(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158950
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】発酵飲食品
(51)【国際特許分類】
A23L 5/00 20160101AFI20241031BHJP
A23L 33/125 20160101ALI20241031BHJP
A23L 11/65 20210101ALI20241031BHJP
C12P 19/04 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
A23L5/00 J
A23L33/125
A23L11/65
C12P19/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074607
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】312017444
【氏名又は名称】ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】北澤 春樹
(72)【発明者】
【氏名】仲田 創
【テーマコード(参考)】
4B018
4B020
4B035
4B064
【Fターム(参考)】
4B018MD28
4B018MD29
4B018MD30
4B018MD31
4B018MD33
4B018MD58
4B018MD86
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF13
4B020LB18
4B020LC05
4B020LK05
4B020LK18
4B020LP18
4B035LC06
4B035LG17
4B035LG19
4B035LG20
4B035LG33
4B035LG50
4B035LP42
4B064AF11
4B064CA02
4B064CE03
4B064CE06
4B064CE17
4B064DA10
(57)【要約】
【課題】菌体外多糖(EPS)を産生させ、菌体外多糖を含有することで免疫賦活効果を有する発酵飲料品を提供する。
【解決手段】(A)グルコース、ラクトース、ラフィノース、パラチノース、スタキオースからなる群のいずれか1以上の糖と、(B)スクロースとを重量比(A):(B)=1:5~1:1の割合で含む基材を乳酸菌ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)の菌体外多糖(EPS)高生産株によって発酵させて得られる菌体外多糖(EPS)を含有する、発酵飲食品。
【選択図】
図1-1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)グルコース、ラクトース、ラフィノース、パラチノース、スタキオースからなる群のいずれか1以上の糖と、(B)スクロースとを重量比(A):(B)=1:5~1:1の割合で含む基材を、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)の菌体外多糖(EPS)高生産株によって発酵させて得られる菌体外多糖(EPS)を含有する、発酵飲食品。
【請求項2】
前記基材が豆乳であることを特徴とする、請求項1に記載の発酵飲食品。
【請求項3】
基材中の(A)のいずれか1以上の糖含量と(B)スクロース含量の重量比が、(A):(B)=1:5~1:1であることを特徴とする、請求項1または2に記載の発酵飲食品。
【請求項4】
ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)の菌体外多糖(EPS)高生産株用発酵基材であって、培地中の(A)グルコース、ラクトース、ラフィノース、パラチノース、スタキオースからなる群のいずれか1以上の糖の含量と(B)スクロース含量の重量比が(A):(B)=1:5~1:1となるよう調整されたものである、菌体外多糖(EPS)産生乳酸菌用発酵基材。
【請求項5】
(A)グルコース、ラクトース、ラフィノース、パラチノース、スタキオースからなる群のいずれか1以上の糖の含量と(B)スクロース含量の重量比が(A):(B)=1:5~1:1である基材を、
ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)の菌体外多糖(EPS)高生産株によって発酵させることによる、免疫賦活に優れた菌体外多糖(EPS)の産生方法。
【請求項6】
免疫賦活がNK活性向上および/又はIL-12産生促進によるものである、請求項5に記載の菌体外多糖(EPS)の産生方法。
【請求項7】
(A)グルコース、ラクトース、ラフィノース、パラチノース、スタキオースからなる群のいずれか1以上の糖の含量と(B)スクロースの含量の重量比が(A):(B)=1:5~1:1である基材を
ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)の菌体外多糖(EPS)高生産株によって発酵させて得られる菌体外多糖(EPS)を投与することによる、免疫賦活方法。
【請求項8】
免疫賦活がNK活性向上活性および/又はIL-12産生促進によるものであることを特徴とする、請求項7に記載の免疫賦活方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii ssp.bulgaricus;ブルガリア菌とも呼ばれる)やストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)等の乳酸菌を用いて牛乳を発酵することで製造されるヨーグルトをはじめとする発酵乳中には、菌体外多糖(EPS)が含まれていることが知られている。
そして近年の世界的な感染症の流行等を受けて、免疫力向上に対する消費者の関心が大きくなってきているが、これまでにこの乳酸菌が産生する菌体外多糖(EPS)が免疫賦活活性を有することが報告されている(特許文献1)。
また、ブルガリア菌の一種であるOLL1073R-1株により産生される菌体外多糖(EPS)には、自己免疫疾患を予防する効果があることが知られている。そしてOLL1073R-1株を用いて製造された発酵乳には、NK(ナチュラルキラー)細胞の活性化(以下、「NK活性」という)、感冒罹患の減少等の効果があることも知られている。
また特許文献2には、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリス FC(Lactococcus lactis sbp. cremoris FC)が生産する菌体外多糖(EPS)が、免疫系の向上活性を保つのに重要な役割を果たすインターロイキン-12(以下、「IL-12」という)の産生を誘導することが記載されている。
なお、ヒトの免疫指標が様々ある中で、NK活性を評価するものが最もポピュラーである。そして、そのNK活性のin vitroでの評価方法として、マクロファージ様細胞の産生するIL-12をマーカーとして評価するものがよく使われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5177728号公報
【特許文献2】特開2009-256312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
免疫賦活を目的として、菌体外多糖(EPS)を含む牛乳ヨーグルトは既に商品として販売されている。近年需要が伸びている豆乳ヨーグルトにおいても同様に、免疫賦活効果を有する商品が求められているが、未だ実現していない。
豆乳を発酵させて得られた菌体外多糖(EPS)が、牛乳を発酵させて得られた菌体外多糖(EPS)よりも、NK細胞を活性化させる結果を得て、この成果を効率良く応用することを検討した。
そして、豆乳と牛乳の組成を比較して、豆乳が多く含有するスタキオースに着目することで、免疫賦活効果を有する豆乳ヨーグルトを得る可能性を検討した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、下記の手段を採用することにより上記の課題を解決できることを見出した。
1.(A)グルコース、ラクトース、ラフィノース、パラチノース、スタキオースからなる群のいずれか1以上の糖と、(B)スクロースとを重量比(A):(B)=1:5~1:1の割合で含む基材を、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)の菌体外多糖(EPS)高生産株によって発酵させて得られる菌体外多糖(EPS)を含有する、発酵飲食品。
2.前記基材が豆乳であることを特徴とする、1.に記載の発酵飲食品。
3.基材中の(A)のいずれか1以上の糖含量と(B)スクロース含量の重量比が、(A):(B)=1:5~1:1であることを特徴とする、1.または2.に記載の発酵飲食品。
4.ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)の菌体外多糖(EPS)高生産株用発酵基材であって、培地中の(A)グルコース、ラクトース、ラフィノース、パラチノース、スタキオースからなる群のいずれか1以上の糖の含量と(B)スクロース含量の重量比が(A):(B)=1:5~1:1となるよう調整されたものである、菌体外多糖(EPS)産生乳酸菌用発酵基材。
5.(A)グルコース、ラクトース、ラフィノース、パラチノース、スタキオースからなる群のいずれか1以上の糖の含量と(B)スクロース含量の重量比が(A):(B)=1:5~1:1である基材を、
ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)の菌体外多糖(EPS)高生産株によって発酵させることによる、免疫賦活に優れた菌体外多糖(EPS)の産生方法。
6.免疫賦活がNK活性向上および/又はIL-12産生促進によるものである、5.に記載の菌体外多糖(EPS)の産生方法。
7.(A)グルコース、ラクトース、ラフィノース、パラチノース、スタキオースからなる群のいずれか1以上の糖の含量と(B)スクロースの含量の重量が(A):(B)=1:5~1:1である基材を
ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)の菌体外多糖(EPS)高生産株によって発酵させて得られる菌体外多糖(EPS)を投与することによる、免疫賦活方法。
8.免疫賦活がNK活性向上活性および/又はIL-12産生促進によるものであることを特徴とする、7.に記載の免疫賦活方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、豆乳を発酵させて得られる飲食品によって、免疫賦活を達成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1-1】実施例1におけるIL-12の産生量を示すグラフである。
【
図1-2】実施例1におけるNK活性の向上率を示すグラフである。
【
図2-1】実施例2におけるIL-12の産生量を示すグラフである。
【
図2-2】実施例2におけるNK活性の向上率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下の本発明を実施するための説明は、本発明を限定するものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に属する。
【0009】
[(A)グルコース、ラクトース、ラフィノース、パラチノース、スタキオースからなる群のいずれか1以上の糖](以下場合により「A成分」という)
A成分として使用できる糖は、各種異性体のうち任意のものを使用できる。
基材中のA成分の含有量は、3~10g/Lが好ましい。
[(B)スクロース] (以下場合により「B成分」という)
基材中のB成分の含有量は、5~15g/Lが好ましい。
【0010】
[乳酸菌]
本発明において発酵を行う乳酸菌としては、糖から乳酸を生成するホモ発酵乳酸菌である、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)が好ましい。
そして、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)、ラクトバチラス・デルブリッキー(Lactobacillus derbrueckii)、ロイコノストック・ラクティス(Leuconostoc lactis)、ラクトバチラス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)、ラクトバチラス・ブレビス(Lactobacillus brevis)等の2種以上と併用してもよい。
【0011】
[基材]
本発明における、上記A成分及びB成分を含有させる基材としては、豆乳類が好ましい。このような豆乳としては、公知のものを採用できる。また豆乳以外にも、牛乳、生乳、山羊乳、めん羊乳、加工乳、成分調整牛乳、低脂肪化等の加工をした乳等を単独で、または複数種混合して使用できる。なお、豆乳単独で使用することが好ましいが、豆乳に別の乳を混合しても良い。
また豆乳類としては、豆乳、調製豆乳、又は、豆乳飲料がある。
そして、豆乳類に属する「豆乳」とは、豆乳類の日本農林規格(平成24年7月17日農林水産省告示第1679号)の第2条に規定されているとおり、「大豆(粉末状のもの及び脱脂したものを除く)から熱水等によりたん白質その他の成分を溶出させ、繊維質を除去して得られた乳状の飲料であって、大豆固形分が8%以上のもの」であり、第3条の規格に沿うものである。なお、豆乳類に属する調製豆乳、豆乳飲料も、前記の日本農林規格の第2条に規定されているとおりであって、第4条、第5条の其々の規格に沿うものである。
大豆原料は、大豆及び大豆加工物から選択される少なくとも1種であってよい。大豆加工物としては、例えば、豆乳、大豆の磨砕物及び粉砕物、脱皮処理した大豆並びにその磨砕物及び粉砕物、脱脂大豆等が挙げられる。大豆原料としては、豆乳を使用することが好ましい。但し、大豆原料としてオカラ分を含有する豆粉を使用しても良く、使用しなくても良い。
また、豆乳として、乳酸菌発酵に要する時間の低減の観点から、豆乳を予めペプチド結合加水分解酵素により加水分解させて得た酵素処理豆乳を使用できる。酵素処理豆乳を使用することで、プロテアーゼ分泌の弱い乳酸菌(例えば、ラクトバチラス・ブレビスの一部等)を用いた場合であっても、発酵を促進し、発酵時間を短くすることができ、生産性を向上することもできる。
【0012】
豆乳類における大豆固形分(厳密には、豆乳類に由来する大豆固形分)の含有量については特に限定されないが、例えば、1.00w/w%以上、2.00w/w%以上、3.00w/w%以上、4.00w/w%以上、4.65w/w%以上であり、15.00w/w%以下、10.00w/w%以下、8.00w/w%以下、5.00w/w%以下である。
【0013】
[菌体外多糖(EPS)]
菌体外多糖(EPS)は、微生物が菌体表面に分泌・産生する多糖の総称で、環境ストレスなどから自身を保護する役割を有する。菌体外多糖(EPS)は構成される糖の種類や数、結合様式によって多種多様な構造を有しており、増粘剤や安定化剤などの食品素材としての利用も為されている。乳酸菌もこれを産生することが知られており、ヨーグルトに粘性をもたせる役割の他、免疫賦活機能などの様々な生理活性機能を有している。
【0014】
[菌体外多糖(EPS)高生産株]
本発明では、菌体外多糖(EPS)高生産株とは、菌体外多糖(EPS)の産生量が4mg/L(培養スケール)である菌株のことをいう。
測定は、例えば下記の実施例1の(1)~(8)の方法(培地中のスクロースは5g/L、スタキオースは0g/L)によって行うものとする。
【0015】
[発酵飲食品]
本発明における発酵飲食品は、例えば、豆乳ヨーグルト、豆乳チーズなどが挙げられる。
それらの飲食品には、本発明による効果を毀損しない範囲において、飲料素材や食品素材として通常配合される甘味料、高甘味度甘味料、酸化防止剤、香料(フレーバー)、酸味料、塩類、食物繊維、タンパク質、食用油脂、増粘剤、澱粉、ゲル化剤、pH調整剤など(以下、適宜「添加剤」という)を含有していてもよいし、当然、含有していなくてもよい。甘味料としては、例えば、果糖ぶどう糖液糖、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、ラクトース、スクロース、マルトースなどを用いることができる。高甘味度甘味料としては、例えば、ネオテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、サッカリン、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二ナトリウム、チクロ、ズルチン、ステビア、グリチルリチン、ソーマチン、モネリン、アスパルテーム、アリテームなどを用いることができる。酸化防止剤としては、例えば、ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノールなどを用いることができる。酸味料としては、例えば、アジピン酸、クエン酸三ナトリウム、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、DL-酒石酸、L-酒石酸、DL-酒石酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、二酸化炭素、乳酸、乳酸ナトリウム、酢酸、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、DL-リンゴ酸、DL-リンゴ酸ナトリウム、リン酸、フィチン酸などを用いることができる。塩類としては、例えば、食塩、酸性りん酸カリウム、酸性りん酸カルシウム、りん酸アンモニウム、硫酸カルシウム、メタ重亜硫酸カリウム、塩化カルシウム、硝酸カリウム、硫酸アンモニウムなどを用いることができる。食物繊維としては、例えば、難消化性デキストリン、ペクチン、ポリデキストロース、グアーガム分解物などを用いることができる。タンパク質としては、例えば、大豆タンパク質、小麦タンパク質、トウモロコシタンパク質、エンドウタンパク質、カゼイン、卵白アルブミン、ゼラチンなどを用いることができる。食用油脂としては、食用の油脂であれば、特に限定されない。増粘剤としては、例えば、ローカストビーンガム、グアーガムなどを用いることができる。澱粉としては、例えば、加工澱粉などを用いることができる。ゲル化剤については、ペクチン、カラギーナンなどを用いることができる。pH調整剤としては、例えば、リン酸塩などを用いることができる。
さらに上記の飲食品を、グラタン、ケーキ等任意に使用することができる。
【0016】
[免疫賦活、NK活性向上、IL-12産生促進]
本発明では、免疫賦活の有無を、一般的に用いられているIL-12産生の促進、NK活性の向上を指標として表す。ある乳酸菌株を用いて基材を発酵させて菌体外多糖(EPS)を産生させた後、その菌体外多糖(EPS)をマクロファージ様細胞に添加してIL-12産生量を測定した際に、「基材にスタキオース(あるいは他の糖)を添加して発酵させて得られたIL-12産生量」が、「培地にスタキオース(あるいは他の糖)を添加せずに発酵させて得られたIL-12産生量」よりも「1.5倍以上高い」状態である場合、「IL-12の産生が促進された」、「NK活性が向上した」と規定する。
また、本発明で得られた菌体外多糖(EPS)を、被検体に投与することによって、免疫賦活を図ることができる。
【実施例0017】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明の技術範囲はこれらにより限定されるものではない。
<実施例1>
基材中のスタキオースの含有濃度の検討
以下に述べる方法で大豆オリゴ糖であるスタキオースと、豆乳の主要成分であるスクロースの比率を変化させた基材を、乳酸菌Streptococcus thermophilusの菌体外多糖(EPS)高生産株であるDSM20617T株で発酵させ、菌体外多糖(EPS)を単離した。その後、得られた菌体外多糖(EPS)を細胞に作用させ、細胞中のIL-12量を測定することによって、NK活性を評価した。
(1)培地作成
下記の通り培地を混ぜ、純水に溶解し、pH7.3に調整した。
・トリプトン 10g/L(ThermoFisherScientific社)
・酵母エキス 5g/L(ThermoFisherScientific社)
・リン酸水素2カリウム 2g/L(富士フイルム和光純薬株式会社)
・スクロース 5又は10g/L(富士フイルム和光純薬株式会社)
・スタキオース 0~10g/L(東京化成工業株式会社)
その後、121℃15分オートクレーブし、低温室で冷まし、4℃で保存した。
(2)菌の前培養
各培地を5mL分注して乳酸菌のGS(グリセロールストック)を10μLずつ添加し、37℃で24時間前培養した。
(3)菌の本培養
前培養した菌液を保存しておいた培地に全量添加し、良く攪拌して37℃で24時間培養した。
(4)培養液の回収とエタノール沈殿
培養液を500mLの遠沈管に入れ、12000gで20分遠心した(MX-307、TOMY社製)。上清を回収し、4℃で冷やした。上清と等量の冷やしたエタノールを入れ、良く攪拌し、4℃で静置した。
(5)再エタノール沈殿
静置してあった培養液を12000gで10分遠心し、上清を廃棄し、沈殿は70%エタノールで2回洗浄した。その後、沈殿を30mLの純水に溶解し、さらに30mLのエタノールを加え、4℃で静置した。
(6)酵素処理
サンプルを12000gで10分遠心し、上清を廃棄し、沈殿は70%エタノールで2回洗浄した。その後、沈殿を30mLの純水に溶解し、DNase(Deoxyribonuclease I from bovine pancrease、SIGMA-ALDRICH)とRNase(Ribonuclease A from bovine pancreas、SIGMA-ALDRICH)を7μg/mLになるように加え、37℃で6時間培養した。次にProteinaseK(ProteinaseK from Tritirachium album、SIGMA-ALDRICH)を200μg/mLとなるように添加し、良く攪拌し、37℃で一晩培養した。
(7)透析
サンプルを100℃10分加熱し、酵素を失活させた後、4℃で冷却した。その後、MW8000の透析膜(Spectra/Por(登録商標)、REPLIGEN社製)で2日間透析を行った(1日後に外液の水換を行った)。
(8)凍結乾燥
内液を回収し、凍結乾燥(FDU-2000、EYELA社製)させたのち、得られた菌体外多糖(EPS)の収量を測定した(XSE105、METLER TOLEDO社製)。
(9)プレート作成、菌体外多糖(EPS)添加
J774.1細胞(マウス由来マクロファージ様細胞、JCRB細胞バンクより入手)を24wellプレート(TRP社製)に、細胞数3×105cells/wellになるように播いた。培地はDMEM培地(ThermoFisherScientific社製)、10%FBS(SIGMA-ALDRICH社製)、1%Penicilin/Streptomycin(Nacalai Tesque社製)を使用した。(8)の各サンプルを2mg/mLとなるように調整し、ボルテックス(VOLTEX MIXER VTX-3000L、LMS社製)した後、70℃で10分加熱し、殺菌および完全に溶解した。その後、各wellに終濃度100μg/mLとなるように添加し、37℃で48時間培養した。
(10)培地上清・細胞回収
培養液上清(約1mL)を1.5mLチューブ(Eppendorf社製)に回収し、4℃に保存した。
(11)ELISA解析
LBIS Mouse IL-12 ELISA Kit(富士フイルムワコーシバヤギ株式会社)のプロトコルに則り、サンプル中のIL-12量を測定した。
【0018】
結果を
図1-1、
図1-2に示す。
図1-1は、IL-12の産生量を示したグラフである。
図1-2は、IL-12の産生量を、スタキオースを含まない場合(0%)との比率で表したものであり、これをNK活性の向上率とする。
図1-1、
図1-2に示すとおり、スタキオースとスクロースを重量比1:5~1:1の割合で基材に含む場合に、IL-12の産生が促進され、NK活性が向上することがわかった。
【0019】
<実施例2>
豆乳中のスタキオースの含有量の検討
次に、以下に述べる方法で、基材として豆乳を用いてスタキオースとスクラロースの含有比率を変化させ、乳酸菌Streptococcus thermophilusの菌体外多糖(EPS)高生産株であるDSM20617T株で発酵させ、菌体外多糖(EPS)を単離した。その後、得られた菌体外多糖(EPS)を細胞に作用させ、細胞中のIL-12量を測定することによって、NK活性を評価した。
(1)豆乳の透析
豆乳(不二製油社製)をMW8000の透析膜に入れ、10倍量の外液で透析を行った。透析開始1日後に外液を交換し、透析を継続した。透析開始2日後の豆乳を回収してエバポレーターで水分を飛ばし、固形分を元の豆乳と同じになるように調整した。
(2)糖の添加
スクロースを5又は10g/Lになるように添加し、90℃10分で殺菌し、各豆乳を30mLずつ分注した。
(3)発酵試験
乳酸菌を終濃度5×106cells/mLになるように添加し、37℃7時間発酵させた。
(4)菌体外多糖(EPS)の抽出・エタノール沈殿
完成したヨーグルトを均一化し、20gずつ量り取り、60%トリクロロ酢酸を10mLずつ加えてよく攪拌し、4℃で一晩静置した。その後、6000gで15分遠心分離した。得られた上清20mLに20%トリクロロ酢酸を12.5mL加えてよく攪拌し、氷水中で1時間静置した後、6000gで15分遠心分離した。上清12mLにエタノールを28mL加え、よく攪拌し-30℃で一晩静置した。
(5)洗浄・酵素処理
8000gで15分遠心分離した後、上清を取り除き、沈殿を70%エタノールで2回洗浄した。その沈殿を5mLの純水で溶解し、DNaseとRNaseを7μg/mLになるように加え、37℃で6時間培養した。次にProteinaseKを200μg/mLとなるように添加し、良く攪拌し、37℃で一晩培養した。
(6)
以下、実施例1の(7)以降と同様にして、サンプル中のIL-12量を測定した。
【0020】
結果を
図2-1、
図2-2に示す。
図2-1は、IL-12の産生量を示したグラフである。
図2-2は、IL-12の産生量を、スタキオースを含まない場合(0%)との比率で表したものであり、これをNK活性の向上率とする。
図2-1、
図2-2に示すとおり、スタキオースとスクロースを重量比1:5~1:1の割合で豆乳に含む場合に、IL-12の産生が促進され、NK活性が向上することがわかった。
【0021】
<実施例3>
活用可能な乳酸菌の検討
次に、発酵基材中のスタキオースとスクロースの比率を1:2で固定し、様々な乳酸菌で発酵させて菌体外多糖(EPS)を精製し、NK活性の向上率を調べた。
乳酸菌は、以下のものを使用した。
・Streptococcus thermophilus JCM20026株
・Streptococcus thermophilus DSM20617T株
・Streptococcus thermophilus DSM8713株
・Streptococcus thermophilus ISO13957株
・Streptococcus thermophilus DSM20259株
・Streptococcus thermophilus DSM20479株
・Leuconostoc mesenteroides mesentroides JCM6124株
・Lactococcus lactis IFO12007株
・Lactococcus lactis lactis JCM5805株
【0022】
(1)培地作成
下記の通り培地を混ぜ、純水に溶解し、pH7.3に調整した。(スタキオースを加えない場合と、5g/Lとなるように加えた場合の2通り作成した。)
・トリプトン 10g/L
・酵母エキス 5g/L
・リン酸水素2カリウム 2g/L
・スクロース 10g/L
・スタキオース 0又は5g/L
その後、121℃15分オートクレーブし、低温室で冷まし、4℃で保存した。
(2)
以下、実施例1の(2)以降と同様にして、サンプル中のIL-12量を測定した。その結果を表1に示す。なお、表中の培地量は、(1)で調製した培地の量を指す。
【0023】
【表1】
表1に示すとおり、菌体外多糖(EPS)高生産株であるStreptococcus thermophilus JCM20026株及びStreptococcus thermophilus DSM20617
T株を使用した際に、NK活性向上率が1.5倍以上となり、免疫賦活活性が向上することがわかった。菌体外多糖(EPS)高生産株であっても、Streptococcus thermophilus種ではないLeuconostoc mesenteroides mesentroides JCM6124株では、NK活性向上率が高くなかった。
【0024】
<実施例4>
活用可能な糖の検討
次に、発酵基材中にスタキオース以外の各種の糖とスクロースを比率1:2に固定して添加し、Streptococcus thermophilus DSM20617T株を用いて発酵させ、菌体外多糖(EPS)を精製し、NK活性の向上率を調べて、本発明に活用可能な糖の種類を確認した。
【0025】
(1)培地作成
下記の通り培地を混ぜ、純水に溶解し、pH7.3に調整した。
・トリプトン 10g/L
・酵母エキス 5g/L
・リン酸水素2カリウム 2g/L
・スクロース 10g/L
・各糖 5g/L
その後、121℃15分オートクレーブし、低温室で冷まし、4℃で保存した。
【0026】
(2)
以下、実施例1の(2)以降と同様にして、サンプル中のIL-12量を測定した。
結果を表2に示す。
NK活性の向上率は、糖源をスクロースのみにした場合のNK活性を1とした場合の値である。
なお、使用した糖は以下のとおりである。
グルコール:D(+)-グルコース(富士フイルム和光純薬株式会社製)
ラクトース:ラクトース一水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製)
マンノース:D(+)-マンノース(富士フイルム和光純薬株式会社製)
フルクトース:D(-)-フルクトース(富士フイルム和光純薬株式会社製)
ガラクトース:D(+)-ガラクトース(富士フイルム和光純薬株式会社製)
ラフィノース:D-(+)-ラフィノース五水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製)アロース:D-(+)-アロース(東京化成工業株式会社製)
フルクトオリゴ糖:フルクトオリゴ糖(富士フイルム和光純薬株式会社製)
イヌリン:イヌリン(東京化成工業株式会社製)
イノシトール:myo-イノシトール(東京化成工業株式会社製)
イソマルトオリゴ糖:イソマルトオリゴ糖(富士フイルム和光純薬株式会社製)
マルチトール:マルチトール(東京化成工業株式会社製)
パラチノース:パラチノース水和物(東京化成工業株式会社製)
トレハロース:トレハロース二水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製)
キシリトール:キシリトール(富士フイルム和光純薬株式会社製)
キシロビオース:キシロビオース(東京化成工業株式会社製)
【0027】
【0028】
NK活性の向上率が大きいものが本発明に活用可能であるので、スタキオースに加えて、グルコース、ラクトース、ラフィノース、パラチノースも使用できることが確認できた。