体の幅方向で互いに離間して対向して配置され、夫々前記膜体に対して垂直方向及び前記膜体の長手方向に延在する一対の第一面部と、
前記膜体上で、前記一対の第一面部の下端部から前記膜体の両側方に夫々延出し、且つ、夫々前記長手方向に延在して設けられる一対の第二面部と、
を有し、
前記一対の第一面部は、前記雰囲気ガスを前記膜体上に垂直に案内し、
前記一対の第二面部は、反応後の前記雰囲気ガスを前記膜体から前記膜体の両側方に案内する、
請求項1記載の超電導線材の製造方法。
【請求項4】
内部に超電導前駆体の膜体が形成されたテープ状線材が走行する炉心管と、
前記炉心管の内部を加熱する加熱部と、
を有し、
前記炉心管は、走行する前記テープ状線材の膜体の上方に配置され、前記膜体の上方から反応性の雰囲気ガスを前記膜体に垂直方向で吹き付けるよう案内し、且つ、前記膜体上の前記雰囲気ガスを前記膜体の両側方に流れるよう案内する整流部と、
を有し、
前記整流部は、加熱される前記膜体に前記雰囲気ガスを案内して反応させて超電導層を形成する、
焼成炉。
【請求項5】
前記整流部は、
走行する前記テープ状線材の前記膜体の上方で、前記膜体の幅方向で離間して対向配置され、夫々前記膜体に対して垂直方向及び前記膜体の長手方向に延在する一対の第一面部と、
前記膜体上で前記第一面部の下端部から前記膜体の両側方に夫々延出して配置され、且つ、夫々前記長手方向に延在して設けられる一対の第二面部と、
を有し、
前記一対の第一面部は、前記雰囲気ガスを前記膜体の上方から前記膜体に垂直方向で案内し、
前記一対の第二面部は、前記膜体上の反応後の前記雰囲気ガスを前記膜体から前記膜体の両側方に案内する、
請求項4記載の焼成炉。
【請求項6】
前記整流部は、テープ状線材の幅に対する一対の第一面部同士の間の長さの比が0.5~2.0であり、
テープ状線材の幅に対する前記一対の第二面部と上面部との面の高さの比が0.5~2.0である
請求項5に記載の焼成炉。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導線材の製造方法及び焼成炉に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酸化物超電導線材としては、RE:Ba:Cu=1:2:3の定比組成ではなく、Ba<2とした低Ba組成超電導原料溶液を用いたREBaCu酸化物超電導線材(以下、「REBCO線材」と称する。)が知られている(ここで、x<2、z=6.2~7であり、REは、Y、Nd、Sm、Eu、Gd及びHoから選択された少なくとも1種以上の元素を示す。)。REBCO線材は、NbSnやNbAl等の金属系超電導体と比較して、臨界温度Tcが高い。REBCO線材は、超電導マグネット、超電導送電ケーブル、限流器、発電機、モータ、変圧器、モータ等の超電導応用機器への使用に適する。
【0003】
REBCO線材の製法として、有機金属塩塗布熱分解法(MOD製法)が知られている。有機金属塩にTFA塩(トリフルオロ酢酸塩)を用いるTFA―MOD製法では、まず、基材に低Ba組成比のTFA塩等を含む超電導液を塗布した後に仮焼成熱処理を行い、超電導前駆体を形成する。次いで、超電導前駆体に、本焼成熱処理として結晶化熱処理を施すことで超電導層を有する超電導線材が製造される。
【0004】
この超電導線材の結晶化熱処理のプロセスとしては、例えば、特許文献1に示すように、Reel-To-Reel方式(以下、「RTR式」と称する。)の熱処装置を用いる方法が知られている。RTR式の熱処理装置を用いる方法では、線材送り出し機構及び巻き取り機構であるリールを、トンネル形状の炉心管の両端に設置し、炉心管内を加熱し雰囲気ガスを供給しつつ、線材を一定速度で炉心管内を移動させ、前駆体を結晶化させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-269347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
RTR式焼成炉では、炉心管内に線状部材を直線状に走行させるため、バッチ式と比べて炉内の容積が少なくてよく、導入するガス量を減少できる。しかし、線材と比較すると炉心管内はまだ広いため、炉心管内全体に雰囲気ガスを一様に行き渡らせて制御することは困難である。特に、この方法でも供給するガス量が多いという問題がある。
【0007】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、少ないガス量で、かつ短時間で安定した特性を有する超電導線材を確実に製造できる超電導線材の製造方法及び焼成炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の超電導線材の製造方法は、
超電導前駆体の膜体が形成されたテープ状線材を、炉心管内の加熱領域に走行させて超電導線材を製造する超電導線材の製造方法であって、
前記炉心管は、前記加熱領域に、走行する前記テープ状線材の上方に配置され、前記膜体に反応性の雰囲気ガスを上方から前記膜体に垂直方向で吹き付けるよう案内し、且つ、前記雰囲気ガスを前記膜体上から前記膜体の幅方向における両側方に流れるよう案内する整流部を有し、
前記膜体は、前記整流部により案内される前記雰囲気ガスと反応して超電導層を形成するようにした。
【0009】
本発明の焼成炉は、
内部に超電導前駆体の膜体が形成されたテープ状線材が走行する炉心管と、
前記炉心管の内部を加熱する加熱部と、
を有し、
前記炉心管は、走行する前記テープ状線材の膜体の上方に配置され、前記膜体の上方から反応性の雰囲気ガスを前記膜体に垂直方向で吹き付けるよう案内し、且つ、前記膜体上の前記雰囲気ガスを前記膜体の両側方に流れるよう案内する整流部と、
を有し、
前記整流部は、加熱される前記膜体に前記雰囲気ガスを案内して反応させて超電導層を形成する構成を採る。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、安定した特性を有する超電導線材を短時間で確実に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の実施の形態に係る炉心管を含む超電導線材の製造装置の全体構成を示す概略図である。
図2A図2Aは、焼成炉の正面図である。
図2B図2Bは、焼成炉の全体を示す概略側面図である。
図3図3は、図2BのA-A線断面図である
図4図4は、炉心管の要部構成を示す部分側面図である。
図5図5は、炉心管の要部構成を示す部分上面図である。
図6図6は、炉心管の要部構成を示す部分底面図である。
図7図7は、整流板の斜視図である。
図8図8は、炉心管の要部構成を示す拡大断面図である。
図9図9は、炉心管において膜体に反応させる雰囲気ガスの流れを示す図である。
図10図10は、解析によるテープ状線材の表面近傍のガスの幅方向における流速と供給流路の幅との関係を示す図である。
図11図11は、解析によるテープ状線材の表面近傍のガスの幅方向における流速と排気流路の幅との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る炉心管を含む超電導線材の製造装置の全体構成を示す概略図である。図2Aは、焼成炉の正面図であり、図2Bは、焼成炉の全体を示す概略側面図であり、図3は、図2BのA-A線断面図である。
【0013】
なお、本実施の形態において前(正面)、後(背面)、左、右とは、製造システムで製造される際に、超電導線材が搬送される方向(図1において、右から左)において、先端側、つまり図1において左側が前であり、搬送方向の基端側、つまり、右側が後であり、軸方向を基準に左右上下である。なお、これら本実施の形態において、超電導線材の製造方法を説明するために使用される上、下、左、右、前、後等の方向に関わる表現は、絶対的なものでなく相対的なものである。
【0014】
図1に示す超電導線材の製造装置1は、超電導前駆体の膜体が形成されたテープ状線材Kを、焼成炉10の炉心管100内の加熱領域に走行させて超電導線材を製造する。
製造装置1は、超電導前駆体の膜体を有するテープ状線材Kを走行させて本焼成を行う焼成炉10と、テープ状線材Kを焼成炉内に移動するRTR式のテープ移動装置3と、を有する。
【0015】
テープ移動装置3は、焼成炉10の両端部(入口と出口)の夫々に配置されたリール部3aおよびリール部3bを有する。入口側のリール部3aからテープ状線材Kを焼成炉10内の走行路内に繰り出し、出口側のリール部3bで、焼成炉10から導出されるテープ状線材Kを巻き取り可能となっている。
【0016】
テープ移動装置3は、リール部3a、3b間の焼成炉10内にテープ状線材Kを通して、焼成炉10中にテープ状線材Kを一定速度で移動させる。
【0017】
焼成炉10は、図2Bに示すように、移動台部12に搭載され、長尺の焼成炉筐体11内部に、両端部が焼成炉筐体11の両端部から突出する炉心管100と、加熱部30とを有する。焼成炉10は、例えばハステロイなどの耐熱性を有する金属材料により構成される。
【0018】
焼成炉10は、炉心管100内を走行するテープ状線材Kの超電導前駆体に、雰囲気ガスを、炉心管100内の加熱領域102で反応させて超電導層を形成する。なお、焼成炉10は、炉心管100の加熱部30を制御する加熱制御部14と、炉心管100内への雰囲気ガス(反応性ガス)の供給を制御する供給制御部16とを有し、例えば、移動台部12に配設されている。
【0019】
加熱部30は、炉心管100、詳細には炉心管100を走行するテープ状線材Kを加熱する。加熱部30は、例えば、熱輻射により加熱する電気ヒータであり、炉心管100の外部に配置されている。
【0020】
図2A図2B及び図3に示す加熱部30は、炉心管100を上下で挟み、炉心管100の全域に亘るように、炉心管100の外面に沿って、炉心管100の長手方向に延在して配設されている。加熱部30は、炉心管100を囲む矩形筒状の筐体の上面に取り付けられる上部加熱部32と、筐体の下面に取り付けられる下部加熱部34を含む。加熱部30は、加熱制御部14により制御される。
【0021】
この加熱部30により、炉心管100の内部は加熱され、走行するテープ状線材Kの超電導前駆体である膜体を結晶化させる。なお、加熱部30は炉心管100内を走行するテープ状線材Kを加熱するものであればよく、どのように構成、配置されてもよい。
【0022】
なお、炉心管100には、ガス導入管40、ガス排出管50が接続されている。具体的には、図4に示すように、炉心管100内において、ガス導入管40は、炉体110に設けられた接続管42に接続されている。ガス導入管40は、供給される雰囲気ガス(反応性ガス)を炉心管100(炉体110)内の加熱領域102(図3参照)の膜体に当たるように案内する。ガス排気管50は、炉心管100内を流れた雰囲気ガス(主に、反応後の雰囲気ガス)を排出する。
【0023】
ガス排気管50は、一端部であるL型の排気接続管52を炉体110の下面に設けられた開口部104(図3参照)に接続されている。
【0024】
雰囲気ガスは、ガス導入管40を通じて焼成炉10外に配置された図示しない雰囲気ガス供給装置からガス導入管40に送給されるようにしてもよく、その際に焼成炉10の供給制御部16により、雰囲気ガスの導入流量、速度、導入タイミング等を制御するようにしてもよい。また、雰囲気ガス供給装置により雰囲気ガスの供給を制御するようにしてもよい。
【0025】
供給制御部16或いは図示しない雰囲気ガス供給装置は、炉心管100内への雰囲気ガスの供給を圧力制御により行う。例えば、供給制御部或いは雰囲気ガス供給装置は、雰囲気ガスを、ガス導入管40を介して圧力により炉心管100に供給し、ガス排気管50に接続された図示しないポンプ等の吸引部を介して、ガス排気管50から排出される雰囲気ガスを引いてその流速を調整自在に構成されてもよい。
【0026】
図3は、図2BのA-A線断面図であり、図4は、炉心管の要部構成を示す図2BのB部分の拡大側面図であり、図5は、図4に示す炉心管の要部構成を示す部分上面図である。図6は、図4に示す炉心管の要部構成を示す部分底面図である。
【0027】
炉心管100は、図3図6に示すように、筒状の炉体110と、炉体110内を仕切る整流部120と、上仕切り板180と、テープ状線材Kの走行路を形成する走行台部140と、を主に有する。
【0028】
炉心管100では、テープ状線材Kの走行領域でもある内部が、整流部120、走行台部140、上仕切り板180で仕切られている。これにより、仕切り板180に備えられる供給孔152から、走行台部140内の上面145を経て、走行台部140の排気孔162までの雰囲気ガスの流路が、直線的にL字状に規定され、効率よく雰囲気ガスが流れるように構成されている。雰囲気ガスは、整流部120により形成される流路により、供給孔152から排出孔162までの淀みのない一様の流れが形成される。なお、走行領域は、加熱部30によりにおいてテープ状線材Kが加熱される加熱領域102でもある。
【0029】
炉体110は、長尺の矩形筒状体であり、内部に整流部120と走行台部140と上仕切り板180とが、長手方向に延在して配置されている。ここで、炉体110は、例えば、テープ状線材Kが走行する方向における断面が正方形状の筒体である。
【0030】
図7は、整流板の斜視図であり、図8は、炉心管の要部構成を示す拡大断面図である。
炉体110は、特に、整流部120により、整流部120の下方を走行するテープ状線材Kの超電導前駆体である膜体に、反応性の雰囲気ガスを、膜体の上方から垂直方向で吹き付けるよう案内し、且つ、雰囲気ガスを膜体上から膜体の両側方に流れるよう案内する。
【0031】
走行台部140は、テープ状線材Kの走行方向に延在する断面U字状のレール142と、レール142内に配置される台部本体144およびテープ状線材Kが走行する走行面となる上面145を有する。
【0032】
台部本体144の上面145を、テープ状線材Kが、リール部3a、3bの駆動により、台部本体144の延在方向に水平に移動する。
【0033】
台部本体144の両側方には、複数の排気孔162が、走行台部140の延在方向に並んで複数配設されている。排気孔162は、レール142のU字形状の断面における両側方の上端部に夫々形成されている。
【0034】
図8に示すように、排気孔162は、加熱領域102と、内部下部空間とを連通させている。内部下部空間は、加熱領域102の外部の排気路を形成する。内部下部空間には、排気接続管52が接続され、排気孔162から排出された反応後のガスは、内部下部空間を通り、排気接続管52から炉体110の外部に排出される。ここで、内部下部空間は、炉体110内部の、整流板より下方の、炉体110の内面と、台部本体144との間の空間である。
【0035】
台部本体140の上方には、整流部120が配設されている。なお、レール142の上端部は、夫々整流部120に接合されている。走行台部140は、整流部120とともに炉体110内の加熱領域102においてガスが流れる流路を形成する。
【0036】
整流部120は、上部で接合される上仕切り板180の供給孔152から供給される雰囲気ガスを、上面145上のテープ状線材K、具体的には、上面145の幅方向の中心に案内して上方から吹き付ける。
【0037】
図9に示すように、整流部120は、一対の整流部材122、124により構成される。整流部材122、124は、それぞれ第一面部122a、124aおよび、第一面部の下部端で第一面部と直交する第二面部122b、124bを有する。第一面部122および第二面部124は、夫々平面を有する板状部材である。整流部材122の第一面部122aと、第二面部122bとは、直交するよう接合して構成される。なお、整流部材122は、第一面部122aと、第二面部122bとが直交していればよく、一の部材を曲げ加工されて構成されてもよい。整流部材124についても整流部材122と同様に構成される。
【0038】
整流部材120は、炉体110の内部で、一対の第一面部122a、124aが、上面145上のテープ状線材Kの膜体の上方に位置し、かつ一対の第二面部122b、124bが第一面部の走行台部140の上方に位置して備えられる。ここで、整流部材122、124は、炉体110内に、一対の整流部材122,124が、図9における供給孔152の中心を通る垂直線に対して対称に配置される。整流部材122、124は、第一面部122a、124aの上端が仕切り板180に接合するとともに、第二面部122b、124bの第一面部と直交しない側の端が、それぞれ炉体110の内面に接合する。ここで、整流部120の第二面部122b、124bと走行台部140のそれぞれ上端とが接合する。また、整流部120の第二面部122b、124bは、走行台部140の上端とそれぞれ接合する。
【0039】
一対の第一面部122a、124aは、夫々テープ状線材Kの膜体の幅方向、つまり、上面145の幅方向で互いに離間して対向して配置され、夫々膜体の位置に対応する上面145に対して垂直方向及び膜体の長手方向に延在する。
【0040】
一対の第一面部122a、124aは、供給孔152から供給される雰囲気ガスを、幅方向、つまり、炉心管100の幅方向で挟むように配置され、互いに対向する面を有する。一対の第二面部122a、124aは、雰囲気ガスの流路を幅方向における垂直方向に仕切る。
【0041】
一対の第一面部122a、124aは、供給孔152から供給される雰囲気ガスを垂直下方に案内して流す。本実施の形態では、一対の第一面部122a、124aは、供給孔152からの雰囲気ガスを、走行台部140の上面145のテープ状線材Kに向かって吹き出すように案内する。
【0042】
一対の第二面部122b、124bは、一対の第一面部122a、124aの下端部の夫々から、第一面部122a、124aの面に対して夫々直交して、膜体(上面145)上で、膜体の両側方に夫々延出し、炉体110の内面に接合する。ここで、一対の第二面部122a、124aは、夫々台部本体144(膜体に対応)の長手方向に延在して設けられている。第二面部122b、124bは、上面145と離間して対向するよう配置されている。第二面部122b、124bと上面145とで、雰囲気ガスの流路を仕切る。第二面部122b、124bおよび上面145により仕切られた流路を、排出流路と称することがある。
【0043】
上仕切り板180は、供給孔152を有し、炉体110内において、接続管42を介して供給される供給領域と加熱領域102とを仕切り、供給孔152を介して雰囲気ガスを供給領域から加熱領域102に供給する。なお、接続管42は、炉体110の上面に接続され、供給領域内に雰囲気ガスを供給する。
【0044】
供給孔152は、上仕切り板180において、炉体110の幅方向の中央に設けられている。炉体110の幅方向の中央は、走行台部140上を走行するテープ状線材Kの幅方向における中央と対応する。すなわち、供給孔152は、上仕切り板180におけるテープ状線材Kの中央の真上に、鉛直方向で貫通して配設されている。
【0045】
<供給孔及び排気孔>
供給孔152及び排気孔162は、雰囲気ガスを、炉心管100の加熱領域102において、テープ状線材Kの超電導前駆体である膜体の全面を同じく反応させることが好ましい。供給孔152及び排気孔162は、図4図6に示すように、夫々走行方向に所定の間隔を空けて、複数配設される。ここで、供給孔152及び排気孔162は、等間隔に配設されても良い。これにより、供給孔152及び排気孔162は、さらに、雰囲気ガスを、膜体の全面に渡って同じように流すことができ、膜体の全面で同じように反応させることができる。また、供給孔152及び排気孔162は、互いに対応する位置に配設されてもよい。
【0046】
<本実施の形態の本焼成(超電導層形成)処理>
図9は、炉心管において膜体に反応させる雰囲気ガスの流れを示す図である。
炉心管100では、加熱領域102において、テープ状線材K(詳細には表面の超電導前駆体である膜体)に対して加熱しつつ、雰囲気ガス(反応性ガス)を当てて、走行台部140上で走行させる。
【0047】
具体的には、炉心管100では、ガス導入管40により供給される雰囲気ガスは、供給孔152から加熱領域102内に供給される。この際、ガスの流速、流量により、加熱領域102内に吹き付けるように供給可能である。
【0048】
加熱領域102内で整流部120は、一対の第一面部122a、124aが、供給孔152の下方かつテープ状線材Kの膜体の上方で、平面視して膜体を挟むような位置に配設されている。これにより、一対の第一面部122a、124aは、供給孔152から供給された雰囲気ガスを拡散させるとともに一様な流れとなるように整流して、走行台部140の上面145に案内する。
【0049】
供給孔152から供給され、一対の第一面部122a、124aにより整流された雰囲気ガスは、加熱領域102のテープ状線材Kの膜体に、上方から垂直に当たる。これにより、膜体は、結晶化反応を効率よく発生する。
【0050】
また、テープ状線材Kの膜体に当たった雰囲気ガスは、一対の第二面部122b、124bと、走行台部140の上面145との間の排出流路を流れ、テープ状線材Kの幅方向における両側方向に排出する。
【0051】
具体的には、図9に示すように、膜体上に垂直に供給された雰囲気ガスは、膜体と結晶化反応して電導層を形成する。ここで、膜体には上方から新たな雰囲気ガスが連続して供給されるとともに、両側方の排気孔162からの排気されることにより、反応後のガスは膜体に沿って両側方向に移動し、夫々の排気孔162から排気される。
【0052】
テープ状線材Kの膜体は、整流部120により案内される反応性ガスである雰囲気ガスと反応して超電導層として形成される。
【0053】
ここで、整流部120の作用について説明する。
図10は、解析によるテープ状線材の表面近傍のガスの幅方向における流速と供給流路の幅との関係を示す図である。図11は、解析によるテープ状線材の表面近傍のガスの幅方向における流速と排気流路の幅との関係を示す図である。なお、図10及び図11に示すH、Xは、図9に示す加熱領域102における供給孔152からテープ状線材Kに到るまでの雰囲気ガスの供給流路の幅Hであり、テープ状線材Kの表面から両側方の排気孔162に到るまでの雰囲気ガスの排出流路における流路の幅(高さ)Xである。図10及び図11は、テープ状線材の表面近傍のガスの幅方向における流速と供給流路の幅との関係における、線材幅方向の中心を0mmとした場合の、テープ状線材の表面近傍のガスの線材幅方向の0mm以上における雰囲気ガスの流速を示す。例えば、10mm幅のテープ状超電導線材が用いられた場合、図10及び図11における線材幅5mmの位置が、テープ状線材Kの端の位置となる。なお、炉体110は、供給孔152の中央を通る中心線に対して対称であり、排出される雰囲気ガスのテープ状線材の幅と流速と関係は、線材幅0mmを通る線に対して対称となる。
【0054】
これらX、Hは、整流部120の構成により設定される。
具体的には、供給流路の幅Hは、本焼成するテープ状線材Kの上方にある一対の第一面部122a、124aの面間の距離であり、排出流路の高さXは、テープ状線材Kの両側方に配置される一対の第二面部122b、124bと、上面145との面間の長さである。ここで、テープ状線材Kの厚さはXの長さに比べて十分に小さいので、一対の第二面部122b、124bと上面145との面間の長さを、膜体と上面145との面間の長さとみなすことができる。このように、H、Xは整流部120により設定される。
また、図10図11は、長手方向全域において雰囲気ガスの流速は均一となるように構成され、夫々加熱領域102を画成する構成において、H或いはXを可変させた際のテープ状線材Kの表面近傍の雰囲気ガスの幅方向における流速に関する。
【0055】
図10に示すように、加熱領域102内に供給される雰囲気ガスの流量、供給孔152,排気孔162の径を夫々一定、かつテープ状線材Kの上方の一面部122a、124aの面間の距離Hを一定(例えばH=10)にして、一対の第二面部122b、124bと上面145との間の高さXを、変更すると、テープ状線材Kの表面近傍におけるガスの流速を変更できる。この場合、例えば、高さX=10からX=5に変更することで、テープ状線材Kの表面近傍におけるガスの流速を早くすることができる。
【0056】
整流部120により形成される流路を流れるガスは、層状の流れであり、整流部120により形成される流路をガスに大きい淀みを生じない。このため、テープ状線材Kの膜体に安定した超電導層を形成することができる。
【0057】
また、図11に示すように、加熱領域102内に供給される雰囲気ガスの流量、供給孔152、排気孔162の径の各々を一定、かつ高さXを一定(例えばX=5)にして、距離Hを可変(例えば、距離H=5、10、20)することにより、テープ状線材Kの表面近傍におけるガスの流速を変更できる。この場合、例えば、高さH=20からH=10、またはH=10からH=5に変更することで、テープ状線材Kの表面近傍におけるガスの流速を早くすることができる。
【0058】
整流部120では、雰囲気ガスの流量を一定にして、供給孔152および排気孔162の径を各々一定、Hを一定(H=10)にした場合における、テープ状線材Kの幅Wに対して、一対の第一面部122a、124aの面間の距離Hは、テープ状線材の幅Wに対して、0.5~2.0倍の範囲であることが好ましく、更に好ましくは、1.0~1.1倍であることが好ましい。これにより、供給するガスの流量を増やすことなく、テープ状線材Kへ吹付するガスの流速を高めることができるので、テープ状線材Kの表面における反応の速度を高めることができる。
【0059】
また、第二面部122b、124bと上面145の高さXは、テープ状線材の幅Wに対して、0.2~1.0倍の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは、0.4~0.6である。これにより、供給するガスの流量を増やすことなく、テープ状線材Kの表面近傍におけるガスの流速を早めることができる。これにより、テープ状線材の膜体と反応後に生成されるガスを滞留させることなくテープ状線材の膜体上から除去することができるので、ガスとテープ状線材Kの表面との反応効率を高めることができる。
【0060】
さらに、供給流路の幅Hと排出流路の高さXとを調整することで、ガスを供給孔から排出孔までの間で、大きな淀みのない一様な流れとすることができる。これにより、流速テープ状線材の幅方向における反応のバラツキを抑制することができ、かつ無駄なガスの供給を抑制することができる。
【0061】
このように整流部120は、テープ状線材の幅Wに対する一対の第一面部122a、124aの面間の距離Hの比が0.5~2.0であり、テープ状線材の幅Wに対する一対の第二面部122b、124bと上面部145との間の高さXの比が0.5~2.0である。
【0062】
さらに好ましくは、テープ状線材の幅W:一対の第一面部の面間の距離H:一対の第二面部と上面の高さXが2:2:1である。これにより、さらに、加熱領域102におけるガスの流れの速さを、テープ状線材の膜体と反応後に生成されるガスを滞留させることなくテープ状線材の膜体上から除去し、かつ大きな淀みのない一様な流れとすることができる。よって、さらに、テープ状線材の幅方向における反応のバラツキを抑制することができ、かつ無駄なガスの供給を抑制することができる。
【0063】
焼成炉10では、テープ状線材の超電導前駆体の焼成において、整流部120を有するので、加熱するテープ状線材Kの上方から雰囲気ガスを垂直に吹き付けて反応させて、かつ反応後のガスを幅方向に逃がしつつ制御する。本実施の形態によれば、焼成炉10を用いて、本焼成処理を、整流部120を用いずに行う場合と比較して短時間で行うことができるので、安定した特性を有するテープ状線材Kを超電導線材として短時間で確実に製造できる。従来のバッチ式やRTR式での製造と比較して、超電導線材の製造速度の向上も図ることができる。
【0064】
また、整流部120により、供給する雰囲気ガスを効率良くテープ状線材Kの超電導前駆体である膜体に当てて反応させて、反応後の雰囲気ガスを効率良く排気するので、従来のバッチ式やRTR式での製造と比較して使用する雰囲気ガスを低減できる。
【0065】
なお、上述の実施の形態では、炉体110の外形は筒状で、テープ状線材Kの走行領域、雰囲気ガスの流路を備えていれば、どのような外形でもよい。また、ガス導入管40、ガス排気管50等の接続位置は、炉心管100に対して、雰囲気ガスの流れを一様にできれば、どのような位置で接続されてもよい。また、炉心管100内において、加熱領域102に連続する供給孔152、排気孔162は、整流部120の仕切りによりテープ状線材Kの膜体に対して垂直に当たり、反応後、膜体表面に沿って雰囲気ガスを迅速に排気するように案内される。このように構成されていれば、排気孔162からガス排気管50への接続、ガス導入管40における接続管42への接続は、どのように行われてもよい。
【0066】
以上、本発明の実施の形態について説明した。なお、以上の説明は本発明の好適な実施の形態の例証であり、本発明の範囲はこれに限定されない。つまり、上記装置の構成や各部分の形状についての説明は一例であり、本発明の範囲においてこれらの例に対する様々な変更や追加が可能であることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明に係る超電導線材の製造方法及び焼成炉は、安定した超電導特性を有する超電導線材を短時間で確実に製造できる効果を有し、特に、MOD法で製造される酸化物超電導線材の製造に用いられるものとして有用である。
【符号の説明】
【0068】
1 製造装置
3 テープ移動装置
3a、3b リール部
10 焼成炉
11 焼成炉筐体
12 移動台部
14 加熱制御部
16 供給制御部
30 加熱部
32 上部加熱部
34 下部加熱部
40 ガス導入管
42 接続管
50 ガス排気管
52 排気接続管
100 炉心管
102 加熱領域
104 開口部
110 炉体
120 整流板(整流部)
122a、124a 第一面部
122b、124b 第二面部
140 走行台部
142 レール
144 台部本体
145 上面
152 供給孔
162 排気孔
180 上仕切り板
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11