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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158969
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】組電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/581 20210101AFI20241031BHJP
   H01M 50/505 20210101ALI20241031BHJP
   H01M 50/262 20210101ALI20241031BHJP
   H01M 50/578 20210101ALI20241031BHJP
   H01M 50/211 20210101ALI20241031BHJP
【FI】
H01M50/581
H01M50/505
H01M50/262 Z
H01M50/578
H01M50/211
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074649
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100114177
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】田口 博基
(72)【発明者】
【氏名】蕪木 智裕
【テーマコード(参考)】
5H040
5H043
【Fターム(参考)】
5H040AA37
5H040AT04
5H040AY10
5H040CC34
5H040DD03
5H040DD13
5H043AA04
5H043BA20
5H043CA08
5H043FA04
5H043FA32
5H043FA33
5H043GA01
5H043GA23
5H043GA24
5H043HA06F
5H043JA08F
5H043JA13F
5H043JA29F
5H043LA00F
(57)【要約】
【課題】タブやバスバの接合を機械的に強制切断し、組電池内での熱連鎖を防止または抑制し得る組電池を提供する。
【解決手段】この全固体電池100は、複数の電池セル1が厚さ方向Tに積層されるとともに電池セル1のタブ30がタブ30同士或いはバスバ40と接合されてなる接合部40Jを備える。全固体電池100は、非常時に動作可能な熱連鎖防止機構70を有する。熱連鎖防止機構70は、複数の電池セル1全体を、所期性能を発揮する積層状態に保持する常置姿勢PNから、複数の電池セル1全体を接合部40Jが機械的に破断するまで厚さ方向Tに展伸して個別の電池セル1に分散させる分散姿勢PEへと移行させる非常動作が可能である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電池セルが厚さ方向に積層されるとともに前記電池セルのタブがタブ同士或いはバスバと接合されてなる接合部を備える組電池であって、
非常時に動作可能な熱連鎖防止機構を有し、
前記熱連鎖防止機構は、前記複数の電池セル全体を所期性能を発揮する積層状態に保持する常置姿勢から、前記複数の電池セル全体を前記接合部が破断するまで前記厚さ方向に展伸して個別の電池セルに分散させる分散姿勢へと移行させる非常動作が可能に構成されていることを特徴とする組電池。
【請求項2】
前記熱連鎖防止機構は、
前記複数の電池セル全体に対する前記厚さ方向に向けた加圧及び加圧の解除或いは逆方向に圧力を付与可能に配置される調圧機構と、
全ての電池セルの前記接合部に自身の途中部分が接続されるとともに自身両端が前記厚さ方向両側の電池セルを前記積層状態に保持する部材にそれぞれ接続されて絶縁性および伸展性をもつ連結部と、
を有し、
前記常置姿勢から前記分散姿勢へと移行動作をするとき、
前記調圧機構は、当該組電池内での前記複数の電池セル全体に対する加圧状態を解除或いは逆方向に圧力を掛けて速やかに全ての電池セルの前記接合部を機械的且つ電気的に切断し、
前記連結部は、前記複数の電池セル全体を前記厚さ方向にて個別の電池セルに分離するように伸展させるとともにその伸展姿勢を保持する、
請求項1に記載の組電池。
【請求項3】
前記複数の電池セルは、前記厚さ方向で積層状態で隣接する電池セル相互の剥離強度が、
前記連結部の引張強度 > 前記接合部の引張強度 >前記隣接する電池セル相互の剥離強度
である請求項2に記載の組電池。
【請求項4】
前記電池セルの外装体の表面側に離型処理が施されている、若しくは、隣接する電池セル同士の間に離型フィルムが介装されている請求項3に記載の組電池。
【請求項5】
前記連結部は、隣接する前記接合部間において前記積層方向に伸縮可能な伸縮構造を有し、
該伸縮構造は、前記調圧機構により前記一対の可動プレートに対する加圧を開放或いは逆方向に圧力が掛かる際に伸長されて、前記接合部間が切断される請求項2に記載の組電池。
【請求項6】
前記連結部は、前記積層方向に伸縮可能な伸縮構造としてジャバラ構造を含み、該ジャバラ構造の途中部分が前記接合部に接合されている請求項5に記載の組電池。
【請求項7】
前記連結部は、前記積層方向に伸縮可能な伸縮構造として引きバネを含み、該引きバネが隣接する前記接合部間を繋ぐことで前記接合部に接合されている請求項5に記載の組電池。
【請求項8】
前記連結部は、前記積層方向に伸縮可能な伸縮構造として押しバネを含み、該押しバネが前記接合部間に介装されることで前記接合部に接合されている請求項5に記載の組電池。
【請求項9】
当該組電池内で隣接するタブ間を繋ぐ部分での前記連結部の長さは、
前記調圧機構により常置姿勢に保持されているときは、隣接するタブ間の長さと略同じか或いはそれより長く保たれており、
前記調圧機構により分散姿勢に展伸されて、加圧を開放或いは逆方向に圧力が掛かる際には、隣接するタブ間の電気的接続状態が切断された後に連結部に張力が掛かり、前記一対の可動プレート間の距離と、各連結部の長さの合計と、が同じになる請求項2に記載の組電池。
【請求項10】
前記連結部は、電池セルとタブータブ間或いはバスバ間との間の内部に設置される請求項2に記載の組電池。
【請求項11】
前記連結部の長さが、タブ同士或いはタブーバスバ接合がされていない箇所についてはタブータブ間の長さと同じである請求項2に記載の組電池。
【請求項12】
タブやバスバが樹脂スペーサと結合しており、前記連結部が、前記樹脂スペーサと接続されている請求項2に記載の組電池。
【請求項13】
前記電池セルの温度若しくは電圧またはその両方を検出する検出部と、該検出部での検出値に基づいて、前記一対の可動プレートに対する前記調圧機構での加圧状態を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記検出値が異常であると判断したときに、前記調圧機構により前記一対の可動プレートに対する圧力を開放或いは逆方向に変更させて、前記複数の電池セル全体を前記分散姿勢に展伸させる熱連鎖防止処理を実行する請求項2に記載の組電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の電池セルが厚さ方向に積層された組電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、この種の組電池において、積層された複数の電池セルの外周を拘束バンドで加圧し、電池セルの温度と内部抵抗の変化とにより、拘束バンドでの拘束状態を調整する構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-20891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1記載の技術では、複数の電池セルの拘束状態を調整可能とするものの、いずれかの電池セルに異常が発生した場合に、タブやバスバを通じて他の電池セルに熱や電流が伝わり、組電池内での熱連鎖を防ぐことが困難である。
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、複数の電池セルが厚さ方向に積層された組電池において、組電池内での複数の電池セルの熱連鎖を防止または抑制し得る組電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る組電池は、複数の電池セルが厚さ方向に積層されるとともに前記電池セルのタブがタブ同士或いはバスバと接合されてなる接合部を備える組電池であって、非常時に動作可能な熱連鎖防止機構を有し、前記熱連鎖防止機構は、前記複数の電池セル全体を所期性能を発揮する積層状態に保持する常置姿勢から、前記複数の電池セル全体を前記接合部が破断するまで前記厚さ方向に展伸して個別の電池セルに分散させる分散姿勢へと移行させる非常動作が可能に構成されている。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、非常時に、タブやバスバの接合を機械的に且つ非可逆的に強制切断できる。これにより、伝達源であるタブやバスバの接合が非可逆的に強制切断されることで、熱や電流が遮断されて組電池全体にまでは異常が広がらず、熱連鎖を防止または抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の一態様に係る組電池の一実施形態の模式的説明図である。
図2図1の組電池を構成する電池セルの一実施形態の模式的説明図である。
図3図1に示す組電池での熱連鎖防止機構の非常動作を説明する模式図(a)~(c)である。
図4図3に示す非常動作時に、常置姿勢から分散姿勢へと移行する過程で接合部が破断する状態を説明する図(a)、(b)である。
図5】本発明の一態様に係る組電池の変形例(離型フィルムの介装)を示す模式的説明図である。
図6】本発明の一態様に係る組電池の変形例(伸縮可能な連結部)を示す模式的説明図である。
図7】本発明の一態様に係る組電池の変形例(ジャバラ構造の連結部)を示す模式的説明図である。
図8】本発明の一態様に係る組電池の変形例(引きバネの連結部)を示す模式的説明図である。
図9】本発明の一態様に係る組電池の変形例(押しバネの連結部)を示す模式的説明図である。
図10】本発明の一態様に係る組電池の変形例(内部設置型の連結部)を示す模式的説明図(a)~(c)である。
図11】本発明の一態様に係る組電池の変形例(非接合部を有する場合の連結部)を示す模式的説明図である。
図12】本発明の一態様に係る組電池の変形例(樹脂スペーサを有する例)を示す模式的説明図である。
図13図1に示す組電池での熱連鎖防止機構における熱連鎖防止処理の一例を示すフローチャートである。
図14】本発明の一態様に係る組電池において、隣接するタブ間を連結する接合部の構成例を示す模式的説明図(a)~(c)である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の一実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。本実施形態の全固体電池は、複数回充放電が可能な二次電池である。
なお、図面は模式的なものである。そのため、厚みと平面寸法との関係、比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記の実施形態に特定するものではない。
【0009】
[全固体電池]
図1に示すように、本実施形態の全固体電池100は、複数の電池セル1が厚さ方向Tに積層されてなる電池モジュール110を備える。電池モジュール110の上下には、不図示の外部機器に電気的に接続される第一接続端子101および、第二接続端子102が側方に張り出して設けられる。
【0010】
本実施形態の電池モジュール110では、各電池セル1の正極および負極のタブ30は、一方の辺とこれとは反対側の他方の辺の中央から互いに側方に向けて張り出すように配置されている。
厚さ方向Tで隣接する電池セル1,1は、相互のタブ30、30の端部がバスバ40を介して溶接などによって接続されてバスバ40による接合部40Jが構成されている。同図の例では、隣り合う電池セル1の正極および負極のタブ30を相互に接続することで、複数の電池セル1,1は電気的に直列に接続される。
【0011】
電池モジュール110は、複数の電池セル1の厚さ方向Tの上下両端に一対の可動プレート105が上下から挟持するように設けられている。各可動プレート105は、筐体側に固定される一対の基部プレート104に対して複数のガイドロッド103を介して支持される。
本実施形態では、ガイドロッド103は、周囲に離隔して例えば4本設けられ、一対の可動プレート105は、ガイドロッド103に沿って上下にスライド移動可能に嵌合され、一対の基部プレート104に対して、電池モジュール110を電池セル1の厚さ方向(積層方向)Tにスライド移動可能に支持している。
さらに、本実施形態の全固体電池100では、基部プレート104と可動プレート105との間に装備される調圧機構60によって電池モジュール110の支持姿勢が保持される。調圧機構60は、一対の可動プレート105に対して、厚さ方向Tに加圧及び加圧の開放或いは逆方向に圧力を付与可能に構成されている。
【0012】
本実施形態の調圧機構60には、電池セル1の厚さ方向Tに通電状態に応じて伸縮可能なアクチュエータを好適に採用できる。この種のアクチュエータとしては、例えばバイオメタルファイバを例示できる。
バイオメタルファイバで構成した調圧機構60によれば、例えば非通電時には通常のばねとして弾性を発揮し、また、通電されてアクチュエータとしての機能を発揮させたときに、電池セル1の厚さ方向Tに短縮させることができる。
【0013】
本実施形態では、積層された複数の電池セル1は、上下一対の可動プレート105間において、全固体電池100の正常稼働時にあっては、上下の調圧機構60は非通電とされて通常のばねとしての弾性を発揮し、複数の電池セル1全体を、所期性能を発揮する積層状態である常置姿勢PNに、上下の調圧機構60で常時加圧保持される。
【0014】
[電池セル]
次に、上記電池セル1の構造について説明する。
図2に示すように、本実施形態の電池モジュール110では、正極および負極のタブ30(正極タブ31、負極タブ32)は、電池セル1の厚さ方向Tにおける中心線上において一方の辺とこれとは反対側の他方の辺から側方に張り出すように設けられる。
本実施形態の電池セル1は、平面視で略矩形形状に形成される。なお、同図に示す電池セル1の電極構造は、いわゆる非双極型(内部並列接続タイプ)であるが、双極型(内部直列接続タイプ)であってもよい。また、電池セル1の形状は矩形形状に限らず、円形、楕円形などでもよい。
【0015】
詳しくは、同図に示すように、本実施形態の電池セル1は、正極集電体11、正極層13、固体電解質層14、負極層15、負極集電体12が積層された積層電極体10を発電要素部として有する。積層電極体10は、その厚み方向両側から挟持して内包するラミネートフィルム製の外装体20によって周囲が覆われている。
【0016】
正極集電体11及び負極集電体12は、例えば、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス、チタン、または銅などの金属材料によって、矩形の薄板状に形成される。正極集電体11及び負極集電体12は、それぞれ、外縁を形成する一辺から側方に延出する可撓性の引出電極11p,12pを有する。引出電極11p,12pの先端には、正極および負極のタブ31,32がリジットな端子としてそれぞれ取り付けられる。
【0017】
正極層13は、正極集電体11の両主面(端部では正極集電体11の負極集電体12に対向する主面のみ)に配置される。正極層13は、正極活物質として、酸化還元反応を利用して充電時にリチウムイオンを放出し、放電時にリチウムイオンを吸蔵することができる物質を含んで構成される。
正極活物質の材質としては、例えば、LiMn2O4、LiCoO2、LiNiO2、Li(Ni-Mn-Co)O2及びこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの等のリチウム-遷移金属複合酸化物、リチウム-遷移金属リン酸化合物、リチウム-遷移金属硫酸化合物などが挙げられる。
【0018】
固体電解質層14は、固体電解質を主成分として含有し、正極層13と負極層15との間に介在する層である。固体電解質材料としては、例えば、硫化物固体電解質や酸化物固体電解質が挙げられるが、硫化物固体電解質であることが好ましい。硫化物固体電解質としては、例えばLPS系(例えばアルジロダイト(Li6PS5Cl))、LGPS系(例えばLi10GeP2S12)の材料が好適である。
【0019】
負極層15は、負極集電体12の両主面(端部では負極集電体12の正極集電体11に対向する面のみ)に配置される。負極層15は、負極活物質として少なくともリチウム金属又はリチウムと合金を形成する物質を含んで構成される。
負極層15に活物質として負極活物質としてリチウム金属を含むとは、負極集電体12の主面にリチウム金属箔やリチウム金属粒子を配置する場合や、リチウム-遷移金属複合酸化物、リチウム-遷移金属リン酸化合物、リチウム-遷移金属硫酸化合物などの正極活物質を含む正極を用いて負極集電体12の主面にリチウム金属を析出させる場合が含まれる。また、負極層15に活物質としてリチウムと合金を形成する物質を含むとは、In、Al、SiおよびSnの少なくとも1種の物質を含むものを意味している。
【0020】
[熱連鎖防止機構]
次に、本実施形態の全固体電池100が装備する熱連鎖防止機構70について説明する。
ここで、全固体電池100では、負極活物質として少なくともリチウム金属又はリチウムと合金を形成する物質を含んで構成されるので、充放電にリチウムイオンの吸蔵・放出に伴って電池セル1が積層方向に膨張・収縮する。
【0021】
これに対し、本実施形態の熱連鎖防止機構70は、上述した、一対の基部プレート104、ガイドロッド103およびこれに沿ったスライド構造を有する一対の可動プレート105、並びに、上記上下の調圧機構60を含めて構成される。
さらに、本実施形態の熱連鎖防止機構70は、これらの構成に加え、図1に示すように、電池セル1の左右の接合部40Jに対向して配置される一対の連結部50を備える。
【0022】
各連結部50は、電池セル1の厚さ方向Tでの自身両端部が上下一対の可動プレート105に強固に接続されている。さらに、各連結部50は、自身途中部分がそれぞれの端部側での全ての電池セル1の接合部40Jに接続されている。特に、各連結部50は、絶縁性をもつとともに好ましくは可撓性を有し、(連結部50の引張強度>タブ30同士或いはタブ30ーバスバ40による接合部40Jの引張強度)とされている。
【0023】
そして、本実施形態の熱連鎖防止機構70は、いずれかの電池セル1に異常等が生じたような非常時には、図3に示すように、上下の調圧機構60に通電がなされて電池セル1の厚さ方向Tに各調圧機構60を短縮させ、加圧状態を開放させることによって、当該全固体電池100内での複数の電池セル1に対する常置姿勢PNでの加圧状態を緊急解除可能になっている。
これにより、本実施形態の熱連鎖防止機構70では、速やかに全電池セル1の接合部40Jを機械的且つ電気的に切断して分散姿勢PEにすることができる。そのため、本実施形態の全固体電池100は、熱・電流の伝達源である接合部40Jを切断することで異常が他の電池セル1まで広がらずに熱連鎖を防止可能になっている。
【0024】
[作用効果]
以下、本実施形態の全固体電池100の作用効果について説明する。
本実施形態の全固体電池100では、図1に示すように、全固体電池100の正常稼働時にあっては、上下の調圧機構60によって電池モジュール110の常置姿勢PNが保持される。なお、同図の白抜き矢印は、上下の調圧機構60によって厚さ方向Tに加圧して常置姿勢PNが保持されるイメージを示している。
【0025】
これにより、本実施形態の全固体電池100によれば、筐体側に設けられた上下一対の基部プレート104に対して、上下一対の可動プレート105がガイドロッド103に沿ったスライド構造を有するとともに、調圧機構60のばねの作用によって複数の電池セル1の厚さ方向Tに押圧しているので、正常稼働時において、電池セル1の膨張・収縮に応じた随時の寸法変化に迅速に追従できる。
【0026】
ここで、複数の電池セル1が厚さ方向Tに積層された組電池において、いずれかの電池セル1に異常が発生した場合、上述したように、タブ30やバスバ40を通じて他の電池セル1に熱や電流が伝わり、組電池内で熱連鎖が生じるおそれがある。
一般的に、熱連鎖に対して、PTCやヒューズといった安全対策が取られるものの、全固体電池100では、従来の二次電池以上の大電流、高温仕様が求められる。そのため、従来の熱連鎖対策では、瞬間的なピーク電流時に誤検知して(異常ではないのに)作動する可能性がある。
【0027】
これに対し、本発明者らの研究によれば、いずれかの電池セル1が異常発熱した際、主に、電池セル1のタブ30がタブ30同士或いはバスバ40と接合されてなる接合部40Jを通して熱や電流が組電池内で複数の電池セル1全体に伝わり、その結果、(問題のない他の電池セル1も)上限温度・電圧に達して異常発熱が連鎖的に生じ、組電池全体に及ぶ熱連鎖を引き起こすという知見を得た。
すなわち、本実施形態の全固体電池100では、図3に示したように、電池セル1に過電流が流れる状態や異常な温度に加熱された状態での熱連鎖対策として、熱連鎖防止機構70を作動させることができる。
【0028】
つまり、本実施形態の全固体電池100では、同図(a)~(c)に示すように、電池セル1に過電流が流れる状態や異常な温度に加熱された状態での熱連鎖が想定されたときに、熱連鎖防止機構70が作動する。熱連鎖防止機構70が作動すると、上下の調圧機構60に通電がされてアクチュエータとしての機能を発揮させ、電池セル1の厚さ方向Tに短縮させる。なお、同図に示す符号Kは異常発熱した電池セル1のイメージを示し、また、同図に示す白抜き矢印は、非常時に上下の調圧機構60が短縮するイメージを示している。
【0029】
これにより、本実施形態の全固体電池100では、上下の調圧機構60による電池モジュール110に対する常置姿勢PNが緊急開放される(同図(a))。そして、これに伴い、図4(a)~(b)に示すように、複数の電池セル1の接合部40Jでの機械的且つ電気的な連結状態が強制破壊されつつ、電池セル1全体がガイドロッド103に沿ってスライド移動を開始する(図3および図4(a)~(b)参照)。なお、図3に示す符号Bは、複数の電池セル1の接合部40Jでの機械的且つ電気的な連結状態が強制破壊されるイメージを示している。
次いで、図1の常置姿勢PNにある複数の電池セル1全体を、図3(c)に示すように、個別の電池セル1に離隔するように分離伸展される分散姿勢PEに移行させる。そして、個別の電池セル1の分散姿勢PEは、伸展に伴う左右一対の連結部50の伸長によって保持される。
【0030】
このように、本実施形態の全固体電池100では、非常時に動作可能な熱連鎖防止機構70を有し、熱連鎖防止機構70は、複数の電池セル1全体を、所期性能を発揮する積層状態に保持する常置姿勢PNから、複数の電池セル1全体を接合部40Jが機械的に破断するまで厚さ方向Tに展伸して個別の電池セル1に分散させる分散姿勢PEへと移行させる非常動作が可能である。
【0031】
特に、本実施形態の全固体電池100では、常置姿勢PNから分散姿勢PEへと移行させる非常動作が可能であり、分散姿勢PEにあっては、複数の電池セル1全体を接合部40Jが機械的に破断するまで厚さ方向Tに展伸して個別の電池セル1に分散できる。
そのため、本実施形態の全固体電池100によれば、いずれかの電池セル1に異常が生じた場合のような非常時に、タブ30やバスバ40の接合部40Jを機械的に且つ非可逆的に強制切断できる。よって、伝達源であるタブ30やバスバ40の接合が非可逆的に強制切断されることで、熱や電流が遮断されて組電池全体にまでは異常が広がらず、熱連鎖を防止または抑制できる[発明1]。
【0032】
さらに、本実施形態の熱連鎖防止機構70では、常置姿勢PNから分散姿勢PEへと移行動作をするとき、調圧機構60は、当該全固体電池100内での複数の電池セル1全体に対する加圧状態を解除或いは逆方向に圧力を掛けて速やかに全ての電池セル1の接合部40Jを機械的且つ電気的に切断し、連結部50は、厚さ方向Tに個別の電池セル1に分離するように伸展させるとともにその伸展した分散姿勢PEを保持することができる。
【0033】
よって、非常時には、熱連鎖防止機構70の構成要素として調圧機構60を開放動作させることができるので、正常時の調圧機構60とは別個の熱連鎖防止機構を設ける場合と比べて、比較的コンパクトに且つ安価に熱連鎖防止機構を全固体電池100に実装できる[発明2]。
【0034】
また、本実施形態の熱連鎖防止機構70では、図1に示したように、一対の基部プレート104、ガイドロッド103、一対の可動プレート105および調圧機構60を含む構成とし、さらに、一対の可動プレート105に自身両端がそれぞれ接続されるとともに自身途中部分が全ての電池セル1の接合部40Jに接続されて絶縁性および伸展性をもつ連結部50を有するので、正常時の常置姿勢PNを保持する調圧機構60が、電池セル1に異常が生じた場合のような非常時の熱連鎖防止機構70を兼ね備えているといえる。よって、比較的コンパクトに且つ安価に熱連鎖防止機構を全固体電池100に実装する上で好適である。
【0035】
特に、本実施形態の全固体電池100では、積層される電池セル1相互の剥離強度が、(連結部50の引張強度 > 接合部40Jの引張強度 >電池セル1相互の剥離強度)とされている。これにより、本実施形態の全固体電池100によれば、接合部40Jよりも先に電池セル1同士の接着が外れて、接合部40Jが連続して切断されるようになる。
よって、いずれかの電池セル1の異常時に全固体電池100内の電池モジュール110に対する加圧状態を解除して、速やかに全電池セル1の接合部40Jを切断する上で好適である。
また、連結部50をこのように設けたことにより、積層状態にある複数の電池セル1全体を相互の接合部40Jが破断する距離まで個別の電池セル1に離隔するまで分離伸展させて、図3(c)に示したように、いわば「すだれ状」の分散姿勢PEに伸展状態を保持できるので、個別の電池セル1が分離飛散することが防止される[発明3]。
【0036】
以上説明したように、本実施形態の全固体電池100によれば、タブ30やバスバ40の接合部40Jを機械的に強制切断し、組電池内での熱連鎖を防止または抑制できる。なお、本発明に係る組電池は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能なことは勿論である。
【0037】
例えば、上記実施形態では、調圧機構60が熱連鎖防止機構70を兼ね備える構成例を示したが、これに限らず、調圧機構と熱連鎖防止機構とを個別の構造として装備してもよい。また、上記実施形態の熱連鎖防止機構70では、一対の基部プレート104、ガイドロッド103、一対の可動プレート105および一対の調圧機構60を含む構成例を示したが、これに限定されない。
例えば、一対の基部プレート104に替えて筐体自体を基部として用い、一対の可動プレート105を筐体内に収容できる。また、一対の可動プレート105および一対の調圧機構60のような「一対の構成」に限定されず、可動プレート105や調圧機構60は、いずれか一方(片側)に設けることができる。また、ガイドロッド103についてもロッドを用いたスライド案内に限定されず、常置姿勢PNから分散姿勢PEへと移行動作をする際の展開状態を案内可能であれば他の機構を適宜採用できる。
【0038】
また、例えば、上記実施形態の全固体電池100では、隣接する電池セル1相互は、互いの外装体20が直接当接した状態で積層されている例を示したがこれに限定されない。例えば、電池セル1の外装体20の表面側に離型処理を施すことができる。また、図5に示す変形例のように、隣接する電池セル1同士の間に離型フィルム2を介装できる。
このような構成であれば、タブ30やバスバ40の接合部40Jよりも先に電池セル1同士をより確実に剥離可能となり、接合部40Jを連続して迅速に切断できる。よって、いずれかの電池セル1の異常時に全固体電池100内の電池モジュール110に対する加圧状態を解除し、速やかに全電池セル1の接合部40Jを切断する上でより好適である[発明4]。
【0039】
また、例えば、図6に示す変形例のように、連結部50は、隣接するタブ30間において厚さ方向Tに伸縮可能な伸縮構造を有し、この伸縮構造は、調圧機構60により一対の可動プレート105に対する加圧を開放或いは逆方向に圧力が掛かる際に伸長されて接合部40Jを機械的且つ電気的に強制切断可能に構成できる。
図6に示す実施形態の全固体電池100によれば、連結部50の伸縮構造は、伸長されて接合部40Jが切断されるため、全固体電池100内の電池モジュール110に対する加圧状態を解除し、速やかに全電池セル1の接合部40Jを切断し、異常が生じた電池セル1からの他電池セル1への熱・電流の伝わりを遮断して熱連鎖を防ぐ上で好適である[発明5]。
【0040】
また、例えば、図7に示す変形例のように、連結部50の伸縮構造として、厚さ方向Tに伸縮可能なジャバラ構造51にて接合部40Jと接合することができる。図7に示す実施形態の全固体電池100によれば、厚さ方向Tに伸縮可能なジャバラ構造51が伸長されて、接合部40Jが切断される伸縮構造として好適である[発明6]。
【0041】
また、例えば、図8に示す変形例のように、連結部50の伸縮構造として、厚さ方向Tに伸縮可能な引きバネ52にて接合部40Jと接合することができる。図8に示す実施形態の全固体電池100によれば、加圧とは逆の力が掛かったときに、より早く接合部40Jが開くように圧力が掛かる。
これにより、接合部40Jがより早く切断され、異常が生じた電池セル1からの他電池セル1への熱・電流の伝わりをより早く遮断して熱連鎖を好適に防止できる。また、調圧機構60によるアクチュエータとしての加圧とは逆の圧力を低く設定できるので、伸長されて接合部40Jが切断される伸縮構造として好適である[発明7]。
【0042】
また、例えば、図9に示す変形例のように、連結部50の伸縮構造として、厚さ方向Tに伸縮可能な押しバネ53にて接合部40Jと接合することができる。
図9に示す実施形態の全固体電池100によれば、加圧とは逆の力が掛かったときに、より早く接合部40Jが開くように圧力が掛かる。これにより、接合部40Jがより早く切断され、異常が生じた電池セル1から他の電池セル1への熱・電流の伝わりを、より早く遮断して熱連鎖を防ぐことができる。また、調圧機構60によるアクチュエータの加圧とは逆の圧力を低く設定できる伸縮構造として好適である[発明8]
【0043】
なお、本実施形態の全固体電池100では、組電池内で隣接するタブ30ータブ30間を繋ぐ連結部50の長さは、調圧機構60により常置姿勢PNを維持する正常制御がなされているときは、接合部40Jの厚さ方向Tでの長さと略同じか或いはそれより長く保たれており、調圧機構60によるアクチュエータの開放等により分散姿勢PEへと展伸する非常制御がなされて、加圧を開放或いは逆方向に圧力が掛かる際には、接合部40Jが切断されたのちに張力が掛かり、一対の可動プレート105間と各連結部50の長さの合計が同じになるように構成することが望ましい。
【0044】
本実施形態の全固体電池100によれば、調圧機構60の開放等により分散姿勢PEへと展伸する非常制御がなされて、加圧を開放或いは逆方向に圧力が掛かる際に、電池モジュール110内の全ての電池セル1の接合部40Jの切断状態を保持できる。これにより、接合部40Jの切断状態を確実に保持することで、異常の生じた電池セル1からの他の電池セル1への熱・電流の伝わりを遮断して熱連鎖を防ぐ上で好適である[発明9]。
【0045】
また、例えば、図10に示す変形例のように、連結部50は、電池セル1と接合部40Jとの内部の側に位置するように設置することができる。なお、上記実施形態では、複数の電池セル1,1は電気的に直列に接続される例を示したが、図10に示す変形例では、並列接続を含む他の接続例を示す(図11において同様)。
図10に示す実施形態の全固体電池100によれば、電池セル1と接合部40Jとの内部の側に連結部50を設置することで、連結部50のための専用スペースが左右側方に不要である。よって、全固体電池100の設計をコンパクトにして、体積当たりのエネルギー密度の低下を防止する上で好適である[発明10]。
【0046】
また、例えば、図11に示す変形例のように、連結部50の長さは、タブ30同士或いはタブ30ーバスバ40が接合されていない箇所(同図中の符号Hで示す箇所)については、タブ30ータブ30間の長さと同じにすることができる。
図11に示す実施形態の全固体電池100によれば、調圧機構60によるアクチュエータの開放等により加圧とは逆の力が掛かったときに、より早く接合部40Jに圧力が掛かる。そのため、接合部40Jがより早く切断され、異常の生じた電池セル1から他の電池セル1への熱・電流の伝わりをより早く遮断して、熱連鎖を確実に防ぐ上で好適である[発明11]。
【0047】
また、例えば、図12に示す変形例のように、タブ30やバスバ40が樹脂スペーサ3と結合されて、連結部50を樹脂スペーサ3と接続することができる。図12に示す実施形態の全固体電池100によれば、組電池内での加圧状態を解除して、速やかに全ての電池セル1の接合部40Jを切断できる。よって、異常の生じた電池セル1から他の電池セル1への熱・電流の伝わりを遮断し、熱連鎖を防ぐ上で好適である[発明12]。
【0048】
また、上述した実施形態の全固体電池100において、例えば、電池セル1の温度若しくは電圧またはその両方を検出する検出部と、この検出部での検出値に基づいて、一対の可動プレートに対する調圧機構60での加圧状態を制御する制御部と、を設けることができる。制御部は、熱連鎖防止機構70を非常時に動作させるための処理を実行する。
つまり、図13に制御部による処理のフローチャートを示すように、制御部は、検出値が正常であると判断したときには(ステップS3のNO)、調圧機構60に非通電として初期の加圧状態を保持して(ステップS1)、全固体電池100を正常稼働させ(ステップS2)、検出値が異常であると判断したときには(ステップS3のYES)、調圧機構60により一対の可動プレート105に対する圧力を開放或いは逆方向に変更させて(ステップS4)、複数の電池セル1全体を、常置姿勢PNから分散姿勢PEに展伸させる熱連鎖防止処理を実行するように構成できる[発明13]。
【0049】
また、上述した実施形態の全固体電池100では、厚さ方向Tで隣接する電池セル1,1は、相互のタブ30、30の端部がバスバ40を介して溶接などによって接続される接合部40Jを示したが、図14に他の例を示すように、接合部40Jの構成はこれに限定されない。
【0050】
例えば、図14(a)に示すように、相互のタブ30、30の端部を他方のタブ30の側にそれぞれ折り返し、折り返し部分が重なる箇所を直接溶接Mして接合部40Jを構成できる。
また、図14(b)に示すように、バスバ40を側面視が略コ字状に形成して、略コ字状での水平方向に延びる上下の部分をそれぞれ相互のタブ30、30が水平方向伸びる途中部分に溶接Mして接合部40Jを構成できる。
また、図14(c)に示すように、相互のタブ30、30の端部を厚さ方向Tで一方の側に同様に折り返し、相互の折り返し部分を平板状のバスバ40で溶接Mして接合部40Jを構成できる。
【符号の説明】
【0051】
1 電池セル
2 離型フィルム
3 樹脂スペーサ
10 積層電極体
11 正極集電体
11p 引出電極
12 負極集電体
12p 引出電極
13 正極層
14 固体電解質層
15 負極層
20 外装体
23 シール面
30 タブ
40 バスバ
40J 接合部
50 連結部
51 ジャバラ構造
52 引きバネ
53 押しバネ
60 調圧機構
70 熱連鎖防止機構
100 全固体電池(組電池)
101 第一接続端子
102 第二接続端子
103 ガイドロッド
104 基部プレート
105 可動プレート
110 電池モジュール
PN 常置姿勢
PE 分散姿勢
T 厚さ方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14