(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158963
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】立体細胞構造体を製造する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20241031BHJP
【FI】
C12N5/071
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074637
(22)【出願日】2023-04-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-04-22
(71)【出願人】
【識別番号】519206564
【氏名又は名称】ティシューバイネット株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(71)【出願人】
【識別番号】510094724
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立循環器病研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100196405
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 邦光
(72)【発明者】
【氏名】森本 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】山岡 哲二
(72)【発明者】
【氏名】坂本 道治
(72)【発明者】
【氏名】仲野 孝史
(72)【発明者】
【氏名】大野 次郎
(72)【発明者】
【氏名】深澤 今日子
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065BC41
4B065BD14
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】本発明は、縫合可能な強度を有する立体細胞構造体を提供することを目的としている。
【解決手段】本発明の立体細胞構造体を製造する方法は、
(1)増殖能を有する元細胞と、下面、上面、及び側面により囲われた内部空間を有するキャビティーを含み、かつ培養液が前記内部空間内に循環可能であるように形成された培養チャンバーとを用意する工程と、
(2)前記元細胞を、前記培養チャンバーに供給する工程と、
(3)前記培養チャンバー全体を培養液内に保持する工程と、
(4)前記元細胞を培養して、前記元細胞と、それに由来する培養細胞と、培養中に産生された細胞外マトリックスとが一体となることで構成され、かつ前記キャビティーの外側まで成長した立体細胞構造体を形成させる工程と
を含んでいる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
立体細胞構造体を製造する方法であって、
(1)増殖能を有する元細胞と、下面、上面、及び側面により囲われた内部空間を有するキャビティーを含み、かつ培養液が前記内部空間内に循環可能であるように形成された培養チャンバーとを用意する工程と、
(2)前記元細胞を、前記培養チャンバーに供給する工程と、
(3)前記培養チャンバー全体を培養液内に保持する工程と、
(4)前記元細胞を培養して、前記元細胞と、それに由来する培養細胞と、培養中に産生された細胞外マトリックスとが一体となることで構成され、かつ前記キャビティーの外側まで成長した立体細胞構造体を形成させる工程と
を含む、方法。
【請求項2】
前記元細胞が、線維芽細胞及び/又は線維芽細胞分化能を有する細胞を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記元細胞が、スフェロイドの形態である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記工程2が、前記キャビティーの内部空間を前記元細胞で満たす工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記元細胞を、前記立体細胞構造体の破断力が0.08N以上になるまで培養する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記立体細胞構造体のうち前記キャビティーの外側に溢れ出した部分を回収する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記立体細胞構造体が、培養真皮を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記キャビティーの下面及び/又は上面が、櫛形状又は網目形状である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記キャビティーの側面が、複数のフレームを積層して形成されたものである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の方法で製造された立体細胞構造体を、表皮用部材と積層する工程を含む、人工皮膚の製造方法。
【請求項11】
内部に培養開始時に使用された元細胞を含み、かつ、前記元細胞と、それに由来する培養細胞と、培養中に産生された細胞外マトリックスとが一体となることで構成されている立体細胞構造体であって、
破断力が0.08N以上である、立体細胞構造体。
【請求項12】
前記元細胞が、線維芽細胞及び/又は線維芽細胞分化能を有する細胞を含む、請求項11に記載の立体細胞構造体。
【請求項13】
培養真皮を含む、請求項11に記載の立体細胞構造体。
【請求項14】
請求項11~13のいずれか1項に記載の立体細胞構造体と、それに積層された表皮用部材とを含む、人工皮膚。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体細胞構造体を製造する方法に関しており、特に強度の高い立体細胞構造体を製造する方法及び当該方法により製造された立体細胞構造体、並びにそれを用いて人工皮膚を製造する方法及び当該方法により製造された人工皮膚に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の新しい医療技術として、培養細胞を利用した再生医療が注目されている。人体への移植を目的として、人工組織や人工臓器などの立体細胞構造体の作製が研究されている。人工皮膚は、人体の表面に適用するためアクセスが比較的容易であり、移植後の状況を目視で確認し、不具合部分があればその部分のみの再手術も可能であるなどの理由により、再生医療の分野では参入しやすい分野である。また、人工組織や人工臓器などの立体細胞構造体は、薬理試験若しくは毒性試験、又は発生学の試験などにも利用することができる。ヒト細胞などを用いて立体細胞構造体を作製し、生体内の環境に近い環境での試験を容易に実施することができれば、創薬研究、パーソナライズした投薬診断、又は各器官発生の観察研究などが効率的に行えるようになることが期待される。
【0003】
特許文献1及び非特許文献1には、複数の細胞凝集体(スフェロイド)を、複数の糸状又は針状部材で形成された支持体内の空間の中で培養して融合させ、立体細胞構造体を作製する方法が記載されている。また、臨床で使用される人工皮膚の分野の製品としては、ヒト(自己)表皮由来細胞シートやコラーゲンスポンジ層及び補強フィルムからなる二層性の人工皮膚が承認されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Bioengineering of a scaffold-less three-dimensional tissue using net mould, Katsuhisa Sakaguchi et al 2021 Biofabrication 13 045019, https://doi.org/10.1088/1758-5090/ac23e3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の方法で作製した立体細胞構造体や臨床で使用されている表皮由来細胞シート及び人工皮膚は、縫合可能な強度を有しておらず利用範囲が限られていた。そこで、本発明は、縫合可能な強度を有する立体細胞構造体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、線維芽細胞及び/又は線維芽細胞分化能を有する細胞を含む元細胞を特定の方法で三次元培養することで、縫合可能な強度を有する立体細胞構造体を製造できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下に示す立体細胞構造体を製造する方法、人工皮膚を製造する方法、立体細胞構造体、及び人工皮膚を提供するものである。
〔1〕立体細胞構造体を製造する方法であって、
(1)増殖能を有する元細胞と、下面、上面、及び側面により囲われた内部空間を有するキャビティーを含み、かつ培養液が前記内部空間内に循環可能であるように形成された培養チャンバーとを用意する工程と、
(2)前記元細胞を、前記培養チャンバーに供給する工程と、
(3)前記培養チャンバー全体を培養液内に保持する工程と、
(4)前記元細胞を培養して、前記元細胞と、それに由来する培養細胞と、培養中に産生された細胞外マトリックスとが一体となることで構成され、かつ前記キャビティーの外側まで成長した立体細胞構造体を形成させる工程と
を含む、方法。
〔2〕前記元細胞が、線維芽細胞及び/又は線維芽細胞分化能を有する細胞を含む、前記〔1〕に記載の方法。
〔3〕前記元細胞が、スフェロイドの形態である、前記〔1〕に記載の方法。
〔4〕前記工程2が、前記キャビティーの内部空間を前記元細胞で満たす工程を含む、前記〔1〕に記載の方法。
〔5〕前記元細胞を、前記立体細胞構造体の破断力が0.08N以上になるまで培養する、前記〔1〕に記載の方法。
〔6〕前記立体細胞構造体のうち前記キャビティーの外側に溢れ出した部分を回収する工程をさらに含む、前記〔1〕に記載の方法。
〔7〕前記立体細胞構造体が、培養真皮を含む、前記〔1〕に記載の方法。
〔8〕前記キャビティーの下面及び/又は上面が、櫛形状又は網目形状である、前記〔1〕に記載の方法。
〔9〕前記キャビティーの側面が、複数のフレームを積層して形成されたものである、前記〔1〕に記載の方法。
〔10〕前記〔1〕~〔9〕のいずれか1項に記載の方法で製造された立体細胞構造体を、表皮用部材と積層する工程を含む、人工皮膚の製造方法。
〔11〕内部に培養開始時に使用された元細胞を含み、かつ、前記元細胞と、それに由来する培養細胞と、培養中に産生された細胞外マトリックスとが一体となることで構成されている立体細胞構造体であって、
破断力が0.08N以上である、立体細胞構造体。
〔12〕前記元細胞が、線維芽細胞及び/又は線維芽細胞分化能を有する細胞を含む、前記〔11〕に記載の立体細胞構造体。
〔13〕培養真皮を含む、前記〔11〕に記載の立体細胞構造体。
〔14〕前記〔11〕~〔13〕のいずれか1項に記載の立体細胞構造体と、それに積層された表皮用部材とを含む、人工皮膚。
【発明の効果】
【0008】
本発明に従えば、培養チャンバーのキャビティーから溢れるまで立体細胞構造体を成長させることにより、縫合可能な強度を有する立体細胞構造体を製造できる。したがって、生体への移植に有用な立体細胞構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一態様として、ワイヤで上面、下面、及び側面が形成された培養チャンバーのキャビティー、及び、そこに元細胞を供給し、培養チャンバー全体を培養液内に保持したときの模式図を示す。
【
図2】本発明の一態様として、(a)培養チャンバーのキャビティーの内部空間を元細胞で満たしたとき、(b)キャビティー内で立体細胞構造体が形成されたとき、及び(c)キャビティーから溢れるまで立体細胞構造体が成長したときの模式図を示す。
【
図3A】本発明の一態様として作製した立体細胞構造体の断面の染色写真(HE染色)を示す。
【
図3B】本発明の一態様として作製した立体細胞構造体の断面の染色写真(EVG染色)を示す。
【
図3C】本発明の一態様として作製した立体細胞構造体の断面の染色写真(アルシアンブルー染色)を示す。
【
図3D】本発明の一態様として作製した立体細胞構造体の断面の染色写真(抗タイプIコラーゲン抗体での染色)を示す。
【
図3E】本発明の一態様として作製した立体細胞構造体の断面の染色写真(抗タイプIIコラーゲン抗体での染色)を示す。
【
図4】移植実験における創傷部位の外観写真を示す。
【
図5】移植実験における創傷部位の切片の染色写真(HE染色)を示す。破線で囲われた部分は、移植された立体細胞構造体(培養真皮)である。
【
図6】培養チャンバーのキャビティーに収まらない大きさのスフェロイドの形態の元細胞を培養チャンバーに供給したときの外観写真(a)、及び、その後1月培養して形成された立体細胞構造体の外観写真(b)を示す。
【
図7】本発明の一態様として作製した立体細胞構造体を、
図6b中のV-V線に沿って見た断面の染色写真(HE染色)及びその部分拡大写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明は立体細胞構造体を製造する方法に関しており、増殖能を有する元細胞(オリジナル細胞)と、下面、上面、及び側面により囲われた内部空間を有するキャビティーを含み、かつ培養液が前記内部空間内に循環可能であるように形成された培養チャンバーとを用意する工程(工程1)を含んでいる。本明細書に記載の「立体細胞構造体」とは、細胞が複数層重なって形成された立体構造体のことをいい、細胞外マトリックスも含む培養組織のことをいう。
【0011】
本明細書に記載の「元細胞」とは、培養の開始に用いる培養対象の細胞のことをいう。前記元細胞は、インビトロで増殖可能なものであれば特に制限されず、例えば、線維芽細胞及び/又は線維芽細胞分化能を有する細胞、あるいは胚性幹細胞又は人工多能性幹細胞などを含んでもよい。また、前記元細胞は、1つ1つの分離した細胞として用意してもいいし、細胞同士が凝集したスフェロイドの形態で用意してもよい。前記スフェロイドの大きさは、特に制限されないが、例えば、その粒径が、約100~約300μm、約100~500μm、約100~約750μm、約100~約1000μm、又は約100~約2500μmであってもよい。
【0012】
前記培養チャンバーにおいては、前記キャビティーの内部空間内に培養液が循環可能である必要があるため、前記培養チャンバー及び前記キャビティーの下面、上面、又は側面は、培養液が通過可能な空隙を有している。空隙の形成方法は特に制限されないが、例えば、前記キャビティーの下面及び/又は上面は、櫛形状又は網目形状であってもよく、前記キャビティーの側面は、複数のフレームを積層して形成されたものであり、当該フレーム間に空隙が存在していてもよい。具体的には、
図1に示すように、前記培養チャンバーのキャビティーの下面、上面、及び側面を、櫛形状に配置した複数のワイヤ1で構成してもよい。培養液は、当該ワイヤ間の空隙を自由に通過して、前記培養チャンバーのキャビティーの内部空間11の中を循環することができる。より具体的には、特許文献1又は非特許文献1に記載されている培養チャンバーや、市販のネットモールド(ティシューバイネット社製)を使用してもよい。
【0013】
本発明の方法は、前記元細胞を、前記培養チャンバーに供給する工程(工程2)を含んでいる。この工程においては、前記元細胞を、前記培養チャンバーのキャビティーの内部空間内に供給してもいいし、当該キャビティーの上部に配置した後に、前記培養チャンバーの上面をセットするときに当該キャビティーの内部空間に押し込んでもよい。
【0014】
ある態様では、工程2は、前記キャビティーの内部空間を前記元細胞で満たす工程を含む。ここでいう「満たす」とは、前記元細胞が、前記キャビティーの上面と接するまで導入されている状態をいい、前記キャビティーの上部に前記元細胞を配置して前記培養チャンバーの上面をセットするときに押し込んだ結果、前記キャビティーの上面と接するまで導入された状態となった場合も含まれる。
【0015】
本発明の方法は、前記培養チャンバー全体を培養液内に保持する工程(工程3)を含んでいる。前記培養チャンバーにおいては、前記キャビティーの内部空間内に前記培養液が循環可能であるため、例えば、
図1に示されているように、元細胞2を培養チャンバーのキャビティーの内部空間11に供給した後に、当該培養チャンバー全体を培養液3の中に保持すれば、前記キャビティーの内部空間に供給した前記元細胞に前記培養液が行き渡る。前記培養液の組成は、特に制限されず、前記元細胞の種類や培養目的に応じて適宜選択することができる。
【0016】
本発明の方法は、前記元細胞を培養して、前記元細胞と、それに由来する培養細胞と、培養中に産生された細胞外マトリックスとが一体となることで構成され、かつ前記キャビティーの外側まで成長した立体細胞構造体を形成させる工程(工程4)を含んでいる。すなわち、本発明の方法においては、形成される立体細胞構造体が、前記キャビティーの上面、下面、又は側面のいずれかを超えて、その外側まで溢れ出るまで培養を継続する。例えば、
図2に示すように、上面、下面、及び側面が複数のワイヤ1で構成されたキャビティーの内部空間を元細胞2で満たして培養を開始し(
図2a)、当該キャビティーの内部空間で立体細胞構造体4が形成されても培養を続け(
図2b)、当該キャビティーから溢れ出るまで立体細胞構造体41を成長させる(
図2c)。前記キャビティーから溢れ出るまで成長した立体細胞構造体41は、大きく分けて3つの部分、すなわち元細胞2を多く含む前記キャビティー内の中央部分413と、最外層411と、中間層412とから構成されている(
図2c)。
【0017】
ある態様では、あるキャビティーの側面などから溢れ出した立体細胞構造体の一部分が、近傍のキャビティーの側面などから溢れ出した別の立体細胞構造体の一部分と一体となって、大きな立体細胞構造体を形成してもよい。
【0018】
従来の培養方法では、前記元細胞と、それに由来する培養細胞と、培養中に産生された細胞外マトリックスとが一体となることで構成される立体細胞構造体を、前記キャビティーの内部空間で支持することで形成することが目的とされており、前記キャビティー外に立体細胞構造体が成長することを想定していなかった。しかし、驚くべきことに、前記キャビティーの内部空間内で立体細胞構造体が形成された後にもさらに培養を続け、前記立体細胞構造体を前記キャビティーの外側まで成長させることで、その破断力(破断強度)が増加し、縫合にも耐えられる立体細胞構造体が形成されることが分かった。
【0019】
工程4において前記立体細胞構造体が形成されるまでの前記元細胞の培養期間は、特に制限されないが、例えば、単独のキャビティーで立体細胞構造体を作製する場合、当該キャビティーの内部空間を前記元細胞で満たした状態で培養を開始してから、約2か月以上、約3か月以上、約4か月以上、又は約5か月以上であってもよく、約10か月以下又は約9か月以下であってもよい。あるいは、培養チャンバー内のキャビティーの内部空間よりも大きなスフェロイドの形態の元細胞を、キャビティーの上に等間隔に配置し、培養チャンバーの上面をセットしてスフェロイドをキャビティーの内部空間内に押し込んだ状態で培養を開始する場合、培養チャンバー全体に占めるスフェロイド(元細胞)の割合にもよるが、例えば、培養期間は、約2週間以上又は約1か月以上であってもよく、約8か月以下又は約7か月以下であってもよい。ある態様では、前記元細胞を、前記立体細胞構造体の破断力が、約0.08N以上、約0.1N以上、約0.2N以上、又は約0.3N以上になるまで培養してもよい。なお、前記立体細胞構造体の破断力は、EZ Test(島津製作所)などの公知の破断力測定装置又は引張試験機で測定することができる。
【0020】
本発明の方法により製造された立体細胞構造体は、縫合可能な強度を有しているため、生体への移植に有利に利用できる。その利用方法は特に制限されず、例えば、前記立体細胞構造体を培養真皮として創傷部位などの皮膚欠損部に移植してもよく、あるいは、前記立体細胞構造体を内臓の欠損部に移植してもよい。特定の理論に拘束されるものではないが、例えば、前記立体細胞構造体は、生体の細胞組織構造に近似しているため、移植部位でスキャフォールド(足場)として機能し、当該立体細胞構造体の内側に移植部位周辺の細胞が入り込み、欠損部位の皮膚又は臓器の再生を促すことができると考えられる。なお、前記立体細胞構造体は、元細胞が含まれている中央部分を中心として、水平に上下に分割可能であり、上下に分割された立体細胞構造体においては、重層化していない細胞を多数含む中間層部分を移植先表面に接触させることができるため、移植部位周辺の細胞が入り込みやすく、スキャフォールドとしての機能がより期待できる。
【0021】
ある態様では、本発明の方法は、前記立体細胞構造体のうち前記キャビティーの外側に溢れ出した部分を回収する工程をさらに含んでもよい。当該部分を回収した後に、前記立体細胞構造体の中央部分を含む残りの部分の培養を続ければ、当該立体細胞構造体が前記キャビティーの外側まで再度成長し、その溢れ出した部分を再度回収して利用することもできる。
【0022】
本発明の方法は、本発明の目的を損なわない限り、任意の工程をさらに含んでもよい。例えば、本発明の方法は、前記培養チャンバーから形成された立体細胞構造体を取り出す工程をさらに含んでもよく、工程4の途中で、前記培養液を交換する工程、及び/又は、培養中の細胞を洗浄する工程を含んでもよい。
【0023】
別の態様では、本発明は、内部に培養開始時に使用された元細胞を含み、かつ、前記元細胞と、それに由来する培養細胞と、培養中に産生された細胞外マトリックスとが一体となることで構成されている立体細胞構造体にも関しており、当該立体細胞構造体の破断力は、約0.08N以上、約0.1N以上、約0.2N以上、又は約0.3N以上である。本発明の立体細胞構造体は、本発明の一態様として上述した立体細胞構造体を製造する方法に従って調製することができる。
【0024】
また別の態様では、本発明は、本発明の一態様として上述した本発明の方法で製造した立体細胞構造体を、表皮用部材と積層する工程を含む、人工皮膚の製造方法にも関している。あるいは、本発明は、本発明の一態様として上述した立体細胞構造体と、それに積層された表皮部材とを含む、人工皮膚にも関している。前記人工皮膚は、創傷部位への移植などに有用である。
【0025】
前記表皮用部材としては、当技術分野で使用されているものを特に制限されることなく採用することができ、例えば、前記表皮用部材は、表皮細胞シートなどであってもよい。前記立体細胞構造体と前記表皮用部材とを積層すれば、人工皮膚を生体に移植したときの生着効率が高くなる。
【0026】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例0027】
[試験例1]立体細胞構造体の調製
(1)細胞培養
通常ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF;CC-2509、ロンザ社)を、FKCM培地(フコク社)に10%のウシ胎児血清(Gibco FBS、Thermo Fisher Scientific社)及び1%のペニシリン-ストレプトマイシン(シグマ-アルドリッチ社)を加えた培地で、インキュベーター(37℃、5%CO2)の中で3日間培養した。増殖した細胞を継代し、4~5継代まで培養した細胞を以降の試験に使用した。
【0028】
(2)スフェロイドの調製
スフェロイドをシリコンディンプルプレート(DP10-1、ティシューバイネット社)で調製した。具体的には、NHDFをTrypLE Express(Thermo Fisher Scientific社)を用いて回収し、FKCM培地を用いて1×106個/mLの細胞懸濁液を作製した。20mLの細胞懸濁液を、1プレート当たり4500個のディンプルを有するシリコンディンプルプレート(DP10-1、ティシューバイネット社)に播き、インキュベーター(37℃、5%CO2)の中で12時間培養した。その結果、直径約200μmのスフェロイドが得られた。
【0029】
(3)立体細胞構造体の調製
ネットモールドNM14-2(ティシューバイネット社)の上面及び下面には、直径100μmのステンレススチールワイヤーが100μm間隔で平行に(櫛状に)配置されており、スフェロイドは通り抜けできないように構成されている。本試験では、ネットモールドNM14-2を使用し、0.1mm厚のサイドネットを10枚重ねることで、6mm×6mm×1mmの内部空間を有するキャビティーを含む培養チャンバーを形成した。この内部空間に、常法により上記スフェロイドを供給し、この培養チャンバーを40mLのFKCM培地(10%ウシ胎児血清及び1%ペニシリン-ストレプトマイシン添加)を含む120mL容量の滅菌容器(Thermo Fisher Scientific社)の中に配置した。
【0030】
上記培養チャンバーを含む滅菌容器を、インキュベーター(37℃、5%CO2)内の高湿度対応振とう機CS-LR(タイテック社)にセットし、培地の循環を促すために40rpmで振とうした。このようにして、上記スフェロイドを、毎週半量の培地を交換しながら、2~6か月間培養した。培養期間が2か月になると、形成された立体細胞構造体は、キャビティーの上面及び下面からそれぞれ500μm程度溢れ出し、キャビティーの側面から数ミリ程度溢れ出した状態となったが、それ以上培養しても、上面及び下面から溢れ出した部分の厚さはあまり変わらなかった。
【0031】
培養後に、ネットモールド内の立体細胞構造体を常法により取り出し、以降の試験に使用した。また、直径3mmのサンプルは、直径3mmの生検用パンチ(カイインダストリーズ社)で切り取ることにより調製した。
【0032】
(4)組織染色
直径3mmに切り出した立体細胞構造体(6か月間培養したもの)を、常法によりホルマリンで固定してパラフィン包埋し、当該立体細胞構造体の中央で厚さ5μmの切片を作製した。この切片をヘマトキシリン・エオジン(HE)染色、エラスチカ・ワンギーソン(EVG)染色、又はアルシアンブルー染色に供し、あるいは、抗タイプIコラーゲン抗体又は抗タイプIIコラーゲン抗体を用いて常法により免疫染色した。
【0033】
HE染色の光学顕微鏡写真(
図3A)を見ると、培養開始時にスフェロイドが存在していた中央部分の外側に、細胞の密度が比較的低いが細胞外マトリックスを介して組織を構成している中間層と、立体細胞構造体の表面で密に多層構造を含んでいる最外層とが形成されていることが分かった。EVG染色の光学顕微鏡写真(
図3B)によると、膠原線維を主体とした立体細胞構造体が形成されていた。アルシアンブルー染色の光学顕微鏡写真(
図3C)によれば、酸性ムコ多糖類は立体細胞構造体の中間層部分に多く存在していることが分かった。そして、抗タイプIコラーゲン抗体又は抗タイプIIコラーゲン抗体による免疫染色の光学顕微鏡写真(
図3D及び
図3E)によれば、タイプIコラーゲン及びタイプIIコラーゲンは立体細胞構造体の全体にわたって広く存在し、特に最外層に多く存在していることが分かった。
【0034】
これらの組織染色の結果より、立体細胞構造体は、培養の開始時に使用した元細胞と、それに由来する培養細胞と、酸性ムコ多糖類及びコラーゲンなどの細胞外マトリックスとが一体となって構成されたものであることが理解でき、また、当該立体細胞構造体は、生体の細胞組織構造(例えば真皮構造)と類似した構造を有していることから、生体移植時の良好な適合性が期待された。
【0035】
[試験例2]立体細胞構造体の特性解析
(1)破断力の測定
立体細胞構造体を6mm平方の大きさにカットし、その下から2.5mmの中央部にポリプロピレン縫合糸(糸サイズ5-0)を通し、糸の長さが5cmとなるように糸の末端を結んだ。この上側3mmの部分を破断力測定装置(EZ Test、島津製作所)の上のクランプではさみ、結んだ糸の下端を下のクランプではさんで、100mm/分の速度で培養真皮が破けるまで引っ張った。
【0036】
(2)乾燥重量の測定
6mmの立体細胞構造体を凍結乾燥機VD-250R(タイテック社)を用いて3日間乾燥させ、その乾燥重量を電子天秤で測定した。
【0037】
(3)コラーゲン量の測定
コラーゲン定量アッセイキット(QuickZyme Biosciences社)を用いて、直径3mmの立体細胞構造体サンプル中のコラーゲン量を測定した。取扱説明書に従って操作し、反応試薬の570nmの吸光度をマイクロプレートリーダーで測定し、コラーゲン量を算出した。
【0038】
(4)硫酸化グリコサミノグリカン量の測定
Blyscanグリコサミノグリカンアッセイキット(Biocolor社)を用いて、直径3mmの立体細胞構造体サンプル中の硫酸化グリコサミノグリカン(sGAG)量を測定した。取扱説明書に従って操作し、反応試薬の656nmの吸光度をマイクロプレートリーダーで測定し、sGAG量を算出した。
【0039】
(5)生細胞数の比較
WST-8による生細胞数測定試薬Cell Count Reagent SF(ナカライテスク社)を用いて、直径3mmの立体細胞構造体サンプル中の生細胞数を測定した。取扱説明書に従って操作し、試験波長450nm及び参照波長650nmの吸光度をマイクロプレートリーダーで測定して、それらの吸光度の差を生細胞数の指標とし、立体細胞構造体中の細胞の生存状態を比較した。
【0040】
(6)試験結果
2か月、4か月、又は6か月培養して調製した培養真皮を使用して測定した破断力、乾燥重量、コラーゲン量、及びsGAG量を表1に示す。
【表1】
【0041】
従来は、ネットモールドを用いてスフェロイドを培養する期間は3週間程度であったが、それを超えてスフェロイドを培養すると、特に2か月を超えたあたりからは、立体細胞構造体の破断力が著しく増加した。一方、各立体細胞構造体の乾燥重量には大きな差はなく、長期培養にもかかわらず細胞の生存状態は良好なまま維持されていた。コラーゲン量及びsGAG量は培養期間に応じて減少する傾向があった。
【0042】
比較のため、コラーゲンスポンジ層からなる市販の人工皮膚(ペルナックGプラス(R)、グンゼ社)の破断力を測定すると、70mN程度だった。培養期間が2か月以上の立体細胞構造体の破断力はそれよりも高く、縫合にも耐えられると考えられた。
【0043】
[試験例3]移植実験
(1)実験設計及び手術方法
試験例1に記載の方法で4か月培養して作製した立体細胞構造体(培養真皮)を、直径6mmの生検用パンチ(カイインダストリーズ社)で切り出し、鑷子を用いて水平方向で上下2つの立体細胞構造体に分けて動物実験に使用した。24匹のBALB/cAJcl-nu/nuマウス(オス、7週齢)(日本クレア社)を常法により飼育し、対照群、培養真皮群、及び市販人工真皮群の3群に分けた。なお、すべての苦痛を伴う作業はイソフラレン麻酔下で行った。
【0044】
適用手術においては、ドーナッツ型のシリコンスキンスプリント(外径18mm、内径12mm、厚さ0.5mm;富士システムズ社)を、接着剤(アロンアルファ;第一三共社)により皮膚に貼り付けた。当該スキンスプリントは、創傷部位の収縮を防ぐために5-0ナイロン糸(ベアーメディック社)を用いて皮膚に縫い付けた。そして、当該スキンスプリントの穴の内側中央に、直径6mmの生検用パンチ(カイインダストリーズ社)及びはさみを用いて、直径6mmの全層皮膚欠損創を作製した。
【0045】
培養真皮群及び市販人工真皮群のマウスの皮膚欠損部には、移植用培養真皮又はペルナックGプラス(R)(グンゼ社)をそれぞれ移植し、対照群のマウスの皮膚欠損部には、何も埋め込まなかった。創傷部位をシリコンメッシュシート(直径6mm、SIメッシュ、アルケア社)で覆い、それを5-0ナイロン糸で縁の上皮に縫い付けた。そして、汚染及び機械的ストレスを防ぐために、創傷部位をガーゼでさらに覆い、サージカルテープ(シルキーテックス、アルケア社)で固定した。処置後のマウスは、個別にケージに入れて、動物施設で飼育した。
【0046】
(2)創傷治癒の評価
術後7日目及び14日目に、創傷治癒状態を評価した。各評価時点で、各群のマウス4匹ずつを二酸化炭素ガス吸入により犠牲死させ、創傷部位の肉眼観察画像をデジタルカメラで取得した。また、創傷部位のサンプルを周辺組織とともに回収して、10%ホルマリン液にて固定し、パラフィン包埋して各創傷部位の中央を軸方向に切片化した。そして、切片をHE染色、アゾカルミン-アニリンブルー(AZAN)染色、及びCD31の免疫染色に供した。
【0047】
新生上皮の長さは、HE染色の切片において光学顕微鏡を用いて測定した。創傷部位及び新生上皮には毛包がなく、周辺組織には毛包が存在しているため、当該毛包を指標として創傷部位を特定し、当該創傷部位の上部に連なって形成された上皮細胞の層(ヘマトキシリンで濃い青色に染色)を新生上皮と判断した。
【0048】
創傷部位の筋肉層の上に新しく形成された真皮様組織の領域は、AZAN染色の切片において光学顕微鏡を用いて測定した。肉芽組織における線維性結合組織は、アニリンブルーでライトブルーに染まり、ダークブルーに染まった傷の端の真皮とは区別することができるため、ライトブルーに染まった部分を新生真皮様組織と判断し、その面積をBZ-X800解析ソフト(キーエンス社)によって測定した。
【0049】
新生真皮様組織の単位面積あたりの新生毛細血管の総面積を、常法により行った抗CD31抗体による免疫染色(DAB染色)の切片において測定した。DAB染色の茶色について閾値を設定し、この閾値以上の発色濃度の領域を、BZ-X800解析ソフト(キーエンス社)を用いて測定した。そして、血管の管状構造が見えた領域を測定して、当該領域の合計を新生毛細血管の面積として計算し、AZAN染色で決定された肉芽領域面積で除した結果を単位肉芽面積あたりの新生毛細血管面積とした。
【0050】
(3)統計解析
統計学的有意性は、Tukey-Kramer多重比較法を用いて評価した。データはすべて平均値±標準偏差で表されており、P<0.05のときに統計学的に有意であるとした。
【0051】
(4)結果
図4に、手術直後、術後7日目、及び術後14日目の、創傷部位の写真を示す。創傷は痂皮で覆われていた。明らかな感染兆候は認められず、施術は適切に行われたことが確認できた。また、創傷部位をHE染色した切片の写真を
図5示す。移植した培養真皮(破線で囲われた部分)の生着が確認できた。
【0052】
術後7日目及び14日目の、創傷部位における新生上皮の長さを表2に示す。培養真皮群では、術後7日目及び14日目で、対照群及び市販人工真皮群と比較して新生上皮がより長く形成されていた。
【0053】
【0054】
術後7日目及び14日目の、創傷部位における新生真皮様組織の面積を比較すると、各群の間に有意な差はなかったものの、培養真皮群では、術後7日目を過ぎると、対照群及び市販人工真皮群と比較して広い領域で新生真皮様組織が形成される傾向があった。
【0055】
術後7日目及び14日目の、創傷部位における新生毛細血管の面積を表3に示す。培養真皮群では、術後14日目に、対照群及び人工真皮群と比較して毛細血管がより多く形成された。
【0056】
【0057】
(5)考察
本発明の方法に従って製造した立体細胞構造体は、創傷部位に生着し、培養真皮として機能した。線維芽細胞は血管新生を促進するサイトカインを算出することが知られており、そのため、当該立体細胞構造体を培養真皮として移植すると、その内部に血管上皮細胞や線維芽細胞などが入り込み、新生毛細血管の形成や新生上皮細胞の形成が促されたと考えられる。
【0058】
[試験例4]表皮細胞シートとの共培養
試験例1に記載の方法で4か月培養して作製した立体細胞構造体を直径6mmの生検用パンチ(カイインダストリーズ社)で切り出し、鑷子を用いて水平方向で上下2つの立体細胞構造体に分けて移植用培養真皮として使用した。24ウェル細胞インサートを24ウェルプレートにセットし、その細胞インサート内に、移植用培養真皮を立体細胞構造体の最外層だった部分が上になるように入れ、その上に同じサイズで切り出した表皮細胞シート(ジェイス(R)、ジャパン・ティッシュエンジニアリング社)を重ね、10%ウシ胎児血清を加えた線維芽細胞無血清培地(FKCM)を各ウェルに0.9mLずつ添加し、37℃、5%CO2の条件で気液界面培養を行った。
【0059】
共培養1日後に、共培養物を回収し、それを試験例3と同様にして皮膚欠損部に移植した。術後7日目に創傷治癒状態を確認したところ、移植した共培養物の生着及び新生上皮の形成が確認された。
【0060】
[試験例5]大型の立体細胞構造体の簡易培養
試験例1の(2)と同様にしてスフェロイド形態のNHDFを調製し、大きな凝集塊(直径1000μm以上のもの)になっているものを選択した。培養チャンバーとしてネットモールドNM14-2(ティシューバイネット社)を用意し、そのステンレススチールワイヤーの間隔を縦横共に1mmに調整して、キャビティーの上にスフェロイドを等間隔に配置した(
図6のa)。常法により培養チャンバーの上面をセットしてスフェロイドをキャビティーの内部空間内に押し込み、試験例1の(3)と同様にして培養した。
【0061】
1月培養した後、ネットモールドの上下のネットを外して中間のネットを1枚だけ残したときの外観写真を
図6のbに示す。スフェロイド状態の元細胞は、培養当初に配置されていたキャビティー部分を越えて、培養チャンバー全体に広がって増殖し、立体細胞構造体を形成した。この立体細胞構造体の断面を染色すると、
図7に示されているように、立体細胞構造体の端まで細胞が行き届いていることが分かった(
図7の大きな空洞は、キャビティーを区切っていたワイヤの跡である)。また、
図7の部分拡大写真を見ると、この試験例の方法で作製した立体細胞構造体においても、培養開始時にスフェロイドが存在していた中央部分の外側に、細胞の密度が比較的低いが細胞外マトリックスを介して組織を構成している中間層と、立体細胞構造体の表面で密に多層構造を含んでいる最外層とが形成されていること、すなわち、生体の細胞組織構造(例えば真皮構造)と類似した構造が形成されていることが確認できた。したがって、培養チャンバーの使い方を調節することにより、所望の大きさの立体細胞構造体を作製することができる。
【0062】
以上より、培養チャンバーのキャビティーから溢れるまで立体細胞構造体を成長させることにより、縫合可能な強度を有する立体細胞構造体を製造できることが分かった。このような立体細胞構造体は、培養真皮などの生体移植物として有用である。
内部に培養開始時に使用された元細胞を含み、かつ、前記元細胞と、それに由来する培養細胞と、培養中に産生された細胞外マトリックスとが一体となることで構成されている立体細胞構造体であって、
前記元細胞が、培養中に細胞外マトリックスを産生する細胞を含み、
破断力が0.08N以上である、立体細胞構造体。