(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158974
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】インナーライナー用ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 23/22 20060101AFI20241031BHJP
C08L 17/00 20060101ALI20241031BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20241031BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20241031BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20241031BHJP
B60C 5/14 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C08L23/22
C08L17/00
C08K3/04
C08K3/36
C08K3/34
B60C5/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074660
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】石田 拓馬
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
【Fターム(参考)】
3D131AA08
3D131BA08
3D131BA18
3D131BC09
3D131BC25
3D131BC31
3D131LA26
4J002AC012
4J002AC062
4J002AC131
4J002BB181
4J002DA036
4J002DA040
4J002DE100
4J002DJ017
4J002DJ038
4J002DJ048
4J002DJ058
4J002EF050
4J002FD016
4J002FD017
4J002FD018
4J002FD140
4J002FD150
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】破断特性や脆化温度を維持しながら空気透過防止性能および耐湿性を向上し、これら性能をバランスよく高度に両立することを可能にしたインナーライナー用ゴム組成物を提供する。
【解決手段】ブチル系ゴムおよび/または再生ブチル系ゴム70質量%~100質量%およびイソプレン系ゴム0質量%~30質量%を含むゴム成分100質量部に対して、層状または板状の粘土鉱物20質量部~40質量部と、CTAB吸着比表面積が65m
2/g~100m
2/gであるシリカ5質量部~50質量部と、CTAB吸着比表面積が20m
2/g~60m
2/gであるカーボンブラック10質量部~55質量部とを配合し、これらの配合量の合計を35質量部~80質量部にし、シリカおよびカーボンブラックのCTAB吸着比表面積の比C
CB/C
Siを0.20~0.92に設定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブチル系ゴムおよび/または再生ブチル系ゴム70質量%~100質量%およびイソプレン系ゴム0質量%~30質量%を含むゴム成分100質量部に対して、層状または板状の粘土鉱物20質量部~40質量部と、CTAB吸着比表面積が65m2/g~100m2/gであるシリカ5質量部~50質量部と、CTAB吸着比表面積が20m2/g~60m2/gであるカーボンブラック10質量部~55質量部とが配合され、前記粘土鉱物と前記カーボンブラックと前記シリカとの配合量の合計が35質量部~80質量部であり、前記シリカのCTAB吸着比表面積CSiと前記カーボンブラックのCTAB吸着比表面積CCBとの比CCB/CSiが0.20~0.92であることを特徴とするインナーライナー用ゴム組成物。
【請求項2】
前記ゴム成分の全量がブチル系ゴムおよび/または再生ブチル系ゴムであることを特徴とする請求項1に記載のインナーライナー用ゴム組成物。
【請求項3】
前記粘土鉱物がアスペクト比2.0~4.5である偏平タルクであることを特徴とする請求項1または2に記載のインナーライナー用ゴム組成物。
【請求項4】
請求項1または2に記載のインナーライナー用ゴム組成物からなるインナーライナー層を備えたことを特徴とするタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主としてタイヤのインナーライナー層に用いることを意図したインナーライナー用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
高い空気圧を充填するタイヤはインナーライナー層に高い空気透過防止性能が求められる。例えば特許文献1は、インナーライナー用ゴム組成物に板状粘土鉱物を多量に配合することにより、空気透過性を小さくすることを提案している。しかしながら、インナーライナー用ゴム組成物に板状粘土鉱物を多量に配合すると、破断特性や脆化温度や耐湿性が悪化し、インナーライナー層として求められる空気透過防止性能以外の基本性能を十分に確保できないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、破断特性や脆化温度を維持しながら空気透過防止性能および耐湿性を向上し、これら性能をバランスよく高度に両立することを可能にしたインナーライナー用ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成する本発明のインナーライナー用ゴム組成物は、ブチル系ゴムおよび/または再生ブチル系ゴム70質量%~100質量%およびイソプレン系ゴム0質量%~30質量%を含むゴム成分100質量部に対して、層状または板状の粘土鉱物20質量部~40質量部と、CTAB吸着比表面積が65m2/g~100m2/gであるシリカ5質量部~50質量部と、CTAB吸着比表面積が20m2/g~60m2/gであるカーボンブラック10質量部~55質量部とが配合され、前記粘土鉱物と前記カーボンブラックと前記シリカとの配合量の合計が35質量部~80質量部であり、前記シリカのCTAB吸着比表面積CSiと前記カーボンブラックのCTAB吸着比表面積CCBとの比CCB/CSiが0.20~0.92であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明のインナーライナー用ゴム組成物は、上述の配合からなり、且つ、シリカおよびカーボンブラックのCTAB吸着比表面積の比CCB/CSiが上述の関係を満たすことで、破断特性や脆化温度を維持しながら空気透過防止性能および耐湿性を向上することができる。特に、十分な量の層状または板状の粘土鉱物が配合されていることで空気透過防止性能を向上することができる。また、比CCB/CSiが上記範囲に設定されて、シリカの粒径がカーボンブラックの粒径よりも小さいことで、粒径の小さいシリカがカーボンブラックの隙間に入り込むことになり、ゴム中における各種粒子の充填率が高くなり、この点でも空気透過防止性能を向上することができる。更に、親水性を有するシリカが配合されることで、空気中の湿気をインナーライナー層によりトラップすることができ、タイヤ内部への湿気の侵入を防止する性能(耐湿性)を向上することができる(これによりタイヤ内部構造が湿気の影響を受けにくくなるのでタイヤのケーシング耐久性が向上する)。その一方で、粘土鉱物とカーボンブラックとシリカとの配合量の合計が上述の範囲内に抑制されているので、これら充填剤の配合量が過剰になり破断特性や脆化温度といった基本性能に影響を及ぼすことを防止することができる。これらの協働により、本発明では上述の性能をバランスよく高度に両立することができる。尚、本発明において、カーボンブラックおよびシリカのCTAB吸着比表面積はそれぞれJIS K6217‐3に準拠して測定するものとする。
【0007】
本発明においては、ゴム成分の全量がブチル系ゴムおよび/または再生ブチル系ゴムであることが好ましい。また、粘土鉱物がアスペクト比2.0~4.5である偏平タルクであることが好ましい。このようにゴム成分や粘土鉱物を特定することで空気透過防止性能を向上するには有利になる。
【0008】
本発明のインナーライナー用ゴム組成物は、タイヤのインナーライナー層に好適に用いることができる。本発明のインナーライナー用ゴム組成物からなるインナーライナー層を備えたタイヤは、本発明のインナーライナー用ゴム組成物の優れた物性により、インナーライナー層として求められる基本性能(破断特性、脆化温度)を良好に確保しながら、優れた空気透過防止性能および耐湿性を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明のインナーライナー用ゴム組成物を使用する空気入りタイヤの一例を示す子午線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0011】
図1に示すように、本発明のインナーライナー用ゴム組成物が使用される空気入りタイヤは、トレッド部1と、このトレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。
図1において、符号CLはタイヤ赤道を示す。
図1は子午線断面図であるため描写されないが、トレッド部1、サイドウォール部2、ビード部3は、それぞれタイヤ周方向に延在して環状を成しており、これにより空気入りタイヤのトロイダル状の基本構造が構成される。以下、
図1を用いた説明は基本的に図示の子午線断面形状に基づくが、各タイヤ構成部材はいずれもタイヤ周方向に延在して環状を成すものである。
【0012】
左右一対のビード部3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りにタイヤ幅方向内側から外側に折り返されている。また、ビードコア5の外周上にはビードフィラー6が配置され、このビードフィラー6がカーカス層4の本体部と折り返し部とにより包み込まれている。一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層(
図1では2層)のベルト層7が埋設されている。各ベルト層7は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。これらベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定されている。更に、ベルト層7の外周側にはベルト補強層8(ベルト層7の全幅を覆うフルカバー8aとベルト層7の端部を局所的に覆うエッジカバー8bの2層)が設けられている。ベルト補強層8は、タイヤ周方向に配向する有機繊維コードを含む。ベルト補強層8において、有機繊維コードはタイヤ周方向に対する角度が例えば0°~5°に設定されている。
【0013】
タイヤ最内面にはカーカス層4に沿ってインナーライナー層9が設けられている。このインナーライナー層9は、タイヤ内に充填された空気がタイヤ外に透過することを防ぐための層である。本発明のインナーライナー用ゴム組成物は、このようなタイヤのインナーライナー層9に用いられるものである。そのため、他の部位の基本構造は上述の構造に限定されるものではない。
【0014】
本発明のインナーライナー用ゴム組成物において、ゴム成分はジエン系ゴムであり、ブチル系ゴムおよび/または再生ブチル系ゴムを必ず含む。また、任意でイソプレン系ゴムを含んでいてもよい。ブチル系ゴムとはブチルゴムまたはハロゲン化ブチルゴムを指す。ハロゲン化ブチルゴムとしては、臭素化ブチルゴム、塩素化ブチルゴムを例示することができる。ブチル系ゴム(ブチルゴムまたはハロゲン化ブチルゴム)としては、タイヤ用ゴム組成物に通常用いられるゴムを使用することができる。再生ブチル系ゴムは、使用済みのタイヤやチューブから回収されたゴムを脱硫処理したブチル系ゴムを主成分にしたリサイクルゴムである。イソプレン系ゴムとしては、各種天然ゴム、エポキシ化天然ゴム、各種合成ポリイソプレンゴムを挙げることができる。
【0015】
ブチル系ゴムおよび/または再生ブチル系ゴムは、ゴム成分100質量%中に、70質量%~100質量%、好ましくは80質量%~100質量%含有しているとよい。特に好ましくはゴム成分の全量がブチル系ゴムおよび/または再生ブチル系ゴム(つまりゴム成分100質量%中にブチル系ゴムおよび/または再生ブチル系ゴムが100質量%)であるとよい。このように十分な量のブチル系ゴムおよび/または再生ブチル系ゴムを含むことで、空気透過防止性能を向上することができる。ブチル系ゴムおよび/または再生ブチル系ゴムの含有量が70質量%未満であると、十分な空気透過防止性能を確保することが難しくなる。尚、再生ブチル系ゴムを用いることで環境負荷を軽減することができるが、再生ブチル系ゴム中に残留する加硫促進剤等に起因して不具合(ヤケやシュリンク)が生じることが懸念されるので、これらのバランスを考慮して、再生ブチル系ゴムの含有量はゴム成分100質量%中に例えば10質量%~40質量%にするとよい。
【0016】
イソプレン系ゴムは、ゴム成分100質量%中に、0質量%~30質量%、好ましくは0質量%~20質量%含有しているとよい。特に、前述のように、ゴム成分の全量がブチル系ゴムおよび/または再生ブチル系ゴムが特に好ましいので、この場合はイソプレン系ゴムを含有しないことが好ましい。このようにイソプレン系ゴムの含有量を抑制することで、ブチル系ゴムや再生ブチル系ゴムによる空気透過防止性能を効果的に発揮することが可能になる。イソプレン系ゴムの含有量が30質量%を超えると、ブチル系ゴムや再生ブチル系ゴムの含有量が減少するため、十分な空気透過防止性能を確保することが難しくなる。
【0017】
本発明においては、上述のジエン系ゴムに対して、充填剤として層状または板状の粘土鉱物(以下、単に「粘土鉱物」という場合がある)と、シリカと、カーボンブラックとが必ず配合される。これら充填剤を配合するにあたって、これら3種の配合量の合計は、ゴム成分100質量部に対して35質量部~80質量部、好ましくは35質量部~70質量部に設定される。これにより、充填剤の総量が過剰になることを防止し、インナーライナー用ゴム組成物に求められる基本性能への影響を抑制することができる。これら3種の配合量の合計が35質量部未満であると破断特性が低下する。これら3種の配合量の合計が80質量部を超えると脆化温度が上昇する。これら3種の個々の配合量は後述するが、その合計については必ず上述の範囲を必ず満たすように設定される。
【0018】
本発明のインナーライナー用ゴム組成物は、層状または板状の粘土鉱物が配合されることで、優れた空気透過防止性能を発揮することができる。層状または板状の粘土鉱物としては、天然品、合成品のいずれも使用することができる。具体的には、タルク、偏平タルク、黒鉛、偏平クレー、マイカ等を挙げることができる。これらの中でも偏平タルクを好適に用いることができる。特に、偏平タルクを用いる場合、そのアスペクト比が好ましくは2.0~4.5、より好ましくは2.0~4.0であるとよい。アスペクト比が2.0~4.5である偏平タルクとしては例えば日本ミストロン社製HARタルクを例示することができる。粘土鉱物(偏平タルク)のアスペクト比を2.0以上にすることにより空気透過防止性能を向上することができる。粘土鉱物(偏平タルク)のアスペクト比を4.5以下にすることによりゴム組成物への粘度鉱物(偏平タルク)の分散性を向上することができる。
【0019】
尚、板状鉱物のアスペクト比Arは、下記式(1)により測定される。
Ar=(Ds-Dl)/Ds (1)
(式中、Arはアスペクト比、Dsは遠心沈降法で測定された累積分布により求められた50%粒子径、Dlはコヒーレント光のレーザー回折法で測定された累積分布により求められた50%粒子径を表す。遠心沈降法で測定された50%粒子径Dsは、例えばマイクロメリテックス計器社製セディグラグ5100粒子径測定装置を使用して測定することができる。コヒーレント光のレーザー回折法で測定された50%粒子径Dlは、マルバーン社製レーザー・マルバーン・マスターサイザー2000回折式粒子分布測定装置を使用して測定することができる。)
【0020】
本発明で使用する粘土鉱物は、空気透過防止性能を向上する観点から、平均粒子径が好ましくは3.0μm~9.0μm、より好ましくは4.0μm~8.0μmであるとよい。粘土鉱物の平均粒子径を3.0μm以上にすることによりゴム組成物への粘度鉱物の分散性を向上することができる。粘土鉱物の平均粒子径を9.0μm以下にすることにより破断特性を向上することができる。本発明において、粘土鉱物の平均粒子径はレーザー回折法により測定したメディアン径(D50:粒子径累積分布で50%のものの粒子径)である。
【0021】
上述の粘土鉱物の配合量はゴム成分100質量部に対して20質量部~40質量部、好ましくは20質量部~35質量部である。このように粘土鉱物を適量配合することで、粘土鉱物による空気透過防止性能を確保することができる。粘土鉱物の配合量が20質量部未満であると空気透過防止性能が低下する。粘土鉱物の配合量が40質量部を超えると脆化温度が上昇する。
【0022】
本発明で使用するカーボンブラックとしては、タイヤ用ゴム組成物に通常使用されるカーボンブラックを使用することができる。但し、カーボンブラックのCTAB吸着比表面積は20m2/g~60m2/g、好ましくは20m2/g~50m2/gである。このようなカーボンブラックを用いることで空気透過防止性能と基本性能を両立することができる。カーボンブラックのCTAB吸着比表面積が20m2/g未満であると破断特性および空気透過防止性能が低下する。カーボンブラックのCTAB吸着比表面積が60m2/gを超えると低発熱性能および空気透過防止性能が低下する。
【0023】
カーボンブラックの配合量は、ゴム成分100質量部に対して10質量部~55質量部、好ましくは10質量部~50質量部である。このようにカーボンブラックを適量配合することで破断特性と脆化温度を両立することができる。カーボンブラックの配合量が10質量部未満であると破断特性が低下する。カーボンブラックの配合量が55質量部を超えると脆化温度が上昇する。
【0024】
本発明で使用するシリカは、例えば湿式法シリカ、乾式法シリカあるいは表面処理シリカなどのタイヤ用ゴム組成物に通常使用されるシリカを使用することができる。但し、CTAB吸着比表面積が65m2/g~100m2/g、好ましくは75m2/g~100m2/gであるシリカを必ず使用する。このような粒径のシリカを用いることで空気透過防止性能を向上するには有利になる。また、シリカの親水性により耐湿性を向上することができる(親水性を有するシリカが配合されることで、空気中の湿気をインナーライナー層によりトラップし、タイヤ内部への湿気の侵入を防止することができる)。シリカのCTAB吸着比表面積が65m2/g未満であると破断特性および空気透過防止性能が低下する。シリカのCTAB吸着比表面積が100m2/gを超えると低発熱性能および空気透過防止性能が低下する。
【0025】
尚、本発明において、シリカのCTAB吸着比表面積は、カーボンブラックのCTAB吸着比表面積に対して十分に大きく設定される。言い換えると、本発明で使用されるシリカはカーボンブラックよりも粒径が小さいものが使用される。これにより、粒径の小さいシリカがカーボンブラックの隙間に入り込むことになり、ゴム中における各種粒子の充填率が高くなり、この点でも空気透過防止性能を向上することができる。具体的には、シリカのCTAB吸着比表面積CSiと前述のカーボンブラックのCTAB吸着比表面積CCBとの比CCB/CSiが0.20~0.92、好ましくは0.20~0.67に設定される。比CCB/CSiが0.20未満であると破断物性および低発熱性能が低下する。比CCB/CSiが0.92を超えるとシリカとカーボンブラックの粒径に殆ど差がないため、前述のようにシリカがカーボンブラックの隙間に入り込むことができず、粒子の充填率を高めて空気透過防止性能を向上する効果が見込めなくなる。
【0026】
シリカの配合量は、ゴム成分100質量部に対して5質量部~50質量部、好ましくは5質量部~35質量部である。このようにシリカを適量配合することで空気透過防止性能、耐湿性および脆化温度を両立することができる。シリカの配合量が5質量部未満であると耐湿性および空気透過防止性能が低下する。シリカの配合量が50質量部を超えると脆化温度が上昇する。
【0027】
本発明のインナーライナー用ゴム組成物では、上述のシリカを配合するにあたって、シランカップリング剤を配合することができる。シランカップリング剤を配合することにより、ジエン系ゴムに対するシリカの分散性を向上することができる。シランカップリング剤としては、例えば、ビス-(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジサルファイド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラサルファイド、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン等を例示することができる。これらのなかでも、特に、分子中にテトラスルフィド結合を有するものを好適に用いることができる。シランカップリング剤の配合量は、シリカの配合量に対し、好ましくは10質量%未満、より好ましくは3質量%~9質量%にするとよい。シランカップリング剤の配合量がシリカ配合量の10質量%以上であるとシランカップリング剤どうしが縮合し、ゴム組成物における所望の硬度や強度を得ることができない。
【0028】
本発明のゴム組成物には、上記以外の他の配合剤を添加することができる。他の配合剤としては、加硫または架橋剤、加硫促進剤、老化防止剤、液状ポリマーなど、一般的にタイヤ用ゴム組成物に使用される各種配合剤を例示することができる。これら配合剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量にすることができる。また、混練機としては、通常のゴム用混練機械、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を使用することができる。
【0029】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0030】
表4に示す材料を共通配合とし、表1~3に示す配合からなる21種類のインナーライナー用ゴム組成物(標準例1、比較例1~7、実施例1~13)を調製するにあたり、それぞれ加硫促進剤および硫黄を除く配合成分を秤量し、1.8Lの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練し、マスターバッチを放出し室温冷却した。その後、このマスターバッチを1.8Lの密閉式バンバリーミキサーに供し、加硫促進剤及び硫黄を加え2分間混合して、各インナーライナー用ゴム組成物を得た。
【0031】
得られたインナーライナー用ゴム組成物を用いて、所定形状の金型(内寸:長さ150mm、幅150mm、厚さ2mm)により170℃、10分間加硫し、加硫ゴム試験片を作成し、この加硫ゴム試験片を用いて、下記に示す方法により、空気透過防止性能、耐湿性、脆化温度、破断伸びの評価を行った。
【0032】
空気透過防止性能
各インナーライナー用ゴム組成物(加硫ゴム試験片)を使用し、JIS K7126「プラスチックフィルム及びシートの気体透過度試験方法」のA法(差圧式)に準拠して、試験気体を空気相当(窒素:酸素=8:2)とし、試験温度30℃で空気透過係数を測定した。得られた結果は、測定値の逆数を用いて、従来例1の値の100とする指数として「空気透過防止性能」の欄に記載した。この指数値が大きいほど、空気透過係数が小さく、空気透過防止性能に優れることを意味する。
【0033】
耐湿性
各インナーライナー用ゴム組成物(加硫ゴム試験片)を使用し、高湿度条件下での試験片の吸湿量を測定することにより、インナーライナーが湿気をトラップする能力を評価した。具体的には、初めに厚さ2mm、5cm角に切断した加硫ゴム試験片の真空乾燥を3日間行った後、吸湿させる前の重量(乾燥重量)を測定した。次に温度30℃、湿度86%の恒温恒湿チャンバーに加硫ゴム試験片を2週間静置した。その後、加硫ゴム試験片をチャンバーから取り出し吸湿させた後の重量(吸湿重量)を測定した。吸湿重量から乾燥重量を差し引くことにより求めた吸湿量について、標準例1の値を100とする指数として「耐湿性」の欄に記載した。この指数が大きいほど吸湿量が多く、耐湿性に優れる(湿気をトラップする能力が高い)ことを意味する。
【0034】
低温脆化性
各インナーライナー用ゴム組成物(加硫ゴム試験片)を使用し、JIS K6261「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム‐低温特性の求め方」の低温衝撃脆化試験に準拠し、脆化温度〔℃〕を測定した。得られた結果は、従来例1の値を100とする指数として「低温脆化性」の欄に記載した。この指数が大きいほど脆化温度が低く、低温下での耐クラック性に優れることを意味する。
【0035】
破断伸び
各インナーライナー用ゴム組成物(加硫ゴム試験片)を使用し、JIS K6251に準拠してダンベルJIS3号形試験片を作製し、室温(20℃)で500mm/分の引張り速度で引張り試験を行い、破断したときの引張り破断伸びを測定した。得られた結果は、標準例1の値を100とする指数として「破断伸び」の欄に示した。この指数値が大きいほど引張破断伸びが大きい(引張特性が良好である)ことを意味する。
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
表1~4において使用した原材料の種類を下記に示す。
・NR:天然ゴム、TSR20
・IIR:ブチルゴム、日本ブチル社製 BROMOBUTYL 2255
・CB1:カーボンブラック、日鉄カーボン社製 ニテロン#10N(CTAB吸着比表面積:40m2/g)
・CB2:カーボンブラック、東海CB社製 シースト3(CTAB吸着比表面積:70m2/g)
・CB3:キャボットジャパン社製 シヨウブラックN762(CTAB吸着比表面積:20m2/g)
・CB4:東海カーボン社製 シースト116HM(CTAB吸着比表面積:60m2/g)
・シリカ1:Solvay社製 ZEOSIL 1085GR(CTAB吸着比表面積:80m2/g)
・シリカ2:EVONIK社製 ULTRASIL 4000GR(CTAB吸着比表面積:70m2/g)
・シリカ3:Solvay社製 ZEOSIL 115GR(CTAB吸着比表面積:105m2/g)
・板状粘土鉱物:イメリス社製 MISTRON HAR(アスペクト比:3.0、平均粒子径:5.0μm)
・層状粘土鉱物:Coal Fillers Inc社製 Austin Black 325 瀝青炭粉砕物(アスペクト比:3.0、平均粒子径:6.0μm)
・炭酸カルシウム:丸尾カルシウム社製 MSK-V(「層状または板状」の条件を満たさない充填剤)
・亜鉛華:正同化学工業社製 酸化亜鉛3種
・ステアリン酸:日新理化社製 工業用ステアリン酸50S
・硫黄:鶴見化学工業社製 金華印油入微粉硫黄
・加硫促進剤:三新化学工業社製 サンセラーDM‐PO
【0041】
表1~3から明らかなように、実施例1~13は、低温脆化性および破断伸びを標準例1と同等以上に維持・改善しながら、空気透過防止性および耐湿性を標準例1よりも向上し、これら性能をバランスよく両立した。
【0042】
一方、比較例1は、ブチルゴムの含有量が少ないため空気透過防止性能が低下した。比較例2は、シリカの配合量が少ないため、いずれの性能も改善することができなかった。比較例3は、シリカの配合量が多いため、低温脆化性および破断伸びが悪化した。比較例4は、カーボンブラックの配合量が少ないため、空気透過防止性および破断伸びが低下した。比較例5は、シリカのCTAB吸着比表面積が大きいため、空気透過防止性を改善することができず、また破断伸びが低下した。比較例6は、カーボンブラックのCTAB吸着比表面積が大きいため、低温脆化性が低下した。比較例7は、層状または板状の粘土鉱物の代わりに炭酸カルシウム(「層状または板状」の条件を満たさない充填剤)が配合されたため空気透過防止性が低下した。
【0043】
本開示は、以下の発明を包含する。
発明[1] ブチル系ゴムおよび/または再生ブチル系ゴム70質量%~100質量%およびイソプレン系ゴム0質量%~30質量%を含むゴム成分100質量部に対して、層状または板状の粘土鉱物20質量部~40質量部と、CTAB吸着比表面積が65m2/g~100m2/gであるシリカ5質量部~50質量部と、CTAB吸着比表面積が20m2/g~60m2/gであるカーボンブラック10質量部~55質量部とが配合され、前記粘土鉱物と前記カーボンブラックと前記シリカとの配合量の合計が35質量部~80質量部であり、前記シリカのCTAB吸着比表面積CSiと前記カーボンブラックのCTAB吸着比表面積CCBとの比CCB/CSiが0.20~0.92であることを特徴とするインナーライナー用ゴム組成物。
発明[2] 前記ゴム成分の全量がブチル系ゴムおよび/または再生ブチル系ゴムであることを特徴とする発明[1]に記載のインナーライナー用ゴム組成物。
発明[3] 前記粘土鉱物がアスペクト比2.0~4.5である偏平タルクであることを特徴とする発明[1]または[2]に記載のインナーライナー用ゴム組成物。
発明[4] 発明[1]~[3]のいずれかに記載のインナーライナー用ゴム組成物からなるインナーライナー層を備えたことを特徴とするタイヤ。