(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158955
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】インクジェット印刷方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/11 20060101AFI20241031BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20241031BHJP
B41J 2/21 20060101ALI20241031BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20241031BHJP
C09D 11/40 20140101ALI20241031BHJP
【FI】
B41J2/11
B41M5/00 100
B41M5/00 120
B41J2/21
B41J2/01 209
C09D11/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074622
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河田 大輝
(72)【発明者】
【氏名】川口 太生
【テーマコード(参考)】
2C056
2C057
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA06
2C056EA07
2C056EC07
2C056EC12
2C056EC29
2C056EC31
2C056EC42
2C056EE10
2C056FA13
2C057AF25
2C057AG44
2C057AM16
2C057AN05
2H186AA04
2H186AB12
2H186BA08
2H186DA09
2H186FA01
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
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2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB54
4J039AD09
4J039BE01
4J039BE02
4J039BE12
4J039BE22
4J039EA42
4J039FA02
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】非吸液性印刷媒体への印刷においても、得られる印刷物の印刷ムラを抑制することができ、かつ、ベタ埋まり性に優れるインクジェット印刷方法を提供する。
【解決手段】二色以上のインクを用いるインクジェット印刷方法であって、一色目に吐出されるインクの分滴率が、二色目以降に吐出されるインクの分滴率より大きい条件で、二色以上のインクを印刷媒体に付与して画像を形成する工程を含む、インクジェット印刷方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二色以上のインクを用いるインクジェット印刷方法であって、一色目に吐出されるインクの分滴率が、二色目以降に吐出されるインクの分滴率より大きい条件で、二色以上のインクを印刷媒体に付与して画像を形成する工程を含む、インクジェット印刷方法。
【請求項2】
一色目に吐出されるインクの分滴率が50%以上である、請求項1に記載のインクジェット印刷方法。
【請求項3】
二色目以降に吐出されるインクの分滴率が0%以上30%以下である、請求項1又は2に記載のインクジェット印刷方法。
【請求項4】
インクジェットヘッドの方式がラインヘッド方式である、請求項1~3のいずれか1項に記載のインクジェット印刷方法。
【請求項5】
印刷媒体の搬送方向に対して平行な方向における解像度が600dpi以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載のインクジェット印刷方法。
【請求項6】
印刷媒体の搬送方向に対して垂直な方向における解像度が600dpi以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載のインクジェット印刷方法。
【請求項7】
印刷媒体上に着弾したインクドットの直径が20μm以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載のインクジェット印刷方法。
【請求項8】
印刷媒体の搬送速度が10m/min以上である、請求項1~7のいずれか1項に記載のインクジェット印刷方法。
【請求項9】
前記工程により形成される画像が二次色以上の画像である、請求項1~8のいずれか1項に記載のインクジェット印刷方法。
【請求項10】
前記インクが水系インクである、請求項1~9のいずれか1項に記載のインクジェット印刷方法。
【請求項11】
前記分滴率は、インクジェットヘッド内の温度を調整することにより制御する、請求項1~10のいずれか1項に記載のインクジェット印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式による印刷は、製版が不要であり、バリアブル(可変)情報に対応しやすく、また、印刷媒体への印刷の際に該印刷媒体に対して非接触であるという多くの利点があるため、オフィス用途、家庭用途に加え、近年では、印刷枚数が格段に大きい商業印刷用途への展開も進んでいる。
商業印刷用途では、印刷本紙のような低吸液性印刷媒体に加えて、樹脂フィルムといった非吸液性印刷媒体への対応が求められる。
このような要望に対し、非吸液性印刷媒体でも速やかに画像形成が完了するような方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、インク付き量を減らすことなく、印刷ムラを起こさない高画質な高速印字可能なインクジェット記録方法の提供を目的として、水系インクを用いたワンパス型のインクジェット記録方法において、表面張力が35mN/m以下の水系インクを、該水系インクの吸収速度が0.05ml/m2ms1/2以上1ml/m2ms1/2以下である印刷用塗工紙に印字して画像を形成するに際し、印字開始から0.5秒以内に乾燥を開始するインクジェット記録方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、インクジェット記録方式による印刷は大量印刷への適用が難しいと考えられてきたが、インクの改良や乾燥方法の工夫で、印刷速度の向上や各種材質の印刷媒体への対応が図られている。しかしながら、樹脂フィルム等の非吸液性印刷媒体へのインクジェット記録方式による印刷においては、インクジェットインクの液体成分の残留を解消しにくい非吸液印刷媒体に対しては、インクの乾燥が不十分な一部の領域でインクドットの合一が抑制できず、印刷ムラが発生するという問題がある。また、非吸液性印刷媒体へのインクジェット記録方式による印刷においては、該印刷媒体上でのインクの濡れ広がり性が低く、ベタ埋まり性といった印刷品質が低下するという問題がある。しかしながら、このような問題に対して、特許文献1の技術では十分に満足できるものではなく、改善の余地がある。このように、非吸液性印刷媒体、具体的には樹脂フィルムを用いるインクジェット記録方式による印刷においても、印刷ムラを抑制することができ、かつ、ベタ埋まり性に優れる技術の開発が望まれていた。
本発明は、非吸液性印刷媒体への印刷においても、得られる印刷物の印刷ムラを抑制することができ、かつ、ベタ埋まり性に優れるインクジェット印刷方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、二色以上のインクを用いるインクジェット印刷において、一色目に吐出されるインクの分滴率が、二色目以降に吐出されるインクの分滴率より大きい条件で、二色以上のインクを印刷媒体に付与して画像を形成する工程を含むことにより、上記課題を解決しうることを見出した。
すなわち、本発明は、二色以上のインクを用いるインクジェット印刷方法であって、一色目に吐出されるインクの分滴率が、二色目以降に吐出されるインクの分滴率より大きい条件で、二色以上のインクを印刷媒体に付与して画像を形成する工程を含む、インクジェット印刷方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、非吸液性印刷媒体への印刷においても、得られる印刷物の印刷ムラを抑制することができ、かつ、ベタ埋まり性に優れるインクジェット印刷方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[インクジェット印刷方法]
本発明のインクジェット印刷方法(以下、「本発明の印刷方法」ともいう)は、二色以上のインクを用いるインクジェット印刷方法であって、一色目に吐出されるインクの分滴率が、二色目以降に吐出されるインクの分滴率より大きい条件で、二色以上のインクを印刷媒体に付与して画像を形成する工程を含む、印刷方法である。
【0009】
本発明において「吐出されるインクが分滴する」とは、インクジェットヘッドからインクを吐出する1回の吐出命令に基づいて吐出されたインクが2滴以上に分離して印刷媒体に付与されることを意味する。
本発明において「分滴率」とは、インクジェットヘッドからインクを吐出する1回の吐出命令に基づいて吐出されたインクをインクジェット吐出観察装置(インクジェットヘッドから吐出されるインクが静止したように見えるようにストロボ発光の間隔を調節し、該静止したように見えるインクを動画撮影カメラ(フレームレート:24fps以上60fps以下)で撮影する装置)により、特定の20個のノズルについてインクが分滴して吐出されているかを確認し、観察したノズル20個に対する分滴が確認されたノズルの個数の割合として、以下の式から算出される。
分滴率(%)=(分滴が確認されたノズルの個数/20)×100
本発明において「非吸液性」とは、印刷媒体と純水との接触時間100msにおける該印刷媒体の吸水量を指標として、該吸水量が0g/m2以上10g/m2以下であることを意味する。該吸水量は、自動走査吸液計(例えば、熊谷理機工業株式会社製 KM500win)を用いて、23℃、相対湿度50%の条件下で、純水の接触時間100msにおける転移量を該吸水量として測定できる。
【0010】
本発明によれば、非吸液性印刷媒体への印刷においても、得られる印刷物の印刷ムラを抑制することができ、かつ、ベタ埋まり性に優れる。その理由は必ずしも定かではないが、以下のように考えられる。
一般に、二次色以上の印刷ムラは、二色以上のインクが不均一に混ざった状態で塗膜を形成すると発生する傾向にある。これは、一色目に印刷媒体に付与されるインク滴1つ当たりの体積が大きいと、該インク滴の表面積が小さくなり、付与された印刷媒体上での乾燥に時間がかかるため、二色目以降のインクが更に印刷媒体に付与されたときに各色のインクの一部が互いに混ざり合うことに起因する。
本発明においては、一色目に吐出されるインクの分滴率が、二色目以降に吐出されるインクの分滴率より大きい条件で、二色以上のインクを印刷媒体に付与して画像を形成する工程を含むことにより、一色目に印刷媒体に付与されるインク滴1つ当たりの体積が小さいため、付与された印刷媒体上で一色目のインクが速やかに乾燥する。そのため、二色目以降のインクが更に印刷媒体上に付与されるときには、一色目のインクは印刷媒体上で既に塗膜を形成している状態となり、各色のインクが混ざり合うことを抑制することができるため、印刷ムラが抑制された良好な画像を形成することができると考えられる。
また、一色目に吐出されるインクが分滴していると印刷媒体に付与されるインク滴の数が多くなるため、濡れ広がり性が低い非吸液性印刷媒体上でも該印刷媒体の表面を良好に被覆することができる。いったん一色目のインクによる塗膜が形成されれば非吸液性印刷媒体の表面は被覆されてしまうので二色目以降のインクは濡れ広がり性も良好になり、非吸液性印刷媒体への印刷であってもベタ埋まり性が向上して印刷品質に優れる印刷物を得ることができると考えられる。
【0011】
(画像形成工程)
本発明の印刷方法は、一色目に吐出されるインクの分滴率が、二色目以降に吐出されるインクの分滴率より大きい条件で、二色以上のインクをインクジェット記録方式により印刷媒体に付与して画像を形成する工程(以下、「画像形成工程」ともいう)を含む。
【0012】
<印刷媒体>
本発明の印刷方法で用いられる印刷媒体としては、例えば、コート紙、樹脂フィルムが好ましく挙げられ、より好ましくは樹脂フィルムである。
樹脂フィルムの好適な例としては、ポリエチレンテレフタレートフィルム等のポリエステルフィルム;塩化ビニルフィルム;ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム等のポリオレフィンフィルム;ナイロンフィルム等のポリアミドフィルムなどが挙げられる。これらの樹脂フィルムは、二軸延伸フィルム、一軸延伸フィルム等の延伸フィルム又は無延伸フィルムであってもよい。これらの中では、印刷媒体は、ポリエチレンテレフタレートフィルム及び二軸延伸ポリプロピレンフィルムからなる群から選ばれる1種以上が更に好ましく、コロナ放電処理等の表面処理を行ったポリエチレンテレフタレートフィルム又は該表面処理を行った二軸延伸ポリプロピレンフィルムがより更に好ましい。
【0013】
<分滴率>
本発明の印刷方法においては、一色目に吐出されるインクの分滴率が、二色目以降に吐出されるインクの分滴率より大きい条件で、二色以上のインクを印刷媒体に付与する。
一色目に吐出されるインクの分滴率が、二色目以降に吐出されるインクの分滴率より大きいことは、二色目以降に吐出されるインクが、分滴率が大きい状態で印刷媒体に付与された一色目のインク付与部分に対して相対的に大きいインク滴の状態で二色目以降のインクが印刷媒体に付与されることを意味し、これにより、上述のように効率的に印刷ムラを抑制することができ、また、濡れ広がり性が低い非吸液性印刷媒体上でも該印刷媒体の表面を良好に被覆することができ、ベタ埋まり性も向上して印刷品質に優れる印刷物を得ることができると考えられる。
【0014】
本発明において、分滴によって形成される2つ以上のインク滴は、インクを吐出する命令を分滴しない条件にてできるだけ間隔を詰めて2回実施するよりはるかに近接した状態で2つ以上のインク滴を飛翔させることができ、かつインク滴1つ当たりの体積も小さい。そのため、上述のように効率的に印刷ムラを抑制することができ、また、濡れ広がり性が低い非吸液性印刷媒体上でも該印刷媒体の表面を良好に被覆することができ、ベタ埋まり性も向上して印刷品質に優れる印刷物を得ることができると考えられる。当該観点から、インクの分滴は、インクジェットヘッドからインクを吐出する1回の吐出命令に基づいて吐出されたインクが2滴以上3滴以下に分離して印刷媒体に付与されることが好ましく、2滴に分離して印刷媒体に付与されることがより好ましい。
なお、本発明においてインク滴の滴数は、インクジェットヘッドからインクを吐出する1回の吐出命令に基づいて吐出されたインクのインクジェット吐出観察装置(インクジェットヘッドから吐出されるインクが静止したように見えるようにストロボ発光の間隔を調節し、該静止したように見えるインク滴を動画撮影カメラ(フレームレート:24fps以上60fps以下)で撮影する装置)による観察において、インクジェットヘッドのノズルプレートからの距離が1mm以上2mm以下の範囲でインク滴が観察される条件(撮像倍率:180倍)を設定した際に、該距離範囲内に存在するインク滴の滴数で数える。
【0015】
本発明において「分滴率」とは、前述のとおり、インクジェットヘッドからインクを吐出する1回の吐出命令に基づいて吐出されたインクを、前述のインクジェット吐出観察装置により、特定の20個のノズルについてインクが分滴して吐出されているかを確認し、観察したノズル20個に対する分滴が確認されたノズルの個数の割合として、以下の式から算出される。
分滴率(%)=(分滴が確認されたノズルの個数/20)×100
本発明においては、一色目に吐出されるインクの分滴率が、二色目以降に吐出されるインクの分滴率より大きい条件であればよく、二色目以降のインクは分滴率が0%であってもよい。
【0016】
本発明において、一色目に吐出されるインクの分滴率は、印刷ムラを抑制する観点、及びベタ埋まり性を向上させる観点から、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上、更に好ましくは70%以上、より更に好ましくは90%以上、より更に好ましくは99%以上、より更に好ましくは100%である。
また、本発明において、二色目以降に吐出されるインクの分滴率は、印刷ムラを抑制する観点、及びベタ埋まり性を向上させる観点から、好ましくは50%以下、より好ましくは40%以下、更に好ましくは30%以下、より更に好ましくは20%以下、より更に好ましくは10%以下、より更に好ましくは1%以下であり、そして、好ましくは0%以上であり、より更に好ましくは0%である。
本発明の印刷方法において分滴率は、印刷ムラを抑制する観点、及びベタ埋まり性を向上させる観点から、インクジェットヘッド内の温度を調整する方法、及びインクジェットヘッドの吐出力を調整する方法からなる群から選ばれる1種以上の方法により制御することが好ましい。
【0017】
本発明の印刷方法において分滴率は、印刷ムラを抑制する観点、及びベタ埋まり性を向上させる観点から、インクジェットヘッド内の温度を調整することにより制御することが好ましい。
インクジェットヘッド内の温度が高いと、インクジェットヘッド内に充填されるインクジェットインクの温度も高くなって表面張力が低下する。これによりインク吐出に際してインクが1滴にまとまろうとする作用が低下し、分滴が発生し易くなる。
インクジェットヘッド内の温度の調整は、インクジェットヘッド内のインクを強制的に循環させる機構を有する手段により行うことが好ましい。すなわち、本発明の印刷方法においては、インクジェット印刷は循環式インクジェットヘッドにより行われるものであることが好ましい。
分滴率を制御するためのインクジェットヘッド内の温度としては、印刷ムラを抑制する観点、及びベタ埋まり性を向上させる観点から、好ましくは25℃以上、より好ましくは30℃以上、更に好ましくは32℃以上、より更に好ましくは35℃以上であり、そして、好ましくは50℃以下、より好ましくは49℃以下、更に好ましくは48℃以下、より更に好ましくは47℃以下、より更に好ましくは46℃以下である。
【0018】
本発明においては、印刷ムラを抑制する観点、及びベタ埋まり性を向上させる観点から、一色目のインクと二色目以降のインクとでインクジェットヘッド内の温度を調整することが好ましく、一色目のインクを付与する際のインクジェットヘッド内の温度は、二色目以降のインクを付与する際のインクジェットヘッド内の温度より高いことが好ましい。
一色目のインクを付与する際のインクジェットヘッド内の温度は、印刷ムラを抑制する観点、及びベタ埋まり性を向上させる観点から、好ましくは38℃以上、より好ましくは40℃以上、更に好ましくは43℃以上、より更に好ましくは45℃以上であり、そして、好ましくは50℃以下、より好ましくは49℃以下、更に好ましくは48℃以下、より更に好ましくは47℃以下、より更に好ましくは46℃以下である。
二色目以降のインクを付与する際のインクジェットヘッド内の温度は、印刷ムラを抑制する観点、及びベタ埋まり性を向上させる観点から、好ましくは25℃以上、より好ましくは30℃以上、更に好ましくは34℃以上、より更に好ましくは35℃以上であり、そして、好ましくは50℃以下、より好ましくは45℃以下、更に好ましくは40℃以下、より更に好ましくは36℃以下である。
【0019】
また、本発明の印刷方法において分滴率は、印刷ムラを抑制する観点、及びベタ埋まり性を向上させる観点から、インクジェットヘッドの吐出力を調整することにより制御することが好ましい。
インクジェットヘッドの吐出力はインクに飛翔のための運動エネルギーを付与する源となるが、その吐出力を調整することで分滴率を制御することができる。
インクジェットヘッドの吐出方式がピエゾ方式である場合には、吐出力の調整方法としては、ピエゾ素子に印加する電圧の正負又は絶対値を変化させる方法、ピエゾ素子に印加する電圧の上昇速度又は低下速度を変化させる方法が好適に挙げられる。
インクジェットヘッドの吐出方式がサーマル方式である場合には、吐出力の調整方法としては、インクジェットヘッドのヒーター部に印加する電圧の絶対値を変化させる方法、吐出時の電圧をヒーターに印加する前に事前に予備的に吐出に至らない程度の電圧を印加して吐出に備える操作、いわゆるプレヒート操作の条件を制御する方法が好適に挙げられる。
【0020】
インクジェットヘッドの吐出方式がピエゾ方式である場合、印刷ムラを抑制する観点、及びベタ埋まり性を向上させる観点から、一色目のインクと二色目以降のインクとでインクジェットヘッドのピエゾ素子に印加する電圧を調整することが好ましい。
一色目のインクを付与する際の分滴率を制御するためのインクジェットヘッドのピエゾ素子に印加する電圧は、ピエゾ素子の印加電圧の標準値に対する割合が、好ましくは110%以上、より好ましくは115%以上、更に好ましくは120%以上、より更に好ましくは125%以上、より更に好ましくは130%以上であり、そして、好ましくは150%以下、より好ましくは145%以下、更に好ましくは140%以下となるように調整することが好ましい。
また、二色目以降のインクを付与する際の分滴率を制御するためのインクジェットヘッドのピエゾ素子に印加する電圧は、ピエゾ素子の印加電圧の標準値に対する割合が、好ましくは100%以上であり、そして、好ましくは120%以下、より好ましくは115%以下、更に好ましくは110%以下、より更に好ましくは105%以下となるように調整することが好ましい。
ここで、ピエゾ素子の印加電圧の標準値とは、インクジェット印刷に用いられるインクジェットヘッドに印加する電圧として仕様上推奨されている電圧のことを意味し、仕様書やカタログに記載されている数値を参照することができる。
具体的には、例えば、ピエゾ素子の印加電圧の標準値が26Vであるインクジェットヘッドを用いる場合、一色目のインクを付与する際の分滴率を制御するためのインクジェットヘッドのピエゾ素子に印加する電圧は、好ましくは29V以上、より好ましくは30V以上、更に好ましくは31V以上、より更に好ましくは33V以上であり、そして、好ましくは39V以下、より好ましくは38V以下、更に好ましくは36V以下である。
また、二色目以降のインクを付与する際の分滴率を制御するためのインクジェットヘッドのピエゾ素子に印加する電圧は、好ましくは26V以上であり、そして、好ましくは35V以下、より好ましくは30V以下、更に好ましくは27V以下である。
【0021】
インクジェットヘッドの吐出方式がピエゾ方式である場合、一色目のインクを付与する際の分滴率を制御するためのインクジェットヘッド内の温度とピエゾ素子に印加する電圧の組み合わせとしては、インクジェットヘッド内の温度が38℃以上かつピエゾ素子に印加する電圧がピエゾ素子の印加電圧の標準値の110%に対応する電圧以上であることが好ましく、同40℃以上かつ同115%に対応する電圧以上であることがより好ましく、同43℃以上同120%に対応する電圧以上であることが更に好ましく、同43℃以上同125%に対応する電圧以上であることがより更に好ましく、同45℃以上同130%に対応する電圧以上であることがより更に好ましい。
そして、ピエゾ素子の印加電圧の標準値が26Vであるインクジェットヘッドを用いる場合、一色目のインクを付与する際の分滴率を制御するためのインクジェットヘッド内の温度とピエゾ素子に印加する電圧の組み合わせとしては、インクジェットヘッド内の温度が38℃以上かつピエゾ素子に印加する電圧が29V以上であることが好ましく、同40℃以上かつ同30V以上であることがより好ましく、同43℃以上同31V以上であることが更に好ましく、同43℃以上同33V以上であることがより更に好ましく、同45℃以上同33V以上であることがより更に好ましい。
【0022】
本発明において、一色目のインクと二色目以降のインクとの関係は、二次色以上の画像を形成するときに印刷される色相互の関係であることが好ましい。すなわち、本発明は、二色以上のインクを用いてインクジェット印刷方法であって、一色目に吐出されるインクの分滴率が、二色目以降に吐出されるインクの分滴率より大きい条件で、二色以上のインクを印刷媒体に付与して二次色以上の画像を形成する工程を含むインクジェット印刷方法であることが好ましい。
この場合、本発明により形成されるインクジェット印刷による画像は、前記画像形成工程を含むことにより少なくとも二次色以上の画像形成領域を含むものであればよい。すなわち、本発明により形成されるインクジェット印刷による画像は、一次色の画像形成領域と二次色以上の画像形成領域とを組み合わせたものであってもよい。
具体的には、シアンインクとマゼンタインクとで二次色としてブルーの画像を形成して印刷する際、一色目にシアンインクを印刷し、二色目にマゼンタインクを印刷する場合には、シアンインクの分滴率がマゼンタインクの分滴率より大きいことが好ましい。
マゼンタインクとイエローインクとで二次色としてレッドの画像を形成して印刷する際、一色目にマゼンタインクを印刷し、二色目にイエローインクを印刷する場合には、マゼンタインクの分滴率がイエローインクの分滴率より大きいことが好ましい。
シアンインクとイエローインクとで二次色としてグリーンの画像を形成して印刷する際、一色目にシアンインクを印刷し、二色目にイエローインクを印刷する場合、シアンインクの分滴率がイエローインクの分滴率より大きいことが好ましい。
シアンインクとマゼンタインクとイエローインクとで三次色としてブラックを印刷する際、一色目にシアンインクを印刷し、二色目にマゼンタインクを印刷し、三色目にイエローインクを印刷する場合、シアンインクの分滴率がマゼンタインクの分滴率及びイエローインクの分滴率の少なくともいずれかより大きいことが好ましい。
本発明においては、前記工程により形成される画像は、二次色又は三次色の画像であることがより好ましく、二次色の画像であることが更に好ましい。
【0023】
<インクジェットヘッド>
本発明の印刷方法に用いられるインクジェットヘッドの方式としては、ラインヘッド方式及びシリアルヘッド方式のいずれも用いることができる。
ラインヘッド方式は、印刷媒体の搬送方向と垂直な方向の長さと同じかそれ以上の幅に対してインクジェット印刷できる有効長を備えていて、インクジェット印刷時にはインクジェットヘッドそのものは移動しない方式である。
シリアルヘッド方式は、印刷媒体の搬送方向と垂直な方向にインクジェットヘッドを移動させながらインクジェット印刷を行う方式である。
これらの中でも、インクジェットヘッドの方式としては、印刷ムラを抑制する観点、及びベタ埋まり性を向上させる観点から、ラインヘッド方式を用いることが好ましい。
ラインヘッド方式は、複数個の単体ヘッドをライン状に配置させたものであってもよい。
本発明において、インクジェットヘッドは、インクジェットヘッド、又は、複数個の単体ヘッドをライン状に配置させたものをインクの色毎に具備していることが好ましい。
【0024】
インクジェットヘッドのノズルの間隔は、印刷ムラを抑制する観点、及びベタ埋まり性を向上させる観点から、好ましくは120npi以上、より好ましくは180npi以上、更に好ましくは300npi以上、より更に好ましくは800npi以上であり、そして、前記と同様の観点から、好ましくは6000npi以下、より好ましくは3600npi以下、更に好ましくは2400npi以下、より更に好ましくは1600npi以下である。
本発明において、インクジェットヘッドのノズルの間隔を示す単位「npi」はインクジェットヘッドのノズル列の長手方向1インチ当たりのノズル数を意味する。
本発明において、インクジェットヘッドを単独で用いている場合には、インクジェットヘッドのノズル間隔そのものが上記のインクジェットヘッドのノズル間隔を意味し、複数個の単体ヘッドを組み合わせて単体ヘッドのノズルが互いに重ならないように配置している場合には、ノズルが重ならない状態で見積もったノズル間隔を意味する。
インクジェットヘッドのノズルの間隔がインクの色毎に異なっている場合は、インクジェットヘッドのノズル列の長手方向1インチ当たりのノズル数が最も大きい色におけるノズル間隔を、本発明におけるインクジェットヘッドのノズル間隔とする。
【0025】
インクジェットの吐出方式には種々の方式があるが、本発明の印刷方法においては、圧電素子を用いるピエゾ方式、及び熱素子を用いるサーマル方式のいずれを用いてもよい。これらの中でも、インクジェットの吐出方式は、分滴率を制御し、印刷ムラを抑制する観点、及びベタ埋まり性を向上させる観点から、ピエゾ方式であることが好ましい。
【0026】
<印刷媒体の搬送速度>
本発明において、印刷媒体の搬送速度は、印刷物を効率的に得る観点から、好ましくは10m/min以上、より好ましくは15m/min以上、更に好ましくは20m/min以上であり、そして、印刷ムラを抑制する観点、及びベタ埋まり性を向上させる観点から、好ましくは100m/min以下、より好ましくは80m/min以下、更に好ましくは60m/min以下である。
【0027】
本発明においてインクの吐出液滴量は、分滴率の制御を容易にする観点から、好ましくは1pl以上、より好ましくは1.5pl以上、更に好ましくは2pl以上であり、そして、好ましくは15pl以下、より好ましくは10pl以下、更に好ましくは7.5pl以下、より更に好ましくは5pl以下である。
ここで、「pl(ピコリットル)」は「l(リットル)」の10-12を意味する。
前記インク液滴量は、インクジェットヘッド制御装置で設定することができる。インク液滴が分滴している場合は、インクの吐出液滴量は本体のインク滴と分離したインク滴との合計量を意味する。
【0028】
<解像度>
本発明の印刷方法において、印刷媒体の搬送方向に対して平行な方向における解像度、いわゆる印刷媒体上のインクドットの密度は、印刷ムラを抑制する観点、及びベタ埋まり性を向上させる観点から、好ましくは600dpi以上、より好ましくは800dpi以上、更に好ましくは1000dpi以上であり、そして、前記と同様の観点から、好ましくは3600dpi以下、より好ましくは2400dpi以下、更に好ましくは1800dpi以下、より更に好ましくは1200dpi以下である。
本発明の印刷方法において、印刷媒体の搬送方向に対して垂直な方向における解像度、いわゆる印刷媒体上のインクドットの密度は、印刷ムラを抑制する観点、及びベタ埋まり性を向上させる観点から、好ましくは600dpi以上、より好ましくは800dpi以上、更に好ましくは1000dpi以上であり、そして、前記と同様の観点から、好ましくは3600dpi以下、より好ましくは2400dpi以下、更に好ましくは1800dpi以下、より更に好ましくは1200dpi以下である。
本発明において、解像度を示す単位「dpi」とは、印刷媒体の搬送方向に対して平行な方向又は垂直な方向1インチ当たりのインクドットの数を意味する。
解像度がインクの色毎に異なっている場合は、解像度が最も大きいものを本発明における解像度とみなす。
【0029】
<インクドットの直径>
本発明の印刷方法において、印刷媒体上に着弾したインクドットの直径(以下、単に「インクドットの直径」ともいう)は、印刷ムラを抑制する観点、及びベタ埋まり性を向上させる観点から、好ましくは20μm以上、より好ましくは23μm以上、更に好ましくは25μm以上であり、そして、前記と同様の観点から、好ましくは50μm以下、より好ましくは45μm以下、更に好ましくは40μm以下である。
本発明において、印刷媒体上に着弾したインクドットの直径は、インクジェットヘッドから吐出されて飛翔している際に分滴していたとしてもひとまとまりに着弾して合一していればそれを一つのインクドットとみなす。また、インクドットの形状が円形でない場合には長径と短径の平均値を印刷媒体上に着弾したインクドットの直径とする。
また、本発明の印刷方法においてインクジェット印刷により印刷媒体上に着弾するインクドットは小径であるため、インクジェット印刷による画像の形成は速やかに完結する。そのため、インクジェット印刷で印刷媒体上に着弾した直後のインクドットの直径と、印刷媒体上に着弾した後に時間が経過してインクが完全に乾いた状態のインクドットの直径とは相違はないとみなすことができる。
印刷媒体上に着弾したインクドットの直径は、実施例に記載のとおり、インクジェット印刷によりインクを付与した後の印刷媒体を顕微鏡による観察において、10個のインクドットを観察してその平均値をインクドットの直径とすることができる。
【0030】
<インク>
本発明の印刷方法に用いられるインクとしては、水系インク及び非水系インクのいずれも用いることができるが、分滴率を制御し、印刷ムラを効率的に抑制する観点、及びベタ埋まり性を向上させる観点から、水系インクが好ましい。
本発明において「水系インク」とは、インクの液体成分において、水が質量基準で最大割合を占めているインクを意味する。
本発明の印刷方法に用いられるインク中の水の含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは55質量%以上、更に好ましくは60質量%以上であり、そして、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下、更に好ましくは80質量%以下である。
【0031】
〔着色材〕
本発明の印刷方法に用いられるインクは着色材を含有する。
着色材としては、染料、顔料、並びに染料及び顔料を組み合わせて用いることができるが、印刷ムラを抑制する観点、及びベタ埋まり性を向上させる観点から、顔料が好ましい。
顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよく、レーキ顔料、蛍光顔料を用いることもできる。また、必要に応じて、それらと体質顔料を併用することもできる。
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、酸化鉄、ベンガラ、酸化クロム等の金属酸化物、真珠光沢顔料が挙げられる。カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラックが挙げられる。
有機顔料としては、例えば、アゾレーキ顔料、不溶性モノアゾ顔料、不溶性ジスアゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料類;フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料、ジケトピロロピロール顔料、ベンツイミダゾロン顔料、スレン顔料等の多環式顔料類が挙げられる。
無彩色インクにおいては、ホワイト、ブラック、グレー等の無彩色顔料、有彩色インクにおいては、シアン、マゼンタ、イエロー、ブルー、レッド、オレンジ、グリーン等の有彩色の有機顔料をいずれも用いることができる。
好ましい有機顔料としては、例えば、シアン系顔料としてはC.I.ピグメント・ブルー;マゼンタ系顔料としてはC.I.ピグメント・レッド、C.I.ピグメント・オレンジ、C.I.ピグメント・バイオレット;イエロー系顔料としてはC.I.ピグメント・イエローからなる群から選ばれる1種以上の各品番製品が挙げられる。
顔料はシアン系、マゼンタ系、及びイエロー系のそれぞれの色系内において、1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0032】
これらの中でも、印刷ムラを抑制する観点、及びベタ埋まり性を向上させる観点から、C.I.ピグメント・ブルーとしてはC.I.ピグメント・ブルー15:3、及びC.I.ピグメント・ブルー15:4からなる群から選ばれる1種以上が好ましく、C.I.ピグメント・レッドとしてはC.I.ピグメントレッド122、及びC.I.ピグメントレッド150からなる群から選ばれる1種以上が好ましく、C.I.ピグメント・バイオレットとしてはC.I.ピグメント・バイオレット19が好ましく、C.I.ピグメント・イエローとしてはC.I.ピグメントイエロー74、及びC.I.ピグメントイエロー155からなる群から選ばれる1種以上が好ましい。
二次色の画像を形成する際の印刷ムラを抑制する観点、及びベタ埋まりを向上させる観点から、着色材の組み合せとしては、二次色としてブルーの画像を形成する観点からは、C.I.ピグメント・ブルー15:3及びC.I.ピグメント・ブルー15:4からなる群から選ばれる1種以上と、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド150、及びC.I.ピグメント・バイオレット19からなる群から選ばれる1種以上との組み合わせが好ましく、二次色としてレッドの画像を形成する観点からは、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド150及びC.I.ピグメント・バイオレット19からなる群から選ばれる1種以上と、C.I.ピグメント・イエロー74及びC.I.ピグメント・イエロー155からなる群から選ばれる1種以上との組み合わせが好ましく、二次色としてグリーンの画像を形成する観点からは、ピグメント・ブルー15:3及びピグメント・ブルー15:4からなる群から選ばれる1種以上と、C.I.ピグメント・イエロー74及びC.I.ピグメント・イエロー155からなる群から選ばれる1種以上との組み合わせが好ましい。
【0033】
本発明において、インク中の顔料の形態としては、顔料分散剤としてポリマー分散剤若しくは界面活性剤で分散されてなる形態、又は顔料分散剤を用いずに分散されてなる自己分散顔料の形態が挙げられる。ポリマー分散剤としては、水溶性ポリマー及び水不溶性ポリマーのいずれであってもよい。
ここで、ポリマーの「水溶性」及び「水不溶性」については、105℃で2時間乾燥させ、恒量に達したポリマーを、飽和に達するまで25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が10gを超える時は「水溶性」、10g以下である時は「水不溶性」と判断する。また、ポリマーがアニオン性基を有していて、さらに本発明に係るインクに配合される際に該アニオン性基が中和剤で中和されている場合には、本発明に係るインクに配合される際の該ポリマーと該中和剤との質量比が同一となる条件で中和剤を混在させた条件で測定した溶解量で「水溶性」及び「水不溶性」を判断する。
【0034】
本発明において、インク中の顔料の形態としては、具体的には、顔料の分散安定性を向上させて分滴の挙動を制御して、印刷ムラを抑制する観点、及びベタ埋まり性を向上させる観点から、(I)顔料表面にポリマー分散剤として水溶性ポリマーを吸着させた形態、(II)顔料表面に水溶性の界面活性剤又は水分散性の界面活性剤を吸着させた形態、(III)顔料表面に親水性官能基を化学的又は物理的に導入し、ポリマー分散剤及び界面活性剤を用いずに分散させた自己分散顔料の形態、(IV)顔料をポリマー分散剤として水不溶性ポリマーで被覆した形態等が好ましく挙げられる。これらの中でも、本発明において、インク中の顔料の形態は、前記と同様の観点から、より好ましくは(III)の形態及び(IV)の形態からなる群から選ばれる1種以上の形態であり、更に好ましくは(IV)の形態である。
【0035】
前記(IV)顔料をポリマー分散剤として水不溶性ポリマー(以下、該水不溶性ポリマーを「水不溶性ポリマー(p)」ともいう)で被覆した形態としては、顔料を含有する水不溶性ポリマー(p)の粒子(以下、「顔料含有ポリマー粒子」ともいう)の形態が好ましい。顔料含有ポリマー粒子の形態としては、例えば、水不溶性ポリマー(p)が顔料を内包(カプセル化)した形態、水不溶性ポリマー(p)中に顔料が均一に分散された形態、水不溶性ポリマー(p)の粒子の表面から顔料が露出した形態、水不溶性ポリマー(p)が顔料に吸着している形態、及びこれらの混合物が含まれる。
【0036】
水不溶性ポリマー(p)としては、ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂等が挙げられる。これらの中では、印刷ムラを抑制する観点、及びベタ埋まり性を向上させる観点から、ビニル単量体の付加重合により得られるビニル系ポリマーが好ましい。該ビニル系ポリマーとしては、イオン性モノマー由来の構成単位を含有することが好ましく、更に疎水性モノマー及び/又はノニオン性モノマー由来の構成単位を含有することがより好ましい。前記イオン性モノマー、前記疎水性モノマー、及び前記ノニオン性モノマーとしては、特開2022-104084号公報の段落〔0015〕乃至〔0019〕に記載で例示されているものを用いることが好ましい。それらの中でも、水不溶性ポリマー(p)は、顔料の分散安定性を向上させて分滴の挙動を制御して、印刷ムラを抑制する観点、及びベタ埋まり性を向上させる観点から、アクリル酸及びメタクリル酸からなる群から選ばれる1種以上のイオン性モノマー由来の構成単位と、スチレン、α-メチルスチレン及びベンジル(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる1種以上の疎水性モノマー由来の構成単位とを含有するものがより好ましい。
【0037】
水不溶性ポリマー(p)の重量平均分子量は、好ましくは10,000以上、より好ましくは15,000以上であり、そして、好ましくは100,000以下、より好ましくは50,000以下である。水不溶性ポリマー(p)の重量平均分子量は、実施例に記載の方法により測定される。
水不溶性ポリマー(p)の酸価は、好ましくは80mgKOH/g以上、より好ましくは120mgKOH/g以上、更に好ましくは160mgKOH/g以上、より更に好ましくは200mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは300mgKOH/g以下、より好ましくは280mgKOH/g以下である。水不溶性ポリマー(p)の酸価は、実施例に記載の方法により求めることができるが、構成するモノマーの質量比から算出することもできる。
【0038】
ポリマー分散剤で分散された顔料としては、顔料の分散安定性を向上させて分滴の挙動を制御して、印刷ムラを抑制する観点、及びベタ埋まり性を向上させる観点から、該ポリマー分散剤が架橋剤で架橋されたもの、すなわち、架橋構造を有するポリマー分散剤(以下、「架橋ポリマー分散剤」ともいう)で分散された顔料であってもよい。
本発明に係るインク中の顔料の形態が(IV)の形態である場合、顔料を含有する水不溶性架橋ポリマーの粒子(以下、「顔料含有架橋ポリマー粒子」ともいう)の形態であることが好ましい。顔料含有架橋ポリマー粒子は、顔料及び架橋ポリマーから構成されてなり、該架橋ポリマーは好ましくは水不溶性ポリマー(p)由来の構造と架橋剤由来の構造とからなるものであり、より好ましくは水不溶性ポリマー(p)を架橋剤で架橋処理されてなるものである。
架橋剤としては、ポリマー分散剤が有する官能基と反応できる官能基を2以上有する化合物が挙げられる。例えば、ポリマー分散剤がカルボキシ基を有する場合、架橋剤としては、多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物が好ましく挙げられる。
【0039】
本発明の印刷方法に用いられるインクにおいて、該インク中の顔料の形態が(IV)の形態である場合、顔料は、顔料含有ポリマー粒子又は顔料含有架橋ポリマー粒子の水系分散体(以下、「顔料分散体」ともいう)としてインクに配合されてなることが好ましい。顔料分散体は、顔料及び水不溶性ポリマー(p)を用いて、特開2022-104084号公報の段落〔0022〕乃至〔0027〕に記載の方法により効率的に製造することができる。
【0040】
顔料分散体中の顔料含有ポリマー粒子又は顔料含有架橋ポリマー粒子の平均粒径は、顔料の分散安定性を向上させて分滴の挙動を制御して、印刷ムラを抑制する観点、及びベタ埋まり性を向上させる観点から、好ましくは60nm以上、より好ましくは70nm以上、更に好ましくは80nm以上、より更に好ましくは90nm以上であり、そして、好ましくは200nm以下、より好ましくは170nm以下、更に好ましくは130nm以下である。前記平均粒径は、実施例に記載の方法により測定される。
【0041】
本発明に係るインク中の顔料の含有量は、得られる印刷物の画像濃度を確保する観点から、好ましくは2質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは4質量%以上であり、そして、顔料の分散安定性を向上させて分滴の挙動を制御して、印刷ムラを抑制する観点、及びベタ埋まり性を向上させる観点から、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましく15質量%以下、より更に好ましくは10質量%以下である。
本発明に係るインク中のポリマー分散剤又は架橋ポリマー分散剤の含有量は、顔料の分散安定性を向上させて分滴の挙動を制御して、印刷ムラを抑制する観点、及びベタ埋まり性を向上させる観点から、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは0.8質量%以上、更に好ましくは1.0質量%以上であり、そして、画像濃度を向上させる観点から、好ましくは10質量%以下、より好ましくは7質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。
本発明に係るインク中の顔料の含有量に対するポリマー分散剤又は架橋ポリマー分散剤の含有量の質量比[(ポリマー分散剤又は架橋ポリマー分散剤)/顔料]は、顔料の分散安定性を向上させて分滴の挙動を制御して、印刷ムラを抑制する観点、及びベタ埋まり性を向上させる観点から、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、更に好ましくは0.3以上であり、そして、得られる印刷物の画像濃度を確保する観点から、好ましくは0.9以下、より好ましくは0.7以下、更に好ましくは0.5以下である。
【0042】
〔水溶性有機溶剤〕
本発明の印刷方法に用いられるインクは、インクジェットヘッドノズル内でのインクの乾燥を抑制して分滴の挙動を制御し、印刷ムラを抑制する観点、及びベタ埋まり性を向上させる観点から、水溶性有機溶剤を含有することが好ましい。
水溶性有機溶剤としては、例えば、多価アルコール、グリコールエーテル、及び環状アミド化合物からなる群から選ばれる1種以上が好ましく挙げられる。
【0043】
多価アルコールの好ましい例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、1,2,6-ヘキサントリオール、1,2,4-ブタントリオール、1,2,3-ブタントリオール、ペトリオールが挙げられる。
これらの中でも、多価アルコールは、好ましくはアルカンジオール及びアルカントリオールからなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくはアルカンジオールであり、更に好ましくは1,2-アルカンジオールであり、より更に好ましくは1,2-ブタンジオール、及びプロピレングリコールからなる群から選ばれる1種以上であり、より更に好ましくはプロピレングリコールである。
【0044】
グリコールエーテルとしては、例えば、アルキレングリコールモノアルキルエーテル及びアルキレングリコールジアルキルエーテルからなる群から選ばれる1種以上が好ましく挙げられる。
アルキレングリコールモノアルキルエーテルの好ましい例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルが挙げられる。
アルキレングリコールジアルキルエーテルの好ましい例としては、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテルが挙げられる。
これらの中でも、グリコールエーテルは、より好ましくはアルキレングリコールモノアルキルエーテルであり、更に好ましくはジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、及びジエチレングリコールモノイソブチルエーテルからなる群から選ばれる1種以上であり、より更に好ましくはジエチレングリコールモノイソブチルエーテルである。
【0045】
環状アミド化合物の好ましい例としては、2-ピロリドン、2-メチルピロリドンが挙げられる。
これらの中でも、水溶性有機溶剤としては、インクジェットヘッドノズル内でのインクの乾燥を抑制して分滴の挙動を制御し、印刷ムラを抑制する観点、及びベタ埋まり性を向上させる観点から、多価アルコール及びグリコールエーテルからなる群から選ばれる1種以上を用いることがより好ましく、多価アルコールから1種以上とグリコールエーテルから1種以上とを組み合わせて用いることが更に好ましい。
【0046】
本発明の印刷方法に用いられるインク中の水溶性有機溶剤の含有量は、インクジェットヘッドノズル内でのインクの乾燥を抑制して分滴の挙動を制御し、印刷ムラを抑制する観点、及びベタ埋まり性を向上させる観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、そして、前記と同様の観点から、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。
【0047】
〔界面活性剤〕
本発明の印刷方法に用いられるインクは、インクの気液界面エネルギーを調節して分滴の挙動を制御し、印刷ムラを抑制する観点、及びベタ埋まり性を向上させる観点から、界面活性剤を含有することが好ましい。
界面活性剤としては、例えば、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられ、ノニオン性界面活性剤が好ましい。
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、アセチレン系界面活性剤、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型界面活性剤、多価アルコール型界面活性剤、脂肪酸アルカノールアミド、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤が挙げられる。
これらの中でも、界面活性剤としては、アセチレン系界面活性剤、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤、及びシリコーン系界面活性剤からなる群から選ばれる1種以上が好ましく挙げられる。これらの中でも、アセチレン系界面活性剤及びシリコーン系界面活性剤から選ばれる1種以上を含有することがより好ましい。
【0048】
アセチレン系界面活性剤としては、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、2,4-ジメチル-5-ヘキシン-3-オール、及びこれらのエチレンオキシド付加物が好ましく挙げられ、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールがより好ましい。
【0049】
アセチレン系界面活性剤のHLB値は、インクの気液界面エネルギーを調節して分滴の挙動を制御し、印刷ムラを抑制する観点、及びベタ埋まり性を向上させる観点から、好ましくは2以上、より好ましくは2.5以上、更に好ましくは3以上であり、そして、前記と同様の観点から、好ましくは18以下、より好ましくは14以下、更に好ましくは10以下、より更に好ましくは7以下である。
本発明においてHLB値は、親水性親油性バランス(Hydrophile-Lypophile Balance)として界面活性剤の水及び油への親和性を示す値であり、グリフィン法により次式から求めることができる。また、各製品のカタログ値を参照することもできる。
HLB値=20×[(界面活性剤中に含まれる親水基の式量の総和)/(界面活性剤の分子量)]
界面活性剤中に含まれる親水基としては、例えば、ヒドロキシ基及びエチレンオキシ基が挙げられる。
【0050】
アセチレン系界面活性剤の市販品としては、日信化学工業株式会社製のサーフィノール104PG50(2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのプロピレングリコール50質量%溶液、HLB値:4(カタログ値))、サーフィノール440(2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのエチレンオキシド3.5モル付加物、HLB値:8(カタログ値))、サーフィノール465(2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのエチレンオキシド10モル付加物、HLB値:13(カタログ値))、サーフィノールDF110D(2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオールのジプロピレングリコールの32質量%溶液、HLB値:3(カタログ値))等が挙げられる。
【0051】
シリコーン系界面活性剤としては、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤が好ましい。
ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤のポリエーテル基としては、例えば、ポリエチレンオキシ基、ポリプロピレンオキシ基、エチレンオキシ基(EO)とプロピレンオキシ基(トリメチレンオキシ基又はプロパン-1,2-ジイルオキシ基;PO)がブロック状又はランダムに付加したポリアルキレンオキシ基が好適であり、シリコーン主鎖にポリエーテル基がグラフトした化合物、シリコーン主鎖の両末端にポリエーテル基がブロック状に結合した化合物を用いることができる。
【0052】
ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤のHLB値は、インクの気液界面エネルギーを調節して分滴の挙動を制御し、印刷ムラを抑制する観点、及びベタ埋まり性を向上させる観点から、好ましくは18以下、より好ましくは17以下、更に好ましくは16以下であり、そして、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、更に好ましくは4以上、より更に好ましくは6以上、より更に好ましくは8以上、より更に好ましくは10以上である。
【0053】
ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤の具体例としては、PEG-3ジメチコン、PEG-9ジメチコン、PEG-9メチルエーテルジメチコン、PEG-10ジメチコン、PEG-11メチルエーテルジメチコン、PEG/PPG-20/22ブチルエーテルジメチコン、PEG-32メチルエーテルジメチコン、PEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン、ラウリルPEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン等が挙げられる。
ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤の市販品としては、信越化学工業株式会社製のKFシリーズ、日信化学工業株式会社製のシルフェイスSAG005、ビックケミー・ジャパン株式会社製のBYK-348等が挙げられる。
【0054】
本発明の印刷方法において用いられるインク中のアセチレン系界面活性剤の含有量は、インクの気液界面エネルギーを調節して分滴の挙動を制御し、印刷ムラを抑制する観点、及びベタ埋まり性を向上させる観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上、より更に好ましくは0.4質量%以上であり、そして、前記と同様の観点から、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.8質量%以下、更に好ましくは0.7質量%以下である。
【0055】
本発明の印刷方法において用いられるインク中のポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤の含有量は、インクの気液界面エネルギーを調節して分滴の挙動を制御し、印刷ムラを抑制する観点、及びベタ埋まり性を向上させる観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上、より更に好ましくは0.4質量%以上であり、そして、前記と同様の観点から、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.8質量%以下、更に好ましくは0.7質量%以下である。
【0056】
本発明の印刷方法に用いられるインクにおいては、アセチレン系界面活性剤とポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤とを併用するものであることが好ましい。
アセチレン系界面活性剤とポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤とを併用する場合、アセチレン系界面活性剤の含有量のポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤の含有量に対する質量比[アセチレン系界面活性剤/ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤]は、インクの気液界面エネルギーを調節して分滴の挙動を制御し、印刷ムラを抑制する観点、及びベタ埋まり性を向上させる観点から、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.6以上、更に好ましくは0.7以上であり、そして好ましくは1.5以下、より好ましくは1.3以下、更に好ましくは1.2以下、より更に好ましくは1.0以下である。
【0057】
本発明の印刷方法に用いられるインクには、更に必要に応じて定着樹脂、保湿剤、湿潤剤、濡れ・浸透剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤等の各種添加剤を含有してもよい。該インクは、顔料分散体、水溶性有機溶剤、及び必要に応じて、水、界面活性剤等の各種添加剤を混合することにより製造することができる。
【0058】
本発明の印刷方法に用いられるインク中の顔料含有ポリマー粒子又は顔料含有架橋ポリマー粒子の平均粒径は、顔料の分散安定性を向上させて分滴の挙動を制御して、印刷ムラを抑制する観点、及びベタ埋まり性を向上させる観点から、好ましくは60nm以上、より好ましくは70nm以上、更に好ましくは80nm以上、より更に好ましくは90nm以上であり、そして、好ましくは200nm以下、より好ましくは170nm以下、更に好ましくは150nm以下である。前記平均粒径は、実施例に記載の方法により測定される。
本発明の印刷方法に用いられるインクの32℃の粘度は、分滴率を制御し、印刷ムラを抑制する観点、及びベタ埋まり性を向上させる観点から、好ましくは2mPa・s以上、より好ましくは3mPa・s以上、更に好ましくは4mPa・s以上であり、そして、好ましくは12mPa・s以下、より好ましくは9mPa・s以下、更に好ましくは7mPa・s以下である。前記粘度は、実施例に記載の方法により測定される。
本発明の印刷方法に用いられるインクの静的表面張力は、分滴率を制御し、印刷ムラを抑制する観点、及びベタ埋まり性を向上させる観点から、好ましくは22mN/m以上、より好ましくは24mN/m以上、更に好ましくは25mN/m以上であり、そして、好ましくは45mN/m以下、より好ましくは40mN/m以下、更に好ましくは35mN/m以下である。前記静的表面張力は、実施例に記載の方法により測定される。
本発明の印刷方法に用いられるインクのpHは、好ましくは7.0以上、より好ましくは7.2以上、更に好ましくは7.5以上である。また、部材耐性、皮膚刺激性の観点から、pHは、好ましくは11以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは9.5以下である。前記pHは、実施例に記載の方法により測定される。
【0059】
(乾燥工程)
本発明の印刷方法は、印刷ムラを抑制する観点、及びベタ埋まり性を向上させる観点から、前記画像形成工程中及び/又は前記画像形成工程後に、インクが付与して画像が形成された印刷媒体を高温環境下に保持して該印刷媒体上のインク塗膜から水を主成分とするインクビヒクルの除去を促進する工程、すなわち乾燥工程を更に含むことが好ましい。
印刷媒体を保持する温度、すなわち乾燥温度は、インクビヒクルの除去を促進して、印刷ムラを抑制する観点、及びベタ埋まり性を向上させる観点から、好ましくは30℃以上、より好ましくは35℃以上、更に好ましくは40℃以上であり、そして、印刷媒体の熱変性を抑制する観点から、好ましくは60℃以下、より好ましくは55℃以下、更に好ましくは50℃以下である。
【0060】
印刷媒体を高温環境下に保持する好ましい手段としては、所望の温度に調整した気体を画像形成工程中及び/又は画像形成工程が終了した印刷媒体に吹き付ける方法、所望の温度に調整した気体雰囲気に画像形成工程中及び/又は画像形成工程が終了した印刷媒体を通過させる方法、画像形成工程中及び/又は画像形成工程が終了した印刷媒体に赤外線ヒーターを照射する方法、画像形成工程中及び/又は画像形成工程が終了した印刷媒体をプラテンヒーターにより加熱する方法が挙げられる。これらの中では、印刷媒体を高温環境下に保持する手段としては、好ましくは印刷媒体が乾燥温度に到達するように温度を調整した気体を(A1)画像形成工程中及び/又は(A2)画像形成工程が終了した印刷媒体に吹き付ける方法、及び印刷媒体が乾燥温度に到達するように温度を調整したプラテンヒーターにより(B1)画像形成工程中及び/又は(B2)画像形成工程が終了した印刷媒体を加熱する方法からなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくは印刷媒体が乾燥温度に到達するように温度を調整した気体を(A2)画像形成工程が終了した印刷媒体に吹き付ける方法、及び印刷媒体が乾燥温度に到達するように温度を調整したプラテンヒーターにより(B1)画像形成工程中及び(B2)画像形成工程が終了した印刷媒体を加熱する方法からなる群から選ばれる1種以上であり、更に好ましくは所望の温度に調整した気体を(A2)画像形成工程が終了した印刷媒体に吹き付ける方法と(B1)画像形成工程中及び(B2)画像形成工程が終了した印刷媒体をプラテンヒーターにより加熱する方法との併用である。
この時、印刷媒体が乾燥温度に到達するように温度を調整した気体を印刷媒体に吹き付ける際の温風の速度は、印刷ムラを抑制する観点、及びベタ埋まり性を向上させる観点から、好ましくは5m/s以上であり、より好ましくは7m/s以上であり、更に好ましくは8m/s以上であり、そして、好ましくは15m/s以下であり、より好ましくは13m/s以下であり、更に好ましくは12m/s以下である。
【実施例0061】
以下の製造例、実施例及び比較例において、「部」及び「%」は特記しない限り「質量部」及び「質量%」である。なお、各物性等の測定方法は以下のとおりである。
【0062】
(1)水不溶性ポリマー(p)の重量平均分子量の測定
ゲル浸透クロマトグラフィー法により求めた。測定条件を下記に示す。
GPC装置:東ソー株式会社製「HLC-8320GPC」
カラム:東ソー株式会社製「TSKgel SuperAWM-H」、「TSKgel SuperAW3000」、「TSKgel guardcolum Super AW-H」
溶離液:N,N-ジメチルホルムアミドに、リン酸及びリチウムブロマイドをそれぞれ60mmol/Lと50mmol/Lの濃度となるように溶解した液
流速:0.5mL/min
標準物質:分子量既知の単分散ポリスチレンキット〔PStQuick b(F-550,F-80,F-10,F-1,a-1000)、PStQuick C(F-288,F-40,F-4,a-5000,a-500)〕(以上、東ソー株式会社製)
測定サンプル:ガラスバイアル中に測定対象ポリマー0.1gを前記溶離液10mLと混合し、25℃で10時間、マグネチックスターラーで撹拌し、シリンジフィルター「DISMIC-13HP」(PTFE製、0.2μm、アドバンテック株式会社製)で濾過したものを用いた。
【0063】
(2)水不溶性ポリマー(p)の酸価の測定
電位差自動滴定装置(京都電子工業株式会社製、電動ビューレット、型番:APB-610)に水不溶性ポリマー(p)をトルエンとアセトン(容積比=2:1)を混合した滴定溶剤に溶かし、電位差滴定法により0.1N水酸化カリウム/エタノール溶液で滴定し、滴定曲線上の変曲点を終点とした。終点までの水酸化カリウム溶液の滴定量から酸価(mgKOH/g)を算出した。
【0064】
(3)固形分濃度の測定
30mLのポリプロピレン製容器(φ=40mm、高さ=30mm)にデシケーター中で恒量化した硫酸ナトリウム10.0gを量り取り、そこへサンプル約1.0gを添加して混合させた後、正確に秤量し、105℃で2時間維持して、揮発分を除去し、さらにデシケーター内で15分間放置し、質量を測定した。揮発分除去後のサンプルの質量を固形分として、添加したサンプルの質量で除して固形分濃度(%)とした。
【0065】
(4)顔料水分散体又はインク中の顔料含有ポリマー粒子の平均粒径の測定
レーザー粒子解析システム「ELS-8000」(大塚電子株式会社製)を用いて、動的光散乱法により粒径を測定し、キュムラント法解析を行い、得られたキュムラント平均粒径を顔料含有ポリマー粒子の平均粒径とした。測定試料には、測定する粒子の濃度が5×10-3質量%(固形分濃度換算)となるように水で希釈した分散液を用いた。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力した。
【0066】
(5)インクの粘度の測定
E型粘度計「TV-25」(東機産業株式会社製、標準コーンロータ1°34’×R24、回転数50rpm)を用いて、32℃におけるインクの粘度を測定した。
【0067】
(6)インクの静的表面張力の測定
表面張力計「CBVP-Z」(協和界面科学株式会社製)を用いて、白金プレートを5gの水系インクの入った円柱ポリエチレン製容器(直径3.6cm×深さ1.2cm)に浸漬させ、20℃にてインクの静的表面張力を測定した。
【0068】
(7)インクのpHの測定
pH電極「6337-10D」(株式会社堀場製作所製)を使用した卓上型pH計「F-71」(株式会社堀場製作所製)を用いて、インクの25℃におけるpHを測定した。
【0069】
(8)インクドットの直径
インクジェット印刷によりインクを付与した後の実施例で用いた印刷媒体のデジタルマイクロスコープ「RH-2000」(株式会社ハイロックス製)による観察において1色目、2色目それぞれ10個のインクドットを観察してその平均値をインクドットの直径とした。
【0070】
(水不溶性ポリマー(p)の製造)
製造例1-1
アクリル酸31部及びスチレン69部を混合してモノマー混合液を調製した。反応容器内に、メチルエチルケトン(以下、「MEK」と表記する)10部、重合連鎖移動剤として2-メルカプトエタノール0.2部、及び前記モノマー混合液の10%を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行った。
別途、滴下ロートに、前記モノマー混合液の残り(前記モノマー混合液の90%)、前記重合連鎖移動剤0.13部、MEK30部、及びラジカル重合開始剤として2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(富士フイルム和光純薬株式会社製「V-65」)1.1部の混合液を入れた。
次いで、窒素雰囲気下、反応容器内の前記モノマー混合液を撹拌しながら65℃まで昇温した後、前記滴下ロート中の混合液を3時間かけて滴下した。そのまま65℃に保持しながら滴下終了から2時間経過した後、前記重合開始剤0.1部をMEK2部に溶解した溶液を加え、更に65℃で2時間、70℃で2時間熟成させた後に減圧乾燥して水不溶性ポリマー(p-1)(重量平均分子量:19,000、酸価:240mgKOH/g)を得た。
【0071】
(顔料水分散体の製造)
製造例2-1
製造例1-1で得られた水不溶性ポリマー(p-1)100部をMEK78.6部と混合し、更に中和剤として5N水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウムの含有量:16.9%)41.2部を加え中和した(中和度:40モル%)。更にイオン交換水800部を加え、その中にシアン顔料(C.I.ピグメント・ブルー15:3)100部を加え、ディスパー(淺田鉄工株式会社製「ウルトラディスパー」)を用いて、20℃でディスパー翼を6,000rpmで回転させる条件で3時間撹拌した。次いで、イオン交換水124部を加え、マイクロフルイダイザー(Microfluidics社製、商品名)で150MPaの圧力で15パス分散処理して、顔料分散液を得た。
得られた顔料分散液を500mLアングルローターに投入し、高速冷却遠心機(日立工機株式会社製「himac CR22G」、設定温度20℃)を用いて3,660rpmで20分間遠心分離した後、液相部分を回収して5μmのメンブランフィルター(ザルトリウス社製「ミニザルト」)で濾過して、シアン顔料含有ポリマー粒子を含むシアン顔料水分散体D1(固形分濃度:25%、シアン顔料の含有量:19%、ポリマーの含有量:6%、シアン顔料含有ポリマー粒子の平均粒径:105nm)を得た。
【0072】
製造例2-2~2-3
製造例2-1において、シアン顔料をマゼンタ顔料(C.I.ピグメント・レッド122)及びイエロー顔料(C.I.ピグメント・イエロー74)にそれぞれ変更した以外は同様にして、マゼンタ顔料水分散体D2(固形分濃度:25%、マゼンタ顔料の含有量:19%、ポリマーの含有量:6%、マゼンタ顔料含有ポリマー粒子の平均粒径:105nm)、イエロー顔料水分散体D3(固形分濃度:25%、イエロー顔料の含有量:19%、ポリマーの含有量:6%、イエロー顔料含有ポリマー粒子の平均粒径:120nm)を得た。
【0073】
(水系インクの製造)
製造例3-1
製造例2-1で得られたシアン顔料水分散体D1(固形分濃度25%)105.26部、プロピレングリコール(沸点188℃)100部、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル(沸点230℃)20部、アセチレングリコール系界面活性剤(日信化学工業株式会社製「サーフィノール104PG50」、有効分50%)5部、シリコーン系界面活性剤(信越化学工業株式会社製「KF-6011」、ポリエーテル変性シリコーン)3.25部、及びイオン交換水266.49部を添加して混合した。得られた混合液をフィルター「ミニザルトシリンジフィルター」(ザルトリウス社製、孔径:5μm、材質:酢酸セルロース)で濾過し、シアン水系インクC-1を得た。得られたシアン水系インクC-1の物性を表1に示す。
【0074】
製造例3-2~3-3
製造例3-1において、シアン顔料水分散体D1に代えてマゼンタ顔料水分散体D2及びイエロー顔料水分散体D3をそれぞれ用いた以外は同様の手順で、マゼンタ水系インクM-1及びイエロー水系インクY-1をそれぞれ得た。
【0075】
【0076】
実施例1
印刷媒体としてコロナ放電処理PETフィルム(フタムラ化学株式会社製「太閤ポリエステルフィルムFE2001」、厚さ25μm)を用意した。
温度25±1℃、相対湿度30±5%の環境下で、インクジェット印刷用ラインヘッド(京セラ株式会社製「KJ4b-1200」、ピエゾ方式、インクジェットヘッドのノズル列の長手方向1インチ当たりのノズル数は1200、ピエゾ素子の印加電圧の標準値は26V)を装備した印刷評価装置(株式会社トライテック製)にシアン水系インクC-1、マゼンタ水系インクM-1、イエロー水系インクY-1を充填し、シアン水系インクを充填したラインヘッド、マゼンタ水系インクを充填したラインヘッド、イエロー水系インクを充填したラインヘッドの順に印刷媒体に各インクが印刷されるように設定した。各色インクを充填したラインヘッド同士の間隔はそれぞれ55mmに設定した。
一色目に印刷媒体に付与されるインクとしてシアン水系インクC-1を前記印刷評価装置のラインヘッドに充填し、特定の20個のノズルについて、該印刷評価装置の吐出観察モード(インクジェットヘッドからインクを吐出する1回の吐出命令に基づいて吐出されたインクのインクジェット吐出観察装置(インクジェットヘッドから吐出されるインクが静止したように見えるようにストロボ発光の間隔を調節し、該静止したように見えるインクを動画撮影カメラ(フレームレート:24fps以上60fps以下)で撮影する装置)による観察において、インクジェットヘッドのノズルプレートからの距離が1mm以上2mm以下の範囲でインク滴が観察される条件(撮像倍率:180倍)を設定した際に、該距離範囲内に存在するインク滴について分滴が確認されたノズルの個数から、以下の式によって算出される分滴率が100%となるような条件として、インクジェットヘッド内の温度を45℃に、インクジェットヘッドのピエゾ素子の印加電圧を35Vに設定した。
分滴率(%)=(分滴が確認されたノズルの個数/20)×100
二色目に印刷媒体に付与されるインクとしてマゼンタ水系インクM-1を充填したラインヘッドを、上記と同様にして算出される分滴率が0%となるような条件として、インクジェットヘッド内の温度を35℃に、インクジェットヘッドのピエゾ素子の印加電圧を26Vに設定した。
なお、インクジェットヘッドのその他の駆動条件として、駆動周波数16kHz、吐出液滴量2.5pl、吐出前フラッシング回数200発、負圧-4.0kPaを設定した。
前記印刷評価装置の搬送台にA3サイズのフィルムヒーター(株式会社河合電器製作所製)を固定し、インクジェットヘッドに対向する印刷媒体の面とは反対の面から該印刷媒体を加熱できる状態とし、該搬送台には印刷媒体を該印刷媒体の長手方向と該印刷媒体の搬送方向が同じになる向きになるようにセットした。
この時、フィルムヒーターと印刷媒体との距離は0.25mm、インクジェットヘッドと印刷媒体との間の距離は1.0mmに設定した。また、フィルムヒーターの表面温度を45℃として印刷媒体表面の温度が40℃になるようにした。
次いで、印刷媒体の搬送速度20m/min、上記で設定したインクジェットヘッド内の温度及びインクジェットヘッドのピエゾ素子の印加電圧にて、シアン水系インクC-1、マゼンタ水系インクM-1の順番で、印刷Dutyが各色50%のベタ画像を重ね合わせる印刷命令を該印刷評価装置に転送し、インクジェット記録方式によりシアン水系インクC-1およびマゼンタ水系インクM-1を印刷媒体に付与して二次色のベタ画像を形成し、該二次色のベタ画像が形成された印刷媒体に45℃の温風を10m/sの速度で20秒吹き付ける設定で該ベタ画像を乾燥させて、ベタ埋まり性評価用印刷物を得た。この時、1色目のインクドットの直径は25μm、2色目のインクドットの直径は40μmであった。得られた印刷物を用いて、以下に示す方法にてベタ埋まり性を評価した。
上記のベタ埋まり性評価印刷物の製造において、印刷Dutyが各色50%のベタ画像を重ね合わせる印刷命令に代えて、印刷Dutyが各色100%のベタ画像を重ね合わせる印刷命令とした以外は同様の手順で、二次色ベタ画像を形成し、印刷ムラ評価用印刷物を得た。得られた印刷物を用いて、以下に示す方法にて印刷ムラを評価した。
【0077】
実施例2~7、比較例1~3
実施例1において、表2に示すインクを組み合わせて、一色目及び二色目に吐出されるインクの分滴率がそれぞれ表2に示す値となるように実施例1と同様の方法を用いてインクジェットヘッド内の温度及びインクジェットヘッドのピエゾ素子の印加電圧を調整した以外は同様にしてインクジェット印刷を行って二次色の画像を形成し、各ベタ埋まり性評価用印刷物及び各印刷ムラ評価用印刷物を得た。以下に示す方法にてベタ埋まり性及び印刷ムラを評価した。
なお、比較例2は二色目のインクの分滴によりベタ画像の形成が困難であったため、印刷ムラの評価ができなかった。
【0078】
実施例8
実施例1において、一色目にマゼンタ水系インク、二色目にシアン水系インクが印刷されるようにインクの充填部位を変更し、更に一色目及び二色目に吐出されるインクの分滴率をそれぞれ表2に示す値となるように実施例1と同様の方法にてインクジェットヘッド内の温度及びインクジェットヘッドの吐出力を調整した以外は同様にしてインクジェット印刷を行って二次色の画像を形成し、ベタ埋まり性評価用印刷物及び印刷ムラ評価用印刷物を得た。以下に示す方法にてベタ埋まり性及び印刷ムラを評価した。
【0079】
<ベタ埋まり性>
実施例及び比較例で得られた各ベタ埋まり性評価用印刷物に形成された画像を目視で観察し、以下の評価基準にて二次色のベタ埋まり性を評価した。評価基準が5であると二次色のベタ埋まり性に優れることを示す。また、評価基準が1であると二次色のベタ埋まり性が劣っていることを示す。
(評価基準)
5:スジがなく、ベタ埋まりが特に良好である。
4:ごく僅かなスジが見られるが、ベタ埋まりが良好である。
3:スジが若干見られるが、ベタ埋まりはおおむね良好である。
2:スジがあり、ベタが埋まっていない部分が一部ある。
1:スジが多く見られ、ベタが埋まっていない部分がある。
【0080】
<印刷ムラ>
実施例及び比較例で得られた各印刷ムラ評価用印刷物に形成された二次色ベタ画像を目視で観察し、以下の評価基準にてモットリング(インク濃度の不規則なムラ)を評価した。評価基準が5であると印刷ムラが抑制されており、印刷品質が優れていることを示す。また、評価基準が1であると印刷ムラがかなり確認され、印刷品質が劣っていることを示す。
(評価基準)
5:ベタ画像上にモットリングが見られず、印刷ムラが特に良好に抑制されている。
4:ベタ画像上に僅かにモットリングが見られるが、印刷ムラが良好に抑制されている。
3:ベタ画像上にややモットリングが見られるが、印刷ムラがおおむね良好に抑制されている。
2:ベタ画像上にモットリングが画像形成領域の一部に見られ、印刷ムラが発生している。
1:ベタ画像上にモットリングが画像形成領域のほぼ全てに見られ、印刷ムラが発生している。
【0081】
【0082】
表2から、実施例1~8は、一色目に吐出されるインクの分滴率が、二色目以降に吐出されるインクの分滴率より大きいため、比較例1~3と比べて、ベタ埋まり性に優れ、また、印刷ムラも抑制されていることがわかる。