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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024015898
(43)【公開日】2024-02-06
(54)【発明の名称】溶接金属及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240130BHJP
   B23K 25/00 20060101ALI20240130BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
C22C38/00 301A
B23K25/00 Z
C22C38/00 302Z
C22C38/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022118274
(22)【出願日】2022-07-25
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅野 涼
(72)【発明者】
【氏名】迎井 直樹
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 孝矩
(57)【要約】
【課題】優れた機械的特性を有するとともに、凝固割れを抑制することができる溶接金属を提供する。
【解決手段】溶接金属は、各成分の含有量を質量%で[成分]と表し、[P]+[S]の値を(A)、[Ni]+30×[C]+0.5×[Mn]+0.25×[Cu]の値を(D1)、40-4×[Ni]+30×[C]+0.5×[Mn]+0.25×[Cu]の値を(D2)、30×[C]+0.5×[Mn]+0.25×[Cu]の値を(D3)、[C]+[Si]/30+([Mn]+[Cu]+[Cr])/20+[Ni]/60+[Mo]/15+[V]/10+5×[B]の値を(E)と表す場合に、[Ni]<7.0の範囲における(A)×(D1)、7.0≦[Ni]<10.0の範囲における(A)×(D2)、[Ni]≧10の範囲における(A)×(D3)が、それぞれ0.1以下、(E)が0.25以上、[Ti]:0.015以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高張力鋼材の溶接により形成される溶接金属であって、
Ti:0.015質量%以下であるとともに、
溶接金属中のP含有量を質量%で[P]、S含有量を質量%で[S]、Ni含有量を質量%で[Ni]、C含有量を質量%で[C]、Mn含有量を質量%で[Mn]、Cu含有量を質量%で[Cu]、Si含有量を質量%で[Si]、Cr含有量を質量%で[Cr]、Mo含有量を質量%で[Mo]、V含有量を質量%で[V]、B含有量を質量%で[B]と表し、
式A:[P]+[S]により得られる値を(A)、
式D1:[Ni]+30×[C]+0.5×[Mn]+0.25×[Cu]により得られる値を(D1)、
式D2:40-4×[Ni]+30×[C]+0.5×[Mn]+0.25×[Cu]により得られる値を(D2)、
式D3:30×[C]+0.5×[Mn]+0.25×[Cu]により得られる値を(D3)、
式E:[C]+[Si]/30+([Mn]+[Cu]+[Cr])/20+[Ni]/60+[Mo]/15+[V]/10+5×[B]により得られる値を(E)と表す場合に、
[Ni]<7.0である範囲において、(A)×(D1)が0.1以下、
7.0≦[Ni]<10.0である範囲において、(A)×(D2)が0.1以下、
[Ni]≧10.0である範囲において、(A)×(D3)が0.1以下であり、
(E)が0.25以上であることを特徴とする、溶接金属。
【請求項2】
REM:0.005質量%以上0.050質量%以下、を含有することを特徴とする、請求項1に記載の溶接金属。
【請求項3】
高張力鋼材に対して1パスの溶接により製造される溶接金属の製造方法であって、
前記溶接金属は、
Ti:0.015質量%以下であるとともに、
溶接金属中のP含有量を質量%で[P]、S含有量を質量%で[S]、Ni含有量を質量%で[Ni]、C含有量を質量%で[C]、Mn含有量を質量%で[Mn]、Cu含有量を質量%で[Cu]、Si含有量を質量%で[Si]、Cr含有量を質量%で[Cr]Mo含有量を質量%で[Mo]、V含有量を質量%で[V]と表し、
式A:[P]+[S]により得られる値を(A)、
式D1:[Ni]+30×[C]+0.5×[Mn]+0.25×[Cu]により得られる値を(D1)、
式D2:40-4×[Ni]+30×[C]+0.5×[Mn]+0.25×[Cu]により得られる値を(D2)、
式D3:30×[C]+0.5×[Mn]+0.25×[Cu]により得られる値を(D3)
式E:[C]+[Si]/30+([Mn]+[Cu]+[Cr])/20+[Ni]/60+[Mo]/15+[V]/10+5×[B]により得られる値を(E)と表す場合に、
[Ni]<7.0である範囲において、(A)×(D1)が0.1以下、
7.0≦[Ni]<10.0である範囲において、(A)×(D2)が0.1以下、
[Ni]≧10.0である範囲において、(A)×(D3)が0.1以下であり、
(E)が0.25以上であることを特徴とする、溶接金属の製造方法。
【請求項4】
立向姿勢エレクトロスラグ溶接により前記溶接金属を製造することを特徴とする、請求項3に記載の溶接金属の製造方法。
【請求項5】
前記高張力鋼材により構成される開先内において、溶接線方向に対して略直交する方向の面内で、電極ワイヤの先端位置をウィービングさせつつ溶接を実施することを特徴とする、請求項4に記載の溶接金属の製造方法。
【請求項6】
複数の電極ワイヤを使用して溶接を実施することを特徴とする、請求項3~5のいずれか1項に記載の溶接金属の製造方法。
【請求項7】
複数の電極ワイヤを使用し、
前記複数の電極ワイヤのうち、少なくとも1つの電極ワイヤは、溶接線方向に対して略直交する方向の面内で静止させた固定電極とすることを特徴とする、請求項4又は5に記載の溶接金属の製造方法。
【請求項8】
前記複数の電極ワイヤのうち、少なくとも1つの電極ワイヤには直流電源を使用し、少なくとも1つの電極ワイヤには交流電源を使用することを特徴とする、請求項7に記載の溶接金属の製造方法。
【請求項9】
前記交流電源を使用した電極ワイヤにおけるEN比率を30%以上70%以下とすることを特徴とする、請求項8に記載の溶接金属の製造方法。
【請求項10】
前記固定電極の電流波形はパルス電流波形であることを特徴とする、請求項7に記載の溶接金属の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高張力鋼材の溶接により形成される溶接金属、及び高張力鋼材に対して1パスにより溶接することができる溶接金属の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高層建築の構造材としては、4枚の平板の端部を90°で継いで四角形断面とした構造の柱材、いわゆるボックス柱が一般的に適用される。従来、ボックス柱には普通鋼が使用されていたが、近時のさらなる高層化の要求に応えるため、使用鋼材の高強度化が進行している。例えば、板厚が50~100mmの極めて厚い鋼板に対して、780MPa級鋼(以下、HT780鋼又はHT780ともいう。)が適用されるようになっている。
【0003】
普通鋼を使用したボックス柱を製造する際の角継手溶接においては、1パスの2電極サブマージアーク溶接(SAW:Submerged Arc Welding)のような1パス大入熱溶接が広く用いられる。一方、特許文献1には、例えばHT780を使用したボックス柱を製造するための角継手溶接方法として、多層SAWが使用されることが記載されている。1パス大入熱溶接よりも能率が劣る多層SAWが選択される理由としては、HT780に代表される高張力鋼を1パス大入熱溶接により接合すると、最終凝固部に凝固割れが発生しやすく、さらに機械的特性の確保が困難となるからである。また、多層SAWは、フラックスの供給や回収、スラグの除去の手間が必要となり、作業能率が悪いため、HT780鋼ボックス柱の普及が阻害されている。
【0004】
施工能率の観点では、大開先断面の施工法として、エレクトロスラグ溶接(ESW:Electro-Slag Welding)が用いられる場合がある。ESWはSAWと同様に、大入熱溶接が可能である。ただし、SAWは一般的に下向溶接が適用されるのに対し、ESWは立向溶接に適した施工法である。ESWは上記のような特徴を有するため、ボックス柱において、内ダイヤフラムの溶接に多く用いられている。内ダイヤフラムに用いられるESW法は、長いノズルを底面と4側面を鋼板に囲まれた被溶接部に挿入し、ノズルを引き上げながら内部に溶融金属を充填していくものであり、ノズルの長さによって溶接可能な寸法に制約を受ける。
【0005】
一方、特許文献2には、摺動式当て金を使用したESWが開示されている。上記特許文献2に記載のESWによると、長い溶接線を持つ構造物の溶接にも適用することでき、健全な溶込みを確保して溶接金属の機械的性質の劣化を防止することができる。また、特許文献3には、ESWを使用して、四面ボックス柱の角部を溶接する方法が記載されている。上記特許文献2及び3に記載の溶接方法を使用すると、1側面(開先表面)が開放された被溶接部に、開先表面側から電極を挿入することで、電極を固定するノズルの長さを短くできる。なお、この溶接法で、電極をガイドするノズルはトーチと呼ばれる。また、トーチの固定装置全体を、レール等を使った上昇機構により移動させることによって、長尺の溶接に対応させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平04-339592号公報
【特許文献2】特開2016-215214号公報
【特許文献3】特開2018-001214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、ESWは、スラグ浴中での金属精錬が可能であることから、溶接金属の機械的特性の確保が比較的容易であるという利点を持つ。しかし、これは普通鋼材を対象とした場合の利点であり、高張力鋼を対象とした場合には、SAWと同様に凝固割れの課題が発生すると思われる。
【0008】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであって、高張力鋼材の溶接により得られる溶接金属であって、特に、HT780鋼に対して1パス大入熱溶接を適用した場合であっても、優れた機械的特性を有するとともに、凝固割れを抑制することができる溶接金属を提供することを目的とする。また、本発明は、高張力鋼材を1パスにより高能率で溶接することができ、凝固割れが抑制され、優れた機械的特性を有する溶接金属を得ることができる溶接金属の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、溶接金属に係る下記[1]の構成により達成される。
【0010】
[1] 高張力鋼材の溶接により形成される溶接金属であって、
Ti:0.015質量%以下であるとともに、
溶接金属中のP含有量を質量%で[P]、S含有量を質量%で[S]、Ni含有量を質量%で[Ni]、C含有量を質量%で[C]、Mn含有量を質量%で[Mn]、Cu含有量を質量%で[Cu]、Si含有量を質量%で[Si]、Cr含有量を質量%で[Cr]、Mo含有量を質量%で[Mo]、V含有量を質量%で[V]、B含有量を質量%で[B]と表し、
式A:[P]+[S]により得られる値を(A)、
式D1:[Ni]+30×[C]+0.5×[Mn]+0.25×[Cu]により得られる値を(D1)、
式D2:40-4×[Ni]+30×[C]+0.5×[Mn]+0.25×[Cu]により得られる値を(D2)、
式D3:30×[C]+0.5×[Mn]+0.25×[Cu]により得られる値を(D3)、
式E:[C]+[Si]/30+([Mn]+[Cu]+[Cr])/20+[Ni]/60+[Mo]/15+[V]/10+5×[B]により得られる値を(E)と表す場合に、
[Ni]<7.0である範囲において、(A)×(D1)が0.1以下、
7.0≦[Ni]<10.0である範囲において、(A)×(D2)が0.1以下、
[Ni]≧10.0である範囲において、(A)×(D3)が0.1以下であり、
(E)が0.25以上であることを特徴とする、溶接金属。
【0011】
また、溶接金属に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[2]に関する。
【0012】
[2] REM:0.005質量%以上0.050質量%以下、を含有することを特徴とする、[1]に記載の溶接金属。
【0013】
本発明の上記目的は、溶接金属の製造方法に係る下記[3]に関する。
【0014】
[3] 高張力鋼材に対して1パスの溶接により製造される溶接金属の製造方法であって、
前記溶接金属は、
Ti:0.015質量%以下であるとともに、
溶接金属中のP含有量を質量%で[P]、S含有量を質量%で[S]、Ni含有量を質量%で[Ni]、C含有量を質量%で[C]、Mn含有量を質量%で[Mn]、Cu含有量を質量%で[Cu]、Si含有量を質量%で[Si]、Cr含有量を質量%で[Cr]Mo含有量を質量%で[Mo]、V含有量を質量%で[V]と表し、
式A:[P]+[S]により得られる値を(A)、
式D1:[Ni]+30×[C]+0.5×[Mn]+0.25×[Cu]により得られる値を(D1)、
式D2:40-4×[Ni]+30×[C]+0.5×[Mn]+0.25×[Cu]により得られる値を(D2)、
式D3:30×[C]+0.5×[Mn]+0.25×[Cu]により得られる値を(D3)
式E:[C]+[Si]/30+([Mn]+[Cu]+[Cr])/20+[Ni]/60+[Mo]/15+[V]/10+5×[B]により得られる値を(E)と表す場合に、
[Ni]<7.0である範囲において、(A)×(D1)が0.1以下、
7.0≦[Ni]<10.0である範囲において、(A)×(D2)が0.1以下、
[Ni]≧10.0である範囲において、(A)×(D3)が0.1以下であり、
(E)が0.25以上であることを特徴とする、溶接金属の製造方法。
【0015】
また、溶接金属の製造方法に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[4]~[10]に関する。
【0016】
[4] 立向姿勢エレクトロスラグ溶接により前記溶接金属を製造することを特徴とする、[3]に記載の溶接金属の製造方法。
【0017】
[5] 前記高張力鋼材により構成される開先内において、溶接線方向に対して略直交する方向の面内で、電極ワイヤの先端位置をウィービングさせつつ溶接を実施することを特徴とする、[4]に記載の溶接金属の製造方法。
【0018】
[6] 複数の電極ワイヤを使用して溶接を実施することを特徴とする、[3]~[5]のいずれか1つに記載の溶接金属の製造方法。
【0019】
[7] 複数の電極ワイヤを使用し、
前記複数の電極ワイヤのうち、少なくとも1つの電極ワイヤは、溶接線方向に対して略直交する方向の面内で静止させた固定電極とすることを特徴とする、[4]又は[5]に記載の溶接金属の製造方法。
【0020】
[8] 前記複数の電極ワイヤのうち、少なくとも1つの電極ワイヤには直流電源を使用し、少なくとも1つの電極ワイヤには交流電源を使用することを特徴とする、[4]、[5]及び[7]のいずれか1つに記載の溶接金属の製造方法。
【0021】
[9] 前記交流電源を使用した電極ワイヤにおけるEN比率を30%以上70%以下とすることを特徴とする、[8]に記載の溶接金属の製造方法。
【0022】
[10] 前記固定電極の電流波形はパルス電流波形であることを特徴とする、[7]に記載の溶接金属の製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、高張力鋼材に対して1パス大入熱溶接を適用した場合であっても、優れた機械的特性を有するとともに、凝固割れを抑制することができる溶接金属を提供することができる。
また、本発明によれば、高張力鋼材を1パスにより高能率で溶接することができ、凝固割れが抑制され、優れた機械的特性を有する溶接金属を得ることができる溶接金属の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本実施形態に係る溶接システムの構成例を示す概略図である。
図2図2は、本実施形態において使用されるESWを用いた溶接装置の構成例を突合せ継手を対象として適用する場合を示す概略図である。
図3図3は、走行台車制御部の機能構成を示すブロック図である。
図4図4は、走行台車制御部の制御処理を示すフローチャートである。
図5図5は、ESWを用いてボックス柱の角部を溶接する場合の溶接金属の製造方法の一例を模式的に示す側面断面図である。
図6A図6Aは、図5に示す溶接ワイヤの先端位置の一例を模式的に示す上面断面図である。
図6B図6Bは、図5に示す溶接ワイヤの先端位置の他の例を模式的に示す上面断面図である。
図6C図6Cは、図5に示す溶接ワイヤの先端位置のさらに他の例を模式的に示す上面断面図である。
図7図7は、ESWを用いてボックス柱の角部を溶接する場合の溶接金属の製造方法の他の例を模式的に示す側面断面図である。
図8図8は、図7に示す溶接ワイヤの先端位置の例を模式的に示す上面断面図である。
図9図9は、ESWを用いてボックス柱の角部を溶接する場合の溶接金属の製造方法のさらに他の例を模式的に示す側面断面図である。
図10図10は、発明例及び比較例において適用した溶接金属の製造方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本願発明者らが上記課題を解決するため、鋭意検討を行った結果、溶接金属中のNi含有量が凝固割れに大きな影響を及ぼすことに着目し、Ni含有量に応じて凝固割れを抑制することができるパラメータを見出した。具体的には、凝固割れに有害である不純物元素の含有量を表す式Aや、Ni含有量に応じて凝固割れを生じやすくする元素から導出した式D1、D2、D3を用いて、耐凝固割れ性を整理した。さらに、Ni含有量に応じて、式Aと式D1、D2、D3を乗じた値を制御することによって、耐凝固割れ性を向上させることができることを見出した。
本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。
【0026】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0027】
<溶接金属>
本実施形態に係る溶接金属は、高張力鋼材の溶接により形成される溶接金属である。以下に、本実施形態に係る溶接金属に含有される成分の含有量を用いて算出された値、及びこれらの成分の含有量について、好ましい範囲及びその限定理由を具体的に説明する。
【0028】
なお、以下の説明において、[P]は、溶接金属中のP含有量を質量%で表した値であり、[S]は、溶接金属中のS含有量を質量%で表した値であり、[Ni]は、溶接金属中のNi含有量を質量%で表した値であり、[C]は、溶接金属中のC含有量を質量%で表した値であり、[Mn]は、溶接金属中のMn含有量を質量%で表した値であり、[Cu]は、溶接金属中のCu含有量を質量%で表した値であり、[Si]は、溶接金属中のSi含有量を質量%で表した値であり、[Cr]は、溶接金属中のCr含有量を質量%で表した値であり、[Mo]は、溶接金属中のMo含有量を質量%で表した値であり、[V]は、溶接金属中のV含有量を質量%で表した値であり、[B]は、溶接金属中のB含有量を質量%で表した値である。
【0029】
また、各元素の含有量を用いた式A、式D1、式D2、式D3、式Eを以下のように規定する。
式A:[P]+[S]
式D1:[Ni]+30×[C]+0.5×[Mn]+0.25×[Cu]
式D2:40-4×[Ni]+30×[C]+0.5×[Mn]+0.25×[Cu]
式D3:30×[C]+0.5×[Mn]+0.25×[Cu]
式E:[C]+[Si]/30+([Mn]+[Cu]+[Cr])/20+[Ni]/60+[Mo]/15+[V]/10+5×[B]
【0030】
さらに、式Aにより得られる値を(A)、式D1により得られる値を(D1)、式D2により得られる値を(D2)、式D3により得られる値を(D3)、式Eにより得られる値を(E)と表すこととする。
【0031】
〔[Ni]<7.0である範囲において、(A)×(D1)が0.1以下〕
式Aを構成するP及びSは、金属の不純物元素としてよく知られるものであり、最終凝固部に偏析することにより残留液相の融点を低下させ、結晶粒界を弱化させるため、凝固割れに有害な元素である。すなわち、(A)の値が大きくなるほど、凝固割れが発生しやすくなる。
また、[Ni]<7.0である範囲において、式D1はオーステナイトの形成し易さを示す。オーステナイトにおいては、P、Sのような不純物元素の固溶限がフェライトにおける固溶限と比較して低い。したがって、凝固形態がオーステナイト単相に近くなるほど、最終凝固部への不純物元素偏析が助長され、凝固割れが発生しやすいことが知られている。すなわち、(D1)の値が大きくなるほど、鋼は凝固割れを生じやすくなる。
【0032】
[Ni]<7.0である範囲において、(A)×(D1)が0.1を超えると、高張力鋼材に対して1パスの大入熱で溶接を実施した場合に、溶接金属に凝固割れが発生しやすくなる。したがって、(A)×(D1)は0.1以下とし、0.09以下であることが好ましい。
【0033】
〔7.0≦[Ni]<10.0である範囲において、(A)×(D2)が0.1以下〕
Niは、オーステナイトを形成しやすい元素であることが知られており、一般的に、溶接金属中のNi含有量が増加すると、割れが発生しやすくなる。一方、Niは、Caの歩留まりを変化させ、介在物の凝集を抑制する元素でもある。介在物の最終位置は凝固割れサイトであるミクロ偏析帯であり、ミクロ偏析帯での粗大介在物を低減することにより、溶接金属の耐凝固割れ性を向上させる効果を得ることができる。したがって、本実施形態においては、オーステナイトを調整するとともに、Ni含有量を調整することにより、凝固割れの発生を抑制することができる。
7.0≦[Ni]<10.0である範囲において、Ni含有量が高くなるほどNiによる凝固割れへの影響が小さくなることから、凝固割れの発生の指標となるパラメータとして上記式(D2)を導出した。
【0034】
7.0≦[Ni]<10.0である範囲において、(A)×(D2)が0.1を超えると、高張力鋼材に対して1パスの大入熱で溶接を実施した場合に、溶接金属に凝固割れが発生しやすくなる。したがって、(A)×(D2)は0.1以下とし、0.09以下であることが好ましい。
【0035】
〔[Ni]≧10.0である範囲において、(A)×(D3)が0.1以下〕
[Ni]≧10.0である範囲においては、Niによる凝固割れへの影響が無くなるため、凝固割れの発生の指標となるパラメータとして上記式(D3)を導出した。
[Ni]≧10.0である範囲において、(A)×(D3)が0.1を超えると、高張力鋼材に対して1パスの大入熱で溶接を実施した場合に、溶接金属に凝固割れが発生しやすくなる。したがって、(A)×(D3)は0.1以下とし、0.09以下であることが好ましい。
【0036】
〔[E]:0.25以上〕
式Eは、溶接金属の強度と相関するパラメータであり、[E]の値が大きいほど強度が高い傾向を表す。本実施形態においては、高張力鋼材の溶接を対象にしているため、溶接部の強度についても十分に向上させる必要がある。[E]が0.25未満であると、溶接金属において所望の強度を得ることができない。したがって、[E]は0.25以上とし、0.28以上であることが好ましい。
【0037】
〔Ti:0.015質量%以下(0質量%を含む)〕
Tiは、溶接金属中に過剰に含有されると、有害な粗大析出物を生じ、それにより粒界強度を低下させるおそれがある。その結果、凝固割れが発生しやすくなる。溶接金属中のTi含有量が0.015質量%を超えると、凝固割れの発生を抑制することができない。したがって、溶接金属中のTi含有量は、0.015質量%以下とし、0.010質量%以下であることが好ましい。
【0038】
〔REM:0.005質量%以上0.050質量%以下〕
希土類元素(REM:Rare Earth Metals)は、本実施形態に係る溶接金属において必須の成分ではないが、溶接金属の靱性を向上させるため、溶接金属に含有されていてもよい。溶接金属中のREMの含有量が合計で0.005質量%以上であれば、溶接金属の靱性を向上させる効果を得ることができる。
したがって、溶接金属中にREMを含有させる場合に、REMの含有量は、合計で0.005質量%以上であることが好ましく、0.007質量%以上であることがより好ましく、0.008質量%以上であることがさらに好ましい。
なお、後述するNiも溶接金属の靱性を向上させる効果を有するが、Ni含有量にかかわらず、REM単独で靱性向上の効果を得るためには、溶接金属中のREMは、合計で0.015質量%以上であることが特に好ましい。
【0039】
一方、溶接金属中のREMの含有量が過剰であっても、溶接金属の所望の靱性を得ることが困難となる。したがって、溶接金属中にREMを含有させる場合に、REMの含有量は、合計で0.050質量%以下とすることが好ましく、0.035質量%以下とすることがより好ましく、0.020質量%以下とすることがさらに好ましく、0.018質量%以下とすることが特に好ましい。
REMとしては、YやランタノイドのLa、Ceなどが挙げられ、本実施形態においては、適用合金に含有される比率が高いことから、REM分析値として、La、Ceの含有量合計値としている。これらの元素の他にも、Y、Pr、Nd等が複合的もしくは、単一使用されていてもよい。
【0040】
なお、本実施形態においては、上記(A)×(D1)、(A)×(D2)、(A)×(D3)、(E)及び溶接金属中のTi含有量が上記範囲内であれば、溶接金属中の各元素の含有量について特に規定しないが、各元素の好ましい含有量について以下に説明する。
【0041】
〔Ni:22.5質量%以下〕
上述のとおり、溶接金属中のNi含有量が増加すると、割れが発生しやすくなるが、Ni含有量に応じた式により得られる値を適切に制御し、オーステナイトを調整することにより、溶接金属中のNi含有量を増加させても、凝固割れの発生を抑制することができる。
本実施形態において、溶接金属中に必ずしもNiを含有させる必要はなく、0質量%であってもよい。ただし、溶接金属中のNi含有量は、少量であっても強度の向上に有効な成分であるため、溶接金属中のNi含有量は0質量%超であることが好ましく、3.5質量%以上であることがより好ましい。
【0042】
なお、Niは、REMとともに、溶接金属の靱性を向上させる効果を有する成分であるが、REMの含有量にかかわらず、Ni単独で靱性向上の効果を得るためには、溶接金属中のNiの含有量は、4.75質量%以上であることがさらに好ましい。
一方、溶接金属中のNi含有量が22.5質量%以下であると、耐凝固割れ性の低下を抑制することができる。したがって、溶接金属中のNi含有量は、22.5質量%以下であることが好ましく、20.0質量%以下であることがより好ましい。
【0043】
〔C:0.13質量%以下〕
Cは、溶接金属の強度を向上させる効果を有する成分である。溶接金属中のCの含有量が、0.13質量%以下であれば、溶接割れを発生させることなく溶接金属の強度を向上させることができる。したがって、溶接金属中のC含有量は、0.13質量%以下であることが好ましく、0.10質量%以下であることがより好ましく、0.07質量%以下であることがよりさらに好ましい。
【0044】
〔Si:1.00質量%以下〕
Siは、溶接金属の強度を確保することができるとともに、脱酸の効果を有する成分である。溶接金属中のSi含有量が、1.00質量%以下であれば、溶接金属の靱性を低下させることなく強度を向上させることができる。したがって、溶接金属中のSi含有量は、1.00質量%以下であることが好ましく、0.60質量%以下であることがより好ましい。
【0045】
〔Mn:2.25質量%以下〕
Mnは、溶接金属の強度を確保することができるとともに、脱酸の効果を有する成分である。溶接金属中のMn含有量が、2.25質量%以下であれば、溶接金属の靱性を低下させることなく強度を向上させることができる。したがって、溶接金属中のMn含有量は、2.25質量%以下であることが好ましく、1.80質量%以下であることがより好ましい。
【0046】
〔P:0.030質量%以下〕
Pは、溶接金属の耐割れ性や機械的性質を低下させる元素である。溶接金属中のP含有量が、0.030質量%以下であれば、極端な耐割れ性や機械的性質の低下を抑制することができる。したがって、溶接金属中のP含有量は、0.030質量%以下であることが好ましく、0.025質量%以下であることがより好ましい。
【0047】
〔S:0.030質量%以下〕
Sは、溶接金属の耐割れ性を低下させる元素である。溶接金属中のS含有量が、0.030質量%以下であれば、極端な耐割れ性の低下を抑制することができる。したがって、溶接金属中のS含有量は、0.030質量%以下であることが好ましく、0.025質量%以下であることがより好ましい。
【0048】
〔Cu:0.50質量%以下〕
Cuは、溶接金属の強度を向上させる効果を有する成分である。溶接金属中のCu含有量が、0.50質量%以下であれば、高温割れを発生させることなく溶接金属の強度を向上させることができる。したがって、溶接金属中のCu含有量は、0.50質量%以下であることが好ましく、0.40質量%以下であることがより好ましい。
【0049】
〔Cr:1.00質量%以下〕
Crは、溶接金属の強度を所望の強度に確保する効果を有する成分である。溶接金属中のCr含有量が、1.00質量%以下であれば、溶接金属の靱性を低下させることなく強度を向上させることができる。したがって、溶接金属中のCr含有量は、1.00質量%以下であることが好ましく、0.60質量%以下であることがより好ましい。
【0050】
〔V:0.08質量%以下〕
Vは、溶接金属の強度を所望の強度に確保する効果を有する成分である。溶接金属中のV含有量が、0.08質量%以下であれば、溶接金属の靱性を低下させることなく強度を向上させることができる。したがって、溶接金属中のV含有量は、0.08質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以下であることがより好ましい。
【0051】
〔Mo:2.50質量%以下〕
Moは、溶接金属の強度を所望の強度に確保する効果を有する成分である。溶接金属中のMo含有量が、2.50質量%以下であれば、溶接金属の靱性を低下させることなく強度を向上させることができる。したがって、溶接金属中のMo含有量は、2.50質量%以下であることが好ましく、2.30質量%以下であることがより好ましく、2.00質量%以下であることがよりさらに好ましい。
【0052】
〔B:0.050質量%以下〕
Bは、溶着金属の強度を所望の強度に確保する効果を有する成分である。溶接金属中のB含有量が、0.050質量%以下であれば、耐割れ性を低下させることなく所望の靱性を確保することができる。したがって、溶接金属中のB含有量は、0.050質量%以下であることが好ましく、0.030質量%以下であることがより好ましい。
【0053】
〔その他の成分:Fe及び不可避的不純物〕
本実施形態において、上記元素を除く残部は、Fe及び不可避的不純物であることが好ましい。不純物とは、意図的に添加されていないものを意味し、上記以外の元素として、例えばO、N、Sn、Co、Sb、As、Zr、Li、Bi等が挙げられる。溶着金属中の不純物の含有量は、Oは0.02質量%以下、Nは0.02質量%以下、Sn、Sb、As、Zr、Li、Bi等は各々0.02質量%以下であり、さらにCoは0.30質量%以下であり、上記不純物の合計で0.50質量%以下であることが好ましく、0.30質量%以下であることがより好ましい。なお、Coの含有量上限が高い理由は、NiとCoは性質が近く分離が難しいことにより、Niの不純物としてCoを比較的多く含有する場合があるためである。CoはNiと性質が近いため、この水準での含有では、Co単独での溶接金属性質変化を生じない。
【0054】
本実施形態においては、高張力鋼材の溶接により得られる溶接金属であって、溶接金属の組成及び各成分の関係が上記のとおりであれば、溶接方法(溶接金属の製造方法)、溶接材料等は特に限定されない。以下に、溶接金属の製造方法について、一例を具体的に説明する。
【0055】
<溶接金属の製造方法>
本実施形態に係る溶接金属の製造方法は、高張力鋼材に対して1パスにより溶接金属を製造する溶接金属の製造方法であり、溶接金属については、上述したとおりである。
【0056】
(被溶接材)
本実施形態に係る溶接金属の製造方法において、溶接の対象とする被溶接材は、高張力鋼材である。上述のとおり、普通鋼材を対象とした溶接においては、ESWを用いることにより凝固割れの発生を容易に抑制できるが、高張力鋼材を大入熱で溶接すると、凝固割れが発生しやすくなる。本実施形態においては、溶接金属の組成を調整することにより、1パスの大入熱溶接であっても凝固割れの発生を抑制することができるため、高張力鋼材を高能率で溶接することができる。
【0057】
なお、被溶接材とする高張力鋼材としては、強度が780N/mm以上、930N/mm以下であり、鋼材全質量に対するNi含有量が4.5質量%以下の鋼材であることが好ましい。鋼材全質量に対するNi含有量は、3.5質量%以下であることがより好ましく、3.0質量%以下であることがさらに好ましく、2.5質量%以下であることが特に好ましい。また、本発明において、被溶接材の厚さについては特に限定されないが、1パスでの大入熱溶接による能率向上の恩恵を享受できる厚鋼板であり、さらに大入熱溶接を使用した場合であっても、凝固割れの発生を抑制することができる利点を発揮できる厚さであることが好ましい。具体的には、開先部の厚さ(板厚)が、例えば50mm以上100mm以下である厚肉鋼板を対象とすることが好適である。
【0058】
溶接金属の製造方法において適用される具体的な溶接方法については、特に限定されないが、1パスでの大入熱溶接によっても凝固割れの発生を抑制することができる本実施形態を適用する溶接方法として、1パスで高能率な溶接が実現できる立向姿勢ESWを適用することが好ましい。一例として、立向姿勢ESWを用いた溶接方法について、以下に説明する。
【0059】
本実施形態で用いられる溶接システム500の全体概要について説明する。図1は、本実施形態に係る溶接システム500の構成例を示す概略図である。溶接システム500は、溶接装置100、溶接電源200、ワイヤ送給装置300、及び操作箱400を含んで構成される。溶接装置100と、そのほかの各装置は、電源ケーブルや信号ケーブルなどの各種ケーブルを介して接続される。
【0060】
(溶接装置)
図2は、本実施形態において使用されるESWを用いた溶接装置の構成例を突合せ継手を対象として適用する場合を示す概略図である。溶接装置100は、ESWを用いるエレクトロスラグ溶接装置である。
【0061】
図2にX軸、Y軸、Z軸の3軸からなる座標系を示す。なお、以降の説明において、各図に示す軸方向は対応しているものとして説明する。矢印Zは、母材3の溶接線に沿った方向、即ち、上下方向とし、矢印Xは、母材3の板厚方向とし、矢印Yは、一対の母材が並ぶ方向、即ち、母材3の表面に沿った水平方向とする。したがって、上方とは、図2の紙面に対して上側とし、下方とは、図2の紙面に対して下側とする。また、前方とは、図2の紙面に対して左側とし、後方とは、図2の紙面に対して右側とする。また、溶接用摺動銅当て金30(以下、銅当て金30とも称する)が母材3の表面に配置された状態を仮定して、矢印Zは、溶接用摺動銅当て金30の長手方向、即ち、当て金本体部の長手方向とする。矢印Xは、溶接用摺動銅当て金30の厚さ方向、即ち、当て金本体部の厚さ方向とする。矢印Yは、溶接用摺動銅当て金30の幅方向、即ち、当て金本体部の幅方向とする。
【0062】
図2に示すように、本実施形態において使用される溶接装置100は、裏当て金1、溶接用摺動銅当て金30、溶接トーチ4、溶融スラグ浴検出器13、フラックス供給装置14、フラックス供給制御装置15、走行台車16、及び走行台車制御装置17を備える。更に、図2では不図示であるが、溶接装置100は、走行台車16に搭載されている溶接トーチ4の位置を調整するための前後、左右のスライダ、溶接用摺動銅当て金30の左右位置を調整するためのスライダ、及び走行レールを備える。なお、ここでいう前後とはX軸方向、左右とはY軸方向を指す。これらのスライダは、不図示のモータ等を用いて、電気的に可動させることが好ましいが、特に電気的な可動に限るものではなく、手動で動作をさせるような構成であってもよい。
【0063】
溶接装置100において、高張力鋼からなる一対の母材3の開先の裏側には固定の裏当て金1が配置されており、開先の表側には銅当て金30が配置される。裏当て金1としては、銅当て金を用いてもよいし、溶接金属と一体となる鋼材を用いてもよく、裏当て金の代わりに耐熱性のセラミックから構成される裏当て材を用いてもよい。また、表側の銅当て金30は、上下方向に摺動する銅当て金であり、例えば、水冷により冷却されている。なお、本実施形態では、溶接用摺動銅当て金30の材質として銅を挙げているが、銅に限定されるものではなく、一般的に熱伝導性能が良い材質であれば、摺動する当て金に用いられる材質は特に問わない。本実施形態では、便宜上、固定の裏当て金1が配置されている方を「開先の裏側」、溶接用摺動銅当て金30が配置されている側を「開先の表側」とするが、開先の両側に摺動銅当て金30を配置しても構わない。
【0064】
溶接トーチ4は、溶接電源200から供給される溶接電流8により溶接ワイヤ(電極ワイヤ)6に給電して母材3を溶接する。また、溶接トーチ4は、コンタクトチップ5を有しており、コンタクトチップ5は、溶接ワイヤ6を案内するとともに溶接ワイヤ6に溶接電流8を供給する。
【0065】
母材3、裏当て金1、及び銅当て金30に囲まれた開先内に、溶接トーチ4のコンタクトチップ5の先端から溶接ワイヤ6が送給され、開先内に形成された溶融スラグ浴7内に送り込まれる。溶接電流8は、溶接ワイヤ6から溶融スラグ浴7を通して母材3に流れる。このとき、溶接ワイヤ6及び溶融スラグ浴7を流れる溶接電流8により、ジュール熱が発生し、溶接ワイヤ6及び母材3を溶融しながら溶接が進行し、溶融金属9が形成される。
【0066】
溶融スラグ浴検出器13は、溶融スラグ浴7の位置を検出する。また、フラックス供給装置14は、溶融スラグ浴7にフラックス12を供給する。フラックス12は溶融して溶融スラグになるため、フラックス12を供給することにより、溶融スラグ浴7の量が増えることとなる。
【0067】
フラックス供給制御装置15は、フラックス供給装置14の動作を制御し、溶融スラグ浴7に供給されるフラックス12の量を調整する。フラックス供給制御装置15は、溶融スラグ浴検出器13によって、溶融スラグ浴7が適正な位置に達していないと判定した場合には、フラックス12を供給するようにフラックス供給装置14を制御する。一方、フラックス供給制御装置15は、溶融スラグ浴検出器13によって、溶融スラグ浴7が適正な位置に達していると判定した場合には、フラックス12の供給を停止するようにフラックス供給装置14を制御する。このように、フラックス供給装置14は、溶融スラグ浴検出器13の検出結果に応じてフラックス12を供給し、溶融スラグ浴7の深さを調整する。
【0068】
このような調整を行う理由は、溶接が進行するにつれて、溶融金属9は冷却されて溶接金属10となり、溶融スラグ浴7の一部は、裏当て金1に銅当て金を用いる場合には、裏当て金1と溶接金属10との間、及び銅当て金30と溶接金属10との間に形成された溶融スラグ層となり、この溶融スラグ層が冷却されて固化スラグ11となるので、溶接の進行につれて溶融スラグが消費され、溶融スラグ浴7の深さLsが減少していくことに起因する。なお、ビード表面を覆う固化スラグ11の量は、ビード幅や溶接開先の幅によって変動する。また、固化スラグ11の量は、裏当て金1や銅当て金30と、ワーク(以下、被溶接材、母材とも称する)との密着度合や、裏当て金1や銅当て金30の冷却状態によっても変動する。そのため、固化スラグ11の量は一定ではなく、溶融スラグ浴7の深さLsを一定に保つためには供給するフラックス12の量も変化させる必要がある。しかしながら、溶融スラグ浴7の深さLsがわからないために、フラックス12の供給量が適切でない場合には、溶融スラグ浴7の深さLsが変動することになる。
【0069】
よって、本実施形態では、溶融スラグ浴検出器13によるフラックス12の供給に加えて、溶融スラグ浴7の深さLsを一定にするための制御を行う。ここで、一定とは、溶融スラグ浴7の深さLsが常に1つの値になる場合に限られず、誤差を考慮して溶融スラグ浴7の深さLsが一定の範囲内の値を示す場合も含まれる。即ち、溶融スラグ浴7の深さLsは、予め定めた深さの範囲内にて維持されるように制御される。
【0070】
溶融スラグ浴7の深さLsを一定にするための第1の要件は、コンタクトチップ5の先端から溶融スラグ浴7の上面までの溶接ワイヤ長Ld(以下、ドライエクステンションLdと称する)が予め定めた長さになるように制御することである。また、溶融スラグ浴7の深さLsを一定にするための第2の要件は、ワイヤ送給速度に応じて定められた基準電流値に対して溶接電流8が予め定めた関係、即ち、基準電流値と溶接電流8とが等しくなるように、走行台車制御装置17が走行台車16の走行速度を制御することである。同一ワイヤ送給速度において、(Ld+Ls)と溶接電流8には相関がある。基準電流値と溶接電流8とが等しくなるように、走行台車制御装置17が走行台車16の走行速度を制御することで、(Ld+Ls)は一定に保たれる。
【0071】
なお、ドライエクステンションLdの制御は、溶融スラグ浴検出器13により溶融スラグ浴7を検出することで可能である。また、上記では、ドライエクステンションLdを、溶融スラグ浴7の上面からコンタクトチップ5の先端としたが、これはコンタクトチップ5の先端が一般的に溶接ワイヤ6とコンタクトチップ5間の通電位置になっていることを前提としている。例えば、コンタクトチップ5の先端が、セラミック等で保護され、コンタクトチップ5の先端より上方で溶接ワイヤ6とコンタクトチップ5の通電部分を設けている場合は、この通電部分の位置がドライエクステンションLdを決める基準となる。
【0072】
(走行台車)
走行台車16は、溶接用摺動銅当て金30、溶接トーチ4、溶融スラグ浴検出器13、フラックス供給装置14、フラックス供給制御装置15、走行台車制御装置17、及び昇降駆動部19を搭載して構成される。走行台車16は、溶接しながら、不図示のレール上を上方向、即ち、矢印Z方向に移動することで、溶接装置100を上昇させる。即ち、走行台車16は、溶接用摺動銅当て金30、溶接トーチ4、溶融スラグ浴検出器13、フラックス供給装置14、フラックス供給制御装置15、走行台車制御装置17、及び昇降駆動部19と一体となってZ方向に移動するため、スライダによる調整が可能な部分以外は、それぞれの相対的な位置関係は変わらない。走行台車16が上昇することにより、上方向に沿って立向溶接が行われる。
【0073】
走行台車制御装置17は、走行台車16に備えられる昇降駆動部19を制御して、走行台車16の走行速度(以下、昇降速度または上昇速度とも称する)を増減させて、走行台車16の動作を制御する。フラックス供給制御装置15は、溶融スラグ浴検出器13から検出される検出値に基づいて、制御量を導出してフラックス供給装置14に出力することで、フラックス供給量を制御する。昇降駆動部19は、走行台車制御装置17の制御信号に基づいて、走行台車16を駆動させる。
【0074】
(溶接用摺動銅当て金)
溶接用摺動銅当て金30は、ワークの溶接個所、即ち開先表面の一方に設置され、溶接装置100の昇降動作に合わせて、開先表面上を摺動する。
【0075】
(溶接電源、及びワイヤ送給装置)
溶接電源200は、不図示のパワーケーブルを介して、消耗式電極である溶接ワイヤ6に通電できるように溶接装置100に接続される。更に、溶接電源200は、不図示のパワーケーブルを介してワークと接続される。なお、溶接電源200と溶接装置100間にインターフェースとして、不図示の中継箱を設けてもよい。中継箱は、走行台車16への電源供給等の各種制御ケーブルや非常停止スイッチ等を設置してもよい。中継箱を設けることで、例えば、ケーブルの取り外しが容易になり、溶接作業の効率化に寄与することができる。また、中継箱には、SDカード等の取り外し可能なメモリを設置できる機構を設けてもよく、溶接電流やアーク電圧といったような溶接中の記録をメモリに書き込んでもよい。また、溶接電源200と溶接ワイヤ6を送給するためのワイヤ送給装置300は、直接または中継箱を介して信号線で接続され、溶接ワイヤ6の送給速度を制御することができる。なお、複数の電極を扱う場合は、電極ごとに溶接電源を用意しても良いし、一つの電極に対して、複数の溶接電源を用いても良いし、複数の電極に対して、一つの溶接電源を用いても良い。
【0076】
(操作箱)
操作箱400は、溶接装置100に対し、作業者による操作に基づいて各種の指令を出力する。操作箱400にて操作可能な項目としては、例えば、溶接方法や溶接材料などの施工情報や、溶接電流、アーク電圧、ワイヤ送給速度や突出し長さ等の溶接条件などが挙げられる。操作箱400は、操作可能な項目を入力するためのUI(User Interface)を備える。そのほか、操作箱400を用いて、溶接電流、アーク電圧等のモニタリングが可能な構成であってもよい。
【0077】
本実施形態では、溶接装置100内に、各種処理を行う制御装置を含める構成を示した。しかしながら、上述した溶接装置100の一部または全部の処理を行うような構成の制御装置を、溶接装置100とは別個に設ける構成であってもよい。この場合、制御装置は、溶接システム500または溶接装置100とは、有線/無線のネットワーク(不図示)を介して接続される構成であってよい。
【0078】
溶接装置100とは別個に設けられる制御装置は、例えば、不図示の制御部、記憶部、及び入出力部を含んで構成される情報処理装置にて実現されてよい。制御部は、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、DSP(Digital Single Processor)、または専用回路などから構成されてよい。記憶部は、HDD(Hard Disk Drive)、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等の揮発性及び不揮発性の記憶媒体により構成され、制御部からの指示により各種情報の入出力が可能である。入出力部は、外部からの各種情報の入力や、外部への各種情報の出力が可能である。入出力部は、例えば、液晶ディスプレイ等の表示デバイス等から構成され、制御部からの指示により、作業者へ各種情報を出力する。入出力部による出力方法は特に限定するものではないが、例えば、音声による聴覚的な出力であってもよいし、画面出力による視覚的な報知であってもよい。また、入出力部は、通信機能を備えたネットワークインターフェースであってもよく、ネットワーク(不図示)を介した外部装置(不図示)へのデータ送信により出力動作を行ってもよい。
【0079】
(制御のための機能構成)
本実施形態では、突出し長さの設定値、または送給速度の設定値を一定とし、検出した溶接電流と予め設定した溶接電流の目標値の差異に基づいて、上昇速度を制御することで溶接動作を安定化させる。
【0080】
図3は、走行台車制御装置17における機能構成の例を説明するための図である。なお、図3では、本実施形態に係る機能に対応する部分のみを示しており、説明を簡略化するために他の制御に関する部位については省略する。
【0081】
走行台車制御装置17は、パラメータ管理部441、基準値算出部442、及び制御量算出部443を含んで構成される。なお、パラメータ管理部441、基準値算出部442、及び制御量算出部443は必ずしも走行台車制御装置17に備えられる構成に限定するものではなく、例えば、操作箱400や不図示の外部の情報処理装置にてその一部または全部の機能が実現されてもよい。
【0082】
本実施形態において、パラメータ管理部441は少なくとも一つのデータベース(以下、DBとも称する)を有し、このDBは少なくとも施工情報と係数情報とを関連付けたデータを含んで構成される。施工情報410は、例えば、溶接方法411、溶接材料412、摺動銅当て金の配置、裏当て金の材質、ワーク材質、ワーク板厚、開先形状等の情報が挙げられる。本実施形態では、少なくとも溶接方法411、及び溶接材料412の項目が含まれる。なお、溶接材料412は、溶接ワイヤとフラックスの組み合わせによる情報とする。また、係数情報は、後述する関数に係る係数を示し、本実施形態では、少なくとも2以上の係数が含まれる。
【0083】
本実施形態では、少なくとも、溶接方法411及び溶接材料412の項目を含む施工情報410と、少なくとも2以上の係数が含まれる係数情報とが関連付けられている。溶接方法と溶接材料の組み合わせごとに関連付けられた少なくとも2以上の係数は、少なくとも送給速度、溶接電流、突出し長さの値が変化した場合であっても一定の関係となるように設定する。
【0084】
基準値算出部442は、予め規定された関数を用いて、少なくとも指定された溶接条件設定情報420、及びパラメータ管理部441からの情報を入力として、制御量算出部443で用いる基準値を算出する。なお、本実施形態に係る関数は、基準値算出部442にて予め規定されていてもよいし、施工情報410として指定された溶接方法に応じて対応する関数を記憶部から呼び出すような構成であってもよい。
【0085】
溶接条件設定情報420は、例えば、溶接電流421、送給速度422、突出し長さ423、アーク電圧、ウィービング(オシレートともいう。)に関する条件等が挙げられる。なお、溶接電流を指定する際には、単にアンペア(A)として入力してもよいし、単位面積あたりの溶接電流値とした電流密度としてもよい。オシレートに係る条件は、例えば、オシレート長やオシレート周期などが挙げられる。本実施形態では、溶接条件として、少なくとも溶接電流、送給速度、突出し長さのうち少なくとも2つを設定項目とする。基準値算出部442により算出される基準値の項目は、予め規定される関数に基づいて、溶接条件のうちのいずれかが導出される。そのため、本実施形態では、基準値が溶接電流に限られることがなく、例えば、送給速度や突出し長さなど他の項目の基準値を算出させることができ、自由度の高い制御が可能となる。
【0086】
制御量算出部443は、基準値算出部442から出力された基準値に対し、予め設定された制御式やテーブルに基づいて、制御量を出力する。制御式やテーブルは、制御量算出部443にて予め保持されていてもよいし、指定された条件に応じて対応する制御式やテーブルを記憶部から呼び出すような構成であってもよい。また、制御量算出部443は、測定部430から、昇降駆動部19などの実際の動作の実測値を取得し、この情報も制御量の算出に用いる。例えば、測定部430による実測値をフィードバックとして用いたPI制御(比例-積分制御)などが行われてよい。ここで算出する制御量により制御される対象は特に問わず、例えば、上昇速度を補正したい場合には、昇降駆動部19へ制御量を入力してよい。溶接電流やアーク電圧等の溶接条件を制御したい場合には、溶接電源200へ制御量を入力してもよい。また、制御対象は一つに限る必要なく、例えば、制御量算出部443は、制御式を用いて、上昇速度と溶接電流等の複数の要素に対して制御量を出力してもよい。
【0087】
(制御方法)
本実施形態では、走行台車16の上昇制御に着目して説明するが、溶接電源200やワイヤ送給装置300も同様に制御可能である。また、図3では、走行台車制御装置17から制御量が出力される先として、昇降駆動部19、溶接電源200、及びワイヤ送給装置300が示されているがこれに限定するものではない。例えば、制御量算出部443は、制御量に関する情報をフラックス供給制御装置15に出力するような構成であってもよい。この場合、フラックス供給制御装置15は、制御量算出部443にて受け付けた制御量と、溶融スラグ浴検出器13の検出結果に基づいて、フラックス供給装置14によるフラックス12の供給量を導出してよい。より具体的には、突出し長さが溶接条件にて設定された値、もしくは、基準値算出部442にて算出した基準値となるように、フラックス12の供給量を導出してよい。更に、開先断面積に応じて基準となるフラックス供給量に対して演算部で算出された制御量を増減させる方法も可能としてもよい。
【0088】
図4を用いて、本実施形態に係る処理フローを説明する。本処理フローは、本実施形態に走行台車制御装置17に備えられた不図示の制御部が、不図示の記憶部に保持されたプログラムを読み出して実行することで実現されてよい。ここでは説明を簡略化するために、処理の主体を走行台車制御装置17としてまとめて記載する。
【0089】
S701にて、走行台車制御装置17は、操作箱400を介して作業者から施工情報を取得する。ここでは施工情報として、溶接方法と溶接材料の指定を受け付ける。施工情報の指定は、例えば、複数の選択肢の中から任意の選択肢を選択することで行われてもよい。また、施工情報の各項目の設定値に対応したモードを予め複数定義しておき、この中から作業者が選択できるような構成であってもよい。
【0090】
S702にて、走行台車制御装置17は、操作箱400を介して作業者から溶接条件の各項目の設定値を受け付ける。ここでは溶接条件として、溶接電流、送給速度、及び、突出し長さの項目を用いるものとし、そのうちの2つの項目の値に対する指定を受け付ける。なお、ここでいう突出し長さとしては、ESWの場合、ドライエクステンションと言い換えてもよい。また、溶接条件として用いる全体の項目数に応じて、入力が必須となる項目数が規定される。そのため、必須となる項目数の設定値が入力されていない場合には、作業者に対して入力を促すような通知を行うような構成であってもよい。
【0091】
S703にて、走行台車制御装置17は、S701にて取得した施工情報の値と、予め規定されたDBを用いて、基準値算出のためのパラメータである係数情報を決定する。
【0092】
S704にて、走行台車制御装置17は、S701にて取得した施工情報の値と、予め規定されたDBを用いて、制御量算出部443において昇降駆動部19の制御量を算出するためのパラメータである定数を決定する。ここでの定数は、例えば、ゲイン数などが挙げられる。ゲイン数を決定する際には、予め規定された固定の値を用いてもよいし、DBにてある条件とゲイン数との関係式を設け、条件ごとにゲイン数を読み込んでもよい。例えば、送給速度とゲイン数との関係式を設けた場合は、設定した送給速度に応じて適切なゲイン数が決定される。なお、本工程は、S701にて設定された施工情報の内容によっては、省略されてもよい。その場合には、図3に示すパラメータ管理部441から制御量算出部443へのパラメータの通知は省略される。また、ここでの定数の決定は、S702にて取得した溶接条件を更に考慮して行われてもよい。
【0093】
S705にて、走行台車制御装置17は、S703にて決定した係数情報を、予め規定された関数の各係数に設定する。このとき、走行台車制御装置17は、S701にて取得した施工情報に基づいて、予め規定された複数の関数の中から用いる関数を決定するような構成であってもよい。例えば、本実施形態においては、以下の式(1)を、基準値を算出するための関数として用いることができる。
【0094】
【数1】
【0095】
ただし、上記式(1)において、
:送給速度
I:溶接電流
Ext:突出し長さ(エクステンション)
a,b,c,d:DBを用いて特定される係数である。
【0096】
式(1)に示すように、溶接条件の各項目は相関関係があり、例えば、溶接条件として送給速度と突出し長さが指定された場合、溶接条件の基準値を算出することができる。つまり、S702にて入力される項目に対応して式が規定されており、未入力の項目に対する基準値を算出することができる。また、式(1)の場合、定数a、b、c、dがS703にて決定される係数情報の項目に対応する。
【0097】
S706にて、走行台車制御装置17は、S705にて係数情報を設定した関数にS702にて取得した溶接条件を入力することで、未確定の溶接条件の基準値を算出する。
【0098】
S707にて、走行台車制御装置17は、現在の動作状況における実測値を取得する。例えば、S702にて取得した溶接条件下で動作させた場合の実測値をフィードバック値として取得する。
【0099】
S708にて、走行台車制御装置17は、S706にて算出した基準値、S707にて取得した実測値、S704にて決定した定数を用いて、昇降駆動部19の制御量を算出する。ここでの制御量は、走行台車16の上昇速度の目標値であってよい。例えば、S704にて決定する定数をゲイン数とし、制御量をPI制御により制御量を求めてもよい。例えば、制御量は以下の式(2)を用いて算出してよい。式(2)を用いる場合、定数であるK及びKがパラメータ管理部441により設定されてよい。なお、PI制御については、公知の手法を適用できるため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0100】
【数2】
【0101】
ただし、上記式(2)において、
:電流の実測値(フィードバック値)
:電流の基準値(目標値)
:比例ゲイン(定数)
:積分ゲイン(定数)
【0102】
S709にて、走行台車制御装置17は、S708にて算出した制御量に基づいて昇降駆動部19を制御する。そして、本処理フローを終了する。なお。本処理フローは、溶接装置100による溶接動作が行われている間、繰り返し実行される。
【0103】
上述の溶接方法によると、最適な送給速度、突出し長さ及びフラックス供給量等を自動で制御することができ、作業能率及び溶接品質の向上が実現できる。ただし、本実施形態に係る溶接金属の製造方法において適用することができる溶接装置及び溶接方法は、上述した装置及び方法に限定されず、種々のものを使用することができる。
【0104】
なお、本実施形態に係る溶接金属の製造方法は、上述のように、対向して配置された一対の母材3の開先に対して実施することができるが、例えば、ボックス柱の角部を溶接する場合のような開先部に対しても実施することができる。
【0105】
図5は、ESWを用いてボックス柱の角部を溶接する場合の溶接金属の製造方法の一例を模式的に示す側面断面図である。また、図6A図6Cは、図5に示す溶接ワイヤの先端位置の例を模式的に示す上面断面図である。なお、図5及び図6A図6Cにおいて、図2に示すものと同一物には同一符号を付して、その詳細な説明は省略又は簡略化する。
【0106】
図5及び図6Aに示すように、ESWを用いてボックス柱の角部を溶接する場合において、図2に示す母材3は鋼板23aと鋼板23bとして説明する。鋼板23aの表面と鋼板23bの表面とが直角となるように、鋼板23aの端部における表面と、図5では不図示の鋼板23bの端面とが対向するように配置し、開先を形成する。また、開先27の裏側、すなわち、ボックス柱の内側となる位置には、鋼板23a、鋼板23bのZ方向の高さと略同じ長さの裏当て金1が当てられる。また、ボックス柱の外側となる位置、すなわち、開先27の表側には、溶接用摺動銅当て金30が配置され、溶接線方向であるZ方向に摺動される。なお、鋼板23bの端面は、鋼板23aの表面に対して斜面となるように切断されており、開先27の表側が広くなるような開先形状となっている。
【0107】
本実施形態において、1本の溶接ワイヤ6を使用して溶接する場合には、溶接ワイヤ6の先端6aを開先27の中央付近に配置し、溶融金属9を作成する。このとき、図6Bに示すように、溶接ワイヤ6の先端6aの位置を、溶接線方向、すなわちZ軸方向に対して直交する方向のXY面内で溶接ワイヤをウィービングさせつつ溶接を実施すると、広い開先27において形成される溶融金属9がより均質なものとなるため、好ましい。溶接ワイヤ6の先端6aは、図6Bに示すように、XY面内において直線方向に反復運動するようにウィービングさせてもよいし、図6Cに示すように、XY面内において、開先形状に沿って三角形を描くように軌跡を辿らせてもよい。
【0108】
なお、溶接ワイヤ6の先端6aが移動する位置は、必ずしも溶接線方向に対して直交する面内である必要はなく、溶接線方向に対して略直交する面内で移動するようにすればよい。溶接線方向に対して略直交する面とは、例えば、溶接線方向に対して直交する面から10°以下の範囲とすることができる。
【0109】
図7は、ESWを用いてボックス柱の角部を溶接する場合の溶接金属の製造方法の他の例を模式的に示す側面断面図である。また、図8は、図7に示す溶接ワイヤの先端位置の例を模式的に示す上面断面図である。なお、図7及び図8において、図5及び図6A図6Cに示すものと同一物には同一符号を付して、その詳細な説明は省略又は簡略化する。
【0110】
本実施形態においては、溶接トーチ4に保持された溶接ワイヤ6と、溶接トーチ24に保持された溶接ワイヤ(電極ワイヤ)26との2本の溶接ワイヤを用いて溶接している。したがって、溶融金属9が形成される速度を向上させることができ、より一層能率よく溶接を実施することができる。また、複数の溶接ワイヤを使用することにより、広範囲に入熱を分散することができ、融合不良の発生を抑制することができる。
【0111】
また、図8に示す方法では、裏当て金1に最も近い溶接ワイヤ26については、溶接線方向に対して略直交する面内で静止させた固定電極とし、他方の溶接ワイヤ6については、溶接線方向に対して略直交する面内でウィービングさせている。このように、例えば裏当て金1に最も近い、ルート近傍の溶接ワイヤ26の先端26aを、上記面内において静止させ、溶接線方向にのみ移動させると、ルート近傍における高温の熱履歴を単調減少に制限することができるため、再熱液化割れの感受性を低くすることができる。また、他方の溶接ワイヤ6の先端6aをウィービングさせると、開先27内における表面側の融合不良を防止することができる。
【0112】
なお、溶接ワイヤ26の先端26aの近傍では固定する溶接ワイヤとしては、先端が裏当て金1に最も近い位置に配置されている溶接ワイヤ26を選択することが好ましい。このように、溶接ワイヤ26を固定電極とすることにより、ルート近傍のミクロ割れを防止する効果を得ることができる。
さらに、図8では、溶接ワイヤ6の先端6aを反復運動するようにウィービングさせているが、図6Cと同様に、回転運動するようにウィービングさせてもよい。ウィービングさせる方向としては、溶接により発生する熱を、ルート近傍や開先の表面側のような融合不良が発生し易い箇所に行き渡らせることができるという理由から、鋼板23bの板厚方向、すなわち、裏当て金1と溶接用摺動銅当て金30に交互に近づくように移動させることがより好ましい。
【0113】
図9は、ESWを用いてボックス柱の角部を溶接する場合の溶接金属の製造方法のさらに他の例を模式的に示す側面断面図である。図9において、図7と同一物には同一符号を付して、その詳細な説明は省略又は簡略化する。
【0114】
図9に示す実施形態では、溶接トーチ4に保持された溶接ワイヤ6と、溶接トーチ24に保持された溶接ワイヤ26と、溶接トーチ34に保持された溶接ワイヤ36との3本の溶接ワイヤを用いて溶接している。このように、本実施形態においては、複数の溶接ワイヤ(電極ワイヤ)6,26,36を使用することもできる。
【0115】
このように、複数の溶接ワイヤを使用する場合に、溶接金属の再熱液化割れ感受性の観点から、少なくとも1つの溶接ワイヤは、溶接線方向に対して略直交する方向の面内で静止させることが好ましい。また、融合不良の発生を抑制する観点から、他の溶接ワイヤのうち少なくとも1つの溶接ワイヤは、その先端位置を、溶接線方向に対して略直交する方向の面内でウィービングさせつつ溶接を実施することが好ましい。
【0116】
また、複数の溶接ワイヤを使用し、溶接ワイヤ同士が接近した場合に、これらの溶接ワイヤに流れる電流が同位相であると、相互干渉によって引力又は斥力を生じ、溶込み異常が発生することがあるが、そこで、少なくとも1つの溶接ワイヤには直流電源を使用し、少なくとも1つの溶接ワイヤには交流電源を使用すると、相互干渉を相殺し、適切な溶込みを得ることができるため、好ましい。なお、図8に示すように、一方の溶接ワイヤ26を固定電極とし、一方の溶接ワイヤ6をウィービングさせる場合に、固定電極とする溶接ワイヤ26に交流電源を使用することが好ましい。
【0117】
上記のように1つの溶接ワイヤに交流電源を使用した場合に、ワイヤ側にマイナスの電圧が印加されている期間の電流値(EN)と、ワイヤ側にプラスの電圧が印加されている期間の電流値(EP)との関係を適切に制御すると、2以上のワイヤにおける相互干渉の程度を制御することができる。すなわち、相互干渉による溶込み異常を抑制する観点から、EN比率を30%以上70%以下とすることが好ましく、35%以上65%以下とすることがより好ましく、38%以上62%以下とすることがさらに好ましい。なお、ここで言うEN比率は、ENの時間積分値/(ENの時間積分値+EPの時間積分値)で算出される。
【0118】
さらに、複数の溶接ワイヤを使用する場合に、上述のとおり、ルート側は特に溶込みが要求されるため、ルート近傍の溶接ワイヤを固定電極とすることが好ましい。そして、この固定電極に流す電流波形をパルス電流波形とすると、高電流時の強い入熱の硬直性を生じさせ、適切な溶込みを得ることができる。
【0119】
なお、上記実施形態では、ESWを用いた場合の溶接金属の製造方法において、複数の溶接ワイヤを使用した例について説明したが、他の溶接方法を使用した場合であっても、複数の溶接ワイヤを使用することができる。例えば、本発明は、多電極のSAWにも適用することができる。このように、本発明によると、溶接ワイヤ及び溶接方法にかかわらず、高張力鋼材を1パスにより高能率で溶接することができ、凝固割れが抑制され、優れた機械的特性を有する溶接金属を得ることができる。また、本発明によると、上記のような優れた特性を有する溶接金属を得ることができるため、高張力鋼板同士が上記溶接金属によって接合された溶接継手を得ることもできる。すなわち、溶接金属の凝固割れを抑制することができるとともに、機械的特性が優れた溶接金属を有する溶接継手を得ることができる。
【実施例0120】
以下に、発明例及び比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することが可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。また、ここで説明する溶接条件は一例であり、本実施の形態では、以下の溶接条件に限定されるものではない。
【0121】
[溶接金属の製造]
図10は、発明例及び比較例において適用した溶接金属の製造方法を示す模式図である。図10に示すように、板厚が60mmでありHT780鋼からなる、鋼板23a及び鋼板23bを準備し、鋼板23aと鋼板23bとが直角となるように、鋼板23aの端部における表面と鋼板23bの端面とを対向させるように配置し、開先27を形成した。また、開先27の裏側には、普通鋼からなる裏当て金1を配置した。さらに、ボックス柱の外側となる位置、すなわち、開先27の表側に、溶接線方向に摺動する溶接用摺動銅当て金30を配置した。鋼板23bの端面は、鋼板23aの表面に対して斜面となるように切断しており、開先角度を20°、ルート間隔を12mmとした。
【0122】
上記のように構成した被溶接材に対して、1又は2本の電極(以降、溶接ワイヤと称する。)を使用して、表1に示す種々の条件でESWを実施し、溶接金属を製造した。フラックスとしては、CaF含有量が高い高塩基性のものを使用して、安定したESWができるようにした。発明例の溶接金属を得るための溶接ワイヤとしては、鋼板23a、23bの組成と合わせて、目的の溶接金属が得られるように添加合金を種々に変化させたメタル系フラックス入りワイヤを使用した。
【0123】
なお、1本の電極を使用した例については、図6Bに示すように、開先27内を直線方向に反復運動するように、電極(溶接ワイヤ6)をウィービングさせた。下記表1では、この電極を電極W1と表した。また、2本の電極を使用した例については、図8に示すように、上記電極W1の他に、開先27のルート近傍に電極(溶接ワイヤ26)を固定電極として配置し、下記表1では、電極W2と表した。下記表1中、DCEP(direct current electrode positive)は、直流棒プラスを表し、AC(Alternating Current)は、交流を表し、DCEP-パルスは、直流棒プラス時において溶接電流がパルスである場合を表す。
【0124】
得られた溶接金属の各成分の含有量、(A)、(D1)、(D2)、(D3)(E)の値、及び(A)×(D1)、(A)×(D2)、(A)×(D3)の算出結果について、下記表2及び表3に示す。
なお、(A)は、式A:[P]+[S]により得られた値であり、
(D1)は、式D1:[Ni]+30×[C]+0.5×[Mn]+0.25×[Cu]により得られた値であり、
(D2)は、式D2:40-4×[Ni]+30×[C]+0.5×[Mn]+0.25×[Cu]により得られた値であり、
(D3)は、式D3:30×[C]+0.5×[Mn]+0.25×[Cu]により得られた値であり、
(E)は、式E:[C]+[Si]/30+([Mn]+[Cu]+[Cr])/20+[Ni]/60+[Mo]/15+[V]/10+5×[B]により得られた値である。
【0125】
ただし、Ni含有量の範囲によって用いる式が異なるため、Ni含有量が7.0質量%未満である場合に、表3における(D1)の欄に式D1により算出された値を記載し、(D2)及び(D3)の欄に「-」を記載した。また、Ni含有量が7.0質量%以上10.0質量%未満である場合に、表3における(D2)の欄に式D2により算出された値を記載し、(D1)及び(D3)の欄に「-」を記載した。同様に、Ni含有量が10.0質量%以上である場合に、表3における(D3)の欄に式D3により算出された値を記載し、(D1)及び(D2)の欄に「-」を記載した。さらに、表3における(A)×(D1)、(A)×(D2)、(A)×(D3)の欄には、(A)に、(D1)~(D3)のうち記入されている数値を乗じて記載した。
【0126】
ここで、上記各式において、[P]は、溶接金属中のP含有量を質量%で表した値であり、[S]は、溶接金属中のS含有量を質量%で表した値であり、[Ni]は、溶接金属中のNi含有量を質量%で表した値であり、[C]は、溶接金属中のC含有量を質量%で表した値であり、[Mn]は、溶接金属中のMn含有量を質量%で表した値であり、[Cu]は、溶接金属中のCu含有量を質量%で表した値であり、[Si]は、溶接金属中のSi含有量を質量%で表した値であり、[Cr]は、溶接金属中のCr含有量を質量%で表した値であり、[Mo]は、溶接金属中のMo含有量を質量%で表した値であり、[V]は、溶接金属中のV含有量を質量%で表した値であり、[B]は、溶接金属中のB含有量を質量%で表した値である。
【0127】
下記表2及び表3において、各成分の分析値は分析下限値までを記し、下限値を下回った値は不等号を付記し、分析下限値を示した。また、式A、式D1、式D2、式D3、式Eの算出に使用した成分の含有量が分析下限値以下であった場合は、該当する成分の含有量を0として扱った。
【0128】
[溶接金属の評価]
得られた溶接金属について、引張強さ、靱性、耐凝固割れ性及び耐再熱液化割れ性に関する評価を実施した。評価方法及び評価基準を以下に示し、各実験による測定値又は算出値、並びに評価結果を下記表4及び表5に示す。
【0129】
(引張試験)
溶接金属に対して引張試験を実施し、引張強さを評価した。
得られた溶接金属から、溶接線方向に沿って、JIS Z 3111:2005に規定されたA1号試験片を採取し、JIS Z 2241:2011に規定された金属材料引張試験方法に準拠して、引張強さを測定するとともに降伏応力(0.2%耐力)を算出した。
評価基準としては、引張強さの測定結果が780(MPa)以上であったものをA(良好:合格)とし、780(MPa)未満であったものをC(不良:不合格)とした。また、降伏応力が630(MPa)以上であったものをA(良好)とし、630(MPa)未満であったものをB(可)とした。
【0130】
(シャルピー衝撃試験)
溶接金属に対してシャルピー衝撃試験を実施し、靱性を評価した。
得られた溶接金属から、鋼板23bの板幅方向に沿って、JIS Z 3111:2005に規定された衝撃試験片を採取し、溶接金属中央部を溶接線方向に破断させるようにノッチを形成して、JIS Z 2242:2018に規定された金属材料のシャルピー衝撃試験方法に準拠して、吸収エネルギーを測定した。なお、3本の試験片について、試験温度を0℃として吸収エネルギーを測定し、これらの平均値を算出した。
評価基準としては、吸収エネルギーの平均値が47(J)以上であったものをAA(特に良好)とし、27(J)以上47(J)未満であったものをA(良好)とし、27(J)未満であったものをB(可)とした。
【0131】
(超音波探傷試験)
JIS Z 3060:2015に規定された鋼溶接部の超音波探傷試験方法に準拠して、射角一探触子法により溶接金属中央のきずを探傷した。そして、溶接長方向の長さを計測し、検査長で除して100倍することにより、検査長100mmに対する凝固割れの長さを算出し、耐凝固割れ性を評価した。
評価基準としては、凝固割れの長さが0(mm/100mm)であったものをA(良好:合格)とし、凝固割れの長さが0(mm/100mm)超、10(mm/100mm)未満であったものをB(可:合格)とし、凝固割れの長さが10(mm/100mm)以上であったものをC(不良:不合格)とした。
【0132】
(再熱液化割れ探傷試験)
試験体の代表部を対象として、鋼板23bの裏面を基準面として、1、3mm研削した面に対して、JIS Z 2320-1:2017に規定された磁粉探傷試験方法に準拠して、きずを検出した。そして、所定の検査長内において検出されたきずの合計を計数し、検査長で除して100倍することにより、検査長100mmに対するきず数を算出し、耐再熱液化割れ性を評価した。なお、一部の発明例及び比較例については、再熱液化割れ探傷試験を実施せず、下記表4及び表5において「-」と表した。
評価基準としては、きず数が0(個/100mm)であったものをAA(特に良好)とし、きずは確認できるが、きず数が5(個/100mm)未満であったものをA(良好)とし、きず数が5(個/100mm)以上であったものをB(可)とした。
【0133】
【表1】
【0134】
【表2】
【0135】
【表3】
【0136】
【表4】
【0137】
【表5】
【0138】
上記表1~表5に示すように、発明例No.1~25は、溶接金属中のTi含有量が本発明で規定する範囲内であるとともに、溶接金属中の各成分の含有量から算出される(A)×(D1)、(A)×(D2)、(A)×(D3)及び(E)の値が本発明で規定する範囲内であったため、優れた機械的特性を得ることができるとともに、溶接金属の凝固割れを抑制することができた。特に、発明例No.2、3、5及び9~25は、溶接金属中のREM含有量又はNi含有量が、溶接金属の靱性を向上させることを目的として本発明で規定する好ましい範囲内であるため、靱性の評価結果がA又はAAとなり、優れた結果となった。また、発明例No.21~25は、2電極を使用して溶接を実施したため、耐再熱液化割れ性を評価する浸透探傷試験の評価において、特に良好となる割合が増加した。
【0139】
一方、比較例No.1は、(A)×(D1)により算出される値が本発明で規定する上限値を超えていたため、耐凝固割れ性が低下した。比較例No.2は、(E)が本発明で規定する下限値未満であったため、引張強さが低下した。比較例No.3は、(A)×(D2)により算出される値が本発明で規定する上限値を超えていたため、耐凝固割れ性が低下した。比較例No.4は、溶接金属中のTi含有量が本発明で規定する上限値を超えていたため、耐凝固割れ性が低下した。
【0140】
以上詳述したように、本発明に係る溶接金属及び溶接金属の製造方法によれば、特に、HT780鋼に対して1パス大入熱溶接を適用した場合であっても、優れた機械的特性が得られ、溶接金属の凝固割れを抑制することができた。
【符号の説明】
【0141】
1 裏当て金
3 母材
4,24,34 溶接トーチ
5 コンタクトチップ
6,26,36 溶接ワイヤ
7 溶融スラグ浴
8 溶接電流
9 溶融金属
10 溶接金属
23a,23b 鋼板
27 開先
30 溶接用摺動銅当て金
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9
図10